【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の磁性体は、前記接触部による前記物体への加圧方向である上下方向の両側から前記第1の磁性体を挟むように一対配置され、前記上下方向に前記斥力を発生させることで、当該上下方向の接触力を調整可能に設けられることを特徴とする請求項1記載の接触力調整エンドエフェクタ。
前記第2の磁性体は、前記第1の磁性体の周囲を囲むように配置され、前記接触部による前記物体への加圧方向である上下方向に直交する横方向に前記斥力を発生させることで、当該横方向の接触力を調整可能に設けられることを特徴とする請求項1記載の接触力調整エンドエフェクタ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1、2等の研磨装置のように、前記作業装置では、ロボットアームの柔軟性を向上させる等の目的により、一般的に動力源として空気圧アクチュエータを用いたものが多い。しかしながら、空気圧アクチュエータを用いた場合、ツールがワークに接触する際の接触力の微調整を行うことができないばかりか、空気圧ポンプ等を併設しなければならず、装置全体の大型化や重量化を招来し、エネルギー消費も大きくなる。
【0005】
本発明は、このような課題に着目して案出されたものであり、その目的は、所定の動作装置を利用した多種多様な作業において、当該作業を行う物体への接触部の接触力を繊細に調整することができるとともに、装置構成の小型化、軽量化、及び省エネルギー化に寄与することができる接触力調整エンドエフェクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、主として、本発明は、所定の物体に接触する接触部を動作させる動作装置に繋がって、前記物体に対する前記接触部の接触力を調整可能にするエンドエフェクタにおいて、前記接触部に繋がる第1の磁性体と、前記第1の磁性体に対して所定の間隔を隔てて配置される第2の磁性体とを備え、前記第1の磁性体は、前記接触部の動作に連動するとともに、所定の基準位置から前記第2の磁性体に対して離間接近可能に配置され、前記第2の磁性体は、前記第1の磁性体に対して斥力を発生させるように、これら磁性体が相対する部分を相互に同一の極性とし、前記第1の磁性体が前記基準位置に存在するときの前記斥力である基準斥力の大きさを可変に設定することにより、前記接触力を調整可能にする、という構成を採っている。
【0007】
なお、本特許請求の範囲及び本明細書において、特に明記しない限り、位置若しくは方向を示す用語を次の通りに定義する。すなわち、「上下方向」とは、エンドエフェクタの接触部(ツール)により物体(ワーク)を加圧する方向を意味し、「上」は、同加圧方向における「上」で、「下」は、同加圧方向における「下」を意味する。また、「横方向」とは、前記加圧方向(上下方向)に直交する方向を意味する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の構成では、接触部が物体に接触すると、その反作用によって、接触部に連動する第1の磁性体が第2の磁性体に離間接近移動しようとする。この際、第1及び第2の磁性体の間に発生する斥力が抵抗力となり、当該抵抗力が接触部の物体への接触力となる。この接触力は、予め設定される基準斥力が大きくなる程、増大するため、基準斥力の調整により、動作装置の所定動作によって接触部が物体に接触する際の柔軟性を能動的に調整することができる。
【0009】
従って、本発明によれば、空気圧アクチュエータを用いずに、第1及び第2の磁性体の磁力を用いて、物体に対する接触部の接触力を調整可能にしたため、全体の小型化、軽量化、省エネルギー化を図ることができ、且つ、空気圧アクチュエータを用いた従来の構造では困難であったマイクロニュートン単位での微細な接触力の調整が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
【0012】
図1には、本発明に係る接触力調整エンドエフェクタ(以下、単に「エンドエフェクタ」と称する)が取り付けられたロボットの概念図が示されている。この図において、前記エンドエフェクタ10は、ロボットR(動作装置)を構成するロボットアームAの先端側に取り付けられ、ロボットアームAの動作により所定範囲内を移動可能となっている。
【0013】
特に限定されるものではないが、本実施形態におけるエンドエフェクタ10は、所定の物体からなるワークWの表面を研磨加工する作業用のロボットRに使用される。具体的には、エンドエフェクタ10に保持される研磨用のツールTが、ロボットアームAの動作によりワークWの表面を
図1中z軸方向となる上下方向に加圧しながら当該表面に沿って同図中左方に移動することで、ワークWの表面の研磨加工を行うようになっている。
【0014】
前記エンドエフェクタ10は、ワークWの表面への接触部となるツールTの接触力を能動的に調整可能に構成される。すなわち、このエンドエフェクタ10は、
図2に示されるように、円筒形状をなす外側のケース11と、当該ケース11の内部空間に収容される磁性体ユニット13とを備えている。
【0015】
前記磁性体ユニット13は、ツールTに一体的に繋がる中央の第1の磁性体15と、第1の磁性体15に対して所定の間隔を隔てて上下に一対配置される第2の磁性体16,17とからなる。これら第1及び第2の磁性体15,16,17は、特に限定されるものではないが、ネオジム磁石によって構成される。
【0016】
前記第1の磁性体15は、ケース11の内径にほぼ等しい外径を有する円盤状に設けられており、ケース11には固定されずに、ケース11内をz軸方向となる上下方向に移動可能に配置され、第2の磁性体16,17に離間接近可能となっている。ここで、第1の磁性体15は、後述するように、所定の基準位置に存在するときに、第2の磁性体16,17に対し、予め設定された基準間隔Lで配置される。また、第1の磁性体15の下面側に取り付けられるツールTは、ワークWを研磨する部分がケース11の外側に表出した状態で、第1の磁性体15と一体的に上下方向に連動可能となる。
【0017】
前記第2の磁性体16,17は、使用時にケース11に固定されて一体化されるが、後述するように、当該ケース11への取り付け位置を上下に調節できるようになっている。
【0018】
上側の第2の磁性体16は、ケース11の内径にほぼ等しい外径を有する円盤状をなし、ロボットアームAに繋がっている。
【0019】
下側の第2の磁性体17は、ケース11の内径にほぼ等しい外径を有するドーナツ盤状に設けられ、その中央の穴は、第1の磁性体15に固定されたツールTを外側に貫通させるための貫通穴となっている。
【0020】
これら第2の磁性体16,17は、
図2中「S」、「N」として模式的に示すように、第1の磁性体15の上下両面それぞれに対向する対向面が、第1の磁性体15と同一の極性を帯びるように配置される。このため、第1の磁性体15の上下両側に配置された第2の磁性体16,17は、第1の磁性体15にそれぞれ反発し、第1の磁性体15と各第2の磁性体16,17との間の隙間には、それぞれ斥力が発生した状態となり、当該斥力によって第1の磁性体15がケース11内に保持されることになる。
【0021】
前記ケース11及び第2の磁性体16,17には、第2の磁性体16,17の上下方向の離間距離を調整することで、第1の磁性体15と第2の磁性体16,17との間の前記基準間隔Lを可変にする間隔調節手段(図示省略)が設けられている。当該間隔調節手段としては、第2の磁性体16,17の少なくとも一方について、ピンやねじ等を利用した機構によってケース11に対する取付位置を変える構成を例示できる。なお、使用時には、第2の磁性体16,17のケース11内の取付位置が固定される。前記間隔調節手段により、基準間隔Lを短くすると、クーロンの法則によって、第1の磁性体15が前記基準間隔Lのときの斥力である基準斥力が大きくなる一方、基準間隔Lを長くすると、基準斥力が小さくなる。
【0022】
以上の構成のエンドエフェクタ10では、第1の磁性体15が、予め設定された基準位置に存在する際に、第2の磁性体16,17との間に形成される隙間の上下距離である基準間隔Lを調整することにより、その際の基準斥力の大きさを変え
ることで、ツールTがワークWの表面に接触する際の接触力
について、第1の磁性体25の所定の変位状態(基準間隔Lに対する第1の磁性体15の変位量の割合)における大きさを調整することが可能になる。
【0023】
具体的に、ロボットアームAによる加圧動作が行われると、上側の第2の磁性体16を通じて、ケース11と下側の第2の磁性体17が一体的に下方に移動する。すると、第1の磁性体15が、前記基準斥力の作用によって、第2の磁性体16,17とともに下方に移動し、ツールTがワークWの表面に接触したときに
、その反力によって、第1の磁性体15が上方に押され、前記基準位置よりも上方に変位することになる。この際、ワークWに対する反力である接触力(抵抗力)の大きさは、前記基準斥力から変化する斥力の大きさに相当し、
クーロンの法則により、基準斥力の大きさと、基準間隔L及び第1の磁性体15の変位量に依存する。このため、前記変位状態が所定値のときの接触力の大きさは、前記基準斥力の大きさを変えることで可変になる。つまり、前記基準間隔Lを狭くし、基準斥力を大きくすると、
前記変位状態が同一のときでも前記接触力が大きくなり、ツールTを硬い状態でワークWに接触させることが可能になる。一方、前記基準間隔Lを広くし、基準斥力を小さくすると、
前記変位状態が同一のときでも前記接触力が小さくなり、ツールTを柔らかい状態でワークWに接触させることが可能になる。換言すると、作業前に基準間隔Lを調整することで、基準斥力の大きさが調整され、その後のツールTの接触時
における所定の前記変位状態での柔軟性は、基準斥力の大きさに応じて定まることになる。
【0024】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、前記第1実施形態と同一若しくは同等の構成部分については同一符号を用いるものとし、説明を省略若しくは簡略にする。
(第2実施形態)
【0025】
本実施形態におけるエンドエフェクタ20は、ワークWの表面を面取り加工するロボットRに使用される。具体的には、
図3に示されるように、エンドエフェクタ30に保持される切削用のツールTが、ロボットアームAの動作によりワークWの表面で同図中x軸方向とy軸方向の横方向にも移動することにより、ワークWの表面の面取り加工を行うようになっている。
【0026】
すなわち、第1実施形態のエンドエフェクタ10は、ツールTの上下方向の移動時における接触力の調整を行うz軸方向の接触力制御ユニットとして構成されているが、第2の実施形態のエンドエフェクタ20は、z軸方向に直交するxy平面上でツールTが横方向に移動する際の接触力の調整を行うxy軸方向の接触力制御ユニットとして構成されている。
【0027】
前記エンドエフェクタ20は、
図4に示されるように、円筒形状をなす外側のケース21と、当該ケース21の内部空間に収容される磁性体ユニット22とを備えている。
【0028】
前記磁性体ユニット22は、ツールTに一体的に繋がって連動可能な第1の磁性体25と、第1の磁性体25を囲むように配置される第2の磁性体26とからなる。
【0029】
これら第1及び第2の磁性体25,26についても、特に限定されるものではないが、ネオジム磁石によって構成される。すなわち、本実施形態の第1及び第2の磁性体25,26は、第1実施形態の第1及び第2の磁性体15,16,17に対して90度回転したような配置にしている。
【0030】
前記第1の磁性体25は、ケース21の内部空間中央を貫通するように同図中z軸方向となる上下方向に沿って延びる丸棒状からなり、下端側にツールTが取り付けられる一方、上端側にスライダDが設けられる。このスライダDは、レール等を用い、第1の磁性体25をx軸方向とy軸方向にそれぞれ移動可能に支持する公知の構成からなる。従って、第1の磁性体25は、ケース21の内部空間内をx−y軸方向に移動可能となり、第2の磁性体26に対する離間接近が可能になる。なお、第1の磁性体25に対するツールTとスライダSの配置を上下逆にしても良い。
【0031】
前記第2の磁性体26は、特に限定されるものではないが、ケース21の内周面に沿って配置される弾性円筒シート上に散点的に設けられる。また、第2の磁性体26の内周面は、第1の磁性体25の外周面に相対することになるが、当該外周面と同一の極性を帯びるように配置される。このため、第2の磁性体26は、その内側に配置された第1の磁性体25に反発する状態となり、第1の磁性体25と第2の磁性体26との間には斥力が発生する。従って、第1の磁性体25の全周に亘って径方向の斥力が作用し、第1の磁性体25は、ケース21の中心位置で保持され、この際の中心位置が基準位置となり、当該基準位置に存在する第1の磁性体25と第2の磁性体26の離間距離は、前記基準間隔Lとなる。
【0032】
前記ケース21は、その内径を拡縮可能に弾性変形する材料からなり、図示省略しているが、縮径方向に外力を付与する押圧手段が付設される。これにより、ケース21の内周面に固定された第2の磁性体26は、ケース21の拡縮に合せて前記弾性円筒シートの弾性変形を伴って、その径方向に移動可能となり、第1及び第2の磁性体25,26の基準間隔Lが可変になる。従って、ここでの押圧手段は、第2の磁性体26の移動により基準間隔Lを可変にする間隔調節手段を構成する。そして、第1実施形態と同様、基準間隔Lが狭くなると、第1及び第2の磁性体25,26の離間距離が短くなって、基準間隔Lのときの斥力である基準斥力が大きくなる一方、基準間隔Lが広くなると、第1及び第2の磁性体25、26の離間距離が長くなって前記基準斥力が小さくなる。
【0033】
なお、第2の磁性体26を第1の磁性体25に対して離間接近させる構造としては、前述の押圧手段に限らず、基準間隔Lを調整できる間隔調節手段である限りにおいて、例えば、カメラレンズに設けられる構造等、ケース21の内径を拡縮させる機械的な構造を含め、種々の公知の構造を採用することが可能である。
【0034】
第2実施形態におけるエンドエフェクタ20においても、第1及び第2の磁性体25,26の基準間隔Lを調整することにより、基準斥力の大きさを変え
ることで、ツールTがワークWの表面に接触する際の接触力
について、第1の磁性体25の所定の変位状態における大きさを調整することが可能になる。すなわち、ワークWに対しツールTが横方向に接触したときに、ワークWの表面から受ける反力である接触力は、予め設定された基準斥力の
大きさと、基準間隔L及び第1の磁性体15の変位量に応じて決まることになる。具体的に、前記基準間隔Lを狭くして基準斥力を大きくすると、ツールTがx軸方向若しくはy軸方向に移動してワークWに接触したときに、
前記変位状態が同一の場合でもツールTがケース21内を移動し難い状態となり、その結果、ツールTとの接触力が大きくなって、ツールTを硬い状態でワークWに接触させることが可能になる。一方、前記基準間隔Lを広くして基準斥力を小さくすると、ツールTがx軸方向若しくはy軸方向に移動してワークWに接触したときに、
前記変位状態が同一の場合でもツールTがケース21内を移動し易い状態となり、その結果、ツールTとの接触力が小さくなり、ツールTを柔らかい状態でワークWに接触させることが可能になる。
【0035】
前記各実施形態のエンドエフェクタ10,20によれば、第1の磁性体15,25と第2の磁性体16,17,26としてネオジム磁石が用いられ、当該磁石の斥力を調整することで、ツールTに対する接触力の調整を行う構成となっているため、ワークWに対するツールTの接触力をマイクロニュートン単位と細かい単位での調整が可能になる。これにより、電子部品や電子回路等の小型のワークWに対する繊細な仕上げ作業にも適用することができる他、空気圧ポンプを用いないため、エンドエフェクタ10,20の構成の小型化、軽量化、省エネルギー化を促進することができる。
【0036】
なお、前記各実施形態では、前記基準間隔Lを可変にして基準斥力を調整する構造を採用したが、本発明はこれに限らず、第2の磁性体16,17,26に電磁石を用いて前記基準間隔Lを一定にし、当該電磁石への印加電圧の調整による磁力の変化を利用して基準斥力の大きさを調整可能な構成にしても良い。
【0037】
また、第1実施形態のエンドエフェクタ10と第2実施形態のエンドエフェクタ20とを上下方向に直結することで、直交3軸方向の接触力の調整が可能になる。この際、どちら側を上にしても良いが、それぞれの第1の磁性体15,25が上下に連結されることになる。
【0038】
更に、前記各実施形態では、エンドエフェクタ10,20を仕上げ加工用のロボットRに適用した場合を図示説明したが、本発明はこれに限らず、所定の物体に接触する接触部を動作させる他の加工装置、ロボット等の動作装置に適用することもできる。
【0039】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。