(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6914716
(24)【登録日】2021年7月16日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】ボイラおよびその製造方法、ならびに補修方法
(51)【国際特許分類】
F22B 37/10 20060101AFI20210727BHJP
【FI】
F22B37/10 602A
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-90446(P2017-90446)
(22)【出願日】2017年4月28日
(65)【公開番号】特開2018-189282(P2018-189282A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2020年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱パワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山元 雄矢
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 敬之
【審査官】
藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−095748(JP,A)
【文献】
特開2007−178104(JP,A)
【文献】
特開2008−179487(JP,A)
【文献】
特開平11−343564(JP,A)
【文献】
特開平11−337006(JP,A)
【文献】
特開2005−314721(JP,A)
【文献】
特開昭59−107070(JP,A)
【文献】
特開2014−238142(JP,A)
【文献】
特開2014−009390(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3201314(JP,U)
【文献】
特開平7−146092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 37/04
F22B 37/10
B23K 9/04
C22C 38/00
C23C 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
追加空気供給部から燃焼用空気を投入して炉内脱硝を行うボイラであって、
前記ボイラの運転中に還元雰囲気となりうる領域で、火炉壁を構成する伝熱管の素管の外周面上に、耐腐食層と耐摩耗層とが積層された保護部を備え、
前記耐腐食層は、固溶強化型ニッケル基合金を肉盛溶接してなる肉盛層で構成され、
前記耐摩耗層は、耐摩耗性材料を溶射してなる溶射膜で構成されているボイラ。
【請求項2】
前記耐摩耗性材料は、50Ni−50Cr合金、クロムカーバイトおよび13Cr系ステンレス鋼のいずれかから選択される請求項1に記載のボイラ。
【請求項3】
前記耐腐食層と前記耐摩耗層との間に、中間層を有する保護部を備え、
前記耐腐食層が、前記固溶強化型ニッケル基合金の溶射膜で構成され、
前記中間層が、前記固溶強化型ニッケル基合金と前記耐摩耗性材料との混合材料からなる溶射膜で構成され、
前記耐摩耗層は、前記耐摩耗性材料を溶射してなる溶射膜で構成されている請求項1または請求項2に記載のボイラ。
【請求項4】
前記耐腐食層が、所定ピッチの凹凸表面を備え、
前記凹凸表面上に、前記耐摩耗層が積層されている請求項1に記載のボイラ。
【請求項5】
前記火炉壁にデスラッガが設置され、
前記保護部は、少なくとも前記デスラッガを中心とした所定範囲内にある素管の外周面上を覆うよう配置されている請求項1から請求項4のいずれかに記載のボイラ。
【請求項6】
前記耐腐食層の厚さは、1mm以上4mm以下である請求項1から請求項5のいずれかに記載のボイラ。
【請求項7】
追加空気供給部から燃焼用空気を投入して炉内脱硝を行うボイラの製造方法であって、
前記ボイラの運転中に火炉壁を構成する伝熱管の、還元雰囲気となりうる領域に配置される素管の外周面上に、固溶強化型ニッケル基合金で構成された耐腐食層と、耐摩耗性材料で構成された耐摩耗層とを積層させて保護部を形成し、
前記耐腐食層を肉盛溶接により形成し、前記耐摩耗層を溶射により形成するボイラの製造方法。
【請求項8】
前記耐摩耗性材料が、50Ni−50Cr合金、クロムカーバイトおよび13Cr系ステンレス鋼のいずれかから選択される請求項7に記載のボイラの製造方法。
【請求項9】
前記耐腐食層を溶射により形成し、
前記耐腐食層上に、前記固溶強化型ニッケル基合金と前記耐摩耗性材料との混合材料を溶射して中間層を形成し、
前記中間層上に前記耐摩耗層を溶射により形成して、
前記耐腐食層、前記中間層および前記耐摩耗層が積層された保護部を形成する請求項7または請求項8に記載のボイラの製造方法。
【請求項10】
前記固溶強化型ニッケル基合金をらせん巻で肉盛溶接して、所定ピッチの凹凸表面を備えた前記耐腐食層を形成し、
前記耐腐食層の凹凸表面上に、前記耐摩耗性材料を溶射して前記耐摩耗層を形成する請求項7に記載のボイラの製造方法。
【請求項11】
前記保護部を、少なくともデスラッガを中心とした所定範囲内にある素管の外周面上を覆うよう配置する請求項7から請求項10のいずれかに記載のボイラの製造方法。
【請求項12】
追加空気供給部から燃焼用空気を投入して炉内脱硝を行うボイラの補修方法であって、
火炉壁を構成する伝熱管の、被補修部分を含む前記火炉壁の一部を取り外して、前記被補修部分に取り付ける素管の外周面上に、固溶強化型ニッケル基合金で構成された耐腐食層と、耐摩耗性材料で構成された耐摩耗層とを順に積層させて保護部を形成し、
前記耐腐食層を肉盛溶接により形成し、前記耐摩耗層を溶射により形成するボイラの補修方法。
【請求項13】
前記耐摩耗性材料が、50Ni−50Cr合金、クロムカーバイトおよび13Cr系ステンレス鋼のいずれかから選択される請求項12に記載の補修方法。
【請求項14】
前記耐腐食層を溶射により形成し、
前記耐腐食層上に、前記固溶強化型ニッケル基合金と前記耐摩耗性材料との混合材料を溶射して中間層を形成し、
前記中間層上に前記耐摩耗層を溶射により形成して、
前記耐腐食層、前記中間層および前記耐摩耗層が積層された保護部を形成する請求項12または請求項13に記載のボイラの補修方法。
【請求項15】
前記固溶強化型ニッケル基合金をらせん巻で肉盛溶接して、所定ピッチの凹凸表面を備えた前記耐腐食層を形成し、
前記耐腐食層の凹凸表面上に、前記耐摩耗性材料を溶射して前記耐摩耗層を形成する請求項12に記載のボイラの補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラおよびその製造方法、ならびに補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭焚きボイラ等では、環境性能を高めるため炉内脱硝を行い、窒素酸化物(NOx)の排出量を低減している。炉内脱硝は、火炉内において燃焼により生成されたNOxを、火炉内にて炭化水素化合物により還元するものである。そのため、火炉内には、酸素分圧の低い還元雰囲気が形成される。
【0003】
例えば、硫黄を多く含有した石炭燃料を還元燃焼させた場合、ボイラ水や蒸気が流れる複数の伝熱管で構成される火炉壁の内部で還元腐食が発生する。従来、炉内脱硝が行われる近傍では、還元腐食対策として、火炉壁表面に耐腐食性材料を溶射して溶射被膜を形成する(特許文献1)、または、肉盛溶接して肉盛層を形成する方法が適用されている(特許文献2)。特許文献1では、耐腐食性材料としてCrを多く含んだCoNiCrAl合金を採用している。特許文献2では、耐腐食性材料として、Niを大量に含み耐腐食性に優れたインコネル(登録商標)などの固溶強化型ニッケル基合金を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−80920号公報
【特許文献2】特開2007−155233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、固溶強化型ニッケル基合金等の肉盛層およびCoNiCrAl合金等を溶射した溶射被膜は、共に耐腐食性を有するため、従来のボイラでは、択一的に施工されている場合がある。
【0006】
しかしながら、火炉壁の一部では炉内脱硝が行われるにあたり、例えばデスラッガ近傍等では、還元腐食による損傷だけでなく、デスラッガからの噴射蒸気によるエロージョンによる損傷も同時に発生する領域が存在する場合がある。
【0007】
固溶強化型ニッケル基合金の肉盛層は、耐エロージョン特性には特に優れてなるわけではい。そのため、特許文献2では、固溶強化型ニッケル基合金を肉盛溶接してなる肉盛層がエロージョンによって損傷する可能性がある。
【0008】
CoNiCrAl合金を溶射した溶射被膜は、固溶強化型ニッケル基合金の肉盛層に比べて耐エロージョン特性を有する。しかしながら、この溶射被膜は、ボイラ運転中の火炉壁の変形等によって損傷(熱割れ等)が発生し、損傷した部位から硫化腐食や溝状腐食が発生する場合がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、耐腐食性および耐エロージョン性を備えた火炉壁を備えたボイラおよびその製造方法、ならびに補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のボイラおよびその製造方法ならびに補修方法は以下の手段を採用する。
【0011】
本発明は、追加空気供給部から燃焼用空気を投入して炉内脱硝を行うボイラであって、前記ボイラの運転中に還元雰囲気となりうる領域で、火炉壁を構成する伝熱管の素管の外周面上に、耐腐食層と耐摩耗層とが積層された保護部を備え、前記耐腐食層は、固溶強化型ニッケル基合金で構成され、前記耐摩耗層は、耐摩耗性材料で構成されているボイラを提供する。耐摩耗性材料は、50Ni−50Cr合金、クロムカーバイトおよび13Cr系ステンレス鋼のいずれかから選択され得る。
【0012】
固溶強化型ニッケル基合金は、耐腐食性に優れた材料である。固溶強化型ニッケル基合金で構成された耐腐食層を素管上に設けることで、還元腐食等の腐食進行を防止できる。耐摩耗性材料は、固溶強化型ニッケル基合金と比べて耐エロージョン性に優れている。耐腐食層上に、耐摩耗性材料で構成された耐摩耗層を設けることで、耐腐食層をデスラッガ噴射蒸気等によるエロージョンの両方から保護できる。
【0013】
保護部を、耐腐食層および耐摩耗層の複数構成とし、耐腐食層と耐摩耗層とを異なる材料で構成することで、耐摩耗層に熱割れ等の損傷が生じた場合でも、下地である耐腐食層が割れを生じさせずに保護するので、素管への腐食成分の接触を抑制して、素管の腐食を抑制する。
【0014】
素管上に保護部を備えることで、耐摩耗性(耐エロージョン性)と耐腐食性の両方に優れた伝熱管となり、ボイラ火炉壁の損傷対策として有効である。
【0015】
上記発
明では、前記耐腐食層は、前記固溶強化型ニッケル基合金を肉盛溶接してなる肉盛層であり、前記耐摩耗層は、前記耐摩耗性材料を溶射してなる溶射膜で構成さ
れる。
【0016】
上記発明の一態様では、前記耐腐食層と前記耐摩耗層との間に、中間層を有する保護部備え、前記耐腐食層が、前記固溶強化型ニッケル基合金の溶射膜で構成され、前記中間層が、前記固溶強化型ニッケル基合金と前記耐摩耗性材料との混合材料からなる溶射膜で構成され、前記耐摩耗層は、前記耐摩耗性材料を溶射してなる溶射膜で構成され得る。
【0017】
耐腐食層および耐摩耗層を溶射により形成し、更に耐摩耗性材料を含む混合材料を溶射して中間層を形成することで、耐腐食層と耐摩耗層との密着性を向上させられる。これにより、耐摩耗層の剥離やクラック発生を抑制できる。
【0018】
固溶強化型ニッケル基合金を肉盛溶接した場合、溶射施工した場合と比較して、耐腐食性に対して十分な肉厚を確保できる。
【0019】
上記発明の一態様では、前記耐腐食層が、所定ピッチの凹凸表面を備え、前記凹凸表面上に、前記耐摩耗層が積層されているのが好ましい。
【0020】
耐腐食層の表面に所定ピッチの凹凸を設けて、耐摩耗層の接触面積を増やすことで、耐腐食層と耐摩耗層との接着をより強くできる。これにより、耐摩耗層の剥離やクラック発生を抑制できる。
【0021】
上記発明の一態様では、前記火炉壁にデスラッガが設置され、前記保護部は、少なくとも前記デスラッガを中心とした所定範囲内にある素管の外周面上を覆うよう配置されているのが好ましい。
【0022】
火炉内において、デスラッガの周囲、特に還元雰囲気となりうる領域に配置されたデスラッガ近傍は、還元腐食およびエロージョンによる損傷が生じやすい。耐腐食層の材料である固溶強化型ニッケル基合金は、他の材料に比較して高価な材料であるが、上記発明の一態様では、耐腐食性および耐摩耗性が必要とされる部分を特定することで、製造コストを抑えつつ、有効に損傷を抑制できる。
【0023】
上記発明の一態様では、前記耐腐食層の厚さは、1mm以上4mm以下であってよい。
【0024】
上記発明の一態様によれば、耐腐食層は耐摩耗層で保護されているため、減肉分を考慮する必要がなくなる。すなわち、耐腐食層の厚さを従来よりも薄くできる。これにより、他の材料に比較して高価な材料である固溶強化型ニッケル基合金の使用量を低減でき、製造コストを抑制できる。
【0025】
また、本発明は、追加空気供給部から燃焼用空気を投入して炉内脱硝を行うボイラの製造方法であって、前記ボイラの運転中に火炉壁を構成する伝熱管の、還元雰囲気となりうる領域に配置される素管の外周面上に、固溶強化型ニッケル基合金で構成された耐腐食層と、耐摩耗性材料で構成された耐摩耗層とを積層させて保護部を形成するボイラの製造方法を提供する。耐摩耗性材料は、50Ni−50Cr合金、クロムカーバイトおよび13Cr系ステンレス鋼のいずれかから選択され得る。
【0026】
上記発
明では、前記耐腐食層を肉盛溶接により形成し、前記耐摩耗層を溶射により形成
する。
【0027】
上記発明の一態様では、前記耐腐食層を溶射により形成し、前記耐腐食層上に、前記固溶強化型ニッケル基合金と前記耐摩耗性材料との混合材料を溶射して中間層を形成し、前記中間層上に前記耐摩耗層を溶射により形成して、前記耐腐食層、前記中間層および前記耐摩耗層が積層された保護部を形成できる。
【0028】
上記発明の一態様では、前記固溶強化型ニッケル基合金をらせん巻で肉盛溶接して、所定ピッチの凹凸表面を備えた前記耐腐食層を形成し、前記耐腐食層の凹凸表面上に、前記耐摩耗性材料を溶射して前記耐摩耗層を形成できる。
【0029】
上記発明の一態様では、前記保護部を、少なくともデスラッガを中心とした所定範囲内にある素管の外周面上を覆うよう配置するとよい。
【0030】
また、本発明は、追加空気供給部から燃焼用空気を投入して炉内脱硝を行うボイラの補修方法であって、火炉壁を構成する伝熱管の、被補修部分を含む火炉壁の一部を取り外して、被補修部分に取り付ける素管の外周面上に、固溶強化型ニッケル基合金で構成された耐腐食層と、耐摩耗性材料で構成された耐摩耗層とを順に積層させて保護部を形成するボイラの補修方法を提供する。耐摩耗性材料は、50Ni−50Cr合金、クロムカーバイトおよび13Cr系ステンレス鋼のいずれかから選択され得る。
【0031】
上記発
明では、前記耐腐食層を肉盛溶接により形成し、前記耐摩耗層を溶射により形成
する。
【0032】
上記発明の一態様では、前記耐腐食層を溶射により形成し、前記耐腐食層上に、前記固溶強化型ニッケル基合金と前記耐摩耗性材料との混合材料を溶射して中間層を形成し、前記中間層上に前記耐摩耗層を溶射により形成して、前記耐腐食層、前記中間層および前記耐摩耗層が積層された保護部を形成できる。
【0033】
上記発明の一態様では、前記固溶強化型ニッケル基合金をらせん巻で肉盛溶接して、所定ピッチの凹凸表面を備えた前記耐腐食層を形成し、前記耐腐食層の凹凸表面上に、前記耐摩耗性材料を溶射して前記耐摩耗層を形成できる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、伝熱管の素管上に、耐腐食層および耐摩耗層を備えた保護部を設けることで、耐腐食性および耐腐食性(耐エロージョン性)を兼ね備えたボイラとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】第1実施形態に係るボイラの概略構成図である。
【
図5】第2実施形態に係る還元雰囲気にある伝熱管の部分横断面図である。
【
図6】第3実施形態に係る還元雰囲気にある伝熱管の部分横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明に係るボイラおよびその製造方法、ならびに補修方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0037】
〔第1実施形態〕
図1は、本実施形態に係るボイラの概略構成図である。本実施形態においてボイラ1は石炭焚きボイラとし、火炉2および煙路3を備えている。
【0038】
火炉2は、内部が中空とされた略四角柱状のものである。火炉2の壁面(火炉壁)には、バーナ部4、追加空気供給部5およびデスラッガ6が設置されている。煙路3には、過熱器7、再熱器8および節炭器9が設置されている。
【0039】
バーナ部4は、火炉壁の鉛直下部側(紙面下側)にある。バーナ部4は、燃料として石炭を微粉炭へ粉砕したものを投入して燃焼させる複数の微粉炭バーナ(不図示)を備えている。バーナ部4は、燃料と空気との十分な混合を図りながら、火炉2内へ燃料と空気とを噴射して燃焼させ、燃焼ガスを生成させるものである。
【0040】
追加空気供給部5は、バーナ部4の鉛直上部(紙面上側)にある。追加空気供給部5は、空気供給用ノズル(不図示)を備え、火炉2内に空気を供給できる。
【0041】
バーナ部4では、燃料が燃焼するのに必要な空気量の約70%を火炉内2に供給する。追加空気供給部5から供給される空気量は、火炉2内で燃料が燃焼するのに必要な空気量の30%程度である。すなわち、バーナ部4から追加空気供給部5までの間が空気の不足した状態である還元雰囲気となり、追加空気供給部5で完全燃焼となる。ここでは、還元雰囲気となる領域を還元領域(X)と称す。追加空気供給部5から燃焼用空気を例えば多段に投入することで炉内脱硝を行うよう構成されている。
【0042】
ボイラ1において、バーナ部4により生成させた燃焼ガスは、還元領域(X)を通って、煙路3へと流れる。還元領域(X)では、燃焼ガス中のNOxが、燃焼ガス中に残存する炭化水素化合物と反応し還元され、燃焼ガス中のNOx量が低減される。
【0043】
還元領域(X)を通過した燃焼ガス中の未燃分の燃料は、追加空気供給部5から供給された空気により完全燃焼される。煙路へ入った燃焼ガスは、過熱器7、再熱器8および節炭器9で熱交換された後、後段にある脱硝装置等(不図示)に流れる。
【0044】
図2に火炉壁10の部分分解斜視図を示す。
火炉壁10は、フィン11を介して複数の伝熱管(12aまたは12b)同士の間が接続されたパネル状の構造を有する。バーナ部4またはデスラッガ6が配置されるべき位置では、バーナ部4またはデスラッガ6を迂回するよう各伝熱管(12aまたは12b)が曲げ加工されている。
【0045】
ここで、
図2はデスラッガ6が配置される周囲部分の火炉壁10は、伝熱管12aとフィン11で構成されている。伝熱管12aの紙面上側と下側に切断面が見えるように記載されているが、これは実際に切断分割されているわけではなく、伝熱管12aの紙面上側と下側に伝熱管12bがあり、伝熱管12bと伝熱管12aと伝熱管12bとが溶接接合されて構成されるものを、分解斜視図としたものである。
【0046】
火炉壁10の伝熱管(12aまたは12b)は、給水ポンプ(不図示)により供給された水や蒸気が循環され、水や蒸気と燃焼ガスとで熱交換が行われるように構成されている。
【0047】
デスラッガ6は、スラグ(付着物)が付着した火炉壁10に向けて、放射状に、蒸気または空気などを噴霧させることができるように構成されたものである。デスラッガ6は、蒸気または空気などを高速度で衝突させてスラグを吹き飛ばし、火炉壁10を清掃できる。
【0048】
図3に、任意のデスラッガ6が火炉壁10に向けて蒸気を噴霧する様子を示す。デスラッガ6は、デスラッガ6周りの一定の範囲(Y)にある火炉壁10に向けて、蒸気Sを噴射する。
【0049】
伝熱管(12a,12b)は、素管13を基材とする。素管13の材料は、炭素鋼や1Crまたは2Crなどの低Cr合金鋼である。低Cr合金鋼の線膨張率は、およそ9×10
−6/℃以上12×10
−6/℃以下である。フィン11は、素管13と同様の材質である。
【0050】
伝熱管12aは、素管13の外周面上に、耐腐食層14と耐摩耗層15とを順に備えた保護部16を有する(
図4参照)。耐腐食層14および耐摩耗層15は、少なくとも各デスラッガ6から噴射される蒸気(または空気)の影響を受ける範囲(Z)にある素管13の外周面上の全周を覆うよう配置されているとよい(
図1に一例として、1つのデスラッガに対して2点鎖線で示した範囲を参照)。範囲(Z)は、各デスラッガ6を中心とした所定範囲内、例えば、各デスラッガ6に対して周囲1m〜2m程度内、各デスラッガ6を中心として2mから5m四方程度とする。
【0051】
範囲(Z)の火炉壁10は、伝熱管12aを用いて構成される。本実施形態での範囲(Z)の火炉壁10を製造する一例として、まず範囲(Z)に相当するサイズの素管13の外周面上の全周に、耐腐食層14を溶接で形成する。次に、耐腐食層14を形成した複数の素管13と複数のフィン11とを溶接接合して、範囲(Z)の火炉壁形状とする。その後、耐摩耗層15を全周に溶射で形成して、範囲(Z)の火炉壁10とする。この際に、フィン11も併せて耐摩耗層15を設けてもよい。なお、耐摩耗層15は火炉内側のみ溶射して施工してもよい。また、耐腐食層14を形成後に耐腐食層14にブラスト処理を実施し凹凸を設け、そこに溶融した溶射材を吹き付けて耐摩耗層15を形成するようにしてもよい。
【0052】
伝熱管12bは、還元領域(
図1に一例として、Xで示した高さ範囲を参照)から外れたところにある火炉壁10の伝熱管や、還元領域(X)であってもデスラッガ6から噴射される蒸気(または空気)の影響を受けないところにある火炉壁10の伝熱管を想定したものであり、必ずしも
図2に記載された位置関係にある必要はない。伝熱管12bは、素管13の外周面上の火炉側または全周に必要に応じて耐腐食層14または耐摩耗層15を設けてもよいが、伝熱管12aのように素管13の外周面上に耐腐食層14および耐摩耗層15の両方を備えていない。伝熱管12aと伝熱管12bとは溶接接合され、また伝熱管(12a,12b)の間はフィン11が溶接接合されていて火炉壁10を構成している。フィン11は、素地のまま、または素地上に特に火炉側に耐摩耗層15が積層されていてもよい。
【0053】
伝熱管(12a,12b)は内部に高圧の水や蒸気が流通するので、伝熱管(12a,12b)の肉厚が薄くなると耐圧強度が低下するので好ましくない。一方、フィン11は火炉内外の圧力差が印加される程度であり、仮にフィン11が腐食や摩耗で肉厚が薄くなっても、フィンとしての伝熱特性の低下影響があるものの、火炉壁10の構成そのものには支障がないため、フィン11は、素地のままでも使用が可能である。
【0054】
耐腐食層14の材料(耐腐食性材料)は、固溶強化型ニッケル基合金である。固溶強化型ニッケル基合金はインコネル系材料、例えばインコネル(登録商標)622などである。固溶強化型ニッケル基合金の線膨張率は、およそ11×10
−6/℃以上12×10
−6/℃以下である。耐腐食層14の厚さは、1mm以上4mm以下、好ましくは1mm以上3mm以下、更に好ましくは1mm以上2mm以下である。
【0055】
耐腐食層14としての固溶強化型ニッケル基合金の線膨張率は、素管13としての炭素鋼や低Cr合金鋼の線膨張率よりも若干大きい。このため、耐腐食層14が薄い層であるほど素管13から剥離し易くなるため、管表面全周を覆うことで熱膨張差に耐え易くする。また、耐腐食層14は耐摩耗層15の下層となるために、耐腐食性から厚みを選定できるので、耐腐食層14の厚さを薄くすることで、他材料より高価な固溶強化型ニッケル基合金の使用量を低減できるので好ましい。
【0056】
耐摩耗層15の材料(耐摩耗性材料)は、50Ni−50Cr、クロムカーバイト(Cr
3C
2−NiCr)および13Crなどから選択する。50Ni−50Crやクロムカーバイトは、耐摩耗性が高く、かつ、同一の主要元素としてニッケルを含むことから固溶強化型ニッケル基合金とのなじみがよいので好ましい。
【0057】
耐摩耗性材料の線膨張率は、およそ10×10
−6/℃以上11×10
−6/℃以下である。耐摩耗性材料は、線膨張率が下層に形成されている耐腐食性材料に近いものを選定するとよい。耐摩耗層15の厚さは、100μm以上500μm以下、好ましくは、200μm以上300μm以下である。
【0058】
耐摩耗性材料の線膨張率は、下層にある耐腐食層14としての固溶強化型ニッケル基合金の線膨張率よりも若干小さい。このため、耐摩耗層15の厚さが薄い場合には下層から引張応力が発生してクラックを生じ易くなるため、管表面全周を覆うことで熱膨張差に耐え易くする。
【0059】
以下で、火炉壁10の製造方法について説明する。
本実施形態では、まず、耐腐食性材料を、素管13の外周面上に肉盛溶接して耐腐食層14を形成する。より好ましい厚さ(t)とするため、例えば、管理値をt1mm以上4mm以下とし、目標値をt1mm以上3mm以下として溶接を実施する。肉盛の余盛厚さ、溶け込み深さおよびCr量等の観点から、肉盛溶接で形成する耐腐食層14の厚さは、1.5mm以上が好ましい。肉盛溶接は、例えばTIG溶接で施工される。
【0060】
次に、耐腐食層14の上に、耐摩耗性材料を溶射により耐摩耗層15を形成する。溶射は、例えば高速ガス炎溶射(HVOC法)またはプラズマ溶射等により実施する。例えば、HVOC法では、高圧の酸素と燃料の燃焼による超高速ショット燃焼ガス流により粒子を溶射して、緻密で高硬度、高密着の被膜を形成できる。
【0061】
上記に従い製造した火炉壁10では、最表層にある耐摩耗層15が、デスラッガ6の噴射蒸気によるエロージョン等の損傷を防止する。また、ボイラ1運転中の火炉壁10の変形や熱応力等によって、耐摩耗層15に割れが生じた場合であっても、下地である耐腐食層14が防壁となり、素管13への腐食成分の接触を防止できる。これにより、火炉壁10を耐摩耗と耐腐食の両方から延命化させられる。
【0062】
上記に従い製造した火炉壁10は、耐摩耗層15により耐摩耗性が確保される。そのため、耐腐食層14は、耐腐食性重視の厚さにすることができる。すわなち、エロージョンによる減肉分を考慮せずに、耐腐食性が発揮されうる厚さにすればよいため、耐腐食層14のみの場合と比較して、耐腐食層14を薄く施工できる。固溶強化型ニッケル基合金は他の材料に比較して高価であるため、耐腐食層14を薄くすることで製造コストを低減できる。
【0063】
〔第2実施形態〕
本実施形態は、耐腐食層14と耐摩耗層15との間に中間層17を備えており、かつ、耐腐食層14の形成方法が第1実施形態と異なる。それ以外の構成は第1実施形態と同じである。
【0064】
図5に、本実施形態に係る伝熱管12aの部分横断面図を示す。伝熱管12aは、素管13の外周面上に、耐腐食層14、中間層17および耐摩耗層15を順に備えた保護部18を有する。
【0065】
素管13の材料は、第1実施形態と同じである。
耐腐食層14の材料および厚さは、第1実施形態と同じである。本実施形態において耐腐食層14は、溶射により素管13の外周面上に形成された層である。溶射は、高速ガス炎溶射(HVOC法)またはプラズマ溶射により実施する。溶射は、固溶強化型ニッケル基合金のμmオーダの微粒子を高温ガスとともに噴き付けることを、複数回繰り返し行うことで形成する。
【0066】
中間層17の材料は、耐腐食性材料と耐摩耗性材料とを混合したものである。耐腐食性材料と耐摩耗性材料とを混合することで、耐摩耗層15よりもNiを多く含む層を形成できる。耐腐食性材料の含有率は、混合材料を100体積%とした場合に、20体積%以上60体積%以下、好ましくは25体積%以上50体積%以下にするとよい。例えば、耐腐食性材料40体積%/耐摩耗性材料60体積%で混合する。
【0067】
中間層17の厚さは、膜厚が不均一にならないよう50μm以上を設けてあり、50μm以上200μm以下、好ましくは、50μm以上100μm以下である。
【0068】
中間層17は、溶射により形成する。溶射は、高速ガス炎溶射(HVOC法)またはプラズマ溶射とする。
【0069】
耐摩耗層15は、中間層17上に、第1実施形態と同様に溶射により形成される。
【0070】
耐腐食層14を肉盛溶接ではなく溶射施工することで、耐腐食層14上に溶射により中間層17を形成できる。耐腐食性材料および耐摩耗性材料を共に含む中間層17を介することで、耐腐食層14と耐摩耗層15との間のなじみが向上し、耐摩耗層15が剥離やクラックの発生がしにくくなる。
【0071】
〔第3実施形態〕
本実施形態は、耐腐食層14をらせん巻溶接で形成する点が第1実施形態と異なる。それ以外の構成は第1実施形態と同じである。
【0072】
図6に、本実施形態に係る伝熱管12aの部分横断面図を示す。耐腐食層14の材料および厚さは、第1実施形態と同じである。本実施形態では、耐腐食性材料を用いて、らせん巻溶接により耐腐食層14を素管13の全周囲に形成する。らせん巻溶接は、素管13を回転させながらTIG溶接トーチを送ることで施工される。
【0073】
らせん巻溶接のピッチ(P)は2mm以上8mm以下、好ましくは2mm以上4mm以下とする。ピッチ(P)を狭めすぎると、肉盛溶接時に発生する「溶接/冷却」の熱サイクルにより境界層が脆くなる可能性が高くなる。従い、ピッチ(P)は、耐腐食層14の厚さの2倍程度とするとよい。なお、ピッチ(P)とは、耐腐食層14の外周表面に形成された凹凸の山と山の距離、もしくは谷と谷の距離で規定する。
【0074】
通常、インコネル系材料の肉盛溶接では直線的に肉盛りを行う。本実施形態では、らせん巻溶接を用いることで、耐腐食層14の外周表面に凹凸が形成される。凹凸により表面粗度を得た耐腐食層14上に、第1実施形態と同様に耐摩耗層15を溶射施工する。
また、耐腐食層14の表面を凹凸が形成された場合の耐腐食層14の厚さは、外周表面に形成された凹凸の山と谷との中間もしくは山と谷との平均に対して、下地となる素管13の表面との距離で評価するものとする。
【0075】
耐腐食層14の表面を凹凸にすることで、耐摩耗層15の接着面積が大きくなる。これにより、耐腐食層14への接着性が高くなり、耐摩耗層15の剥離やクラック発生を抑制できる。
【0076】
第1実施形態から第3実施形態は、火炉壁10の製造時だけでなく、補修時に適用されてもよい。例えば、ボイラ点検の際に、被補修部分(特に減肉の激しい部分)を含む火炉壁10の一部を火炉壁10から切り取るなどして取り外す。被補修部分に取り付ける伝熱管12aとして素管13の外周面上に、耐腐食層14/耐摩耗層15、または耐腐食層14/中間層17/耐摩耗層15を形成したものを、炉壁10へ溶接接合する。それにより、伝熱管12aの被補修部分(特に減肉の激しい部分)に対して、寿命を延長させることができる。
【符号の説明】
【0077】
1 ボイラ
2 火炉
3 煙路
4 バーナ部
5 追加空気供給部
6 デスラッガ
7 過熱器
8 再熱器
9 節炭器
10 火炉壁
11 フィン
12a,12b 伝熱管
13 素管
14 耐腐食層
15 耐摩耗層
16,18 保護部
17 中間層