(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について以下に説明する。但し、本発明の実施形態は、以下に記載する実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本実施形態の二軸延伸シートは、スチレン−メタクリル酸共重合体(A)とスチレン−ブタジエン共重合体(B)とを含有するスチレン系樹脂組成物からなる。また、二軸延伸シートは、前記スチレン系樹脂組成物を押出成形し、得られた無延伸のシートを二軸延伸することによって得ることができる。
【0014】
尚、本実施形態の二軸延伸シートにおいて、縦方向(MD方向)とは、シート製膜時の流れ方向であり、横方向(TD方向)とは、シート製膜時の流れ方向と直角の方向である。
以下、スチレン系樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0015】
(スチレン−メタクリル酸共重合体(A))
スチレン−メタクリル酸共重合体(A)は、スチレンとメタクリル酸を主たる単量体単位とする共重合体である。スチレンとメタクリル酸の共重合比率は、所望する耐熱性と機械的強度等によって種々設定可能である。スチレン−メタクリル酸共重合体(A)は、耐熱性、機械的強度、シートにしたときの透明性のバランスに優れた樹脂が容易に得られる点から、スチレン単量体単位を86〜97質量%、メタクリル酸単量体単位を3〜14質量%含有することが好ましい。メタクリル酸単量体単位の含有量が3質量%未満であると、耐熱性が不足し、また電子レンジ加熱時に穴あき、変形が起こり易くなる。メタクリル酸単量体単位の含有量は、より好ましくは6質量%以上であり、さらに好ましくは8質量%以上である。一方、メタクリル酸単量体単位の含有量が14質量%を超えると、製膜時の流動性の低下、ゲル発生による外観低下が発生し易くなる。メタクリル酸単量体単位の含有量は、より好ましくは12質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0016】
また、スチレン−メタクリル酸共重合体(A)は、必要に応じて、発明の効果を損なわない限りにおいて、スチレンとメタクリル酸以外の他のモノマーを適宜、共重合させてもよい。他のモノマーの含有率は10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5%質量以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。他のモノマーの含有率が10質量%を超えると、スチレンまたはメタクリル酸の比率が低下し、十分な透明性、機械的強度及び耐熱性が得られない場合がある。他のモノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸などが挙げられる。
【0017】
スチレン−メタクリル酸共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、12万〜25万であることが好ましく、より好ましくは14万〜22万であり、さらに好ましくは15万〜20万である。重量平均分子量が12万未満であると、シートのドローダウン、ネックインが発生するなどの製膜性の低下、延伸配向の不足、容器成形時の熱板接触による表面荒れが発生し易くなる。一方、重量平均分子量が25万を超えると、流動性低下による製膜時の厚みムラ、ダイラインなどのシート外観低下、容器成形時の賦型不良などが発生し易くなる。
【0018】
また、スチレン−メタクリル酸共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnは、2.0〜3.0であることが好ましく、より好ましくは2.2〜2.8である。Mw/Mnが3.0を超えると、容器成形時の熱板接触による表面荒れが発生し易くなる。一方、Mw/Mnが2.0未満であると、流動性低下による製膜時の厚みムラや容器成形時の賦型不良が発生し易くなる。また、Z平均分子量(Mz)とMwとの比Mz/Mwは、1.5〜2.0であることが好ましく、より好ましくは1.6〜1.9である。Mz/Mwが1.5未満であると、シートのドローダウン、ネックインが発生するなどの製膜性の低下、延伸配向の不足が発生し易くなる。一方、Mz/Mwが2.0を超えると、流動性低下による製膜時の厚みムラやダイラインなどのシート外観低下が発生し易くなる。
【0019】
なお、上述の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)は、GPC測定にて、以下の方法にて単分散ポリスチレンの溶出曲線より各溶出時間における分子量を算出し、ポリスチレン換算の分子量として算出したものである。
機種:東ソー社製HLC−8320GPC
カラム:昭和電工社製ShodexGPCKF−404を直列に4本接続
移動相:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.2質量%
温度:オーブン40℃、注入口35℃、検出器35℃
検出器:示差屈折計
【0020】
スチレン−メタクリル酸共重合体(A)の重合方法としては、ポリスチレン等で工業化されている塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法等の公知の重合方法が挙げられる。品質面や生産性の面では、塊状重合法、溶液重合法が好ましく、連続重合であることが好ましい。溶媒としては例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼンおよびキシレン等のアルキルベンゼン類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサンやシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類が使用できる。
【0021】
スチレン−メタクリル酸共重合体(A)の重合時に、必要に応じて重合開始剤、連鎖移動剤を使用することができる。重合開始剤としては、有機過酸化物を使用することができる。有機過酸化物の具体例としては、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーオキシベンゾネート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ポリエーテルテトラキス(t−ブチルパーオキシカーボネート)、エチル−3,3−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブチレート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等が挙げられる。連鎖移動剤の具体例としては、脂肪族メルカプタン、芳香族メルカプタン、ペンタフェニルエタン、α−メチルスチレンダイマーおよびテルピノーレン等が挙げられる。
【0022】
(スチレン−ブタジエン共重合体(B))
スチレン−ブタジエン共重合体(B)は、スチレンとブタジエンを主たる単量体単位とする共重合体である。本発明者らは、スチレン−メタクリル酸共重合体(A)にスチレン−ブタジエン共重合体(B)を所定量配合することによって、スチレン−メタクリル酸共重合体(A)の靭性を適切に改善できることを見出した。スチレンとブタジエンの共重合比率は、所望する耐熱性や靭性等によって種々設定可能である。スチレン−ブタジエン共重合体(B)は、耐熱性、靭性のバランスに優れた樹脂が得られる点から、スチレン単量体単位を70〜85質量%、ブタジエン単量体単位を15〜30質量%含有することが好ましい。スチレン単量体単位の含有量が上記範囲内にあると、スチレン−ブタジエン共重合体(B)はスチレン−メタクリル酸共重合体(A)との相溶性に優れており、スチレン系樹脂組成物の透明性を損なうことなく、靭性の改善を図ることができる。スチレン−ブタジエン共重合体(B)のブタジエン単量体単位の含有量が15質量%未満であると、靭性の改善効果が小さくなる。ブタジエン単量体単位の含有量は、より好ましくは17質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上である。一方、ブタジエン単量体単位の含有量が30質量%を超えると、スチレン−メタクリル酸共重合体(A)との相溶性が低くなり、シートの透明性が低下する。ブタジエン単量体単位の含有量は、より好ましくは29質量%以下である。
【0023】
スチレンーブタジエン共重合体(B)は、スチレンとブタジエンとのブロック共重合体であることが好ましい。スチレンーブタジエン共重合体(B)がブロック共重合体であると、スチレン−メタクリル酸共重合体との相溶性の面で好ましい。ブロック共重合体のブロックの構成としては、ポリスチレンブロックをS、ポリブタジエンブロックをBとすると、S−B、S−B−S、S−B−S−Bが好ましく、S−B−Sがより好ましい。また、ポリスチレンブロックをS、スチレンとブタジエンのテーパードブロックをSBとすると、S−SB、S−SB−Sが好ましい。
【0024】
スチレン−ブタジエン共重合体(B)がスチレンとブタジエンとのブロック共重合体であるとき、重合方法としては、有機溶剤中で有機リチウム化合物を重合開始剤としたリビングアニオン重合法、または当該リビングアニオン重合法とそれに続く多官能性カップリング剤を用いたカップリング反応を用いることができる。これらの重合方法に用いられる有機溶剤には、炭素と水素からなる低分子有機化合物が用いられ、具体的には、ブタン、ペンタン、ヘキサン、イソペンタン、ヘプタン、オクタン、イソオクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素、テトラヒドロフラン等が挙げられる。また、有機リチウム化合物は、分子中に1個以上のリチウム原子が結合した化合物であり、具体的には、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムなどが挙げられる。
【0025】
ブロック共重合体において、スチレンとブタジエンとが連続的に割合を変える、いわゆるテーパー構造のブロック(テーパードブロック)を重合する場合には、スチレンとブタジエンを同時に一括して反応系内に添加すればよい。
【0026】
また、ブロック共重合体において、スチレンとブタジエンのランダム構造のブロック(ランダムブロック)を重合する場合には、スチレンとブタジエンを同時に少量ずつ反応系内に仕込めばよい。また、ランダムブロックを重合する際には、できるだけ均一に反応させるため反応系の温度を40℃〜120℃で一定に保つことが好ましい。また、テーパー構造やランダム構造を作るときに、スチレンとブタジエンとのランダム性をさらに高めるために、反応系内にランダム化剤を適宜添加することができる。
【0027】
ランダム化剤は、極性を持つ分子であり、アミン類、エーテル類、チオエーテル類、ホスホルアミド、アルキルベンゼンスルホン酸塩、カリウムまたはナトリウムのアルコキシドなどが使用可能である。アミン類としては、第三級アミン、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、環状第三級アミンなどを挙げることができる。エーテル類としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。その他のランダム化剤として、トリフェニルフォスフィン、ヘキサメチルホスホルアミド、アルキルベンゼンスルホン酸カリウムまたはナトリウム、カリウムまたはナトリウムのブトキシドなどを挙げることができる。
【0028】
スチレン−ブタジエン共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)は、10万〜20万であることが好ましく、より好ましくは12万〜18万である。スチレン−ブタジエン共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)の測定方法は、上記のスチレン−メタクリル酸共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)の測定方法に準じて測定することができる。
【0029】
(スチレン系樹脂組成物)
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、ブタジエン単量体単位の含有量が0.2〜2.5質量%である。また、スチレン系樹脂組成物中のブタジエン単量体単位の含有量は、0.4〜1.5質量%であることが好ましい。ブタジエン単量体単位は、主として、スチレン−ブタジエン共重合体(B)のブタジエン単量体単位に由来する。スチレン系樹脂組成物中のブタジエン単量体単位の含有量がこの範囲にあるとき、スチレン系樹脂組成物の二軸延伸シートの透明性を保持しつつ、靭性を改善することができる。ここで、スチレン系樹脂組成物中のブタジエン単量体単位の含有量は、以下の一塩化ヨウ素法で測定することができる。
スチレン系樹脂組成物をクロロホルムに溶解し、一塩化ヨウ素を加えてゴム成分中の二重結合と反応させた後、ヨウ化カリウムを加え、残存する一塩化ヨウ素をヨウ素に変え、チオ硫酸ナトリウムで逆滴定する。
【0030】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、スチレン−メタクリル酸共重合体(A)91〜99質量%とスチレン−ブタジエン共重合体(B)1〜9質量%とを含有していることが好ましい。スチレン−ブタジエン共重合体(B)が9質量%を超えると、シートの透明性が損なわれ、蓋材として使用時に内容物を鮮明に視認できなくなる恐れがある。一方、スチレン−ブタジエン共重合体(B)が1質量%を下回ると、靭性の改善効果が不十分であり、シート製膜時の破断や二次成形する際の型抜き不良が発生する恐れがある。スチレン系樹脂組成物は、スチレン−メタクリル酸共重合体(A)が92〜98質量%、スチレン−ブタジエン共重合体(B)が2〜8質量%であることがより好ましく、スチレン−メタクリル酸共重合体(A)が94〜97質量%、スチレン−ブタジエン共重合体(B)が3〜6質量%であることがさらに好ましい。
【0031】
スチレン系樹脂組成物は、組成物中の未反応スチレンモノマーの含有量が1000ppm以下であることが好ましく、未反応メタクリル酸モノマーの含有量が150ppm以下であることが好ましい。これらの未反応のモノマーの含有量が前記規定量よりも多いと、シート表面にブリードアウトしたり、押出機、延伸機のロールと接触した際に表面荒れや汚れを起こしやすい。また、シートを成形加工する際に成形加工機の金型等に付着して、成形品の外観を損ねたり、金型汚れを引き起こして、その後の成形品の外観を損なう懸念がある。
なお、未反応スチレンモノマーおよび未反応メタクリル酸モノマーの定量は、下記記載のガスクロマトグラフィーを用いて、内部標準法にて測定した。
装置名:GC−12A(島津製作所社製)
カラム:ガラスカラム φ3[mm]×3[m]
定量法:内部標準法(シクロペンタノール)
【0032】
スチレン−メタクリル酸共重合体(A)中に含まれる隣接する2つのメタクリル酸単量体単位が、高温、高真空の押出工程において、六員環酸無水物を形成する場合がある。この六員環酸無水物を多く含むスチレン系樹脂組成物は、シート化したときに透明なゲル状異物として顕在化し、シートの外観を損ねる恐れがある。そのため、スチレン系樹脂組成物中の六員環酸無水物の含有量は、1.0質量%以下とすることが好ましい。
なお、上記六員環酸無水物の含有量は、カーボン核磁気共鳴(13C−NMR)測定装置で測定したスペクトルの積分比から求めた。
【0033】
スチレン系樹脂組成物は、ビカット軟化温度が106〜132℃の範囲であることが好ましい。ビカット軟化温度が106℃未満であると、シートの耐熱性が不足し、電子レンジ加熱時に変形が起こり易くなる。ビカット軟化温度は好ましくは112℃以上、さらに好ましくは116℃以上である。一方、ビカット軟化温度が132℃を超えると、製膜時および容器成形時の加工性が低下するおそれがある。ビカット軟化温度は好ましくは128℃以下、さらに好ましくは126℃以下である。なお、ビカット軟化温度は、JIS K−7206に準拠して、昇温速度50℃/hr、試験荷重50Nの条件で測定した。
【0034】
スチレン系樹脂組成物のメルトフローインデックス(MFI)は、製膜時のドローダウン、厚み均一性の観点から、0.5〜4.5g/10分の範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.9〜3.6g/10分、さらには好ましくは1.0〜3.0g/10分である。なお、メルトフローインデックス(MFI)は、JIS K7210のH条件(200℃、5kg)に従って測定した。
【0035】
スチレン系樹脂組成物には、必要に応じて各種添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、ゲル化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、可塑剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、鉱油等の添加剤、ガラス繊維、カーボン繊維およびアラミド繊維等の補強繊維、タルク、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウムなどの充填剤が挙げられる。また、上記スチレン系樹脂組成物をシート化したときの外観の観点から、酸化防止剤およびゲル化防止剤を単独または2種類以上を併用して配合することが好ましい。これらの添加剤は、スチレン−メタクリル酸共重合体(A)およびスチレン−ブタジエン共重合体(B)の重合工程、脱揮工程または造粒工程にて添加してもよいし、スチレン系樹脂組成物を製造するときに添加してもよい。上記添加剤の添加量に制限はないが、スチレン系樹脂組成物のシートの透明性を損なわない範囲で添加することが好ましい。
【0036】
(二軸延伸シート)
本実施形態の二軸延伸シートは、前記のスチレン系樹脂組成物を二軸延伸加工して得られるものである。二軸延伸は、逐次二軸延伸、同時二軸延伸のいずれであってもよい。
【0037】
二軸延伸シートは、例えば、次のような方法で製造することができる。まず、前記スチレン系樹脂組成物を押出機により溶融混練して、ダイ(特にTダイ)から押し出して無延伸シートを製造する。次に、無延伸シートを縦方向および横方向の二軸方向に逐次又は同時に延伸することによって、二軸延伸シートが製造される。
【0038】
二軸延伸シートの厚みは、シートおよび容器の強度、賦型性を確保するために、0.1〜0.4mmであることが好ましく、0.20〜0.35mmであることがより好ましい。
【0039】
二軸延伸シートの縦方向および横方向の延伸倍率はいずれも、1.8〜3.2倍の範囲にあることが好ましい。延伸倍率が1.8倍未満では、シートの剛性や耐折性が低下するおそれがある。一方、延伸倍率が3.2倍を超えると、熱成形時の収縮率が大き過ぎることにより賦形性が損なわれるおそれがある。二軸延伸シートの縦方向および横方向の延伸倍率はいずれも、2.0〜3.0倍の範囲にあることがより好ましい。
【0040】
なお、延伸倍率の測定方法は、以下のとおりである。二軸延伸シートの試験片に対して、縦方向および横方向に100mm長の直線を引く。JIS K7206:2016に従って測定したシートのビカット軟化温度より30℃高い温度のオーブンに、上記試験片を60分間静置し収縮させた後の、上記直線の長さL[mm]を測定する。縦方向および横方向の延伸倍率(倍)はそれぞれ、次式によって算出した数値である。
延伸倍率(倍)=100/L
【0041】
本発明者らは、配向緩和応力を従来に比べてかなり低い数値範囲に制御することによって、レンジ加熱時の穴あきや変形の発生が大きく低減されることを見出した。配向緩和応力が小さいと、電子レンジ加熱等によって局所的にガラス転移点に近い温度に加熱されたとしても、その部分が収縮応力によって大きく変形したり、穴が発生したりすることが生じにくくなるものと考えている。
【0042】
二軸延伸シートの縦方向および横方向の配向緩和応力はいずれも、0.10MPa以上0.50MPa
以下の範囲にあることが必要であり、0.2〜0.4MPaであることが好ましい。配向緩和応力が0.10MPa未満では、靭性が低下して、シート製膜時の破断や二次成形する際の型抜き不良が発生しやすく、実用的に使用できなくなるおそれがある。一方、配向緩和応力が0.50MPa
を超えると、電子レンジ加熱時の穴あき・変形が発生しやすくなる。
【0043】
二軸延伸シートの縦方向および横方向の配向緩和応力を上記数値範囲内に制御するためには、延伸倍率、二軸延伸時の温度、延伸速度、無延伸シートの厚みをそれぞれ所定の範囲に管理することが好ましい。延伸倍率は、上記したように、縦方向および横方向いずれも、1.8〜3.2倍の範囲にあることが好ましい。二軸延伸時の温度は、145〜155℃の範囲とすることが好ましい。延伸速度は、10〜50mm/秒の範囲とすることが好ましい。無延伸シートの厚みは、1.0〜3.0mmの範囲とすることが好ましい。
【0044】
また、シートの耐折性および賦形性のバランスの観点から、縦方向および横方向の配向緩和応力の差は絶対値で0.20MPa未満であることが好ましく、0.10MPa未満であることがより好ましい。二軸延伸シートの配向緩和応力は、ASTM D1504に従って、シートを構成する樹脂組成物のビカット軟化温度より30℃高い温度のシリコーンオイル中でのピーク応力値として測定した値である。
【0045】
二軸延伸シートの縦方向と横方向の引張弾性率がいずれも2500〜3400MPaであることが好ましく、2700〜3100MPaであることがより好ましい。引張弾性率は、JIS K 7161に従って測定することができる。縦方向と横方向の引張弾性率がいずれも上記の範囲内にあると、良好な容器強度や賦型性を発揮することができる。
【0046】
二軸延伸シート中のゲル含有量は、二次成形時の加工性、外観の透明性の観点から、少ないことが好ましい。二軸延伸シート中のゲル含有量は、1.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。二軸延伸シート中のゲル含有量は、二軸延伸シートをMEK(2−ブタノン)溶剤に溶かし、遠心分離を行い、溶剤不溶分を沈降させ、上澄みを除去した後に乾燥させ、秤量することによって求めることができる。
【0047】
二軸延伸シートは、スチレン単量体の含有量が1000ppm以下であることが好ましい。スチレン単量体の含有量が1000ppmよりも多いと、シートを成形加工する際に成形加工機の金型等に付着し、成形品の外観を損ねたり、金型汚れを引き起こしてその後の成形容器の外観を損なう懸念がある。なお、スチレン単量体の定量は、下記記載のガスクロマトグラフィーを用い、内部標準法にて測定することができる。
装置名:GC−12A(島津製作所社製)
カラム:ガラスカラム φ3[mm]×3[m]
定量法:内部標準法(シクロペンタノール)
【0048】
また、二軸延伸シート中のスチレンオリゴマーの総含有量は、10000ppm以下であることが好ましく、5000ppm以下であることがより好ましい。スチレンオリゴマーが10000ppmよりも多いと、シートを成形加工する際に成形品の外観を損ねたり、金型汚れを引き起こす懸念がある。スチレンオリゴマーとは、スチレン単量体のダイマーやトリマーのことを指し、それらの構造異性体も含まれる。
【0049】
スチレンオリゴマーの定量は、試料200mgを2mLの1,2−ジクロロメタン(内部標準物質含有)に溶解させた後、メタノールを2mL添加して樹脂を析出させ、静置後の上澄み液を用いてガスクロマトグラフにて以下の条件で測定することができる。
ガスクロマトグラフ:HP−5890(ヒューレットパッカード社製)
カラム:DB−1(ht) 0.25mm×30m 膜厚0.1μm
インジェクション温度:250℃
カラム温度:100−300℃
検出器温度:300℃
スプリット比:50/1
内部標準物質:n−エイコサン
キャリアーガス:窒素
【0050】
二軸延伸シートには、必要に応じて、公知の離型剤・剥離剤(例えばシリコーンオイル)、防曇剤(例えばショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等のノニオン系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンオイル、二酸化珪素等)、帯電防止剤(例えば各種ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等)の内の1種または2種以上を混合して、延伸シートの片面または両面に塗布してもよい。
【0051】
上記の化合物を延伸シートの表面に塗工する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。具体的には、ロールコーター、ナイフコーター、グラビアロールコーター等を用いて塗工する方法が挙げられる。また、噴霧、浸漬等の方法を採用することもできる。
【0052】
(成形品)
二軸延伸シートから成形品を得る方法としては、特に制限はなく、従来の延伸シートの二次成形方法において慣用されている方法を用いることができる。例えば、真空成形法や圧空成形法等の熱成形方法によって二次成形を行うことができる。これらの方法は例えば高分子学会編「プラスチック加工技術ハンドブック」日刊工業新聞社(1995)に記載されている。
【0053】
本発明の二軸延伸シートの成形品の用途としては、各種の容器があり、各種物品の包装容器等に広く用いることができる。中でも、電子レンジ加熱用食品包装容器等が本発明の特徴が十分に発揮されるため、好ましい。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例を用いて、本発明の二軸延伸シートをより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
二軸延伸シートのスチレン系樹脂組成物の製造に用いる原料となる樹脂は、以下に記載する方法で調製した。
【0055】
[スチレン−メタクリル酸共重合体(A)]
以下の(1)〜(4)の操作により、スチレンとメタクリル酸との共重合体を製造した。
(1)内容積210Lのオートクレーブを用いて、純水90kgにポリビニルアルコール100gを添加し攪拌した。
(2)スチレン45.0kg、メタクリル酸5.0kg及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート55g、エチル−3,3−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブチレート10g、α−メチルスチレンダイマー45gを仕込み、温度112℃に昇温して6時間重合を行った。なお、温度112℃で6時間重合を行った時の転化率は98%であった。
(3)温度132℃で4.5時間保持し、重合を完結させた。
(4)重合して得られたビーズを洗浄、脱水、乾燥した後、押出機を用いてペレット形状の共重合体を得た。
(5)得られた共重合体は、実施例1のスチレン−メタクリル酸共重合体(A)として使用した。
なお、得られたスチレン−メタクリル酸共重合体(A)のMw/Mnは2.5、Mz/Mwは1.8であった。
また、スチレンおよびメタクリル酸の仕込み量を調整することで、同様にして、後記する表1および表2に記載の各種スチレン単量体単位およびメタクリル酸単量体単位の含有量が異なる共重合体を得た。
【0056】
[スチレン−ブタジエン共重合体(B)]
以下の(1)〜(7)の操作により、スチレンと1,3−ブタジエンとのブロック共重合体を製造した。
(1)反応容器中にシクロヘキサン500.0kg、テトラヒドロフラン(THF)75.0gを入れた。
(2)この中に重合開始剤溶液としてn−ブチルリチウムの10質量%シクロヘキサン溶液1,000mLを加え、30℃に保った。
(3)スチレン20.0kgを加え、スチレンをアニオン重合させた。内温は35℃まで上昇した。
(4)スチレンが完全に消費された後、1,3−ブタジエン48.0kgとスチレン72.0kgを同時に添加した。
(5)スチレンと1,3−ブタジエンが完全に消費された後、反応系の内温を75℃に下げ、60.0kgのスチレンを一括添加し、重合を完結させた。
(6)最後に全ての重合活性末端を水により失活させて、ポリスチレンブロック、スチレンとブタジエンのテーパードブロックを持つ重合体を含む重合液を得た。
(7)この重合液を脱揮して、押出機を用いてペレット形状のブロック共重合体を得た。共役ジエン含有質量比は24.0%であった。
(8)得られたブロック共重合体は、実施例1のスチレン−ブタジエン共重合体(B)として使用した。
なお、得られたスチレン−ブタジエン共重合体(B)のMwは、15.1万であった。
また、スチレンおよびブタジエンの仕込み量を調整することで、同様にして、後記する表1および表2に記載の各種スチレン単量体単位およびブタジエン単量体単位の含有量が異なる共重合体を得た。
【0057】
以下に、二軸延伸シートの作製例を記す。
(実施例1)
得られたスチレン−メタクリル酸共重合体(A)を95.0質量%、スチレン−ブタジエン共重合体(B)5.0質量%を40mmの単軸押出機を用いて、230℃、70rpmで混錬後、ペレタイズした。得られたペレットを40mmの単軸押出機を用いて、230℃、70rpmで溶融し、Tダイを通して、1.5mm厚みの無延伸シートを得た。得られた無延伸シートを切り出し、二軸延伸機を用いて、二軸延伸時の温度150℃、延伸速度30mm/秒、延伸倍率縦方向2.5倍、横方向2.5倍で逐次延伸することで、実施例1記載の二軸延伸シートを得た。
【0058】
(実施例2〜14、比較例1〜7)
表1〜2に記載のように、スチレン−メタクリル酸共重合体(A)、スチレン−ブタジエン共重合体(B)の種類および配合量、無延伸シートの厚み、縦方向および横方向の延伸倍率、二軸延伸時の温度を変更した以外は、実施例1と同様の方法で二軸延伸シートを得た。得られた二軸延伸シートの配向緩和応力(縦方向、横方向)、配向緩和応力の縦方向と横方向の差、シート厚みを表1〜2に示した。
なお、実施例4のスチレン−メタクリル酸共重合体(A)のMw/Mnは2.8、Mz/Mwは1.8であった。実施例5のスチレン−メタクリル酸共重合体(A)のMw/Mnは2.5、Mz/Mwは1.7であった。実施例6のスチレン−ブタジエン共重合体(B)のMwは、16.3万であった。実施例7のスチレン−ブタジエン共重合体(B)のMwは、15.9万であった。実施例8のスチレン−ブタジエン共重合体(B)のMwは、14.8万であった。実施例9のスチレン−ブタジエン共重合体(B)のMwは、14.5万であった。
【0059】
得られた二軸延伸シートについて、以下に記載した方法にて各種性能を測定し、評価を行った。◎、○、△、×の相対評価においては、◎、○、△のときを合格、×を不合格と判定した。結果を表1〜2に記載した。
【0060】
(1)耐電子レンジ加熱性
二軸延伸シートを成形した蓋材の内容物側の面に、セブンイレブン社の「花椒の香り広がる!麻婆丼」の麻婆豆腐を塗り付けた後、購入時の蓋材と入れ替えて、容器を嵌合させた。その後、推奨電子レンジ加熱条件出力1500W、加熱時間80秒に対して、推奨の出力かつ1.5倍の時間で電子レンジ加熱を実施した。加熱後の、容器を取り出し、蓋材の穴あき数および変形度合いを目視で確認し、以下のように評価した。
◎:穴あきなし、かつほとんど変形なし
○:穴あき箇所が3か所以下、かつ変形が小さい
△:穴あき箇所が5か所以下、かつ変形小さい
×:穴あき箇所が10個以上、または変形が大きい
【0061】
(2)靭性
ASTM D2176に従って、シート押出方向(縦方向)とそれに垂直な方向(横方向)の耐折曲げ強さを測定し、平均値を求め、以下のように評価した。
◎:7回以上
○:5回以上、7回未満
△:2回以上、5回未満
×:2回未満
【0062】
(3)透明性(ヘーズ)
JIS K−7361−1に従って、ヘーズメーターNDH5000(日本電色社)を用いて、二軸延伸シートのヘーズを測定した。
◎:ヘーズ5.0%未満
○:ヘーズ5.0%以上、10.0%未満
△:ヘーズ10.0%以上、15.0%未満
×:ヘーズ15.0%以上
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表1〜2の結果から、実施例1〜14で得られた本発明の規定を満たす二軸延伸シートは、いずれも耐電子レンジ加熱性、靭性、透明性のいずれにおいても、優れた性能を有するものであった。
【0066】
一方、比較例1〜7で得られた本発明の規定を満たさない二軸延伸シートについてはいずれも、耐電子レンジ加熱性、靭性、透明性のいずれかの性能において望ましくない結果であった。
靭性を保持しつつ、耐電子レンジ加熱性が改善されたスチレン系樹脂組成物からなる二軸延伸シートとその成形品を提供する。スチレン−メタクリル酸共重合体(A)とスチレン−ブタジエン共重合体(B)とを含有するスチレン系樹脂組成物からなる二軸延伸シートであって、前記スチレン系樹脂組成物中のブタジエン単量体単位の含有量が0.2〜2.5質量%であり、縦方向と横方向の配向緩和応力がいずれも0.10MPa以上0.50MPa未満の範囲である二軸延伸シート、およびその成形品である。