(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、上記の如き問題に鑑みて為されたものであり、老眼や遠視であっても眼鏡や特別な道具を要せず、様々な状況において手元の文字等を簡易的に判読することができ、視力補助具であることが利用者に認知しやすいだけでなく、製造コストがほとんどかからないうえ、包装だけでなくテープや収納ケース等の様々な物品に適用することができる簡易視力補助具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段は次のとおりである。
【0012】
即ち、本発明は、簡易視力補助具を、平板状のシート部材上に並設され光を透過する所定の面積を有する複数の接眼部と、前記接眼部に近設され接眼部よりも大きな光透過面積を有する視線導入部とから構成し、前記シート部材は、接眼部及び視線導入部よりも可視光における透過率が低い遮光部を有し、接眼部と視線導入部とは、前記遮光部に内設され
、前記接眼部は、一または複数の行による構成においては同一の行では同一の大きさであり、一または複数の列による構成においては同一の列では同一の大きさであり、視線導入部と直近の接眼部との間隔は、5.0mm以内であり、前記視線導入部と前記複数の接眼部とが上記構成を備えることにより、前記視線導入部を視認すると直近の接眼部が視界に入り、前記複数の接眼部の少なくとも一つの接眼部を介して視認対象物を視認することにより視力が補正される点に特徴がある。
【0013】
また、前記接眼部同士の間隔を、3.0mm乃至4.5mmとし、視線導入部と直近の接眼部との間隔を、3.0mm乃至4.5mmとするのが好適であり、前記視線導入部と直近の前記接眼部との間隔を、前記接眼部同士の間隔と同じか、それより大きくすることがより好適である。ここで、視線導入部と直近の接眼部との間隔とは、接眼部の輪郭線同士、あるいは視線導入部と直近の接眼部の互いの輪郭線とを結ぶ最短距離を意味する。
【0014】
さらに、本発明では、前記接眼部の形状を円形以外としても良いが、その大きさは、面積に基づいて円形に換算した場合の直径が、接眼部においてはφ0.5mm乃至φ2.0mm、視線導入部においてはφ4.0mm以下とするのが好ましい。また、視線導入部を、接眼部の大きさの2倍と同じか、それより大きくすることも可能である。
【0015】
加えて、前記接眼部を、複数の行で構成し、各行間は、4.0mm以上離間し、且つ、視線導入部と直近の接眼部との間隔と同じか、それより大きくすることも可能である。
【0016】
さらに、前記シート部材は、視認対象物に付設して切り離し可能に形成することも可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、平板状のシート部材から成る簡易視力補助具であり、視認対象物に付設して切り離し可能に形成したり、利用する場所に準備しておいたりすることで、利用者が視力補助具を持ち合わせていない状況であっても、医薬品や食料品等のパッケージ上に記載された注意書等の短い記載を簡易的に判読することができる。
【0018】
しかも、接眼部よりも大きな視線導入部を近設させることで、利用者がピンホールの微細な穴を視認できない様な視力であっても、接眼部より大きな視線導入部は視認可能であるから、接眼部より大きな視線導入部を視認することができ、それを覗くと同時に、より像がはっきりする小さな接眼部が視界に入るため、接眼部を通して視認対象物を視認する事が可能となる。
【0019】
さらに、接眼部同士の間隔を3.0mm乃至4.5mm、視線導入部と直近の接眼部との間隔を3.0mm乃至4.5mmとすることで、隣り合う文字が重なって見えたり、ひとつの文字しか視認できず文章として文字が途切れてしまったりすることが少なく、文章としてしっかり判読することができるという効果もある。
【0020】
また、視線導入部と直近の接眼部との間隔を、接眼部同士の間隔と同じかそれより大きくすることも、最初に比較的大きな視線導入部を視認した際、隣り合う文字が重なって見えることを防ぐ効果がある。
【0021】
加えて、接眼部の、その形状を円形とした場合の直径をφ0.5mm乃至φ2.0mmとし、視線導入部の、その形状を円形とした場合の直径をφ4.0mm以下としたことで、明るい環境や薄暗い環境であっても良好なピンホール効果を発揮でき、利用者毎に視力の程度に差があっても、多くの利用者において文字等の判読が可能となり得るという効果もある。
【0022】
さらに、視線導入部の大きさを、接眼部の大きさの2倍と同じか、それより大きくすることで、利用者がピンホールの微細な穴を視認できない視力であっても、明確に視線導入部を視認することができ、視線導入部を覗くと同時に接眼部が視界に入って接眼部を視認する事が可能となる。しかも、視線導入部からの入光により視認対象物が明るくなるうえ、視線導入部それ自体もピンホールとして機能するため、一度に多くの文字を視認できる。
【0023】
なお、接眼部を複数の行と列で構成し、各行間は、4.0mm以上離間し、且つ、視線導入部と直近の接眼部との間隔と同じか、それより大きくすることで、屋外のような明るい場所や、避難所のような薄暗い場所等、幅広い状況において文字を判読することができるという効果もある。
【0024】
一方、視認対象物の一部をシート部材とすることで、穿孔や印刷によって接眼部及び視線導入部を形成できるため、安価なコストで製造できる。
【0025】
本発明は上記のような効果を奏するものであり、自然災害の増加や高齢化が社会問題となっている我が国において、災害避難等の緊急時の際に視力補助具の持ち合わせなく、避難所等で支給された医薬品や食料品等の包装容器に内設、添付、貼付あるいは避難所等に備え付けられた本発明の実施品を用いることにより、支援物資等の包装容器等に記載された注意書等を判読することが可能となるので、誤飲誤食または誤用による副作用やアレルギー等を避けて安全に使用、服用等できるようになるものである。
【0026】
また、避難先で、スマートフォンや回覧されるメモ等を閲覧するために、商品に付設された簡易視力補助具や、避難先に備え付けられたカード状の簡易視力補助具を用いたり、体温測定において体温計の表示を確認するために、体温計の収納ケースに形成された簡易視力補助具を用いたりすることもできる。このように、医薬品や食品等の包装だけでなく、様々な物品に適用することができる。
【0027】
さらに、加齢と共に現れる老眼を持つ者だけでなく、スマートフォン等を見る事等が起因して目の調節緊張を発症し、老眼と似た症状を持つこととなった若年者であっても、本発明を使用することで手元の文字等を簡易的に判読することができるという効果がある。
【0028】
さらに、諸外国においても同様の問題を抱えているところが多くあり、社会情勢や貧困等で眼鏡等の光学レンズを有した視力補正具を所有できない利用者に、簡易的に文字等の判読ができる手段を安価に提供できるものであるから、大変有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施例1について、
図1から
図5に基づいて説明する。
【0031】
本実施例の簡易視力補助具1は、
図1に示すように、平板状のシート部材4上に複数の接眼部2・2…を一定の間隔で並べ、視線導入部3を一番端の接眼部2に近設して構成している。
【0032】
複数の接眼部2・2…は、光を透過する所定の面積を有し、本実施例では円形状の孔である。また、視線導入部3も同様に光を透過する所定の面積を有し、本実施例では円形の孔であるが、その大きさは接眼部2・2…よりも大きいものとしている。なお、接眼部2・2…と視線導入部3は、光が透過すれば孔に限定されず、例えば透明フィルムで構成されていてもよい。また、接眼部2・2…と視線導入部3の形状は円形に限定されない。
【0033】
一方、シート部材4は、接眼部2・2…及び視線導入部3よりも可視光における透過率が低い遮光部5を有し、接眼部2・2…と視線導入部3とを、遮光部5に内設している。本実施例では、シート部材4全体が遮光部5となるように構成している。なお、接眼部2・2…と視線導入部3とが遮光部5に内設していれば良く、シート部材4のうち、接眼部2・2…及び視線導入部3の周囲だけが不透明な印刷であり、それ以外の部分は透明なフィルム等であってもよい。この場合、接眼部2・2…及び視線導入部3と、遮光部5の稜線との間隔は3.0mm以上あることが好ましい。
【0034】
次に、本発明の実施例の簡易視力補助具1の使用方法について説明する。
【0035】
本実施例では
図2(a)に示すように、簡易視力補助具1を目に近づけ、接眼部2・2…のいずれかひとつを覗くことができるように配置して使用する。そして、視認対象物Aを眼前に配置し、文字等が視認できるように簡易視力補助具と利用者の目との距離X、または視認対象物と簡易視力補助具との距離Zを利用者が適宜調整する。
【0036】
接眼部2・2…を覗く際、利用者が老眼や遠視であった場合には、接眼部2・2…が小さいため、その存在を認識できない場合がある。しかし、本実施例では、接眼部2・2…よりも大きな視線導入部3が接眼部2・2…に近設していることにより、まず視線導入部3を認識することができる。
【0037】
そして、
図2(b)に示すように、この視線導入部3を覗き込むと、視線導入部3は接眼部2・2…より大きいためピンホール効果(後述する)が弱く、像がぼやけて見えるが、同時に視線導入部3に最も近接する接眼部2が自然に視界に入り、像の比較的はっきりしている隣接する接眼部2・2…を順次視認することができ、並設された接眼部2・2…によって文章を視認することが可能となっている。
【0038】
このように、老眼や遠視によって手元の文字等だけでなく、接眼部2・2…自体も見えづらい利用者であっても、視線導入部3を認識させて覗き込ませることで、接眼部2・2…を視認することができ、細かな文字等を判読させることができる。
【0039】
[ピンホール効果について]
ところで、本実施例の簡易視力補助具1には、所謂ピンホール効果と呼ばれている原理を利用している。一般的な老眼では、加齢により水晶体Bの厚さの調整能力が低下する。
図3(a)に示すように、特に近いものを見るときには、焦点Fが網膜Cより後方にずれ、焦点深度Gの範囲が網膜Cに入らないため、遠視と同じように、光源E(実際には主に視認対象物からの反射光)から発せられた光が結像せず、像がぼやけて視認しにくくなる。
【0040】
そこで、
図3(b)に示すように、眼前に小孔部分のみ光を通し、その周辺を遮光したピンホールPを配置すると、目に入る光の量は極端に制限される。このピンホールPを通った細い光の束は、水晶体Bで屈折し網膜Cより後方にずれた焦点Fで結像するが、網膜Cに鋭角に入射するため、焦点深度Gの範囲が広くなる。そのため、老眼であっても像がぼやけずに視認できる。
【0041】
なお、一般的には、焦点を補正するため光学レンズによる老眼鏡を用いる。ピンホール効果の場合、光学レンズを用いた場合に比べ、焦点深度Gの範囲が広いという特徴を有している。
【0042】
ところが、
図4(a)に示すように、ひとつのピンホールPだけでは、少し視線をずらすだけで像が視界から消えてしまったり、ごく狭い範囲の文字は判読できるが横の文字を判読できず、文章を判読するには困難を要したりするといった問題が起こる。
【0043】
そこで、
図4(b)に示すように、複数のピンホールP・P…を並べることで、横並びの文章が判読しやすくなる。例えば、ピンホールP・P…の数を文章に合わせて増やせば、一連の文章の判読が可能となる。
【0044】
しかし、ピンホールP・P…の数が多い場合、視認対象物Aに簡易視力補助具1を付設する場合には、視認対象物Aに対する簡易視力補助具1の占める割合が大きくなってしまい、商品上支障が出得る。そこで、ピンホールP・P…の数は数個程度として、これを文章に沿って動かすことができるようにすることで、少ない占有面積でも短い文章ならば判読することができる。
【0045】
一方、
図5(a)に示すように、複数のピンホールP・P…を並べると、その間隔が狭すぎる場合には文字が重なって見えて判読しにくくなる。また、
図5(b)に示すように、逆に広すぎる場合には、ひとつの文字しか視認できず、文章としての文字が途切れてしまい判読しにくくなる。
【0046】
また、ピンホールPを小さくして網膜Cに入射する光の束を細くするほど、焦点深度Gの範囲は広くなって像がぼやけにくくなるが、その分像が暗くなるため、視認環境が暗い場合では文字等を判読しにくくなる。
【0047】
[実証試験1]
そこで、ピンホールPの大きさ、及び隣り合うピンホールP・P…の間隔をどのような数値に設定すれば最適な簡易視力補助具1が得られるかを検討すべく試験を行った。本発明の形状の最適化と効果の実証試験について、
図6、
図7に基づいて説明する。
【0048】
まず、本試験では、接眼部の直径d、及び接眼部同士の列の間隔iが異なる複数の簡易視力補助具のサンプルを作製し、これらの各サンプルについて、下表1の和文、欧文の大きさ別の文字列を見たときに、予め準備した視認のイメージ(a)乃至イメージ(c)(
図6(a)乃至(c)に対応)の何れの見え方に近かったか、及びいずれの見え方が視認しやすかったかの評価を行った。文字の大きさは、それぞれ10pt(約3.53mm)、8pt(約2.82mm)、6pt(約2.12mm)の3種類とした。
【表1】
【0049】
本試験の簡易視力補助具のサンプルは、シート部材4として付箋を用い、遮光部5は黒のインクで付箋前面を塗って構成した。ここで、接眼部の直径dはφ1.3mmとφ0.8mmの2種類(加工誤差±0.1mm程度)とし、さらにそれぞれについて、接眼部同士の列の間隔iを2.5mm、3.0mm、3.5mm、4.0mm、4.5mmの5種類(加工誤差±0.1mm程度)として穿孔したものを作製した。
【0050】
接眼部2・2…は、
図7に示すように、2行3列の複数段構成とし、視線導入部3は試験に影響を与えないよう設けていない。ここで、接眼部同士の行の間隔jは、接眼部同士の列の間隔iと同一とした。
【0051】
被験者は、主に老眼を有する者5名、主に遠視を有する者2名、主に近視を有する者2名の計9名で、左右の目それぞれについて試験を行った。また、簡易視力補助具のサンプルと目の間隔を、一般的な眼鏡におけるレンズと目の距離の基準である約12mmとし、一般的に読書等で手元が良く見える明るさである約750ルックスの白色光下で試験を行った。
【0052】
以上の条件で行った試験の結果のうち、いずれの視認のイメージに見えたかの結果を下表2に示す。なお、表中太字の欄は、被験者の回答が最も多かったものを示している。
【表2】
【0053】
また、いずれの視認のイメージが見やすいと感じたかの結果を下表3に示す。同様に、表中太字の欄は、被験者の回答が最も多かったものを示している。
【表3】
【0054】
これらの結果から、
図6(b)のイメージの見え方が一番良い視認性であるという回答が最も多かった。また、
図6(b)のイメージの見え方になる接眼部同士の列の間隔iは3.5mm〜4.0mmであるという回答が最も多かった。
【0055】
接眼部の直径dは、φ1.3mmもφ0.8mmも視認のイメージに大きな回答の違いは見られなかった。
【0056】
[実証試験2]
次に、接眼部と視線導入部との間隔Iをどのような数値に設定すれば、接眼部が視界に入って接眼部を視認する事が可能となるかを検討すべく試験を行った。本発明の形状の最適化と効果の実証試験について、
図1に基づいて説明する。
【0057】
まず、本試験では、実証試験1と同様の材料、方法を用い、接眼部と視線導入部との間隔Iが異なる複数の簡易視力補助具のサンプルを作製した(
図1参照)。また、被験者、試験環境も同様の条件で行った。そして、これらの各サンプルについて、視線導入部3を覗いて表1の和文、欧文の大きさ別の文字列を見たときに、視線導入部3に最も近接する接眼部2が自然に視界に入り、次いで隣接する接眼部2・2…が順次違和感なく視界に入るものがどれであったかの評価を行った。なお、文字の大きさは、それぞれ10pt(約3.53mm)、8pt(約2.82mm)、6pt(約2.12mm)の3種類とした。
【0058】
本試験の簡易視力補助具のサンプルは、接眼部の直径dはφ1.3mmとし、接眼部同士の列の間隔iを3.5mmとし、視線導入部の直径Dはφ3.1mmとし、接眼部と視線導入部との間隔Iをそれぞれ3.0mm、4.0mm、5.0mmとして穿孔したサンプルを作製した (いずれも加工誤差±0.1mm程度)。
【0059】
以上の条件で行った試験の結果を下表4に示す。なお、表中太字の欄は、被験者の回答が最も多かったものを示している。また、この結果は文字の大きさ毎の結果を合計した数を示している。
【表4】
【0060】
これらの結果から、接眼部と視線導入部との間隔Iが4.0mmのものが接眼部2を自然に視認できたという回答が最も多かった。
【0061】
[実証試験3]
次に、本発明の簡易視力補助具1が、老眼、遠視、近視のいずれの視力状態において有効であるか、及び明るさの違う環境でも有効であるかを検討すべく試験を行った。本試験について、
図8に基づいて説明する。
【0062】
まず、本試験では、実証試験1と同様の材料、方法を用い、接眼部2・2…が3行3列で構成され、接眼部の直径dが各行ごとに異なる簡易視力補助具のサンプル1種類を作製した(
図8参照)。また、被験者は同様だが、試験環境を約50ルックス、約250ルックス、約750ルックスの3種類の条件で、左右の目を片側ずつ試験した。
【0063】
そして、接眼部2・2…を、左右の目それぞれ片側ずつで覗いて表6の老眼簡易度数判定表を見たときに、裸眼の場合と、簡易視力補助具のサンプルを用いた場合とで、どの程度老眼度数が改善されるかの評価を行った。ここで、裸眼の測定では、被験者の基準値を求めるために試験環境を約750ルックスで固定し、目と老眼簡易度数判定表との間隔は、老眼簡易度数判定表を用いる基準としての約30cmに固定して評価を行った。なお、簡易視力補助具のサンプルを用いた各照度別の評価では、個人差と視力補助具が使用される状況を想定し、簡易視力補助具のサンプルと老眼簡易度数判定表との間隔は固定せず、手元で調整できる範囲である10〜40cm程度とし、簡易視力補助具のサンプルと目との間隔も固定せず、近づけて調整できる範囲である1〜5cm程度として、見やすい間隔を各被験者が調整して評価を行った。なお、下表5は一例であり老眼度数が判定できるものであれば他のものを用いてもよい。
【表5】
【0064】
本試験の簡易視力補助具のサンプルは、接眼部の直径dは各行毎にφ1.3mm、φ1.0mm、φ0.8mmとし、接眼部同士の列の間隔i、及び接眼部同士の行の間隔jを3.5mmとし、視線導入部の直径Dはφ3.1mmとし、接眼部と視線導入部との間隔Iは4.0mmとして穿孔したものを作製した(いずれも加工誤差±0.1mm程度)。
【0065】
以上の条件で行った試験の結果を下表6に示す。ここで、「Z」で示されているものは裸眼の場合の利き目の老眼度数であり、「z」で示されているものは裸眼の場合の利き目と反対側の目の老眼度数であり、「A」で示されているものは約750ルックスの環境下で簡易視力補助具を用いた場合の老眼度数であり、「B」で示されているものは約250ルックスの環境下で簡易視力補助具を用いた場合の老眼度数であり、「C」で示されているものは約50ルックスの環境下で簡易視力補助具を用いた場合の老眼度数である。
【表6】
【0066】
これらの結果から、老眼の被験者においては、本試験の簡易視力補助具のサンプルを用いることで、約750ルックスと約250ルックスの環境では約4段階の老眼度数の改善が見られ、約50ルックスの環境においても約2段階の老眼度数の改善が見られた。また、遠視の被験者でも、裸眼に対して約1段階以上の老眼度数の改善が見られた。換言すると、利き目かどうかを問わず、裸眼時よりも半分の大きさの文字の判読ができ、周囲が明るければ1/3〜1/4の大きさの文字の判読が可能となったと判断できる。しかし、近視の被験者においては、改善がほとんど見られなかった。
【0067】
[実証試験4]
次に、本発明の簡易視力補助具1の接眼部の直径dが、周囲の明るさにおける視認性に影響がでるかを検討すべく試験を行った。
【0068】
まず、本試験では、実証試験3と同様の簡易視力補助具のサンプルを用い、表4の和文、欧文の大きさ別の文字列を見たときに、試験環境の照度毎で判読できた最小の文字の大きさと、最小の接眼部の直径dがどれであったかの評価を行った。
【0069】
本試験においては、視認対象物と簡易視力補助具との距離Zは固定せず、手元で調整できる範囲である10〜40cm程度とし、簡易視力補助具と利用者の目との距離Xも固定せず、近づけて調整できる範囲である1cm〜5cm程度として、左右を問わず見やすいと感じた方の目で評価を行っている。なお、文字の大きさは、それぞれ10pt(約3.53mm)、8pt(約2.82mm)、6pt(約2.12mm)、5.5pt(約1.94mm)、5pt(約1.76mm)の5種類とした。
【0070】
本試験の簡易視力補助具のサンプルは、接眼部の直径dは各行毎にφ1.3mm、φ1.0mm、φ0.8mmとし、接眼部同士の列の間隔i、及び接眼部同士の行の間隔jを3.5mmとし、視線導入部の直径Dはφ3.1mmとし、接眼部と視線導入部との間隔Iは4.0mmとして穿孔したものを作製した(いずれも加工誤差±0.1mm程度)。
【0071】
試験の結果を下表7に示す。なお、表中太字の欄は、被験者の回答が最も多かったものを示している。
【表7】
【0072】
これらの結果から、接眼部の直径dと、試験環境の照度により、認識できる文字の大きさの範囲が変化した。また、どの被験者においても、本試験の簡易視力補助具のサンプルを用いることで、約750ルックスと約250ルックスの環境では5.0pt.乃至5.5pt.の文字が判読できており、約50ルックスの環境でもおおむね5.0pt.乃至5.5pt.の文字が判読できている。
【0073】
接眼部2・2…の大きさは、約750ルックスではφ0.8mmが最も多く、暗くなるに従い、大きなものの回答者が増えている。
【0074】
実証試験1の結果から、接眼部同士の間隔iは、個人差等の誤差を考慮し、3.0mm乃至4.5mmとするのが好ましく、3.5mm乃至4.0mmとするのがより好ましいと判断できる。
【0075】
実証試験2の結果から、視線導入部と直近の前記接眼部との間隔Iは、個人差等の誤差を考慮し、3.0mm乃至4.5mmとするのが好ましく、3.5mm乃至4.0mmとするのがより好ましいと判断できる。また、視線導入部の直径Dは、本試験ではφ3.1mmで固定したが、なるべく大きい方が良い一方、大きすぎるとピンホール効果が全く現れないため、人の瞳の変化の範囲の直径であるφ2.0mm乃至φ6.0mmの平均値であるφ4.0mm以下とするのが好ましい。
【0076】
実証試験4の結果から、接眼部の直径dは、個人差等の誤差を考慮しφ0.5mm乃至φ2.0mmとするのが好ましいと判断できる。
【0077】
さらに、人の視野は単眼の場合には横長の楕円形を有しており、見えづらいときには瞼を細めてさらに横長の視野になる。そのため、接眼部2・2…は目に対して横方向に並べて構成するのが好ましい。
【0078】
またさらに、接眼部同士の間隔i、接眼部同士の行の間隔j、接眼部と視線導入部との間隔Iは、i<I≦jの関係にあることが好ましい。
【0079】
[包装の視認対象物に簡易視力補助具を付設した実施例]
次に、発明における別の態様としての実施例2について、
図9に基づいて説明する。
【0080】
本実施例では、
図9に示すように、簡易視力補助具1を視認対象物Aの一部を構成するように付設している。ここで、
図9(a)の視認対象物Aは医薬品の包装箱であり、簡易視力補助具1のシート部材4が内フラップの一部に付設するように構成している。また、
図9(b)の視認対象物Aは食品容器(具体的には即席麺の包装容器)の蓋であり、簡易視力補助具1のシート部材4がアルミ箔を内包した紙とポリエチレンで構成される蓋の一部にタブとして付設するように構成されている。
【0081】
また、部分的な切込みである破線部6によって、簡易視力補助具1を視認対象物Aから分離可能としている。
【0082】
ここで、本実施例の
図9(a)の態様では、接眼部2・2…同士の列の間隔i・i…を約3.5mmに設定している。また、接眼部2・2…と視線導入部3との間隔Iを約4.0mmに設定している。さらに、接眼部の直径dを約φ1.3mmに、視線導入部の直径Dを約φ3.1mmに設定している。
【0083】
図9(a)の態様では、接眼部2・2…を視線導入部3と共に並設して1行3列で構成しされている。この態様は、例えば簡単な説明書きを包装箱に記載する等によって、視線導入部3を覗き、その後接眼部2・2…を覗くという使用法が、理解しやすい態様である。そのため、初めて簡易視力補助具1を使用する者であっても直ちに使用することが可能である。また、簡易視力補助具1が占有する面積も小さくてすむ。
【0084】
ここで、本実施例の
図9(b)の態様では、接眼部2・2…は、2行3列の複数段構成とし、視線導入部3が一番端の接眼部2に近設して構成している。また、破線部6に近い方の接眼部の直径dを約φ1.3mmに、他の接眼部の直径dを約φ0.8mmに設定し、視線導入部の直径Dを約φ3.1mmに設定している。
【0085】
図9(b)の態様では、複数段構成にして接眼部2・2…の直径を変えることにより、利用者の視力や周囲の明るさ等によって最適な接眼部2・2…で文字等の判読をすることができる。即ち、利用者が最初視線導入部3を覗いた場合、視線に入ってくる接眼部2・2…のいずれかの大きさのものの内、明確に視認ができる方を選択して見ることになり、利用者にとって最適な方の接眼部2・2…で文字等の判読をすることができるようになる。
【0086】
より詳しくは、接眼部2・2…を2行3列で構成し、各行で接眼部の直径d・d…が異なるようにしているため、各行それぞれで光量と焦点深度が変化することとなり、個人差や周囲環境の違いがあっても、対応できる範囲がより広くなる。
【0087】
このように、視認の必要がある物品に直接付設することで、視力補助具を持ち合わせていない状況であっても、必要なときに必ずその場で利用することができ、災害発生時に避難先で支給された場合に、大勢の服用者や喫食者に個別に眼鏡等の提供を行う必要がなく、必要とする者全員が簡易にその場で利用することができる。また、販売時において、特に視力補助具1が付設していることが邪魔になることもない。
【0088】
また、視認対象物Aとしての包装箱や食品容器の蓋は、製造時には一般的に印刷工程と打ち抜き工程とを有する。本実施例の簡易視力補助具1は、接眼部2・2…、視線導入部3及び破線部6を形成するために別の工程を加えることなく、抜型への若干の刃の追加や印刷内容の軽微な変更で製造することもでき、視認対象物Aの製造コストにほとんど影響を与えない。
【0089】
[包装の視認対象物に簡易視力補助具を付設した別の実施例]
次に、発明における別の態様としての実施例3について、
図10に基づいて説明する。
【0090】
本実施例では、
図10に示すように、簡易視力補助具1を医薬品の包装箱の一部を構成するように付設している。前記実施例とは、医薬品の包装箱が視認対象物でない点、及び簡易視力補助具1が付設されている内フラップが長めに形成されている点が相違する。
【0091】
また、部分的な切込みである破線部6によって、簡易視力補助具1を医薬品の包装箱から分離可能としているが、本実施例では分離せずに用いる。
【0092】
即ち、
図10(b)に示すように、付設されている医薬品の包装箱をスタンド代わりにして視認対象物A上に載置する。そして、内フラップを外側に開き、簡易視力補助具1のシート部材4が視認対象物Aと略平行になるように破線部6の折りの角度を調節する。
【0093】
このとき、内フラップの開きの角度と、破線部6の折りの角度の組み合わせによって、 視認対象物と簡易視力補助具との距離Zを任意に調節可能となっている。
【0094】
そして、
図10(c)に示すように、簡易視力補助具1の接眼部2・2…に目を近づけ、簡易視力補助具と利用者の目との距離Xと、視認対象物と簡易視力補助具との距離Zを調整しながら、医薬品の包装箱を前後左右に順次ずらして文字等を判読する。
【0095】
このようにすることで、手元が震えてしまうような利用者であっても、簡易視力補助具1を分離して用いた場合と比べ、安定して視力や文字等の判読が可能となる。
【0096】
[包装の視認対象物に簡易視力補助具を別体として添付した実施例]
次に、本発明の別の態様としての実施例4について、
図11に基づいて説明する。
【0097】
本実施例では、
図11に示すように、簡易視力補助具1を視認対象物Aとは別体として添付している。ここで、視認対象物Aは医薬品の包装箱であり、栞状の簡易視力補助具1を箱の中に医薬品や説明書と一緒に梱包される。
【0098】
本実施例の簡易視力補助具1は、接眼部2・2…を2行3列の複数段構成とし、視線導入部3が一番端の接眼部2に近設して構成している。また、接眼部2・2…と視線導入部3は穿孔によって構成している。
【0099】
このように、簡易視力補助具1を視認対象物Aとは別体として添付することで、他の視認対象物の文字を判読したい場合であっても利用することができる。また、別体の簡易視力補助具1は包装箱の製造工程における打ち抜き構成で同時に生産することもできるため、安価に製造ができる。
【0100】
[ボトル状の視認対象物に簡易視力補助具を別体として貼設した実施例]
次に、本発明の別の態様としての実施例5について、
図12に基づいて説明する。
【0101】
本実施例では、
図12に示すように、簡易視力補助具1を視認対象物Aに貼設している。ここで、視認対象物Aは医薬品のビンであり、簡易視力補助具1のシート部材5がガラス製のビンの一部に貼り剥がし可能なラベルとして貼設されている。
【0102】
本実施例の簡易視力補助具1は、
図12に示すように、接眼部2・2…を3行3列の複数段構成とし、視線導入部3が最上行の一番端の接眼部2に近設されて構成されている。また、接眼部2・2…は、千鳥配置としている。千鳥配置とすることで、接眼部同士の列の間隔iが同じでも少ない占有面積で構成することができる。
【0103】
また、本実施例の簡易視力補助具1のシート部材4は透明なポリエチレン製のフィルムであり、接眼部2・2…と視線導入部3、及び遮光部5を不透明な色の印刷で塗り分けている。このようにすることで、一般的なラベル製造工程に含まれない穿孔工程を追加することなく簡易視力補助具1を製造することができる。
【0104】
[ボトル状の視認対象物の蓋に簡易視力補助具を付設した実施例]
さらに、本発明の別の態様としての実施例6について、
図13に基づいて説明する。
【0105】
本実施例では、
図13に示すように、簡易視力補助具1を視認対象物Aの一部を構成するように付設している。ここで、視認対象物Aは、栄養補助食品(いわゆるサプリメント) 等のボトルであり、簡易視力補助具1を蓋部分のタブの一部として付設するように構成されている。
【0106】
本実施例の簡易視力補助具1は、接眼部2・2…と視線導入部3とを、
図1と同様の構成にしており、蓋は不透明なポリプロピレン等の熱可塑性樹脂であるから、シート部材4は全体が自然に遮光部5を構成することになる。
【0107】
また、接眼部2・2…と視線導入部3とは、蓋の射出成型時に金型によって開孔して形成することができ、蓋の製造コストに影響をほとんど与えない。
【0108】
[カード状の簡易視力補助具の実施例]
さらに、本発明の別の態様としての実施例7について、
図14に基づいて説明する。
【0109】
本実施例では、
図14に示すように、簡易視力補助具1を視認対象物Aに付設せず、単独のカード状に形成し、リング等でフックにぶら下げることができるように構成されている。
【0110】
本実施例では、シート部材4を安価に製造できるポリエチレン等の樹脂シートで構成し、一枚だけ吊り下げているが、接眼部の直径dや接眼部同士の列の間隔iの異なった、複数の簡易視力補助具1を束ねて吊り下げても良い。
【0111】
また、シート部材4を紙で構成し、複数枚吊り下げて置く事で、必要に応じて1枚ずつ切り離し可能とするようにしてもよい。
【0112】
このようにすることで、避難所等に吊り下げておくことができ、眼鏡等の提供を行うことなく、簡単に包装箱等に記載された文字等を判読することができる。
【0113】
また、非常に安価に製造できるため、スーパー等の一般小売店等においても、顧客が商品の包装やラベル等に記載された価格等を判読することができるツールの提供が可能になる。
【0114】
[体温計のキャップ部分に付設した簡易視力補助具の実施例]
さらに、本発明の別の態様としての実施例8について、
図15に基づいて説明する。
【0115】
本実施例の簡易視力補助具1は、
図15に示すように、簡易視力補助具1を視認対象物Aの付属品の一部を構成するように付設している。ここで、視認対象物Aは体温計であり、簡易視力補助具1のシート部材4が体温計のキャップの一部に付設するように構成している。キャップは体温計と一対で保管されるため、計測値の確認をする際にはいつでも、接眼部2・2…を介して表示部を視認することができる。
【0116】
また、接眼部2・2…を接眼部2・2…を視線導入部3と共に並設して1行3列で構成しているが、1行の中で接眼部の直径d・d…が異なった直径としている点が、実施例2と相違する。
【0117】
1行のなかで接眼部の直径d・d…が異なるようにしているため、光量と焦点深度の幅が広がり、個人差や周囲環境の照度に応じて利用者が適した接眼部2・2…を選択することができる。なお、同じ直径の接眼部2・2…が並設されているものと比べ、長文の判読よりも温度や値札などの数文字程度の文字等の判読に有効である。
【0118】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、本発明は図示の実施例に限定されるものでは決してなく、種々の変更が可能であって、例えば、簡易視力補助具1は
図16に示す実施例9のように医薬品のブリスターパックの一部に付設するように構成してもよいし、切符等のチケットや、それを収納する封筒等に形成してもよい。
【0119】
また、
図17(a)(b)に示す実施例10のように栞や付箋等の比較的身近にあるものの位置部に簡易視力補助具1を構成してもよいし、
図18に示す実施例11のようにロール状のテープに連続的に形成して必要量を切り離して用いるようにしてもよい。
【0120】
さらに、視線導入部3の形状は、円形以外にも多角形や図形等の他の形状とすることもできる。
図19(a)(b)(c)に示す実施例12では、視線導入部3の形状を接眼部2・2…の方向に頂点が向いた三角や、接眼部2・2…の方向を指し示した矢印の形状にしている。
【0121】
この場合、利用者が接眼部2・2…の微細な穴を視認できない視力であっても、視線導入部3が接眼部2・2…よりも大きいため、三角形や矢印が接眼部2・2…を向いていることを認識することができる。そのため、接眼部2・2…の存在を容易に把握することができ、接眼部2・2…を覗いて文字等を判読する事が可能となる。
【0122】
また、接眼部2・2…の形状も円形に限られず、多角形等であってもよいが、ピンホール効果をより効果的に発揮するために、角数が多く円形に近い形状の方がより好ましい。
【0123】
さらに、実施例12においては、視線導入部3を、孔ではなく光を透過しない有色のインクで印刷したり、別体のラベルとして貼付したりする等して構成することもできる。
【0124】
この場合、視線導入部3が、接眼部2・2…よりも大きく、接眼部2・2…を向いた三角形や矢印であることにより、視線導入部3それ自体が目を惹くため、利用者がピンホールの微細な穴を視認できない視力であっても、明確に視線導入部3を視認することができ、視線導入部3を視認すると同時に接眼部2・2…が視界に入って接眼部2・2…を視認する事が可能となる。
【課題】老眼や遠視であっても眼鏡や特別な道具を要せず、様々な状況において手元の文字等を簡易的に判読することができ、視力補助具であることが利用者に認知しやすいだけでなく、製造コストがほとんどかからないうえ、包装だけでなくテープやケース等の様々な物品に適用することができる簡易視力補助具を提供すること。
【解決手段】簡易視力補助具を、平板状のシート部材上に並設され光を透過する所定の面積を有する複数の接眼部と、前記接眼部に近設され前記接眼部よりも大きな光透過面積を有する視線導入部とから構成し、前記シート部材は、前記接眼部及び前記視線導入部よりも可視光における透過率が低い遮光部を有し、前記接眼部と前記視線導入部とは、前記遮光部に内設した。