【文献】
Xiao, L et al,Multiplexed single-cell in situ RNA analysis by reiterative hybridization,Analytical methods,2015年,7(17),7290-7295
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記液体処理システムは、ステージ上に配置されたロボット制御型のピペットシステムを有し、前記ピペットシステムは、前記作業平面に対し直交するz軸に沿って移動可能である、
請求項1または2記載の自動化されたシステム。
前記自動化されたシステムはさらに、少なくとも1つの付加的な液体容器を有し、前記付加的な液体容器は、試薬、検出部分を有する抗原認識部分、蛍光染料を含む抗体、抗生物質、生体栄養素、毒素、染料および酸化剤のうちの少なくとも1つを含む、
請求項1から5までのいずれか1項記載の自動化されたシステム。
前記消光ユニットはさらに、少なくとも1つのミラーを有し、前記ミラーは、前記生体標本または前記蛍光染料によっても吸収されない消光放射の一部分を反射して、前記生体標本に戻す、
請求項1から10までのいずれか1項記載の自動化されたシステム。
【発明を実施するための形態】
【0013】
なお、これらの図面は必ずしも正確な縮尺で描かれているわけではなく、また、同じ特徴には同じ参照符号が付されている場合もあることを理解されたい。
【0014】
本発明のシステムおよび方法は、複数の蛍光試薬を用いて複数の生体標本を、自動化された手法で分析するために設計されている。このシステムによれば、ロボット制御型のピペットシステムによって、各々がそれぞれ異なる試薬を保持する複数の液体容器のうちの1つから、所定量の蛍光試薬を取り出すことができる。次いでロボット制御型のピペットシステムは、標本を保持する複数の液体ウェルのうち特定の1つのウェルに、所定量の試薬を供給することができる。液体標本ウェルは、生体標本だけでなく緩衝液を含むこともできる。複数の試薬をマイクロタイタプレート90の試薬容器に保管することができる一方、複数の標本をマイクロタイタプレート92の標本ウェルに保管することができる。したがって本明細書で用いられる参照符号90は、試薬を容器内に保管するディスポーザブルマイクロタイタプレートのことを指し、参照符号92は、別個の生体標本をウェル内に保管するディスポーザブルマイクロタイタプレートのことを指す。
【0015】
蛍光試薬
本発明において使用される蛍光試薬は、蛍光部分と抗原認識部分とを含んでおり、オプションとしてこれらはスペーサ分子により結合される。
【0016】
適切な蛍光部分は、たとえばフローサイトメータまたは蛍光顕微鏡など免疫蛍光技術の分野から知られているものである。有用な蛍光部分は、フィコビリタンパク質などタンパク質ベースのもの、ポリフルオレンなどの高分子、キサンテンなどの有機小分子染料、たとえばフルオレセインまたはローダミン、シアニン、オキサジン、クマリン、アクリジン、オキサジアゾール、ピレン、ピロメテン、またはRu,Eu,Pt錯体などの有機金属錯体とすることができる。単一分子単位のほか、蛍光タンパク質または有機小分子染料のクラスタ、同様にナノ粒子、たとえば量子ドット、アップコンバートナノ粒子、金ナノ粒子、染色されたポリマーナノ粒子も、蛍光部分として用いることができる。
【0017】
本発明の別の変形実施形態によれば、蛍光試薬は、蛍光部分と抗原認識部分とを分離する酵素分解可能なスペーサを含んでいる。蛍光放出を除去するため消光ユニットによって、このスペーサを分解する適切な酵素を供給することができ、これによって蛍光部分が抗原認識部分すなわち生体標本から遊離される。遊離された染料を、洗浄により標本から取り除くことができる。適切な蛍光試薬および酵素は、欧州特許出願第15200338.0号明細書(EP15200338.0)に開示されており、たとえば酵素スペーサとして、ポリサッカライド、タンパク質、ペプチド、デプシペプチド、ポリエステル、ヌクレイン酸、デキストラン、プルラン、イヌリン、アミロース、セルロース、ヘミセルロース、キシラン、グルコマンナン、ペクチン、キトサン、またはキチンを含み、さらに酵素として、ヒドロラーゼ、リアーゼ、またはレダクターゼを含む。
【0018】
蛍光部分を、オプションのスペーサを介して、抗原認識部分と共有結合または非共有結合することができる。共有結合または非共有結合のための方法は、当業者に知られている。蛍光部分と、抗原認識部分またはオプションのスペーサとの間が共有結合されている場合には、蛍光部分、抗原認識部分またはスペーサのうちの1つにおける活性化群と、個々の他方の単一体における機能群との直接的な反応を用いることができる。
【0019】
抗原認識部分
用語「抗原認識部分」とは、細胞標本の細胞において発現したマーカに対して向けられた、任意の種類の抗体、または断片化抗体、または断片化抗体派生物のことを指す。この用語は、完全に無損傷の抗体、断片化抗体または断片化抗体派生物に関連するものであり、たとえばFab,
【数1】
,sdAb,scFv,di−scFv,ナノボディなどである。かかる断片化抗体派生物を、これらの種類の分子を含有する共有結合および非共有結合を含む組み換え手順によって合成することができる。さらに抗原認識部分の例は、TCR分子を標的とするペプチド/MHC錯体、細胞接着受容体分子、副刺激分子の受容体、複数の分子を結合する人工改変抗体、たとえば細胞表面分子などを標的とするペプチドまたはアプタマーである。
【0020】
本発明による方法において用いられる蛍光試薬は、100個までの、好ましくは1〜20個の抗原認識部分および/または抗原検出部分を有することができる。
【0021】
好ましくは、本発明において用いられる蛍光試薬は、1つの蛍光部分と、IL2,FoxP3,CD154のような細胞内の、またはCD3,CD14,CD4,CD8,CD25,CD34,CD56およびCD133のような細胞外の生体試料(標的細胞)により発現される抗原に対して向けられた1つの抗体と、を有する。
【0022】
生体標本
生体標本は、蛍光試薬の抗原認識部分により検出/認識可能な標的部分を有する。生体標本は、動物全体、無脊椎動物(たとえばシノラブディス・エレガンス、キイロショウジョウバエ)、脊椎動物(たとえばゼブラフィッシュ、アフリカツメガエル)、および哺乳動物(たとえばハツカネズミ、人類)の器官、組織切片、細胞集合体、または単一細胞のような任意の試料に由来するものとすることができる。生体標本は、組織切片、細胞集合体、懸濁細胞または粘着細胞の形態を有することができる。細胞を、生体または死体とすることができる。これらの試薬各々を別個の液体容器に収容することができ、この場合、液体容器各々が試薬、検出部分を有する抗原認識部分、蛍光染料を含む抗体、抗生物質、生体栄養素、毒素、染料および酸化剤のうちの少なくとも1つを含むようにする。
【0023】
あとでさらに説明するように、試薬各々を液体処理システムによって取り出し、システムによってイメージングされる生体標本に適用することができる。
【0024】
蛍光システム
R−フィコエリトリン(R−PE)の励起のためには520〜560nmの緑色光というように、蛍光試薬に対して調節された適切な波長の光の照射を介して、蛍光励起が実施される。したがって励起ユニットによって、特定の蛍光を吸収するスペクトル範囲内の電磁放射が供給される。次いで蛍光体は、赤色方向にシフトした波長(シフトは一般に約20nm)の蛍光を放出し、励起放射からこれを別個に検出することができる。蛍光顕微鏡励起ユニットの一般的な具現化形態は、アークランプ、キセノンランプまたはメタルハライドランプなどのような白色光源と、励起に必要とされるスペクトル帯域を生成するための後続のフィルタとを含んでいる。レーザまたは発光ダイオードも使用される。
【0025】
消光ユニット
用語「消光」および「退色」は、本明細書では入れ替え可能に用いられ、蛍光体または標識された生体標本への蛍光体の付着の化学的または放射による変質の結果として、標識された生体標本からの蛍光の減少を意味する、と理解されたい。したがって消光システムはさらに、試薬の蛍光性能または生体標本への試薬の付着を変質させる化学薬品または放射のうち少なくとも一方のソースを有することができる。
【0026】
消光ユニットは、特定の蛍光体により吸収される波長の光を用いて、標本に高強度の照射をもたらすことができる。一般的に用いられる多数の染料のために要求を満たすのは、青色(450〜500nm)、緑色(520〜560nm)および赤色(630〜650nm)を発光するLEDの組み合わせである。放射強度を高めることによって、消光に必要とされる時間が短くなる。P−REのために約300mW/cm
2を用いると、おおよそ30秒という蛍光シグナルの指数関数的な減衰の半減期時間が得られる。よって、当初のシグナルの1〜5%まで蛍光シグナルを低減するには、約3分が必要とされる。これを種々の蛍光体に対して同時に実施することができ、たとえばFITC(励起470nm、放出520nm)、R−PE(励起530nm、放出580nm)、APC(励起630nm、放出660nm)に対して同時に実施することができる。この実施形態によれば、消光ユニットを励起ユニットと同じ構成要素とすることもできる。
【0027】
したがって消光ユニットに、それぞれ異なる波長の消光放射を放出する2つ以上の光源を設けることができる。たとえば消光ユニットに、350〜850nm好ましくは450〜650nmの範囲内の合成放出スペクトルを有する2〜5個の光源を設けることができる。標本を同時にまたは順番に照射するために、複数の光源の放出を光学的に組み合わせることができる。たとえば消光ユニットに、450〜500nm(青色)、520〜560nm(緑色)および630〜650nm(赤色)の範囲内で放出する3つの光源を設けることができる。別の実施形態によれば、350〜850nm好ましくは450〜650nmの範囲内で光を放出するただ1つの光源が設けられる。複数の別個の光源を設けることの利点は、蛍光染料の消光(除去)に必要とされる放射のみに標本が晒され、それによって標本が他の波長の放射に不必要に晒されるのが回避される、ということである。複数の別個の光源の放射を、ミラーのような適切なデバイスまたは光ファイバのような光導波体によって結合することができる。
【0028】
1つの好ましい実施形態によれば、消光ユニットは、蛍光シグナルの減衰を消光データとして監視する蛍光検出器を含むことができる。消光ユニットは、すべての光源のために1つの蛍光検出器を有することができ、または光源ごとに別個に蛍光検出器を有することができる。制御ユニットは、個々の消光データに基づき1つまたは複数のフィードバックループを用いて、消光ユニット内の各光源を制御することができる。便宜上、蛍光の除去を最大放出波長のところで測定することができるけれども、2つの波長間の放出スペクトルの積分を計算するのも適している。本発明のこの変形実施形態によれば、制御ユニットおよび/または消光ユニットは、蛍光放出が消光により予め規定された閾値を下回るように除去されない場合には、消光プロセスが繰り返される、というように構成されている。たとえば蛍光放出の消光は、当初の蛍光放出の5%よりも小さくなるまで、好ましくは1%よりも小さくなるまで、蛍光放出が低減されたときに、達成されたとみなされる。同時に2つ以上の蛍光試薬を供給するこの変形実施形態によれば、蛍光放出の低減は、測定される蛍光放出各々に基づく。
【0029】
消光ユニットにはさらに、標本の表面領域ごとに放射および/または放射強度を均質化する手段を設けることができる。不均質な退色の結果、いくつかの領域が他の領域よりも僅かにしか照射されない、つまり僅かにしか退色されないことになる。他よりも僅かにしか退色されないかかる領域は、標本の最終イメージにおいて目立ってしまう/認識されてしまうか、または退色のために付加的な照射を必要とし、そのために時間を浪費し、かつ/またはすでに退色された標本領域の損傷を引き起こしかねない。第1の実施形態によれば、消光ユニットの光を散乱させるためのディフューザ手段が、消光ユニットに設けられている。光を散乱させることによって、不均質な退色を引き起こしかねない表面領域ごとの何らかの不均質な放射分布が排除される。ディフューザ材料として、すりガラス、テフロン、ホログラフィー製品、乳白ガラス、または灰色化ガラスを用いることができる。
【0030】
放射および/または放射強度を均質化するための別の実施形態によれば、消光ユニットまたは標本ホルダまたは可動ステージ10に振動手段を設けることができ、作業平面の1つまたは2つの次元において、たとえば最大で±1mmの範囲内の僅かな前進後退運動が発生する状態にさせる。
【0031】
消光ユニットが、標本サイズよりも小さい領域を照射する光源を有するケースではさらに、消光ユニットおよび/または可動ステージ10を、x−y作業平面において標本ホルダの領域内または標本の表面領域内で移動させることができる。好ましくは、消光ユニットおよび/または可動ステージ10は、線、円または格子状の態様で、x−y作業平面において標本領域内で動かされる。この動きは、好ましくはマイクロプロセッサの制御のもとで行われる。
【0032】
本発明のさらに別の実施形態によれば、消光ユニットおよび/または光源に光学フィルタが設けられており、このフィルタは、消光には適さずしかも標本において熱を引き起こす波長を有する何らかの放射から標本を保護する。好ましくは光学フィルタは、400nmよりも短い、および/または900nmよりも長い波長を有する実質的にすべての波長を、消光のために使用される光から取り除く。この実施形態が有する利点は、蛍光染料の消光(除去)に必要とされる放射だけに標本が晒される一方、さもなければ不所望に標本温度を上昇させかねないIR放射も同時に取り除かれる、ということである。
【0033】
本発明のさらに別の変形実施形態によれば、消光ユニットは、たとえば酸化退色などにより蛍光染料を除去する化学薬品を供給する。退色に必要な化学薬品は、「マルチエピトープ・リガンド・カルトグラフィ」("Multi Epitope Ligand Cartography")、「チップベースのサイトメトリ」("Chip-based Cytometry")または「マルチオミックス」("Multioymx")の技術に関する上述の刊行物から知られている。
【0034】
ディスポーザブル標本ホルダ
本発明による自動化されたシステムのコンテナは、各々が別個の生体標本を含む複数の液体ウェルを有することができる。好ましくは、このコンテナはタイタプレートである。
【0035】
本明細書で用いられる用語「タイタプレート」、「マルチウェルタイタプレート」および「マイクロタイタプレート」は入れ替え可能に使用され、どちらも以下の構造のことを意味すると理解されたい。すなわちこの構造は、複数の小さいウェルまたは凹部を含み、それら各々を、他のウェルまたは凹部とは別個に液体または試料を保持するために用いることができる。どちらも特に、ANSI SBS 1 -2004に準拠するデバイスのことを指す。
【0036】
図2は、生体試料のための自動化された分析ツール1を、開口部20および22内に設置されたディスポーザブル標本ホルダ90および92と共に示す平面図である。既述のように以下の説明において、マイクロタイタプレート90は試薬を含むことができ、マイクロタイタプレート92は標本を含むことができる。ディスポーザブル標本ホルダ90および92を、既知の寸法のリジッドなプラスチック構造とすることができ、その中に複数の液体ウェルを形成することができる。実際には、ディスポーザブル品90および92を双方共に、標準フォームファクタを有するマルチウェルタイタプレートとすることができ、たとえばそこには96個の小さい液体ウェルが形成されている。
【0037】
別の選択肢として、ディスポーザブル品90および92をスライドガラスとすることができ、その上に生体試料が固定化される。別の実施形態によれば、ディスポーザブル品90および92は、プラスチックなどのような透明な支持部材上で異なる別個の領域に、機能化表面を含むことができる。この支持部材をスライドガラスとしてもよいし、または生体試料を保持可能な他の任意の透明な表面としてもよく、これを蛍光イメージングシステム30および/または蛍光消光システム40によってイメージングすることができる。ディスポーザブル品はさらに、透明部分と不透明部分とを有することができ、この場合、透明部分に生体標本が配置され、不透明部分は光を反射するかまたは吸収する。したがって生体標本を透明部分に配置することができ、不透明部分は蛍光シグナルを反射するかまたは吸収する。
【0038】
ディスポーザブル品90および92の材料を、光の吸収を低減するように選定またはコーティングすることができる。不透明なまたは光学的に吸収性の材料を選定することができ、あるいはたとえば金属またはTiO
2のCVD(化学気相成長)を用いて、反射性フィルムを透明材料にコーティングすることができる(吸収というよりも反射)。
【0039】
自動化されたシステム
本発明によるシステムは、蛍光シグナルを測定する蛍光システムと、蛍光システムの上方で少なくとも1つの生体標本を含むディスポーザブル品を保持する開口部と、生体標本からの蛍光シグナルを消光するためにクエンチング光を供給する消光システムと、コンテナに液体を供給可能および/またはコンテナから液体を除去可能な液体処理システムと、開口部、蛍光システム、消光ユニットおよび液体処理システムのうちの少なくとも1つを、1つの作業平面を規定する少なくとも2つの直交する次元で移動させるメカニズムと、さらに蛍光染料の励起、蛍光シグナルの検出および収集ならびに蛍光シグナルの消光を含む1つのルーチンを、自動化された手法で実行する制御ユニットと、を含むことができる。
【0040】
あとで開示するように制御ユニットは、蛍光染料で染色された生体標本のイメージとして蛍光シグナルを収集する。
【0041】
液体処理システムを、液体レセプタクル間で液体を搬送可能なシステムとすることができる。液体処理システムは、液体を少なくとも1つのコンテナから取り出して別のコンテナに挿入できるように、複数の試薬を保持する複数の液体容器と、空気圧源または真空源とを含むことができる。
【0042】
液体処理システムは、蛍光染料、蛍光シグナルを消光する配合物、洗浄液および緩衝剤のうちの少なくとも1つを、生体標本へ供給することができる。好ましくは液体処理システムは、ステージ上に配置されたロボットの制御型ピペットシステムを有しており、この場合、ピペットシステムは、作業平面に対し直交するz軸に沿って移動可能である。
【0043】
ただしここで理解されたいのは、本発明の実施形態は、標本を光学システム30および40に対し相対的に移動させることができるシステムも含むことができるし、同様に光学システム30および40を標本に対し相対的に移動させることができる態様も含むことができる、ということである。説明をわかりやすくするため、可動ステージ10上でイメージングシステム30および消光システム40に対し相対的に標本が動かされるようにした、
図1〜
図9に示した実施形態に関して本発明を説明する。たとえば、光学システムが生体標本に対し相対的に動かされるようにした、択一的な実施形態も考えられる、ということを理解されたい。したがってこの装置は、生体標本をイメージングするために少なくとも2つの直交する次元で、この装置と蛍光システムの少なくとも一方を移動させるためのメカニズムを含むことができる。
【0044】
図1は、生体試料のための自動化された分析ツール1の1つの実施形態を示す平面図である。このツールには可動ステージ10が含まれており、その中に2つの開口部20および22が形成されている。可動ステージ10を、アルミニウムなど軽量で加工しやすい任意のリジッドな材料によって形成することができる。
図1には示されていないが、たとえばステッピングモータなどのような複数のモータが設けられており、これらのモータは、図示された2つの直交する方向において、可動ステージ10のポジショニングを調節する。
図1ではX方向およびY方向が付されたこれら2つの直交する方向によって、自動化された分析ツール1のための可動のx−y平面が規定される。本明細書では、この平面を作業平面と称する。可動ステージ10を、マイクロプロセッサ、制御ユニットまたはコンピュータ110の制御のもと、x−y作業平面内で移動させることができる。コンピュータまたは制御ユニット110は、要求される速度および精度に応じて、x方向またはy方向において±約1〜200μmの精度を伴って、開口部20または22を作業平面内で移動させることができる。
【0045】
図1には、生体試料、緩衝剤のために、さらには可動ステージ10の材料自体のためにも、冷蔵機能を提供する冷蔵ユニット50も示されている。したがってこのシステムはさらに、生体標本を含め作業平面を冷却する冷却ユニットを有することができる。さらに
図1には、隔離ボックスまたはテントのようなチルドエンクロージャ60も示されており、これを2つの開口部20および22の上に、さらには冷蔵ユニット50の上にも、配置することができる。チルドエンクロージャを、透明なマイラーなどのように、最小限に孔の開いたフレキシブルな任意の材料のテントとして形成することができる。このエンクロージャを開口部20および22の上に配置することができ、あとで述べるように、これによって生体標本周囲の環境において冷蔵状態が維持される。したがって自動化されたシステムはさらに、温度制御ユニットを有することができ、このユニットによって、生体標本の温度が約10〜40℃の間の設定値になるように制御される。
【0046】
開口部20,22のすぐ真下に、2つの光学システム30および40を設けることができる。これら2つの光学システムをそれぞれ、蛍光イメージングシステム30および蛍光退色システム40とすることができる。これら2つの光学システムすなわち蛍光イメージングシステム30および蛍光退色システム40の詳細については、あとでさらに説明する。光学システム30および40は、一般に開口部20または22の少なくとも一方の真下に配置されている。説明の都合上、
図1ではこれらの開口部は空の状態であるが、以下で述べるように、分析ツールが動作中のとき、開口部20および22は、(22内に)生体試料の標本を、(20内に)試薬の集合を保持することができ、またはその逆とすることができる。
図1には示されていないが、光学イメージングシステム30または蛍光退色システム40のために、付加的な構造が必要とされる。これらの付加的な構造は、付加的なレンズ、ミラー、検出器、ソース、および他の光学素子を含むことができる。これらの付加的な構造については、さらにあとで説明する。
【0047】
なお、蛍光イメージングシステム30を、蛍光退色システム40のすぐ隣りに配置することができる、という点に留意されたい。
【0048】
図1には示されていないが、可動ステージ10をx−y平面において反復可能に正確に移動させるようにするために、ステッピングモータ、ギア、ベアリングおよび他の機械部品が用いられる。かかる部品は容易に入手可能であり、適切な寸法およびその他の機械的特性は、適用事例の詳細に依存することになる。やはり図示されていないが、スプリング、ダッシュポットおよびゴムバンパなど、様々なダンピングメカニズムが設けられている。かかる部品を用いて、自動化された分析ツール1を衝撃や振動など周囲を取り巻くファクタから隔離することができる。
【0049】
ディスポーザブル品90または92の単一のウェルの正確なポジショニングを他の部品に対し相対的に調節するために、可動ステージ10を移動することができる。たとえばディスポーザブル品92を、標本操作中、蛍光イメージングシステム30および/または蛍光消光システム40のすぐ上に配置することができる。さらに別の時点において試薬の取り出し中に、ディスポーザブル品90を、ピペット70として示された液体処理システムのすぐ下に配置することができ、これについては
図3を参照しながらあとで説明する。標本操作中、特定の標本ウェルを光学装置の上に、つまり蛍光イメージングシステム30の上かまたは蛍光消光システム40の上に配置するために、可動ステージを移動させることができる。実際には、マルチウェルタイタプレート90または92内の任意のウェルの内容の顕微鏡イメージを、正確にイメージングすることができるように、ディスポーザブル品92をポジショニングすることができる。
【0050】
図1と同じように冷蔵ユニット50が、マルチウェルタイタプレート90および92を、さらにそれらの中に保持された液体も、冷却することができる。テント60のように実質的に孔の開いていないエンクロージャによって、周囲環境への空気の移動を制限することができ、これはマルチウェルタイタプレート90または92内の生体試料を低温で維持するのに役立つ。
【0051】
図3は、可動ステージ10と、マルチウェルタイタプレート90のすぐ上に保持された操作可能なピペット70と、を示す側面図である。ピペット70を、ポジションコントローラであるピペットステージ80によって保持し制御することができ、マイクロプロセッサまたはコンピュータの指示のもとで移動させることができる。ピペットステージ80は、マイクロタイタプレート90内の複数のタイタウェルのうちのいずれかへ向かって、Z方向でピペット70を移動させることができる。複数のウェル各々は、それぞれ異なる配合物を含むことができ、試薬、検出部分を含む抗原認識部分、蛍光染料を含む抗体、抗生物質、生体栄養素、毒素、染料および酸化剤のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0052】
したがってピペット70を、ステージ上に配置されたロボット制御型のピペットシステムとすることができ、この場合、ピペットシステムは、作業平面に対し直交するz軸に沿って移動可能であり、生体標本に種々の配合物を適用するように構成されている。
【0053】
本発明のさらに別の実施形態によればこの処理システムは、ピペットシステムの外側を洗浄し、付着した液体を除去する手段を有している。洗浄システムは、標本間の相互汚染を防止するため、ピペット(70)に付着したすべての物質を除去しようというものであり、この目的で、液体または標本に接触した、かつ/または標本コンテナに挿入されたピペットの少なくとも一部分を洗浄するのが望ましい。この実施形態の第1の変形実施形態によれば、ピペット70の外側表面を洗浄して付着した液体を除去することを、洗浄ポッドまたは洗浄液によって達成することができる。この目的でピペットステージ80に、ピペット70から物質を除去する少なくとも1つの洗浄ポッドを設けることができる。洗浄ポッドを、綿またはティッシュペーパーのように、液体を吸い取るのに適した任意の材料によって形成することができる。
【0054】
この実施形態の第2の変形実施形態によれば、ピペット70の洗浄は、洗浄液を用いてピペット70の外側表面を洗浄することによって達成される。本発明のこの実施形態によれば、ピペットステージ80に、ピペット70のためのスリーブまたはガイド部材が設けられており、供給される洗浄液によってピペット70を洗い流すことができ、この洗浄液は、スリーブの少なくとも1つのオリフィスを通して排出される。スリーブまたはガイド部材を通してピペット70を案内することによって、ピペット70は洗浄液の貯蔵器を通って、または洗浄液の蒸気中を通って動かされ、このようにすることによってピペット70は、新しい汚染されていない洗浄液のみと接触することが保証される。スリーブが設けられたかかるピペットステージは、たとえば欧州特許出願第2944373号明細書(EP 2944373A1)に開示されている。
【0055】
可動ステージ10はX方向およびY方向に移動可能であるので、マルチウェルタイタプレート90の任意の容器内に保持された任意の試薬を取り出す目的で、ピペット70のためにはZ方向の動きだけが必要とされる。特定の試薬の取り出しに応答して、マルチウェルタイタプレート90内の所望のまたは適切なウェルが、ピペット70の直下にポジショニングされるように、可動ステージ10がずらされてポジショニングされる。次いでピペット70が、マルチウェルタイタプレート90の特定のウェル内に下げられ、マルチウェルタイタプレート90の適切なウェル内に試薬が沈積される。
【0056】
したがって特定の試料を特定の試薬によって染色する目的で、マルチウェルタイタプレート90内の特定のウェルをピペット70の真下にポジショニングするために、可動ステージ10を移動させることができる。次いでコントローラ80はピペット70を、マルチウェルタイタプレート90の指定されたウェル内に保持された液体試薬中に下げる。マイクロタイタプレート90のウェル内に保持された特定の量の液体を抜き取る目的で、ピペットステージ80は、ピペット70のヘッドに適用すべき吸引力を生じさせることができる。その後、ピペット70がウェルから引き抜かれる。
【0057】
次いでマイクロプロセッサ110は、マルチウェルタイタプレート92における特定のウェル内に含まれている所望のまたは適切な試料が、ピペット70の真下に位置するポジションに、可動ステージ10をずらすことができる。その後、コントローラ80によって、ピペット70がそのウェル内に下げられる。ピペット70の内容を、生体試料を保持するマイクロタイタプレート92の指定されたウェルに放出するために、ピペット70のヘッドに圧力が適用される。次いで、いまや染色された試料を培養することができる。培養後、染色された生体試料を、以下のようにしてイメージングすることができる。
【0058】
図4は、蛍光イメージングシステム30を概念的に示す図である。蛍光イメージングシステム30は、1つの波長帯域で放射を発生するLED光源などのような光源32を含むことができる。この放射をダイクロイックミラー38に当射させることができ、ミラー38は放射を対物レンズ34に向けて反射する。対物レンズ34は、光を成形、集束またはコリメートすることができる。その後、放射は、マイクロタイタプレート92の特定のウェルに当射する。マルチウェルタイタプレート92のウェルは、緩衝液150と生体試料140とを含むことができる。生体試料140の特性によっては、それがマルチウェルタイタプレート92の底部に付着する可能性があり、または緩衝液150中に浮遊または懸濁する可能性がある。
【0059】
生体試料140がたとえば細胞であれば、この細胞が染料または試薬と結合した状態にある可能性がある。染料または試薬を、抗体と共役された蛍光体とすることができる。抗体は、細胞膜上にある表面マーカまたは抗原と結合することができ、蛍光体は、適切な波長の光による照射に反応して、蛍光光子を放出することができる。したがって光源32は、蛍光体励起のためにこの波長の光を放出することができ、これにより蛍光体は蛍光光子を放出することができる。ダイクロイックミラー38は、光源からの放射を標識された生体試料140に向けて反射することができるが、
図4に示されているようにダイクロイックミラー38は、蛍光光子を検出器36に向けて透過させることができる。
【0060】
したがってダイクロイックミラー38を、レーザまたは光源32の波長の光を反射するが、生体標本140から放出された蛍光波長の放射を透過するように、構成することができる。光学検出器36を、CCDカメラまたはマイクロチャネルプレートなどのように、ピクセルで構成された任意のディジタル検出器とすることができる。生体試料140における適切なスポットを検出器36上に集束させるように、対物レンズ34をz軸において移動可能または調整可能なものとすることができる。制御ユニットxxは、蛍光染料で染色された生体標本のイメージとして、蛍光シグナルを収集することができる。
【0061】
図5は、蛍光消光システム40を概念的に示す図である。蛍光消光システム40には光源42を含めることができ、この光源42は対物レンズ44によって、生体試料140上に集束される。既述のように生体試料を、マルチウェルタイタプレート92におけるウェル内の緩衝液150中に沈積させることができる。
【0062】
光源42をLEDまたはレーザとすることができるが、いずれのケースであれ、蛍光部分または生体試料140に付された標識の吸収帯域にオーバラップするように、放出される放射の波長が選定される。この放射の適用に反応して、標識が付された生体試料140は、放射により分解、分離または破壊される蛍光標識を有することができる。したがって消光システム40は、光の照射により試薬の蛍光を破壊する光学消光システムを有することができ、さらにLED光源および対物レンズを有する。
【0063】
いずれにせよ、生体標本140に付された蛍光標識は、蛍光を全体的にまたは部分的に終わらせることができる。その結果、マルチウェルタイタプレート92内の生体標本140から放出される蛍光は、減衰するようになる。このようにして低減された蛍光を、別の光学検出器46によって検出することができ、この検出器の出力端はコンピュータ48に接続されている。
【0064】
コンピュータ48は、放射源42の振幅を制御する信号を発生することができる。光学検出器46は、光学検出器36と同じタイプのものであってもよいし、または異なるものであってもよい。したがって光学検出器46を、CCDカメラまたはマイクロチャネルプレートなどのように、ピクセルで構成された任意のディジタル検出器とすることができる。
【0065】
したがって消光システムは、光の照射による試薬の蛍光シグナルの減衰を消光データとして監視する蛍光検出器を含むことができる。制御ユニットは、消光データに基づきフィードバックループによって、消光システムを制御することができる。よって、制御ユニットは、予め定められた蛍光閾値に達するまで、消光放射を適用し続けるよう、消光システムを指示することができる。
【0066】
生体試料140から連続的な蛍光が検出器46により測定されて、検出されると、コンピュータ48は、生体試料140に適用される放射量を増大または継続させるために、光源42に適用される電流を増大または継続させるようにする。蛍光放射のすべてが、生体試料140からの放出を終わらせたときのみ、または予め規定された何らかの閾値を下回ったときのみ、コンピュータ48は、光源42への駆動信号を中止することができる。たとえば、蛍光の除去を最大放出波長のところで測定することができるけれども、放出スペクトルの積分を計算するのも適している。本発明のこの変形実施形態によれば、制御ユニットおよび/または消光ユニットは、蛍光放出が消光により予め規定された閾値を下回るように除去されない場合には、消光プロセスが繰り返される、というように構成されている。たとえば蛍光放出の消光は、当初の蛍光放出の5%よりも小さくなるまで、好ましくは1%よりも小さくなるまで、蛍光放出が低減されたときに、達成されたとみなされる。したがって一部の実施形態によれば、蛍光消光システム40は、コンピュータ制御型フィードバックメカニズムを有することができ、このメカニズムは、生体標本140を照射する消光プロセスをいつ中止することができるのかを決定する。
【0067】
蛍光消光システム40内のその他の要素を、マイクロタイタプレート92の上方に配置することのできる反射器49とすることができる。反射器49は、光源42から放出された消光放射を、生体試料140を通して戻すように反射する。放射経路が付加的な時間を有するようにすれば、蛍光シグナルの消光をいっそう効果的または効率的なものとすることができる。よって、消光システムはさらに、少なくとも1つのミラーを有することができ、このミラーは、生体標本または蛍光染料によっても吸収されない消光放射の一部を反射して、生体標本に戻す。
【0068】
既述のように本明細書で述べる実施例によれば、生体試料140の特定のスポットまたは特徴部分を、蛍光イメージングシステム30のイメージング領域内にポジショニングするために、ステージ10がx−y作業平面内で動かされる。その後、同じようにして、可動ステージ10をx−y作業平面内で移動させることにより、スポットまたは特徴部分が蛍光消光システム40の上方にポジショニングされる。ただしここで理解されたいのは、これは具体例にすぎず、別の選択肢として光学システム30および40を、生体試料140に対し相対的に移動させてもよい、ということである。換言すれば、蛍光イメージングシステム30および蛍光消光システム40に対してx−y作業平面をポジショニングするのではなく、生体試料140に対して蛍光イメージングシステム30および蛍光消光システム40をポジショニングしてもよい。
【0069】
図6は、蛍光消光システム50の別の実施形態を概念的に示す図である。蛍光消光システム40とは異なり、蛍光消光システム50の場合には光源42を、レーザ52などのようなコヒーレントな光源とすることができる。レーザ52は、特定の波長または狭帯域の波長で光を放出することができる。
図5を参照しながらすでに説明したように、放射をダイクロイックミラー58から対物レンズ54を通して生体試料140へ向けて反射させることができる。次いでこの放射を、マルチウェルタイタプレート92の上方に配置された付加的な反射器59によって反射させることができる。その後、この光学反射器59は、生体試料140を通過し第2の経路を辿って戻るように、レーザ放射を反射することができる。光学反射器49を用いた場合のように、これによって蛍光シグナルの光学的な消光の効果を高めることができる。ただし
図6のレーザの実施形態の場合には、ミラー59とダイクロイックミラー58とによって、共振キャビティを形成することができ、レーザ光源52により放出されたレーザ放射を増幅することができる。既述のように共振キャビティによって、実質的に標本スポット上の標本に対し複数の放射経路が提供されることによって、放射源42の効果を強めることができる。
【0070】
図7は、光学消光システム60の別の実施形態を概念的に示す側面図である。この光学消光システム60の場合もやはり、放射源62が対物レンズ64を介してマルチウェルタイタプレート90に向かって集束される。光源62を、発光ダイオード(
図4の場合のようにLED32)またはレーザ(
図5の場合のようにレーザ光源42)とすることができる。マルチウェルタイタプレート92に入射すると、放射はマルチウェルタイタプレート92の透明なガラスの底面支持部材170を通過する経路を辿ることができる。この透明な底面170は、生体試料140を支持することができる。生体試料140を、マルチウェルタイタプレート92の特定のウェルの底部に、ただし緩衝液150などのような液体中に、沈めることができる。マルチウェルタイタプレート92の特定のウェルの頂部に、カバーガラス160を設けることができる。このカバーガラス160を、液体およびマイクロタイタウェル92の頂部に載置することができる。カバーガラス160を使用することによって、マルチウェルタイタプレート92の特定のウェル内において液柱頂部に液体メニスカスが形成されるのを避けることができる。空気と液体との界面に形成されたメニスカスはドーム形状を有する可能性があり、これによってそこを通る光のダイレクトな伝達が妨げられるおそれがあり、ひいては生体試料140のイメージングが妨害されるおそれがある。
【0071】
少なくとも1つの生体標本を蛍光染料と共に含むコンテナを、透明または半透明のカバープレートでカバーすることができる。透明または半透明のカバープレートをたとえば、透明なカバーガラスとすることができ、または蛍光シグナルに対しては透過性であるが消光放射に対しては反射性のコーティングが設けられたカバーガラスとすることができる。
図7に示されているように、光源62からの放射は、対物レンズ64を通過し、緩衝液150中に沈められた生体試料140に向かう経路を辿ることができ、その際にこの放射は、2つの透明な表面170を通過し、試料を通過し、さらに光学カバーガラス160を通過して進むことができる。この時点で、放射は光学反射器69に当射することができる。光学反射器69を、マイクロタイタウェル92の上方に配置することができ、かつ到来する放射に対し反射がそのまま逆平行にはならず、ただしその代わりに角度オフセットを有するようにして、第2の光学反射器69’に当射するまで反射がいくらかの距離だけ横方向に進むように、配向することができる。この放射はさらにもう一度、光学反射器69’から光学反射器69へ戻るように反射させられる。この経路を辿るたびに、放射はやはりいくらかの距離だけ横方向に進む。このようにして、横方向の遮蔽物に遭遇する前に、あるいは放射が消滅させられるかまたは吸収される前に、試料を通過する複数の放射経路が達成される。上述のように二重の経路が得られることで、生体試料140に付された蛍光標識に対する消光動作の効果を、これらの複数の経路によって強めることができ、蛍光の完全な消光を達成することができる。
【0072】
図8は、光学消光システム70の別の実施形態を概念的に示す側面図である。光学消光システム60の場合のように、放射源72が対物レンズ74を介して、マルチウェルタイタプレートまたはスライドガラスとすることのできるディスポーザブル品92に向かって集束される。光源72を、発光ダイオード(
図4の場合のようにLED32)またはレーザ(
図5の場合のようにレーザ光源42)とすることができる。ディスポーザブル品92に入射すると、この放射は、ディスポーザブル品92の透明なガラスの底面支持部材170を通過する経路を辿ることができる。この透明な底面170は、生体試料140を支持することができる。生体試料140を、ディスポーザブル品92の特定のウェルの底部において、ただし緩衝液150などのような液体中に、沈めることができる。
図7の場合のように、ディスポーザブル品92の特定のウェルの頂部に、カバーグラス160を設けることができる。このカバーガラス160を、液体およびディスポーザブル品92の頂部に載置することができる。
【0073】
既述の実施形態のように、光源72からの放射は、対物レンズ74を通過し、緩衝液150中に沈められた生体試料140に向かう経路を辿ることができる。よって、この放射は、2つの透明な表面170を通過し、試料を通過し、さらに光学カバーガラス160を通過して進むことができる。この時点で、放射は光学反射器69に当射することができる。光学反射器69を、マイクロタイタウェル92の上方に配置することができ、表面160および170に対し角度を成すようにすることができる。このようにして、光源72からの光を、いくからの距離をおいて横方向に反射させて、別の反射器69に当射させることができる。この反射器は、逆の動作をするように配置されており、水平方向に進む放射が垂直方向に反射させられ、したがって透明な表面160および170を通過し、第2の経路を辿って、生体試料140を通過して戻されるようになる。第2の経路を辿った後、放射は2つの光学反射器69’により反射させられ、これらの反射器69’を、光学反射器69と同じものとすることができるが、それよりも下方で光学反射器69と横方向で隣り合うように、配置することができる。放射はもう一度、横向きに反射させられ、生体試料140を通過して戻される。この経路を辿るたびに、放射はやはりいくらかの距離だけ横方向に進む。このようにして、横方向の遮蔽物に遭遇する前に、あるいは放射が消滅させられるかまたは吸収される前に、試料を通過する複数の放射経路が達成される。上述のように二重の経路が得られることで、生体試料140に付された蛍光標識に対する消光動作の効果を、これらの複数の経路によって強めることができ、蛍光の完全な消光を達成することができる。したがって既述のように、ヘリオット型またはホワイト型の複数の反射セルまたは共振器などのように、試料を通過するクエンチング光の多数の経路を生成するシステムを形成するために、複数のミラーを用いることができる。
【0074】
図8には4つの反射器(69および69’)が示されているけれども、本明細書で説明するコンセプトを任意の個数の反射器および経路に拡張することができる。
【0075】
図9は、光学消光システム80のさらに別の実施形態を概念的に示す側面図である。光学消光システム60および70のように、放射源82が対物レンズ84を介してマルチウェルタイタプレート92に向かって集束される。光源82を、発光ダイオード(
図4の場合のようにLED32)またはレーザ(
図5の場合のようにレーザ光源42)とすることができる。マルチウェルタイタプレート92に入射すると、この放射は、マルチウェルタイタプレート92の透明なガラスの底面支持部材170を通過する経路を辿ることができる。この透明な底面170は、生体試料140を支持することができる。生体試料140を、マルチウェルタイタプレート92の特定のウェルの底部に、ただし緩衝液150などのような液体中に、沈めることができる。マルチウェルタイタプレート90の特定のウェルの頂部に、カバーガラス160を設けることができる。このカバーガラス160を、液体およびマイクロタイタウェル92の頂部に載置することができる。
【0076】
既述の実施形態のように、光源82からの放射は、対物レンズ84を通過し、さらに部分的に透過性の表面69を通過して、緩衝液150中に沈められた生体試料140に向かう経路を辿ることができる。既述のようにこの放射はその後、透明な表面170を通過し、試料を通過し、さらに光学カバーガラス160を通過して進むことができる。この時点で放射は、部分的に透過性の第2の光学反射器69’’に当射することができる。光学反射器69’’を、マイクロタイタウェル92の上方で、放射経路に直交しかつ光学反射器69に平行に、配置することができる。光学反射器69および69’’の双方は、部分的に反射性かつ部分的に透過性であるので、これらの反射器は、レーザ82などのようなコヒーレントな放射源と共に使用すれば、光学共振器を成すことができる。したがって、反射器69に対する反射器69’’の配置を微調整すれば、共振器内部の放射循環量に、ひいては蛍光消光システム80の消光効果に、劇的な作用を及ぼすことができる。このようにして、光子が最後の反射器69を通過して共振器から出る前に、あるいは光子が消滅させられるかまたは吸収される前に、試料を通過する複数の放射経路が達成される。上述のように二重の経路が得られることで、生体試料140に付された蛍光標識に対する消光動作の効果を、これらの複数の経路によって強めることができ、蛍光の完全な消光を達成することができる。
【0077】
したがって光学消光システムはさらに、レーザ光源と、このレーザ光源の共振キャビティを規定する、ディスポーザブル品の上方と下方の2つのミラーと、を有することができる。
【0078】
なお、これらの実施形態のあらゆるすべてのものを、
図5に示した実施形態について説明した蛍光検出器およびコンピュータと結合することもできる、ということを理解されたい。よって、光源42,52,62,72および82を、蛍光シグナルの完全な消光が達成されるまで、フィードバック制御のもとにおくことができる。
【0079】
本発明による方法
これまで、例示的な蛍光イメージングシステム30および例示的な蛍光消光システム40の構成要素について説明してきたが、次にこの装置を用いる方法について説明する。なお、この方法によって、既述の実施形態における構成要素のあらゆるすべてのものを使用できる、ということを理解されたい。以下では、この方法全般について概略的に説明し、続いて
図10に示した固有のアルゴリズムについて述べる。
【0080】
本発明によるシステムによって、蛍光試薬により認識された生体試料における抗原などのような標的部分の検出、位置特定およびイメージングが可能となる。本発明のシステムによれば、細胞を固定化することができ、次いで蛍光試薬と接触させることができる。生体試料(たとえば細胞表面)における個々の抗原によって抗体が認識され、結合されていない蛍光試薬が除去され、蛍光部分が励起された後、蛍光試薬の蛍光放出によって、抗原の位置が検出される。
【0081】
蛍光放射の波長に対し十分な分解能と感度とを備えたディジタルイメージングデバイスによって、標的部分の位置特定が達成される。このディジタルイメージングデバイスを、たとえば蛍光顕微鏡などによる光学的拡大を伴って、または伴わずに、使用することができる。結果として得られたイメージが、ハードディスクドライブなどのような適切な記憶デバイスに、RAW,TIF,JPEGまたはHDF5のフォーマットで格納される。
【0082】
種々の抗原を検出する目的で、同じまたは異なる蛍光部分を有する種々の抗原認識部分を含む種々の蛍光試薬が供給される。それぞれ異なる波長を有する蛍光放出のパラレルな検出は制限を受けるので、蛍光試薬は順番に個々にまたは小グループ(2〜10)で相前後して使用される。この変形実施形態の場合には、適切な個数の検出器を使用することができる。好ましくは、フィルタにより1つの蛍光放出を除きすべてをマスクすることによって、様々な蛍光試薬の蛍光放出を順次検出するために、ただ1つの検出器が用いられる。
【0083】
本発明の1つの変形実施形態によれば、標本の生体試料が、特に細胞懸濁液が、マイクロキャビティにおけるトラップにより、または粘着により、固定化される。
【0084】
一般に本発明による方法を、複数のバリエーションで実施することができる。たとえば、標的部分によっても認識されない共役体を、蛍光試薬により標識された標的部分が検出される前に、たとえば緩衝剤による洗浄によって除去することができる。
【0085】
本発明の1つの変形実施形態によれば、少なくとも2つの蛍光試薬が、同時にまたは相次ぐ染色シーケンスで供給され、この場合、抗原認識部分各々がそれぞれ異なる抗原を認識する。
【0086】
プロセス時間を最適化する目的で、蛍光放出の除去を監視することができる。本発明によれば、当初の蛍光放出の5%よりも小さくなるまで、好ましくは1%よりも小さくなるまで、蛍光放出が低減されたときに、蛍光放出の除去が達成される。便宜上、蛍光の除去を最大放出波長のところで測定することができるけれども、放出スペクトルの積分を計算するのも適している。同時に2つ以上の蛍光試薬を供給するこの変形実施形態によれば、蛍光放出の低減は、測定される蛍光放出各々に基づく。
【0087】
本発明によるシステムおよび方法は、2つの光学システムすなわち蛍光イメージングシステム30と光学消光システム40とを含むこともできる。これら2つのシステムを、横方向で互いに隣り合うように、一般的には、標本を含むマイクロタイタプレート92の複数のウェルのうち1つのウェルの真下に、配置することができる。換言すれば、消光ユニットの光源を、横方向で蛍光システムと隣り合うように配置することができる。別の選択肢として、消光ユニットを作業平面の上方に配置することができる。マイクロタイタプレート90および92を、可動ステージ10の開口部内に配置することができ、可動ステージ10は、液体処理システム70に対し相対的に、または光学システム30および40に対し相対的に、ウェルを移動させる。
【0088】
一般に、マイクロタイタプレート92内に保持された複数の生体標本は、マイクロタイタプレート90内に保持された複数の試薬のうちの1つによって染色される。マイクロタイタプレート90の適切な液体ウェルをピペット70の下にポジショニングすることにより、ピペット70に吸引力を適用することで試薬を取り出すことができる。次いで、適切なウェルがピペット70の下になるまで、x−yステージを横方向にずらすことによって、試薬が適切な生体標本に供給される。試薬が生体標本に供給される。
【0089】
培養後、可動のx−yステージを移動させて、標本を蛍光イメージングシステム30の視野に入れることによって、蛍光イメージングシステム30により標本をイメージングすることができる。次いで、蛍光消光システム40の照射領域内に生体標本が配置されるように、x−y作業平面が横方向にずらされる。その後、光学的な放射、酸化または酵素分解および後続の洗浄によって、蛍光が消光される。適切な消光後にオプションとして、補正/制御の目的で標本がイメージングされ、次いで他の試薬が標本に適用されて、プロセスが繰り返される。複数のステップから成るこのシーケンスを、少なくとも1つの生体標本に対して多数の試薬の適用が完了するまで、繰り返すことができる。
【0090】
なお、緩衝剤の追加、洗浄、液体の追加または取り出し、冷却および加熱といった付加的なステップを、必要に応じて加えることができる、という点を理解されたい。
【0091】
図10は、
図1〜9を参照しながらこれまで説明してきた生体試料分析の自動化された分析ツールを使用するための固有の方法を示す簡略フローチャートである。この方法は、ステップS10で始まり、ステップS20に続く。ステップS20において、少なくとも1つの蛍光試薬により試料が染色されて培養される。この実施形態によれば、DAPIが適用され、これに続いてFITCおよびPEといった2つの蛍光試薬が適用される。培養中、生体試料が試薬を吸収することができる。ステップS30において、試薬が洗浄される。このステップにおいて、ピペットにより付加的な緩衝剤をウェルに加えることができる。その後、余分な液体がピペットにより取り出される。次いでステップS40において、試料が蛍光イメージングシステムの上にポジショニングされ、DAPIイメージが取得される。このイメージによって、核、ミトコンドリア等のような試料中の顕著な構造を識別することができる。イメージングステップと消光ステップとの合間にディスポーザブル品を再配置した後、イメージングシステムが標本を正確に同じ位置にポジショニングできるようにする目的で、これらの顕著な構造を目印として用いることができる。
【0092】
次いでステップS50において、FITC蛍光およびPE蛍光をイメージングするように、蛍光イメージングシステムを設定することができる。これらの条件のもとで取得されたイメージは、FITC蛍光体またはPE蛍光体に共役された抗体と試料との結合を表すことができる。後続のステップS60において、すべてのマーカのイメージングが完了したのか否かの質問が問い合わせられる。完了したのであれば、このプロセスはステップS70において終了する。付加的なマーカが残っているのであれば、ステップS80において、試料の蛍光が退色または消光される。この退色ステップを、ディスポーザブル品を機械的に横方向にずらし、標本が消光システムの上にポジショニングされるようにすることによって達成できる。
【0093】
したがってこのルーチンは、種々の配合物の適用の合間に消光システムによって蛍光シグナルを消光すること、を含むことができる。以前に識別された特徴または目印をコンピュータ制御のもとで位置特定することによって、標本をポジショニングし直すことができる。それぞれ異なる配合物が繰り返し適用されるときに同じ特徴が表示されるように、コンピュータは作業平面を移動させることができ、それによって適用されたそれぞれ異なる配合物による生体標本の比較ビューおよび相互作用が呈示される。
【0094】
次いで、ステップS40において取得されたイメージに関連させて標本を再配置するために、DAPIが再びイメージングされ、FITCおよびPEの蛍光イメージが再び取得される。蛍光が消光または消滅させられたならば、この方法はステップS20に戻り、このステップにおいて新たな染色が適用され、標本が培養される。
【0095】
本発明の1つの変形実施形態によれば、標本の再配置を、標本のDAPI染色によってではなく、標本を含むコンテナに蛍光マーカの粒子/スポットまたはドットを供給することによって、達成することができる。この変形実施形態は、標本がマイクロキャビティ内に隔離された細胞である場合に、特に有用である。
【0096】
図10のフローチャートには、蛍光の消光が完全には完了していない場合のループも示されており、その場合にはループが反復される。この方法は、フィードバック制御される蛍光消光システム40を用いた
図4に示した実施形態に最も密接に対応している。ステップS110において蛍光が測定され、蛍光が閾値レベルを下回ったか否かが判定される。既述のように、蛍光の除去を最大放出波長のところで測定することができるけれども、放出スペクトルの積分を計算するのも適している。本発明のこの変形実施形態によれば、制御ユニットおよび/または消光ユニットは、蛍光放出が消光により予め規定された閾値を下回るように除去されない場合には、消光プロセスが繰り返される、というように構成されている。たとえば蛍光放出の消光は、当初の蛍光放出の5%よりも小さくなるまで、好ましくは1%よりも小さくなるまで、蛍光放出が低減されたときに、達成されたとみなされる。達成されたのであれば、プロセスはステップS20に戻る。達成されないのであれば、ステップS80において消光プロセスが繰り返される。
【0097】
もっと一般的にいえばこの自動化された方法は、少なくとも1つの生体標本を蛍光染料と共にステージ上の開口部におけるコンテナ内に保持すること、蛍光システムによって、蛍光染料を励起し、蛍光染料から得られた蛍光シグナルをイメージングすること、開口部、ステージ、蛍光システムおよび消光ユニットのうちの少なくとも1つを、1つの作業平面を規定する少なくとも2つの直交する次元において、生体標本が消光ユニットと隣り合うまで移動させること、消光ユニットによって蛍光シグナルを消光すること、さらに消光後、生体標本をイメージングすること、を含むことができる。自動化されたこの方法はさらに、液体処理システムにより一連の液体を、生体標本を保持するコンテナに搬送すること、さらに蛍光染料の励起、蛍光シグナルの検出および収集ならびに蛍光シグナルの消光を含む1つのルーチンを、一連の液体を用いて自動化された手法で実行すること、を含むことができる。
【0098】
上述の記載において概略的に述べた例示的な具現化態様を参照しながら、種々の詳細な点について説明してきたけれども、公知の事項であれ、あるいは現時点では予見できないまたは予見できないであろう事項であれ、既述の開示内容を参酌すれば、種々の代替案、修正、変更、改善、および/または実質的な等価物が明らかになるであろう。さらに特定の方法に関する詳細、寸法、材料の使用、形状、製造技術等は、例示を意図して挙げたにすぎず、本発明はかかる実施形態に特定されるものではない。なお、システムおよび方法を任意の配向で実施できることは自明であるから、頂部、底部、左、右、前、後といった語句は、任意の事項である。以上のとおり、上述の例示的な具現化態様は、例示を意図したものであって、特定ではない。