特許第6914503号(P6914503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6914503-マイクロニードル塗布物 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6914503
(24)【登録日】2021年7月16日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】マイクロニードル塗布物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/36 20060101AFI20210727BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20210727BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20210727BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20210727BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20210727BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20210727BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20210727BHJP
   A61M 37/00 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   A61K47/36
   A61K47/26
   A61K47/10
   A61K47/38
   A61K47/34
   A61K47/32
   A61K9/08
   A61M37/00 500
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-18001(P2017-18001)
(22)【出願日】2017年2月2日
(65)【公開番号】特開2017-137311(P2017-137311A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2020年1月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-18844(P2016-18844)
(32)【優先日】2016年2月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501296380
【氏名又は名称】コスメディ製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】権 英淑
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 美生
(72)【発明者】
【氏名】北岡 翔太
(72)【発明者】
【氏名】神山 文男
【審査官】 飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/148994(WO,A1)
【文献】 特表2008−510520(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/139648(WO,A1)
【文献】 特開2011−224308(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/115207(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00−47/69
A61K 9/00− 9/72
A61M 37/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Science Direct
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性多糖類と単糖類及び/又は2糖類と界面活性剤と水溶性多価アルコールとを基剤の必須成分とする水溶液からなるマイクロニードル用塗布液であって、
基剤中の水溶性多糖類は2〜60質量%、単糖類及び/又は2糖類は30〜95質量%、界面活性剤は0.05〜5質量%、水溶性多価アルコールは10質量%以下であり、
前記水溶性多糖類はヒドロキシプロピルセルロース、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デキストラン、及びカルボキシメチルセルロースからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物であり、
前記単糖類はグルコースであり、前記2糖類はスクロース若しくはトレハロースである、マイクロニードル用塗布液。
【請求項2】
乾燥後の塗布物の硬さが10N以上であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロニードル用塗布液。
【請求項3】
前記界面活性剤がポリソルベート80、ポリソルベート20及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロニードル用塗布液。
【請求項4】
前記水溶性多価アルコールがグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール及び分子量500以下のポリエチレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロニードル用塗布液。
【請求項5】
溶液粘度が100mPa・s以上2500mPa・s以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のマイクロニードル用塗布液。
【請求項6】
マイクロニードル用塗布液の基剤100重量部に対し薬効成分を最大40重量部含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のマイクロニードル用塗布液。
【請求項7】
さらにポリビニルピロリドンを基剤として含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載のマイクロニードル用塗布液。
【請求項8】
基剤中の前記水溶性多糖類とポリビニルピロリドンの合計が2〜60質量%であることを特徴とする請求項7に記載のマイクロニードル用塗布液。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のマイクロニードル用塗布液をマイクロニードルに塗布し乾燥させる工程を含む、マイクロニードル塗布物の製造方法。
【請求項10】
前記水溶性多糖類がヒドロキシプロピルセルロース、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸及びカルボキシメチルセルロースからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物であり、
前記単糖類がグルコースであり、前記2糖類がスクロース若しくはトレハロースであり、
前記界面活性剤がポリソルベート80、ポリソルベート20及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物であり、
前記水溶性多価アルコールがグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール及び分子量500以下のポリエチレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物である
ことを特徴とする請求項9に記載のマイクロニードル塗布物の製造方法。
【請求項11】
さらにポリビニルピロリドンを基剤として含有し、基剤中の水溶性多糖類とポリビニルピロリドンの総量が2〜60質量%であることを特徴とする請求項9又は10に記載のマイクロニードル塗布物の製造方法。
【請求項12】
針長さは350μm以上900μm以下であり、針先端部頂点の直径は20μm以上100μm以下であり、マイクロニードル塗布物を針先端部に有するマイクロニードルアレイの製造方法であって、
請求項1〜8のいずれか1項に記載のマイクロニードル用塗布液を、針長さは350μm以上900μm以下であり、針先端部頂点の直径は20μm以上100μm以下であるマイクロニードルアレイの針先端部に塗布し、乾燥させる工程を含み、
乾燥後の該塗布物の下端は針の根元から200μm以上であることを特徴とするマイクロニードルアレイの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードルに薬剤を塗布するための塗布液とそれがマイクロニードル先端部で乾燥された塗布物に関する。
【背景技術】
【0002】
薬効成分の経皮的投与法において皮膚角質層は薬物透過のバリアとして働き、単に皮膚表面に薬効成分を塗布するだけでは薬効成分は十分に透過しない。これに対し微小な針、すなわちマイクロニードルを用いて角質層を穿孔することにより、塗布法より薬効成分透過効率を格段に向上させることができる。このマイクロニードルを基板上に多数集積したものがマイクロニードルアレイである。また、マイクロニードルアレイに、マイクロニードルアレイを皮膚に付着させるための粘着テープや使用まで無菌状態を維持するためのカバーシートなどを付加して使用しやすい製品としたものをマイクロニードルパッチという。ここにテープとは、フィルム、もしくは布又は紙に粘着剤を塗布したものをいう。
【0003】
マイクロニードルに薬効成分を保持させるには、2つの方法がよく知られている。一は、体内で溶解しうるマイクロニードル素材にあらかじめ薬効成分を混入させておき、その混合物をマイクロニードル状に固化させて薬効成分含有マイクロニードルとする方法である。他は、あらかじめ製造したマイクロニードルに薬効成分を含有した溶液を塗布し、乾燥させて薬効成分付着マイクロニードルとする方法である。本出願は、後者の方法において、適切な薬効成分を溶解した塗布液を調製する技術に関する。
なお、マイクロニードルに塗布する溶液を塗布液、塗布し乾燥した後マイクロニードルに付着しマイクロニードルの一部となったものを塗布物という。
【0004】
電極を兼ねたマイクロニードルに薬効成分を塗布すること(特許文献1)や、金属製のマイクロニードルに薬効成分を塗布すること(特許文献2)はすでに報告されている。マイクロニードルに薬効成分を定量的に塗布しようとする装置も公表されている(特許文献3)。しかし、これらの薬効成分塗布の試みに対し、塗布では薬効成分の定量的保持が困難であり、また薬効成分を塗布されたマイクロニードルを皮膚に刺入しようとしたとき薬効成分が剥がれ落ちる欠点があることが知られてきた。これに対し、薬効成分溶液にマイクロニードル素材と同じような水溶性高分子を溶解しておき、塗布された薬効成分とマイクロニードルを一体化して剥がれ落ちにくくする試みが報告されている(特許文献4)。
【0005】
一般にマイクロニードル素材としては、体内で溶解消失する無害な水溶性あるいは生分解性の高分子が望ましい。ポリ乳酸(生分解性高分子)を素材とするマイクロニードルに薬効成分を塗布する際の好ましい薬効成分溶液組成が調べられている(特許文献5)が、マイクロニードル先端に薬効成分を塗布する際の最適の塗布液組成については、未だ一般的に調べられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−535100号公報
【特許文献2】特表2004−538048号公報
【特許文献3】特再表WO08/139648号公報
【特許文献4】特開2011−224308号公報
【特許文献5】特再表WO10/143689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は、マイクロニードルに薬効成分を塗布する際の最適のマイクロニードル用塗布液の組成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のマイクロニードル用塗布液は、水溶性多糖類と単糖類及び/又は2糖類と界面活性剤とを基剤の必須成分とする水溶液であって、該水溶性多糖類の基剤中の割合が5〜60質量%であることを特徴とする。
【0009】
塗布液は基剤と薬効成分を含む。基剤とは、塗布液中の水溶性多糖類、単糖類及び/又は2糖類、界面活性剤及び水溶性多価アルコールをいうが、これらの他薬効成分を除く補助的な添加物も基材に含める。なお、基剤の一部が薬効成分として作用する場合もある。
【0010】
塗布液の溶媒は水が基本であるが、基剤や薬効成分が沈澱しない範囲においてエタノール、メタノール、アセトン、などの水と混和する有機溶媒が含まれた混合溶媒を用いてもよい。従って、本明細書でいう水溶液には、溶媒が水のみである場合のほか、基剤若しくは薬効成分が沈澱しない範囲の有機溶媒を含有する混合溶媒を含める。
【0011】
本発明では、塗布液をマイクロニードル先端に塗布して乾燥させ、得られた薬効成分先端塗布マイクロニードルを経皮投与する。このさい塗布物が柔らかすぎると経皮投与の際、一部又は全部が剥がれて角質層に付着してしまうという現象を生じる。それゆえ塗布物は、経皮投与の際角質層を剥がれることなく通過するに必要な硬さを有さねばならない。
塗布物は、基剤と薬効成分により構成されている。
【0012】
基剤のうち水溶性多糖類は、乾燥すると強靭な皮膜を形成し機械的強度を高める。それゆえ水溶性多糖類は薬効成分を閉じ込めて硬い塗布物を作るために必須である。
また、水溶液に水溶性多糖類を溶解させると水溶液の粘度が上昇するが、マイクロニードル先端を塗布液に浸して塗布液を付着させようとするとき、塗布液の粘度と付着量の間には重要な関係がある。塗布液の粘度が適当であると多量の塗布液がマイクロニードル先端に塗布される。塗布液の粘度が低いと、塗布液にマイクロニードル先端部を浸しても十分な量の塗布液が塗布されない。一方塗布液の粘性が極めて高いと、マイクロニードルへの付着性がかえって悪化して結果的に塗布量が少なくなる。一般に基剤中の水溶性多糖類の割合は2〜60質量%が適当である。
水溶性多糖類は種々の分子量のものが市販されている。分子量が異なる水溶性多糖類を混合して、塗布液の物性を最適化することができる。なお、水溶性多糖類に水溶性高分子、例えばポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等を添加してマイクロニードル塗布物の硬度を改善することも有効である。ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子をさらに添加する場合、基剤中の水溶性多糖類と水溶性高分子の割合は2〜60質量%が適当である。
【0013】
基剤のうち単糖類及び/又は2糖類は、薬効成分の皮膚中での塗布物からの拡散を早める効果を有する。また、塗布液の粘度にも重要な寄与をする。単糖類及び/又は2糖類の基剤中の割合が低く水溶性多糖類の割合が多いと、塗布物の皮膚中での溶解に長時間を要し、従って薬効成分の皮膚内放出に長時間を要することとなり好ましくない。それゆえ、単糖類及び/又は2糖類の基剤中の割合は30〜95質量%が好ましい。
【0014】
基剤のうち界面活性剤の効果は、薬効成分の安定化にある。一般にタンパク質薬物は安定性が悪い。本発明では、界面活性剤の添加が薬効成分(インフルエンザワクチン抗原)の安定化に極めて有効であることを見出した。界面活性剤のタンパク質薬物安定化の機構は明確ではないが、溶液状態においてタンパク質の周りを取り囲んだ界面活性剤は水を揮散させた状態でもタンパク質を取り囲んで保護し、タンパク質同士の接触による絡み合いや凝集などを防いでいるのであろうと思われる。界面活性剤の基剤中の割合は0.05〜5%質量%が好ましい。割合が低すぎると界面活性剤の効果が小さく、割合が高すぎると塗布後の塗布物が柔らかくなり、機械的強度や硬さが不十分となり、刺入に際し剥がれ落ちやすくなる。
【0015】
基剤のうち液状多価アルコールは必須成分ではないが、その役割は塗布物を可塑化することにより柔らかくしてマイクロニードルの溶解時間を短縮させることにある。しかしながら液状多価アルコールの添加量が多すぎると塗布物が柔らかくなりすぎ、皮膚へ挿入する際に塗布物が皮膚表面で破壊され薬効成分の皮膚内挿入に支障が生じる。液状多価アルコールの基剤中の含有率は10質量%以下にすべきである。塗布物の硬さに関して、種々のサンプルの定量的測定より、圧縮に対する硬さが10N以上であることが必要であった。
【0016】
本発明のマイクロニードル用塗布液の多糖類としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、コンドロイチン硫酸、アルギン酸若しくはデキストラン、等を好適に用いることができる。
本発明のマイクロニードル用塗布液の単糖類としてはグルコースを、2糖類としてはスクロース若しくはトレハロースを好適に用いることができる。
【0017】
本発明のマイクロニードル用塗布液の界面活性剤としては、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(POP)、又はこれらの混合物を好適に用いることができる。なお、ポリソルベートとは、「ポリオキシエチレンソルビタンモノ高級脂肪酸エステル」の略称である。
液状多価アルコールとしては、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、マンニトール、若しくは分子量500以下のポリエチレングリコール、又はこれらの混合物を好適に用いることができる。
【0018】
塗布液は、塗布液中での薬効成分の安定性が優れているものでなくてはならない。薬効成分濃度が小さければ薬効が小さくなるのみで、特に下限はない。塗布液中の全不揮発分(基剤+薬効成分)は20〜40%が望ましい。塗布液中の全不揮発分が20%以下では薬効成分の大量塗布に不適であり、また40%以上では粘度が高くなりすぎてこの場合もまた塗布量が少なくなる。
【0019】
本明細書において、薬効成分とは、皮膚に働きかけ、あるいは皮膚を透過し、何らかの有益な作用を生じる化合物を全て含む。薬効成分は必ずしも水溶性でなくてもよい。塗布液に懸濁状態で分散した薬効成分であってもよい。
本発明の目的に適した薬効成分の例としては、例えば、生理活性ペプチド類とその誘導体、核酸、オリゴヌクレオチド、各種の抗原蛋白質、バクテリア、ウイルスの断片、あるいは低分子化合物からなる薬物もマイクロニードル化によりその特徴を発揮するものであれば本発明の対象となる。上記生理活性ペプチド類とその誘導体としては、例えば、カルシトニン、副腎皮質刺激ホルモン、副甲状腺ホルモン(PTH)、hPTH(1→34)、インスリン、成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、ブラジキニン、サブスタンスP、ダイノルフィン、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチン、インターフェロン、インターロイキン、G−CSF、グルタチオンパーオキシダーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ、デスモプレシン、ソマトメジン、エンドセリン、及びこれらの塩等が挙げられる。抗原蛋白質としては、インフルエンザ抗原、HBs表面抗原、HBe抗原等が挙げられる。
【0020】
本発明のマイクロニードル用塗布液の粘度は、低すぎても高すぎても塗布物量が減少するので、100mPa・s〜2500mPa・s程度であることが好ましい。
塗布法では塗布液はマイクロニードル先端に付着させる。塗布後、塗布した状態で包装して出荷する。したがって、塗布配合物における薬効成分の保存安定性は極めて重要である。
塗布物は、皮膚刺入後皮膚内で溶解しなければならない。溶解時間が長すぎると患者の負担が大きくなり好ましくない。
本発明者らは、マイクロニードル先端部に薬剤を塗布したマイクロニードルアレイを実際に動物に適用し、適用部の皮膚の角質をテープストリッピングして測定したところ、薬剤の一部が皮膚の角質層に残ることがわかった。したがって、たとえマイクロニードル先端部に薬剤を定量的に塗布できたとしても、実際に経皮吸収製剤として適用する際に、角質層に薬剤残りが発生し、薬剤の定量的投与の目的を達成できない可能性が問題点として浮上した。本発明のマイクロニードル用塗布液を適用するマイクロニードルアレイを構成するマイクロニードルは、以下の形状を有することが望ましい。
【0021】
マイクロニードルアレイを構成するマイクロニードルは、薬物の経皮吸収を確実にするため、針長さが350μm以上900μm以下であり、好ましくは400〜800μmであり、より好ましくは400〜600μmである。
針の先端部頂点の直径は、皮膚への刺し入れの容易性と皮膚への薬物残りを低減させるため、20μm以上100μm以下であり、30μm以上60μm以下が好ましい。
個々のマイクロニードルは、底面が円である円柱状もしくは円錐状、又は、底面が楕円である楕円柱状もしくは楕円錐状である。楕円の大きさを表す場合、長径を直径として表し、短径は楕円を形成できる限りにおいて長径より短い。これらの形状のマイクロニードルは、段差を有していてもよい。
【0022】
本発明のマイクロニードルアレイは、本発明のマイクロニードル塗布物を針先端部に有する。マイクロニードルの先端を上に向けた場合、塗布物の下端は、針の根元から200μm以上である。塗布物の下端が針の根元から200μm以上であれば、上端は塗布物の量に応じて任意の高さであってもよい。好ましくは、上端は、マイクロニードルの先端であるが、必ずしも先端の際まで塗布されなければならないものではない。塗布部の長さは、典型的には100μm以上800μm以下であり、150μm以上600μm以下が好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のマイクロニードル用塗布液は、マイクロニードルに塗布するに際し、適当な粘度、適当な付着強度、適当な皮膚内溶解性を有し、かつ薬効効成分の保存安定性がよい。本マイクロニ-ドル用塗布液は、蛋白質系薬物の投与に最適である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例で使用したマイクロニードルアレイの全体像を示す顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。しかし、本発明は実施例の内容に限定されるわけではない。
以下の実施例では、ポリグリコール酸を素材とする非水溶性マイクロニードルアレイ(PGA−MN)とヒアルロン酸を素材とする水溶性マイクロニードルを用いた。マイクロニードルに薬効成分を塗布する際には、塗布液にマイクロニードル先端を浸漬し、引き上げて5秒風乾させた。浸漬と風乾を5回繰り返して後、ドライボックス(室温下、湿度1〜2%の雰囲気)で12時間乾燥させて試験用試料(乾燥試料)とした。
【実施例】
【0026】
以下に示す実施例において、5回繰り返し塗布したマイクロニードルアレイを用い、5種類の測定を行い、結果を表1にまとめた。測定は、塗布物の量である塗布量、塗布物がマイクロニードルに付着した強度である付着強度、マイクロニードルアレイに付着した塗布物の皮膚への刺入後皮膚内での溶解時間、塗布液の粘度、塗布された薬効成分の安定性、及び塗布物の硬さについて行った。
【0027】
表1の試薬及びその略号について説明する。
多糖類としては、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-SSL(分子量4万)、(HPC-SL(分子量10万)、HPC-L(分子量14万)、HPC-M(分子量62万)、いずれも日本曹達(株)) 、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)(和光純薬(株)試薬)、又はヒアルロン酸(FCH-80、分子量80万)、(FCH-200、分子量200万)(キッコーマンバイオケミファ(株))を用いた。他の水溶性高分子としては、ポリビニルピロリドン(PVP)(K-90、(株)日本触媒)を用いた。
単糖類・2糖類としては、スクロース(suc)若しくはトレハロース(tre)を用いた。
多価アルコールとしては、グリセリン(gly)若しくはプロピレングリコール(pg)、マンニトール(man)を、界面活性剤としては、ポリソルベート80(p80)若しくはポリソルベート20(p20)を用いた。
また、薬効成分としては実施例1〜10及び比較例1〜5においてはインフルエンザ抗原(阪大微研製)を用いた。実施例14、15、16、17においては牛血清アルブミン(ナカライテスク(株))を用いた。
【0028】
表1の各試薬の組成の数値の単位は、基剤中の質量%である。薬効成分の数値の単位は、基剤を100質量部としての質量部である。基剤の塗布液中の濃度は30%に調整した。それゆえ、例えば実施例1における塗布液中の全不揮発分濃度は、30+20.2x0.3=36.3%であった。
【0029】
(マイクロニードルの作製)
1.非水溶性マイクロニードルアレイ
ポリグリコール酸を用いて射出成形法により作成し、実施例1〜13、16、17、比較例1〜4、6、7において用いた。直径10mmの円形基板上に、針長さ400μmの480本のマイクロニードルを備える。製法の詳細は、特許5852280号に記載されている。
2.水溶性マイクロニードルアレイ
ヒアルロン酸(FCH-80、FCH-200)、カルボキシルメチルセルロースを用いて鋳型成形法により作成し、実施例14,15、比較例5において用いた。直径10mmの円形基板上に、針長さ800μm、針底部直径250μm、針間隔600μmで280本の円錐型マイクロニードルを備える。
【0030】
(マイクロニードル先端への基剤および薬効成分の塗布)
塗布液にマイクロニードル先端を浸漬し、0.1秒後に引き上げて5秒乾燥させた。その操作による浸漬を5回繰り返し、乾燥させて先端薬効成分塗布マイクロニードルを作製した。
【0031】
(評価法及び評価基準)
1.塗布量(薬効成分と基剤の総重量)
浸漬前と浸漬後のマイクロニードルアレイを乾燥させそれらの質量を比較した。後の質量から前の質量を差し引いて塗布物の質量(mg)を求めた。塗布物の質量が1.0mg以上の場合◎と、0.5−1.0mgの場合○と、0.5mg未満の時×と記入した。
【0032】
2.付着強度
塗布乾燥後のマイクロニードルアレイをパラフィルム(厚さ1mm)に突き刺し、引き抜いて後マイクロニードルの顕微鏡写真を観察した。これにより薬効成分のマイクロニードルアレイへの付着強度を調べた。塗布物が剥がれていない場合○と、塗布物が一部剥がれている場合×と記入した。
【0033】
3.皮膚内溶解時間
5回塗布乾燥後のマイクロニードルアレイをウイスター系ラット(雄、4週齢)の剃毛した腹部に投与し、20分後若しくは40分後に取り出した。取り出したマイクロニードルパッチを顕微鏡観察し、塗布物のマイクロニードル上の残存量を確認した。
表1の溶解時間の欄に、マイクロニードルに塗布した塗布物が20分以内に全部溶解していたとき◎を、20分以内には全部溶解していなかったが40分以内に全部溶解していたとき○を、40分後にも全部は溶解していなかったときは×を記入した。本試験においては実施例14、15、比較例5においてはヒアルロン酸からなるマイクロニードルを使用しており、塗布物のみならずマイクロニードル全てが溶解してしまうのが観察された。
4.粘度
塗布液の粘度を、音叉型振動式粘度計(SV-10、エーアンドディー(株))を用い測定した。測定温度は25℃、サンプル量は10mL、測定時間は15秒であった。
表1の粘度の欄に、粘度が2500mPa・s以上の場合は粘度が高すぎて溶液の作製も塗布も困難であったので、×を記入した。粘度が100〜2500mPa・sの場合は塗布が容易で塗布量も十分であったので、○を記入した。粘度が100mPa・s未満の場合は塗布は容易だったが塗布量が少なかったので、××を記入した。
【0034】
5.薬効成分安定性試験
薬効成分としてインフルエンザワクチンたんぱく質を例に用いて、マイクロニードル塗布後の薬効成分の安定性を試験した。蛋白質の定量のためにマイクロBCAプロテインアッセイキット(サーモサイエンティフィック社)を用いた。マイクロニードルアレイ上のインフルエンザワクチンたんぱく質を0.5mlの水で溶解し、インフルエンザワクチン蛋白質質量を測定した。塗布直後の蛋白質質量と35℃で3カ月保存後の蛋白質質量とを比較した。実施例14、15、16、17においては、牛血清アルブミンに関し同様の蛋白定量法により評価した。
表1の安定性の欄に、3か月保存後の量/作製直後の量が0.9以上のとき○を記入し、この比が0.9未満のとき×を記入した。
【0035】
6.塗布物の硬さ
厚さ1mmの塗布物シートを作製し、シート上から小型卓上試験機EZ Test EZSX(島津製作所(株))を用いて直径1.5mmのステンレス円柱棒を垂直におしつけて圧迫した。押しつけ速度は0.5mm/minであった。得られた応力−歪み曲線の直線部においてその傾きを計算し、押し込み距離0.1mmにおける圧縮応力を得て塗布物の硬さ(単位N)を定量化した。
【0036】
【表1】
【0037】
7.塗布部の位置による薬剤の角質残り量
(1) ニードルの高さ、(2) ニードル塗布部の直径、の異なるFITC塗布PGA−MNを実験に供し、角質へのFITC残り量について考察した。
【0038】
PGA製マイクロニードル(以下PGA−MN)のニードル先端に、蛍光色素であるFITCを加えた塗布液を塗布し、ラット適用実験に供した。FITC塗布PGA−MNをラットに適用し取り外した後、テープでストリッピングして角質を取り、そのテープを溶媒で抽出して蛍光強度を測定した。
【0039】
実験方法
1.試験材料
ラット適用実験に供したPGA−MNの全体像を図1に示す。図1において、PGA−MN基板は長径14.0mm、短径12.0mm、厚さ1.0mmの楕円形であり、その上部に厚さ1.0mmの台部を有する。ニードルは2段構造をとる。実験に供したニードル高さの異なる2種類のPGA−MNのディメンジョンを表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
塗布に用いた材料は以下のとおりである。
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L)日本曹達株式会社製
Fluorescein-4-isothiocyanate 株式会社同仁化学研究所製
【0042】
2.PGA−MN製剤の塗布方法
1)0.1mol/LのNaOHで溶解したFITCと(HPC-L 50%+SUC 49%+p80 1%)水溶液を混合して塗布液を調製した。
2)容器に入れた塗布液にPGA−MN先端を浸漬して、ニードル先端に塗布液を付着させた。
3)デシケーター中で1夜乾燥させた。
【0043】
3.PGA−MN製剤のラットへの適用
1)Wistar/ST雄性ラット8週齢の腹部をシェーバーで剃毛し、腹部を上にして手足を固定し、ソムノペンチルで麻酔をした。
2)FITC塗布PGA−MNを、ニードルを刺入するように腹部皮膚に押し付けて貼付し、テーピングで圧着固定した。
3)PGA−MNを貼付したラットを固定器に入れて動かないように固定した。
4)5分後または1時間後PGA−MNを取り出した。
5)10分間置いて適用皮膚の表面を乾燥させた。
【0044】
4.テープストリッピングと抽出・測定方法
1)FITC塗布PGA−MNを適用した皮膚に直径12mmの円形のテープを貼って押してから剥がした。これを15回繰り返して皮膚表面の角質を採取した。
2)15枚のテープを5枚ずつに分けて6ウェルプレートに入れ、1mlの0.01mol/LのNaOH水溶液で抽出した。
3)同ロットの適用前FITC塗布PGA−MNを同様に抽出した。
4)抽出液を96ウェルプレートに入れ、励起波長485nm、測定波長535nmで蛍光強度を測定した。測定装置は、テカンジャパン株式会社製プレートリーダーSpectraFluorを用いた。
5)適用前MNの蛍光強度を100としたときの、角質を剥がしたテープ15枚の抽出液の蛍光強度の割合を算出し、角質への残り量とした。
【0045】
実験結果をまとめると以下のとおりである。
【0046】
【表3】
【0047】
5.考察
実験結果より、適用後の角質への残り量が少ないのは、(1)ニードルの高さは高く、(2)塗布部の直径は細いMNであることがわかった。600μmPGA−MNで塗布部の直径を70μm以下にすれば、角質への残り量はおよそ10%以下になるため、実用的なマイクロニードル製剤を得ることが出来ると考える。

図1