(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
乗員や積荷による車両のピッチ方向の姿勢変化に対応して前照灯による光の照射方向(光軸)を調整する制御(オートレベリング制御)が知られている。このようなオートレベリング制御によれば、車両の姿勢変化があった場合にも対向車両や先行車両などに対してグレアを与えることを防ぐことができる。オートレベリング制御を実現する先行技術の一例として、車両に設置された加速度センサによって検出される加速度を用いるものが特開2009−126268号公報(特許文献1)や特許第5787649号公報(特許文献2)などに開示されている。
【0003】
上記のような従来の加速度センセを用いるオートレベリング制御においては、基本的に、加速度センサの第1軸を車両前後方向に対応付け、第2軸を車両上下方向に対応付けて、各々の軸における加速度を検出し、その検出値に基づいて光軸調整を行う。このとき、多くの場合、第1軸と第2軸の各々から得られる検出値と重力加速度Gとの関係は理想的な状態であるとして取り扱われる。具体的には、車両がいかなる姿勢となっても第1軸と第2軸の各々の加速度の二乗の平方根をとった値が一定であり、実際の重力加速度(1G)と等しいことを前提としていることが多い。
【0004】
しかしながら、加速度センサの第1軸と第2軸が完全に直交している場合が少ないこと、第1軸と第2軸によって定まる平面と重力加速度のベクトルとが完全に平行とは限らないこと、第1軸と第2軸の検出感度に差を生じ得ること、重力とは無関係な固定値の誤差が含まれ得ること、加速度センサの経年劣化や故障による検出値のズレ等の様々な要因により、車両の姿勢角度(車両前後方向と路面とのなす角度)に応じて、第1軸と第2軸の各々の加速度の二乗の平方根をとった値が変化してしまう場合がある。この場合、加速度に基づいて求められる車両のピッチ方向の姿勢角度の精度が低下する状況となるので、その姿勢角度に基づくオートレベリング制御の信頼性が低下するという不都合がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、第1実施形態の車両用灯具システムの構成を示すブロック図である。
図1に示す車両用灯具システムは、制御部10、第1加速度センサ11、第2加速度センサ12、第3加速度センサ13、2つのランプユニット14を含んで構成されている。この車両用灯具システムは、
図2に模式的に示すように、停車中あるいは走行中における各ランプユニット14による光照射方向(光軸)aを車両のピッチ方向の姿勢変化に応じて可変に制御するものである。
【0011】
制御部10は、車両用灯具システムの動作を制御するものであり、センサ異常判定部20、角度算出部21、光軸設定部22を含んで構成されている。この制御部10は、例えばCPU、ROM、RAM等を備えるコンピュータシステムにおいて所定の制御プログラムを実行させることによって実現される。
【0012】
第1加速度センサ11は、少なくとも互いに直交する2つの軸の加速度を検出可能なセンサであり、例えば、車両の前後方向における略中央の所定位置に設置されている。この第1加速度センサ11は、例えば1つの軸を車両の前後方向に対応付け、他の1つの軸を車両の上下方向に対応付けて設置される。
【0013】
第2加速度センサ12は、少なくとも互いに直交する2つの軸の加速度を検出可能なセンサであり、例えば、車両内において第1加速度センサ11の設置位置よりも相対的に車両の前側の所定位置に設置されている。この第2加速度センサ12は、例えば1つの軸を車両の前後方向に対応付け、他の1つの軸を車両の上下方向に対応付けて設置される。
【0014】
第3加速度センサ13は、少なくとも互いに直交する2つの軸の加速度を検出可能なセンサであり、例えば、車両内において第1加速度センサ11の設置位置よりも相対的に車両の後側の所定位置に設置されている。この第3加速度センサ13は、例えば1つの軸を車両の前後方向に対応付け、他の1つの軸を車両の上下方向に対応付けて設置される。
【0015】
ここで、上記した第2加速度センサ12および第3加速度センサ13は、本来、車両におけるランプユニット14の光軸調整ではない他の用途のために備わっているセンサであるが、本実施形態ではその検出値をランプユニット14の光軸調整にも用いる。ここでいう「他の用途」とは、例えば、電子制御サスペンション装置、車両の横滑り防止装置、ヒルスタートアシスト装置(坂道発進補助装置)、電子パーキングブレーキ装置、ロールオーバー(横転)検出装置などにおける加速度検出の用途である。
【0016】
各ランプユニット14は、車両前部の所定位置に設置されており、車両前方へ光を照射するための光源や反射鏡等を有して構成されている。各ランプユニット14は、車両のピッチ方向にて光軸aを上下に調整するための光軸調整部23を有している。各光軸調整部23は、例えば各ランプユニット14の光源の向きを上下に調整するアクチュエータを有しており、制御部10から与えられる制御信号に基づいて動作する。
【0017】
センサ異常判定部20は、第1加速度センサ11の検出値から算出される重力加速度の値を重力加速度の実際値(1G)と比較することにより、第1加速度センサ11の動作が正常であるか異常であるかを判定する。
【0018】
角度算出部21は、第1加速度センサ11から得られる加速度に基づいて、車両のピッチ方向における姿勢を示す情報である姿勢角度(車両角度)を算出する。また、角度算出部21は、センサ異常判定部20により第1加速度センサ11の動作状態が異常であると判定された場合には、第2加速度センサ12および第3加速度センサ13の各検出値を用いて車両の姿勢角度を算出する。
【0019】
光軸設定部22は、角度算出部21によって算出される姿勢角度に基づいて、各ランプユニット14の光軸aを制御するための制御信号を生成し、各ランプユニット14へ出力する。
【0020】
図3は、加速度センサの設置状態を説明するための図である。
図3(A)に示すように、本実施形態では説明の簡略化のために、第1加速度センサ11の第1軸であるX軸が車両の前後方向(水平方向)と一致し、第2軸であるY軸が車両の上下方向(垂直方向)と一致するように加速度センサ12が設置されているものとする。同様に、第2加速度センサ12、第3加速度センサ13の各々の第1軸であるX軸も車両の前後方向(水平方向)と一致し、第2軸であるY軸が車両の上下方向(垂直方向)と一致しているものとする。また、
図3(A)においてAの符号を付したベクトルで示されているのは車両進行方向加速度である。
【0021】
図示のように、第1加速度センサ11は、車両の前後方向において第2加速度センサ12と第3加速度センサ13の間の所定位置に設置されている。第2加速度センサ12は、例えば車両の前輪に対応付けられたサスペンションに近い車体の所定位置に設置されている。第3加速度センサ13は、例えば車両の後輪に対応付けられたサスペンションに近い車体の所定位置に設置されている。
【0022】
図3(B)は、乗員や積荷などの影響で車両の後部が相対的に下がり前部が相対的にあがるように姿勢変化した状態を示す。この場合、車両の進行中(加速中)においては、図示のように第1加速度センサ11のX軸、Y軸は車両の姿勢変化に伴って傾くが、車両進行方向加速度Aは傾かずに、車両の位置する路面と平行になる。この関係を拡大して示したのが
図4である。
図3(B)に示すように、路面と水平な方向と車両の前後方向とのなす角度θaが車両の姿勢角度に対応する。この関係は、路面が水平である場合のみならず路面が傾いている場合にも同じである(
図3(C)参照)。路面が傾いている場合には、第1加速度センサ11は、路面の傾斜角θbと車両の姿勢角度θaの合計角度θ(=θa+θb)だけ傾いた配置となる。
【0023】
図5は、センサ異常判定部の動作内容について説明するための図である。第1加速度センサ11が理想的なものであれば、そのX軸、Y軸の各加速度の二乗の平方根(=√(x
2+y
2))は、重力加速度の実際値(1G=9.80655m/s
2)と等しくなる。この関係は、第1加速度センサ11の姿勢が変化した場合、すなわち車両の姿勢角度が変化した場合であっても同じである。しかし、実際には上記した様々な要因により、図示のように、第1加速度センサ11の検出値から求める重力加速度の値は、重力加速度の実際値(1G)と差異を生じる場合がある。また、その差異は図示のように第1加速度センサ11の姿勢角度に依存して変化する場合もある。
【0024】
したがって、センサ異常判定部20は、第1加速度センサ11のX軸、Y軸の各加速度の二乗もしくはその平方根(=√(x
2+y
2))を求め、その値と重力加速度(もしくはその二乗)の実際値との差異が所定値を超えた場合に、第1加速度センサ11の動作が異常であると判定する。ここでいう所定値とは、任意に設定される値であり、例えば平方根をとる前の値である(x
2+y
2)における場合で0.002と設定することができる。この場合には、0.002以上の差異がある場合には、第1加速度センサ11の動作が異常であると判定される。なお、平方根をとった値に対して所定値を定めて判定を行ってもよい。
【0025】
図6は、車両用灯具システムの動作を説明するためのフローチャートである。ここでは、主に制御部10による処理内容が示されている。なお、ここに示す各処理ブロックは、相互に矛盾を生じない限りにおいて順番を入れ替えることも可能である。
【0026】
制御部10は、第1加速度センサ11によって検出されるX,Y軸の各加速度である第1加速度を取得する(ステップS10)。
【0027】
次に、制御部10のセンサ異常判定部20は、取得された第1加速度の値に基づいて重力加速度(もしくはその二乗値)を算出し(ステップS11)、その算出した重力加速度の値に基づいて、第1加速度センサ11の動作が正常であるか異常であるかを判定する(ステップS12)。
【0028】
センサ異常判定部20により第1加速度センサ11の動作が正常であると判定された場合には(ステップS12;YES)、第1加速度センサ11から出力される第1加速度(X,Y軸の各加速度)の値を用いた通常の光軸調整処理が実行される(ステップS13)。具体的には、第1加速度の値を用いて角度算出部21によって車両の姿勢角度が算出され、その姿勢角度θに基づいて、光軸設定部22により各ランプユニット14の光軸aを制御するための制御信号が生成され、各ランプユニット14へ出力される。各ランプユニット14では、光軸設定部22から与えられる制御信号に基づいて光軸調整部23により光軸調整が行われる。その後、ステップS10へ戻り、以降の処理が繰り返される。
【0029】
ここで、第1加速度を用いた通常の光軸調整処理については、特段に限定がなく公知の種々の技術を用いることが可能であり、例えば上記した特許文献1、2に開示されるような公知技術を用いることができる
【0030】
他方、センサ異常判定部20により第1加速度センサ11の動作が異常であると判定された場合には(ステップS12;NO)、制御部10は、第2加速度センサ12、第3加速度センサ13によって検出されるX,Y軸の各加速度である第2加速度、第3加速度を取得する(ステップS14)。
【0031】
この場合、第2加速度、第3加速度の値を用いた代替処理としての光軸調整処理が実行される(ステップS15)。具体的には、第2加速度および第3加速度の値を用いて角度算出部21によって車両の姿勢角度が算出され、その姿勢角度θに基づいて、光軸設定部22により各ランプユニット14の光軸aを制御するための制御信号が生成され、各ランプユニット14へ出力される。各ランプユニット14では、光軸設定部22から与えられる制御信号に基づいて光軸調整部23により光軸調整が行われる。その後、ステップS10へ戻り、以降の処理が繰り返される。
【0032】
ここでは、第2加速度と第3加速度の値の平均をとり、その平均値を用いて姿勢角度が求められてもよいし、第2加速度と第3加速度の各々に基づいて姿勢角度を求めた後にそれぞれの姿勢角度の平均をとってもよい。また、第2加速度と第3加速度のいずれか一方のみを用いてよい。さらに、第1加速度と第2加速度(および/又は第3加速度)の平均値を用いて姿勢角度を求めてもよいし、第1加速度と第2加速度(および/又は第3加速度)の各々に基づいて姿勢角度を求めた後にそれぞれの姿勢角度の平均をとってもよい。
【0033】
なお、代替処理としての光軸調整処理としては、単に、各ランプユニット14の光軸を初期設定に戻す等のフェイルセーフ処理を行ってもよい。
【0034】
図7は、第2実施形態の車両用灯具システムの構成を示すブロック図である。第1実施形態からの変更点は、GPSセンサ15、重力加速度データベース(DB)16が追加され、かつ制御部10内に基準値設定部24が追加された点であり、その他は第1実施形態と共通である。第2実施形態の車両用灯具システムでは、車両の現在位置に応じて、センサ異常判定部20における判定に用いる基準値(重力加速度の実際値)を可変に設定する点が第1実施形態と異なる。以下、主にこの変更点について詳細に説明する。
【0035】
GPSセンサ15は、車両内の所定位置に設置されており、車両の存在する地点(位置情報)を検出する。このGPSセンサ15としては、車両に予め備わっているカーナビゲーションシステム等に含まれるものを兼用してもよい。
【0036】
重力加速度DB16は、地上の各地点における重力加速度の実際値を格納するデータベースである。すなわち、地上における重力加速度の実際値は、厳密にいえば各地点において異なっているので、重力加速度DB16は、各地点における重力加速度の実際値をデータテーブルとして格納している。ここでいう各地点とは、例えば地上を数km四方のメッシュで区切った範囲として定義することができる。
【0037】
制御部10の基準値設定部24は、GPSセンサ15によって検出される車両の現在位置に応じて、その地点に対応する重力加速度の実際値を重力加速度DB16から読み出し、それに基づいて、センサ異常判定部20による判定に用いる基準値(重力加速度の実際値)を可変に設定する。具体的には、第1実施形態では基準値としての重力加速度の実際値を1Gで固定していたが、本実施形態では、基準値設定部24は、基準値としての重力加速度の実際値を各地点に応じて可変に設定する。この基準値設定部24による処理は、例えば、
図6に示すフローチャートにおいて、ステップS12よりも以前に追加することができる。
【0038】
センサ異常判定部20は、上記の基準値設定部24によって設定される重力加速度の実際値と、第1加速度センサ11による検出値に基づいて算出される重力加速度との差異に基づいて第1加速度センサ11の異常の有無を判定する。
【0039】
以上のような各実施形態によれば、加速度センサを用いたオートレベリング制御において、主に用いられる第1加速度センサの動作に異常の可能性がある場合には、他の加速度センサによる検出値を加味して制御が行われ、あるいは所定のフェイルセーフ制御が行われるので、オートレベリング制御における信頼性を高めることができる。また、第2実施形態によれば、各地点における重力加速度の違いを考慮した制御が行われるので、オートレベリング制御における信頼性をさらに高めることができる。
【0040】
なお、本発明は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態では、説明の簡略化のために、加速度センサ12のX軸が車両の前後方向と一致し、Y軸が車両の上下方向と一致する場合を例示していたが、X軸、Y軸は車両の前後方向、上下方向から傾いて配置されていてもよい。
【0041】
また、上記した実施形態ではランプユニットの光源の向きをアクチュエータで調整していたが、光軸調整方法はこれに限られない。例えば、ランプユニットの光源が複数の発光素子をマトリクス状に配列した構成を有するような場合であれば、姿勢角度に応じて、点灯させる発光素子の行を上下に可変させることによっても、オートレベリング制御を実現することができる。