特許第6916574号(P6916574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6916574-酸素アーク溶断棒 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6916574
(24)【登録日】2021年7月20日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】酸素アーク溶断棒
(51)【国際特許分類】
   B23K 7/10 20060101AFI20210729BHJP
   B23K 7/00 20060101ALI20210729BHJP
   B23K 35/02 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
   B23K7/10 S
   B23K7/00 W
   B23K35/02 G
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2021-81864(P2021-81864)
(22)【出願日】2021年5月13日
【審査請求日】2021年5月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000180254
【氏名又は名称】酸素アーク工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 健一
(72)【発明者】
【氏名】坂井 明彦
【審査官】 黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭30−63(JP,B1)
【文献】 実公昭57−15040(JP,Y2)
【文献】 実開昭58−57390(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 7/10
B23K 7/00
B23K 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸芯部に酸素流通孔を有する長尺円筒状で金属製の溶断棒本体を備える酸素アーク溶断棒であって、
溶断棒本体の肉厚をT、酸素流通孔の直径をDとしたとき、D/Tが1以下であり、
溶断棒本体の基端側の端部に、先細り状でテーパ角度が70°以上90°以下のテーパ面が形成されている、酸素アーク溶断棒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素アーク溶断法に使用する酸素アーク溶断棒に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス切断や機械的切断では困難を伴う対象材(板厚の厚い鋼材など)を切断あるいは穿孔する方法として、酸素アーク溶断法が知られている。酸素アーク溶断法では、酸素アーク溶断棒の先端と対象材との間にアークを発生させそのアーク熱によって酸素アーク溶断棒(溶断棒本体)の先端部を溶融し、溶断棒本体の内孔(酸素流通孔)から送り込まれる酸素によって溶断棒本体の先端部が連続的に酸化反応を起こす。その際の酸化反応熱によって対象材を切断あるいは穿孔する。
【0003】
従来一般的に酸素アーク溶断棒においては、溶断棒本体として外径に対し比較的薄肉の筒体が使用され、この筒体の内部に助燃材として数本から数十本の線材又は異形鋼を挿入することで、連続的に酸化反応(自己燃焼)を安定させる工夫がなされている。また、本願発明者らは、特許文献1において線材の基端側の端部を円錐状に加工するなどして酸素気流への抵抗を軽減させ、溶断性能の向上を図る技術を提案している。
【0004】
このように薄肉の筒体の内部に助燃材を備える酸素アーク溶断棒は、当然、酸素との反応面が多くなり燃焼しやすいという利点を有する一方、溶断棒の消耗が早い、熱源となる金属量(鉄量)が少なく熱カロリーが小さい等の欠点を有する。そこで、熱カロリー(鉄量)を増やし燃焼速度(消耗速度)を抑える観点から、溶断棒本体として厚肉の筒体を使用し、助燃材を使用しない酸素アーク溶断棒が用いられることがある。しかし、このように溶断棒本体として厚肉の筒体を使用すると、鉄量が多くなる一方で、溶断棒本体の内孔(酸素流通孔)が小さくなるため、鉄量と酸素流量のバランスが悪くなり、十分な溶断性能が得られないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6527628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、溶断棒本体として厚肉の筒体を使用し助燃材を使用しない酸素アーク溶断棒の溶断性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、溶断棒本体として厚肉の筒体を使用し助燃材を使用しない酸素アーク溶断棒において溶断性能を向上させるには、ホルダから溶断棒本体の基端側の端部に供給される酸素気流を、いかに安定性・集中性・推進性を維持・向上させて溶断棒本体の先端に届けられる構造とするかが肝要であると考え、特に溶断棒本体の基端側の端部の構造に着目してその構造について検討及び試験を重ねた。その結果、溶断棒本体の肉厚Tに対する酸素流通孔の直径Dの比であるD/Tを1以下としたうえで、溶断棒本体の基端側の端部に、先細り状でテーパ角度が70°以上90°以下のテーパ面を形成することで、溶断性能が格段に向上することがわかった。
【0008】
すなわち、本発明の一観点によれば、次の酸素アーク溶断棒が提供される。
軸芯部に酸素流通孔を有する長尺円筒状で金属製の溶断棒本体を備える酸素アーク溶断棒であって、
溶断棒本体の肉厚をT、酸素流通孔の直径をDとしたとき、D/Tが1以下であり、
溶断棒本体の基端側の端部に、先細り状でテーパ角度が70°以上90°以下のテーパ面が形成されている、酸素アーク溶断棒。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶断棒本体として厚肉の筒体を使用し助燃材を使用しない酸素アーク溶断棒において、溶断棒本体の基端側の端部に供給される酸素気流の安定性・集中性・推進性を維持・向上させて溶断棒本体の先端に届けることができる。そのため、酸素アーク溶断棒の溶断性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】酸素アーク溶断棒の使用方法を示す概念図。
図2】本発明の一実施形態である酸素アーク溶断棒の基端側を示し、(a)は斜視図、(b)は断面図。
図3】酸素アーク溶断試験結果を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、酸素アーク溶断棒の使用方法について説明する。図1に示すように、酸素アーク溶断棒10はその基端側をホルダ20に保持されて使用される。ホルダ20を介して酸素アーク溶断棒10と対象材50との間に交流又は直流電源30が印加され、酸素アーク溶断棒10の先端と対象材50との間にアークが発生する。また、酸素アーク溶断棒10には酸素ボンベ40からの酸素がホルダ20を介して供給され、内孔(酸素流通孔)を通じて酸素アーク溶断棒10の先端から酸素気流が対象材50に向けて吹き付けられる。これにより、対象材50がアーク加熱されつつ酸素気流の作用により切断あるいは穿孔される。
【0012】
次に、本発明の一実施形態である酸素アーク溶断棒について説明する。図2には、本発明の一実施形態である酸素アーク溶断棒の基端側を示している。同図に示すように、酸素アーク溶断棒10Aは、長尺円筒状で金属製の溶断棒本体11を備え、溶断棒本体11の内部には助燃材を備えていない。溶断棒本体11はその軸芯部に、酸素が流通する酸素流通孔12を有する。また、溶断棒本体11の肉厚Tに対する酸素流通孔12の直径Dの比であるD/Tは1以下である。さらに、溶断棒本体11の基端側の端部には、先細り状のテーパ面13が形成されている。このテーパ面13のテーパ角度θは70°以上90°以下である。なお、図2には表れていないが、ホルダ20(図1参照)で保持される酸素アーク溶断棒10Aの基端側より先端側では、対象材50(図1参照)との間で安定したアークを発生させると共に対象材50以外との間でのアーク発生を防止するために、溶断棒本体11の外周をフラックス層で被覆している。
【0013】
このように、本発明の一実施形態である酸素アーク溶断棒10Aでは、溶断棒本体11の肉厚Tに対する酸素流通孔12の直径Dの比であるD/Tを1以下としたうえで、溶断棒本体11の基端側の端部に、先細り状でテーパ角度θが70°以上90°以下のテーパ面13を形成することで、ホルダ20(図1参照)から溶断棒本体11の基端側の端部に供給される酸素気流は、図2(a)に概念的に示すようにテーパ面13に沿って酸素流通孔12に収束するように進み、いわゆるコンバージェント型ノズルと同様の原理により加速される。すなわち、D/Tを1以下とし、かつテーパ面13のテーパ角度θを70°以上90°以下とすることで、溶断棒本体11の基端側の端部に供給される酸素気流が効率的に加速される。これにより、溶断棒本体11の基端側の端部に供給される酸素気流を、その安定性・集中性・推進性を維持・向上させて溶断棒本体11の先端に届けることができ、酸素アーク溶断棒10Aの溶断性能を向上させることができる。
【0014】
ここで、溶断棒本体11の肉厚Tに対する酸素流通孔12の直径Dの比であるD/Tの下限値は特に限定されず技術常識に基づいて決定すればよいが、鉄量と酸素流量のバランスを考慮すると、D/Tは0.5以上とすることが好ましい。
なお、特許文献1に開示しているように、筒体(溶断棒本体)の内部に助燃材として芯体を有するタイプの酸素アーク溶断棒においてD/Tは5〜6程度であり、本発明の酸素アーク溶断棒とは溶断棒としてのタイプが明らかに異なる。また、特許文献1では、芯体に案内面を形成しているが、この案内面は酸素気流への抵抗を軽減させることを目的として形成されるものであり、本発明のように酸素気流を積極的に加速させて溶断棒本体11の先端まで届けようとするものではない。
【実施例】
【0015】
以下の実施例1及び比較例1の酸素アーク溶断棒を用いてテストピース(材質:SS材、厚み:25mm、幅:150mm、長さ:500mm)の酸素アーク溶断試験(酸素二次圧:0.5MPa、電流:170A)を実施した。
<実施例1>
図1の酸素アーク溶断棒10において、溶断棒本体11の肉厚T=2.5mm、酸素流通孔12の直径D=2.3mm、D/T=0.9、テーパ面13のテーパ角度θ=90°、溶断棒本体11の全長=500mmとした酸素アーク溶断棒。
<比較例1>
実施例1の酸素アーク溶断棒においてテーパ面13を形成していない酸素アーク溶断棒。
【0016】
図3に、試験結果を示している。図3において、Aは実施例1の酸素アーク溶断棒で切断したテストピース、A1は試験前の実施例1の酸素アーク溶断棒、A2は試験後の実施例1の酸素アーク溶断棒、Bは比較例1の酸素アーク溶断棒で切断したテストピース、B1は試験前の比較例1の酸素アーク溶断棒、B2は試験後の比較例1の酸素アーク溶断棒を示している。
【0017】
図3からもわかるように、実施例1の酸素アーク溶断棒でテストピースを切断するのに要した長さは195mm、比較例1の酸素アーク溶断棒でテストピースを切断するのに要した長さは325mmであった。すなわち、実施例1の酸素アーク溶断棒の溶断効率は、比較例1の酸素アーク溶断棒に比べて約1.7倍となった。また、実施例1の酸素アーク溶断棒でテストピースを切断するのに要した時間は58秒、比較例1の酸素アーク溶断棒でテストピースを切断するのに要した時間は119秒であった。すなわち、実施例1の酸素アーク溶断棒の溶断速度は、比較例1の酸素アーク溶断棒の約2倍となった。以上の通り、溶断棒本体の基端側の端部に、所定のテーパ面13を形成することで、溶断性能が格段に向上することが確認された。
【符号の説明】
【0018】
10,10A 酸素アーク溶断棒
11 溶断棒本体
12 酸素流通孔
13 テーパ面
20 ホルダ
30 交流又は直流電源
40 酸素ボンベ
50 対象材
【要約】
【課題】溶断棒本体として厚肉の筒体を使用し助燃材を使用しない酸素アーク溶断棒の溶断性能を向上させる。
【解決手段】軸芯部に酸素流通孔12を有する長尺円筒状で金属製の溶断棒本体11を備える酸素アーク溶断棒10Aにおいて、溶断棒本体11の肉厚Tに対する酸素流通孔12の直径Dの比であるD/Tを1以下とし、溶断棒本体11の基端側の端部に、先細り状でテーパ角度θが70°以上90°以下のテーパ面13を形成した。
【選択図】図2
図1
図2
図3