特許第6914880号(P6914880)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6914880
(24)【登録日】2021年7月16日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】遠心圧縮機及びメカニカルシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20210727BHJP
   F04D 29/12 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   F16J15/34 G
   F04D29/12 B
   F16J15/34 H
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-65983(P2018-65983)
(22)【出願日】2018年3月29日
(65)【公開番号】特開2019-173955(P2019-173955A)
(43)【公開日】2019年10月10日
【審査請求日】2020年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】福山 了介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼瀬 陽平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 將弘
(72)【発明者】
【氏名】光田 聡
(72)【発明者】
【氏名】中根 芳之
(72)【発明者】
【氏名】星田 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】眞角 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】内山 智弘
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/035860(WO,A1)
【文献】 特開2014−092414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34−15/38
F04D 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低速側シャフトと、
高速側シャフトに取り付けられたインペラと、
前記低速側シャフトの動力を前記高速側シャフトに伝達する増速機と、
前記インペラを収容するインペラ室、及び前記増速機を収容する増速機室が形成されたハウジングと、
前記インペラ室と前記増速機室とを仕切る仕切壁と、
前記仕切壁に形成されるとともに前記高速側シャフトが挿通されるシャフト挿通孔と、
前記シャフト挿通孔に設けられるメカニカルシールと、
前記増速機及び前記メカニカルシールにオイルを供給するオイル供給通路と、を備え、
前記メカニカルシールは、
前記高速側シャフトと一体的に回転する回転環と、前記回転環に対して前記高速側シャフトの軸線方向で対向配置されるとともに前記高速側シャフトを取り囲んだ状態で前記シャフト挿通孔に固定される固定環と、を備え、
前記回転環における前記固定環側の端面は、前記固定環と摺動する平坦面状の回転側摺動面を有し、前記固定環における前記回転環側の端面は、前記回転側摺動面と摺動する平坦面状の固定側摺動面を有しており、前記固定側摺動面は、前記回転側摺動面とのシール面を有し、
前記固定側摺動面には、正圧発生溝、前記正圧発生溝に連通する連通溝、及びオイル戻し溝が形成され、前記正圧発生溝、前記連通溝、及び前記オイル戻し溝は、前記シール面よりも前記高速側シャフトの径方向外側に位置し、
前記連通溝は、前記固定環の外周側に連通しており、
前記正圧発生溝は、前記連通溝から前記回転環の回転方向に向けて延びるとともに前記正圧発生溝における前記連通溝とは反対側の端部に正圧段差面を有し、
前記固定側摺動面は、前記正圧段差面に対して前記回転環の回転方向で連続する正圧平坦面を有し、
前記正圧発生溝は、前記オイル戻し溝よりも前記高速側シャフトの径方向外側に位置するとともに前記オイル戻し溝とは前記固定側摺動面によって隔離されている遠心圧縮機であって、
前記連通溝における前記正圧発生溝に連続する連続面とは反対側の面は、前記オイル供給通路から供給されるオイルを案内するオイル案内面になっており、前記オイル案内面の延長線が、前記オイル戻し溝よりも前記高速側シャフトの径方向外側に位置しており、
前記オイル供給通路は、前記固定環の外周側から前記連通溝に向けて前記オイル案内面に沿ってオイルを供給することを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項2】
前記固定側摺動面には、前記連通溝が複数形成されており、前記複数の連通溝は、前記高速側シャフトの周方向へ所定の間隔置きに配置され、
前記複数の連通溝は、前記オイル案内面をそれぞれ有していることを特徴とする請求項1に記載の遠心圧縮機。
【請求項3】
前記連続面の延長線と前記固定環の外周面の接線とがなす前記連通溝側の角度が鋭角であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の遠心圧縮機。
【請求項4】
ハウジング内を区画する仕切壁に形成されたシャフト挿通孔に設けられ、前記シャフト挿通孔と該シャフト挿通孔に挿通されるシャフトとの間をシールするメカニカルシールであって、
前記シャフトと一体的に回転する回転環と、前記回転環に対して前記シャフトの軸線方向で対向配置されるとともに前記シャフトを取り囲んだ状態で前記シャフト挿通孔に固定される固定環と、を備え、
前記回転環における前記固定環側の端面は、前記固定環と摺動する平坦面状の回転側摺動面を有し、前記固定環における前記回転環側の端面は、前記回転側摺動面と摺動する平坦面状の固定側摺動面を有しており、
記固定側摺動面には、正圧発生溝及び前記正圧発生溝に連通する連通溝が形成され、
前記連通溝は、前記固定側摺動面の摺動面径方向の外部に連通しており、
前記正圧発生溝は、前記連通溝から前記回転環の回転方向に向けて延びるとともに前記正圧発生溝における前記連通溝とは反対側の端部に正圧段差面を有し、
前記固定側摺動面は、前記正圧段差面に対して前記回転環の回転方向で連続する正圧平坦面を有し、
前記連通溝における前記正圧発生溝に連続する連続面とは反対側の面は、当該メカニカルシールに供給されるオイルを案内するオイル案内面になっており、
当該メカニカルシールには、前記固定側摺動面の摺動面径方向の外部から前記連通溝に向けて前記オイル案内面に沿ってオイルが供給され
前記固定側摺動面には、オイル戻し溝が形成され、
前記正圧発生溝は、前記オイル戻し溝よりも前記シャフトの径方向外側に位置するとともに、前記オイル戻し溝とは前記固定側摺動面によって隔離されており、
前記オイル案内面の延長線が、前記オイル戻し溝よりも前記シャフトの径方向外側に位置していることを特徴とするメカニカルシール。
【請求項5】
前記固定側摺動面には、前記連通溝が複数形成されており、前記複数の連通溝は、前記シャフトの周方向へ所定の間隔置きに配置され、
前記複数の連通溝は、前記オイル案内面をそれぞれ有していることを特徴とする請求項4に記載のメカニカルシール。
【請求項6】
前記連続面の延長線と前記固定環の外周面の接線とがなす前記連通溝側の角度が鋭角であることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心圧縮機及びメカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
遠心圧縮機は、低速側シャフトと、高速側シャフトに取り付けられたインペラと、低速側シャフトの動力を高速側シャフトに伝達する増速機と、を備えている。遠心圧縮機のハウジング内には、インペラを収容するインペラ室と、増速機を収容する増速機室とが形成されている。インペラ室と増速機室とは仕切壁によって仕切られている。仕切壁には、シャフト挿通孔が形成されている。高速側シャフトは、増速機室内からシャフト挿通孔を通過してインペラ室内に突出している。
【0003】
このような遠心圧縮機においては、高速側シャフトと増速機との摺動部分の摩擦や焼き付きを抑制するために、増速機にオイルが供給されている。増速機に供給されたオイルは、増速機室内に貯留されるため、増速機室内に貯留されるオイルが、シャフト挿通孔を介してインペラ室内へ洩れ出すことを抑制するために、シャフト挿通孔には、例えば、メカニカルシールが設けられている。
【0004】
一般的に、メカニカルシールは、高速側シャフトと一体的に回転する回転環と、回転環に対して高速側シャフトの軸線方向で対向配置されるとともに高速側シャフトを取り囲んだ状態でシャフト挿通孔に固定された固定環と、を備えている。回転環における固定環側の端面は、固定環と摺動する平坦面状の回転側摺動面を有している。固定環における回転環側の端面は、回転環の回転側摺動面と摺動する平坦面状の固定側摺動面を有している。さらに、固定側摺動面は、回転側摺動面とのシール面を有している。
【0005】
図7に示すように、例えば特許文献1のメカニカルシール100では、固定環101の固定側摺動面102に、正圧発生溝103(レイリーステップ機構)、負圧発生溝104(逆レイリーステップ機構)、及び連通溝105(半径方向溝)が形成されている。正圧発生溝103、負圧発生溝104、及び連通溝105は、固定側摺動面102のシール面102sよりも高速側シャフトの径方向外側に位置している。連通溝105は、正圧発生溝103及び負圧発生溝104に連通するとともに固定環101の外周側に連通している。正圧発生溝103は、負圧発生溝104よりも高速側シャフトの径方向外側に位置している。正圧発生溝103は、連通溝105から回転環の回転方向(図7において矢印R100で示す方向)に向けて延びている。負圧発生溝104は、連通溝105から回転環の回転方向とは逆方向に向けて延びている。
【0006】
正圧発生溝103は、正圧発生溝103における連通溝105とは反対側の端部に正圧段差面103a(レイリーステップ)を有している。固定側摺動面102は、正圧段差面103aに対して回転環の回転方向で連続する正圧平坦面102aを有している。また、負圧発生溝104は、負圧発生溝104における連通溝105とは反対側の端部に負圧段差面104a(逆レイリーステップ)を有している。固定側摺動面102は、負圧段差面104aに対して回転環の回転方向とは逆方向で連続する負圧平坦面102bを有している。
【0007】
そして、高速側シャフトの回転に伴って回転環が回転すると、回転環と固定環101との間に介在するオイルが回転環の回転に追従して移動する。このとき、連通溝105を介して正圧発生溝103内に供給されているオイルは、回転環の回転に追従して正圧段差面103aに向けて移動し、正圧段差面103aを乗り越えて正圧平坦面102aに向けて移動しようとする。これにより、回転側摺動面と固定側摺動面102との間に正圧が発生し、回転側摺動面と固定側摺動面102との間隔が広がって回転側摺動面と固定側摺動面102との間にオイルによる油膜が形成され、回転側摺動面と固定側摺動面102のシール面102sとの間の摺動性が向上する。
【0008】
また、高速側シャフトの回転に伴って回転環が回転すると、回転側摺動面と固定側摺動面102の負圧平坦面102bとの間に介在するオイルが回転環の回転に追従して移動して、負圧段差面104aを介して負圧発生溝104に流れ込む。これにより、負圧発生溝104内が負圧になって、増速機室内からシャフト挿通孔を介してインペラ室内へ洩れ出そうとするオイルが負圧発生溝104内に吸い込まれ易くなる。そして、負圧発生溝104内に吸い込まれたオイルは、回転環の回転に追従して連通溝105に向けて流れ、連通溝105を介してシャフト挿通孔内における固定環101の外周面よりも高速側シャフトの径方向外側に排出される。これにより、増速機室内に貯留されるオイルが、回転側摺動面と固定側摺動面102のシール面102sとの間を介してインペラ室内へ洩れ出すことが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2014/148316号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
遠心圧縮機は、固定環101の外周側からメカニカルシール100にオイルを供給するオイル供給通路106を備えている。オイル供給通路106は、例えば、連通溝105に向けてオイルを噴射することにより、連通溝105にオイルを供給する。そして、オイル供給通路106から噴射されて連通溝105に供給されたオイルは、連通溝105を流れて正圧発生溝103内に供給される。このような遠心圧縮機では、高速側シャフトが高速回転することにより回転環が高速回転すると、オイルが遠心力により高速側シャフトの径方向外側にはじき飛ばされ易くなる。よって、オイル供給通路106から噴射されるオイルの噴射圧が低いと、オイル供給通路106から噴射されたオイルが遠心力によって高速側シャフトの径方向外側にはじき飛ばされて、連通溝105にオイルが供給され難くなる。
【0011】
そこで、オイル供給通路106から噴射されるオイルが遠心力によって高速側シャフトの径方向外側にはじき飛ばされないようにするために、オイル供給通路106から噴射されるオイルの噴射圧を高めることが考えられる。このとき、特許文献1のように、連通溝105における正圧発生溝103に連続する面とは反対側の面105fの延長線L100が、負圧発生溝104と交差しており、例えば、オイル供給通路106から噴射されるオイルの噴射方向が、延長線L100に沿った方向である場合を考える。この場合、オイル供給通路106から噴射されるオイルの噴射圧が高いと、オイル供給通路106から噴射されて連通溝105に流れ込んだオイルが負圧発生溝104を乗り越えてシール面102sに向けて流れ込む虞がある。すると、オイルが回転側摺動面とシール面102sとの間を介してインペラ室内へ洩れ出してしまう。
【0012】
なお、この問題は、例えば、固定環101の固定側摺動面102に負圧発生溝104を形成せずに、回転環と固定環101との相対回転摺動によりオイルを外周側に戻すポンピング作用を発生させるスパイラル溝を、固定側摺動面102におけるシール面102sを取り囲む部分に全周に亘って形成する場合であっても、同様に起こり得る。したがって、負圧発生溝104やスパイラル溝のようなオイル戻し溝を、固定側摺動面102におけるシール面102sよりも高速側シャフトの径方向外側の部分に形成する構成において共通の問題である。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、オイルがインペラ室内へ洩れ出してしまうことを抑制することができる遠心圧縮機及びメカニカルシールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する遠心圧縮機は、低速側シャフトと、高速側シャフトに取り付けられたインペラと、前記低速側シャフトの動力を前記高速側シャフトに伝達する増速機と、前記インペラを収容するインペラ室、及び前記増速機を収容する増速機室が形成されたハウジングと、前記インペラ室と前記増速機室とを仕切る仕切壁と、前記仕切壁に形成されるとともに前記高速側シャフトが挿通されるシャフト挿通孔と、前記シャフト挿通孔に設けられるメカニカルシールと、前記増速機及び前記メカニカルシールにオイルを供給するオイル供給通路と、を備え、前記メカニカルシールは、前記高速側シャフトと一体的に回転する回転環と、前記回転環に対して前記高速側シャフトの軸線方向で対向配置されるとともに前記高速側シャフトを取り囲んだ状態で前記シャフト挿通孔に固定される固定環と、を備え、前記回転環における前記固定環側の端面は、前記固定環と摺動する平坦面状の回転側摺動面を有し、前記固定環における前記回転環側の端面は、前記回転側摺動面と摺動する平坦面状の固定側摺動面を有しており、前記固定側摺動面は、前記回転側摺動面とのシール面を有し、前記固定側摺動面には、正圧発生溝、前記正圧発生溝に連通する連通溝、及びオイル戻し溝が形成され、前記正圧発生溝、前記連通溝、及び前記オイル戻し溝は、前記シール面よりも前記高速側シャフトの径方向外側に位置し、前記連通溝は、前記固定環の外周側に連通しており、前記正圧発生溝は、前記連通溝から前記回転環の回転方向に向けて延びるとともに前記正圧発生溝における前記連通溝とは反対側の端部に正圧段差面を有し、前記固定側摺動面は、前記正圧段差面に対して前記回転環の回転方向で連続する正圧平坦面を有し、前記正圧発生溝は、前記オイル戻し溝よりも前記高速側シャフトの径方向外側に位置するとともに前記オイル戻し溝とは前記固定側摺動面によって隔離されている遠心圧縮機であって、前記連通溝における前記正圧発生溝に連続する連続面とは反対側の面は、前記オイル供給通路から供給されるオイルを案内するオイル案内面になっており、前記オイル案内面の延長線が、前記オイル戻し溝よりも前記高速側シャフトの径方向外側に位置しており、前記オイル供給通路は、前記固定環の外周側から前記連通溝に向けて前記オイル案内面に沿ってオイルを供給する。
【0015】
これによれば、オイル供給通路から連通溝に供給されるオイルは、オイル案内面に案内されながら連通溝を流れて正圧発生溝に供給される。オイル案内面の延長線は、オイル戻し溝よりも高速側シャフトの径方向外側に位置している。このため、例えば、オイル案内面の延長線がオイル戻し溝と交差しており、オイル供給通路から供給されるオイルがオイル案内面に沿って供給される場合に比べると、オイル供給通路から供給されるオイルがオイル戻し溝を乗り越えてシール面に向けて流れ込むことが抑制される。その結果、オイルが回転側摺動面とシール面との間を介してインペラ室内へ洩れ出してしまうことを抑制することができる。
【0016】
上記遠心圧縮機において、前記固定側摺動面には、前記連通溝が複数形成されており、前記複数の連通溝は、前記高速側シャフトの周方向へ所定の間隔置きに配置され、前記複数の連通溝は、前記オイル案内面をそれぞれ有しているとよい。
【0017】
これによれば、固定環をシャフト挿通孔に固定する際には、オイル供給通路から供給されるオイルが、複数の連通溝のうちのどれか一つのオイル案内面に沿って供給されるように、固定環をシャフト挿通孔に固定すればよい。よって、固定環におけるシャフト挿通孔に対する固定を容易なものとすることができる。
【0018】
上記遠心圧縮機において、前記連続面の延長線と前記固定環の外周面の接線とがなす前記連通溝側の角度が鋭角であるとよい。
これによれば、例えば、連続面の延長線と固定環の外周面の接線とがなす連通溝側の角度が鈍角である場合に比べると、正圧発生溝における連通溝からの長さを確保し易くなる。よって、正圧発生溝内の圧力の低下を抑制することができるため、回転側摺動面と固定側摺動面との間に正圧が発生し難くなってしまうことを抑制することができる。
上記課題を解決するメカニカルシールは、ハウジング内を区画する仕切壁に形成されたシャフト挿通孔に設けられ、前記シャフト挿通孔と該シャフト挿通孔に挿通されるシャフトとの間をシールするメカニカルシールであって、前記シャフトと一体的に回転する回転環と、前記回転環に対して前記シャフトの軸線方向で対向配置されるとともに前記シャフトを取り囲んだ状態で前記シャフト挿通孔に固定される固定環と、を備え、前記回転環における前記固定環側の端面は、前記固定環と摺動する平坦面状の回転側摺動面を有し、前記固定環における前記回転環側の端面は、前記回転側摺動面と摺動する平坦面状の固定側摺動面を有しており、前記固定側摺動面には、正圧発生溝及び前記正圧発生溝に連通する連通溝が形成され、前記連通溝は、前記固定側摺動面の摺動面径方向の外部に連通しており、前記正圧発生溝は、前記連通溝から前記回転環の回転方向に向けて延びるとともに前記正圧発生溝における前記連通溝とは反対側の端部に正圧段差面を有し、前記固定側摺動面は、前記正圧段差面に対して前記回転環の回転方向で連続する正圧平坦面を有し、前記連通溝における前記正圧発生溝に連続する連続面とは反対側の面は、当該メカニカルシールに供給されるオイルを案内するオイル案内面になっており、当該メカニカルシールには、前記固定側摺動面の摺動面径方向の外部から前記連通溝に向けて前記オイル案内面に沿ってオイルが供給され前記固定側摺動面には、オイル戻し溝が形成され、前記正圧発生溝は、前記オイル戻し溝よりも前記シャフトの径方向外側に位置するとともに、前記オイル戻し溝とは前記固定側摺動面によって隔離されており、前記オイル案内面の延長線が、前記オイル戻し溝よりも前記シャフトの径方向外側に位置している。
上記メカニカルシールにおいて、前記固定側摺動面には、前記連通溝が複数形成されており、前記複数の連通溝は、前記シャフトの周方向へ所定の間隔置きに配置され、前記複数の連通溝は、前記オイル案内面をそれぞれ有しているとよい。
上記メカニカルシールにおいて、前記連続面の延長線と前記固定環の外周面の接線とがなす前記連通溝側の角度が鋭角であるとよい。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、オイルがインペラ室内へ洩れ出してしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態における遠心圧縮機を示す側断面図。
図2図1における2−2線断面図。
図3】メカニカルシール周辺を拡大して示す側断面図。
図4】固定環の正面図。
図5】固定環の一部を拡大して示す正面図。
図6】正圧発生溝、連通溝、正圧平坦面、及び回転環の関係を模式的に示す図。
図7】従来例における固定環の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、遠心圧縮機を具体化した一実施形態を図1図6にしたがって説明する。本実施形態の遠心圧縮機は、燃料電池を電力源として走行する燃料電池車両(FCV)に搭載され、燃料電池に対して空気を供給する。
【0022】
図1に示すように、遠心圧縮機10のハウジング11は、モータハウジング12と、モータハウジング12に連結される増速機ハウジング13と、増速機ハウジング13に連結されるプレート14と、プレート14に連結されるコンプレッサハウジング15と、を備えている。モータハウジング12、増速機ハウジング13、プレート14、及びコンプレッサハウジング15は、例えばアルミニウムにより形成された金属材料製である。ハウジング11は略筒状である。モータハウジング12、増速機ハウジング13、プレート14、及びコンプレッサハウジング15は、ハウジング11の軸線方向にこの順序で配列されている。
【0023】
モータハウジング12は、円板状の底壁12aと、底壁12aの外周縁から円筒状に延設された周壁12bと、を有する有底円筒状である。増速機ハウジング13は、円板状の底壁13aと、底壁13aの外周縁から円筒状に延設された周壁13bと、を有する有底円筒状である。
【0024】
モータハウジング12の周壁12bにおける底壁12aとは反対側の端部は、増速機ハウジング13の底壁13aに連結されている。そして、モータハウジング12の周壁12bにおける底壁12aとは反対側の開口は、増速機ハウジング13の底壁13aによって閉塞されている。底壁13aの中央部には、貫通孔13hが形成されている。
【0025】
増速機ハウジング13の周壁13bにおける底壁13aとは反対側の端部は、プレート14に連結されている。そして、増速機ハウジング13の周壁13bにおける底壁13aとは反対側の開口は、プレート14によって閉塞されている。プレート14の中央部には、シャフト挿通孔14hが形成されている。
【0026】
コンプレッサハウジング15は、プレート14における増速機ハウジング13とは反対側の面に連結されている。コンプレッサハウジング15には、気体である空気が吸入される吸入口15aが形成されている。吸入口15aは、コンプレッサハウジング15におけるプレート14とは反対側の端面の中央部に開口するとともに、コンプレッサハウジング15におけるプレート14とは反対側の端面の中央部からハウジング11の軸線方向に延びている。
【0027】
遠心圧縮機10は、低速側シャフト16と、低速側シャフト16を回転させる電動モータ17と、を備えている。ハウジング11内には、電動モータ17を収容するモータ室12cが形成されている。モータ室12cは、モータハウジング12の底壁12aの内面、周壁12bの内周面、及び増速機ハウジング13の底壁13aの外面によって区画されている。低速側シャフト16は、低速側シャフト16の軸線方向がモータハウジング12の軸線方向に一致した状態でモータハウジング12内に収容されている。低速側シャフト16は、例えば鉄又は合金で形成された金属材料製である。
【0028】
モータハウジング12の底壁12aの内面には、筒状のボス部12fが突出している。低速側シャフト16の一端部は、ボス部12f内に挿入されている。低速側シャフト16の一端部とボス部12fとの間には、第1軸受18が設けられている。そして、低速側シャフト16の一端部は、第1軸受18を介してモータハウジング12の底壁12aに回転可能に支持されている。
【0029】
低速側シャフト16の他端部は、貫通孔13hに挿入されている。低速側シャフト16の他端部と貫通孔13hとの間には、第2軸受19が設けられている。そして、低速側シャフト16の他端部は、第2軸受19を介して増速機ハウジング13の底壁13aに回転可能に支持されている。よって、低速側シャフト16は、ハウジング11に回転可能に支持されている。低速側シャフト16の他端は、モータ室12cから貫通孔13hを通過して増速機ハウジング13内に突出している。
【0030】
低速側シャフト16の他端部と貫通孔13hとの間には、シール部材20が設けられている。シール部材20は、低速側シャフト16の他端部と貫通孔13hとの間において、第2軸受19よりもモータ室12c寄りに配置されている。シール部材20は、低速側シャフト16の外周面と貫通孔13hの内周面との間をシールする。
【0031】
電動モータ17は、筒状のステータ21と、ステータ21の内側に配置されるロータ22とからなる。ロータ22は、低速側シャフト16に固定されるとともに低速側シャフト16と一体的に回転する。ステータ21は、ロータ22を取り囲んでいる。ロータ22は、低速側シャフト16に止着された円筒状のロータコア22aと、ロータコア22aに設けられた複数の永久磁石(図示せず)と、を有している。ステータ21は、モータハウジング12の周壁12bの内周面に固定された筒状のステータコア21aと、ステータコア21aに捲回されたコイル21bと、を有している。そして、コイル21bに電流が流れることによって、ロータ22と低速側シャフト16とが一体的に回転する。
【0032】
遠心圧縮機10は、高速側シャフト31と、低速側シャフト16の動力を高速側シャフト31に伝達する増速機30と、を備えている。ハウジング11内には、増速機30を収容する増速機室13cが形成されている。増速機室13cは、増速機ハウジング13の底壁13aの内面、周壁13bの内周面、及びプレート14によって区画されている。増速機室13c内にはオイルが貯留されている。シール部材20は、増速機室13c内に貯留されているオイルが、低速側シャフト16の外周面と貫通孔13hの内周面との間を介してモータ室12cに洩れ出すことを抑制している。
【0033】
高速側シャフト31は、例えば鉄又は合金で形成された金属材料製である。高速側シャフト31は、高速側シャフト31の軸線方向が増速機ハウジング13の軸線方向に一致した状態で増速機室13cに収容されている。高速側シャフト31におけるモータハウジング12とは反対側の端部は、プレート14のシャフト挿通孔14hを通過してコンプレッサハウジング15内に突出している。高速側シャフト31の軸線は、低速側シャフト16の軸線と一致している。
【0034】
遠心圧縮機10は、高速側シャフト31に取り付けられたインペラ24を備えている。ハウジング11内には、インペラ24を収容するインペラ室15bが形成されている。インペラ室15bは、コンプレッサハウジング15とプレート14とによって区画されている。プレート14は、インペラ室15bと増速機室13cとを仕切る仕切壁である。そして、高速側シャフト31が挿通されるシャフト挿通孔14hは、仕切壁であるプレート14に形成されている。
【0035】
遠心圧縮機10は、シャフト挿通孔14hに設けられるメカニカルシール71を備えている。メカニカルシール71は、増速機室13c内に貯留されているオイルがシャフト挿通孔14hを介してインペラ室15bに洩れ出すことを抑制する。
【0036】
インペラ室15bと吸入口15aとは連通している。インペラ室15bは、吸入口15aから離れるにつれて徐々に拡径していく略円錐台孔形状になっている。高速側シャフト31におけるコンプレッサハウジング15内に突出している突出端部は、インペラ室15bに突出している。
【0037】
インペラ24は、基端面24aから先端面24bに向かうに従って徐々に縮径した筒状である。インペラ24は、インペラ24の回転軸線方向に延び、且つ、高速側シャフト31が挿通可能な挿通孔24cを有している。インペラ24は、高速側シャフト31におけるコンプレッサハウジング15内に突出している突出端部が挿通孔24cに挿通された状態で、高速側シャフト31と一体的に回転可能に高速側シャフト31に取り付けられている。これにより、高速側シャフト31が回転することによってインペラ24が回転して、吸入口15aから吸入された空気が圧縮される。よって、インペラ24は、高速側シャフト31と一体回転して空気を圧縮する。
【0038】
また、遠心圧縮機10は、インペラ24によって圧縮された空気が流入するディフューザ流路25と、ディフューザ流路25を通過した空気が流入する吐出室26と、を備えている。
【0039】
ディフューザ流路25は、コンプレッサハウジング15におけるプレート14と対向する面と、プレート14とによって区画されている。ディフューザ流路25は、インペラ室15bよりも高速側シャフト31の径方向外側に位置するとともにインペラ室15bに連通している。ディフューザ流路25は、インペラ24及びインペラ室15bを囲む環状に形成されている。
【0040】
吐出室26は、ディフューザ流路25よりも高速側シャフト31の径方向外側に位置するとともにディフューザ流路25に連通している。吐出室26は環状である。インペラ室15bと吐出室26とはディフューザ流路25を介して連通している。インペラ24によって圧縮された空気は、ディフューザ流路25を通ることによって、更に圧縮されて吐出室26に流れ、吐出室26から吐出される。
【0041】
増速機30は、低速側シャフト16の回転を増速させて高速側シャフト31に伝達する。増速機30は、所謂トラクションドライブ式(摩擦ローラ式)である。増速機30は、低速側シャフト16の他端に連結されたリング部材32を備えている。リング部材32は金属製である。リング部材32は、低速側シャフト16の回転に伴って回転する。リング部材32は、低速側シャフト16の他端に連結された円板状のベース33と、ベース33の外縁部から円筒状に延設された筒部34と、を有する有底円筒状である。ベース33は、低速側シャフト16に対して低速側シャフト16の径方向に延びている。筒部34の軸線は、低速側シャフト16の軸線と一致している。
【0042】
図2に示すように、高速側シャフト31の一部は、筒部34の内側に配置されている。また、増速機30は、筒部34と高速側シャフト31との間に設けられる3つのローラ35を備えている。3つのローラ35は、例えば金属製であり、高速側シャフト31と同一金属、例えば鉄又は鉄の合金で構成されている。3つのローラ35は、高速側シャフト31の周方向に互いに所定の間隔(例えば120度ずつ)をあけて配置されている。3つのローラ35は同一形状である。3つのローラ35は、筒部34の内周面及び高速側シャフト31の外周面の双方と当接する。
【0043】
図1に示すように、各ローラ35は、円柱状のローラ部35aと、ローラ部35aの軸線方向の第1端面35bから突出する円柱状の第1突起35cと、ローラ部35aの軸線方向の第2端面35dから突出する円柱状の第2突起35eと、を有している。ローラ部35aの軸心、第1突起35cの軸心、及び第2突起35eの軸心は一致している。各ローラ35のローラ部35aの軸心が延びる方向(回転軸線方向)と高速側シャフト31の軸線方向とは一致している。ローラ部35aの外径は、高速側シャフト31の外径よりも大きい。
【0044】
図1及び図2に示すように、増速機30は、プレート14と協働して各ローラ35を回転可能に支持する支持部材39を備えている。支持部材39は、筒部34の内側に配置されている。支持部材39は、円板状の支持ベース40と、支持ベース40から立設された柱状の3つの立設壁41と、を有している。支持ベース40は、プレート14に対して各ローラ35の回転軸線方向に対向配置されている。3つの立設壁41は、支持ベース40におけるプレート14側の面40aからプレート14に向けてそれぞれ延びている。そして、3つの立設壁41は、筒部34の内周面と、隣り合う2つのローラ部35aの外周面とによって区画された3つの空間を埋めるようにそれぞれ配置されている。
【0045】
支持部材39には、ボルト44が挿通可能なボルト挿通孔45が3つ形成されている。各ボルト挿通孔45は、3つの立設壁41それぞれをローラ35の回転軸線方向に貫通している。図1に示すように、プレート14における支持部材39側の面14aには、各ボルト挿通孔45に連通する雌ねじ孔46がそれぞれ形成されている。そして、支持部材39は、各ボルト挿通孔45に挿通された各ボルト44が各雌ねじ孔46に螺合されることによってプレート14に取り付けられている。
【0046】
プレート14における支持部材39側の面14aは、3つの凹部51(図1では一つの凹部51のみ図示)を有している。3つの凹部51は、高速側シャフト31の周方向に互いに所定の間隔(例えば120度ずつ)をあけて配置されている。3つの凹部51それぞれの配置位置は、3つのローラ35それぞれの配置位置に対応している。3つの凹部51内には、円環状のローラ軸受52がそれぞれ配置されている。
【0047】
支持ベース40におけるプレート14側の面40aは、3つの凹部53(図1では一つの凹部53のみ図示)を有している。3つの凹部53は、高速側シャフト31の周方向に互いに所定の間隔(例えば120度ずつ)をあけて配置されている。3つの凹部53それぞれの配置位置は、3つのローラ35それぞれの配置位置に対応している。3つの凹部53内には、円環状のローラ軸受54が配置されている。
【0048】
各ローラ35の第1突起35cは、各凹部51内のローラ軸受52内に挿入され、ローラ軸受52を介してプレート14に回転可能に支持されている。各ローラ35の第2突起35eは、各凹部53内のローラ軸受54内に挿入され、ローラ軸受54を介して支持部材39に回転可能に支持されている。
【0049】
高速側シャフト31には、高速側シャフト31の軸線方向に離間して対向配置された一対のフランジ部31fが設けられている。3つのローラ35のローラ部35aは、一対のフランジ部31fによって挟持されている。これにより、高速側シャフト31の軸線方向における高速側シャフト31と3つのローラ35のローラ部35aとの位置ずれが抑制されている。
【0050】
図2に示すように、3つのローラ35、リング部材32、及び高速側シャフト31は、3つのローラ35と高速側シャフト31及び筒部34とが互いに押し付けあっている状態でユニット化されている。そして、高速側シャフト31は、3つのローラ35によって回転可能に支持されている。
【0051】
3つのローラ35のローラ部35aの外周面と筒部34の内周面との当接箇所であるリング側当接箇所Paには押し付け荷重が付与されている。また、3つのローラ35の外周面と高速側シャフト31の外周面との当接箇所であるシャフト側当接箇所Pbには、押し付け荷重が付与されている。リング側当接箇所Pa及びシャフト側当接箇所Pbは、高速側シャフト31の軸線方向に延びている。
【0052】
そして、電動モータ17が駆動して、低速側シャフト16及びリング部材32が回転すると、リング部材32の回転力が、各リング側当接箇所Paを介して3つのローラ35に伝達されて3つのローラ35が回転し、3つのローラ35の回転力が、各シャフト側当接箇所Pbを介して高速側シャフト31に伝達される。その結果、高速側シャフト31が回転する。このとき、リング部材32は、低速側シャフト16と同一速度で回転し、3つのローラ35は低速側シャフト16よりも高速で回転する。そして、3つのローラ35の外径よりも外径が小さい高速側シャフト31は、3つのローラ35よりも高速で回転する。これにより、増速機30によって、高速側シャフト31が低速側シャフト16よりも高速で回転する。
【0053】
図1に示すように、遠心圧縮機10は、増速機30にオイルを供給するオイル供給通路60を備えている。また、オイル供給通路60は、メカニカルシール71にもオイルを供給する。さらに、遠心圧縮機10は、オイル供給通路60を流れるオイルを冷却するオイルクーラ55と、オイル供給通路60を流れるオイルが貯留されるオイルパン56と、オイルパン56に貯留されたオイルを吸い上げて吐出するオイルポンプ57と、を備えている。
【0054】
オイルクーラ55は、モータハウジング12の周壁12bの外周面に取り付けられる有底筒状のカバー部材55aを有している。そして、カバー部材55aの内面とモータハウジング12の周壁12bの外周面とによって空間55bが区画されている。また、オイルクーラ55は、空間55b内に配置される冷却配管55cを有している。冷却配管55cの両端部は、モータハウジング12に支持されている。冷却配管55cは、オイル供給通路60の一部を形成する。
【0055】
また、カバー部材55aには、導入配管55d及び排出配管55eが設けられている。空間55bには、導入配管55dから低温流体が導入される。空間55bに導入された低温流体は、排出配管55eから排出されて図示しない冷却装置によって冷却された後、再び導入配管55dを介して空間55bに導入される。低温流体は、例えば、水である。
【0056】
オイルパン56は、モータハウジング12の底壁12aの内部に形成されている。オイルパン56は、モータハウジング12の底壁12aにおける外周側の部位に位置している。また、オイルポンプ57は、モータハウジング12の底壁12aの内部に設けられている。オイルポンプ57は、例えば、トロコイドポンプである。オイルポンプ57は、低速側シャフト16の一端部に連結されている。そして、オイルポンプ57は、低速側シャフト16の回転に伴って駆動する。
【0057】
オイル供給通路60は、増速機室13cとオイルクーラ55とを接続する第1接続通路61を有している。第1接続通路61は、増速機ハウジング13を貫通してモータハウジング12の周壁12bの内部まで延びている。第1接続通路61の一端は、増速機室13c内に開口している。第1接続通路61の他端は、冷却配管55cの一端に接続されている。
【0058】
遠心圧縮機10は、第1接続通路61における増速機室13c内に開口する部分が重力方向下側に位置するように燃料電池車両に搭載されている。よって、増速機室13c内のオイルは、第1接続通路61に流入する。
【0059】
オイル供給通路60は、オイルクーラ55とオイルパン56とを接続する第2接続通路62を有している。第2接続通路62は、モータハウジング12の内部に形成されている。第2接続通路62の一端は、冷却配管55cの他端に接続されている。第2接続通路62の他端は、オイルパン56内に開口している。
【0060】
増速機室13c内に貯留されているオイルは、第1接続通路61に流入して、第1接続通路61、冷却配管55c、及び第2接続通路62を通過する。ここで、冷却配管55cを通過するオイルは、オイルクーラ55の空間55bに導入される低温流体との熱交換が行われることにより冷却される。そして、オイルクーラ55によって冷却されたオイルが、オイルパン56に貯留される。
【0061】
オイル供給通路60は、オイルパン56とオイルポンプ57とを接続する第3接続通路63を有している。第3接続通路63は、モータハウジング12の内部に形成されている。第3接続通路63の一端は、オイルパン56内に突出している。第3接続通路63の他端はオイルポンプ57の吸入口57aに接続されている。
【0062】
オイル供給通路60は、オイルポンプ57の吐出口57bに接続される第4接続通路64を有している。第4接続通路64は、モータハウジング12の底壁12a及び周壁12bを貫通して増速機ハウジング13の周壁13bの内部まで延びている。第4接続通路64の一端は、オイルポンプ57の吐出口57bに接続されている。第4接続通路64の他端は、増速機ハウジング13の周壁13bの内部に位置している。
【0063】
オイル供給通路60は、第4接続通路64の他端から分岐する第1分岐通路65及び第2分岐通路66を有している。第1分岐通路65は、第4接続通路64の他端からモータハウジング12に向けて延びており、増速機ハウジング13の周壁13b及び増速機ハウジング13の底壁13aを貫通している。第1分岐通路65の一端は、第4接続通路64の他端に連通している。第1分岐通路65の他端は、貫通孔13hに開口している。
【0064】
第2分岐通路66は、第4接続通路64の他端からプレート14に向けて延びており、増速機ハウジング13の周壁13bを貫通してプレート14の内部まで延びている。第2分岐通路66の一端は、第4接続通路64の他端に連通している。第2分岐通路66の他端は、プレート14の内部に位置している。
【0065】
オイル供給通路60は、第2分岐通路66の他端に連通する共通通路67を有している。共通通路67は、第2分岐通路66に対して直交する方向であって、且つ第2分岐通路66の他端から重力方向下側へ直線状に延びている。また、オイル供給通路60は、共通通路67から分岐するシール部材側供給通路69及び増速機側供給通路70を有している。シール部材側供給通路69の一端は、共通通路67に連通している。シール部材側供給通路69の他端は、シャフト挿通孔14hに開口している。増速機側供給通路70は、共通通路67からコンプレッサハウジング15とは反対側に向けて直線状に延びてプレート14を貫通し、立設壁41を貫通して立設壁41におけるローラ部35aの外周面と向かい合う位置に開口している。よって、増速機側供給通路70は、増速機室13cに連通している。
【0066】
電動モータ17が駆動されると、低速側シャフト16の回転によりオイルポンプ57が駆動されて、オイルパン56内に貯留されているオイルが第3接続通路63及び吸入口57aを介してオイルポンプ57内に吸入され、吐出口57bを介して第4接続通路64に吐出される。オイルポンプ57は、低速側シャフト16の回転数の増加に伴い、吐出口57bから吐出されるオイルの量が比例的に増加するように駆動される。そして、第4接続通路64に吐出されたオイルは、第4接続通路64を流れて第1分岐通路65及び第2分岐通路66にそれぞれ分配される。
【0067】
第4接続通路64から第1分岐通路65に分配されたオイルは、第1分岐通路65を流れて貫通孔13h内に流入し、シール部材20及び第2軸受19に供給される。これにより、シール部材20と低速側シャフト16との摺動部分、及び第2軸受19と低速側シャフト16との摺動部分の潤滑が良好なものとなる。
【0068】
第4接続通路64から第2分岐通路66に分配されたオイルは、第2分岐通路66を介して共通通路67に流入する。共通通路67を流れるオイルは、その一部がシール部材側供給通路69に分配され、その他のオイルが増速機側供給通路70を流れる。共通通路67からシール部材側供給通路69に分配されたオイルは、シール部材側供給通路69を流れてシャフト挿通孔14hに流入し、メカニカルシール71に供給される。また、増速機側供給通路70を流れるオイルは、ローラ部35aの外周面に供給される。これにより、ローラ部35aと高速側シャフト31との摺動部分の潤滑が良好なものとなる。メカニカルシール71及びローラ部35aの外周面に供給されたオイルは、増速機室13c内に戻される。
【0069】
図3に示すように、シャフト挿通孔14hは、大径孔141hと、大径孔141hに連通する小径孔142hと、大径孔141hと小径孔142hとを接続する環状の段差面143hと、を有している。大径孔141hは、インペラ室15bに連通している。小径孔142hは、増速機室13cに連通している。段差面143hは、高速側シャフト31の径方向に延びている。大径孔141h及び小径孔142hは、円孔状であるとともにそれぞれの軸心は、高速側シャフト31の回転軸線に一致している。
【0070】
一対のフランジ部31fの一方は、小径孔142h内に配置されている。高速側シャフト31は、増速機室13c内から小径孔142h及び大径孔141hを通過してインペラ室15b内に突出している。
【0071】
メカニカルシール71は、高速側シャフト31と一体的に回転する回転環81と、シャフト挿通孔14hに固定される固定環91と、を備えている。本実施形態において、小径孔142h内に配置されるフランジ部31fは、回転環81として機能している。よって、本実施形態において、回転環81は、高速側シャフト31に一体形成されている。回転環81は、円環状である。固定環91は、回転環81に対して高速側シャフト31の軸線方向で対向配置されるとともに高速側シャフト31を取り囲んだ状態で大径孔141hに固定されている。よって、固定環91は、回転環81よりもインペラ室15b寄りに配置されている。
【0072】
メカニカルシール71は、固定環91を回転環81に向けて押圧するスプリング72と、スプリング72を保持するスプリング保持部73と、スプリング72及びスプリング保持部73ごと固定環91を覆った状態で固定環91を保持するカートリッジ74とを備えている。
【0073】
カートリッジ74は、円環状の底壁74aと、底壁74aの内周縁から回転環81に向けて起立する筒状の内周壁74bと、底壁74aの外周縁から回転環81に向けて起立する円筒状の外周壁74cと、を有している。外周壁74cは、大径孔141hの内周面に沿って延びている。カートリッジ74は、外周壁74cが大径孔141hの内周面に嵌合されることにより、シャフト挿通孔14hに固定されている。高速側シャフト31は、内周壁74bの内側、及び底壁74aの内側を通過している。
【0074】
固定環91、スプリング72、及びスプリング保持部73は、底壁74a、内周壁74bの外周面、及び外周壁74cの内周面によって区画される空間内に配置されている。そして、カートリッジ74は、高速側シャフト31の軸線方向に移動可能な状態で、固定環91を高速側シャフト31と一体回転しないように保持している。このため、固定環91は、高速側シャフト31の軸線方向への移動が許容されている一方、高速側シャフト31の周方向への移動が規制されている。
【0075】
スプリング72及びスプリング保持部73は、カートリッジ74の底壁74aと固定環91との間に配置されている。スプリング保持部73は、固定環91と当接しており、スプリング72は、スプリング保持部73と底壁74aとを連結している。これにより、スプリング72の付勢力がスプリング保持部73を介して固定環91に伝達され、固定環91が回転環81に向けて押圧されている。
【0076】
回転環81における固定環91側の端面81aは、固定環91と摺動する平坦面状の回転側摺動面82を有している。固定環91における回転環81側の端面91aは、回転側摺動面82と摺動する平坦面状の固定側摺動面92を有している。固定側摺動面92は、回転側摺動面82とのシール面92sを有している。
【0077】
また、固定環91の内周面の一部は、高速側シャフト31の径方向外側に凹んでいる。また、内周壁74bの一部が高速側シャフト31の径方向内側に凹んでいる。そして、固定環91の内周面における高速側シャフト31の径方向外側へ凹んだ部分と、内周壁74bにおける高速側シャフト31の径方向内側へ凹んだ部分との間には、円環状のシール部材75が設けられている。
【0078】
固定環91の端面91aの外周部には、環状の切欠凹部91bが形成されている。切欠凹部91bは、高速側シャフト31の軸線方向において段差面143hと接触している。シール部材側供給通路69の他端は、小径孔142hの内周面及び段差面143hに開口している。よって、シール部材側供給通路69の他端は、高速側シャフト31の径方向において回転側摺動面82と固定側摺動面92との摺動部分に対向している。そして、シール部材側供給通路69の他端からは、小径孔142h内に向けてオイルが噴射される。
【0079】
図4に示すように、固定環91の固定側摺動面92には、連通溝93が複数形成されている。複数の連通溝93は、高速側シャフト31の周方向へ等間隔置きに配置されている。よって、複数の連通溝93は、高速側シャフト31の周方向へ所定の間隔置きに配置されている。各連通溝93は、固定側摺動面92のシール面92sよりも高速側シャフト31の径方向外側に位置している。各連通溝93は、高速側シャフト31の径方向に延びるとともに固定環91の外周側に連通している。具体的には、各連通溝93は、切欠凹部91bに開口している。
【0080】
固定環91の固定側摺動面92には、複数の正圧発生溝94が形成されている。各正圧発生溝94は、固定側摺動面92のシール面92sよりも高速側シャフト31の径方向外側に位置している。各正圧発生溝94は、各連通溝93に連通している。
【0081】
各正圧発生溝94は、各連通溝93から回転環81の回転方向(図4において矢印R1で示す方向)に向けて延びている。各正圧発生溝94は、高速側シャフト31の周方向で隣り合う連通溝93同士の間で、高速側シャフト31の周方向に延びている。各正圧発生溝94は、高速側シャフト31の周方向で隣り合う連通溝93のうち、回転環81の回転方向とは逆方向に位置する連通溝93に連通するとともに、回転環81の回転方向に位置する連通溝93とは非連通である。
【0082】
各正圧発生溝94は、各正圧発生溝94における連通溝93とは反対側の端部に正圧段差面94aを有している。固定側摺動面92は、各正圧発生溝94の正圧段差面94aに対して回転環81の回転方向で連続する正圧平坦面92aをそれぞれ有している。各正圧平坦面92aは、固定側摺動面92において、高速側シャフト31の周方向で隣り合う連通溝93のうち、正圧発生溝94と非連通である連通溝93と正圧発生溝94の正圧段差面94aとの間に位置する部位である。
【0083】
固定側摺動面92におけるシール面92sを取り囲む部分には、高速側シャフト31の周方向全周に亘って形成されるスパイラル溝95が形成されている。よって、スパイラル溝95は、シール面92sよりも高速側シャフト31の径方向外側に位置している。また、スパイラル溝95は、各正圧発生溝94よりも高速側シャフト31の径方向内側に位置している。スパイラル溝95は、回転環81と固定環91との相対回転摺動によりオイルを外周側に戻すポンピング作用を発生させる。これにより、増速機室13c内に貯留されるオイルが、回転側摺動面82と固定側摺動面92のシール面92sとの間を介してインペラ室15b内へ洩れ出すことが抑制される。よって、スパイラル溝95は、オイル戻し溝である。
【0084】
高速側シャフト31の径方向で各正圧発生溝94とスパイラル溝95との間に位置する固定側摺動面92の部位には、高速側シャフト31の周方向全周に亘って延びる圧力開放溝96が形成されている。高速側シャフト31の径方向において、圧力開放溝96と各正圧発生溝94との間には、固定側摺動面92の一部が位置している。よって、各正圧発生溝94は、スパイラル溝95よりも高速側シャフト31の径方向外側に位置するとともにスパイラル溝95とは固定側摺動面92によって隔離されている。圧力開放溝96は、各連通溝93における固定環91の外周側の開口とは反対側の端部に連通している。スパイラル溝95における高速側シャフト31の径方向外側の端部は、圧力開放溝96に連通している。
【0085】
各連通溝93の深さと圧力開放溝96の深さとは同じである。また、各連通溝93の深さ及び圧力開放溝96の深さは、各正圧発生溝94の深さよりも深い。スパイラル溝95の深さは、各正圧発生溝94の深さよりも浅い。
【0086】
図5に示すように、連通溝93は、正圧発生溝94に連続する連続面93aを有している。連続面93aは、連通溝93における回転環81の回転方向に位置する面である。連続面93aは平坦面状である。連続面93aにおける高速側シャフト31の径方向内側の端縁は、圧力開放溝96に連続している。連続面93aにおける高速側シャフト31の径方向外側の端縁は、切欠凹部91bに連続している。
【0087】
また、連通溝93は、連続面93aとは反対側の面であるオイル案内面93bを有している。さらに、連通溝93は、オイル案内面93bと圧力開放溝96とを接続する接続面93cを有している。オイル案内面93b及び接続面93cは、連通溝93における回転環81の回転方向とは反対側に位置する面である。オイル案内面93b及び接続面93cは平坦面状である。
【0088】
接続面93cにおける高速側シャフト31の径方向内側の端縁は、圧力開放溝96に連続している。オイル案内面93bにおける高速側シャフト31の径方向内側の端縁は、接続面93cにおける高速側シャフト31の径方向外側の端縁に連続している。オイル案内面93bにおける高速側シャフト31の径方向外側の端縁は、切欠凹部91bに連続している。また、連通溝93は、高速側シャフト31の周方向に延びるとともに連続面93aとオイル案内面93b及び接続面93cとを連結する底面93dを有している。
【0089】
オイル案内面93bは、接続面93cから高速側シャフト31の径方向外側に向かうにつれて連続面93aから離間する方向へ延びている。オイル案内面93bの延長線L1は、スパイラル溝95よりも高速側シャフト31の径方向外側に位置している。オイル案内面93bの延長線L1と固定環91の外周面91cの接線L11とがなす連通溝93側の角度θ1は鈍角である。オイル案内面93bの延長線L1は、正圧発生溝94における連通溝93側の開口縁における高速側シャフト31の径方向内側の部位93eと交差している。連続面93aの延長線L2と固定環91の外周面91cの接線L21とがなす連通溝93側の角度θ2は鋭角である。
【0090】
複数の連通溝93は、オイル案内面93bをそれぞれ有している。固定環91は、シール部材側供給通路69の他端から噴射されるオイルが、複数の連通溝93のうちのどれか一つのオイル案内面93bに沿って供給されるように、シャフト挿通孔14hに位置決めされている。シール部材側供給通路69は、オイルの噴射方向がオイル案内面93bに沿う方向となるようにプレート14に形成されている。したがって、オイル供給通路60は、固定環91の外周側から連通溝93に向けてオイル案内面93bに沿ってオイルを供給する。オイル案内面93bは、オイル供給通路60から供給されるオイルを案内する。オイル供給通路60から連通溝93に供給されるオイルは、オイル案内面93bに案内されながら連通溝93を流れて正圧発生溝94に供給される。
【0091】
図6に示すように、高速側シャフト31の回転に伴って回転環81が回転すると、連通溝93を介して正圧発生溝94内に供給されているオイルは、図6において矢印T1で示すように、回転環81の回転に追従して正圧段差面94aに向けて移動し、正圧段差面94aを乗り越えて正圧平坦面92aに向けて移動しようとする。これにより、回転側摺動面82と固定側摺動面92との間に正圧が発生し、回転側摺動面82と固定側摺動面92との間隔が広がって回転側摺動面82と固定側摺動面92との間にオイルによる油膜が形成され、回転側摺動面82と固定側摺動面92のシール面92sとの間の摺動性が向上する。なお、回転環81と固定環91との間に介在するオイルが回転環81の回転に追従して移動することにより、各連通溝93にオイルが供給されるとともに、各連通溝93から各正圧発生溝94にオイルが供給されている。
【0092】
次に、本実施形態の作用について説明する。
シール部材側供給通路69の他端から噴射されて連通溝93に供給されるオイルは、オイル案内面93bに案内されながら連通溝93を流れて正圧発生溝94に供給される。オイル案内面93bの延長線L1は、スパイラル溝95よりも高速側シャフト31の径方向外側に位置している。このため、例えば、オイル案内面93bの延長線L1がスパイラル溝95と交差しており、シール部材側供給通路69の他端から噴射されたオイルがオイル案内面93bに沿って供給される場合に比べると、シール部材側供給通路69の他端から噴射されたオイルがスパイラル溝95を乗り越えてシール面92sに向けて流れ込むことが抑制される。
【0093】
上記実施形態では以下の効果を得ることができる。
(1)遠心圧縮機10では、高速側シャフト31が高速回転することにより回転環81が高速回転すると、オイルが遠心力により高速側シャフト31の径方向外側にはじき飛ばされ易くなる。よって、オイル供給通路60から噴射されるオイルの噴射圧が低いと、オイル供給通路60から噴射されたオイルが遠心力によって高速側シャフト31の径方向外側にはじき飛ばされ易くなる。そこで、オイル供給通路60から噴射されるオイルが遠心力によって高速側シャフト31の径方向外側にはじき飛ばされないようにするために、オイル供給通路60から噴射されるオイルの噴射圧を高めることが考えられる。ここで、連通溝93のオイル案内面93bの延長線L1が、スパイラル溝95と交差しており、例えば、オイル供給通路60から噴射されるオイルの噴射方向が、延長線L1に沿った方向である場合を考える。この場合、オイル供給通路60から噴射されるオイルの噴射圧が高いと、オイル供給通路60から噴射されて連通溝93に流れ込んだオイルがスパイラル溝95を乗り越えてシール面92sに向けて流れ込む虞がある。
【0094】
そこで、本実施形態において、オイル案内面93bの延長線L1が、スパイラル溝95よりも高速側シャフト31の径方向外側に位置しており、オイル供給通路60は、固定環91の外周側から連通溝93に向けてオイル案内面93bに沿ってオイルを供給する。これによれば、オイル供給通路60から連通溝93に供給されるオイルは、オイル案内面93bに案内されながら連通溝93を流れて正圧発生溝94に供給される。このため、例えば、オイル案内面93bの延長線L1がスパイラル溝95と交差しており、オイル供給通路60から供給されるオイルがオイル案内面93bに沿って供給される場合に比べると、オイル供給通路60から供給されるオイルがスパイラル溝95を乗り越えてシール面92sに向けて流れ込むことが抑制される。その結果、オイルが回転側摺動面82とシール面92sとの間を介してインペラ室15b内へ洩れ出してしまうことを抑制することができる。また、オイル案内面93bに案内されながら連通溝93を流れて正圧発生溝94にオイルが供給されるため、正圧発生溝94にオイルが供給され易くなり、正圧発生溝94及び正圧平坦面92aで正圧が発生し易くなり、回転側摺動面82と固定側摺動面92との接触が抑制され、シール面92sでの焼き付きを抑制でき、シール性を保つことができる。
【0095】
(2)複数の連通溝93は、オイル案内面93bをそれぞれ有している。これによれば、固定環91をシャフト挿通孔14hに固定する際には、オイル供給通路60から供給されるオイルが、複数の連通溝93のうちのどれか一つのオイル案内面93bに沿って供給されるように、固定環91をシャフト挿通孔14hに固定すればよい。よって、固定環91におけるシャフト挿通孔14hに対する固定を容易なものとすることができる。
【0096】
(3)連続面93aの延長線L2と固定環91の外周面91cの接線L21とがなす連通溝93側の角度θ2は鋭角である。これによれば、例えば、連続面93aの延長線L2と固定環91の外周面91cの接線L21とがなす連通溝93側の角度θ2が鈍角である場合に比べると、正圧発生溝94における連通溝93からの長さを確保し易くなる。よって、正圧発生溝94内の圧力の低下を抑制することができるため、回転側摺動面82と固定側摺動面92との間に正圧が発生し難くなってしまうことを抑制することができる。
【0097】
(4)オイルがスパイラル溝95を乗り越えてシール面92sに向けて流れ込んで、増速機室13c内のオイルが回転側摺動面82とシール面92sとの間を介してインペラ室15b内へ洩れ出してしまうことを抑制することができるため、メカニカルシール71に供給するオイルの量を増やすことができる。よって、回転側摺動面82と固定側摺動面92のシール面92sとの間の摺動性を向上させ易くすることができる。
【0098】
(5)増速機室13c内からインペラ室15b内へのオイルの洩れが抑制されるため、遠心圧縮機10によって圧縮された空気と共にオイルが燃料電池に供給されてしまうことが抑制され、燃料電池の発電効率が低下してしまうことを回避することができる。
【0099】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 実施形態において、連続面93aの延長線L2と固定環91の外周面91cの接線L21とがなす連通溝93側の角度θ2が鈍角であってもよい。
【0100】
○ 実施形態において、複数の連通溝93の全てが、オイル案内面93bをそれぞれ有していなくてもよく、複数の連通溝93のうちの少なくとも一つの連通溝93がオイル案内面93bを有していればよい。
【0101】
○ 実施形態において、オイル案内面93bの延長線L1が、正圧発生溝94における連通溝93側の開口縁における高速側シャフト31の径方向内側の部位93eよりも高速側シャフト31の径方向内側に位置していてもよい。また、オイル案内面93bの延長線L1が、正圧発生溝94における連通溝93側の開口縁における高速側シャフト31の径方向内側の部位93eよりも高速側シャフト31の径方向外側に位置していてもよい。
【0102】
○ 実施形態において、連続面93aが、例えば、湾曲面状であってもよい。
○ 実施形態において、オイル案内面93bが、例えば、湾曲面状であってもよい。
○ 実施形態において、各連通溝93の深さが圧力開放溝96の深さよりも深くてもよい。また、各連通溝93の深さが圧力開放溝96の深さよりも浅くてもよい。
【0103】
○ 実施形態において、オイル戻し溝として、スパイラル溝95を適用せずに、従来技術で説明した負圧発生溝を適用してもよい。
○ 実施形態において、スパイラル溝95の深さは、各正圧発生溝94の深さと同じでもよく、深くてもよい。
【0104】
○ 実施形態において、連通溝93及び正圧発生溝94の数は適宜変更してもよい。
○ 実施形態において、回転環81が、高速側シャフト31とは別部材であってもよい。
【0105】
○ 実施形態において、遠心圧縮機10の適用対象及び圧縮対象の気体は任意である。例えば、遠心圧縮機10は空調装置に用いられていてもよく、圧縮対象の気体は冷媒ガスであってもよい。また、遠心圧縮機10の搭載対象は、車両に限られず任意である。
【符号の説明】
【0106】
10…遠心圧縮機、11…ハウジング、13c…増速機室、14…仕切壁であるプレート、14h…シャフト挿通孔、15b…インペラ室、16…低速側シャフト、24…インペラ、30…増速機、31…高速側シャフト、60…オイル供給通路、71…メカニカルシール、81…回転環、81a…端面、82…回転側摺動面、91…固定環、91a…端面、91c…外周面、92…固定側摺動面、92a…正圧平坦面、92s…シール面、93…連通溝、93a…連続面、93b…オイル案内面、94…正圧発生溝、94a…正圧段差面、95…オイル戻し溝であるスパイラル溝。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7