特許第6915908号(P6915908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バイオアプリケーションズ インコーポレイテッドの特許一覧

特許6915908BIP断片を含む組換えベクターおよび前記ベクターを利用した組換えタンパク質の製造方法
<>
  • 特許6915908-BIP断片を含む組換えベクターおよび前記ベクターを利用した組換えタンパク質の製造方法 図000002
  • 特許6915908-BIP断片を含む組換えベクターおよび前記ベクターを利用した組換えタンパク質の製造方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6915908
(24)【登録日】2021年7月19日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】BIP断片を含む組換えベクターおよび前記ベクターを利用した組換えタンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20210727BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20210727BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20210727BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20210727BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20210727BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20210727BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20210727BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20210727BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   C12N15/12ZNA
   C12N15/63 Z
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12P21/02 C
   C07K14/00
   C07K19/00
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-568375(P2019-568375)
(86)(22)【出願日】2018年12月6日
(65)【公表番号】特表2021-507675(P2021-507675A)
(43)【公表日】2021年2月25日
(86)【国際出願番号】KR2018015400
(87)【国際公開番号】WO2020059962
(87)【国際公開日】20200326
【審査請求日】2020年1月7日
(31)【優先権主張番号】10-2018-0112444
(32)【優先日】2018年9月19日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519142114
【氏名又は名称】バイオアプリケーションズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BIOAPPLICATIONS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヨンチク
【審査官】 佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】 韓国登録特許第10−1732624(KR,B1)
【文献】 韓国公開特許第10−2017−0043793(KR,A)
【文献】 国際公開第2011/025242(WO,A2)
【文献】 特表2011−502483(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/088255(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/043584(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号6で表されるBiP(chaperone binding protein)遺伝子断片および目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドが作動可能に順次連結された、遺伝子コンストラクトであって、
該配列番号6で表されるBiP遺伝子断片の直後の3'末端に、「atagaagag gctacgaagt taa」で表される配列又は「atagaagag gctacgaagt ta」で表される配列のいずれも含まない、遺伝子コンストラクト。
【請求項2】
前記遺伝子コンストラクトは、目的タンパク質の生産において追加される異種ペプチド(foreign peptide)を最小化したり、目的タンパク質の発現量を増加させることを特徴とする請求項1に記載の遺伝子コンストラクト。
【請求項3】
プロモーター遺伝子、配列番号6で表されるBiP遺伝子断片および目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドが作動可能に順次連結された遺伝子コンストラクトを含む、組換えベクターであって、
該配列番号6で表されるBiP遺伝子断片の直後の3'末端に、「atagaagag gctacgaagt taa」で表される配列又は「atagaagag gctacgaagt ta」で表される配列のいずれも含まない、組換えベクター。
【請求項4】
前記組換えベクターは、目的タンパク質の生産において追加される異種ペプチド(foreign peptide)を最小化したり、目的タンパク質の発現量を増加させることを特徴とする請求項3に記載の組換えベクター。
【請求項5】
前記プロモーターは、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus)由来35Sプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus)由来19S RNAプロモーター、植物のアクチンタンパク質プロモーター、ユビキチンタンパク質プロモーター、CMV(Cytomegalovirus)プロモーター、SV40(Simian virus 40)プロモーター、RSV(Respiratory syncytial virus)プロモーター、pEMUプロモーター、MASプロモーター、ヒストンプロモーター、ClpプロモーターおよびEF−1α(Elongation factor−1 alpha)プロモーターよりなる群から選ばれるいずれか一つ以上であることを特徴とする請求項3に記載の組換えベクター。
【請求項6】
前記組換えベクターは、HDEL(His−Asp−Glu−Leu)ペプチドをコードする遺伝子をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の組換えベクター。
【請求項7】
前記組換えベクターは、M17の5′ UTR(untranslational region)部位遺伝子をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の組換えベクター。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれかに記載の組換えベクターで形質転換された、形質転換体。
【請求項9】
(a)請求項8に記載の形質転換体を培養する段階;および
(b)前記形質転換体または培養液から目的タンパク質を分離および精製する段階を含む、目的タンパク質の生産方法。
【請求項10】
前記目的タンパク質を分離する段階は、Triton X−100、イミダゾール(Imidazole)およびNaClが添加されたリン酸ナトリウム(Sodium phosphate)溶液を利用することを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
配列番号7で表されるBiP断片、リンカー配列および目的タンパク質が順次連結された、組換えタンパク質であって、
該配列番号7で表されるBiP断片の直後のC末端に、「Ile Glu Glu Ala Thr Lys Leu」で表される配列を含まない、組換えタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のBiP断片を含む組換えベクターおよび前記ベクターを利用した組換えタンパク質の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ医薬品(biopharmaceutical)とは、生体内に存在する物質を医薬品として使用することを指し、より広い意味としては、先端バイオ技術である遺伝子組換え、細胞融合、細胞培養など生物工学技術を基盤として生産された医薬品と定義することができる。このようなバイオ医薬品は、タンパク質医薬品、治療用抗体、ワクチン、遺伝子治療剤、細胞治療剤などに分類される。このうち、タンパク質医薬品、治療用抗体などは、一般的に酵母、バクテリア、動物細胞、昆虫細胞などの宿主を利用して生産されており、最近には、このような医薬品の利用度が増加している傾向にある。したがって、効率的な生産のためには、組換えタンパク質の生産量を増加させると同時に、分離が容易であり、組換えタンパク質の安定性を増加させることができる方法の開発が持続的に要求されているのが現状である。
【0003】
一方、分子生物学と遺伝工学技術のまぶしい発達は、植物分野にも適用されて、植物体から有用な生理活性物質を生産しようとする努力が着実に続いている。植物から有用物質を生産することは、生産コストを顕著に減少させることができ、従来、大衆的方法(動物細胞または微生物でタンパク質を合成して分離精製する方法)で発生しうる様々な汚染源(ウイルス、癌遺伝子、腸毒素など)を根本的に排除することができると共に、商品化段階でも動物細胞や微生物とは異なって種子として種苗(seed stock)の管理が可能であるという点から有利な利点を有している(特許文献1:韓国特許登録10−1848082号公報)。
【0004】
したがって、植物体においても使用可能であり、組換えタンパク質の生産量を顕著に増加させることができると共に、組換えタンパク質の製造時に追加される異種ペプチド配列を最小化して組換えタンパク質の使用安定性を増加させることができる組換えタンパク質の生産システムが開発されると、多様な分野において必要とする組換えタンパク質の高効率生産が可能なものと期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国特許登録10−1848082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記のような従来技術上の問題点を解決するために案出されたものであって、新規のBiP断片および目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子コンストラクト、前記遺伝子コンストラクトを含む組換えベクター、および前記ベクターを利用した組換えタンパク質の製造方法などを提供することをその目的とする。
【0007】
しかしながら、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は、下記の記載から本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に明確に理解され得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、配列番号6で表されるBiP遺伝子断片および目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドが作動可能に順次に連結された遺伝子コンストラクト(construct)を提供する。前記順次に連結されるというのは、BiP遺伝子断片のN末端または/およびC末端に目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドが連結された形態であり得るが、BiP遺伝子と目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドが連結された形態であれば、これに制限されない。
【0009】
また、本発明は、プロモーター遺伝子、配列番号6で表されるBiP遺伝子断片および目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドが作動可能に順次に連結された遺伝子コンストラクトを含む組換えベクターを提供する。
【0010】
本発明の一具体例において、前記遺伝子コンストラクトは、目的タンパク質の生産において追加される異種ペプチド(foreign peptide)を最小化したり、目的タンパク質の発現量を増加させることを特徴とする。
【0011】
本発明の他の具体例において、前記プロモーターは、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus)由来35Sプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus)由来19S RNAプロモーター、植物のアクチンタンパク質プロモーター、ユビキチンタンパク質プロモーター、CMV(Cytomegalovirus)プロモーター、SV40(Simian virus 40)プロモーター、RSV(Respiratory syncytial virus)プロモーター、EF−1α(Elongation factor−1 alpha)プロモーター、pEMUプロモーター、MASプロモーター、ヒストンプロモーター、Clpプロモーターなどや、組換えベクターに使用可能であると知られているプロモーターであれば、これに制限されない。
【0012】
本発明のさらに他の具体例において、前記目的タンパク質は、抗原、抗体、抗体の断片、構造タンパク質、調節タンパク質、転写因子、毒素タンパク質、ホルモン、ホルモン類似体、サイトカイン、酵素、酵素の断片、酵素阻害剤、輸送タンパク質、受容体(receptor)、受容体の断片、生体防御誘導物質、貯蔵タンパク質、移動タンパク質(movement protein)、エクスプロイティブタンパク質(exploitive protein)、レポータタンパク質などであり得るが、本発明の組換え発現ベクターによって製造され得るタンパク質であれば、これに制限されない。
本発明のさらに他の具体例において、前記組換えベクターは、HDEL(His−Asp−Glu−Leu)ペプチドをコードする遺伝子、M17の5’ UTR(untranslational region)部位遺伝子、目的タンパク質の高発現のためのタグ遺伝子、目的タンパク質の容易な分離のためのタグ遺伝子などをさらに含むことができる。
【0013】
また、本発明は、前記組換えベクターで形質転換された形質転換体を提供する。
【0014】
本発明の一具体例において、前記形質転換体は、大腸菌、バシルス、サルモネラ、酵母等のような微生物、昆虫細胞、ヒトを含む動物細胞、マウス、ラット、犬、猿、豚、馬、牛等のような動物、アグロバクテリウム・ツメファシエンス、植物などであり得、前記植物は、稲、小麦、麦、とうもろこし、豆、ジャガイモ、小麦、小豆、燕麦、およびモロコシを含む食糧作物類;シロイヌナズナ、ハクサイ、ダイコン、唐辛子、イチゴ、トマト、スイカ、キュウリ、キャベツ、マクワウリ、カボチャ、ネギ、タマネギ、およびニンジンを含む野菜作物類;高麗人参、タバコ、木花、ゴマ、サトウキビ、テンサイ、エゴマ、ピーナッツ、およびアブラナを含む特用作物類;およびリンゴの木、梨の木、ナツメ、桃、ブドウ、ミカン、柿、スモモ、あんず、およびバナナを含む果樹類;およびバラ、カーネーション、菊、ユリ、およびチューリップを含む草花類などであり得るが、本発明の組換え発現ベクターで形質転換され得る生命体であれば、これに制限されない。
【0015】
また、本発明は、(a)前記形質転換体を培養する段階;および(b)前記形質転換体または培養液から目的タンパク質を分離および精製する段階を含む、目的タンパク質の生産方法を提供する。前記形質転換体は、好ましくは細胞そのもの、または細胞を含む培養物であり得、前記培養液は、好ましくは細胞を培養した後、細胞を除去した培養液であり得るが、本発明の組換えタンパク質を含んでいると、これに制限されない。
【0016】
本発明の一具体例において、前記目的タンパク質を分離する段階は、好ましくはTriton X−100、イミダゾール(Imidazole)およびNaCl(塩化ナトリウム)が添加されたリン酸ナトリウム(Sodium phosphate)溶液を利用することができ、好ましくは前記Triton X−100は、0.05〜0.5重量%、イミダゾール(Imidazole)は、10〜100mM、NaClは、100〜500mMが添加された10〜100mMのリン酸ナトリウム(Sodium phosphate)溶液(pH7.1〜7.5)や、一般的にタンパク質を分離するのに使用される抽出用緩衝溶液(extraction buffer)であれば、これに制限されない。
【0017】
また、本発明は、配列番号7で表されるBiP断片、リンカー配列および目的タンパク質が順次に連結された組換えタンパク質を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明による新規のBiP断片を含む組換えベクターは、多様な目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記BiP断片に連結させることによって、目的タンパク質を製造するときに追加される異種ペプチド配列を最小化して、組換えタンパク質の使用安定性を増加させることができると共に、同時に目的タンパク質の生産量を増加させることができるので、多様な活性を有する目的タンパク質に幅広く適用して、多様な分野の組換えタンパク質の高効率生産を可能にするものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施例によるタンパク質配列分析装置を利用して組換えタンパク質のアミノ酸配列を確認した結果を示す図である。
図2】本発明の一実施例による新規BiP断片が結合されたRVGeタンパク質の生産量および溶解性をウェスタンブロットで確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明では、従来組換えタンパク質を小胞体に移動させるために使用されたBiP配列のうち組換えタンパク質を生産後に組換えタンパク質に残っている(融合している)残基配列を確認し、前記残基配列のうち一部の配列を除去して組換えタンパク質に残っている残基配列、すなわち異種のペプチド配列を最小化して、組換えタンパク質の使用安定性を増加させたと共に、組換えタンパク質の発現量が増加することを確認し、前記新規のBiP遺伝子を含む組換えベクターおよび前記組換えベクターを利用した組換えタンパク質の生産方法を提供することを目的とする。
【0021】
本明細書において、「新規BiP(chaperone binding protein)遺伝子断片(fragment)」とは、従来組換えタンパク質の製造時に、発現した組換えタンパク質を小胞体に移動させるために使用されたBiP配列のうち一部であって、最も好ましくは配列番号6で表される遺伝子であるが、好ましくは配列番号6の塩基配列と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列相同性を有する塩基配列を含むことができる。ポリヌクレオチドに対する「配列相同性の%」は、最適に配列された配列と比較領域を比較することによって確認され、比較領域でポリヌクレオチド配列の一部は、さらに配列の最適配列に対する参考配列(追加または削除を含まない)に比べて追加または削除(すなわちギャップ)を含むことができる。
【0022】
本明細書において、「異種ペプチド(foreign peptide)」とは、組換えタンパク質の製造時に追加されたまたは融合した目的タンパク質のアミノ酸配列以外のアミノ酸配列であって、前記異種ペプチドの種類は、目的タンパク質以外のペプチドであれば、制限がない。
【0023】
本明細書において、「目的タンパク質(target protein)」とは、本発明による遺伝工学的方法で生産しようとするタンパク質を言うものであり、好ましくは商業的用途に用いられている大量で生産される必要があるタンパク質であり、より好ましくは抗原、抗体、抗体の断片、構造タンパク質、調節タンパク質、転写因子、毒素タンパク質、ホルモン、ホルモン類似体、サイトカイン、酵素、酵素の断片、酵素阻害剤、輸送タンパク質、受容体(receptor)、受容体の断片、生体防御誘導物質、貯蔵タンパク質、移動タンパク質(movement protein)、エクスプロイティブタンパク質(exploitive protein)、レポータタンパク質などであるが、本発明の組換えベクターで製造され得るタンパク質であれば、これに制限されない。
【0024】
本明細書において、「使用安定性」とは、目的タンパク質を組換えベクターを利用して製造するときに追加される異種のペプチドによって、目的タンパク質の使用時に予測しなかった副作用、危険性、効果の相異などを減少させて、目的タンパク質を使用するに際して本来の効果を最大限維持するようにすることを意味する。
【0025】
本明細書において、「組換えベクター(recombinant vector)」とは、ベクター内に挿入された異種の核酸によりコードされるペプチドまたはタンパク質を発現できるベクターを指すものであって、好ましくは新規BiP遺伝子断片を含むように製造されたベクターを意味する。前記「ベクター」は、試験管内、生体外または生体内で宿主細胞へ塩基の導入および/または転移のための任意の媒介物を言い、他のDNA断片が結合して結合した断片の複製をもたらすことができる複製単位(replicon)であり得、「複製単位」とは、生体内でDNA複製の自家ユニットとして機能する、すなわち自らの調節により複製可能な、任意の遺伝的単位(例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、染色体、ウイルスなど)を言う。本発明の組換え発現ベクターは、好ましくはRNA重合酵素が結合する転写開始因子であるプロモーター(promoter)、転写を調節するための任意のオペレーター配列、適合したmRNAリボソーム結合部位をコードする配列と転写および解読の終結を調節する配列、ターミネータなどを含むことができ、より好ましくはタンパク質の合成量を増加させるためのM17の5’ UTR部位遺伝子、タンパク質が小胞体内で安定的に維持され得るようにタンパク質の分解を最小化するためのHDEL遺伝子などをさらに含むことができ、より好ましくは組換えタンパク質の生産量を増加させるためのタグ用遺伝子、組換えタンパク質の構造的安定性を維持するためのタグ用遺伝子、組換えタンパク質を容易に分離するためのタグ用遺伝子、形質転換体を選別するための抗生剤耐性遺伝子などの選別用マーカー遺伝子などをさらに含むことができ、容易な分離のためのタグとしては、代表的にAviタグ、Calmodulinタグ、polyglutamateタグ、Eタグ、FLAGタグ、HAタグ、Hisタグ、Mycタグ、Sタグ、SBPタグ、IgG−Fcタグ、CTBタグ、Softag 1タグ、Softag 3タグ、Strepタグ、TCタグ、V5タグ、VSVタグ、Xpressタグなどが含まれ得、前記選別用マーカー遺伝子には、代表的にグリホサート(glyphosate)またはホスフィノスリシン(phosphinothricin)のような除草剤抵抗性遺伝子、カナマイシン(kanamycin)、G418、ブレオマイシン(Bleomycin)、ハイグロマイシン(hygromycin)、クロラムフェニコール(chloramphenicol)のような抗生剤耐性遺伝子、aadA遺伝子などが含まれ得、前記プロモーターには、代表的にpEMUプロモーター、MASプロモーター、ヒストンプロモーター、Clpプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus)由来35Sプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus)由来19S RNAプロモーター、植物のアクチンタンパク質プロモーター、ユビキチンタンパク質プロモーター、CMV(Cytomegalovirus)プロモーター、SV40(Simian virus 40)プロモーター、RSV(Respiratory syncytial virus)プロモーター、EF−1α(Elongation factor−1 alpha)プロモーターなどが含まれ得、前記ターミネータは、代表的にノパリンシンターゼ(NOS)、稲アミラーゼRAmy1 Aターミネータ、パセオリンターミネータ、アグロバクテリウム・ツメファシエンスのオクトパイン(Octopine)遺伝子のターミネータ、大腸菌のrrnB1/B2ターミネータなどであるが、前記追加される遺伝子の種類は、従来組換えタンパク質の製造に使用されている種類であれば、制限がない。
【0026】
本明細書において、「形質転換(transformation)」とは、注入されたDNAにより生物の遺伝的な性質が変わることを総称し、「形質転換体(transgenic organism)」とは、分子遺伝学的方法に外部の遺伝子を注入して製造された生命体であって、好ましくは本発明の組換え発現ベクターにより形質転換された生命体であり、前記生命体は、微生物、真核細胞、昆虫、動物、植物など生命がある生物であれば、制限がなく、好ましくは大腸菌、サルモネラ、バシルス、酵母、動物細胞、マウス、ラット、犬、猿、豚、馬、牛、アグロバクテリウム・ツメファシエンス、植物などであるが、これに制限されない。前記形質転換体は、形質転換(transformation)、形質感染(transfection)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)−媒介形質転換方法、パーティクルガン衝撃法(particle gun bombardment)、超音波処理法(sonication)、電気穿孔法(electroporation)、PEG(Polyethylen glycol)−媒介形質転換方法などの方法で製造され得るが、本発明のベクターを注入できる方法であれば、制限がない。
【0027】
本明細書において、「溶解性(solubility)」とは、目的タンパク質またはペプチドが人体に投与するのに適した溶媒に溶解することができる程度を意味する。具体的には、特定の温度で与えられた溶媒に対して溶質が飽和した程度を示すものであり得る。溶解性は、溶質の飽和濃度を決定することによって測定することができ、例えば溶媒に溶質を過量に添加し、これを撹拌し、濾過した後、濃度をUV分光器またはHPLCなどを使用して測定することができるが、これに制限されるものではなく、高い溶解性は、組換えタンパク質の分離精製に有利であり、組換えタンパク質の凝集が抑制されて、組換えタンパク質の生理活性または薬理的な活性を維持するのに長所を有する。
【0028】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記実施例によって本発明の内容が限定されるわけではない。
【0029】
[実施例]
実施例1:組換えタンパク質の製造時にBiPペプチドの残基の確認
組換えタンパク質の製造時に、組換えタンパク質を小胞体に移動させるために使用されているBiPペプチド配列は、小胞体に移動すると、信号ペプチド加水分解酵素(signal peptidase)により除去されるものと予測されているが、これに関する研究は進行されたことがない。本発明者らは、製造された組換えタンパク質にBiPペプチドの残基(residue)が存在するかを確認するために実験を進めた。
【0030】
1.1.セルロース結合ドメインが融合した豚コレラ抗原E2タンパク質の製造
BiPペプチドの残基を確認するために、一次的にセルロース結合ドメイン(Cellulose binding domain;CBD)が融合した豚コレラ抗原E2タンパク質を製造するための組換えベクターを製造した。より詳しくは、pCAMBIA1300ベクターのCaMV 35Sプロモーター遺伝子とNOSターミネータ(terminator)との間にM17の5’ UTR(untranslational region)部位遺伝子(配列番号1)、BiP(chaperone binding protein)タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号2)、豚コレラ抗原E2タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号3);セルロース結合ドメインをコードするポリヌクレオチド(配列番号4);およびHDEL(His−Asp−Glu−Leu)タンパク質をコードするポリヌクレオチドを順にクローニングして、組換えベクターを製作した。そして、組換えベクターをアグロバクテリウム−媒介形質転換方法(Agrobacterium−mediated transformation)でシロイヌナズナに形質転換させ、カナマイシン(Kanamycin)に対する耐性を有するシロイヌナズナを選別し、世代促進を通じてセルロース結合ドメインが融合したE2組換えタンパク質の発現が安定したホモ種子を最終確保して、形質転換植物体を製造した。そして、タンパク質の抽出に普遍的に使用されるタンパク質抽出バッファーと非結晶セルロース(amorphous cellulose;AMC)を使用して形質転換植物体5gから組換えタンパク質を分離した。そして、分離した組換えタンパク質は、リン酸化緩衝溶液(phosphate buffered saline;PBS)を利用して透析後に遠心フィルターチューブ(Centrifugal filter tube)を使用して濃縮した。
【0031】
1.2.BiPペプチドの残基の確認
BiPペプチドの残基を確認するために、韓国基礎科学支援研究院(KBSI)のタンパク質配列分析システム(Prociose491/PPSQ)を利用して組換えタンパク質のN−末端配列を分析した。配列分析のために、実施例1.1と同じ方法で準備したセルロース結合ドメインが融合したE2タンパク質を0.4mg/mLの濃度になるように1%セロビオース(cellobiose)が添加されたリン酸塩緩衝溶液(phosphate buffered saline;PBS)に添加し、配列分析システムのプロトコルによってアミノ酸配列分析を実施した。
【0032】
その結果、E2タンパク質配列を除いて「IEEATKL」のBiPの追加配列とクローニング過程中に追加されたアミノ酸「RIQ」リンカー(linker)配列があることを確認した。
【0033】
実施例2:新規BiP配列を利用したNS1組換えタンパク質の製造
組換えタンパク質の生産において重要な要素の一つである目的タンパク質以外の異種ペプチドを最小化して組換えタンパク質の使用安定性を増加させるために、組換えタンパク質に残っているBiP残基の一部を除去して新規BiP(New BiP;NB)遺伝子断片を製造するために、実施例1を通じて確認されたBiP残基のうち、目的タンパク質のN末端部位に融合している7個のアミノ酸が除去された新規BiP配列(配列番号7)を製造するために実験を進めた。
【0034】
2.1.新規BiP配列を含む組換えベクターの製造および前記ベクターを利用した組換えタンパク質の製造
配列番号6で表される新規BiP遺伝子断片を含む組換えベクターを製造するために、pCAMBIA1300ベクターのCaMV 35Sプロモーター遺伝子とNOSターミネータ(terminator)との間にM17の5’ UTR(untranslational region)部位遺伝子(配列番号1)、新規BiP遺伝子断片(配列番号6)、およびジカウイルスのNS1タンパク質(Zika NS1)をコードするポリヌクレオチド(配列番号8)を順にクローニングして、組換えベクターを製作した。そして、前記ベクターで形質転換されたアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)をタバコ植物(Nicotiana benthamiana)の葉に接種する一過性発現(transient expression)方式でNS1組換えタンパク質を発現させた後に、植物の葉からタンパク質を抽出して遠心分離した。そして、Ni−NTAカラムを利用してIMAC(immobilized metal affinity chromatography)を実施してヒスチジン タグ(Histidine−tag)結合された組換えタンパク質を分離した。そして、分離した組換えタンパク質は、リン酸化緩衝溶液(phosphate buffered saline;PBS)を利用して透析後に遠心フィルターチューブ(Centrifugal filter tube)を使用して濃縮した。
【0035】
2.2.新規BiPペプチドの残基の確認
新規BiPペプチドの残基を確認するために、実施例1.2と同じ方法で組換えタンパク質のN−末端配列を分析した。その結果は、図1に示した。
【0036】
図1に示されたように、NS1タンパク質配列を除いてBiP残基配列は存在せず、クローニング過程中に追加されたアミノ酸「GS」リンカー配列があることを確認した。前記結果を通じて、新規BiPペプチド配列だけでも小胞体へ正常に移動し、組換えタンパク質も正常に製造されたことを確認した。
【0037】
実施例3:新規BiP配列を利用したRVGe組換えタンパク質の製造
3.1.新規BiP配列を含む組換えベクターの製造および前記ベクターを利用した組換えタンパク質の製造
配列番号7で表される新規BiPペプチドおよび狂犬病ウイルス(Rabies virus)の主な抗原である糖化タンパク質(glycoprotein)を含む組換えベクターを製造するために、pCAMBIA1300ベクターのCaMV 35Sプロモーター遺伝子とNOSターミネータ(terminator)との間にM17の5’ UTR(untranslational region)部位遺伝子(配列番号1)、新規BiP遺伝子断片(配列番号6)、および狂犬病ウイルス糖化タンパク質(RVGe)をコードするポリヌクレオチド(配列番号9)を順にクローニングして、組換えベクターを製作した。対照群としては、新規BiP遺伝子の代わりに、従来のBiP遺伝子を挿入して組換えベクターを製作した。そして、前記ベクターで形質転換されたアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)をタバコ植物(Nicotiana benthamiana)の葉に接種する一過性発現(transient expression)方式でNS1組換えタンパク質を発現させた後に、植物の葉からタンパク質を抽出して遠心分離した。タンパク質の抽出時には、0.1%Triton X−100、20mMのイミダゾール(Imidazole)(pH7.5)および300mMのNaClが添加された20mMのリン酸ナトリウム(Sodium phosphate)(pH7.3)溶液を使用した。
【0038】
3.2.組換えタンパク質の発現量の確認実験
実施例3.1と同じ方法で発現した組換えタンパク質を含んでいる全体タンパク質抽出液を対象としてanti−His antibodyを利用してウェスタンブロットを実施した。その結果は、図2に示した。
【0039】
図2に示されたように、従来のBiPペプチド配列をコードするポリヌクレオチドを使用した場合(BiP)と比較して、新規BiPペプチド配列をコードするポリヌクレオチドを使用した場合(NB)、約二倍以上タンパク質の量が増加したことを確認した。前記結果を通じて、新規BiPペプチド配列を利用して組換えタンパク質を製造すると、組換えタンパク質の生産量を増加させることができることを確認した。
【0040】
前記結果を通じて、本発明の新規BiP配列を組換えタンパク質の製造に使用する場合、多様な目的タンパク質を利用して組換えタンパク質を製造することができると共に、組換えタンパク質の生産量を顕著に増加させることができることを確認することができた。また、目的タンパク質以外の異種配列の追加を最小化して組換えタンパク質の使用安定性を増加させることができることを確認することができた。したがって、本発明の新規BiP配列を利用すると、多様な組換えタンパク質の効率的生産に大きく役に立つことを確認することができた。
【0041】
前述した本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形可能であることを理解することができる。したがって、以上で記述した実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的でないものと理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、新規BiP遺伝子断片を含む組換えベクターに関し、本発明の組換えベクターを利用して目的タンパク質の製造時に、目的タンパク質に残っている異種ペプチド配列を最小化して使用安定性を増加させることができると共に、目的タンパク質の生産量も増加させることができるので、多様な組換えタンパク質の生産に幅広く利用可能なものと期待される。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]