(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
露光装置などの加工装置において、ワークを保持して移動するステージは、比剛性が高く、かつ密度および熱膨張係数が小さいといった特性を有することが望まれる。これらの条件を満たす材料として、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic:CFRP)がある。CFRPは、例えば以下のようにして作られる。
まず、炭素繊維に樹脂を含浸させ、プリプレグと呼ばれる板状(シート状)の材料を作成する。次に、このプリプレグを、繊維の方向を考慮しつつ、型の中に複数枚積み重ね、真空バッグを使用して気圧を利用しながら加熱し圧着し硬化させることにより成形する。そして、冷却後、成形品を型から取り外す。
【0003】
近年、露光装置などのステージには、エア浮上型の平面ステージが用いられている。エア浮上型の平面ステージでは、滑走面上において、エアの作用により浮上した状態の移動体に対して磁力を印加し、当該移動体と滑走面の凸極との間の磁界を変化させることにより、移動体を滑走面上において水平移動させるようにしている。このような構成を有する平面ステージは、サーフェスモータステージ、ソーヤモータステージなどと称される。
そして、このような平面ステージにおいては、滑走面の面粗さは、例えば10μm以下であることが必要とされている。なぜなら、近年、移動体にはより高い剛性性能が要求されており、その要求を満たすためには、移動時の移動体と滑走面との隙間(エアベアリングギャップ)は、数μm程度に維持される必要が有るためである。
【0004】
しかしながら、CFRP部材は、加工面の面粗さを小さくすることができない。具体的には、CFRP部材は、算術平均粗さRaで10μm〜20μm程度の精度でしか加工することができない。その理由は、炭素繊維と樹脂とでは、それぞれの剛性の違いにより、研削条件が異なるためと考えられている。そのため、CFRP部材は、単独では露光装置などのステージの滑走面として使用することができない。
特許文献1には、露光装置の基板ステージ(ワーク吸着ベース)が、CFRP部材の表面にセラミックス部材を接合し、セラミックス部材を研削や研磨等により加工して得られる構造体を含む点が開示されている。特許文献1では、CFRP部材とセラミックス部材とを接合するために、未硬化のプリプレグの接着力を使用している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の技術にあっては、CFRP部材の表面に未硬化のプリプレグを配置し、未硬化のプリプレグの上にセラミック部材を配置した積層体を120℃程度で加熱することで、セラミックス部材とCFRP部材との接合体を得るようにしている。
しかしながら、CFRPの熱膨張率とセラミックスの熱膨張率とは異なる。そのため、上記のように加熱処理した後、温度を下げると、CFRP部材に貼り付けられたセラミックス部材に残留応力が生じる。セラミックス部材に残留応力があると、セラミックス部材の表面を、平面精度を上げるために研削加工をした場合、セラミックス部材が薄くなるにつれて応力のバランスが崩れ、セラミックス部材が変形してしまうおそれがある。
【0007】
また、上記の熱膨張率の違いにより、セラミックス部材とCFRP部材との接合体においては、経時的な温度変化に繰り返しさらされるうちに、やがて接合面での変形や、場合によっては破損が生じるおそれがある。さらに、上記のようにセラミックス部材とCFRP部材との接合体を製造するためには、CFRP部材を製造する工程の途中に、新たにセラミックス部材を接合する工程を追加しなければならず、生産性が低い。
そこで、本発明は、面粗さが小さく、残留応力や温度変化等に起因する変形が抑制された炭素繊維強化プラスチック構造体、および当該構造体を使用した加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る炭素繊維強化プラスチック構造体の一態様は、炭素繊維強化プラスチック部材と、前記炭素繊維強化プラスチック部材の第一面上に形成された樹脂層と、
前記炭素繊維強化プラスチック部材の前記第一面上の一部に配置された、前記炭素繊維強化プラスチック部材および前記樹脂層とは異なる材質の第三の部材と、を備え、前記樹脂層における前記第一面に対向する面とは反対の面の
算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzが、
ともに10μm以下であり、前記炭素繊維強化プラスチック部材の前記第一面の
算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzよりも小さ
く、前記樹脂層は、前記第三の部材における前記第一面に対向する面とは反対の面が露出するように、前記第一面上に形成されている。
このような炭素繊維強化プラスチック構造体は、比剛性が高く、密度および熱膨張係数が小さいといった炭素繊維強化プラスチックの特性を有し、かつ良好な面粗度(小さい面粗さ)が実現された構造体とすることができる。また、炭素繊維強化プラスチックを構成するプリプレグは樹脂の成分を有する。炭素繊維強化プラスチック部材の第一面上に形成される層は、炭素繊維強化プラスチックとの間の熱膨張率の違いが少なく、接着親和性の高い同種類の樹脂の層であるため、残留応力を小さくすることができ、経時的な温度変化等に起因する変形が発生しにくい。さらに、炭素繊維強化プラスチック構造体は、完成された炭素繊維強化プラスチックからなる炭素繊維強化プラスチック部材と樹脂層との積層体とすることができるので、複雑な製造工程が不要であり、生産性が高い。
また、炭素繊維強化プラスチック部材の第一面に、樹脂とも炭素繊維強化プラスチックとも異なる材質の第三の部材を設ける。したがって、炭素繊維強化プラスチック構造体は、さまざまな用途に応じた機能部品とすることができる。また、第三の部材は、炭素繊維強化プラスチック構造体の表面から露出し、樹脂層により覆われていない。そのため、第三の部材の表面に、光学研磨や微細加工といった表面加工を直接施すことが可能となる。さらに、炭素繊維強化プラスチック構造体が使用される部材に相手部材を対向配置させる場合、相手部材を、樹脂層を介在させずに第三の部材に対向配置させることができ、両者の距離を近づけることが可能となる。
【0009】
さらに、前記の炭素繊維強化プラスチック構造体において、前記第三の部材は、金属部材であってもよい。つまり、炭素繊維強化プラスチック部材の第一面に、鉄、アルミ、銅、真鍮、燐青銅、SUS(ステンレス)などの金属部材を設けることができる。金属部材の材質は、炭素繊維強化プラスチック構造体を使用する部材(部品)の用途に応じて適宜選択可能である。
さらにまた、前記金属部材は、前記第一面上の一方向において等間隔に配置されており、前記樹脂層は、少なくとも前記金属部材の間隙に形成されていてもよい。この場合、炭素繊維強化プラスチック構造体の表面に、磁性体の領域と非磁性体の領域とを設けることができる。このような炭素繊維強化プラスチック構造体は、エア浮上型の平面モータの滑走面として使用することができる。この場合、良好な面粗度を有する滑走面を実現することができる。したがって、滑走面に対してエア浮上させる移動体とのエアギャップを、小さく設定することができる平面ステージを実現することができる。
また、本発明に係る炭素繊維強化プラスチック構造体の一態様は、炭素繊維強化プラスチック部材と、前記炭素繊維強化プラスチック部材の第一面上に形成された樹脂層と、前記炭素繊維強化プラスチック部材の前記第一面上の一部に、前記第一面上の第一の方向において等間隔に配置された金属部材と、を備え、前記樹脂層における前記第一面に対向する面とは反対の面の算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzが、ともに10μm以下であり、前記炭素繊維強化プラスチック部材の前記第一面の算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzよりも小さく、前記樹脂層は、前記金属部材における前記第一面に対向する面とは反対の面全体を覆っており、少なくとも前記金属部材の間隙に形成されている。
さらに、本発明に係る炭素繊維強化プラスチック構造体の一態様は、炭素繊維強化プラスチック部材と、前記炭素繊維強化プラスチック部材の第一面上に形成された樹脂層と、前記炭素繊維強化プラスチック部材の前記第一面上の一部に配置された、ガラスまたは石英からなる第三の部材と、を備え、前記樹脂層における前記第一面に対向する面とは反対の面の算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzが、ともに10μm以下であり、前記炭素繊維強化プラスチック部材の前記第一面の算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzよりも小さく、前記樹脂層は、前記第三の部材における前記第一面に対向する面とは反対の面全体を覆っている。
このように、炭素繊維強化プラスチック部材の第一面に、樹脂とも炭素繊維強化プラスチックとも異なる材質の第三の部材を設ける。したがって、炭素繊維強化プラスチック構造体は、さまざまな用途に応じた機能部品とすることができる。また、第三の部材は、例えば樹脂層によりモールドされることで炭素繊維強化プラスチック部材の第一面に固定することができる。この場合、研削加工等の表面加工の対象は、第三の部材をモールドしている樹脂層の樹脂部分とすることができる。したがって、第三の部材に残留応力が生じている場合であっても、第三の部材に対しては上記加工が施されず、変形が生じることはない。
さらに、上記の炭素繊維強化プラスチック構造体において、前記樹脂層は、常温硬化型の樹脂により構成されていてもよい。この場合、加熱処理により発生する残留応力が抑制された樹脂層とすることができる。したがって、研削加工等の表面加工によって樹脂層に変形が生じることを抑制することができる。
また、前記常温硬化型の樹脂は、エポキシ樹脂であってもよい。エポキシ樹脂は、一般的な樹脂であり安価である。そのため、樹脂層にエポキシ樹脂を用いることで、比較的安価な炭素繊維強化プラスチック構造体とすることができる。
【0013】
また、本発明に係る炭素繊維強化プラスチック構造体の製造方法の一態様は、炭素繊維強化プラスチック部材の第一面上に樹脂層を形成する工程と、
前記炭素繊維強化プラスチック部材の前記第一面上に、前記炭素繊維強化プラスチック部材および前記樹脂層とは異なる材質の第三の部材を配置する工程と、前記樹脂層における前記第一面に対向する面とは反対の面を、
算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzがともに10μm以下であり、前記炭素繊維強化プラスチック部材の前記第一面の
算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzよりも小さくなるよう研削加工する工程と、を含
み、前記樹脂層を形成する工程は、前記第三の部材が配置された前記炭素繊維強化プラスチック部材の前記第一面上および前記第三の部材上に、前記樹脂層を形成する。
これにより、比剛性が高く、密度および熱膨張係数が小さいといった炭素繊維強化プラスチックの特性を有し、かつ良好な面粗度が実現された構造体を製造することができる。また、炭素繊維強化プラスチック部材の第一面上に、炭素繊維強化プラスチックとの熱膨張率の違いが少ない樹脂層を形成するので、残留応力が小さく経時的な温度変化等に起因する変形が発生しにくい構造体とすることができる。さらに、完成された炭素繊維強化プラスチックからなる炭素繊維強化プラスチック部材の第一面上に樹脂層を積層すればよいため、複雑な製造工程が不要であり、生産性が高い。
また、炭素繊維強化プラスチック部材の第一面に、樹脂とも炭素繊維強化プラスチックとも異なる材質の第三の部材が設けられた構造体を製造することができる。すなわち、さまざまな用途に応じた機能部品を構成する構造体を製造することができる。
【0015】
また、本発明に係る加工装置の一態様は、ワークを保持して移動するワークステージを有し、前記ワークステージに保持されたワークを加工する加工装置であって、前記ワークステージは、上記のいずれかの炭素繊維強化プラスチック構造体を含む。
このように、ワークステージに炭素繊維強化プラスチック構造体を使用することで、外的要因や温度変化による変形が少なく軽量化されたワークステージとすることができる。また、ワークステージは、例えばワークを保持する面や、エア浮上型の平面ステージにおいて相手部材に対向する面など、良好な面粗度を要する面を備える。したがって、このような面に上記の炭素繊維強化プラスチック構造体を使用することで、理想的なワークステージを備える加工装置とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、面粗さが小さく、残留応力や温度変化等に起因する変形が抑制された炭素繊維強化プラスチック構造体を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第一の実施形態)
図1は、第一の実施形態の炭素繊維強化プラスチック構造体(CFRP構造体)10の概略構成を示す斜視図である。また、
図2は、
図1におけるCFRP構造体10のA−A断面図である。
CFRP構造体10は、炭素繊維強化プラスチック部材(CFRP部材)11と、CFRP部材11上に形成された樹脂層12と、を備える。
CFRP部材11は、
図2に示すように、複数のプリプレグ11aが積層されて構成されている。プリプレグ11aは、炭素繊維に、繊維の方向性を持たせたまま樹脂を含浸させたシート状の部材である。プリプレグ11aを構成する樹脂は、例えば熱硬化性のエポキシ樹脂である。なお、プリプレグ11aを構成する樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、フェノール、シアネートエステル、ポリイミド等の熱硬化性樹脂を用いることもできる。
【0019】
CFRPは、型の中に、複数のプリプレグを繊維の方向が異なるように、必要数層(例えば二十層)積層し、減圧下で120℃〜130℃程度に加熱し、加圧(圧着)して硬化させることで成形される。ここで、プリプレグを、繊維の方向が異なるように重ね合わせるのは、プリプレグの面内方向の強度を等方的に強化させるためである。
なお、プリプレグとしては、安価にストックできる基準寸法の標準品(例えば、5mmのUD(UNI−DIRECTION)材)を使用することができる。なお、UD材とは繊維の方向が一方向にのみ延びている材料のことである。
このようにして製作されたCFRPは、鉄やアルミなどの金属材料よりも低密度(即ち軽い)でありながら、高強度な材料となる。CFRP部材11は、上記の完成されたCFRPを所望の大きさに切り出した部材である。
【0020】
樹脂層12は、CFRP部材11の表面(第一面)11bに一様に形成されている。この樹脂層12の表面12a(表面11bに対向する面とは反対の面)の面粗さは、CFRP部材11の表面11bの面粗さよりも小さい。ここで、面粗さとは、表面粗さを示すパラメータである算術平均粗さRa、もしくは最大高さ粗さRzである。
樹脂層12は、CFRP部材11の表面11bに一様に樹脂(液体)が塗布され、硬化された後、硬化された樹脂の表面12aがCFRP11の表面11bよりも細かい面粗さとなるように研削加工されることにより形成される。樹脂層12の表面12aの面粗さは、例えば、算術平均粗さRa、最大高さ粗さRzがともに10μm以下である。
樹脂層12は、例えば、常温硬化型樹脂により構成することができる。本実施形態では、樹脂層12は、常温硬化型のエポキシ樹脂により構成されている場合について説明する。ただし、樹脂層12を構成する樹脂の種類は、上記に限定されない。
【0021】
以下、本実施形態におけるCFRP構造体10の製造方法の一例について説明する。
まず、完成しているCFRPを必要な大きさだけ切り出し、CFRP部材11を準備する。
次に、CFRP部材11の表面11bに液状の常温硬化型樹脂を塗布し、加熱せずに常温で硬化させる。このとき、樹脂層に気泡が混入しないように、例えば、容器の中にCFRP部材11を配置し、CFRP部材11の表面11bと容器との間隙に真空引きをしながら液状の樹脂を充填し、その後、大気解放するようにする。硬化後の樹脂層12の厚さは、上記間隙や液状の樹脂の粘度等によって決まる。本実施形態では、研削加工前の硬化後の樹脂層12の厚さは、例えば100μm程度である。
最後に、硬化後の樹脂層12の表面12aを研削加工する。このとき、例えば、厚さ100μmの樹脂層12を、厚さ50μmまで研削し、樹脂層12の表面12aの面粗さを10μm以下とする。
このようにして、CFRP構造体10が製造される。
【0022】
上述したように、CFRPは、炭素繊維に樹脂を含浸させたプリプレグの積層体であり、炭素繊維と樹脂とは、それぞれの剛性の違いにより、加工されやすさが異なる。つまり、炭素繊維と樹脂とでは、それぞれ適切な研削条件が異なる。そのため、CFRPの表面は、研削加工により面粗さを使用している炭素繊維に対して十分に小さくすることができない。具体的には、算術平均粗さRaで10μm〜20μm程度の精度でしか加工することができない。
そこで、上記の対応策として、プリプレグを成形して圧着硬化させる際に用いる型の、プリプレグと接する面の面粗さを小さくすることにより、成形後のCFRPの面粗さを小さくすることが考えられる。しかしながら、この場合、以下のような問題がある。
【0023】
CFRPの成形に際し、プリプレグは、加熱されて硬化させるため、硬化後、温度が下がったプリプレグには残留応力が生じ、型から取り外した後のCFRPに、うねりや曲り(湾曲)が生じることがある。そのため、CFRPの成形に用いる型の面粗さを小さくした場合、型から取り外したCFRP表面の算術平均粗さRaは小さくすることができても、最大高さ粗さRzを小さくすることは難しい。特に、CFRPを用いて大型で平たい部材を作りたい場合、うねりや曲り(湾曲)の大きさが、許容される数値範囲を上回ってしまうことが多い。例えば、算術平均粗さRaは2μm程度に抑えることができるにもかかわらず、最大高さ粗さRzは20μmを超えてしまうような場合もある。
【0024】
上記のうねりや曲り(湾曲)を許容範囲に修正するためには、CFRP表面を加工せざるを得ない。しかしながら、CFRPの表面に対して研削加工を行うと、上述した炭素繊維と樹脂との剛性の違いに起因して、今度は算術平均粗さRaが10μm以上となってしまう。すなわち、CFRPを加工して炭素繊維と樹脂との界面が表面に露出する場合、その面粗さが悪化する。
このように、CFRPの表面の算術平均粗さRaと最大高さ粗さRzとを、ともに10μm以下とすることは困難であった。
【0025】
そこで、本実施形態では、CFRPを成形する際に用いる型の面粗さを小さくしたり、CFRP自体に対して研削加工を行ったりするのではなく、通常の工程により製作されたCFRPの表面に加工しやすい犠牲層を形成し、当該犠牲層を研削加工することで良好な面粗度を有するCFRP構造体10を得るようにする。
本実施形態におけるCFRP構造体10は、CFRP部材11と、CFRP部材11の表面11b上に形成された樹脂層12と、を備え、樹脂層12の表面12aの面粗さがCFRP部材11の表面11bの面粗さよりも小さい構成を有する。つまり、樹脂層12が上記犠牲層として機能する。これにより、表面の面粗さが10μm以下の良好な面粗度を有するCFRP構造体10とすることができる。
このCFRP構造体10は、CFRPを含むため、比剛性が高く、密度および熱膨張係数が低いといった特性を有する。つまり、CFRP構造体10は、外的要因による寸法変形が少なく、軽量であり、さらに温度変化による寸法変形も少ない。
【0026】
このように、本実施形態におけるCFRP構造体10は、通常の工程により製作されたCFRPを必要な大きさだけ切り出したCFRP部材11に対して、その表面に樹脂を塗布し、硬化させて形成された樹脂層12の表面を研削加工することで製造される。したがって、CFRPを製造する工程の途中に、新たな工程を追加する必要がなく、生産性が高い。
また、良好な面粗度を得るために研削加工する犠牲層として、樹脂層12を用いる。CFRP部材11を構成するプリプレグは樹脂成分を有するため、CFRP部材11と樹脂層12との接触面における両者の熱膨張率の違いは少なく、接合の親和性も高い。そのため、残留応力が小さく、CFRP構造体10が経時的な温度変化に繰り返しさらされても、上記接触面での変形が生じる可能性は少ない。
【0027】
さらに、樹脂層12を構成する樹脂は、常温硬化型樹脂とすることができる。常温硬化型樹脂は、硬化時に加熱を必要としないので、形成後の樹脂層12の内部に加熱に起因した残留応力が生じない。CFRP部材11の表面に形成された犠牲層に残留応力があると、研削加工した際に、当該犠牲層が薄くなる分、応力のバランスが崩れ、犠牲層が変形してしまう可能性がある。本実施形態のように、犠牲層として、常温硬化型樹脂により構成される樹脂層12を用いることで、上記のような変形が生じることを適切に抑制することができる。
【0028】
また、常温硬化型樹脂は、常温硬化型のエポキシ樹脂とすることができる。この場合、CFRPを構成する樹脂と同じ成分の樹脂層12とすることもでき、CFRP部材11と樹脂層12との熱膨張率をより近くすることができる。したがって、経時的な温度変化に繰り返しさらされた場合であっても変形が生じにくい。さらに、エポキシ樹脂は、一般的な樹脂であり、比較的安価であるため、CFRP構造体10を低コストで提供することができる。
【0029】
また、本実施形態におけるCFRP構造体10は、加工装置に使用することができる。加工装置としては、例えば、基板を保持して移動するステージ(ワークステージ)を有し、当該ステージに保持された基板を露光する露光装置がある。
例えば、ステップアンドリピート方式の露光装置のステージでは、基板を保持する面や、ステージの位置を計測するためのレーザ干渉計からの光を反射するミラー等において、良好な面粗度が求められる。また、このようなステージでは、外的要因による寸法変形が少ないこと、軽量で高速移動が可能であること、慣性力が低く、急停止させることができ、高精度の位置決めが短時間で可能であること、温度変化による寸法変形が少ないことが求められる。本実施形態におけるCFRP構造体10を上記のステージに使用することで、これらの要求を適切に満たすことができる。
【0030】
なお、本実施形態においては、CFRP部材11の一面にのみ樹脂層12が形成されている場合について説明したが、CFRP部材11の複数の面(表面11bとは反対の面や側面)にそれぞれ樹脂層12が形成されていてもよい。
また、本実施形態においては、樹脂層12の表面12aが平らである場合について説明したが、樹脂層12の表面12aには溝が形成されていてもよい。さらに、樹脂層12は、CFRP部材11の一面に複数形成されていてもよい。
【0031】
(第二の実施形態)
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。
上述した第一の実施形態では、CFRP構造体は、CFRP部材と樹脂層とを備える場合について説明した。第二の実施形態では、CFRP構造体が、CFRP部材と、樹脂層と、CFRPおよび樹脂とは異なる第三の部材と、を備える場合について説明する。
図3は、第二の実施形態のCFRP構造体10Aの概略構成を示す斜視図である。また、
図4は、
図3におけるCFRP構造体10AのB−B断面図である。
CFRP構造体10Aは、CFRP部材11と、CFRP部材11上に設けられた第三の部材である金属部材(金属板)13と、CFRP部材11上に金属板13を覆うように設けられた樹脂層12と、を備える。
【0032】
このように、本実施形態では、CFRP構造体10Aは、CFRP部材11の表面11bに金属板13が配置され、金属板13が樹脂層12によってモールドされた構成を有する。ここで、金属板13は、
図4に示すように、接着剤14によってCFRP部材11の表面11bに固定されている。また、上述した第一の実施形態と同様に、樹脂層12の表面12aの面粗さは、CFRP部材11の表面11bの面粗さよりも小さく、例えば10μm以下である。
金属板13は、
図3に示すように、碁盤目状に配された複数の開口13aを有する。つまり、金属板13は、格子状の金属13bからなる。また、
図4に示すように、金属板13の開口13a内には、樹脂層12の樹脂が入り込んでいる。本実施形態では、金属板13の材質が鉄である場合について説明する。
【0033】
本実施形態におけるCFRP構造体10Aは、エア浮上型の平面ステージ(サーフェスモータステージ)を備える露光装置に使用することができる。
図5は、本実施形態におけるCFRP構造体10Aを使用する露光装置100の概略構成を示す図である。
露光装置100は、ワークWを露光する投影露光装置である。ここで、ワークWは、シリコンワーク、プリント基板または液晶パネル用のガラス基板等であり、ワークWの表面にはレジスト膜が塗布されている。
【0034】
露光装置100は、光照射部21と、マスク22と、マスク22を保持するマスクステージ22aと、投影レンズ23と、ワークステージ24と、を備える。
光照射部21は、紫外線を含む光を放射する露光用光源であるランプ21aと、ランプ21aからの光を反射するミラー21bとを有する。ランプ21aおよびミラー21bは、ランプハウス21cに収容されている。なお、ここでは光照射部21の光源がランプ21aである場合について説明するが、光源は、LEDやレーザなどであってもよい。
マスク22には、ワークWに露光(転写)される回路パターンなどのパターンが形成されている。マスク22は、マスクステージ22aによって水平状態を保って保持されている。光照射部21からの露光光は、マスク22と投影レンズ23とを介して、ワークステージ24上のワークWに照射され、マスク22に形成されたパターンが、ワークW上に投影され露光される。
【0035】
ワークステージ24は、エア浮上型の平面ステージである。
エア浮上型の平面ステージは、水平面を形成する滑走面と、この滑走面上を水平方向(XY方向)に移動可能な移動体と、を備える。この平面ステージは、XY軸に沿って碁盤目状に強磁性体の凸極が設けられた滑走面上に、移動体をエアにより浮上させ、移動体に磁力を印加して、移動体と滑走面の凸極との間の磁力を変化させることにより、移動体を滑走面上においてXY方向に移動するよう構成されている。
つまり、滑走面は、平面モータの固定子を構成し、移動体は、平面モータの移動子(可動子)を備える。ここで、平面モータとは、複数の1次元モータが同一平面上に配置されることで、当該平面上における2次元的な動作を可能とするものをいう。
【0036】
本実施形態では、CFRP構造体10Aにおける樹脂層12の表面12aを、上記滑走面として用いる場合について説明する。つまり、ワークステージ24は、CFRP構造体10Aを含んで構成される滑走面と、ワークWを保持し、滑走面となるCFRP構造体10Aの表面12a上を移動する移動体25と、を備える。ここで、樹脂層12の表面12aの面粗さは、例えば5μmである。
滑走面は、XY軸に沿って碁盤目状に設けられた強磁性体の凸極と、凸極と凸極との間に設けられた非磁性体とを有する。つまり、滑走面は、X方向およびY方向において、それぞれ強磁性体の領域と非磁性体の領域とが交互に形成された構造を有する。本実施形態では、CFRP構造体10Aが有する金属13bの領域が強磁性体の領域となり、金属板13の開口13aの領域が非磁性体の領域となる。金属13bの領域は、X方向およびY方向において、それぞれ等間隔に配置されている。
【0037】
移動体25の裏面(滑走面側)には、磁力が印加されるモータコア(図示せず)が設けられている。そして、このモータコアにおける滑走面と対向する面には、XY方向に移動磁界を発生するための磁極25aが設けられている。
ワークWは、移動体25の表面(投影レンズ23側の面)に保持されており、移動体25が滑走面上を移動することにより、ワークWが移動し、ワークWの所望の領域にマスク22のパターンが露光される。つまり、金属板13の開口13aおよび金属13bのX方向およびY方向の幅は、それぞれ磁極25aのピッチに応じた幅に設定されている。
【0038】
以下、本実施形態におけるCFRP構造体10Aの製造方法について、
図6を参照しながら説明する。
まず、完成しているCFRPを必要な大きさだけ切り出し、CFRP部材11を準備する。そして、
図6(a)に示すように、CFRP部材11の表面11bに、接着剤14を塗布し、接着剤14の上に複数の開口13aが形成された金属板13を載置する(
図6(a)の白矢印)。このように、金属板13を、接着剤14によりCFRP部材11の表面11bに固定する。なお、金属板13の固定方法は上記に限定されるものではなく、接着剤14以外の方法により金属板13をCFRP部材11の表面11bに固定してもよい。
【0039】
次に、
図6(b)に示すように、CFRP部材11の表面11bに、金属板13全体を覆うように樹脂層12を形成する。樹脂層12の形成方法は、上述した第一の実施形態と同様である。このとき、金属板13の開口13aの部分にも樹脂が入り込む。開口13aの部分は、下地がCFRP部材11であり、樹脂が埋められることで非磁性体の領域となる。
なお、金属板13に開口13aを形成する場合は、一般にパンチング加工が行われるが、パンチング加工により多数の開口13aを形成すると、金属板13には曲りや反りが生じる。しかしながら、本実施形態のように、金属板13を接着剤14によりCFRP部材11に固定し、樹脂層12によりモールドすることにより、上記の曲りや反りの影響を抑制することができる。
【0040】
次に、
図6(c)に示すように、樹脂層12の表面12aを研削し、表面12aの面粗さを所望の面粗さとする。
図6(c)に示す状態は、CFRP部材11の表面11bに金属板13が配置され、金属板13の全面を樹脂層12が覆っている状態であり、CFRP構造体10Aの表面に金属板13が露出していない状態である。
なお、さらに樹脂層12の表面12aの研削を進め、
図7に示すように、金属板13上の樹脂層12を全て削り取ってもよい。その際、さらに金属板13自体を研削してもよい。
図7に示す状態は、CFRP部材11の表面11bに金属板13が配置され、樹脂層12が金属板13の一部(側面)を覆っている状態であり、CFRP構造体10Aの表面に金属板13が露出している状態である。
【0041】
移動体25の推力である磁力の強さは、移動体25が備えるモータコアと滑走面が備える強磁性体(金属13b)との距離に依存し、両者が近ければ近いほど強い推力が得られる。したがって、
図6(c)において、金属板13の表面(表面11bに対向する面とは反対の面)を覆う樹脂層12は、薄ければ薄いほどよい。また、
図7に示すように、金属板13の表面を覆う樹脂層12が全て削り取られている方がより好ましい。
ところで、
図7に示すように、CFRP構造体10Aの表面に金属板13が露出する場合、金属板13の開口13aに樹脂が入り込んでいないと、表面を適切に研削加工することができない。そのため、上述したように、開口13aを有する金属板13全体を樹脂層12によってモールドし、開口13aに樹脂を入り込ませてから、金属板13上の樹脂層12および金属板13の研削加工を行うことが好ましい。
【0042】
以上のように、本実施形態では、CFRP部材11の表面11bに金属板13を配置し、金属板13を覆うように樹脂層12を形成する。
これにより、金属などの、樹脂ともCFRPとも異なる材質からなる第三の部材を含むCFRP構造体10Aを実現することができる。このとき、第三の部材を樹脂により完全にモールドすることで、第三の部材に残留応力が生じていたとしても、研削加工されるのは、モールドした樹脂の部分となり、第三の部材に変形が生じることはない。
また、第三の部材上の樹脂を全て削り取り、第三の部材の表面を研削加工するようにしてもよい。この場合、第三の部材に対して光学研磨や微細加工などの表面加工を直接施すことができ、さまざまな用途に応じた機能部品とすることが可能となる。
【0043】
また、金属板13として複数の開口13aが碁盤目状に配された格子状の金属13bを用いるので、当該金属板13を備えるCFRP構造体10は、エア浮上型の平面ステージの滑走面として使用することができる。この場合、高剛性で外的要因による寸法変形がしにくく、軽量化されており、温度変化による変形が少なく、良好な面粗度を有する平面ステージを実現することができる。
【0044】
(変形例)
なお、第二の実施形態では、金属板13は、複数の開口13aを有する場合について説明したが、開口13aは形成されていなくてもよい。また、金属板13は、CFRP部材11の表面11bに複数配置されていてもよい。例えば、XY方向のいずれか一方向のみに移動体が移動するエア浮上型の平面ステージの場合、滑走面には、XY方向のいずれか一方向において等間隔に強磁性体の領域(金属の領域)が形成されていればよい。そのため、この場合には、CFRP部材11の表面11bには、ライン状の金属板13が等間隔に配置されていればよい。
【0045】
さらに、第二の実施形態では、金属板13の材質が鉄である場合について説明したが、金属板13の材質はこれに限定されない。金属板13の材質は、CFRP構造体が用いられる部材の用途に応じて適宜選択可能である。金属板13の材質としては、例えば、アルミ、銅、真鍮、燐青銅、SUS(ステンレス)などを用いることもできる。例えば、CFRP構造体の表面が平面ステージの滑走面となる場合には、上述したように、金属板13には鉄(純鉄)を用いるが、CFRP構造体の表面がレーザ干渉計のミラーとなる場合には、金属板13にはアルミを用いてもよい。
【0046】
さらに、第二の実施形態では、CFRP部材11の表面11b上に配置する第三の部材が金属部材である場合について説明したが、第三の部材は金属部材に限定されない。例えば、第三の部材は、ガラスや石英であってもよい。第三の部材がガラスである場合、CFRP構造体の表面をレーザ干渉計のミラーとして使用することができる。また、第三の部材が石英である場合、グレーティングを施すことで、回折格子として使用することができる。
【0047】
上記各実施形態においては、樹脂層12を構成する樹脂が常温硬化型樹脂である場合について説明したが、当該樹脂は、熱硬化型の樹脂でなければよく、例えばUV(紫外線)硬化型の樹脂であってもよい。この場合、完成しているCFRPを必要な大きさだけ切り出したCFRP部材11の表面11bに、UV硬化型の液状の樹脂を塗布し、紫外線を照射して樹脂を硬化させることで、CFRP部材11の表面11bに樹脂層を形成する。
【0048】
また、上記各実施形態においては、CFRP構造体を露光装置のステージに使用する場合ついて説明したが、これに限定されない。CFRP構造体は、例えば、基板を保持したステージを移動させながら、レーザを基板に照射してビアホールを形成するレーザ加工装置のステージにも使用することができる。さらに、CFRP構造体は、ウエハ欠陥検査装置や部品実装装置などの加工装置のステージにも使用することができる。