特許第6914928号(P6914928)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6914928
(24)【登録日】2021年7月16日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】農薬に対する耐性を与える酵素の阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/06 20060101AFI20210727BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20210727BHJP
   A01N 51/00 20060101ALI20210727BHJP
   A01N 53/08 20060101ALI20210727BHJP
   A01N 65/08 20090101ALI20210727BHJP
   A01N 65/40 20090101ALI20210727BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   A01N37/06
   A01N25/00 101
   A01N51/00
   A01N53/08 125
   A01N65/08
   A01N65/40
   A01P7/04
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-520642(P2018-520642)
(86)(22)【出願日】2016年7月5日
(65)【公表番号】特表2018-525433(P2018-525433A)
(43)【公表日】2018年9月6日
(86)【国際出願番号】EP2016065794
(87)【国際公開番号】WO2017005728
(87)【国際公開日】20170112
【審査請求日】2019年7月5日
(31)【優先権主張番号】1512041.3
(32)【優先日】2015年7月9日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】518008024
【氏名又は名称】アプレスラブズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100212509
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 知子
(72)【発明者】
【氏名】ムーアズ グラハム
【審査官】 阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/010099(WO,A1)
【文献】 仏国特許出願公開第2634103(FR,A1)
【文献】 米国特許第4826678(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 37/06
A01N 25/00
A01N 51/00
A01N 53/08
A01N 65/08
A01N 65/40
A01P 7/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
6からC24モノ−及びポリ不飽和酸ら選択される2以上の物質を含む混合物の穀物にスプレーするための農薬の共力剤としての使用であって、ここでC6からC24酸はサンフラワー油、ヤシ油及びオリーブ油、又は大豆、どんぐり、クリ、セイヨウトチノキ及びコーヒーから選択される天然物又は天然物の抽出物であり使用が農薬を代謝し、農薬に対する耐性を与える酵素を阻害することを含み、該酸は、C12:1脂肪酸、C12:2脂肪酸、C14:1脂肪酸、C14:2脂肪酸、C16:1脂肪酸、C16:2脂肪酸、C18:1脂肪酸、C18:2 脂肪酸、C18:3脂肪酸、及びC20:1脂肪酸から選択される、使用。
【請求項2】
農薬が合成ピレスロイドである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
P450酵素のための阻害剤としての、請求項1又は2のいずれか1項に記載の使用。
【請求項4】
6からC24モノ−又はポリ不飽和酸から選択される2以上の物質を含む混合物及び農薬の水性エマルション又は溶液を含み、ここでC6からC24酸がサンフラワー油、ヤシ油及びオリーブ油、又は大豆、どんぐり、クリ、セイヨウトチノキ及びコーヒーから選択される天然物又は天然物の抽出物であって、該酸は、C12:1脂肪酸、C12:2脂肪酸、C14:1脂肪酸、C14:2脂肪酸、C16:1脂肪酸、C16:2脂肪酸、C18:1脂肪酸、C18:2 脂肪酸、C18:3脂肪酸、及びC20:1脂肪酸から選択される、穀物にスプレーするための農薬製剤。
【請求項5】
農薬がピレスロイド、ネオニコチノイド、スピノシン及びクロラントラニリプロールから選択される殺虫剤である、請求項4に記載の農薬製剤。
【請求項6】
(i)C6からC24モノ−又はポリ不飽和酸から選択される2以上の物質を含む混合物、及び
(ii)穀物への農薬、
を適用すること含み、C6からC24モノ−又はポリ不飽和酸から選択される2以上の物質を含む混合物が、5g/haから1000g/haの量、適用される穀物を保護するためのプロセスであって、C6からC24モノ−及びポリ不飽和酸サンフラワー油、ヤシ油及びオリーブ油、又は大豆、どんぐり、クリ、セイヨウトチノキ及びコーヒーから選択される天然物又は天然物の抽出物であり、該酸は、C12:1脂肪酸、C12:2脂肪酸、C14:1脂肪酸、C14:2脂肪酸、C16:1脂肪酸、C16:2脂肪酸、C18:1脂肪酸、C18:2 脂肪酸、C18:3脂肪酸、及びC20:1脂肪酸から選択される、プロセス。
【請求項7】
農薬が殺虫剤である、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
6からC24モノ−又はポリ不飽和酸から選択される2以上の物質を含む混合物の適用後、1時間から5時間以内に、農薬が穀物に適用される、請求項6又は7のいずれか1項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬の共力剤に関連し、本明細書において用いられる場合、農薬という用語は、殺虫剤、殺菌剤及び除草剤を含む。農薬の有効性は、農薬を代謝し、農薬に対する耐性を与える酵素によって減じられ得る。したがって、本明細書において用いられる場合、共力剤という用語は、農薬を代謝し、それにより農薬に対する耐性を与えるそのような酵素の阻害剤を指す。本発明は特に殺虫剤にとって有用である。とりわけ本発明は、農薬、及び特にピレスロイド及びネオニコチノイドに基づく殺虫剤の効果を増加させるP450及びエステラーゼ類酵素のための阻害剤の使用に関連する。共力剤はまた、殺菌剤及び除草剤の効果も増加させる。特に、本発明は、天然物又は天然物由来の物質の、農薬の共力剤としての使用に関する。本発明は特に、農業用の農薬、病原媒介物及び動物の健康及びとりわけ合成ピレスロイドに有用である。
本発明の共力剤は、農薬に幅広く有用であり、我々は、それらを用いた結果、幅広い農薬について改善された有効性が示されることを発見した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
本発明が適用され得る農薬の例としては以下が挙げられる:プロフェノホス、スルプロホス、メチルパラチオン、アジンホスメチル、メチル-s-ジメトン、ジクロルボス、オメトエート、ヘプテノホス(heptenophs)、チオメトン、フェナミホス、モノクロトホス、プロフェノホス、トリアゾホス、メタミドホス、ジメトエート、ホスファミドン、マラチオン、クロルピリホス、メビンホス、エチオン、トリクロルホン、ジスルホトン、オキシジメトン-メチル、フェンチオン、フェントエート、バミドチオン、ホサロン、テルブホス、フェンスルホチオン、ホノホス、ホレート、ホキシム、ピリミホスメチル、ジクロトホス、ホスメット、エトプロホス、フェナミホス、メチダチオン(methadithion)、アセフェート、イソサチオン(isozathion)、クロルメホス、チオメトン、カズサホス、ピラクロホス、テブピリムホス(terbupirimfos)、 クロレトキシホス、ピリミホスエチル、フェニトロチオン又はダイアジノンのような有機リン化合物。
【0003】
しかしながら、本発明は特に、ネオニコチノイド及び天然及び合成の両ピレスロイドに有用である。合成ピレスロイドは天然物には認められないピレスロイドである。本発明は特に合成ピレスロイド、例えば、ペルメトリン、エスフェンバレレート、フェンバレレート、デルタメトリン、シハロトリン、特にラムダシハロトリン、ビフェントリン、フェンプロパトリン、シフルトリン、テフルトリン、魚に安全なピレスロイド、例えばエトフェンプロックス、天然ピレトリン、テトラメスリン、s-ビオアレスリン、フェンフルトリン、プラレトリン及び5-ベンジル-3-フリルメチル-(E)-1R,3S)-2,2-ジメチル-3-(2-オキソチオラン-3-イリデンメチル)シクロプロパンカルボキシラート、シペルメトリン、フルシトリネート、フルバリネート、トラロメトリン、アレスリン、テトラメスリン、ビオアレスリン、シクロプロトリン、テフルトリン、アクリナトリン又は ゼータシペルメトリンに有用である。
ピリミカーブ、クロエトカルブ、カルボフラン、フラチオカルブ、エチオフェンカルブ、アルジカルブ、チオフロックス、カルボスルファン、ベンダイオカルブ、フェノブカルブ、プロポキスル、カルバリル、メソミル、カルタップ、ホルメタネート、キシリルカルブ、キシリルメチルカルバメート、イソプロカルブ、チオジカルブ、フェノキシカルブ、ベンフラカルブ、アラニカルブ又はオキサミルのようなカルバメート(アリールカルバメートを含む);
バチルス・チューリンゲンシスのようなバイオ農薬。
イミダクロプリド、アセタミプリド、ニテンピラム、チアメトキサム又はチアクロプリドのような、ネオニコチノイド。
【0004】
共力剤は、限定するものではないが以下のような殺菌剤とともに用いてもよい;ベノミル、カルベンダジム、シプロジニル、クロロタロニル(chlorthalonil)、ジメトモルフ、エジフェンホス、フェンプロピモルフ、メタラキシル、(R)-メタラキシル (エナンチオマー)、オキサジキシル、ピリフェノックス、チアベンダゾール、トリデモルフ、アゾキシストロビン、クレソキシムメチル又はトリアゾール、例えば、プロピコナゾール、ジフェノコナゾール、ブロモコナゾール、シプロコナゾール、エポキシコナゾール、ヘキサコナゾール、イプコナゾール、フェンブコナゾール、ミクロブタニル、ペンコナゾール、テブコナゾール、トリアジメホン、トリアジメノール、テトラコナゾール、トリチコナゾール又はウニコナゾール;更に続けてアシベンゾラル-S-メチル(furtheron acibenzolar-S-methyl)、ファモキサドン、キノキシフェン、スピロキサミン、フルジオキソニル、フェンピクロニル、フェンヘキサアミド 及び2-[α-{[(α-メチル-3-トリフルオロメチルベンジル)イミノ]オキシ}-o-トリル]グリオキシル酸-メチルエステル-o-メチルオキシム。好ましくは、カルベンダジム、シプロジニル、クロロタロニル(chlorthalonil)、メタラキシル(metala,yl)、(R)-メタラキシル、オキサジキシル、アゾキシストロビン、クレソキシム-メチル、プロピコナゾール、シプロコナゾール、エポキシコナゾール及びテブコナゾール、全てのストロビルリン、ジチオカルバメート、フタルイミド/ニトリル、トリアゾール、無機化合物、フェニルアミド、アニリノピリミジン、ジカルボキシアミド、有機リン化合物、ベンゾイミダゾール、モルホリン, カルボキシアミド、及びその他の殺菌剤。
【0005】
加えて、共力剤は次のような除草剤とともに用いてもよい:クロルトルロン、ビフェノックス、ブロモキシニル及びそのオクタノアート、アイオキシニル及びそのオクタノアート、フルオメツロン、グルホシネート、グリホサート、ペンディメタリン、スルコトリオン、3-フェニル-4-ヒドロキシ-6-クロルピリダジン、アラクロール、ジメテナミド、メトラクロール、(S)-メトラクロール(エナンチオマー)又はスルホニルウレア、例えばベンスルフロン、プリミスルフロン、プロスルフロン、トリアスルフロン、ピラゾスルフロン、ニコスルフロン、リムスルフロン、チフェンスルフロン、トリフルスルフロン、オキサスルフロン、シノスルフロン;更に続けてアトラジン(furtheron atrazine)、プロパキザホップ、トリネキサパックエチル、ピリデート、ジカンバ、クロジナホップ、フェンクロリム(fenclorin)、フルオメツロン、グルホシネート、グリホサート、スルコトリオン、3-フェニル-4-ヒドロキシ-6-クロルピリダジン、ジメテナミド、メトラクロール、(S)-メトラクロール、トリアスルフロン、ニコスルフロン又はリムスルフロン、全てのフェノキシ、ウレア、トリアジン、チオカルバメート、ビピリジル、ヒドロキシベンゾニトリル、チオカルバメート、カルバメート、ピリジン、ジニトロアニリン、ピリダジン、クロルアセトアニリド、アセトアミド、アミノ酸誘導体、ジフェニルエーテル、シクロヘキサンジオン、アリールオキシフェノキシプロピオネート、スルホニルウレア、イミダゾリノン、オキシアセトアミドを含む。
【0006】
虫、真菌(fungae)及び植物(例えば、草及び雑草)は、農薬に対する耐性を与えるP450及びエステラーゼ酵素を生成し(Oppenoorth F5 1985 Biochemistry and Genetics in Insecticide Resistance in Comprehensive Inect Physiology, Biochemistry and Pharmacologyを参照)、農薬に対する耐性又はより大量に農薬を用いる必要性のいずれかを結果として与え、両方ともコストがかかり、環境的に望ましくないことがよく知られている。
虫P450及びエステラーゼ酵素についての研究は、最近まで、殺虫剤の代謝及び耐性に大きく傾いていた。P450及びエステラーゼ酵素は、ほとんどが解毒のメカニズムとしてであるが、また、生体内活性化のメカニズムとしても、殺虫剤を代謝するため、虫によって用いられる主要なツールの一つである。P450及びエステラーゼ酵素は無毒化と生体内活性化を同時に行うことができる。それは例えば、ホスホロチオエート殺虫剤の場合、2つの結果のバランスは、化学物質及びP450酵素の両方の関数である。P450及びエステラーゼ酵素はまた、商業的に重要な共力剤、ピペロニルブトキシド(PBO)の標的である。殺虫剤との関係におけるP450に関する知見は、したがって、専ら代謝、共力作用及び耐性についてである。
【0007】
(欧州以外の)いくつかの国では、P450阻害剤PBOをピレスロイド及びネオニコチノイドのような殺虫剤とともに用いることが標準的なプラクティスであるが、Pest Manag Sci (2014) のRene Fegereisenによる“Insect P450 inhibitors and insecticides: challenges and opportunities”と題された論文にあるとおり、ピペロニルブトキシド(PBO)には欠点があり、環境的に安全で効果的なピレスロイド及びネオニコチノイドのような殺虫剤のためのP450阻害剤に対するニーズが残っている。
Pest Mang Sci 2012 68 178-184中の文献中に、いくつかの選ばれた天然化合物について、それらがイエバエ(Musca domestica)に対する天然ピレトラムの有効性を増加させる可能性について決定するための調査が行われた。全ての試験された化合物は、ピレトラムのための共力剤としてPBOよりも効果が低かった。
P450酵素は薬物代謝及び薬物相互作用、したがって新薬の開発において重要な役割を果たす。吸収、分布、代謝及び排出(ADME)プログラムは、代謝安定性を最適化し、高度に多形なP450との相互作用を最小化するため、必ず薬物候補を一群のヒトP450酵素に対して試験する。P450阻害の役割又は新薬の意図しない様々な薬学動態の誘導を超えて、多くの研究が、ヒト肝臓中の主要なP450酵素を不活性にするグレープフルーツジュース中のベルガモチンのような、飲食物からの誘導剤又は阻害剤により引き起こされる薬物相互作用を阻止することもまた目標としている。殺菌剤では、CYP51阻害剤(ラノステロール14−αデメチラーゼ阻害剤又はDMI)が標的とされるP450酵素の例である。P450阻害剤はまた、重要な植物成長調節物質としても開発されてきた。例えば、ジベレリン生合成は、パクロブトラゾールのような化合物によって阻害され、早期実止まりに恩恵である発育不全をもたらす。CYP707Aはアブサイシン酸の異化作用の鍵となる酵素であり、その阻害は、新たな植物成長調節剤へと導きうる。
【0008】
農薬について、農薬の標的に対する酵素の貢献は歴史的に重要である。しかしながら、P450又はエステラーゼ阻害剤は、除草剤の標的が受容体よりもむしろ主として酵素であるにもかかわらず、除草剤には広く用いられていない。アセチルコリンエステラーゼ酵素は、一時、殺虫剤(有機リン系農薬及びカルバメート)の主な標的であったが、その相対的な重要性は、合成ピレスロイド、次いでネオニコチノイドの導入以来、急速に低下している。その他の酵素及び酵素システムは、ベンゾイルフェニル尿素のような阻害剤の影響を受けるキチン質生合成を含む。
したがって、P450阻害剤である現在の薬物/農薬は、全て、生合成反応に含まれる特定のP450酵素を標的としている。しかしながら、害虫駆除に用いられる最も重要なP450阻害剤は、(非特定的に)異物代謝P450酵素を標的とする殺虫剤共力剤PBOである。
【0009】
P450におけるPBOの作用機序は、まずP450の活性サイトに結合し、メチレンジオキシフェニル基のカルベンラジカルとP450の二価鉄イオンの間で疑似不可逆的阻害剤複合体へと代謝することを含むと考えられている。阻害は代謝に依存するので、阻害の強度は特定のP450酵素に依存し、PBOは、全てのP450酵素を等しく阻害する「普遍的な」阻害剤ではない。PBOによる阻害は、カルベン−鉄複合体はCOによって置換することができないため、測定可能なP450の喪失につながる。古典的なオオムラ及びサトウによるP450の検出は、450nmにおけるP450−CO複合体の減少が測定されたものである。
ごくわずかの虫P450酵素が、重要な生理的プロセスに関係していると、現在知られてあるいは疑われており、生化学的にそのように作用することが確立されているものは更に少ない。5つのP450酵素がエクジソン生合成に関係しているとして知られており、これらは、ショウジョウバエのハロウィーン遺伝子の生成物である。
加えて、CYPA18A1は、エクジソン不活性化に貢献する、26−ヒドロキシラーゼ/オキシダーゼである。この遺伝子は、鱗翅類中で複製される。今日まで、エクジソン合成酵素を特定的に標的とした共同の取り組みはない。
【0010】
P450遺伝子は、阻害剤のスクリーニングプログラムの中で用いることのできる異種発現システムで、好ましくはインビボアッセイと合わせてアッセイすることができる、エクジソン生合成に関わる。既知の生理学的な基質を伴う、他の虫P450酵素の類は、CYP15酵素であり、基質としてメチルファルネソアート(CYP15A1)又はファルネソ酸(及びその同類物;CYP15C1)を用いる幼若ホルモン(JH)エポキシダーゼである。JHの合成阻害は、幼生段階では早熟変態を導き得て、成虫期には卵巣機能をブロックし得る。この幅広い標的は、いくつかの虫について細胞傷害性、及びJHを作る腺であるアラタ体の壊死を引き起こしうる45化合物、プレコセンの発見によって確認された。JH合成の最後又は最後から2つ目のステップをエポキシダーゼ阻害剤で標的とすることは、少なくともインビトロで成功した。数多くの論文が、メチルファルネソアートの蓄積を伴ったゴキブリアルタ体によるJH合成の阻害について記載している。阻害剤は、メチレンジオキシフェニル化合物、置換イミダゾールなど、P450阻害に必要なほとんどの既知の官能性を含むが、これらは高価で腐食性の化合物である。
【0011】
農業経済的穀物害虫又は病原媒介物中の殺虫剤耐性に含まれるP450遺伝子として明らかにされたものには以下が含まれる:CYP6CM1、タバコ・コナジラミ(Bemisia tabaci)中のイミダクロプリドに対する耐性を与える:CYP6CY3、モモアカアブラムシ(Myzus persicae)中のネオニコチノイド殺虫剤に対する耐性を与える;CYP6BQ23、花粉カブトムシ(M. aeneus)中のピレスロイドに対する耐性を与える;CYP9A12、CYP9A14、CYP6B7、オオタバコガ(H. armigera)中のピレスロイドに対する耐性を与える;CYP6Z1、CYP6Z2、CYP6M2、CYP6P3及びCYP325A3、蚊種(An. Gambiae)中のピレスロイドに対する耐性を与える。
エステラーゼの生成が高まると殺虫剤に対する耐性という結果をもたらし得る。良い例がモモアカブラムシ(M. persicae)において認められ、そこでは、エステラーゼE4又はFE4が、幅広い範囲の農薬を加水分解又は封鎖することができる。耐性を与える増幅されたエステラーゼが、タバコ・コナジラミ(B. tabaci)、オオタバコガ(H. armigera)、蚊種、コナガ(P. xylostella)などで明らかにされた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
我々は、今、特定の不飽和有機酸及びその誘導体が、P450酵素の阻害剤として特に有効であることを発見した。我々はまた、これらが、ピレスロイド及びネオニコチノイド及びとりわけ合成ピレスロイドに基づく殺虫剤と一緒に用いられた場合、虫の死亡率を高めることを発見した。
我々はまた、これら不飽和有機酸及びその誘導体が、特にエステラーゼ酵素阻害剤として効果があることを発見した。我々はまた、これらが、ピレスロイド及びネオニコチノイド及びとりわけ合成ピレスロイドに基づく殺虫剤と一緒の場合、虫の死亡率を高めることを発見した。
不飽和有機酸及びその誘導体はまた、除草剤及び殺菌剤の性能を高めるため酵素を阻害する共力剤として用いてもよい。
いかなる不飽和酸及びその誘導体を用いてもよいが、不飽和有機酸及びその誘導体が天然物質又は天然物質由来であることが好ましい。
【0013】
我々はまた、効果的な阻害剤であるために、典型的には不飽和有機酸又はその誘導体は好ましくは5g/haから1000g/ha、より好ましくは、5g/haから500g/haの量で用いられることを発見した。我々は、該使用はまたある特定の性能のため求められる農薬活性成分の必要量を、共力剤が用いられない場合に比べて少なくとも50%削減することができることを発見した。
本発明において用いられる不飽和酸及びその誘導体は、C6からC24モノ−及びポリ不飽和酸、その無水物、エステル又はそのアルカリ若しくはアルカリ土類金属塩である。特にC8からC18モノ−又はポリ不飽和酸又はそのアルカリ金属塩を用いることが好ましい。C6からC24酸は更に、例えば、サンフラワー油、ヤシ油、オリーブ油及びその他の植物油、大豆、クリ及びセイヨウトチノキのような、通常、モノ−又はポリ−不飽和酸の混合物として抽出により得られる天然油生成品のような天然物由来であり、混合物が用いられる場合、酸混合物中の平均炭素原子数はC6からC24の範囲内であるのがよい。遊離酸及びこれら酸のアルカリ金属塩は特に好ましい物質である。
本発明において用いられるC6からC24モノ−及びポリ不飽和酸は、典型的には直鎖C6からC24モノ−及びポリ不飽和酸であり、このため式RCOOHを有し、式中Rは、6から24の炭素原子を有する直鎖モノ−又はポリ不飽和炭化水素基である。したがって、C6からC24モノ−及びポリ不飽和酸は、ミリストレイン酸(C14:1)、パルミトレイン酸(C16:1)、サピエン酸(C16:1)、α−リノレン酸(C18:3)、ステアリドン酸(C18:4)、エイコサペンタエン酸(C20:5)、ドコサヘキサエン酸(C22:6)、リノール酸(C18:2)、γ−リノレン酸(C18:3)、ジホモ−γ−リノレン酸(C20:3)、アラキドン酸(C20:4)、アドレン酸(C22:4)、パルミトレイン酸(C16:1)、バクセン酸(C18:1)、パウリン酸(C20:1)、オレイン酸(C18:1)、エライジン酸(Cトランス−18:1)、ゴンド酸(C20:1)、エルカ酸(C22:1)、ネルボン酸(C24:1)、メアド酸(C20:3)及びその誘導体から選択してよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の結果を示す。
図2】実施例2の結果を示す。
図3】実施例3の結果を示す。
図4】実施例4の結果を示す。
図5】実施例5の結果を示す。
図6】実施例6の結果を示す。
図7】実施例7の結果を示す。
図8】実施例8の結果を示す。
図9】実施例9の結果を示す。
図10】実施例10の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において用いられる場合、CM:N脂肪(M及びNは整数)という表示は、該脂肪酸がM個の炭素原子とN個の二重結合を含むことを意味する。N個の二重結合は、どの位置(シス又はトランス配置)にあってもよいが、2つの二重結合は通常隣り合ってはいない(すなわち、同じ炭素原子に結合していない)。このため、C18:0(又は単にC18)はオクタデカン酸(ステアリン酸)のみをカバーし、C18:1は、例えば、オレイン酸 ((Z)-オクタデカ-9-エン酸)及びバクセン酸 ((E)-オクタデカ-11-エン酸)のような、炭素を18、二重結合を1つ有する全ての脂肪酸を含む。
C6からC24モノ−及びポリ不飽和酸は、例えばC12:1脂肪酸、C12:2脂肪酸、C14:1脂肪酸、C14:2脂肪酸、C16:1脂肪酸、C16:2脂肪酸、C18:1脂肪酸、C18:2脂肪酸、C18:3脂肪酸、及びC20:1脂肪酸、及びその誘導体から選択してよい。
C6からC24モノ−及びポリ不飽和酸無水物は、典型的には、式RC(O)OC(O)R’で表される化合物であり、式中Rは、直鎖モノ−又はポリ不飽和炭化水素基であって、炭素を6から24有し、R’は、例えば炭素を6から24有する直鎖モノ又はポリ不飽和炭化水素基のような炭素を1から30有する炭化水素基である。
C6からC24モノ−及びポリ不飽和酸エステルは、典型的には、式RC(O)OR’で表される化合物であり、式中Rは、炭素を6から24を有する直鎖モノ−又はポリ不飽和炭化水素基であり、R’は炭素を1から4有するアルキル基のような、炭素を1から30有する炭化水素基である。
【0016】
酸のアルカリ又はアルカリ土類金属塩は、典型的には、リチウム、ナトリウム、カリウム又はルビジウム塩(アルカリ金属塩)又はマグネシウム、カルシウム又はストロンチウム塩(アルカリ土類金属塩)である。
C6からC24モノ−及びポリ不飽和酸は、オレイン酸、リノール酸又はそれらの誘導体であってよい。
多くの木の実及び果実は不飽和脂肪酸の混合物を含有しており、好ましい原料物質はセイヨウトチノキ(Aesculus hippocastanum)であり、典型的には350g/Kgのオレイン酸及びリノール酸を含有することが知られている(Zalatonov他)。その他の好ましい原料は樫の木(Genus Quercus)の木の実(どんぐり)及び挽いたコーヒー豆(コーヒー植物の種子)である。オリーブオイル生産の副生物もまた別の好ましい原料である。
本質的ではないが、不飽和脂肪酸又はその誘導体が、虫、真菌又は雑草を殺虫剤、殺菌剤又は除草剤の対象とする前に、虫、真菌又は雑草と相互作用することを許すような方法で用いられることが好ましい。これは、不飽和酸及び農薬を、農薬が徐放性形態で提供される1つの製剤中で供給することによって達成し得る。あるいは、C6からC24モノ−又はポリ不飽和酸又はその誘導体を最初に穀物に適用し、続いて農薬を適用することが好ましい。農薬は、好ましくは、C6からC24モノ−ポリ不飽和酸又はその誘導体の適用から1から5時間以内に適用する。
【0017】
本発明は、農薬、特に殺虫剤及びより特定的には、合成及び天然ピレスロイドの両方に適用することができるが、とりわけ合成ピレスロイドには、PBOに比較して改善された効果を有することが発見されたことから、有用である。典型的な合成ピレスロイドは、ペルメトリン、デルタメトリン、フェンバレレート、エスフェンバレレート、シハロトリン、ラムダシハロトリン、ビフェントリン、シフルトリン、テフルトリン、エトフェンプロックス、テトラメスリン、シペルメトリン、フルバリネート、アレスリン、テトラメスリン、ビオアレスリン及びゼータシペルメトリンを含む。しかしながら、本発明はまた、天然ピレトラム殺虫剤にもまた有用である。
本発明を適用可能なネオニコチノイドの例としては、イミダクロプリド、アセタミプリド、ニテンピラム、チアクロプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、ジノテフランが挙げられるがこれらに限られるものではない。
本発明はまた、スピノシン及びクロラントラニリプロール殺虫剤にも適用してよい。
農薬の製剤は、α-シペルメトリン及び1以上のC14からC18モノ−又はポリ不飽和脂肪酸のカリウム塩を含んでよい。農薬の製剤は、α-シペルメトリン及びオレイン酸を含んでよい。農薬の製剤は、α-シペルメトリン及びリノール酸を含んでよい。
【0018】
本発明による好ましい農薬の製剤は、穀物にスプレーすることに適応し、典型的には、C6からC24モノ−又はポリ不飽和酸又はその誘導体及び農薬の水性エマルション又は溶液であり、逐次適用のため別々の溶液又は単一の製剤であってよい。C6からC24モノ−又はポリ不飽和酸又はその誘導体が水溶性であることが好ましい。好ましい農業スプレーのための水性製剤は5g/haから500g/haのC6からC24モノ−又はポリ不飽和酸又はその誘導体を含み、残部は水である。その他の添加剤、例えば、酸化防止剤及び粘度調整剤を、水性製剤がエマルションの場合の乳化剤のように含んでよい。用いられるべき製剤の量は、標的によるが、典型的には我々は、50g/haから250g/haのC6からC24カルボン酸又はその誘導体、好ましくは75g/haから150g/haを提供する製剤が有効であることを発見した。
本発明が、ピレスロイド又はネオニコチノイド殺虫剤の共力剤として好ましい形態で用いられる場合、用いられるピレスロイド又はネオニコチノイドは、標的となる虫に依り、問題となる穀物に依る場合もある。同様に、効果的な処置率は標的とされる虫に依り、それはまた処置される穀物に依る場合もある。一般に、登録されたフィールド率(field rate)が有効であるが、本発明はある状況においてはこの率の減少を許容しうることを我々は発見した。
【0019】
本発明は最も好ましくは、昆虫類、クモ類、蠕虫類から選択される害虫の駆除、草及び雑草並びに特に穀物中の真菌の駆除に用いられる。
本発明は、様々な害虫に対して用いることが可能であり、例えば、以下のダニ類を含むが、これらに限られるものではない:
ハダニ科:例:テトラニクス・ウルチカエ(Tetranychus urticae (ツースポット・クモダニ))、 T.パシフィクス(T. pacificus (太平洋ダニ))、T.マクダニエリ(T. mcdanieli (マクダニエルダニ))、T.トルケスタニ(T. turkestani (いちごダニ))、パノニクス・ウルニ(Panonychus ulni (欧州赤ダニ))、P.キトリ(P. citri (カンキツ赤ダニ))、オリゴニクス・プラテンシス(Oligonychus pratensis (バンクス草ダニ))、O.プニカエ(O. punicae (アボカド茶ダニ))、ユウテトラニクス・ヒコリアエ(Eutetranychus hicoriae (ペカン葉きつね色ダニ)、ビロビア・プラエチオサ(Byrobia praetiosa (クローバーダニ))。
エリオフィイダエ(Eriophyidae (ラスト及びブリスターマイト)): 例: フィロコプトルタ・オレイヴォラ(Phyllocoptruta oleivora (カンキツラストマイト)、エリオフィエス・シェルドニ(Eriophyes sheldoni (カンキツ芽ダニ))、E・エリネア(E. erinea (クルミブリスターマイト))、エピトリメルス・ピリ(Epitrimerus pyri (西洋梨ラストマイト))、アクロプス・リコペルシキ(Aculops lycopersici (トマト赤褐色ダニ))。
ヒメハダニ科(Tenuipalpidae):例:ブレヴィパルプス・レウィシ (Brevipalpus lewisi(カンキツヒラダニ))、B・フェニキス B. phoenicis(赤及び黒ヒラダニ)、ドリコテトラニクス・フロリダヌス(Dolichotetranychus floridanus(パイナップル偽クモダニ))。
タルセノミダエ(Tarsenomidae): 例: ステネオタルソネムス・バンクロフチ(Steneotarsonemus bancrofti (砂糖キビ・クキダニ))、S・アナナス(S. ananas (パイナップル・タルセノミド))、S・パリドゥス(S. pallidus (シクラメンダニ))、アカラピス・ウッディ(Acarapis woodi (ミツバチダニ))。
【0020】
本発明は、以下の吸う昆虫(sucking insects)類に対しても使用することができる:
コナジラミ科(Aleyrodidae (コナジラミ):例:ベミシア・タバキ(Bemisia tabaci (甘藷コナジラミ))、トリアレウロデス・ヴァポラリオルム(Trialeurodes vaporariorum (温室コナジラミ))、シフォニヌス・フィリレアエ(Siphoninus phillyreae (灰色コナジラミ))、 ジアレウロデス・キトリフォリイ(Dialeurodes citrifolii (不明瞭な羽根つきコナジラミ))、アレウロカンツス・ウォグルミ(Aleurocanthus woglumi (カンキツブユ))。 ピーチポテトエイフィッド(peach-potato aphid)(モモアカブラムシ(Myzus persicae))、 ワタアブラムシ (Aphis gossypii)を含むアブラムシ。
ケシキスイ科:例:メリゲテスアエネウス(Meligethes aeneus (花粉カブトムシ)。
キジラミ科 (キジラミ):例:プシラ・ピリコル(Psylla pyricol (西洋梨キジラミ))、パラトリオザ・コッケレリ(Paratrioza cockerelli (ポテト/トマトキジラミ))。
【0021】
更なる実施態様では、本発明は、双翅目及びハモグリバエ科(Agromyzidae)の葉に潜孔をつけるハエ(leaf mining fly)に対して用いることができる。これらハエの例としては、リリオミザ・コンプレックス (Liriomyza complex(ヘビハモグリムシ))、フィトミザ・シンゲネシアエ(Phytomyza syngenesiae(菊ハモグリムシ))、アグロミザ・フロンテラ(Agromyza frontella(アルファルファ病班ハモグリムシ))、オフィオミイア・ファセオリ(Ophiomyia phaseoli(マメハエ))。双翅目: 蚊、ハマダラカ亜科及びカ亜科。
その他の標的害虫としては、アザミウマ目(Thysanoptera(アザミウマ))、膜翅目 (Hymenoptera(スズメバチ))、半翅目(Hemiptera(昆虫(bugs))、オオヨコバイ科 (Cicadellidae(ヨコバイ)、ツノゼミ科(Membracidae(ツノゼミ))、カイガラムシ科 (Coccidae(カイガラムシ)、コナカイガラムシ科(Pseudococcidae(コナカイガラムシ)、マルカイガラムシ科(Diaspididae(カイガラムシ))、及びフシアリ類(Solenopsis(アカヒアリ))を含むがこれらに限られるものではない。本発明はまた、蚊、特に熱帯及び亜熱帯気候に生息する蚊に対して有用である。
【0022】
本発明は下記実施例を参照して例示されるがこれらに限られるわけではない。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
イエバエ(Musca domestica)を、24時間後に約20%のハエが死ぬような診断濃度(0.0025g/L)のα-シペルメトリン1μLで処置した。
1%の「SynA」(すなわち、10μg/ハエ)、オリーブオイル製造の副生成物として得られた脂肪酸(C14−C18)カリウム塩を添加すると、死亡率は24時間後に約70%に増加した。カリウム塩共力剤を最初に適用し、共力剤の適用から1時間以内に殺虫剤を適用した。
SynAのみ用いた場合の死亡率は約10%であった。
結果を図1に示す。
なお、実施例1は参考例として取り扱う。
【0024】
(実施例2)
イエバエ(Musca domestica)が、共力剤AHI−1(24ug/ハエ)及びAHI−2(40ug/ハエ)の存在下で低死亡率用量(0.0025g-1)の合成ピレスロイドにさらされた場合、約2倍の殺虫剤活性が達成され、共力剤は本質的にハエには無毒であった。AH−1はセイヨウトチノキ(Aesculus hippocastanum)の種子のエタノール抽出物であり、約50%のオレイン酸と30%のリノール酸を含有する混合物を生成した。AH−2はセイヨウトチノキ(Aesculus hippocastanum)の実のエタノール抽出物であり、約40%のオレイン酸と30%のリノール酸を含有する混合物を生成した。虫には共力剤を局所適用し、続いて3時間後に殺虫剤で処置した。
結果を図2に示す。図2には、合成共力剤ピペロニルブトキシド(PBO)の比較データが含まれている。
【0025】
(実施例3)
実施例3は、精製された耐性関連エステラーゼ、E4の、実施例2で用いたAH−1及びAH2による阻害を示す。アッセイは、1mMの4-ニトロフェニルアセタートを基質として用い、40μLのリン酸緩衝液(pH7.0)中で10μLの希釈E4を、3μLの1%共力剤とともに10分間培養した。200μLの1mM 4-ニトロフェニルアセタートを添加し、残存活性を405nmで、マイクロプレート分光光度計(Molecular Devices社)で測定した。同濃度のPBOによる阻害を比較例として示す。
結果を図3に示す。
【0026】
(実施例4)
実施例4は、500μLの診断濃度のα-シペルメトリン(0.0001%)を花粉カブトムシ(Meligethes aeneus)にさらす前に実施例2で用いたAH−1(1mg)又はAH−2(2mg)と混合した場合、死亡率の増加を示した。死亡率は24時間後に決定した。バイオアッセイをガラス製バイアル瓶中で行った。
結果を図4に示す。
【0027】
(実施例5)
実施例5は、1%のオレイン酸及び1%のリノール酸(30μg/培養)とともに培養した時の、殺虫剤耐性B−タイプのタバコ・コナジラミ(B. tabaci)由来のP450活性の阻害を示す。P450活性は、エトキシクマリンの脱エチルによって測定した。50μLの酵素を共力剤の存在/不存在下で10分間培養し、次いでリン酸緩衝液(pH7.8)中の80mlの0.5mm 7-エトキシクマリンを添加/更に5分間、30℃で培養して、その後10μLの9.6mmNaDPHを添加した。蛍光定量単位(Fu)を励起波長370nm及び460nmで測定した。
結果を図5に示す。
【0028】
(実施例6)
実施例6は、オレイン酸及びリノール酸で実施例3と同様の方法により処置した後の、耐性関連エステラーゼ、E4の阻害を示す。
結果を図6に示す。
【0029】
(実施例7)
実施例7は、実施例5で用いられたように、同濃度のPBO、SynA、AH−1及びAH−2(30ug/培養)で処置した後の、花粉カブトムシ(Meligethes aeneus)由来のP450活性の阻害を示す。
結果を図7に示す。
【0030】
(実施例8)
実施例1で用いたのと同濃度のSyn−A、Syn−B、Syn−C及びPBOとともに培養した後の、花粉カブトムシ(Meligethes aeneus)由来のP450活性の阻害を評価した。
Syn−Bはどんぐりのエタノール抽出物;Syn−Cは(使用後の)コーヒー豆のエタノール抽出物である。
P450活性は、0.1%の共力剤抽出物を用い、実施例5で用いたエトキシクマリン(ECOD)脱エチル法によって蛍光定量的に測定した。
Charef 他(2008) 及びMartin他(2001)にそれぞれ記載のとおり、どんぐりもコーヒーも両方ともに高い割合の不飽和脂肪酸を含有している。
結果を図8に示す。
【0031】
(実施例9)
殺虫剤耐性イエバエ(Musca domestica)に1μLのアセトン(コントロール)、10g/LのSyn−A、5g/Lのイミダクロプリド、又はその2つの混合物(2倍濃度で)を投与した。死亡率は24時間後に測定した。
結果を図9に示す。
【0032】
(実施例10)
実施例10は、Syn−B及びSyn−C(実施例8で用いたとおり)で、共力剤の0.1%抽出物を用いた点以外は実施例3と同じ方法を用いて処置した後の耐性関連エステラーゼ、E4、の阻害を示す。
結果を図10に示す。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕C6からC24モノ−及びポリ不飽和酸又はその誘導体の酵素阻害剤としての使用。
〔2〕該誘導体が、無水物、エステル又はアルカリ及びアルカリ土類金属塩から選択される、前記〔1〕に記載の使用。
〔3〕該C6からC24酸が天然物に由来する、前記〔1〕及び〔2〕に記載の使用。
〔4〕該天然物が、植物油、大豆、どんぐり、クリ、セイヨウトチノキ及びコーヒーから選択される、前記〔3〕に記載の使用。
〔5〕該植物油がヤシ油又はオリーブ油である、前記〔4〕に記載の使用。
〔6〕混合物中の平均炭素原子数がC6からC24の範囲内である、酸混合物又はその誘導体の、前記〔1〕から〔5〕のいずれか1項に記載の使用。
〔7〕P450酵素のための阻害剤としての、前記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載の使用。
〔8〕エステラーゼ酵素のための阻害剤としての、前記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載の使用。
〔9〕農薬の性能を高めるための、前記〔1〕から〔8〕のいずれか1項に記載の使用。
〔10〕農薬が殺虫剤である、前記〔9〕に記載の使用。
〔11〕殺虫剤がピレスロイド又はネオニコチノイドである、前記〔10〕に記載の使用。
〔12〕ピレスロイドが合成ピレスロイドである、前記〔11〕に記載の使用。
〔13〕合成ピレスロイドが、ペルメトリン、デルタメトリン、フェンバレレート、エスフェンバレレート、シハロトリン、ラムダシハロトリン、ビフェントリン、シフルトリン、テフルトリン、エトフェンプロックス、テトラメスリン、シペルメトリン、フルバリネート、アレスリン、テトラメスリン、ビオアレスリン及びゼータシペルメトリンから選択される、前記〔12〕に記載の使用。
〔14〕ネオニコチノイドが、イミダクロプリド、アセタミプリド、ニテンピラム、チアクロプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、ジノテフランから選択される、前記〔12〕に記載の使用。
〔15〕殺虫剤がスピノシン及びクロラントラニリプロールから選択される、前記〔1〕から〔10〕のいずれか1項に記載の使用。
〔16〕C6からC24酸又はその誘導体が天然物又は天然物に由来する、C6からC24モノ−又はポリ不飽和酸又はその誘導体及び農薬の水性エマルション又は溶液を含む、農薬製剤。
〔17〕該誘導体が無水物、エステル又はアルカリ若しくはアルカリ土類金属塩から選択される、前記〔16〕に記載の農薬製剤。
〔18〕天然物が、植物油、大豆、どんぐり、クリ、セイヨウトチノキ及びコーヒーから選択される、前記〔16〕又は〔17〕に記載の農薬製剤。
〔19〕植物油がヤシ油又はオリーブ油である、前記〔18〕に記載の農薬製剤。
〔20〕C6からC24モノ−又はポリ不飽和酸又はその誘導体が、酸混合物中の酸の平均炭素原子数がC6からC24である酸混合物を含む、前記〔16〕から〔19〕のいずれか1項に記載の農薬製剤。
〔21〕農薬が殺虫剤である、前記〔16〕から〔20〕のいずれか1項に記載の農薬製剤。
〔22〕殺虫剤がピレスロイド又はネオニコチノイドである、前記〔21〕に記載の農薬製剤。
〔23〕ピレスロイドが合成ピレスロイドである、前記〔22〕に記載の農薬製剤。
〔24〕合成ピレスロイドが、ペルメトリン、デルタメトリン、フェンバレレート、エスフェンバレレート、シハロトリン、ラムダシハロトリン、ビフェントリン、シフルトリン、テフルトリン、エトフェンプロックス、テトラメスリン、シペルメトリン、フルバリネート、アレスリン、テトラメスリン、ビオアレスリン、天然ピレトラム及びゼータシペルメトリンから選択される、前記〔23〕に記載の農薬製剤。
〔25〕ネオニコチノイドが、イミダクロプリド、アセタミプリド、ニテンピラム、チアクロプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、ジノテフランから選択される、前記〔22〕に記載の農薬製剤。
〔26〕C6からC24モノ−又はポリ不飽和酸又はその誘導体、及び農薬の、別々の溶液又はエマルションを含む、前記〔16〕から〔25〕のいずれか1項に記載の農薬製剤。
〔27〕C6からC24モノ−又はポリ不飽和酸又はその誘導体、及び農薬を含む、溶液又はエマルションを含む、前記〔16〕から〔25〕のいずれか1項に記載の農薬製剤。
〔28〕農薬が徐放性形態である、前記〔27〕に記載の農薬製剤。
〔29〕
(i)C6からC24モノ−又はポリ不飽和酸又はその誘導体、及び
(ii)農薬、
を適用すること含み、C6からC24モノ−又はポリ不飽和酸又はその誘導体が、5g/haから1000g/haの量、適用される穀物を保護するためのプロセス。
〔30〕C6からC24モノ−又はポリ不飽和酸又はその誘導体が、農薬の適用前に適用される、前記〔29〕に記載のプロセス。
〔31〕C6からC24モノ−又はポリ不飽和酸又はその誘導体及び農薬が、単一製剤として適用され、農薬が徐放性形態である、前記〔30〕から〔32〕のいずれか1項に記載のプロセス。
〔32〕C6からC24モノ−又はポリ不飽和酸又はその誘導体の適用後、1時間から5時間以内に、農薬が穀物に適用される、前記〔29〕又は〔31〕のいずれか1項に記載のプロセス。
〔33〕C6からC24モノ−又はポリ不飽和酸又はその誘導体が、天然物に由来する、前記〔29〕から〔32〕のいずれか1項に記載のプロセス。
〔34〕天然物が植物油、大豆、どんぐり、クリ、セイヨウトチノキ及びコーヒーである、前記〔33〕に記載のプロセス。
〔35〕植物油がヤシ油及びオリーブ油から選択される、前記〔34〕に記載のプロセス。
〔36〕農薬が殺虫剤である、前記〔29〕から〔35〕のいずれか1項に記載のプロセス。
〔37〕殺虫剤がピレスロイド又はネオニコチノイドである、前記〔36〕に記載のプロセス。
〔38〕ピレスロイドが合成ピレスロイドである、前記〔37〕に記載のプロセス。
〔39〕農薬が除草剤である、前記〔29〕から〔35〕のいずれか1項に記載のプロセス。
〔40〕農薬が殺菌剤である、前記〔29〕から〔35〕のいずれか1項に記載のプロセス。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10