【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するべく、本発明によって以下の構成の排ガス浄化装置が提供される。
【0007】
ここで開示される排ガス浄化装置は、内燃機関の排気管に配置される排ガス浄化用触媒を複数備えており、当該複数の排ガス浄化用触媒に内燃機関から排出される排ガスを通過させることによって排ガスを浄化する。
そして、ここで開示される排ガス浄化装置では、上記した複数の排ガス浄化用触媒のうち、排ガス流動方向における上流側から二番目以降に配置される排ガス浄化用触媒の少なくとも一つが、排ガス流入側の端部のみが開口した入側セル、及び、該入側セルに隣接し排ガス流出側の端部のみが開口した出側セル、並びに、入側セルと出側セルとを仕切る多孔質な隔壁を有するウォールフロー構造の基材と、入側セルに接する隔壁の表面から隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、排ガス流入側の端部近傍から隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成されている入側触媒層であって排ガスに含まれる有害成分を浄化する貴金属触媒を含む入側触媒層と、出側セルに接する隔壁の表面から隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、排ガス流出側の端部近傍から隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成されている出側触媒層であって貴金属触媒を含む出側触媒層とを備えており、出側触媒層に存在する貴金属触媒が入側触媒層に存在する貴金属触媒よりも多くなるように構成された高負荷運転用触媒であることを特徴とする。
【0008】
本発明者は、有害成分のエミッションをより好適に低減させるために、種々の検討と実験を行った結果、上記した構成の排ガス浄化装置に思い至った。
ここで開示される排ガス浄化装置は、排ガス流動方向における上流側から二番目以降に配置される排ガス浄化用触媒の少なくとも一つが、出側触媒層における貴金属触媒が入側触媒層における貴金属触媒よりも多くなるように構成された高負荷運転用触媒となるように構成されている。
以下、上記した構成の排ガス浄化装置を本発明者が創作するに至った経緯を説明する。
【0009】
一般に、有害成分のエミッションは、内燃機関の運転開始直後の暖機運転と、内燃機関を高回転で運転させた際の高負荷運転の何れかの運転状態において発生しやすいと考えられている。
これらの運転状態のうち、暖機運転におけるエミッションは総エミッション量の8割程度を占めており、従来から種々の対策が考案されているのに対し、高負荷運転におけるエミッションは十分な対策が採られているとは言えないのが現状であった。
本発明者は、かかる高負荷運転におけるエミッションを好適に低減させることができれば、有害成分の総エミッション量を大きく低減させることができると考え、かかる高負荷運転におけるエミッションを好適に低減させるための技術について検討を行った。
【0010】
かかる技術を創作するに際して、本発明者は、先ず、各々の運転状態における排ガスの流速と、排ガス浄化用触媒内部における貴金属触媒の分布状況との関係に着目した。
具体的には、暖機運転においては、他の運転状態に比べて流速が遅い排ガスが供給されるため、
図3中の矢印Aに示すように、多くの排ガスが基材1の隔壁4の上流側を通過する傾向がある。このように流動し易い暖機運転における排ガスを適切に浄化するために、従来では、排ガス流動方向の上流側の隔壁4内に多くの貴金属触媒が存在するように触媒層を形成することが一般的であった。
これに対して、高負荷運転においては、暖機運転を含めた他の運転状態に比べて排ガスの流速が大幅に速くなるため、
図3の矢印Bに示すように、基材1の排ガス流出側の端部(図中の封止部材3a)に衝突した後に当該排ガス流出側の端部近傍の隔壁4を通過するような排ガスが増加する傾向がある。
本発明者は、上流側に多くの貴金属触媒を存在させた一般的な排ガス浄化用触媒では、図中の矢印Bのように流動し易い高負荷運転における排ガスを適切に浄化することはできないと考え、かかる高負荷運転の排ガスを浄化対象とした排ガス浄化用触媒(以下「高負荷運転用触媒」ともいう)を新たに創作することを検討した。
【0011】
そして、かかる高負荷運転用触媒を創作するに際して、種々の実験と検討を重ね、出側触媒層における貴金属触媒が入側触媒層における貴金属触媒よりも多くなるように構成することに思い至った。このような構成を有する高負荷運転用触媒は、下流側の隔壁内部に形成される出側触媒層に多くの貴金属触媒が存在しているため、
図3の矢印Bのように流動する流速の速い排ガスを好適に浄化し、高負荷運転におけるエミッションを好適に低減させることができる。
【0012】
しかし、上記したように、有害成分の総エミッション量の8割程度は、流速が遅い排ガスが生じる暖機運転において生じるため、排ガス浄化装置を構成する複数の排ガス浄化用触媒の全てに、上流側の貴金属触媒が少ない高負荷運転用触媒を用いると、暖機運転におけるエミッションを適切に低減させることが難しくなり、有害成分の総エミッション量が却って増加する虞がある。
このため、本発明者は、高負荷運転用触媒と、暖機運転における排ガスを適切に浄化できる排ガス浄化用触媒(以下「暖機運転用触媒」ともいう)との両方を備えた排ガス浄化装置を構築することを考えた。
【0013】
そして、かかる排ガス浄化装置における高負荷運転用触媒の配置位置について更に検討を重ねた結果、高負荷運転用触媒をガス流動方向の最上流側に配置すると、暖機運転におけるエミッションを適切に低減させることができなくなることを見出し、かかる知見に基づいて、高負荷運転用触媒をガス流動方向の上流側から二番目以降に配置することに思い至った。
具体的には、運転開始直後の暖機運転では、全ての排ガス浄化用触媒を、適切な排ガス浄化能力を発揮できる温度まで昇温させることが難しいため、最も昇温され易い最上流側の触媒を用いて排ガスを浄化する。このとき、上記した高負荷運転用触媒がガス流動方向の最上流側に配置されていると、暖機運転におけるエミッションを適切に低減させることが難しくなる。
一方で、高負荷運転が行われる際には、全ての排ガス浄化用触媒が既に十分な温度まで昇温しているため、上流側からの二番目以降に配置された排ガス浄化用触媒でも適切な浄化作用を発揮させることができる。
以上の知見に基づいて、本発明者は、上記した高負荷運転用触媒を使用する際には、ガス流動方向の上流側から二番目以降に配置すればよく、これによって、暖機運転と高負荷運転の両方における有害成分のエミッションを適切に低減できることに思い至った。そして、かかる知見に基づいて、ここで開示される排ガス浄化装置を創作し、かかる装置の効果を種々の実験で確認することによって本発明を完成させるに至った。
【0014】
また、ここで開示される排ガス浄化装置の好ましい一態様では、排ガス流動方向における最上流側に配置される排ガス浄化用触媒が、排ガス流動方向の上流側の触媒層に存在する貴金属触媒が下流側の触媒層に存在する貴金属触媒よりも多くなるように構成された暖機運転用触媒であることを特徴とする。
【0015】
上記したように、暖機運転における排ガスは流速が遅く、各々の触媒の内部において隔壁の上流側を通過する傾向がある。このため、排ガス流動方向における最上流側に配置される暖機運転用触媒は、排ガス流動方向の上流側の触媒層における貴金属触媒が、下流側の触媒層における貴金属触媒よりも多くなるように構成されていることが好ましい。これによって、暖機運転におけるエミッションを好適に低減させることができる。
なお、排ガス流動方向の最上流側に配置される暖機運転用触媒の構造は、上記した態様に限定されず、暖機運転における排ガスの流速等を考慮して適宜変更することができる。例えば、運転初期から流速の速い排ガスが生じるような内燃機関を使用する場合には、上流側の触媒層と下流側の触媒層における貴金属触媒の量が略同量である排ガス浄化用触媒を暖機運転用触媒として好ましく用いることができる。
【0016】
ここで開示される排ガス浄化装置の好ましい他の態様では、高負荷運転用触媒において、隔壁の内部に存在する貴金属触媒の総量を100wt%としたときの出側触媒層に存在する貴金属触媒が60wt%以上70wt%以下であることを特徴とする。
上記したように、出側触媒層における貴金属触媒の量が貴金属触媒の総量の半分以下の場合には、下流側の隔壁における貴金属触媒が不足して高負荷運転におけるエミッションを十分に低減できなくなる虞がある。また、一部の排ガスは、高負荷運転中であっても上流側の隔壁を通過するため、高負荷運転用触媒の場合であっても、入側触媒層にある程度の貴金属触媒が存在している方が適切にエミッションを低減させることができる。これらのことを考慮すると、高負荷運転用触媒の出側触媒層における貴金属触媒の量を、隔壁の内部に存在する貴金属触媒の総量の60wt%以上70wt%以下にすることが好ましい。
【0017】
また、ここで開示される排ガス浄化装置の好ましい他の態様では、高負荷運転用触媒において、出側触媒層の延伸方向における長さが入側触媒層の長さよりも短く、出側触媒層における貴金属触媒の密度が入側触媒層における貴金属触媒の密度よりも高密度であることを特徴とする。
上記した
図3の矢印Bに示すように、高負荷運転における排ガスは、基材1の排ガス流出側の端部(封止部材3a)に衝突した後に下流側の隔壁4を通過するが、このときの排ガスは、排ガス流出側の端部近傍の最下流側の領域を通過し易い。
かかる最下流側の領域を通過する排ガスを適切に浄化するには、出側触媒層の長さを短くして当該出側触媒層における貴金属触媒の密度を高くすることが好ましい。これによって、
図3中の矢印Bで示されるような隔壁の最下流側の領域を通過する排ガスを、高密度の貴金属触媒を含む出側触媒層に接触させることができるため、高負荷運転におけるエミッションをより好適に低減させることができる。
【0018】
また、ここで開示される排ガス浄化装置の好ましい他の態様では、高負荷運転用触媒において、延伸方向における隔壁の全長を100%としたときの出側触媒層の長さが25%〜45%であることを特徴とする。
上記した態様のように、出側触媒層の長さを短くし、当該出側触媒層における貴金属触媒を高密度にする場合には、隔壁の全長に対する出側触媒層の長さを25%〜45%とすることが好ましい。これによって、排ガス流出側の端部に衝突した排ガスを、高密度の貴金属触媒を有した出側触媒層に適切に接触させることができる。
【0019】
また、ここで開示される排ガス浄化装置の好ましい他の態様では、貴金属触媒が、Pt、Pd、Rhの群より選択される少なくとも一種類以上の白金族元素を含むことを特徴とする。
排ガス中の有害成分を浄化する貴金属触媒には、Pt、Pd、Rhの群より選択される少なくとも一種類以上の白金族元素(PGM)が含まれていることが好ましい。これらの白金族元素が含まれた貴金属触媒を用いることによって、排ガス中の有害成分を好適に浄化することができる。
【0020】
また、本発明の他の態様として、排ガス浄化装置の排ガス流動方向における上流側から二番目以降に配置される排ガス浄化用触媒が提供される。
ここで開示される排ガス浄化用触媒は、排ガス流入側の端部のみが開口した入側セル、及び、該入側セルに隣接し排ガス流出側の端部のみが開口した出側セル、並びに、入側セルと出側セルとを仕切る多孔質な隔壁を有するウォールフロー構造の基材と、入側セルに接する隔壁の表面から隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、排ガス流入側の端部近傍から隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成されている入側触媒層であって排ガスに含まれる有害成分を浄化する貴金属触媒を含む入側触媒層と、出側セルに接する隔壁の表面から隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、排ガス流出側の端部近傍から隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成されている出側触媒層であって貴金属触媒を含む出側触媒層とを備えており、出側触媒層に存在する貴金属触媒が入側触媒層に存在する貴金属触媒よりも多くなるように構成されていることを特徴とする。
【0021】
ここで開示される排ガス浄化用触媒を、排ガス浄化装置の排ガス流動方向の上流側から二番目以降に配置し、高負荷運転における排ガスを浄化対象とする高負荷運転用触媒として用いることによって、高負荷運転における排ガス中の有害成分を適切に浄化して、有害成分のエミッションを好適に低減させることができる。