(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電磁弁を設けた流路を流れる流体がガスである場合に、ガス中に液水が混入される場合がある。このような場合には、ガス中の液水が電磁弁に侵入し得る。そして、電磁弁の内部に液水が浸入した状態で温度が低下すると、電磁弁内で液水が凍結し、電磁弁の開閉動作が妨げられて、電磁弁が正常に動作し難い事態が生じる可能性がある。
【0005】
特に、電磁弁においては、コイルへの通電時に磁路を適切に形成するために、弁体と、弁体の外側に配置される部材(スリーブ)との間の距離は、一般に小さく抑えられている。弁体とスリーブとの間のような狭い隙間においては、液水は特に凍結しやすいと考えられる。そのため、弁体の周りの隙間に液水が侵入する場合に、凍結に起因する電磁弁の動作不良を抑える技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
本発明の第1の形態は、ガス流路に用いる電磁弁であって、コイルと、前記コイルの内部に配置される弁体収納部と、前記弁体収納部の内部に配置され、前記コイルへの通電に伴い軸線方向に移動する弁体と、前記弁体の移動により前記ガス流路を開閉する弁部と、を備え、前記弁体における前記弁体収納部に対向する表面、および、前記弁体収納部における前記弁体に対向する表面のうちのいずれか一方は、軸線方向に延びる第1の溝と、前記第1の溝と交差して周方向に延びる第2の溝と、を有し、前記第1の溝は、少なくとも前記第2の溝から弁部側に延びるように形成され、前記第1の溝および前記第2の溝は、前記弁体に形成されており、前記第1の溝は、前記弁体における弁部側の端部から軸線方向に延びるように形成され、前記弁体において、前記第2の溝と、前記弁体における弁部側の端部との間の軸線方向の長さは、前記第2の溝と、前記弁体における弁部側とは反対側の端部との間の軸線方向の長さよりも短い、電磁弁である。
本発明の第2の形態は、ガス流路に用いる電磁弁であって、コイルと、前記コイルの内部に配置される弁体収納部と、前記弁体収納部の内部に配置され、前記コイルへの通電に伴い軸線方向に移動する弁体と、前記弁体の移動により前記ガス流路を開閉する弁部と、を備え、前記弁体における前記弁体収納部に対向する表面、および、前記弁体収納部における前記弁体に対向する表面のうちのいずれか一方は、軸線方向に延びる第1の溝と、前記第1の溝と交差して周方向に延びる第2の溝と、を有し、前記第1の溝は、少なくとも前記第2の溝から弁部側に延びるように形成され、前記第1の溝および前記第2の溝は、前記弁体収納部に形成されており、前記第1の溝の弁部側の端部は、前記弁部の開弁時において、前記弁体における弁部側の端部よりも弁部側に位置する電磁弁である。本発明は以下の形態としても実現できる。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、ガス流路に用いる電磁弁が提供される。この電磁弁は、コイルと;前記コイルの内部に配置される弁体収納部と;前記弁体収納部の内部に配置され、前記コイルへの通電に伴い軸線方向に移動する弁体と;前記弁体の移動により前記ガス流路を開閉する弁部と;を備える。前記弁体における前記弁体収納部に対向する表面、および、前記弁体収納部における前記弁体に対向する表面のうちのいずれか一方は、軸線方向に延びる第1の溝と、前記第1の溝と交差して周方向に延びる第2の溝と、を有する。前記第1の溝は、少なくとも前記第2の溝から弁部側に延びるように形成される。
この形態の電磁弁によれば、電磁弁に供給されるガス中に液水が含まれて、弁体と弁体収納部との間の隙間に液水が侵入し、侵入した液水が凍結する場合であっても、凍結に起因する電磁弁の動作不良を抑えることができる。
【0008】
(2)上記形態の電磁弁において、前記第1の溝および前記第2の溝は、前記弁体に形成されており、前記第1の溝は、前記弁体における弁部側の端部から軸線方向に延びるように形成されることとしてもよい。この形態の電磁弁によれば、第1および第2の溝からの排水を、より容易にして、液水の凍結に起因する不都合を抑えることができる。
【0009】
(3)上記形態の電磁弁は、前記弁体において、前記第2の溝と、前記弁体における弁部側の端部との間の軸線方向の長さは、前記第2の溝と、前記弁体における弁部側とは反対側の端部との間の軸線方向の長さよりも短いこととしてもよい。この形態の電磁弁によれば、弁体と弁体収納部との間の隙間に侵入した液水を、速やかに第2の溝において周方向に広げることができるため、侵入した液水が凍結したときに、凍結に起因する弁体の固着状態を解除することが、より容易になる。また、侵入した液水を、弁体と弁体収納部との間の距離がより広い第2の溝において速やかに保持することができるため、液水の凍結を抑制することができる。
【0010】
(4)上記形態の電磁弁において、さらに、前記コイルに対して軸線方向の弁部側に配置される底面部を有し、前記コイルに通電される際には、前記底面部において磁路の一部が形成される磁路形成部材を備え;前記底面部における前記弁体収納部に近接する側の端部は、前記弁部の閉弁時において、前記第2の溝の弁部側の端部よりも弁部側に配置されることとしてもよい。この形態の電磁弁によれば、閉弁時において、底面部の上記端部と弁体との間の距離を、より短くすることができる。そのため、閉弁時にコイルに通電する際に、より容易に磁路を形成することができ、消費電力を削減することができる。
【0011】
(5)上記形態の電磁弁において、前記第1の溝および前記第2の溝は、前記弁体収納部に形成されており、前記第1の溝の弁部側の端部は、前記弁部の開弁時において、前記弁体における弁部側の端部よりも弁部側に位置することとしてもよい。この形態の電磁弁によれば、第1および第2の溝からの排水を、より容易にして、液水の凍結に起因する不都合を抑えることができる。
【0012】
(6)上記形態の電磁弁において、前記第2の溝の弁部側の端部は、前記弁部の開弁時における前記弁体の軸線方向の中心よりも弁部側に位置することとしてもよい。この形態の電磁弁によれば、弁体と弁体収納部との間の隙間へと弁部側から液水が侵入するときに、侵入した液水を、より速やかに第2の溝に導くことができる。そのため、液水が凍結して弁体が固着される不都合を抑制する効果を高めることができる。
【0013】
(7)上記形態の電磁弁において、前記第1の溝における弁部側とは反対側の端部は、前記第2の溝と重なることとしてもよい。この形態の電磁弁によれば、弁体と弁体収納部との間の隙間に侵入した液水を、より確実に周方向に導くことができ、侵入した液水が凍結したときに、凍結に起因する弁体の固着状態を解除することが、より容易になる。
【0014】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、電磁弁用の弁体、電磁弁用の弁体収納部、および、電磁弁における凍結防止方法等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.第1実施形態:
図1および
図2は、本発明の第1実施形態としての電磁弁10の断面図である。
図1は閉弁時の様子を表わし、
図2は開弁時の様子を表わす。
【0017】
本実施形態では、電磁弁10は、水素タンクおよび燃料電池を備える燃料電池システムを搭載する燃料電池自動車に設けられている。そして、電磁弁10は、燃料電池自動車の外部から水素タンクへと水素が供給される流路、および、水素タンクから燃料電池へと水素が供給される流路の切り替えを行なう。本実施形態の電磁弁10は、コイル30、本体部37、プランジャ20、弁部45、ヨーク34、スプリング31、ストッパ38、および、ハウジング36を備える。コイル30、本体部37、プランジャ20、弁部45、ヨーク34、スプリング31、およびストッパ38は、ハウジング36内に収納されている。なお、
図1および
図2に示す断面図において、プランジャ20については、断面ではなく外観形状を表わしている。
【0018】
コイル30は、コイル30に対する通電の制御により、励磁、消磁を制御される。コイル30は、略円筒形状のヨーク34内に収納されている。ヨーク34は、コイル30に通電される際には磁路の一部を形成する。ヨーク34は、磁路形成部材とも呼ぶ。
【0019】
プランジャ20は、磁性体であり、コイル30の励磁および消磁に応じて移動する。以下では、プランジャ20およびコイル30の中心軸の方向を軸線方向と呼ぶ。そして、軸線方向に垂直な方向を水平方向と呼び、水平方向のうち、特に上記中心軸を通過する方向を径方向と呼ぶ。また、軸線方向のうち、コイル30の励磁に応じてプランジャ20が移動する方向を、開弁方向とも呼び、
図1および
図2ではX方向として示す。本実施形態の電磁弁10は、プランジャ20の表面形状に特徴があるが、プランジャ20の表面形状については後に詳述する。なお、プランジャ20は、弁体とも呼ぶ。
【0020】
スプリング31は、一端がプランジャ20に取り付けられており、プランジャ20を、開弁方向とは反対方向に押圧する。以下では、軸線方向のうち、開弁方向とは反対方向を閉弁方向とも呼び、
図1および
図2ではY方向として示す。
【0021】
本体部37は、スリーブ32と基部33とを備える。本体部37において、コイル30の内部に配置された略円筒形の部分がスリーブ32であり、コイル30よりもY方向に配置され、後述する流路が内部に形成される部分が基部33である。本体部37の内部には連通空間44が形成されており、この連通空間44内に、プランジャ20が配置されている。スリーブ32は、プランジャ20の側面と対向する部材である。スリーブ32は、弁体収納部とも呼ぶ。
【0022】
基部33の内部には、複数の流路が形成されており、これらの流路は、ハウジング36内に形成されている流路と連続して設けられている。基部33の内部には、ハウジング36内に形成される流路と連続して設けられる流路として、流路40〜42が形成されている。流路40は、図示しない水素タンクと連通空間44とに連通しており、水素タンクから排出される高圧の水素ガスを連通空間44に導く。流路41は、図示しない燃料電池のアノード側流路と連通空間44とに連通可能となっており、電磁弁10が開弁したときには、流路40を介して水素タンクから連通空間44に供給された水素を、燃料電池に供給する。流路42は、図示しない開閉弁と連通空間44とに連通している。上記開閉弁は通常は閉塞されているが、上記開閉弁が開弁されたときには、連通空間44内の水素ガスを外部に排出可能になる。
【0023】
ストッパ38は、コイル30の内部に固定されており、スリーブ32と共に、既述した連通空間44の壁面の一部を構成する。ストッパ38には、スプリング31の他端が固定されている。
【0024】
弁部45は、弁体先端部23および弁座35を備える。弁体先端部23は、プランジャ20のY方向の端部に設けられている。弁座35は、本体部37(基部33)の内壁面であって、弁体先端部23と対向すると共に、流路41が開口する面において、弁体先端部23と当接可能な位置に設けられている。具体的には、弁座35は、流路41の開口部の外周全体を囲むように設けられている。弁座35は、例えばゴム、または樹脂により形成することができる。電磁弁10は、弁体先端部23が弁座35に着座することにより閉弁し、弁体先端部23が弁座35から離間することにより開弁する。これにより、流路40と流路41とを連通させるガス流路が開閉する。
【0025】
図1は、電磁弁10の消磁時における状態、すなわち、コイル30に電流を流しておらず、プランジャ20を引き上げる吸引力が生じていない様子を示す。このとき、弁部45は、スプリング31によって閉弁されているため、連通空間44内の水素ガスが、流路41側の燃料電池に供給されることはない。
【0026】
図2は、電磁弁10の励磁時における状態、すなわち、コイル30に電流を流しているときの様子を示す。このとき、弁部45は開弁しているため、流路40を介して水素タンクから連通空間44に供給された水素ガスは、流路41を介して燃料電池に供給される。
【0027】
図3は、プランジャ20の外観を拡大して示す説明図である。プランジャ20には、その側面、すなわち、スリーブ32に対向する表面に、第1の溝21および第2の溝22が設けられている。第1の溝21は、プランジャ20のY方向の端部(弁部45側の端部)からX方向に向かって、軸線方向に延びる溝である。第2の溝22は、第1の溝21におけるX方向の端部と交差して、プランジャ20の周方向に延びる環状の溝である。
【0028】
本実施形態のプランジャ20は、全体として略円柱形状となっている。そして、第1の溝21および第2の溝22が形成される部位以外の部位は、ほぼ同じ外径を有している。そのため、第1の溝21および第2の溝22が設けられている部位では、他の部位に比べて、弁体収納部であるスリーブ32との間の距離が、より長くなっている。
【0029】
以上のように構成された本実施形態の電磁弁10によれば、電磁弁10に供給されるガス中に液水が含まれて、プランジャ20とスリーブ32との間の隙間に液水が侵入し、侵入した液水が凍結する場合であっても、凍結に起因する電磁弁10の動作不良を抑えることができる。以下、凍結に起因する電磁弁10の動作不良の抑制について説明する。
【0030】
図4は、比較例としての電磁弁であって、プランジャ20に代えてプランジャ120を備える電磁弁110の構成を表わす断面図である。電磁弁110は、プランジャ120以外の部分は電磁弁10と共通しており、共通する部分には同じ参照番号を付して詳しい説明を省略する。なお、
図4の断面図において、プランジャ120については、断面ではなく外観形状を表わしている。
【0031】
図4に示すように、第1の溝21および第2の溝22が形成されない平坦な側面を有するプランジャ120を用いる場合には、プランジャ120の側面とスリーブ32との間が一様に近接するため、侵入した液水は、プランジャ120とスリーブ32との間の空隙における軸線方向と周方向の双方に、広い範囲にわたって広がる。そのため、このような液水が凍結すると、プランジャ120の軸線方向の動きが妨げられて、電磁弁110は動作不良を起こしやすくなる。
【0032】
これに対して、本実施形態の電磁弁10は、プランジャ20において、第1の溝21および第2の溝22が設けられている。このような構成では、プランジャ20とスリーブ32との間に侵入する液水の量が、より少ない場合には、
図1および
図2に示すように、侵入した液水Wが第1の溝21および第2の溝22内に保持されて、プランジャ20とスリーブ32との間の隙間に広がることが抑制される。そのため、侵入した液水が凍結する場合であっても、凍結に起因してプランジャ20の軸線方向の動きが妨げられることが抑えられる。
【0033】
また、プランジャ20とスリーブ32との間に侵入する液水の量がより多くなり、第1の溝21および第2の溝22の全体を塞ぐ量に達する場合であっても、スリーブ32との間の間隔がより広い第1の溝21および第2の溝22において液水を保持することができる。そのため、プランジャ20とスリーブ32との間の距離がより短い他の領域において液水が広がることを抑えることができる。液水は、狭い隙間で薄く広がって存在する場合よりも、より広い空間内で、より大きな塊として存在する場合の方が、凍結し難い。したがって、第1の溝21および第2の溝22で液水を保持することにより、液水の凍結に起因する電磁弁10の動作不良を抑えることができる。
【0034】
また、電磁弁10では、周方向に延びる第2の溝22が設けられているため、プランジャ20とスリーブ32との間に侵入した液水を周方向に導いて、軸線方向に広がることを抑制可能となる。プランジャ20とスリーブ32との間で液水が凍結する場合には、凍結した水が軸線方向に延びる領域が小さいほど、プランジャ20が軸線方向に移動する際に、凍結に起因するプランジャ20の固着状態を解除することがより容易になる。第1の溝21によって液水を周方向に導くことで、液水が凍結した場合であっても、プランジャ20の固着状態を解除し易くして、凍結に起因する不都合を抑制することができる。
【0035】
また、プランジャ20が、第1の溝21と共に第2の溝22を有すると、プランジャ20とスリーブ32との間の隙間に侵入した液水の排水が、より容易になり、液水の凍結に起因する電磁弁10の動作不良を抑える効果を高めることができる。電磁弁10に高圧の水素ガスが供給される際には、水素ガスは、プランジャ20とスリーブ32との間の隙間に流入して、上記隙間の内部をX方向に流れると共に、スプリング31近傍のX方向端部に達した後はY方向に流れて、上記隙間から排出されるという流れを形成する。このとき、プランジャ20に第1の溝21が形成されていると、水素ガスがY方向に流れる際に、第1の溝21および第2の溝22内に滞留する液水を、第1の溝21を介して排出することができる。
【0036】
図4に示す比較例の電磁弁110において、プランジャ120とスリーブ32との間の距離をより大きくして、侵入した液水を凍結し難くする方策も考えられる。しかしながら、プランジャ120とスリーブ32との距離をより大きくすると、電磁弁110の開弁時にプランジャ120を引き上げるために、コイル30においてより大きな電流を流す必要が生じ、消費電力が増大するため、採用し難い。本実施形態では、第1の溝21および第2の溝22が形成される部位以外は、プランジャ20とスリーブ32との間の距離を十分に縮めることが可能であるため、コイル30に流すべき電流が大きくなる不都合を抑えることができる。
【0037】
なお、電磁弁10に供給される水素ガスに液水が含まれる原因としては、例えば、電磁弁10を備える燃料電池自動車の水素タンクに水素ガスを充填する際に、燃料電池自動車における水素ガスの供給口から、雨水が浸入する場合が考えられる。また、供給される水素ガスの純度が比較的低い場合には、水素ガスに水蒸気が含まれており、この水蒸気が凝縮する場合が考えられる。このように、水素ガスに液水が含まれる場合には、電磁弁10内に高圧の水素ガスが供給されると、水素ガスの圧力によって、プランジャ20とスリーブ32との隙間に液水が侵入する場合がある。
【0038】
電磁弁10内で液水が凍結する原因としては、例えば、燃料電池自動車の環境温度の低下が挙げられる。燃料電池システムの停止中に環境温度が低下して、プランジャ20とスリーブ32との間に侵入した液水が凍結すると、次回に燃料電池システムを起動する際に、電磁弁10の開弁が妨げられて、燃料電池に対する水素ガスの供給に不都合が生じる可能性がある。
【0039】
また、電磁弁10内で液水が凍結する原因としては、電磁弁10に供給される水素ガスの温度が低いことにより、電磁弁10の開弁中に電磁弁10内で液水が凍結する場合も挙げられる。例えば、高圧の水素ガスを貯蔵する水素タンクから水素ガスを取り出す際には、例えば水素タンク内で水素ガスが断熱膨張することにより、水素タンクから放出される水素ガスの温度が低下する。このような低温の水素ガスが供給され続けることにより電磁弁10の温度が低下して、プランジャ20とスリーブ32との間に侵入した液水が凍結する場合がある。電磁弁10の開弁中に液水が凍結すると、燃料電池の発電を停止する際に電磁弁10を閉弁する動作が妨げられる。その結果、燃料電池の発電停止時に、不要な水素ガスが燃料電池に供給されることに起因する不都合が生じ得る。
【0040】
図3では、プランジャ20において、弁部45側の端部(Y方向の端部)と第2の溝22との間の距離を、距離Aとして示し、弁部45とは反対側の端部(X方向の端部)と第2の溝22との間の距離を、距離Bとして示している。なお、プランジャ20における弁部45側の端部とは、プランジャ20において、第1の溝21および第2の溝22が設けられる部分以外ではスリーブ32との間の距離が略一定である部位のY方向の端部である。本実施形態の弁体先端部23は、縮径して形成されている。そのため、本実施形態では、上記したプランジャ20のY方向の端部は、プランジャ20における弁体先端部23との境界を指す。
【0041】
この距離Aと距離Bとの間の大小関係は、任意に設定可能であるが、距離A<距離Bとすることが望ましい。プランジャ20とスリーブ32との間の隙間への液水の侵入は、プランジャ20におけるY方向の端部側から行なわれるため、距離A<距離Bとすることで、侵入した液水を、より速やかに第2の溝22に導くことができる。これにより、より速やかに、侵入した液水を周方向に広げて、液水が軸線方向にわたって長く広がることを抑制可能となる。そのため、侵入した液水が凍結したときに、凍結に起因するプランジャの固着状態を解除することが、より容易になる。また、距離A<距離Bとすることで、より速やかに、プランジャ20とスリーブ32との間の距離がより広い部位である第2の溝22において液水を保持できる。そのため、液水の凍結を抑え、凍結に起因する不都合を抑制する効果を高めることができる。
【0042】
図5は、
図1において、コイル30とプランジャ20を含む部分を拡大して示す説明図である。電磁弁10において、コイル30に通電する際には、コイル30の周囲において、プランジャ20、ストッパ38、スリーブ32、およびヨーク34にわたって磁路が形成される。これらの部材の位置関係は、コイル30に通電したときに吸引力を生じてプランジャ20を移動可能ならば任意に設定可能であるが、磁路の形成がより容易であることが望ましい。以下に、コイル30を内部に収納して磁路の一部が形成されるヨーク34と、プランジャ20との位置関係について説明する。
【0043】
図5では、
図1と同様の閉弁状態において、開弁するためにコイル30に通電したときに形成される磁路MPを、一点鎖線により概念的に示している。ヨーク34は、軸線方向に延びる円筒状の部位と共に、コイル30に対して軸線方向の弁部45側に配置される底面部39を有する。すなわち、底面部39は、コイル30の弁部45側の端部(Y方向の端部)を覆い、径方向内側に延びるように形成されている。底面部39のスリーブ32に近接する端部におけるY方向端と水平方向に重なる位置を、
図5では破線L2によって示している。また、
図5では、閉弁時における第2の溝22のY方向の端部と水平方向に重なる位置を、破線L1によって示している。
【0044】
図5に示すように、底面部39のスリーブ32に近接する端部におけるY方向端は、閉弁時において、第2の溝22のY方向の端部よりも弁部45側(Y方向側)となるように配置される(破線L1よりも破線L2の方がY方向に位置する)ことが望ましい。これにより、底面部39の端部は、閉弁時において、第2の溝22よりもY方向の位置においてプランジャ20に最も近接することができる。そのため、底面部39の端部のY方向端が第2の溝22においてプランジャ20に最も近接する場合に比べて、底面部39の端部とプランジャ20との間の距離を、より短くすることができる。そのため、プランジャ20に第2の溝22を設けていても、閉弁状態においてコイル30に通電する際に、より容易に磁路を形成することができ、電磁弁10における消費電力を抑制することができる。ただし、破線L2が破線L1よりもY方向に位置することは必須ではなく、この関係を満たさなくても、第1の溝21および第2の溝22を設けることによって凍結に起因する不都合を抑える既述した効果は得られる。
【0045】
なお、閉弁時において破線L2が破線L1よりもY方向に位置するならば、開弁時にプランジャ20がX方向に吸引されたときにも、破線L2の位置は破線L1の位置(第2の溝22のY方向の端部の位置)よりもY方向側とすることができる。電磁弁10では、閉弁時と開弁時のいずれであっても、プランジャ20における第2の溝22よりもY方向の部位と、底面部39の端部とが、水平方向に重なることが望ましい。
【0046】
本実施形態の電磁弁10では、底面部39は、ヨーク34の一部として形成したが、異なる構成としてもよい。電磁弁が、磁路の一部が形成される磁路形成部材として、コイル30に対してY方向側に配置される底面部39を有する磁路形成部材を備えており、底面部39におけるスリーブ32に近接する側の端部が、閉弁時において、プランジャ20の第2の溝22のY方向の端部よりもY方向側に配置されていればよい。
【0047】
図6〜
図8は、本実施形態、および本実施形態の変形例のプランジャの断面図である。
図6は、第1実施形態の電磁弁10が備えるプランジャ20の、
図3におけるVI−VI断面の様子を表わす断面図である。すなわち、
図6は、第1の溝21および第2の溝22を含み、プランジャ20の中心軸を含む断面の様子を表わす。
図7は、第1実施形態の第1の変形例としてのプランジャ20aにおける
図6と同様の断面を表わす。
図8は、第1実施形態の第2の変形例としてのプランジャ20bにおける
図6同様の断面を表わす。
図6〜
図8において、第1の溝21の深さは深さD1と表わしており、第2の溝22の深さは深さD2と示している。
図6〜
図8に示すように、第1の溝21および第2の溝22の深さは、任意に設定可能である。
【0048】
図6に示すように、本実施形態のプランジャ20では、第1の溝21の深さD1と、第2の溝22の深さD2とは等しい。このような構成とすれば、プランジャ20において、第1の溝21および第2の溝22の加工が容易になる。加工が容易になることで、製造コストを削減可能になる。
図7に示すように、プランジャ20aでは、第1の溝21の深さD1の方が、第2の溝22の深さD2よりも浅い。このような構成とすれば、プランジャ全体で、プランジャとヨーク34の底面部39との間の距離をより短くすることができ、磁路の確保がより容易になる。磁路の確保が容易になることで、コイル30に通電する際の消費電力の削減が可能になる。
図8に示すように、プランジャ20bでは、第1の溝21の深さD1の方が、第2の溝22の深さD2よりも深い。このような構成とすれば、第2の溝22に滞留する液水を第1の溝21を介して排水し易くなる。そのため、プランジャとスリーブ32との間に滞留する液水の凍結を抑制する効果を高めることができる。
【0049】
B.第2実施形態:
図9は、本発明の第2実施形態としての電磁弁210を、
図1および
図2と同様にして示す断面図である。電磁弁210は、第1実施形態の電磁弁10におけるプランジャ20に代えて
図4と同様のプランジャ120を備えると共に、本体部37に代えて本体部237を備える以外は第1実施形態と同様の構成であるため、第1実施形態と共通する部分には同じ参照番号を付して、詳しい説明を省略する。第2実施形態の本体部237は、スリーブ32に代えてスリーブ232を有している。プランジャ120は、弁体とも呼び、スリーブ232は、弁体収納部とも呼ぶ。なお、
図9は、
図2と同様に開弁状態を表わす。
【0050】
電磁弁210においては、プランジャ120は第1の溝21および第2の溝22を有しないが、スリーブ232の内壁面、すなわちプランジャ120に対向する表面には、第1の溝221および第2の溝222が形成されている。第1の溝221は、プランジャ120の側面に対向するスリーブ232の内壁面のY方向の端部からX方向に向かって、軸線方向に延びる溝である。第2の溝222は、第1の溝221におけるX方向の端部と交差して、スリーブ232の周方向に延びる環状の溝である。第1の溝221および第2の溝222が設けられている部位では、他の部位に比べて、弁体収納部であるスリーブ232とプランジャ120との間の距離が、より長くなっている。
【0051】
以上のように構成された本実施形態の電磁弁210によれば、スリーブ232が第1の溝221および第2の溝222を有するため、第1実施形態と同様の効果が得られる。すなわち、電磁弁210に供給されるガス中に液水が含まれて、プランジャ120とスリーブ232との間の隙間に液水が侵入し、侵入した液水が凍結する場合であっても、凍結に起因する電磁弁210の動作不良を抑えることができる。より具体的には、第1の溝221および第2の溝222において液水を保持することにより、液水の凍結を抑制することができる。また、周方向に延びる第2の溝222が設けられているため、プランジャ120とスリーブ232との間に侵入した液水を周方向に導いて、軸線方向に広がることを抑制可能となる。その結果、侵入した液水が凍結したときに、凍結に起因するプランジャ120の固着状態の解除がより容易になる。また、第1の溝221と共に第2の溝222を有するため、第1の溝221内の液水の排水が、より容易になり、液水の凍結に起因する電磁弁210の動作不良を抑える効果を高めることができる。
【0052】
図10は、
図9におけるスリーブ232とプランジャ120とを含む部分を拡大して示す説明図である。
図10では、開弁時においてプランジャ120の弁部45側の端部(Y方向の端部)と水平方向に重なる位置を、破線L3によって示している。また、第1の溝221のY方向の端部の位置を、破線L4によって示している。第2実施形態では、第1の溝221は、プランジャ120の側面に対向するスリーブ232の内壁面におけるY方向の端部からX方向に向かって延びるように形成されているが、異なる構成としてもよい。第1の溝221は、開弁時においてプランジャ120の弁部45側の端部と水平方向に重なる位置(破線L3の位置)よりY方向側からX方向に向かって軸線方向に延びるように形成されていればよい。このようにすれば、水素ガスの流れを利用して、第2の溝222に滞留する液水を、第1の溝221を介して排出することができる。ただし、電磁弁210の開弁時に直ちに上記した効果を得るためには、第1の溝221は、閉弁時においても、プランジャ120における弁部45側の端部と水平方向に重なる位置よりY方向側からX方向に向かって軸線方向に延びるように形成されることが望ましい。
【0053】
さらに、
図10では、スリーブ232に設けた第2の溝222における弁部45側の端部と水平方向に重なる位置を、破線L5によって示している。また、開弁時におけるプランジャ120の軸線方向の中心と水平方向に重なる位置を、破線L6によって示している。破線L5と破線L6の位置関係は、任意に設定可能であるが、破線L5が破線L6よりも弁部45側となることが好ましい。すなわち、第2の溝222のY方向の端部は、開弁時におけるプランジャ120の軸線方向の中心よりも弁部45側に位置することが好ましい。このようにすれば、プランジャ120とスリーブ232との隙間に、プランジャ120における弁部45側の端部から液水が侵入するときに、侵入した液水を、より速やかに第2の溝222に導くことができる。そのため、液水が凍結してプランジャ120が固着される不都合を抑制する効果を高めることができる。
【0054】
第2実施形態では、第1実施形態における
図7と同様に、第1の溝221は第2の溝222よりも浅く形成しているが(
図9および
図10参照)、異なる構成としてもよい。
図6と同様に、第1の溝221と第2の溝222の深さを同じにしてもよく、
図8と同様に、第1の溝221を第2の溝222よりも深く形成してもよい。
【0055】
C.変形例:
・変形例1:
上記した第1および第2実施形態の電磁弁10,210では、周方向に延びる第2の溝22,222は、軸線方向に延びる第1の溝21,221のX方向の端部と重なることとしたが、異なる構成としてもよい。具体的には、第2の溝は、第1の溝のX方向の端部よりもY方向の位置で、第1の溝と交差していてもよい。このような構成としても、第1の溝が液水を周方向に導くことによる同様の効果が得られる。ただし、プランジャとスリーブとの間に侵入した液水を、より確実に周方向に導くためには、第1の溝のX方向の端部が、第2の溝と重なることが望ましい。
【0056】
また、第1実施形態の電磁弁10では、第1の溝21は、プランジャ20における弁部側(Y方向側)の端部からX方向へと軸線方向に延びるように形成されているが、異なる構成としてもよい。具体的には、第1の溝21のY方向の端部は、プランジャ20におけるY方向の端部から離間していてもよい。また、第2実施形態の電磁弁210では、第1の溝221の弁部側(Y方向側)の端部は、開弁時において、プランジャ120におけるY方向の端部よりもY方向側に位置しているが、異なる構成としてもよい。すなわち、第1の溝221のY方向の端部は、開弁時において、プランジャ120におけるY方向の端部よりもX方向に位置していてもよい。
【0057】
以上のように、第1および第2の溝の形状は、第2の溝が、第1の溝におけるY方向の端部から離間する位置で第1の溝と交差して、周方向に延びる形状であればよい。
【0058】
・変形例2:
上記した第1および第2実施形態の電磁弁10,210では、第2の溝22,222は、環状の溝、すなわち、プランジャ20あるいはスリーブ232の全周にわたって連続して形成しているが、異なる構成としてもよい。第2の溝22,222は、第1の溝21,221と交差して、第1の溝21,221の周方向の幅を超えて、周方向に延びていればよい。ただし、第2の溝22,222において液水を保持する性能を確保するためには、第2の溝22,222が周方向に延びる長さは長い方が望ましい。具体的には、第2の溝22,222が周方向に延びる長さは、プランジャ20あるいはスリーブ232の全周の長さの3分の1以上が望ましく、2分の1以上がより望ましく、3分の2以上がさらに望ましい。
【0059】
・変形例3:
上記した第1および第2実施形態の電磁弁10,210では、単一の第1の溝21,221を設けたが、複数の第1の溝21,221を設けてもよい。第1の溝21,221の数が少ないほど、スリーブ32,232とプランジャ20,120との間の距離が確保し易いため、磁路の形成が容易になる。一方、第1の溝21,221の数が多いほど、第1の溝21,221を介した第2の溝22、222からの排水効率が向上する。また、1以上の第1の溝21,221を設ける際に、第1の溝21,221をより太くする、すなわち水平方向の横断面の面積をより大きくするほど、第1の溝21,221内の液水を凍結し難くすることができる。また、第1の溝21,221をより細くするほど、毛細管現象により、周囲の液水を第1の溝21,221内に容易に引き寄せることができる。第1の溝の形状は、電磁弁の使用環境や使用条件に応じて、凍結に起因する不都合を抑える所望の効果が得られるように、適宜設定すればよい。
【0060】
・変形例4:
第1実施形態の電磁弁10では、単一の第2の溝22を設けたが、複数の第2の溝を設けてもよい。
【0061】
図11は、一例として、プランジャ320の外観を示す説明図である。プランジャ320は、電磁弁10において、プランジャ20に代えて用いることができる。プランジャ320は、第1の溝21を有すると共に、第2の溝22に代えて、第2の溝322を有している。第2の溝322は、第2の溝22と同様に、第1の溝21と交差して周方向に延びるが、互いに平行な複数(
図11では4つ)の溝に分割されている点で第2の溝22とは異なっている。このように第2の溝322を分割して設けることにより、毛細管現象を利用して周囲の液水を第2の溝322内に容易に引き寄せることができる。第2の溝322が分割される数、および個々の溝の太さは特に限定されないが、凍結に起因する不都合を抑制する効果を得られる程度や加工の煩雑さを考慮して、適宜設定すればよい。なお、第2実施形態の電磁弁210において、スリーブ232に設ける第2の溝222を、複数に分割することとしてもよい。
【0062】
・変形例5:
上記した第1および第2実施形態の電磁弁10,210では、弁体収納部であるスリーブ32,232と基部33とは、本体部37,237として一体で形成されているが、別体で形成することとしてもよい。
【0063】
・変形例6:
上記した第1および第2実施形態の電磁弁10,210では、コイル30、本体部37、プランジャ20,120、弁部45、ヨーク34、スプリング31、およびストッパ38を備える構造の全体が、ハウジング36内に収納されることとしたが、異なる構成としてもよい。例えば、上記構造の一部がハウジング36内に収納されていればよく、基部33に形成される流路が、水素タンクおよび燃料電池と連通可能であればよい。
【0064】
・変形例7:
上記した第1および第2実施形態の電磁弁10,210は、直動式の電磁弁としたが、異なる構成としてもよい。例えば、パイロット式電磁弁に本願発明を適用することもできる。この場合には、パイロット弁を弁体とし、パイロット弁を内部に収納する部材を弁体収納部とすることができる。あるいは、パイロット弁の開弁によって開弁される主弁を弁体とし、主弁を内部に収納する部材を弁体収納部とすることができる。弁体は、コイルの励磁により直接的に開弁されるプランジャに限らず、パイロット式弁の主弁のように、コイルへの通電に伴い軸線方向に移動して開弁すればよい。このような場合であっても、弁体と弁体収納部のいずれかに、既述した第1の溝および第2の溝と同様の溝を設けるならば、実施形態と同様の効果が得られる。
【0065】
・変形例8:
上記した第1および第2実施形態の電磁弁10,210は、水素ガスの流路に設けたが、異なる構成としてもよい。本願発明の電磁弁を、液水が混入する可能性のあるガス流路に用いるならば、電磁弁の内部で液水が凍結することに起因する不都合を抑える同様の効果が得られる。
【0066】
本発明は、上述の実施形態や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。