特許第6914913号(P6914913)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6914913薬液投与器具、薬液投与器具の使用方法及び薬液投与器具の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6914913
(24)【登録日】2021年7月16日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】薬液投与器具、薬液投与器具の使用方法及び薬液投与器具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20210727BHJP
【FI】
   A61M5/315 510
   A61M5/315 500
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-508122(P2018-508122)
(86)(22)【出願日】2017年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2017012795
(87)【国際公開番号】WO2017170635
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2019年11月8日
(31)【優先権主張番号】特願2016-66145(P2016-66145)
(32)【優先日】2016年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】小岩井 一倫
(72)【発明者】
【氏名】浦 剛博
【審査官】 佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−199824(JP,A)
【文献】 特開2004−313369(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第0511183(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に薬液を充填可能な筒状の胴部と、前記胴部の先端部に形成された排出部と、前記胴部の基端部に形成された開口部とを有するシリンジと、
前記胴部の筒孔内を摺動可能なガスケットと、
前記ガスケットが取り付けられた押し子本体を有する押し子部材と、
前記胴部の前記開口部と前記ガスケットの先端面とが間隔を空けて対向した状態で、前記押し子部材を解除可能に保持する仮保持部と、
を備え、
前記押し子本体は、押し子側係合部を有し、
前記仮保持部は、前記押し子側係合部と解除可能に係合する保持部側係合部を有し、
前記押し子側係合部と前記保持部側係合部との係合により、前記押し子部材が前記仮保持部に解除可能に保持される
薬液投与器具。
【請求項2】
内部に薬液を充填可能な筒状の胴部と、前記胴部の先端部に形成された排出部と、前記胴部の基端部に形成された開口部とを有するシリンジと、
前記胴部の筒孔内を摺動可能なガスケットと、
前記ガスケットが取り付けられた押し子本体を有する押し子部材と、
前記胴部の前記開口部と前記ガスケットの先端面とが間隔を空けて対向した状態で、前記押し子部材を解除可能に保持する仮保持部と、
を備え、
前記シリンジの前記排出部には、生体に穿刺可能な針先を有する針管を備えた注射針組立体及び前記薬液を吸引可能な針先を有する吸引用針管を備えた注射針組立体が着脱可能に装着され、
前記シリンジを保持するシリンジホルダをさらに備え、
前記仮保持部は、前記シリンジホルダに設けられている
薬液投与器具。
【請求項3】
前記押し子部材が前記シリンジの先端側に向かって押圧されることにより、前記仮保持部による前記押し子部材の保持が解除可能となる
請求項1又は2に記載の薬液投与器具。
【請求項4】
前記押し子側係合部は、前記保持部側係合部に対して先端側から係合する第1係合部と、前記保持部側係合部に対して基端側から係合する第2係合部とを有し、
前記第1係合部と前記第2係合部との間に前記保持部側係合部が位置することにより、前記押し子部材が前記仮保持部に解除可能に保持される
請求項1から3のいずれか1項に記載の薬液投与器具。
【請求項5】
前記押し子側係合部は、前記押し子本体の軸心を間に挟んで対向する位置である2箇所に設けられ、
前記保持部側係合部は、前記胴部の軸心を間に挟んで対向する位置である2箇所に設けられている
請求項1から4のいずれか1項に記載の薬液投与器具。
【請求項6】
前記押し子本体は、前記押し子側係合部よりも基端側で、かつ前記押し子本体の軸心周りにおいて前記押し子側係合部と異なる位置に設けられた押し子側抜け止め部を有し、
前記胴部の軸心周りにおいて前記保持部側係合部と異なる位置に設けられ、前記押し子側抜け止め部に対して基端側から当接可能な抜け止め部をさらに備え、
前記押し子側抜け止め部が前記抜け止め部を基端側から乗り越え、前記押し子側抜け止め部と前記抜け止め部が当接した際、前記押し子側抜け止め部及び前記抜け止め部は、前記押し子本体における基端側への移動を規制可能であり、
前記押し子側抜け止め部と前記抜け止め部が当接した際、前記ガスケットの先端面は、前記胴部における前記筒孔の先端面から離間している
請求項1から5のいずれか1項に記載の薬液投与器具。
【請求項7】
前記仮保持部は、前記押し子本体を支持する支持部を有し、
前記押し子本体の軸の前記胴部の軸に対する傾きが、前記支持部により規制される
請求項1から6のいずれか1項に記載の薬液投与器具。
【請求項8】
内部に薬液を充填可能な筒状の胴部と、前記胴部の先端部に形成された排出部と、前記胴部の基端部に形成された開口部とを有するシリンジと、
前記胴部の筒孔内を摺動可能なガスケットと、
前記ガスケットが取り付けられた押し子本体を有する押し子部材と、
前記胴部の前記開口部と前記ガスケットの先端面とが間隔を空けて対向した状態で、前記押し子部材を解除可能に保持する仮保持部と、を備えた薬液投与器具の使用方法であって、
前記押し子部材を前記シリンジの先端側に向かって押圧し、前記仮保持部による前記押し子部材の保持を解除する工程と、
前記押し子部材を前記シリンジの先端側に向かってさらに押圧して、前記ガスケットを前記胴部の前記筒孔内に挿入し、前記ガスケットの先端面を前記胴部における前記筒孔の先端面に当接させる工程と、
前記押し子部材を前記シリンジの基端側に向かって引くことで、前記胴部の前記筒孔内に前記薬液を充填させる工程と、
再び、前記押し子部材を前記シリンジの先端側に向かって押圧することにより、前記薬液を前記排出部から排出させる工程と、
を含む薬液投与器具の使用方法。
【請求項9】
内部に薬液を充填可能な筒状の胴部と、前記胴部の先端部に形成された排出部と、前記胴部の基端部に形成された開口部とを有するシリンジと、前記胴部の筒孔内を摺動可能なガスケットと、前記ガスケットが取り付けられた押し子本体を有する押し子部材と、前記胴部の前記開口部と前記ガスケットの先端面とが間隔を空けて対向した状態で、前記押し子部材を解除可能に保持する仮保持部と、を備えた薬液投与器具の製造方法であって、
前記ガスケットを前記押し子部材の前記押し子本体に取り付ける工程と、
前記シリンジの前記胴部の基端部に形成された開口部と前記ガスケットの先端面とが間隔を空けて対向した状態で、前記押し子部材を前記仮保持部により保持する工程と、
前記押し子部材を前記仮保持部で保持させた状態で、前記シリンジ、前記ガスケット、前記押し子部材及び前記仮保持部に対して滅菌用ガスまたは高圧蒸気を用いて滅菌する工程と、
を含む薬液投与器具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液を充填可能なシリンジと、このシリンジに摺動可能に挿入されるガスケットとからなる薬液投与器具、この薬液投与器具の使用方法及び薬液投与器具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、薬液投与器具は、薬液を充填可能なシリンジと、このシリンジに摺動可能に挿入されるガスケットと、このガスケットを押圧操作する押し子部材を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、シリンジ及びガスケットに対して滅菌処理を施す必要がある。近年では、滅菌処理の方法としては、ガンマ線や電子放射線等の放射線滅菌が行われていた。なお、放射線滅菌では、ガスケットが劣化するおそれがあり、高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)やEOG(エチレンオキサイドガス)滅菌等の高温の蒸気やガスを用いた滅菌方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−212185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ガスケットが密接するシリンジの内壁や、ガスケットに形成された2つのピーク部とシリンジの内壁とで囲まれた空間には、滅菌用の蒸気やガスが届きにくくなり、シリンジやガスケットが十分に滅菌されない恐れがあった。このため、従来では、高温の蒸気やガスを用いてシリンジを滅菌する場合、シリンジとガスケットとを別々に滅菌した後で薬液投与器具として組み立てる必要があった。
【0006】
本発明は、上記の問題点を考慮し、シリンジ及びガスケットを薬液投与器具として予め組み立てられた状態で確実に蒸気やガスを用いて滅菌することができる薬液投与器具、薬液投与器具の使用方法及び薬液投与器具の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の薬液投与器具は、シリンジと、ガスケットと、押し子部材と、仮保持部と、を備えている。シリンジは、内部に薬液を充填可能な筒状の胴部と、胴部の先端部に形成された排出部と、胴部の基端部に形成された開口部とを有している。ガスケットは、胴部の筒孔内を摺動可能に構成されている。押し子部材は、ガスケットが取り付けられた押し子本体を有する。仮保持部は、胴部の開口部とガスケットの先端面とが間隔を空けて対向した状態で、押し子部材を解除可能に保持する。
【0008】
また、本発明の薬液投与器具の使用方法は、上述した構成を有する薬液投与器具の使用方法であって、以下(1)から(4)に示す工程を含んでいる。
(1)押し子部材をシリンジの先端側に向かって押圧し、仮保持部による押し子部材の保持を解除する工程。
(2)押し子部材をシリンジの先端側に向かってさらに押圧して、ガスケットを胴部の筒孔内に挿入し、ガスケットの先端面を胴部における筒孔の先端面に当接させる工程。
(3)押し子部材をシリンジの基端側に向かって引くことで、胴部の筒孔内に薬液を充填させる工程。
(4)再び、押し子部材をシリンジの先端側に向かって押圧することにより、薬液を排出部から排出させる工程。
【0009】
また、本発明の薬液投与器具の製造方法は、上述した構成を有する薬液投与器具の製造方法であって、以下(1)から(3)に示す工程を含んでいる。
(1)ガスケットを押し子部材の押し子本体に取り付ける工程。
(2)シリンジの胴部の基端部に形成された開口部とガスケットの先端面とが間隔を空けて対向した状態で、押し子部材を仮保持部により保持する工程。
(3)押し子部材を仮保持部で保持させた状態で、シリンジ、ガスケット、押し子部材及び仮保持部に対して滅菌用ガスまたは高圧蒸気を用いて滅菌する工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明の薬液投与器具、薬液投与器具の使用方法及び薬液投与器具の製造方法によれば、蒸気やガスを用いて滅菌処理を行う際に、シリンジ及びガスケットを薬液投与器具として予め組み立てられた状態で確実に滅菌することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態例にかかる薬液投与器具を示す斜視図である。
図2】本発明の実施の形態例にかかる薬液投与器具を示す断面図である。
図3】本発明の実施の形態例にかかる薬液投与器具における滅菌処理前の押し子部材及びガスケットの状態を示す説明図である。
図4】本発明の実施の形態例にかかる薬液投与器具の押し子部材及びガスケットを示す斜視図である。
図5】本発明の実施の形態例にかかる薬液投与器具の仮保持部を示す斜視図である。
図6】本発明の実施の形態例にかかる薬液投与器具における滅菌処理前の押し子部材及び仮保持部を示す説明図である。
図7】本発明の実施の形態例における薬液投与器具における薬液を吸引する際の状態を示す斜視図である。
図8】本発明の実施の形態例における薬液投与器具における滅菌処理後の状態を示す断面図である。
図9】本発明の実施の形態例における薬液投与器具における薬液を吸引した状態を示す断面図である。
図10】本発明の実施の形態例における薬液投与器具における薬液を投与した後の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の薬液投与器具、使用方法及び製造方法の実施形態例について、図1図10を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。また、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
【0013】
1.実施の形態例
[薬液投与器具の構成]
まず、本発明の薬液投与器具の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)の構成について、図1図6を参照して説明する。
図1は、本実施形態の薬液投与器具を示す斜視図である。図2は、本実施形態の薬液投与器具に投与部品を示す断面図である。図3は、本実施形態の押し子部材及びガスケットとシリンジの状態を示す説明図である。
【0014】
図1に示すように、薬液投与器具1は、シリンジ11と、押し子部材12と、シリンジ11を保持するシリンジホルダ13と、押し子部材を仮保持する仮保持部51とを有している。
【0015】
[シリンジ]
シリンジ11は、後述する薬液M1が充填されるシリンジである。このシリンジ11は、略円筒状に形成された胴部21と、胴部21の先端部に形成された排出部22を有している。
【0016】
胴部21の筒孔21a内には、後述するガスケット31が摺動可能に挿入される。ガスケット31が筒孔21a内に挿入された際、胴部21内のガスケット31よりも排出部22側の空間及び排出部22内の空間は、薬液M1が充填される液室となる。
【0017】
薬液M1としては、例えば、インフルエンザ等の各種の感染症を予防する各種のワクチンが挙げられるが、ワクチンに限定されるものではない。なお、ワクチン以外の薬液M1としては、例えば、ブドウ糖等の糖質注射液、塩化ナトリウムや乳酸カリウム等の電解質補正用注射液、ビタミン剤、抗生物質注射液、造影剤、ステロイド剤、蛋白質分解酵素阻害剤、脂肪乳剤、抗癌剤、麻酔薬、ヘパリンカルシウム、抗体医薬等が挙げられる。
【0018】
さらに、胴部21の基端部には、フランジ部24が設けられている。フランジ部24は、胴部21の基端部の外周面から径方向の外側に突出している。フランジ部24は、後述するシリンジホルダ13に設けた貫通孔42に係止される。これにより、シリンジ11は、シリンジホルダ13に保持される。
【0019】
また、フランジ部24には、胴部21の筒孔21aに連通する開口部24aが形成されている。開口部24aは、円形に開口している。図2及び図3に示すように、滅菌処理を行う前の状態では、開口部24aは、後述するガスケット31が対向する。また、使用時には、開口部24aには、後述するガスケット31と押し子本体34が挿入される。
【0020】
排出部22は、胴部21の一端に連続しており、胴部21と同軸の略円筒状に形成されている。排出部22は、胴部21と反対側である先端に向かうにつれて径が連続的に小さくなるテーパ状に形成されている。排出部22の筒孔22aは、胴部21の筒孔21aに連通している。
【0021】
排出部22には、螺合部の一例を示すルアーロック部26が接合される。ルアーロック部26には、薬液を吸引するための吸引用針管81を有する針ハブ82や、生体に穿刺可能な針管を有する針ハブが解除可能に取り付けられる。
【0022】
シリンジ11の材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)のような各種樹脂が挙げられる。その中でも、成形が容易であるという点で、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ−(4−メチルペンテン−1)のような樹脂を用いることが好ましい。なお、シリンジ11の材料は、内部の視認性を確保するために、実質的に透明であることが好ましい。
【0023】
[押し子部材]
図4は、押し子部材12を示す斜視図である。
図4に示すように、押し子部材12は、ガスケット31と、ガスケット31を押圧する押し子本体34と、操作部35と、押し子側係合部36と、押し子側抜け止め部38とを有している。
【0024】
図2に示すように、ガスケット31は、略円柱状に形成されている。ガスケット31の一端部は、先端に向かうにつれて連続的に径が小さくなるテーパ状に形成されている。このテーパ形状は、胴部21の先端部における内面の形状に対応している。したがって、ガスケット31を胴部21の先端部側に移動させると、ガスケット31の一端部は、胴部21の先端部における内面に隙間が生じないように接触する。
【0025】
また、図2に示すように、ガスケット31の他端部には、連結穴31aが形成されている。連結穴31aには、押し子本体34の連結部34aが挿入されて、ガスケット31と押し子本体34が連結される。
【0026】
さらに、ガスケット31の外周面には、2つのピーク部32、32が設けられている。2つのピーク部32、32は、ガスケット31の外周面からリング状に突出する凸部である。2つのピーク部32、32は、ガスケット31の軸方向に間隔を空けて設けられている。ガスケット31がシリンジ11の筒孔21aに挿入された際、2つのピーク部32、32は、筒孔21aの内壁に液密に接触する。
【0027】
ガスケット31の材料は、特に限定されないが、胴部21との液密性を良好にするために弾性材料で構成することが好ましい。この弾性材料としては、例えば、天然ゴム、イソブチレンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴムなどの各種ゴム材料や、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの混合物等を挙げることができる。
【0028】
押し子本体34は、略棒状に形成されており、押し子本体34の軸方向と直交する方向における断面形状が略十字状に形成されている。そして、押し子本体34は、軸方向と直交する方向に突出する4つの押し子片34bにより構成されている。4つの押し子片34bは、互いに略垂直に連続している。
【0029】
図2及び図3に示すように、滅菌処理を行う前の状態では、押し子本体34は、後述する仮保持部51に保持された状態で、シリンジ11の開口部24aと対向する。そして、滅菌処理を行った後、使用時には、押し子本体34は、押し子本体34は、シリンジ11の開口部24aから胴部21内に挿入され、その大部分がシリンジ11の胴部21内に配置される(図8参照)。
【0030】
また、押し子本体34の先端部には、連結部34aが設けられている。連結部34aは、ガスケット31の連結穴31aに挿入されて、ガスケット31と連結する。これにより、押し子本体34の先端部にガスケット31が取り付けられる。
【0031】
押し子本体34の基端部には、操作部35が設けられている。操作部35は、略円板状に形成されている。薬液投与器具1の使用時に、操作部35が使用者によって押圧されることで、押し子本体34の先端に配置されたガスケット31がシリンジ11の胴部21の筒孔21a内を移動する。
【0032】
また、押し子本体34の軸部には、押し子側係合部36と、押し子側抜け止め部38が設けられている。押し子側係合部36は、押し子本体34の軸方向の先端側に設けられている。押し子側係合部36は、十字状に形成された押し子本体34の4つの押し子片34bのうち隣り合う2つの押し子片34b、34bの間に設けられている。そして、押し子側係合部36は、押し子本体34の軸心を間に挟んで押し子本体34の軸方向と直交する方向に対称となる2箇所に設けられている。
【0033】
また、押し子側係合部36は、第1係合部36aと、第2係合部36bとを有している。第1係合部36aと第2係合部36bは、押し子本体34の軸方向に所定の間隔を空けて配置されている。第1係合部36aは、第2係合部36bよりも押し子本体34の軸方向の先端側に配置されている。
【0034】
押し子側抜け止め部38は、押し子側係合部36よりも押し子本体34の軸方向の基端部側に設けられている。押し子側抜け止め部38は、押し子本体34の4つの押し子片34bのうち押し子側係合部36が設けられた2つの押し子片34b、34bの間と異なる2つの押し子片34b、34bの間に形成されている。
【0035】
[シリンジホルダ]
図1及び図2に示すように、シリンジホルダ13は、筒本体部41と、貫通孔42と、視認窓46と、係止孔47と、ホルダ鍔部48と、を有している。
【0036】
筒本体部41は、略円筒状に形成されており、シリンジ11の胴部21及びフランジ部24の外周面、並びにルアーロック部26の外周面を覆う。そして、筒本体部41は、使用者によって把持可能に構成される。筒本体部41の基端部には、シリンジ11や押し子部材12を挿入可能なホルダ開口部41aが形成されている。
【0037】
ホルダ開口部41aは、シリンジホルダ13内に挿入された押し子本体34の基端部である操作部35より先端側に位置している。なお、筒本体部41は、少なくともフランジ部24の外周面を覆っていればよい。
【0038】
筒本体部41の先端部には、視認窓46が開口している。視認窓46は、シリンジホルダ13にシリンジ11を装着した際に、シリンジ11の胴部21に形成される液室がシリンジホルダ13の外側から視認可能な位置に設けられている。これにより、シリンジ11にシリンジホルダ13を装着しても、内部の視認性を確保することができる。
【0039】
さらに、筒本体部41の基端部には、ホルダ鍔部48が設けられている。ホルダ鍔部48は、筒本体部41の外周面の一部から略垂直に突出している。ホルダ鍔部48を設けたことにより、使用者がシリンジホルダ13を把持し、薬液を投与する際に、シリンジホルダ13を把持する指が基端方向に滑ることを防ぐことができる。また、薬液投与器具1を机等に載置した際に、薬液投与器具1が転がることを防ぐこともできる。
【0040】
また、筒本体部41にシリンジ11や押し子部材12をホルダ開口部41aから挿入する際に、ホルダ鍔部48の短径部に合わせて、シリンジ11や押し子部材12を挿入する向きを決めることができる。
【0041】
また、筒本体部41には、貫通孔42と、係止孔47が開口している。貫通孔42及び係止孔47は、視認窓46よりも筒本体部41の軸方向の基端部側に形成されている。貫通孔42には、シリンジ11のフランジ部24が係止される。これにより、筒本体部41内にシリンジ11が保持される。
【0042】
係止孔47は、貫通孔42の近傍において、貫通孔42よりも筒本体部41の軸方向の基端部側に形成されている。そのため、係止孔47は、筒本体部41に保持されたシリンジ11のフランジ部24よりも筒本体部41の軸方向の基端部側に形成される。この係止孔47には、仮保持部51の係止部が係止される。
【0043】
[仮保持部]
次に、図5図6を参照して仮保持部51について説明する。
図5は、仮保持部51を示す斜視図である。図6は、仮保持部51と押し子部材12を示す斜視図である。
【0044】
図5に示すように、仮保持部51は、筒本体52と、2つの保持部側係合部53、53、2つの保持部側抜け止め部54、54、複数の支持リブ55と、係止部56とを有している。筒本体52は、筒状に形成されている。筒本体52における軸方向の一端は、開口している。また、筒本体52における軸方向の他端部には、2つの保持部側係合部53、53と、2つの保持部側抜け止め部54、54が設けられている。
【0045】
2つの保持部側係合部53、53は、筒本体52の他端部に形成された開口の縁部において、互いに対向する位置に配置されている。2つの保持部側係合部53、53は、筒本体52の縁部から筒本体52の筒孔内に向けて略垂直に屈曲している。
【0046】
図2及び図6に示すように、保持部側係合部53は、押し子本体34に設けられた押し子側係合部36と解除可能に係合する。すなわち、保持部側係合部53は、押し子側係合部36の第1係合部36aと第2係合部36bの間に配置される。そして、第1係合部36aは、保持部側係合部53に対して先端側から係合し、第2係合部36bは、保持部側係合部53に対して基端側から係合する。これにより、押し子部材12は、仮保持部51に解除可能に仮保持される。
【0047】
抜け止め部の一例を示す2つの保持部側抜け止め部54、54は、筒本体52の他端部に形成された開口の縁部において、2つの保持部側係合部53、53の間に設けられている。また、2つの保持部側抜け止め部54、54は、互いに対向する位置に配置されている。2つの保持部側抜け止め部54、54は、筒本体52の縁部から筒本体52の筒孔内に向けて略垂直に屈曲している。そして、2つの保持部側係合部53、53及び2つの保持部側抜け止め部54、54の先端部によって、押し子本体34が挿通する挿通孔が形成される。
【0048】
また、本例では、抜け止め部を仮保持部51に設けた例を説明したが、これに限定されるものではなく、抜け止め部と仮保持部51を異なる部材から構成してもよい。
【0049】
支持部の一例を示す複数の支持リブ55(本実施形態では、4つ)は、保持部側係合部53と保持部側抜け止め部54の間に形成されている。複数の支持リブ55は、筒本体52の内壁から筒孔内に向けて所定の長さで突出している。また、複数の支持リブ55は、筒本体52の他端部から軸方向の中途部にかけて延在している。
【0050】
図6に示すように、押し子本体34を仮保持部51に挿入した際、複数の支持リブ55は、押し子本体34の押し子片34bに接触する。そのため、押し子本体34は、複数の支持リブ55によって保持される。これにより、押し子部材12をがたつくことなく、仮保持部51で保持することができる。また、滅菌処理を行う前の状態では、図3及び図6に示すように、ガスケット31は、仮保持部51の筒本体52によって覆われる。これにより、使用者の手指がガスケット31に接触することを防ぐことができ、滅菌処理を行ったガスケット31が汚染されることを防ぐことができる。
【0051】
また、図5に示すように、係止部56は、筒本体52の外周面における先端部に設けられている。係止部56は、筒本体52の外周面から外側に向けて突出している。図1及び図3に示すように、筒本体52をシリンジホルダ13の筒本体部41の筒孔内に挿入した際、係止部56は、シリンジホルダ13の係止孔47に係止される。
【0052】
そのため、図2及び図3に示すように、仮保持部51は、シリンジ11のフランジ部24と対向する。そして、ガスケット31がシリンジ11の開口部24aと間隔を空けて対向した状態で、押し子部材12は、仮保持部51に仮保持される。
【0053】
2.薬液投与器具の製造方法及び使用方法
次に、図1図10を参照して上述した構成を有する薬液投与器具1の製造方法及び使用方法について説明する。
図7は、薬液を吸引する際の薬液投与器具1を示す斜視図、図8は、滅菌処理後の薬液投与器具1を示す断面図である。図9は、薬液を吸引した後の状態を示す断面図、図10は、薬液を投与した後の状態を示す断面図である。
【0054】
まず、図1及び図2に示すように、シリンジホルダ13にシリンジ11を取り付ける。次に、図6に示すように、仮保持部51における2つの保持部側係合部53、53及び2つの保持部側抜け止め部54、54の先端部に形成された挿通孔に押し子本体34を挿通させる。そして、押し子側係合部36を仮保持部51の保持部側係合部53に係合させる。また、押し子本体34の連結部34a(図2参照)にガスケット31を連結させる。これにより、ガスケット31が仮保持部51の筒本体52に覆われると共に押し子部材12が仮保持部51によって仮保持される。
【0055】
次に、仮保持部51と押し子部材12をシリンジホルダ13の筒本体部41の筒孔内に挿入させる。そして、図1及び図3に示すように、仮保持部51の係止部56をシリンジホルダ13の係止孔47に係止させる。これにより、押し子部材12は、ガスケット31がシリンジ11の開口部24aと対向した状態で、仮保持部51に仮保持される。
【0056】
次に、高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)やEOG(エチレンオキサイドガス)滅菌等の高温の蒸気やガスを用いた滅菌処理を行う。ここで、ガスケット31は、シリンジ11の筒孔21a内に挿入されておらず、シリンジ11の外側に配置されている。そのため、ガスケット31における2つのピーク部32の間は、開放されている。また、仮保持部51の筒本体52には、軸方向の先端部や、保持部側係合部53と支持リブ55との間や、支持リブ55と保持部側抜け止め部54の間等に複数の隙間が形成されている。
【0057】
これにより、仮保持部51に仮保持された押し子部材12に取り付けられたガスケット31や、シリンジ11の筒孔21a内まで蒸気やガスを行き渡らせることができる。その結果、ガスケット31及びシリンジ11全体を薬液投与器具1として予め組み立てられた状態で確実に滅菌することができる。上述した工程により、薬液投与器具1の製造方法が完了する。なお、ガスケット31をシリンジ11の開口部24aと対向した状態で薬液投与器具1を包装してもよく、あるいは後述するようにガスケット31をシリンジ11の筒孔21aに挿入してから薬液投与器具1を包装してもよい。
【0058】
滅菌処理が完了すると、薬液投与器具1を包装する際や、薬液投与器具1を使用する際に、押し子部材12を操作し、図7及び図8に示すように、ガスケット31をシリンジ11の筒孔21a内に挿入させる。
【0059】
図7に示す例では、シリンジ11の液室内に薬液を充填させるために、薬液が収容されたバイアル瓶から薬液を吸引する吸引用針管81を有する注射針組立体80がシリンジ11に取り付けた例を示している。シリンジ11のルアーロック部26には、注射針組立体80の針ハブ82が螺合される。これにより、シリンジ11の筒孔21aと注射針組立体80の吸引用針管81が排出部22を介して連通される。
【0060】
なお、図8に示すように、ガスケット31をシリンジ11の筒孔21a内に挿入させてから、図7に示す注射針組立体80をシリンジ11に取り付けてもよい。また、図7に示す注射針組立体80をシリンジ11に取り付けてから、ガスケット31をシリンジ11の筒孔21a内に挿入させてもよい。
【0061】
図7及び図8に示すように、押し子部材12をシリンジ11の先端部まで押し込むと、押し子部材12の押し子側係合部36と仮保持部51の保持部側係合部53との係合が解除される。また、図6に示すように、仮保持部51の複数の支持リブ55が押し子本体34の押し子片34bに接触している。そのため、押し子本体34がシリンジ11の開口部24aからずれることなく、シリンジ11の筒孔21a内に押し子本体34及びガスケット31を真っ直ぐ挿入させることができる。
【0062】
また、ガスケット31及び押し子本体34をシリンジ11の筒孔21a内に挿入すると、押し子側抜け止め部38は、保持部側抜け止め部54を乗り越えて、保持部側抜け止め部54よりも先端部側に移動する。そして、押し子側抜け止め部38は、先端部側から保持部側抜け止め部54に当接可能となる。これにより、押し子部材12がシリンジホルダ13に取り付けられた仮保持部51から抜け落ちることを防ぐことができる。このとき、ガスケット31の先端面は、胴部21の筒孔22aの先端面から離間している。
【0063】
バイアル瓶に注射針組立体80の吸引用針管81を穿刺し、押し子部材12をシリンジ11の基端側に向けて引く。これにより、注射針組立体80の吸引用針管81を介して薬液M1が吸引され、シリンジ11の液室に薬液M1が充填される。シリンジ11の液室への薬液M1の充填が完了すると、ルアーロック部26から注射針組立体80を取り外す。
【0064】
そして、図9に示すように、生体に穿刺するための投与用針管91を有する注射針組立体90をシリンジ11に取り付ける。すなわち、図9に示すように、注射針組立体90の針ハブ92をシリンジ11のルアーロック部26に螺合させる。これにより、注射針組立体90の投与用針管91と、シリンジ11の筒孔21aが排出部22を介して連通される。
【0065】
次に、投与用針管91を使用者の皮膚に穿刺する。そして、押し子部材12を操作し、ガスケット31をシリンジ11の先端部向けて摺動移動させる。これにより、シリンジ11の液室に充填された薬液M1は、ガスケット31によって投与用針管91から押し出される。これにより、薬液投与器具1を用いた生体への薬液の投与が完了する。
【0066】
以上、本発明の実施の形態例について、その作用効果も含めて説明した。しかしながら、本発明の薬液投与器具は、上述の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0067】
なお、薬液投与器具1に装着される投与部品としては、螺合により装着されるものであれば、例えば、針管を有さない無針注射器や、鼻腔等に薬液を投与する鼻腔内投与器等のその他各種の投与部品を適用できるものである。
【0068】
また、上述した実施の形態例では、螺合部としてルアーロック部26を設けた例を説明したが、これに限定されるものではなく、排出部22に雄ねじ部を設け、投与部品に雌ねじ部を設けて螺合するようにしてもよい。
【0069】
さらに、上述した実施の形態例では、シリンジ11及び仮保持部51をシリンジホルダ13に取り付けた例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、仮保持部51とシリンジホルダ13を一体に成型してもよく、あるいはシリンジホルダ13を設けなくてもよい。シリンジホルダ13を設けない場合、仮保持部をシリンジのフランジ部等に解除可能に取り付けてもよく、あるいは仮保持部をシリンジに接着や溶着により固定してもよい。または、仮保持部とシリンジを一体に成型してもよい。
【0070】
上述したように、滅菌処理を行ってからガスケット31をシリンジ11に挿入するまでの間、ガスケット31は、仮保持部51の筒本体52によって覆われている。そのため、シリンジホルダ13を設けない場合でも、使用者の手指がガスケット31に接触することを防ぐことができる。
【0071】
さらに、押し子側係合部36と保持部側係合部53を係合させることで、押し子部材12を仮保持部51に仮保持させた例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、押し子部材の押し子本体と仮保持部の筒本体とを超音波溶着やレーザ溶着によって固定することで、押し子部材を仮保持部に仮保持させてもよい。なお、押し子本体と筒本体との固定強度は、滅菌処理後において、押し子部材を押圧操作した際に破断する強度に設定される。あるいは、押し子部材を押圧操作した際に破断する薄肉部を設けて、仮保持部と押し子部材を一体に成型してもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…薬液投与器具、 11…シリンジ、 12…押し子部材、 13…シリンジホルダ、 21…胴部、 21a…筒孔、 22…排出部、 22a…筒孔、 24…フランジ部、 24a…開口部、 26…ルアーロック部、 31…ガスケット、 31a…連結穴、 32…ピーク部、 34…押し子本体、 34a…連結部、 34b…押し子片、 35…操作部、 36…押し子側係合部、 36a…第1係合部、 36b…第2係合部、 38…押し子側抜け止め部、 41…筒本体部、 41a…ホルダ開口部、 42…貫通孔、 46…視認窓、 47…係止孔、 48…ホルダ鍔部、 51…仮保持部、 52…筒本体、 53…保持部側係合部、 54…保持部側抜け止め部(抜け止め部)、 55…支持リブ(支持部)、 56…係止部、 80、90…注射針組立体、 81…吸引用針管、 82、92…針ハブ、 91…投与用針管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10