特許第6917047号(P6917047)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6917047複数のウェアラブルなセンサによる運動機能評価システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6917047
(24)【登録日】2021年7月21日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】複数のウェアラブルなセンサによる運動機能評価システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20210729BHJP
【FI】
   A61B5/11
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-5264(P2017-5264)
(22)【出願日】2017年1月16日
(65)【公開番号】特開2018-114021(P2018-114021A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】500020287
【氏名又は名称】マイクロストーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 吉之
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 典彦
(72)【発明者】
【氏名】吉池 貴之
(72)【発明者】
【氏名】野澤 秀隆
【審査官】 大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−029543(JP,A)
【文献】 特開2016−144598(JP,A)
【文献】 鈴木漠,ロコモティブシンドローム評価モデルの作製,運動器リハビリテーション,日本,一般社団法人日本運動器科学会,2016年,Vol.27 No.2,Page.168,ISSN2187-8420
【文献】 鈴木 漠,ロコモティブシンドローム該当者に特徴的な歩行中の下肢関節運動,バイオメカニズム学会誌,日本,2016年,40 巻 3 号,p. 183-193,DOI https://doi.org/10.3951/sobim.40.3_183
【文献】 櫛田 大輔 Daisuke KUSHIDA,[鳥取発]鳥取県内の地域コミュニティにおける保健医療福祉システムへの取組み,電子情報通信学会誌 第99巻 第10号 THE JOURNAL OF THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS,日本,一般社団法人電子情報通信学会 DENSHI-JOHO-TSUSHIN-GAKKAI,2016年,第99巻,p.965-969,ISSN 0913-5693
【文献】 松本浩実,歩行規則性の低下はロコモティブシンドローム判別の指標となる,第50回日本理学療法学術大会(東京),2015年,Page.O-0157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00−10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の運動機能として、ロコモティブシンドロームのリスクを評価してユーザにフィードバックする運動機能評価システムであって、
前記被験者の身体上の複数の特定の部位に装着される複数のウェアラブルセンサデバイスと、
歩行動作における前記被験者の前記身体上の複数の特定の部位の変化を示す複数の測定データを前記複数のウェアラブルセンサデバイスから取得するデータ取得部と、
前記複数の測定データのばらつきまたは前記複数の測定データから導出されるデータのばらつきを算出し、前記複数の特定の部位のそれぞれに対応する前記ばらつきの算出値を、前記被験者のロコモリスクを推定するための推定式に適用し、前記複数の特定の部位のうち、前記推定式の出力が第1の閾値以上となる部位の割合を求め、前記第1の閾値以上となる部位の割合が第2の閾値以上になった場合に、前記被験者をロコモ該当と判定するロコモ度合い得点推定部と、
前記被験者のロコモリスクの推定結果として、前記ロコモ該当であるかを出力する結果出力部と、
を有する、
運動機能評価システム。
【請求項2】
前記複数の測定データのばらつきは、前記複数の測定データの分散、標準偏差、四分位間距離、偏差値、範囲、平均差、平均絶対偏差、離散エントロピーのいずれか、またはこれらの組み合わせであり、
前記複数の測定データから導出されるデータのばらつきは、前記複数の測定データから導出されるデータの分散、標準偏差、四分位間距離、偏差値、範囲、平均差、平均絶対偏差、離散エントロピーのいずれか、またはこれらの組み合わせである、
請求項1に記載の運動機能評価システム。
【請求項3】
被験者の身体上の複数の特定の部位に装着される複数のウェアラブルセンサデバイスと、データ取得部と、ロコモ度合い得点推定部と、結果出力部と、を有するコンピュータシステムによって実行される運動機能評価方法であって、
前記データ取得部が、歩行動作における前記被験者の前記身体上の複数の特定の部位の変化を示す複数の測定データを前記複数のウェアラブルセンサデバイスから取得するステップと、
前記ロコモ度合い得点推定部が、前記複数の測定データのばらつきまたは前記複数の測定データから導出されるデータのばらつきを算出し、前記複数の特定の部位のそれぞれに対応する前記ばらつきの算出値を、前記被験者のロコモリスクを推定するための推定式に適用し、前記複数の特定の部位のうち、前記推定式の出力が第1の閾値以上となる部位の割合を求め、前記第1の閾値以上となる部位の割合が第2の閾値以上になった場合に、前記被験者をロコモ該当と判定するステップと、
前記結果出力部が、前記被験者のロコモリスクの推定結果として、前記ロコモ該当であるかを出力するステップと、
を含む、運動機能評価方法。
【請求項4】
請求項3に記載の運動機能評価方法を、前記コンピュータシステムに実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の運動機能として、ロコモティブシンドロームのリスクを、複数のウェアラブルセンサによって評価するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロコモティブシンドロームという言葉が日本整形外科学会によって提唱されている。「ロコモティブシンドローム(Locomotive Syndrome:運動器症候群(「ロコモ」とも略される)」とは、「運動器の障害により要介護になるリスクの高い状態になること」を意味する言葉である(日本臨床整形外科学会HPより引用:非特許文献1参照)。このロコモティブシンドロームのリスクを評価することは、将来に要介護状態になることを回避するためにも重要である。
【0003】
ここで、特許文献1には、老年障害リスクを評価するための技術が開示されている。また、特許文献2には、ロコモティブシンドロームのリスクを評価するための運動機能診断装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−255786号
【特許文献2】特開2016−144598号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“ロコモティブ症候群”、[online]、平成21年3月3日、日本臨床整形外科学会、[平成28年11月28日検索]、インターネット〈URL:http://www.jcoa.gr.jp/locomo/teigi.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1において評価対象となっている老年障害リスクには、ロコモティブシンドロームは含まれていない。また、特許文献1における評価方法では歩行パラメータを用いている。
【0007】
特許文献2に開示の運動機能診断装置は、ロコモティブシンドロームのリスク評価を目的としている。しかしながら、Kinect(登録商標)センサを用いて被験者の身体の複数部位の動きを検出するものであり、このようなシステムではセンサが設置された特定の箇所で評価を行う必要があり、日常生活中に評価を行うことはできない。また、被験者がスカートを着用している場合等、検出しようとする部位が隠れてしまうような服装である場合には検出ができない等の問題があった。
【0008】
このような課題に鑑み、本発明は複数のウェアラブルなセンサを用いることで、センサが設置された特定の箇所でなくとも、より正確に運動機能としてのロコモティブシンドロームのリスクを評価し、ユーザにフィードバックすることが可能な運動機能評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、被験者の運動機能として、ロコモティブシンドロームのリスクを評価し、その結果をユーザにフィードバックする運動機能評価システムであって、前記被験者の身体上の複数の特定の部位に装着される複数のウェアラブルなセンサ部と、歩行動作における前記被験者の前記複数の身体上の特定の部位の変化を示す複数の測定データを前記複数のセンサ部から取得するデータ取得部と、前記複数の測定データまたは前記複数の測定データから導出されるデータのばらつきを算出することにより、前記被験者のロコモリスクを推定するロコモ度合い得点推定部と、前記被験者のロコモリスクの前記推定の結果を出力する結果出力部と、を有する運動機能評価システムである。
【0010】
また、本発明の他の態様は、被験者の身体上の複数の特定の部位に装着される複数のウェアラブルなセンサ部と、データ取得部と、ロコモ度合い得点推定部と、結果出力部と、を有するコンピュータシステムによって実行される運動機能評価方法であって、前記データ取得部が、歩行動作における前記被験者の前記身体上の複数の特定の部位の変化を示す複数の測定データを前記複数のセンサ部から取得するステップと、前記ロコモ度合い得点推定部が、前記複数の測定データまたは前記複数の測定データから導出されるデータのばらつきを算出することにより、前記被験者のロコモリスクを推定するステップと、前記結果出力部が、前記被験者のロコモリスクの前記推定の結果を出力するステップと、を含む運動機能評価方法である。
【0011】
また、本発明の他の態様は、上述の運動機能評価方法を、前記コンピュータシステムに実行させるためのコンピュータプログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る運動機能評価システムの機能ブロックの一例を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る運動機能評価システム(運動機能評価装置)のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係るロコモリスク評価を行うための準備段階についてのフローチャートの一例を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係るロコモリスク評価方法における判別モデルの構築の一例を説明する図である。
図5】判別モデルの一例を説明する図である。
図6】本発明の一実施形態に係る運動機能評価システムにおいてロコモリスク評価を行うためのフローチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(概要)
本発明の発明者は、本発明に係るロコモティブシンドローム(以下、略して「ロコモ」という)のリスクを評価するための運動機能評価システムの発明に先んじて、ロコモリスクが高い者は低い者に比べて歩行に際して、立脚後期(立脚期:歩行において地面に足が接地している状態)から遊脚初期(遊脚期:歩行において地面から足が離れている状態)にかけての動作のばらつきが大きいということを見出した(小林吉之、外3名、「ロコモティブシンドローム該当者に特徴的な歩行中の下肢関節運動(Gait Characteristics of high scorers of the locomotive syndrome)」、バイオメカニズム学会誌(Journal of the Society of Biomechanisms Japan)、バイオメカニズム学会、Vol.40、No.3、2016、P183-193)。これにより、本発明に係る運動機能評価システムにおいては、被験者の歩行動作の測定データのばらつきによって被験者のロコモリスクを評価することとした。
【0014】
また、本発明に係る運動機能評価システムにおいては、事前に、病院の診断等によって判定されたロコモ該当者とロコモ非該当者から各種の測定データを収集し、この収集結果に基づいて評価モデルを構築し、本実施形態の運動機能評価システムに使用している。
【0015】
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係る運動機能評価システムについて説明する。なお、以下の説明において参照する各図では、他の図と同等部分は同一符号によって示される。
【0016】
(運動機能評価システムの構成)
図1は、本実施形態に係る運動機能評価システムの機能ブロックの一例を示す図である。本実施形態に係る運動機能評価システム1は、運動機能評価装置10と、計測装置20とを含む。本実施形態に係る運動機能評価システム1は、計測装置20を装着した人物(被験者)の歩行時の測定データを運動機能評価装置10が分析し、当該人物がロコモリスク該当者か否かを推定するためのシステムである。
【0017】
(計測装置)
計測装置20は、これを装着した被験者の特定の身体部位の歩行時における変化に関して測定を行う。身体部位の歩行時における変化に関する測定とは、例えば、歩行中の当該身体部位の位置の変化、加速度の変化、床反力、等の測定が挙げられる。計測装置20は、このような計測を行って測定データを出力することが可能なセンサ部210を備える。
【0018】
本実施形態においては、計測装置20はウェアラブルな計測装置である。これにより、被験者が計測装置20を装着することが容易であり、ロコモリスクの評価を簡単に行うことができる。計測装置20は、具体的には例えば、加速度センサ、ジャイロセンサ、圧力センサ(インソール型)、等であってよい。なお、図1において計測装置20は1つのみしか示されていないが、本実施形態においては、計測装置20は複数存在する。
【0019】
(運動機能評価装置)
運動機能評価装置10は、データ分析部110と、記憶部120と、操作部130と、表示部140とを備える。
【0020】
データ分析部110は、計測装置20の複数のセンサ部210で取得された複数の測定データを、ネットワーク等を介して受信し、被験者のロコモリスクを評価するための処理を実行する。データ分析部110は、データ取得部112と、ロコモ度合い得点推定部114と、結果出力部116とを備える。
【0021】
データ取得部112は、計測装置20の複数のセンサ部210で取得された複数の測定データを、ネットワーク(有線・無線)等を介して取得する。また、測定データは、例えば脱着可能な記録メディアや他の装置等を介して取得されてもよい。データ取得部112にて取得された複数の測定データは、記憶部120の測定データ記憶部122に記憶される。
【0022】
ロコモ度合い得点推定部114は、データ取得部112において取得された複数の測定データと、記憶部120の推定式記憶部124に記憶されているロコモリスク評価のための推定式データとに基づいて、複数の測定データ、または複数の測定データから導出されるデータのばらつきを算出して被験者のロコモリスクを推定(算出)する機能を有する。測定データ、または測定データから導出されるデータのばらつきとは、例えば、測定データ、または測定データから導出されるデータの分散、標準偏差、四分位間距離、偏差値、範囲、平均差、平均絶対偏差、離散エントロピーである。被験者のロコモリスクを評価する際には、これらのいずれかのみを使用してもよいし、いくつかを組み合わせて使用してもよい。また、測定データ、または測定データから導出されるデータのばらつきとは、測定データそのもののばらつきのみならず、測定データから導出(算出)されるデータのばらつきであってもよい。例えば、モーションキャプチャシステムにより測定される歩行中における被験者の動きデータから加速度データを算出し、当該加速度データのばらつきを用いて被験者のロコモリスクを推定するようになっていてもよい。
【0023】
結果出力部116は、ロコモ度合い得点推定部114において推定された被験者のロコモリスクを示す結果データを表示部140の結果表示部144に出力する。また、結果表示部144への結果データの出力に代えて、他の装置にネットワーク等を介して結果データを出力する、脱着可能な記録メディア等に結果データを出力する、等となっていてもよい。
【0024】
記憶部120は、各種のデータを記憶する機能を有する。記憶部120は、測定データ記憶部122と、推定式記憶部124とを備える。
【0025】
測定データ記憶部122は、計測装置20の複数のセンサ部210から出力された複数の測定データを、データ分析部110のデータ取得部112を介して記憶する。計測装置20のセンサ部210から出力された測定データに特定の処理を施してから記憶しても勿論構わない。
【0026】
推定式記憶部124は、被験者のロコモリスクを算出するために必要な推定式を記憶する。この推定式は被験者のロコモリスク評価に先立って準備される(詳細は後述する)。
【0027】
操作部130は、ユーザの操作を受け付ける機能を有する。具体的にはキーボードやマウス等の入力デバイス等である。操作部130にて受け付けられたユーザ入力の内容に応じて、測定を開始する、データを記録する、記録されているデータを表示する、等の各種動作を運動機能評価装置10に行わせるようになっていてよい。また、操作部130は、入力デバイス等を介して受け付けたユーザからの入力内容を表示部140の入力情報表示部142に出力表示してもよい。
【0028】
表示部140は、ユーザに対して各種の情報をディスプレイに表示出力する機能を有する。表示部140は、入力情報表示部142と、結果表示部144とを備える。
【0029】
入力情報表示部142は、操作部130の操作情報入力部132において受け付けられたユーザ入力の内容を表示する。なお、操作部130と表示部140は、タッチパネルのように一体的に構成されていてもよい。
【0030】
結果表示部144は、データ分析部110の結果出力部116から被験者のロコモリスクを示す結果データを取得して、ディスプレイ等に出力する。なお、結果データの出力は、本実施形態においては表示出力することとしているが、あくまで一例であり、これに限定されない。例えば、音声や光などによって出力されてもよい。
【0031】
なお、図1においては、運動機能評価装置10と計測装置20は別々の装置として示されている。例えば、計測装置20は被験者の身体上の複数の特定の部位に装着可能なセンサデバイス等であり、運動機能評価装置10はスマートフォンやパーソナルコンピュータ等であって、複数の計測装置20で計測された各測定データが無線通信等によって運動機能評価装置10に送信されるようになっていてよい。また、運動機能評価装置10と計測装置20は、一体化して一つの装置となっていてもよい。例えば、スマートフォンのように加速度センサ等が内蔵されている(ウェアラブルな)可搬型端末を利用することができる。さらには、加速度センサ内蔵のスマートフォンのアプリケーション(コンピュータプログラム)として実装することも可能である。
【0032】
図1に示される機能構成はあくまで一例であり、これに限定されるものではない。
【0033】
(ハードウェア構成)
図1の本実施形態に係る運動機能評価システム1(または運動機能評価装置10)は、一般的なコンピュータ装置と同様のハードウェア構成によって実現可能である。
【0034】
図2は、本実施形態に係る運動機能評価システム(または運動機能評価装置10)のハードウェア構成の一例を示す図である。図2に示されるコンピュータ装置30は、一例として、プロセッサ302と、RAM304と、ROM306と、ハードディスク装置308と、リムーバブルメモリ310と、通信インタフェース(有線・無線)312と、ディスプレイ/タッチパネル314と、スピーカ316と、キーボード/マウス318とを備える。図1を用いて上記説明された運動機能評価システム1(または運動機能評価装置10)の各構成の機能は、ハードウェアとソフトウェアとが協働することによって実現されうる。例えば、プロセッサ302が、ハードディスク装置308にあらかじめ格納されたプログラムをメモリに読み出して実行することで各構成の機能を実現することが可能である。なお、図2に示されるハードウェア構成はあくまで一例であり、これに限定されるものではない。
【0035】
(フローチャート:準備段階)
図3は、本実施形態に係るロコモリスク評価を行うための準備段階についてのフローチャートの一例を示す図である。かかる準備段階においては、既知の方法(例えば病院での診断など)によってロコモ該当者または非該当者と判断された人物のそれぞれについて、歩行の際の計測データを標本データとして複数収集する。そして、収集された標本データに基づいて、ロコモリスクを推定するための推定式を作成する。なお、以下の説明においては、計測データの一例として加速度データを採用して説明する。
【0036】
まず、標本データを収集するために、標本となるロコモ該当者と非該当者(以下、被験者という)が、それぞれ歩行を開始する。この時、標本データとなる計測データを取得したい被験者の特定の身体部位に、測定装置(加速度センサ)を装着する。被験者が歩行を開始すると、測定装置は装着部位の測定データ(加速度データ)の記録を開始する(ステップS102)。なお、測定装置として、図1に示された計測装置20を使用してもよい。
【0037】
被験者の歩行中、予め定められた時間間隔ごとに時系列で、測定装置が装着された被験者の装着部位における加速度データが取得される(ステップS104)。取得された加速度データについて、ローパスフィルタをかけ、一歩行周期において時間率100%規格化処理を行う。このようにして得られた標本データは運動機能評価装置10の記憶部120の測定データ記憶部122に記憶される。
【0038】
ここで、測定対象とする測定部位は、被験者の身体においてウェアラブルの測定装置を装着することが可能な部位のうちのいくつかを測定部位として決定すればよい。例えば、複数歩分における装着部位における加速度の変化を示すデータを取得する。ただし、少なくとも一歩行周期における加速度の変化を示すデータが取得できればよい。また、取得される加速度データは、例えば左右、前後、鉛直方向の各成分(x、y、z)であってもよく、鉛直方向成分のみを取得するように構成してもよい。
【0039】
また、本例においては加速度センサを被験者に装着して直接的にセンサから加速度データを取得することとしたが、他の方法によって加速度データを取得してもよい。例えば、モーションキャプチャシステムを用いて加速度データを取得してもよい。具体的には、例えば、被験者の身体に複数のマーカを貼付して歩行させて歩行中の各マーカの座標を計測する。そして、計測した座標を2回微分して加速度を計算する等となっていてもよい。
【0040】
以上のようにして取得された加速度データと、既知のロコモ該当者および非該当者についての教師信号を基に機械学習の手法で判別モデル(推定式)を生成する(ステップS106)。生成された判別モデルデータは、運動機能評価装置10の記憶部120における推定式記憶部124に記憶される(ステップS108)。
【0041】
(判別モデルの生成)
ここで、判別モデル(推定式)の生成の実例を示す。本発明の発明者は、以下のように判別モデルの構築を試みた。
【0042】
被験者は、50歳以上の健常成人75名(ロコモ該当者29名、ロコモ非該当者46名、平均年齢と分布は66.0±5.3歳)である。これらの被験者は、既存の技術(病院での診断等)によりロコモ該当者であるか非該当者であるかについて予め判断されている者である。また、測定装置は、各被験者の骨盤部と体幹部に装着した。被験者が歩行を開始すると、骨盤部と体幹部における歩行中の加速度データを時系列で取得し、取得された加速度データについて、ローパスフィルタをかけ、一歩行周期において時間率100%規格化処理を行った。そして、5試行分のばらつきを示す代表値を特徴量として使用した(分散、標準偏差、四分位間距離、偏差値、範囲、平均差、平均絶対偏差、離散エントロピーを取得した)。
【0043】
図4は、評価結果の一例である。「実測値」とは、教師信号となる歩行データの値であり、各被験者について事前に判断されたロコモ該当者(High Risk)と非該当者(Low Risk)の数である(ロコモ該当者=23+6=29、ロコモ非該当者18+28=46)。
【0044】
また、「予測値」とは、モデル構築の際に推定された推定値である。実測値が“High Risk”であり予測値も“High Risk”であった人数(23人)、および実測値が“Low Risk”であり予測値も“Low Risk”であった人数(28人)は、その推定式によって正しく評価できた人数ということである。
【0045】
一方、実測値が“High Risk”であるのに予測値は“Low Risk”となった人数(6人)、および実測値が“Low Risk”であるのに予測値は“High Risk”であった人数(18人)は、その推定式により正しく評価できなかった人数ということである。
【0046】
また、「感度」は実際にロコモ該当者である人をロコモ該当者であると正しく評価できた割合(23/(23+6)≒79.3%)、「特異度」は実際にロコモ非該当者である人をロコモ非該当者であると正しく評価できた割合(28/(18+28)≒60.9%)である。
【0047】
また、「陽性的中率」はロコモ該当者であると予測した人のうち実際にロコモ該当者であった人の割合(23/(23+18)≒56.1%)、「陰性的中率」はロコモ非該当者であると予測した人のうち実際にロコモ非該当者であった人の割合(28/(6+28)≒82.4%)を示す。このような結果データが、骨盤部と体幹部について取得される。以上のような試行結果に基づいて推定式の重み係数およびしきい値を調整して適切な判別モデルを決定する。判別モデルの一例を図5に示す。図5の式中、“AccXX”はXX番目の加速度データを表す。
【0048】
(フローチャート:準備段階)
図6は、本実施形態に係る運動機能評価システムにおいてロコモリスク評価を行うためのフローチャートの一例を示す図である。被験者は、自身の身体上の複数の特定部位(図4の例であれば骨盤部および体幹部)に計測装置10をそれぞれ装着して歩行を開始する。被験者が歩行を開始すると、運動機能評価システム1は各装着部位の測定データ(加速度データ)の記録を開始する(ステップS202)。
【0049】
被験者の歩行中、計測装置10は、予め定められた時間間隔で装着部位の加速度を計測する(ステップS204)。また、取得された加速度データは、準備段階と同様の処理が施される。すなわち、上述の例であれば、取得された加速度データについて、ローパスフィルタがかけられ、一歩行周期において時間率100%規格化処理が行われる。処理が施された加速度データは、測定データ記憶部122に順次記憶される。
【0050】
ロコモ度合い得点推定部114は、推定式記憶部124に記憶されている推定式を読み出す(ステップS206)。ロコモ度合い得点推定部114は、ステップS204で計測されて処理された加速度データを推定式に入力して算出する(ステップS208)。算出結果に基づいて、当該被験者がロコモ該当者か非該当者かを判定する(ステップS210)。具体的には例えば、測定された加速度データを図5のような推定式に挿入して、例えば計算結果が“0”以上であればロコモ非該当者であり、“0”未満であればロコモ該当者である、と判断する。また、本実施形態においては被験者の身体上の複数の部位に装着された複数の計測装置10から加速度データが取得される。そして、これらの加速度データに基づいて、ロコモ該当であるか非該当であるかが判断される。例えば、各部位の加速度データごとに推定式で計算されて、計算結果が“0”以上となった部位の割合が予め定められた閾値以上になった場合にはロコモ該当と判断する、全ての部位の計算結果が“0”以上となった場合にはロコモ非該当者であると判断する、等となっていてもよい。
【0051】
ステップS210における判断結果は結果出力部116から出力されて、結果表示部144にて表示される(ステップS212)。なお、判断結果は表示出力されるのみならず、例えば音声や光によって出力されても勿論構わない。
【0052】
ここまで、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【0053】
また、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらすすべての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、各請求項により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、すべての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画されうる。
【符号の説明】
【0054】
1 運動機能評価システム
10 運動機能評価装置
20 計測装置
110 データ分析部
120 記憶部
130 操作部
140 表示部
210 センサ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6