【発明が解決しようとする課題】
【0009】
[発明の詳細な説明]
[技術的課題]
そこで、本発明者らはAIMP2−DX2及びHSP70の相互作用を研究中、HSP70がAIMP2−DX2に直接結合してAIMP2−DX2タンパク質を安定化させ、結果的にがん細胞の生存と分化に決定的な役割をすることを確認した。従って、HSP70とAIMP2−DX2との結合を抑制すると、細胞の分裂と増殖を抑制できることに着目して本発明を完成した。
【0010】
従って、本発明の目的は、
(a)試験物質の存在下又は非存在下で、AIMP2−DX2又はその断片と、HSP70又はその断片とを接触させる段階;
(b)試験物質の存在下又は非存在下でのAIMP2−DX2とHSP70との結合を測定する段階;
(c)試験物質の存在下でのAIMP2−DX2とHSP70との結合と、試験物質非存在下でのAIMP2−DX2とHSP70との結合とを比較して、試験物質によるAIMP2−DX2とHSP70との結合水準の変化を判断する段階;
(d)AIMP2−DX2とHSP70との結合水準を減少させる試験物質を選別する段階;及び
(e)選別された試験物質の抗がん活性を、細胞又は動物で確認する段階を含む抗がん剤スクリーニング方法を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、
前記抗がん剤スクリーニングの方法で選別された抗がん剤を有効成分として含むがんの予防又は治療用薬学的組成物を提供することである。
【0012】
また、本発明の他の目的は、
前記抗がん剤スクリーニングの方法で選別された抗がん剤を有効成分として構成されるがんの予防又は治療用薬学的組成物を提供することである。
【0013】
また、本発明の他の目的は、
前記抗がん剤スクリーニングの方法で選別された抗がん剤を有効成分として必須的に構成されるがんの予防又は治療用薬学的組成物を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、
がんの予防又は治療用製剤を製造するための、前記抗がん剤スクリーニング方法で選別された抗がん剤の使用を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、
前記抗がん剤スクリーニング方法で選別された抗がん剤の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とするがんの予防又は治療方法を提供することである。
【0016】
[技術的解決方法]
前記のような目的を達成するために、本発明は、
(a)試験物質の存在下又は非存在下で、AIMP2−DX2又はその断片と、HSP70又はその断片とを接触させる段階;
(b)試験物質の存在下又は非存在下でのAIMP2−DX2とHSP70との結合を測定する段階;
(c)試験物質の存在下でのAIMP2−DX2とHSP70との結合と、試験物質非存在下でのAIMP2−DX2とHSP70との結合とを比較して、試験物質によるAIMP2−DX2とHSP70との結合水準の変化を判断する段階;
(d)AIMP2−DX2とHSP70との結合水準を減少させる試験物質を選別する段階;及び
(e)選別された試験物質の抗がん活性を、細胞又は動物で確認する段階を含む抗がん剤スクリーニング方法を提供する。
【0017】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、
前記抗がん剤スクリーニングの方法で選別された抗がん剤を有効成分として含む抗がん用組成物を提供する。
【0018】
また、本発明の他の目的を達成するために本発明は、
有効成分として、前記抗がん剤スクリーニングの方法で選別された抗がん剤からなる抗がん用組成物を提供する。
【0019】
また、本発明の他の目的を達成するために本発明は、
有効成分として、本質的に、前記抗がん剤スクリーニングの方法で選別された抗がん剤からなる抗がん用組成物を提供する。
【0020】
本発明の他の目的を達成するために本発明は、
がんの予防又は治療用製剤を製造するための、前記抗がん剤スクリーニング方法で選別された抗がん剤の使用を提供する。
【0021】
本発明の他の目的を達成するために本発明は、
前記抗がん剤スクリーニング方法で選別された抗がん剤の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とするがん治療方法を提供する。
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明は、
(a)試験物質の存在下又は非存在下で、AIMP2−DX2又はその断片と、HSP70又はその断片とを接触させる段階;
(b)試験物質の存在下又は非存在下でのAIMP2−DX2とHSP70との結合を測定する段階;
(c)試験物質の存在下でのAIMP2−DX2とHSP70との結合と、試験物質非存在下でのAIMP2−DX2とHSP70との結合とを比較して、試験物質によるAIMP2−DX2とHSP70との結合水準の変化を判断する段階;
(d)AIMP2−DX2とHSP70との結合水準を減少させる試験物質を選別する段階;及び
(e)選別された試験物質の抗がん活性を、細胞又は動物から確認する段階を含む抗がん剤スクリーニング方法を提供する。
【0024】
本発明者らはHSP70が、元来の機能の他に、AIMP2−DX2に結合してAIMP2−DX2タンパク質を分解されないように安定化させ、AIMP2−DX2による腫瘍細胞の分化と成長を促進させる作用を示すことを発見した。HSP70の発現を抑制してAIMP2−DX2と反応することができるHSP70の水準を減少させるか、又はHSP70とAIMP2−DX2の反応を直接阻害することができる因子は、AIMP2−DX2タンパク質の水準を減少させ、結果的に腫瘍細胞の成長と分化が阻害されるようにする。本発明者らは、このようなHSP70とAIMP2−DX2の機能的な関係に対する発見に基づいて、HSP70とAIMP2−DX2との結合を阻害することができる製剤をスクリーニングして、抗がん剤として選別することができる抗がん剤スクリーニング方法を本明細書で初めて公開する。
【0025】
前記(a)試験物質の存在下又は非存在下で、AIMP2−DX2又はその断片と、HSP70又はその断片とを接触させる段階である。
【0026】
本発明で“タンパク質”は“ポリペプチド(polypeptide)”又は“ペプチド(peptide)”と互換性を有して使用され、例えば、自然状態のタンパク質から一般的に発見されるような、アミノ酸残基の重合体を意味する。前記“断片”は、タンパク質の一部分を意味する。また、本発明で“ポリヌクレオチド(polynucleotide)”又は“核酸”は、単一の又は二重鎖の形態をなすデオキシリボヌクレオチド(DNA)又はリボヌクレオチド(RNA)を意味する。他の制限がない限り、自然に生成されるヌクレオチドと類似した方法で核酸に混成化される自然のヌクレオチドの公知のアナログも含まれる。“mRNA”は、タンパク質合成の過程で、特定の遺伝子の塩基配列の遺伝情報を、ポリペプチドを形成するリボソームに伝達するRNAである。
【0027】
本発明で、前記“AIMP2−DX2”は、AIMP2タンパク質配列(312aa version:AAC50391.1またはGI:1215669; 320aa version:AAH13630.1,GI:15489023, BC013630.1)の中のエキソン2の領域が欠失された変異体として、AIMP2同等物(アミノ酸配列の置換、欠失、挿入、またはこれらの組み合わせによる変形体として、AIMP2と実質的に同等の活性を有する機能的同等物、または物理化学的性質を増加または減少させる変形を有し、AIMP2と実質的に同等の活性を有する機能的誘導体)からエキソン2の領域が欠失されたタンパク質を含む。本発明で、AIMP2タンパク質配列のうち“エキソン2の領域が欠失”したとは、AIMP2タンパク質からエキソン2領域のアミノ酸配列が部分的に、又は全体的に失われて生じた変異体が、AIMP2タンパク質とヘテロダイマーを形成して、AIMP2の正常的な機能を妨害することを意味する。従って、AIMP2−DX2タンパク質は、AIMP2タンパク質のエキソン2のアミノ酸配列がすべて欠失されたり、この領域のアミノ酸配列を含むエキソン1、エキソン3、エキソン4、又はこれらの領域の全てから、これらの領域の一部も欠失されたり、エキソン2のアミノ酸配列の一部のみが欠失されたタンパク質を含む。
【0028】
本発明の方法を実施するためのAIMP2−DX2タンパク質は、好ましくは、ヒトを含む哺乳類に由来するものでもあって、最も好ましくは、配列番号1で示されるヒトのAIMP2−DX2タンパク質のアミノ酸配列を含むものでもある。
【0029】
また、前記AIMP2−DX2の断片は、AIMP2−DX2においてHSP70との結合に必要な部分を含む断片を意味する。本発明者らは、AIMP2−DX2のタンパク質から、AIMP2部分ではなく、DX2部分が、HSP70と結合することを確認した。従って、本発明を実施するためのAIMP2−DX2の断片は、配列番号1で表示されるヒトのAIMP2−DX2アミノ酸配列から1乃至87番目のアミノ酸を含んでいることが好ましく、最も好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列であることができるが、これに限定されるものではない。
【0030】
本発明で、“HSP70”は、熱衝撃タンパク質70(Heat Shock Protein,HSP)であって、タンパク質の恒常性の維持に核心的な役割をする分子的シャペロンである。HSP70は、低酸素症のようなストレス状況で、細胞の生存にとって重要である。一方、HSP70は、広範囲の腫瘍[Morano KA、Annals of the New York Academy of Sciences、1113:1-14、2007;Calderwood SK et al、Trends in biochemical sciences、31:164-72、2006]で多く発現される。HSP70の発現は、いくつかのがんで腫瘍細胞の増殖、分化、アポトーシス(apoptosis)との相関関係があることが明らかにされており、これはHSP70自体が有する細胞保護役割のために、がん細胞の生存に重要な役割を示している。HSP70の過剰発現は、マウス繊維肉腫細胞の腫瘍形成を誘発して、遺伝子導入されたマウスのT−細胞内HSP70が過剰発現されると、そのマウスのT細胞リンパ腫の増加を誘発すると報告されている[Jaattela M、International journal of cancer Journal international ducancer、60:689-93、1995;Seo JS et al、Biochemical and biophysical research communications、218:582-7、1996;Volloch VZ et al、Oncogene、18:3648-51、1999;Murphy ME、Carcinogenesis、34:1181-8、2013]。
【0031】
本発明の方法を実施するためのHSP70タンパク質は、好ましくは、ヒトを含む哺乳動物に由来するものでもあって、最も好ましくは、配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むものでもある。
【0032】
また、前記HSP70の断片は、AIMP2−DX2との結合に必要な部分を含んでいる断片を意味する。本発明者らは、AIMP2−DX2が、HSP70の基質結合ドメイン(Substrate binding domain)部位に結合することを確認した。具体的には、ヒトのHSP70のアミノ酸(配列番号3)配列における385乃至536番目のアミノ酸(配列番号4)を含む断片が、AIMP2−DX2と結合することを明らかにした。従って、本発明を実施するためのHSP70の断片は、配列番号3における385乃至536番目のアミノ酸(配列番号4)配列を含む断片でもある。
【0033】
また、本発明に係るAIMP2−DX2又はその断片、さらに、HSP70又はその断片は、これらの機能的同等物を含んでいる。前記“機能的同等物”とは、前記AIMP2−DX2とその断片、さらに、HSP70又はこれらの断片のアミノ酸配列と少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の配列相同性(つまり、同一性)を有するポリペプチドを意味するもので、配列番号1で示されるAIMP2−DX2と、配列番号3で示されるHSP70のポリペプチドと実質的に同質の生理活性を示すポリペプチドを意味する。ここで“実質的に同質の生理活性”とは、野生型AIMP2−DX2と野生型HSP70との間の直接的で特異的な結合を再現できることを意味する。つまり、AIMP2−DX2の断片の機能的同等物は、全体の長さのHSP70又はその断片に結合することができる活性を有するものであり、HSP70の断片の機能的同等物とは、全体の長さのAIMP2−DX2又はAIMP2−DX2におけるHSP70に結合する部位に結合できる活性を有するものを意味する。前記機能的同等物は、アミノ酸配列の一部が付加、置換又は欠失された結果、生成されたものでもある。前記でアミノ酸の置換は好ましくは保存的置換である。天然に存在するアミノ酸の保存的置換の例は、以下の通りである;脂肪族アミノ酸(Gly、Ala、Pro)、疎水性アミノ酸(Ile、Leu、Val)、芳香族アミノ酸(Phe、Tyr、Trp)、酸性アミノ酸(Asp、Glu)、塩基性アミノ酸(His、Lys、Arg、Gln、Asn)及び硫黄含有アミノ酸(Cys、Met)、又は前記機能的同等物には、アミノ酸配列上でアミノ酸の一部が欠失された変形体も含まれる。前記アミノ酸の欠失又は置換は、好ましくは、本発明のポリペプチドの生理活性に直接的に関連していない領域に位置している。また、アミノ酸の欠失は好ましくは、AIMP2−DX2又はHSP70ポリペプチドの生理活性に直接関与していない部分に位置する。従って、前記アミノ酸配列の両末端又は配列内に幾つかのアミノ酸が付加された変形体も含まれる。また、本発明の機能的同等物の範囲には、本発明によるポリペプチドの基本骨格及びその生理活性を維持しながら、ポリペプチドの一部の化学構造が変形されたポリペプチド誘導体も含まれる。例えば、本発明のポリペプチドの安定性、貯蔵性、揮発性又は溶解度等を変更させるための構造変更がこれに含まれる。
【0034】
本発明の方法で“接触(contacting)”とは、一般的な意味であり、2つ以上の製剤(例えば、2つのポリペプチド)を結合させたり、製剤と細胞(例えば、タンパク質と細胞)を結合させることを意味する。接触は試験管内(in vitro)で起こり得る。例えば、試験管(test tube)又は他のコンテナ(container)で2つ以上の製剤を結合させたり、試験製剤と細胞とを、又は細胞溶解物と試験製剤とをを結合させることである。また、接触は、細胞又はインシチュー(in situ)で起こることもある。例えば、2つのポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドを細胞内で共同発現(coexpression)させることで、細胞又は細胞溶解物から2つのポリペプチドを接触させることである。また、テストしようとするタンパク質が固定相の表面に配列されたタンパク質チップ(protein chip)やタンパク質アレイ(protein array)を利用することもできる。
【0035】
本発明の方法を、細胞内で実施するときには、AIMP2−DX2とHSP70は、細胞内在的に発現されることを利用したり、AIMP2−DX2やその断片、HSP70又はその断片をコードする核酸を細胞内に導入して形質転換させることで過発現されるようにして、実施することができる。また、本発明の方法を試験管内又はタンパク質アレイのようなin situで実施するときには、AIMP2−DX2又はその断片、HSP70又はその断片は、天然から抽出したり、遺伝工学的方法により製作して準備することができる。例えば、通常の方法によって、前記ポリペプチド又はその機能的同等物をコードする核酸と組換えて発現ベクターを作製して、適切な宿主細胞において発現させて得ることができる。また、本発明の方法を実施するために必要な前記ポリペプチドは、当業界において公知である化学的合成方法でも製作することができる。
【0036】
また、本発明の方法で“試験物質”とは、試験製剤(test agent)又は製剤(agent)と互換可能に使用することができるもので、任意の物質(substance)、分子(molecule)、元素(element)、化合物(compound)、実在物(entity)又はこれらの組み合わせを含む。例えばタンパク質、ポリペプチド、低分子有機化合物(small organic molecule)、多糖類(polysaccharide)、ポリヌクレオチドなどを含む。また、天然産物(natural product)、合成化合物又は化学化合物又は2つ以上の物質の組み合わせでもある。
【0037】
具体的には、本発明の方法を通じて選別される抗がん剤は、AIMP2−DX2とHSP70とのタンパク質結合を阻害したり、HSP70と結合できるAIMP2−DX2タンパク質の発現水準を下げることができるものであれば物質の特性に制限されず、例えば、siRNA、shRNA、miRNA、ribozyme、DNAzyme、PNA(peptide nucleic acid)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、抗体、アプタマー、ペプチド、天然抽出物、及び化学物質などでもある。好ましくは、AIMP2−DX2の発現を下げることができるshRNA、siRNA又は化学物質でもあるがこれに限定されるものではない。
【0038】
前記(b)段階は、(a)段階で試験物質の存在下又は非存在下で接触させたAIMP2−DX2とHSP70との結合を測定する段階である。
【0039】
前記AIMP2−DX2とHSP70との結合を測定する段階は、二つのタンパク質の結合程度を測定するために、当業界で通常的に使用されるものであれば制限なく選択して使用することができる。例えば、ツーハイブリッド(two hybrid)方法、共免疫沈降方法(co-immunoprecipitation assay、 co-IP)、組織免疫染色と共局所化分析(co-localization assay)、シンチレーション(閃光)近接測定法(scintillation proximity assay,SPA)、UV又は化学的架橋結合方法、二分子相互作用分析(bimolecular interactionan alysis、BIA)、質量分析法(mass spectrometry,MS)、NMR(nuclear magnetic resonance)、蛍光偏光分析法(fluorescence polarization assays,FPA)及び試験管内プル−ダウンアッセイ(in vitro pull-down assay)、ELISA(enzyme linked immunosorbent assay)、タンパク質チップ(protein chip)又はアレー(array)、Venus BiFC(bimolecular fluorescence complementation,BiFC)などから適宜選択して、AIMP2−DX2とHSP70との結合を測定することができる。
【0040】
本発明の具体的な実施例では、細胞内にHA、Strep、放射性同位元素等で適切に標識されたDX2とHSP70を過発現させ、co−IP実験を行ったり、GST pull−down実験を利用して、DX2に結合しているHSP70タンパク質の水準を測定したり、逆にHSP70に結合しているDX2のタンパク質の水準を測定した。
【0041】
前記(c)段階は、(b)で測定した試験物質の存在下でのAIMP2−DX2とHSP70との結合と、試験物質非存在下でのAIMP2−DX2とHSP70との結合とを比較して、試験物質によるAIMP2−DX2とHSP70との結合水準の変化を判断する段階である。
【0042】
つまり、(b)段階で導出された試験物質の存在下又は非存在下で接触させたAIMP2−DX2とHSP70とのタンパク質の結合水準の差を把握して、試験物質がAIMP2−DX2とHSP70との結合に及ぼす影響を判断する段階である。
【0043】
前記(d)段階は、AIMP2−DX2とHSP70との結合水準を減少させる試験物質を選別する段階である。
【0044】
本発明者らは、具体的な実施例で、AIMP2−DX2とHSP70とは細胞内で特異的に直接結合し、HSP70との結合を通じてAIMP2−DX2は分解されないように安定化され、結果的にAIMP2−DX2による細胞の増殖と分化が維持されることを確認した。AIMP2−DX2タンパク質の安定化は、HSP70タンパク質との直接的な結合を通じて行われるもので、AIMP2−DX2タンパク質がHSP70タンパク質から解離されると、AIMP2−DX2タンパク質が不安定になり、分解されてその水準が減少するようになり、結果的にAIMP2−DX2による細胞の増殖と分化が阻害される。このような効果は、HSP70の発現を抑制するsiRNA又はHSP70阻害剤を利用して確認することができた。AIMP2−DX2とHSP70との間の結合を抑制することにより、非正常的に細胞分裂するがん細胞の発生と増殖を抑制できることが分かった。
【0045】
また、他の実施例では、腫瘍発生関連細胞実験と異種移植(xenograft)の動物実験を通じて、AIMP2−DX2とHSP70との間の結合を抑制すると、がん細胞の増殖、腫瘍の形成と成長が抑制されることを確認した。
【0046】
以上の本発明者らの発見を通じて、当業者は、AIMP2−DX2とHSP70との間の結合を抑制又は結合水準を減少させる物質が、AIMP2−DX2を不安定にしてがん細胞の増殖と分化を抑制できることが分かる。前記AIMP2−DX2とHSP70との結合水準を減少させる物質は、代表的には、AIMP2−DX2とHSP70との結合自体を阻害する物質、又はAIMP2−DX2と結合可能なHSP70タンパク質の量を減少させる物質でもある。本発明の抗がん剤スクリーニング方法によって選別された抗がん剤に対する具体的な例は、本発明によるがんの予防又は治療用薬学的組成物に対する説明に記述されている。
【0047】
前記(e)段階は、(d)段階で選別された物質の抗がん活性を細胞又は動物で確認する段階である。
【0048】
(e)段階は、(d)段階でAIMP2−DX2とHSP70との結合水準を減少させるものに選別された試験物質が、具体的にがん又は腫瘍モデルの細胞又は動物からAIMP2−DX2タンパク質の不安定化と予測される抗がん活性を有するかを確認する段階である。前記抗がん活性は、非正常的な細胞分裂の増加、正常細胞のがん細胞への転換、がん細胞の細胞分裂と増殖、腫瘍の発生と成長などを抑制することを意味する。
【0049】
前記がん又は腫瘍モデルの細胞又は動物は、当業界で通常的に使用されるものであれば適宜選択して、(d)段階で選別された物質の抗がん活性を確認することができる。本発明の具体的な実施例では、ヒトのがん細胞株をマウスに注入する異種移植を利用して、体内腫瘍の発生と形成過程を観察している。
【0050】
本発明に係る抗がん剤スクリーニング方法は、前記(d)と(e)段階の間に追加的に
(1)試験物質を、AIMP2−DX2を発現する細胞に接触させる段階;
(2)前記細胞と試験物質とを接触しない対照群細胞でAIMP2−DX2タンパク質の水準を測定する段階;及び
(3)対照群細胞と比較してAIMP2−DX2タンパク質の水準を減少させる試験物質を選別する段階を実施することができる。
【0051】
本発明によれば、AIMP2−DX2が分解されないように安定化するにはHSP70との直接的な結合が必要なため、AIMP2−DX2とHSP70との結合水準が減少すると、AIMP2−DX2のタンパク質水準が減少することを理解できる。前記(1)乃至(3)の段階は、(d)段階でAIMP2−DX2とHSP70との結合水準を減少させるものに選別された試験物質が、AIMP2−DX2タンパク質の水準を減少させるか否かをさらに確認することである。前記の追加的な段階は、(d)段階でAIMP2−DX2とHSP70との結合水準を減少させる製剤として選別されたが、偽陰性(false-positive)である場合、又はAIMP2−DX2とHSP70との結合を阻害する水準がAIMP2−DX2の不安定化を引き起こすことに不足した場合を判断して除去するために、実施することができる。
【0052】
前記(1)段階は、(d)段階で選別された試験物質をAIMP2−DX2を発現する細胞に接触させる段階である。
【0053】
前記AIMP2−DX2を発現する細胞は、AIMP2−DX2を内在的に発現する細胞でもあって、AIMP2−DX2をコードするポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターに形質転換されてAIMP2−DX2を過剰発現する細胞でもある。例えば、AIMP2−DX2を発現する多様ながん細胞株の中から適宜選択して、試験物質のAIMP2−DX2不安定化効果を検証することができる。前記“接触”の意味は先に説明した通りである。
【0054】
前記(2)段階は、(1)段階で試験物質と接触した細胞と試験物質を接触していない対照群細胞からAIMP2−DX2タンパク質水準を測定する段階である。
【0055】
前記AIMP2−DX2タンパク質の水準を測定するために、当業界で通常に使用されるタンパク質検出方法を制限なく選択して使用することができ、例えば、ウェスタンウェスタンブロット(western blotting)、ドットブロッティング(dot blotting)、酵素結合免疫吸着分析法(enzyme linked immunosorbent assay,ELISA)、放射免疫分析法(RIA)、放射免疫拡散法、オウクテロニ免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、免疫組織化学染色、免疫沈降法(immunoprecipitation)、補体固定分析法、フローサイトメトリー(FACS)又はタンパク質チップ(chip)方法などを使用することができる。
【0056】
前記(c)段階は、対照群の細胞と比較してAIMP2−DX2タンパク質の水準を減少させる試験物質を選別する段階である。
【0057】
前記(c)段階は、先に(b)のステップで測定した試験物質を接触した細胞と接触していない対照群細胞とで測定したAIMP2−DX2タンパク質の水準を比較し、AIMP2−DX2タンパク質水準が実際に減少したことが示された試験物質をさらに選別することになる。
【0058】
本発明では、前記がんは乳がん、肺がん、結腸がん、肛門がん、星状細胞腫、白血病、リンパ腫、頭頸部がん、肝臓がん、睾丸がん、子宮頸部がん、肉腫、血管腫、食道がん、眼がん、喉頭がん、経口がん、中皮腫、骨髄腫、口腔がん、直腸がん、咽喉がん、膀胱がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、大腸がん、膵臓がん、腎臓がん、胃がん、皮膚がん、基底細胞がん、黒色腫、扁平上皮がん腫、口腔扁平上皮がん腫、大腸直腸がん、膠芽腫(膠細胞腫)、子宮内膜がん及び悪性脳膠腫からなる群から選ばれ得るがこれらに限定されるものではない。
【0059】
さらに、本発明は、本発明に係る抗がん剤スクリーニングの方法で選別された抗がん剤を有効成分として含むがんの予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0060】
また、本発明は、有効成分として、本発明に係る抗がん剤スクリーニングの方法で選別された抗がん剤からなるがんの予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0061】
また、本発明は、有効成分として、本質的に、本発明に係る抗がん剤スクリーニングの方法で選別された抗がん剤からなるがんの予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0062】
本発明の方法により選別された抗がん剤は、AIMP2−DX2とHSP70との結合水準を減少させ、AIMP2−DX2タンパク質を不安定化してがん細胞の増殖と分化を抑制できるものであれば物質の特性に特別な制限はないが、作用機作によって代表的にAIMP2−DX2とHSP70二つのタンパク質の結合自体を阻害する物質又はHSP70の発現を抑制してHSP70と結合可能なAIMP2−DX2タンパク質の水準をさげる物質を考えてみる。
【0063】
本発明の方法で選別された抗がん剤は具体的にはsiRNA、shRNA、miRNA、リボザイム、DNAザイム、PNA(peptide nucleic acid)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、抗体、アプタマー、ペプチド、天然抽出物及び化学物質からなる群から選ばれたものでもある。
【0064】
本発明者らはHSP70に特異的なsiRNA(si−HSP70)、又はHSP70阻害剤を使用して、がん細胞から、HSP70の発現を抑制するとHSP70に結合したAIMP2−DX2の水準が減少してAIMP2−DX2タンパク質が分解して減少し、結果的にAIMP2−DX2によるがん細胞の増殖と分化が抑制されることを確認した。
【0065】
これは、siRNA又はHSP70阻害剤などHSP70の発現を抑制できる製剤は、がん疾患の予防又は治療に効果的に利用できることを示した。
【0066】
従って、本発明に係る抗がん剤スクリーニングで選別された抗がん剤は、HSP70特異的なsiRNA、shRNA、又はHSP70阻害剤でもある。前記siRNA又はshRNAは、HSP70mRNAに特異的に結合してmRNAの分解を誘導することができる10乃至30個の塩基配列からなり、当業界において公知の方法により通常の技術者が容易に製作することができる。
【0067】
本発明の具体的な実施例では、下記化学式1の化合物がAIMP2−DX2とHSP70との結合を濃度依存的に阻害し、結果的にAIMP2−DX2が不安定化してその発現が阻害されることによりがん細胞の増殖と分化が抑制されることを確認した。
【0068】
【化1】
【0069】
本発明に係るがんの予防又は治療用薬学的組成物は、経口的又は非経口的に投与することができる。非経口的投与方法は、これに限定はされないが、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、境膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下又は直腸内投与でもあって、好ましくは血管内投与でもある。
【0070】
また、本発明に係るがん疾患の予防又は治療用組成物は、薬学的に許容される担体と共に、当業界において公知の方法で、投与経路により多様に剤形化することができる。“薬学的に許容される”とは、生理学的に許容されてヒトに投与されるとき、活性成分の作用を阻害しない、通常的に胃腸障害、めまいのようなアレルギー反応又はこれと類似した反応を起こさない非毒性の組成物を意味する。前記担体には全ての種類の溶媒、分散媒質、水中油又は油中水エマルジョン、水性組成物、リポソーム、マイクロビーズ及びマイクロソームが含まれる。
【0071】
本発明の薬学的組成物を非経口的に投与する場合、本発明の組成物は、適切な非経口用担体と共に、注射剤、経皮投与剤及び鼻腔吸込剤の形態で、当該技術分野で公知の方法により製剤化することができる。前記注射剤の場合には、必ず滅菌しなければならず、バクテリア、真菌のような微生物の汚染から保護されるべきである。注射剤の場合、適切な担体の例としては、これに限定されないが、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール等)、これらの混合物及び/又は植物油を含む溶媒又は分散媒質でもある。より好ましくは、適切な担体としては、ハンクス溶液、リンゲル液、トリエタノールアミンが含有されたPBS(phosphate buffered saline;リン酸緩衝生理食塩水)又は注射用滅菌水、10%エタノール、40%プロピレングリコール及び5%デキストローズのような等張溶液などを使用することができる。前記注射剤を微生物汚染から保護するためには、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、ティーメロサルなどのような多様な抗菌剤及び抗真菌剤をさらに含むことができる。また、前記注射剤は、殆どの場合、糖又は塩化ナトリウムのような等張化剤をさらに含むことができる。
【0072】
経皮投与剤の場合、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、外用液剤、パスタ剤、リニメント剤、エアロゾル剤などの形態が含まれる。前記で“経皮投与”とは、本発明の組成物を局所的に皮膚に投与して組成物に含有された有効な量の活性成分が皮膚内に伝達されることを意味する。例えば、本発明の組成物を注射型剤形で製造してこれを30ゲージの細い注射針で皮膚を軽く淡刺(prick;プリック)又は皮膚に直接的に塗布する方法で投与することができる。これらの剤形は、製薬化学において一般的に公知である処方の文献(Remington’s Pharmaceutical Science、15th Edition、1975、Mack Publishing Company、Easton、Pennsylvania)に記述されている。
【0073】
吸込投与剤の場合、本発明に係る組成物は、適切な推進剤、例えば、ジクロロフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素又は他の適切な基体を使用して、加圧パック又は煙霧器からエアロゾルスプレーの形態で伝達すことができる。加圧エアロゾルの場合、投薬単位は計量された量を伝達するバルブを提供して決定することができる。例えば、吸込器又は吹込器に使用されるゼラチンカプセル及びカートリッジは、化合物及びラクトース又は澱粉のような適切な粉末基剤の粉末混合物を含有するように製剤化することができる。
【0074】
その他の薬学的に許容される担体としては、次の文献に記載されていることを参考にすることができる(Remington’s Pharmaceutical Sciences、19thed.、Mack Publishing Company、Easton、PA、1995)。
【0075】
また、本発明に係る薬学的組成物は、一つ以上の緩衝剤(例えば、食塩水またはPBS)、カーボハイドレート(例えば、グルコース、マンノース、スクロースまたはデキストラン)、抗酸化剤、静菌剤、キレート化剤(例えば、EDTAまたはグルタチオン)、アジュバント(例えば、アルミニウムヒドロキシサイド)、懸濁剤、濃厚剤及び/又は保存剤をさらに含むことができる。
【0076】
また、本発明の薬学的組成物は、哺乳動物に投与された後、活性成分の迅速化、遅速化又は遅延化された放出を提供することができるように、当業界に公知の方法を使用して、多様に剤形化することができる。本発明の組成物は、また、がん疾患を予防又は治療する効果がある公知の化合物と併用して投与することができる。
【0077】
本発明は、がんの予防又は治療用製剤を製造するための、前記抗がん剤スクリーニング方法で選別された抗がん剤の使用を提供する。
【0078】
本発明は、前記抗がん剤スクリーニング方法で選別された抗がん剤の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とするがん治療方法を提供する。
【0079】
本発明の前記“有効量”とは、個体に投与したとき、がんの改善、治療、予防、検出、診断、又はがん転移抑制又は減少効果を示す量を意味し、前記“個体”とは、動物、好ましくは哺乳動物、特にヒトを含む動物でもあって、動物に由来する細胞、組織、器官等でもある。前記個体は、前記の効果が必要な患者(patient)でもある。
【0080】
本発明の前記“治療”とは、がん又はがん関連疾患の症状を改善させることを包括的に指して、これはこれらの疾患を治癒したり、実質的に予防するか、又は状態を改善させることを含むことができ、がん又はがん関連疾患から始まった一つの症状又は殆どの症状を緩和させたり、癒したり、予防することを含むが、これに制限されるものではない。
【0081】
本発明の用語“〜を含む(comprising)”とは、“含有する”又は“特徴とする”と同じく使用され、組成物又は方法において、記載されていない追加的な成分、要素又は方法段階などを排除しない。用語“〜からなる(consisting of)”とは別に記載されていない追加的な要素、段階又は成分などを除外することを意味する。用語“本質的に〜からなる(essentially consisting of)”とは、組成物又は方法の範囲において、記載された成分の要素又は段階と共に、これの基本的な特性に実質的に影響を与えない成分要素又は段階などを含むことを意味する。