特許第6916165号(P6916165)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6916165多層積層板及びこれを用いた多層プリント配線板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6916165
(24)【登録日】2021年7月19日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】多層積層板及びこれを用いた多層プリント配線板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/46 20060101AFI20210729BHJP
   H05K 1/16 20060101ALI20210729BHJP
   H01G 2/06 20060101ALI20210729BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20210729BHJP
【FI】
   H05K3/46 Q
   H05K1/16 D
   H01G2/06 C
   B32B7/025
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-504056(P2018-504056)
(86)(22)【出願日】2017年2月3日
(86)【国際出願番号】JP2017003966
(87)【国際公開番号】WO2017154432
(87)【国際公開日】20170914
【審査請求日】2019年11月14日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2016/057563
(32)【優先日】2016年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米田 祥浩
【審査官】 齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−43769(JP,A)
【文献】 特開2006−210536(JP,A)
【文献】 特開2007−184386(JP,A)
【文献】 特開2009−4457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00―43/00
H01G2/06
H05K1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央導電層と、該中央導電層の各面にそれぞれ直接配置された第1誘電体層及び第2誘電体層と、第1誘電体層の外側に直接配置された第1外面導電層と、第2誘電体層の外側に直接配置された第2外面導電層とを備えた5層構造のみからなる多層積層板であって、
前記多層積層板においては、第1外面導電層及び第2外面導電層が、該多層積層板の外面をなし、
前記中央導電層は、前記多層積層板の面内方向の全域にわたり、べた状態で形成されており、
第1誘電体層の厚みのばらつき及び第2誘電体層の厚みのばらつきが、それぞれ独立に15%以下であり、
多層プリント配線板の材料として用いられる、多層積層板。
【請求項2】
第1誘電体層の比誘電率と第2誘電体層の比誘電率との差が10%以下である請求項1に記載の多層積層板。
【請求項3】
第1誘電体層の厚み及び第2誘電体層の厚みが、それぞれ独立に0.1μm以上30μm以下である請求項1又は2に記載の多層積層板。
【請求項4】
第1誘電体層の厚みと第2誘電体層の厚みとが同じである請求項3に記載の多層積層板。
【請求項5】
第1誘電体層及び第2誘電体層がそれぞれ誘電体粒子及び樹脂を含み、これらの誘電体層に占める該誘電体粒子の割合が、それぞれ独立に60質量%以上95質量%以下である請求項1ないし4のいずれか一項に記載の多層積層板。
【請求項6】
第1誘電体層の組成と第2の誘電体層の組成とが同じである請求項5に記載の多層積層板。
【請求項7】
第1誘電体層及び第2誘電体層の応力σ−ひずみε曲線における破断ひずみエネルギーが、それぞれ1.8MJ以下である、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の多層積層板。
【請求項8】
前記各導電層がいずれも銅箔からなり、その厚みがそれぞれ独立に0.1μm以上70μm以下である請求項1ないし7のいずれか一項に記載の多層積層板。
【請求項9】
請求項1に記載の多層積層板を用意し、
前記多層積層板をその厚み方向に貫通する第1スルーホールを形成し、
形成された第1スルーホール内に非導電性の充填剤を完全充填し、
第1スルーホールよりも小径の第2スルーホールを、前記充填剤が充填された位置に、前記多層積層板の厚み方向に貫通するように形成する、工程を有する多層プリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層積層板に関する。また本発明は、この多層積層板を用いた多層プリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板、特に多層プリント配線板の内層部分に、銅張積層板を用いて回路形状を形成する方法と同様の方法でキャパシタ構造を形成し、これを内蔵キャパシタとして使用する技術が知られている。多層プリント配線板の内層部分にキャパシタ構造を形成することで、外層面に配していたキャパシタを省略することが可能となり、外層回路の微細化、及び高密度化が可能となる。その結果、表面実装部品数が減少し、ファインピッチ回路を備えたプリント配線板の製造が容易となる。
【0003】
このような内蔵キャパシタを有する多層プリント配線板としては、例えば特許文献1に記載されているとおり、導電層と誘電層とが交互に配置された7層構造の容量性積層体が知られている。この容量性積層体は、同文献の図6ないし図9の断面構造から見て、特に導電層に回路パターンが形成されており且つ回路パターンが形成されていない部分に導電ビアが形成されていることから見て、導電層に回路パターンを形成した後に、その上に誘電層を形成し、更にその上に導電層を形成し、更にその上に誘電層を形成するという工程を繰り返して製造されていると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010−521074号公報
【発明の概要】
【0005】
特許文献1に記載の容量性積層体は、上述のとおりの工程によって製造されていることに起因して、特に、回路パターンが形成された導電層上に誘電層を形成していることに起因して、誘電層の厚みを一定にすることが容易でない。換言すれば、誘電層の静電容量を一定にすることが容易でない。また、同文献に記載の容量性積層体は、4層の導電層を含む合計7構造のものであり、その層構造に起因して、内部に位置する導電層を外部に露出する導電層と接続することが容易でない。
【0006】
したがって本発明の課題は、キャパシタを内蔵する多層積層板の改良にあり、更に詳細にはキャパシタの静電容量のばらつきが小さい多層積層板を提供することにある。
【0007】
本発明は、中央導電層と、該中央導電層の各面にそれぞれ直接配置された第1誘電体層及び第2誘電体層と、第1誘電体層の外側に直接配置された第1外面導電層と、第2誘電体層の外側に直接配置された第2外面導電層とを備えた多層積層板であって、
前記多層積層板においては、第1外面導電層及び第2外面導電層が、該多層積層板の外面をなし、
前記中央導電層は、前記多層積層板の面内方向の全域にわたり、べた状態で形成されており、
第1誘電体層の厚みのばらつき及び第2誘電体層の厚みのばらつきが、それぞれ独立に15%以下である、多層積層板を提供するものである。
【0008】
また本発明は、前記の多層積層板を用意し、
前記多層積層板をその厚み方向に貫通する第1スルーホールを形成し、
形成された第1スルーホール内に非導電性の充填剤を完全充填し、
第1スルーホールよりも小径の第2スルーホールを、前記充填剤が充填された位置に、前記多層積層板の厚み方向に貫通するように形成する、工程を有する多層プリント配線板の製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の多層積層板の厚み方向に沿った構造を模式的に示す断面図である。
図2図2は、図1に示す多層積層板の製造工程を示す模式図である。
図3図3(a)ないし(c)は、図1に示す多層積層板を用いて多層プリント配線板を製造する工程を順次示す模式図である。
図4図4(a)ないし(c)は、図3(c)からの引き続きで、多層プリント配線板を製造する工程を順次示す模式図である。
図5図5(a)ないし(c)は、図4(c)からの引き続きで、多層プリント配線板を製造する工程を順次示す模式図である。
図6図6(a)及び(b)は、図5(c)からの引き続きで、多層プリント配線板を製造する工程を順次示す模式図である。
図7図7(a)ないし(c)は、図3(a)からの引き続きで、多層プリント配線板を製造する別の実施形態の工程を順次示す模式図である。
図8図8(a)ないし(c)は、図7(c)からの引き続きで、多層プリント配線板を製造する工程を順次示す模式図である。
図9図9(a)及び(b)は、図8(c)からの引き続きで、多層プリント配線板を製造する工程を順次示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の一実施形態である多層積層板10の厚み方向に沿った断面構造が模式的に示されている。同図に示すとおり、多層積層板10は5層構造を有するものである。詳細には、多層積層板10は、その厚み方向の中央に中央導電層11aを有している。中央導電層11aの各面には第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bがそれぞれ配置されている。第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bは、中央導電層11aの表面に直接配置されている。換言すれば、中央導電層11aと第1誘電体層12aとの間には何らの層も介在していない。同様に、中央導電層11aと第2誘電体層12bとの間にも、何らの層も介在していない。
【0011】
第1誘電体層12aの外側の面、つまり第1誘電体層12aが有する2つの主面のうち、中央導電層11aと対向していない側に位置する面には、第1外面導電層13aが配置されている。同様に、第2誘電体層12bの外側の面には、第2外面導電層13bが配置されている。第1外面導電層13aは、第1誘電体層12aの外側の面に直接配置されている。換言すれば、第1外面導電層13aと第1誘電体層12aとの間には、何らの層も介在していない。同様に、第2外面導電層13bは、第2誘電体層12bの外側の面に直接配置されており、第2外面導電層13bと第2誘電体層12bとの間には、何らの層も介在していない。
【0012】
多層積層板10においては、第1外面導電層13a及び第2外面導電層13bが、該多層積層板10の外面をなしている。換言すれば、第1外面導電層13aの外面、つまり第1外面導電層13aが有する2つの主面のうち、第1誘電体層12aと対向していない側に位置する面には、何らの層も積層されていない。同様に、第2外面導電層13bの外面、つまり第外面導電層13bが有する2つの主面のうち、第2誘電体層12bと対向していない側に位置する面には、何らの層も積層されていない。多層積層板10が以上の構成を有していることによって、該多層積層板10は、上述のとおり、全体で5層構造のものとなっている。
【0013】
多層積層板10における第1誘電体層12aは、該誘電体層12aのいずれの位置においても同じ材料から構成されていることが好ましい。第2誘電体層12bに関しても同様である。尤も、場合によっては、これらの誘電体層12a,12bの平面視において、任意に定めた第1の領域と、該第1の領域と異なる、任意に定めた第2の領域とで、構成材料が相違していてもよい。また、第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bが、それらのいずれの位置においても同じ材料から構成されている場合、第1誘電体層12aの構成材料と、第2誘電体層12bの構成材料とは、同一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0014】
第1外面導電層13a及び第2外面導電層13bについても同様であり、第1外面導電層13a及び第2外面導電層13bは、それらのいずれの位置においても同じ材料から構成されていることが好ましい。尤も、場合によっては、これらの導電層13a,13bの平面視において、任意に定めた第1の領域と、該第1の領域と異なる、任意に定めた第2の領域とで、構成材料が相違していてもよい。また、第1外面導電層13a及び第2外面導電層13bが、それらのいずれの位置においても同じ材料から構成されている場合、第1外面導電層13aの構成材料と、第2外面導電層13bの構成材料とは、同一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0015】
図1に示すとおり、多層積層板10においては、厚み方向の中央域に位置する中央導電層11aが、多層積層板10の面内方向の全域にわたり「べた状態」で形成されている。換言すれば、中央導電層11aは、これを平面視したときに、いずれの位置においても、厚み方向の全域にわたる孔(スルーホール)や切り欠き等の欠損部分が非存在となっている。中央導電層11aに厚み方向の全域にわたる欠損部分が非存在になっていることで、該中央導電層11aの各面に第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bを形成するときに、これらの誘電体層12a,12bを、それらの厚みが均一になるように形成することができる。その結果、これらの誘電体層12a,12bの静電容量にばらつきが生じることを効果的に抑制できる。厚みのばらつきの程度は、後述する方法によって測定される。
【0016】
これとは対照的に、例えば特許文献1に記載の技術では、導電層に回路パターンが形成されているので、すなわち厚み方向の全域にわたって欠損部分が存在しているため、該導電層の表面に誘電層を形成すると、欠損部分と非欠損部分とで誘電層の厚みが相違しやすく、そのことに起因して誘電層の静電容量にばらつきが生じやすくなる。
【0017】
本実施形態の多層積層板10における各誘電体層12a,12bの静電容量にばらつきが生じにくくするためには、各誘電体層12a,12bの厚みを極力均一にすることが有利である。この観点から多層積層板10は、図2に示す方法で製造することが好ましい。詳細には、まず中央導電層11aを用意する。これとともに、第1エレメント14a及び第2エレメント14bを用意する。第1エレメント14aは、第1外面導電層13aの一面に第1誘電体層12aが形成されてなるものである。第2エレメント14bは、第2外面導電層13bの一面に第2誘電体層12bが形成されてなるものである。そして、中央導電層11aの各面に第1エレメント14a及び第2エレメント14bを配置して、これらを重ね合わせる。重ね合わせに際しては、第1エレメント14aにおける第1誘電体層12aが中央導電層11aに対向し、且つ第2エレメント14bにおける第2誘電体層12bが中央導電層11aに対向するように、これらのエレメント14a,14bを配置する。
【0018】
図2に示すとおりに中央導電層11a、並びに第1エレメント14a及び第2エレメント14bを配置してこれらを重ね合わせたら、その状態下にこれら三者を加熱下に加圧する。この操作によってこれら中央導電層11aの各面に第1エレメント14a及び第2エレメント14bを圧着し、これら三者が一体化してなる多層積層板10が得られる。この方法によれば、予め製造しておいた第1エレメント14a及び第2エレメント14bを中央導電層11aの各面に貼り合わせるだけの簡単な操作で多層積層板10が得られるので、第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bそれぞれに、厚みのばらつきが生じにくくなる。そのことによって、第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bそれぞれに、静電容量のばらつきが生じにくくなる。
【0019】
第1エレメント14a及び第2エレメント14bはそれぞれ、誘電体粒子及び樹脂を含む樹脂組成物を、第1外面導電層13a及び第2外面導電層13bそれぞれの一面に施して、これらの樹脂組成物から第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bを形成することで好適に製造される。樹脂組成物を、第1外面導電層13a及び第2外面導電層13bそれぞれの一面に施すには、例えば該樹脂組成物を塗布すればよい。例えば前記の樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合には、Aステージ状態の熱硬化性樹脂及び誘電体粒子を含み、ワニス状の流動状態になっている樹脂組成物を用い、該樹脂組成物を塗布すればよい。そして、塗布後の樹脂組成物に熱やエネルギー線を付与して硬化させて、熱硬化性樹脂をBステージの状態することで、第1エレメント14a及び第2エレメント14bが得られる。このような方法で第1エレメント14a及び第2エレメント14bを製造することで、均一な厚みの第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bを首尾よく形成することができる。
【0020】
第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bに含まれる前記の樹脂としては、上述のとおり熱硬化性樹脂を用いることが好ましく、特に絶縁性の高い樹脂を用いることが好ましい。熱硬化性樹脂としては、プリント配線板の技術分野においてこれまで用いられてきたものと同様のものを用いることができる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、シアネート樹脂、マレイミド樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂は、第1エレメント14a及び第2エレメント14bの状態のときは、Aステージ又はBステージの状態であることが好ましく、多層積層板10の状態のときは、Cステージの状態にあることが好ましい。
【0021】
第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bは、これらの誘電体層12a,12bを補強するためのガラス織布、ガラス不織布及び紙等の繊維状材料、又は例えばポリイミド樹脂等から構成されるフィルム状材料、つまり補強材を含んでいても差し支えないが、該補強材を含んでいないことが好ましい。補強材はこれらの誘電体層12a,12bに強度を付与する観点から有用な材料である。しかしその反面、補強材を用いることで、これらの誘電体層12a,12bの厚みが増してしまうという欠点がある。これらの誘電体層12a,12bの厚みの増加は、キャパシタの静電容量の低下の一因となる。そこで、これらの誘電体層12a,12bの強度向上よりも、多層積層板10の薄型化及び内蔵キャパシタの高容量化を優先させて、これらの誘電体層12a,12bには補強材を非含有とすることが好ましい。これらの誘電体層12a,12bの強度低下に伴う不都合は、これらの誘電体層12a,12bをエレメント14a,14bの状態で中央導電層11aに貼り合わせることで克服できる。
【0022】
多層積層板10の製造方法の別法として、中央導電層11a、並びに第1及び第2外面導電層13a,13bとなる金属箔を用意するとともに、第1及び第2誘電体層12a,12bとなる2つの誘電樹脂層を用意し、各誘電樹脂層を、中央導電層11aと第1外面導電層13aとの間、及び中央導電層11aと第2外面導電層13bとの間に配置して重ね合わせ、その状態下に加熱・加圧してこれらを一体化して多層積層板10を得る方法が挙げられる。この方法において用いられる誘電樹脂層は、Bステージの状態にある熱硬化性樹脂内に、誘電体粒子が分散されてなるものである。
【0023】
前記の誘電樹脂層は、熱硬化性樹脂及び誘電体粒子を含むシートないしフィルムから構成することができる。場合によっては、誘電樹脂層は、熱硬化性樹脂を含み、且つガラス織布、ガラス不織布及び紙等の繊維状材料に、Bステージの状態にある熱硬化性樹脂を含浸させたものを必要枚数重ねた積層シート又は積層フィルムであってもよい。繊維状材料に代えてフィルムを用いることもできる。また、誘電樹脂層は、これらの材料に加えて、無機充填剤を含有していてもよい。誘電樹脂層が、これらのいずれ形態である場合であっても、熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、シアネート樹脂、マレイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等を用いることができる。
【0024】
第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bは、その比誘電率が10以上であることが好ましく、20以上であることが更に好ましく、40以上であることが一層好ましい。比誘電率をこれらの値以上とすることで、これらの誘電体層12a,12bを薄くしつつ、静電容量を容易に高めることが可能となる。これらの誘電体層12a,12bの比誘電率は高ければ高いほど好ましいが、中央導電層11a並びに第1及び第2外面導電層13a,13bとの密着性や、誘電体層12a,12bの強度を考慮すると、300以下であることが好ましく、200以下であることが更に好ましく、100以下であることが一層好ましい。ここで言う比誘電率とは、スプリットポスト誘電体共振法(使用周波数:1GHz)によって測定される値のことである。
【0025】
第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bが、上述の比誘電率を満たすようにするための一手段として、これらの誘電体層12a,12bは、上述した誘電体粒子を含むことが好ましい。誘電体粒子としては、比誘電率が50以上20000以下のものを用いることが好ましく、例えばチタン酸バリウム系セラミック、チタン酸カルシウム系セラミック、チタン酸マグネシウム系セラミック、チタン酸ビスマス系セラミック、チタン酸ストロンチウム系セラミック、ジルコン酸鉛系セラミック、ジルコン酸バリウム系セラミック、ジルコン酸カルシウム系セラミック等のペロブスカイト構造を持つ複合酸化物を用いることができる。これらペロブスカイト構造を持つ複合酸化物のうち、高い誘電率を得ようとする場合にはチタン酸バリウム系セラミックを用いることが好ましいが、多層積層板10の設計品質に応じて選択使用すればよい。
【0026】
誘電体粒子は、その粒径が0.01μm以上1.0μm以下であることが、誘電体層11の誘電率を、場所によらず一定に保ち得る点から好ましい。ここで言う粒径とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50%における体積累積粒径D50のことである。
【0027】
第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bに含まれる誘電体粒子の割合は、静電容量の向上とこれらの誘電体層12a,12bの強度とのバランスを図る観点から、それぞれ独立に60質量%以上95質量%以下であることが好ましく、60質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上90質量%以下であることが更に好ましい。これらの誘電体層12a,12bに含まれる誘電体粒子の割合は、該誘電体層12a,12b中の樹脂分を昇華させ、残存した粒子の質量から測定することができる。
【0028】
一般に、補強材を含まず、且つ誘電体粒子が高濃度に充填された誘電体層は、非常に脆い性質であるため、積層時の応力が高い場合には、その応力に耐え切れず、割れを生じてしまう場合が考えられる。これに対し本発明における製造方法によれば、誘電体層に損傷を与えることなく積層することが可能となる。
前記脆さを示す物性値としては、破断ひずみエネルギーを採用することが好適である。誘電体層を形成する樹脂フィルムの引張試験における応力σ−ひずみε曲線において、破断ひずみエネルギーU(単位:MJ(メガジュール))は、下記積分式によって算出される。なお、εは破断時のひずみを示す。
【0029】
【数1】
【0030】
高濃度に誘電体粒子が充填された誘電体層の破断ひずみエネルギーは、1.8MJ以下である場合に本製造方法の効果である誘電体層の損傷抑制効果及び厚さばらつき抑制効果が有意に発揮される。誘電体層の破断ひずみエネルギーUは、より典型的には1.2MJ以下、更に典型的には0.8MJ以下、更には0.5MJ以下である。破断ひずみエネルギーUの下限値に特に制限はないが、0.01MJ以上、より好ましくは0.02MJ以上であれば、本発明の多層積層板における誘電体層12a,12bの厚さの均一性は十分に確保され得る。この破断ひずみエネルギーUの値は、本発明の多層積層板における誘電体層12a,12bのいずれか一方で満たされることが好ましく、双方で満たされることが更に好ましい。
【0031】
一般に、前記破断ひずみエネルギーが低い誘電体層の引張強度は低くなる性質がある。高い比誘電率を示す誘電体層の引張強度は、60.0MPa以下、更には55.0MPa以下、特には50.0MPa以下となることが典型的であり、そのような場合において、本発明の効果が一層有利に発揮される。
一方で、誘電体層と、導電層との密着性を十分に確保する点では、誘電体層の引張強度は、5.0MPa以上であることが好ましく、より好ましくは8.0MPa以上である。
この引張強度の値は、本発明の多層積層板における誘電体層12a,12bのいずれか一方で満たされることが好ましく、双方で満たされることが更に好ましい。
【0032】
また、誘電体層は、その引張破断伸び率(破断ひずみ)が、5.0%以下、更には4.0%以下、特には1.0%以下と低い場合において、本発明の効果が一層有利に発揮される。
一方で、プリント配線板製造時のハンドリングに最低限耐え得るだけの可撓性を保持する点では、誘電体層の引張破断伸び率(破断ひずみ)は、0.05%以上であることが好ましく、より好ましくは0.2%以上である。
この引張破断伸び率の値は、本発明の多層積層板における誘電体層12a,12bのいずれか一方で満たされることが好ましく、双方で満たされることが更に好ましい。
なお、上述した破断ひずみエネルギー、引張強度及び引張破断伸び率は、JISK7161(1994)「プラスチック−引張特性の試験方法」に準拠し、測定温度を25℃、標点間の距離を50mm、引張速度を1.0mm/min(ひずみ速度として2%/min)で測定したときの応力ひずみ曲線から求めた値を標準条件として採用するものとする。なお、誘電体層の試料長が著しく短く、上述した標点間の距離が取れない場合は、ひずみ速度2%/minとした方法で測定することも可能である。
【0033】
誘電体層の脆性を示す別の物性値に押込み弾性率Eitがある。誘電体層の押込み弾性率Eitは、4800N/mm以上、更には6000N/mm以上、特に8000N/mm以上と高くなるのが典型的である。この押込み弾性率Eitとしては、ISO14577(2015)に準拠し、ナノインデンテーション法によって測定される値を採用するものとする。この押込み弾性率Eitの値は、本発明の多層積層板における誘電体層12a,12bのいずれか一方で満たされることが好ましく、双方で満たされることが更に好ましい。
【0034】
第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bは、その厚さが薄いほど、電気容量は大きく、蓄電量も大きなものとなる。蓄電した電気は、電源用電力の一部として用いられ、省電力化に繋がるものとなる。これらの誘電体層12a,12bの厚さは、製品設計、回路設計の段階で決められるものであり、市場における要求レベルを考慮して決定される。本発明においては、第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bの厚みはそれぞれ独立に、好ましくは30μm以下、更に好ましくは16μm以下、特に好ましくは12μm以下、最も好ましくは8μm以下とする。これらの誘電体層12a,12bの厚さの下限に限定はなく、隣接する導電層どうしがショートしない厚さであればよい。例えばそれぞれ独立に0.1μm以上が好ましく、より確実に上述のショートを防止するためには、0.5μm以上がより好ましい。
【0035】
第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bはそれぞれ、上述の範囲の厚みを有することを条件として、任意の複数の位置で測定された厚みにばらつきが少ないことが好ましい。厚みのばらつきが少ないことで、これらの誘電体層12a,12bから形成されるキャパシタの静電容量にばらつきが生じにくくなるからである。この観点から、誘電体層12a,12bは、その厚みのばらつきがそれぞれ独立に15%以下であることが好ましく、10%以下であることが更に好ましく、8%以下であることが一層好ましい。
これらの誘電体層12a,12bの厚みのばらつきは、第1誘電体層12a又は第2誘電体層12bの中心とその端部(例えば誘電体層が矩形であれば四隅)の厚み方向の断面を拡大観察(例えば500倍以上に拡大)することで合計で最低10点を測定し、その最大値、最小値及び平均値を求め、下記(1)及び(2)で表される数値(単位:%)のうち、値の大きい数値によって定義される値である。
〔100×(最大値−平均値)/平均値〕 (1)
〔100×(平均値−最小値)/平均値〕 (2)
【0036】
第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bはそれぞれ、上述のとおり、厚みのばらつきが小さいものである。また、第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bはそれらの厚みが同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。いずれの場合であっても、第1誘電体層12aの比誘電率と、第2誘電体層12bの比誘電率との差は小さいことが好ましい。特に、第1誘電体層12aの比誘電率εaと第2誘電体層12bの比誘電率εbとの差が10%以下であることが好ましく、5%以下であることが更に好ましく、3%以下であることが一層好ましい。両誘電体層12a,12bの比誘電率εa,εbの差が小さいことで、多層積層板10を用いて多層プリント配線板を製造するときの設計が容易になる。この観点から、第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bはそれらの厚みが同じであることが特に好ましい。第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bはそれらを構成する組成(樹脂組成物の組成)が同じであることが特に好ましい。両誘電体層12a,12bの比誘電率εa,εbの差は〔(|εa−εb|/εa)×100〕で定義される。
【0037】
第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bを挟む中央導電層11a並びに第1外面導電層13a及び第2外面導電層13bはその厚みに特に制限はなく、薄くてもよく、あるいは厚くてもよい。これらの導電層11a,13a,13bの厚みはそれぞれ独立に例えば0.1μm以上70μm以下に設定することが好ましい。導電層11a,13a,13bはその厚み及び/又は種類が同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。これらの導電層11a,13a,13bは、一般に金属箔から構成することが製造プロセスの観点から好ましい。かかる金属箔は圧延箔、電解箔及び気相箔のいずれであってもよい。金属箔としては例えば銅箔が代表的なものとして挙げられるが、それ以外の金属の箔を用いてもよい。また、導電層13a,13bの面のうち、誘電体層12と対向する面に、電気抵抗層(例えばNi−PやNi−Crなどからなる層)を設けたものを用いてもよい。
【0038】
第1誘電体層12a及び第2誘電体層12bの厚みを十分に確保して、静電容量を十分に高いものとする観点から、導電層11a,13a,13bの面のうち、誘電体層12a,12bと対向する面の粗度は低いことが好ましい。この観点から、導電層11a,13a,13bにおける第1及び第2誘電体層12a,12bの対向面は、その表面粗さを十点平均粗さRz(JIS B0601−1994)で表したとき、Rzが1.5μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることが更に好ましく、粗化処理がされていないことが一層好ましい。これによって、第1及び第2誘電体層12a,12bの厚みを一層均一にすることが容易となる。特に、中央導電層11aはその両面のRzの差が1.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることが更に好ましい。中央導電層11aはその両面が誘電体層12a,12bと対向することから、中央導電層11aの両面の粗度の差を小さくすることによって、第1及び第2誘電体層12a,12bの厚みを一層均一にすることができる。
【0039】
以上のとおりの構成を有する多層積層板10は、好適に多層プリント配線板を製造するための材料として用いられる。そこで以下に、多層積層板10を用いた多層プリント配線板の好適な製造方法を説明する。
【0040】
まず図3(a)に示すとおり、多層積層板10における所定の位置に、該多層積層板10をその厚み方向全域にわたって貫通する第1スルーホール15を形成する。第1スルーホール15の形成には例えばドリルをはじめとする、当該技術分野において知られている穿孔手段を適宜用いることができる。第1スルーホールの直径は、目的とする多層プリント配線板の具体的な用途に応じて適切な値が選択される。
【0041】
次に図3(b)に示すとおり、穿孔によって形成された第1スルーホール15内に充填剤16を充填する。充填剤16としては非導電性材料が好ましく用いられる。ここで言う非導電性材料とは、25℃における体積抵抗率が1×10Ω・cm以上である材料のことである。そのような非導電性材料としては樹脂を用いることが簡便であり、特に、先に各誘電体層12a,12bを構成する樹脂として例示した各種の熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。樹脂として熱硬化性樹脂を用いた場合には、Aステージの状態の熱硬化性樹脂を第1スルーホール15内に充填し、次いでこれを硬化させる。これによって樹脂硬化体からなる充填剤16を第1スルーホール15内に形成する。第1スルーホール15内は充填剤16によって完全に充填されている。
【0042】
充填剤16によって第1スルーホール15内を充填したら、図3(c)に示すとおり、第2スルーホール17を形成する。第2スルーホール17は、充填剤16が充填された位置に形成される。また第2スルーホール17は、多層積層板10をその厚み方向に貫通するように形成される。多層積層板10の平面視において、第2スルーホール17の形状は、第1スルーホール15の形状と相似になっていることが好ましい。特に、多層積層板10の平面視において、第2スルーホール17及び第1スルーホール15の形状は、いずれも円形(真円形)であることが好ましい。第2スルーホール17は第1スルーホール15よりも小径である。第2スルーホール17は、多層積層板10の平面視において、第1スルーホール15の図心と、第2スルーホール17の図心とが一致するように形成されることが好ましい。例えば多層積層板10の平面視における第2スルーホール17及び第1スルーホール15の形状がいずれも円形である場合、両スルーホール17,15が同心円の位置関係となるように、第2スルーホール17が形成されることが好ましい。その結果、第2スルーホール17が形成された後の充填剤16の形状は、柱状から筒状に変化する。したがって、第2スルーホール17の内壁は非導電性の材料から構成されることになる。
【0043】
このようにして第2スルーホール17が形成されたら、図4(a)に示すとおり、多層積層板10における第1及び第2外面導電層13a,13bの外面に第3導電層18a,18bを形成する。これとともに、第2スルーホール17の内壁に第4導電層19を形成する。第4導電層19は、2つの第3導電層18a,18bと導通するように形成される。第4導電層19は、非導電性材料から構成される充填剤16の表面に形成されるので、第4導電層19と中央導電層11aとは、充填剤によって絶縁されて非導通となる。第3導電層18a,18b及び第4導電層19の形成には、例えば無電解めっき法が用いられるが、この方法に限らない。
【0044】
次に図4(b)に示すとおり、多層積層板10に対して回路形成のためのパターニングを行う。同図においては、第3導電層18a,18bを含む第1及び第2外面導電層13a,13bに対してパターニングを行い、回路を形成する工程が示されている。回路形成のためのパターニングには、当該技術分野において知られている各種のリソグラフィー法を適宜用いることができる。第3導電層18a,18b並びに第1及び第2外面導電層13a,13bの一部を除去してパターニングを行うときには、第1外面導電層13a側の除去箇所のうちの少なくとも一箇所である第1欠落部Raと、第2外面導電層13b側の除去箇所のうちの少なくとも一箇所である第2欠落部Rbとが、多層積層板10の平面視において重複するようにパターニングを行うことが好ましい。
【0045】
回路パターンが形成されたら、次に図4(c)に示すとおり、多層積層板10の各面に対して、絶縁樹脂層20を積層する。これによって、該絶縁樹脂層20に含まれる樹脂が充填剤となり、第2スルーホール17内が完全充填されるとともに、多層積層板10の各面が絶縁樹脂層20によって完全被覆される。絶縁樹脂層20としては、当該技術分野において知られているものを特に制限なく用いることができる。絶縁樹脂層20には一般にBステージの熱硬化性樹脂が非導電性材料として含まれているので、絶縁樹脂層20を用いた積層においては、該絶縁樹脂層20を加熱して、該絶縁樹脂層20を多層積層板10に貼り合わせることが好ましい。
【0046】
前記の絶縁樹脂層は、(ア)例えばガラス織布、ガラス不織布及び紙等の繊維状材料に絶縁性樹脂を含浸させたプリプレグ等を必要枚数重ねたものであってもよい。含浸される絶縁性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、シアネート樹脂、マレイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。あるいは前記の絶縁樹脂層として、(イ)エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂又はポリエステル樹脂等の絶縁性樹脂からなる絶縁樹脂層(つまり繊維状材料を含まない層)を用いてもよい。絶縁樹脂層が前記の(ア)及び(イ)の形態のいずれであっても、該絶縁樹脂層中の無機充填剤を含有させることができる。絶縁樹脂層中に無機充填剤が含有されている場合には、第2スルーホール17内に充填される充填剤は、絶縁性樹脂及び無機充填剤である。
【0047】
絶縁樹脂層20の積層に引き続き、図4(c)に示すとおり、絶縁樹脂層20の各面に第5導電層21a,21bをそれぞれ形成する。第5導電層21a,21bはいずれも、例えば金属箔から構成することができる。
絶縁樹脂層20,20及び第5導電層21a,21bの積層は種々の方法で行うことができる。例えば、まず多層積層板10の各面に対して、半硬化のBステージ状態の絶縁樹脂層20,20を積層するとともに、その上に第5導電層21a,21bを積層する。そして、加熱下にプレスすることで絶縁樹脂層20が硬化してこれら三者が接合一体化される。また、絶縁樹脂層20,20及び第5導電層21a,21bを別途用意することに代えて、これらの積層を樹脂付金属箔によって行ってもよい。
【0048】
次に、図5(a)に示すとおり、第5導電層21bに対してパターニングを行う。このパターニングは、絶縁樹脂層20に対して穴あけ加工を行うためのコンフォーマルマスクを形成するために行われる。パターニングによって第5導電層21bの一部が除去されて第3欠落部Rcが形成される。パターニングが完了したら図5(b)に示すとおり、第5導電層21bのうち、パターニングによって除去された欠落部Rcを通じて、絶縁樹脂層20に対しレーザー光による穴あけ加工を行う。絶縁樹脂層20への穴あけ加工は、第3導電層18bが露出するように行われる。
【0049】
絶縁樹脂層20へ穴あけ加工を行い第3導電層18bが露出したら、次に図5(c)に示すとおり、厚み方向全域にわたって貫通する第3スルーホール22を形成する。第3スルーホール22の形成は、例えば、先に説明した図4(b)に示す工程において、第1及び第2外面導電層13a,13bに形成された回路パターンのうち、該導電層13a,13bが除去された部位である第1欠落部Ra及び第2欠落部Rbに対して行う。
【0050】
このようにして第3スルーホール22が形成されたら、図6(a)に示すとおり、第5導電層21a,21bの外面に第6導電層23a,23bを形成する。第6導電層23bは、第5導電層21b及び絶縁樹脂層20に形成された穴25の側面にも形成して、第6導電層23bと、露出している第3導電層18bとを接続させる。これとともに、第3スルーホール22の内壁に第7導電層24を形成する。第7導電層24は、2つの第6導電層23a,23bと導通するように形成される。更に第7導電層24は、第3スルーホール22の側面において、第5導電層21a,21b、中央導電層11aとも導通するように形成される。第6導電層23a,23b及び第7導電層24の形成には、例えば無電解めっき法が用いられるが、この方法に限られない。
【0051】
最後に、図6(b)に示すとおり、第6導電層23bと第7導電層24との接続を切断する。切断は、例えば第6導電層23bをパターニングすることで行うことができる。切断箇所は第5導電層21b上とする。第6導電層23bと第7導電層24との切断の方法に特に制限はなく、例えばレーザー光の照射やエッチングなどの公知の手段を用いることができる。第5導電層21b上において、第6導電層23b及び第5導電層21bに、それらの厚み方向にわたって穴26をあけ、絶縁樹脂層20の表面が露出するようにする。これによって、第6導電層23b及び第5導電層21bと、第7導電層24との接続が切断される。
【0052】
このようにして得られた多層プリント配線板100(図6(b)参照)においては、第1及び第2誘電体層12a,12bがそれぞれ、中央導電層11aと第1及び第2外面導電層13a,13bとの間に配置されることで、内蔵キャパシタが形成される。中央導電層11aは、第7導電層24を通じ、多層プリント配線板100の一方の面に露出している第6導電層23aに接続している。また、第1及び第2外面導電層13a,13bは、第3導電層18a,18b及び第4導電層19を通じて、多層プリント配線板100の他方の面に露出している第6導電層23bに接続している。したがって、第6導電層23a,23b間に電圧を印加することで、内蔵キャパシタを機能させることができる。
【0053】
以上のとおり、多層積層板10を用いることによって、第1及び第2誘電体層12a,12bの厚みの均一さを損なうことなく、内蔵キャパシタを有する多層プリント配線板100が得られる。したがって、この内蔵キャパシタはその静電容量のばらつきが抑制されたものとなる。また、多層積層板10における中央導電層11a、並びに第1及び第2外面導電層13a,13bを、容易に外部の導電層と接続することができる。
【0054】
次に、多層積層板10を用いた多層プリント配線板の別の好適な製造方法を図7ないし図9を参照しながら説明する。なお、本実施形態に関し、特に説明しない点については、先に述べた図3ないし図6に示す実施形態に関して詳述した説明が適宜適用される。また、図7ないし図9において、図3ないし図6と同じ部材には同じ符号を付してある。
【0055】
本実施形態の製造方法は、先に述べた実施形態における図3(a)までは同じ工程である。そして、図3(a)に示す工程の後、図7(a)に示すとおり、多層積層板10に対して回路形成のためのパターニングを行う。同図においては、第1及び第2外面導電層13a,13bに対してパターニングを行い、回路を形成する工程が示されている。第1及び第2外面導電層13a,13bの一部を除去してパターニングを行うときには、第1外面導電層13a側の除去箇所のうちの少なくとも一箇所である第1欠落部Raと、第2外面導電層13b側の除去箇所のうちの少なくとも一箇所である第2欠落部Rbとが、多層積層板10の平面視において重複するようにパターニングを行うことが好ましい。
【0056】
回路パターンが形成されたら、次に図7(b)に示すとおり、多層積層板10の各面に対して、絶縁樹脂層20を積層する。これによって、該絶縁樹脂層20に含まれる樹脂が充填剤となり、第1スルーホール15内が完全充填されるとともに、多層積層板10の各面が絶縁樹脂層20によって完全被覆される。絶縁樹脂層20の積層に引き続き、図7(b)に示すとおり、絶縁樹脂層20の各面に第5導電層21a,21bをそれぞれ形成する。絶縁樹脂層20の具体例は、先に図4(c)に示す実施形態において説明したものと同様である。したがって絶縁樹脂層20には、図4(c)に示す実施形態と同様に、無機充填剤を含有させることができる。絶縁樹脂層中に無機充填剤が含有されている場合には、第1スルーホール15内に充填される充填剤は、絶縁性樹脂及び無機充填剤である。
【0057】
次に、図7(c)に示すとおり、各第5導電層21a,21bに対してパターニングを行う。このパターニングは、絶縁樹脂層20に対して穴あけ加工を行うためのコンフォーマルマスクを形成するために行われる。パターニングによって第5導電層21a,21bの一部が除去されて第3欠落部Rcが形成される。
【0058】
パターニングが完了したら図8(a)に示すとおり、第5導電層21a,21bのうち、パターニングによって除去された第3欠落部Rc(図7(c)参照)を通じて、絶縁樹脂層20に対しレーザー光による穴あけ加工を行う。絶縁樹脂層20への穴あけ加工は、第1及び第2外面導電層13a,13bが露出するように行われる。
【0059】
次に、図8(b)に示すとおり、第2スルーホール17を形成する。第2スルーホール17は、第1スルーホール15に絶縁樹脂層20が充填された位置に形成される。また第2スルーホール17は、多層積層板10をその厚み方向の全域にわたり貫通するように形成される。第2スルーホール17は第1スルーホール15よりも小径である。第2スルーホール17は、多層積層板10の平面視において、第1スルーホール15の図心と、第2スルーホール17の図心とが一致するように形成されることが好ましい。その結果、第2スルーホール17が形成された後の、第1スルーホール15内での絶縁樹脂層20の形状は、柱状から筒状に変化する。したがって、第2スルーホール17の内壁は非導電性の材料から構成されている。
【0060】
更に、図8(c)に示すとおり、第3スルーホール22を形成する。第3スルーホール22は、多層積層板10の厚み方向全域にわたって貫通するように形成される。第3スルーホール22の形成は、例えば、先に説明した図7(a)に示す工程において、第1及び第2外面導電層13a,13bに形成された回路パターンのうち、該導電層13a,13bが除去された部位である第1欠落部Ra及び第2欠落部Rbに対して行う。第3スルーホール22の直径は、先に形成した第2スルーホール17の直径と同じにすることが好ましい。
【0061】
このようにして第3スルーホール22が形成されたら、図9(a)に示すとおり、第5導電層21a,21bの外面に第3導電層18a,18bを形成する。第3導電層18a,18bは、第5導電層21a,21b及び絶縁樹脂層20に形成された穴25の側面にも形成して、第3導電層18a,18bと、露出している第1及び第2外面導電層13a,13bとを接続させる。
【0062】
これとともに、第2スルーホール17の内壁に第4導電層19を形成し、且つ第3スルーホール22の内壁に第7導電層24を形成する。第4導電層19は、2つの第3導電層18a,18bと導通するように形成される。同様に、第7導電層24は、2つの第3導電層18a,18bと導通するように形成される。第4導電層19は、非導電性材料からなる絶縁樹脂層20の表面に形成されるので、第4導電層19と中央導電層11aとは、絶縁樹脂層20によって絶縁されて非導通となる。一方、第7導電層24は、第3スルーホール22の内壁に直接形成されるので、第3スルーホール22の内壁に露出している中央導電層11aと、第7導電層24とが導通する。
【0063】
最後に、図9(b)に示すとおり、第3導電層18a,18bと第7導電層24との接続を切断する。切断は、例えば第3導電層18a,18bをエッチング等によってパターニングすることで行うことができる。これらの接続を切断する箇所は第5導電層21a,21b上とする。具体的には、第5導電層21a,21b上において、第3導電層18a,18b及び第5導電層21a,21bに、それらの厚み方向にわたって穴26をあけ、絶縁樹脂層20の表面が露出するようにする。これによって、第3導電層18a,18b及び第5導電層21a,21bと、第7導電層24との接続が切断される。
【0064】
このようにして得られた多層プリント配線板100(図9(b)参照)においては、第1及び第2誘電体層12a,12bがそれぞれ、中央導電層11aと第1及び第2外面導電層13a,13bとの間に配置されることで、内蔵キャパシタが形成される。中央導電層11aは、第7導電層24を通じ、多層プリント配線板100の外面に露出している第3導電層18a’,18b’に接続している。また、第1及び第2外面導電層13a,13bは、第3導電層18a”,18b”に直接に接続されている。したがって、第3導電層18a’,18b’と第3導電層18a”,18b”との間に電圧を印加することで、内蔵キャパシタを機能させることができる。
【0065】
以上のとおり、本実施形態の多層プリント配線板100の製造方法においても、多層積層板10を用いることによって、第1及び第2誘電体層12a,12bの厚みの均一さを損なうことなく、内蔵キャパシタを有する多層プリント配線板100が得られる。したがって、この内蔵キャパシタはその静電容量のばらつきが抑制されたものとなる。
【0066】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば図5(a)や図7(c)に示す工程においては、コンフォーマルマスクを形成するために、第5導電層21a,21bの一部を除去して第3欠落部Rcを形成したが、第5導電層21a,21bの厚みが極めて薄い場合には、第3欠落部Rcを形成しなくてもよい。
【0067】
また、図8(a)及び図8(b)に示す工程においては、第2スルーホール17を形成した後に第3スルーホール22を形成したが、この順序は逆でもよい。あるいは、第2スルーホール17及び第3スルーホール22を同時に形成してもよい。これらのスルーホール17,22は一般にドリルを用いて形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、内蔵キャパシタの容量のばらつきが抑制された多層積層板が提供される。
【符号の説明】
【0069】
10 多層積層板
11a 中央導電層
12a 第1誘電体層
12b 第2誘電体層
13a 第1外面導電層
13b 第2外面導電層
14a 第1エレメント
14b 第2エレメント
15 第1スルーホール
16 充填剤
17 第2スルーホール
18a,18b 第3導電層
19 第4導電層
20 絶縁樹脂層
21a,21b 第5導電層
22 第3スルーホール
23a,23b 第6導電層
24 第7導電層
25,26 穴
100 多層プリント配線板
Ra 第1欠落部
Rb 第2欠落部
Rc 第3欠落部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9