【文献】
居城俊和、川嶋貴之、千葉貴史、矢島海都、高橋浩、川上彰二郎,自己クローニング型フォトニック結晶を用いた偏光分離プリズム,第64回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集,日本,公益社団法人応用物理学会,2017年 3月16日,16a-F202-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項12に記載の位相差計測器を用いて、光源から分離した一方を参照光、他方を物体に当て、そこからの反射光を信号光とすることで物体との距離及び速度計測することができる機器、またはその物体に当てる光を機械的もしくは電気的に操作することで、3次元空間の物体の位置及び速度を検出することができる機能を持つ計測器。
【背景技術】
【0002】
光の屈曲・分離・分岐・合流、再配分などを実現する光学素子としては、レンズ、プリズム、ハーフミラーなどが極めて広汎に実用されている。それらの多くは凸レンズ凹レンズのように立体的形状をもち、1個1機能として作製されるため、集積化、小型化には困難を伴うことが多い。近年、透明な基板の表面に微細な加工を行いそれに垂直に透過する光ビームの場所ごとの位相を変化させ波面を傾けて、透過後の伝播を操作する技術(傾斜メタ表面:gradient metasurfaceと呼ばれる)が進展している。
【0003】
その際に必要な波面の変形量が波長の数倍、数十倍に上ることは珍しくない。一方、表面を通過する光の位相変化量として実用上可能なのは2πラジアンの数分の1から数倍程度なので、位相変化量を2πラジアンごとに鋸歯状波的にゼロに戻す操作が必要である。
【0004】
位相変化量を2πラジアンごとに鋸歯状波的にゼロに戻す前述の操作は、その不連続点付近で光の散乱、それに伴う振幅や位相の誤差が避けられない。それを軽減する方法として次の手段が知られている(非特許文献1)。即ち、
(A)領域ごとに種々な方位をもつ微小な1/2波長板を基板表面に隙間なく配置する。
(B)円偏光がその領域を通過するとき受ける位相推移はある基準方向に対して主軸のなす角θの2倍に等しいという性質を利用する。
詳しく云えば、
図1において入射する光の電界が、例えば
E
x=E
0cos(ωt), E
y=E
0sin(ωt)
で与えられる円偏光であるとき、
図1のようにξη軸をとり、ξη軸方向に主軸を持つ1/2波長板を挿入すれば透過後の光は逆回りの円偏光となり相対位相は2θだけ変化することが知られている(非特許文献1)。
【0005】
位相推移を2πラジアンをこえて連続的に変化させる必要があるときは、例えばθを
図1上部のように定義し、θをπラジアンを超えて連続的に変化させれば良く、θを連続かつ単調にπの数倍変化させれば、位相角は不連続なく2πラジアンの何倍でも変化させることができる。もし仮にθが近似的にxと共に直線的に増加または減少するとき、透過する円偏光の波面はxに関して直線的な変換をうけ、プリズム作用が生ずる。
【0006】
必要な「領域ごとに種々な方位をもつ微小な波長板」は、基板に深い溝を周期配列することにより実現される。固体表面に周期的に形成された無限長の溝列は、電界が溝に平行な偏光に対して、電界が溝に垂直な偏光に対するより大きな位相遅れを生ずる。半波長板では位相差をπラジアンに一致させることが必要で、設計上また加工上の理由から溝と溝の間隔は1/3波長から1/2波長程度となることが多く、1/4波長になることはない。
【0007】
一方で現代の光通信ではコヒーレント方式が広く用いられている。
光トランシーバーなど小形の光学サブシステムにおいて送信点T
1,T
2,…T
nから受信点R
1,R
2,…R
mに,分岐や合流を伴いつつ光を送るための手段は、
(1)平面光回路(Planar Lightwave Circuit, PLC)(特許文献2)
(2)レンズ,プリズムなど個別部品を空間的に別の場所に配置する空間光学系 (Micro Optical Circuit, MOC)(特許文献3)
が主要なものである。本発明では、光の伝送される方向(z方向)に垂直に、複数の平面xy
1,xy
2,xy
3,…があって、その上の信号点の間の信号分配機能、授受機能、および偏光分離機能をもち、周期構造軸が複数の方向をもつ光学素子群によって、分岐や合流を伴いつつ光を送る操作を行う。
【0008】
例えば特許文献2に示すようなコヒーレント通信用ICR(Integrated Coherent Receiver)の90度ハイブリッドを実現するPLC回路では以下のような制約がある。
(1)PLC回路では回路上で交叉がしばしば発生するが、2次元構造のため信号間の干渉が避けにくい。
(2)直交偏光ごとに、信号光の瞬時位相を基準にしてI相の局部発振光とQ相の局部発振光との間の位相差をπ/2ラジアンに保つ必要がある。これは線路の間に線路長誤差および線路幅誤差に関する厳しい要求を課すことであり、製品の低歩留まり・高価格化を意味する。
このような制約は、
図15のような構成で配線を3次元化することにより、
・信号の干渉なしに光路の交叉は実現できる
・構造の対称性が高く、線路長を高い精度で一致させることが容易である
という特徴によって解決することができる。
【0009】
また、コヒーレント通信と同様の光回路をLIDAR(Light Detection and Ranging)による物体検知に応用することも提案されている(非特許文献3)。一つの光源から出た光を二つに分離し、一つは物体に当てて帰ってきた光を用い、もう片方はそのまま用い二つの光を干渉させることで物体までの距離と物体の速度を測定できる。本発明によりこの干渉回路をコンパクトかつ低コストに実現することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここで段落[0004]に記載の「微小な1/2波長板」が「1/2波長板」ではない場合を考える。この場合、入射した円偏光のすべてが逆回りの円偏光にならず、そのまま残る成分が存在する。その量は波長板の位相差θとすると、逆回りになる成分とそのまま出てくる成分の強度比がsin
2(θ/2):cos
2(θ/2)となる。さらにそのまま出てくる成分の波面は変化しないが、逆回りになる成分はパターンに応じた位相角分波面が進むため、分離されて出てくる。
【0013】
本発明の光学素子は、いわゆるハーフミラーとしての機能を持つ。通常はハーフミラーというと
図2に示すように反射率が制御された板を光路に対して斜めにおいて、光路201から入れた光は光路202と光路203へ分離され、光路204から入れた光は光路202と光路203へ分離される機能を持つ。本発明においても
図3に示すように光路301から入れた光は、光学素子306において光路302と光路303へ分離され、光路304から入れた光は、光学素子306において光路302と光路303へ分離される。
【0014】
通常のハーフミラーと本発明に係る光学素子との違いは、
図2と
図3において光の入射側と出射側を区別する点線205と点線305に着目すると明らかである。
図2では入射側と出射側の境界をまたぐ形で光学素子206が入るため、入射、出射の境界と光学素子の機能面とは一致しない。例えばこの分離を入射側から出射側に向かう方向401に対して多段にしようとすると、例えば
図4のように3次元空間的に配置せざるを得ず、回路構成が複雑になるほど大型なものになり、各素子間の位置調整に精度を要する。
【0015】
これに対して、本発明に係る光学素子は、
図3に示されるように、光の入射、出射の境界と機能面が一致する。したがって、この分離機能を進行方向に対して積み重ねていくことが容易であり、例えば
図5のように、入射側から出射側に向かう方向501に多段の分離を有する複雑な光回路を実現できる。平板を積み重ねるだけであるため、多少入射の角度がずれても(例えば10度以内)、光線が必要な機能部分を透過するため、機能を失うことはない。したがって作製が大変容易になる。
【0016】
なおこうした機能は上で述べた表面加工でも実現可能であるが次の困難がある。
(1)溝と溝の間隔、あるいは周期溝の周期は少なくとも1/3波長以上となる。光ビームを制御するには場所ごとに精細に位相を制御したいが、波長板の溝間隔で制限される。実際にはそれ以前に溝が波長板として機能し隣接領域と異なる主軸方向をもつためには、溝の長さは溝同士の間隔の少なくとも同等以上、望ましくは2倍以上であることを要し、微小領域の寸法が十分小さくなり得ない。以下説明する。
図1における各領域Dのうち領域内の溝の長さが最小になるものを符号dであらわす。同様に
図5においても符号dを同じく定義する。また、周期的に繰り返される溝の周期(「溝間単位周期」ともいう)を符号pで表す。波長板として動作するためにはd/pがある程度大きいことが必要である。d/pが有限のとき、その領域の複屈折による位相差はπより小さく、π(1−p/2d)程度と見積もられる。本来πであるべき位相差が、たとえば0.95π以上、または0.9π以上、または0.75π以上、または0.5π以上であるためには、dはそれぞれ10p以上、5p以上、2p以上、p以上であることが必要である。
【0017】
逆に、高精細化のためにはdは小さく保ちたい。
図1の光学素子においてdは素子への要求により上限が定まり、それを小さくできるほど素子の性能は高まる(量子化誤差が小さいから)。一方、pはさらにそれより1桁から半桁小さいことが求められるゆえ、pを小さくできることの利益は大きい。
【0018】
また、
図6の様に溝を曲線とした場合には、等ピッチで同じ曲線を並べると垂直に近づくにつれてピッチが狭くなってしまい、溝の本数を減らす(間引く)ことで、ピッチを保つ必要がある。そうした場合でも、厳密にピッチ間隔を一定にすることはできず、ピッチ間隔が場所ごとに変動し、位相差がずれてしまう。
【0019】
(2)素子表面での不要な光の反射を避けるため反射防止層を表面に成膜する必要があるが表面加工による波長板では成膜が困難である。
【0020】
(3)素子表面での微細加工で1/4波長板を実現する場合で、その高さは50nm程度となる。例えば誤差1%とすると、表面加工精度を50×0.01=0.5nm程度以下に抑える必要があり、たいへん高度な加工技術を要する。一方で、フォトニック結晶では1/4波長でもミクロンオーダの厚さになるため、例えば5μm×0.01=50nm程度の制御ができればよく、これは通常の薄膜プロセスで十分対応可能な値である。
【0021】
(4)素子表面での空気との境界で動作を実現しているため、接着剤で微細構造が埋まると効果が激減してしまう。
【0022】
そこで、本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、メタ表面でなく、集積化が容易な光学素子を提供することである。
【0023】
本発明の効果をあらかじめ要約すると、本発明は、以下の第1から第3のいずれか1つ以上又は全ての効果を奏する。
第1に、成膜面を境に片側から入射し、反対側に出射する素子において1つの方向から入射した光が二つの方向に分離される素子を実現する。
第2に、曲線形状や間引きにより線間ピッチに不均一、非一様性が生じても、偏光間の位相差の一様性を保つ(
図7)。
第3に、後述する実施例9,10,11のごとく、フォトニック結晶を組み合わせていくことで、偏光分離と90度ハイブリッドの機能を一体化した光回路を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の第1の側面は、光学素子に関する。光学素子は、3次元空間x、y、zにおいて、xy面に形成された波長板を備える。波長板の好ましい形態は、z軸方向に積層されたフォトニック結晶である。波長板の位相差θは、πラジアンの整数倍ではない。光学素子は、x軸方向に単一、もしくは、繰り返される一又は複数の領域を有する。つまり、y軸方向に平行な帯状の幅Dの領域が、x軸方向に単一又は複数繰り返される。幅Dの領域は、x軸方向に、複数の帯状のサブ領域に区分される。この波長板の軸方位は、幅Dの領域の中では、y軸方向に対する角度が0度から180度の範囲で段階的に変化し、かつ、サブ領域の中では、y軸方向に対する角度が一様となる。例えば、波長板には、その軸方位に沿った溝が形成されている。
本発明の光学素子において、サブ領域の遅波軸がx軸に対してなす角βは、サブ領域の中心線のx座標x1に対して時計回りに β=(180×x1/D)度+定数 で表される。光学素子は、−z方向から+z方向へと入射する円偏光を、パワー比sin
2(θ/2):cos
2(θ/2)で、入射する円偏光が右回りの場合、左回りの円偏光でxz面で+x方向に屈曲する成分と、右回りの円偏光で直進する成分とに分離および変換して出射する。一方、入射する円偏光が左回りの場合、右回りの円偏光でxz面で−x方向に屈曲する成分と、左回りの円偏光で直進する成分とに分離および変換して出射する。
【0025】
さらに別の実施形態について説明する。光学素子は、3次元空間x、y、zにおいて、xy面に形成された波長板を備える。波長板の好ましい形態は、z軸方向に積層されたフォトニック結晶である。波長板の位相差θは、πラジアンの整数倍ではない。光学素子は、x軸方向に単一、もしくは、繰り返される一又は複数の領域を有する。つまり、y軸方向に平行な帯状の幅Dの領域が、x軸方向に単一又は複数繰り返される。この波長板の軸方位は、曲線であり、かつy軸方向に対する角度が0度から180度の範囲で連続的に変化する。具体的には、波長板に形成された溝は、曲線y=(D/π)log(|cos(πx/D)|)+定数 と離散化誤差の範囲で一致する曲線となる。例えば、波長板には、その軸方位に沿った溝が形成されている。
光学素子は、−z方向から+z方向へと入射する円偏光を、パワー比sin
2(θ/2):cos
2(θ/2)で、入射する円偏光が右回りの場合、左回りの円偏光でxz面で+x方向に屈曲する成分と、右回りの円偏光で直進する成分とに分離および変換して出射する。一方、入射する円偏光が左回りの場合、右回りの円偏光でxz面で−x方向に屈曲する成分と、左回りの円偏光で直進する成分とに分離および変換して出射する。
【0026】
本発明の各実施形態において、波長板は、4分の1波長板であることが特に好ましい。この場合、本発明の光学素子は、−z方向から+zへと入射するの円偏光を、前記の屈曲する成分と前記の直進する成分とに等しいパワー(光量)で分離および変換して出射する。
【0027】
上記した曲線型の溝をもつ光学素子は、隣り合う凸部と凹部の一方の間隔の前記領域の内部における最大値と最小値の比が2倍以内になるように、他方が分岐・合流するよう幾何学的に配置されていることが好ましい(
図6等参照)。
【0028】
上記した曲線型の溝をもつ光学素子は、領域の幅をDとした場合に、曲線が、y=(D/π)log(|cos(πx/D)|)+定数で表されることが好ましい。
【0029】
本発明の光学素子において、波長板はz軸方向に積層されたフォトニック結晶で構成されていることが好ましい。この場合、フォトニック結晶の溝間単位周期が、40nm以上、かつ入射する光の波長の1/4以下であり、フォトニック結晶の厚さ方向の周期が、入射する光の波長の1/4以下であることが好ましい。
【0030】
フォトニック結晶は、公知であるが、例えば自己クローニング法(特許文献1参照)によって形成すればよい。フォトニック結晶は、導波する光の動作波長よりも短い周期で屈折率が周期的に変化する構造体である。特に、波長板は、自己クローニング作用により形成されたフォトニック結晶であることが好ましい。フォトニック結晶は、光学素子として機能する微小周期構造体である。具体的なフォトニック結晶の製造方法としては、特許文献1に開示されているように、1次元的または2次元的に周期的な凹凸をもつ基板の上に、2種類以上の屈折率の異なる物質(透明体)を周期的に順次積層し、その積層の中の少なくとも一部分にスパッタエッチングを単独で、または成膜と同時に用いることにより、光学素子(波長板)を製造する方法があげられる。この方法は、自己クローニング法ともよばれる。そして、この自己クローニング法により形成されたフォトニック結晶は、自己クローニング型フォトニック結晶とよばれる。なお、自己クローニング型フォトニック結晶を用いて波長板を構成する技術は公知である。例えばフォトニック結晶の別の作製方法として、フェムト秒レーザをガラスに照射することで周期的な空隙を作製する方法が挙げられる。
また同様に波長板を構成する技術として液晶を用いた方法も挙げられる。
【0031】
なお、自己クローニング型フォトニック結晶を形成する複数種類の透明体は、アモルファスシリコン、5酸化ニオブ、5酸化タンタル、酸化チタン、酸化ハフニウム、2酸化ケイ素、酸化アルミ、フッ化マグネシウムなどのフッ化物のいずれかであることが好ましい。これらの中から屈折率の異なる2ないし複数種を選択しフォトニック結晶に用いることができる。例えばアモルファスシリコンと二酸化ケイ素、5酸化ニオブと二酸化ケイ素、五酸化タンタルと二酸化ケイ素の組み合わせが望ましいが、それ以外の組み合わせでも可能である。具体的には、自己クローニング型フォトニック結晶は、高屈折率材料と低屈折率材料とをz方向に交互に積層した構造を有する。高屈折率材料は、5酸化タンタル、5酸化ニオブ、アモルファスシリコン、酸化チタン、酸化ハフニウムまたはこれら2種以上の材料を組み合わせたものであることが好ましい。低屈折率材料は、2酸化ケイ素、酸化アルミ、フッ化マグネシウムを含むフッ化物またはこれら2種以上の材料を組み合わせたものであることが好ましい。
【0032】
さらに具体的に説明すると、本発明の第1の側面は光学素子に関する。本発明の光学素子は、主軸方位が領域ごとに異なった波長板(分割型)、または、主軸方位が連続的に変化する波長板(曲線型)であり、それぞれの領域の波長板が、面内に周期構造を持ち当該周期構造が厚さ方向に積層されたフォトニック結晶で構成されている。フォトニック結晶は、自己クローニング法(特許文献1参照)によって形成すればよい。
【0033】
各波長板を形成する面内の周期構造の溝間単位周期および前記波長板の厚さ方向の単位周期は、共に、光学素子に入射する光の波長の4分の1以下となる。なお、面内の周期構造の溝間単位周期40nm以上とすることが好ましく。なお、光学素子に入射する光の波長は、通常、400nm〜1800nmの間から選ばれることが想定される。
【0034】
また、複数領域の波長板のうち、波長板溝長さの面内の最小値は溝間単位周期以上である。なお、波長板溝長さの面内の最大値の上限は溝間単位周期pの50倍以下であることが好ましい。
【0035】
また主軸方位が連続的に変化する波長板(曲線型)の場合、凸部のピッチpが(パタンが直線であるときのピッチ)をp
0とすると0.7・p
0≦p≦1.4・p
0以内になるよう、凸部または凹部が分岐・合流するよう幾何学的に配置されることが好ましい。自己クローニング型フォトニック結晶は
図3に示すように、位相差の変化が、ピッチの変動に対して変動が小さい。したがって、ピッチが変わった場合の半波長板からの位相ずれを小さくできる。
【0036】
本発明に係る光学素子の好ましい実施形態は、入射する所定の円偏光に対して動作する光学素子である。この光学素子は、それぞれの領域がπラジアンの整数倍ではない位相差θの波長板をなし、入射した円偏光は逆回りの円偏光と同じ周りの円偏光に強度比はsin
2(θ/2):cos
2(θ/2)で分岐される。
【0037】
自己クローニング形フォトニック結晶波長板に基づく本発明の光学素子は傾斜メタ表面(たとえば非特許文献1,2:gradient metasurface)とは根本的に異なり体積形であるため、その表面とその下部に反射防止処理を行うことや、接着剤を用いてほかの光学素子と接続することなどが容易にできる。体積形であって、積層の全厚さを保ったまま積層数を大きく(例えば2倍)、積層周期、面内周期を小さく(例えば1/2)しても特性がほぼ一定に保たれるので、構造の高精細化が可能である。
【0038】
本発明の光学素子のもう一つの好ましい実施形態は、ピッチの決まった平行線によって形成されているそれぞれの領域の波長板を平行線から曲線に変えて領域(サブ領域)の境目をなくすことである。曲線に変えることで量子化誤差が小さくなり、結果位相誤差が小さくでき、不要偏波の割合を小さくでき、分岐しない成分の割合を小さくすることができる。
【0039】
本発明の第2の側面は、第1の側面の光学素子を用いた光回路に関する。
第1の側面の光学素子と同じパターンで位相差がπラジアン(つまり半波長板)であるものを用いると、ある円偏光を入射すると逆回りの円偏光となって屈曲する。また両方の成分が混ざっている場合、右回りと左回りの円偏光の成分がそれぞれ分離される。
【0040】
一方、第1の側面の素子と同じパターンで位相差がπ/2ラジアン(つまり4分の1波長板)であるものを用いると、円偏光を入射した場合、同じ方向の円偏光と逆回りの円偏光とに分離される。もしくはそれぞれ逆回りの円偏光を2方向から入力し、互いの角度を適当に選べば、それぞれ分離された2本の光が重なって出射される。これは二つの入力光が二つの光路に再配分されたこととなる。ひとつの入力の振幅をa、もう一つの入力の振幅をbとすると、再配分され出力される光はそれぞれ(a+b)/√2、(a−b)/√2、となり方向性結合器として機能する。
【0041】
これら複数の光学素子(位相差πラジアン及び位相差π/2ラジアン)の機能を組み合わせて、コヒーレント通信の受信機で用いられる偏光分離と90度ハイブリッドの機能を実現することが本発明の第2の側面である。
【0042】
第2の側面に係る光回路は、光がz方向に伝送され、光の伝送方向と垂直に複数の平面(xy
1,xy
2,…xy
N)を有する。第1の平面(xy
1)の上にはn個(nは整数)の光点がある。第2以下の少なくともいずれか一つの平面(xy
2,…xy
N)には、複数の軸方位をもつ第1の側面の光学素子が配置されている。
【0043】
第2の側面に係る光回路の別の形態は、光がz方向に伝送され、それと光の伝送方向と垂直に複数の平面(xy
1,xy
2,…xy
N)を有する。第1の平面(xy
1)の上には二つの光点(例えば信号光と局部発振光)がある。第2以下の少なくともいずれか一つの平面(xy
2,…xy
N)に、複数の軸方位をもつ第1の側面の光学素子が配置されている。第1の平面の各光点に入射する光線の少なくとも一つは、第2平面から第N平面(Nは1以上の整数)にある上記光学素子を通過する。この光回路は、第N平面を透過したm個(mは1以上の整数)の交点の偏光ごとの各々の複素振幅は第1の平面の各光点に入射する光線の偏光ごとの各々の複素振幅の1次線形和である。
【0044】
第2の側面に係る光回路は、異種円偏光の分離、一つの円偏光光線の二つの光路への分岐、円偏光の屈曲、異種円偏光の合流及び再配分を行うことにより、最終の面には複数個の点に所定の円偏光又は直線偏光を得ることができるように、前記の光学素子、及び前記の光学素子で位相差がπラジアンの整数倍の素子が配置されていることが好ましい。
【0045】
第2の側面に係る光回路は、異種円偏光の分離、一つの円偏光光線の二つの光路への分岐、円偏光の屈曲、異種円偏光の合流及び再配分を行うことにより、最終の面には信号光のふたつの偏光状態とふたつの位相(0度,90度)が得られ、かつ、局部発振光と信号光の和信号と差信号に相当する合計8個の光が得られる偏光分離器と90度ハイブリッド回路が合成されるように、前記の光学素子、及び前記の光学素子で位相差がπラジアンの整数倍の素子が配置されていることが好ましい。
【0046】
第2の側面に係る光回路において、前記の光学素子は、XY面内において複数の領域を持ち、それぞれの領域ではy方向に延びる幅Dの帯状領域に分けられ、帯状領域がx方向に単一または複数形成され、帯状領域中ではx方向にそって波長板の軸方位が0度から180度まで変化していることが好ましい。この場合、帯状領域を含むXY面内のそれぞれの領域における軸方位が0度に相当する部分のX方向における距離は、幅Dの整数倍からΔD(0<ΔD<D)だけ互いにずれている。そして、光回路においては、それぞれの帯状領域に入射した円偏光のうち、光学素子において逆まわりの円偏光となって出射される成分は、互いに位相がΔD/D×2πラジアンずれて出射される。
【0047】
半波長板を含む光学素子(位相差πラジアン)は、以下の構成を含む。すなわち、半波長板は、3次元空間x、y、zにおいて、xy面に形成され、z軸方向に積層されたフォトニック結晶で構成される。半波長板は、x軸方向に単一、もしくは、繰り返される一又は複数の領域を有し、この領域は、x軸方向に、複数の帯状のサブ領域に区分される。フォトニック結晶の溝方向は、領域の中では、y軸方向に対する角度が0度から180度の範囲で段階的に変化し、かつ、サブ領域の中では、y軸方向に対する角度が一様である。もしくは、フォトニック結晶の溝方向は、曲線であり、かつ、y軸方向に対する角度が0度から180度の範囲で連続的に変化する。その結果、半波長板を含む光学素子は、z軸方向に入射する光を、z軸からある角度だけx軸に向かう方向の円偏光と、z軸から同一の角度だけ−x軸に向かう方向の逆回りの円偏光とに、分離および変換して出射する。
【0048】
第2の側面を
図15を用いて説明する。光回路には信号光、局部発振光と呼ばれる二つの光が入力する。光は、第1の光学素子1501、第2の光学素子1502、第3の光学素子1503、及び第4の光学素子1504をこの順で通過する。
第1の光学素子1501は、異種円偏光の分離を行うものであり、第1の側面に係る光学素子(分割型又は曲線型)と同様のパターンで位相差がπラジアンとなるものを配置する。
第2の光学素子1502は、第1の側面に係る光学素子で位相差がπ/2ラジアンとなるものを置く。
第3の光学素子1503は、1/2波長板で特定の領域の軸方位が他の領域の軸方位と45度異なる光学素子を用意する。
第4の光学素子1504は、第1の側面に係る光学素子で位相差がπ/2ラジアンとなるものを置く。
【0049】
第1の光学素子1501は、入射した光を右回り円偏光と左回り円偏光に分離する。この第1の光学素子に信号光と局部発振光は、y軸方向に別の位置に入射するため、それぞれ2本のビームとなって出射する。なお、信号光と局部発振光は、x軸方向には第1の光学素子の同じ位置に入射する。
【0050】
第2の光学素子1502は、合計4点にそれぞれ円偏光(信号光2箇所と局部発振光2箇所)が入射するが、それぞれ入射した円偏光と同じ方向の円偏光と逆回りの円偏光とに分離される。したがって8本のビームとなる。
【0051】
8本のビームは第3に光学素子1503に入る。信号光と局部発振光は第1の光学素子1501で右回り円偏光と左回り円偏光に分離されるが、そのうちz軸に平行な中心軸を境にxz面において左側に分離されたものを第1のグループ、右側に分離されたものを第2のグループとする。第2の光学素子1502を透過した後は、第1のグループが2本の光ビーム、第2のグループが2本の光ビームとなり、合計4本の光ビームとなっている。さらに、領域が分割された1/2波長板である第3に光学素子1503では、第1のグループのうちの1本だけ他の3本と比べ45度方位が異なる1/2波長板を透過し、第2のグループの1本だけ他の3本と比べ45度方位が異なる1/2波長板を透過する。その周囲と異なる二つの領域は、第3の光学素子1503の中心軸に対して対称な位置を選択する。
【0052】
y−z面において第1の光学素子1501に入射する位置と角度を調整すれば、それぞれ分離した光はy−z面上で同じ位置を通過させることができる。その点の面に第4の光学素子1504を置く。
第4の光学素子1504は、光が4点に入射する。つまり1点に2本の光が異なる方向から入射する。第4の光学素子では、入射する円偏光はそれぞれ入射した円偏光と同じ円偏光と逆回りの円偏光の二つに分離される。したがって入射する4点にはそれぞれ二本の光ビームが入射し分離されるので、16本のビームが出ることになるが、入射する光ビームの角度と、第4の光学素子1504のパターンを調整することで、異なる方向から入射した光の二つの分離方向を一致させることができる。そうして光は第4の光学素子にて互いに干渉し、最終的には第4の光学素子から8本の光ビームとして射出されることになる。
【0053】
上記のように、多領域1/4波長板と多領域1/2波長板を使って、信号光と局部発振光の2種類の入力光を偏光分離し、かつそれぞれの光を領域分割型1/4波長板に入力して分離し、各偏光それぞれ4本になったビームのうち、1本を他の3本とは45度方位の異なる1/2波長板を透過させ、もう一つの領域分割型1/4波長板に入力して干渉させ、8本の光ビームとすることができる。この機能はコヒーレント光通信システムの受信部分において、偏光分離と90度ハイブリッドと呼ばれる機能と同じ働きであり、光学素子の積み重ねだけで複雑な機能を実現することができる。
【0054】
本発明に係る光回路は、出力された8本のビームをそれぞれ個別に方向を変えるために、前記の光学素子であって位相差がπラジアンの整数倍であるものが、8本ぞれぞれのビームに対して個別のパターンの向きを持つように挿入されることで、8本のビームをある平面の任意の位置に配列させることができるものであってもよい。この場合、光回路は、偏光分離機能と90度ハイブリッド機能を持つものとなる。
【0055】
本発明に係る光回路は、第1の光学素子の信号光が通る部分の直後に電気信号によって複屈折のリタデーションを可変に制御できる素子を具備し、その素子によって信号光の偏光状態を制御することで、第2の光学素子で受光器に向かって進む成分と進まない成分を発生させることで、液晶の持つリタデーション量によって受光器に向かう信号光の光量を制御するものであってもよい。この場合、光回路は、偏光分離機能と90度ハイブリッド機能を持つものとなる。
【0056】
本発明の別の側面は、位相差計測器に関する。本発明に係る位相差計測器は、前記の光学素子を用いて、2つの入力光のうち、一方を参照光、他方を信号光としてその間の位相差を計測する。
またその位相差計測器を用いて、光源から分離した一方を参照光、他方を物体に当て、そこからの反射光を信号光とすることで物体との距離及び速度計測することができる機器、およびその物体に当てる光を機械的もしくは電気的に操作することで、3次元空間の物体の位置及び速度を計測する。
【発明の効果】
【0057】
本発明によれば、集積化が容易な光学素子を提供することができる。また、本発明は、構造の高精細化や曲線化により不連続性に由来する光散乱や不要光成分の発生を抑止することができる。また、本発明によれば、表面処理、清浄化、接着処理など加工性に優れ、部品としての体積、フットプリント、作製コストの低減が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、本発明の実施例1から実施例13までについて説明する。
【実施例1】
【0060】
本実施例では、上記した第1の側面に係る光学素子に関し、垂直入射した右回り円偏光を、右回りの直進光とある角度ψで屈曲する逆回りの円偏光へ等しいパワー比で偏光分離できる光学素子について説明する。
【0061】
光学素子の光学配置を
図8に示す。
図8に示した光学素子は、いわゆる曲線型である。すなわち、曲線型の光学素子の基本構成は、3次元空間x、y、zにおいて、xy面に形成され、z軸方向に積層されたフォトニック結晶からなる波長板である。波長板は、y軸方向に平行な帯状の幅Dの領域が、x軸方向に複数繰り返されている。フォトニック結晶の溝方向は、曲線y=(D/π)log(|cos(πx/D)|)+定数 と離散化誤差の範囲で一致する曲線である(
図6参照)。
【0062】
また、
図6に示されるように、フォトニック結晶のパタン(凸部または凹部)を曲線状にしたことで、1周期内部で中央部ではパターンが疎になり、端に近いほど密になりパターンが破綻する。そこで中央部でのパターン間ピッチを基準に取り、それをp
0とする。p
0がある閾値ピッチ以下になった位置で2本のパターンを合流させる。合流直後のピッチは2p
0になるが、端にいくにほど密になるため、閾値長さ以下になったところで再度合流させる。以上の操作を繰り返すことでピッチがある範囲内で変化しながら理想的な光学軸分布を実現できる。閾値ピッチを0.5p
0とすると、ピッチの変化範囲は0.5p
0〜2.0p
0の間になる。すなわち、隣り合う凸部と凹部の一方の間隔の最大値と最小値の比が4倍以内、好ましくは2倍以内になるように、他方が分岐・合流するよう幾何学的に配置されている。
図6に示した例では、白色の部分が凹部となり、黒色の部分が凸部となっている。すなわち、主軸方位が連続的に変化する波長板(曲線型)の場合、凸部のピッチpが(パターンが直線であるときのピッチ)をp
0とすると0.5・p
0≦p≦2・p
0以内になるよう、凸部または凹部が分岐・合流するよう幾何学的に配置される。
【0063】
他方で、本発明の光学素子は、上記曲線型に限定されず、いわゆる分割型とすることもできる。すなわち、分割型の光学素子の基本構成は、3次元空間x、y、zにおいて、xy面に形成され、z軸方向に積層されたフォトニック結晶からなる波長板ある。波長板は、y軸方向に平行な帯状の幅Dの領域が、x軸方向に単一又は複数繰り返されたものとなる。また、幅Dの領域は、y軸に平行な複数の帯状のサブ領域に区分される。波長板に形成された溝(フォトニック結晶の溝方向)は、幅Dの領域の中では、y軸方向に対する角度が0度から180度の範囲で段階的に変化し、かつ、サブ領域の中では、y軸方向に対する角度が一様となる。
【0064】
図6に示されるように、分割型の光学素子は、xy面内では、少なくともx軸方向に向かって複数の領域Dが周期的に繰り返して形成されている。複数の領域Dのx軸方向の長さは等しいことが好ましい。また、各領域Dは、さらにx方向に複数のサブ領域に区分されている。各領域Dの分割数は、3〜21とすることができ、例えば5、7、9、11、13、15、17、19などの奇数とすることが好ましい。各領域Dに含まれるサブ領域は、それぞれx方向に実質的に等しい幅を有していることが好ましい。「実質的に等しい幅」とは、x方向の中心に位置するサブ領域の幅を基準として、±2%の誤差を許容することを意味する。
【0065】
また、各サブ領域には、複数の溝が周期的に形成されている。溝の幅は実質的に全て等しい。また、溝は、各サブ領域において、x方向の端から端まで形成されている。領域Dにおいて、x方向の中心に位置するサブ領域では、x軸方向に平行に延びる溝が、y方向に周期的に繰り返し形成されている。他方で、領域Dにおいて、x方向の左右両端に位置するサブ領域では、y方向に平行に延びる溝が形成されている。このため、中心のサブ領域に形成された溝に対して、左右両端のサブ領域に形成された溝のなす角度θは90度となる。このようなサブ領域において溝の長さは最も大きく、素子全体のy方向の有効寸法と一致する。
【0066】
また、中心のサブ領域と左右両端のサブ領域の間には、左右それぞれに、複数のサブ領域が位置している。そして、これら間に位置する各サブ領域にも複数の溝がy方向に周期的に繰り返して形成されている。また、あるサブ領域に形成された溝の角度は全て等しい。ただし、間に位置する各サブ領域の溝の角度θは、中心のサブ領域から左右両端のサブ領域に近づくに連れて、徐々に90度に近づくように設定されている。例えば、中心のサブ領域と左右両端のサブ領域の間にはそれぞれ4つのサブ領域が設けられており、中心のサブ領域の溝の角度を0度とし左右両端のサブ領域の溝の角度を90度とすると、中心のサブ領域に近い領域から順に、22.5度ずつ傾斜角θが急になっていく。このように、各領域Dでは、x方向の幅が等しい複数のサブ領域に区分され、各サブ領域には角度の等しい溝が周期的に形成され、x方向の中心に位置するサブ領域から左右両端に位置するサブ領域に向かって、溝の角度が単調増加するようになっている。
【0067】
このような前提の下で、各サブ領域において、周期構造の溝間単位周期p(
図1参照)は、入射する光の波長(例えば400nm〜1800nmの間から選ばれる)の4分の1以下となる。なお、溝間単位周期pの下限値は40nmである。また、厚み方向(z方向)において、屈折率の異なる2種類の透明媒質の単位周期も光の波長の4分の1以下となる。なお、厚み方向の単位周期の下限値は40nmである。そして、複数の領域D全体のうち、溝の長さの面内最小値d(
図6参照)が、前述した溝間単位周期pの1倍以上となる。なお、溝の長さの面内最小値dの上限値は前述した溝間単位周期pの50倍と考えられる。ここで
図6に示されるように、ある領域D内に形成された複数のサブ領域のx方向の幅は全て等しいため、領域Dにおける溝の長さの面内最小値dは、基本的に、この領域Dの中心に位置するサブ領域に形成された溝の長さとなる。なお、溝の長さは、x方向の左右両側の領域の溝ほど長くなる傾向にある。
【0068】
3次元空間xyzにおいて光の進行方向をz軸とする。周期Dを持つ光学素子をxy面内に設置し、その遅軸方位のx軸からの傾きをθとすると射出される光は次の式で表される。
光学素子が持つ位相差φがλ/4の時、上記の式を整理すると、
となる。したがって射出される光は、第1項:右回りの直進光、第2項:逆回りの円偏光へと分離され、そのパワー比は等しい。また、θはxにだけ依存しているため、xに依存した位相差が生じる。1周期Dの間でθがxに比例して0〜πまで比例して変化するとき、出力波第2項の位相の傾きはx=Dのところで、x=0のところと2πだけ変化する。したがって、第2項の光はz軸に対してψ=sin
−1(λ/D)だけ屈曲して射出されることがわかる。
【0069】
同様に左周り円偏光が入射すると射出光は、
となる。射出される光、第1項:左回りの直進光、第2項:逆回りの円偏光へと分離され、そのパワー比は等しい。また、第2項の光の等位相面の傾きは符号が逆転し、z軸に対してψ=sin
−1(λ/D)だけ屈曲して射出されることがわかる。
【0070】
分割型(
図6左)及び曲線型(
図6右)の光学素子はどちらも位相差がπ/2ラジアンなので、円偏光入射時に等しいパワー比で分岐が可能である。ただし、曲線型の光学素子の方が波長板の主軸方位がより滑らかに変化するため位相誤差が小さく、より性能が高い。なお要求される性能を分割型の光学素子でも満たせる場合、プロセスの都合によっては分割型のものを選ぶこともできる。
なお、これらはDの値が波長に比べ十分大きい場合には上記数式通りに成り立つが、例えば波長1.5ミクロンにおいてDが5ミクロンの場合には、光学素子が持つ位相差がλ/4であっても、直進成分の方が多くなる。ただし、この場合でも、光学素子の位相差を調整することで、直進成分と屈曲成分を等量にすることは可能である。なお、Dの値は、波長に対して2倍以上であることが好ましく、例えば3倍〜10倍とすればよい。
【0071】
図9を用いて、光線の分岐、屈曲、合流、線形和の作用を説明する。x軸に平行なy方向の高さが等しい直線L
1、L
2があり、L
1上の点Pから本発明に係る光学素子901上の一点Qを通って、L
2上の点Rに至る直線PQRを定義する。説明の便宜上、光学素子の両側の媒質の屈折率は等しいとする。自由空間波長λの光に対し、光線PQ、QRは等しいx方向の波数を持つ。
直線L
1上にPをはさんでP
−、P
+をとり、L
2上にRをはさんでR
−、R
+をとり、光線P
+QおよびQR
+はx方向の波数a+2π/Dを持ち、光線P
−QおよびQR
−は同じくa−2π/Dを持つようにする。
光線PQが左回り円偏光であり、光学素子の位相差がθであるとする。光線PQは、右回りの円偏光の構成QR
−と、左回りの円偏光QRに、振幅比jsin(θ/2):cos(θ/2)で分配される。θ=πのときは屈曲成分(QR
−)のみとなる。
同時に右回り円偏光の光線P
−Qが入射するならば、左回りの光線QRと右回りの光線QR
−とに振幅比jsin(θ/2):cos(θ/2)で分かれ、前記の分配された光と合流し、入射する二つの光が互いに干渉する場合線形に重ね合わせられる。
以上のように、入射光線PQ、P
+Q、出射光線QR、QR
−の間の分岐、屈曲、合流、線形和作用を、偏光の左回り右回りを標識として行いうることを説明した。
同様にx方向の波数が2π/Dずつ異なる入射光……、P
−Q、PQ、P
+Q、……と出射光……、QR
−、QR、QR
+……の間に分岐、屈曲、合流、線形和作用を持たせることができる。
【0072】
上記の説明は便宜上、y方向の波数はすべて0としているが、共通の波数を持つ場合も同様である。
【0073】
また光学素子901の両側の空間を満たす媒質の屈折率が共通でない(例えば空気とガラス)場合も、光線どうしは空間的形状でなく波数によって対応付けられており、例えば線P
+QR
+が直線に描いてあるのは単に便宜のためである。
【0074】
また複数の光学素子を用いる場合、周期を定義する方向は素子ごとに別の方向に選んでもよく、1枚の素子の中で複数の領域に分かれ、それぞれが別の周期方向、周期を持ってよい。
【実施例2】
【0075】
本実施例では本発明に係る光学素子に対して垂直入射した右回り円偏光を、右回りの直進光とある角度ψで屈曲する逆回りの円偏光へ任意のパワー比率で分岐できる光学素子について説明する。
実施例2が実施例1と異なる点は、光学素子が持つ位相差φが任意の値であり、π/2ラジアンではない点である。右周り円偏光が任意位相差φの光学素子に垂直入射するとき、出力光は
となる。実施例1と同様に、射出される光は第1項:右回りの直進光および第2項:逆回りの円偏光へと分離される。また、パワー比はsin
2(θ/2):cos
2(θ/2)になることがわかる。したがって光学素子の位相差を制御することで任意のパワー比で2つの直交する円偏光に分岐することが可能になる。
【0076】
また、左回り円偏光が入射すると、
となる。射出される光は第1項:左回りの直進光および第2項:逆回りの円偏光へと分離され、そのパワー比はsin
2(θ/2):cos
2(θ/2)になる。実施例1と同様に、第2項の光の等位相面の傾きは符号が逆転し、z軸に対してψ=sin
−1(λ/D)だけ屈曲して射出される。
【0077】
図10は光学素子が持つ位相差φと、直進光および屈折光のパワーの関係を示したグラフである。曲線型および分割型の光学素子に対してビーム伝搬法を用いて数値解析を行った。解析の条件は次の通りである。
・波長λ 1.55μm
・高屈折率材料 a−Si
・低屈折率材料 SiO
2
・プリズム周期D 10μm
・遅軸屈折率n
s 2.713
・速軸屈折率n
f 2.486
・積層全体の厚さ λ/(n
s−n
f)×φ/(2π)
【0078】
図10より実施例2で示したように位相差φを制御することでsin
2(θ/2):cos
2(θ/2)のパワー比で分岐が可能であることがわかる。特に、実施例1で示したようにφ=π/2ラジアンのときは等しいパワー比で分岐できる。また、
図10の上部に実施例1と2が担う位相差φの範囲、グラフの凡例の違いで曲線型、分割型の違いを示している。
【0079】
曲線型および分割型の光学素子はどちらも光学素子の位相差を制御することで任意のパワー比で分岐することができる。ただし曲線型の光学素子の方が波長板の主軸方位がより滑らかに変化するため位相誤差が小さく、より性能が高い。なお要求される性能を分割型の光学素子でも満たせる場合、プロセスの都合によっては分割型のものを選ぶこともできる。
【0080】
図10では0次の位相差における特性を示した。高次の位相差(例えば、π/2、3π/2、5π/2)でも同様なパワー分離特性を得ることができる。
以上により入射円偏光を任意のパワー比で直交する2つの円偏光に分岐する方法が示された。
【実施例3】
【0081】
実施例1では円偏光が垂直入射した時に2つの偏光へ等パワーで分離する方法について示した。この動作は1入力2出力の分岐回路(3dBカプラー)とみなすことができる。本実施例では任意の入射角度で光学素子に円偏光が入射した時の動作を説明し、本発明の光学素子が多入力多出力の分岐回路として動作できることを示す。
【0082】
図11に示すように右回り円偏光がz軸から入射角度αで光学素子に入射することを考える。光学素子の位相差φ=π/2ラジアンのとき、出力される光は次のようになる。
ここでkx=λ/(2π)×sinαである。これより出力光は
図11に示すように第1項:角度αで伝搬する右回り円偏光および第2項:角度ψ−αで伝搬する逆回り円偏光へと分岐することができる。また、分岐された直交する円偏光のパワー比は等しい。このことより、
図12に示すように光学素子に入射する角度を変える(光の入力ポートが変わる)ことで、到達する光の位置が変わる(入力ポートに対応する2つの出力ポートが存在する)と言える。したがって、本発明の光学素子はN入力2N出力の分岐回路であると言える。
【0083】
以上により光学素子への入射角度を変える(入力ポートを変える)ことで入射角度に対応した位置で光を受信(入力ポートに対応する2つの出力ポート)することができる、偏波依存型の多入力多出力の分岐回路として動作できることが示された。
【実施例4】
【0084】
実施例3では光学素子の位相差がπ/2ラジアンのときパワーを等しく分配するN入力2N出力の分岐回路として動作することを示した。本実施例では、プリズムの位相差がπラジアンのとき、入射偏波に依存して出力ポートが変化する、マッハツェンダー干渉回路のような偏波依存型の方向性結合器として動作することを示す。
【0085】
光学素子の位相差がπラジアンのとき、右回り円偏光がz軸から垂直に光学素子に入射すると射出光は次のようになる。
これよりz軸に対してθ=sin
−1(D/nλ)だけ屈曲して射出される左周り円偏光であることがわかる。nは出射側媒質の屈折率である。同様に、左周り円偏光が入射すると、
となり、z軸に対してθ=−sin−1(λ/nD)だけ屈曲して射出される右回り円偏光へと変換される。入射円偏光の回転方向を識別、つまり
図13に示すように直交関係にある偏光状態を区別して射出するポートを変えることができる。
【0086】
実施例3と同様に、ある入射角度αで右回り円偏光が光学素子に入射すると、
図14に示すように直交する円偏光へと変換された射出光は角度ψ−αで射出される。つまり入射角度と偏光状態に応じて射出されるポートが変換する働きを持つため、偏波依存型の方向性結合器として動作する。
以上により本実施例で光学素子の位相差がπラジアンのとき、入射偏波・入射角度に依存して出力ポートが変化する、偏波依存型の方向性結合器として動作することが示された。
【実施例5】
【0087】
本発明では面にほぼ垂直に進む光に対して、偏光分離や分岐・屈曲、合成を機能として持つ光学素子を積み重ね、複数の光路を持つ回路を実現できる。これは3次元的な配置が可能であり、従来の平面光回路に比べて集積度など高い自由度を持つ。さらに偏光分離、分岐等の機能はパターンで決まるため方位、位置を正確につくることができ、各素子の基板の平坦度が確保されれば、高い精度で簡便に光回路を実現することができる。
【0088】
つまり光はz方向に伝送され、それと垂直に、複数の平面xy
1,xy
2,xy
3…があって、第1の平面xy
1の上にはM個の光点があり、第2および第3以下の平面には、複数の軸方位をもつ上記した位相差がπ/2ラジアンからなる光学素子と、複数の軸方位をもつ上記した位相差がπラジアンからなる光学素子が配置されている。これにより、最終の面にはM個の光のそれぞれにふたつ持つ偏光状態の分岐または合流の結果であるN個の光点を実現する光回路を実現することができる。
【0089】
その特長を生かし、本発明ではコヒーレント光通信の光受信部において必要とされる偏光分離と位相変調を検出する90度ハイブリッドの機能を実現する。コヒーレント以前のシステム(Intensity Modulation & Direct Detection IMDD)では、強度変調のみが行われていたため、一つのファイバに一つの信号を載せることしかできなかった。しかしコヒーレントシステムでは2つの信号を位相変調し、かつ互いの位相を90度ずらすことで二つの信号を重畳し、さらに直交する2つの偏光ごとに信号を乗せるため、合計4つの信号が載せられる。さらに多値化を行えばさらに伝送容量を増やすことができる。
【0090】
このシステムの受信側において重要なのは、到達した光信号を直交する偏光ごとに分離し、それぞれに対して信号光とは必ずしも一致しない波長をもった局部発振光と信号光を干渉させる(詳しくは、信号光とI相局部発振光との干渉、信号光とQ相局部発振光との干渉)ことで、元の信号を取り出すことができる点である(90度ハイブリット)。この90度ハイブリッドでは信号光、発振光を分離し、かつ方向性結合器で合成、干渉させることが必要であるが、本発明の光学素子を積み重ねることで、90度ハイブリッドを実現できる。
【0091】
偏光分離と90度ハイブリッドの機能が融合された光回路の設計例を説明する。
まず全体の構成を
図15に示す。構造が3次元であるため、x−z面での断面とy−z面での断面を示す。光は−z方向から+z方向に向かって進む。なお図中では各素子を分離して描いているが実際には基板の屈折率とほぼ等しい屈折率を持つ接着剤で固定され、一体のものとなる。
【0092】
図15中の第1の光学素子1501について記述する。
第1の光学素子は、上述した溝パタンを持つ構造(
図6等参照)で、位相差がπラジアンであることを特徴とする。第1の光学素子には、信号光と局部発振光とがz軸に対して所定の角度1512で傾斜して入射する。
【0093】
第1の光学素子1501のパターンの一例を
図18に示す。石英基板の上にパターン基本周期(
図18の点線上の周期)300nmで
図18正面図のようにパターニングを行った。パターニングは、EBリソグラフィーによりレジストをパターニングしドライエッチングで石英に加工を行った。パターン形成は、ナノインプリントリソグラフィーや、光リソグラフィーなどでも可能である。そこに自己クローニング法により、多層膜を積層する。材料は高屈折率材用にNb
2O
2、低屈折率材料にSiO
2を用いる。ただし、例えば高屈折率材料はa−Si,Ta
2O
5,HfO
2,TiO
2でもよい。低屈折率材料はSiO
2が最も一般的であるがフッ化物でもよい。多層膜は厚さ72mn/72nmずつ90周期積層する。この各層の厚さは例えば波長の50分の1以上で5分の1以下が望ましい。
【0094】
また基板から数えて1層目、2層目、および最上部から数えて1層目、2層目は厚さを調整し、基板と多層膜との界面、もしくは最上層とその上の材料との界面での反射を抑えるようにしている。例えば最上層の上の材料は石英を想定し、表1に示す膜厚構成とする。
【表1】
【0095】
この構造に光を入れると、右回り円偏光成分は
図18中右方向に角度1801で進む光と、左回り円偏光は図中左方向に同じ角度1802で進む光とに分離される。光は右回り円偏光と左回り円偏光の結合で表現できることから、どのような偏光状態の光が入っても、ぞれぞれの成分に分離されて出ていく。その強度比は入射する偏光成分に依存する。
屈折率nの媒質に出ていく場合、波長をλ、構造のx方向の周期をDとすると角度θは
と表現される。この場合、周期Dは符号1803で示され、角度θは符号1801と符号1802でしめされている(1801と1802の角度は等しくなる)。
【0096】
第1の光学素子1501ではy方向に並んで2か所に光が入射し、+y側に信号光、−y側に局部発振光が入ることを想定する。そのパターンは
図18正面図に示すように上下で180度向きが異なり、信号光は上側の領域1804に、局部発振光は下側の領域1805に入射する。
もちろん逆でもいい。なお入力される局部発振光はy軸に平行もしくは垂直な方向の直線偏光であることが望ましい。2か所の光は、y方向には入射位置がずれることとなるが、x方向の入射位置は一致している。
入射光は多層膜に斜めに入射し、第4の光学素子1504で同じ位置になるように入射角度を調整する。
【0097】
その次に第2の光学素子1502を貼り合わせる。
第2の光学素子1502は
図19に示すパターンであり、かつ位相差がπ/2ラジアンであることを特徴とする。そのパターンは
図19正面図に示すように上下で180度向きが異なり、信号光は上側の領域1905に、局部発振光は下側の領域1906に入射する。その結果、信号光のうちy軸に平行な中心軸から右側は左回り円偏光が、左側には右回り円偏光が斜めに入射するが、
図19に示すようにy軸から右側では第2の光学素子1502を透過することで右側に左回り円偏光、左側に右回り円偏光が出射される。これは局部発振光に対してはその逆でy軸に対して、右側に左回り円偏光、左側に右回り円偏光が出射される。これはy軸に対して左側でも信号光、局部発振光ともに同様である。入射する角度1903に対して角度1901は等しく、角度1901と角度1902の和θは
とあらわされる。この場合、構造の周期Dは符号1904である。
なお
図15の角度1511と角度1512は等しい必要はないが、等しくてもかまわない。
【0098】
なおもし位相差がπ/2ラジアンではなく任意のΦである場合、左右に出る光の量の比は左側:右側=sin
2(θ/2):cos
2(θ/2)となる。本質的には非対称に分離されても問題ないが、光量が低い方がS/N比が悪くなるため、等しい方が望ましい。したがってΦは90度が望ましい
【0099】
そして第3の光学素子1503は1/2波長板を基本とし、中心軸から左右それぞれにおいて信号光2本と局部発振光2本が入射し、合計8か所に光が入射する点がある。第3の光学素子1503の正面図を
図20に示す。
図20に示されるように、第3の光学素子のxy面は少なくとも8つの領域(2001〜2008)に分割される。各領域は、第3の光学素子1503に入射する合計8つの光にそれぞれ対応している。例えば、第3の光学素子のxy面は、y方向に2分割、x方向に4分割されている。最も左上の領域を第1の領域2001とし、この第1の領域2001のx方向右方に隣接する領域を第2の領域2002とする。また、第1の領域2001のy方向下方に隣接する領域を第3の領域2003とし、第2の領域2002のy方向下方に隣接する領域を第4の領域2003とする。また、第2の領域2002のx方向右方に隣接する領域を第5の領域2005とし、この第5の領域2005のx方向右方に隣接する領域を第6の領域2006とする。さらに、第5の領域2005のy方向下方に隣接する領域を第7の領域2007とし、第6の領域2006のy方向下方に隣接する領域を第8の領域2003とする。
図20に示した例では、各領域(2001〜2008)はそれぞれ矩形状を呈しているが、光が通過できる形状であれば、円形状や楕円形状、その他多角形状とすることもできる。
【0100】
第1の領域2001と第3の領域2003の相対角度を45度ずれた角度とし、かつ、第2の領域2002と第4の領域2004を同じ方位とするか、もしくは反対に、第2の領域2002と第4の領域2004の相対角度を45度ずれた角度とし、かつ、第1の領域2001と第3の領域2003を同じ方位とする。同様に、第5の領域2005と第7の領域2007の相対角度を45度ずれた角度とし、かつ、第6の領域2006と第8の領域2008を同じ方位とするか、もしくは反対に、第6の領域2006と第8の領域2008の相対角度を45度ずれた角度とし、かつ、第5の領域2005と第7の領域2007を同じ方位とする。なお、45度のずれは135度でも構わない。また、第2の領域2002と第4の領域2004の相対角度が45度ずれている場合、第1の領域2001と第3の領域2003の方位と、第2の領域2002と第4の領域2004の方位のいずれかが等しい必要はない。第1の領域2001と第3の領域2003の相対角度が45度ずれている場合も同様である。また第5の領域2005、第6の領域2006、第7の領域2007、第8の領域2008の4領域に対しても同様のことがいえる。今回は
図20に示すパターンとした。なおパターンはy軸に平行な中心軸に対して対称であることが、それぞれの偏光に対して同様の出力が出るため望ましい。
【0101】
そして第4の光学素子1504は、前述した第2の光学素子1502と同様に1/4波長板(位相差π/2ラジアン)を基本とするものである。この第4の光学素子の多層膜に対して、信号光は+y方向から局部発振光は−y方向からそれぞれ入射し、y軸方向の同じ場所に入射する。このように、それぞれ上下に分離されていた光が、第4の光学素子の入射面にてそれぞれ同じ光路をとり互いに干渉する。そして、再度、光が分離し、第4の光学素子1504から射出される。この、「同じ場所に入射し、出射される信号光、局部発振光がそれぞれ二つに分離されかつ、それぞれが同じ同じ光路を通る。」ことが本発明において肝要である。そのためには第4の光学素子1504では角度1512の倍の角度で分離されることが必要である。
【0102】
第4の光学素子1504のパターンは
図21のようになる。第4の光学素子1504は、x軸方向に沿って、第1の領域2101、第2の領域2102、第3の領域2103、及び第4の領域2104がこの順で隣接している。第1の領域2101と第3の領域2103は第1のパターン2106で形成され、第2の領域2102と第4の領域2104は第2のパターン2105になる。第1のパターン2105と第2のパターン2106は、
図6に示されたパターンを90度回転させた形状であり、第1のパターン2105と第2のパターン2106は、
図21に示されるy軸方向に沿って線対称となる。例えば第1の領域2101には+y方向から信号光が右回り円偏光で入射し、−y方向から局部発振光が左回りで入射する。一方、第2の領域2102には+y方向から信号光が左回り円偏光で入射し、−y方向から局部発振光が右回りで入射する。第3の領域2103、第4の領域2104も同様である。
【0103】
こうして第4の光学素子1504から計8本のビームが出てくる。これを適当なピッチを持つマイクロレンズアレイに入射し、8個のフォトディテクタに当たるようにフォトディテクタを配置する。
【0104】
なお第1の光学素子1501に斜めに入射される際、その表面の反射率を制御することで、一部を反射させることができる。その光量を上記8個のフォトディテクタとは別のフォトディテクタでモニタすることで、入力光のパワーをモニタすることができる。
もしくは第1の光学素子の位相差をあえてπラジアンから少しずらした位相にする。すると第1の光学素子で右回りと左回りの円偏光に屈曲し分離される成分と、入射した光と偏光成分を持つ直進する光に分離することができる。その分離した光が透過する光路上の各素子のパターンをなくすことで、その光をそのまま最後までまっすぐ透過させることができる。その位置にフォトディテクタを置いておくことで、入射光のパワーをモニタすることができる。これは上記8個のフォトディテクタと同じ基板上に集積させてもよい。
上記の構成はあくまで組み合わせの一例であり、例えば
図18における第1の光学素子の領域1804と1805を入れ替えれた場合、
図19における第2の光学素子の領域1905と1906を入れ替え、
図21における第4の光学素子においてパターン2305と2306を入れ替えれば、同様の機能を実現することができる。
【実施例6】
【0105】
別の実施形態に係る偏光分離と90度ハイブリッドの機能が融合された素子の設計例を説明する。
まず全体の構成を
図16に示す。構造が3次元であるため、x−z面での断面とy−z面での断面を示す。光は+z方向に進む。なお図中では各素子を分離して描いているが実際には基板の屈折率とほぼ等しい屈折率を持つ接着剤で固定され、一体のものとなる。
【0106】
第1の光学素子1601は実施例5の第1の光学素子1501と同様のものであるが、信号光と局部発振光がz軸と平行に入射することを想定する。例えば2本の光ファイバがV溝基板に配置されたファイバアレイの先端にそれぞれレンズをとりつけ、コリメート光とすることで入射光学系を構築することができる。
第1の光学素子1601ではy方向に並んで2か所に光が入射し、+y側に信号光、−y側に局部発振光が入ることを想定する。そのパターンは
図22正面図に示すように上下で180度向きが異なり、信号光は上側の領域2204に、局部発振光は下側の領域2205に入射する。
もちろん逆でもいい。なお入力される局部発振光はy軸に平行もしくは垂直な方向の直線偏光であることが望ましい。2か所の光は、y方向には入射位置がずれることとなるが、x方向の入射位置は一致している。
【0107】
その次に第2の光学素子1602を貼り合わせる。
第2の光学素子1602は第1の光学素子1601と同様に分割型又は曲線型の構造を持つが、その位相差がπラジアンであることを特徴とする。ただし、
図23に示すようなパターンをもつ。第2の光学素子1602のxy面は、x方向に2301と2302の2つの領域に分けられる。第1の領域2301は、第1のパターン2303が形成され、第2の領域2302は、第2のパターン2304が形成される。第1のパターン2303と第2のパターン2304は、
図6に示されたパターンを90度回転させた形状であり、第1のパターン2303と第2のパターン2304は、
図23に示されるy軸方向に沿って線対称となる。第1及び第2のパターンの周期2305は第1の光学素子2203と同じとした。もちろん、異なってもよい。その場合、
図16中y−z面において、光学素子1602で曲げられる角度1613が1611と異なるだけであり、本質的には同じである必要はない。またパターン、各層の厚さも変えてもよいが、変えなくてもよい。ただ位相板としてπラジアンの位相であることが望ましい。
たとえば信号光は第1の光学素子1601で分離された光はそれぞれ向きが逆のパターンの領域に入る。+x側のビームは左回りであり、第2の光学素子によって下側に曲げられる。−x側のビームは右回りであり、第2の光学素子によって下側に曲げられる。同様に局部発振光では+x側のビームは右回りで上側に、−x側のビームは左回りで上側に曲げられる。
【0108】
そして第3の光学素子1603は、実施例5の第2の光学素子1502と同様のものである。第3の光学素子のパターンは、
図24に示すものであり、その周期2404は、第1の光学素子1601で生じる角度1611の倍の角度で分離すると回路の対称性がよくなる。
【0109】
そして第4の光学素子1604は、
図25に示すように実施例5の第3の光学素子1503と同様のものである。
【0110】
そして第5の光学素子1605は、実施例5の第3の光学素子1503と同様に1/4波長板を基本とする。
【0111】
第5の光学素子1605のパターンは
図26のようになる。第5の光学素子1505は、x軸方向に沿って、第1の領域2601、第2の領域2602、第3の領域2603、及び第4の領域2604がこの順で隣接している。第1の領域2601と第3の領域2603は第1のパターン2606で形成され、第2の領域2602と第4の領域2604は第2のパターン2605になる。第1のパターン2605と第2のパターン2606は、
図6に示されたパターンを90度回転させた形状であり、第1のパターン2605と第2のパターン2606は、
図26に示されるy軸方向に沿って線対称となる。例えば領域2601には+y方向から信号光が左回り円偏光で入射し、−y方向から局部発振光が右回りで入射する。一方、領域2602には+y方向から信号光が右回り円偏光で入射し、−y方向から局部発振光が左回りで入射する。領域2603、2604も同様である。
【0112】
こうして第5の光学素子から計8本のビームが出てくる。これを適当なピッチを持つマイクロレンズアレイに入射し、8個のフォトディテクタに当たるようにフォトディテクタを配置する。
上記の構成はあくまで組み合わせの一例であり、例えば
図22における第1の光学素子の領域2204と2205を入れ替えれた場合、
図23における第2の光学素子の領域2301と2302を入れ替え、
図24における第3の光学素子の領域2405と2406を入れ替え、
図26における第5の光学素子においてパターン2605と2606を入れ替えれば、同様の機能を実現することができる。
【実施例7】
【0113】
別の実施形態に係る偏光分離と90度ハイブリッドの機能が融合された素子の設計例を説明する。
まず全体の構成を
図17に示す。構造が3次元であるため、x−z面での断面とy−z面での断面を示す。光は+z方向に進む。なお図中では各素子を分離して描いているが実際には基板の屈折率とほぼ等しい屈折率を持つ接着剤で固定され、一体のものとなる。
【0114】
第1の光学素子1701は、実施例6の第1の光学素子1601と同様のものである。
第2の光学素子1702は、実施例6の第2の光学素子1602と同様のものである。
【0115】
そして第3の光学素子1703は、実施例6の第3の光学素子1603と同様のものであるが、分離角1712よりも分離角1711を大きくすることで、第3の光学素子で分離されるどちらの光も−x方向に進むことがなくなる。もし−x方向に進む場合、そのあとの光学素子が厚くなると、第1の光学素子で左側に曲げられた成分も逆に+x方向に曲げられ、どこかでぶつかる心配がある。しかし角度1712を角度1711よりも小さくすることでその心配がなくなる。なお角度1711と角度1712を等しくすると第3の光学素子を出射した光の片方はx−z面においてZ軸に平行にすすむ。
もちろん第1の光学素子1701で左側に曲げられたものは、上記と鏡面対称の動きをし、x方向に進むことがなくなる。
【0116】
そして第4の光学素子1704は、実施例6の第4の光学素子1604と同様のものである。
【0117】
そして第5の光学素子1705は、実施例6の第5の光学素子1605と同様である。
こうして第5の光学素子から計8本のビームが出てくる。これを適当なピッチを持つマイクロレンズアレイに入射し、8個のフォトディテクタに当たるようにフォトディテクタを配置する。
上記の構成はあくまで組み合わせの一例であり、例えば
図22における第1の光学素子の領域2204と2205を入れ替えれた場合、
図23における第2の光学素子の領域2301と2302を入れ替え、
図24における第3の光学素子の領域2405と2406を入れ替え、
図26における第5の光学素子においてパターン2605と2606を入れ替えれば、同様の機能を実現することができる。
【実施例8】
【0118】
実施例8では、上記した実施例7に記載の構造について具体的な数字を算出する。
各光学素子を自己クローニング法で製造する際に用いる基板の厚さを0.5mmと設定する。
多層膜の厚さは無視する。
図27のように各光学素子を配置すると、z方向での長さが2.5mmとなる。また信号光と局部発振光の間の距離は、一般的なファイバアレイを想定し、0.5mmとする。ファイバアレイの先端にはレンズが取り付けられ、コリメートされた光ビームが出てくる。なお
図27と
図17は各光学素子に基板2706,2707,2708,2709,2710がついたものであり、各光学素子のパターンと機能は
図17と同じである。
すると第2の光学素子2702で光路が曲げられる角度2713は
となる。したがって第2の光学素子2702の周期は基板の屈折率を1.46、波長を1550nmとすると
となる。したがって第5の光学素子2705の周期は以下の通り4.31[μm]となる。
【0119】
第1の光学素子2701の周期は任意であるが、第2の光学素子2702と同じ周期とし、第3の光学素子2703はその倍の角度を実現するため周期4.31[μm]とすると、x−z面において第5の素子を出る時点で中心軸からプラス方向とマイナス方向それぞれ125.0[μm]、496.6[μm]の位置に4か所出てくることとなる。その4か所の光は2方向の光が合わさったものであり、出射後にはそれぞれ分離していく。その結果、8本の光線が得られる。
【0120】
上記寸法は一例であり、入射する光の構造内での広がりを鑑み、隣の光路と重ならないように設計をすることが肝要である。
【実施例9】
【0121】
本実施例では、
図28に示すように、実施例1の光学素子において、y方向において二つの領域2805、2806に分かれており、x方向の周期2804をD、それぞれのパターンのx方向におけるずれ量2807をΔDとする。第1の領域2805、第2の領域2806の同じx座標である第1の入射領域2808と第2の入射領域2809にそれぞれ別の円偏光のビームが入射する場合を考える。入射したビームは、
図28上面図のように、入射光2803がそのまま同じ偏光状態で直進する円偏光成分2801と逆回りとなって屈曲される円偏光成分2802とに分離される。直進する成分2801は、光素子の構造からの位相変化を受けていない成分であるため、入射したそのままの波面で出射する。入射した二本のビームの位相が等しければ、等しいまま出射される。その間の差に変化は生じない。
【0122】
一方、屈曲される成分2802は異なる振る舞いを示す。屈曲される成分は、入射した位置における波長板の軸方位によって位相変化が与えられる。
図28では同じビーム内でx座標が変わるに従って位相変化が与えられるため、出射するビームはX−Z面内で波面が傾けられ、入射方向とは異なる方向に屈曲される。その場合の波面の傾きは波長板の軸方位の変化量できまるため、第1及び第2の入射領域2808,2809どちらの場合でも等しい。つまり同じ方向にビームは進む。
【0123】
一方で、位相変化は入射した位置での波長板の軸方位で決まる。第1の入射領域2808と第2の入射領域2809に入射しビームでは同じx座標であってもビームの当たる部分の軸方位が異なるため、異なる位相を与えられることになる。具体的には一周期2804の間に軸方位がπラジアン変わるため、出射する光の位相は2πラジアン変化することを考えると、ΔD軸方位がずれた場合、ΔD/D×2πラジアン位相がずれる。例えばずれ量2807が一周期2804の1/4であった場合、第1の入射領域2808と第2の入射領域2809から出てくるビームの間には位相差π/2ラジアンの差が生じる。なお直進する成分については位相差は生じない。
【0124】
この考え方を用いると、
図15の光学素子1502と光学素子1503、
図16の1光学素子603と光学素子1604、
図17の光学素子1703と光学素子1704でビームを分離し、片方の光路に90度の位相差を与える機能を1枚の素子で実現することが可能となる。その詳細は実施例10において説明する。
【実施例10】
【0125】
まず、全体の構成を
図29に示す。構造が3次元であるため、x−z面での断面とy−z面での断面を示す。光は+z方向に進む。なお図中では各素子を分離して描いているが実際には基板の屈折率とほぼ等しい屈折率を持つ接着剤で固定され、一体のものとなる。
【0126】
第1の光学素子2901ではy方向に並んで2か所に光が入射し、+y側に信号光、−y側に局部発振光が入ることを想定する。そのパターンは
図18正面図に示すように上下で180度向きが異なり、信号光は上側の領域1804に、局部発振光は下側の領域1805に入射する。
【0127】
もちろん逆でもいい。なお入力される局部発振光はy軸に平行もしくは垂直な方向の直線偏光であることが望ましい。2か所の光は、y方向には入射位置がずれることとなるが、x方向の入射位置は一致している。
【0128】
入射光は多層膜に斜めに入射し、第3の光学素子2903で同じ位置になるように入射角度を調整する。
【0129】
そして第2の光学素子2902は、実施例9の光学素子と同様のものである。第2の光学素子のパターンは、
図30に示すものであり、その周期3004は、第1の光学素子2601で生じる角度2611の倍の角度で分離すると回路の対称性がよくなる。
【0130】
第二の光学素子では信号光と局部発振光をそれぞれ実施例で述べたように二本に分離し、かつ直進する光は信号光、局部発振光の間には位相差は生じず、屈曲される光については信号光と局部発振光の間に位相差90度が付加される。その場合、ずれ量3007が周期3004の1/4であることが肝要である。
【0131】
そして第3の光学素子2903は、実施例5の第3の光学素子1503と同様に1/4波長板を基本とする。
【0132】
同様に実施例6,7にこの考え方を適用し、必要な素子の枚数を減らすことができる。その構成を
図31,32に示す。これは
図16,17の構成を本実施例の考え方を用いて、光学素子1603と1604もしくは1703と1704の機能を1枚の光学素子3103もしくは3203にまとめたものである。パターンの向きは適宜、ビームが意図した位置に来るように選択すればよい。
【実施例11】
【0133】
コヒーレント光通信では偏波ごとに90度ハイブリッド回路があり、そこからは信号光と局部発振光を干渉させたもの一対と、それに対して信号光もしくは局部発振光の位相を90度ずらして干渉させた一対が出力される。各チャンネルに受光器で電気信号に変換した後に、その対ごとの差分を取ることで必要な信号成分を復元する。その差分を取る対は、本発明の
図15,16,17においておなじX座標でY方向に並んでいる二本のビームが相当するためXY平面に縦2列横4列で並んでいる受光器が必要となる。
【0134】
一方で既存技術の平面光回路を用いた場合、出力は縦1列横8列に並んでいる。したがって受光器並びにその後の電子回路もそれに応じた配列となっているため、本発明をそのまま同じ回路に適用することはできない。そこで縦2列横4列で出力されたビームを配列しなおすことを考える。
【0135】
図14の考え方を用いると3次元空間で光線を自由に任意の点に導くことができる。
図14に示すように本発明で用いるプリズムの位相差をπラジアンとした際、入力された円偏光は屈曲され逆回りの円偏光となって出力される。本発明の90度ハイブリッド部から出力されるビームはすべて円偏光であるため、ビームの方向を変えることができる。
図33のように、波長板のパターンが面内で異なる方向に、異なる周期で存在し、それぞれに円偏光のビームが入射する場合を想定する。第1の入射領域3301に入射するビームは、xz面内において角度3005で屈曲される。この角度は周期3303で決まる。一方で第2の入射領域3302に入射するビームは、yz面内において角度3306で屈曲される。その角度は周期3304で決まる。このパターンの方位、周期は様々な値に設定できる。したがって、こうした素子を複数枚重ねれば、ビームを折り曲げながら任意の位置に導くことができる。
【0136】
したがって、縦2列横4列の配列で入射したビームのそれぞれの場所でプリズムのパターンを制御すれば、ビームの進む方向を制御することができ、その面からある距離離れた面において、ビームの入射位置を1列に並べることも容易である。なお、並べなおす際は差分を取る信号同志を隣接させることと、差分を取る際のプラス側とマイナス側はプラス、マイナス、プラス、マイナス、、、と交互に並ぶことが、その後の電子回路の構成上望ましい。
【0137】
図34を用いて説明する。第1の光学素子3401は、例えば
図31における光学素子3104であり、信号光と局部発振光が干渉して8本のビームが出てくる。第2の光学素子3401から出たビームはy方向に二本ずつ重なっているため、+y方向から見ると4本に見える。同様にx方向から見ると二本に見える。これらに対して、第2の光学素子3402では、8本のビームが第3の光学素子3403で同じy座標の位置に来るように、それぞれのビームに角度を与える。一方で、第2の光学素子3402のおなじx座標に入射したビームは(y座標は異なる)、第3の光学素子3403で異なるx座標に入射するようにビームを屈曲させる。こうして第3の光学素子3403に8本のビームが同じy座標でx方向に一列に並んで入射する。第3の光学素子3403ではそれぞれのビームがz軸に平行になるように屈曲させる。このようにすることで一列に並んだ8本のビームを得ることができる。
【0138】
ビームの折り曲げ方は
図34の一通りではなく、素子のパターンでさまざまに制御できる。また光路を折り曲げるための素子の枚数においても2枚に限定されるわけではない。
【実施例12】
【0139】
コヒーレント光通信において信号を復元する際、受光器のS/N特性などを考慮して、受光器に入る光量を特定のレベルに制御した方が望ましい場合が多い。局部発振光の光量は制御できるが、信号光は通信経路の状況により時々刻々と変化する。したがって、信号光の受光器に入る光量を一定に保つための可変減衰器を用いることが望まれる。
【0140】
液晶を用いた可変減衰器の基本原理を
図35を用いて説明する。第1の光学素子3501は、符号3503に示すパターンを持つ波長板であり、光が入射した場合xz面内で右回りと左回りの円偏光に分離する。その片方の進む様子をx方向から見たものが
図35の側面図である。第1の光学素子3501を出射した光は逆回りの円偏光になって液晶可変リターダ3502に入射する。
【0141】
液晶分子は配列されることで複屈折を発現し、印加する電圧によってそのリタデーションを制御することができる。複屈折を持つ素子に円偏光を入れると、複屈折の大きさが0の場合は変化しない。複屈折の大きさがπ/2ラジアンであれば直線偏光に、複屈折の大きさがπラジアンの場合は逆回りの円偏光となって出力される。その間の偏光状態も印加する電圧によって制御できる。
【0142】
ここで液晶可変リターダ3502に印加される電圧によって、偏光状態は変化する。なお任意の偏光状態は右回りと左回りの円偏光の線形和として表現できるため、偏光状態の変化は右回り円偏光と左回り円偏光の割合が変わると考えることができる。したがって偏光状態が変化した光が第2の光学素子3503に入射した場合、右回り円偏光の成分は第1の方向3505に屈曲され、左回り円偏光の成分は第2の方向3506に分離される。その比は液晶可変リターダ3502のリタデーションで決まる。なお液晶可変リターダ3502には円偏光が入射するため、リタデーションの方位はどの方向でもいい。
【0143】
本発明の構成の場合、
図16、
図17、
図31、
図32の構成において第1の光学素子1601、1701、3101、3201を透過した信号光、局部発振光は右回りと左回りの円偏光に分離されている。ここで信号光のみに液晶を用いた可変リターダを入れる。
【0144】
例えば
図31の第1の光学素子3101の直後に、信号光側にのみ可変リターダを挿入した場合について
図36を用いて説明する。符号3621が液晶リターダである。y−z図に示すように信号光の光路のみに挿入される。
【0145】
ここで可変リターダのリタデーションが0であれば、すべての入力光は次の第2の光学素子3602で光路が曲げられ、第4の光学素子3604上の局部発振光と重ね合わされる点へ向かう。ここで可変リターダのリタデーションがθの場合、可変リターダに入力した信号光のそれぞれの偏光の光量を1とすると、cos
2(θ/2)の光量が第4の光学素子3604上の局部発振光と重ね合わされる点へ向かう。残りの成分は符号3622の方向に進む。θ=π/2ラジアンの場合、半分の光量が局部発振光と重ね合わされる点へ進み、θ=πラジアンの場合は局部発振光と重ね合わされる点へ光は進まない。
このように信号光の受信器へ向かう光量を可変に制御することができる。
これは
図16,17,32においても同様の位置で同じ機能を実現できる。
【0146】
液晶可変リターダは用いる液晶分子の種類、配向の仕方によって電圧印加の有無とリタデーションの大小には様々な形態が選択できる。本発明では特定の形態でしかできないわけではなく、リタデーションが制御できればどの形態でもよい。都度制御性、消費電力等を見据え最適な素子を用いればよい。
また可変リターダは液晶だけではなく、光弾性効果を用いたものであってもよい。
【実施例13】
【0147】
例えば実施例1に記載の素子を
図3の様に用いることで、入力光301,304を干渉させた出力光302,303を得ることができる。
【0148】
また、入力光301,304の波長(周波数)が微妙に異なる場合は、その周波数差に応じたビートで出力が変動する。
【0149】
図37上に示すように、光源3701から同じ波長の光が2本出て、1本は測定対象3702に照射され、そこで反射された光3705が帰ってきて、計測器3703に入る。光源3701から出力されたもう一本の光3704はそのまま計測器3703に入る。計測器3703の内部には
図3のように二つの入力部分があり、例えば
図3に示した符号304の入力光が、
図37に示した第1の入力光3705に相当し、
図3に示した符号301の入力光が、
図37に示した第2の入力光3704に相当する。なお、前述したとおり、本発明の光学素子306に入射した2本の光は、光路302,303にそれぞれ分離し、互いに干渉する。
【0150】
こうした光学系で光源3701から出る光に周波数変調をかける。
図37中のように時間とともに周波数を例えば三角波状に変化させる。光路3704の変調の様子を符号3711とし、光路3705の変調の様子を符号3712とすると、2つの入力光3704,3705の光路長差によって時間差3713が生じる。その結果、二つの光を干渉させるとビートが生じる。そのビートの周波数に距離は比例する。
【0151】
一方で、測定対象3702が動いている場合、その速度によって変調周波数がドップラーシフトの影響を受け、周波数差3714を生じる。
【0152】
干渉によって得られる周波数差(ビート)を
図37下に示す。測定対象が動いてなければ、3721と3722は一致する。動いていれば図のようにずれが生じる。
【0153】
したがって符号3721と符号3722の平均値f
avgが距離に比例し、符号3721と符号3722の差f
subが速度に比例する。光の速度をc、周波数の1秒当たりの変化量をΔf、光の周波数をf0とすると、測定対象までの距離rとその速度vは、以下の式から求められる。
r=c÷2×Δf×f
avg
v=c÷4×f0×f
sub【0154】
これはFM−CW(Frequency Modulated Continuous Wave:周波数変調連続波)レーダと呼ばれる電波を用いたレーダの一般的な技術である。
【0155】
基本は
図3に示すような干渉回路であるが、入力光の偏光状態が不明な場合は
図29の2901の素子を置いて偏光分離してから干渉してもよく、光路も本発明の技術を用いて自由に制御することができる。