特許第6917468号(P6917468)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6917468
(24)【登録日】2021年7月21日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】衝撃吸収シート
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/30 20060101AFI20210729BHJP
   C08J 9/32 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
   C08J9/30CEY
   C08J9/32
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-543392(P2019-543392)
(86)(22)【出願日】2019年7月11日
(86)【国際出願番号】JP2019027438
(87)【国際公開番号】WO2020013258
(87)【国際公開日】20200116
【審査請求日】2020年7月30日
(31)【優先権主張番号】特願2018-131604(P2018-131604)
(32)【優先日】2018年7月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】小栗 彩葉
(72)【発明者】
【氏名】谷内 康司
(72)【発明者】
【氏名】平池 宏至
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 莉紗
(72)【発明者】
【氏名】半田 篤志
(72)【発明者】
【氏名】上田 雄大
(72)【発明者】
【氏名】永井 康晴
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−193510(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/102761(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/191222(WO,A1)
【文献】 特開2004−161987(JP,A)
【文献】 特開2015−212352(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/025568(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
B29C 44/00−44/60,67/20
C09J 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであって、13℃における損失係数(tanδ)が0.5以上であり、(13℃におけるtanδ)/(tanδの半値幅[℃])が0.03以上であり、前記発泡樹脂層が、アクリル系発泡樹脂層であり、かつ、中空粒子を含有する衝撃吸収シート。
【請求項2】
発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであって、13℃における損失係数(tanδ)が0.5以上であり、前記発泡樹脂層がアクリル系発泡樹脂層であり、かつ、中空粒子を含有する衝撃吸収シート。
【請求項3】
厚さが200μm以下である請求項1又は2に記載の衝撃吸収シート。
【請求項4】
損失係数(tanδ)のピーク温度であるガラス転移温度(Tg)が5℃以上25℃以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
【請求項5】
前記発泡樹脂層の密度が0.3g/cm以上0.8g/cm以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
【請求項6】
初期衝撃吸収率が45%以上である請求項1〜のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
【請求項7】
前記発泡樹脂層の厚さをTとすると、前記発泡樹脂層の一方の面から、厚さ0.1Tにおける面方向断面の空隙率(P0.1)、厚さ0.5Tにおける面方向断面の空隙率(P0.5)、及び厚さ0.9Tにおける面方向断面の空隙率(P0.9)がそれぞれ、10面積%以上60面積%以下であり、
前記空隙率(P0.1)、前記空隙率(P0.5)、及び前記空隙率(P0.9)から求めた平均空隙率に対する標準偏差(Pσ)が1.0以上20以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
【請求項8】
電子機器に使用される請求項1〜のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
【請求項9】
表示装置の背面側に配置される請求項1〜のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載の衝撃吸収シートと、前記衝撃吸収シートの少なくともいずれか一方の面に設けられる粘着材とを備える粘着テープ。
【請求項11】
請求項1〜のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート、又は請求項1に記載の粘着テープを備える、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃吸収シートに関し、例えば電子機器などに使用される薄厚の衝撃吸収シートに関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピューター、携帯電話、及び電子ペーパー等の各種電子機器に用いられる表示装置においては、装置表面を構成するガラス板と表示部等の間や、表示部が取り付けられる筐体本体と表示部等の間に、衝撃や振動を吸収するための衝撃吸収材が設けられている。一方で、表示装置を備える電子機器、特に携帯電子機器は、スペース上の制約から薄厚にすることが求められており、それに伴い衝撃吸収材も薄厚のシート状にすることが求められている。
このような薄厚の衝撃吸収材としては、ポリエチレンに代表されるポリオレフィン系樹脂からなるポリオレフィン系樹脂発泡体が広く知られている。ポリオレフィン系樹脂発泡体では、気泡の形状を一定のものに制御して、柔軟性を制御することで衝撃吸収性能が向上することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−214205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、薄厚のポリオレフィン系樹脂発泡体において、気泡の形状を一定のものに制御しても、衝撃吸収性能を十分に高めることができない場合がある。例えば、表示ディスプレイの表面を構成するガラスは、数十〜百MPa前後の比較的大きな衝撃力が局所的に加わると破損するおそれがあるが、ポリオレフィン系樹脂からなる発泡体シートの柔軟性を制御しても、そのような衝撃力を十分に緩和することは難しい。また、樹脂発泡体は、繰り返し衝撃が加えられると、衝撃吸収性能が低下することがある。
【0005】
そこで、本発明は、優れた衝撃吸収性能を有し、例えば、局所的に加えられる比較的大きな衝撃力に対する吸収性能を良好にし、また、繰り返し衝撃が加えられた後でも吸収性能を良好にできる衝撃吸収シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、衝撃吸収シートの13℃におけるtanδの値を大きくすることで上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[13]を提供する。
[1]発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであって、13℃における損失係数(tanδ)が0.5以上である衝撃吸収シート。
[2]厚さが200μm以下である上記[1]に記載の衝撃吸収シート。
[3](13℃におけるtanδ)/(tanδの半値幅[℃])が0.03以上である上記[1]又は[2]に記載の衝撃吸収シート。
[4]損失係数(tanδ)のピーク温度であるガラス転移温度(Tg)が5℃以上25℃以下である上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
[5]前記発泡樹脂層の密度が0.3g/cm以上0.8g/cm以下である上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
[6]前記発泡樹脂層がアクリル系発泡樹脂層である上記[1]〜[5]のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
[7]前記発泡樹脂層における気泡の内壁が、シェル構造を有さない上記[1]〜[6]のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
[8]初期衝撃吸収率が45%以上である上記[1]〜[7]のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
[9]前記発泡樹脂層の厚さをTとすると、前記発泡樹脂層の一方の面から、厚さ0.1Tにおける面方向断面の空隙率(P0.1)、厚さ0.5Tにおける面方向断面の空隙率(P0.5)、及び厚さ0.9Tにおける面方向断面の空隙率(P0.9)がそれぞれ、10面積%以上60面積%以下であり、
前記空隙率(P0.1)、空隙率(P0.5)、及び空隙率(P0.9)から求めた平均空隙率に対する標準偏差(Pσ)が1.0以上20以下である、上記[1]〜[8]のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
[10]電子機器に使用される上記[1]〜[9]のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
[11]表示装置の背面側に配置される上記[1]〜[10]のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
[12]上記[1]〜[11]のいずれか1項に記載の衝撃吸収シートと、前記衝撃吸収シートの少なくともいずれか一方の面に設けられる粘着材とを備える粘着テープ。
[13]上記[1]〜[11]のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート、又は上記[12]に記載の粘着テープを備える、表示装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた衝撃吸収性能を有する衝撃吸収シートを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について実施形態を用いてより詳細に説明する。
[衝撃吸収シート]
本発明の衝撃吸収シートは、発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであって、13℃における損失係数(tanδ)が0.5以上となるものである。
発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートにおいては、常温付近における衝撃吸収性能を高めるためには、実施例における評価方法での13℃における損失係数(tanδ)を大きくすることが効果的であり、本発明では、13℃におけるtanδを0.5以上にすることで、衝撃吸収シートの衝撃吸収性能が優れたものになる。したがって、常温、又は電子機器の発熱などにより多少常温より高くなった電子機器内部などにおいて、衝撃吸収シートを薄厚にしても局所的な衝撃なども十分に吸収できるようになる。また、繰り返し衝撃が加えられた後でも、衝撃吸収性能を良好に維持しやすくなる。一方で、13℃における損失係数が0.5未満となると、衝撃吸収性能が不十分となって、外部からの衝撃を十分に吸収できなくなる。
【0009】
13℃における損失係数(tanδ)は、衝撃吸収性能をより向上させる観点から、0.8以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.6以上が特に好ましい。また、13℃における損失係数(tanδ)の上限は、特に限定されないが、実用性の観点から、例えば4であり、好ましくは3.5である。
【0010】
また、衝撃吸収シートにおいて、tanδのピーク温度であるガラス転移温度(Tg)は、5℃以上25℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度(Tg)をこのように13℃に近い温度にすることで、13℃におけるtanδを大きくしやすくなり、衝撃吸収性能をより一層向上しやすくなる。ガラス転移温度(Tg)は、衝撃吸収性能をより高くする観点から、より好ましくは7℃以上24℃以下、さらに好ましくは9℃以上18℃以下である。
【0011】
また、衝撃吸収性能をより高くする観点からは、tanδのピーク幅を小さくし、かつ13℃におけるtanδを大きくすることが好ましい。そのため、(13℃におけるtanδ)/(tanδの半値幅[℃])で表される比(以下、「tanδ幅比」ともいう)は、0.03以上とすることが好ましく、0.05以上がより好ましく、0.09以上がさらに好ましい。tanδ幅比の上限は、特に限定されないが、通常は0.5、好ましくは0.3である。
【0012】
本発明における13℃におけるtanδ、ガラス転移温度(Tg)、及びtanδの半値幅は、例えば、後述するように、発泡樹脂層を構成する樹脂成分を適宜変更することで調整できる。例えば、アクリル系樹脂においては、後述するように単量体成分(a)の成分を適宜選択することで、13℃におけるtanδなどを上記範囲内に調整しやすくなる。なお、衝撃吸収シートの13℃における損失係数(tanδ)、ガラス転移温度(Tg)、tanδの半値幅は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0013】
衝撃吸収シートは、その厚さが200μm以下であることが好ましい。本発明では、衝撃吸収シートは、比較的薄くしても、上記した13℃におけるtanδなどを所定の範囲内にすることで、衝撃吸収性能が良好となる。また、厚さを200μm以下にすることで、電子機器の薄型、小型化に寄与することが可能になる。
衝撃吸収シートの厚さは、20μm以上190μm以下であることがより好ましく、50μm以上160μm以下であることがさらに好ましい。衝撃吸収シートの厚さを20μm以上とすることで、衝撃吸収シートに衝撃が加えられたときに、いわゆる底付きなどが発生することが防止できる。
【0014】
発泡樹脂層の密度は、好ましくは0.3g/cm以上0.8g/cm以下である。密度を上記範囲内とすると、衝撃吸収シートに衝撃が加えられたときに、その衝撃が衝撃吸収シートで十分に吸収することが可能となる。衝撃吸収シートの密度は、衝撃吸収性能をより向上させる観点から、0.45g/cm以上0.8g/cm以下であることがより好ましく、0.6g/cm以上0.79g/cm以下であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明の衝撃吸収シートは、初期衝撃吸収率が45%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、52%以上であることがさらに好ましい。なお、初期衝撃吸収率とは、後述する実施例に記載する方法にて測定される初回の衝撃吸収率である。
初期衝撃吸収率を45%以上とすることで、衝撃吸収性能、特に、局所的な衝撃に対する衝撃吸収性能を高くすることが可能になる。
【0016】
(気泡)
本発明の発泡樹脂層は、中空粒子を含有し、気泡が中空粒子内部の空間により形成されてもよい。
また、発泡樹脂層の気泡は、その他の手段により形成されてもよく、例えば、樹脂組成物に混入された気体により形成されることが好ましい。この場合、気泡は、発泡樹脂層を構成する樹脂組成物に直接形成された空隙であり、気泡の内面が樹脂組成物よりなる。すなわち、発泡樹脂層の気泡は、その内壁がシェル構造を有しない気泡となる。
内壁にシェル構造を有さない気泡は、衝撃により内壁が損傷しにくく、その形状が崩れにくいため、衝撃吸収シートの繰り返し衝撃後の衝撃吸収性能を向上させることが可能である。
発泡樹脂層に混入された気体は、発泡樹脂層を構成する樹脂組成物に配合された発泡剤などから発生した気体でもよいが、後述するメカニカルフロス法などにより樹脂組成物の外部から混入された気体であることが好ましい。
【0017】
本発明では、発泡樹脂層における気泡の分布は、特に限定されないが、均一であったほうがよく、面方向に十分な量の気泡を有し、かつ、厚さ方向の気泡分布が均一となっていることが好ましい。気泡の分布が均一であると、外部から受ける衝撃、特に、局所的な衝撃も十分に吸収することができる。
具体的には、発泡樹脂層の厚さを“T”とすると、発泡樹脂層の一方の面から、厚さが0.1Tにおける面方向断面の空隙率(P0.1)、厚さが0.5Tにおける面方向断面の空隙率(P0.5)、及び、厚さが0.9Tにおける面方向断面の空隙率(P0.9)がそれぞれ、10面積%以上60面積%以下となることが好ましい。空隙率(P0.1)、空隙率(P0.5)、及び空隙率(P0.9)がこれら範囲内であると、厚さ方向のいずれに位置においても、面方向に十分な量の気泡が存在することとなる。
また、空隙率(P0.1)、空隙率(P0.5)、及び空隙率(P0.9)から求めた平均空隙率に対する標準偏差(Pσ)が1.0以上20以下であることが好ましい。この標準偏差(Pσ)は、厚み方向の気泡分布の指標となるもので、上記範囲内になっていることで、厚み方向の気泡分布が均一となっていることを示す。
0.1、P0.5、及び、P0.9のそれぞれは、15面積%以上55面積%以下となっていることがより好ましく、また、標準偏差(Pσ)は、2.0以上15となっていることがさらに好ましい。
上記空隙率及び標準偏差は、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0018】
樹脂発泡層は、独立気泡を有するものでもよいし、連続気泡を有するものであってもよいし、独立気泡及び連続気泡の両方を有するものであってもよい。
【0019】
(中空粒子)
発泡樹脂層に含有される中空粒子としては、特に限定されず、中空の無機系微小球状体であってもよく、中空の有機系微小球状体であってもよく、中空の有機無機複合体の微小球状体であってもよい。中空の無機系微小球状体としては、例えば、中空ガラスバルーン等のガラス製の中空バルーン、中空シリカバルーン、中空アルミナバルーン等の金属化合物製の中空バルーン、中空セラミックバルーン等の磁器製中空バルーンなどが挙げられる。また、中空の有機系微小球状体としては、例えば中空アクリルバルーン、中空の塩化ビニリデンバルーン、フェノールバルーン、及びエポキシバルーン等の樹脂製の中空バルーンなどが挙げられる。
【0020】
中空粒子の平均粒子径としては発泡樹脂層の厚み以下であれば特に制限されないが、10μm以上150μm以下であることが好ましく、20μm以上130μm以下であることがより好ましく、30μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。中空粒子の平均粒子径が10μm以上150μm以下とすることで、十分な衝撃吸収性を得ることができる。
中空粒子の平均粒子径は、例えば、レーザー回折法、または低角度レーザー光散乱法により測定することができる。
【0021】
中空粒子の平均粒子径と発泡樹脂層の厚みとの比(平均粒子径/厚み)は、0.1以上0.9以下であることが好ましく、0.2以上0.85以下であることが好ましい。平均粒子径/厚みが上記範囲であり、かつ後述するような粘度を所定の範囲内とすることで、発泡樹脂層を形成する際に中空粒子の一部が浮き上がり、最終的な空隙率の分布が不均一となるのを防ぐことができる。
【0022】
中空粒子の密度としては、特に限定されないが、0.01g/cm以上0.4g/cm以下であることが好ましく、0.02g/cm以上0.3g/cm以下であることがより好ましい。中空粒子の密度を0.01g/cm以上0.4g/cm以下とすることで、発泡樹脂層を形成する際などに、浮き上がり防ぎ、均一に分散させることができる。
【0023】
本発明の衝撃吸収シートにおいて発泡樹脂層を構成する樹脂は、アクリル系樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
これらの中では、発泡樹脂層を構成する樹脂がアクリル系樹脂であり、発泡樹脂層がアクリル系発泡樹脂層となることが好ましい。発泡樹脂層を構成する樹脂をアクリル系樹脂とすることで、衝撃吸収シートの13℃におけるtanδ、tanδ幅比などを所定の範囲内に調整しやすくなる。
なお、アクリル系発泡樹脂層において、アクリル系樹脂は、発泡樹脂層中の樹脂成分の主成分であり、その含有量は、発泡樹脂層の樹脂成分全量に対して、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0024】
本発明の衝撃吸収シートは、発泡樹脂層単体からなることが好ましいが、本発明の効果を阻害しない限り、発泡樹脂層以外の層が設けられてもよい。発泡樹脂層以外の層を設けることで、遮光性を付与したり、加工性や取扱性などを向上させたりすることができる。例えば、発泡樹脂層の片面又は両面にスキン層が設けられてもよい。スキン層は、例えば、各種の樹脂から構成される非発泡樹脂層である。
スキン層は、発泡樹脂層を構成する樹脂と同じ種類の樹脂により形成されていてもよいし、それ以外の樹脂により形成されてもよい。スキン層を形成する樹脂としては、上記したアクリル系樹脂、熱可塑性エラストマー以外でも、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリイミド、ポリエチレンナフタレートなどでもよいが、ゴム系樹脂でもよい。また、スキン層は、金属箔、不織布などでもよい。
【0025】
発泡樹脂層の厚さは、衝撃吸収シートが適切な衝撃吸収性能を発揮できる厚さであればよく、200μm以下が好ましく、20μm以上180μm以下であることがより好ましく、50μm以上150μm以下であることがさらに好ましい。
一方で、スキン層は、発泡樹脂層の機能を阻害しない程度の厚さであればよく、各スキン層の厚さは、発泡樹脂層の厚さ未満であるとよい。また、各スキン層の厚さは、例えば、1μm以上50μm以下程度である。
【0026】
以下、発泡樹脂層を構成する樹脂がアクリル系樹脂である場合の態様をより具体的に説明する。
(アクリル系樹脂)
アクリル系樹脂は、アクリル系単量体成分を含む単量体成分(a)を重合してなるアクリル系重合体である。アクリル系重合体は、衝撃吸収シートの13℃におけるtanδが上記した範囲内になるように、単量体成分(a)を適宜調整すればよい。単量体成分(a)は、ビニル基を1つ有するモノマー成分である。単量体成分(a)は、特に限定されないが、好ましくは、アクリル系単量体成分としてアルキル(メタ)アクリレートを含む。
なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを表し、他の類似する用語も同様である。
【0027】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、上記アルキル基の炭素数は、例えば1〜18、好ましくは1〜14、より好ましくは1〜10である。
アルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ウンデシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ)アクリレート、及びn−テトラデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、これらのアルキル(メタ)アクリレートは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
アルキル(メタ)アクリレートは、アクリル系重合体を構成する単量体成分(a)において、45質量%以上含有されることが好ましく、55質量%以上100質量%以下含有されることがより好ましく、65質量%以上100質量%以下含有されることがさらに好ましい。アルキル(メタ)アクリレートをこれら下限値以上使用することで、樹脂発泡層に必要とされる機械的強度などを付与しやすくなる。
【0029】
また、単量体成分(a)は、上記アルキル(メタ)アクリレートに加えて、アルキル(メタ)アクリレート以外のビニル系モノマーを含有してもよい。
アルキル(メタ)アクリレート以外のビニル系モノマーとしては、カルボキシル基含有モノマー又はその無水物、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリルモノマー、窒素含有ビニルモノマー、スチレン系モノマーなどが挙げられる。
【0030】
カルボキシル基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等のビニル基を含有するカルボン酸を挙げることができる。
ヒドロキシル基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、及びポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレートを挙げることができる。
窒素含有ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド類、アミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリルモノマー、(メタ)アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルラウリロラクタム、(メタ)アクリロイルモルホリン、及びジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
スチレン系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレート以外のビニル系モノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0031】
上記した中では、スチレン系モノマー、アクリルアミド類、カルボキシル基含有モノマー又はその無水物から選択される1種以上が好ましい。
アルキル(メタ)アクリレート以外のビニル系モノマーは、アクリル系重合体を構成する単量体成分(a)において、55質量%以下含有されることが好ましく、0質量%以上45質量%以下含有されることがより好ましく、0質量%以上35質量%以下含有されることがさらに好ましい。
【0032】
アクリル系重合体を構成する単量体成分(a)は、ホモポリマーのガラス転移温度が、上記した衝撃吸収性シートのガラス転移温度(Tg)より低いモノマー(a1)を含むことが好ましい。モノマー(a1)のガラス転移温度は、例えば0℃未満、好ましくは−10℃以下−80℃以上である。
そのようなモノマー(a1)としては、アルキル(メタ)アクリレートが好ましい。ホモポリマーのガラス転移温度が低いアルキル(メタ)アクリレートを使用することで、13℃におけるtanδ、衝撃吸収シートのガラス転移温度(Tg)を上記したように所望の範囲内に調整しやすくなる。
モノマー(a1)としてのアルキル(メタ)アクリレートは、アルキル基の炭素数が2〜10のアルキルアクリレートがより好ましく、好適な化合物の具体例としては、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどが挙げられる。
なお、ホモポリマーのガラス転移温度は、公知であり、例えば、J.ブランドラップ及びE.H.インマーグートによるインターサイエンスパブリッシャーズ編集の「ポリマーハンドブック」などを参照できる。
【0033】
また、アクリル系重合体を構成する単量体成分(a)は、上記モノマー(a1)に加えて、ホモポリマーのガラス転移温度が、モノマー(a1)よりも高いモノマー(a2)を含有することが好ましい。モノマー(a2)のガラス転移温度は、例えば0℃以上、好ましくは5℃以上145℃以下である。
モノマー(a2)としては、アルキル(メタ)アクリレート、カルボキシル基含有モノマー又はその無水物、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリルモノマー、窒素含有ビニルモノマー、スチレン系モノマーなどを使用すればよい。これらの中では、アルキル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー、アクリルアミド類、カルボキシル基含有モノマー又はその無水物がより好ましい。
モノマー(a2)の好ましい具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、スチレン、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、アクリル酸が挙げられるが、より好ましくは、メチルアクリレート、スチレンである。
【0034】
モノマー(a1)とモノマー(a2)の使用量は、アクリル系重合体のガラス転移温度が13℃に近い値となるように調整すればよいが、単量体成分(a)において、好ましくはモノマー(a1)が20質量%以上90質量%以下、モノマー(a2)が10質量%以上80質量%以下含有される。また、より好ましくは、モノマー(a1)が23質量%以上87質量%以下、モノマー(a2)が13質量%以上77質量%以下である。
【0035】
アクリル系発泡樹脂層は、上記単量体成分(a)、及び単量体成分(a)を部分重合又は完全重合して得たアクリル系重合体の少なくともいずれかを含むアクリル系樹脂組成物から形成される。なお、以下の説明において、単量体成分(a)100質量部と述べた場合には、単量体成分(a)の含有量と単量体成分(a)由来の構成単位の含有量との合計量を意味する。
【0036】
気泡が中空粒子によって形成される場合、アクリル系樹脂組成物には、上記した中空粒子が含まれる。また、中空粒子は既述のとおりであるが、中空粒子の含有量は、単量体成分(a)100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下が好ましく、より好ましくは1質量部以上3質量部以下である。中空粒子の含有量を0.5質量部以上5質量部以下とすることで、衝撃吸収シートとした際に上記した空隙率、及び密度にすることができる。
【0037】
アクリル系重合体は、架橋剤により架橋され架橋構造を有していてもよい。架橋構造を形成する場合、アクリル系樹脂組成物に架橋剤を配合すればよい。架橋剤としては、ビニル基を2つ以上有するものが挙げられ、好ましくは(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。このような架橋剤は、単量体成分(a)により構成される主鎖中に組み込まれ、その主鎖同士を架橋してネットワークを形成する。
具体的な架橋剤としては、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトシキ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、ε―カプロラクトン変性トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、エトシキ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロキシ化グリセリルトリアクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジアクリレート、ポリウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、及び液状水素化1,2−ポリブタジエンジアクリレート等が挙げられる。
アクリル系樹脂組成物における架橋剤の含有量は、特に制限されないが、単量体成分(a)100質量部に対して、0.1質量部以上7質量部以下が好ましく、0.2質量部以上5質量部以下がより好ましい。
【0038】
アクリル系樹脂組成物には、上記した単量体成分(a)を光重合により重合させる場合、光重合開始剤が配合されることが好ましい。アクリル系樹脂組成物は、気泡を中空粒子から形成する場合に、光重合によりアクリル系樹脂発泡層を形成することが好ましい。そのため、そのような場合にアクリル系樹脂組成物に光重合開始剤を含有させるとよい。
光重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば、ケタール系光重合開始剤、α−ヒドロキシケトン系光重合開始剤、α−アミノケトン系光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、ベンゾインエーテル系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、アルキルフェノン系光重合開始剤、芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤、光活性オキシム系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンジル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤などが挙げられる。なお、重合開始剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
これらの光重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、単量体成分(a)100質量部に対して、0.03質量部以上3質量部以下が好ましく、0.05質量部以上1.5質量部以下であることがより好ましい。
【0039】
アクリル系樹脂組成物中には、上記以外にも、界面活性剤、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、核剤、架橋助剤、顔料、染料、ハロゲン系、リン系等の難燃剤、及び充填剤等のその他の添加剤を本発明の目的を阻害しない範囲で含有してもよい。
【0040】
(衝撃吸収シートの製造方法)
以下、衝撃吸収シートの製造方法について詳細に説明する。以下では、まず、気泡を中空粒子から形成する場合の発泡樹脂層の製造方法を説明する。
発泡樹脂層は、樹脂成分、又は硬化などすることで樹脂成分となる樹脂成分の前駆体と、中空粒子と、その他必要に応じて配合される添加剤とを含有する樹脂組成物から形成すればよい。
例えば、アクリル系発泡樹脂層は、特に制限されないが、剥離フィルムや基材等の適当な支持体上に、既述の単量体成分(a)及び中空粒子、必要に応じて配合される架橋剤、光重合開始剤等を含有するアクリル系樹脂組成物を塗布し、塗布層を形成させ、該層を、活性エネルギー線により硬化させることにより形成される。
なお、上記アクリル系発泡樹脂層の形成の際に用いられる剥離フィルム(セパレータ)は、作製後の衝撃吸収シートを使用する前までに適宜剥離されるとよい。
【0041】
ここで、アクリル系樹脂組成物に含まれる単量体成分(a)は部分重合されていることが好ましい。単量体成分(a)は一般的には粘度が非常に低い。そのため、アクリル系樹脂組成物としては、部分重合(一部重合)を行ったものを使用することで、より効率良く本発明の衝撃吸収シートを製造することができる。
単量体成分(a)が部分重合されたアクリル系樹脂組成物は、例えば、下記のようにして作製することができる。まず、中空粒子及び架橋剤を含有しない一方で単量体成分(a)を含む組成物に対して、活性エネルギー線を用いた重合によって部分重合を行い、これにより、いわゆるシロップ状の硬化性アクリル樹脂材料を調製する。このときの粘度は、200mPa・s以上5000mPa・s以下に調整されていることが好ましく、300mPa・s以上4000mPa・s以下に調整されていることがより好ましい。200mPa・s以上5000mPa・s以下に調整されていることで、中空粒子の浮き上がりを防止して、厚み方向の空隙率を均一にすることができる。なお、粘度とは、B型粘度計における粘度測定において、測定温度23℃、100rpmの条件で測定された粘度である。
次いで、この硬化性アクリル樹脂材料と中空粒子及び架橋剤等とを撹拌混合して、硬化性アクリル樹脂材料中に中空粒子を分散させたアクリル系樹脂組成物を調製することができる。
【0042】
なお、アクリル系樹脂組成物を塗布する際に用いられる塗工方法は、特に制限されず、通常の方法を採用することができる。このような塗工方法は、例えば、スロットダイ法、リバースグラビアコート法、マイクログラビア法、ディップ法、スピンコート法、刷毛塗り法、ロールコート法、フレキソ印刷法などが挙げられる。
また、活性エネルギー線としては、例えば、α線、β線、γ線、中性子線、電子線などの電離性放射線、紫外線などが挙げられる。特に、紫外線が好適に用いられる。活性エネルギー線の照射エネルギーやその照射時間などは、単量体成分(a)を適切に重合できる限り特に制限されない。
【0043】
次に、樹脂組成物に混入された気体により気泡を形成する場合の発泡樹脂層の製造方法の例を説明する。気泡を樹脂組成物に混入された気体により形成する場合、発泡樹脂層は、例えば、樹脂エマルジョンを原料として製造するとよい。樹脂エマルジョンは、各種樹脂の水分散体などである。発泡樹脂層は、上記のように好ましくはアクリル系発泡樹脂層からなり、したがって、樹脂エマルジョンは、アクリル系エマルジョンが好ましい。アクリル系エマルジョンにおいて、アクリル系重合体の体積平均粒径は、シート厚みより小さくなくてはならず、好ましくは100μm以下である。また、取り込んだ泡を安定化するため、平均粒子径は5μm以下が好ましい。更に、泡の安定性を向上させるため、平均粒子径は500nm以下が好ましい。また、泡を安定化できることから、樹脂の平均粒子径は、1μm以下が好ましく、300nm以下が更に好ましい。樹脂の粒子径は、粒度分布測定装置(Microtrac社製、Nanotrac 150)で測定される体積平均粒径として測定することができる。
【0044】
アクリル系エマルジョンは、アクリル樹脂の水分散体であり、公知のものを使用できる。アクリル系エマルジョンは、例えば、必要に応じて配合される、重合開始剤、乳化剤、分散安定剤などの存在下に、単量体成分(a)を乳化重合、懸濁重合、分散重合等させることで得ることができる。発泡樹脂層は、アクリル系エマルジョンなどのエマルジョンを含むエマルジョン組成物(アクリル系樹脂組成物)を原料として後述する方法で製造できる。
エマルジョン組成物は、分散媒として水を含む。また、水以外にも、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどの極性溶媒を含んでいてもよい。また、エマルジョン組成物は、界面活性剤などからなる起泡剤、架橋剤などが必要に応じて配合されていてもよい。エマルジョン組成物の固形分量は、例えば、30質量%以上70質量%以下、より好ましくは35質量%以上60質量%以下である。
【0045】
上記したエマルジョン組成物には、気体を混入することで気泡を形成し、気泡が形成されたエマルジョン組成物を層状にすることで発泡樹脂層を製造できる。
エマルジョン組成物への気体の混入は、メカニカルフロス法により行うことが好ましい。具体的には、エマルジョン組成物を、攪拌羽等で攪拌し、大気中の空気やガスを混入させる方法であり、供給は連続式でもバッチ式でもよい。ガスには窒素、空気、二酸化炭素、アルゴン等を用いることができる。気体の混入量は、得られる発泡樹脂層が上記した密度になるように適宜調整するとよい。具体的には攪拌時間や、空気やガスとの混合割合を調整するとよい。
気泡が形成されたエマルジョン組成物は、その後、剥離フィルムや基材等の適当な支持体上に塗布して、塗布層を形成し、該層を加熱して乾燥させることで、発泡樹脂層を得ることができる。ここで、加熱温度は、特に限定されないが、45〜155℃が好ましく、50〜150℃がより好ましい。
【0046】
気泡が形成されたエマルジョン組成物の粘度は、1000mPa・s以上50000mPa・s以下に調整されていることが好ましく、2000mPa・s以上45000mPa・s以下に調整されていることがより好ましい。粘度を上記範囲内に調整することで、混入された気泡の浮き上がりを防止して、厚み方向の空隙率を均一にすることができる。エマルジョン組成物の粘度は、ガスを混入するときの攪拌時間、気体の混入量、エマルジョン組成物の固形分量などにより調整できる。具体的には、攪拌時間の延長、混入量の増加、固形分量の増加などにより粘度を上げることが可能である。
【0047】
衝撃吸収シートにおいて、発泡樹脂層に加えてスキン層を設ける場合には、スキン層を形成するための樹脂材料を発泡樹脂層に塗布して必要に応じて乾燥などすることにより、スキン層を形成するとよい。また、樹脂層を発泡樹脂層の片面又は両面にラミネートなどすることでスキン層を形成してもよい。
【0048】
[衝撃吸収シートの使用方法]
以下、上記で説明した本発明の衝撃吸収シートの使用方法について説明する。
本発明の衝撃吸収シートは、例えば、各種の電子機器、好ましくはノート型パーソナルコンピューター、携帯電話、電子ペーパー、デジタルカメラ、ビデオカメラ等の携帯電子機器に使用されるものである。より具体的には、これら電子機器に設けられる表示装置(ディスプレイ)用の衝撃吸収シートとして使用される。表示装置としては、有機EL表示装置、液晶表示装置等が挙げられるが、有機EL表示装置が好ましい。
また、表示装置、特に有機EL表示装置は、フレキシブルディスプレイとすることが好ましい。有機EL表示装置は、フィルム基板上に、両電極と、その両電極間に形成された発光層と、発光層を封止するための封止材とを備える有機EL素子を形成することでフレキシブルディスプレイとすることが可能である。
【0049】
衝撃吸収シートは、表示装置に使用される場合、各種表示装置の背面側に配置されて、表示装置に作用される衝撃を吸収する。表示装置の背面とは、表示装置の画像が表示される面とは反対側の面である。
より具体的には、衝撃吸収シートは、例えば電子機器の筐体上に置かれて、筐体と表示装置間に配置される。また、衝撃吸収シートは、通常、筐体等の電子機器を構成する部品と表示装置の間において圧縮して配置される。
本発明の衝撃吸収シートは、薄厚であっても高い衝撃吸収性能を有するため、電子機器を薄型化しながら表示装置の破損を適切に防止することが可能である。また、衝撃吸収シートは、局所的に比較的大きな衝撃が作用されるような場合でも、その衝撃を適切に吸収することが可能になるため、フレキシブルディスプレイで生じる表示欠点などを適切に防止することが可能になる。
【0050】
また、衝撃吸収シートは、一方の面又は両面に粘着材を設けて粘着テープとして使用してもよい。衝撃吸収シートは、粘着テープとすることで、粘着材を介して、電子機器の筐体などの部品に接着することが可能になる。この場合、粘着テープは、衝撃吸収シートと、衝撃吸収シートの少なくともいずれか一方の面に設けられる粘着材とを備えることになる。
粘着材は、少なくとも粘着剤層を備えるものであればよく、衝撃吸収シートの表面に積層された粘着剤層単体からなるものであってもよいし、衝撃吸収シートの表面に貼付された両面粘着シートであってもよいが、粘着剤層単体であることが好ましい。なお、両面粘着シートは、基材と、基材の両面に設けられた粘着剤層とを備えるものである。両面粘着シートは、一方の粘着剤層を衝撃吸収シートに接着させるとともに、他方の粘着剤層を他の部品に接着させるために使用する。
粘着剤層を構成する粘着剤としては、特に制限はなく、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤等を用いることができる。粘着材の厚さは、5〜200μmであることが好ましく、より好ましくは7〜150μmである。また、粘着材の上には、さらに離型紙等の剥離シートが貼り合わされて、使用前に離型紙により粘着剤層を保護してもよい。
【実施例】
【0051】
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0052】
[評価方法]
衝撃吸収シートの各物性や性能は、以下の方法で評価した。
<空隙率及び標準偏差>
衝撃吸収シートを厚さ50μmのPETフィルムに貼り付けて幅3mm、長さ15mmのサイズで切り出し、X線CT装置による三次元計測を行った。なお、X線CT装置は特に限定されないが、本実施例ではヤマト科学株式会社製 TDM1000H−II(2K)を使用した。解像度は1.5μm/1ピクセル程度である。
次に、PETフィルムと衝撃吸収シートの境界面を基準面とし、その面に垂直な方向(厚み方向)に存在する断面画像の合計枚数Sを数えた。なお、厚み方向に存在する断面画像は、PETフィルムと衝撃吸収シートの境界面(基準面)の画像から反対面の衝撃吸収シートが最後に写った画像までとした。
その後、0.1S番目の断面画像に対し、画像処理ソフトウェア「Avizo9.2.0」(FEI社製)を用いて二値化処理を行い、空隙部分と樹脂部分を分離した。最後に、画像全体面積に対する空隙部分の面積の割合を算出し、0.1Tの厚みにおける面方向断面の空隙率(P0.1)とした。なお、0.1Sが整数でない場合は小数第一位を四捨五入した。
0.5Tの厚みにおける面方向断面の空隙率(P0.5)、及び0.9Tの厚みにおける面方向断面の空隙率(P0.9)もそれぞれ、同様の操作を行った。
また、算出した空隙率(P0.1)、空隙率(P0.5)、及び空隙率(P0.9)から平均空隙率を求めて、これに対する標準偏差(Pσ)を求めた。
【0053】
<13℃におけるtanδ、ガラス転移温度Tg、及びtanδの半値幅>
測定装置:DVA−200(アイティー計測制御株式会社製)を用いて、せん断モード:1Hz、歪み量:0.08%、温度範囲:−50℃〜100℃、昇温速度:5℃/minの条件下で、13℃におけるtanδ、及びtanδがピーク値となったときの温度を求めた。tanδがピーク値となったときの温度をガラス転移温度Tgとした。また、tanδの値をプロットし、tanδのピーク値の半分の高さにおける、山の温度幅をtanδの半値幅とした。なお、試料サイズは、長さ10mm、幅5mm、厚み1mmであった。なお、各実施例、比較例では、サンプルを重ね合わせて厚み約1mmとなるようにした。
【0054】
<厚さ>
ダイヤルゲージで計測したものを厚さとした。
<見掛け密度>
発泡樹脂層の密度は、JIS K6767に準拠して測定した見掛け密度の値である。
【0055】
<衝撃吸収試験>
衝撃吸収シート(50mm角)をアクリル板(100mm角、厚さ10mm)の中心に載せて、この衝撃吸収シートを載せた該アクリル板の面の反対側の面に加速度センサーを取り付けた。なお、アクリル板は、四隅を長さ35mmのボルトにて台座に固定し、該アクリル板の上面が台座面より25mmの位置となるよう保持したものである。
衝撃吸収シートの中心位置に対して、100mmの高さから13.8g(直径15mm)の鉄球を落下させ、衝撃吸収シートと衝突した際の加速度を測定した。また、該衝撃吸収シートは交換せずに同様の鉄球落下、加速度測定を6回繰り返し、全7回分の加速度の平均値を加速度(L1a)とした。また、衝撃吸収シートをアクリル板に置かずに同様の鉄球落下、加速度測定を行った全7回分の加速度の平均値を加速度(L0a)とし、得られた加速度(L1a)及び加速度(L0a)より、7回平均の衝撃吸収率を、以下の式により算出した。なお、試験は、温度23℃、湿度50RH%の条件下で行った。
7回平均の衝撃吸収率(%)=(L0a−L1a)/L0a×100
また、初回(第1回)について、その加速度(L11)と加速度(L0a)とから、初回の衝撃吸収率を、以下の式により算出した。
初回の衝撃吸収率(%)=(L0a−L11)/L0a×100
【0056】
各実施例、比較例で使用した単量体成分は、以下のとおりである。なお、Tgは、各単量体成分のホモポリマーのガラス転移温度を表す。
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート、Tg:−70℃
BA:n−ブチルアクリレート、Tg:−54℃
EA:エチルアクリレート、Tg:−24℃
MA:メチルアクリレート、Tg:8℃
AN:アクリロニトリル 、Tg:125℃
NIPAM:N−イソプロピルアクリルアミド、Tg:134℃
AAC:アクリル酸、Tg:106℃
MAA:メタクリル酸、Tg:228℃
St:スチレン、Tg:100℃
【0057】
また、実施例の樹脂組成物に使用した各成分は、以下の通りである。
2官能架橋剤(商品名「NKエステルAPG−400」、新中村化学工業(株)製)
3官能架橋剤(商品名「NKエステルA−9300−3CL」、新中村化学工業(株)製)
光開始剤(商品名「Irgacure184」、BASFジャパン(株)製)
中空粒子A(商品名「エクスパンセル920DE80d30」、日本フィライト(株)製)、平均粒径:80μm
【0058】
[実施例1]
乳化重合により得た表1に示す単量体成分(a)からなる固形分量50質量%のアクリル系重合体(平均粒径120nm)の水分散体を用意した。エマルジョン組成物を、攪拌機(TESCOM1200)を用いて室温条件下、速度2段階目で、1.0分攪拌することで、メカニカルフロス法により空気を混入させて気泡を形成した。気泡が形成されたエマルジョン組成物を、剥離紙上に塗布した後100℃で5分間加熱して乾燥させて、発泡樹脂層からなる衝撃吸収シートを得た。衝撃吸収シートの評価結果を表1に示す。
【0059】
[実施例2]
単量体成分(a)の配合を表1に示すように変更し、かつ攪拌時間を0.5分に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。衝撃吸収シートの評価結果を表1に示す。
【0060】
[実施例3]
単量体成分(a)の配合を表1に示すように変更し、かつ攪拌時間を1.5分に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。衝撃吸収シートの評価結果を表1に示す。
【0061】
[実施例4]
単量体成分(a)の配合を表1に示すように変更し、かつ攪拌時間を1.0分に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。衝撃吸収シートの評価結果を表1に示す。
【0062】
[実施例5]
単量体成分(a)の配合を表1に示すように変更し、かつ攪拌時間を0.5分に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。衝撃吸収シートの評価結果を表1に示す。
【0063】
[実施例6]
単量体成分(a)の配合を表1に示すように変更し、かつ攪拌時間を1.5分に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。衝撃吸収シートの評価結果を表1に示す。
【0064】
[実施例7]
ブチルアクリレート25質量部、メチルアクリレート75質量部、及び光開始剤0.5質量部を混合し、その混合物を紫外線を用いた重合によって部分重合して、シロップ状の粘度が2000mPa・sである硬化性アクリル樹脂材料を得た。本樹脂材料に、2官能架橋剤を2質量部、3官能架橋剤を1質量部、中空粒子Aを2質量部加えて混合し、アクリル系樹脂組成物を作製した。得られたアクリル系樹脂組成物を剥離紙上に塗布し、照度:4mW/cm、光量:720mJ/cmの条件で紫外線を照射して衝撃吸収シートを得た。衝撃吸収シートの評価結果を表1に示す。
また、実施例7において、空隙率(P0.1)、空隙率(P0.5)、及び空隙率(P0.9)は、それぞれ、22.4%、50.4%、25.3%であり、平均空隙率に対する標準偏差(Pσ)は12.6であった。
【0065】
[比較例1]
単量体成分(a)の配合を表1に示すように変更し、かつ攪拌時間を1.5分に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。衝撃吸収シートの評価結果を表1に示す。
【0066】
[比較例2]
単量体成分(a)の配合を表1に示すように変更し、かつ攪拌時間を1.5分に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。衝撃吸収シートの評価結果を表1に示す。
【0067】
【0068】
表1に示すように、各実施例の衝撃吸収シートは、比較例に比べて、衝撃吸収率が初回及び7回平均ともに高くなり、衝撃吸収性能に優れていた。