特許第6914066号(P6914066)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6914066
(24)【登録日】2021年7月15日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】積層型電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20210727BHJP
【FI】
   H01G4/30 513
   H01G4/30 201B
   H01G4/30 311D
   H01G4/30 311E
   H01G4/30 311F
   H01G4/30 517
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-53866(P2017-53866)
(22)【出願日】2017年3月21日
(65)【公開番号】特開2018-157119(P2018-157119A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2018年10月9日
【審判番号】不服2020-13093(P2020-13093/J1)
【審判請求日】2020年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085497
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】川上 哲生
(72)【発明者】
【氏名】平尾 尚大
(72)【発明者】
【氏名】田中 努
(72)【発明者】
【氏名】景山 知洋
【合議体】
【審判長】 井上 信一
【審判官】 畑中 博幸
【審判官】 山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−53206(JP,A)
【文献】 特開2013−135178(JP,A)
【文献】 特開2002−100543(JP,A)
【文献】 特開2002−64303(JP,A)
【文献】 特開2011−159947(JP,A)
【文献】 特開2001−44633(JP,A)
【文献】 特開2010−239136(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/110286(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G4/232
H01G4/12
H01G4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
順に積層された第1〜第3のセラミック層と、
前記第1と第2のセラミック層間に挟まれた第1の内部電極と、
前記第2と第3のセラミック層間に挟まれた第2の内部電極と、
前記第1の内部電極と第2の内部電極との間を電気的に接続するビア電極と、を有する積層型電子部品であって、
前記第2のセラミック層は、複数のサブセラミック層を積層一体化したものであり、
前記ビア電極には、当該ビア電極から外周に向かって突出し、前記第2のセラミック層の前記サブセラミック層間に入り込む複数の薄膜状の突出部が一体に形成されており、
前記突出部は、前記第1の内部電極及び前記第2の内部電極と異なる高さに形成されており
前記突出部は、その突出長よりも厚み方向に短い間隔をあけて多層状に形成されている、
積層型電子部品。
【請求項2】
前記突出部の付け根部の厚みに比べて突出長が大きい、請求項1に記載の積層型電子部品。
【請求項3】
前記突出部は、その付け根部から先端部にかけて厚みが薄くなる楔形状である、請求項1又は2に記載の積層型電子部品。
【請求項4】
前記突出部は、その付け根部から先端部にかけて湾曲した形状を有している、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の積層型電子部品。
【請求項5】
前記突出部は、前記第1の内部電極及び前記第2の内部電極の電極平面に対して斜め方向に突出している、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の積層型電子部品。
【請求項6】
前記ビア電極を構成する金属材料に対する共材の含有率が、前記内部電極における共材の含有率より高いことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の積層型電子部品。
【請求項7】
順に積層された第1〜第3のセラミック層と、
前記第1と第2のセラミック層間に挟まれた第1の内部電極と、
前記第2と第3のセラミック層間に挟まれた第2の内部電極と、
前記第1の内部電極と第2の内部電極との間を電気的に接続するビア電極と、を備えた積層型電子部品の製造方法であって、
(A)上面に第1の内部電極を有する第1のセラミック層を準備する工程と、
(B)以下の(B−1)〜(B−4)の工程を所定回数繰り返して、前記第1のセラミック層上に前記ビア電極と前記第2のセラミック層とを形成する工程と、
(B−1)前記第1の内部電極を形成した前記第1のセラミック層上に、セラミック材料インクを供給して前記ビア電極に対応する第1孔部を持つ第1のサブセラミック層を形成する工程、
(B−2)前記第1孔部にビア電極となる第1導体インクを供給する工程であって、前記第1導体インクが前記第1の内部電極に接し、かつ前記第1導体インクの一部が前記第1孔部の周囲にはみ出るように供給して突出部を形成する工程、
(B−3)前記第1導体インクを供給した第1のサブセラミック層上に、セラミック材料インクを供給して前記第1のサブセラミック層の第1孔部と対応する第2孔部を持つ第2のサブセラミック層を形成することで、前記第1導体インクの前記第1孔部からはみ出た部分を前記第1のサブセラミック層との間で挟み込む、工程、
(B−4)前記第2孔部にビア電極となる第2導体インクを供給する工程であって、前記第2導体インクが前記第1導体インクに接するように前記第2導体インクを供給する工程、
(C)前記第2のセラミック層上に第2の内部電極を形成する工程であって、前記第2の内部電極は前記ビア電極と接続する位置に延びている、工程と、
(D)前記第2の内部電極を形成した前記第2のセラミック層上に第3のセラミック層を形成する工程と、
を含み、前記突出部は、前記第1の内部電極及び前記第2の内部電極と異なる高さに形成され、前記突出部は、その突出長よりも厚み方向に短い間隔をあけて多層状に形成される、
積層型電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記(B−1)〜(B−4)の工程は、インクジェット法により実行される、請求項7に記載の積層型電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型電子部品、特に少なくとも3層のセラミック層と、前記セラミック層に挟まれた少なくとも2層の内部電極と、前記内部電極間を電気的に接続するビア電極と、を備えた積層型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、多層構造の電子部品において、ある層上の回路と、その上層もしくは下層上に形成された回路との接続を取るために、ビア電極(導体ポスト、スルーホールも含む)を形成したものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載の多層配線基板では、ビア電極をインクジェットなどの液滴吐出法で形成している。特許文献1における基板は、ポリイミドなどの樹脂基板であり、最終的なビア電極の断面において、ビア電極と基板とは直線状に接している。
【0004】
しかし、電子部品本体がセラミック素体で形成されている場合、焼成時におけるビア電極とセラミック素体との収縮率の差により、図7の(a)又は(b)のように、ビア電極20の厚みがセラミック素体21に比べて薄くなったり、厚くなったりすることがある。そのため、ある層上の回路22とその上層もしくは下層上の回路23との間に隙間24が発生したり、接続部の断線25、又は亀裂26が入ったりすることがある。また、図8の(a)又は(b)のように、ビア電極30がセラミック素体31の孔に比べて細く、又は太くなることもあるため、ビア電極30とセラミック素体31との間に隙間33ができたり、セラミック素体31に亀裂32が入ったりすることがある。さらに、図9のように、ビア電極40が細くなることで、セラミック素体41との間に隙間42ができ、ビア電極41が電子部品の外面まで貫通している場合、ビア電極41が抜けてしまうことがある。
【0005】
特許文献2では、ベース基板上に封止樹脂層を形成し、その封止樹脂層に形成されるビア電極を、インクジェット法により断面蛇腹状に形成している。しかし、封止樹脂層に代えてセラミック素体を使用した場合には、ビア電極とセラミック素体とが曲面で接するため、焼成時の収縮差によってビア電極が細くなった場合には、剥がれやすく、セラミック素体との間に隙間が出来ることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−340437号公報
【特許文献2】特開2011−249452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ビア電極とセラミック素体との結合力を高め、断線や亀裂が発生するのを防止できる積層型電子部品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1実施形態は、順に積層された第1〜第3のセラミック層と、前記第1と第2のセラミック層間に挟まれた第1の内部電極と、前記第2と第3のセラミック層間に挟まれた第2の内部電極と、前記第1の内部電極と第2の内部電極との間を電気的に接続するビア電極と、を有する積層型電子部品であって、前記ビア電極には、当該ビア電極から外周に向かって突出し、前記第2のセラミック層内に層状に入り込む突出部が一体に形成されている、積層型電子部品を提供する。
【0009】
本発明にかかる積層型電子部品において、ビア電極の外周に形成された突出部が第2のセラミック層内に層状に入り込むことにより、第2のセラミック層とビア電極とがかみ合った状態となり、両者は一体的に固着される。そのため、焼成時、ビア電極とセラミック素体との間に収縮率の差があっても、内部電極の断線やセラミック層の亀裂、ビア電極とセラミック素体との間の隙間の発生を抑制でき、ビア電極の抜けも防止できる。
【0010】
突出部の付け根部の厚みに比べて突出長の方を大きくしてもよい。つまり、突出部は偏平状であってもよい。突出部の付け根部の厚みに比べて突出長の方が大きい場合には、突出部と第2のセラミック層とが広い面積で接触するため、両者の固着力が増し、ビア電極とセラミック層との間の隙間や亀裂の発生をより効果的に抑制できる。
【0011】
突出部が「外周に向かって突出する」とは、ビア電極の断面形状が円形の場合、ビア電極の軸線方向から見て半径方向に突出している状態を指す。突出部はビア電極から全周に突出した鍔状部分である必要はなく、一部の方向にだけ突出していてもよい。なお、ビア電極の断面形状は円形に限らず、楕円形、四角形など任意であり、突出部の平面形状もまた任意である。ビア電極は、電子部品の上下両面又はいずれか一方の面まで達し、外部の回路と導通をとっても良いし、上下いずれの面にも達しない形状でもよい。第2のセラミック層内に入りこむビア電極の突出部の個数は1個に限らず、複数個設けられていてもよい。さらに、複数の突出部の長さは一様でなくてもよい。第2のセラミック層内に突出部と同層(同一高さ)に別の内部電極が形成されている場合、少なくとも突出部の先端とその内部電極との間には、電気特性および信頼性において不具合が出ない程度の距離が開いているのがよい。
【0012】
突出部は、その付け根部から先端部まで一定厚みであってもよいが、付け根部から先端部にかけて厚みが薄くなる楔形状であってもよい。また、突出部は、その付け根部から先端部にかけて湾曲した形状を有していてもよい。すなわち、ビア電極の突出部は真っ直ぐに伸びるものに限らず、厚み方向に湾曲していてもよい。第2のセラミック層が湾曲している場合には、その湾曲にそって突出部も湾曲していても構わない。さらに、突出部はビア電極の軸線方向に対して直交方向に伸びるものに限らない。すなわち、突出部は、内部電極の電極平面に対して斜め方向に伸びていてもよい。なお、斜め方向は一定でなくてもよい。
【0013】
セラミック層は、誘電体材料、磁性体材料、圧電体材料などの種々のセラミック材料を用いることができる。また、ビア電極を構成する導電材料としては、Ni、Ag、Pd、Au、Cuや、これらを主成分とする合金を用いることができる。ビア電極は樹脂やガラスなどの非導電材料を含んでいても良い。つまり、ビア電極はメタルコンポジット電極であってもよい。
【0014】
さらに、内部電極やビア電極は、セラミック層と同じセラミック材料(共材)を含有していてもよい。それにより、焼成時の収縮率の差を小さくできる。また、ビア電極の金属材料に対する共材の含有率(体積比率)が、内部電極の金属材料に対する共材の含有率(体積比率)より高くしてもよい。一般に、内部電極とセラミック層との接触面積に比べて、ビア電極とセラミック層との接触面積が相対的に小さいので、ビア電極は焼成時の収縮差の影響を受けやすい。そのため、ビア電極の共材の含有率を内部電極より高くすることで、ビア電極とセラミック層との収縮率差を小さくし、亀裂や隙間、抜けといった不具合を抑制できる。
【0015】
本発明に係る第2実施形態は、順に積層された第1〜第3のセラミック層と、前記第1と第2のセラミック層間に挟まれた第1の内部電極と、前記第2と第3のセラミック層間に挟まれた第2の内部電極と、前記第1の内部電極と第2の内部電極との間を電気的に接続するビア電極と、を備えた積層型電子部品の製造方法であって、
(A)上面に第1の内部電極を有する第1のセラミック層を準備する工程と、
(B)以下の(B−1)〜(B−4)の工程を所定回数繰り返して、前記第1のセラミック層上に前記ビア電極と前記第2のセラミック層とを形成する工程と、
(B−1)前記第1の内部電極を形成した前記第1のセラミック層上に、セラミック材料インクを供給して前記ビア電極に対応する第1孔部を持つ第1のサブセラミック層を形成する工程、
(B−2)前記第1孔部にビア電極となる第1導体インクを供給する工程であって、前記第1導体インクが前記第1の内部電極に接し、かつ前記第1導体インクの一部が前記第1孔部の周囲にはみ出るように供給する工程、
(B−3)前記第1導体インクを供給した第1のサブセラミック層上に、セラミック材料インクを供給して前記第1のサブセラミック層の第1孔部と対応する第2孔部を持つ第2のサブセラミック層を形成する工程、
(B−4)前記第2孔部にビア電極となる第2導体インクを供給する工程であって、前記第2導体インクが前記第1導体インクに接するように前記第2導体インクを供給する工程、
(C)前記第2のセラミック層上に第2の内部電極を形成する工程であって、前記第2の内部電極は前記ビア電極と接続する位置に延びている、工程と、
(D)前記第2の内部電極を形成した前記第2のセラミック層上に第3のセラミック層を形成する工程と、
を含む積層型電子部品の製造方法である。
【0016】
上記のように、第1のサブセラミック層の形成、第1導体インクの供給、第2のサブセラミック層の形成、第2導体インクの供給という工程を繰り返すことにより実行することで、第2のセラミック層内に層状に入り込む突出部を有するビア電極を容易に形成することができる。
【0017】
前記(B−1)〜(B−4)の工程は、インクジェット法により実行されてもよい。インクジェット法は微細な液滴を吐出して対象物に塗布することができるので、第1と第2のサブセラミック層を極薄肉に形成でき、同様に第1と第2の導体インクも極薄肉に塗布できる。つまり、ビア電極の形成と同時に形成される突出部も極薄肉に形成できるので、第2のセラミック層内に突出部が層状にかつ微細な間隔で入り込み、強固に固着される。そのため、ビア電極とセラミック素体との間の隙間や亀裂の発生をより効果的に抑制できる。さらに、インクジェット法では、予めパターンマスクを準備することなく、所望位置に正確に液滴を噴射できるので、ビア電極の外周の突出部がサブセラミック層間に層状に入り込んだ状態に簡単に形成できる。なお、第1のセラミック層、第1の内部電極、第2の内部電極、第3のセラミック層は、インクジェット法に限らず、従来と同様にスクリーン印刷や転写等の手法を用いて形成することもできる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、突出部によってビア電極とセラミック素体とが互いに入り組んで接しているため、焼成時の収縮率の差による変形が緩和され、ビア電極とセラミック素体との間の空隙や亀裂・断線を防ぐことが出来る。また、ビア電極とセラミック素体が互いに入り組んで接しているため、ビア電極が抜けにくくなるという効果がある。その結果、安定した品質の積層型電子部品を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る積層型電子部品の第1実施形態の概略断面図である。
図2図1に示す電子部品の製造方法の一例を示す工程図である。
図3】本発明に係る積層型電子部品の第2実施形態の概略断面図である。
図4図3に示す電子部品の製造方法の一例を示す工程図である。
図5】本発明方法に従い、ビア電極を形成した積層型電子部品の実際の断面写真である。
図6】ビア電極を形成した積層型電子部品の一例の概略断面図である。
図7】ビア電極の厚みがセラミック素体に比べて薄くなった例及び厚くなった例の断面図である。
図8】ビア電極がセラミック素体の孔に比べて細くなった例と太くなった例の断面図である。
図9】ビア電極が細くなることでセラミック素体との間に隙間ができた例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
−第1実施形態−
図1は、本発明に係る積層型電子部品の第1実施形態を示す。ここでは、積層セラミックコンデンサを例にして説明する。この電子部品1は、図1に示すように、複数の内部電極(ここでは4層)4a〜4dを間にして誘電体セラミック材料からなる複数のセラミック層(誘電体層)3a〜3eを積層した構造の電子部品本体2を有する。内部電極4aと4cは電子部品本体2の左側部まで延びており、左側部に形成された厚み方向に貫通するビア電極5と接続されている。また、内部電極4bと4dは電子部品本体2の右側部まで延びており、右側部に形成された厚み方向に貫通するビア電極6と接続されている。ビア電極5、6の上端部には、それぞれ外部電極7、8が形成されている。つまり、これら外部電極7、8は電子部品本体2の上面(実装時には底面)に形成されている。
【0021】
なお、外部電極7、8は、電子部品本体2の上面のみに形成される必要はなく、上下両面に形成されてもよいし、上下いずれの面にも形成されなくともよい。この電子部品1では、電子部品本体2の側面に外部電極が設けられていない例を示すが、内部電極4a、4c、又は内部電極4b,4dの一方が電子部品本体2の側面まで延びている場合には、一方側のビア電極を省略し、その側面に外部電極を形成してもよい。なお、図1を含め図面はすべて模式的なものであり、その寸法や縦横比の縮尺などは実際の製品とは異なる場合がある。
【0022】
内部電極4aを請求項1における「第1の内部電極」と呼ぶとき、内部電極4cが「第2の内部電極」に相当し、セラミック層3aが「第1のセラミック層」に相当し、セラミック層3bと3cが「第2のセラミック層」に相当し、セラミック層3d,3eが「第3のセラミック層」に相当する。一方、内部電極4bを請求項1における「第1の内部電極」と呼ぶとき、内部電極4dが「第2の内部電極」に相当し、セラミック層3a、3bが「第1のセラミック層」に相当し、セラミック層3cと3dが「第2のセラミック層」に相当し、セラミック層3eが「第3のセラミック層」に相当する。
【0023】
この電子部品1において、ビア電極5、6の外周には、セラミック層3bと3cとの間、3cと3dとの間に層状に入り込む突出部5a、6aが一体に形成されている。さらに、ビア電極5の外周には、セラミック層3dと3eとの間に層状に入り込む突出部5bが形成され、ビア電極6の外周には、セラミック層3aと3bとの間に層状に入り込む突出部6bが形成されている。これら突出部5a,5b,6a,6bは、同じ層に形成された内部電極4a〜4dとは電気的に絶縁されている。つまり、突出部5a,5b,6a,6bと内部電極4a〜4dとの間には、電気特性および信頼性において不具合が出ない程度の距離が開いている。
【0024】
突出部5a,5b,6a,6bは、その突出長が付け根部の厚みに比べて長い偏平形状となっているものが望ましい。突出部は、一定厚みであってもよいし、付け根部から先端部にかけて厚みが徐々に薄くなる先細り形状(くさび形状)であってもよい。ビア電極5、6の断面形状は、円板形、四角形、長円形など任意の形状に形成できる。突出部の平面形状も任意である。突出部がビア電極5、6の全周に突出している場合には、鍔部と呼ぶこともできる。図1では各突出部5a、5b、6a、6bの突出長がほぼ同長である場合を示しているが、各突出部の突出長はそれぞれ異なっていてもよい。突出部5a、5b、6a、6bはその上下からセラミック層3a〜3eによって挟まれている、換言すると突出部とセラミック層とがかみ合っているため、電子部品本体2の焼成時において、ビア電極5、6とセラミック層3a〜3eとの間に収縮率差があっても、回路の断線や亀裂、ビア電極5、6とセラミック層3a〜3eとの間の隙間や亀裂の発生を抑制でき、ビア電極5、6の抜けも防止できる。
【0025】
図1では、突出部5a、5b、6a、6bが、ビア電極5、6の軸線方向に対して直交方向に延びているが、セラミック層3a〜3eが湾曲又は傾斜している場合には、それに応じて突出部5a、5b、6a、6bも湾曲又は傾斜していてもよい。また、図1では突出部5a、5b、6a、6bと内部電極4a〜4dとが略同一厚みとして描いたが、両者の厚みは異なっていても良い。さらに、内部電極が4層の例を示したが、2層、3層又は4層より多層であってもよい。内部電極の形状も、平面電極(平面的に連続する電極)である必要はなく、回路パターンであってもよい。すなわち、コンデンサ以外の如何なる電子部品であってもよい。
【0026】
次に、上記構造の電子部品1の製造方法の一例を図2にしたがって説明する。なお、図2では、図1に示す電子部品1の左側半分の製造過程についてのみ説明する。
【0027】
まず図2(a)のように、セラミック層3aの上面に内部電極4aを形成する。このセラミック層3aは未焼成のセラミック層で形成されている。セラミック層3aは、後述するセラミック材料インクを用いたインクジェット法により形成してもよいが、公知の成膜方法を用いて形成してもよい。例えば、キャリアフィルム上にダイコーターなどを用いてセラミック層を成膜したものでもよい。ここでは、導体インクをインクジェットヘッド12から吐出しながら、インクジェットヘッド12をセラミック層3aと平行移動させることで内部電極4aを形成しているが、スクリーン印刷法などにより導電ペーストを塗布することで、内部電極4aを形成してもよい。
【0028】
次に、図2(b)のように、セラミック層3a上にセラミック層3bをインクジェット法により形成する。具体的には、インクジェットヘッド10からセラミック材料インクを吐出しながら、インクジェットヘッド10をセラミック層3aに対して平行に移動させることで、一定厚みのセラミック層3bを形成する。このとき、ビア電極5に対応する位置に第1孔部51が形成されるようにセラミック層3bを形成する。なお、セラミック層3bを形成した後、乾燥又は固化させてもよい。
【0029】
次に、図2(c)のように、第1孔部51にインクジェットヘッド11により第1導体インク52を供給する。このとき、第1導体インク52が第1孔部51に充填されて内部電極4aに接し、かつ第1導体インク52の一部が第1孔部51の周囲、つまりセラミック層3bの上面にはみ出るように供給する。第1導体52の第1孔部51からのはみ出し量は、インクジェットヘッド11の位置制御によって自由に設定できる。なお、第1導体インク52を供給した後、乾燥又は固化させてもよい。
【0030】
次に、図2(d)のように、第1導体インク52を供給したセラミック層3b上に内部電極4bをインクジェット法により形成する。つまり、インクジェットヘッド12により導体インクを吐出しながら、インクジェットヘッド12をセラミック層3bに対して平行に移動させることで、内部電極4bを形成する。内部電極4bは、第1導体インク52と間隔を開けて形成する。なお、インクジェットヘッド12が吐出する内部電極用導体インクは、インクジェットヘッド11が吐出するビア電極用導体インクと成分が異なっていても良い。さらに、この内部電極4bも、内部電極4aと同様に、スクリーン印刷法などを用いて導電ペーストを塗布してもよい。
【0031】
次に、図2(e)のように、セラミック層3b上にセラミック層3cをインクジェット法により形成する。具体的には、インクジェットヘッド10からセラミック材料インクを吐出しながら、インクジェットヘッド10をセラミック層3bに対して平行に移動させることで、一定厚みのセラミック層3cを形成する。このとき、ビア電極5に対応する位置に第2孔部53が形成されるようにセラミック層3cを形成する。なお、セラミック層3cを形成した後、乾燥又は固化させてもよい。
【0032】
次に、図2(f)のように、第2孔部53にインクジェットヘッド11により第2導体インク54を供給する。このとき、第2導体インク54が内部電極4aに接するように第2孔部53に充填されるが、第2孔部53の周囲にはみ出るように供給する必要はない。なお、第2導体インク54を供給した後、乾燥又は固化させてもよい。
【0033】
その後、図2(a)〜図2(f)の工程を繰り返すことにより所定の積層構造を構築した後、図2(g)のように外部電極7を形成することで、電子部品本体1を得る。外部電極7をインクジェット法により形成してもよいが、スクリーン印刷などの方法を用いて形成してもよい。このようにして得られた電子部品本体2を所定の温度で焼成することにより、セラミック層3a〜3eが焼結されると共に、ビア電極5が焼き付けられ、図1に示す電子部品1を完成する。なお、外部電極7、8に対して適宜めっき処理を行うことで導電被膜を形成してもよいことは勿論である。
【0034】
セラミック層3a〜3eを構成するセラミック材料には、セラミック成分の他に樹脂や溶剤成分が含まれているので、焼結時に収縮する。同様に、ビア電極5、6を構成する導体インクには、金属材料の他に樹脂や溶剤成分などの非金属材料が含まれているので、焼付け時に収縮する。それら収縮率には必然的に差が発生する。本発明では、ビア電極5、6の外周に突出部5a,5b,6a,6bが形成され、これら突出部がセラミック層の中に層状に入り込んでいるので、突出部とセラミック層とが強固にかみ合うことになる。そのため、焼成時におけるセラミック層3a〜3eとビア電極5、6との間に収縮差があっても、ビア電極5、6の剥離や抜け、セラミック層の亀裂などの発生を予防できる。なお、導体インクに、セラミック層3a〜3eと同じセラミック材料(共材)が含まれている場合には、両者の収縮率差を小さくできるので、望ましい。
【0035】
内部電極4a〜4d、外部電極7、8を構成する材料と、ビア電極5、6を構成する材料とが同じである必要はなく、ビア電極5、6が内部電極/外部電極に比べて、金属材料に対する非金属材料の体積比率が高い材料を使用してもよい。特に、インクジェット法で電極を形成する場合、微細な液滴を吐出するために液滴の流動性が必要であり、電極内の非金属材料(例えば樹脂バインダ等)の体積比率を、インクジェット法を用いない方法(例えばスクリーン印刷など)の導電ペーストに比べて高くする必要がある。その結果、焼成時の収縮率が高くなり、ビア電極とセラミック層との間で亀裂や隙間が発生しやすくなる。それ故、本発明の突出部を有する構造は、インクジェット法を用いてビア電極を形成する場合に効果的である。ただし、導電ペーストを用いてビア電極5、6を形成する場合にも、本発明の突出部は有効である。
【0036】
さらに、ビア電極5、6を構成する材料として、内部電極/外部電極に比べて金属材料に対する共材(セラミック材料)の体積比率が高い材料を使用した場合には、焼成時のセラミック層とビア電極との収縮率の差がさらに小さくなり、セラミック層にクラックが入りにくくなる。具体的には、セラミック層としてジルコン酸カルシウム(CaZrO3)系セラミックを使用した場合、ビア電極の材料として、金属材料の他に共材としてCaZrO3系セラミックを含むものが望ましい。例えば、内部電極/外部電極の共材の含有割合が20vol%以下である場合に、ビア電極の共材の含有割合は、ビア電極全体の30vol%以上70vol%以下であることが好ましい。
【0037】
−第2実施形態−
図3は、本発明に係る積層型電子部品の第2実施形態を示す。図1と同一部分又は対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0038】
図1では、ビア電極5、6の突出部5a、5b、6a、6bが内部電極4a〜4dと同じ層、つまり同一高さに形成された例について説明したが、図3では、内部電極4a〜4dと同じ層(同じ高さ)の突出部5a、5b、6a、6bの他に、内部電極4a〜4dとは異なる高さに突出部5c、6cを設けたものである。つまり、内部電極4a〜4dの層間に少なくとも1つの突出部5c、6cが存在する。この実施形態の場合も、突出部5a〜5c、6a〜6cがセラミック層内に層状に入り込むことにより、ビア電極5、6とセラミック層3a〜3eとの固着力が増す。特に、内部電極4a〜4dとは異なる高さに突出部5c、6cを追加したので、ビア電極5、6とセラミック層3a〜3eとの接触面積がさらに増大し、両者の固着力が一層増す。その結果、焼成時のセラミック層3a〜3eとビア電極5、6との収縮差に起因した亀裂や隙間、剥離などを一層効果的に抑制できる。
【0039】
図1では、内部電極4a〜4dと異なる高さに形成された突出部5c、6cを、各内部電極間に1層設けたが、複数層設けられていてもよい。つまり、隣り合う内部電極間の1つのセラミック層が複数のサブセラミック層の積層構造で構成されている場合には、各サブセラミック層間に入り込む突出部5c,6cの数は1つに限らず、複数であってもよい。
【0040】
次に、上記構造の電子部品1の製造方法の一例を図4にしたがって説明する。まず図4(a)のように、セラミック層3aの上面に内部電極4aを形成する。この工程は図2(a)と同様である。
【0041】
次に、図4(b)のように、セラミック層3a上にセラミック層3bの一部を構成するサブセラミック層3b1をインクジェット法により形成する。この工程自体は図2(b)とほぼ同様であるが、1回に形成するセラミック層の厚みが図2(b)に比べて薄い。サブセラミック層3b1には、ビア電極5に対応する位置に第1孔部51aが形成される。
【0042】
次に、図4(c)のように、第1孔部51aにインクジェットヘッド11により第1導体インク52aを供給する。このとき、第1導体インク52aが第1孔部51aに充填されて内部電極4aに接し、かつ第1導体インク52aの一部が第1孔部51aの周囲、つまりサブセラミック層3b1の上面にはみ出るように供給する。
【0043】
次に、図4(d)のように、第1導体インク52aを供給したサブセラミック層3b1上に重なるようにサブセラミック層3b2をインクジェット法により形成する。このとき、第1孔部51aと対応する位置に第2孔部51bが形成されるようにサブセラミック層3b2を形成する。このサブセラミック層3b2を形成することで、第1導体インク52aの第1孔部51aからはみ出た部分がサブセラミック層3b1と3b2との間で挟み込まれ、突出部となる。このように2つのサブセラミック層3b1、3b2によって1つのセラミック層3bが形成される。
【0044】
次に、図4(e)のように、第2孔部51bにインクジェットヘッド11により第2導体インク52bを供給する。このとき、第2導体インク52bが第2孔部51bに充填されて第1導体インク52aに接し、かつ第2導体インク52bの一部が第2孔部51bの周囲にはみ出るように供給する。
【0045】
次に、図4(f)のように、セラミック層3b上に内部電極4bを形成する。内部電極4bは、第2導体インク52bと間隔をあけて形成する。ここでは、内部電極4bを、導体インクを用いたインクジェット法により形成しているが、スクリーン印刷法や転写法などにより導電ペーストを塗布してもよい。
【0046】
その後、図4(b)〜図4(f)と同様の工程を繰り返すことにより所定の積層構造を構築した後、図4(g)のように外部電極7を形成することで、電子部品本体2を得る。このようにして得られた電子部品本体2を所定の温度で焼成することにより、セラミック層3a〜3eが焼結されると共に、導体インクが焼き付けられ、図3に示す電子部品1が完成する。
【0047】
一例として、積層セラミックコンデンサ9、内部電極4a〜4d、及びビア電極5、6の寸法の一例を以下に示す。このような構造のセラミックコンデンサ9では、セラミック層とビア電極との収縮差に起因した剥離や隙間、亀裂の発生を防止できた。
積層セラミックコンデンサの大きさ:8mm×6mm×4mm
内部電極の厚み:0.3〜10μm
ビア電極の直径:30μm〜5mm
突出部の厚み:0.5〜20μm、突出長:2〜400μm
【0048】
−実験例−
図5に、本発明方法に従ってビア電極を形成した積層型電子部品の実際の断面写真の一例を示す。ビア電極から右方向に長く伸びる電極が内部電極である。ビア電極から左右に短く延びている部分が突出部である。図5の(b)で示すように、内部電極の間に複数本の突出部が延びており、各突出部の長さがランダムであることがわかる。付け根部から先端部にかけて厚みが薄くなる楔形状の突出部も存在する。図5の(a)に示すように、ビア電極の左側のセラミック層が湾曲している場合には、それに従って突出部が湾曲していることもある。さらに、内部電極の電極平面に対して斜め方向に突出している突出部もある。つまり、突出部はビア電極の軸線方向に対して直交方向に突出している必要はない。図5から明らかなように、複数の突出部を有するビア電極を形成することで、焼成時におけるセラミック層とビア電極との隙間や亀裂の発生を防止できていることがわかる。
【0049】
図6は、本発明に係るビア電極を形成した積層型電子部品の一例の概略断面図を示す。この例では、ビア電極5から外周方向へ突出する突出部5a,5bは、その付け根部から先端部にかけて厚みが漸次薄くなる形状を有する。そのため、焼成時におけるビア電極5とセラミック素体2との収縮率差に起因した、突出部5a,5bの付け根部における亀裂や破断を抑制する効果がある。また、内部電極4a,4cにおけるビア電極5との接続部近傍の厚みが、内部電極4a,4cの一般部分の厚みより厚く形成されていてもよい。この場合には、内部電極4a,4cとビア電極5との接続強度が増すので、焼成時におけるビア電極5とセラミック素体2との収縮率差に起因した内部電極4a,4cとビア電極5との破断や亀裂を抑制する効果がある。
【0050】
上記実施例は、本発明のほんの数例を示すに過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。上記実施形態では、積層セラミックコンデンサについて説明したが、コイル、圧電素子、サーミスタ、多層基板などにも適用可能である。セラミック層としは、誘電体材料のほか、磁性体、ピエゾ、サーミスタ材料などでもよい。内部電極、外部電極、ビア電極の金属材料としては、Ni、Ag、Pd、Au、Cuやこれらを主成分とする合金でもよい。また、ビア電極の突出部の共材が、突出部の上下のセラミック層それぞれと接続されていてもよい。
【0051】
図2図4では、インクジェット法を用いてセラミック層3b、第1導体インク52、セラミック層3c、第2導体インク54を形成する例を示したが、他の方法を用いて形成してもよい。例えば、成膜法によりセラミック層をキャリアフィルム上に形成し、その上から第1導体インク52をスクリーン印刷により形成し、その上に別のキャリアフィルム上に形成したセラミック層を転写し、その上から第2導体インク54をスクリーン印刷により形成してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 積層型電子部品
2 電子部品本体
3a〜3e セラミック層
4a〜4d 内部電極
5、6 ビア電極
5a〜5c 6a〜6c 突出部
7、8 外部電極
9 積層型電子部品
10 インクジェットヘッド(セラミック材料インク吐出用)
11 インクジェットヘッド(ビア電極インク吐出用)
12 インクジェットヘッド(内部電極/外部電極インク吐出用)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9