(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6913900
(24)【登録日】2021年7月15日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】発光デバイス
(51)【国際特許分類】
H01S 5/022 20210101AFI20210727BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20210727BHJP
【FI】
H01S5/022
H01L33/50
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-249327(P2016-249327)
(22)【出願日】2016年12月22日
(65)【公開番号】特開2018-107184(P2018-107184A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年10月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第77回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、平成28年9月1日(発行日)
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 剛
(72)【発明者】
【氏名】大長 久芳
(72)【発明者】
【氏名】四ノ宮 裕
(72)【発明者】
【氏名】澤 博
【審査官】
大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−168627(JP,A)
【文献】
特開2016−099577(JP,A)
【文献】
特開2007−314726(JP,A)
【文献】
特開2007−335514(JP,A)
【文献】
特開2008−235744(JP,A)
【文献】
特開2016−157795(JP,A)
【文献】
特開2004−244544(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0169024(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 − 5/50
H01L 33/00 − 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体発光素子と、
前記半導体発光素子から出射した光を導光する光ファイバと、
前記光ファイバから出射した光が入射する入射部と、入射した光により励起され、波長変換された変換光が出射する出射部とを有する波長変換部と、を備え、
前記波長変換部は、
透明なSiO2からなるマトリックス相と、
前記マトリックス相に分散された蛍光体と、を有し、
前記蛍光体は、(CaaEu1−a)I2(aは0.5≦a≦0.9)で表されることを特徴とする発光デバイス。
【請求項2】
前記蛍光体は、粒径が1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項3】
前記蛍光体は、励起スペクトルのピーク波長が350〜410nmの範囲にある励起光により励起され、発光スペクトルのピーク波長が450〜480nmの範囲にある青色光を発することを特徴とする請求項1または2に記載の発光デバイス。
【請求項4】
前記半導体発光素子は、発光スペクトルのピーク波長が350〜410nmの範囲にある近紫外光を発するレーザ素子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発光デバイス。
【請求項5】
前記波長変換部は、ロッド状であり、長手方向の両端部が前記入射部および前記出射部であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発光デバイス。
【請求項6】
前記蛍光体は、粒径が10〜200nmの単結晶微粒子であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体レーザ光源と蛍光体とを組み合わせた構造の発光モジュールが考案されている(特許文献1参照)。また、上述の蛍光体は多結晶のものが多く、その場合、半導体発光素子の出射光が蛍光体内で散乱、遮蔽されるとともに、蛍光体が励起されて波長変換された光もランバーシアンに発光するため、発光モジュールから出射する光の指向性が低下してしまう。その結果、光学系で利用される光が少なくなり、発光モジュールを含むシステム全体での光の利用効率が低下する。
【0003】
そこで、蛍光体内に入射した光の散乱、遮蔽による損失を低減すべく、透光性セラミックス蛍光体や単結晶蛍光体が考案されている(特許文献2、3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−067961号公報
【特許文献2】特開2012−062459号公報
【特許文献3】特開2015−081313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、蛍光体自体が発する変換光は、前述のように指向性のないランバーシアンな配光を示すため、そのままでは指向性の強い光が得られない。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、指向性の強い発光を示す発光デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の発光デバイスは、半導体発光素子と、半導体発光素子から出射した光を導光する光ファイバと、光ファイバから出射した光が入射する入射部と、入射した光により励起され、波長変換された変換光が出射する出射部とを有する波長変換部と、を備える。波長変換部は、透明なSiO
2(アモルファスまたは結晶)からなるマトリックス相と、マトリックス相に分散された蛍光体と、を有する。
【0008】
この態様によると、指向性の強い光を発することできる。
【0009】
蛍光体は、粒径が1μm以下であってもよい。これにより、波長変換部の透過率が向上するとともに、所望の波長変換に必要な蛍光体の量を抑制できる。
【0010】
蛍光体は、励起スペクトルのピーク波長が350〜410nmの範囲にある励起光により励起され、発光スペクトルのピーク波長が450〜480nmの範囲にある青色光を発してもよい。
【0011】
半導体発光素子は、発光スペクトルのピーク波長が350〜410nmの範囲にある近紫外光を発するレーザ素子であってもよい。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、指向性の強い発光を示す発光デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施の形態に係る発光デバイスの模式図である。
【
図2】本実施の形態に係る蛍光体ロッドの要部を模式的に示した図である。
【
図3】実施例に係る蛍光体の発光スペクトル及び励起スペクトルを示した図である。
【
図4】実施例に係る発光バルク体の透過型電子顕微鏡(TEM)による像を示す図である。
【
図5】
図4に示す発光バルク体中の微粒子(領域R)の電子回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
はじめに、発明者らが本願発明に想到した背景について説明する。蛍光体の発光は、発光中心元素内の電子遷移によって起こるため,指向性が低下するランバーシアンな配光となる。そのため、固体光源に利用する際にロスが生じ、わずかな光しか光学系に取り込むことができない。この問題を克服するために、蛍光体の発光に強指向性を付与することができればよいが、蛍光発光の原理によって蛍光体そのものに指向性を持たせることはできない。そこで、本発明者が鋭意検討したところ、蛍光体を含むバルク素材として蛍光部材に指向性を持たせられる可能性を見いだした。
【0016】
具体的には、透明なマトリックス中に、蛍光体を共晶または自己凝縮結晶として成長させることで、ある特定の部位のみを光らせる手法である。この手法による構造は、多様な使用環境に対し脆弱(不安定)な蛍光体であっても、堅固なマトリックスに取り込むことで安定した発光ができることや、微粒子化することで表面積が拡がり、Euなどの希土類イオンの含有量を激減させることができる、といった利点がある。また、透明なマトリックス材を所定の形態に加工することで光源特性を加味することも可能である。
【0017】
このような蛍光部材は、いずれも予備的な研究によって作製できることは分かっており、近年開発の進んでいる近紫外光LED(または、LD)チップと組み合わせた指向性のある蛍光を利用できる。また、この蛍光部材と光ファイバとを組み合わせれば、ファイバスコープなどの医療をはじめとした様々な分野で要請のある「白色レーザ」の作製の可能性も視野に入れることができる。
【0018】
以下、図面等を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0019】
図1は、本実施の形態に係る発光デバイスの模式図である。発光デバイス100は、半導体発光素子10と、半導体発光素子10から出射した光を導光する光ファイバ12と、波長変換部としての蛍光体ロッド14と、を備える。蛍光体ロッド14は、光ファイバ12から出射した光が入射する入射部14aと、入射した光により励起され、波長変換された変換光が出射する出射部14bとを有する。
【0020】
半導体発光素子は、LED(Light emitting diode)素子、LD(Laser diode)素子、EL(Electro Luminescence)素子等が挙げられる。また、発光スペクトルのピーク波長が350〜410nmの範囲にある近紫外光を発するものであってもよい。指向性の観点では、LD素子が好適である。
【0021】
図2は、本実施の形態に係る蛍光体ロッドの要部を模式的に示した図である。
図2に示す蛍光体ロッド14は、透明なSiO
2からなるマトリックス相16と、マトリックス相16に分散された蛍光体18と、を有する。
【0022】
本実施の形態に係る蛍光体18としては、例えば、M
IIX
2:Eu
2+(M
II=Ca,Sr,Ba,Mg等 X=F,Cl,Br,I)で表される希土類付活アルカリ土類ハロゲン化物蛍光体が挙げられる。この蛍光体は、紫外から近紫外の波長領域の励起光でよく光るが、大気中の水分で加水分解を起こすため、すぐに光らなくなるといった問題があった。また、大気との接触を避けるために低融点ガラスに分散しても、ガラス加工時の熱で蛍光体が分解するため、やはり発光しなくなってしまう。
【0023】
そこで、本発明者らは、SiO
2のロッド、板、チューブ等のバルクをマトリックス相として使い、蛍光体のナノ粒子をマトリックス相に合成することで、ナノ発光部が分散されたバルク状の波長変換部を考案した。この波長変換部は、蛍光体のナノ粒子を分散させるマトリックス相としてのSiO
2等の形状が限定されていないため、用途に応じた形状に加工しやすい。また、蛍光体のナノ粒子がマトリックス相の内部に分散しているため、蛍光体と大気との接触が遮断され、蛍光体の加水分解による劣化を抑制できる。
【0024】
以下では、波長変換部におけるマトリックス相や蛍光体の構成について更に詳述する。
【0025】
本実施の形態に係る蛍光体ロッド14は、蛍光体18として、一般式nSiO
2・(M
IIaA
1−a)X
2(M
IIは2価のアルカリ土類元素、Aは希土類元素、Xはハロゲン元素)で表される粒子が分散された発光バルク体である。
【0026】
蛍光体18は、励起スペクトルのピーク波長が350〜410nmの範囲にある励起光により励起され、発光スペクトルのピーク波長が450〜480nmの範囲にある青色光を発するものが好ましい。
【0027】
蛍光体ロッド14のマトリックス相16は、粒子状の蛍光体18を分散できるものであれば形状は特に限定されず、発光デバイスの用途を考慮して適宜選択すればよい。例えば、板状、柱状、チューブ状、球状等が好ましい。
【0028】
また、上述の一般式において、発光部(M
IIaA
1−a)X
2に対するSiO
2のモル比nは、1<nであるとよい。aは0.5≦a≦0.9を満たすとよい。M
IIは、2価のアルカリ土類元素であり、Ca,Sr,Ba,Mgからなる群から選択される1種類以上の元素であるとよい。Aは、希土類元素であり、Eu,Sm,Dy,Er,Tm,Ybからなる群から選択される1種類以上の元素であるとよい。Xは、ハロゲン元素でありF,Cl,Br,Iからなる群より選択される少なくとも1種類以上の元素であるとよい。なお、蛍光体18は、粒径が1μm以下であるとよい。これにより、波長変換部の透過率が向上するとともに、所望の波長変換に必要な蛍光体の量を抑制できる。
【0029】
上述のように構成された発光デバイスによれば、従来よりも指向性の強い光を発することできる。
【0030】
(実施例)
出発原料として、CaH
2、CaF
2、NH
4I、EuCl
3・6H
2Oの各原料を、これらのモル比がCaH
2:CaF
2:NH
4I:EuCl
3・6H
2O=0.75:0.10:0.5:0.05となるように秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ粉砕混合し、均一な原料混合物を得た。この原料混合物の中に、予めサンドブラスト、アルカリエッチング等で表面を活性化したSiO
2ロッド(φ500μm、厚さ1mm)を埋め込んだ状態でアルミナ容器に入れる。
【0031】
次に、このアルミナ容器を焼成炉に入れ、所定の雰囲気(N
2雰囲気)において1000℃で2時間加熱し、その後、水素5%還元雰囲気中で焼成することで、蛍光体を含有するマトリクス相を合成した。
【0032】
図3は、実施例に係る蛍光体の発光スペクトル及び励起スペクトルを示した図である。実施例に係る蛍光体は、発光スペクトルS1のピーク波長が467nm前後の青色蛍光体である。また、実施例に係る蛍光体は、励起スペクトルS2のピーク波長が398nmであり、主として波長が350〜450nmの範囲の紫外線や青色光の領域の光によって励起され、青色発光する。
【0033】
図4は、実施例に係る発光バルク体の透過型電子顕微鏡(TEM)による像を示す図である。
図4に示すように、実施例に係る発光バルク体の内部には、60nm前後の微粒子が分散されていることがわかる(領域R)。なお、微粒子の直径は、1μm以下が好ましく、10nm〜200nmの範囲、より好ましくは、20nm〜100nmの範囲の大きさであるとよい。また、この微粒子をエネルギー分散型X線分析(EDS (Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)により組成分析したところ、(Ca
0.8Eu
0.2)I
2であることがわかった。
【0034】
図5は、
図4に示す発光バルク体中の微粒子(領域R)の電子回折パターンを示す図である。
図5に示す電子回折パターンから、微粒子は単結晶であることがわかる。
【0035】
以上、本発明を実施の形態や実施例をもとに説明した。この実施の形態や各実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0036】
10 半導体発光素子、 12 光ファイバ、 14 蛍光体ロッド、 14a 入射部、 14b 出射部、 16 マトリックス相、 18 蛍光体、 100 発光デバイス。