(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6914960
(24)【登録日】2021年7月16日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】浸食性を有した媒体用の、衝撃吸収性及び耐摩耗性を有するボールチェックバルブシート
(51)【国際特許分類】
F16K 15/04 20060101AFI20210727BHJP
【FI】
F16K15/04 C
【請求項の数】11
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-551899(P2018-551899)
(86)(22)【出願日】2016年12月20日
(65)【公表番号】特表2019-500563(P2019-500563A)
(43)【公表日】2019年1月10日
(86)【国際出願番号】US2016067748
(87)【国際公開番号】WO2017112656
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2019年11月21日
(31)【優先権主張番号】62/270,182
(32)【優先日】2015年12月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】308025451
【氏名又は名称】グラコ ミネソタ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】特許業務法人ナガトアンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】クラファーキ, アンドリュー, ジェイ.
【審査官】
冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第06299413(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0217730(US,A1)
【文献】
Tivar 1000 Data Sheet - Professional Plastics,2014年 7月13日,URL,https://www.professionalplastics.com/professionalplastics/Tivar1000DataSheet.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形片を液体中で浮遊状態に維持するための流体循環システムであって、
前記液体及び前記固形片を循環させるように構成されたポンプと、
前記ポンプの流入口と流出口との間の流体経路に介装された少なくとも1つのチェックバルブと、を備え、
前記チェックバルブは、
ボールと、
本体、及び前記本体を貫通する孔を有したバルブシートと、を備え、
前記孔は、前記ボールよりも直径が小さく、
前記本体は、超高分子量ポリエチレンによって形成され、
前記孔は、前記バルブシートの前記本体の前記上面から前記下面まで貫通して延在すると共に、内周面を形成し、
前記内周面は、前記上面から前記下面まで延在すると共に、前記外周面と平行であり、
前記内周面の直径と前記外周面の直径との比は、0.481〜0.487である、ことを特徴とする流体循環システム。
【請求項2】
前記バルブシートの超高分子量ポリエチレンは、ASTM規格D648の荷重撓み温度が、1.8MPaで46.7℃であることを特徴とする請求項1に記載の流体循環システム。
【請求項3】
前記バルブシートの前記本体は、上面と、当該上面の反対側の下面とを有し、前記上面から前記下面まで、前記バルブシートの中心軸線に沿って、中心軸線方向に延在する外周面を有した円筒状である、ことを特徴とする請求項1に記載の流体循環システム。
【請求項4】
前記孔は、前記バルブシートの前記本体の前記上面から前記下面まで貫通して延在すると共に、内周面を形成し、
前記内周面は、前記上面から前記下面まで延在すると共に、前記外周面と平行である、ことを特徴とする請求項3に記載の流体循環システム。
【請求項5】
前記液体の温度は、0℃〜48℃の範囲内にある、ことを特徴とする請求項2に記載の流体循環システム。
【請求項6】
前記固形片は、金属及び金属酸化物の少なくとも一方からなる、ことを特徴とする請求項1に記載の流体循環システム。
【請求項7】
ボールと、
本体、及び前記本体を貫通する孔を有したバルブシートと、を備え、
前記孔は、前記ボールよりも直径が小さく、
前記本体は、超高分子量ポリエチレンによって形成され、
前記孔は、前記バルブシートの前記本体の前記上面から前記下面まで貫通して延在すると共に、内周面を形成し、
前記内周面は、前記上面から前記下面まで延在すると共に、前記外周面と平行であり、
前記内周面の直径と前記外周面の直径との比は、0.481〜0.487であり、
前記バルブシートの超高分子量ポリエチレンは、ASTM規格D648の荷重撓み温度が、1.8MPaで46.7℃である、ことを特徴とするチェックバルブ。
【請求項8】
前記バルブシートの前記本体は、上面と、当該上面の反対側の下面とを有し、前記上面から前記下面まで、前記バルブシートの中心軸線に沿って、中心軸線方向に延在する外周面を有した円筒状であることを特徴とする請求項7に記載のチェックバルブ。
【請求項9】
前記上面と前記下面とは、互いに平行であることを特徴とする請求項8に記載のチェックバルブ。
【請求項10】
前記バルブシートの前記本体は、前記上面と前記下面との間の距離として規定される厚さを有し、
前記外周面の半径と前記内周面の半径との差に対する前記バルブシートの前記厚さの比は、0.249〜0.259である、ことを特徴とする請求項9に記載のチェックバルブ。
【請求項11】
往復動式ポンプと共に用いられるチェックバルブであって、
内部にバルブチャンバが形成されたハウジングと、
前記バルブチャンバの内側に配設されたボールと、
前記バルブチャンバの内側に配設されたバルブシートと、を備え、
前記バルブシートは、本体と、前記本体を貫通する孔と、を備え、
前記孔は、前記ボールよりも直径が小さく、
前記本体は、超高分子量ポリエチレンによって形成され、
前記孔は、前記バルブシートの前記本体の前記上面から前記下面まで貫通して延在すると共に、内周面を形成し、
前記内周面は、前記上面から前記下面まで延在すると共に、前記外周面と平行であり、
前記内周面の直径と前記外周面の直径との比は、0.481〜0.487であり、
前記バルブシートの超高分子量ポリエチレンは、ASTM規格D648の荷重撓み温度が、1.8MPaで46.7℃である、ことを特徴とするチェックバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸食性を有した媒体用の、衝撃吸収性及び耐摩耗性を有するボールチェックバルブシートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用塗料の多くは、塗料用顔料として金属及び金属酸化物の少なくとも一方からなる薄片を含有している。これらの顔料片は、人目を引く視覚的な特性を自動車用塗料に与えるだけでなく、塗料及び当該塗料を塗布した車体において、高い比率で太陽エネルギを反射させる能力を有している。自動車の車体に塗料を塗布する自動車工場においては、往復動式ポンプにより塗料を継続的に循環させ、顔料片やそのほかの含有物質が、塗料中で沈殿しないように維持している。一般的に、往復動式ポンプは、いくつかのチェックバルブを有している。これらのチェックバルブは、ボールとバルブシートとを備えている。過去には、ボール及びバルブシートの双方が、ステンレス鋼で形成されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
チェックバルブに設けられたステンレス鋼製のボール及びバルブシートは、多くの塗装環境において満足の得られるものであったが、往復動式ポンプにより顔料片を含有した塗料を循環させる場合には、ステンレス鋼製のバルブシートが耐久性に欠けるという問題があった。この顔料片は、往復動式ポンプを介して塗料を循環させる際に、チェックバルブ内のステンレス鋼製バルブシートを摩耗させ、最終的には、チェックバルブに故障が生じることになる。このような摩耗の問題は、ステンレス鋼製バルブシートを、炭化タングステンで形成したバルブシートに置き換えることによって対策がなされてきた。この炭化タングステン製バルブシートは、ステンレス鋼製バルブシートよりも硬く、ステンレス鋼製バルブシートよりも、顔料片に対して優れた耐摩耗性を有するものであるが、炭化タングステン製バルブシートは、ステンレス鋼製バルブシートよりもかなり高価である。また、ステンレス鋼製ボールは、はるかに硬い炭化タングステン製バルブシートに当たって変形したり引っ掛かったりして、チェックバルブの故障を招く可能性がある。炭化タングステン製やステンレス鋼製のバルブシートにゴム製Oリングを組み合わせ、ボールとバルブシートとの間の当接を和らげるようにしたこともある。しかしながら、自動車用塗料は、かなりの量の溶剤を含んでおり、この溶剤によって、ゴム製Oリングが早期に劣化してしまう可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様において、固形片を液体中で浮遊状態に維持するための流体循環システムは、前記液体及び前記固形片を循環させるように構成されたポンプを備える。前記ポンプの流入口と流出口との間の流体経路には、少なくとも1つのチェックバルブが介装される。前記チェックバルブは、ボールとバルブシートとを備える。前記バルブシートは、本体と、前記本体を貫通する孔とを備える。前記孔は、前記ボールよりも直径が小さい。前記バルブシートの前記本体は、超高分子量ポリエチレンによって形成される。
【0005】
本発明の一態様において、チェックバルブは、ボールとバルブシートとを備える。前記バルブシートは、本体と、前記本体を貫通する孔とを備える。前記孔は、前記ボールよりも直径が小さい。前記バルブシートの前記本体は、超高分子量ポリエチレンによって形成される。前記バルブシートの超高分子量ポリエチレンは、ASTM規格D648の荷重撓み温度が、1.8MPaで46.7℃である。
【0006】
本発明の一態様において、往復動式ポンプと共に用いられるチェックバルブは、内部にバルブチャンバが形成されたハウジングを備える。前記バルブチャンバの内側には、ボールが配設される。また、前記バルブチャンバの内側には、バルブシートが配設される。前記バルブシートは、本体と、前記本体を貫通する孔とを備える。前記孔は、前記ボールよりも直径が小さい。前記バルブシートの前記本体は、超高分子量ポリエチレンによって形成される。前記バルブシートの超高分子量ポリエチレンは、ASTM規格D648の荷重撓み温度が、1.8MPaで46.7℃である。
【0007】
添付図面を含め、本開示の全てを鑑みれば、当業者は、本発明の更なる特徴及び態様をなし得ることを認識するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】往復動式ポンプの流出ハウジング及び流出マニホールド、並びに流出ハウジング及び流出マニホールドの内部に配設された2つのチェックバルブを示す分解斜視図である。
【
図3】チェックバルブのバルブシートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、比較的硬い顔料片を含有した塗料またはそれ以外の流体を循環させる往復動式ポンプにおけるチェックバルブ用のバルブシートに関する。ここで提示する往復動式ポンプは、金属及び金属酸化物の少なくとも一方からなる顔料片を用いる塗装用として、超高分子量ポリエチレンによって形成されたバルブシートを有する少なくとも1つのチェックバルブを備えている。また、このバルブシートは、ASTM規格D648の荷重撓み温度が1.8MPaで46.7℃の耐熱性超高分子量ポリエチレンによって形成することもできる。超高分子量ポリエチレンで形成されたバルブシートは、顔料片を含有する塗料に対して耐浸食性を有する。また、超高分子量ポリエチレンで形成されたバルブシートは、塗料中の溶剤によって化学的な影響を受けることもない。更に、超高分子量ポリエチレンで形成されたバルブシートは、ステンレス鋼製バルブシートや炭化タングステン製バルブシートに比べて費用対効果も高い。
【0010】
図1は、流体循環システムにおいて流体Fを循環させるために使用可能な往復動式ポンプ10の斜視図である。一例として、往復動式ポンプ10及び流体循環システムは、自動車用塗料の管理設備で使用可能であり、流体Fは、金属及び金属酸化物の少なくとも一方からなる顔料片(図示せず)を含有した自動車用塗料とすることができる。例えば、流体F中の顔料片は、二酸化チタンがコーティングされた雲母片とすることができる。もう1つの例として、流体F中の顔料片は、二酸化チタンがコーティングされた酸化アルミニウム片とすることができる。往復動式ポンプ10は、継続的に作動して、流体Fを循環させることにより、顔料片を流体F中で浮遊状態に維持する。塗料は、流体Fの1つの例であるが、単なる一例に過ぎず、別の流体(水、オイル、溶剤など)を往復動式ポンプ10で送給することも可能である。
図1に示すように、往復動式ポンプ10は、ポンプ流入口12、ポンプ流出口14、ピストンロッド16、ベローズチャンバ18、ピストンハウジング20、流入ハウジング22、流入マニホールド24、管路26、流出ハウジング28、流出マニホールド30、及び側部マニホールド32を備える。
【0011】
ピストンハウジング20は、流出ハウジング28と流入ハウジング22との間に結合されている。管路26も、流出ハウジング28と流入ハウジング22との間に結合されている。流入ハウジング22は、ピストンハウジング20を管路26に連通させる。流入マニホールド24は、管路26が結合される側とは反対側で流入ハウジング22に結合されている。流入マニホールド24及び流入ハウジング22は、一緒に2つのチェックバルブ(図示せず)を収容し、それぞれのチェックバルブが、管路26の1つと直列に連通している。流出マニホールド30は、管路26が結合される側とは反対側で流出ハウジング28に結合されている。流出マニホールド30及び流出ハウジング28は、一緒に2つのチェックバルブ(
図2に示され、後述する)を収容し、それぞれのチェックバルブが、管路26の1つと直列に連通している。また、流出マニホールド30には、ポンプ流出口14が形成されている。
【0012】
ベローズチャンバ18及びポンプ流入口12は、ピストンハウジング20が結合される側とは反対側で、流出ハウジング28に結合されている。ピストンロッド16は、ベローズチャンバ18及び流出ハウジング28を通って延設され、ピストンハウジング20内に設けられたピストン(図示せず)に連結されている。ベローズチャンバ18内には、ピストンロッド16の周囲にベローズ(図示せず)が配設され、往復動式ポンプ10の内部を外気から密封している。側部マニホールド32は、ベローズチャンバ18及び流入マニホールド24に結合されている。
【0013】
往復動式ポンプ10の作動中、流体Fは、ポンプ流入口12、ベローズチャンバ18、側部マニホールド32、流入マニホールド24、流入ハウジング22、ピストンハウジング20、管路26、流出ハウジング28、流出マニホールド30、及びポンプ流出口14の中に存在する。ピストンロッド16は、軸線方向に駆動されて上下に往復運動する。ピストンロッド16が上方に駆動されると、ピストンハウジング20内のピストンをピストンロッド16が引き上げ、ポンプ流入口12、ベローズチャンバ18、及び側部マニホールド32を介し、流入マニホールド24内に流体Fを流動させ、更に、この流体Fを、流入ハウジング22内のチェックバルブの1つを介して、ピストンより下方のピストンハウジング20内へと流動させる。同時に、ピストンが引き上げられている間、ピストンが、ピストンより上方にある流体Fを、ピストンハウジング20から流出ハウジング28内に押し出し、更に、この流体Fを、流出マニホールド30内のチェックバルブの1つを介して、ポンプ流出口14から押し出す。
【0014】
ピストンロッド16が下方に駆動される際には、ピストンハウジング20内のピストンが、ピストンより下方にある流体Fを、ピストンハウジング20から流入ハウジング22を介して管路26の1つに押し出し、更に、この流体Fを、流出ハウジング28、及び流出マニホールド30内のチェックバルブの1つを介し、ポンプ流出口14から押し出す。同時に、ピストンが押し下げられている間、流体Fが、ポンプ流入口12、ベローズチャンバ18、側部マニホールド32を介し、流入マニホールド24内に引き込まれ、更に、この流体Fが、流入ハウジング22内のチェックバルブの1つ、及び管路26の1つを介して、流出ハウジング28内に引き込まれ、そして、ピストンより上方のピストンハウジング20内へと引き込まれる。このようなピストンロッド16及びピストンハウジング20内のピストンのサイクルを繰り返すことにより、ポンプ流入口12からポンプ流出口14への流体Fの安定した移動が維持される。ポンプ流入口12からポンプ流出口14への流体Fの移動には、流入ハウジング22内の2つのチェックバルブ、及び流出マニホールド30内の2つのチェックバルブの信頼性が求められる。往復動式ポンプ10のチェックバルブについて、
図2に基づき、以下に説明する。
【0015】
図2は、往復動式ポンプ10(
図1に示す)の流出ハウジング28、流出マニホールド30、及びチェックバルブ31を示す分解斜視図である。
図2に示すように、各チェックバルブ31は、ボール34、バルブシート36、及びガスケット38を備えている。往復動式ポンプ10は、更に、流出マニホールド30を流出ハウジング28に結合する固定部材40及びワッシャ42を備える。流出マニホールド30は、2つのチェックバルブチャンバ43を備える。流出ハウジング28は、流体Fをチェックバルブ31に流動させるための2つの流体用開口44を備える。また、流出ハウジング28は、ピストンロッド16(
図1に示す)を収容するためのロッド孔46も備えている。
【0016】
それぞれのチェックバルブチャンバ43は、流出マニホールド30内に形成され、チェックバルブ31のボール34と、バルブシート36の少なくとも一部とを収容する大きさとなっている。固定部材40により流出マニホールド30を流出ハウジング28に結合する際、それぞれのバルブシート36が、流出ハウジング28の流体用開口44の上方に配設される。それぞれのバルブシート36の周囲には、流出ハウジング28と流出マニホールド30との間に、1つずつガスケット38が設けられる。ガスケット38は、チェックバルブ31をシールして、流出ハウジング28と流出マニホールド30との間から流体Fが漏洩するのを防止する。往復動式ポンプ10の作動中、チェックバルブ31は、一般的なチェックバルブと同様に作動する。往復動式ポンプ10が、流出ハウジング28の流体用開口44を介して流体Fを押し出すと、この流体Fは、バルブシート36を通過し、当該バルブシート36からボール34を持ち上げて離間させる。このとき、流体Fがボール34のわきを通り抜け、ポンプ流出口14に向けて流動する。往復動式ポンプ10の往動と復動との間では、ボール34が落下してバルブシート36上に戻り、流体Fが流出ハウジング28の流体用開口44内に戻らないようにする。流体Fがチェックバルブ31を通過する際、流体F中の顔料片がバルブシート36に衝突することがある。
図3に基づき後述するように、バルブシート36と流体F中の顔料片との間で生じる摩耗や浸食を抑制するように、各バルブシート36の材料組成及び大きさが選定される。
【0017】
図3は、チェックバルブ31のバルブシート36の1つの断面図である。
図3に示すように、バルブシート36は、本体48、上面50、下面52、外周面54、孔56、内周面58、中心軸線CA、及び厚さTHを有している。外周面54は、直径D1を有する。内周面58及び孔56は、直径D2を有する。上面50及び下面52は、いずれも共通の径方向幅RDを有する。
【0018】
図3に示すバルブシート36の本体48は、上面50と、当該上面50の反対側の下面52とを有し、中心軸線CAに沿って、上面50から下面52まで中心軸線方向に延在する外周面54を有した円筒状に形成されている。上面50と下面52とは、互いに平行である。孔56は、中心軸線CAを中心として、上面50から下面52まで貫通して延設されており、内周面58を形成する。内周面58は、上面50から下面52まで延在し、外周面54と平行である。内周面58及び孔56の直径D2は、ボール34(
図2に示す)が孔56を通過できなように、ボール34の直径より小さくなっている。内周面58の直径D2と外周面54の直径D1との比(D2/D1)は、0.481〜0.487とすることができる。
【0019】
バルブシート36の厚さTHは、中心軸線方向における上面50と下面52との間の距離である。上面50及び下面52の径方向幅RDは、外周面54の半径と内周面58の半径との差として規定される。往復動式ポンプ10の内部における流体Fの圧力の元で、バルブシート36が大きく変形しにくくするため、径方向幅RDに対する厚さTHの比(TH/RD)が、0.248〜0.259となるように、バルブシート36の寸法を定めることができる。
【0020】
流体F中の顔料片の衝突に耐えるため、バルブシート36の本体48は、超高分子量ポリエチレン(以下、UHMWPEと称する)によって形成される。バルブシート36の本体48の形成に用いるUHMWPEは、ASTM規格D648の荷重撓み温度が1.8MPaで46.7℃の耐熱性UHMWPEとすることができる。素材のASTM規格D648の荷重撓み温度は、次のような試験によって規定される。即ち、1.8MPaの荷重による外部応力で、エッジワイズ法により、試料に三点曲げの負荷をかけた状態で、試料が0.25mm変形するまで、2℃/分の割合で昇温する。耐熱性UHMWPEの一例は、ペンシルバニア州米国クオドラントEPP社のタイバー(登録商標)H.O.T.の商品名で販売されている。
【0021】
金属酸化物の顔料片を含有する塗料を循環させる往復動式ポンプにおいて、耐熱性UHMWPEで形成したバルブシート36の試験を行った。この試験における塗料の温度は、0℃〜48℃の範囲内にあった。試験において、塗料の顔料片がUHMWPEからなるバルブシート36を摩耗させたり浸食したりすることはなく、バルブシート36は、従来のステンレス鋼製バルブシートよりも優れた耐久性を示すことが証明された。また、従来のステンレス鋼製バルブシート(ロックウェル硬度HRB85)や、炭化タングステン製バルブシート(ロックウェル硬度HRA92)に比べ、バルブシート36を形成するUHMWPEは、はるかに柔軟である(ロックウェル硬度HRR50)。バルブシート36を形成するUHMWPEが比較的柔軟であることにより、ボール34(
図2に示す)の外形によって加わる圧力で、バルブシート36がわずかに変形可能となり、これにより、バルブシート36とボール34との間における漏洩が抑制される。また、バルブシート36とボール34との間における漏洩の抑制により、バルブシート36を摩耗させる可能性のある高速での漏洩も抑制される。ASTM規格D648の荷重撓み温度が1.8MPaで46.7℃の特性のUHMWPEでバルブシート36を形成したので、往復動式ポンプ内の塗料の温度が38℃〜48℃の範囲まで上昇しても、バルブシート36が、これ以外のグレードのUHMWPEから形成されたバルブシートのように過剰に変形したり、撓んだりすることはなかった。
【0022】
以上の説明により、本発明が、様々な利点及び利益をもたらすことが認識されるであろう。例えば、耐熱性UHMWPEによって形成されたバルブシート36は、金属または金属酸化物からなる顔料片を含有した流体の循環に用いた場合に、ステンレス鋼製バルブシートよりも優れた耐浸食性を有する。バルブシート36の摩耗を抑制することにより、往復動式ポンプ10の耐用年数が増大する。また、バルブシート36は、ステンレス鋼製や炭化タングステン製のバルブシートよりも柔軟であるので、ステンレス鋼製や炭化タングステン製のバルブシートの場合よりも良好に、ボール34とバルブシート36との間の封止が行われる。ボール34とバルブシート36との間の封止の改善により、ボール34とバルブシート36との間における漏洩が抑制され、ポンプ効率が改善されると共に、チェックバルブ31における摩耗が抑制される。また、バルブシート36は、UHMWPEで形成されるので、自動車用塗料中の溶剤によって化学的な影響を受けることもない。そして、一般的に、UHMWPEはステンレス鋼や炭化タングステンよりも安価であることから、バルブシート36は、従来のバルブシートに比べ、入手が容易なものとなる。
【0023】
具体的な実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能であると共に、均等物で本発明の各構成要素を置き換えることが可能であることが当業者に理解されよう。また、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況やものを本発明の教示に適合させるための様々な変形が可能である。従って、本発明は、開示した特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲内に包含される全ての態様を含むものである。