【文献】
石井要次、ほか,頭部伝達関数データベースの比較 −スペクトラルピークノッチ周波数及び耳介形状パラメータの分析−,日本音響学会講演論文集,日本,2014年 9月,pp. 615 - 618
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ユーザに関連する前記聴覚伝達関数は、前記耳音響放射に関連する前記周波数の聴覚閾値、前記耳音響放射に関連する振幅、前記耳音響放射に関連する前記周波数の位相シフト及び前記耳音響放射に関連する前記周波数のレイテンシのいずれかより導出される、請求項1に記載のシステム。
前記プロセッサは、さらに、前記コンテンツオーディオ信号の位相及び前記コンテンツオーディオ信号のレイテンシのいずれかを、前記所望の聴覚伝達関数と前記ユーザに関連する前記聴覚伝達関数との差を自動的に補償するように調節するよう構成されている、請求項1又は2に記載のシステム。
前記プロセッサは、前記ユーザに関連する前記聴覚伝達関数及び人間聴覚プロファイルに関するデータを表す前記統計情報に基づいて、前記オーディオ信号を調節するように構成されている、請求項6又は7に記載のシステム。
前記プロセッサは、前記ユーザに関連する前記聴覚伝達関数を、外部データベースから又は外部データベースへと送信するように構成されている、請求項6〜9のいずれか1項に記載のシステム。
前記プロセッサは、さらに、前記聴覚伝達関数内の周波数のサブセットに関連する前記聴覚伝達関数を精緻化することによって、前記ユーザに関連する前記聴覚伝達関数を連続的に精緻化するように構成されている、請求項6〜12のいずれか1項に記載のシステム。
前記聴覚伝達関数は、前記オーディオ信号に対する前記ユーザの聴覚感度に関連する前記客観的測定における周波数の振幅、前記客観的測定に関連する前記周波数の聴覚閾値、前記オーディオ信号に対する前記ユーザの聴覚感度に関連する前記客観的測定における前記周波数の位相シフト及び前記オーディオ信号に対する前記ユーザの聴覚感度に関連する前記客観的測定における前記周波数のレイテンシのいずれかより導出される、請求項14に記載の方法。
種々異なるユーザの耳の違い及びイヤホンの配置の違いを考慮するように、前記スピーカのインサイチュ較正を実行するステップをさらに含んでいる、請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
前記オーディオ信号に対する前記ユーザの聴覚感度に関連する前記客観的測定を行う前記ステップは、前記ユーザが前記オーディオ信号を聞いている間に、脳電図(EEG)信号を記録するステップを含んでいる、請求項14〜18のいずれか1項に記載の方法。
前記聴覚伝達関数を決定する前記ステップは、音響過渡後における前記EEG信号を分析するステップであって、それにより前記聴覚伝達関数の高周波数部分を決定するステップを含んでいる、請求項19又は20に記載の方法。
前記客観的測定を行う前記ステップは、前記ユーザが前記オーディオ信号を聞いている間に、耳音響放射を測定するステップを含んでいる、請求項14〜19のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
用語
本出願を通じて使用される用語、略語及び成句の簡単な定義を、以下に示す。
【0011】
「理想的な聴覚」は、可聴周波数スペクトルにわたって一定の振幅が音声刺激として提供される際の、若くオントロジー的に正常な耳の可聴周波数スペクトルにわたる知覚の平均レベルである。
【0012】
「所望の聴覚」は、可聴周波数スペクトルにわたって一定の振幅が音声刺激として提供される際の、可聴周波数スペクトルにわたる知覚の所望のレベルである。所望の聴覚プロファイルは、任意に設定されることができ、理想的な聴覚プロファイルとして設定されてもよく、そのように設定されなくてもよい。
【0013】
「正常な聴覚」は、理想的な聴覚の近傍の範囲である。多くの人々が「正常な聴覚」を有していると考えられている。これは、そのような人々の聴覚感度が、周波数全体にわたって理想的な聴覚である15〜20dBの範囲内にあることを意味している。
【0014】
「聴覚伝達関数」は、所与の入力周波数と、入力オーディオ信号に関連する対応する入力振幅とを、該所与の入力周波数の知覚される振幅と相関させる。
【0015】
「聴覚プロファイル」は、人の聴覚伝達関数を推定することが可能な、人の聴力についての測定値のセットを含む。
【0016】
「オーディオチャンネル」は、1つのソース又は別々のソースから来る別々のオーディオ信号である。複数のオーディオチャンネルは、組み合わせて同じスピーカを通じて再生することもでき、別々のスピーカから再生することもできる。
【0017】
「人間聴覚プロファイルに関するデータを表す統計情報」すなわち「統計情報」は、多くの人々の聴覚プロファイルに関する統計の集合である。統計情報は、1つ以上の周波数での人間聴覚プロファイルの平均、1つ以上の周波数での人間聴覚プロファイルの標準偏差、個々の聴者の聴覚プロファイル又は聴覚伝達関数、及び、客観的聴覚データ又は主観的聴覚データのタイプ間における相関性のうち1つ以上を含む。
【0018】
本明細書における「一実施形態」又は「実施形態」への参照は、その実施形態に関連して記載された特定の特徴、構造又は特性が、本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。本明細書の様々な箇所において「一実施形態では」という句が現れた場合、必ずしも全てが同じ実施形態について参照しているわけではなく、全てが他の実施形態と相互排他的な別個の又は代替の実施形態について参照しているわけでもない。さらに、記載される様々な特徴は、いくつかの実施形態によって示され得るが、他の実施形態によっては示され得ない。同様に、記載される様々な特徴は、いくつかの実施形態の要件であり得るが、他の実施形態の要件ではあり得ない。
【0019】
文脈が明確に他を求めない限り、明細書及び特許請求の範囲を通じて、単語「含む」、「含んでいる」又はそれに類する単語は、排他的又は網羅的な意味ではなく、包括的な意味(換言すれば、「含むが、これに限定されない」という意味)で解釈されるものとする。本明細書で使用される場合、用語「接続」、「結合」又はその任意の変形は、2つ以上の要素間における、直接的又は間接的な任意の接続又は結合を意味する。要素間の結合又は接続は、物理的、論理的又はそれらの組み合わせであり得る。例えば、2つのデバイスは、直接的に結合されてもよく、1つ以上の中間チャンネル又はデバイスを介して結合されてもよい。別の例としては、複数のデバイスは、互いに物理的な接続を共有せずに、デバイス間で情報を受け渡し可能となるように結合されてもよい。さらに、本明細書で使用される場合、単語「本明細書」、「上記」、「下記」及び類似の意味の単語は、本出願全体を参照するものとし、本出願の特定部分には参照しないものとする。文脈が許容する限り、詳細な説明中における単数又は複数の数字を使用する単語は、それぞれ複数又は単数を含んでいてもよい。2つ以上の項目の列挙に関連する単語「又は」は、該単語について以下の解釈の全てを網羅する:列挙内の項目のいずれか、列挙内の項目の全て及び列挙内の項目の任意の組み合わせ。
【0020】
本明細書において、構成要素又は特徴を「含んでもよい」、「含むことができる」、「含み得る」若しくは「含むことが可能であり得る」、又は、構成要素又は構成要素がある特性を「有していてよい」、「有するができる」、「有し得る」若しくは「有することが可能であり得る」と記載されている場合、その特定の構成要素又は特徴は含まれている必要はなく、又は、その特性を有している必要はない。
【0021】
用語「モジュール」は、ローカルで実行されるソフトウェア、クラウドで実行されるソフトウェア、ハードウェア又はファームウェアコンポーネント(又はそれらの任意の組み合わせ)を広く参照する。モジュールは、典型的には、規定された(1つ以上の)入力を使用して有用なデータ又は他の出力を生成することが可能な機能コンポーネントである。モジュールは自己完結型であってもよく、なくてもよい。アプリケーションプログラム(「アプリケーション」とも称する)が1つ以上のモジュールを含んでいてもよく、モジュールが1つ以上のアプリケーションを含んでいてもよい。
【0022】
詳細な説明において使用される用語は、特定の例と併せて使用されていたとしても、その用語の最も広く合理的な方法により解釈されることが意図されている。本明細書において使用される用語は、概して、本開示の文脈の範囲内で、かつ各用語が使用される具体的な文脈において、当技術分野における通常の意味を有する。便宜上、例えば、大文字、イタリック体及び/又は引用符を使用して、特定の用語又は要素を強調表示することがある。強調表示の使用は、用語の範囲及び意味には影響を与えない。同じ文脈では、用語が強調表示されているか否かにかかわらず、用語の範囲及び意味は同じである。同じ要素が複数の方法で記述され得ることは理解されよう。
【0023】
したがって、代替の言い回し及び同義語は、本明細書にて論じる用語の任意の1つ以上に使用され得るが、本明細書において用語を詳述する又は論じるか否かについては、特別な意義はない。1つ以上の同義語の参照は、他の同義語の使用を排除するものではない。本明細書の任意の箇所における例(本明細書にて論じる任意の用語の例を含む)の使用は、単なる例示であり、本開示又は例示の用語の範囲及び意味をさらに限定することを意図するものではない。同様に、本開示は、本明細書にて与えられた様々な実施形態には限定されない。
【0024】
ヘッドホン
図1は、一実施形態に係る、乾式電極又は容量式センサと、スピーカと、信号処理モジュールを含む電子モジュールとを含むヘッドホンのセットを示す。ヘッドホン10のセットは、スピーカ12及び14を含んでいる。スピーカ12及び14は、スピーカ12及び14をユーザの両耳の近くに位置させるために、カップ16及び18内に設置されている。2つのカップ16及び18は、調節可能なヘッド支持部材20に結合されている。カップ16及び18の後方には、電気/電子モジュール及びインタフェースユニットを収容するハウジング22及び24が設置されている。電気/電子モジュール及びインタフェースユニットの機能については、後に説明する。加えて、ヘッドホン10は、ユーザの頭と接触するように配置された乾式電極又は容量式センサ26,28及び30を含み、これにより、スピーカ12及び14を通じてユーザの耳の一方又は両方に与えられる聴覚刺激に応じてユーザにより生成される聴覚誘発電位を測定する。ヘッドホン10は、外部マイク32及び34をさらに含み得る。
【0025】
図2は、一実施形態に係る、ヘッドホン10の各ハウジング22及び24内に設置された電気コンポーネントを示す概略図である。電子モジュール40は、信号処理モジュール42と、有線又は無線接続60及び62(オーディオ入力ジャック又はBluetoothモジュールなど)と、ノイズキャンセリングのための外部マイク32,34とを含む。信号処理モジュール42は、外部のデジタル又はアナログ装置とのインタフェースを取るためのアナログ−デジタル及び/又はデジタル−アナログ変換器48〜54をさらに含み、併せて、信号処理モジュール42に電力を供給する電源56をさらに含む。信号処理モジュール42に相互接続されているものとしては、外部マイク32及び34のためのインタフェースと、デジタル又はオーディオアナログ信号入力を受信するための有線又は無線接続60と、デジタルデータ転送のための有線又は無線接続62とが挙げられる。これらは、例えば、信号処理モジュール42のメモリ46内に保持された格納設定を変更してプロセッサ44の動作を制御したり、スマートフォンに表示するための聴力測定データを出力したりするために、信号処理モジュール42に相互接続されている。有線接続はフォーンジャックであり得、無線接続はBluetoothモジュールであり得る。この例示的な実施形態では、外部マイク32及び34は、信号処理モジュール42によって使用されており、それによって、ノイズキャンセリング動作において使用するための周囲ノイズを記録する。しかしながら、他の実施形態では、信号処理モジュール42は、マイクによって記録された周囲ノイズが大きすぎる場合には、結果を除外してもよい。
【0026】
乾式電極又は容量式センサ26,28及び30は、アナログ−デジタル変換器54を介して相互接続される。スピーカ12及び14は、デジタル−アナログ変換器52及びアンプによって、信号処理モジュール42に相互接続される。任意には、内部マイク64は、ヘッドホン10の動作の較正のために設けられる。
【0027】
信号処理モジュール42はまた、聴力測定データ66を有線又は無線接続62を介して受信するように適合される。聴力測定データ66は、周波数範囲にわたるユーザの可聴閾値又は等ラウドネス曲線を特徴付ける。1つ以上の実施形態では、聴力測定データ66は、外部ソースによって提供されてもよく、例えば、聴力図検査の結果が、聴覚医によって提供されてもよい。聴力測定データ66は、有線又は無線接続62を介して信号処理モジュール42内に入力され得る。
【0028】
任意には、ユーザがラウドスピーカ12及び14によって提供される聴覚刺激を知覚したことに応答して、ユーザがプロセッサ44への入力信号を生成することができるように、ボタン68のようなユーザ制御器がヘッドセット10に設けられてもよい。
【0029】
図3は、一実施形態に係る、
図1に示されたものとは別の配置を示す。ユーザの耳の一方の外耳道内に設置されるように適合されたイヤホン70の配置は、2つのスピーカ84及び86と、内部マイク82と、任意の外部マイクとを含む。イヤホン70は、
図1に示されるヘッドセット10のハウジング22及び24内に設置されたものと同様の電子モジュール72に接続されている。
【0030】
図4Aは、一実施形態に係る、
図3に示されるイヤホン70の配置の電気及び電子コンポーネントの概略図である。電子モジュール72は、信号処理モジュール74と、有線又は無線接続76及び78(音声入力ジャック又は無線モジュールなど)と、ノイズキャンセリングのためのオプションの外部マイク80を含む。較正のため及び耳音響放射(OAE)の測定のための内部マイク82は、イヤホン70の一部を形成するラウドスピーカ84及び86と同様に、イヤホン70に共同設置される。この配置では、歪成分耳音響放射の測定を可能にするために、耳1つに対して2つのスピーカが含まれている。歪成分耳音響放射(DP−OAE)は、外耳道内に送られる所与の周波数及び音圧レベルの2つのトーンに応じて、蝸牛内に生成される。DP−OAEは、正常に機能する蝸牛外有毛細胞の客観的指標である。他の種類の耳音響放射は、外耳道1つに対して1つのスピーカだけを必要としてもよい。
【0031】
処理ユニット74は、処理ユニットの動作を実行するためのプロセッサ88と、プログラム実行中にプロセッサ88によって使用されるプログラミング命令及びデータを格納するためのメモリ90と、処理ユニット74内の種々の電子コンポーネントに電力を供給するための(バッテリーのような)電源92とを含むと共に、処理ユニット74が外部マイク80、内部マイク82並びにスピーカ84及び86のような種々のデバイスとインタフェースをとることを可能にするためのアナログ−デジタル又はデジタル−アナログ変換器94,96及び98を含む。加えて、処理ユニット74は、聴覚医によって提供される聴力図検査の結果のような外部ソースから有線又は無線接続78を介して聴力測定データ100を受信するように適合されている。
【0032】
図4Bは、一実施形態に係る、歪成分耳音響放射を測定するためのプローブの概略図を示す。DP−OAEプローブ1は、2つのバランスドアーマチュアスピーカであるウーファー2及びツイーター3と、マイク9とを含む。マイク9は、プリアンプ4とアナログ−デジタル変換器5に接続されている。スピーカ2及び3は、デュアルチャンネルのヘッドホンアンプ6に接続されており、デュアルチャンネルのヘッドホンアンプ6は、デュアルチャンネルのデジタル−アナログ変換器7に接続されている。変換器5及び7は、デジタル信号プロセッサ8に接続されており、デジタル信号プロセッサ8は、テストモードにおける刺激ラウドネス、再生イコライゼーション(所望の場合)及び2つのレシーバに対するデジタルクロスオーバーを制御するためにイコライゼーションを提供する。本発明の実施形態は、各耳にプローブを1つずつ含む。
【0033】
図4Cは、一実施形態に係る、
図4Bの各スピーカの周波数応答を示す。ウーファー2及びツイーター3はいずれも、標準的な聴覚検査における周波数及びラウドネス範囲にわたって、約250Hz〜8000Hzにて最大80dB音圧レベル(SPL)の十分なラウドネスによる刺激を生成可能である。両方のスピーカ2及び3をクロスオーバーと共に再生モードで使用すると、周波数範囲について優れたカバー範囲が得られるようになる。このデータは、市販のKnowles HODVTEC-31618-000及びSWFK-31736-000レシーバのデータシートに適合している。
【0034】
図4Dは、一実施形態に係る、
図4Bのプローブを使用して、ユーザに関連する聴覚伝達関数及び/又は聴覚プロファイルを測定するためのデジタル信号処理アルゴリズムのフローチャートである。ステップ11では、デジタル信号プロセッサ8(
図4Bに示す)は、オーディオ入力を受信する。オーディオ入力は、テストオーディオ信号、及び/又は、音楽、発話、環境音、動物音等のようなオーディオコンテンツを含むオーディオ再生信号であってもよい。オーディオ信号は、アナログ又はデジタルの有線又は無線オーディオインタフェース76(
図4Aに示す)を介して入力され得る、又は、メモリ90(
図4A)及び/又はメモリ46(
図2)内に格納され得る。ステップ13では、プロセッサ8は、モードがテストモードであるか再生モードであるかを決定する。ステップ15では、このモードがテストモードである場合、プロセッサ8は、オーディオ入力に対して、ウーファー2(
図4B)及びツイーター3(
図4B)にそれぞれ対応する第1及び第2フィルタを適用する。一実施形態では、第1及び第2のフィルタは、無操作フィルタ、又は、較正されたテスト刺激をスピーカ2及び3に再生させる、スピーカからのフラットな周波数応答を提供するフィルタである。
【0035】
ステップ17では、このモードが再生モードである場合、プロセッサ8は、オーディオ入力に対して、ウーファー2及びツイーター3にそれぞれ対応する第3及び第4のフィルタを適用する。一実施形態では、第3及び第4のフィルタはローパスフィルタ及びハイパスフィルタをそれぞれ含み、デジタルクロスオーバーを生成する。ステップ19では、プロセッサ8は、オーディオ信号を(
図4Bの)デジタル−アナログ変換器7に送信する。当業者であれば、切り替え可能なクロスオーバーを適用する方法には多くのバリエーションがあり、それらはデジタルに又は電子的に行われ得ることを認識するであろう。
【0036】
図5は、一実施形態に係る、
図2及び
図4に示された信号処理モジュールによって実行される信号処理操作を示すフローチャートである。ステップ110では、各メモリ46及び/又は90は、ユーザの各耳についての聴覚伝達関数のコピーを格納する。ステップ112では、各メモリ46及び/又は90は、聴覚伝達関数の正確性及び完全性の推定値をさらに格納し、ステップ114では、各メモリ46及び/又は90は、聴力伝達関数に適用されることになる補正度合いについてのユーザの嗜好を格納する。別の実施形態では、メモリ46及び/又は90は、種々の必要な情報を格納するリモートデータベースであり得る。
【0037】
ステップ116では、各プロセッサ8,44又は88は、ヘッドセット10又はイヤホン1,70のいずれかのスピーカによって再生されることが望ましい音に対応するオーディオ信号を受信する。任意には、ステップ118において、入力オーディオ信号が外部マイク32,34及び/又は80によって受信され、ステップ120では、ステップ116にて入力されたオーディオ信号上における周囲ノイズの影響を最小にするために、プロセッサ8,44及び/又は88がノイズキャンセリング機能を実行する。
【0038】
ステップ122では、プロセッサ8,44及び/又は88は、格納された聴覚伝達関数、格納された聴覚伝達関数の正確性及び完全性の推定値、及び、任意には聴力伝達関数に適用されることになる補正度合いについてのユーザの嗜好を使用して、それにより振幅及び位相について周波数特異的な調節を行い、ユーザの聴覚伝達関数を自動的に補償する。
【0039】
いくつかの状況では、この補正は、音を完全に補正することを試みる必要はない。例えば、聴覚伝達関数の正確性又は完全性が低い場合、後述するように、又はユーザの嗜好に従って、部分的な補正のみが適用されてもよい。プロセッサ8,44、又は88はまた、ユーザによって危険な大音量であると知覚され得る音出力信号を制限するように構成されてもよい。
【0040】
ステップ122では、プロセッサ8,44及び/又は88は、ユーザが理想的な聴覚及び/又は所望の聴覚を有するかのように入力オーディオ信号を知覚するよう、入力オーディオ信号を修正する。プロセッサ8,44及び/又は88は、入力オーディオ信号の振幅、位相、レイテンシ等を修正し得る。所与の周波数にて変化する振幅に対する人間の耳の応答は線形ではないため、プロセッサ8,44及び/又は88は、入力オーディオ信号をどのように修正するかにつき、複数の方法にて決定し得る。
【0041】
本明細書に記載の様々な実施形態では、所望の聴力は、ユーザによって設定され得る。例えば、ユーザは、低周波数、中間周波数又は高周波数のような特定の周波数範囲を増幅させるように規定し得る。別の例では、ユーザは、低周波数、中間周波数又は高周波数のような特定の周波数範囲を減衰させるように規定し得る。増幅及び減衰は、独立して又は同時に起こり得る。
【0042】
一実施形態によれば、ステップ126では、プロセッサ8,44及び/又は88は、複数の人々に関連する複数の聴覚プロファイルを受信する。複数の聴覚プロファイルは、有線又は無線接続62(
図2)及び/又は78(
図4A)を介して受信され得る、又は、メモリ46(
図2及び/又は90(
図4A)に格納され得る。複数の聴覚プロファイル中の1つの聴覚プロファイルは、人に関連する聴覚伝達関数と、入力周波数に関連する入力振幅が変化する際における該入力周波数の知覚される振幅とを含む。
【0043】
プロセッサ8,44及び/又は88は、ユーザに関連する聴覚伝達関数と厳密に一致する1つ以上の類似の聴覚プロファイルを発見する。この類似の聴覚プロファイルに基づいて、プロセッサ8,44及び/又は88は、ユーザが理想的な聴覚及び/又は所望の聴覚を有するかのように入力オーディオ信号を知覚するよう、入力オーディオ信号をどこまで変化させるかを決定する。
【0044】
例えば、ユーザに関連する聴覚伝達関数は、1000Hzを70dBで含む入力オーディオ信号が該ユーザには25dBを有すると知覚され、その一方で2000Hzを70dBで含む入力オーディオ信号が該ユーザには50dBを有すると知覚されることを規定する。プロセッサ8,44及び/又は88は、複数の聴覚プロファイルから類似の聴覚プロファイルのセットを決定する。ここで、類似の聴覚プロファイルは、1000Hzを2000Hzよりもおよそ25dB(すなわち、20dB〜30dB)弱く知覚する人に関連するものである。これらの聴覚プロファイルは、70dBでの1000Hzの入力信号の振幅が70dBでの2000Hzの入力信号の振幅と同じであると該人が知覚するために、1000Hzの信号に対して必要な修正振幅に関する情報を含む。一実施形態によれば、プロセッサ8,44及び/又は88は、これらの類似の聴覚プロファイルに関連する修正振幅を平均し、それによって該ユーザに関連する修正振幅を得る。プロセッサ8,44及び/又は88は、ステップ122において、それに応じて入力信号を修正する。
【0045】
別の実施形態によれば、ユーザに関連する聴覚伝達関数は、1000Hzを70dBで含むオーディオ信号が、該ユーザには45dBを有すると知覚されることを規定する。プロセッサ8,44及び/又は88は、人が1000Hzを入力振幅よりも約25dB弱いと知覚する聴覚プロファイルのセットを決定する。これらの聴覚プロファイルは、70dBでの1000Hzの入力信号が70dBであると該人が知覚するために、1000Hzの信号に対して必要な修正振幅に関する情報を含む。一実施形態によれば、プロセッサ8,44及び/又は88は、これらの聴覚プロファイルに関連する修正振幅を平均し、それによって該ユーザに関連する修正振幅を得る。プロセッサ8,44及び/又は88は、それに応じて入力信号を修正する。
【0046】
別の実施形態では、プロセッサ8,44及び/又は88は、複数の人々に関連する複数の聴覚プロファイルを受信しない。代わりに、プロセッサは、単一の周波数にて変化する振幅を含む入力オーディオ信号を再生することによって、ユーザに関連する聴覚プロファイルを測定する。入力オーディオ信号は、生成されたテストオーディオ信号、及び/又は、音楽、発話、環境音、動物音等を含むコンテンツオーディオ信号であり得る。例えば、入力オーディオ信号は、テストオーディオ信号が埋め込まれたコンテンツオーディオ信号を含み得る。
【0047】
この場合、例えば、ユーザに関連する聴覚伝達関数は、1000Hzを70dBで含む入力オーディオ信号が該ユーザには60dBを有すると知覚され、その一方で1500Hzを70dBで含む入力オーディオ信号が該ユーザには50dBを有すると知覚されることを規定する。該ユーザに関連する聴覚プロファイルは、該ユーザが等ラウドネスで1000Hz及び1500Hzを知覚するために、1500Hzにて10dBのラウドネスの相対的増加が必要であることを規定する。したがって、プロセッサ8,44及び/又は88は、ステップ122において、それに応じて入力信号を修正する。
【0048】
一実施形態によれば、ステップ126では、プロセッサ8,44及び/又は88は、人間聴覚プロファイルに関するデータを表す統計情報を受信する。統計情報は、有線又は無線接続62(
図2)及び/又は78(
図4A)を介して受信され得るか、メモリ46(
図2)及び/又は90(
図4A)内に格納され得る。例えば、人間聴覚プロファイルに関するデータを表す統計情報は、1つ以上の周波数における人間聴覚プロファイルの平均及び標準偏差を含み得る。また、統計情報は、複数の客観的聴覚データ又は主観的聴覚データのタイプ間の相関を含んでいてもよい。
【0049】
統計情報に基づいて、プロセッサ8,44及び/又は88は、ユーザに関連する聴覚伝達関数と厳密に一致する1つ以上の類似の聴覚プロファイルを決定する。例えば、統計情報に基づいて、プロセッサは、ユーザに関連する聴覚伝達関数に類似する複数の聴覚プロファイルを構築する。この類似の聴覚プロファイルに基づいて、プロセッサ8,44及び/又は88は、ユーザが理想的な聴覚及び/又は所望の聴覚を有するかのように入力オーディオ信号を知覚するよう、入力オーディオ信号をどこまで変化させるかを決定する。
【0050】
様々な実施形態では、プロセッサ8,44、及び/又は88は、ユーザがオーディオを聴き続けるにつれて、ユーザに関連する聴覚伝達関数を改善し続ける。
【0051】
プロセッサ8,44、又は88からの修正されたオーディオ信号は、ステップ124においてラウドスピーカ12及び14又は84及び86へと出力され、それによってユーザの耳の一方又は両方に対して聴覚刺激を生成する。
【0052】
メモリ46又は90内に格納された聴覚伝達関数は、複数の方法において生成されてもよく、すなわち、主観的測定、音響放射(OAE)、聴覚誘発電位(AEP)又は中耳反射のような他の客観的テストによって生成されてもよい。
【0053】
主観的測定
聴覚士によって又はコンピュータプログラム等によって実行される聴力測定は、外部ソースから信号処理モジュール42及び74へと提供され得る。
【0054】
あるいは、ボタン68又はヘッドホン10上における他のユーザ制御は、音信号に応じてユーザが該ボタンを押すことにより聴覚閾値データを直接取得するために、ユーザにより使用され得る。例えば、可聴周波数範囲にわたって種々異なる周波数における増加又は減少した振幅にて、聴覚刺激がユーザによって再生され得る。それぞれ種々異なる周波数について、聴覚刺激がユーザの聴覚閾値にある又はそれに近い場合には、ユーザはヘッドホン10のボタンを押して、それによりユーザ生成入力信号を提供する。
【0055】
簡便な精神物理学的試験としては、ユーザが聴覚の可聴閾値を決定するために対話を行う(interact with)純音聴力検査が挙げられる。あるいは、テストは、同じラウドネスであるが異なる周波数にて行われ得る(すなわち「等ラウドネス曲線」テスト)。
【0056】
耳音響放射(OAE)
耳音響放射は、ユーザの外耳道内で測定され得る。この耳音響放射は、その後、ユーザの(1つ又は複数の)耳の周波数依存の聴力伝達関数を発展させるため、複数の周波数における閾値の、又は、複数の周波数における耳音響放射の、1つ以上の閾値を超える音レベルに対する相対振幅を決定するために使用され得る。刺激周波数OAE、スイープ音OAE、過渡誘発OAE、DP−OAE又はパルスDP−OAEが、この目的のために使用され得る。
【0057】
測定されたOAEの振幅、レイテンシ、聴覚閾値及び/又は位相は、ユーザの各耳についての周波数依存の聴覚伝達関数を発展させるため、正常な聴覚の聞き手及び聴覚障害のある聞き手からの応答範囲と比較され得る。
【0058】
DP−OAEは、2つの別々のスピーカ/レシーバが各外耳道内に詰め込まれた密閉外耳道内にて最も良好に測定されるため、OAEの使用は、
図3及び
図4に示されるイヤホンの実装に最も適している。
【0059】
OAEの場合、刺激周波数/ラウドネスの組み合わせ1つによって、応答振幅が得られる。このようにして複数の周波数を測定することにより、応答振幅対周波数のプロットが得られる。このプロットは、信号処理モジュール42又は74のメモリ46又は90内に格納されるか、リモートデータベースに格納され得る。多くのOAE技術は、刺激毎に1つの周波数を測定することに依存している。もっとも、スイープ音OAEは、スイープの範囲内における全ての周波数を測定する。それにもかかわらず、聴覚伝達関数は、使用される測定方法にかかわらず常に同じである。すなわち、聴覚伝達関数は、入力オーディオ信号を与えた際にユーザの耳に誘発されるOAEの、信号振幅対周波数のプロットを含む。また、聴覚伝達関数は、入力周波数に関連する入力振幅をも含み得る。
【0060】
この例示的な実施形態では、ユーザの耳についての聴覚伝達関数を決定するため、プロセッサ8,44及び/又は88は、いくつかの周波数、例えば、500、1000、2000及び4000Hzを含む入力音信号のデータ点を捕捉する。これらのデータ点は、典型的には、ラウドスピーカ12及び14,84及び86,2及び3への出力オーディオ信号に作用するイコライザで使用される同じ周波数である。いずれの周波数においても、プロセッサは、例えば70dB、60dB、50dB、40dB等のようにレベルを低減して、測定可能な応答がなくなるまで、入力オーディオ信号に対する応答を測定する。プロセッサ8,44及び/又は88は、その時点でデータ点を記録する。他の実施形態では、カーブフィッティング又は単一のラウドネスレベルでのプロファイル測定のような種々異なる方法が、聴覚伝達関数を決定するために使用され得ることが理解されよう。入力オーディオ信号は、テストオーディオ信号、及び/又は音楽、発話、環境音、動物音等を含むコンテンツオーディオ信号を含み得る。例えば、入力オーディオ信号は、テストオーディオ信号が埋め込まれたコンテンツオーディオ信号を含み得る。
【0061】
ユーザの外耳道に対するスピーカのインサイチュ較正は、OAE測定を行う前に、プロセッサ8,44及び/又は88によって実行され得る。この文脈において、「インサイチュ」とは、スピーカ及びマイクが外耳道内で使用するために配置されている時に行われる測定を示す。スピーカの音響特性が既知である場合には、耳の音響インピーダンスを該データから計算し、補正を導出するために利用することができる。
【0062】
1つ以上の実施形態では、インサイチュ較正は、テストオーディオ信号(例えば、チャープ信号)又はコンテンツ信号を再生し、スピーカの周波数範囲を網羅し、周波数応答をマイクにより記録して、所望のラウドネスにおけるフラットな周波数応答を作成するようにイコライザ設定を変更することにより出力を調節することによって行われ得る。
【0063】
他の実施形態では、該較正は、スピーカへの電気入力がマイクへと与えられた場合に、その周波数領域における複数のスピーカの予測される出力を絶えず比較し、それらが一致するまでイコライザのゲインを変更することによって、任意の再生音(例えば、音楽、又は任意のコンテンツを含むオーディオ)に対してリアルタイムで行われ得る。インサイチュ較正は、種々異なるユーザの耳の外側部分の違い及びイヤホンの配置の違いを考慮する。聴力測定データがまだ利用可能でない場合、インサイチュ較正のみが音を調節するために使用され得る。
【0064】
内部マイクを用いた任意の変形は、ユーザがヘッドホンをオンにする度に実行されるスピーカのインサイチュ較正にそのマイクを使用することができる。
【0065】
聴覚誘発電位(AEP)
AEPは、
図1に示される乾式電極又は容量式センサ26,28及び30からのナノボルト範囲の信号の測定を伴う。
【0066】
AEPの信号対ノイズ比を高めるには、一般に、聴覚刺激を複数回繰り返して与える必要がある。
【0067】
従来、AEPは、皮膚を軽く擦って用意をした後に、湿式電極を用いて測定される。このことは、民生用オーディオヘッドホンに使用するには実用的でない。その場合には、乾式電極及び/又は容量式センサが使用されるためである。信号対ノイズ比を低減する観点から、刺激を複数回繰り返すことが一般に必要とされ、このことは、湿潤電極が使用される場合に比べて、一般に聴覚伝達関数の推定により長い期間かかるか、該推定の精度が低いことを意味する。
【0068】
任意のAEPが測定可能であり、例えば、聴性脳幹反応、中間潜時反応、音響変化複合、聴性定常反応、複合聴性脳幹反応、蝸電図、蝸牛マイク、又は蝸牛神経音反応AEPなどが測定され得る。
【0069】
各耳についての周波数依存の聴覚伝達関数は、トーン若しくは帯域制限されたチャープ信号のような周波数特異的な刺激又はユーザの耳に加えられる聴覚刺激として使用される音楽若しくは発話のようなオーディオコンテンツ信号を使用して、その後に周波数特異的な閾値のいずれかを決定するか、1つ以上の閾値を超える音圧レベルを使用して、AEP応答の相対的振幅及び/又はレイテンシ時間を決定することにより、プロセッサ8,44及び/又は88によって決定される。
【0070】
振幅、レイテンシ、聴覚閾値及び/又は位相の比較は、各耳についての聴覚伝達関数を発展させるため、正常な聴覚の聞き手及び聴覚障害のある聞き手からの応答範囲に対して行われ得る。正常な聴覚の聞き手及び聴覚障害のある聞き手の応答範囲は、そのような操作においてプロセッサ8,44、及び/又は88が使用するために、メモリ46又は90内に保持され得る。
【0071】
AEP応答を検出するためにプロセッサ8,44、及び/又は88によって実行される正確な処理操作は、各AEPについての特性波形の時間推移が異なるため、上述の各AEP方法のそれぞれについて異なる。
【0072】
一般に、プロセッサ8,44及び/又は88により適用される方法には、ピークピッキングアルゴリズムの使用、又は、ベースラインRMS若しくはベースラインノイズを超える信号の周波数特異RMSと比較した応答の窓二乗平均平方根(RMS)測定の使用が含まれる。しかしながら、Valderrama, Joaquin T., et al. "Automatic quality assessment and peak identification of auditory brainstem responses with fitted parametric peaks.(パラメトリックなピークを有する聴性脳幹反応の自動品質評価及びピーク同定)" Computer methods and programs in biomedicine 114.3 (2014): 262-275.のような、他の方法も十分に説明される。
【0073】
図6は、軽度の難聴を伴う耳と比較した、代表的な正常な耳の時間領域における周波数応答を示す。
【0074】
図7は、正常な耳及び軽度の難聴を伴う耳の周波数領域における聴覚誘発電位応答のRMS振幅を示す。実線は正常な耳に関連する聴覚伝達関数を示し、破線は軽度の難聴を伴う耳に関連する聴覚伝達関数を示す。
【0075】
2つのAEPは、本発明の1つ以上の実施形態、すなわち聴性定常反応(ASSR)及び複合聴性脳幹反応(cABR)に関して特に便利であることが判明している。ASSRは、応答の検出が以下を含む公表された方法により統計的に行われるため、この用途にとって特に便利である:Muhler, Roland, Katrin Mentzel, and Jesko Verhey. "Fast hearing-threshold estimation using multiple auditory steady-state responses with narrow-band chirps and adaptive stimulus patterns.(狭帯域チャープ信号及び適応刺激パターンを用いた複数の聴性定常反応を用いた高速聴覚閾値推定)" The Scientific World Journal 2012 (2012)
【0076】
上述の実施形態における他の特徴/利点は、以下を含む:
・複数の周波数を同時にテストすることができ、両方の耳を同時にテストすることができる。位相情報も利用可能である。
・cABRの使用には、複合音がユーザに再生されている間に脳電図(EEG)活動を記録することを伴う。
・同じ刺激に対する複数の応答は、通常、プロセッサにより時間領域又は周波数領域において平均化される。
・低周波数(典型的には、1kHz未満)の音には、EEG波形(応答後の周波数)による遅延が追随する。
・発話、音符又はドラムビートの開始時における突然の立ち上がりのような音の過渡特性により、EEG波形に追加のcABR状波形が発生する。
・cABR分析は、音楽のような連続音に応じて耳の聴力伝達関数を推定するためにも適用できる。
【0077】
図8Aは、一実施形態に係る、ローパスフィルタ処理されて出力された音信号及びEEG(応答後の周波数)のフーリエ解析を示す。ローパスフィルタ処理された出力信号及び応答後のEEG周波数は、聴覚伝達関数の低周波数部分を提供する。信号対ノイズ比(SNR)が低いため、周波数領域の平均化が必要である。
【0078】
図8Bは、一実施形態に係る、聴覚伝達関数の低周波数部分を決定する技法のフローチャートである。ステップ800では、プロセッサ8,44及び/又は88は、オーディオ信号、及び、EEG応答のような応答のフーリエ変換及び/又は高速フーリエ変換を繰り返し実行する。オーディオ信号は、複数の周波数範囲を含み、例えば、125、250、500及び1000Hz等の周波数範囲を含む。ステップ810では、プロセッサ8,44及び/又は88は、各周波数範囲のラウドネス、及び、EEG応答のような検出された応答の振幅を決定する。ステップ820では、プロセッサ8,44及び/又は88は、周波数範囲/ラウドネスの複数の組の平均値を連続的に構築する。この技法は高周波数のバージョンよりも簡単でかつ正確であるが、本体は応答をローパスフィルタ処理するため、この技法は周波数が高くなるとうまく機能しなくなる。
【0079】
図9Aは、一実施形態に係る、音響過渡後のEEG信号のような応答を分析することによって得られる高周波聴覚についての情報を示す。要素900は、入力オーディオ信号である。要素910は、EEGセンサのようなセンサから得られる信号である。要素920は、入力オーディオ信号900において検出されたピークである。
【0080】
図9Bは、一実施形態に係る、聴覚伝達関数の高周波数部分を決定する技法のフローチャートである。ステップ930では、プロセッサ8,44及び/又は88は、出力音における過渡状態を識別し、例えば、数ミリ秒の間に音量が閾値未満から該閾値を超えた特定のレベルにまで動くことを検出することによって識別を行う。ステップ940では、プロセッサ8,44及び/又は88は、過渡状態の最初の数ミリ秒に対してフーリエ解析を実行することによって、蝸牛の刺激された部分を決定する。例えば、過渡状態の最初の数ミリ秒に高速フーリエ変換を実行し、それによって刺激のラウドネスにおける蝸牛の刺激された部分(仮定として、1kHz)を識別する。ステップ950では、プロセッサ8,44及び/又は88は、センサからのベースラインノイズが許容可能であるかどうかをチェックし、例えば、過渡状態の直前の時に、該ベースラインノイズが10μVRMS未満であるかどうかをチェックする。ステップ960では、EEG信号のような信号上のノイズが許容可能に低い場合、その過渡状態の前後の時間窓における信号のRMS値が記録される。過渡状態及びEEG振幅の周波数範囲及びラウドネスは、メモリ46及び/又は90に格納される。ステップ970では、プロセッサ8,44及び/又は88は、ユーザが音楽を聴く際に上記複数のステップを連続的に繰り返し、それによって複数の周波数/ラウドネスの複数の組の平均値を算出する。
【0081】
複数のエントリが、各周波数/ラウドネスの組み合わせ又は複数の近い周波数及びラウドネスのプールごとに照合される。平均化されたpre−RMS値及びpost−RMS値は、正常な聴覚の聞き手及び聴覚障害のある聞き手からの応答範囲と比較され、それによって各耳についての高周波聴覚伝達関数を発展させる。
【0082】
上述したように、ユーザの各耳についての周波数依存の聴覚伝達関数を発展させるため、振幅と位相の両方の比較が、プロセッサ8,44及び/又は88による正常な聴覚の聞き手及び聴覚障害のある聞き手からの応答範囲と比較され得る。OAE及びASSRにより、信号の大きさに加えて応答位相を得ることができる。振幅及び位相の両方が使用されるこれらの実施形態では、これら2つの技法のうち1つを使用することが望ましい。しかしながら、種々異なるAEPがユーザの耳内に誘発され得る本発明の他の実施形態では、プロセッサ8,44及び/又は88は、振幅を比較することのみが可能となり得る。
【0083】
聴覚伝達関数において位相及び振幅が捕捉される実施形態では、プロセッサ8,44及び/又は88は、(客観的な聴覚測定値からの位相情報が利用可能な実施形態については)難聴及び位相シフトの影響を最小限にするような大きさを備えた有限入力応答(FIR)フィルタを効果的に実装し、それによって、オーディオ信号に対するユーザの知覚を理想的な聴覚の人の知覚と同様にする。
【0084】
他の実施形態では、ユーザの耳についての周波数依存の聴覚伝達関数は、前述したような各周波数帯域、例えば500,1000,2000及び4000Hzに対するゲインで全体が構成される。ゲインを設定する2つの実際的な方法として、第1には、検出された可聴閾値と理想的な聴覚プロファイルの聴覚伝達関数からの振幅との差に応じて、単にゲインを設定することが挙げられる。もっとも、第2には、複数の周波数におけるAEP/OAEの相対的振幅が、1つ以上の閾値を超える音レベルと比較され得る。例えば、80dBの刺激についての500,1000,2000及び4000HzにおけるAEP/OAEの振幅が120,90,100及び110単位であり、理想的な聴覚の人の信号振幅が105,100,95及び100単位であることが望ましい場合、イコライザゲインは、それに応じて、プロセッサ8,44及び/又は88により調節される。種々異なるユーザは、頭のサイズが種々異なり、頭髪がより多く、皮膚がより厚い等であり得るため、プロセッサ8,44及び/又は88が補償するものは、
図6及び7に示されているように、絶対値ではなく種々異なる周波数についての値の間の実際の比率であることが理解されよう。
【0085】
OAE及びAEPの両方の測定は、いくつかの異なる方法にて、時期を見て行われ得る:
・ユーザの要求に応じて、ユーザの耳の完全な聴覚伝達関数が作成され得る。
・ユーザが初めてヘッドホンをオンにする際に、又は、ユーザが初めてオーディオを聞く際に、ユーザの耳の完全な聴覚伝達関数が作成され得る。
・ユーザがヘッドホンをオンにする毎に、又は、ユーザがオーディオを聴く毎に、部分的な聴覚伝達関数が測定され、時が経つにつれて完全な聴覚伝達関数となる。いったん完全な聴覚伝達関数が完成すると、さらなる部分的な聴覚伝達関数が格納された関数を繰り返し改善する。
・曲の間に、又は、オーディオがデバイスへと入力されている際に、部分的な聴覚伝達関数がインターリーブされ得る。
【0086】
聴覚伝達関数を推定するcABR法を実施する場合、EEG記録は、オーディオが再生されている任意の時間中において連続的に行われる。聴覚伝達関数の高周波数部分を推定するのに十分な過渡現象を得るためには、何時間ものオーディオが必要である。
【0087】
任意の外部マイク又は内部マイクは、正確な客観的又は精神物理学的測定及びそのような時間中に行われなかった測定にとって周囲ノイズレベルが高すぎるかどうかを決定するためにも使用され得る。
【0088】
プロセッサ8,44、及び/又は88によってイコライザ機能が実行される間に適用される補償の精度は、正常な聴覚の聞き手及び聴覚障害のある聞き手の聴覚プロファイルの多くの例を収集することによって改善される。この点について、ヘッドホン10又はイヤホン70の各ユーザの可聴閾値を特徴付ける客観的及び精神物理学的聴力測定データが、リモートデータベース(図示せず)に送信され得る。十分な数のこの種の客観的及び精神物理学的聴力測定データを十分な数のユーザから収集すると、正常な聴覚の聞き手及び聴覚障害のある聞き手の周波数依存の聴覚伝達関数におけるより高い精度が決定され得ると共に、正規化された聴覚伝達関数が、メモリ46及び/又は90内に後で格納するために、インターネットへの無線又は有線接続によって、例えば、スマートフォンアプリと同期させることによって、プロセッサ8,44及び/又は88内へと入力され得る。この正規化された聴覚伝達関数は、上述の機能の実行中にプロセッサ8,44及び/又は88によって後に使用され得る。
【0089】
当業者であれば、本出願に添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内で、本明細書に記載の構成に対する変形及び修正があってもよいことを理解するであろう。
【0090】
例えば、他の実施形態では、聴覚伝達関数は、以下の出所に記載される補聴器フィッティングルールにおいて使用されるものと同様のより複雑な方法を使用して、プロセッサ8,44、及び/又は88によって聴力測定データから導出することも可能である:
・Pascoe, David Pedro."Clinical measurements of the auditory dynamic range and their relation to formulas for hearing aid gain.(聴性ダイナミックレンジの臨床測定及びその補聴器のゲインについての公式との関係)" Hearing aid fitting: Theoretical and practical views (1988): 129-152. http://www.blog-audioprothesiste.fr/wp-content/uploads/2011/02/129-52-Pascoe-CLINICAL-MEASUREMENTS-OF-THE-AUDITORY-DYNAMIC-RANGE.pdf
・Byrne, Denis, et al."NAL-NL1 procedure for fitting nonlinear hearing aids: Characteristics and comparisons with other procedures.(非線形補聴器をフィッティングするためのNAL−NL1プロシージャ:特性及び他の手順との比較)" JOURNAL-AMERICAN ACADEMY OF AUDIOLOGY 12.1 (2001): 37-51
【0091】
ユーザの識別
図10は、一実施形態に係る、歪成分OAE微細構造の一例を示す。この図は、Shaffer, Lauren A., et al. "Sources and mechanisms of DP-OAE generation: implications for the prediction of auditory sensitivity.(DP−OAE発生ソース及びメカニズム:聴覚感度の予測に対する影響)" Ear and hearing 24.5 (2003): 367-379から改変されたものである。要素1000は3次差音であり、要素1010はユーザの耳の内部のノイズである。ここで、一次音f1の周波数が低く、一次音f2の周波数が高いと仮定する。2つの純音f1及びf2が人の耳に対して同時に提示されると、最も顕著な「歪成分」(DP)は、2f1−f2で発生する(「3次差音」1000)。例えば、f1=1000Hz、f2=1200Hzの場合には、2f1−f2=2(1000)−1200=2000−1200=800Hzとなる。また、f1とf2の比が約1.22であり、強さがf1=65dB SPL、f2=50dB SPLの場合に、3次差音1000はf1より少なくとも50dB小さく、2f1−f2 DP−OAEが最も大きくなる。
【0092】
3次差音1000は、蝸牛内の2つの別個の部位である第1部位及び第2部位から発生し、それぞれからの信号が互いに建設的及び破壊的に干渉して、応答中に複数の山及び谷を生じさせる。山及び谷の(周波数領域における)特定位置のパターンは微細構造と称され、各耳に固有のものである。ユーザからの3次差音1000応答は、データベースに格納された複数の3次差音と比較され得る。データベースは、ヘッドホン1,10,70に統合されていてもよく、リモートデータベースであってもよい。
【0093】
プロセッサ8,44及び/又は88は、測定された3次差音1000と、データベースに格納された複数の3次差音とを比較して、対象者を識別する。プロセッサ8,44及び/又は88は、この比較を行うために、二乗平均平方根誤差のような一致スコアを使用する。例えば、プロセッサ8,44、及び/又は88は、最小の二乗平均平方根誤差を有する3次差音のような、最良の一致スコアを有する3次差音を選択する。選択された3次差音の一致スコアが、二乗平均平方根誤差が25%未満のような特定の閾値を満たす場合、その一致が判定される。選択された3次差音が閾値要件を満たさない場合、識別/認証は行われない。一致が判定されると、プロセッサは、一致した3次差分音に関連するユーザIDを引き出す。
【0094】
一実施形態によれば、識別の精度を向上させるために、ユーザの頭のようなユーザに関連する生体計測データが使用され得る。例えば、特定の閾値を満たす複数の3次差音が存在する場合、生体計測データの一致の品質に基づいてユーザを識別することができる。別の例では、二乗平均平方根誤差が互いに5%以内である複数の3次差音がある場合、生体計測データの一致の品質に基づいてユーザを識別することができる。
【0095】
ユーザの音の知覚(すなわち、聴覚伝達関数)は、主観的方法、AEP、EEG等のような、任意の上記開示の方法を用いて測定され得る。各ユーザの聴覚伝達関数は固有である。ユーザの聴覚伝達関数は、ヘッドホン1,10,70に統合されたデータベース又はリモートデータベースのようなデータベースに格納される。同様に、プロセッサ8,44及び/又は88は、測定された聴覚伝達関数をデータベースのユーザ聴覚プロファイルと比較して、それにより対象者を識別する。
【0096】
対象者の識別に基づいて、ヘッドホンは、ユーザの聴覚プロファイルに従って音を修正することや、識別されたユーザに関連するプレイリストをロードして再生すること等ができる。このユーザの識別は、セキュリティ目的のためにも、単独又は他の方法と共に使用され得る。
【0097】
インサイチュスピーカ周波数応答、又は、耳の音響インピーダンスなどのインサイチュスピーカ周波数応答から導出されたデータのような、耳から測定される他の種類の客観的データもまた、識別のために使用することができる。
【0098】
図11は、OAEプローブが民生用オーディオ用途のためのヘッドホンのセットとしても機能する、本発明の一実施形態を示す。
図4Bのプローブ1は、別の耳上にも複製されており、有線又は無線のアナログ又はデジタルオーディオインタフェース1100に接続されている。マイクロプロセッサ1110は、生体計測プロファイルの測定を制御し、分析を実行する。食い違いが見られなければ、オーディオ情報はスピーカへとルーティングされる。
【0099】
備考
特許請求された主題の様々な実施形態についての前述の説明は、例示及び説明のために提供されたものである。該説明は、網羅的であることや、特許請求された主題を開示された正確な形態に限定することを意図したものではない。多くの改変及び変形は、当業者には明らかであろう。実施形態は、本発明の原理及びその実際の応用を最も良く説明するために選択されており、そのため、関連技術の当業者は、特許請求された主題、様々な実施形態及び考慮される特定の用途に適した様々な修正を、これらの実施形態から理解することができる。
【0100】
実施形態は、完全に機能するコンピュータ及びコンピュータシステムの文脈において説明されているが、当業者であれば、様々な実施形態が様々な形態のプログラム製品として配布可能であり、実際に配布を行うために使用される機械又はコンピュータ可読媒体の特定のタイプにかかわらず、本開示が等しく適用されることを理解するであろう。
【0101】
上記の詳細な説明では、特定の実施形態及び考慮される最良の形態について説明しているが、上記にてどの程度まで文章中に詳細に開示されているかにかかわらず、それらの実施形態は多くの方法にて実施され得る。システム及び方法の詳細は、それらの実装の詳細において相当に変化することがあるが、それらは依然として本明細書に包含される。上述したように、様々な実施形態における特定の特徴又は態様を説明する際に使用される特定の用語は、本明細書において、関連する本発明の特定の特徴、特徴、又は態様に限定されるようにその用語が再定義されることを暗に意味するものとして理解されるべきではない。全体として、以下の特許請求の範囲にて使用される用語は、本明細書で明示的に定義されていない限り、本発明を本明細書に開示される特定の実施形態にまで限定するように解釈されるべきではない。したがって、本発明の実際の範囲は、開示の実施形態だけでなく、特許請求の範囲に基づく実施形態を実施又は実装する全ての均等な方法を包含する。
【0102】
本明細書で使用される言語は、主に可読性及び教示目的のために選択されたものであって、本発明の主題を線引き又は制限するために選択されていないことがある。したがって、本発明の範囲は、この詳細な説明によってではなく、本明細書に基づく出願において発行される任意の請求項によって限定されることが意図される。したがって、様々な実施形態の開示は、以下の特許請求の範囲に記載される実施形態の範囲を例示するものであって、それらを限定するものではないことが意図される。