特許第6916151号(P6916151)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6916151
(24)【登録日】2021年7月19日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20210729BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20210729BHJP
   H01M 6/02 20060101ALI20210729BHJP
   H01M 6/18 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
   H01M10/0585
   H01M10/0562
   H01M6/02 Z
   H01M6/18 Z
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-120832(P2018-120832)
(22)【出願日】2018年6月26日
(65)【公開番号】特開2020-4528(P2020-4528A)
(43)【公開日】2020年1月9日
【審査請求日】2020年9月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】岩野 吉宏
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】早稲田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 史尊
(72)【発明者】
【氏名】河村 知範
(72)【発明者】
【氏名】川上 幹夫
【審査官】 菊地 リチャード平八郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−220447(JP,A)
【文献】 特開2010−272368(JP,A)
【文献】 特開2016−207582(JP,A)
【文献】 特開2004−253168(JP,A)
【文献】 特開2015−179566(JP,A)
【文献】 特開2018−125125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058−10/0587
H01M 6/02
H01M 6/18
H01M 50/40−50/497
H01M 50/00−50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含む全固体電池の製造方法:
(a)正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層を、この順で積層してなる単位電池を2以上含む電池積層体を準備すること、ここで、前記正極集電体層、前記正極活物質層、前記固体電解質層、前記負極活物質層、及び前記負極集電体層のうちの少なくとも1層が、前記電池積層体の側面において、他の層よりも外方に延出している延出部を有し、かつ前記延出部間に隙間が形成されている;
(b)減圧を用いるキャピラリーアンダーフィル法によって、前記隙間に第1の樹脂を充填し、そして、前記第1の樹脂を硬化させて、第1の樹脂層を形成すること;並びに
(c)射出成形法、トランスファー成形法、又はディッピング成形法によって、前記第1の樹脂層の側面及び前記電池積層体の側面を第2の樹脂で覆い、そして前記第2の樹脂を硬化させて、第2の樹脂層を形成すること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池の製造方法に関する。特に、本開示は、電池積層体、及び電池積層体を被覆している樹脂層を有する全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層を、この順で積層してなる単位電池を1以上含む電池積層体を有する。また、電池積層体では、一般的に、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層のうちの少なくとも1層が、他の層よりも外方に延出している延出部を有し、電池積層体の側面においては、延出部間に隙間が形成されている。
【0003】
側面にこのような隙間を有する電池積層体の側面を樹脂層で被覆する際に、樹脂をその隙間まで確実に埋め込むために、様々な技術が開発されている。
【0004】
例えば特許文献1では、キャピラリーアンダーフィル法、特に減圧を用いるキャピラリーアンダーフィル法で、延出部間に隙間が形成されている電池積層体の側面に対して、この隙間及び電池積層体の側面全体を樹脂層で被覆されている全固体電池を製造する方法が開示されている。
【0005】
より具体的には、減圧を用いるキャピラリーアンダーフィル法で、延出部間の隙間及び電池積層体の側面全体を樹脂層で被覆する方法は、例えば、下記のようなものである。すなわち、はじめに、延出部間に隙間が形成されている電池積層体を準備する。そして減圧雰囲気下で、この電池積層体の側面に対して、液状樹脂を供給する。その後、減圧を開放して、毛細管作用及び差圧によって隙間及び電池積層体の側面全体に液状樹脂を付着させる。最後に、この電池積層体の側面に付着している液状樹脂を硬化させることによって、延出部間の隙間及び電池積層体の側面全体が樹脂層で被覆されている全固体電池を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017−220447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、減圧を用いるキャピラリーアンダーフィル法を利用して、延出部間の隙間及び電池積層体の側面全体が樹脂層で被覆されている全固体電池を製造する場合、減圧を行う必要がある。この減圧及びその後の減圧の開放は、延出部間の隙間に樹脂を入り込ませるために必要な工程ではあるが、電池積層体の側面に形成される樹脂層の寸法にバラツキを生じさせることがある。
【0008】
したがって、本開示は、上記事情を鑑みてなされたものであり、延出部間の隙間まで樹脂層で確実に被覆しながら、電池積層体の側面に形成される樹脂層の寸法のバラツキを抑制することができる全固体電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の本発明者らは、下記の工程を含む全固体電池の製造方法により、上記課題を解決できることを見出した:
(a)正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層を、この順で積層してなる単位電池を2以上含む電池積層体を準備すること、ここで、前記正極集電体層、前記正極活物質層、前記固体電解質層、前記負極活物質層、及び前記負極集電体層のうちの少なくとも1層が、前記電池積層体の側面において、他の層よりも外方に延出している延出部を有し、かつ前記延出部間に隙間が形成されている;
(b)減圧を用いるキャピラリーアンダーフィル法によって、前記隙間に第1の樹脂を充填し、そして前記第1の樹脂を硬化させて、第1の樹脂層を形成すること;並びに
(c)射出成形法、トランスファー成形法、又はディッピング成形法によって、前記第1の樹脂層の側面及び前記電池積層体の側面を第2の樹脂で覆い、そして前記第2の樹脂を硬化させて、第2の樹脂層を形成すること。
【発明の効果】
【0010】
本開示の全固体電池の製造方法によれば、延出部間の隙間まで樹脂層で確実に被覆しながら、電池積層体の側面に形成される樹脂層の寸法のバラツキを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の方法の一形態を示す説明図である。
図2図2は、本開示の方法によって得られる全固体電池の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、説明の便宜上、各図において、同一又は相当する部分には同一の参照符号を付し、重複説明は省略する。実施の形態の各構成要素は、全てが必須のものであるとは限らず、一部の構成要素を省略可能な場合もある。ただし、以下の図に示される形態は本開示の例示であり、本開示を限定するものではない。
【0013】
≪全固体電池の製造方法≫
本開示の全固体電池の製造方法は、下記工程を含む:
(a)正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層を、この順で積層してなる単位電池を2以上含む電池積層体を準備すること、ここで、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層のうちの少なくとも1層が、電池積層体の側面において、他の層よりも外方に延出している延出部を有し、かつ延出部間に隙間が形成されている;
(b)減圧を用いるキャピラリーアンダーフィル法によって、隙間に第1の樹脂を充填し、そして、第1の樹脂を硬化させて、第1の樹脂層を形成すること;並びに
(c)射出成形法、トランスファー成形法、又はディッピング成形法によって、第1の樹脂層の側面及び電池積層体の側面を第2の樹脂で覆い、そして第2の樹脂を硬化させて、第2の樹脂層を形成すること。
【0014】
以下では、本開示にかかる各工程について、詳細に説明する。
【0015】
〈工程(a)〉
工程(a)では、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層を、この順で積層してなる単位電池を2以上含む電池積層体を準備する。ここで、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層のうちの少なくとも1層が、電池積層体の側面において、他の層よりも外方に延出している延出部を有し、かつ延出部間に隙間が形成されている。
【0016】
図1(a)は、本発明にかかる工程(a)の一態様を示している。より具体的には、図1(a)では、単位電池6a、6b、6c、6d、6e、6f、6g、6h、6j、6k、及び6lを11個含むモノポーラ型の電池積層体20を準備した態様が示されている。
【0017】
これらの単位電池6a、6b、6c、6d、6e、6f、6g、6h、6j、6k、及び6lは、いずれも正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層を、この順で積層してなり、また、電池積層体20の側面において、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層が、正極集電体層及び正極活物質層よりも外方に延出している延出部を有し、かつ延出部間に隙間X1、X2、X3、X4、及びX5が形成されている。
【0018】
〈工程(b)〉
工程(b)では、減圧を用いるキャピラリーアンダーフィル法によって、隙間に第1の樹脂を充填し、そして、第1の樹脂を硬化させて、第1の樹脂層を形成する。
【0019】
本開示において、第1の樹脂の形態は、特に限定されないが、減圧を用いるキャピラリーアンダーフィル法に適用させる観点から、一般的に、液状の樹脂であることが好ましい。なお、液状は、必ずしも室温において液状である必要はなく、加熱によって溶融する樹脂であってもよい。
【0020】
また、第1の樹脂の種類は、特に限定されず、硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂をであってよい。また、硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂(例えば、UV硬化性樹脂)、又は電子線硬化性樹脂であってよい。すなわち、エポキシ樹脂、アミン系樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、又はポリカーボネート樹脂であってよいが、これらに限定されない。
【0021】
より具体的には、第1の樹脂は、半導体製造分野におけるアンダーフィル用樹脂と同様のものを用いることが好ましい。例えば、第1の樹脂としては、エポキシ樹脂又はアミン系樹脂等が好ましく用いられる。
【0022】
電池積層体の側面における隙間に第1の樹脂を充填する際の、当該第1の樹脂の粘度は、1000mPa・s以上であってもよく、2000mPa・s以上であることが好ましく、3000mPa・s以上であることが更に好ましく、また3500mPa・s以下であってもよい。このような粘度よれば、毛細管作用及び差圧によって、電池積層体の側面における隙間の内部へと、第1の樹脂をより容易に充填することができる。
【0023】
本開示でいう「減圧を用いるキャピラリーアンダーフィル法」は、具体的には以下の方法を指す。
【0024】
すなわち、まず、準備された電池積層体を減圧する。これによって、電池積層体の側面の隙間中の空気及び水分等、又は電池積層体の内部に存在している空気及び水分等を除去することができる。次に、減圧雰囲気を維持したまま、電池積層体の側面に対して、延出部間の隙間に液状樹脂を供給する。その後、減圧を開放又は加圧する。これによって、電池積層体の延出部間の隙間に、液状樹脂をより一層効率的に充填することができる。
【0025】
本開示において、減圧の際の減圧度については特に限定されるものではない。例えば、雰囲気圧力が1000Pa以下、500Pa以下、又は130Pa以下となるまで、減圧を行うことが好ましい。
【0026】
また、減圧の開放とは、延出部間の隙間に第1の樹脂を供給する際の雰囲気圧力よりも高い圧力に制御することであり、雰囲気圧力を大気圧までに開放してもよい。また、この際に、大気圧よりも大きい圧力に加圧してもよい。
【0027】
また、減圧は、特に限定されず、例えば、電池積層体をチャンバ内に設置したうえで、チャンバ内を真空引きすることによって達成できる。
【0028】
電池積層体の側面における隙間に対する第1の樹脂の充填速度や充填の量は、電池積層体の側面の隙間の形態によって適宜調整すればよく、この量は、各隙間から隙間以外の部分まで溢れない程度の量であっても、各隙間以外の部分を少なくとも部分的に覆う量であってもよいが、各隙間から隙間以外の部分まで溢れない程度の量であることが好ましい。
【0029】
第1の樹脂を充填するための手段は、特に限定されず、例えば、電池積層体をチャンバ内に設置した状態において、電池積層体の側面の近傍となる箇所にディスペンスノズルを設置し、これを第1の樹脂を充填する手段として機能させることができる。より具体的には、ディスペンスノズルを、チャンバの外部に設けられた第1の樹脂の供給源に接続させることができ、当該第1の樹脂供給源から配管を介してディスペンスノズルへと供給された第1の樹脂が、ディスペンスノズルの先端から吐出されることによって、電池積層体の側面における隙間に第1の樹脂を充填することができる。また、このような第1の樹脂を充填する手段は、チャンバ内に一つだけ備えられていてもよいし、複数備えられていてもよい。さらに、第1の樹脂を充填する手段は、電池積層体の側面の周囲を移動可能とされることが好ましい。
【0030】
第1の樹脂を硬化させる方法は、用いる樹脂の種類に合わせて適宜行うことができる。例えば、第1の樹脂として熱硬化性樹脂を用いた場合、隙間に第1の樹脂を充填した後、電池積層体の少なくとも側面側を加熱することによって、第1の樹脂を硬化させることができる。また、第1の樹脂として紫外線硬化性樹脂を用いた場合は、隙間に第1の樹脂を充填した後、電池積層体の少なくとも側面側に紫外線を照射することによって、第1の樹脂を硬化させることができる。また、第1の樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合は、隙間に第1の樹脂を充填した後、電池積層体の少なくとも側面側を冷却する(自然冷却を含む)ことによって、第1の樹脂を硬化させることができる。
【0031】
また、第1の樹脂の充填及び/又は硬化は、低露点下で行うことが好ましい。例えば、露点−30℃以下、又は−50℃以下の低露点下で行うことが好ましい。なお、後述する雰囲気圧力を制御手段が含まれる場合、雰囲気をドライエアー雰囲気とすることによって低露点下で第1の樹脂の充填及び/又は硬化を行うことができる。
【0032】
図1(b)は、本開示にかかる工程(b)を行った後の一態様を示している。すなわち、延出部間に隙間X1、X2、X3、X4、及びX5において第1の樹脂層21が形成されている態様が示されている。
【0033】
〈工程c〉
工程(c)では、射出成形法、トランスファー成形法、又はディッピング成形法によって、第1の樹脂層の側面及び電池積層体の側面を第2の樹脂で覆い、そして第2の樹脂を硬化させて、第2の樹脂層を形成する。
【0034】
本開示において、第2の樹脂の形態は、特に限定されず、液状の樹脂であることが好ましい。なお、液状は、必ずしも室温において液状である必要はなく、加熱によって溶融したような樹脂であってもよい。
【0035】
また、第2の樹脂の種類ついては、特に限定されず、上述した第1の樹脂の種類として列挙されたものを適宜参照されたい。
【0036】
本開示において、第2の樹脂と第1の樹脂とは、異なる種類のものを用いてもよく、同じ種類のものを同時に用いてもよい。
【0037】
また、第2の樹脂を硬化させる方法は、用いる樹脂の種類に合わせて適宜行うことができて、上述した第1の樹脂を硬化させる方法の記載を適宜参照できる。
【0038】
(射出成形法)
射出成形法を用いる場合、例えば、金型中に、第1の樹脂層を有する電池積層体をセットし、そして液状の第2の樹脂を金型内に射出して、第1の樹脂層の側面及び電池積層体の側面を第2の樹脂で覆う。その後、第2の樹脂を硬化させることによって、第2の樹脂層を形成することができる。
【0039】
(トランスファー成形法)
トランスファー成形法を用いる場合、例えば、金型中に、第1の樹脂層を有する電池積層体をセットし、そして液状の第2の樹脂をプランジャー(トランスファー室)から金型内に注入して、第1の樹脂層の側面及び電池積層体の側面を第2の樹脂で覆う。その後第2の樹脂を硬化させることによって、第2の樹脂層を形成することができる。
【0040】
(ディッピング成形法)
ディッピング成形法を用いる場合、例えば、金型に液状の第2の樹脂を注入した後に、第1の樹脂層を有する電池積層体を金型中の第2の樹脂液中に浸漬させ、そして電池積層体を引き上げて、第1の樹脂層の側面及び電池積層体の側面を第2の樹脂で覆う。その後、第2の樹脂を硬化させることによって、第2の樹脂層を形成することができる。
【0041】
このように、射出成形法、トランスファー成形法、及びディッピング成形法のいずれの方法においても、金型を用いている。電池積層体の側面に電池積層体の側面に形成される樹脂層の所望の寸法に合わせて、金型を選択することができる。したがって、第1の樹脂層の側面及び電池積層体の側面を覆う第2の樹脂層の寸法を調整することができる。すなわち、このように形成されている第2の樹脂層の寸法のバラツキを抑制することができる。
【0042】
また、電池積層体の積層方向の上側及び下側の端面を樹脂層で被覆しないことが好ましい場合、例えば第2の樹脂層を形成する前に、電池積層体の積層方向の上側及び下側の端面を挟み込むようにして保持するジグによって、電池積層体の積層方向の上側及び下側の端面を保護することができる。あるいは、この場合、電池積層体の積層方向の上側及び下側の端面にマスキングテープを貼り付けることもできる。
【0043】
図1(c)は、本開示にかかる工程(c)を行った後の一態様を示している。すなわち、図1(c)には、第1の樹脂層21の側面及び電池積層体20の側面に、第2の樹脂層22が形成されている態様が示されている。
【0044】
≪全固体電池≫
上述した方法によって製造される本開示の全固体電池は、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層を、この順で積層してなる単位電池を2以上含む電池積層体を有し、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層のうちの少なくとも1層が、電池積層体の側面において、他の層よりも外方に延出している延出部を有し、かつ延出部間に隙間が形成されており、隙間に充填されている第1の樹脂層、並びに第1の樹脂層及び電池積層体の側面を覆っている第2の樹脂層を有する。
【0045】
なお、電池積層体の側面とは、電池積層体に含まれる単位電池の各層の外縁によって構成されている面である。
【0046】
例えば、図2は、本開示の全固体電池の一例を示す概略断面図である。本開示の全固体電池100は、単位電池6a、6b、6c、及び6dを含む電池積層体10を有する。図2に示されているように、固体電解質層3b及び固体電解質層3cはそれぞれ、電池積層体10の側面において、他の層(例えば、正極活物質層2b、正極集電体層1b(1c)、及び正極活物質層2c)よりも外方に延出している延出部30b及び30cを有し、かつ延出部30b及び30cの間に隙間が形成されており、隙間に充填されている第1の樹脂層、並びに第1の樹脂層11及び電池積層体の側面を覆っている第2の樹脂層12を有する。
【0047】
〈電池積層体〉
本開示において、電池積層体は、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層を、この順で積層してなる単位電池を2以上含む。すなわち、本開示において、電池積層体に含まれる単位電池の個数は、2以上であればよく、目的・用途に合わせて、随意に単位電池の個数を設定することができる。
【0048】
例えば、図2に示されている電池積層体10は、4つの単位電池6a、6b、6c及び6dを有している。また、単位電池6aは、正極集電体層1a、正極活物質層2a、固体電解質層3a、負極活物質層4a、及び負極集電体層5a(5b)をこの順で積層してなる。単位電池6bは、負極集電体層5a(5b)、負極活物質層4b、固体電解質層3b、正極活物質層2b、及び正極集電体層1b(1c)をこの順で積層してなる。単位電池6cは、正極集電体層1b(1c)、正極活物質層2c、固体電解質層3c、負極活物質層4c、及び負極集電体層5c(5d)をこの順で積層してなる。単位電池6は、負極集電体層5c(5d)、負極活物質層4d、固体電解質層3d、正極活物質層2d、正極集電体層1dをこの順で積層されてなる。
【0049】
また、図1(a)に示されている電池積層体20は、11個の単位電池6a、6b、6c、6d、6e、6f、6g、6h、6j、6k、及び6lを有する態様である。なお、各単位電池の構成の詳細は、上述した電池積層体10における単位電池の説明を参照されたい。
【0050】
本開示において、電池積層体は、モノポーラ型の電池積層体であってもよく、バイポーラ型の電池積層体であってもよい。
【0051】
モノポーラ型の電池積層体である場合、積層方向に隣接する2つの単位電池は、正極集電体層又は負極集電体層を共有するモノポーラ型の構成であってよい。例えば、図2に示されているように、隣接する単位電池6a及び6bは、負極集電体層5a(5b)を共有しており、隣接する単位電池6b及び6cは、正極集電体層1b(1c)を共有しており、また隣接する単位電池6c及び6dは、負極集電体層5c(5d)を共有しており、これらの単位電池6a、6b、6c及び6dを合わせてモノポーラ型の電池積層体10を構成している。
【0052】
バイポーラ型の電池積層体である場合、積層方向に隣接する2つの単位電池は、正極及び負極集電体層の両方として用いられる正極/負極集電体層を共有するバイポーラ型の構成であってよい。したがって、例えば電池積層体は、正極及び負極集電体層の両方として用いられる正極/負極集電体層を共有する3つの単位電池の積層体であってよく、具体的には、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、正極/負極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、正極/負極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層を、この順で有することができる(図示せず)。また、この場合において、「正極/負極集電体層」は、正極及び負極集電体層の両方として用いられるため、本開示でいう「正極集電体層」又は「負極集電体層」のいずれにも当てはまる。
【0053】
本開示において、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層のうちの少なくとも1層が、電池積層体の側面において、他の層よりも外方に延出している延出部を有し、かつ延出部間に隙間が形成されていれば、延出部を有する層は、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層のうちのどの層に限定されるものではない。
【0054】
なお、リチウムイオン電池に代表される積層型の全固体電池では、充電時に正極活物質層から放出されたリチウムイオンを負極活物質層に確実かつスムーズに移動させるために、負極活物質層及び負極集電体層が正極活物質層及び正極集電体層よりも大面積で形成することが好ましい。したがって、負極活物質層、負極集電体層、及び固体電解質層が延出部を有することが好ましい。
【0055】
また、本開示の全固体電池は、正極集電体層に電気的に接続されている正極集電タブを有し、負極集電体層に電気的に接続されている負極集電タブを有していてもよい。この場合、これらの集電タブが樹脂層から突出していてよい。この構成によれば、集電タブを介して、電池積層体で発生した電力を外部に取り出すことができる。
【0056】
また、正極集電体層は、面方向に突出する正極集電体突出部を有していてよく、この正極集電体突出部には、正極集電タブが電気的に接続されていてよい。同様に、負極集電体層は、負極集電体突出部を有していてよく、この負極集電体突出部には、負極集電タブが電気的に接続されていてよい。
【0057】
本開示の全固体電池では、電池積層体が、積層方向に拘束されていることができる。これによって、充放電の際に、全固体電池積層体の各層の内部及び各層の間における、イオン及び電子の伝導性を改良して、電池反応をより促進することができる。
【0058】
以下では、電池積層体にかかる各部材について詳細に説明する。なお、本開示を容易に理解するために、全固体リチウムイオン二次電池の電池積層体にかかる各部材を例として説明するが、本開示の全固体電池は、リチウムイオン二次電池に限定されず、幅広く適用できる。
【0059】
(正極集電体層)
正極集電体層に用いられる導電性材料は、特に限定されず、全固体電池に使用できるものを適宜採用されうる。例えば、正極集電体層に用いられる導電性材料は、SUS、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、又はカーボン等であってよいが、これらに限定されない。
【0060】
正極集電体層の形状として、特に限定されず、例えば、箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【0061】
(正極活物質層)
正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含み、好ましくは後述する固体電解質をさらに含む。そのほか、使用用途や使用目的等に合わせて、例えば、導電助剤又はバインダー等の全固体電池の正極活物質層に用いられる添加剤を含むことができる。
【0062】
正極活物質の材料として、特に限定されない。例えば、正極活物質は、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li1+xMn2−x−y(Mは、Al、Mg、Co、Fe、Ni、及びZnから選ばれる1種以上の金属元素)で表される組成の異種元素置換Li−Mnスピネル等であってよいが、これらに限定されない。
【0063】
導電助剤としては、特に限定されない。例えば、導電助剤は、VGCF(気相成長法炭素繊維、Vapor Grown Carbon Fiber)及びカーボンナノ繊維等の炭素材並びに金属材等であってよいが、これらに限定されない。
【0064】
バインダーとしては、特に限定されない。例えば、バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ブタジエンゴム(BR)若しくはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の材料、又はこれらの組合せであってよいが、これらに限定されない。
【0065】
(固体電解質層)
固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含む。固体電解質として、特に限定されず、全固体電池の固体電解質として利用可能な材料を用いることができる。例えば、固体電解質は、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、又はポリマー電解質等であってよいが、これらに限定されない。
【0066】
硫化物固体電解質の例として、硫化物系非晶質固体電解質、硫化物系結晶質固体電解質、又はアルジロダイト型固体電解質等が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な硫化物固体電解質の例として、LiS−P系(Li11、LiPS、Li等)、LiS−SiS、LiI−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiBr−LiS−P、LiS−P−GeS(Li13GeP16、Li10GeP12等)、LiI−LiS−P、LiI−LiPO−P、Li7−xPS6−xCl等;又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0067】
酸化物固体電解質の例として、LiLaZr12、Li7−xLaZr1−xNb12、Li7−3xLaZrAl12、Li3xLa2/3−xTiO、Li1+xAlTi2−x(PO、Li1+xAlGe2−x(PO、LiPO、又はLi3+xPO4−x(LiPON)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
(ポリマー電解質)
ポリマー電解質としては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、及びこれらの共重合体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
固体電解質は、ガラスであっても、結晶化ガラス(ガラスセラミック)であってもよい。また、固体電解質層は、上述した固体電解質以外に、必要に応じてバインダー等を含んでもよい。具体例として、上述の「正極活物質層」で列挙された「バインダー」と同様であり、ここでは説明を省略する。
【0070】
(負極活物質層)
負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含み、好ましくは上述した固体電解質をさらに含む。そのほか、使用用途や使用目的等に合わせて、例えば、導電助剤又はバインダー等の全固体電池の負極活物質層に用いられる添加剤を含むことができる。
【0071】
負極活物質の材料として、特に限定されず、リチウムイオン等の金属イオンを吸蔵及び放出可能であることが好ましい。例えば、負極活物質は、合金系負極活物質又は炭素材料等であってよいが、これらに限定されない。
【0072】
合金系負極活物質として、特に限定されず、例えば、Si合金系負極活物質、又はSn合金系負極活物質等が挙げられる。Si合金系負極活物質には、ケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素炭化物、ケイ素窒化物、又はこれらの固溶体等がある。また、Si合金系負極活物質には、ケイ素以外の元素、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn、Ti等を含むことができる。Sn合金系負極活物質には、スズ、スズ酸化物、スズ窒化物、又はこれらの固溶体等がある。また、Sn合金系負極活物質には、スズ以外の元素、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Ti、Si等を含むことができる。これらの中で、Si合金系負極活物質が好ましい。
【0073】
炭素材料として、特に限定されず、例えば、ハードカーボン、ソフトカーボン、又はグラファイト等が挙げられる。
【0074】
負極活物質層に用いられる固体電解質、導電助剤、バインダー等その他の添加剤については、上述した「正極活物質層」及び「固体電解質層」の項目で説明したものを適宜採用することができる。
【0075】
(負極集電体層)
負極集電体層に用いられる導電性材料は、特に限定されず、全固体電池に使用できるものを適宜採用されうる。例えば、負極集電体層に用いられる導電性材料は、SUS、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、又はカーボン等であってよいが、これらに限定されない。
【0076】
負極集電体層の形状として、特に限定されず、例えば、箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【0077】
本開示において、第2の樹脂層は、全固体電池積層体の側面を被覆している。これによって、本開示の全固体電池の外側に、ラミネートフィルムや金属缶等の外装体を有さなくてもよい。したがって、本開示の全固体電池は、外装体を必要とする従来の全固体電池よりもコンパクトであり、これは、電池のエネルギー密度向上にも繋がる。ただし、本開示の一は、これらの外装体をさらに有していてもよい。
【0078】
また、本開示の全固体電池は、電池積層体の積層方向の上側の端面及び下側の端面が、フィルム等によって被覆されており、かつ少なくとも全固体電池積層体の側面が第2の樹脂層によって被覆されている全固体電池であってもよい。また、本開示の全固体電池は、全固体電池積層体の積層方向の上側の端面及び/又は下側の端面も樹脂層によって被覆されている全固体電池であってもよい。
【0079】
〈樹脂層〉
本開示の全固体電池は、第1の樹脂層及び第2の樹脂層を有する。
【0080】
第1の樹脂層は、電池積層体の側面において、2つの延出部間の隙間に充填(被覆)している。例えば、図2に示されているように、電池積層体10の側面において、延出部30b及び30cの間に形成されている隙間に、第1の樹脂層11は充填されている。
【0081】
第2の樹脂層は、第1の樹脂層及び電池積層体の側面を覆って(被覆して)いる。例えば、図2に示されているように、第2の樹脂層12は、第1の樹脂層11及び電池積層体10の側面を覆っている。
【0082】
本開示において、第1の樹脂層及び第2の樹脂層を構成する樹脂材料(すなわち、第1の樹脂及び第2の樹脂)は、上述したとおりである。
【0083】
また、第1の樹脂層及び第2の樹脂層には、樹脂材料以外にも、例えば無機フィラー等の添加剤を含有されていてもよい。なお、第1の樹脂層に含まれる添加剤と第2の樹脂層に含まれる添加剤とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0084】
無機フィラーに用いられる材料は、全固体電池内で安定に存在できるものであれば、特に限定されない。例えば、酸化物(アルミナ(Al)、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)、ジルコニア(ZrO)、その他CeO、Y、La、LiAlO、LiO、BeO、B、NaO、MgO、P、CaO、Cr、Fe、ZnO等)、多孔質複合セラミックス(ゼオライト、セピオライト、パリゴルスカイト等)、窒化物(Si、BN、AIN、TiN、Ba等)、炭化物(SiC、ZrC、BC)、炭酸塩(MgCO、CaCO等)、又は硫酸塩(CaSO、BaSO等)等が無機フィラーとして用いられるが、これらに限定されない。また、これらの無機フィラーに用いられる材料は単一であってもよく、2種類以上混合したものであってもよい。
【0085】
無機フィラーの形状は、特に限定されず、球形状、楕円状、ファイバー状、又は鱗片状等であってもよい。
【0086】
〈全固体電池の種類〉
本開示において、全固体電池の種類としては、全固体リチウムイオン電池、全固体ナトリウムイオン電池、全固体マグネシウムイオン電池及び全固体カルシウムイオン電池等を挙げることができる。中でも、全固体リチウムイオン電池及び全固体ナトリウムイオン電池が好ましく、特に、全固体リチウムイオン電池が好ましい。
【0087】
また、本開示の全固体電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、中でも、二次電池であることが好ましい。二次電池は、繰り返し充放電でき、例えば、車載用電池として有用だからである。よって、本開示の全固体電池が、全固体リチウムイオン二次電池であることが好ましい。
【符号の説明】
【0088】
1a、1b、1c、1d 正極集電体層
1e、1f、1g、1h、1j、1k、1l 正極集電体層
2a、2b、2c、2d 正極活物質層
2e、2f、2g、2h、2j、2k、2l 正極活物質層
3a、3b、3c、3d、 固体電解質層
3e、3f、3g、3h、3j、3k、3l 固体電解質層
4a、4b、4c、4d 負極活物質層
4e、4f、4g、4h、4j、4k、4l 負極活物質層
5a、5b、5c、5d 負極集電体層
5e、5f、5g、5h、5j、5k、5l 負極集電体層
6a、6b、6c、6d、6e、6f、6g、6h、6j、6k、6l 単位電池
10、20 電池積層体
11、21 第1の樹脂層
12、22 第2の樹脂層
30b 固体電解質層3bの延出部
30c 固体電解質層3cの延出部
100 全固体電池
図1
図2