(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された収差補正方法では、STEM像の自己相関関数が電子線(プローブ)の試料上での強度分布を反映していることを前提としている。しかしながら、例えば、Si[110]で見られるような2つの原子が並んだダンベル構造のSTEM像を用いて収差補正を行う場合、自己相関関数には試料構造が反映される。そのため、収差がないにも関わらず、収差があるとの計算結果が得られてしまう場合があった。
【0006】
このように、特許文献1に開示された収差補正方法では、収差を正確に補正できない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る走査透過電子顕微鏡の一態様は、
収差補正器を含む電子光学系と、
前記収差補正器を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、
互いに異なるデフォーカス量で撮影された第1走査透過電子顕微鏡像および第2走査透過電子顕微鏡像を取得する処理と、
前記第1走査透過電子顕微鏡像の自己相関関数である第1自己相関関数を算出する処理と、
前記第1自己相関関数の中心を通る直線に沿った第1強度プロファイルを取得する処理と、
前記第1強度プロファイルにおいて、前記第1自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置を求め、当該位置の強度を第1基準強度とする処理と、
前記第2走査透過電子顕微鏡像の自己相関関数である第2自己相関関数を算出する処理と、
前記第2自己相関関数の中心を通る直線に沿った第2強度プロファイルを取得する処理
と、
前記第2強度プロファイルにおいて、前記第2自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置を求め、当該位置の強度を第2基準強度とする処理と、
前記第1自己相関関数において前記第1基準強度と等しい強度の位置を結んだ等強度線に第1収差関数をフィッティングし、前記第2自己相関関数において前記第2基準強度と等しい強度の位置を結んだ等強度線に第2収差関数をフィッティングすることによって、収差係数を求める処理と、
前記収差係数に基づいて、前記電子光学系を制御する処理と、
を行う。
【0008】
このような走査透過電子顕微鏡では、等強度線を引くための基準強度が、強度プロファイルにおいて自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置の強度であるため、試料の構造によらず、収差係数を正確に求めることができる。したがって、このような走査透過電子顕微鏡では、試料の構造によらず、電子光学系の収差を正確に補正できる。
【0011】
(
2)本発明に係る収差補正方法の一態様は、
収差補正器を含む電子光学系を備えた走査透過電子顕微鏡の収差補正方法であって、
互いに異なるデフォーカス量で撮影された第1走査透過電子顕微鏡像および第2走査透過電子顕微鏡像を取得する工程と、
前記第1走査透過電子顕微鏡像の自己相関関数である第1自己相関関数を算出する工程と、
前記第1自己相関関数の中心を通る直線に沿った第1強度プロファイルを取得する工程と、
前記第1強度プロファイルにおいて、前記第1自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置を求め、当該位置の強度を第1基準強度とする工程と、
前記第1自己相関関数において、前記第1基準強度と等しい強度の位置を結んだ等強度線に第1収差関数をフィッティングする工程と、
前記第2走査透過電子顕微鏡像の自己相関関数である第2自己相関関数を算出する工程と、
前記第2自己相関関数の中心を通る直線に沿った第2強度プロファイルを取得する工程と、
前記第2強度プロファイルにおいて、前記第2自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置を求め、当該位置の強度を第2基準強度とする工程と、
前記第2自己相関関数において、前記第2基準強度と等しい強度の位置を結んだ等強度線に第2収差関数をフィッティングする工程と、
前記第1収差関数のフィッティングおよび前記第2収差関数のフィッティングにより得られた収差係数に基づいて、前記電子光学系を制御する工程と、
を含む。
【0012】
このような収差補正方法では、等強度線を引くための基準強度が、強度プロファイルにおいて自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置の強度であるため、試料の構造によらず、収差係数を正確に求めることができる。したがって、このような収差補正方法では、試料の構造によらず、電子光学系の収差を正確に補正できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0017】
1. 電子顕微鏡の構成
まず、本実施形態に係る走査透過電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る走査透過電子顕微鏡100の構成を示す図である。
【0018】
走査透過電子顕微鏡100は、収差補正器30を含む電子光学系を備えた走査透過電子顕微鏡(STEM)である。走査透過電子顕微鏡100は、電子プローブで試料2上を走査し、試料2を透過した電子を検出して走査透過電子顕微鏡像(以下「STEM像」ともいう)を得ることができる。
【0019】
走査透過電子顕微鏡100は、
図1に示すように、電子源10と、集束レンズ12と、走査コイル13と、対物レンズ14と、中間レンズ18と、投影レンズ20と、収差補正器30と、試料ステージ16と、試料ホルダー17と、STEM検出器22a,22bと、制御部40と、操作部50と、表示部52と、記憶部54と、を含む。走査透過電子顕微鏡100の電子光学系は、集束レンズ12、走査コイル13、対物レンズ14、中間レンズ18、投影レンズ20、および収差補正器30を含む。
【0020】
電子源10は、電子を発生させる。電子源10は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する電子銃である。
【0021】
集束レンズ12は、電子源10から放出された電子線を集束する。集束レンズ12は、図示はしないが、複数の電子レンズで構成されていてもよい。集束レンズ12および対物レンズ14は、走査透過電子顕微鏡100の照射系を構成している。照射系で電子線を集束することによって、電子プローブを形成する。
【0022】
走査コイル13は、電子線を偏向させて、集束レンズ12および対物レンズ14で集束された電子線(電子プローブ)で試料2上を走査するためのコイルである。走査コイル13は、走査透過電子顕微鏡100の走査信号発生器(図示せず)で生成された走査信号に基づき、電子プローブを偏向させる。これにより、電子プローブで試料2上を走査することができる。
【0023】
対物レンズ14は、電子線を試料2上に集束させて、電子プローブを形成するためのレンズである。また、対物レンズ14は、試料2を透過した電子で結像する。
【0024】
試料ステージ16は、試料ホルダー17に保持された試料2を支持している。試料ステージ16によって、試料2を位置決めすることができる。
【0025】
中間レンズ18および投影レンズ20は、試料2を透過した電子をSTEM検出器22a,22bに導く。対物レンズ14、中間レンズ18、および投影レンズ20は、走査透過電子顕微鏡100の結像系を構成している。
【0026】
明視野STEM検出器22aは、試料2を透過した電子のうち、試料2で散乱されずに透過した電子、および試料2で所定の角度以下で散乱された電子を検出する。明視野STEM検出器22aは光軸上に配置されている。
【0027】
暗視野STEM検出器22bは、試料2で特定の角度で散乱された電子を検出する。暗視野STEM検出器22bは、円環状の検出器である。
【0028】
なお、STEM像を得るための検出器はSTEM像を得ることができれば特に限定されず、例えば、検出面が複数の領域に分割された多分割検出器であってもよいし、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサーを用いたピクセル型検出器であってもよい。
【0029】
収差補正器30は、走査透過電子顕微鏡100の照射系に組み込まれている。図示の例では、収差補正器30は、集束レンズ12の後段に配置されている。収差補正器30は、
走査透過電子顕微鏡100の照射系の収差を補正する。収差補正器30は、照射系に生じる2回非点を補正する。収差補正器30は、例えば、電場、磁場、またはこれらの重畳場を発生させる多極子である。収差補正電源コントローラー31は、収差補正器30を動作させる。
【0030】
走査透過電子顕微鏡100では、電子源10から放出された電子線は、集束レンズ12および対物レンズ14(照射系)で集束されて電子プローブを形成し試料2に照射される。収差補正器30によって照射系の収差が補正される。試料2に照射された電子線は、走査コイル13によって試料2上で走査される。試料2を透過した電子線は、対物レンズ14、中間レンズ18および投影レンズ20によってSTEM検出器22a,22bに導かれ、STEM検出器22a,22bで検出される。STEM検出器22a,22bは、それぞれ検出された電子の強度信号(検出信号)を、信号処理部(図示せず)に送る。信号処理部は、STEM検出器22a,22bで検出された電子の強度信号(検出信号)を走査信号に同期させて画像化する。これにより、明視野STEM像および暗視野STEM像を得ることができる。
【0031】
操作部50は、ユーザーによる操作に応じた操作信号を取得し、制御部40に送る処理を行う。操作部50の機能は、例えば、ボタン、キー、タッチパネル型ディスプレイ、マイクなどにより実現できる。
【0032】
表示部52は、制御部40によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD(liquid crystal display)などのディスプレイにより実現できる。
【0033】
記憶部54は、制御部40が各種の計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部54は、制御部40の作業領域として用いられ、制御部40が各種プログラムに従って実行した算出結果等を一時的に記憶するためにも使用される。記憶部54の機能は、RAM(random access memory)およびハードディスクなどにより実現できる。
【0034】
制御部40は、収差補正器30を制御する処理を行う。制御部40の処理については後述する。制御部40の機能は、各種プロセッサ(CPU(Central Processing Unit)等)
でプログラムを実行することにより実現できる。
【0035】
2. 原理
次に、収差補正の原理について説明する。以下では、暗視野STEM像を用いた収差補正について説明するが、明視野STEM像を用いてもよい。
【0036】
一般的に暗視野STEM像Iは、試料2の試料関数Sと、電子線(以下「プローブ」ともいう)の試料2上の強度分布を表すプローブ関数Pとのコンボリューション(畳み込み)である。暗視野STEM像Iは、畳み込み演算子を「*」として次式(1)で表される。
【0038】
したがって、暗視野STEM像Iの自己相関関数R
acは、次式(2)で表される。
【0040】
なお、Fはフーリエ変換を表す演算子であり、F
−1は逆フーリエ変換を表す演算子である。
【0041】
試料関数が原子ポテンシャル(原子カラムポテンシャル)のようにデルタ関数で表されるとすると、デルタ関数のフーリエ変換は1であるから式(2)は、次式(3)で表される。
【0043】
したがって、暗視野STEM像Iの自己相関関数Rはプローブ関数Pに依存することがわかる。
【0044】
さらに、2回非点やデフォーカスが生じたときのプローブ関数がガウス関数であると仮定して、比例係数をkとすると、式(3)は、次式(4)で表される。
【0046】
つまり、原子分解能が得られる状態で暗視野STEM像を観察しているとき、上式に基づいて得られる自己相関関数R
acはプローブの強度に比例する。
【0047】
一方、プローブ関数Pが二種類の収差、すなわち、デフォーカスと2回非点収差を含む場合、あるフォーカスにおいて得られた暗視野STEM像の自己相関関数における等強度線(等高線)は、当該自己相関関数を表す平面座標において、次式(5)を座標値とする収差関数で表される。
【0049】
なお、P
xは当該平面座標において、上記収差によるx軸方向のプローブの変位を表し、同様にP
yはy軸方向のプローブの変位を表す。また、o
2は電子光学系に現れたデフォーカスを表す収差係数であり、a
2は2回非点収差係数であり、θ
a2は2回非点収差方位角である。
さらに、別のフォーカスにおいて得られる自己相関関数R
acにおける等強度線(等高線)は、当該自己相関関数を表す平面座標において、次式(6)を座標値とする収差関数で表される。
【0051】
なお、d
o2は上記2つのフォーカスの間に生じるデフォーカスの差を表す。
【0052】
したがって、2つの異なるフォーカスで得られた2つの暗視野STEM像の自己相関関数に対して、それぞれ(5)式および(6)式に基づく収差関数をフィッティングさせると収差係数o
2、収差係数a
2、比例係数kが直ちに求まる。
【0053】
STEM像の自己相関関数から収差を計算するうえで、その自己相関関数が、プローブ像の自己相関関数になっていると仮定する必要がある。しかしながら、STEM像には試料構造の情報も含まれているため、観察する試料によっては収差の計算結果にばらつきが生じてしまう。
【0054】
図2は、Si[110]のSTEM像である。
図3は、
図2のSTEM像の自己相関関数である。
図2に示すように、Si[110]では、横方向に2つの原子が並んだダンベル構造が観察される。そのため、自己相関関数において、等強度線に対して収差関数をフィッティングした場合、収差が十分に補正されている状態であっても、
図3に破線で示すように、横方向に2回非点が残っているような結果が得られてしまうことがある。そのため、2回非点を正確に計測できなかった。
【0055】
したがって、本実施形態では、自己相関関数において、プローブ関数と近似できるような部分で収差計算(収差関数のフィッティング)を行う。具体的には、1つの原子像に対応する自己相関関数部分で収差計算を行う。以下、本実施形態の手法について説明する。
【0056】
図4は、本実施形態に係る収差補正方法の一例を示すフローチャートである。
【0057】
(1)互いに異なるデフォーカス量で撮影された2つのSTEM像の取得(S100)
まず、互いに異なるデフォーカス量で撮影された第1STEM像および第2STEM像を取得する。デフォーカス量の変更は、対物レンズ14などのレンズを調整することで行う。対物レンズ14の励磁を変えて、2つのSTEM像を撮影することで、第1STEM像および第2STEM像を撮影できる。なお、デフォーカス量の変更を、加速電圧を変えることで行ってもよい。第1STEM像および第2STEM像は、暗視野STEM像であってもよいし、明視野STEM像であってもよい。
【0058】
なお、ここでは、2つのSTEM像を用いて収差補正を行う場合について説明するが、3つ以上のSTEM像を用いて収差補正を行ってもよい。
【0059】
(2)第1STEM像の自己相関関数の算出(S102)
第1STEM像の自己相関関数(以下、「第1自己相関関数」ともいう)を算出する。第1自己相関関数は、上記式(2)を用いて算出できる。
【0060】
(3)第1自己相関関数の強度プロファイルの取得(S104)
図5は、自己相関関数の強度プロファイルを取得する手法を説明するための図である。なお、
図5では、自己相関関数の中心を通る直線を破線で示している。
図6は、第1STEM像の自己相関関数の強度プロファイルを説明するための図である。
図6に示す強度プ
ロファイルにおいて、横軸は自己相関関数上の位置を表し、縦軸は強度を表している。
【0061】
第1自己相関関数の強度プロファイル(以下、「第1強度プロファイル」ともいう)を取得する。第1強度プロファイルは、第1自己相関関数の中心を通る直線に沿って取得する。この結果、
図6に示す第1強度プロファイルfが得られる。
【0062】
(4)第1基準強度の算出(S106)
次に、第1強度プロファイルfにおいて、第1自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置を求め、当該位置の強度を第1基準強度とする。例えば、
図6に示すように、第1強度プロファイルfの2階微分f´´を用いて変曲点を特定する。第1強度プロファイルfの2階微分f´´がゼロの位置が、変曲点の位置となる。次に、変曲点のうち、第1自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置を特定する。
図6に示す第1強度プロファイルfでは、第1自己相関関数の中心の位置は、横軸がゼロの位置である。次に、第1自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置における第1自己相関関数の強度を第1基準強度とする。このようにして、第1基準強度を求めることができる。
【0063】
なお、ここでは、変曲点の位置を、2階微分f´´を用いて特定したが、変曲点の位置を、1階微分f´を用いて特定してもよい。1階微分f´の極小値または極大値の位置が、変曲点の位置となる。
【0064】
なお、上記では、1つの第1強度プロファイルから第1基準強度を求める場合について説明したが、複数の第1強度プロファイルから第1基準強度を求めてもよい。具体的には、まず、第1自己相関関数の中心を通る直線に沿った第1強度プロファイルを、方向を変えて複数取得する。次に、複数の第1強度プロファイルの各々において、第1自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置を求め、当該位置の強度を求める。このように第1強度プロファイルごとに求められた強度のうちの最大値を第1基準強度とする。
【0065】
(5)第2STEM像の自己相関関数の算出(S108)
第2STEM像の自己相関関数を算出する。第2STEM像の自己相関関数は、第1STEM像の自己相関関数を算出する場合と同様に、上記式(2)を用いて算出できる。
【0066】
(6)第2STEM像の自己相関関数の強度プロファイルの取得(S110)
第2STEM像の自己相関関数の強度プロファイル(以下、「第2強度プロファイル」ともいう)を取得する。第2強度プロファイルは、第2STEM像の自己相関関数の中心を通る直線に沿って取得する。
【0067】
(7)第2基準強度の算出(S112)
次に、第2強度プロファイルにおいて、第2自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置を求め、当該位置の強度を第2基準強度とする。第2基準強度の算出方法は、上述した第1基準強度の算出方法と同様である。
【0068】
(8)収差関数のフィッティング(S114)
次に、第1自己相関関数において第1基準強度と等しい強度の位置を結んだ等強度線に第1収差関数をフィッティングし、第2自己相関関数において第2基準強度と等しい強度の位置を結んだ等強度線に第2収差関数をフィッティングする。
【0069】
具体的には、第1自己相関関数において、第1基準強度と等しい強度の位置を結んで等強度線を引き、等強度線に対して最小二乗法を用いて式(5)で表される収差関数をフィッティングする。同様に、第2自己相関関数において、第2基準強度と等しい強度の位置を結んで等強度線を引き、等強度線に対して最小二乗法を用いて式(6)で表される収差
関数をフィッティングする。これにより、収差係数o
2、収差係数a
2、比例係数kを求めることができる。収差係数o
2、収差係数a
2、比例係数kに基づいて、デフォーカスおよび2回非点を求めることができる。
【0070】
図3の実線は、基準強度と等しい強度の位置を結んだ等強度線に対して収差関数をフィッティングした結果である。基準強度と等しい強度の位置を結んだ等強度線に対して収差関数をフィッティングすることにより、
図3の実線で示すように、1つの原子像に対応する自己相関関数部分に対して収差関数をフィッティングすることができる。
【0071】
(9)自己相関関数のコントラストに基づくデフォーカスの算出(S116)
上記のように、基準強度と等しい強度の位置を結んだ等強度線に対して収差関数をフィッティングして、デフォーカスおよび2回非点を求めた。しかしながら、収差関数をフィッティングする等強度線の強度を、第2自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置の強度としたため、フィッティングした楕円の大きさ(収差係数o
2)が、必ずしもデフォーカスに依存するわけではなくなる。
【0072】
したがって、本実施形態では、自己相関関数のコントラストに基づいてデフォーカスを求める。
【0073】
まず、第1自己相関関数のコントラストを求める。具体的には、第1自己相関関数のコントラストを、第1自己相関関数の最小値と、第1自己相関関数の中心のピークを除いた領域の第1自己相関関数の最大値と、の差に基づいて求める。
【0074】
図7は、自己相関関数のコントラストを求める手法を説明するための図である。
図7に示すグラフは、自己相関関数の中心を通る強度プロファイルの一例である。
【0075】
図7に示すように、自己相関関数の強度プロファイルでは、自己相関関数の中心の位置で必ず最大値をとる。しかし、自己相関関数の中心の位置の強度は、もとのSTEM像の平均強度の和で一意に決まるため、コントラストの判断として用いるには適していない。そのため、
図7に示すように、自己相関関数の最小値Iminと、自己相関関数の中心の位置のピークを除いた領域の自己相関関数の最大値Imaxと、の差Imax−Iminに基づいて、コントラストを求める。例えば、差Imax−Iminを、自己相関関数のコントラストとする。
【0076】
次に、第2自己相関関数のコントラストを求める。具体的には、第1自己相関関数のコントラストと同様に、第2自己相関関数のコントラストを、第2自己相関関数の最小値と、第2自己相関関数の中心のピークを除いた領域の第2自己相関関数の最大値と、の差に基づいて求める。
【0077】
ここで、STEM像の自己相関関数のコントラストは、フォーカスがあった状態のSTEM像、すなわち、デフォーカス量がゼロのSTEM像において最大となる。これを利用して、デフォーカス量を算出する。以下では、第1STEM像をアンダーフォーカスで撮影されたものとし、第2STEM像をオーバーフォーカスで撮影されたものとして、デフォーカスを補正する処理を説明する。
【0078】
第1自己相関関数のコントラストをCuとし、第2自己相関関数のコントラストをCoとし、第1STEM像のデフォーカス量と第2STEM像のデフォーカス量の差をDfとした場合、次式を用いてデフォーカス量を求める。
【0079】
a×Df×{(Cu−Co)/|Cu−Co|}×{|Cu−Co|/|Cu+Co|
}
b
【0080】
ここで、aおよびbは、任意の係数であり、状況に応じて変更可能である。例えば、a=b=1としてデフォーカス量を求めることができる。
【0081】
なお、デフォーカス量を求める式は、上記式に限定されない。例えば、次式を用いてもよい。
【0082】
2Df/(1+exp[−a(Cu−Co)/(Cu+Co)])−1/2
【0083】
第1自己相関関数のコントラストCu、および第2自己相関関数のコントラストCoを利用して一意的な値を求めることができれば、これらの式以外の式を用いてデフォーカス量を算出してもよい。
【0084】
なお、アンダーフォーカスで撮影された複数のSTEM像の自己相関関数のコントラストからも、同様にコントラストを変数とした式でデフォーカス量を求めることができる。また、オーバーフォーカスで撮影された複数のSTEM像の自己相関関数のコントラストからも、同様にコントラストを変数とした式でデフォーカス量を求めることができる。
【0085】
(10)求めた収差係数に基づく電子光学系の制御(S118)
求められた収差係数に基づいて、電子光学系を制御する。具体的には、ステップS114で求められた2回非点に基づいて、電子光学系の2回非点を補正する。2回非点の補正は、収差補正器30を用いて行われる。2回非点の補正は、求められた2回非点が打ち消されるように収差補正器30を動作させることで行われる。
【0086】
また、ステップS116で求められたデフォーカス量に基づいて、電子光学系(対物レンズ14)のデフォーカスを補正する。デフォーカスの補正は、対物レンズ14を用いて行われる。デフォーカスの補正は、求められたデフォーカス量と最適なデフォーカス量の差に基づいて、最適なデフォーカス量となるように対物レンズ14を動作させることで行われる。なお、デフォーカスの補正を、加速電圧を変更することによって行ってもよい。
【0087】
以上の工程により、電子光学系の収差を補正することができる。
【0088】
なお、
図4に示すステップの順序は、収差を補正できれば、入れ替えることも可能である。
【0089】
また、上記では、ステップS102において、1つのSTEM像から1つの自己相関関数を取得する場合について説明したが、1つのSTEM像から複数の自己相関関数を取得してもよい。この場合、ステップS114では、複数の自己相関関数から求められた2回非点の平均を、補正に用いる2回非点としてもよい。また、ステップS116では、複数の自己相関関数から求められたデフォーカス量の平均を、補正に用いるデフォーカス量としてもよい。
【0090】
3. 処理
次に、制御部40の処理について説明する。
図8は、制御部40の処理の一例を示すフローチャートである。
【0091】
まず、制御部40は、ユーザーが収差の補正を開始する指示(開始指示)を行ったか否かを判断し(S200)、開始指示が行われるまで待機する(S200のNo)。制御部40は、例えば、操作部50に開始指示が入力された場合に、ユーザーが開始指示を行っ
たと判断する。
【0092】
開始指示を行ったと判定した場合(S200のYes)、制御部40は、互いにデフォーカス量の異なる第1STEM像および第2STEM像を取得する(S202)。
【0093】
例えば、制御部40は、まず、電子光学系を、あらかじめ設定されたフォーカス値とし、信号処理部(図示せず)からの画像データを取得する。これにより、制御部40は、第1STEM像を取得することができる。次に、制御部40は、電子光学系を、第1STEM像を撮影したときと異なるフォーカス値とし、信号処理部からの画像データを取得する。これにより、制御部40は、第2STEM像を取得することができる。
【0094】
次に、制御部40は、第1STEM像の自己相関関数である第1自己相関関数を算出する(S204)。制御部40は、算出した第1自己相関関数の中心を通る直線に沿った強度プロファイル(第1強度プロファイル)を取得する(S206)。制御部40は、取得した第1強度プロファイルにおいて、第1自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置を求め、当該位置の強度を第1基準強度とする(S208)。変曲点の位置は、第1強度プロファイルの2階微分を用いて算出する。
【0095】
次に、制御部40は、第2STEM像の自己相関関数である第2自己相関関数を算出する(S210)。制御部40は、算出した第2自己相関関数の中心を通る直線に沿った強度プロファイル(第2強度プロファイル)を取得する(S212)。制御部40は、取得した第2強度プロファイルにおいて、第2自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置を求め、当該位置の強度を第2基準強度とする(S214)。
【0096】
次に、制御部40は、第1自己相関関数において第1基準強度と等しい強度の位置を結んだ等強度線に第1収差関数(式(5)参照)をフィッティングし、第2自己相関関数において第2基準強度と等しい強度の位置を結んだ等強度線に第2収差関数(式(6)参照)をフィッティングすることによって、収差係数を求める(S216)。以上の処理により、2回非点を求めることができる。
【0097】
次に、制御部40は、第1自己相関関数のコントラストおよび第2自己相関関数のコントラストに基づいて、デフォーカス量を求める(S218)。制御部40は、第1自己相関関数のコントラストを、第1自己相関関数の最小値と、第1自己相関関数の中心のピークを除いた領域の第1自己相関関数の最大値と、の差に基づいて求める。また、制御部40は、第2自己相関関数のコントラストを、第2自己相関関数の最小値と、第2自己相関関数の中心のピークを除いた領域の第2自己相関関数の最大値と、の差に基づいて求める。以上の処理により、デフォーカス量を求めることができる。
【0098】
次に、制御部40は、求めた収差係数が閾値以下か否かを判定する(S220)。制御部40は、求めたデフォーカス量と、デフォーカス量の閾値と、を比較して、電子光学系のデフォーカス量が閾値以下か否かを判定する。また、制御部40は、求めた2回非点と、2回非点の閾値と、を比較して、電子光学系の2回非点が閾値以下か否かを判定する。デフォーカス量の閾値および2回非点の閾値の情報は、任意に設定可能であり、あらかじめ記憶部54に記憶されている。
【0099】
制御部40は、デフォーカス量および2回非点の両方が閾値以下である場合、収差係数が閾値以下と判定する。すなわち、デフォーカス量および2回非点の少なくとも一方が閾値以下でない場合には、収差係数が閾値以下でないと判定する。
【0100】
収差係数が閾値以下でないと判定された場合(S220のNo)、制御部40は、求め
た収差係数に基づいて、電子光学系を制御する(S222)。例えば、制御部40は、求めた2回非点が打ち消されるように、収差補正器30を制御する。また、制御部40は、求めたデフォーカス量に基づいて最適なフォーカスとするための対物レンズ14の励磁量を求め、対物レンズ14を制御する。
【0101】
制御部40は、ステップS222の処理を行った後、ステップS202の処理に戻って、ステップS202〜ステップS220の処理を行う。制御部40は、収差係数が閾値以下と判定されるまで、ステップS202〜ステップS222の処理を繰り返す。
【0102】
収差係数が閾値以下と判定された場合(S220のYes)、制御部40は、収差を補正する処理を終了する。
【0103】
4. 特徴
走査透過電子顕微鏡100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0104】
走査透過電子顕微鏡100では、制御部40は、第1強度プロファイルにおいて第1自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置を求め、当該位置の強度を第1基準強度とし、第2強度プロファイルにおいて、第2自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置を求め、当該位置の強度を第2基準強度とする。また、第1自己相関関数において第1基準強度と等しい強度の位置を結んだ等強度線に第1収差関数をフィッティングし、第2自己相関関数において第2基準強度と等しい強度の位置を結んだ等強度線に第2収差関数をフィッティングすることによって、収差係数を求める。
【0105】
このように走査透過電子顕微鏡100では、等強度線を引くための基準強度が、強度プロファイルにおいて自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置の強度であるため、試料の構造によらず、収差係数を正確に求めることができる。したがって、走査透過電子顕微鏡100では、試料の構造によらず、電子光学系の収差を正確に補正できる。
【0106】
走査透過電子顕微鏡100では、第1自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置を、第1強度プロファイルの2階微分を用いて求め、第2自己相関関数の中心に最も近い変曲点の位置を、第2強度プロファイルの2階微分を用いて求める。
【0107】
ここで、制御部40は、等強度線を引くための基準強度を、強度プロファイルにおいて自己相関関数の中心に最も近い変曲点(2階微分がゼロ)の位置の強度としたが、
図9に示すように、基準強度を、強度プロファイルにおいて自己相関関数の中心に最も近い極小値の位置の強度とすることも考えられる。当該極小値の位置は、1階微分がゼロの位置である。しかしながら、
図6に示す場合のように、強度プロファイルに極小値が存在しない場合もある。そのため、汎用性が低い。
【0108】
このように、走査透過電子顕微鏡100では、等強度線を引くための基準強度を、強度プロファイルにおいて自己相関関数の中心に最も近い変曲点(2階微分がゼロ)の位置の強度としているため、汎用性が高い。
【0109】
走査透過電子顕微鏡100では、第1自己相関関数のコントラストおよび第2自己相関関数のコントラストに基づいて、デフォーカス量を求める。また、第1自己相関関数のコントラストを、第1自己相関関数の最小値と、第1自己相関関数の中心のピークを除いた領域の第1自己相関関数の最大値と、の差に基づいて求める。また、第2自己相関関数のコントラストを、第2自己相関関数の最小値と、第2自己相関関数の中心のピークを除いた領域の第2自己相関関数の最大値と、の差に基づいて求める。そのため、走査透過電子顕微鏡100では、STEM像のノイズの影響を低減でき、デフォーカス量を正確に求め
ることができる。
【0110】
自己相関関数は、
図7に示すように、自己相関関数の中心のピークと、当該ピークを除いた周囲のパターンと、に分かれている。ピークを除いた周囲のパターンの形状はノイズの影響を受けにくい。そのため、自己相関関数のコントラストを、自己相関関数の最小値と、自己相関関数の中心のピークを除いた領域の自己相関関数の最大値と、の差に基づいて求め、当該コントラストに基づいてデフォーカス量を求めることにより、STEM像のノイズの影響を低減でき、デフォーカス量を正確に求めることができる。
【0111】
なお、上記では、第1自己相関関数のコントラストおよび第2自己相関関数のコントラストに基づいてデフォーカスを最適なデフォーカスとする場合について説明したが、例えば、フォーカスを変更してSTEM像を取得し、取得したSTEM像の自己相関関数のコントラストを求める処理を繰り返して、自己相関関数のコントラストが最も高くなる最適なフォーカスを探索してもよい。これにより、デフォーカスを補正することができる。
【0112】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。