(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両用ドアを構成する第1パネル及び第2パネルを有し、前記第1パネルの車幅方向内側の第1パネル面と、前記第2パネルの車幅方向外側の第2パネル面とが対向するように配置されている車両用ドア構造において、
前記第1パネル及び前記第2パネルの周縁には、前記第1パネル面と前記第2パネル面が接合されている接合部が設けられており、
前記接合部のパネル中央側に隣接している部分には、前記第1パネル面及び前記第2パネル面が互いに間隔を空けた状態で配置されている離間部が設けられ、該離間部は、前記接合部からパネル中央側に向かうに従い、前記第1パネル面と前記第2パネル面との距離が大きくなるように構成されており、
前記接合部及び前記離間部によって、ベルトライン部が構成され、
前記ベルトライン部を構成する前記第2パネル面の前記離間部には、前記接合部の下端から車両下方に向かうに従い車幅方向外側に傾斜する傾斜部が設けられており、
前記離間部を構成する前記第1パネル面及び前記第2パネル面のうち、前記第2パネル面の前記傾斜部には、前記傾斜部に直接形成されて前記第1パネル面に向かって車両上方に突出する複数の突出部が設けられ、
複数の前記突出部は、前記離間部の長手方向に間隔を空けて配置されていることを特徴とする車両用ドア構造。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る車両用ドア構造の実施形態について、図面(
図1〜
図6)を参照して説明する。
【0013】
本実施形態に係る車両用ドア構造は、車体側部の車両用ドア1を構成する2枚のパネル10,20の上部における接合構造に関するものである。この例では、車両用ドア1のベルトライン部3を構成するドアアウターパネル(第1パネル)10とアウターリンフォースメント(第2パネル)20の接合構造について説明する。
【0014】
本実施形態の車両用ドア1は、
図1に示すように、車体側部に配置されているドアであって、ドアアウターパネル10と、アウターリンフォースメント20を備えている。ドアアウターパネル10の車幅方向内側のパネル内側面(第1パネル面)10aは、アウターリンフォースメント20の車幅方向外側のリンフォースメント外側面(第2パネル面)20aに対向しており、この状態で、ドアアウターパネル10の周縁部とアウターリンフォースメント20の周縁部が接合されている。
【0015】
また、詳細な説明は省略しているが、当該車両用ドア1は、ドアアウターパネル10の車幅方向内側には、ドアインナーパネル4が配置されている。ドアアウターパネル10とドアインナーパネル4においても、周縁部で接合される部分がある。
【0016】
ベルトライン部3は、
図1に示すように、車両用ドア1のウィンドウ2の下端に設けられており、車両前後方向に延びている。当該ベルトライン部3は、ウィンドウ2の外面から車幅方向外側に膨出しており、ドアアウターパネル10の一部と、アウターリンフォースメント20の一部等によって構成されている。
【0017】
ここで、ベルトライン部3のドアアウターパネル10とアウターリンフォースメント20の車両前方視における断面形状について説明する。ベルトライン部3では、ドアアウターパネル10の周縁部が、車幅方向内側に折り返され、U字形状となり、該U字形状の内側にアウターリンフォースメント20の上部が配置されている状態で、接合されている。以下に、詳細に説明する。
【0018】
図2及び
図3に示すように、ベルトライン部3を構成するドアアウターパネル10の上部には、車幅方向内側に折り返すことによって車両下方に開口するU字形状が形成されている。当該U字形状の底の部分が、ドアアウターパネル10の上端部11となっている。
【0019】
上端部11の車両下方には、折返し部12と、パネル側接合部13が対向配置されている。折返し部12とパネル側接合部13との間には、アウターリンフォースメント20が挿入されている。折返し部12は、上端部11から車両下方に延びており、アウターリンフォースメント20の車幅方向内側に配置されている。
【0020】
パネル側接合部13は、上端部11から車両下方に延びており、アウターリンフォースメント20の車幅方向外側に配置されている。パネル側接合部13の下端には、外方湾曲部14が設けられている。ドアアウターパネル10は、外方湾曲部14で車幅方向外側に湾曲している。
【0021】
外方湾曲部14の車幅方向外側におけるパネル内側面10aには、パネル側離間部15が設けられている。該パネル側離間部15は、車幅方向外側に向かうに従い、車両下方に傾斜するように延びている。パネル側離間部15の下端には、下方湾曲部16が設けられている。該下方湾曲部16よりも車両下方には、ドア主面部17が設けられている。
【0022】
ドア主面部17は、下方湾曲部16から車両下方に延び、車両用ドア1の最外部を構成している。この例におけるベルトライン部3を構成するドアアウターパネル10は、上端部11、折返し部12、パネル側接合部13及びパネル側離間部15が含まれる。
【0023】
続いて、ベルトライン部3を構成するアウターリンフォースメント20について説明する。アウターリンフォースメント20は、リンフォースメント側接合部22と、リンフォースメント側離間部25を有している。
【0024】
リンフォースメント側接合部22は、アウターリンフォースメント20の上部であって、車両上方に張り出している状態で車両前後方向に延びている板状の部分である。リンフォースメント側接合部22は、ドアアウターパネル10のパネル側接合部13と、折返し部12との間に挟まれている状態で、接合されている。
【0025】
図2及び
図3に示すように、リンフォースメント側接合部22の上端21は、ドアアウターパネル10の折返し部12及びパネル側接合部13によって形成されるU字形状の底面に対して、車両下方に間隔を空けて配置されている。
【0026】
リンフォースメント側接合部22の下端には、外方折曲げ部24が設けられている。ドアアウターリンフォースメント20は、外方折曲げ部24で、車幅方向外側に折り曲げられている。リンフォースメント側離間部25は、外方折曲げ部24の車幅方向外側におけるリンフォースメント外側面20aに設けられている。
【0027】
リンフォースメント側離間部25は、外方折曲げ部24から車幅方向外側に向かうに従い、車両下方に傾斜するように延びている。リンフォースメント側離間部25の下端には、下方折曲げ部26が設けられており、下方折曲げ部26の車両下方には、板状の主部27が設けられている。該主部27は、下方折曲げ部26から車両下方に延び、ドア主面部17に対して間隔を空けて配置されている。
【0028】
リンフォースメント側離間部25と、パネル側離間部15との車両上下方向距離は、車幅方向外側に向かうに従い、大きくなる。この例では、パネル側離間部15よりも、リンフォースメント側離間部25の方が、傾斜勾配が大きい。
【0029】
パネル側離間部15の車幅方向の水平距離は、リンフォースメント側離間部25の水平距離よりも長い。すなわち、
図3に示すように、ドアアウターパネル10の上端部11から、ドアアウターパネル10の下方湾曲部16まで車幅方向の水平距離(X)は、上端部11から、アウターリンフォースメント20の下方折曲げ部26までの水平距離(Y)よりも長い。
【0030】
リンフォースメント側離間部25の傾斜面には、複数の突出部30が設けられている。突出部30は、リンフォースメント側離間部25の傾斜面から、パネル側離間部15に向かって突出している。この例では、突出部30の先端は、パネル側離間部15に当接している。
【0031】
この例の各突出部30は、リンフォースメント側離間部25に一体的に形成されている。このように突出部30が母材に直接的に形成されているため、アウターリンフォースメント20の剛性が向上し、車体側方からの衝突に対して、乗員保護の効果が向上する。また、アウターリンフォースメント20を成型する際に、突出部30を同時に形成できるため、突出部30の形成に要する生産の工数を抑制できる。
【0032】
この例では、
図2及び
図3に示すように、突出部30は、傾斜面に対して垂直に突出しており、車幅方向外側に向かうに従い、車両上方に向かって突出している円筒状である。複数の突出部30は、リンフォースメント側接合部22に隣接しており、車両前後方向(離間部の長手方向)に互いに間隔を空けて配置されている。
【0033】
図4(a)は、突出部30が設けられていない場合のベルトライン部3の断面形状を示している。これに対して、リンフォースメント側接合部22の上端21が、
図4(b)に示すように、プレス時に矢印Tに示す方向にせり上がってしまうと、ドアアウターパネル10の外方湾曲部14またはその車幅方向外側の部分と、リンフォースメント側離間部25が接触する可能性がある。このような接触が起こると、
図4(b)に示すように、接触部35よりも車幅方向内側の部分に閉塞部38が形成される可能性がある。
【0034】
なお、
図4の破線は、せり上がった量を示している。
図4における下側の破線L1は、上端21が正常な位置を示し、上側の破線L2は、上端21がせり上がった位置を示している。
【0035】
この閉塞部38は、上述したように、電着塗装の際にエアポケットが発生する可能性がある。また、当該閉塞部38が形成されると、該閉塞部38内、特に接触部35の周辺に水分が保持されることにより、パネル面10a,20aに腐食が起こる可能性がある。
【0036】
これに対して、本実施形態では、
図2及び
図3に示すように、突出部30を設けることにより、パネル側接合部13とリンフォースメント側接合部22とを接合し、合わせ面となる接合部を形成する際に、ベルトライン部3におけるパネル側離間部15と、リンフォースメント側離間部25との間に、閉塞部38が形成されることを防止することができる。これは、複数の突出部30が間隔を空けて配置されているため、当該間隔が、閉塞部38が形成される可能性のある空間38aに連通しているためである。
【0037】
これにより、車両製作時の電着塗装の際に空気及び脱脂、化成処理、及び電着塗装に用いる各種液体が、ドアアウターパネル10とアウターリンフォースメント20との間から、適切に抜ける。よって、電着塗装が全体に行き渡り未塗装部分を抑制でき、また、エアポケットの発生を抑制できる。したがって良好な電着塗装ができるため、耐食性が向上する。
【0038】
例えば車両走行時に、ベルトライン部3には、
図5の矢印Sで示すように、外部からドアアウターパネル10とアウターリンフォースメント20との間に雨水や融雪水等の水Wが浸入する場合がある。なお、
図5では、ドアアウターパネル10の一部を切り欠いて、アウターリンフォースメント20が、ドアアウターパネル10に覆われていない状態を示している。
【0039】
このように水が浸入しても、接合部13,22の周辺に閉塞部38が形成されないため、空気が空間内の全体に渡りやすくなり、かつ、効率良く水が抜けることから、乾燥しやすい。よって、
図3に示す閉塞部38が形成される可能性のある空間38a内への水残りを抑制できるため、離間部15,25に錆が発生することを抑制できる。
【0040】
この例では、ベルトライン部3を構成しているアウターリンフォースメント20に突出部30を設けており、さらに、リンフォースメント側離間部25の傾斜面に突出部30が形成されているので、ベルトライン部3の電着塗装がより適切になされる。
【0041】
図3に示すように、パネル側接合部13と、リンフォースメント側接合部22の接合面には、接着剤が塗布されている接着部32が設けられている。当該接着部32は、車両前後方向に延びる略長方形の領域に設けられており、当該領域は、接合面における後部に配置されている。
【0042】
各突出部30は、接着部32の前端32aよりも車両後方に配置されている。この例では、接着部32の領域の長手方向(車両前後方向)に沿って、突出部30が配置されている。
【0043】
このように構成することで、車両走行中に、車体前部から接合部13,22に例えば雨水等の水が入り込んでしまった場合であっても、接着部32には水が入り込まない。その結果、接着部32の車両下方の離間部15,25に、水が入りにくい構造とすることができるため、当該離間部15,25に水が入り込む量を抑制できる。
【0044】
本実施形態では、接着部32に対応する位置に突出部30を設けているため、突出部30が水にさらされることを抑制することができる。その結果、突出部30における錆の発生を抑制できる。
【0045】
本発明に係る突出部30は、パネル側離間部15に設けることも可能であるが、本実施形態の突出部30は、リンフォースメント側離間部25に設けられている。パネル側離間部15に突出部30を設けるのに対し、外観の影響が少なくなるため、より良好な意匠を形成することができる。
【0046】
突出部30は、リンフォースメント側離間部25の傾斜面に対して、軸心が垂直に突出する円筒状である。よって、突出部30の側面のうちの上側の部分は、車両前方または後方に向かうに従い車両下方に湾曲する曲面が形成されている。
【0047】
このため、電着塗装に用いる各種液体は、突出部30の側面のうち上側の部分に残ることが抑制され、曲面に沿って車両下方に自然落下する。よって、当該各種液体の再利用率が向上し、さらに多少の軽量化にも繋がる。
【0048】
また、例えば、車両前方からベルトライン部3の内部に水が浸入した場合、当該水は、突出部30の側面に向かって流れることになる。突出部30の上側から曲面に向かって流れてきた水は、水は当該曲面に沿って流れた後に、車両下方に自然に流れ落ちる。このため、突出部30が錆びることを抑制することも可能となる。
【0049】
本実施形態の説明は、本発明を説明するための例示であって、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0050】
本実施形態では、ドアアウターパネル10及びアウターリンフォースメント20の接合をヘミング接合としているが、これに限らない。例えば、スポット溶接接合、接着剤を用いた接合、カシメ接合等でもよい。また、本実施形態では、接着部32の前端32aよりも車両後方に突出部30を配置しているが、これに限らず前方に配置することも可能である。
【0051】
また、本実施形態の突出部30の形状は、
図6(a)に示すように、ほぼ真円の円筒形状であるが、これに限らない。例えば楕円形でもよい。また、例えば、
図6(b)に示すように、立方体や直方体でもよく、三角柱でもよい。さらに、
図6(c)に示すように、車幅方向に延びる棒状でもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、突出部30は、車両前後方向に間隔を空けて直線的に配列されているが、これに限らない。例えば、
図6(d)に示すように、千鳥配置のように、車両前後方向延びる2つの列をなすように配置してもよい。この場合においても、1例を構成する各突出部30は、車両前後方向に間隔を空けて配置されていればよい。
【0053】
また、本実施形態では、突出部30は、リンフォースメント側離間部25に一体的に設けているがこれに限らない。例えば円柱状の部材を溶接等により取り付けてもよい。また、突出部30を、パネル側離間部15に設けてもよい。
【0054】
また、突出部30は、閉塞部38を形成させないようにすればよいため、突出している量(突出部30の高さ)は、特に限定されるものではない。本実施形態では、突出部30の先端は、パネル側離間部15に当接しているが、これに限らず、隙間があってもよい。また、規則的に配列していなくてもよく、例えば、粒上の部材を、接着剤等により塗布して、閉塞部38が生じないようにすることも可能である。
【0055】
また、本実施形態では、ベルトライン部3におけるドアアウターパネル10及びアウターリンフォースメント20の接合について説明しているが、これに限らない。ドアアウターパネル10とドアインナーパネル4の接合においても適用することができる。また、ドアインナーパネル4とリンフォースメントとの接合にも適用することが可能である。さらに、車両用ドアの前部、後部または下部における接合に当該構造を用いることも可能である。