(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6915540
(24)【登録日】2021年7月19日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】リスペリドンを含有するマイクロカプセル、その製造方法および放出制御方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20210727BHJP
A61K 9/50 20060101ALI20210727BHJP
A61K 9/52 20060101ALI20210727BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20210727BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20210727BHJP
C07D 471/04 20060101ALN20210727BHJP
【FI】
A61K31/519
A61K9/50
A61K9/52
A61P25/18
A61K47/34
!C07D471/04 117A
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-539176(P2017-539176)
(86)(22)【出願日】2016年9月6日
(86)【国際出願番号】JP2016076198
(87)【国際公開番号】WO2017043494
(87)【国際公開日】20170316
【審査請求日】2019年7月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-175572(P2015-175572)
(32)【優先日】2015年9月7日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小坂 尚也
(72)【発明者】
【氏名】宮永 直幸
(72)【発明者】
【氏名】初鹿 稔
【審査官】
渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】
特表2003−534268(JP,A)
【文献】
SU, Zhengxing et al.,Effects of Formulation Parameters on Encapsulation Efficiency and Release Behavior of Risperidone Poly(D,L-lactide-co-glycolide) Microsphere,Chem. Pharm. Bull.,2009年,Vol. 57, No. 11,pp. 1251-1256
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 47/00
A61K 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリマーおよびリスペリドンを含むマイクロカプセルの製造方法であって、
(A)それぞれ別々に調製された生分解性ポリマー溶液とリスペリドン溶液とをスタティックミキサーを用いて混合して第1の相を調製する工程であって、生分解性ポリマーの出発分子量(Mw)が50000以上かつ100000未満である工程、
(B)前記第1の相をその調製から連続的に水相である第2の相と混合してエマルジョンを調製する工程、および
(C)得られたエマルジョンを水中乾燥する工程
を含み、マイクロカプセル中の生分解性ポリマーの分子量(Mw)が、該生分解性ポリマーの出発分子量(Mw)の85%以上の分子量(Mw)である製造方法。
【請求項2】
生分解性ポリマーおよびリスペリドンを含むマイクロカプセルからのリスペリドンの放出制御方法であって、
(A)それぞれ別々に調製された生分解性ポリマー溶液とリスペリドン溶液とをスタティックミキサーを用いて混合して第1の相を調製する工程であって、生分解性ポリマーの出発分子量(Mw)が50000以上かつ100000未満である工程、
(B)前記第1の相をその調製から連続的に水相である第2の相と混合してエマルジョンを調製する工程、および
(C)得られたエマルジョンを水中乾燥する工程
を含み、マイクロカプセル中の生分解性ポリマーの分子量(Mw)が、該生分解性ポリマーの出発分子量(Mw)の85%以上の分子量(Mw)である放出制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リスペリドンを含有するマイクロカプセルおよびその製造方法、ならびにリスペリドンを含有するマイクロカプセルからのリスペリドンの放出制御方法に関し、より詳細には、マイクロカプセル中の生分解性ポリマーの分子量が、その出発分子量に対して所定範囲内であることを特徴とする、マイクロカプセルおよびその製造方法ならびに放出制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、治療に有用な薬物を、生分解性ポリマーなどのマイクロカプセル中に封入し、徐放または遅延放出製剤とするドラッグデリバリーシステムが種々開発されている。たとえば、乳酸−グリコール酸共重合体などの生分解性ポリマーを用いたマイクロカプセルでは、カプセル殻となる生分解性ポリマーのベンジルアルコールおよび酢酸エチル溶液に、封入する薬物を溶解、分散または乳化し、溶媒をクエンチ液である酢酸エチル水溶液で洗浄・乾燥することにより、マイクロカプセルを得る方法が開示されている(特許文献1)。
【0003】
一方、塩基性の求核化合物であるリスペリドンは、統合失調症などの治療に用いられている、セロトニン・ドパミン・アンタゴニスト(SDA:serotonin-dopamine antagonist)と呼ばれる非定型抗精神病薬であり、生分解性ポリマーの加水分解を促進する作用を有する。このため、マイクロカプセルの殻形成ポリマーの分子量を制御することを目的に、酢酸エチル溶液に溶解した生分解性ポリマー溶液と、リスペリドンをベンジルアルコールに溶解した溶液とを混合した有機相を調製し、これを25±5℃の温度下で、十分な持続時間保持することにより出発物質に見合った分子量損失を促し、その後に乳化工程を行う方法が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平9−505308号公報
【特許文献2】特表2003−534268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、リスペリドンを活性薬物として使用する場合、特許文献1の方法では、生分解性ポリマーのベンジルアルコールおよび酢酸エチル溶液にリスペリドンを溶解、分散または乳化する過程で、乳酸−グリコール酸共重合体などの生分解性ポリマーが分解してしまい、安定した分子量のポリマーを有するマイクロカプセルの製造が困難であるという問題があった。また、活性薬物の分解防止の観点から、活性薬物のポリマー暴露時間をできるだけ短く、10分以内とすることが教示はされているが、薬物を溶解、分散または乳化している時点で生分解性ポリマーの分子量を保持するという目的としては十分とはいえず、生分解性ポリマーの分解とその放出挙動への影響については考慮されていない。リスペリドン含有の徐放製剤においては、生分解性ポリマーの分子量は薬物放出挙動を決定する要因のひとつであるため、所望とする薬物放出挙動を得るためには、安定した分子量を維持することはきわめて重要である。
【0006】
一方、特許文献2の方法は、出発材料の生分解性ポリマーの分子量から、必要な保持時間を算出し、所望の分子量を得るために、適宜設定しなければならないという、繁雑なものであった。また、意図的に分解させて所望の分子量を得ようとする場合、分解の過程を毎回同様に制御することは難しく、製造過程によるばらつきが大きくなり、製剤の放出挙動のばらつきが大きくなるという問題があった。
【0007】
したがって、本発明は、所望の薬物放出挙動を示すことのできる、リスペリドンを含有する安定なマイクロカプセル、およびそれを簡便に製造する方法、ならびにマイクロカプセルからのリスペリドンの放出を制御する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、リスペリドンを含有する生分解性ポリマーのマイクロカプセルにおいて、生分解性ポリマーの分子量を、生分解性ポリマーの出発分子量の85%以上とすることにより、所望のリスペリドン放出挙動を実現できることを見出し、本発明を完成させた。本発明者らは、生分解性ポリマーの分子量低下率を所定範囲内とすることで、生分解性ポリマーの溶解溶媒に制限されることなく、リスペリドンの放出挙動を所望のものとすることができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]生分解性ポリマーおよびリスペリドンを含むマイクロカプセルであって、
マイクロカプセル中の生分解性ポリマーが、該生分解性ポリマーの出発分子量(Mw)の85%以上、好ましくは90%超の分子量(Mw)を有することを特徴とするマイクロカプセル、
[2]生分解性ポリマーの出発分子量(Mw)が50000以上かつ100000未満、好ましくは60000以上かつ100000未満、より好ましくは70000以上かつ100000未満である上記[1]記載のマイクロカプセル、
[3]生分解性ポリマーおよびリスペリドンを含むマイクロカプセルの製造方法であって、
(A)それぞれ別々に調製された生分解性ポリマー溶液と、リスペリドン溶液を混合して第1の相を調製する工程、
(B)前記第1の相を調製後、直ちに水相である第2の相と混合してエマルジョンを調製する工程、および
(C)得られたエマルジョンを水中乾燥する工程
を含む製造方法、
[4]マイクロカプセル中の生分解性ポリマーの分子量(Mw)が、該生分解性ポリマーの出発分子量(MW)の85%以上、好ましくは90%超の分子量(Mw)である上記[3]記載の製造方法、
[5]生分解性ポリマーの出発分子量(Mw)が50000以上かつ100000未満、好ましくは60000以上かつ100000未満、より好ましくは70000以上かつ100000未満である上記[3]または[4]記載の製造方法、および
[6]工程(A)における混合がスタティックミキサーを用いて行われる上記[3]〜[5]のいずれか1項に記載の製造方法
に関する。
【0010】
さらに本発明は、生分解性ポリマーおよびリスペリドンを含むマイクロカプセルの放出挙動を制御する方法を意図する。
すなわち、本発明は、
[7]生分解性ポリマーおよびリスペリドンを含むマイクロカプセルからのリスペリドンの放出制御方法であって、
マイクロカプセル中の生分解性ポリマーの分子量(Mw)を、該生分解性ポリマーの出発分子量(Mw)の85%以上の分子量(Mw)とすることを特徴とする放出制御方法、ならびに
[8]生分解性ポリマーおよびリスペリドンを含むマイクロカプセルからのリスペリドンの放出制御方法であって、
(A)それぞれ別々に調製された生分解性ポリマー溶液と、リスペリドン溶液を混合して第1の相を調製する工程、
(B)前記第1の相を調製後、直ちに水相である第2の相と混合してエマルジョンを調製する工程、および
(C)得られたエマルジョンを水中乾燥する工程
を含む放出制御方法
にも関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生分解性ポリマーの分子量低下率を所定範囲内とすることで、リスペリドンの放出挙動を所望のものとすることができる。また、本発明によれば、それぞれ別々に調製された生分解性ポリマー溶液とリスペリドン溶液を混合して第1の相を調製後、直ちに乳化することにより、生分解性ポリマーの分子量を極力保持したまま、リスペリドンを含有する安定なマイクロカプセルを簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】リスペリドンの累積放出率(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、生分解性ポリマーおよびリスペリドンを含むマイクロカプセルにおいて、
マイクロカプセル中の生分解性ポリマーが、該生分解性ポリマーの出発分子量(Mw)の85%以上の分子量(Mw)を有することを特徴とする。
【0014】
本明細書において、「マイクロカプセル」とは、粒子のマトリクスまたは結合剤として作用するポリマーを含む粒子を意味する。マイクロカプセルポリマーマトリックス内に分散または溶解した活性剤または他の物質を含有してもよい。ポリマーは、好ましくは生分解性で生物適合性である。「生分解性」とは、体内で容易に分解、代謝される性質を意味し、「生体適合性」とは、身体に有毒ではない、薬学的に許容され得る性質を意味する。
【0015】
リスペリドンは、式:
【化1】
で表される化学名:3−{2−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソキサゾール−3−イル)ピペリジノ]エチル}−6,7,8,9−テトラヒドロ−2−メチル−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オンのベンズイソキサゾール誘導体である。リスペリドンは、セロトニン・ドパミン・アンタゴニスト(SDA:serotonin-dopamine antagonist)と呼ばれる非定型抗精神病薬であり、ドパミンD2受容体およびセロトニン5−HT2A受容体の両方に拮抗作用を示す。この両作用により統合失調症の陽性症状と陰性症状の両方に改善作用を示す。
【0016】
生分解性ポリマーとしては、ポリ(グリコール酸)、ポリ−D,L−乳酸、ポリ−L−乳酸、それらの共重合体ならびにその塩があげられ、乳酸−グリコール酸共重合体(Poly(DL-Lactic-co-glicolide))が好ましく、これらは公知の方法により製造することができ、また種々の市販されているものを使用することもできる。
【0017】
乳酸−グリコール酸共重合体の塩としては、たとえばナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属などを含む無機塩基、トリエチルアミンなどの有機アミン類、アルギニンなどの塩基性アミン類などの有機塩基、あるいは亜鉛、鉄、銅などの遷移金属との塩および錯塩などがあげられる。
【0018】
生分解性ポリマーの出発分子量は、通常、重量平均分子量Mwで50000以上が好ましく、60000以上がより好ましく、70000以上がさらに好ましい。生分解性ポリマーの出発分子量(Mw)を50000以上とすることで、所望の薬物放出特性を得やすい傾向がある。生分解性ポリマーの出発分子量(Mw)は、100000未満が好ましい。生分解性ポリマーの出発分子量(Mw)が100000を超えると、生分解性ポリマー自体の合成に時間がかかり、また溶媒への溶解性が悪化する傾向がある。
【0019】
また、マイクロカプセル中の生分解性ポリマーの分子量(Mw)は、上記出発分子量(Mw)の85%以上であり、90%超であることがより好ましい。マイクロカプセル中の生分解性ポリマーの分子量と出発分子量との差を小さくすることで、製造過程でのばらつきを抑制することができ、製剤の放出挙動のばらつきも抑えることができる。
【0020】
マイクロカプセルにおけるリスペリドンの含有量は、1〜60質量%が好ましく、35〜45質量%がより好ましい。リスペリドンの含有量がマイクロカプセルの重量に対して1質量%未満では臨床量を満たすには多量のマイクロカプセル製剤を投与する必要がある。リスペリドンの含有量がマイクロカプセルの重量に対して60質量%を超えるとリスペリドンの溶解に時間がかかったり、溶け残りが生じないよう溶媒量を多くする必要があり、乳化時間が長時間におよぶ問題が生じる。
【0021】
本発明において、生分解性ポリマーおよびリスペリドンを含むマイクロカプセルの製造方法は、(A)それぞれ別々に調製された生分解性ポリマー溶液と、リスペリドン溶液を混合して第1の相を調製する工程、(B)前記第1の相を調製後、直ちに水相である第2の相と混合してエマルジョンを調製する工程、および(C)得られたエマルジョンを水中乾燥する工程を含むものである。
【0022】
生分解性ポリマー溶液の調製に用いる溶媒としては、酢酸エチル、ジクロロメタン、シクロヘキサン、クロロホルム、テトラヒドロフランなどが挙げられ、医薬品の残留溶媒ガイドラインのレベルがクラス3と低い点から酢酸エチルが好ましい。また、リスペリドン溶液の調製に用いる溶媒としては、ベンジルアルコール、メタノール、エタノールなどが挙げられ、溶解性の点からベンジルアルコールが好ましい。
【0023】
工程(A)は、特に限定されるものではないが、生分解性ポリマーの酢酸エチル溶液と、リスペリドンのベンジルアルコール溶液とをそれぞれ別々に調製し、工程(B)の直前に混合して第1の相を調製することが好ましい。これにより、生分解性ポリマーとリスペリドンとの相互作用を極力抑えることができる。
【0024】
生分解性ポリマー溶液およびリスペリドン溶液を混合して得られる第1の相は、調製後直ちに使用することが好ましい。このため、第1の相の調製前に、水相である第2の相を準備しておき、工程(B)の乳化の直前に第1の相を調製することが好ましい。これにより生分解性ポリマーとリスペリドンとの相互作用を極力抑えることができ、生分解性ポリマーの分解を抑制することができる。
【0025】
本明細書において、「調製後直ちに」使用するとは、生分解性ポリマーとリスペリドンとの相互作用を極力抑えるため、リスペリドンの生分解性ポリマー暴露時間を出来るだけ短くすることを意味し、例えば、少なくとも1.5分以内、好ましくは1分以内に工程(B)に付すこと、より好ましくは第1の相の調製から工程(B)まで連続的に行うことである。
【0026】
工程(A)において、生分解性ポリマーの溶液とリスペリドンの溶液との混合は、一般的な混合手段を用いることができるが、スタティックミキサーを用いて行うことが、混合後、工程(B)まで連続的に実施できる点から好ましい。この場合には、第1の相の冷却は、スタティックミキサーに冷却手段を備える(たとえばスタティックミキサーの外側に冷却水を流す漕を設けるなど)ことにより、スタティックミキサーで2液を混合中に冷却することにより行ってもよい。
【0027】
工程(B)における第2の相は、水相であり、親水性コロイドまたは界面活性剤を添加することにより、エマルジョンを安定化し、エマルジョン中のマイクロカプセルのサイズを調節することが好ましい。このような親水性コロイドまたは界面活性剤として使用し得る化合物の例としては、特に限定されるものではないが、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、Tween80、Tween20などがあげられる。
【0028】
第2の相における親水性コロイドまたは界面活性剤の濃度は、エマルジョンの安定化に十分な量とすべきであり、マイクロカプセルの最終的なサイズに影響し得る。通常、第2の相における親水性コロイドまたは界面活性剤の濃度は、親水性コロイドまたは界面活性剤の種類によって異なるが、ポリビニルアルコールであれば、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。ポリビニルアルコールの濃度が、0.01質量%未満では、マイクロカプセルの粒子同士が互いに凝集し合い塊になる傾向があり、10質量%を超えると、乳化時に生じた泡が水中乾燥時の液面を覆い塞ぎ、有機溶媒の蒸発の妨げとなりマイクロカプセル中の残留溶媒が増加する懸念がある。
【0029】
また、本発明の一実施態様では、第1の相または第2の相の少なくともいずれかを冷却することが好ましい。第1の相を調製前の各成分または溶液を冷却しておくことにより冷却するか、または第1の相の調製過程を冷却することにより冷却しても良く、第2の相を調製後冷却しておいても良い。これらのいずれかの相を冷却することにより、工程(B)の混合後の生分解性ポリマーの分子量低下の可能性をも防止することができる傾向がある。本明細書における「冷却」とは、たとえば15℃よりも低い温度とすることであり、15℃以下とすることが好ましく、5℃以下とすることがより好ましい。
【0030】
また、本発明の一実施態様では、工程(B)における混合が、各種乳化機、例えば、スタティックミキサー、ホモミキサーまたは高圧ホモジナイザーによって、上述の工程(A)に連続して行われることが好ましい。連続的に実施することで、生分解性ポリマーの分解をより効果的に抑制することができる。
【0031】
エマルジョンの乾燥工程は、水中乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥など有機溶媒が蒸発する方法が挙げられる。より好ましくは、エマルジョンの乾燥工程は、水中乾燥である。
【0032】
本発明の一実施態様においては、すべての工程、とりわけ第1の相を調製する工程(A)、第2の相とリスペリドンを含む第1の相とを混合する工程(B)については、冷却下で行うことが好ましく、15℃以下で行うことがさらに好ましく、5℃以下がより好ましい。各工程を15℃より高い温度で行う場合、本発明の生分解性ポリマーの分子量維持効果を十分に発揮できない可能性がある。また、エマルジョンの乾燥工程(C)についても、水中乾燥をする場合には15℃以下で行うことが好ましい。
【0033】
本明細書において、「所望の放出挙動」とは、本発明のマイクロカプセルを含む遅延放出製剤において、投与後、放出の立ち上がりが緩やかであることを意味する。つまり、生分解性ポリマーおよびリスペリドンを含むマイクロカプセルを統合失調症の治療に注射剤として用いる場合、投与回数を減らし、徐放性を高めることが望まれる。放出の立ち上がりが緩やかであれば、急激な血中濃度の上昇を抑制し、副作用が生じるリスクを減らすことができる。
【0034】
本発明のマイクロカプセルは、乾燥前と乾燥後、または少なくとも乾燥後に適切な篩により篩過することにより、注射剤などの医薬用途に利用可能な製剤とすることができる。
【0035】
本発明のマイクロカプセルを注射剤とする場合、既に当該技術分野において知られている適切な薬学的に許容され得る懸濁溶液に懸濁して調製することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例および比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1
リスペリドン3.0gをベンジルアルコール9.51gに溶解した溶液(a)と、乳酸−グリコール酸共重合体(乳酸:グリコール酸=3:1、重量平均分子量74000/PLGA)4.87gを酢酸エチル22.5gに溶解した溶液(b)とを調製した。事前に1質量%のポリビニルアルコール(PVA)水溶液に6.5質量%となるように酢酸エチルを添加した溶液である第2の相を調製した。溶液(a)と溶液(b)を混合した第1の相を混合後直ちに(1.5分以内)10mL/分の速さで、第2の相を50mL/分の速さで送液し、パイプラインホモミキサー(プライミクス(株)製)を用いて乳化し、O/Wエマルジョンを得た(乳化時間:4分間)。
【0038】
つぎに、得られたエマルジョンに2.5%酢酸エチル水溶液2.5Lを添加し、プロペラ攪拌機で10℃で3時間攪拌し、水中乾燥により溶媒を蒸発させた。
【0039】
溶媒を除去した後、150μmの篩で篩過し、篩過液を回収し、つぎに25μmの篩で篩過した。得られた篩上の残存物を回収し、水0.5Lで洗浄した後、凍結乾燥を行い、さらに425μmの篩で篩過し、マイクロカプセル3.8gを得た。
【0040】
実施例2
リスペリドン3.0gをベンジルアルコール9.51gに溶解した溶液(a)と、乳酸−グリコール酸共重合体(乳酸:グリコール酸=3:1、重量平均分子量74000/PLGA)4.87gを酢酸エチル22.5gに溶解した溶液(b)とを調製した。事前に1質量%のポリビニルアルコール(PVA)水溶液に6.5質量%となるように酢酸エチルを添加した溶液である第2の相を調製した。パイプラインホモミキサーに連結したスタティックミキサー((株)ノリタケカンパニーリミテッド製)に、溶液(a)を2.7mL/分の速さで、そして溶液(b)を7.3mL/分の速さで送液し、混合しながら、パイプラインホモミキサー(プライミクス(株)製)に混合物である第1の相を送液し、連続して第2の相と乳化し、O/Wエマルジョンを得た(乳化時間:4分間)。第1の相および第2の相の送液速度は、それぞれ10mL/分、および50mL/分であった。
【0041】
つぎに、得られたエマルジョンに2.5%酢酸エチル水溶液2.5Lを添加し、プロペラ攪拌機で10℃で3時間攪拌し、水中乾燥により溶媒を蒸発させた。
【0042】
溶媒を除去した後、150μmの篩で篩過し、篩過液を回収し、つぎに25μmの篩で篩過した。得られた篩上の残存物を回収し、水0.5Lで洗浄した後、凍結乾燥を行い、さらに425μmの篩で篩過し、マイクロカプセル3.5gを得た。
【0043】
比較例1
1質量%のポリビニルアルコール(PVA)水溶液に6.5質量%となるように酢酸エチルを添加した溶液である第2の相を調製した。リスペリドン3.0g、乳酸−グリコール酸共重合体(乳酸:グリコール酸=3:1、重量平均分子量93000/PLGA)4.87gを含むベンジルアルコール9.51gおよび酢酸エチル22.5gの混合溶液である第1の相を調製した。第1の相を3時間室温で静置した後、第2の相とパイプラインホモミキサー(プライミクス(株)製)を用いて乳化し、O/Wエマルジョンを得た(乳化時間:4分間)。第1の相および第2の相の送液速度は、それぞれ10mL/分および50mL/分であった。
【0044】
つぎに、得られたエマルジョンに2.5%酢酸エチル水溶液2.5Lを添加し、プロペラ攪拌機で10℃で3時間攪拌し、水中乾燥により溶媒を蒸発させた。
【0045】
溶媒を除去した後、150μmの篩で篩過し、篩過液を回収し、つぎに25μmの篩で篩過した。得られた篩上の残存物を回収し、水0.5Lで洗浄した後、凍結乾燥を行い、さらに425μmの篩で篩過し、マイクロカプセル3.0gを得た。
【0046】
比較例2
1質量%のポリビニルアルコール(PVA)水溶液に6.5質量%となるように酢酸エチルを添加した溶液である第2の相を調製した。リスペリドン3.0g、乳酸−グリコール酸共重合体(乳酸:グリコール酸=3:1、重量平均分子量86000/PLGA)4.87gを含むベンジルアルコール9.51gおよび酢酸エチル22.5gの混合溶液である第1の相を調製した。第1の相を3時間室温で静置した後、第2の相とパイプラインホモミキサー(プライミクス(株)製)を用いて乳化し、O/Wエマルジョンを得た(乳化時間:4分間)。第1の相および第2の相の送液速度は、それぞれ10mL/分および50mL/分であった。
【0047】
つぎに、得られたエマルジョンに2.5%酢酸エチル水溶液2.5Lを添加し、プロペラ攪拌機で10℃で3時間攪拌し、水中乾燥により溶媒を蒸発させた。
【0048】
溶媒を除去した後、150μmの篩で篩過し、篩過液を回収し、つぎに25μmの篩で篩過した。得られた篩上の残存物を回収し、その後、凍結乾燥を行い、さらに425μmの篩で篩過し、マイクロカプセル3.6gを得た。
【0049】
試験例1
実施例1および2ならびに比較例1および2において得られたマイクロカプセルにおける乳酸−グリコール酸共重合体の重量平均分子量を以下の方法で測定した。約40mgのマイクロカプセルを、5mLのテトラヒドロフランで溶解して試料溶液を得た。ついで、10μLの試料溶液を分子ふるいカラム(東ソー(株)製:TSK−GEL G6000H
XL、G5000H
XL、G4000H
XL、G2500H
XL、G1000H
XL、カラム温度40℃)を装備したクロマトグラフィーに供し、テトラヒドロフランの移動相にて流速0.8mL/分の速度で展開し、重量平均分子量を測定した。それぞれの分子量低下率を表1に示す。なお、分子量低下率は、次の式で算出した。
分子量低下率(%)=(原料のPLGAの重量平均分子量−マイクロカプセル中のPLGAの重量平均分子量)/原料のPLGAの重量平均分子量×100
【0050】
【表1】
【0051】
試験例2
実施例1ならびに比較例1および2において得られたマイクロカプセルについて、リスペリドンの放出特性を45℃の加速放出試験にて評価した。マイクロカプセルを試験液(pH7.4)内に入れ、45℃の恒温槽内で振とうした。振とう開始から、4、5、6、7、8および11日後、試験液の一部を回収し、試験液中に含まれるリスペリドンの含量を紫外吸光光度計を用いて測定した。結果を表2および
図1に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
実施例1では放出挙動の立ち上がりは緩やかであり、理想的な挙動と考えられる。一方、比較例1および2の放出挙動は、急激な立ち上がりを示し、急激な血中濃度上昇による副作用が懸念される。また、製造中にPLGAが大幅に分解した場合、放出挙動は分解が少ない場合と比べ、放出期間の早い方へずれることから、第1の相の調製後からの経過時間の管理が重要である。第1の相の調製後直ちに乳化することによりPLGAの分解が少なくなり、製造ごとのばらつきも少なくなる。