(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(i)、(ii)及び(v)工程の一連の処理がバッチ処理方式で行われ、(ii)工程で得られたMoBi含有液の一バッチ分全量が(v)工程において貯留される、請求項5に記載の触媒の製造方法であって、
前記(ii)工程において、前記Mo含有液及び前記Bi含有液の前記第一の流路又は前記第二の流路への質量供給速度を、各々、mA(g/min)及びmB(g/min)としたときに、前記Mo含有液及び前記Bi含有液の一バッチあたりの全供給量MA(g)及びMB(g)の合計量の60質量%以上が、式(2)を満たすように供給される、触媒の製造方法。
(mB/mA)/(MB/MA)=0.5〜1.5 (2)
前記(ii)工程において、前記Mo含有液及び前記Bi含有液の前記第一の流路又は第二の流路へモル供給速度を、各々、mα(mol/min)及びmβ(mol/min)としたときに、
前記Mo含有液及び前記Bi含有液が、式(3)を満たすように供給される、
請求項3、4、又は7に記載の触媒の製造方法。
(mβ/mα)/(a/12)=0.8〜1.2 (3)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本実施形態の触媒(以下、単に「触媒」ともいう。)は、下記一般式(1)で表されるMoとBiとを含むバルク組成を有する金属酸化物を含み、好ましくは、該金属酸化物とシリカ等の担体とからなる。
Mo
12Bi
aFe
bX
cY
dZ
eO
f (1)
(式(1)中、Xは、ニッケル、コバルト、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム及びバリウムからなる群より選ばれる1種以上の元素、Yはセリウム、クロム、ランタン、ネオジム、イットリウム、プラセオジム、サマリウム、アルミニウム、ガリウム及びインジウムからなる群より選ばれる1種以上の元素、Zはカリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる1種以上の元素を示し、a、b、c、d及びeは、それぞれ、0.1≦a≦2.0、0.1≦b≦3.0、0.1≦c≦10.0、0.1≦d≦3.0、及び0.01≦e≦2.0を満たし、fは存在する他の元素の原子価要求を満足させるのに必要な酸素の原子数である。)
【0015】
本実施形態の触媒は、上記バルク組成を有する金属酸化物を含むことにより、アンモ酸化反応に際して高いアクリロニトリル選択率を示し、かつ、流動床触媒として長期間の使用に耐えうる良好な摩耗強度を有する。
これについて、本発明者らは、以下のように考察している。アンモ酸化反応における活性点はビスマスを含むモリブデートであるが、それのみでは高いアクリロニトリル選択率を得ることはできない。ビスマスを含むモリブデートが、少なくとも触媒粒子表面において、鉄を含むモリブデートや、その他の金属を含むモリブデートと均一に複合化していることが、アクリロニトリル選択率を向上させると考えられる。
また、ビスマスを含むモリブデートが、鉄を含むモリブデートや、その他の金属を含むモリブデートとその表面において均一に複合化している触媒粒子は、その前駆体スラリーの段階において、各金属成分を単独成分で凝集させずに分散させて、ビスマスを含むモリブデートが、その他の金属を含むモリブデートと複合化しやすい状態にすることが必要であると考えられる。さらに、金属粒子が担体上に担持される場合には、前駆体スラリー中の金属と、担体の粒子、双方の凝集を防ぐことで、触媒の摩耗強度も向上すると考えられる。
ただし、作用機序は上記に限定されない。
【0016】
[組成]
本実施形態において触媒を構成する金属酸化物は、モリブデンと、ビスマスと、鉄と、を必須成分として含む。モリブデンは、プロピレンの吸着サイト及びアンモニアの活性化サイトとしての役割を担っている。また、ビスマスは、プロピレンを活性化させ、α位水素を引き抜いてπアリル種を生成させる役割を担っている。さらに、鉄は、3価/2価のレドックスによって気相に存在する酸素を触媒活性点に供給する役割を担っている。
【0017】
その他、金属酸化物中に含まれていてもよい任意成分としては、ニッケル、コバルト、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム及びバリウムからなる群より選ばれる1種以上の元素X、セリウム、クロム、ランタン、ネオジム、イットリウム、プラセオジム、サマリウム、アルミニウム、ガリウム及びインジウムからなる群より選ばれる1種以上の元素Y、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる1種以上の元素Zが挙げられる。元素Xは、適度の格子欠陥を有するモリブデートを形成し、酸素のバルク内移動を円滑にする役割を担っている。元素Yは、鉄と同様に触媒におけるレドックス機能を担っている。さらに、元素Zは、触媒粒子表面に存在する酸点をブロックすることで、主生成物、原料の分解反応を抑制する役割を担っている。
【0018】
前述のように、各元素には、それぞれに触媒として機能する上での役割が備わっており、その元素の持つ働きを代替できる元素、代替できない元素、働きの補助的作用をもたらす元素など、その触媒の元素構成や組成によって適宜選択的に加えた方がよい元素及び組成比率が変化する。
【0019】
本実施形態の触媒を構成する金属酸化物のバルク組成、すなわち金属酸化物全体を構成する各元素の比率は、下記一般式(1)で表される。
このような組成を有することにより、アクリロニトリル選択率がより向上する傾向にある。
Mo
12Bi
aFe
bX
cY
dZ
eO
f (1)
上記式(1)中、Xは、ニッケル、コバルト、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム及びバリウムからなる群より選ばれる1種以上の元素、Yはセリウム、クロム、ランタン、ネオジム、イットリウム、プラセオジム、サマリウム、アルミニウム、ガリウム及びインジウムからなる群より選ばれる1種以上の元素、Zはカリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる1種以上の元素を示し、
aは、モリブデン12原子に対するビスマスの原子比を示し、0.1≦a≦2.0であり、好ましくは0.15≦a≦1.0であり、より好ましくは0.2≦a≦0.7であり、
bは、モリブデン12原子に対する鉄の原子比を示し、0.1≦b≦3.0であり、好ましくは0.5≦b≦2.5であり、より好ましくは1.0≦b≦2.0であり、
cは、モリブデン12原子に対するXの原子比を示し、0.1≦c≦10.0であり、好ましくは3.0≦c≦9.0であり、より好ましくは5.0≦c≦8.5であり、
dは、モリブデン12原子に対するYの原子比を示し、0.1≦d≦3.0であり、好ましくは0.2≦d≦2.0であり、より好ましくは0.3≦d≦1.5であり、
eは、モリブデン12原子に対するZの原子比を示し、0.01≦e≦2.0であり、好ましくは0.05≦e≦1.0であり、
fは、モリブデン12原子に対する酸素の原子比を示し、存在する他の元素の原子価要求を満足させるのに必要な酸素の原子数である。
【0020】
なお、金属酸化物のバルク組成(各元素比)は、触媒の合成時の原料の仕込み比や、周知の元素定量分析方法、たとえばICP発光分光分析法、原子吸光分析法、ICP質量分析法、蛍光X線分析法等で求めることができる。
ICP発光分光分析法は実施例において採用した方法であり、その具体的手順については実施例で説明する。また、蛍光X線分析による定量分析の場合は、例えば、蛍光X線装置(例えば、リガク製ZSX100e(管球:Rh−4KW、分光結晶:LiF、PET、Ge、RX25))を用いて、各元素のマトリックス効果を補正する検量線に基づき、触媒サンプルの定量分析を行うことができる。なお、後述する本実施形態の製造方法によって触媒を製造する場合には、このような分析によって得られた値は、設計上の仕込み組成とほぼ一致する。また、これらの元素定量分析によれば、使用前の触媒のほか、使用中の触媒に対しても、そのバルク組成を求めることができる。
【0021】
工業的にアクリロニトリルを製造する場合、一般的に反応ガスによって触媒を流動させる流動床反応が選択される。そのため、本実施形態の触媒をアンモ酸化用触媒として使用する場合には一定以上の強度を有していることが好ましい。このような観点から、本実施形態の触媒においては、金属酸化物が担体に担持されていてもよい。担体としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の酸化物が挙げられる。このなかでも、アクリロニトリルの選択性低下が小さく、触媒の耐摩耗性、粒子強度を大きく向上させられるシリカが担体として適している。
【0022】
担体の含有量は、触媒の質量100質量%に対して、好ましくは30〜70質量%であり、より好ましくは35〜65質量%である。担体の含有量が30質量%以上であることにより、アンモ酸化反応触媒の耐摩耗性、粒子強度がより向上する傾向にある。また、担体の含有量が70質量%以下であることにより、アクリロニトリル選択性がより向上する傾向にある。
【0023】
本実施形態において、触媒粒子の形状に限定はないが、球形であることが好ましい。また、触媒粒子の平均粒子径は、40〜70μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは45〜65μmの範囲内にある。粒径分布としては、粒子直径5〜200μmの触媒粒子の量が触媒の全質量に対して90〜100質量%であることが好ましい。また、粒子直径が45μm以下の粒子の量が、粒子の全体積に対して10〜50体積%であることが好ましく、15〜35体積%の範囲にあることがより好ましい。
【0024】
また、本実施形態の触媒は、流動床触媒として使用できるよう、耐摩耗強度に優れていることが好ましい。特に、流動床反応では、反応器内での触媒粒子同士の接触、反応器壁面との衝突、ガスとの接触等々の衝撃により、触媒粒子が摩耗したり、破砕したりしない耐摩耗強度を備えていることが好ましく、かかる観点から、本実施形態の触媒は、流動床触媒の摩耗試験(“Test Method for Synthetic Fluid Cracking Catalyst”(American Cyanamid Co.Ltd.6/31−4m−1/57)に記載の方法による試験)における摩耗損失が2.5%以下であることが好ましい。
【0025】
さらに、本実施形態の触媒粒子の見掛比重は、0.85〜1.15g/ccの範囲にあることが好ましい。触媒粒子の見掛比重が0.85g/cc以上である場合、反応器に投入する際の触媒粒子のかさ高さの影響を低減でき、必要となる反応器の容積を低減できる傾向にある他、反応器から外部に飛散する触媒量が増えて触媒ロスが発生することを効果的に防止できる傾向にある。また、触媒粒子の見掛比重が1.15g/cc以下である場合、触媒粒子の良好な流動状態を確保でき、反応性能の低下を効果的に防止できる傾向にある。
なお、触媒粒子の見掛比重は、試料(触媒粒子)を一定容積の容器の中に一定状態で入れ、容器内に入った試料の質量を測定し、単位体積あたりの質量を算出することで求めることができる。
例えば、ガラスロートの真下に25mlガラスメスシリンダー(以下、単に「メスシリンダー」という。)を配置し、予めよく振った測定試料(触媒粒子)をガラスロートに落下させ、メスシリンダーがオーバーフローするまで試料を投入する。メスシリンダーの口より上部に堆積した試料の凸部を摺り切りで除き、またメスシリンダーの外壁に付着した試料を刷毛等で払う。試料入りのメスシリンダーの質量と、事前に測定しておいたメスシリンダーの質量から試料の質量を求め、それをメスシリンダーの容積で割ることにより見掛比重を算出する。
【0026】
本実施形態において、式(1)で表されるバルク組成を有する金属酸化物を含む触媒の、触媒粒子表面におけるMoモル濃度に対するBiモル濃度の比率((Bi/Mo)
surf)を、金属酸化物バルクのMoモル濃度に対するBiモル濃度の比率((Bi/Mo)
bulk)で除した値の標準偏差は0.2以下である。
ここで、粒子表面におけるMoモル濃度及びBiモル濃度は、SEM−EDX(Scannning Electron Microscopes−Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)組成分析により求めることができ、金属酸化物バルクのMoモル濃度及びBiモル濃度は、前述したように、例えば、ICP発光分光分析法で求めることができる。
また、上記標準偏差は、以下の式(4)により求めることができる。
標準偏差={((S
1−μ)
2+(S
2−μ)
2+・・・+(S
100−μ)
2)/100[個数]}
1/2 (4)
式(4)中、Sk(k=1~100)は、任意に選ばれた100個粒子中のk個目の粒子の表面におけるMoモル濃度に対するBiモル濃度測定値の比率(Bi/Mo)
surfを金属酸化物バルクのMoモル濃度に対するBiモル濃度の比率(Bi/Mo)
bulkで除した値であり、μは、100個のSk(k=100)の平均値(=(S
1+S
2・・・+S
100)/100)である。
標準偏差はばらつきの指標である。標準偏差が小さい程、平均値からのばらつきが小さい。したがって、式(4)の値が小さい程、粒子の表面組成がより均一であることを意味する。
本発明者らの研究によれば、プロピレンのアンモ酸化反応によりアクリロニトリルを製造するにあたり、式(4)の値が小さい触媒を用いるとアクリロニトリル収率が高まることが判明した。式(4)の値は、本実施形態においては0.2以下であり、0.15以下であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましく、0.07以下であることがさらに好ましい。
【0027】
[金属酸化物触媒の製造方法]
上述の表面組成が均一で、式(1)で表されるバルク組成を有する金属酸化物を含む触媒は、例えば、本実施形態の製造方法(以下、「第一の製造方法」ということもある。)により製造することができる。
第一の製造方法は、(i)少なくともMoを含むMo含有液と、少なくともBiを含むBi含有液とを用意する工程と、(ii)該Mo含有液と該Bi含有液とを混合してMoBi含有液を得る工程とを含み、さらに、(iii)MoBi含有液を乾燥させる工程を含む。該(iii)工程の後に、さらに、焼成工程を含んでもよい。
【0028】
さらに、第一の製造方法においては、Mo含有液とBi含有液を混合してMoBi含有液(スラリー)を生成させた後、該MoBi含有液を乾燥させる工程の前(すなわち、(ii)工程と(iii)工程の間)に、MoBi含有液をさらに混合する工程((iv)工程)を設けることができる。
また、(ii)工程と(iii)工程の間に、MoBi含有液を一定量貯留する工程((v)工程)を設けることができる。
(ii)工程で調製したMoBi含有液は、そのまま連続的に(iii)工程に供給してもよいし、(iv)工程を経た後に(iii)工程に供給してもよいし、その一部又は全量を一旦貯留((v)工程)してから(iii)工程に供給してもよい。
(v)工程を設け、MoBi含有液を一旦貯留する場合は、(ii)工程で調製したMoBi液の全量、又は(ii)工程の後に(iv)工程を行って調製したMoBi含有液の全量を貯留することが好ましい(バッチ処理方式)。バッチ処理方式の場合、(ii)工程においてMo含有液とBi含有液との供給比率にずれが生じた場合でも、(v)工程において原料の全量が混合されることになり、すなわち意図する組成に均一化されたMoBi含有液を(iii)工程に送ることができる。
本実施形態において、連続供給方式とバッチ処理方式のいずれを選択するかは特に問わないが、短時間に触媒を製造したい場合は連続処理方式、供給比率のずれの許容幅を広げる場合はバッチ処理方式を選択することが好ましい。
【0029】
以下に第一の製造方法について詳細を説明する。
(i)工程及び(ii)工程は、金属酸化物原料を含むスラリーを調製する工程である。
具体的には、(i)少なくともMoを含有するMo含有液(金属酸化物の成分となるMoの原料を含む液であり、以下「A液」とも言う。)と、少なくともBiを含有するBi含有液(金属酸化物の成分となるBiの原料を含む液であり、「B液」とも言う。)を用意する工程と、(ii)両者を混合する工程を含む(以下、Mo含有液とBi含有液のことを「2液」ということもある)。前記2液を混合することにより、スラリーであるMoBi含有液が形成される。
このMoBi含有液は、MoBi含有金属酸化物の前駆体であり、この前駆体の生成条件が、製造する触媒粒子の表面組成の均一性に大きく影響することが本発明者らの研究により分かった。
本実施形態においては、(ii)工程において、Mo含有液及びBi含有液を、各々、第一及び第二の流路に連続的に供給し、第一の流路と第二の流路とをMo含有液及びBi含有液それぞれの供給個所よりも下流で合流させてMoBi含有液を調製することによって、表面組成の均一性の高い触媒粒子を製造することを実現した。
【0030】
なお、この方法により最終的に製造される触媒に含まれる金属酸化物おける各元素の原子比率(バルク組成)は、酸素原子を除いて、製造時に用いた原料の原子比率と基本的に変化はない。
【0031】
ここで、本実施形態の触媒を構成する元素の原料について説明する。
Moの原料としては、水、硝酸などに可溶な塩が好ましく、例えば、アンモニウム塩であるモリブデン酸アンモニウムが挙げられる。
ニッケル、コバルト、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、バリウム、セリウム、クロム、ランタン、ネオジム、イットリウム、プラセオジム、サマリウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの原料としても、上記と同様に、水、硝酸などに可溶な塩が好ましく、例えば、硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。特に、水、硝酸などに溶け易い観点から、硝酸塩が好ましい。例えば、硝酸ビスマス、硝酸鉄、硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸カリウム、硝酸ルビジウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、硝酸亜鉛、硝酸ランタン、硝酸セリウム、硝酸クロム、硝酸インジウム、硝酸ガリウム等が挙げられる。これらは一種を単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0032】
また、担体としては、特に限定されないが、例えば、シリカ(SiO
2)、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の酸化物が好ましい。このなかでも、アクリロニトリルを製造する反応の際に、アクリロニトリルの選択性低下が小さく、副生物を増加させる酸点が少ないということ、また、触媒の耐摩耗性、粒子強度を大きく向上させられることから、SiO
2が特に好ましい。SiO
2の原料としては特に限定されないが、シリカゾル(コロイダルシリカとも呼ばれる。)、粉末状シリカ等が挙げられる。取り扱いの容易さからシリカゾルが特に好ましい。例えば、スノーテックス(日産化学工業製)、Nalcoシリカゾル(ナルコジャパン製)等である。
シリカゾルに含まれるシリカの平均一次粒子径は特に限定されないが、5〜100nmの範囲であることが好ましく、10〜50nmの範囲であることがより好ましい。また、異なる平均一次粒子径を有するシリカゾルを混ぜて用いることもできる。
【0033】
上記触媒原料の金属の前記Mo含有液やBi含有液、両者を混合して得られるMoBi含有液中における分散性を高める観点からも、前記Mo含有液やBi含有液、MoBi含有液には、上述した原料金属に加え、金属元素とキレートを形成し得る有機酸を添加することも好ましい。該有機酸としては、特に限定されないが、例えば、シュウ酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸等が好ましく、該有機酸はMo含有液及びBi含有液のいずれかに添加してもよく、両方に添加してもよい。また、該有機酸をSi、Al、Ti、Zrの原料、例えばシリカゾルに添加することも好ましい形態の一つである。該有機酸はその粉末並びに固体として、または水溶液として添加することができる。
また、原料金属の各金属塩の溶解性を増す目的で、硝酸、塩酸、硫酸等の無機酸を添加することも好ましい。後述する焼成工程時に揮発し触媒への残留が少ないことから、硝酸が特に好ましい。
さらに、Mo含有液にはMoの溶解性を増すためにアンモニア水を添加することも好ましい。
【0034】
第一の製造方法においては、まず、Mo含有液と、Bi含有液とを用意する((i)工程)。
Mo含有液は、上記Moの原料を水等の水性媒体に溶解又は分散させて調製することが好ましい。この液にアンモニア水を加え、Mo原料の溶解度を増すことも好ましい。Mo含有液におけるMo原子濃度は0.1〜30質量%の範囲内であることが好ましい。
Mo含有液とは別にBi含有液を調製する。Bi含有液は、上記Biの原料を水等の水性媒体に溶解又は分散させて調製することが好ましい。Bi含有液は酸性であることが好ましく、Bi含有液が硝酸を含むと、Biの原料の溶解度を増すためより好ましい。Bi含有液におけるBi原子濃度は0.1〜10質量%の範囲内であることが好ましい。
【0035】
Mo原料とBi原料以外の原料、すなわちFe、Ni、Co、アルカリ金属、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Mn、希土類、Cr、In、Ga、Si、Al、Ti、Zr等の原料は、沈殿物を生じない範囲で上記Mo含有液及びBi含有液のどちらに加えてもよいし、両方に加えてもよい。また、上記2液の混合後のMoBi含有液に加えてもよい。沈殿物が生じ難いという理由から、Mo以外の金属の原料は、Bi含有液の方に加えることが好ましく、特に、Si、Al、Ti、Zr以外の金属の原料は、Bi含有液の方に加えることが好ましい。
【0036】
次に、調製したMo含有液とBi含有液とを混合する((ii)工程)。この際、Mo含有液及びBi含有液を、各々、第一及び第二の流路に連続的に供給し、第一の流路と第二の流路とをMo含有液及びBi含有液それぞれの供給個所よりも下流で合流させることによって、Mo含有液とBi含有液とを混合する。
【0037】
Mo含有液及びBi含有液の各流路への供給は、MoとBiの供給モル比率が、製造する金属酸化物のバルク組成の式(1)におけるMoとBiの原子数比率、すなわちa/12、と概ね一致するように行うことが好ましく、例えば、供給モル比率が(a/12)×0.8〜(a/12)×1.2の範囲であることが好ましい。
すなわち、(ii)工程において、Mo含有液及びBi含有液の第一の流路又は第二の流路へのモル供給速度(ただし、各々、Moのモル供給速度、Biのモル供給速度)を、各々、mα(mol/min)及びmβ(mol/min)としたときに、Mo含有液及びBi含有液が、以下の式(3)を満たすように供給されることが好ましい。
(mβ/mα)/(a/12)=0.8〜1.2 (3)
【0038】
なお、(i)工程、(ii)工程をバッチ毎に行い、(ii)工程で得られたMoBi含有液の一バッチ分の全量を(v)工程で貯留した後又は(iv)工程を経た後に(v)工程で貯留した後、(iii)工程へ送るバッチ処理方式を採用する場合には、Mo含有液の第一の流路への質量供給速度mA(g/min)に対するBi含有液の質量供給速度mB(g/min)の比率(以下、「供給比率」とも言う。)が、Mo含有液の一バッチあたりの全供給量MA(g)に対するBi含有液の一バッチあたりの全供給量MB(g)の比率(以下、「質量比率」とも言う。)の0.5倍〜1.5倍となるように供給することが好ましい。
すなわち、Mo含有液及びBi含有液が、以下の式(2)を満たすように供給されることが好ましい。
(mB/mA)/(MB/MA)=0.5〜1.5 (2)
供給比率が質量比率の0.5倍〜1.5倍の範囲であると、触媒の粒子表面の組成の均一性をより高めることができる。(mB/mA)/(MB/MA)は、0.8〜1.2がより好ましく、1.0が特に好ましい。
【0039】
上記供給比率(mB/mA)及び質量比率(MB/MA)について、以下に、具体例を挙げて説明する。
製造する金属酸化物のバルク組成を、式(1)においてa=1であるもの(Mo12原子に対してBi1原子)とし、(i)工程で準備する一バッチ分のMo含有液は、Moの原料を必要量含みその全量(MA)が100質量部であり、(i)工程で準備する一バッチ分のBi含有液はBiの原料を必要量(Mo含有液中のMoのモル数の1/12)含み、その全量(MB)が50質量部とする。
この2液を、単位時間当たりの質量供給量(質量供給速度)(g/min)の比率で表して、Mo含有液:Bi含有液=100:50で供給すると、質量比率、供給比率は、各々、次の通りである。
質量比率(MB/MA)
=50/100=0.5
供給比率(mB/mA)
=50/100=0.5
したがって、その場合が、供給比率が質量比率の1.0倍であることに相当する。
同様に、Mo含有液:Bi含有液=100:25(質量供給速度比)で供給する場合が、供給比率が質量比率(0.5)の0.5倍であることに相当する。Mo含有液:Bi含有液=100:75(質量供給速度比)で供給する場合が(供給比率=75/100=0.75)、供給比率が質量比率(0.5)の1.5倍であることに相当する。
特に好ましい実施形態である、供給比率が質量比率の1.0倍である場合、(ii)工程においては、Mo含有液の一バッチ分全供給量に対するBi含有液の一バッチ分全供給量の比率と同じ比率で2液を供給し、合流させることになり、それは、すなわち、MoとBiの供給モル比率が、製造する金属酸化物のバルク組成式(1)におけるMoとBiのモル比率、すなわちa/12、と一致することになる。
【0040】
従来の金属酸化物触媒の製造方法におけるスラリーの調製においては、Mo含有液とBi含有液との混合は、どちらか一方の液に他方の液を添加することにより行われている。しかしながらこの方法では、混合開始直後には、加える側の成分の濃度が小さく、混合が進むに従って徐々に高くなる。この様に、2液を全て加え終わった時点では意図する原子比率が達成されるものの、添加する途中の段階では加えられる側の成分濃度と、加える側の成分濃度とに著しいアンバランスが生じやすい。本発明者らの研究によれば、このスラリー調製時における混合液中のBiとMo濃度のアンバランスが、後にこのようにして調製されたスラリーから製造される触媒の表面組成の均一性を低下させている原因の一つであることが分かった。
それに対して、第一の方法では、2液が合流部に同時に供給されるため、前述のような混合液中の成分濃度のアンバランスが小さい。
特に、Mo含有液とBi含有液とを特定の比率の範囲内で供給する場合には、両者を混合する工程のどの段階においても、混合液中のMoとBiの原子比率が製造する触媒組成の原子比率に近い状態でスラリーを形成することになる。このような状態でスラリーを調製することによって、最終的に製造された触媒粒子の表面におけるMoとBiの組成比をより均一にすることができる。
【0041】
第一の製造方法において、(i)工程、(ii)工程をバッチ毎に行い、(ii)工程で得られたMoBi含有液の一バッチ分の全量を(v)工程で貯留した後又は(iv)工程を経た後に(v)工程で貯留した後、前記(iii)工程へ送るバッチ処理方式を採用する場合においては、上述の様に供給比率(mB/mA)は質量比率(MB/MA)の0.5倍〜1.5倍が好ましい。ただし、必ずしも2液の全量を0.5倍〜1.5倍の範囲で接触させる必要はなく、Mo含有液とBi含有液の一部の供給は上記の範囲以外であってもよい。
具体的には、Mo含有液とBi含有液の一バッチあたりの全供給量の合計量の60質量%以上を、供給比率が質量比率の0.5倍〜1.5倍となるように供給することが好ましく、80質量%以上を0.5倍〜1.5倍となるように供給することがさらに好ましく、100質量%を(すなわち、(ii)工程の全工程に亘って)0.5倍〜1.5倍となるように供給することが特に好ましい。
このことを、上述の、Mo12原子分の原料を含むMo含有液100質量部と、Bi1原子分の原料を含むBi含有液50質量部の例で説明する。この場合、Mo含有液とBi含有液の全供給量の合計量は150質量部であり、その60質量%以上とは90質量部以上に相当する。
すなわち、供給比率が質量比率の0.5倍〜1.5倍となるように、2液の全供給量の合計量の60質量%以上を供給するとは、単位時間当たりの供給量(質量供給速度)の比率で表して、Mo含有液:Bi含有液=100:25〜100:75の範囲内で2液の合計の90質量部以上を接触させることに相当する。
【0042】
(ii)工程において、2液を合流させる際の合流温度は、5℃〜98℃が好ましい。35℃〜98℃がより好ましく、35℃〜80℃がさらに好ましく、35℃〜60℃が特に好ましい。35℃〜60℃で行うと、表面組成のより均一な触媒粒子を製造することができる。ここで、合流温度とは2液が合流している部分の液温をいい、温度計により測定することができる。
【0043】
(ii)工程において2液を混合してMoBi含有液(スラリー)を生成させた後、該MoBi含有液を乾燥させる前に、MoBi含有液をさらに混合する工程((iv)工程)を設ける場合、生成したMoBi含有液を更に混合する方法に限定はなく、例えば、静止型混合器を通過させたり、攪拌機を用いて撹拌したりすることが挙げられる。
撹拌温度は、2液を合流させる際の合流温度と同程度とすることが好ましく、具体的には35℃〜80℃が好ましい。
【0044】
本実施形態において、触媒の製造において用いる装置の構成に限定はないが、例えば、Mo含有液を送液するための第一の流路、Bi含有液を送液するための第二の流路、及び、第一の流路と第二の流路が合流する合流部を有するものであることが好ましい。
第一及び第二の流路へのMo含有液及びBi含有液の供給手段に限定はなく、例えば、定量供給装置を使用することが好ましい。定量供給装置を使用することにより、より正確な比率で2液を供給することができる。該定量供給装置としては、特に限定されないが定量送液ポンプが好ましい。
2液が合流する合流部としては、2液の合流ができれば特に限定されないが、例えばY字状またはT字状等形状の、管でもよい。該管の断面形状は例えば円形(円筒)であってもよく、また内部にMoBi含有液の混合を促す機構や内挿物を設けることも好ましい。2液を合流させる角度は並流であっても、垂直であっても、対向であってもよい。
【0045】
合流部の下流に生成したMoBi含有液を更に混合するための混合器を設けることも好ましい。混合器の一例としては、攪拌機を有する攪拌槽が挙げられる。そのような装置構成の一例を
図1に示す。なお、上述の各装置等は所望する温度にできるような温水ジャケット等の保温、加温構造を有することも好ましい。
また混合器の別の例としては、
図2に示すような静止型混合器(配管とその中に固定されたねじられた板とを主要部材とし、配管内に供給された流体は、ねじれ面に沿って流れ進んで行くことで混合される)が挙げられる。静止型混合器の一例としては、スタティックミキサー(ノリタケカンパニーリミテド製)等がある。
図1に示すように、静止型混合器と攪拌槽を組み合わせてもよい。
【0046】
以上のようにして生成したMoBi含有液を乾燥させることにより((iii)工程)、式(1)で表されるバルク組成を有する金属酸化物を含む触媒を形成することができる。
MoBi含有液は乾燥前においてpHが3以下であることが好ましい。より好ましくは2以下であり、さらに好ましくは1以下である。pHの調節は、例えば、原料に加える酸性溶液の添加量によって調節できる。pHが3以下であればMoBi含有液の粘度の増加を抑制でき、次工程の(iii)乾燥工程へのMoBi含有液の供給が安定的に行える。
【0047】
第一の製造方法によれば、触媒前駆体を形成するスラリー調製工程が全て液状で行えるため、触媒前駆体の形成に乾燥、焼成、粉砕操作等を必要とする方法に比べて極めて簡便と言える。
【0048】
(iii)工程において、乾燥方法に限定はないが、上記のMoBi含有液を噴霧乾燥して乾燥粒子を得ることが好ましい。噴霧乾燥には、例えば工業的に行う場合などには、スプレードライヤーを用いることが好ましい。
噴霧乾燥工程においては、まず、MoBi含有液を噴霧化する。この噴霧化の方法としては、特に限定されないが、例えば、遠心方式、二流体ノズル方式、及び高圧ノズル方式等が挙げられる。特にノズルの閉塞等を伴わない観点から遠心方式が好ましい。
噴霧化されたMoBi含有液の液滴の乾燥方法に限定はないが、例えば、スプレードライヤー内の熱風によって乾燥されることが好ましい。その際、熱風入口温度は180℃〜250℃、熱風出口温度は100℃〜150℃とすることが好ましい。
なお、噴霧化の際には、噴霧粒子径が目的とする触媒の粒径に応じた所望の範囲となるよう、噴霧装置を調整することが好ましい。例えば、触媒を流動床反応に用いる場合には、触媒の平均粒子径は25〜180μm程度が好ましいため、この範囲の平均粒子径になるように噴霧化装置(アトマイザー)の回転数を適宜選択する。一般にアトマイザー回転数が高いほど、平均粒子径は小さくなる。
【0049】
本実施形態においては、上記の乾燥工程で得られた乾燥物(乾燥粒子)を焼成することで触媒を得る焼成工程を含むことが好ましい。焼成方法としては、特に限定されないが、例えば、静置焼成、流動焼成、回転炉焼成等が挙げられる。均一に焼成できる観点からロータリーキルンを用いた回転炉焼成が好ましい。
乾燥粒子が硝酸を含有する場合は、焼成の前に脱硝処理を行うことが好ましい。脱硝処理は150〜450℃で1.5〜3時間行うことが好ましい。焼成は空気雰囲気下で行うことができる。
焼成温度は、好ましくは550〜650℃である。焼成温度が550℃以上であることにより、結晶成長が十分に進行し、得られる触媒のアクリロニトリルの選択性がより向上する傾向にある。また、焼成温度が650℃以下であることにより、得られる触媒の表面積が増大し、プロピレンの反応活性がより向上する傾向にある。焼成時間は1hr〜24hrが好ましく、2hr〜20hrがより好ましい。所望する触媒物性、反応性能が得られるように、焼成温度、焼成時間等の条件を適宜選択する。
【0050】
本実施形態においては、上述のMoBi含有液調製工程((i)及び(ii)工程)、必要に応じて混合工程((iv)工程)及び貯留工程((v)工程)、並びに、乾燥工程((iii)工程)、さらに必要に応じて焼成工程を、一連の処理として行うことにより、触媒物性、触媒性能の安定した触媒を速やかに連続的に製造することができる。
【0051】
本実施形態において、(ii)工程と(iii)工程の間に、(iv)工程及び(v)工程の両方を行う場合、(iv)工程の後に(v)工程を行うか、(iv)工程と(v)工程を同時に行う(すなわち、撹拌下でMoBi含有液を貯留する)ことが好ましい。
また、(i)、(ii)及び(v)工程又は(i)、(ii)、(iv)及び(v)工程の一連の処理がバッチ処理方式で行われる場合には、(v)工程における貯留量は、(ii)工程で得られたMoBi含有液の全量とすることが好ましい。(ii)工程で調製されるMoBi含有液の全量をいったん貯留してから乾燥工程((iii)工程)に供給することにより、(ii)工程においてMo含有液及びBo含有液の供給量が変動する場合においても、(iii)工程に供給されるMoBi含有液中のMoとBiの原子数比を式(1)における両者の原子数比と等しくすることができ、得られる触媒粒子の組成をより目的に近いものとすることができる。
貯留容器に限定はなく、例えば、貯留容器として撹拌機能を有するものを用い、(v)工程と(iv)工程を同時に行うこともできる。
【0052】
なお、第一の製造方法は製造スケールに左右されないため好ましい方法であるが、本実施形態の触媒は、第一の製造方法以外の方法によって製造してもよい。
例えば、原料スラリー調製において、攪拌混合槽を使い、どちらか一方の液に他方の液を投入するMo含有液とBi含有液とのバッチ混合を採用する場合であっても、1バッチで50kg以上の金属酸化物を製造するようにすると共に、投入する液の投入に掛かる時間を8分以内、好ましくは4分以内とすることで、2液の均一混合を促進し、本実施形態の触媒を得ることができる(第二の製造方法)。
これは、投入するMo/Bi含有液の量を大きくすることで、投入液の質量を増し、投入される側の液との衝突エネルギーが大きくなることと短時間に処理することの相乗効果によりスラリーの均一混合が達成されるためと考えられる。
【0053】
[アクリロニトリルの製造方法]
本実施形態に係るアクリロニトリルの製造方法は、本実施形態の触媒を用いるものである。すなわち、プロピレンと、分子状酸素と、アンモニアとを、本実施形態の触媒の存在下で流動床アンモ酸化反応させ、アクリロニトリルを製造することができる。
本実施形態に係るアクリロニトリルの製造方法は、例えば、通常用いられる流動層反応器内で行われてもよい。原料のプロピレン及びアンモニアは、必ずしも高純度である必要はなく、工業グレードのものを使用することができる。また、分子状酸素源としては、通常空気を用いるのが好ましいが、酸素を空気と混合する等して酸素濃度を高めたガスを用いることもできる。
【0054】
本実施形態に係るアクリロニトリルの製造方法における分子状酸素源が空気である場合、原料ガスの組成(プロピレンに対するアンモニア及び空気のモル比)は、プロピレン/アンモニア/空気の比で、好ましくは1/(0.8〜1.4)/(7〜12)の範囲であり、より好ましくは1/(0.9〜1.3)/(8〜11)の範囲である。
【0055】
本実施形態に係るアクリロニトリルの製造方法における反応温度は、好ましくは350〜550℃の範囲であり、より好ましくは400〜500℃の範囲である。反応圧力は、好ましくは常圧〜0.3MPaの範囲である。原料ガスと触媒との接触時間は、好ましくは0.5〜20(sec・g/cc)、より好ましくは1〜10(sec・g/cc)である。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。また、各種物性の評価方法は下記に示すとおりである。
【0057】
[プロピレンのアンモ酸化反応によるアクリロニトリルの製造条件及び収率]
実施例及び比較例で得られた触媒を用いて、プロピレンのアンモ酸化反応によりアクリロニトリルを製造した。その際に使用する反応管としては、10メッシュの金網を1cm間隔で16枚内蔵した内径25mmのパイレックス(登録商標)ガラス管を使用した。
触媒量50cc、反応温度430℃、反応圧力0.17MPaに設定し、プロピレン/アンモニア/空気の混合ガスを全ガス流量として250〜450cc/sec(NTP換算)で供給して反応を実施した。その際、混合ガス中のプロピレンの含有量は9容積%、プロピレン/アンモニア/空気のモル比は1/(0.7〜1.4)/(8.0〜13.5)として、その範囲内で、下記式で定義される硫酸原単位が20±2kg/T−ANとなるようにアンモニア流量を、また、反応器出口ガスの酸素濃度が0.2±0.02容積%になるように空気流量を、適宜変更した。また混合ガス全体の流速を変更することで、下記式で定義される接触時間を変更し、下記式で定義されるプロピレン転化率が99.3±0.2%となるように設定した。
反応によって生成するアクリロニトリル収率は下記式のように定義される値とした。
【0058】
【数1】
【0059】
[触媒粒子表面の組成の均一性の評価]
実施例及び比較例における触媒の粒子表面の組成の均一性の評価は次のようにして行い、粒子表面組成の標準偏差として表した。
SEM−EDX(Scanning Electron Microscopes−Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:エネルギー分散型X線分光法)組成分析装置(SEM…日立製作所製、型式:SU−70、EDX…堀場製作所製、型式:EMAX・X−max)の試料台に、金属酸化物粒子(焼成粒子)を少量採取し、無作為に選択した粒子画像における真円相当径(面積が等しい真円の直径)が、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−300)で決定された平均粒子径±10μmである粒子100個について、それぞれの粒子表面の10μm×10μmの面範囲のMoモル濃度とBiモル濃度とを測定し(倍率1500倍、加速電圧20kV)、粒子表面のMo濃度に対するBi濃度の比率(Bi/Mo)を求めた。
次に、同じ触媒粉末から20mgを量り取り、これを210℃の熱王水で溶解し、さらに超純水で測定範囲に薄め、ICP発光分光分析(セイコーインスツル株式会社製、SPS3500DD)で、各構成元素の濃度を測定し、触媒に含まれる金属酸化物のバルク組成を算出すると共に、金属酸化物のMo濃度に対するBi濃度の比率(Bi/Mo)
bulkを求めた。なお、後述の触媒1〜9おいては、金属酸化物のバルク組成は、いずれも、原料仕込質量から計算される理論値と一致していた(Mo
12基準で表記したモル組成において、上位2桁まで仕込質量から計算されるモル組成と同一であった)。
この(Bi/Mo)
bulkで前述の100個それぞれの粒子の(Bi/Mo)
surfを除した値をSk(k=1〜100)とし、100個のSkの平均値μを算出し、式(4)から標準偏差を求めた。
標準偏差={((S
1−μ)
2+(S
2−μ)
2+・・・+(S
100−μ)
2)/100[個数]}
1/2 (4)
以下の実施例、比較例では、触媒粒子の表面組成が均一である(すなわち、標準偏差が小さい)ほど、プロピレンのアンモ酸化反応によりアクリロニトリルを製造する反応においてより優れたアクリロニトリル収率(触媒性能)を示すことが確認された。
【0060】
[実施例1]
[触媒1の製造]
その組成がMo
12Bi
0.25Fe
1.4Ni
3.0Co
5.8Ce
0.40Rb
0.12O
fとなるよう原料仕込質量を調整して製造した金属酸化物60質量%を40質量%のシリカに担持した触媒を、以下の手順で製造した。
一次粒子の平均粒子直径が12nmのSiO
2を30質量%含む水性シリカゾル666.7gと、一次粒子の平均粒子直径が41nmのSiO
2を40質量%含む水性シリカゾル500gとを混合して、2種シリカの混合液を得た。
次に8質量%しゅう酸水溶液320gを撹拌中の上記シリカゾルの混合液に加え、第1の混合液を得た。次に、水870gに486.2gのパラモリブデン酸アンモニウム〔(NH
4)
6Mo
7O
24・4H
2O〕を溶解させた液を上記シリカゾルの混合液に加えた(Mo含有液。以降、「A1液」と称す)。その全量は2843gであった。
次いで、16.6質量%濃度の硝酸液400gに、28.09gの硝酸ビスマス〔Bi(NO
3)
3・5H
2O〕、131.1gの硝酸鉄〔Fe(NO
3)
3・9H
2O〕、202.9gの硝酸ニッケル〔Ni(NO
3)
2・6H
2O〕、392.6gの硝酸コバルト〔Co(NO
3)
2・6H
2O〕、39.62gの硝酸セリウム〔Ce(NO
3)
3・6H
2O〕、4.038gの硝酸ルビジウム〔RbNO
3〕を溶解させた(Bi含有液。以降、「B1液」と称す)。その全量は1198gであった。
【0061】
A1液の入った容器を、A1液定量送液ポンプを介して、空のY字型ステンレス製円筒管(内径15mm、長さ30mm)(合流部)の一方の入口1に配管(第一の流路)によってつないだ。また、B1液の入った容器を、B1液定量送液ポンプを介して、上記Y字管の他方の入口2に配管(第二の流路)によってつないだ。そのY字管の出口を、スクリュー型内装物を有する静止型混合器(スタティックミキサー)につなぎ、更にその静止型混合器の出口を、攪拌機を有するスラリー攪拌槽に配管によってつないだ。その装置の概略図を
図1に示す。
上記Y字管に、40℃に保持したA1液をA1液定量ポンプを用いて284(g/min)の流量、40℃に保持したB1液をB1液定量ポンプを用いて119(g/min)の流量で同時に供給し、Y字管と静止型混合器内において2液を並行方向(並流)に接触させた。この操作を10分間行い、スラリーであるMoBi含有液を調製した。この間のA1液[Mo含有液]に対するB1液[Bi含有液]の供給比率は119(g/min)/284(g/min)=0.42であり、Mo含有液全量に対するBi含有液全量の質量比率1198(g)/2843(g)=0.42の1.0倍であった。この供給比率でA1液とB1液の全部(100質量%)を合流させた。その間の合流温度は40℃であった。
このMoBi含有液を、静止型混合器の下流に設けたスラリー攪拌槽に全量貯留し、2液の供給終了から更に40℃で1時間攪拌を続けた。このMoBi含有液は噴霧乾燥前においてpHが1以下であり、スラリー状であった。
次いで、スプレードライヤー(大川原化工機製、型式:OC−16)を用いてこのMoBi含有液を噴霧乾燥し、乾燥粉末を得た。なお、熱風入口温度は230℃、熱風出口温度120℃とした。
次いで、乾燥した触媒前駆体に電気炉を用いて、空気雰囲気下、320℃で2時間の前焼成を施した後、空気雰囲気下、600℃で2時間の本焼成を施して、触媒を得た(触媒1)。
【0062】
得られた触媒1の形状は中実球であり、平均粒子径は54μmであった。平均粒子径は堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−300を用いて測定した。なお、以降の実施例及び比較例における触媒の平均粒子径は52μm〜55μmであった。
この触媒1の粒子100個の粒子表面のMo濃度とBi濃度をSEM−EDXで測定し、Moモル濃度に対するBiモル濃度の比率(Bi/Mo)
surfを求めた。また、上記で求めた金属酸化物のバルク組成より、(Bi/Mo)
bulkを求め、(Bi/Mo)
bulkで100個の粒子それぞれの(Bi/Mo)
surfを除した値S
1・・・S
100を求めた。そして、それらの平均値(S
1・・・S
100の平均値)μを求め、式(4)を用いて標準偏差値を求めた。また、触媒1を用いてプロピレンのアンモ酸化反応によりアクリロニトリルを製造した。これらの結果を表2に示す。
【0063】
[実施例2]
[触媒2の製造]
その組成がMo
12Bi
0.39Fe
1.60Ni
7.0Mg
0.77Ce
0.63Rb
0.17O
fとなるよう原料仕込質量を調整して製造した金属酸化物60質量%を40質量%のシリカに担持した触媒を、以下の手順で製造した。
【0064】
まず、一次粒子の平均粒子直径が12nmのSiO
2を30質量%含むシリカゾル1333gに、水200gに溶解させたシュウ酸二水和物25.0gを加え、873.5gの水に溶解させた485.9gのパラモリブデン酸アンモニウム[(NH
4)
6Mo
7O
24・4H
2O]を撹拌下で加え、モリブデンとシリカを含む混合液を得た。以降、これをA2液と称す。A2液の全量は2917gであった。
次に、16.6質量%の硝酸396.7gに、43.1gの硝酸ビスマス[Bi(NO
3)
3・5H
2O]、148.0gの硝酸鉄[Fe(NO
3)
3・9H
2O]、464.7gの硝酸ニッケル[Ni(NO
3)
2・6H
2O]、45.5gの硝酸マグネシウム[Mg(NO
3)
2・6H
2O]、62.6gの硝酸セリウム[Ce(NO
3)
3・6H
2O]、5.89gの硝酸ルビジウム[RbNO
3]を溶解させた。以降、これをB2液と称す。B2液の全量は1166gであった。
【0065】
実施例1と同様の方法で、40℃に保持したA2液を291(g/min)の流量、40℃に保持したB2液を117(g/min)の流量で、実施例1と同様の方法で接触させた。この操作を10分間行い、スラリーであるMoBi含有液を調製した。この間のA2液[Mo含有液]に対するB2液[Bi含有液]の供給比率は117(g/min)/291(g/min)=0.40であり、Mo含有液全量に対するBi含有液全量の質量比率1166(g)/2917(g)=0.40の1.0倍であった。この供給比率でA2液とB2液の全部(100質量%)を合流させた。その間の合流温度は40℃であった。
このMoBi含有液を、静止型混合器の下流に設けたスラリー攪拌槽に全量貯留し、2液の供給終了から更に40℃で1時間攪拌を続けた。このMoBi含有液は噴霧乾燥前においてpHが1以下であり、スラリー状であった。
次いで、実施例1と同様にこのMoBi含有液を噴霧乾燥し、乾燥粉末を得た。なお、熱風入口温度は230℃、熱風出口温度110℃とした。
次いで、乾燥した触媒前駆体に電気炉を用いて、空気雰囲気下、200℃で5分間保持し、200℃から450℃まで2.5℃/分で昇温し、450℃で20分間保持することで前焼成を施した後、空気雰囲気化、580℃で2時間の本焼成を施して触媒を得た(触媒2)。
実施例1と同様にして得られた、触媒2の標準偏差値及びアンモ酸化反応の結果を表2に示す。
【0066】
[実施例3]
その組成がMo
12Bi
0.39Fe
1.60Co
4.30Ni
3.45Ce
0.68Rb
0.16O
fとなるよう原料仕込質量を調整して製造した金属酸化物58質量%を42質量%のシリカに担持した触媒を、以下の手順で製造した。
【0067】
まず、一次粒子の平均粒子直径が12nmのSiO
2を30質量%含むシリカゾル1400gに、水200gに溶解させたシュウ酸二水和物25.0gを加え、836.85gの水に溶解させた465.5gのパラモリブデン酸アンモニウム[(NH
4)
6Mo
7O
24・4H
2O]を撹拌下で加え、モリブデンとシリカを含む混合液を得た。以降、これをA3液と称す。A3液の全量は2927gであった。
次に、16.6質量%の硝酸394.5gに36.1gの硝酸ビスマス[Bi(NO
3)
3・5H
2O]、141.6gの硝酸鉄[Fe(NO
3)
3・9H
2O]、275.1gの硝酸コバルト[Co(NO
3)
2・6H
2O]、219.9gの硝酸ニッケル[Ni(NO
3)
2・6H
2O]、64.6gの硝酸セリウム[Ce(NO
3)
3・6H
2O]、5.33gの硝酸ルビジウム[RbNO
3]を溶解させた。以降、これをB3液と称す。B3液の全量は1137gであった。
【0068】
実施例1と同様の方法で、40℃に保持したA3液を292(g/min)の流量、40℃に保持したB3液を115(g/min)の流量で、実施例1と同様の方法で接触させた。この操作を10分間行い、スラリーであるMoBi含有液を調製した。この間のA3液[Mo含有液]に対するB3液[Bi含有液]の供給比率は115(g/min)/292(g/min)=0.39であり、Mo含有液全量に対するBi含有液全量の質量比率1137(g)/2927(g)=0.39の1.0倍であった。この供給比率でA3液とB3液の全部(100質量%)を合流させた。その間の合流温度は40℃であった。
このMoBi含有液を、静止型混合器の下流に設けたスラリー攪拌槽に全量貯留し、2液の供給終了から更に40℃で1時間攪拌を続けた。このMoBi含有液は噴霧乾燥前においてpHが1以下であり、スラリー状であった。
次いで、実施例1と同様にこのMoBi含有液を噴霧乾燥し、乾燥粉末を得た。なお、熱風入口温度は230℃、熱風出口温度110℃とした。
次いで、乾燥した触媒前駆体に電気炉を用いて、空気雰囲気下、200℃で5分間保持し、200℃から450℃まで2.5℃/分で昇温し、450℃で20分間保持することで前焼成を施した後、空気雰囲気化、585℃で2時間の本焼成を施して触媒を得た(触媒3)。
実施例1と同様にして得られた、触媒3の標準偏差値及びアンモ酸化反応の結果を表2に示す。
【0069】
[実施例4]
[触媒4の製造]
実施例1と同様にして、Mo含有液(A1液と同じもの。ただし、以降、「A4液」と称す。)とBi含有液(B1液と同じもの。ただし、以降、「B4液」と称す。)を調製した。A4液、B4液の供給全量は実施例1と同様とし、したがって、この場合の質量比率は、実施例1と同様に0.42であった。
A4液に対するB4液の供給比率を、上記の質量比率0.42の0.8倍から1.2倍の間で変動させた以外は、実施例1と同様にして触媒を得た(触媒4)。この範囲の供給比率でA4液とB4液の全部(100質量%)を合流させた。
具体的には次のように行った。上記Y字管にA4液を第一の流路を通じて302(g/min)の流量、B4液を第二の流路を通じて102(g/min)の流量で3分間同時に供給した。この供給比率は、102(g/min)/302(g/min)=0.34であり、上記の質量比率0.42の0.8倍であった。
次に、A4液、B4液の供給流量を変更し、A4液を284(g/min)の流量、B4液を120(g/min)の流量で4分間同時に供給した。このときの供給比率は、120(g/min)/284(g/min)=0.42であり、上記の質量比率0.42の1.0倍であった。
さらに、A4液、B4液の供給流量を変更し、A4液を268(g/min)の流量、B4液を136(g/min)の流量で3分間同時に供給した。このときの供給比率は、136(g/min)/268(g/min)=0.51であり、上記の質量比率0.42の1.2倍であった。
なお、いずれの段階においても、A4液とB4液の合流温度は40℃であった。生成したMoBi含有液は噴霧乾燥前においてpHが1以下であり、スラリー状であった。
実施例1と同様にして得られた、触媒4の標準偏差値及びアンモ酸化反応の結果を表2に示す。
【0070】
[実施例5]
[触媒5の製造]
実施例1と同様にして、Mo含有液(A1液と同じもの。ただし、以降、「A5液」と称す。)とBi含有液(B1液と同じもの。ただし、以降、「B5液」と称す。)を調製した。A5液、B5液の供給全量は実施例1と同様とし、したがって、この場合の質量比率は、実施例1と同様に0.42であった。
A5液に対するB5液の供給比率を、上記の質量比率0.42の0.5倍から1.5倍の間で変動させた以外は、実施例1と同様にして触媒を得た(触媒5)。この範囲の供給比率でA5液とB5液の全部(100質量%)を接触させた。
具体的には次のように行った。上記Y字管にA5液を334(g/min)、B5液を70(g/min)で3分間同時に供給した。この供給比率は、70(g/min)/334(g/min)=0.21であり、上記の質量比率0.42の0.5倍であった。
次にA5液、B5液の供給流量を変更し、A5液を284(g/min)、B5液を120(g/min)で5分間同時に供給した。この供給比率は、120(g/min)/284(g/min)=0.42であり、上記の質量比率0.42の1.0倍であった。
さらに、A5液、B5液の供給流量を変更し、A5液を248(g/min)、B5液を156(g/min)で2分間同時に供給した。この供給比率は、156(g/min)/248(g/min)=0.63であり、上記の質量比率0.42の1.5倍であった。 なお、いずれの段階においても、A5液とB5液の合流温度は40℃であった。生成したMoBi含有液は噴霧乾燥前においてpHが1以下であり、液状であった。
実施例1と同様にして得られた、触媒5の標準偏差値及びアンモ酸化反応の結果を表2に示す。
【0071】
[実施例6]
[触媒6の製造]
Mo含有液とBi含有液とを上記Y字管および静止型混合器で混合した後、スラリー攪拌槽にいったん貯留せずスプレードライヤーに直接送液した以外は、実施例1と同様にして触媒を得た(触媒6)。なお、合流温度は40℃であった。生成したMoBi含有液は噴霧乾燥前においてpHが1以下であり、スラリー状であった。
実施例1と同様にして得られた、触媒6の標準偏差値及びアンモ酸化反応の結果を表2に示す。
【0072】
[実施例7]
[触媒7の製造]
実施例1と同様にして、Mo含有液(A1液と同じもの。ただし、以降、「A7液」と称す。)とBi含有液(B1液と同じもの。ただし、以降、「B7液」と称す。)を調製した。この場合の質量比率は、実施例1と同様に0.42であった。
A7液に対するB7液の供給比率を、Mo含有液とBi含有液の全供給量の合計の60質量%に当たる量については、上記の質量比率0.36の0.5倍から1.5倍の範囲内となるように行った。残りの40質量%については0.5倍から1.5倍の範囲外となるように行った。それ以外は実施例1と同様にして触媒を得た(触媒7)。
【0073】
具体的には次のように行った。
上記Y字管に、A7液を334(g/min)の流量、B7液を70(g/min)の流量で配管を通じて同時に供給を開始し、2分間供給を続けた。このときの供給比率は、70(g/min)/334(g/min)=0.21であり、上記の質量比率0.42の0.5倍であった。
次に、A7液、B7液の供給流量を変更し、A7液を229(g/min)の流量、B7液を192(g/min)の流量で2分間同時に供給した。このときの供給比率は、192(g/min)/229(g/min)=0.84であり、上記の質量比率0.42の2.0倍であった。
さらに、A7液、B7液の供給流量を変更し、A7液を284(g/min)の流量、B7液を119(g/min)の流量で2分間同時に供給した。このときの供給比率は、119(g/min)/284(g/min)=0.42であり、上記の質量比率0.42の1.0倍であった。
続いて、A7液、B7液の供給流量を変更し、A7液を356(g/min)の流量、B7液を45(g/min)の流量で2分間同時に供給した。このときの供給比率は、45(g/min)/356(g/min)=0.13であり、上記の質量比率0.42の0.3倍であった。
最後に、A7液、B7液の供給流量を変更し、A7液を248(g/min)の流量、B7液を156(g/min)の流量で2分間同時に供給した。このときの供給比率は、156(g/min)/248(g/min)=0.63であり、上記の質量比率0.42の1.5倍であった。
なお、いずれの段階においてもA7液とB7液の合流温度は40℃であった。
【0074】
以降は実施例1と同様にして触媒を得た(触媒7)。このMoBi含有液は噴霧乾燥前においてpHが1以下であり、スラリー状であった。
実施例1と同様にして得られた、触媒7の標準偏差値及びアンモ酸化反応の結果を表2に示す。
【0075】
[比較例1]
[触媒8の製造]
実施例1と同様にしてMo含有液(A1液と同じもの。ただし、以降、「A8液」と称す。)とBi含有液(B1液と同じもの。ただし、以降、「B8液」と称す。)を調製した。
40℃に保持したA8液に、攪拌を行いながら、40℃に保持したB8液を投入しMoBi含有液を調製した。投入には定量送液ポンプを用いた。
具体的には、2843gのA8液全量に、1198gのB8液を599(g/min)の流量で供給した。生成したMoBi含有液をさらに40℃で1時間攪拌した。このMoBi含有液は噴霧乾燥前においてpHが1以下であり、スラリー状であった。
以降は実施例1と同様にして触媒を得た(触媒8)。
実施例1と同様にして得られた、触媒8の標準偏差値及びアンモ酸化反応の結果を表2に示す。
【0076】
[比較例2]
[触媒9の製造]
実施例1と同様にしてMo含有液(A1液と同じもの。ただし、以降、「A9液」と称す。)とBi含有液(B1液と同じもの。ただし、以降、「B9液」と称す。)を調製した。
40℃に保持したB9液に、攪拌を行いながら、40℃に保持したA9液を投入しMoBi含有液を調製した。投入には定量送液ポンプを用いた。
具体的には、1198gのB9液全量に、2843gのA9液を1422(g/min)の流量で供給した。生成したMoBi含有液をさらに40℃で1時間攪拌した。このMoBi含有液は噴霧乾燥前においてpHが1以下であり、スラリー状であった。
以降は実施例1と同様にして、触媒を得た(触媒9)。
実施例1と同様にして得られた、触媒9の標準偏差値及びアンモ酸化反応の結果を表2に示す。
【0077】
実施例及び比較例で得られた触媒に含まれる金属酸化物のバルク組成を表1に、触媒粒子表面における(Bi/Mo)
surf/(Bi/Mo)
bulkの標準偏差を表2に示す。さらに、表2には、各触媒の製造条件、及び、各触媒を用いてアクリロニトリルを製造した際の収率も示した。
なお、実施例1、4〜7、比較例1〜2で得られた触媒に含まれる金属酸化物のバルク組成は同一である。
各々第一及び第二の流路に供給したMo含有液及びBi含有液を合流部で合流させて調製したMoBi含有液を用いて触媒を製造した実施例1〜7においては、触媒粒子表面におけるMoとBiの組成比が均一な触媒を連続的に製造できた。また、これらの実施例で製造された触媒を用いた場合には高い収率でアクリロニトリルを製造できた。
一方、Mo含有液(全量)に対してBi含有液を投入した比較例1、及び、Bi含有液(全量)に対してMo含有液を投入した比較例2においては、得られた触媒粒子表面におけるMoとBiの組成比の均一性が低かった。また、比較例1及び2において得られた触媒を用いた場合には、アクリロニトリルの収率も低かった。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
※1;Mo含有液とBi含有液の全供給量の60質量%を、供給比率が質量比率の0.5倍〜1.5倍の範囲内で行い、残りの40質量%をそれ以外の範囲の供給比率で行った。