(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ただし、特開2008−101643号公報及び特開2010−91043号公報に記載されたいずれの構造も、オイルリザーバや複雑な油圧配管が必要になる。また、特開2008−101643号公報に記載された構造は、レリーズシリンダやレリーズフォークがさらに必要であり、特開2010−91043号公報に記載された構造は、コンセントリックスレーブシリンダがさらに必要である。このため、重量が増加しやすくなるとともに、設置スペースが嵩むといった問題を生じる。また、特開2008−101643号公報及び特開2010−91043号公報に記載されたいずれの構造も、油圧制御を行うため、油漏れの問題を生じる可能性がある。
【0008】
そこで、電動モータを利用してクラッチの制御を電気的に行うことが考えられる。この場合、レリーズ軸受の軸方向位置(ストローク)を把握するために、レリーズ軸受の軸方向位置を直接測定するための位置センサや、レリーズ軸受の軸方向位置を電動モータの回転数から推定するための回転センサを、別途設けることが考えられる。
【0009】
ただし、クラッチ装置を構成するダイヤフラムばねには、ヒステリシスが存在するため、ダイヤフラムばねのたわみ量に影響するレリーズ軸受の軸方向位置と、トランスミッションの入力軸に入力される実トルクとの間には、
図11に示すような関係がある。このため、レリーズ軸受の軸方向位置に関する情報をクラッチの制御に利用した場合には、クラッチの制御を精度良く実行することが難しい場合がある。つまり、クラッチ装置を、クラッチ締結状態と、半クラッチ状態と、クラッチ遮断状態との間で適切に切り替えることが難しい場合がある。さらに、回転センサを利用する場合には、電動モータの体格が大きくなり、電動モータをミッションケース内に収めることが難しい場合がある。
【0010】
また、クラッチの制御を自動で行う車両では、ECU(Electronic Control Unit)により、アクセルペダルの踏み込み量や車速情報などから車両の走行状態や運転者の操作状況を判定し、予め設定したクラッチ締結特性をもとに、レリーズ軸受の軸方向位置を制御し、エンジンの出力制御やエンスト防止制御を行うことが考えられる。ただし、
図11に示したように、レリーズ軸受の軸方向位置からトルクを一義的に求められないため、トルクの推定値にある程度のマージンを加えた値を利用して、エンジンの出力制御やエンスト防止制御を行う必要がある。このため、エンジンの出力制御やエンスト防止制御に関して、十分に精度の高い制御を行うことが難しくなる。
【0011】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたものであり
、クラッチ制御、エンジンの出力制御、又は/及び、エンスト防止制御に関して、精度の高い制御を行える車両制御システムを実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の車両制御システムは、クラッチレリーズ装置と、車両を制御する制御装置とを備える。
前記クラッチレリーズ装置は、電動アクチュエータと、変換機構と、レリーズ軸受、トルクセンサとを備える。
前記電動アクチュエータは、回転する出力軸を有する。
前記変換機構は、前記出力軸の回転運動を並進運動に変換する。
前記レリーズ軸受は、トランスミッション用の入力軸の周囲に前記入力軸の軸方向に関する移動を可能に支持されており、前記変換機構により前記入力軸の軸方向に押圧されて、ダイヤフラムばねを押圧する。
前記トルクセンサは、前記入力軸の周囲に配置され、前記入力軸に入力された実トルクを検出する。
前記クラッチレリーズ装
置は、前記レリーズ軸受の軸方向位置を直接又は間接的に検出するための位置検出手段をさらに備えることができる。
【0013】
本発明の車両制御システム
では
、前記制御装置は、前記トルクセンサの検出信号を利用して、前記レリーズ軸受のストローク制御、又は/及び、エンジンの出力制御を行う。
この場合、前記制御装置は、前記ストローク制御と、前記エンジンの出力制御とを協調して行うこともできる。
さらに、前記制御装置は、前記ストローク制御と、所定の条件を満たした場合に車輪に自動的に制動力を付与する自動ブレーキ制御とを協調して行うこともできる。
【0014】
本発明の車両制御システムは、前記制御装置により、前記トルクセンサの検出信号に基づいて前記トルクセンサの異常の有無を判定することができる。そして、異常がなければ、前記トルクセンサの検出信号を利用して、前記レリーズ軸受のストローク制御を行うが、異常がある場合には、エンジンの回転数と前記入力軸の回転数とを利用して、あるいは、前記位置検出手段の検出値を利用して、前記レリーズ軸受のストローク制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両制御システムによれば、クラッチ制御、エンジンの出力制御、又は/及び、エンスト防止制御に関して、精度の高い制御を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[
参考例]
本発明
に関する参考例について、
図1〜
図4を用いて説明する。
図1は、本発明が適用される車両1の1例を示している。車両1は、クラッチ制御を自動で行う自動クラッチ車両であり、エンジン2と、マニュアルトランスミッション3と、クラッチ装置4と、制御装置に相当するECU(Electronic Control Unit)5と、デファレンシャル6と、ドライブシャフト7と、1対の駆動輪8などを備えている。
【0018】
エンジン2を構成するクランクシャフト9の回転は、クラッチ装置4を介して、マニュアルトランスミッション3の入力軸10に入力され、マニュアルトランスミッション3の出力軸11からデファレンシャル6及びドライブシャフト7などを経て、1対の駆動輪8に伝達される。
【0019】
エンジン2は、たとえばガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関である。エンジン2は、複数の気筒と、燃料噴射装置と、スロットルバルブとを備えている。燃料噴射装置は、ECU5からの制御信号に基づいて、それぞれの気筒に対し、適切なタイミングで適切な量の燃料を噴射したり、燃料の噴射を停止したりする。スロットルバルブは、ECU5からの制御信号に基づいて、それぞれの気筒に供給する空気量を調整する。それぞれの気筒内に供給される燃料と空気の混合気は、ECU5からの制御信号に基づいて作動する点火プラグにより着火され、燃焼する。そして、それぞれの気筒内で混合気が燃焼することで、エンジン2のクランクシャフト9を回転させる。
【0020】
マニュアルトランスミッション3は、変速比の異なる複数のギヤ段を有しており、図示しない変速機用アクチュエータを備えている。変速機用アクチュエータは、ECU5を介して、シフトレバー12に電気的に接続されており、シフトレバー12の操作位置に応じて、マニュアルトランスミッション3のギヤ段を変更する。マニュアルトランスミッション3は、選択されたギヤ段に応じて、クランクシャフト9の回転速度を所望の回転速度に変速し、最終的に1対の駆動輪8に伝達する。
【0021】
クラッチ装置4は、ECU5からの制御信号に基づき、電動式のクラッチレリーズ装置13を作動させることで、クランクシャフト9と入力軸10との間の動力の伝達状態を切り換える。具体的には、クラッチ装置4を、クラッチ締結状態と、半クラッチ状態と、クラッチ遮断状態との間で相互に切り替える。
【0022】
ECU5は、車両全体の制御を行うものであって、クラッチ制御部、エンジン制御部、トランスミッション制御部、ブレーキ制御部などの複数の制御部を備えている。ECU5には、シフトレバー12の操作位置を検出するためのポジションセンサ14のほか、クラッチ装置4を介して入力軸10に入力される実トルクを検出するためのトルクセンサ15、アクセルペダル16の踏み込み量を検出するためのアクセル開度センサ17、ブレーキペダル18の踏み込み量を検出するためのブレーキ開度センサ19、車両1の速度を検出するための車速センサ20、エンジン2の回転数を測定するためのエンジン回転センサ21、車両1の周囲の状況を検知するためのレーダやカメラなどの障害物検出センサ22などが、それぞれ接続されている。
【0023】
特に本
参考例では、トルクセンサ15を電動式のクラッチレリーズ装置13に組み込むことにより、入力軸10に入力される実トルクの検出を可能としている。そして本
参考例では、クラッチレリーズ装置13とECU5とにより車両制御システムを構成し、トルクセンサ15により検出される実トルクを利用して車両1の各種制御を行う。具体的には、ECU5は、実トルク情報を利用して、クラッチ装置4の制御(レリーズ軸受34のストローク制御)及びエンジン2の出力制御をそれぞれ実行する。また、ECU5は、クラッチ装置4の制御とエンジン2の出力制御とを協調して行う(協調制御する)ことで、エンスト防止制御を行う。さらに、ECU5は、クラッチ装置4の制御と自動ブレーキ制御とを協調して行う。
【0024】
ECU5が実トルク情報に基づき実行する各種制御について詳しく説明する前に、
図2〜
図4を参照して、トルクセンサ15が組み込まれたクラッチレリーズ装置13の構造、及び、クラッチ装置4の構造を説明する。
【0025】
本
参考例のクラッチ装置4は、クラッチレリーズ装置13と、フライホイール23と、クラッチディスク(摩擦板)24と、プレッシャプレート25と、ダイヤフラムばね26とを備えており、入力軸10の周囲で、かつ、トランスミッション用のフロントケース27の内側に配置されている。
【0026】
フライホイール23は、例えば鋳鉄などの金属製で、クランクシャフト9の端部に、例えば複数本のボルトなどを用いて結合固定されており、クランクシャフト9と同期して回転する。
【0027】
クラッチディスク24は、図示は省略するが、径方向外側部にエンジントルクが入力される入力部(摩擦部)を有し、径方向内側部に入力軸10にトルクを伝達する出力部を有し、径方向中間部にダンパ部を有している。クラッチディスク24は、径方向外側の入力部を、フライホイール23に対し軸方向に対向させた状態で、径方向内側の出力部を、入力軸10にスプライン嵌合させている。なお、本明細書で、軸方向とは、特に断わらない限り、入力軸10の軸方向をいう。
【0028】
フライホイール23の径方向外側部には、クラッチカバー28が固定されている。クラッチカバー28の内側には、クラッチディスク24をフライホイール23に向けて押圧するためのプレッシャプレート25、及び、プレッシャプレート25をクラッチディスク24に向けて押圧するためのダイヤフラムばね26が、それぞれ配置されている。
【0029】
ダイヤフラムばね26は、クラッチカバー28に対して支持されている。なお、図示のクラッチ装置4は、プッシュ式のクラッチ装置であるため、ダイヤフラムばね26の中央部が軸方向一方側(
図2の左側)に向けて押圧されると、プレッシャプレート25がクラッチディスク24から退避する方向(
図2の右側)に移動し、フライホイール23とクラッチディスク24との接続が断たれる構造を有している。ただし、本発明は、プッシュ式のクラッチ装置に限らず、レリーズ軸受を、ダイヤフラムばねを押圧する力が大きくなる方向に移動させることで、クラッチを接続し、反対に押圧する力が小さくなる方向に移動させることで、クラッチの接続を断つ構成を採用しても良い。
【0030】
クラッチレリーズ装置13は、ECU5からの制御信号に基づき作動し、ダイヤフラムばね26に所定の押圧力を付与するものであり、ハウジング29と、案内筒30と、トルクセンサ15と、変換装置に相当するカム装置31と、電動アクチュエータに相当する電動モータ32と、ウォーム減速機33と、レリーズ軸受34と、付勢ばね35とを備えている。また、クラッチレリーズ装置13は、フロントケース27の内側に配置されており、ダイヤフラムばね26の軸方向他方側(
図2の右側)で、かつ、入力軸10の周囲に設けられている。
【0031】
ハウジング29は、全体が中空筒状に構成されており、円筒部29aと、該円筒部29aの軸方向他方側の端部から径方向内方に伸長した円輪状の底部29bとを備えている。このようなハウジング29は、フロントケース27の側板部27aの内面に底部29bを固定することによって、フロントケース27の内側に支持されている。
【0032】
案内筒30は、ハウジング29よりも小径の中空筒状に構成されており、ハウジング29の底部29bに対して固定されている。案内筒30は、段付円筒状の筒部本体30aと、該筒部本体30aの軸方向他方側の端部に設けられた円輪状の外フランジ30bとを有している。筒部本体30aの内側には、入力軸10が挿通されており、筒部本体30aの内径寸法は、入力軸10の外径寸法よりもわずかに大きい。
【0033】
トルクセンサ15は、入力軸10に入力された実トルクを測定するためのもので、全体が円環状に構成され、入力軸10の周囲に配置されている。また、トルクセンサ15は、ハウジング29を構成する底部29bの内周面に内嵌固定されており、その検出部を、入力軸10の被検出部である外周面に近接対向させている。本
参考例では、トルクセンサ15は、ブリッジ回路を構成する複数のコイル層を備えた磁歪式のトルクセンサであり、入力軸10により伝達しているトルクの大きさ及び方向を、入力軸10に生じる逆磁歪効果を利用して測定する。このため、入力軸10は、被検出部を含む一部又は全部が、磁歪特性を有する材料により造られている。
【0034】
トルクセンサによるトルク検出方式は、磁歪式に限らず、例えば2点間のねじれ位相のずれを検出する位相差式などの各種方式を採用できる。位相差式のトルクセンサを利用する場合には、入力軸10のうち軸方向に離隔した2個所位置に1対のエンコーダを取り付け、かつ、それぞれの検出部をエンコーダの被検出部に対向させるように1対のトルクセンサをハウジングなどに取り付ける。そして、1対のトルクセンサの出力信号の位相差に基づいて入力軸10に入力されるトルクの大きさ及び方向を検出する。また、トルクセンサ15の取付位置に関しても、底部29bの内周面に限定されず、例えば案内筒30を構成する筒部本体30aやその他の部分に対して取り付けることもできる。
【0035】
カム装置31は、電動モータ32のモータ出力軸の回転運動を並進運動に変換するもので、ハウジング29の円筒部29aの内周面と案内筒30の筒部本体30aの外周面との間に配置されており、軸方向他方側に配置された駆動側カム31aと、軸方向一方側に配置された被駆動側カム31bと、これら駆動側カム31aと被駆動側カム31bとの間に配置された複数本のローラ31cと、これら複数本のローラ31cを円周方向等間隔に保持する保持器31dとを有している。
【0036】
駆動側カム31aは、断面クランク形で、径方向外側部の軸方向一方側面(
図2及び
図3の左側面)に、ローラ31cと同数だけ、円周方向に亙る凹凸面である駆動側カム面31a1が形成されている。駆動側カム面31a1は、軸方向に関する高さが円周方向に関して漸次変化している。また、駆動側カム31aは、案内筒30の筒部本体30aの軸方向他方部に対し、相対回転可能に、かつ、軸方向に関して被駆動側カム31bから離れる方向(軸方向他方側)への変位を不能に支持されている。先ず、駆動側カム31aを筒部本体30aの周囲で回転可能とするために、駆動側カム31aの内径寸法を筒部本体30aの軸方向他方側部の外径寸法よりもわずかに大きくしている。なお、駆動側カム31aと筒部本体30aとの間には、滑り軸受や転がり軸受を配置することもできる。また、駆動側カム31aが、筒部本体30aに対し、軸方向に関して被駆動側カム31bから離れる方向に変位することを防止するために、駆動側カム31aと外フランジ30bとの間に、スラストニードル軸受36を設けている。
【0037】
スラストニードル軸受36は、駆動側カム31aの軸方向他方側面に直接形成したスラスト軌道と、外フランジ30bの軸方向一方側に添設されたスラストレース36aに形成されたスラスト軌道との間に、複数本のニードル36bを、円周方向に関して等間隔に、それぞれの中心軸を放射方向に向けた状態で配置することにより構成されている。
【0038】
これに対し、被駆動側カム31bは、略円輪状に構成されており、駆動側カム面31a1に対向する軸方向他方側面に、各ローラ31cと同数だけ、円周方向に亙る凹凸面である被駆動側カム面31b1が形成されている。被駆動側カム面31b1は、軸方向に関する高さが円周方向に関して駆動側カム面とは逆方向に漸次変化している。また、被駆動側カム31bは、筒部本体30aに対し、相対回転不能に、且つ、軸方向に関する相対変位を可能に支持されている。このために本
参考例では、被駆動側カム31bを、円筒状のガイド筒37に対し、圧入や溶接により相対回転不能に外嵌固定している。かつ、ガイド筒37の軸方向他方側部に設けられた内フランジ37aの内周面に形成した雌スプラインを、筒部本体30aの外周面に形成した雄スプラインに対し、スプライン係合させている。
【0039】
複数本のローラ31cは、それぞれ円柱状に構成されている。また、複数本のローラ31cは、ガイド筒37の周囲に円周方向に関して等間隔に配置され、駆動側カム面31a1と被駆動側カム面31b1との間に、それぞれの中心軸を放射方向に向けた状態で挟持されている。
【0040】
本
参考例のカム装置31では、
図4の(A)に示すように、駆動側カム面31a1のうちで軸方向に関する高さが最も低くなった部分と、被駆動側カム面31b1のうちで軸方向に関する高さが最も低くなった部分とを、軸方向に対向させた中立状態(初期状態)から、
図4の(B)に示すように、駆動側カム31aを、被駆動側カム31bに対して所定方向(
図4の左方向)に相対回転させると、ローラ31cが、駆動側カム面31a1及び被駆動側カム面31b1のうちで、軸方向に関する高さの高い側に向けてそれぞれ転動する。この結果、
図4の(B)に示すように、被駆動側カム31bが、軸方向に関して駆動側カム31aから離れる方向(
図4の上側)に並進移動する。また、
図4の(B)に示した状態から、駆動側カム31aを、被駆動側カム31bに対し、前記所定方向とは反対方向(
図4の右方向)に相対回転させた場合、ローラ31cが、駆動側カム面31a1及び被駆動側カム面31b1のうちで、軸方向に関する高さの低い側に向けてそれぞれ転動する。この結果、
図4の(A)に示すように、被駆動側カム31bが、軸方向に関して駆動側カム31aに近づく方向(
図4の下側)に並進移動する。このように、本
参考例のカム装置31は、駆動側カム31aを被駆動側カム31bに対して相対回転させることで、この被駆動側カム31bを軸方向に並進移動させる(駆動側カム31aに対し遠近動させる)ことができる。
【0041】
本
参考例では、カム装置31を構成する駆動側カム31aを、電気的に作動する電動モータ32により回転駆動する。電動モータ32は、例えばサーボモータであり、ECU5からの指令に基づき、所定の方向(両方向または一方向)に所定量(所定角度)だけ回転するように制御されている。また、電動モータ32は、モータ出力軸を入力軸10に対し直交する方向(
図2及び
図3の表裏方向)に配置した状態で、ハウジング29に支持されている。
【0042】
本
参考例では、電動モータ32の回転駆動力を、駆動側カム31aに対し、ウォーム33aとウォームホイール33bとを備えたウォーム減速機33を介して伝達する。このために、ウォーム33aをモータ出力軸に固定し、かつ、ウォームホイール33bを駆動側カム31aに外嵌固定している。このような構成により、電動モータ32の回転駆動力を、ウォーム減速機33により減速して、駆動側カム31aに伝達する。
【0043】
軸方向に並進移動可能とされた被駆動側カム31bは、軸受ガイド38、及び、レリーズ軸受34を介して、ダイヤフラムばね26を軸方向一方側に向けて押圧する。軸受ガイド38は、段付円筒状に構成されており、大径筒部38aと、小径筒部38bと、円輪部38cとを備えている。大径筒部38aは、カム装置31とハウジング29の円筒部29aとの間に配置されている。また、大径筒部38aの外周面には弾性材製のシール部38dが設けられており、該シール部38dを円筒部29aの内周面に対して弾性的に接触させている。小径筒部38bは、案内筒30の筒部本体30aに外嵌されている。小径筒部38bの内周面には弾性材製のシール部38eが設けられており、該シール部38eを筒部本体30aの外周面に対して弾性的に接触させている。これらシール部38d、38eにより、カム装置31が配置された空間にグリースを保持している。また、円輪部38cは、被駆動側カム31bの軸方向一方側に位置しており、被駆動側カム31bによって押圧される。
【0044】
本
参考例では、軸受ガイド38を構成する円輪部38cと、ガイド筒37を構成する内フランジ37aとの間に、コイル状の付勢ばね35を弾性的に圧縮した状態で配置している。これにより、ガイド筒37を軸受ガイド38に対して軸方向他方側に向けて押圧している。そして、ガイド筒37に固定された被駆動側カム31bを軸方向他方側に向けて押圧し、被駆動側カム面31b1とローラ31cと駆動側カム面31a1との間にがたつき(位相ずれ)が生じることを防止できるため、カム装置31の機能を保証できる。また、レリーズ軸受34を、ダイヤフラムばね26に対して常に押し付けることができるため、レリーズ軸受34及びクラッチレリーズ装置13に、衝撃荷重が入力されることを防止することもできる。なお、付勢ばね35による付勢力の大きさは、好ましくは、ダイヤフラムばね26を変形(または移動)させない程度とする。また、本
参考例では、付勢ばね35を、カム装置31の径方向内側に配置しているため、付勢ばね35を設けた場合にも、クラッチレリーズ装置13の軸方向全長が大きくなることを防止できる。また、案内筒30を構成する筒部本体30aの軸方向一方側には、付勢ばね35の弾力により軸受ガイド38が軸方向一方側に脱落することを防止するために、円輪状のストッパ39が固定されている。
【0045】
レリーズ軸受34は、外周面に深溝型の内輪軌道を有する内輪34aと、内周面にアンギュラ型の外輪軌道を有する外輪34bと、これら外輪軌道と内輪軌道との間に保持器34cにより保持された状態で転動自在に設けられた複数個の玉34dとを備えた、玉軸受である。図示の例では、内輪軌道として深溝型のものを、外輪軌道としてアンギュラ型のものを、それぞれ使用している。このため、レリーズ軸受34は、ラジアル荷重の他、スラスト荷重(外輪34bに加わる
図2及び
図3の右向きのスラスト荷重)を支承可能である。このようなレリーズ軸受34のうち、内輪34aは、軸受ガイド38を構成する小径筒部38bに外嵌固定されている。このため、内輪34a(レリーズ軸受34全体)は、案内筒30に対し、相対回転不能に、かつ、軸方向に関する相対変位を可能に支持されている。これに対し、外輪34bは、円輪状の押圧板40を介して、ダイヤフラムばね26の中央部に接触している。このため、外輪34bは、ダイヤフラムばね26と共に回転する。
【0046】
本
参考例では、以上のような構成をする電動式のクラッチレリーズ装置13を使用するため、クラッチ制御の自動化を図れるだけでなく、装置の軽量化及び小型化を図れ、しかも油漏れも防止できる。
すなわち、本
参考例では、電気的に作動する電動モータ32によりカム装置31を駆動することで、レリーズ軸受34を軸方向に並進移動させ、ダイヤフラムばね26を軸方向に押圧し、クラッチの断接を行うことができる。このように本
参考例では、電気的にクラッチの断接制御を行えるため、クラッチ制御の自動化を図ることができる。このため、イージードライブ化を図れるとともに、コースティング走行を積極的に採用することによる低燃費化(燃費向上)を実現することもできる。また、本
参考例では、前述した従来構造で必要であった、オイルリザーバ、複雑な油圧配管、及び、シリンダ(レリーズシリンダ、コンセントリックスレーブシリンダ)などの油圧関連部品を不要にできるとともに、レリーズフォークを不要にできる。したがって、装置全体の軽量化及び小型化を図れる。しかも、本
参考例では、クラッチの断接制御(係脱制御)を、電気的に行え、油を使用しなくて済むため、油漏れの問題が生じることも防止できる。
【0047】
また、電動モータ32の回転駆動力を、ウォーム減速機33を介して、駆動側カム31aに伝達するため、電動モータ32として、出力トルクの小さい小型のものを使用できる。このため、装置全体としての小型化、及び、軽量化を図れる。また、電動モータ32の設置方向に関する自由度を高めることもできるため、設置スペースの小型化(省スペース化)を図ることもできる。なお、本
参考例に使用するウォーム減速機33は可逆性を有しないため、電動モータ32として、両方向に回転可能なものを使用する。ただし、このような構成を採用することで、クラッチ切断状態や半クラッチ状態を、電動モータ32に電気を通電せずに保持することができる。また、ウォーム減速機として、諸元により可逆性を持たせた場合には、電動モータとして一方向にのみ回転可能なものを使用することができる。
【0048】
さらに本
参考例では、ECU5により、トルクセンサ15により検出した入力軸10に入力される実トルク情報に基づき、現在のクラッチ装置4の状態を正確に把握し、目標とする断接状態に調節すべく、電動モータ32を所定の方向に所定量だけ回転させる。すると、電動モータ32の回転駆動力が、ウォーム減速機33を介して、駆動側カム31aに伝達され、駆動側カム31aを、被駆動側カム31bに対し所定方向に所定量だけ相対回転させる。これにより、各ローラ31cが、駆動側カム面31a1と被駆動側カム面31b1との間で転動し、被駆動側カム31bを軸方向に押圧する。このようにして、レリーズ軸受34を所定位置まで軸方向に並進移動させる。本
参考例では、このように、実トルク情報に基づいてレリーズ軸受34のストローク制御を行い、クラッチ装置4を、クラッチ締結状態と、半クラッチ状態と、クラッチ遮断状態との間で相互に切り替える。したがって、レリーズ軸受34の軸方向位置に基づきクラッチ装置4を制御する場合に比べて、クラッチ装置4の制御を精度良く行うことができる。また、本
参考例では、レリーズ軸受34の軸方向位置を検出するための位置センサや回転センサを不要にすることもできるため、コスト低減を図れるとともに、装置全体の小型化及び軽量化を図ることもできる。さらに、ECU5は、実トルク情報からクラッチ装置4の半クラッチ位置を学習することもできる。
【0049】
また、ECU5は、トルクセンサ15により検出した実トルク情報に基づいて、エンジン2の出力制御を行う。具体的には、ECU5は、車速センサ20の出力信号及びアクセル開度センサ17の出力信号などに、実トルク情報を加えて、エンジン2を制御する。つまり、ECU5は、入力軸10に入力されているトルクの大きさを考慮して、エンジン2が備える燃料噴射装置及びスロットルバルブなどを制御し、燃料の噴射量及び燃料噴射のタイミング、気筒内に供給する空気量を調整する。例えば、ECU5は、入力軸10に入力されているトルクが十分に小さい場合に、燃料の噴射量を少なく抑える。このように、本
参考例では、入力軸10に入力される実トルク情報を利用して、エンジン2の出力制御を行うため、トルクの推定値にマージンを加えた値を利用して制御する場合に比べて、精度の高い制御を行うことができる。したがって、エンジン2の燃費を十分に向上させることができる。
【0050】
しかも、ECU5は、上述したクラッチ装置4の制御(レリーズ軸受34のストローク制御)とエンジン2の出力制御とを協調して行い、エンスト防止制御を行う。つまり、ECU5は、クラッチ装置4の制御とエンジン2の出力制御とを、共通の実トルク情報を利用して制御することで、エンジン2の回転数とクラッチ装置4の断接状態とを関連付けて制御し、急激なトルク変動が生じないようにして、エンストの防止を図る。したがって、エンスト防止制御に関しても、精度の高い制御を行うことができる。
【0051】
本
参考例では、車速センサ20の出力信号や障害物検出センサ22の出力信号に基づいて、車両1が障害物に衝突する可能性があると判定した場合に、運転者によるブレーキペダル18の操作がない場合にも、ECU5による制御信号に基づき、図示しないブレーキアクチュエータを作動させて、駆動輪8を含む車輪に自動的に制動力を付与する自動ブレーキ制御を行う。特に本
参考例では、このような自動ブレーキ制御とクラッチ装置4の制御とを協調して行う。具体的には、ECU5は、緊急ブレーキ時又はパニックブレーキ時など、自動ブレーキ制御を実行する際に、レリーズ軸受34のストローク制御を同時に行い、クラッチ装置4をクラッチ遮断状態に切り替える。これにより、エンジン2の駆動力が駆動輪8に伝達されるのを防止できるため、車両1を早期に停止させることが可能になる。
【0052】
[実施の形態の第
1例]
本発明の実施の形態の第
1例について、
図5及び
図6を用いて説明する。本例の特徴は、トルクセンサ15に故障などの異常が発生した場合に、バックアップ制御として、ECU5が、レリーズ軸受34の軸方向位置(ストローク量)に基づいて、レリーズ軸受34のストローク制御を行う点にある。
【0053】
このために、本例では、ハウジング29を構成する円筒部29aの外周面に、例えばホール素子型の位置センサ(ストロークセンサ)41を取り付けるとともに、軸受ガイド38を構成する大径筒部38aの外周面に、永久磁石製で円環状の被検出リング42を外嵌している。そして、位置センサ41により、レリーズ軸受34と一体となって並進移動する軸受ガイド38の軸方向位置を検出するようにしている。また、位置センサ41により検出されるレリーズ軸受34の軸方向位置に関する情報を、ECU5を構成する制御回路5aに入力している。本例では、このような位置センサ41及び被検出リング42が、位置検出手段を構成している。なお、位置センサ41による検出対象は、軸受ガイド38に限らず、レリーズ軸受34でも良いし、ダイヤフラムばね26(の内径側端部)などのレリーズ軸受34と同期して並進移動する部材でも良い。
【0054】
ECU5の制御回路5aは、トルクセンサ15から入力される検出信号を監視し、トルクセンサ15の異常の有無を判定する。具体的には、制御回路5aは、検出値が通常想定できる値を超えた場合や、レリーズ軸受34を並進移動させているにもかかわらず検出値が変化しない場合、検出信号自体が入力されない場合などに、トルクセンサ15に異常があると判定する。このように、異常があると判定された場合には、制御回路5aは、レリーズ軸受34のストローク制御に利用する信号を、トルクセンサ15の検出信号から位置センサ41の検出信号に切り替える。そして、ECU5の駆動回路5bにより、位置センサ41から入力されるレリーズ軸受34の軸方向位置(ストローク量)に基づき、レリーズ軸受34のストローク制御を開始する。具体的には、位置センサ41の検出値から現在のクラッチ装置4の状態を把握し、目標とする断接状態に調節すべく、電動モータ32を所定の方向に所定量だけ回転させて、レリーズ軸受34のストローク制御を行う。
【0055】
以上のような本例によれば、トルクセンサ15が万が一故障した場合にも、位置センサ41の検出信号を利用して、レリーズ軸受34のストローク制御を行うことができるため、トルクセンサ15が故障した場合に、クラッチレリーズ装置13自体の機能が損なわれ、クラッチ装置4の断接制御が行えなくなることを防止できる。その他の構成及び作用効果については、
参考例と同じである。
【0056】
[実施の形態の第
1例の変形例]
実施の形態の第
1例の変形例について、
図7〜
図9を用いて説明する。上述した実施の形態の第
1例では、位置検出手段として、位置センサ41及び被検出リング42を用いて、レリーズ軸受34の軸方向位置を直接検出する構造について説明したが、本変形例では、レリーズ軸受34の軸方向位置を、回転角センサ43の検出値を利用して間接的に求める。
【0057】
具体的には、位置検出手段を構成する回転角センサ43を、クラッチレリーズ装置13の構成各部材のうち、レリーズ軸受34の並進移動時に回転する、電動モータ32(
図7の場合)、ウォームホイール33b(
図8の場合)、駆動側カム31a(
図9の場合)、又は、ウォーム33aなどの回転体に取り付け、該回転体の回転角を算出する。そして、回転角センサ43の検出値とカム装置31(
図2及び
図3参照)のカムリードとを利用して、レリーズ軸受34の軸方向位置を推定する。
【0058】
上述のような変形例の場合には、トルクセンサ15が万が一故障した場合に、回転角センサ43の検出信号を利用して、現在のクラッチ装置4(
図2参照)の状態を把握し、レリーズ軸受34のストローク制御を行うことができる。
【0059】
[実施の形態の第
2例]
本発明の実施の形態の第
2例について、
図10を用いて説明する。本例の特徴は、トルクセンサ15に故障などの異常が発生した場合に、バックアップ制御として、ECU5が、エンジン2(
図1参照)の回転数を測定するためのエンジン回転センサ21の検出信号と、マニュアルトランスミッション3の入力軸10(
図1参照)の回転数を測定するための入力軸回転センサ44の検出信号とを比較することにより、レリーズ軸受34のストローク制御を行う点にある。
【0060】
すなわち、ECU5を構成する制御回路5aは、トルクセンサ15に異常があると判定した場合に、レリーズ軸受34のストローク制御に利用する信号を、トルクセンサ15の検出信号から、エンジン回転センサ21の検出信号及び入力軸回転センサ44の検出信号に切り替える。そして、ECU5を構成する駆動回路5bにより、これらエンジン回転センサ21の検出信号と入力軸回転センサ44の検出信号とから、現在のクラッチ装置4(
図2参照)の状態を把握し、レリーズ軸受34のストローク制御を行う。その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例及び
参考例と同じである。