特許第6916567号(P6916567)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 荒浪 暁彦の特許一覧

<>
  • 特許6916567-履物 図000002
  • 特許6916567-履物 図000003
  • 特許6916567-履物 図000004
  • 特許6916567-履物 図000005
  • 特許6916567-履物 図000006
  • 特許6916567-履物 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6916567
(24)【登録日】2021年7月20日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】履物
(51)【国際特許分類】
   A43B 23/02 20060101AFI20210729BHJP
   A43B 7/32 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
   A43B23/02 105Z
   A43B7/32
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2021-9177(P2021-9177)
(22)【出願日】2021年1月22日
【審査請求日】2021年1月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306035007
【氏名又は名称】荒浪 暁彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉延 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100164242
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 直人
(74)【代理人】
【識別番号】100172498
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】荒浪 暁彦
【審査官】 程塚 悠
(56)【参考文献】
【文献】 実開平01−084204(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3051273(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3126650(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0116483(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0128862(US,A1)
【文献】 特開2013−111469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 23/00−23/02
A43B 7/32
A61F 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
足の甲を覆うアッパー部を有する履物であって、
前記アッパー部は、爪先側の側部に開口部を有するものであり、
前記開口部を覆い、該開口部に位置する足の部位への接触圧を調整可能な覆い部材を備え
前記覆い部材は、前記接触圧を調整するにあたり左側又は右側になる先端部分の位置を任意の位置に変更可能なものであって、該先端部分の位置の変更後には該先端部分の位置が固定されるものであることを特徴とする履物。
【請求項2】
前記開口部は、母趾の中足趾節間関節の位置から該母趾の一部にかけて開口したものであり、
前記アッパー部は、前記母趾の爪部分全体を覆うものであることを特徴とする請求項1記載の履物。
【請求項3】
前記覆い部材は、前記部位に接触する箇所に、前記アッパー部を構成する全ての素材よりも伸縮性が高い素材で構成された伸縮部を有するものであることを特徴とする請求項1又は2記載の履物。
【請求項4】
前記覆い部材は、前記伸縮部とは該伸縮部の厚み方向外側に間隔をあけてクッション材が設けられたものであることを特徴とする請求項3記載の履物。
【請求項5】
前記覆い部材は、前記アッパー部とは別に取り外し可能なものであることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項記載の履物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足の甲を覆うアッパー部を有する履物に関する。
【背景技術】
【0002】
母趾(第一趾)が小趾(第五趾)側に変形した外反母趾や、小趾が母趾側に変形した内反小趾といった足の疾患がある。65歳以上の女性では3人に1人以上が外反母趾を発症しているといった報告もある。この外反母趾を例にあげれば、第1中足骨が内側に広がり、第1中足骨と母趾の骨が、くの字状に変形している。第1中足骨の骨頭部の部分は内側に飛び出している。内反小趾では、第5中足骨の骨頭部の部分が外側に飛び出している。内側に飛び出したり、外側に飛び出した患部は、靴に当たるなどの刺激を受け、皮下滑液包炎を生じ、赤く腫れ、痛みを伴う。
【0003】
そこで、外反母趾や内反小趾を患った者のための履物として、足の甲を覆うアッパー部の、爪先側の側部に、開口部を設けた履物(例えば、特許文献1)や、患部をゴムシートで覆った履物(例えば、特許文献2)が提案されている。
【0004】
特許文献1で提案された履物では、飛び出した患部が露出してしまい、冬場は寒く、またファッション性も大きく劣る。その点、特許文献2で提案された履物は、患部がゴムシートで常に覆われており、冬場であっても寒くなく、またゴムシートをベルト体で締め付けてファッション性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−407号公報
【特許文献2】実用新案登録第3171220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、患部における皮下滑液包炎が重傷化した者は、その患部にゴムシートが当たっただけでも激しい痛みを覚え、ベルト体で締め付けることなど到底無理である。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、皮下滑液包炎が重傷化した者でも履くことができる履物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を解決する履物は、
足の甲を覆うアッパー部を有する履物であって、
前記アッパー部は、爪先側の側部に開口部を有するものであり、
前記開口部を覆い、該開口部に位置する足の部位への接触圧を調整可能な覆い部材を備え、
前記覆い部材は、前記接触圧を調整するにあたり左側又は右側になる先端部分の位置を任意の位置に変更可能なものであって、該先端部分の位置の変更後には該先端部分の位置が固定されるものであることを特徴とする。
また、
前記開口部は、母趾の中足趾節間関節の位置から該母趾の一部にかけて開口したものであり、
前記アッパー部は、前記母趾の爪部分全体を覆うものであることを特徴としてもよい。
また、
前記覆い部材は、前記部位に接触する箇所に、前記アッパー部を構成する全ての素材よりも伸縮性が高い素材で構成された伸縮部を有するものであることを特徴としてもよい。
また、
前記覆い部材は、前記伸縮部とは該伸縮部の厚み方向外側に間隔をあけてクッション材が設けられたものであることを特徴としてもよい。
また、
前記覆い部材は、前記アッパー部とは別に取り外し可能なものであることを特徴としてもよい。
さらに、
足の甲を覆うアッパー部を有する履物であって、
前記アッパー部は、爪先側の側部に開口部を有するものであり、
前記開口部を覆い、該開口部に位置する足の部位への接触圧を調整可能な覆い部材を備えたことを特徴としてもよい
【0009】
この履物によれば、前記開口部を常に覆っている部材はなく、前記覆い部材が足の部位に直接接触する場合もあるが、前記接触圧を0にすることもできる。したがって、皮下滑液包炎が重傷化した者でも履くことができる。
【0010】
なお、前記開口部は、内側(母趾側)にのみ設けられたものであってもよいし、外側(小趾側)にのみ設けられたものであってもよいし、内側と外側の両方に設けられたものであってもよい。また、前記開口部は、前記覆い部材によってのみ覆われるものである。
【0011】
また、
前記覆い部材は、前記部位に接触する箇所が、前記アッパー部を構成する全ての素材よりも伸縮性が高い素材で構成されたものであることを特徴とすることが好ましい。
【0012】
前記箇所がこのような伸縮性が高い素材で構成されていることで、前記部位に接触しても、痛みを大幅に低減することができる。
【0013】
伸縮性が高い素材としては、例えば、スパンデックスを用いた織物や、エトラストマー樹脂を使用した不織布を用いることができる。
【0014】
前記覆い部材は、前記部位に接触する箇所の周囲も前記アッパー部を構成する全ての素材よりも伸縮性が高い素材で構成されたものであってもよい。すなわち、前記覆い部材は、少なくとも、前記部位に接触する箇所が、前記アッパー部を構成する全ての素材よりも伸縮性が高い素材で構成されたものであればよい。
【0015】
また、
前記開口部は、足趾の中足趾節間関節の位置から該足趾の一部にかけて開口したものであることを特徴としてもよい。
【0016】
皮下滑液包炎が重傷化すると、足趾まで炎症が及ぶことがあり、大きな開口部であることが好ましい。一方で、大きな開口部であると、冬場に寒かったり、ファッション性に劣るが、前記覆い部材によって、前記足の部位に触れないように(前記接触圧は0)に前記開口部を覆えば、寒さを軽減することができ、ファッション性もある程度は担保することができる。また、前記箇所が伸縮性が高い素材であれば、前記部位に接触させることもでき、寒くもなく、ファッション性も向上させることができる。
【0017】
なお、該足趾の一部とは、該足趾の付け根部であってもよい。また、該足趾の付け根部を超えて爪先側に開口していてもよい。すなわち、前記開口部は、足趾の中足趾節間関節の位置から少なくとも該足趾の付け根部にかけて開口したものであってもよい。
【0018】
また、前記開口部は、足趾の中足趾節間関節の位置から該足趾の趾節間関節の位置まで開口したものであってもよい。
【0019】
より具体的には、母趾の中足趾節間関節の位置から該母趾の一部(例えば、趾節間関節(他の趾でいう近位趾節間関節))にかけて開口したものであってもよく、小趾の中足趾節間関節の位置から該小趾の一部(例えば、遠位趾節間関節)にかけて開口したものであってもよい。
【0020】
また、
前記覆い部材は、前記部位を覆う位置にクッション材が設けられたものであることを特徴としてもよい。
【0021】
前記足の部位へ外から力が加わった場合(例えば、ぶつけた場合)でも、前記クッション材によって軽減することができる。
【0022】
また、
前記覆い部材は、取り外し可能なものであることを特徴としてもよい。
【0023】
前記覆い部材は前記接触圧を0にしたまま前記開口部を覆うこともできるが、該覆い部材が何かの拍子に患部に触れることを防止することが寒さやファッション性よりも重要である場合には、前記覆い部材を取り外してしまうことが最も確実である。
【0024】
また、
前記覆い部材は、前記開口部を二重に覆うことが可能なものであることを特徴としてもよい。
【0025】
二重に覆うことで、前記足の部位の保護にもなるし、寒さ対策にもなる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の履物であれば、皮下滑液包炎が重傷化した者でも履くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態である靴を示す斜視図である。
図2】外反母趾を患った右足に図1に示す靴を履いた様子を示す平面図である。
図3】一対の覆い部材の使い方を段階的に説明した図である。
図4】内側窓部周辺を断面したときの様子を模式的に示す図である。
図5】第2実施形態の靴を示す平面図である。
図6】外反母趾を患った右足に、内側覆い部材と内側開口部を設け外側覆い部材と外側開口部を設けない態様の靴を履いた様子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態である靴を示す斜視図である。
【0030】
図1に示す靴1は、右足用の靴であるが、左足用も同じ構成である。以下、右足用の靴1を例にあげて説明する。図1に示す靴1は、底部11とアッパー部12とヒール部13と一対の覆い部材14を有する。アッパー部12及びヒール部13は、合成皮革、天然皮革、加工皮革、天然繊維、および合成繊維のうちの1又は複数の素材からなるものである。合成皮革は、繊維にウレタンやナイロン等の樹脂をコーティングしたものである。天然皮革としては、牛革の他、馬革、豚革等があげられる。加工皮革としては、スエードや、革の表面にポリウレタン樹脂の塗装を施したエナメルレザー等があげられる。天然繊維としてはキャンバス素材があげられる。合成繊維としては、ナイロン、アクリル、ポリエステル等があげられる。
【0031】
アッパー部12には、爪先側の内側の側部に内側開口部121が設けられ、外側の側部には外側開口部122が設けられている。ここにいう内側とは母趾(第一趾)側のことであり、外側とは小趾(第五趾)側のことである(以下においても同じ。)。
【0032】
一対の覆い部材14は、内側覆い部材141と外側覆い部材142からなるものである。内側覆い部材141は、アッパー部12側に被さることで内側開口部121を覆うものであり、内側開口部121を覆う箇所には、内側窓部1411が設けられている。外側覆い部材142は、アッパー部12側に被さることで外側開口部122を覆うものであり、外側開口部122を覆う箇所には、外側窓部1421が設けられている。図1に示す内側覆い部材141も外側覆い部材142も、アッパー部12側に被さっていない状態にあり、それぞれの裏面141b,142bが示されている。内側窓部1411にしても外側窓部1421にしても、窓部内にはストレッチ素材150が設けられている。ストレッチ素材150については、詳しくは後述する。
【0033】
また、内側覆い部材141の裏面141bには、面ファスナーを構成するフック面1422が、その裏面141bの、内側窓部1411を除いたほぼ全域にわたって設けられている。図1では、このフック面1422を薄い灰色で模式的に示している。また、内側覆い部材141のおもて面には、面ファスナーを構成するループ面がほぼ全域にわたって設けられている。外側覆い部材142の裏面142bにも、内側覆い部材141と同じように、フック面1422が、その裏面142bの、外側窓部1421を除いたほぼ全域にわたって設けられており、そのフック面1422が薄い灰色で模式的に示されている。また、外側覆い部材142のおもて面にも、ループ面がほぼ全域にわたって設けられている。なお、内側覆い部材141にしても外側覆い部材142にしても、裏面141b,142bにループ面を設け、おもて面にフック面を設けてもよい。
【0034】
内側開口部121も外側開口部122も、一対の覆い部材14以外のものでは覆われない開口である。
【0035】
図2は、外反母趾を患った右足に図1に示す靴を履いた様子を示す平面図である。この図2には、右足裏の骨格が模式的に示されている。なお、図2に示す内側覆い部材141も外側覆い部材142も、平らな状態に開かれており、それぞれの裏面141b,142bが示され、内側開口部121も外側開口部122も開放した状態である。
【0036】
外反母趾を患った右足RFでは、第1中足骨MB1が内側に広がり、第1中足骨MB1と母趾FT1の骨がくの字状に変形し、第1中足骨MB1の骨頭部MB1tの部分が内側に飛び出し、靴に当たるなどの刺激を受け、皮下滑液包炎を生じ患部AFAとなって赤く腫れている。図2では、赤く腫れた患部AFAを黒色で示している。図2に示す患部AFAは、底部11の内側の縁11eを越えて内側に突出している。なお、図示はしないが、内反小趾を患った右足では、第5中足骨MB5が外側に広がり、第5中足骨MB5と小趾FT5の骨がくの字状に変形し、第5中足骨MB5の骨頭部MB5tの部分が外側に飛び出してしまう。
【0037】
内側開口部121は、患部AFAを中心に開口するように設けられたものであり、この靴1のサイズに合う足の一般的な大きさを前提に、内側開口部121の爪先側の端部は、母趾FT1の位置まで延びている。すなわち、内側開口部121は、第1中足骨MB1の骨頭部MB1tの位置から母趾FT1の一部(付け根部分BF1)にかけて開口したものである。より具体的には、内側開口部121は、第1中足骨MB1の骨頭部MB1tの位置から母趾FT1の趾節間関節IJ1の位置までの最短の距離をD1とした場合に、第1中足骨MB1の骨頭部MB1tの位置から距離D1以上離れた箇所まで開口するように設計されている(図2に示す一点鎖線の矢印と円弧を参照)。
【0038】
外側開口部122も、第5中足骨MB5の骨頭部MB5tの部分の不図示の患部を中心に開口するように設けられたものであり、外側開口部122の爪先側の端部は、小趾FT5の位置まで延びている。すなわち、外側開口部122は、第5中足骨MB5の骨頭部MB5tの位置から小趾FT5の先端まで開口したものである。内側の距離D1を用いた設計指標と同じように表せば、外側開口部122は、第5中足骨MB5の骨頭部MB5tの位置から小趾FT5の近位趾節間関節IJ51の位置までの最短の距離をD2とした場合に、第1中足骨MB1の骨頭部MB1tの位置から距離D2以上離れた箇所まで開口するように設計されている。なお、外側開口部122は、小趾FT5の途中(例えば、爪の手前)までしか開口していないものであってもよい。より具体的には、小趾FT5の遠位趾節間関節IJ52の位置までしか開口していないものであってもよい。
【0039】
続いて、一対の覆い部材14の使い方について説明する。
【0040】
図3は、一対の覆い部材の使い方を段階的に説明した図である。
【0041】
図3(a)に示す靴1は、図2に示す靴1と同じく、内側覆い部材141と外側覆い部材142それぞれが平らな状態に開かれ、内側開口部121も外側開口部122も開放された状態にある。この状態で靴1を履く。図3では右足を図示省略する。
【0042】
図3(b)では、平らな状態に開かれていた内側覆い部材141がアッパー部12に直接被さっている。この図3(b)では、内側覆い部材141はアッパー部12になるべく隙間が生じないように被さっている。すなわち、内側覆い部材141は、内側開口部121になるべく近い状態で内側開口部121の縁部121e(図3(a)参照)に接し、アッパー部12との接触面積が最大になるように被さっている。図3(b)では、内側覆い部材141に設けられたストレッチ素材150を点線で示している。内側開口部121はこのストレッチ素材150によって覆われている。さらに、内側覆い部材141の先端部分141t(外側の端部)は、外側開口部122もほとんど覆っている。なお、内側覆い部材141の先端部分141tが、外側開口部122の全部を覆うようにしてもよい。図3(b)には、内側覆い部材141のおもて面に設けられたループ面1413が濃い灰色で示されている。また、図3(a)及び同図(b)には、外側覆い部材142の裏面に設けられたフック面1422が薄い灰色で示されている。
【0043】
図3(c)では、平らな状態に開かれていた外側覆い部材142が、アッパー部12に被さった内側覆い部材141に被さっている。外側覆い部材142が内側覆い部材141に被さることで、内側覆い部材141のおもて面のループ面1413と外側覆い部材142の裏面のフック面1422が接着し、内側覆い部材141の位置が固定される。この実施形態では、外側覆い部材142が内側覆い部材141を固定する機能を担っている。外側覆い部材142は、内側覆い部材141を間に挟んでアッパー部12に被さっている。この図3(c)では、外側覆い部材142は、アッパー部12に被さった内側覆い部材141になるべく隙間が生じないように被さっている。すなわち、外側覆い部材142は、内側覆い部材141との接触面積が最大になるように被さっている。外側覆い部材142は、外側開口部122を直接もしくは内側覆い部材141の先端部分141tを間に挟んで覆うとともに、外側覆い部材142の先端部分(外側の端部)142tは、内側開口部121も内側覆い部材141を間に挟んでほとんど覆っている。図3(c)に示すように、一対の覆い部材14によって、内側開口部121は二重に覆われることが可能であり、外側開口部122も二重に覆われることが可能である。
【0044】
以上図3を用いて説明した一対の覆い部材14の使い方は、右足の外反母趾がいたって軽症な者での使い方である。患部AFAが、底部11の内側の縁11eを越えて内側に突出し(図2参照)、皮下滑液包炎を生じ腫れてしまった患者では、内側覆い部材141と内側開口部121との間に隙間をもたせて、内側覆い部材141をアッパー部12に被せ、外側覆い部材142で固定する。上記隙間の量を調製することで、ストレッチ素材150の、患部との接触圧を調整することができる。すなわち、上記隙間の量が大きくなればなるほど上記接触圧は小さくなる。ストレッチ素材150を患部から完全に離した状態で、外側覆い部材142をその内側覆い部材141に被せて内側覆い部材141を固定すれば、ストレッチ素材150の患部との接触圧は0になる。
【0045】
また、内反小趾を患っている者の使い方は、外側覆い部材142を先にアッパー部12に被せ、外側覆い部材142に設けられたストレッチ素材150によって外側開口部122を覆い、その外側覆い部材142のおもて面のループ面に内側覆い部材141の裏面のフック面1412を接着させ、外側覆い部材142の位置を固定する。
【0046】
本実施形態の靴1は、外反母趾を患っている者でも内反小趾を患っている者でも使用することができる。
【0047】
続いて、内側覆い部材141を例にあげてストレッチ素材150について説明するが、外側覆い部材142におけるストレッチ素材150についても同様である。
【0048】
図4は、内側窓部周辺を断面したときの様子を模式的に示す図である。この図4では、図の上方が内側覆い部材141のおもて側になり、下方が内側覆い部材141の裏面側になる。すなわち、図の下方が患部側になる。
【0049】
図4(a)には、図1に示す靴1における内側覆い部材141の内側窓部1411周辺の断面図が示されている。
【0050】
内側覆い部材141の基材1410は、アッパー部12の素材と同じ素材であってもよいし、面ファスナーを縫い付けやすい布製であってもよい。図4には、内側覆い部材141のおもて面141aに設けられたループ面1413が灰色で模式的に示されている。ループ面1413は、おもて側から内側窓部1411を塞ぐように配置されている。
【0051】
ストレッチ素材150は、内側窓部1411を画定する縁を裏面側から取り囲む窓部外周部1411oに縫い付けられている。したがって、内側窓部1411を画定する縁の角1411eは、露出せずストレッチ素材150によって覆われており、この角1411eが患部に直接触れることはない。
【0052】
ストレッチ素材150は、アッパー部12を構成する全ての素材よりも伸縮性が高いものである。アッパー部12が複数の素材で構成されている場合には、それら複数の素材のうちのいずれの素材よりも伸縮性が高いものである。例えば、小学生が使う上履きのように、アッパー部12の一部にゴム素材が用いられていた場合であっても、ストレッチ素材150はそのゴム素材よりも伸縮性が高いものである。すなわち、ストレッチ素材150は、アッパー部12に用いられる従来のゴム素材よりもはるかに伸縮性が高いものであり、厚みにしても、アッパー部12を構成する全ての素材のうち最も薄い素材の厚みの半分以下の厚みである。このストレッチ素材150としては、表裏2枚の生地をスパンデックスのベアヤーンで連結した織物や、1mm未満の厚さのエトラストマー樹脂を使用した不織布等があげられる。
【0053】
ストレッチ素材150は、その伸縮性により、患部にぴったりと接触し、患部の形状に沿ってその患部を包み込むことができる。アッパー部12の一部に用いられるゴム素材では伸縮性が全く足りずに患部に少しでも接触すると患者は激しい痛みを覚えるが、ストレッチ素材150であれば、患部に接触しても高い伸縮性により抵抗にならず、患部に馴染み、患者に与える痛みは大幅に軽減される。また、ストレッチ素材150を患部にぴったりと接触させることで寒さを和らげることができる。
【0054】
図4(b)は、図4(a)に示す内側覆い部材141の変形例を示す断面図である。これまで用いた名称と同じ名称の構成要素にはこれまでに付した符号と同じ符号を付して説明する。
【0055】
図4(b)では、ストレッチ素材150は、内側覆い部材141の基材1410と、ループ面1413とに挟み込まれるようにして内側窓部1411内に配置されている。この変形例の内側覆い部材141では、図4(a)に示す内側覆い部材141よりも内側窓部1411が大きく、内側窓部1411を画定する縁の角1411eが患部に直接触れにくくなっている。この変形例における内側窓部1411は、ループ面1413によって覆われていない。すなわち、ループ面1413は、内側窓部1411の位置に内側窓部1411の大きさと同じ切り抜き孔1413hが設けられている。また、この変形例の内側覆い部材141には、クッション材1414も設けられている。クッション材1414の素材としては、ウレタンや、スポンジや、ゴム等があげられる。クッション材1414は、脚部1414hを有するものである。このクッション材1414は、内側窓部1411からおもて側に、脚部1414hの長さになる間隔SPをあけた状態でその内側窓部1411を覆うものである。すなわち、クッション材1414は、患部を覆う位置に設けられたものである。ただし、クッション材1414は、ストレッチ素材150とは、ループ面1413の厚さに上記間隔SPを加えた距離だけ離れている。したがって、ストレッチ素材150にぴったりと覆われた患部が大きく腫れていても、その患部はクッション材1414に当たりにくい。このクッション材1414が設けられた靴を履いて、内側開口部121の辺りをぶつけたとしても、クッション材1414によって患部が守られる。
【0056】
なお、クッション材1414は、脚部1414hを省略したものであってもよい。また、外側覆い部材142は、クッション材1414に被さることができるだけの長さをもったものであってもよいし、外側覆い部材142の長さを短くして、クッション材1414には届かないものであってもよい。
【0057】
図5は、第2実施形態の靴を示す平面図である。第1実施形態の靴の説明で用いた名称と同じ名称の構成要素にはこれまでに付した符号と同じ符号を付して説明する。また、第1実施形態の靴との相違点を中心に説明し、第1実施形態の靴と重複する説明は省略する場合がある。なお、図5には、右足用の靴1が示されており、図の左側が内側になり、右側が外側になる。
【0058】
第1実施形態の靴1では、内側覆い部材141も外側覆い部材142もそれぞれ、底部11に縫い付けられたものであり、底部11から分離することができないものである。一方、第2実施形態の靴1では、一対の覆い部材14を1枚の覆い部材にし、この1枚の覆い部材は底部11から分離可能である。
【0059】
図5(a)には、1枚の覆い部材16が示されている。1枚の覆い部材16は、内側覆い部161と外側覆い部162と連結部163を有する。内側覆い部161の構成は、内側覆い部材141の構成と同じであり、外側覆い部162の構成は、外側覆い部材142の構成と同じであるため、それぞれの説明は省略する。図5(a)に示す1枚の覆い部材16は、内側開口部121と外側開口部122を挿通したものであり、連結部163は、内側開口部121と外側開口部122の間に位置する。すなわち、連結部163は、底部11の上に位置する。
【0060】
図5(b)に示すように、1枚の覆い部材16は、内側に引き抜けば、内側開口部121を連結部163および外側覆い部162が通って、取り外し可能である。なお、1枚の覆い部材16は、外側に引き抜くことも可能である。上述のごとく、第1実施形態の靴1でも、上記接触圧を0にしたまま、内側開口部121または/および外側開口部122を覆うこともできるが、一対の覆い部材14が何かの拍子に患部に触れる恐れはある。患者が、寒さやファッション性よりも覆い部材が患部に触れないことを重要視する場合には、覆い部材16を取り外してしまうことが、覆い部材16を患部に触れさせない最も確実な対策になる。
【0061】
第2実施形態の靴1では、患者が覆い部材16を取り付けた靴1を履いた状態では、連結部163が踏まれた状態になるが、覆い部材16が、底部11を構成するうちの最も上側になる中敷きの下に差し込まれた態様であってもよい。
【0062】
本発明は上述の実施の形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。例えば、内側覆い部材141と内側開口部121を設け、外側覆い部材142と外側開口部122を設けない態様であってもよい。この場合には、内側覆い部材141の裏面141bとアッパー部12が面ファスナーによって接着するようにすればよい。あるいは、外側覆い部材142と外側開口部122のみを設け、外側覆い部材142の裏面142bとアッパー部12が面ファスナーによって接着するようにしてもよい。
【0063】
図6は、外反母趾を患った右足に、内側覆い部材と内側開口部を設け、外側覆い部材と外側開口部を設けない態様の靴を履いた様子を示す平面図である。この図6は、図2と同じように右足裏の骨格が模式的に示されている。以下、図2で用いた符号と同じ符号を付して説明する。
【0064】
図6に示す靴1は、内側覆い部材141が平らな状態に開かれており、その裏面141bが示されている。内側開口部121は開放した状態である。
【0065】
この図6でも、底部11の内側の縁11eを越えて内側に突出した、赤く腫れた患部AFAを黒色で示している。
【0066】
図6に示す内側開口部121は、第1中足骨MB1の骨頭部MB1tの位置から母趾FT1の趾節間関節IJ1の位置までの最短の距離をD1とした場合、この距離D1の長さを半径とし、中心を骨頭部MB1tに合わせた円弧で形成されている。この内側開口部121は、図2に示す内側開口部121よりも開口面積が大きく、第2中足骨MB2の骨頭部MB2tの位置まで開口しており、母趾FT1の一部(付け根部分BF1)も露出するようになっている。なお、内側開口部121を、第2中足骨MB2の骨頭部MB2tの位置まで開口させるのではなく、第1中足骨MB1と第2中足骨MB2の間に記した2点鎖線の位置までとしてもよいし、さらに第1中足骨MB1側までとしてもよい。
【0067】
また、内側開口部121の開口面積が大きくなったことに合わせて、図6に示す内側覆い部材141に設けられたストレッチ素材150も大きくなっている。図6に示すアッパー部12の、内側覆い部材141が被さる部分はループ面になっており、内側覆い部材141における裏面141bのフック面1412と接着する。
【0068】
図6に示す靴1では、外側覆い部材を省略したが、図2に示す靴1と同じような外側覆い部材142を設け、内側開口部121を二重に覆えるようにしてもよい。なお、図6に示す靴1に外側覆い部材142を設ける場合には、外側覆い部材142に、省略した外側開口部を覆うストレッチ素材150は不要であるが、内側覆い部材141を間において内側開口部121に被さる部分にストレッチ素材を設けてもよい。
【0069】
また、図1に示す靴1では、アッパー部12の、覆い部材(141,142)が被さる部分を、フック面とループ面のいずれか一方とし、覆い部材(141,142)の裏面に、フック面とループ面の他方を設けてもよい。こうすることで、覆い部材(141,142)の、アッパー部12への固定が容易になり、患部との接触圧の調整も容易になる。
【0070】
また、面ファスナーの代わりにボタン止め等の固定手段を用いてもよい。
【0071】
さらに、左足でも右足でも履くことができる靴であれば、内側と外側の区別をする必要がなくなり、一方の靴には、左側面に開口部とその開口部を覆う左側覆い部材を設け、他方の靴には、右側面に開口部とその開口部を覆う右側覆い部材を設ける。こうすることで、両足の外反母趾にも、両足の内反小趾にも対応させることができる。
【0072】
加えて、本発明は、ヒール部13がない履物(サンダルやスリッパ)にも適用可能である。
【0073】
なお、以上説明した実施形態や変形例や変更例の記載それぞれにのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を、他の実施形態や他の変形例に適用してもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 靴
11 底部
12 アッパー部
121 内側開口部
122 外側開口部
14,16 覆い部材
141 内側覆い部材
1411 内側窓部
142 外側覆い部材
1421 外側窓部
161 内側覆い部
162 外側覆い部
163 連結部
RF 右足
AFA 患部
【要約】
【課題】足の甲を覆うアッパー部を有する履物に関し、皮下滑液包炎が重傷化した者でも履くことができる履物を提供することを目的とする。
【解決手段】足の甲を覆うアッパー部12を有する履物1であって、アッパー部12は、爪先側の側部に開口部121,122を有するものであり、開口部121,122を覆い、開口部121,122に位置する足の部位AFAへの接触圧を調整可能な覆い部材141,142を備えたことを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6