特許第6916142号(P6916142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6916142
(24)【登録日】2021年7月19日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】測距システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 11/02 20100101AFI20210729BHJP
【FI】
   G01S11/02
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-65995(P2018-65995)
(22)【出願日】2018年3月29日
(65)【公開番号】特開2019-174418(P2019-174418A)
(43)【公開日】2019年10月10日
【審査請求日】2020年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大石 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】古賀 健一
【審査官】 東 治企
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−216561(JP,A)
【文献】 特開2016−192733(JP,A)
【文献】 特開2017−218723(JP,A)
【文献】 特開2006−042201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 11/00−11/10
G01S 5/00−5/14
G01S 13/74−13/78
E05B 49/00−49/04
H04B 7/24−7/26
H04W 4/00−99/00
H04L 1/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1通信機及び第2通信機の一方から他方に、複素信号からなるベースバンド信号を周波数変換した電波を複数チャネルで送信し、当該電波の伝搬特性を求めて、当該伝搬特性から前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離を演算する測距システムであって、
パワースペクトルのピーク周波数を規定量シフトしたベースバンド信号を少なくとも1以上のチャネルで作ることにより、複数のチャネル間で電波の周波数スペクトル上の同一周波数における位相を測定可能にして、前記ベースバンド信号を周波数変換した電波を送信アンテナから送信させる周波数シフト部と、
受信した電波をフーリエ変換することで求まる周波数スペクトルの伝搬特性において、受信したチャネルごとに、周波数シフトされた前記ベースバンド信号のDC成分の位相を抽出するDC成分抽出部と、
DC成分抽出部により抽出された各チャネルの位相を比較し、その位相比較の判定結果を基にチャネルの異常有無を判定する異常チャネル判定部と
を備えた測距システム。
【請求項2】
前記異常チャネル判定部は、位相比較の判定結果が異常無しの場合、その位相の測定に使用したチャネルを正常チャネルと判定する
請求項1に記載の測距システム。
【請求項3】
前記異常チャネル判定部は、位相比較の判定結果が異常有りの場合、その位相の測定に使用したチャネルのうち、少なくとも1つを異常チャネルとして判定する
請求項1又は2に記載の測距システム。
【請求項4】
前記周波数シフト部は、各チャネルで前記同一周波数を目標に前記ベースバンド信号をシフトして位相が測定されるにあたり、目標の同一周波数が同じとなっている各チャネルの位相を1つの組とした場合、この組を前記同一周波数ごとに複数作り、
前記異常チャネル判定部は、これら各組ごとに得た位相比較の判定結果を基に、チャネルの異常有無を判定する
請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の測距システム。
【請求項5】
前記異常チャネル判定部は、複数組で位相比較の判定結果が異常有りとなった場合、これら位相判定の両方で使用した共通のチャネルを異常チャネルと判定する
請求項4に記載の測距システム。
【請求項6】
測定された複数の伝搬特性を合成する合成部と、
合成により得られた伝搬特性を逆フーリエ変換する逆フーリエ変換部とを備え、
逆フーリエ変換の演算結果から、前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離を演算する測距部とを備える
請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の測距システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2者間の距離を測定する測距システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2者間で電波を送受信し合って、電波の伝搬時間から2者間の距離を演算する測距システムが周知である(特許文献1等参照)。この測距システムでは、基地局から端末に電波を送信し、その電波を端末から基地局に返信させる。そして、このときの電波のやり取りに要した伝搬時間から、基地局と端末との間の距離を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−38348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えばブルートゥース(Bluetooth:登録商標)を用いた測距システムとして、各チャネルの中心周波数の位相から測距を行う手法が検討されている。しかし、この手法において、ノイズが入ったチャネルを測距に用いてしまうと、距離を正確に求めることができない問題があった。
【0005】
本発明の目的は、ノイズが入ったチャネルの検出を可能にした測距システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記問題点を解決する測距システムは、第1通信機及び第2通信機の一方から他方に、複素信号からなるベースバンド信号を周波数変換した電波を複数チャネルで送信し、当該電波の伝搬特性を求めて、当該伝搬特性から前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離を演算する構成であって、パワースペクトルのピーク周波数を規定量シフトしたベースバンド信号を少なくとも1以上のチャネルで作ることにより、複数のチャネル間で電波の周波数スペクトル上の同一周波数における位相を測定可能にして、前記ベースバンド信号を周波数変換した電波を送信アンテナから送信させる周波数シフト部と、受信した電波をフーリエ変換することで求まる周波数スペクトルの伝搬特性において、受信したチャネルごとに、周波数シフトされた前記ベースバンド信号のDC成分の位相を抽出するDC成分抽出部と、DC成分抽出部により抽出された各チャネルの位相を比較し、その位相比較の判定結果を基にチャネルの異常有無を判定する異常チャネル判定部とを備えた。
【0007】
本構成によれば、あるチャネルから測定した位相と、これとは別のチャネルから測定した位相とを比較した場合、チャネルにノイズが入っていると、ノイズ有りの比較結果が得られる。よって、測距を複数のチャネルの通信を通じて行う測距システムにおいて、ノイズが入ったチャネルの有無を検出することが可能となる。
【0008】
前記測距システムにおいて、前記異常チャネル判定部は、位相比較の判定結果が異常無しの場合、その位相の測定に使用したチャネルを正常チャネルと判定することが好ましい。この構成によれば、ノイズがない可能性が高いチャネルを正常チャネルとして認識することが可能となる。
【0009】
前記測距システムにおいて、前記異常チャネル判定部は、位相比較の判定結果が異常有りの場合、その位相の測定に使用したチャネルのうち、少なくとも1つを異常チャネルとして判定することが好ましい。この構成によれば、ノイズの入った可能性の高いチャネルを漏れなく検出するのに有利となる。
【0010】
前記測距システムにおいて、前記周波数シフト部は、各チャネルで前記同一周波数を目標に前記ベースバンド信号をシフトして位相が測定されるにあたり、目標の同一周波数が同じとなっている各チャネルの位相を1つの組とした場合、この組を前記同一周波数ごとに複数作り、前記異常チャネル判定部は、これら各組ごとに得た位相比較の判定結果を基に、チャネルの異常有無を判定することが好ましい。この構成によれば、どのチャネルがノイズ入りのものかを精度よく判定するのに有利となる。
【0011】
前記測距システムにおいて、前記異常チャネル判定部は、複数組で位相比較の判定結果が異常有りとなった場合、これら位相判定の両方で使用した共通のチャネルを異常チャネルと判定することが好ましい。この構成によれば、ノイズが入ったチャネルを精度よく検出することが可能となる。
【0012】
前記測距システムにおいて、測定された複数の伝搬特性を合成する合成部と、合成により得られた伝搬特性を逆フーリエ変換する逆フーリエ変換部と、逆フーリエ変換の演算結果から、前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離を演算する測距部とを備えることが好ましい。この構成によれば、逆フーリエ変換の演算結果を用いて、距離を精度よく求めることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ノイズが入ったチャネルを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態の測距システムが用いられる通信機のモデル図。
図2】測距システムの電波送信部及び電波受信部の構成図。
図3】測距システムにおいて距離演算を行う要素の構成図。
図4】測距の手順を示すフローチャート。
図5】(a),(b)は「0」Hz中心のベースバンド信号の周波数スペクトル図、(c)はそのベースバンド信号の電波の周波数スペクトル図。
図6】(a)〜(c)はDC成分の求め方を説明するのに用いる位相スペクトル図。
図7】複数チャネルの各電波から構築される振幅及び位相を示す特性図。
図8】(a),(b)は「−fs」中心のベースバンド信号の周波数スペクトル図、(c)はそのベースバンド信号の電波の周波数スペクトル図。
図9】(a),(b)は「+fs」中心のベースバンド信号の周波数スペクトル図、(c)はそのベースバンド信号の電波の周波数スペクトル図。
図10】ノイズ有無の判定を説明するのに用いる電波の周波数特性図。
図11】ノイズ有無の判定を説明するのに用いる電波の周波数特性図。
図12】ノイズ有無の判定を説明するのに用いる電波の周波数特性図。
図13】ノイズ有無の判定を説明するのに用いる電波の周波数特性図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、測距システムの一実施形態を図1図13に従って説明する。
図1に示すように、測距システム1は、第1通信機2及び第2通信機3の間の距離Lを、無線通信を通じて測定する。本例の測距システム1は、無線によって接続された第1通信機2及び第2通信機3の間で電波Siを送受し、電波Siの伝搬特性(振幅及び位相)を求める。そして、その伝搬特性から等価的にインパルスの伝搬時間Tx、すなわち距離Lを演算する。本例の場合、例えば第1通信機2が車両の電子キーであり、第2通信機3が車両である。第1通信機2及び第2通信機3の通信は、例えばブルートゥース(Bluetooth:登録商標)であることが好ましい。
【0016】
図2に示すように、測距システム1は、電波Siの送信側となる電波送信部6と、電波Siの受信側となる電波受信部7とを備える。電波送信部6は、波形生成部8、変調部9、DAコンバータ10、ミキサ11、発振器12及び送信アンテナ13を備える。
【0017】
波形生成部8は、第1通信機2及び第2通信機3の間で送信される電波Siとして、周期的なデジタル符号からなる周期信号Skを生成し、これを変調部9に出力する。周期信号Skは、例えば2値化符号の「0」及び「1」が周期Tごとに切り替わる信号からなる。変調部9は、GFSK(Gaussian Frequency Shift Keying)により信号変調を行う。周期信号Skは、変調部9で変調されて、DAコンバータ10でD/A変換される。そして、D/A変換後のベースバンド信号Sbがミキサ11で発振器12の搬送波と重畳されて、送信アンテナ13から電波Siとして送信される。
【0018】
電波受信部7は、受信アンテナ16、ミキサ17、発振器18、ADコンバータ19及びフーリエ変換部20を備える。電波受信部7は、電波送信部6から送信された周期信号Skの電波Siを受信アンテナ16で受信すると、受信信号をミキサ17で元のベースバンド信号Sbに変換し、これをADコンバータ19でA/D変換する。そして、A/D変換後の信号がフーリエ変換部20によって変換(FFT変換)されることにより、受信信号の周波数スペクトル(伝搬特性)が測定される。伝搬特性は、送受信された電波Siの振幅及び位相の各データである。
【0019】
測距システム1は、通信時の伝搬特性の測定を、通信する複数のチャネルの全てで実行する。また、第1通信機2から第2通信機3に電波Siを送信して伝搬特性を測定するとともに、第2通信機3から第1通信機2にも電波Siを送信して伝搬特性を測定する。すなわち、第1通信機2及び第2通信機3の両方で伝搬特性の測定を行う。この場合、第1通信機2及び第2通信機3の両方に、電波送信部6及び電波受信部7が各々設けられることになる。
【0020】
電波受信部7は、受信電波の伝搬特性のDC成分を抽出するDC成分抽出部21を備える。DC成分抽出部21は、受信した電波Siの伝搬特性として振幅及び位相のDC成分(DC成分伝搬特性)を抽出する。DC成分は、ベースバンド信号Sb(Sb’)のフーリエ変換後(FFT変換後)の周波数スペクトルにおいて、周波数が「0」Hzのときの特性値である。本例のDC成分抽出部21は、受信した電波Siをフーリエ変換することによって求まる周波数スペクトルの伝搬特性において、DC成分付近の位相を基にDC成分の位相を補間して、DC成分伝搬特性を算出する。
【0021】
図3に示すように、測距システム1は、乗算部23、合成部24、逆フーリエ変換部25及び測距部26を備える。なお、乗算部23、合成部24、逆フーリエ変換部25及び測距部26の機能群は、第1通信機2及び第2通信機3のどちらに設けられてもよい。
【0022】
乗算部23は、第1通信機2から第2通信機3に電波送信して測定された伝搬特性と、第2通信機3から第1通信機2に電波送信して測定された伝搬特性とを乗算する。このように、本例の乗算部23は、第1通信機2から第2通信機3に電波送信して求まったFFT結果と、第2通信機3から第1通信機2に電波送信して求まったFFT結果とを乗算する。
【0023】
合成部24は、各チャネルにおいて抽出されたDC成分伝搬特性を、これら複数チャネル分、合成する。本例の合成部24は、各チャネルにおいて抽出されたDC成分伝搬特性を合成することにより、これらを並べたベクトルから構築される周波数データH(f)を求める。
【0024】
逆フーリエ変換部25は、合成後の伝搬特性を逆フーリエ変換することにより、測距に必要な演算結果を算出する。本例の逆フーリエ変換部25は、合成部24により求められた周波数データH(f)を逆フーリエ変換し、その演算結果として時間データy(t)を求める。
【0025】
測距部26は、合成により得られた伝搬特性を逆フーリエ変換した演算結果(逆フーリエ変換部25の演算結果)から、第1通信機2及び第2通信機3の間の距離Lを算出する。本例の測距部26は、逆フーリエ変換部25により求められた時間データy(t)から、第1通信機2及び第2通信機3の間の距離Lを算出する。
【0026】
測距システム1は、測距に用いる複数チャネルにおいてノイズが入ったチャネルを検出する異常チャネル検出機能を備える。本例の異常チャネル検出機能は、電波Siの周波数スペクトル上の同一周波数において、その位相∠θ(f)を複数のチャネルから測定し、これら位相∠θ(f)を用いて、チャネルが正常であるか否かを判定する。本例の場合、異常チャネル検出機能は、電波Siで測距するにあたり、複素信号の振幅特性において「0」Hzから規定量fsシフトさせたベースバンド信号Sb’を作り、このベースバンド信号Sb’から位相∠θ(f)を測定する処理を各チャネルで行い、このようにして求めた位相∠θ(f)からチャネルの異常有無を判定する。
【0027】
この場合、測距システム1は、あるベースバンド信号Sbに対してパワースペクトルのピーク周波数を規定量fsシフトしたベースバンド信号Sb’を作成する周波数シフト部29(図2参照)を備える。本例の周波数シフト部29は、ADコンバータ19に設けられている。周波数シフト部29は、パワースペクトルのピーク周波数を規定量シフトしたベースバンド信号Sb’を少なくとも1以上のチャネルで作ることにより、複数のチャネル間で電波Siの周波数スペクトル上の同一周波数における位相∠θ(f)を測定可能にして、そのベースバンド信号Sb’の基づく電波Siを送信アンテナ13から送信させる。
【0028】
本例の周波数シフト部29は、各チャネルにおいて、例えば元のベースバンド信号Sbを規定量fsシフトさせることにより、規定量fsを中心としたベースバンド信号Sb’を作成する。そして、周波数シフト部29は、このベースバンド信号Sb’をミキサ11でアップコンバートし、これを電波Siとして送信アンテナ13から送信させる。
【0029】
DC成分抽出部21は、周波数シフトされていないベースバンド信号SbのDC成分伝搬特性のみならず、周波数シフトされたベースバンド信号Sb’からもDC成分伝搬特性を抽出する。本例のDC成分抽出部21は、通信される複数の各チャネルにおいて、それぞれのベースバンド信号Sb’のDC成分伝搬特性を抽出する。
【0030】
測距システム1は、周波数シフトされたベースバンド信号Sb’の伝搬特性(DC成分伝搬特性)を基にチャネルの異常有無を判定する異常チャネル判定部31を備える。本例の異常チャネル判定部31は、DC成分抽出部21により抽出された各チャネルの位相∠θ(f)、すなわち各チャネルにおいて周波数シフトされたベースバンド信号Sb’の位相∠θ(f)を比較し、その位相比較の判定結果を基に、チャネルの異常有無を判定する。
【0031】
次に、図4図13を用いて、本実施例の測距システム1の作用及び効果を説明する。
[測距時の動作]
図4に示すように、ステップ101において、第1通信機2は、電波Siを第2通信機3に送信して、第2通信機3に伝搬特性を測定させる。本例の場合、まず波形生成部8は、「0」及び「1」が周期的に繰り返される周期信号Skを生成し、これを変調部9に出力する。変調部9は、「0」及び「1」の繰り返し信号の周期信号SkをGFSK変調し、これをDAコンバータ10に出力する。そして、DAコンバータ10を通過した複素信号は、ミキサ11(周波数シフト部29)に出力される。
【0032】
図5(a)は、DAコンバータ10の信号出力点Paにおいて、周波数シフトをしていないベースバンド信号Sbのパワースペクトル(振幅特性)を図示したものである。同図に示されるように、このベースバンド信号Sbは、パワースペクトルのピーク周波数が「0」Hzとなった信号である。ピーク周波数は、パワースペクトルにおいて振幅が最大値をとる際の周波数をいう。そして、ベースバンド信号Sbは、ミキサ11で中心周波数fcにアップコンバートされた後、搬送波に乗せられ、送信アンテナ13から電波Siとして所定チャネルで送信される。第2通信機3は、第1通信機2から送信された電波Siを受信アンテナ16で受信する。
【0033】
図5(b)に、受信アンテナ16の信号経路上の一点Pbにおいて、周波数シフトをしていない場合のベースバンド信号Sbの電波の周波数スペクトル(図5(b)の紙面上図がパワースペクトル、図5(b)の紙面下図が位相スペクトル)を図示する。同図に示されるように、パワースペクトルは、電波Siの中心周波数fcのときにピークが立った振幅変化をとる。また、伝搬による位相変化特性は、周波数と位相とが比例して上昇していく位相変化をとる。なお、ここでは、中心周波数fcのときに位相θ0をとっている。
【0034】
受信アンテナ16で受信された電波は、ミキサ17によってダウンコンバートされ、ベースバンド信号Sbに変換される。そして、ダウンコンバートされたベースバンド信号Sbは、ADコンバータ19によってA/D変換され、フーリエ変換部20に出力される。フーリエ変換部20は、A/D変換後の信号をフーリエ変換し、ベースバンド信号Sbの周波数スペクトル、すなわち伝搬特性を測定する。
【0035】
図5(c)に、ADコンバータ19の信号出力点Pcにおいて、周波数シフトをしていない場合のA/D変換後のベースバンド信号Sbの周波数スペクトル(図5(c)の紙面上図がパワースペクトル、図5(c)の紙面下図が位相スペクトル)を図示する。パワースペクトルは、周波数が「0」Hz(パワースペクトルのDC成分)のときにピーク(振幅P(f))が立った振幅変化をとる。本例の場合、周期Tで「0」,「1」が繰り返される周期信号Skを送信して測距するので、パワースペクトルは、1/T周期でスペクトルが立つ波形をとる。パワースペクトルは、DC成分である周波数「0」Hzを頂点とした放物線に沿って値が変化する波形をとる。また、位相スペクトルも、1/T周期でスペクトルが立つ波形をとっていることが分かる。
【0036】
ところで、電波送受信時、A/D変換やD/A変換のサンプリングタイミングの際に信号に遅延が生じるが、仮に遅延が発生した場合には、図6(a)に示すように、位相特性の傾きは変化するものの、DC成分である周波数「0」Hzの位相は変化しない。このように、周波数「0」Hzの位相には遅延の誤差が現れないので、この位相を電波(キャリアの中心周波数)の位相として抽出すれば、遅延の誤差をキャンセルできることが分かる。よって、D/A変換やA/D変換による位相誤差は、「0」Hzのとき「0」であるので、ベースバンド信号Sbが「0」Hzのときの位相θ0は、対応する受信信号の位相θ0と等しくなる。
【0037】
しかし、図6(b)に示すように、実際のところ、周波数「0」Hzの成分にはオフセットによる誤差が生じ、正しくDC成分を抽出することができない。
そこで、図6(c)に示すように、DC成分抽出部21は、位相スペクトルのDC成分(周波数「0」)の直近前後の位相θm,θpを利用して、DC成分の位相θ0を算出する。本例の場合、DC成分(周波数「0」)の1つ前の位相スペクトルの位相θmと、DC成分(周波数「0」)の1つ後の位相スペクトルの位相θpとの平均を求め、これをDC成分の位相θ0(=(θm+θp)/2)として割り出す。このようにして、本例のDC成分抽出部21は、周波数スペクトルの伝搬特性において、DC成分付近の位相を基にDC成分の位相を補間することにより、DC成分の位相∠θ(f)を抽出する。そして、DC成分抽出部21は、パワースペクトルのDC成分と、補間により求めた位相スペクトルのDC成分とを、DC成分伝搬特性として算出する。
【0038】
図5(b),(c)に戻り、位相スペクトルにおいては、A/D変換後のベースバンド信号Sbの「0」Hzの位相θ0(図5(c)に図示)と、受信電波の中心周波数fcの位相θ0(図5(b)に図示)とが関連付いていることが分かる。よって、周波数スペクトルにおいてDC成分に対応する周波数をDC成分周波数とした場合、周波数シフトしないときのDC成分周波数は、中心周波数の「fc」となる。
【0039】
図4に戻り、ステップ102において、第2通信機3は、電波Siを第1通信機2に送信して、第1通信機2に伝搬特性(振幅及び位相)を測定させる。すなわち、第2通信機3から第1通信機2に電波Siを送信して、第1通信機2においても伝搬特性(振幅及び位相)を測定する。なお、伝搬特性の測定は、第1通信機2から第2通信機3に電波送信して行う場合と同様であるので、説明を省略する。
【0040】
第1通信機2及び第2通信機3の通信の往復で伝搬特性が各々測定されると、乗算部23は、第1通信機2から第2通信機3に電波送信して測定された伝搬特性(FFT結果)と、第2通信機3から第1通信機2に電波送信して測定された伝搬特性(FFT結果)とを乗算する。これにより、測距システム1の各デバイスにクロック誤差やPLLの初期位相誤差が発生していても、これら誤差は送信側と受信側とで逆符号の位相誤差で現れていることから、FFT結果の乗算により、これら誤差がキャンセルされる。
【0041】
ここで、図7に示すように、例えばチャネルCH1でベースバンド信号Sbの電波Siが通信された場合には、CH1の中心周波数f1の伝搬特性H(f1)、すなわちCH1のベースバンド信号SbのDC成分伝搬特性が得られる。伝搬特性H(f1)は、大きさが振幅特性、位相角が位相特性を表す複素数として得られる。伝搬特性H1(f1)は、次式(1)により表される。なお、次式では、P(f1)がCH1の振幅データであり、∠θ(f1)が位相データである。
【0042】
H(f1)=P(f1)∠θ(f1) … (1)
図4に戻り、ステップ103において、測距システム1(第1通信機2及び第2通信機3)は、通信の各チャネルで、順次、伝搬特性を測定する。通信がブルートゥースの場合、複数のチャネル(例えば40チャネル)が存在するので、各チャネルの全てにおいて通信(往復)の伝搬特性が測定される。このため、例えばCH2〜CHnの電波が送受信された場合には、各チャネルの中心周波数f2〜fnの各伝搬特性H(f2)〜H(fn)が得られる。複数周波数の伝搬特性を測定するのは、1つの周波数の伝搬特性ではインパルスを作ることができないからである。
【0043】
ステップ104において、合成部24は、全チャネルの往復の伝搬特性を合成する。本例の場合、合成部24は、各チャネルの伝搬特性を並べたベクトルを作る。本例では、各チャネルの伝搬特性を並べたベクトル、すなわち周波数データH(f)として、[H(f1),H(f2),…,H(fn)]を得る。
【0044】
ステップ105において、逆フーリエ変換部25は、合成後の伝搬特性(周波数データH(f))を逆フーリエ変換する。本例の場合、ベクトル(周波数データH(f))を入力データとして、これを逆フーリエ変換し、その演算結果を取得する。逆フーリエ変換の演算結果は、時間データy(t)として取得することができる。時間データy(t)は、[y(t1),y(t2),…,y(tn)]で表される。なお、t1〜tnは、各伝搬特性H(f1)〜H(fn)に対応した時間データである。
【0045】
測距部26は、逆フーリエ変換の演算結果を基に、電波Siの伝搬時間Tx、すなわち第1通信機2及び第2通信機3の距離Lを演算する。具体的には、測距部26は、逆フーリエ変換の演算結果としてパルスを求め、このパルスが発生した時間を距離Lに換算する。なお、マルチパスの影響によって複数のパルスが出現した場合には、例えば最短時間のものを対象パルスとして取得するとよい。
【0046】
[異常チャネル検出時の動作]
図8及び図9に示すように、異常チャネル検出の作動を行う場合、電波送信部6は、周波数シフト部29によって規定量の「fs」Hz中心となるように作ったベースバンド信号Sb’の電波Siを送信して、この電波Siの伝搬特性を測定させる。本例の場合、複数チャネルで電波送信を行い、ベースバンド信号Sbをシフトしない送信パターンとベースバンド信号Sbをシフトする送信パターンとを、各チャネルで繰り返し行う。
【0047】
ここで、図8(a)〜(c)に示すように、測距システム1は、まずチャネルCH1を使用して、あるポイント(同一周波数)の位相θxを求める作動を実行したとする。本例の場合、目標とするポイント(同一周波数)の位相θxは、例えばチャネルCH1の中心周波数f1とチャネルCH2の中心周波数f2との中央値とする。
【0048】
図8(a)に、DAコンバータ10の信号出力点Paにおいて、周波数シフト部29で周波数シフトをした場合のベースバンド信号Sb’のパワースペクトル(振幅特性)を図示する。同図に示されるように、周波数シフト部29は、測距において電波送信を行うにあたり、元のベースバンド信号Sbを規定量fs分マイナス側にシフトして、負の規定量fsを中心としたベースバンド信号Sb’を生成する。このベースバンド信号Sb’は、パワースペクトルのピーク周波数が負の「fs」Hzとなった信号である。そして、ベースバンド信号Sb’は、ミキサ11でチャネルCH1の中心周波数f1にアップコンバートされた後、搬送波に乗せられ、送信アンテナ13から電波Siとして送信される。
【0049】
図8(b)に、受信アンテナ16の信号経路上の一点Pbにおいて、周波数シフト(負の規定量「fs」のシフト)をした場合のベースバンド信号Sb’の電波の周波数スペクトル(図8(b)の紙面上図がパワースペクトル、図8(b)の紙面下図が位相スペクトル)を図示する。また、図8(c)に、ADコンバータ19の信号出力点Pcにおいて、周波数シフト(負の規定量「fs」のシフト)をした場合のA/D変換後のベースバンド信号Sb’の周波数スペクトル(図8(c)の紙面上図がパワースペクトル、図8(c)の紙面下図が位相スペクトル)を図示する。
【0050】
これら図から分かるように、負の「fs」Hz中心で作られたベースバンド信号Sb’の伝搬特性を測定した場合、このベースバンド信号Sb’の「0」Hzは、受信電波の「f1+fs」をダウンコンバートしたものであるので、ベースバンド信号Sb’の「0」Hzと受信電波の「f1+fs」が等しくなる。よって、位相スペクトルのDC成分を測定した場合、これを「f1+fs」の位相θ1+として求めることが可能となる。
【0051】
続いて、図9(a)〜(c)に示すように、測距システム1は、チャネル2を使用して、チャネルCH1と同じポイント(周波数)の位相θxを求める作動を実行したとする。
図9(a)に、DAコンバータ10の信号出力点Paにおいて、周波数シフト部29で周波数シフトをした場合のベースバンド信号Sb’のパワースペクトル(振幅特性)を図示する。同図に示されるように、周波数シフト部29は、測距において電波送信を行うにあたり、元のベースバンド信号Sbを規定量fs分プラス側にシフトして、正の規定量fsを中心としたベースバンド信号Sb’を生成する。このベースバンド信号Sb’は、パワースペクトルのピーク周波数が正の「fs」Hzとなった信号である。そして、ベースバンド信号Sb’は、ミキサ11でチャネルCH2の中心周波数f2にアップコンバートされた後、搬送波に乗せられ、送信アンテナ13から電波Siとして送信される。
【0052】
図9(b)に、受信アンテナ16の信号経路上の一点Pbにおいて、周波数シフト(正の規定量「fs」のシフト)をした場合のベースバンド信号Sb’の電波の周波数スペクトル(図9(b)の紙面上図がパワースペクトル、図9(b)の紙面下図が位相スペクトル)を図示する。また、図9(c)に、ADコンバータ19の信号出力点Pcにおいて、周波数シフト(正の規定量「fs」のシフト)をした場合のA/D変換後のベースバンド信号Sb’の周波数スペクトル(図9(c)の紙面上図がパワースペクトル、図9(c)の紙面下図が位相スペクトル)を図示する。
【0053】
これら図から分かるように、正の「fs」Hz中心で作られたベースバンド信号Sb’の伝搬特性を測定した場合、このベースバンド信号Sb’の「0」Hzは、受信電波の「f2−fs」をダウンコンバートしたものであるので、ベースバンド信号Sb’の「0」Hzと受信電波の「f2−fs」が等しくなる。よって、位相スペクトルのDC成分を測定した場合、これを「f2−fs」の位相θ2−として求めることが可能となる。
【0054】
図10に示すように、異常チャネル判定部31は、このように算出された位相θ1+,位相θ2−を用いて、異常チャネルの有無を判定する。本例の異常チャネル判定部31は、位相θ1+,位相θ2−の差の絶対値(位相差dθ1,2)を算出し、これを閾値xと比較することにより、チャネルが異常であるか否かを判定する。なお、チャネル番号を「i」とした場合、位相差は、dθi,i+1と表すことができる。そして、位相差dθi,i+1が閾値x以上となる場合、チャネルi,i+1の片方又は両方のチャネルがノイズ等の影響を受けていると想定される。よって、異常チャネル判定部31は、次式の判定条件(2)が成立するか否かを確認することにより、異常チャネルの有無を判定する。
【0055】
dθi,i+1>xかつdθi−1,i>x … (2)
図11に示すように、異常チャネル判定部31は、「dθ1,2>xかつdθ2,3>x」が成立することを確認すると、チャネルCH2が異常チャネルであると判定する。なお、位相差dθ2,3は、位相差dθ1,2と同じ算出の仕方を用いて求めることができる。すなわち、チャネルCH2から位相θ2+を算出し、チャネルCH3から位相θ3−を算出し、これらの差の絶対値をとることにより、位相差dθ2,3を求める。また、図中の位相差dθ3,4も同様の算出の仕方で求められる。
【0056】
図12に、正常なチャネルを判定する作動例を図示する。同図に示されるように、異常チャネル判定部31は、次式の判定条件(3)が成立するか否かを確認し、この判定条件(3)を満足するチャネルを正常チャネルと判定する。
【0057】
dθi,i+1≦x … (3)
異常チャネル判定部31は、判定条件(3)が成立することを確認すると、チャネルi,i+1はともに正常なチャネルであると判定する。
【0058】
図13に、端のチャネル(例えば、CH1)の異常を判定する作動例を図示する。同図に示されるように、異常チャネル判定部31は、次式の判定条件(4),(5)のどちらかが成立するか否かを確認し、この判定条件が成立するチャネルを異常チャネルと判定する。
【0059】
dθi,i+1>xかつdθi+1,i+2≦x … (4)
dθi,i−1>xかつdθi−1,i−2≦x … (5)
異常チャネル判定部31は、判定条件(4),(5)のいずれかが成立することを確認すると、チャネルi(図13の場合はCH1)を異常チャネルと判定する。
【0060】
測距部26は、測定した伝搬特性(振幅及び位相の各データ)を使用して測距を行うにあたり、異常チャネル判定部31によって異常と判定されたチャネルを除外して、距離Lを演算する。よって、ノイズの影響を受けない正常なチャネルのみを使用して測距を行うことが可能となるので、距離Lを高い精度で求めることが可能となる。
【0061】
さて、本例の場合、あるチャネルにおいて周波数シフトしたベースバンド信号Sb’(Sb’)から測定した伝搬特性の位相と、これとは別のチャネルにおいて周波数シフトしたベースバンド信号Sb’(Sb’)から測定した伝搬特性の位相とを比較した場合、チャネルにノイズが入っていると、ノイズ有りの比較結果が得られる。よって、測距を複数のチャネルの通信を通じて行う測距システム1において、ノイズが入ったチャネルの有無を検出することができる。
【0062】
異常チャネル判定部31は、位相比較の判定結果が異常無しの場合、その位相を求めるのに使用したチャネルを正常チャネル(ノイズ無しのチャネル)と判定する。よって、ノイズがない可能性の高いチャネルを正常チャネルとして認識することが可能となる。
【0063】
異常チャネル判定部31は、位相比較の判定結果が異常有りの場合、その位相を求めるのに使用したチャネルのうち、少なくとも1つを異常チャネル(ノイズ有りのチャネル)として判定する。よって、ノイズが入った可能性の高いチャネルを漏れなく検出するのに有利となる。
【0064】
周波数シフト部29は、各チャネルで同一周波数(本例は「f1+fs」と「f2−fs」とが同一周波数)を目標にベースバンド信号Sbをシフトして位相が測定されるにあたり、目標の同一周波数が同じとなっている各チャネルの位相を1つの組とした場合、この組を同一周波数ごとに複数作る。異常チャネル判定部31は、これら各組(本例はθ1+,θ2−の組、θ2+,θ3−の組等)ごとに得た位相比較の判定結果を基に、チャネルの異常有無を判定する。よって、どのチャネルがノイズ入りのものかを精度よく判定するのに有利となる。
【0065】
異常チャネル判定部31は、複数組で位相比較の判定結果が異常有りとなった場合、これら位相判定の両方で使用した共通のチャネルを異常チャネルと判定する。よって、ノイズが入ったチャネルを精度よく検出することができる。
【0066】
測距システム1は、測定された複数の伝搬特性を合成する合成部24と、合成により得られた伝搬特性を逆フーリエ変換する逆フーリエ変換部25とを備える。測距部26は、逆フーリエ変換の演算結果から、第1通信機2及び第2通信機3の間の距離Lを演算する。よって、逆フーリエ変換の演算結果を用いて、距離Lを精度よく求めることができる。
【0067】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・異常チャネルの判定は、測距のどのタイミングで実施してもよい。このように、異常チャネルの判定は、測距前、測距途中、測距終了後のいずれで実施されてもよい。
【0068】
・ベースバンド信号Sbを周波数シフトする場合のシフト量、すなわち目標とする同一周波数は、2チャンネル間の中央値に限定されない。例えば、一方のチャネルの周波数に偏った周波数を目標周波数としてもよい。
【0069】
・異常チャネルの判定は、3つ以上のチャネルを使用して実施してもよい。例えば、CH1(4.0GHz)、CH2(4.1GHz)、CH3(4.2GHz)で異常チャネルの判定を行う場合、例えば「CH1を−100MHzシフト」及び「CH2シフトなし」で判定を行うとともに、「CH2シフトなし」及び「CH3を+100MHzシフト」で判定を行い、これらの判定で共に異常を検出しなければ、正常なチャネルと判定する。このようにしても、チャネルのノイズ有無を検出することができる。
【0070】
・例えば、任意の周波数を「0」とし、これを逆フーリエ変換時に周波数データH(f)に加えてもよい。例えば、H(f)=[H(f1),H(f2),H(f3),…,H(fn)]を、H(f)=[H(f1),0,H(f2),0,H(f3),0,…,0,H(fn)]として逆フーリエ変換してもよい。こうすることで、逆フーリエ変換後の時間データサンプル数を増やすことができる。前述の例の場合、サンプル数は「n」→「2n−1」となる。
【0071】
・処理は、全てのチャネルを用いることに限定されず、一部のチャネルのみ使用する態様としてもよい。
・位相比較は、乗算部23の出力(乗算後の位相)を用いて行われることに限らず、乗算前の位相を用いて行ってもよい。
【0072】
・位相比較は、位相差を閾値と比較する処理に限定されず、異常チャネルを検出できる比較であれば、他の比較方法に変更可能である。
・周波数シフトした際に得た伝搬特性(振幅及び位相の各データ)を測距に使用してもよい。
【0073】
・周期信号Skは、「0」,「1」が繰り返される信号に限定されない。例えば、「0」,「0」,「1」のデータ群が繰り返される信号など、2値化符号が周期的に繰り返されるものであれば、「0」,「1」の組み合わせは適宜変更できる。
【0074】
・周期信号Skは、「0」,「1」の周期的な信号に限定されず、例えば「0」のみ、或いは「1」のみの信号でもよい。
・演算の順序は、フーリエ変換、DC成分抽出、乗算の順に限定されない。例えば、フーリエ変換、乗算、DC成分抽出の順序に変更してもよい。
【0075】
・DC成分の位相θ0は、DC成分の前後の平均をとった値に限定されない。例えば、DC成分前後に限らず位相をいくつか抽出し、それらの値からDC成分の位相θ0を求めてもよい。
【0076】
・電波の周波数は、種々の周波数が採用できる。
・周期信号Skは、デジタル符号であればよい。また、このデジタル符号は、2値化符号に限定されず、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)等の変調を用いる場合を想定して、他の符号に変更してもよい。
【0077】
・変調部9は、GFSKに限定されず、単なるFSKなどの他の部材に変更してもよい。
・第1通信機2を車両とし、第2通信機3を電子キーとすることに限定されない。例えば、第1通信機2を無線通信式のパーソナルコンピュータとし、第2通信機3を無線LANルータとしてもよい。
【0078】
・第2通信機3は、電子キー機能を有する高機能携帯電話でもよい。
・測距システム1は、電波を送受し合って測距を行うシステムに限定されない。例えば、第1通信機2及び第2通信機3の一方から他方のみに電波を送信して測距を行う単方向としてもよい。また、第1通信機2及び第2通信機3で電波を送受し合い、さらにもう一度、第1通信機2及び第2通信機3の一方から他方に電波を送信した上で、伝搬特性を求めて、2者間の測距を行ってもよい。
【0079】
・測距システム1は、車両用の電子キーの認証を無線で行う電子キーシステムに使用されることに限定されず、種々のシステムや装置に適用してもよい。
・通信方式は、ブルートゥースに限定されず、例えば無線LANやUWB等の他の通信としてもよい。
【0080】
次に、上記実施形態及び変更例ら把握できる技術的思想について記載する。
(イ)第1通信機及び第2通信機の一方から他方に、複素信号からなるベースバンド信号を周波数変換した電波を複数チャネルで送信し、当該電波の伝搬特性を求めて、当該伝搬特性から前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離を演算する測距方法であって、複数のチャネル間で電波の周波数スペクトル上の同一周波数における位相が測定できるように、パワースペクトルのピーク周波数を規定量シフトしたベースバンド信号をチャネルごとに作り、当該ベースバンド信号を周波数変換した電波を送信アンテナから送信させるステップと、受信した電波をフーリエ変換することで求まる周波数スペクトルの伝搬特性において、受信したチャネルごとに、周波数シフトされた前記ベースバンド信号のDC成分の位相を抽出するステップと、DC成分抽出部により抽出された各チャネルの位相を比較し、その位相比較の判定結果を基にチャネルの異常有無を判定するステップとを備えた測距方法。
【符号の説明】
【0081】
1…測距システム、2…第1通信機、3…第2通信機、13…送信アンテナ、21…DC成分抽出部、24…合成部、25…逆フーリエ変換部、29…周波数シフト部、31…異常チャネル判定部、Sb,Sb’(Sb’,Sb’)…ベースバンド信号、L…距離。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
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図10
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図13