【実施例】
【0097】
材料および方法
細菌株および培養条件。この研究のために使用された百日咳菌株は、表1にリストされる。1%グリセロール、20%脱線維素ヒツジ血液、および100μg/mlストレプトマイシン(Sigma Chemical Co.,St Louis,Mo.)が補足されたボルデー・ジャング(Bordet-Gengou)寒天(Difco,Detroit,Mich.)上で、37℃で72時間、それらを培養した。1g/リットルのヘプタキス(2,6-ジ-o-メチル)βシクロデキストリン(Sigma)を含有しているステイナー・ショルテ(Stainer-Scholte)培地(Stainer and Scholte,1970)において、以前に記載されたように(Menozzi et al.,1991)、百日咳菌の液体培養物をインキュベートした。
【0098】
プラスミドおよび組換えBPZE1株の構築。ここに記載された異なるBPZE1誘導体は、全て、BPZE1におけるdnt遺伝子の欠失のための、(Mielcarek et al.2006)によって記載されたような、dnt遺伝子の上流領域および下流領域を含有しているpJQmp200rpsL12(Quandt & Hynes,1993)に由来するプラスミドを使用して、対立遺伝子交換によって挿入されたトランスジーンを、BPZE1のdnt遺伝子座に含有していた。
【0099】
pXR1の構築
まず、pJQdntUPLOと命名されたこのプラスミド(Mielcarek et al.,2006)の骨格のXbaI部位を、製造業者の説明書に従って、プライマー
およびQuickChangeII(登録商標)XL(Stratagen)を使用することによって、TCTAGA(SEQ ID NO:1)からTCCAGA(SEQ ID NO:2)へ変化させた。pXR1と命名された得られたプラスミドのdnt上流領域およびdnt下流領域を配列決定した。(百日咳菌ゲノム、GenBank NC-002929.2の3,651,839位に相当する)dnt下流領域内の1個の変異G→Aが認められた。
【0100】
pXR1-Fha44の構築
fhaB遺伝子の5'部分をコードする合成遺伝子を、Eurogentec(Liege,Belgium)から購入した。fha44cと命名されたこの遺伝子は、4個のサイレント変化(G354C、C864G、G2,331C、およびA2,556G)、配列
を有する27bpマルチクローニング部位、ならびに2個のTGA終止コドンを除き、FHAの前駆体であるFhaBのアミノ酸1〜861をコードする2,583bp(ヌクレオチド253〜2,835位、GenBank M60351.1)を含有している。この配列は、pUC57-Fha44
cと命名されたプラスミドに提供されていた。このプラスミドを、XhoIおよびXbaIによって消化し、fha44cに相当する断片を、XhoI/XbaIによって消化されたpXR1へ挿入した。従って、得られたプラスミドpXR1-Fha44は、dnt遺伝子のATG開始コドンの上流の813bp領域(百日咳菌ゲノム、GenBank NC-002929.2の3,646,310〜3,647,122位)、27bpマルチクローニング部位に融合した担体タンパク質Fha44をコードする領域を含有し、その後に、2個のTGA終止コドン、dnt遺伝子のTGA終止コドンの下流の83pb領域(百日咳菌ゲノム、GenBank NC-002929.2の3,651,479〜3,651,564位)、XbaI制限部位、およびpXR1の712pb dnt下流領域(pXR1に存在した百日咳菌ゲノム、GenBank NC-002929.2の3,651,839位に相当するG→A変異を除き、百日咳菌ゲノム、GenBank NC-002929.2の3,651,565〜3,652,276位の配列と同一)を含有していた。予想外の変異の欠如を確認するため、プラスミドを配列決定した。
【0101】
Fha44-M2eを発現するBPZE1誘導体の構築
M2eペプチドの3コピーをコードする配列を、M2eの3タンデムコピーのコード情報を含有しているpGA4-3M2e(Geneart AG)から、PCRによって増幅した。pGA4-3M2eにおける各M2eコピーは、
によって分離されており、M2eにおける17位および19位のシステインコドンはセリンに置換されていた。オリゴヌクレオチド
をプライマーとして使用した。次いで、増幅されたDNA断片を、pCRII-TOPO(Invitrogen)へ挿入し、DNA配列決定によって立証した。MluI/NdeI消化の後に入手された273bp断片を、pXR1-Fha44のMluI/NdeI部位へクローニングして、pHKG3を得た。このプラスミドを、望まれない改変の欠如を立証するために配列決定し、形質転換によって大腸菌SM10(Simon et al.,1983)へ導入し、得られた組換え大腸菌SM10菌を、BPZE1とコンジュゲートした。記載されたように(Stibitz,1994)、2つの連続の相同組換えイベントを選択した。次いで、ハイブリッド遺伝子がdnt遺伝子座へ正確に挿入されたクローンを同定するため、組換え株をPCRによって分析した。組換えBPZE1株をBPZM2eと命名した。
【0102】
FHA欠損組換え株であるBPZEM2e-ΔFhaを構築するため、FHAをコードする遺伝子を、以前に記載されたように(Antoine et al.,2000)、組込みベクターpFUS2を使用して、BPZM2eにおいて不活化した。
【0103】
Fha44-G
RSVを発現するBPZE1誘導体の構築
RSV株A2(GenBank AAC55969.1)の糖タンパク質のアミノ酸170〜197をコードするオリゴヌクレオチドを、百日咳菌コドン使用頻度に従って合成した。それは、以下の配列を有していた:
。
【0104】
それは、100nMのオーバーラップするオリゴヌクレオチド
を鋳型として使用し、400nMオリゴヌクレオチド
をプライマーとして使用して、PCRによって作製された。
【0105】
次いで、得られた96bp断片を、pCRII-TOPO(Invitrogen)へ挿入して、pCRII-TOPO-G
RSVBamHIを得、予想外の変異の欠如を確認するために配列決定した。次いで、pCRII-TOPO-G
RSVBamHIを鋳型として使用し、オリゴヌクレオチド
をプライマーとして使用して、PCRによって、RSV G配列を増幅した。次いで、得られた96bp断片を、pCRII-TOPOへ挿入して、pCRII-TOPO-G
RSVMluIを得、予想外の変異の欠如を確認するために配列決定した。pCRII-TOPO-G
RSVMluIをMluIによって消化し、MluIによって消化されたpXR1-Fha44へRSV G配列を挿入して、pXR1-Fha44/G
RSVを得た。このプラスミドを、インサートの適切な方向および望まれない改変の欠如を立証するために配列決定し、次いで、形質転換によって大腸菌SM10(Simon et al.,1983)へ導入し、得られた組換え大腸菌SM10菌をBPZE1とコンジュゲートした。記載されたように(Stibitz,1994)、2つの連続の相同組換えイベントを選択した。次いで、ハイブリッド遺伝子がdnt遺伝子座へ正確に挿入されたクローンを同定するため、組換え株をPCRによって分析した。組換えBPZE1株をBPZG
RSVと命名した。
【0106】
FHA欠損組換え株であるBPZG
RSV-ΔFhaを構築するため、FHAをコードする遺伝子を、以前に記載されたような(Antoine et al.,2000)組込みベクターpFUS2を使用して、BPZG
RSVにおいて不活化した。
【0107】
Fha44-PcsBを発現するBPZE1誘導体の構築
PcsBの成熟型(アミノ酸残基28〜残基278)のコード配列を、肺炎球菌血清型1(臨床分離株E1586)からの染色体DNAを鋳型として使用し、合成オリゴヌクレオチド
をプライマーとして使用して、PCRによって増幅した。肺炎球菌を煮沸し、10μMのオリゴヌクレオチドをPCR混合物へ添加した。得られた750bp断片を、pCRII-TOPOへ挿入して、pCRII-TOPO-PcsBを得、次いで、配列決定した。pCRII-TOPO-PcsBをMluIおよびNdeIによって消化し、PscB配列に相当する断片を、MluI/ NdeIによって消化されたpXR1-Fha44へ挿入して、pXR1-Fha44-PcsBを得た。配列決定の後、このプラスミドを、形質転換によって、大腸菌SM10(Simon et al.,1983)へ導入し、得られた組換え大腸菌SM10菌を、BPZE1とコンジュゲートした。記載されたように(Stibitz,1994)、2つの連続の相同組換えイベントを選択した。次いで、ハイブリッド遺伝子がdnt遺伝子座へ正確に挿入されたクローンを同定するため、組換え株をPCRによって分析した。組換えBPZE1株をBPZPcsBと命名した。
【0108】
FHA欠損組換え株であるBPZPcsB-ΔFhaを構築するため、FHAをコードする遺伝子を、以前に記載されたような(Antoine et al.,2000)組込みベクターpFUS2を使用して、BPZM2eにおいて不活化した。
【0109】
組換えキメラタンパク質のタンパク質分析および免疫検出。Fha44-3M2eキメラタンパク質、Fha44-G
RSVキメラタンパク質、およびFha44-PcsBキメラタンパク質の検出のため、100μg/mlストレプトマイシンが補足された10mlのステイナー・ショルテ培地において、48時間、組換え株を培養した。次いで、細胞を4,000×gで15分間遠心分離した。400μlの上清を収集し、細胞を400μlのPBSに再懸濁させた。200μlの3×Laemmli(1970)ローディング緩衝液を上清および細胞懸濁物に添加した。次いで、混合物を95℃に10分間加熱した。細菌懸濁物を27ゲージ針へ10回通すことによって、染色体DNAを剪断した。その後、95℃に15分間加熱した。10μlの各試料を、イムノブロット分析またはクーマシーブルー染色のため、10%ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法ゲル(SDS-PAGE)にロードした。非組換えBPZE1上清および/または全細胞溶解物を、陰性対照として使用した。
【0110】
電気泳動の後、タンパク質をニトロセルロース膜上に電気的に転写し、0.1%トゥイーン20および1%ウシ血清アルブミンを含有しているPBSにおいてマウス抗M2e抗体(Neirynck et al.,1999)または抗G
RSV抗体(Mekseepralard et al.,2006)と共にインキュベートした。1:4,000に希釈されたアルカリホスファターゼ-ヤギ抗マウスモノクローナル抗体コンジュゲート(Promega)を、アルカリホスファターゼ基質(ニトロブルーテトラゾリウムおよび5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート試薬;Promega)の添加によるタンパク質の発色検出のために使用した。反応バンドのサイズを、All Blue protein Marker(Biorad)の泳動距離から決定した。
【0111】
マウスにおけるコロニー形成および免疫原性。BALB/cマウスをCharles River(l'Abresle,France)から入手し、Institut Pasteur de Lilleの動物施設において特定病原体除去条件下で維持した。肺におけるコロニー形成のため、以前に記載されたように(Mielcarek et al.,2006)、6週齢BALB/cマウスを、麻酔カクテル(ケタミン+アトロピン+バリウム)の腹腔内(i.p.)注射によって軽く鎮静させ、10
6または10
7コロニー形成単位(CFU)のBPZE1または組換え株を含有している20μlのPBSによって鼻腔内(i.n.)免疫感作した。記載されたように(Mielcarek et al.,2006)、i.n.投与後の示された時点でマウスを屠殺し、肺を採集し、PBSで均質化し、段階希釈してBG-血液寒天へ播種し、3〜4日間の37℃でのインキュベーションの後にCFUを計数した。
【0112】
免疫感作研究のため、6週齢BALB/cマウスの群を、10
7CFUのBPZE1または組換え株を含有している20μlのPBSによってi.n.免疫感作し、次いで、4週間隔で同量の細菌によって追加刺激した。
【0113】
抗体検出。96穴プレートを、2μg/mlの合成M2eペプチド
、2μg/mlの合成G
RSVペプチド
、または2μg/mlの組換えPcsBによってコーティングし、4℃で一晩インキュベートし、0.05%トゥイーン20を含有しているPBS(PBST)によって洗浄した。その後、プレートを、100μl/ウェルのブロッキング緩衝液(PBST中の2%BSA)によって37℃で1時間ブロッキングした。3回洗浄した後、100μlの段階希釈血清をウェルに添加し、37℃で2時間インキュベートした。さらに3回洗浄した後、プレートを、PBSTで1:4000に希釈された西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスIgG(Southern Biotech)100μlと共に37℃で1時間インキュベートした。5回洗浄した後、プレートを100μlのHRP基質TMB溶液(Interchim)と共に室温で30分間インキュベートした。50μlの1M H
3PO
4の添加によって反応を中止した。450nmにおける光学濃度(OD)を、Biokinetic reader EL/340 microplateによって測定した。最終力価を、陰性対照血清の2倍を上回る光学濃度読み取り値を有していた最高血清希釈として決定した。
【0114】
組換えPcsBの作製。PcsB断片を、鋳型としての肺炎球菌血清型1(臨床分離株E1586)からの染色体DNAおよび合成オリゴヌクレオチド
を使用して、PCRによって増幅した。アンプリコンをpCRII-TOPO(Invitrogen,Cergy-Pontoise,France)へ挿入し、配列決定して、pCRII-TOPOPcsBexpを得た。このベクターのNotI/NcoI断片をpET24D+へ挿入して、pET24DPcsBを得た。このプラスミドを、PcsBの作製および精製のため、大腸菌BL21へ導入した。組換え細菌を、カナマイシン(25μg/ml)が補足された液体LBブロスにおいて37℃で培養した。OD600が0.8に達した時、1mMイソプロピル-d-チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加によって、37℃で4時間、発現を誘導した。次いで、誘導された細胞を、4℃での20分間の8,000rpmでの遠心分離によって採集し、1錠/25mlのプロテアーゼ阻害剤[complete(商標)EDTAフリー(Roche Molecular Biochemicals,Meylan,France)]が補足された溶解緩衝液A(PBS、pH7.0;350mM NaCl;10%グリセロール)に懸濁させた。
【0115】
フレンチプレスに2回通すことによって細胞を破壊した。遠心分離(20分間15,000rpm)によって膜画分を採集した後、細胞溶解物の上清を、0.5ml/分の流速で、ニッケル-NTAアガロース(Qiagen)(Chelating Sepharose,Fast flow,with Ni2+ metal coupled,Amersham-Pharmacia)に通した。ODが基線に達するまで、未結合材料を緩衝液Aによって洗浄した。結合したヒスチジンタグ付きタンパク質の溶出を、50mM、100mM、または200mMイミダゾールを含有している15mlの緩衝液Aによる段階勾配を使用して実施した。溶出液を2ml画分として収集した。次いで、入手された試料を、12%ポリアクリルアミドゲルを使用したSDS-PAGEおよびクーマシーブルー染色によって分析し、PcsBタンパク質を含有している画分をプールし、4℃でPBSに対して一晩透析した。製造業者の指示を使用して、BCA試験(Pierce)を使用して、タンパク質濃度を推定した。
【0116】
結果
1. Fh44-3M2eを産生する組換えBPZE1株(BPZM2e)
Fha44-3M2eを産生する組換えBPZE1株(BPZM2e)の構築
A型インフルエンザウイルスの基質タンパク質M2の細胞外ドメイン(M2e)は、インフルエンザに対するユニバーサル防御抗原として提唱されている(Neirynck et al.,1999;de Filette et al.,2006)。BPZE1においてM2eを発現させるため、本発明者らは担体としてFha44を使用した。Fha44は、FHAの80kDaのN末端断片であり、全長FHAより良好に百日咳菌によって分泌される(Renauld-Mongenie et al.,1996)。
【0117】
M2eコード配列の3コピーをFha44コード配列に融合させた。対立遺伝子交換によって、構築物をBPZE1染色体のdnt遺伝子座へ挿入し、BPZM2eと命名された組換え株においてトランスジーンをdntプロモーターの調節下に置いた。
【0118】
BPZE1およびBPZM2eの未濃縮培養上清および全細胞抽出物を、抗M2eモノクローナル抗体を使用したイムノブロット分析によって調査した。Fha44-3M2eキメラタンパク質の予想されるサイズに相当する94kDaバンドが、組換え株の培養上清中に検出された。抗M2e抗体とも反応性の類似したサイズのタンパク質が、全細胞抽出物中にも検出された。この観察は、キメラタンパク質が、組換え株から分泌され、BPZM2eの細菌細胞にも関連していたことを示す。
【0119】
BPZM2eの肺におけるコロニー形成および免疫原性
まず、ステイナー・ショルテ培地におけるインビトロのBPZM2eの増殖動力学を、親株BPZE1のものと比較した。2つの株の間に統計的な差は存在せず、そのことから、一般的な細菌の適応度がFha44-3M2eの発現によって損なわれないことが示された。
【0120】
組換え株BPZM2eのマウス気道においてコロニー形成する能力を研究するため、BALB/cマウスを、10
6CFUのBPZM2eまたは非組換えBPZE1によってi.n.感染させ、コロニー形成プロファイルを比較した。組換え株BPZM2eのコロニー形成プロファイルは、対応する親株BPZE1のものと区別不可能であり、そのことから、Fha44-3M2eの挿入が、マウスの肺においてコロニー形成する細菌の能力を改変しないことが示された。
【0121】
M2eペプチドに対する抗体応答を、BPZM2eの投与後の異なる時点で、ELISAによって調査した。しかしながら、M2e特異抗体は、いかなる時点でも検出されなかった。次いで、BPZM2e用量を10倍に増加させ、BALB/cマウスを、10
7CFUのBPZE1または組換えBPZM2eによって、4週間隔で2回、i.n.免疫感作した。最初の免疫感作の2週間後および4週間後、ならびに最後の免疫感作の2週間後に、全身抗M2e IgGを評価するため、血清を収集した。再び、M2eに対する有意な抗体応答は、血清中に検出されなかった。
【0122】
FHAの変異および新しい組換え株(BPZM2e-ΔFHA)の特徴決定
次いで、fhaBの内部断片を含有しているpFus2誘導体(Antoine et al.,2000)を導入することによって、BPZM2eから、FHAをコードする染色体遺伝子(fhaB)を不活化した。pFus2は百日咳菌において複製し得ないため、相同組換えによってプラスミドをfhaB遺伝子へ組み込み、それによって、この遺伝子を妨害する。100μg/mlストレプトマイシンおよび10μg/mlゲンタマイシンを含有しているBG血液寒天上で、組込み体を選択した。得られた株をBPZM2e-ΔFHAと命名した。
【0123】
BPZM2e-ΔFHAにおけるFHAの欠如を、SDS-PAGEおよびクーマシーブルー染色によって立証し、培養上清中のFha44-3M2eの存在を、イムノブロット分析によって決定した。SDS-PAGEおよびクーマシーブルー染色は、変異株の培養上清においても、対照として使用された公知のFHA欠損株であるBPGR4の培養上清においても、FHAに相当する220kDaタンパク質の欠如を示した。未濃縮培養上清のイムノブロット分析は、FHA欠損変異体が少なくともBPZM2e親株と同量のFha44-3M2eを産生することを示した。予想通り、BPZE1の培養上清中には、免疫反応バンドは検出されなかった。
【0124】
BPZM2e-ΔFHAによるマウスの肺におけるコロニー形成
FHAの欠失後の新しい組換え株のコロニー形成プロファイルを調査するため、BALB/cマウスを、10
7CFUのBPZM2e-ΔFHAによってi.n.感染させ、肺内の細菌量を28日間追跡した。BPZE1およびBPZM2e-ΔFHAの両方が、肺においてコロニー形成し、類似したレベルでマウスの肺に存続したが、接種後3日目には、BPZE1より有意に少ないBPZM2e-ΔFHAがマウスの肺に検出された。
【0125】
BPZM2e-ΔFHAの免疫原性
BPZM2e-ΔFHAの免疫原性を、4週間隔での2回のi.n.投与の後に評価した。最後の免疫感作の2週間後に血清を収集し、全身抗M2e抗体応答を分析した。予想通り、BPZM2e-ΔFHAは、M2eに対して高レベルの全身IgGを誘導することが見出されたが、FHAを産生するBPZM2eまたはBPZE1の2回の投与は、有意な抗M2e IgG応答をもたらさなかった(
図1)。これらの観察は、FHAの欠如が、組換えBPZE1によるi.n.免疫感作後のM2eに対する免疫応答を強く増加させることを示す。
【0126】
2. Fha44-G
RSVを産生する組換えBPZE1株(BPZG
RSV)
Fha44-G
RSVを産生する組換えBPZE1株(BPZG
RSV)の構築
アミノ酸残基170〜197に及ぶRSVのGタンパク質のペプチド断片は、中和B細胞エピトープ(Power et al.,2001;Yusibov et al.,2005)およびT細胞エピトープ(Varga et al.,2000)を含有していることが示されている。タンパク質のこの領域は、異なるRSV分離物の間でもよく保存されている。上記のインフルエンザウイルスのM2eエピトープと同様に、本発明者らは、BPZE1においてGエピトープを発現させるための担体としてFha44を使用した。
【0127】
Gエピトープコード配列の単一コピーを、Fha44コード配列と融合させた。対立遺伝子交換によって構築物をBPZE1染色体のdnt遺伝子座へ挿入し、BPZG
RSVと命名された組換え株においてトランスジーンをdntプロモーターの調節下に置いた。
【0128】
BPZG
RSVの未濃縮培養上清を、抗Gモノクローナル抗体を使用したイムノブロット分析によって調査した。Fha44-G
RSVキメラタンパク質の予想されるサイズに相当するおよそ90kDaのバンドが、組換え株の培養上清中に検出され、そのことから、キメラタンパク質が組換え株から分泌されたことが示された。
【0129】
BPZG
RSVの肺におけるコロニー形成および免疫原性
組換え株BPZG
RSVのマウス気道においてコロニー形成する能力を研究するため、BALB/cマウスを、10
6CFUのBPZG
RSVまたは非組換えBPZE1によってi.n.感染させ、コロニー形成プロファイルを比較した。組換え株BPZG
RSVのコロニー形成プロファイルは、対応する親株BPZE1のものと区別不可能であり、そのことから、Fha44-G
RSVの挿入が、マウスの肺においてコロニー形成する能力を改変しないことが示された。
【0130】
BPZG
RSVの投与後に、Gペプチドに対する抗体応答をELISAによって調査した。しかしながら、G特異抗体は検出されなかった。次いで、BPZG
RSV用量を10倍に増加させ、10
7CFUのBPZE1または組換えBPZG
RSVによって、4週間隔で2回、BALB/cマウスをi.n.免疫感作した。全身抗G IgG応答を評価するため、最後の免疫感作の2週間後に血清を収集した。再び、Gペプチドに対する有意な抗体応答は、血清中に検出されなかった。
【0131】
FHAの変異および新しい組換え株(BPZG
RSV-ΔFHA)の特徴決定
次いで、上記のようにpFus2誘導体を導入することによって、FHAをコードする染色体遺伝子(fhaB)をBPZG
RSVから不活化し、BPZG
RSV-ΔFHAにおけるFHAの欠如を、SDS-PAGEおよびクーマシーブルー染色によって立証し、培養上清中のFha44-G
RSVの存在をイムノブロット分析によって決定した。SDS-PAGEおよびクーマシーブルー染色は、変異株の培養上清におけるFHAに相当する220kDaタンパク質の欠如を示した。未濃縮培養上清のイムノブロット分析は、FHA欠損変異株がBPZG
RSV親株と同量のFha44-G
RSVを産生することを示した。
【0132】
BPZG
RSV-ΔFHAの免疫原性
BPZG
RSV-ΔFHAの免疫原性を、4週間隔での2回のi.n.投与の後に評価した。最後の免疫感作の2週間後に血清を収集し、全身抗G抗体応答をELISAによって分析した。BPZG
RSV-ΔFHAは、Gエピトープに対する高レベルの全身IgGを誘導することが見出されたが、BPZE1またはFHAを産生するBPZG
RSVの2回の投与は、有意な抗G IgG応答をもたらさなかった(
図2)。これらの観察は、M2eと同様に、FHAの欠如が、組換えBPZE1によるi.n.免疫感作の後のGエピトープに対する免疫応答を強く増加させることを示す。
【0133】
3. Fha44-PcsBを産生する組換えBPZE1株(BPZPcsB)
Fha44-PcsBを産生する組換えBPZE1株(BPZPcsB)の構築
PcsBは、様々な臨床分離物の間で高度に保存されており、致死的な敗血症に対する防御を誘導する肺炎球菌のタンパク質抗原である。それは、敗血症モデルおよび肺炎モデルの両方において、4種の異なる血清型に対して交差防御性であることが示されている(Giefing et al.,2008)。
【0134】
PcsBの成熟部分(アミノ酸28〜278)をコードする遺伝子を、単一コピーとして、Fha44コード配列と融合させた。対立遺伝子交換によって、構築物をBPZE1染色体のdnt遺伝子座へ挿入し、BPZPcsBと命名された組換え株において、トランスジーンをdntプロモーターの調節下に置いた。
【0135】
BPZPcsBの未濃縮培養上清を、SD-PAGEおよびクーマシーブルー染色によって調査した。Fha44-PcsBキメラタンパク質に相当する112kDaバンドが、組換え株の未濃縮培養上清中に容易に検出可能であり、そのことから、キメラタンパク質が組換え株から分泌されたことが示された。
【0136】
BPZPcsBの免疫原性
BALB/Cマウスを、10
7cfuのBPZPcsBによって、4週間隔で3回、経鼻免疫感作するか、または対照としてのBPZE1を与えた。各免疫感作の2週間後に血清を収集し、PcsBに対する抗体応答をELISAによって調査した。BPZPcsBの用量の増加は、PcsBに対する抗体力価の増加をもたらしたが、抗体力価は、特に、1回目および2回目の免疫感作の後、極めて低いままであった。
【0137】
FHAの変異および新しい組換え株(BPZPcsB-ΔFHA)の特徴決定
次いで、上記のようなpFus2誘導体を導入することによって、FHAをコードする染色体遺伝子(fhaB)をBPZPcsBから不活化し、BPZPcsB-ΔFHAにFHAが存在せず、Fha44-PcsBが存在することを、SDS-PAGEおよびクーマシーブルー染色によって立証した。SDS-PAGEおよびクーマシーブルー染色は、変異株の培養上清中に、FHAに相当する220kDaタンパク質が存在せず、Fha44-PcsBに相当するより低いMrのタンパク質が存在することを示した。
【0138】
BPZPcsB-ΔFHAの免疫原性
BPZPcsB-ΔFHAの免疫原性を、4週間隔での2回のi.n.投与の後に評価した。最後の免疫感作の2週間後に血清を収集し、全身抗PcsB抗体応答を分析した。BPZPcsB-ΔFHAは、FHAを産生するBPZPcsBによって誘導されたものより有意に高い、高レベルのPcsBに対する全身IgGを誘導することが見出された(
図3)。これらの観察は、M2eおよびG
RSVと同様に、FHAの欠如が、組換えBPZE1によるi.n.免疫感作後のPcsBに対する免疫応答を有意に増加させることを示している。
【0139】
本願の全体にわたって、様々な参照によって、本発明が関係する技術分野の現状が記載されている。これらの参照の開示は、参照によって本開示に組み入れられる。
【0140】
参照
【0141】
(表1)細菌株