(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般にドローンと呼ばれる小型ヘリコプター(マルチコプター)の応用が進んでいる。その重要な応用分野の一つとして農地(圃場)への農薬や液肥などの薬剤散布が挙げられる(たとえば、特許文献1)。比較的狭い農地においては、有人の飛行機やヘリコプターではなくドローンの使用が適しているケースが多い。
【0003】
準天頂衛星システムやRTK-GPS(Real Time Kinematic - Global Positioning System)などの技術によりドローンが飛行中に自機の絶対位置をセンチメートル単位で正確に知ることができるようになったことで、日本において典型的な狭く複雑な地形の農地でも、人手による操縦を最小限として自律的に飛行し、効率的かつ正確に薬剤散布を行なえるようになっている。
【0004】
その一方で、農業用の薬剤散布向け自律飛行型ドローンについては安全性に対する考慮が十分とは言いがたいケースがあった。薬剤を搭載したドローンの重量は数10キログラムになるため、人の上に落下する等の事故が起きた場合に重大な結果を招きかねない。また、通常、ドローンの操作者は専門家ではないためフールプルーフの仕組みが必要であるが、これに対する考慮も不十分であった。今までに、人間による操縦を前提としたドローンの安全性技術は存在していたが(たとえば、特許文献2)、特に農業用の薬剤散布向けの自律飛行型ドローンに特有の安全性課題に対応するための技術は存在していなかった。
【0005】
農業用ドローンにおいては、ダウンウォッシュ(「下降気流」ともいう。)より圃場の作物を適宜倒伏させて、作物の株元を露出させ、薬剤を散布したり、株元を撮影する方法が知られている。作物の株元を露出させるためには、より強い風力で下降気流を発生可能なドローンが必要とされている。
【0006】
特許文献3には、同一軸線上に前後2個のプロペラを設け、前方プロペラおよび後方プロペラを互いに反対方向に回転させることによって推力を発生する二重反転プロペラ装置において、上記前方プロペラの直径およびピッチがそれぞれ上記後方プロペラの直径およびピッチよりも大きく設定されている二重反転プロペラ装置が開示されている。
【0007】
特許文献4には、エンジンの騒音を軽減するため、前後のプロペラを持つ二重反転プロペラアレイを有するガスタービンエンジンにおいて、前プロペラの直径は後プロペラの直径よりも大きいことが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図を参照しながら、本願発明を実施するための形態について説明する。図はすべて例示である。以下の詳細な説明では、説明のために、開示された実施形態の完全な理解を促すために、ある特定の詳細について述べられている。しかしながら、実施形態は、これらの特定の詳細に限られない。また、図面を単純化するために、周知の構造および装置については概略的に示されている。
【0023】
本願明細書において、ドローンとは、動力手段(電力、原動機等)、操縦方式(無線であるか有線であるか、および、自律飛行型であるか手動操縦型であるか等)を問わず、複数の回転翼を有する飛行体全般を指すこととする。
【0024】
●ドローン●
図1乃至
図5に示すように、回転翼101-1a、101-1b、101-2a、101-2b、101-3a、101-3b、101-4a、101-4b(ローターとも呼ばれる)は、ドローン100を飛行させるための手段であり、飛行の安定性、機体サイズ、および、バッテリー消費量のバランスを考慮し、本体110の周辺に8機(2段構成の回転翼が4セット)備えられている。各回転翼101は、ドローン100の本体110からのび出たアーム120により本体110の四方に配置されている。すなわち、進行方向左後方に回転翼101-1a、101-1b、左前方に回転翼101-2a、101-2b、右後方に回転翼101-3a、101-3b、右前方に回転翼101-4a、101-4bがそれぞれ配置されている。なお、ドローン100は
図1における紙面下向きを進行方向とする。
【0025】
モーター102-1a、102-1b、102-2a、102-2b、102-3a、102-3b、102-4a、102-4bは、回転翼101-1a、101-1b、101-2a、101-2b、101-3a、101-3b、101-4a、101-4bを回転させる手段(典型的には電動機だが発動機等であってもよい)であり、一つの回転翼に対して1機設けられている。モーター102は、推進器の例である。1セット内の上下の回転翼(たとえば、101-1aと101-1b)、および、それらに対応するモーター(たとえば、102-1aと102-1b)は、ドローンの飛行の安定性等のために軸が同一直線上にあり、かつ、互いに反対方向に回転する。なお、一部の回転翼101-3b、および、モーター102-3bが図示されていないが、その位置は自明であり、もし左側面図があったならば示される位置にある。
図2、および、
図3に示されるように、ローターが異物と干渉しないよう設けられたプロペラガードを支えるための放射状の部材は水平ではなくやぐら状の構造である。衝突時に当該部材が回転翼の外側に座屈することを促し、ローターと干渉することを防ぐためである。
【0026】
薬剤ノズル103-1、103-2、103-3、103-4は、薬剤を下方に向けて散布するための手段であり4機備えられている。なお、本願明細書において、薬剤とは、農薬、除草剤、液肥、殺虫剤、種、および、水などの圃場に散布される液体または粉体を一般的に指すこととする。
【0027】
薬剤タンク104は散布される薬剤を保管するためのタンクであり、重量バランスの観点からドローン100の重心に近い位置でかつ重心より低い位置に設けられている。薬剤ホース105-1、105-2、105-3、105-4は、薬剤タンク104と各薬剤ノズル103-1、103-2、103-3、103-4とを接続する手段であり、硬質の素材から成り、当該薬剤ノズルを支持する役割を兼ねていてもよい。ポンプ106は、薬剤をノズルから吐出するための手段である。
【0028】
図6に本願発明に係るドローン100の薬剤散布用途の実施例を使用したシステムの全体概念図を示す。本図は模式図であって、縮尺は正確ではない。操作器401は、使用者402の操作によりドローン100に指令を送信し、また、ドローン100から受信した情報(たとえば、位置、薬剤量、電池残量、カメラ映像等)を表示するための手段であり、コンピューター・プログラムを稼働する一般的なタブレット端末等の携帯情報機器によって実現されてよい。本願発明に係るドローン100は自律飛行を行なうよう制御されるが、離陸や帰還などの基本操作時、および、緊急時にはマニュアル操作が行なえるようになっていてもよい。携帯情報機器に加えて、緊急停止専用の機能を有する非常用操作機(図示していない)を使用してもよい(非常用操作機は緊急時に迅速に対応が取れるよう大型の緊急停止ボタン等を備えた専用機器であってもよい)。操作器401とドローン100はWi-Fi等による無線通信を行う。
【0029】
圃場403は、ドローン100による薬剤散布の対象となる田圃や畑等である。実際には、圃場403の地形は複雑であり、事前に地形図が入手できない場合、あるいは、地形図と現場の状況が食い違っている場合がある。通常、圃場403は家屋、病院、学校、他作物圃場、道路、鉄道等と隣接している。また、圃場403内に、建築物や電線等の障害物が存在する場合もある。
【0030】
基地局404は、Wi-Fi通信の親機機能等を提供する装置であり、RTK-GPS基地局としても機能し、ドローン100の正確な位置を提供できるようになっていてもよい(Wi-Fi通信の親機機能とRTK-GPS基地局が独立した装置であってもよい)。営農クラウド405は、典型的にはクラウドサービス上で運営されているコンピュータ群と関連ソフトウェアであり、操作器401と携帯電話回線等で無線接続されていてもよい。営農クラウド405は、ドローン100が撮影した圃場403の画像を分析し、作物の生育状況を把握して、飛行ルートを決定するための処理を行ってよい。また、保存していた圃場403の地形情報等をドローン100に提供してよい。加えて、ドローン100の飛行および撮影映像の履歴を蓄積し、様々な分析処理を行ってもよい。
【0031】
通常、ドローン100は圃場403の外部にある発着地点406から離陸し、圃場403に薬剤を散布した後に、あるいは、薬剤補充や充電等が必要になった時に発着地点406に帰還する。発着地点406から目的の圃場403に至るまでの飛行経路(進入経路)は、営農クラウド405等で事前に保存されていてもよいし、使用者402が離陸開始前に入力してもよい。
【0032】
図7に本願発明に係る薬剤散布用ドローンの実施例の制御機能を表したブロック図を示す。フライトコントローラー501は、ドローン全体の制御を司る構成要素であり、具体的にはCPU、メモリー、関連ソフトウェア等を含む組み込み型コンピュータであってよい。フライトコントローラー501は、操作器401から受信した入力情報、および、後述の各種センサーから得た入力情報に基づき、ESC(Electronic Speed Control)等の制御手段を介して、モーター102-1a、102-1b、102-2a、102-2b、102-3a、102-3b、104-a、104-bの回転数を制御することで、ドローン100の飛行を制御する。モーター102-1a、102-1b、102-2a、102-2b、102-3a、102-3b、104-a、104-bの実際の回転数はフライトコントローラー501にフィードバックされ、正常な回転が行なわれているかを監視できる構成になっている。あるいは、回転翼101に光学センサー等を設けて回転翼101の回転がフライトコントローラー501にフィードバックされる構成でもよい。フライトコントローラー501は、飛行制御部の例である。
【0033】
フライトコントローラー501が使用するソフトウェアは、機能拡張・変更、問題修正等のために記憶媒体等を通じて、または、Wi-Fi通信やUSB等の通信手段を通じて書き換え可能になっている。この場合において、不正なソフトウェアによる書き換えが行なわれないように、暗号化、チェックサム、電子署名、ウィルスチェックソフト等による保護が行われている。また、フライトコントローラー501が制御に使用する計算処理の一部が、操作器401上、または、営農クラウド405上や他の場所に存在する別のコンピュータによって実行されてもよい。フライトコントローラー501は重要性が高いため、その構成要素の一部または全部が二重化されていてもよい。
【0034】
バッテリー502は、フライトコントローラー501、および、ドローンのその他の構成要素に電力を供給する手段であり、充電式であってもよい。バッテリー502はヒューズ、または、サーキットブレーカー等を含む電源ユニットを介してフライトコントローラー501に接続されている。バッテリー502は電力供給機能に加えて、その内部状態(蓄電量、積算使用時間等)をフライトコントローラー501に伝達する機能を有するスマートバッテリーであってもよい。
【0035】
フライトコントローラー501は、Wi-Fi子機503を介して、さらに、基地局404を介して操作器401とやり取りを行ない、必要な指令を操作器401から受信すると共に、必要な情報を操作器401に送信できる。この場合に、通信には暗号化を施し、傍受、成り済まし、機器の乗っ取り等の不正行為を防止できるようにしておいてもよい。基地局404は、Wi-Fiによる通信機能に加えて、RTK-GPS基地局の機能も備えている。RTK基地局の信号とGPS測位衛星からの信号を組み合わせることで、GPSモジュール504により、ドローン100の絶対位置を数センチメートル程度の精度で測定可能となる。GPSモジュール504は重要性が高いため、二重化・多重化されていてもよく、また、特定のGPS衛星の障害に対応するため、冗長化されたそれぞれのGPSモジュール504は別の衛星を使用するよう制御されていてもよい。
【0036】
6軸ジャイロセンサー505はドローン機体の互いに直交する3方向の加速度を測定する手段(さらに、加速度の積分により速度を計算する手段)である。6軸ジャイロセンサー505は、上述の3方向におけるドローン機体の姿勢角の変化、すなわち角速度を測定する手段である。地磁気センサー506は、地磁気の測定によりドローン機体の方向を測定する手段である。気圧センサー507は、気圧を測定する手段であり、間接的にドローンの高度も測定することもできる。レーザーセンサー508は、レーザー光の反射を利用してドローン機体と地表との距離を測定する手段であり、IR(赤外線)レーザーであってもよい。ソナー509は、超音波等の音波の反射を利用してドローン機体と地表との距離を測定する手段である。これらのセンサー類は、ドローンのコスト目標や性能要件に応じて取捨選択してよい。また、機体の傾きを測定するためのジャイロセンサー(角速度センサー)、風力を測定するための風力センサーなどが追加されていてもよい。また、これらのセンサー類は、二重化または多重化されていてもよい。同一目的複数のセンサーが存在する場合には、フライトコントローラー501はそのうちの一つのみを使用し、それが障害を起こした際には、代替のセンサーに切り替えて使用するようにしてもよい。あるいは、複数のセンサーを同時に使用し、それぞれの測定結果が一致しない場合には障害が発生したと見なすようにしてもよい。
【0037】
流量センサー510は薬剤の流量を測定するための手段であり、薬剤タンク104から薬剤ノズル103に至る経路の複数の場所に設けられている。液切れセンサー511は薬剤の量が所定の量以下になったことを検知するセンサーである。マルチスペクトルカメラ512は圃場403を撮影し、画像分析のためのデータを取得する手段である。障害物検知カメラ513はドローン障害物を検知するためのカメラであり、画像特性とレンズの向きがマルチスペクトルカメラ512とは異なるため、マルチスペクトルカメラ512とは別の機器である。スイッチ514はドローン100の使用者402が様々な設定を行なうための手段である。障害物接触センサー515はドローン100、特に、そのローターやプロペラガード部分が電線、建築物、人体、立木、鳥、または、他のドローン等の障害物に接触したことを検知するためのセンサーである。カバーセンサー516は、ドローン100の操作パネルや内部保守用のカバーが開放状態であることを検知するセンサーである。薬剤注入口センサー517は薬剤タンク104の注入口が開放状態であることを検知するセンサーである。これらのセンサー類はドローンのコスト目標や性能要件に応じて取捨選択してよく、二重化・多重化してもよい。また、ドローン100外部の基地局404、操作器401、または、その他の場所にセンサーを設けて、読み取った情報をドローンに送信してもよい。たとえば、基地局404に風力センサーを設け、風力・風向に関する情報をWi-Fi通信経由でドローン100に送信するようにしてもよい。
【0038】
フライトコントローラー501はポンプ106に対して制御信号を送信し、薬剤吐出量の調整や薬剤吐出の停止を行なう。ポンプ106の現時点の状況(たとえば、回転数等)は、フライトコントローラー501にフィードバックされる構成となっている。
【0039】
LED107は、ドローンの操作者に対して、ドローンの状態を知らせるための表示手段である。表示手段は、LEDに替えて、または、それに加えて液晶ディスプレイ等の表示手段を使用してもよい。ブザー518は、音声信号によりドローンの状態(特にエラー状態)を知らせるための出力手段である。Wi-Fi子機機能503は操作器401とは別に、たとえば、ソフトウェアの転送などのために外部のコンピューター等と通信するためのオプショナルな構成要素である。Wi-Fi子機機能に替えて、または、それに加えて、赤外線通信、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)、NFC等の他の無線通信手段、または、USB接続などの有線通信手段を使用してもよい。スピーカー520は、録音した人声や合成音声等により、ドローンの状態(特にエラー状態)を知らせる出力手段である。天候状態によっては飛行中のドローン100の視覚的表示が見にくいことがあるため、そのような場合には音声による状況伝達が有効である。警告灯521はドローンの状態(特にエラー状態)を知らせるストロボライト等の表示手段である。これらの入出力手段は、ドローンのコスト目標や性能要件に応じて取捨選択してよく、二重化・多重化してもよい。
【0040】
図1乃至
図5に示すように、下段の回転翼101-1b,101-2b,101-3b,101-4bの直径は、上段の回転翼101-1a,101-2a,101-3a,101-4aの直径よりも小さく、90%程度である。また、下段の回転翼101-1b,101-2b,101-3b,101-4bの仰角は、上段の回転翼101-1a,101-2a,101-3a,101-4aの仰角よりも小さい。上下の回転翼の構成をこのように異ならせることにより、旋回流を打ち消すことができる。
【0041】
図8を用いて、二重反転の回転翼により旋回流を打ち消し合う様子を説明する。なお、同図は縦断面図のため、関連技術のドローン200における前方の回転翼201-2a,201-4a、本発明に係るドローン100における前方の回転翼101-2,101-4のみ示されているが、後方の回転翼における旋回流の様子に関しても同様である。また、
図8(a)に示すドローン200は、本体210からのび出たアームにより本体210の四方に1段構成の回転翼が配置されているドローン200であって、回転翼の段数以外はドローン100と略同様であるものとする。
【0042】
図8(a)に示すように、関連技術のドローン200における1段構成の回転翼201-2a,201-4aは、それぞれの回転軌跡の外周付近に旋回流261-2a,261-4aをそれぞれ発生する。そこで、
図8(b)に示すように、回転翼101を、同軸上に配置して上下に対を成す2段構成にし、上下段の回転翼101を互いに反対方向に回転させることにより、上段の回転翼101-2a,101-4aが生じる旋回流61-2a,61-4aと、下段の回転翼101-2b,101-4bが生じる旋回流61-2b,61-4bは互いに反対方向にする。この構成により、回転翼101により生じる旋回流を互いに打ち消すことができる。旋回流を打ち消すことにより、回転翼による下向きの下降気流をより大きくすることができる。
【0043】
下段の回転翼101-1b,101-2b,101-3b,101-4bの直径は、上段の回転翼101-1a,101-2a,101-3a,101-4aの直径よりも小さい。さらに言えば、下段の回転翼101-1b,101-2b,101-3b,101-4bの直径は、上段の回転翼101-1a,101-2a,101-3a,101-4aの直径の95%より小さいとよい。下段の回転翼101-1b,101-2b,101-3b,101-4bの直径が上段の回転翼101-1a,101-2a,101-3a,101-4aの直径の95%より大きいと、下段の回転翼101-1b,101-2b,101-3b,101-4bにより生じる上昇気流が上段の回転翼101-1a,101-2a,101-3a,101-4aの下降気流を打ち消してしまい、二段構成の回転翼下方へ排出される下降気流の総計が小さくなってしまう。
【0044】
また、下段の回転翼101-1b,101-2b,101-3b,101-4bの直径は、上段の回転翼101-1a,101-2a,101-3a,101-4aの直径の80%より大きいとよい。下段の回転翼101-1b,101-2b,101-3b,101-4bの直径が上段の回転翼の直径の80%より小さいと、上段の回転翼101-1a,101-2a,101-3a,101-4aによる旋回流を十分に打ち消す作用が小さくなる。そこで、下段の回転翼101-1b,101-2b,101-3b,101-4bは、上段の回転翼101-1a,101-2a,101-3a,101-4aにより発生する下降気流の風力を損なわず、旋回流を打ち消す程度の風力を生じる形状、つまり、上段の回転翼101-1a,101-2a,101-3a,101-4aの直径の95%より小さく、80%より大きくなるように構成されている。また、回転翼101-1b,101-2b,101-3b,101-4bを軽量にすることができる。下段の回転翼101-1b,101-2b,101-3b,101-4bの直径は、上段の回転翼101-1a,101-2a,101-3a,101-4aの直径の90%であるとき、最も下降気流を大きくすることができる。
【0045】
下段の回転翼101-1b,101-2b,101-3b,101-4bの仰角を小さくすることにより、回転翼101-1b,101-2b,101-3b,101-4bにより生じる風力を小さくすることができる。旋回流は回転翼の回転軌跡の外周に発生するため、回転翼の直径を小さくすると、旋回流の生じる領域が半径方向内側に移動する。そのため、下段の回転翼101-1b,101-2b,101-3b,101-4bの直径を小さくしすぎると、下段の回転翼101-1b,101-2b,101-3b,101-4bにより生じる旋回流61-2b,61-4bの領域と、上段の回転翼101-1a,101-2a,101-3a,101-4aにより旋回流61-が生じる領域に大きな差異が生じ、旋回流を効果的に打消し合うことができない。そこで、下段の回転翼の直径が小さくなりすぎないように、上段の回転翼の直径の90%程度に止める一方、下段の回転翼の仰角を小さくすることによって、旋回流が生じる領域を変化させることなく、旋回流の発生を抑制している。
【0046】
ドローン100の回転翼101による下降気流は、ドローン100の進行方向の後方に流れる。この下降気流は、圃場の作物を一時的になぎ倒す効果を生じさせる。ドローン100の回転翼101が作り出す気流の影響を最も受ける作物は、ドローン100の進行方向に対して後方であって、俯角約60度の方向にあることが発明者の実験により明らかになっている。なお、作物は、対象物の例である。対象物は、作物の他、上方からの風により倒される種々の構成であってもよい。
【0047】
ドローン100は、圃場内を飛行し、圃場に生育する作物の株元や穂先に薬剤を散布する薬剤散布用ドローンであってもよいし、作物の生育を監視する生育監視用ドローンであってもよい。圃場は対象エリアの例であり、薬剤散布および生育監視は、所定の作業の例である。回転翼101による下降気流が小さいと、作物を十分倒伏させることができず、薬剤散布用ドローンにおいては作物の株元に薬剤を十分到達させることができないおそれがある。また、生育監視用ドローンにおいては、作物の株元を適切に撮影することができないおそれがある。本発明に係るドローン100によれば、十分な風力の下降気流を生じさせることができるため、薬剤散布および生育監視をより効果的に行うことができる。
【0048】
飛行制御部は、作業中における飛行速度を、作業中以外よりも低下させてもよい。作業中、すなわち薬剤散布または生育監視中においては、下降気流で作物を倒伏させる必要がある。上に述べたように、作業中の飛行速度を低下させることで、作物に到達する下降気流の風力を上昇させ、作物を倒伏させることができる。
【0049】
飛行制御部は、作業中における高度を、作業中以外における飛行中よりも下降させてもよい。作業中、すなわち薬剤散布または生育監視中においては、下降気流で作物を倒伏させる必要があるため、飛行高度を下降させることで、作物を倒伏させるのに必要な下降気流の風力を担保することができる。
【0050】
なお、本説明においては、薬剤散布用ドローンを例に説明したが、本発明の技術的思想はこれに限られるものではなく、回転翼を有する飛行体全般に適用可能である。この飛行体は、自律飛行可能なものであってもよいし、手動で飛行制御可能なものであってもよい。
【0051】
(本願発明による技術的に顕著な効果)
本発明に係るドローンにおいては、回転翼を有するドローンにおいて、より強い風力で下降気流を発生させることができる。