(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6913751
(24)【登録日】2021年7月14日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】ピストンコンプレッサ用のピストンリングおよびピストンコンプレッサ
(51)【国際特許分類】
F16J 9/16 20060101AFI20210727BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
F16J9/16
F04B39/00 107J
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-529242(P2019-529242)
(86)(22)【出願日】2017年11月21日
(65)【公表番号】特表2020-501088(P2020-501088A)
(43)【公表日】2020年1月16日
(86)【国際出願番号】EP2017079859
(87)【国際公開番号】WO2018108464
(87)【国際公開日】20180621
【審査請求日】2020年9月4日
(31)【優先権主張番号】16203902.8
(32)【優先日】2016年12月13日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】592229502
【氏名又は名称】ブルクハルト コンプレッション アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100116322
【弁理士】
【氏名又は名称】桑垣 衛
(72)【発明者】
【氏名】ファイステル、ノルベルト
【審査官】
羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2012/0211942(US,A1)
【文献】
特表2002−501594(JP,A)
【文献】
特開2000−352464(JP,A)
【文献】
特許第89582(JP,C2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00−39/16
F16J 1/00−1/24
F16J 7/00−10/04
F16J 15/16−15/32
F16J 15/324−15/3296
F16J 15/46−15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切れ目のないベースリング(5)と封止リング(3)とを備えるピストンリングであって、前記ベースリング(5)は径方向外側を向いたベースリング面(5a)を有し、前記封止リング(3)は径方向外側を向いた封止面(3e)と径方向内側を向いた円形の封止リング内側面(3f)とを有し、前記封止リング(3)は前記封止リング内側面(3f)に対して接線方向に延びている3つの接線方向の切込み(3d)を有し、その結果、前記封止リング(3)は、周方向(U)に連続して配置されており前記接線方向の切込み(3d)によって分離されている3つの封止リングセグメント(3a,3b,3c)を備え、前記切れ目のないベースリング(5)と前記封止リング(3)とは前記周方向(U)に対して垂直な長手方向(L)に連続して配置されており、
トップリング(2)が前記長手方向(L)において前記封止リング(3)に隣接するように配置されており、前記トップリング(2)は径方向外側を向いたトップリング外側面(2c)と径方向内側を向いたトップリング内側面(2d)とを有し、
前記トップリング(2)は、前記封止リング(3)から離れる方向を向いている面に、径方向に延びている1つ以上の戻り流路(2a)を有し、該戻り流路(2a)は前記トップリング(2)の全幅に沿って前記径方向に延びており、
前記封止面(3e)は前記トップリング外側面(2c)と前記ベースリング面(5a)とを越えて前記径方向に突出しており、前記ベースリング(5)と前記トップリング(2)とは、前記封止リング(3)よりも高い引張強度を有する、ピストンリング。
【請求項2】
前記トップリング(2)は切れ目のないトップリング(2)として設計されている、請求項1に記載のピストンリング。
【請求項3】
締付リング(4)は前記封止リング内側面(3f)に沿って接触しており、前記締付リング(4)は前記封止リング内側面(3f)に対して径方向外側を向いた力を生じさせる、請求項1または2に記載のピストンリング。
【請求項4】
前記トップリング(2)は径方向の切込み(2e)を有し、前記トップリング(2)は前記長手方向の軸(L)に対して径方向に延びている第1の脚部(2f)と前記長手方向の軸(L)の方向に延びている第2の脚部(2g)とを備えるL字形の断面を有し、前記封止リング(3)の前記封止リング内側面(3f)は前記第2の脚部(2g)に向かって配向されている、請求項1に記載のピストンリング。
【請求項5】
前記ベースリング(5)と前記トップリング(2)との引張強度の大きさは、前記封止リング(3)の引張強度の大きさの1.5倍以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のピストンリング。
【請求項6】
前記封止リング(3)は、前記長手方向(L)において1mmから6mmまでの範囲の高さを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のピストンリング。
【請求項7】
前記ベースリング面(5a)、前記トップリング外側面(2c)、またはその両方は、前記封止リング(3)から軸方向(L)に細くなっている、請求項1〜6のいずれか一項に記載のピストンリング。
【請求項8】
前記ベースリング面(5a)、前記トップリング外側面(2c)、またはその両方は、前記軸方向(L)において円錐状に細くなっている、請求項7に記載のピストンリング。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のピストンリング(1)を備える、ピストンコンプレッサ。
【請求項10】
ピストン(12)とシリンダボア(10a)を有するシリンダ(10)とを備え、前記ベースリング(5)、前記トップリング(2)、またはその両方は、前記シリンダボア(10a)の内径よりも10分の1ミリメートル未満、好ましくは数百分の1ミリメートルだけ小さい外径を有する、請求項9に記載のピストンコンプレッサ。
【請求項11】
前記ベースリング(5)、前記トップリング(2)、またはその両方は、前記ベースリング(5)、前記トップリング(2)、またはその両方が、熱くなった状態において前記シリンダ(10)内に間隔を置かずに配置されるような外径を冷却状態において有する、請求項10に記載のピストンコンプレッサ。
【請求項12】
ピストン体(11)と複数のピストンリング(1)とを有するピストン(12)を備え、前記ピストン体(11)は軸方向(L)に連続して配置されている複数の円周溝(11b)を有し、該円周溝(11b)の各々にはピストンリング(1)が配置され、前記円周溝(11b)の軸方向幅は前記ピストンリング(1)の軸方向全幅よりも大きく、前記ピストンリング(1)は、径方向内側を向いた面上に、前記ピストン体(11)から一定の径方向距離に配置されている、請求項9〜11のいずれか一項に記載のピストンコンプレッサ。
【請求項13】
流体を500バール(50MPa)と1000バール(100MPa)との間の圧力へと圧縮するための、請求項1〜8のいずれか一項に記載のピストンリングの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに従うピストンコンプレッサ用のピストンリングに関する。本発明はさらにピストンコンプレッサに関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダとそのシリンダ内において直線的に運動することが可能なピストンとを備えるピストンコンプレッサが知られている。1つのあり得る実施形態では、ピストンリングがピストンに配置され、ピストンリングはシリンダ壁に沿って摺動し、ピストンリングがシリンダと運動するピストンとによって範囲を定められる圧縮チャンバを密封することを確実にする。特許文献1は、ピストンに配置されておりシリンダ壁に対して擦れるピストンリングを有する無潤滑で作動する自己潤滑性(ドライランニング)ピストンコンプレッサを開示している。このドライランニングピストンコンプレッサは、例えば200バール(20MPa)までの終圧への水素の圧縮によく適している。しかしながら、流体をいっそう高い終圧へと圧縮するための要求が高まっている。しかしながら、既知のピストンリングは、荷重下において顕著なコールドフローを示し、結果としてピストンリングが急速に摩耗するので、高い圧力差を伴う使用について限られた適合性しか有さない。既知のピストンリングは、このようにして、200バール(20MPa)を超える高い終圧を伴う圧縮について限られた適合性しか有さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第98/55783号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
より有利な動作特性を有するピストンリングおよびピストンコンプレッサを設計することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、請求項1の特徴を有するピストンリングによって達成される。従属請求項2〜8は、本発明のさらなる有利な実施形態に関する。本目的は、請求項9の特徴を有するピストンコンプレッサによってさらに達成される。従属請求項10〜12は、さらなる有利な実施形態に関する。本目的は、500バール(50MPa)を超える圧力にまで流体を圧縮するためのピストンコンプレッサにおいて、本発明に係るピストンリングを用いることによってさらに達成される。
【0006】
詳細には、本目的は、切れ目のないベースリングと封止リングとを備えるピストンリングであって、前記ベースリングは径方向外側を向いたベースリング面を有し、前記封止リングは径方向外側を向いた封止面と径方向内側を向いた円形の封止リング内側面とを有し、前記封止リングは前記封止リング内側面に対して接線方向に延びている3つの接線方向の切込みを有し、その結果、前記封止リングは、周方向に連続して配置されており前記接線方向の切込みによって分離されている3つの封止リングセグメントを備え、前記切れ目のないベースリングと前記封止リングとは前記周方向に対して垂直な長手方向に連続して配置されており、トップリングが前記長手方向において前記封止リングに隣接するように配置されており、前記トップリングは径方向外側を向いたトップリング外側面と径方向内側を向いたトップリング内側面とを有し、前記トップリングは、前記封止リングから離れる方向を向いている面に、径方向に延びている1つ以上の戻り流路を有し、該戻り流路は前記トップリングの全幅に沿って前記径方向に延びており、前記封止面は前記トップリング外側面と前記ベースリング面とを越えて前記径方向に突出しており、前記ベースリングと前記トップリングとは、前記封止リングよりも高い引張強度を有する、ピストンリングによって達成される。
【0007】
好ましい実施形態において、前記ベースリングと前記トップリングとの引張強度の大きさは、前記封止リングの引張強度の大きさの1.5倍以上である。
本発明に係るピストンリングは、「サンドイッチ」ピストンリングとして実施され、封止リングと、軸方向両面において封止リング上に配置されている支持リング、すなわち封止リング上に置かれているベースリングおよびトップリングとを備え、支持リングは、好ましくはプレート形状設計である。ベースリングおよびトップリングと比較すると、封止リングは、好ましくは、優れた形状適応能力、特に径方向において優れた形状適応能力を有する軟質の材料からなる。ベースリングおよびトップリングと比較すると、封止リングは、このようにして低い引張強度を有する。軸方向において、ピストンリングは、片面にベースリングを、もう片面にトップリングを備え、ベースリングとトップリングとは2つの支持リングを形成し、このようにして封止リングは各面について述べられたリングの1つに対してもたれ、これらの支持リングによって保持される。ベースリングは、また好ましくはトップリングも、切れ目のない形状であり、比較的強固な材料、すなわち、封止リングよりも高い引張強度を有する材料からなる。比較的軟質の材料またはより低い引張強度を有する材料からなる封止リングは、ベースリングとトップリングとの間に十分かつ確実に保持され、また径方向において優れた形状適応能力を有するので、ピストンの内壁に対する優れた封止が与えられ、それによって、生じ得るあらゆる漏出を防止または低減することが確実にされる。
【0008】
本発明に係るピストンリングの場合、封止リングがシリンダ内壁に沿って摺動するので、封止リングは摩擦封止要素として構成され、ピストンリングは無潤滑または潤滑状態により動作することが可能である。本発明に係るピストンリングは、好ましくは、ピストンコンプレッサとの組み合わせにおいて適しており、そのピストンコンプレッサの圧縮チャンバは、好ましくは500バール(50MPa)を超える高い圧力負荷および/または高い温度負荷を有する。
【0009】
特定の好みに応じて、封止リングは軸方向において小さい全高、好ましくは1mmから6mmの範囲の全高を有する。本発明に係るピストンリングは、ベースリングとトップリングとの両方が、少なくとも低温状態においては、径方向外側を向いた面とシリンダ内側面との間に小さい間隙、例えば数十分の1ミリメートル〜数百分の1ミリメートルの間隙を残すように、ピストンコンプレッサに取付けられる。一方、封止リングは、径方向においてベースリングとトップリングとを越えて突出し、シリンダ内側面に接触する。有利な実施形態において、ベースリングおよびトップリングは、動作中にシリンダ内側面と接触せず、したがって、摩擦リングを形成しない。この実施形態において、ベースリングとトップリングとの両方は、ドライランニング特性を有する必要がない。
【0010】
圧縮チャンバから離れる方向を向いている面に配置されているベースリングとは対照的に、トップリングはさらに、圧縮チャンバに面する面に1つ以上の戻り流路の溝を有し、その溝は再膨張中に圧縮チャンバへの圧力の散逸を可能とする。封止リングの両面に配置されているベースリングおよびトップリングは、このようにして、封止リングの両面に対してピストンの運動の両方向に作用する動的に作用する圧力によって封止リングが破壊されるのを防止する。再膨張は以下に記載されるように行われる。さらに、封止システムの個々の封止要素間における漏出のため、時間に関して変化する圧力特性による負荷は、圧縮チャンバの方向において圧力差を生じさせる。このようにして、圧縮段階の間には、圧縮チャンバに直接続く封止要素チャンバにおける圧力は、吸込圧力レベルを超える値へと高まり、封止要素の摩耗の状態によっては、ほぼ圧縮終圧に達してよい。次に、膨張段階の間にシリンダ内の圧力が吸込圧力の方向に逆戻りすると、圧力は圧縮チャンバに戻って軽減し、すなわち、圧縮チャンバに近接する封止要素の負荷の方向が反転する。
【0011】
このように、本発明に係るピストンリングには、接線方向の切込みが形成された封止リングが圧縮過程中にはベースリングによって支持される一方、膨張過程中にはトップリングによって支持される結果、切込みの形成された封止リングが激しい動きによる力から保護され、したがって圧縮過程だけでなく特に膨張過程においても損傷から保護される、という利点が存在する。
【0012】
プラスチック材料から封止リングを作ることは、「自己支持」すなわち支持リングなしで高い圧力差を封止する実施形態には適さない。本発明に係るピストンリングのサンドイッチ設計は、プラスチック材料から封止リングを作ることを可能とする。ピストンリングのサンドイッチ設計の実施形態に応じて、本発明に係るピストンリングは、無潤滑または油潤滑状態により動作することが可能である。ドライランニングピストンリングの場合、少なくとも封止リングはドライランニング特性を有する必要がある。動作中にベースおよび/またはトップリングが同様にシリンダ内壁に沿って摺動する場合には、これらの支持リングもドライランニング特性を有する。封止リングは、好ましくは、PTFE材料またはポリマーブレンドから形成され、非常に高い圧力差の場合には高耐熱性ポリマーも用いられる。ドライランニング封止リングは、カーボン、グラファイト、ガラス繊維、MoS2または青銅などの無機充填剤をさらに充填される。ベースリングおよびトップリングが、高耐熱性ポリマー、繊維複合材料、および、非常に高い圧力差の場合には金属(例えば、青銅)からなると有利である。
【0013】
ベースリング、封止リングおよびトップリング用の例示的な材料の組合せが以下に与えられる。すでに述べたように、1つの必要条件は、ベースリングおよびトップリングが封止リングよりも高い引張強度を有することである。達成される終圧に応じて、例えば、以下の材料の組合せが適することが可能であり、用いられる材料に関する詳細は、表の後に与えられる。
【0014】
【表1】
【0015】
表1において用いられる材料の以下の詳細、ドライランニングリングの場合は特に、以下に示される充填剤が必要である。
充填剤を含むもしくは含まないPEEK、充填剤を含むもしくは含まないポリイミド、充填剤を含むもしくは含まないPPSまたは充填剤を含むもしくは含まないエポキシが、例えば高耐熱性ポリマーとして適している。
【0016】
「変性PTFE」とも呼ばれる変性されたPTFE、または、カーボン、グラファイト、ガラス繊維、MoS2、青銅のうちの1つ以上などの無機充填剤を充填された充填剤を含むPTFEが、PTFEとして適している。
【0017】
PTFE、PEEK、PPSなどの2つ以上の有機プラスチックの混合物がポリマーブレンドとして適しており、ポリマーブレンドもまたカーボン、グラファイト、ガラス繊維、MoS2、青銅のうちの1つ以上などの無機充填剤を充填されてよい。
【0018】
例えば、PEEKまたはエポキシのマトリクスにおけるカーボン繊維が、繊維複合材料として適している。
アルミニウム、鉛もしくはスズ青銅などの青銅材料、または真鍮などの材料が、例えば銅合金として適している。
【0019】
封止リングに非常によく適するプラスチックは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、このPTFEに対して、好ましくはやはり一般にカーボン、グラファイト、ガラス繊維などの無機である充填剤が、そのプラスチックの物理的、機械的および/または摩擦学的特性を向上するように、特にドライランニング特性を与えるように追加される。これらの充填剤に関わらず、PTFEからなる従来知られていた封止リングの使用は、PTFEのコールドフローについての顕著な傾向のため、低い圧力差に限られていた。本発明に係るピストンリングは、PTFEからなる封止リングが比較的高い圧力差であるとしても確実に動作することが可能である利点を有する。このことは、ドライランニング「ピストン1」の以下の例を参照して説明され得る。例示的なピストンリング1は、充填剤を含むPTFEからなる封止リングを含み、このPTFEはカーボンまたはグラファイトを充填されている。20℃の温度において、この種の封止リングは、10MPaの引張強度を有する。ベースリングおよびトップリングは、充填剤を含むPEEKからなる。250℃の温度において、この種類のベースリングおよびトップリングは、18MPaの引張強度を有する。この例示的な実施形態において、本発明に係るピストンリングは、封止リングが250℃において極低い引張強度を有するが、封止リングが軸方向において支持リング間、すなわちベースリングとトップリングとの間に保持されるので、この温度において問題なくドライランニング方式により動作可能であり、また封止リングは半径方向においてシリンダの内壁に対してもたれているので、封止リングが半径方向に外れることは不可能である。ベースリングおよびトップリングとシリンダの内壁との間の距離は、好ましくは数十分の1から数百分の1ミリメートルである。
【0020】
例示的な「ピストンリング1」は、油潤滑ピストンコンプレッサにおいて圧縮チャンバを密封するのに用いられることも可能である。この場合、封止リングは、例えば変性PTFEからなることが可能であり、ベースリングおよびトップリングは、例えば充填剤を含まないPEEKからなることが可能である。ベースリングおよびトップリングは、例えば充填剤を含むPEEKからなることも可能であり、そのPEEKはカーボン繊維(10重量%)、PTFE(10重量%)およびグラファイト(10重量%)を充填されている。
【0021】
高い圧力および/または温度負荷を伴うピストンでは、「ピストンリング3」および「ピストンリング4」を備える例によって上に示されたように、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)またはポリイミド(PI)などの高耐熱性ポリマーからなる封止リングと、PEEKのマトリクスにおけるカーボン繊維またはエポキシマトリクスにおけるカーボン繊維などの繊維複合材料からなるトップリングおよびベースリングとを備えるピストンリングを用いることが可能である。
【0022】
特に油潤滑ピストンコンプレッサの場合、圧力差は1000バール(100MPa)を超える非常に高い値も想定可能であり、したがって「ピストンリング4」によって上に示したように、そうしたピストンコンプレッサの場合は特に、一体の金属リングからなるベースリングとトップリングとを備えるピストンリングを使用することも可能である。
【0023】
本発明は、例示的な実施形態によって、以下でさらに詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図5】封止配置の第2の例示的な実施形態による縦断面図。
【
図7】封止配置の第3の例示的な実施形態による縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図面は例示的な実施形態を説明するために用いられる。
図面において、同一の部分には基本的に同一の参照符号が提供される。
図1は、シリンダ10と、ピストン12と、ピストン12に配置されている1つ以上のピストンリング1とを備えるピストンコンプレッサを通る縦断面図を示す。ピストン12は、組み立てられたピストンとして構成され、長手方向Lに連続して配置されている複数のピストン体11を備え、各ピストン体11は、内部空間11bを形成するチャンバディスク11aを有する。ピストンリング1は、内部スペース11bに配置されている。
図1において、ピストンコンプレッサの圧縮チャンバ13は上部に配置されており、クランクケースまたは低圧部分14は下部に配置されている。ピストンリング1は、封止リング3、締付リング4、トップリング2およびベースリング5を備える。ピストンリング1は、長手方向の軸Lに対して径方向にチャンバディスク11aから離間しており、これによって内側の間隙8を形成する。内側の間隙8は、径方向の戻り流路2aと上部に配置されている外側の間隙6とを通じて、示される図においてさらに上方にあって見えていない空間へと流体的に接続されている。
【0026】
図2は、圧縮チャンバ13の方向からのトップリング2の平面図を示す。トップリング2は、径方向外側を向いたトップリング外側面2cと、径方向内側を向いた円形のトップリング内側面2dとを備える。トップリング2は、切れ目のないリングとして構成されており、周方向に分布するように配置されておりトップリング2の全幅に沿って径方向に延びている複数の径方向の戻り流路2aを備える。
【0027】
図3は、圧縮チャンバ13の方向からの封止リング3の平面図を示す。封止リング3は、径方向外側を向いた封止面3eと径方向内側を向いた円形の封止リング内側面3fとを備え、封止リング3は、封止リング内側面3fに対して接線方向に延びている3つの接線方向の切込み3dを有し、その結果、封止リング3は、周方向Uに連続して配置されており接線方向の切込み3dによって分離されている3つの封止リングセグメント3a,3b,3cを備える。締付リング間隙4aを有する締付リング4は、有利には、封止リング内側面3fに対してもたれるように配置されている。封止リング内側面3fに沿って接触する締付リング4は、封止リング内側面3fに対して、径方向外側を向いた力を生じさせる。締付リング4を不要にすることも可能であり、内部空間11bにおける流体は、封止リング内側面3fに対して、径方向外側を向いた力を生じさせることが可能である。
【0028】
図4は、ベースリング5の平面図を示し、ベースリング5は径方向外側を向いたベースリング面5aを有する。
切れ目のないベースリング5および封止リング3は、周方向Uに対して垂直な長手方向Lに連続して配置されており、切れ目のないトップリング2は、長手方向Lにおいて封止リング3に隣接するように配置されており、その結果、
図1に示されるように、ピストンリング1はベースリング5、封止リング3およびトップリング2を備えるように形成される。
【0029】
新しい状態において、すなわち、封止リング3が一定時間馴染ませられる前において、封止リング3は、
図1に示されるように、その封止リング3の封止面3eがトップリング外側面2cとベースリング面5aとを越えて径方向に突出するように構成されている。封止リング3についてのトップリング2およびベースリング5の支持および保護効果が可能な限り大きくなることを確実にするため、トップリング2および/またはベースリング5とシリンダ10の内壁またはシリンダボア10aとの間隔は、好ましくは最小に保たれる。
図1に示される例示的な実施形態において、少なくともトップリング2および/またはベースリング5の外径は、シリンダボア10aの内径よりも数百分の1ミリメートルまたは数十分の1ミリメートルだけ小さい。動作中にピストンリング1が熱くなるので、ピストンリング1は熱膨張する。有利な実施形態において、トップリング2および/またはベースリング5の外径は、シリンダボア以上の径にまで拡大する。ベースリング5および/またはトップリング2の外径がシリンダボアよりも大きい径にまで拡がろうとすると、その結果、トップリング2および/またはベースリング5は、馴染ませる段階の間にシリンダ内壁10aに対してもたれ、この過程の間、材料は外面において摩耗してトップリング2および/またはベースリング5から離れ、その結果、トップリング2および/またはベースリング5は、動作に起因する熱状態においてシリンダ10のボアに間隔を置かずに嵌まる。この馴染ませる過程の間にトップリング2および/またはベースリング5が引っ掛からないことを確実にするため、シリンダ内壁10に対して配向されている面は、好ましくは少なくとも部分的には広がるように、好ましくは円錐状に広がるように設計され、トップリング2および/またはベースリング5の全幅よりは、むしろシリンダ内壁10を超えて突出する領域のみが摩耗することを確実にする。馴染ませる段階の間、封止リング3は、封止リング3の封止面3eにおいてさらに摩耗し、その結果、好ましい実施形態において、また過熱された状態において、封止リング3、トップリング2およびベースリング5は、シリンダ10のボアに間隔を置かずに配置される。
【0030】
しかしながら、
図5に示されるように、トップリング外側面2cおよび/またはベースリング面5aの円錐形状を不要にすることも可能である。
図5は、馴染んだ状態かつ動作中、すなわち、熱くなった状態におけるピストンリング1を示す。トップリング2およびベースリング5は、動作に起因する熱状態において、トップリング2およびベースリング5が、長手方向の軸Lが延びている方向に間隔を置かずに後方および前方に運動するように、シリンダ内壁10aに適合している。さらに、封止リング3は、封止リング3が径方向外側に、また締付リング4によってほぼ決定される予圧する力によって運動することを可能とし、またシリンダ内壁10aと摩擦接触するように、封止リング3がトップリング2とベースリング5との間に配置されるように適合する。
【0031】
図6は、ピストン12の1つの例示的な実施形態を側面図により示し、そのピストン12は、高圧側13から長手方向Lに離間されている複数の封止要素、すなわち4つの束縛されたピストンリング15を左方に有し、また長手方向Lにおいて連続して5つのピストンリング1を有する。ガイドリング15が右方にさらに配置されている。
【0032】
図7は、封止配置1の第3の例示的な実施形態の縦断面図を示す。
図8は、
図7において用いられるトップリング2の平面図を示す。
図1および
図2に示される例示的な実施形態とは対照的に、このトップリング2は、径方向の切込み2eを有し、このようにして、この点に接合部または間隙を有する。このようにして、トップリング2は、もはや切れ目のないトップリング2としてではなく、切込まれたトップリング2として構成されている。さらに、
図1および
図2に示される例示的な実施形態とは対照的に、トップリング2は、長手方向の軸Lに対して径方向に延びている第1の脚部2fと、長手方向の軸Lの方向に延びている第2の脚部2gとを備えるL字形の断面を有する。封止要素3は径方向において第2の脚部2gの前に配置されており、好ましくは、第2の脚部は封止要素3の封止リング内側面3fに対してもたれている。径方向において封止要素3の裏側に配置されている第2の脚部2gは、締付リングのまたはばねの特徴をさらに有し、このようにして、締付リングまたはばねの機能を果たす。封止要素3に対して径方向外側に作用する力は、トップリング2のばね特性によって、および/または内側の間隙8に広がっている内圧によって生じ、トップリング2に対して作用する。径方向の切込み2eを有するトップリング2は、径方向の切込み2eのために摩擦リングの特に顕著な特性を有し、トップリング2は、第2の脚部2gによって封止要素3に対して径方向外側に作用する力を同時に生じさせ、
図1および
図5に示されるものなどの分離した締付リングを不要にすることを可能とする。