特許第6916624号(P6916624)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6916624
(24)【登録日】2021年7月20日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】排ガス浄化装置および排ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20210729BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20210729BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20210729BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20210729BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
   B01J23/63 AZAB
   B01J35/04 301E
   B01J35/04 301L
   B01D53/94 222
   B01D53/94 245
   B01D53/94 280
   F01N3/28 J
   F01N3/28 301Q
   F01N3/10 A
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-17980(P2017-17980)
(22)【出願日】2017年2月2日
(65)【公開番号】特開2018-122270(P2018-122270A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100142239
【弁理士】
【氏名又は名称】福富 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】尾上 亮太
(72)【発明者】
【氏名】野村 泰隆
(72)【発明者】
【氏名】猪田 悟
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−078016(JP,A)
【文献】 特開2016−150305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86−53/90,53/94−53/96
F01N 3/10
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気管に配置される排ガス浄化用触媒を複数備えており、当該複数の排ガス浄化用触媒に前記内燃機関から排出される排ガスを通過させることによって排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
前記複数の排ガス浄化用触媒のうち、排ガス流動方向における上流側から二番目以降に配置される排ガス浄化用触媒の少なくとも一つが、
排ガス流入側の端部のみが開口した入側セル、及び、該入側セルに隣接し排ガス流出側の端部のみが開口した出側セル、並びに、前記入側セルと前記出側セルとを仕切る多孔質な隔壁を有するウォールフロー構造の基材と、
前記入側セルに接する前記隔壁の表面から前記隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、前記排ガス流入側の端部近傍から前記隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成されている入側触媒層であって、前記排ガスに含まれる有害成分を浄化する貴金属触媒を含む入側触媒層と、
前記出側セルに接する前記隔壁の表面から前記隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、前記排ガス流出側の端部近傍から前記隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成されている出側触媒層であって、前記貴金属触媒を含む出側触媒層と、
を備えており、
前記出側触媒層に存在する前記貴金属触媒が、前記入側触媒層に存在する前記貴金属触媒よりも多くなるように構成された高負荷運転用触媒であり、
前記排ガス流動方向における最上流側に配置される排ガス浄化用触媒が、前記排ガス流動方向の上流側の触媒層に存在する貴金属触媒が下流側の触媒層に存在する貴金属触媒よりも多くなるように構成された暖機運転用触媒であることを特徴とする、排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記高負荷運転用触媒において、前記隔壁の内部に存在する前記貴金属触媒の総量を100wt%としたときの前記出側触媒層に存在する前記貴金属触媒が60wt%以上70wt%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記高負荷運転用触媒において、前記出側触媒層の前記延伸方向における長さが前記入側触媒層の長さよりも短く、前記出側触媒層における前記貴金属触媒の密度が前記入側触媒層における前記貴金属触媒の密度よりも高密度であることを特徴とする、請求項1に記載の排ガス浄化装置。
【請求項4】
内燃機関の排気管に配置される排ガス浄化用触媒を複数備えており、当該複数の排ガス浄化用触媒に前記内燃機関から排出される排ガスを通過させることによって排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
前記複数の排ガス浄化用触媒のうち、排ガス流動方向における上流側から二番目以降に配置される排ガス浄化用触媒の少なくとも一つが、
排ガス流入側の端部のみが開口した入側セル、及び、該入側セルに隣接し排ガス流出側の端部のみが開口した出側セル、並びに、前記入側セルと前記出側セルとを仕切る多孔質な隔壁を有するウォールフロー構造の基材と、
前記入側セルに接する前記隔壁の表面から前記隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、前記排ガス流入側の端部近傍から前記隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成されている入側触媒層であって、前記排ガスに含まれる有害成分を浄化する貴金属触媒を含む入側触媒層と、
前記出側セルに接する前記隔壁の表面から前記隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、前記排ガス流出側の端部近傍から前記隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成されている出側触媒層であって、前記貴金属触媒を含む出側触媒層と、
を備えており、
前記出側触媒層に存在する前記貴金属触媒が、前記入側触媒層に存在する前記貴金属触媒よりも多くなるように構成された高負荷運転用触媒であり、
前記高負荷運転用触媒において、前記出側触媒層の前記延伸方向における長さが前記入側触媒層の長さよりも短く、前記出側触媒層における前記貴金属触媒の密度が前記入側触媒層における前記貴金属触媒の密度よりも高密度であることを特徴とする、排ガス浄化装置。
【請求項5】
前記高負荷運転用触媒において、前記延伸方向における前記隔壁の全長を100%としたときの前記出側触媒層の長さが25%〜45%であることを特徴とする、請求項3または4に記載の排ガス浄化装置。
【請求項6】
前記貴金属触媒が、Pt、Pd、Rhの群より選択される少なくとも一種類以上の白金族元素を含むことを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置。
【請求項7】
内燃機関の排気管における排ガス流動方向に沿って複数の排ガス浄化用触媒が配置される排ガス浄化装置において、前記排ガス流動方向における上流側から二番目以降に配置される排ガス浄化用触媒であって、
排ガス流入側の端部のみが開口した入側セル、及び、該入側セルに隣接し排ガス流出側の端部のみが開口した出側セル、並びに、前記入側セルと前記出側セルとを仕切る多孔質な隔壁を有するウォールフロー構造の基材と、
前記入側セルに接する前記隔壁の表面から前記隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、前記排ガス流入側の端部近傍から前記隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成されている入側触媒層であって、前記排ガスに含まれる有害成分を浄化する貴金属触媒を含む入側触媒層と、
前記出側セルに接する前記隔壁の表面から前記隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、前記排ガス流出側の端部近傍から前記隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成されている出側触媒層であって、前記貴金属触媒を含む出側触媒層と、
を備えており、
前記出側触媒層に存在する前記貴金属触媒が、前記入側触媒層に存在する前記貴金属触媒よりも多くなるように構成されており、
前記出側触媒層の前記延伸方向における長さが前記入側触媒層の長さよりも短く、前記出側触媒層における前記貴金属触媒の密度が前記入側触媒層における前記貴金属触媒の密度よりも高密度であることを特徴とする、排ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置および該排ガス浄化装置に用いられる排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンなどの内燃機関から排出される排ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)などの有害成分が含まれている。従来より、これらの有害成分が外部に排出されること(いわゆる、有害成分のエミッション)を防止するために、上記した内燃機関には排ガス浄化装置が取り付けられている。
一般に、上記した排ガス浄化装置は、複数の排ガス浄化用触媒を備えており、この排ガス浄化用触媒に排ガスを通過させることによって排ガス中の有害成分を浄化する。かかる複数の排ガス浄化用触媒の各々は、内燃機関の排気管に配置されており、ハニカム構造の基材と、当該基材の内部に形成される触媒層とを備えている。この排ガス浄化用触媒の触媒層には、例えば、Pt、Pd、Rhなどの白金族元素(PGM)からなる貴金属触媒が含まれており、この貴金属触媒と排ガスとを接触させることによって有害成分が浄化される。
【0003】
上記した排ガス浄化用触媒の一例として、ウォールフロー型の排ガス浄化用触媒が挙げられる。このウォールフロー型の排ガス浄化用触媒は、排ガス流入側の端部のみが開口した入側セル(入側流路)と、排ガス流出側の端部のみが開口した出側セル(出側流路)と、これらのセルを仕切る多孔質の隔壁(リブ壁)とを有したウォールフロー構造の基材を備えており、当該多孔質の隔壁の内部に触媒層が形成されている。
かかるウォールフロー型の排ガス浄化用触媒では、入側セル内に流入した排ガスが多孔質の隔壁を通過した後に、出側セルを通って触媒外部に排出される。このとき、隔壁内部に形成された触媒層に排ガスが接触することによって有害成分が浄化される。かかる構造を有した排ガス浄化用触媒の一例が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−150305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、車両等に対する排ガス規制が更に強化される傾向にあり、かかる規制に対応するために、有害成分のエミッションをより好適に低減させることができる排ガス浄化装置が求められている。
本発明は、かかる要望を鑑みてなされたものであり、従来よりも好適に有害成分のエミッションを低減させることができる排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するべく、本発明によって以下の構成の排ガス浄化装置が提供される。
【0007】
ここで開示される排ガス浄化装置は、内燃機関の排気管に配置される排ガス浄化用触媒を複数備えており、当該複数の排ガス浄化用触媒に内燃機関から排出される排ガスを通過させることによって排ガスを浄化する。
そして、ここで開示される排ガス浄化装置では、上記した複数の排ガス浄化用触媒のうち、排ガス流動方向における上流側から二番目以降に配置される排ガス浄化用触媒の少なくとも一つが、排ガス流入側の端部のみが開口した入側セル、及び、該入側セルに隣接し排ガス流出側の端部のみが開口した出側セル、並びに、入側セルと出側セルとを仕切る多孔質な隔壁を有するウォールフロー構造の基材と、入側セルに接する隔壁の表面から隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、排ガス流入側の端部近傍から隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成されている入側触媒層であって排ガスに含まれる有害成分を浄化する貴金属触媒を含む入側触媒層と、出側セルに接する隔壁の表面から隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、排ガス流出側の端部近傍から隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成されている出側触媒層であって貴金属触媒を含む出側触媒層とを備えており、出側触媒層に存在する貴金属触媒が入側触媒層に存在する貴金属触媒よりも多くなるように構成された高負荷運転用触媒であることを特徴とする。
【0008】
本発明者は、有害成分のエミッションをより好適に低減させるために、種々の検討と実験を行った結果、上記した構成の排ガス浄化装置に思い至った。
ここで開示される排ガス浄化装置は、排ガス流動方向における上流側から二番目以降に配置される排ガス浄化用触媒の少なくとも一つが、出側触媒層における貴金属触媒が入側触媒層における貴金属触媒よりも多くなるように構成された高負荷運転用触媒となるように構成されている。
以下、上記した構成の排ガス浄化装置を本発明者が創作するに至った経緯を説明する。
【0009】
一般に、有害成分のエミッションは、内燃機関の運転開始直後の暖機運転と、内燃機関を高回転で運転させた際の高負荷運転の何れかの運転状態において発生しやすいと考えられている。
これらの運転状態のうち、暖機運転におけるエミッションは総エミッション量の8割程度を占めており、従来から種々の対策が考案されているのに対し、高負荷運転におけるエミッションは十分な対策が採られているとは言えないのが現状であった。
本発明者は、かかる高負荷運転におけるエミッションを好適に低減させることができれば、有害成分の総エミッション量を大きく低減させることができると考え、かかる高負荷運転におけるエミッションを好適に低減させるための技術について検討を行った。
【0010】
かかる技術を創作するに際して、本発明者は、先ず、各々の運転状態における排ガスの流速と、排ガス浄化用触媒内部における貴金属触媒の分布状況との関係に着目した。
具体的には、暖機運転においては、他の運転状態に比べて流速が遅い排ガスが供給されるため、図3中の矢印Aに示すように、多くの排ガスが基材1の隔壁4の上流側を通過する傾向がある。このように流動し易い暖機運転における排ガスを適切に浄化するために、従来では、排ガス流動方向の上流側の隔壁4内に多くの貴金属触媒が存在するように触媒層を形成することが一般的であった。
これに対して、高負荷運転においては、暖機運転を含めた他の運転状態に比べて排ガスの流速が大幅に速くなるため、図3の矢印Bに示すように、基材1の排ガス流出側の端部(図中の封止部材3a)に衝突した後に当該排ガス流出側の端部近傍の隔壁4を通過するような排ガスが増加する傾向がある。
本発明者は、上流側に多くの貴金属触媒を存在させた一般的な排ガス浄化用触媒では、図中の矢印Bのように流動し易い高負荷運転における排ガスを適切に浄化することはできないと考え、かかる高負荷運転の排ガスを浄化対象とした排ガス浄化用触媒(以下「高負荷運転用触媒」ともいう)を新たに創作することを検討した。
【0011】
そして、かかる高負荷運転用触媒を創作するに際して、種々の実験と検討を重ね、出側触媒層における貴金属触媒が入側触媒層における貴金属触媒よりも多くなるように構成することに思い至った。このような構成を有する高負荷運転用触媒は、下流側の隔壁内部に形成される出側触媒層に多くの貴金属触媒が存在しているため、図3の矢印Bのように流動する流速の速い排ガスを好適に浄化し、高負荷運転におけるエミッションを好適に低減させることができる。
【0012】
しかし、上記したように、有害成分の総エミッション量の8割程度は、流速が遅い排ガスが生じる暖機運転において生じるため、排ガス浄化装置を構成する複数の排ガス浄化用触媒の全てに、上流側の貴金属触媒が少ない高負荷運転用触媒を用いると、暖機運転におけるエミッションを適切に低減させることが難しくなり、有害成分の総エミッション量が却って増加する虞がある。
このため、本発明者は、高負荷運転用触媒と、暖機運転における排ガスを適切に浄化できる排ガス浄化用触媒(以下「暖機運転用触媒」ともいう)との両方を備えた排ガス浄化装置を構築することを考えた。
【0013】
そして、かかる排ガス浄化装置における高負荷運転用触媒の配置位置について更に検討を重ねた結果、高負荷運転用触媒をガス流動方向の最上流側に配置すると、暖機運転におけるエミッションを適切に低減させることができなくなることを見出し、かかる知見に基づいて、高負荷運転用触媒をガス流動方向の上流側から二番目以降に配置することに思い至った。
具体的には、運転開始直後の暖機運転では、全ての排ガス浄化用触媒を、適切な排ガス浄化能力を発揮できる温度まで昇温させることが難しいため、最も昇温され易い最上流側の触媒を用いて排ガスを浄化する。このとき、上記した高負荷運転用触媒がガス流動方向の最上流側に配置されていると、暖機運転におけるエミッションを適切に低減させることが難しくなる。
一方で、高負荷運転が行われる際には、全ての排ガス浄化用触媒が既に十分な温度まで昇温しているため、上流側からの二番目以降に配置された排ガス浄化用触媒でも適切な浄化作用を発揮させることができる。
以上の知見に基づいて、本発明者は、上記した高負荷運転用触媒を使用する際には、ガス流動方向の上流側から二番目以降に配置すればよく、これによって、暖機運転と高負荷運転の両方における有害成分のエミッションを適切に低減できることに思い至った。そして、かかる知見に基づいて、ここで開示される排ガス浄化装置を創作し、かかる装置の効果を種々の実験で確認することによって本発明を完成させるに至った。
【0014】
また、ここで開示される排ガス浄化装置の好ましい一態様では、排ガス流動方向における最上流側に配置される排ガス浄化用触媒が、排ガス流動方向の上流側の触媒層に存在する貴金属触媒が下流側の触媒層に存在する貴金属触媒よりも多くなるように構成された暖機運転用触媒であることを特徴とする。
【0015】
上記したように、暖機運転における排ガスは流速が遅く、各々の触媒の内部において隔壁の上流側を通過する傾向がある。このため、排ガス流動方向における最上流側に配置される暖機運転用触媒は、排ガス流動方向の上流側の触媒層における貴金属触媒が、下流側の触媒層における貴金属触媒よりも多くなるように構成されていることが好ましい。これによって、暖機運転におけるエミッションを好適に低減させることができる。
なお、排ガス流動方向の最上流側に配置される暖機運転用触媒の構造は、上記した態様に限定されず、暖機運転における排ガスの流速等を考慮して適宜変更することができる。例えば、運転初期から流速の速い排ガスが生じるような内燃機関を使用する場合には、上流側の触媒層と下流側の触媒層における貴金属触媒の量が略同量である排ガス浄化用触媒を暖機運転用触媒として好ましく用いることができる。
【0016】
ここで開示される排ガス浄化装置の好ましい他の態様では、高負荷運転用触媒において、隔壁の内部に存在する貴金属触媒の総量を100wt%としたときの出側触媒層に存在する貴金属触媒が60wt%以上70wt%以下であることを特徴とする。
上記したように、出側触媒層における貴金属触媒の量が貴金属触媒の総量の半分以下の場合には、下流側の隔壁における貴金属触媒が不足して高負荷運転におけるエミッションを十分に低減できなくなる虞がある。また、一部の排ガスは、高負荷運転中であっても上流側の隔壁を通過するため、高負荷運転用触媒の場合であっても、入側触媒層にある程度の貴金属触媒が存在している方が適切にエミッションを低減させることができる。これらのことを考慮すると、高負荷運転用触媒の出側触媒層における貴金属触媒の量を、隔壁の内部に存在する貴金属触媒の総量の60wt%以上70wt%以下にすることが好ましい。
【0017】
また、ここで開示される排ガス浄化装置の好ましい他の態様では、高負荷運転用触媒において、出側触媒層の延伸方向における長さが入側触媒層の長さよりも短く、出側触媒層における貴金属触媒の密度が入側触媒層における貴金属触媒の密度よりも高密度であることを特徴とする。
上記した図3の矢印Bに示すように、高負荷運転における排ガスは、基材1の排ガス流出側の端部(封止部材3a)に衝突した後に下流側の隔壁4を通過するが、このときの排ガスは、排ガス流出側の端部近傍の最下流側の領域を通過し易い。
かかる最下流側の領域を通過する排ガスを適切に浄化するには、出側触媒層の長さを短くして当該出側触媒層における貴金属触媒の密度を高くすることが好ましい。これによって、図3中の矢印Bで示されるような隔壁の最下流側の領域を通過する排ガスを、高密度の貴金属触媒を含む出側触媒層に接触させることができるため、高負荷運転におけるエミッションをより好適に低減させることができる。
【0018】
また、ここで開示される排ガス浄化装置の好ましい他の態様では、高負荷運転用触媒において、延伸方向における隔壁の全長を100%としたときの出側触媒層の長さが25%〜45%であることを特徴とする。
上記した態様のように、出側触媒層の長さを短くし、当該出側触媒層における貴金属触媒を高密度にする場合には、隔壁の全長に対する出側触媒層の長さを25%〜45%とすることが好ましい。これによって、排ガス流出側の端部に衝突した排ガスを、高密度の貴金属触媒を有した出側触媒層に適切に接触させることができる。
【0019】
また、ここで開示される排ガス浄化装置の好ましい他の態様では、貴金属触媒が、Pt、Pd、Rhの群より選択される少なくとも一種類以上の白金族元素を含むことを特徴とする。
排ガス中の有害成分を浄化する貴金属触媒には、Pt、Pd、Rhの群より選択される少なくとも一種類以上の白金族元素(PGM)が含まれていることが好ましい。これらの白金族元素が含まれた貴金属触媒を用いることによって、排ガス中の有害成分を好適に浄化することができる。
【0020】
また、本発明の他の態様として、排ガス浄化装置の排ガス流動方向における上流側から二番目以降に配置される排ガス浄化用触媒が提供される。
ここで開示される排ガス浄化用触媒は、排ガス流入側の端部のみが開口した入側セル、及び、該入側セルに隣接し排ガス流出側の端部のみが開口した出側セル、並びに、入側セルと出側セルとを仕切る多孔質な隔壁を有するウォールフロー構造の基材と、入側セルに接する隔壁の表面から隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、排ガス流入側の端部近傍から隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成されている入側触媒層であって排ガスに含まれる有害成分を浄化する貴金属触媒を含む入側触媒層と、出側セルに接する隔壁の表面から隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、排ガス流出側の端部近傍から隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成されている出側触媒層であって貴金属触媒を含む出側触媒層とを備えており、出側触媒層に存在する貴金属触媒が入側触媒層に存在する貴金属触媒よりも多くなるように構成されていることを特徴とする。
【0021】
ここで開示される排ガス浄化用触媒を、排ガス浄化装置の排ガス流動方向の上流側から二番目以降に配置し、高負荷運転における排ガスを浄化対象とする高負荷運転用触媒として用いることによって、高負荷運転における排ガス中の有害成分を適切に浄化して、有害成分のエミッションを好適に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置に用いられる排ガス浄化用触媒を模式的に示す斜視図である。
図3】排ガス浄化用触媒の基材の断面構造を模式的に示す図である。
図4】本発明の一実施形態における排ガス浄化用触媒の隔壁内部の構造を模式的に示す断面図である。
図5】吸入空気量を20g/secに設定した場合の試験例1〜試験例4の排ガス浄化用触媒の50%浄化温度を示すグラフである。
図6】吸入空気量を35g/secに設定した場合の試験例1〜試験例4の排ガス浄化用触媒の50%浄化温度を示すグラフである。
図7】試験例1〜試験例4の排ガス浄化用触媒を高負荷運転用触媒として使用した排ガス浄化装置のNOxエミッション量の測定結果を示すグラフである。
図8】試験例5〜試験例8の排ガス浄化用触媒を高負荷運転用触媒として使用した排ガス浄化装置のNOxエミッション量の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態を説明する。以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚みなど)は、実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術知識とに基づいて実施することができる。
【0024】
1.排ガス浄化装置
図1は本実施形態に係る排ガス浄化装置を模式的に示す図である。なお、図1に示す排ガス浄化装置100は、図中の左側から右側に向かって排ガスが流動するように内燃機関(図示省略)に取り付けられている。
図1に示すように、本実施形態に係る排ガス浄化装置100では、内燃機関の排気管50に2個の排ガス浄化用触媒10、20が配置されている。各々の排ガス浄化用触媒10、20は、図2に示すようなハニカム構造を有した円筒状の基材1と、該基材1の内部に形成された触媒層(図示省略)とを備えている。かかる構成の排ガス浄化用触媒10、20では、基材1内に流入した排ガスを触媒層に接触させることによって有害成分(HC、CO、NOx)を浄化する。
【0025】
そして、図1に示す本実施形態に係る排ガス浄化装置100の排ガス流動方向Fにおける最上流側(換言すれば、内燃機関の直下)には、暖機運転における排ガスを浄化対象とする暖機運転用触媒10が配置されている。また、かかる排ガス浄化装置100の排ガス流動方向Fの上流側から二番目には、高負荷運転における排ガスを浄化対象とする高負荷運転用触媒20が配置されている。
以下、本実施形態に係る排ガス浄化装置100に設けられた各々の排ガス浄化用触媒10、20を具体的に説明する。
【0026】
2.排ガス浄化用触媒
本明細書においては、先ず、各々の排ガス浄化用触媒(暖機運転用触媒10および高負荷運転用触媒20)の間で共通する構造について説明する。
【0027】
図3は排ガス浄化用触媒の基材の断面構造を模式的に示す図である。図4は本実施形態における排ガス浄化用触媒の隔壁内部の構造を模式的に示す断面図である。
上記したように、本実施形態における各々の排ガス浄化用触媒10、20は、何れも、ハニカム構造を有した基材1と、当該基材1内部の隔壁4に形成された触媒層とを備えており、基材1内に流入した排ガスを触媒層に接触させることによって有害成分(HC、CO、NOx)を浄化する。
【0028】
(1)基材
図3に示すように、本実施形態においては、各々の排ガス浄化用触媒10、20の基材1としてウォールフロー構造の基材が用いられている。かかるウォールフロー構造の基材1は、排ガス流入側の端部1aのみが開口している入側セル2aと、排ガス流出側の端部1bのみが開口している出側セル2bとを備えている。なお、入側セル2aの排ガス流出側の端部1bは封止部材3aによって封止されており、出側セル2bの排ガス流入側の端部1aは封止部材3bによって封止されている。そして、かかるウォールフロー構造の基材1では、入側セル2aと出側セル2bとが市松状に隣接して形成され(図2参照)、かかる入側セル2aと出側セル2bとが基材1の筒軸方向Xに沿って延びる隔壁4によって仕切られている。
【0029】
かかる基材1の隔壁4の厚みT(すなわち、入側セル2aに接する表面から出側セル2bに接する表面までの平均厚み)は、基材1の耐久性と通気性の観点から、0.05mm以上2mm以下の範囲内に設定することが好ましい。また、延伸方向における隔壁4の全長Lwは、通常10mm〜500mm(例えば50mm〜300mm)の範囲内に設定することが好ましい。また、基材1全体の容積(入側セル2aと出側セル2bの総体積)は、通常0.1L〜5L(好ましくは0.5L〜3L、例えば1.25L)に設定される。
【0030】
また、本実施形態における基材1は、一般的な排ガス浄化用触媒の基材に用いられ得る種々の材料によって構成することができる。かかる基材1の材料の好適例として、コージェライト、炭化ケイ素(SiC)、チタン酸アルミニウムなどのセラミックス、或いはステンレス鋼などの合金が挙げられる。これらの材料は高い耐熱性を有しているため、高負荷運転において高温環境(例えば400℃以上)に曝された場合に破損することを防止できる。
【0031】
また、図1および図2に示すように、本実施形態においては、基材1の筒軸方向Xとガス流動方向Fとが略同じ方向になるように、各々の排ガス浄化用触媒10、20が配置されている。そして、上記したように、基材1の隔壁4は上記筒軸方向Xに沿って延びるように形成されている。すなわち、本実施形態に係る排ガス浄化装置100は、ガス流動方向Fと、基材1の筒軸方向Xと、隔壁4の延伸方向の各々の方向が略同じ方向になるように構成されている。
【0032】
なお、本実施形態においては、基材として図2のような円筒形の基材1を用いているが、基材1の外形は、円筒形に限られず、楕円筒形や多角筒形などであってもよい。
【0033】
(2)触媒層
上記したように、排ガス浄化用触媒10、20の触媒層は、基材1の隔壁4の内部に形成されている。図4は本実施形態における排ガス浄化用触媒の隔壁内部の構造を模式的に示す断面図である。
図4に示すように、本実施形態における各々の排ガス浄化用触媒10、20は、上流側の隔壁4内部に形成された入側触媒層6aと、下流側の隔壁4内部に形成された出側触媒層6bの2種類の触媒層を備えている。
具体的には、入側触媒層6aは、入側セル2aに接する隔壁4の表面から隔壁4の内方に所定の厚みで形成され、かつ、排ガス流入側の端部1aの近傍から隔壁4の延伸方向Xに沿って所定の長さL1で形成されている。
一方、出側触媒層6bは、出側セル2bに接する隔壁4の表面から隔壁4の内方に所定の厚みで形成され、かつ、排ガス流出側の端部1b近傍から隔壁4の延伸方向Xに沿って所定の長さL2で形成されている。
なお、延伸方向Xにおける入側触媒層6aの長さL1と、出側触媒層6bの長さL2との合計は隔壁4の全長Lwよりも長くなるように形成されていることが好ましい。これによって、延伸方向Xにおいて、入側触媒層6aと出側触媒層6bとを一部重複させて、入側触媒層6aと出側触媒層6bとの間に触媒層が形成されていない領域が生じることを防止できる。
【0034】
かかる入側触媒層6aと出側触媒層6bには、排ガス中の有害成分を浄化する貴金属触媒が含まれている。貴金属触媒には、例えばPt、Pd、Rhからなる群より選択される少なくとも一種類以上の白金族元素(PGM)が含まれていることが好ましい。これによって、排ガスが貴金属触媒に接触した際に、当該白金族元素の触媒作用によって適切に有害成分を浄化することができる。
なお、有害成分のエミッションを好適に低減させるためには、排ガス中の有害成分(CO、HC、NOx)の含有量を考慮して、入側触媒層6aと出側触媒層6bに存在する貴金属触媒の総量を適宜調節することが好ましい。
【0035】
また、入側触媒層6aと出側触媒層6bには、上記した貴金属触媒を担持する担体や、その他の添加剤などが含まれている。本実施形態において担体を構成する材料は、特に限定されず、一般的な排ガス浄化用触媒の触媒層に使用される担体材料を用いることができる。かかる担体材料の具体例としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ、セリア、セリウム−ジルコニウム複合酸化物等を挙げることができる。
また、入側触媒層6aおよび出側触媒層6bには、酸素の吸蔵及び放出を行って助触媒として機能するOSC材料が含まれていることが好ましい。かかるOSC材料を各々の触媒層に添加することによって、貴金属触媒による触媒作用を補助して有害成分を効率良く浄化することができる。なお、かかるOSC材料としては、セリウム−ジルコニウム複合酸化物等を主成分とし、希土類酸化物、アルカリ金属酸化物、遷移金属、アルミナ、シリカなどを含む多結晶体(若しくは単結晶)を用いることができる。
【0036】
(a)高負荷運転用触媒
上記したように、本実施形態に係る排ガス浄化装置100は、暖機運転における排ガスを浄化対象にする暖機運転用触媒10と、高負荷運転における排ガスを浄化対象にする高負荷運転用触媒20とを備えている。ここでは、本実施形態における高負荷運転用触媒20について説明する。
【0037】
上記したように、本実施形態に係る排ガス浄化装置100では、排ガス流動方向Fの上流側から二番目に高負荷運転用触媒20(図1参照)が配置されており、当該高負荷運転用触媒20は、図4中の出側触媒層6bに存在する貴金属触媒が入側触媒層6aに存在する貴金属触媒よりも多くなるように構成されている。
本実施形態に係る排ガス浄化装置100は、かかる高負荷運転用触媒20によって、高負荷運転における排ガス中の有害成分を効率良く浄化し、高負荷運転における有害成分のエミッションを好適に低減させることができる。
【0038】
具体的には、本実施形態においては、排ガス流動方向Fの上流側から二番目に高負荷運転用触媒20が配置されているが、高負荷運転が行われる際には、高負荷運転用触媒20が十分な温度まで昇温しているため、当該高負荷運転用触媒20に含まれる貴金属触媒を適切に機能させることができる。
そして、この状態で高負荷運転が行われると、流速が速い排ガスが高負荷運転用触媒20に供給され、図3中の矢印Bに示すように排ガス流出側の封止部材3aに衝突した後に、当該封止部材3a近傍(すなわち、最下流側)の隔壁4を通過する。本実施形態の高負荷運転用触媒20では、かかる最下流側の隔壁4に出側触媒層6bが形成されており、この出側触媒層6bにおける貴金属触媒が入側触媒層6aよりも多くなるように構成されているため、当該最下流側の隔壁4を通過する排ガスを多量の貴金属触媒に接触させることができる。このため、本実施形態に係る排ガス浄化装置100では、排ガス流動方向Fの上流側から二番目に配置された高負荷運転用触媒20によって、排ガス中の有害成分を十分に浄化して高負荷運転におけるエミッションを好適に低減させることができる。
【0039】
なお、高負荷運転用触媒20において、入側触媒層6aと出側触媒層6bの各々に存在する貴金属触媒の具体的な値は、基材1の容量などに応じて適宜変更し得るため特に限定されないが、隔壁4の内部に存在する貴金属触媒の総量を100wt%とした場合には、出側触媒層6bに存在する貴金属触媒を60wt%以上80wt%以下(好ましくは60wt%以上70wt%以下)とすることが好ましい。これによって、より好適に高負荷運転におけるエミッションを低減させることができる。
【0040】
また、高負荷運転用触媒20では、延伸方向Xにおける入側触媒層6aの長さL1と、出側触媒層6bの長さL2に応じて、各々の触媒層における貴金属触媒の密度を適宜調整することが好ましい。例えば、延伸方向Xにおける入側触媒層6aの長さL1に比べて、出側触媒層6bの長さL2を短くし、出側触媒層6bにおける貴金属触媒の密度を高密度にすると、封止部材3a近傍を通過する排ガスを高密度の貴金属触媒に接触させることができるため、さらに好適に高負荷運転におけるエミッションを低減させることができる。なお、このときの延伸方向Xにおける出側触媒層6bの長さL2は、隔壁4の全長Lwの25%〜45%に設定するとより好ましい。
【0041】
(b)暖機運転用触媒
次に、本実施形態における暖機運転用触媒10について説明する。暖機運転用触媒10は、図1に示すように、排ガス流動方向Fの最上流側に配置されている。
そして、かかる暖機運転用触媒10は、上記した高負荷運転用触媒20と異なり、入側触媒層6aに存在する貴金属触媒が出側触媒層6bに存在する貴金属触媒よりも多くなるよう構成されている。
本実施形態に係る排ガス浄化装置100は、かかる暖機運転用触媒10によって、暖機運転における排ガス中の有害成分を効率良く浄化し、暖機運転における有害成分のエミッションを好適に低減させることができる。
【0042】
具体的には、本実施形態においては、排ガス流動方向Fの最上流側に暖機運転用触媒10が配置されているため、運転開始初期の暖機運転であるにも関わらず、暖機運転用触媒10を十分な温度まで昇温させて、当該暖機運転用触媒10に含まれる貴金属触媒を適切に機能させることができる。
そして、かかる暖機運転においては、流速が遅い排ガスが暖機運転用触媒10に供給され、図3中の矢印Aに示すように、排ガス流動方向F(すなわち、筒軸方向X)の上流側の隔壁4を通過する。本実施形態の暖機運転用触媒10では、かかる上流側の隔壁4に形成されている入側触媒層6aにおける貴金属触媒が出側触媒層6bよりも多くなるように構成されているため、当該上流側の隔壁4を通過する排ガスを多量の貴金属触媒に接触させることができる。このため、本実施形態に係る排ガス浄化装置100では、排ガス流動方向Fの最上流側に配置されている暖機運転用触媒10によって、排ガス中の有害成分を十分に浄化して暖機運転におけるエミッションを好適に低減させることができる。
【0043】
以上のように、本実施形態に係る排ガス浄化装置100によれば、最上流側に配置された暖機運転用触媒10によって暖機運転におけるエミッションを好適に低減させることができると共に、上流側から二番目以降に配置された高負荷運転用触媒20によって高負荷運転におけるエミッションを好適に低減させることができるため、有害成分の総エミッション量を大幅に低減させることができる。
【0044】
5.その他の態様
以上、本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置100について説明したが、ここで開示される排ガス浄化装置は上記した実施形態に限定されず、種々の構造を変更することができる。
【0045】
例えば、上記した実施形態においては、排ガス流動方向Fの最上流側に配置される暖機運転用触媒としてウォールフロー型の排ガス浄化用触媒を用い、当該触媒の入側触媒層における貴金属触媒が出側触媒層における貴金属触媒よりも多くなるよう構成している。
しかし、排ガス流動方向の最上流側に配置される暖機運転用触媒は、暖機運転におけるエミッションを適切に低減させることができればよく、その構成は特に限定されない。例えば、暖機運転における排ガスの流速によっては、入側触媒層における貴金属触媒と出側触媒層における貴金属触媒とが略同量の排ガス浄化用触媒を、暖機運転用触媒として好ましく用いることができる。
また、暖機運転用触媒は、上記したようなウォールフロー型の排ガス浄化用触媒でなくてもよく、例えば、ストレートフロー型の排ガス浄化用触媒を用いることもできる。
【0046】
また、上記した実施形態に係る排ガス浄化装置100は、2個の排ガス浄化用触媒を備えているが、排ガス浄化装置を構成する排ガス浄化用触媒の個数は特に限定されず、3個以上の排ガス浄化用触媒を備えていてもよい。
このように3個以上の排ガス浄化用触媒を備えた排ガス浄化装置の場合には、ガス流動方向の最上流側に暖機運転用触媒を配置し、上流側から2番目に高負荷運転用触媒を配置した上で、当該高負荷運転用触媒の下流側にNOx吸蔵用の排ガス浄化用触媒を配置することができる。かかる構成の排ガス浄化装置の場合、暖機運転と高負荷運転の両方における有害成分のエミッションを適切に低減させた上で、リーン条件での運転におけるNOxエミッションを低減できるという効果を得ることができる。また、高負荷運転用触媒は、排ガス流動方向の上流側から2番目以降に複数個配置されていてもよい。
【0047】
[試験例]
以下、本発明に関する試験例を説明するが、以下の説明は本発明を限定することを意図したものではない。
【0048】
<実験A>
実験Aにおいては、入側触媒層と出側触媒層とが隔壁の内部に形成されており、該入側触媒層における貴金属触媒と出側触媒層における貴金属触媒とを、下記の表1のように変化させて4個の排ガス浄化用触媒を作製し(試験例1〜試験例4)、各々の排ガス浄化用触媒の排ガス浄化能力を評価した。
【0049】
1.各試験例の作製
(1)試験例1
試験例1では、延伸方向Xにおける全長Lwが100mm、直径が160mmであるウォールフロー構造を有した円筒形状の基材1(コージェライト製:容積1.25L)を用意した。そして、かかる基材1の隔壁4の内部に、貴金属触媒(Pd:総量1.1g、Rh:総量0.25g)が含まれている入側触媒層6aと出側触媒層6bとを形成した。
また、各々の触媒層では、担体としてアルミナを使用し、OSC材料としてセリアージルコニア複合酸化物を添加した。このとき、貴金属触媒を除いた各々の触媒層の密度を100g/Lに設定した。
【0050】
そして、試験例1においては、入側触媒層6aの長さL1と出側触媒層6bの長さL2の両方を基材1の全長Lwの55%に設定した上で、基材1の隔壁4内部に存在する貴金属触媒の総量を100wt%としたときの出側触媒層6bにおける貴金属触媒の量が50wt%になるように各々の触媒層を形成した。
【0051】
(2)試験例2〜試験例4
試験例2〜試験例4では、基材1の隔壁4内部に存在する貴金属触媒の総量を100wt%としたときの出側触媒層6bにおける貴金属触媒の量を下記の表1のように変更した点を除いて、試験例1と同じ条件で排ガス浄化用触媒を作製した。具体的には、試験例2では出側触媒層6bにおける貴金属触媒の量を貴金属触媒の総量の60wt%とし、試験例3では70wt%とし、試験例4では80wt%とした。
【0052】
【表1】
【0053】
2.評価試験
本実験では、各試験例の排ガス浄化用触媒を評価するために、各試験例の排ガス浄化用触媒の有害成分の50%浄化温度(T50)と、NOxエミッション量の測定を行った。以下、各々の評価試験における具体的な測定方法を説明する。
【0054】
(1)有害成分の50%浄化温度(T50)
本評価においては、各試験例の排ガス浄化用触媒を内燃機関の排気管に配置し、当該内燃機関を稼働させ、当該内燃機関から排出された排ガスを熱交換器で150℃から50℃/minの昇温速度で昇温させながら、各試験例の排ガス浄化用触媒に供給した。そして、内燃機関を稼働させている間、排ガス浄化用触媒の上流と下流に取り付けられたセンサーの測定結果に基づいて、排ガス中の有害成分(CO、HC、NOx)の浄化率を測定し続け、各々の有害成分の浄化率が50%に到達したときの排ガス温度を有害成分の50%浄化温度(T50)として評価した。
【0055】
なお、本評価においては、暖機運転を再現するために内燃機関の吸入空気量を20g/secに設定した場合の50%浄化温度(T50)と、高負荷運転を再現するために吸入空気量を35g/secに設定した場合の50%浄化温度(T50)とを測定した。
暖機運転を再現した場合の50%浄化温度の測定結果を図6に示し、高負荷運転を再現した場合の50%浄化温度の測定結果を図7に示す。
【0056】
(2)NOxエミッション量の測定
本評価においては、排気量約2200ccの内燃機関を搭載した車両の排気管に暖機運転用触媒と高負荷運転用触媒とを取り付け、当該車両をECモードで1km走行させた際のNOxエミッション量(g/km)を測定した。なお、本試験においては、上流側の触媒層における貴金属触媒(PdおよびRh)を貴金属触媒の総量の60wt%に設定した暖機運転用触媒を最上流側に配置し、上流側から2番目に配置される高負荷運転用触媒に試験例1〜試験例4の排ガス浄化用触媒を使用した。各試験例におけるNOxエミッション量の測定結果を図8に示す。
【0057】
3.試験結果
図5に示すように、排ガスの流速を遅くして暖機運転を再現した場合には、出側触媒層6bにおける貴金属触媒を増加させるに従って、有害成分の50%浄化温度(T50)が上昇していた。このことから、試験例2〜試験例4のような、出側触媒層6bにおける貴金属触媒が多い排ガス浄化用触媒は、排ガスの流速が遅い暖機運転における有害成分を適切に浄化することが難しく、排ガス流動方向の最上流側に配置される暖機運転用触媒には使用しない方がよいことが分かった。
【0058】
一方、図6に示すように、排ガスの流速を速くして高負荷運転を再現した場合には、試験例2〜試験例4において、有害成分の50%浄化温度(T50)が低下していた
また、図7に示すように、各試験例の排ガス浄化用触媒を高負荷運転用触媒として使用し、実際に車両に装着させた場合には、試験例2〜試験例4においてNOxエミッション量が低減していることが確認できた。
これらの結果から、試験例2〜試験例4のような、出側触媒層6bにおける貴金属触媒が多い排ガス浄化用触媒は、排ガスの流速が速い高負荷運転における有害成分を好適に浄化することができるため、排ガス流動方向の上流側から2番目以降に配置される高負荷運転用触媒に好ましく使用できることが分かった。
【0059】
また、試験例2〜試験例4を比較すると、試験例2と試験例3では、図6に示す排ガスの流速が速い場合の50%浄化温度(T50)が顕著に低下していた。このことから、高負荷運転用触媒に使用される排ガス浄化用触媒の場合、出側触媒層6bにおける貴金属触媒の量を60wt%〜70wt%の範囲内で調整することが好ましいことが分かった。
【0060】
<実験B>
実験Bにおいては、出側触媒層6bの長さL2と、該出側触媒層6bにおける貴金属触媒の密度がNOxエミッション量に与える影響を調査した。
【0061】
1.各試験例の作製
(1)試験例5〜試験例8
実験Bにおいては、入側触媒層における貴金属触媒よりも出側触媒層における貴金属触媒の方が多い排ガス浄化用触媒を4種類作製した(試験例5〜試験例8)。
なお、本実験においては、各々の試験例において貴金属触媒としてRh(総量0.28g)を使用し、各々の触媒層の長さと貴金属触媒の密度を表2に示すように変更したことを除いて、上記した実験Aと同じ条件で排ガス浄化用触媒を作製した。具体的には、この実験Bにおいては、出側触媒層6bの長さL2が短くなるに従って、出側触媒層6bの貴金属触媒密度が増加するように各試験例の排ガス浄化用触媒を作製した。なお、下記の表2における「触媒層の長さ」は、隔壁の全長Lwを100%としたときの割合で示している。
【0062】
【表2】
【0063】
2.評価試験
実験Bにおいては、上記した実験Aにおける「NOxエミッション量の測定」と同様の手順に従って、試験例5〜試験例8のNOxエミッション量を測定した。測定結果を図8に示す。
【0064】
3.試験結果
図8に示すように、試験例5〜試験例8の何れにおいても、0.02g/km以下という低いNOxエミッション量が測定された。そして、各々の試験例を比較した結果、試験例6〜試験例8では0.01g/km前後というさらに低いNOxエミッション量が測定された。
かかる実験結果より、試験例6〜試験例8のように、出側触媒層6bの長さL2を短くし、当該出側触媒層6bにおける貴金属触媒濃度を高密度にした場合、高負荷運転における有害成分のエミッションをより好適に低減できることが分かった。これは、高負荷運転において供給される流速の速い排ガスは、基材の排ガス流出側の端部に衝突して隔壁の最下流側の領域を通過するため、かかる領域における貴金属触媒濃度を高密度にした試験例6〜試験例8の方が、より好適に排ガス中のNOxを浄化できたためと解される。
【0065】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1 基材
1a 排ガス流入側の端部
1b 排ガス流出側の端部
2a 入側セル
2b 出側セル
3a、3b 封止部材
4 隔壁
6a 入側触媒層
6b 出側触媒層
10 排ガス浄化用触媒(暖機運転用触媒)
20 排ガス浄化用触媒(高負荷運転用触媒)
50 排気管
100 排ガス浄化装置
A 暖機運転における排ガスの流路
B 高負荷運転における排ガスの流路
F 排ガス流動方向
L1 入側触媒層の長さ
L2 出側触媒層の長さ
Lw 隔壁の全長
T 隔壁の厚み
X 基材の筒軸方向(隔壁の延伸方向)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8