特許第6917668号(P6917668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6917668エネルギー分散型蛍光X線分析装置、評価方法及び評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6917668
(24)【登録日】2021年7月26日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】エネルギー分散型蛍光X線分析装置、評価方法及び評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20210729BHJP
【FI】
   G01N23/223
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2021-520628(P2021-520628)
(86)(22)【出願日】2020年11月30日
(86)【国際出願番号】JP2020044556
【審査請求日】2021年4月14日
(31)【優先権主張番号】特願2019-229275(P2019-229275)
(32)【優先日】2019年12月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊田 真也
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−107261(JP,A)
【文献】 特開2014−173864(JP,A)
【文献】 特開2019−109201(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/106440(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00ー23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次X線を照射された試料から出射される2次X線に基づいて、2次X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを取得するスペクトル取得部と、
前記スペクトルに含まれるピークに基づき、前記試料に含まれる元素を定量分析する演算部と、
前記スペクトル取得部が前記スペクトルを取得するプロセスと、前記演算部が行う定量分析を行うプロセスと、の一連のプロセスに対して、計算方法の異なる複数の評価値を演算し、該複数の評価値を合成した総合評価値を算出する評価部と、
を有することを特徴とするエネルギー分散型蛍光X線分析装置。
【請求項2】
さらに、前記複数の評価値を個別にグラフで表示する表示部を有する、ことを特徴とする請求項に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置。
【請求項3】
前記複数の評価値は、前記スペクトル取得部が前記スペクトルを取得する際の測定条件に基づいて算出される評価値を含む、ことを特徴とする請求項1または2に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置。
【請求項4】
前記複数の評価値は、前記スペクトルの形状に基づいて算出される評価値を含む、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置。
【請求項5】
前記複数の評価値は、前記スペクトルに対するフィッティングを行った結果得られるフィッティングパラメータに基づいて算出される評価値を含む、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置。
【請求項6】
前記評価値は、前記2次X線を検出する時間である測定時間に基づいて算出される、ことを特徴とする請求項に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置。
【請求項7】
前記評価値は、前記2次X線を検出する時間である測定時間のうち、測定結果に寄与しないデッドタイムが占める時間の割合に基づいて算出される、ことを特徴とする請求項に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置。
【請求項8】
前記評価値は、前記2次X線を検出する際に前記2次X線を減衰させるアッテネータが用いられているか否かに基づいて算出される、ことを特徴とする請求項に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置。
【請求項9】
前記評価値は、前記スペクトルに含まれるピークの強度と、該ピークと対応して予め設定された基準強度と、の一致率に基づいて算出される、ことを特徴とする請求項に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置。
【請求項10】
前記評価値は、前記スペクトルに含まれるピークの強度と、該ピーク以外のバックグラウンド強度と、の比率に基づいて算出される、ことを特徴とする請求項に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置。
【請求項11】
前記評価値は、前記スペクトルに含まれるピークのエネルギーの測定値と、該ピークのエネルギーの理論値と、の相違に基づいて算出される、ことを特徴とする請求項に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置。
【請求項12】
前記評価値は、前記スペクトルに含まれるピークの幅を表す測定値と、該ピークと対応して予め設定された幅を表す基準値と、の相違に基づいて算出される、ことを特徴とする請求項に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置。
【請求項13】
前記評価値は、前記スペクトルに含まれるピークと、該ピークに対して行うフィッティングによって取得されたプロファイルと、の一致率に基づいて算出される、ことを特徴とする請求項に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置。
【請求項14】
前記評価値は、前記スペクトルに対するフィッティングによって、分析対象とする元素の定量に用いるピークに対し、異なる元素に起因するピークが重複すると判定される組み合わせの数に基づいて算出される、ことを特徴とする請求項に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置。
【請求項15】
エネルギー分散型蛍光X線分析装置によって、1次X線を照射された試料から出射される2次X線に基づいて、2次X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを取得する測定ステップと、
前記スペクトルに含まれるピークに基づき、前記試料に含まれる元素を定量分析する演算ステップと、
前記測定ステップにおいて前記スペクトルを取得するプロセスと、前記演算ステップにおいて前記定量分析を行うプロセスと、の一連のプロセスに対して、計算方法の異なる複数の評価値を演算し、該複数の評価値を合成した総合評価値を算出する評価ステップと、
を含むことを特徴とする評価方法。
【請求項16】
エネルギー分散型蛍光X線分析装置に用いられるコンピュータで実行されるプログラムであって、
1次X線を照射された試料から出射される2次X線に基づいて、2次X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを取得する測定ステップと、
前記スペクトルに含まれるピークに基づき、前記試料に含まれる元素を定量分析する演算ステップと、
前記測定ステップにおいて前記スペクトルを取得するプロセスと、前記演算ステップにおいて前記定量分析を行うプロセスと、の一連のプロセスに対して、計算方法の異なる複数の評価値を演算し、該複数の評価値を合成した総合評価値を算出する評価ステップと、
を前記コンピュータに実行させることを特徴とする評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置、評価方法及び評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析装置は、試料に含まれる元素を分析することができる。例えば、エネルギー分散型の蛍光X線分析装置は、試料に1次X線を照射し、出射された2次X線をエネルギー方向に幅を有するスペクトルとして取得する。当該スペクトルに含まれるピークのエネルギー位置及び強度に基づいて、試料に含まれる元素の定量分析が行われる。
【0003】
蛍光X線分析法に習熟していないユーザが蛍光X線分析装置を用いる場合、測定結果が信頼できるものか判断することは困難である。そこで、下記特許文献1は、指定された分析精度が得られるピーク測定時間を算出する点を開示している。また、下記特許文献2は、予め設定されている測定時間に対する予想精度を算出して表示する点を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−065765号公報
【特許文献2】特開2001−133419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1は、定量分析を行う一連のプロセスの信頼性を評価することはできない。また、特許文献2は、測定時間に対する予想精度を算出するにすぎず、定量分析を行う一連のプロセスの信頼性を評価することができない。そのため、ユーザは結果の信頼性を判断するために、スペクトルを見て判断する必要がある。また、蛍光X線分析法に習熟していないユーザは、スペクトルを見たとしても測定結果の信頼性を検証することができないため、スペクトルを確認することなく定量分析の数値のみを信頼してしまう。そのため、ユーザが分析結果を信頼してよいものであるか確認せずに、分析のプロセスに異常があっても気づかないという問題があった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、蛍光X線分析法に習熟していないユーザであっても、定量分析の結果に対する信頼性を容易に判断でき、測定条件や蛍光X線分析装置、試料、試料の前処理等に異常がある場合に速やかに異常があったことを認識できるエネルギー分散型蛍光X線分析装置、評価方法及び評価プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置は、1次X線を照射された試料から出射される2次X線に基づいて、2次X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを取得するスペクトル取得部と、前記スペクトルに含まれるピークに基づき、前記試料に含まれる元素を定量分析する演算部と、前記スペクトル取得部が前記スペクトルを取得するプロセスと、前記演算部が行う定量分析を行うプロセスと、の一連のプロセスの信頼性を評価する評価部と、を有することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置は、請求項1に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置において、前記評価部は、前記一連のプロセスに対して、計算方法の異なる複数の評価値を演算し、該複数の評価値を合成した総合評価値を算出する、ことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置は、請求項2に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置において、さらに、前記複数の評価値を個別にグラフで表示する表示部を有する、ことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置は、請求項2または3に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置において、前記複数の評価値は、前記スペクトル取得部が前記スペクトルを取得する際の測定条件に基づいて算出される評価値を含む、ことを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置は、請求項2乃至4のいずれかに記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置において、前記複数の評価値は、前記スペクトルの形状に基づいて算出される評価値を含む、ことを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置は、請求項2乃至5のいずれかに記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置において、前記複数の評価値は、前記スペクトルに対するフィッティングを行った結果得られるフィッティングパラメータに基づいて算出される評価値を含む、ことを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置は、請求項4に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置において、前記評価値は、前記2次X線を検出する時間である測定時間に基づいて算出される、ことを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置は、請求項4に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置において、前記評価値は、前記2次X線を検出する時間である測定時間のうち、測定結果に寄与しないデッドタイムが占める時間の割合に基づいて算出される、ことを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置は、請求項4に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置において、前記評価値は、前記2次X線を検出する際に前記2次X線を減衰させるアッテネータが用いられているか否かに基づいて算出される、ことを特徴とする。
【0016】
請求項10に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置は、請求項5に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置において、前記評価値は、前記スペクトルに含まれるピークの強度と、該ピークと対応して予め設定された基準強度と、の一致率に基づいて算出される、ことを特徴とする。
【0017】
請求項11に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置は、請求項5に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置において、前記評価値は、前記スペクトルに含まれるピークの強度と、該ピーク以外のバックグラウンド強度と、の比率に基づいて算出される、ことを特徴とする請求項5に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置。
【0018】
請求項12に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置は、請求項5に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置において、前記評価値は、前記スペクトルに含まれるピークのエネルギーの測定値と、該ピークのエネルギーの理論値と、の相違に基づいて算出される、ことを特徴とする請求項5に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置。
【0019】
請求項13に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置は、請求項5に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置において、前記評価値は、前記スペクトルに含まれるピークの幅を表す測定値と、該ピークと対応して予め設定された幅を表す基準値と、の相違に基づいて算出される、ことを特徴とする請求項5に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置。
【0020】
請求項14に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置は、請求項6に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置において、前記評価値は、前記スペクトルに含まれるピークと、該ピークに対して行うフィッティングによって取得されたプロファイルと、の一致率に基づいて算出される、ことを特徴とする。
【0021】
請求項15に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置は、請求項6に記載のエネルギー分散型蛍光X線分析装置において、前記評価値は、前記スペクトルに対するフィッティングによって、分析対象とする元素の定量に用いるピークに対し、異なる元素に起因するピークが重複すると判定される組み合わせの数に基づいて算出される、ことを特徴とする。
【0022】
請求項16に記載の評価方法は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置によって、1次X線を照射された試料から出射される2次X線に基づいて、2次X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを取得する測定ステップと、前記スペクトルに含まれるピークに基づき、前記試料に含まれる元素を定量分析する演算ステップと、前記測定ステップにおいて前記スペクトルを取得するプロセスと、前記演算ステップにおいて前記定量分析を行うプロセスと、の一連のプロセスの信頼性を評価する評価ステップと、を含むことを特徴とする。
【0023】
請求項17に記載の評価プログラムは、エネルギー分散型蛍光X線分析装置に用いられるコンピュータで実行されるプログラムであって、1次X線を照射された試料から出射される2次X線に基づいて、2次X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを取得する測定ステップと、前記スペクトルに含まれるピークに基づき、前記試料に含まれる元素を定量分析する演算ステップと、前記測定ステップにおいて前記スペクトルを取得するプロセスと、前記演算ステップにおいて前記定量分析を行うプロセスと、の一連のプロセスの信頼性を評価する評価ステップと、を前記コンピュータに実行させることを特徴とする評価プログラム。
【発明の効果】
【0024】
請求項1、2、4乃至17に記載の発明によれば、光X線分析法に習熟していないユーザであっても、定量分析の結果に対する信頼性を容易に判断でき、測定条件や蛍光X線分析装置、試料、試料の前処理等に異常がある場合に速やかに異常があったことを認識できる。
【0025】
請求項3に記載の発明によれば、測定条件や蛍光X線分析装置等に異常があった場合に、可能性の高い原因を一見して認識できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態に係る蛍光X線分析装置を概略的に示す図である。
図2】評価方法のフローを示す図である。
図3】基板の分析対象となる位置の一例を示す図である。
図4】分離されたピークとバックグラウンドの一例を示す図である。
図5】検出器とマルチチャンネルアナライザの相違によるスペクトルの相違を示す図である。
図6】測定スペクトルと基準スペクトルの一例を示す図である。
図7】測定スペクトルと理論プロファイルの一例を示す図である。
図8】測定スペクトルと理論プロファイルの一例を示す図である。
図9】評価結果の一例を示す図である。
図10】評価結果の一例を示す図である。
図11】全反射蛍光X線分析装置を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態(以下、実施形態という)を説明する。図1は、蛍光X線分析装置100の概略の一例を示す図である。
【0028】
図1に示すように、蛍光X線分析装置100はスペクトル取得部102と、制御部104と、を含む。
【0029】
スペクトル取得部102は、1次X線を照射された試料116から出射される2次X線に基づいて、2次X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを取得する。具体的には、例えば、スペクトル取得部102は、X線源106と、試料台108と、アッテネータ110と、検出器112と、マルチチャンネルアナライザ114と、を含む。
【0030】
試料台108は、分析対象となる試料116が載置される。X線源106は、1次X線を、試料116の表面に照射する。1次X線が照射された試料116から、2次X線が出射される。
【0031】
アッテネータ110は、試料116と検出器112の間に配置され、2次X線の強度を減衰させる。アッテネータ110を配置することにより、後述するデッドタイムを短くすることができる。なお、アッテネータ110は、X線源106と試料116の間に配置され、1次X線を減衰させてもよい。
【0032】
検出器112は、例えば、SDD(Silicon Drift Detector)検出器等の半導体検出器である。検出器112は、2次X線(蛍光X線や散乱線)の強度を測定し、測定した2次X線のエネルギーに応じた波高値を有するパルス信号を出力する。
【0033】
マルチチャンネルアナライザ114は、検出器112から出力されるパルス信号を、波高値に応じて計数する。具体的には、例えば、マルチチャンネルアナライザ114は、検出器112の出力パルス信号を、エネルギーに対応したチャンネル毎に計数し、2次X線の強度として出力する。スペクトル取得部102は、マルチチャンネルアナライザ114の出力をスペクトルとして取得する。以下、スペクトル取得部102に取得されたスペクトルは、測定スペクトルまたは単にスペクトルと呼称する。
【0034】
制御部104は、X線源106、試料台108、アッテネータ110の有無、検出器112及びマルチチャンネルアナライザ114の動作を制御する。また、制御部104は、演算部118と、評価部120と、表示部122と、を含む。具体的には、制御部104は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置100に含まれるコンピュータであって、評価プログラムが記憶された記憶部(図示なし)を有する。なお、制御部104は、スペクトル取得部102の外部に設けられ、スペクトル取得部102と接続されるコンピュータであってもよい。評価プログラムは、エネルギー分散型蛍光X線分析装置100に用いられるコンピュータで実行されるプログラムであって、当該コンピュータに後述する評価方法に含まれる各ステップを実行させるプログラムである。
【0035】
演算部118は、スペクトルに含まれるピークに基づき、試料116に含まれる元素を定量分析する。具体的には、例えば、演算部118は、スペクトル取得部102で取得された測定スペクトルに含まれるピークごとにフィッティングを行い、理論プロファイルを取得する。ここで、理論プロファイルは、各ピークの近似関数を足し合わせた形で表現される。各ピークの近似関数は、試料116に含まれる各元素の含有率と物理定数及び装置定数を用いて計算される理論強度、及びピークの形状を表すガウス関数等の適切な関数で構成される。理論プロファイルは、各元素の含有率をパラメータとする関数であるため、測定によって得られたスペクトルに対して理論プロファイルが最もフィットするような含有率を最小二乗法によって求める。これにより、試料116に含まれる元素を定量分析することができる。また、演算部118は、ピークフィッティングを行わず、定量分析を行ってもよい。例えば、演算部118は、設定されたエネルギー範囲における測定スペクトルに基づいてピーク強度を算出し、算出されたピーク強度に基づいて検量線法で定量分析を行ってもよい。
【0036】
評価部120は、スペクトル取得部102がスペクトルを取得するプロセスと、演算部118が行う定量分析を行うプロセスと、の一連のプロセスの信頼性を評価する。具体的には、例えば、評価部120は、一連のプロセスに対して、計算方法の異なる複数の評価値を演算し、該複数の評価値を合成した総合評価値を算出する。当該複数の評価値は、例えば、スペクトル取得部102がスペクトルを取得する際の測定条件に基づいて算出される評価値や、スペクトルの形状に基づいて算出される評価値や、スペクトルに対するフィッティングを行った結果得られるフィッティングパラメータに基づいて算出される評価値を含む。
【0037】
表示部122は、複数の評価値を個別にグラフで表示する。具体的には、例えば、表示部122は、評価部120が算出した各評価値をレーダーチャート、棒グラフ、折れ線グラフ等のグラフで表示する。また、表示部122は、評価部120が算出した総合評価値を、スペクトルに重ねあわせて表示してもよい。
【0038】
続いて、信頼性を評価する一連のプロセスについては、図2を参照しながら説明する。まず、試料116の載置と、測定条件の設定が行われる(S202)。具体的には、例えば、分析対象である試料116が試料台108に載置され、各測定条件が設定される。設定される測定条件は、例えば、試料116から出射される2次X線を検出する時間である測定時間、2次X線を検出する際に2次X線を減衰させるアッテネータ110の有無である。また、設定される測定条件は、X線源106の電流や電圧の大きさ、試料116に対して1次X線が照射される角度、1次X線が照射される位置等を含んでもよい。
【0039】
次に、スペクトル取得部102は、スペクトルを取得する(S204)。具体的には、例えば、X線源106は、S202で設定された測定条件に従って、試料116に1次X線を照射する。検出器112は、2次X線の強度を測定し、パルス信号を出力する。計数器114は、検出器112から出力されるパルス信号を、波高値に応じて計数する。そして、スペクトル取得部102は、マルチチャンネルアナライザ114の出力をスペクトルとして取得する。ここで、スペクトル取得部102は、スペクトルを取得する過程で変動する測定条件を取得する。例えば、スペクトル取得部102は、2次X線を検出する時間である測定時間のうち、測定結果に寄与しないデッドタイムが占める時間の割合を測定条件として取得する。
【0040】
次に、演算部118は、取得されたスペクトルに基づき定量分析を行う(S206)。具体的には、例えば、演算部118は、S204で取得されたスペクトルに含まれるピークごとにフィッティングを行い、測定スペクトルに合致する理論プロファイルを取得することにより定量分析を行う。
【0041】
次に、評価部120は、評価値を算出する(S208)。具体的には、例えば、評価部120は、S202及びS204においてスペクトル取得部102が行ったプロセスと、S206において演算部118が行ったプロセスと、の一連のプロセスの信頼性を評価する。
【0042】
例えば、評価部120は、測定時間に基づいて、評価値を算出する。具体的には、蛍光X線分析法では、統計変動を原因として、検出器112が2次X線を検出する測定時間が短いほど分析の信頼性が低下する。一方、測定時間が長いほど分析の信頼性は向上する。すなわち、測定時間と、分析に係る一連のプロセスの信頼性と、は相関がある。従って、評価部120は、測定時間が長いほど値が大きくなるように、評価値を算出する。具体的には、例えば、評価部120は、測定時間Tmが1000秒のときに評価値が100となり、測定時間Tmが短くなるほど評価値が小さくなるように、数1に従って第1評価値V1を算出する。
【数1】
【0043】
また、例えば、評価部120は、測定時間のうち、測定結果に寄与しないデッドタイムが占める時間の割合に基づいて、評価値を算出する。具体的には、検出器112には、1個の2次X線が入射されてから1個のパルス信号を出力するまでの間に、次の2次X線が入射されたとしても検出できない期間が存在する。また、マルチチャンネルアナライザ114は検出器112が出力するパルス信号の波形整形を行うが、1個のパルス信号に対する波形整形を行う間に次のパルス信号が入力されると計数の数え落としが生じる。すなわち、マルチチャンネルアナライザ114には2次X線を検出できない期間が存在する。当該2次X線が検出されない期間の割合(デッドタイム)が大きいほど、分析の信頼性は低下する。従って、評価部120は、デッドタイムが小さいほど値が大きくなるように、評価値を算出する。具体的には、例えば、評価部120は、デッドタイムTdが0%のときに評価値が100となり、デッドタイムTdが大きくなるほど評価値が小さくなるように、数2に従って第2評価値V2を算出する。
【数2】
【0044】
また、例えば、評価部120は、アッテネータ110が用いられているか否かに基づいて評価値を算出する。具体的には、アッテネータ110は、デッドタイムを短くする効果を有するが、一方で、検出器112に入射される2次X線の強度を減衰させる。当該2次X線の強度の減衰は、分析の信頼性を低下させる。従って、評価部120は、アッテネータ110を用いる場合に値が小さく、アッテネータ110を用いない場合に値が大きくなるように、評価値を算出する。具体的には、例えば、評価部120は、アッテネータ110を用いない場合に評価値が100となり、アッテネータ110の減衰率A(%)が大きくなるほど評価値が小さくなるように、数3に従って第3評価値V3を算出する。
【数3】
【0045】
また、例えば、評価部120は、スペクトルに含まれるピークの強度と、該ピークと対応して予め設定された基準強度と、の一致率に基づいて、評価値を算出する。具体的には、例えば、全反射蛍光X線分析が行われる場合、1次X線は、試料116の表面に対して全反射角以下の入射角度で試料116に照射される。ここで、試料116がウェーハ等の薄い円板状の基板であって基板に撓みや反りが存在する場合、X線源106が固定されていたとしても、測定対象となる位置(測定点)ごとに1次X線と基板表面とのなす入射角度にばらつきが生じる。入射角度が全反射臨界角度より大きいと、入射角度変化による2次X線の強度変化は小さいが、全反射蛍光X線分析を行うことはできない。入射角度が全反射臨界角度より小さい場合、測定点ごとの入射角度が僅かに異なると、測定点毎に計数される2次X線の強度が大きく異なってしまう。
【0046】
一方、図3に示すように、基板の表面が平坦である場合、基板の分析対象となる位置における入射角度と、例えば、基準位置とする基板の中心における入射角度はほぼ同じとなる。従って、基板の分析対象となる位置に1次X線を照射した場合に取得されるスペクトルに含まれるピーク302の強度と、当該基板の中心に対して1次X線を照射することで予め取得されたスペクトルに含まれる対応するピーク304の強度(基準強度)と、はほぼ一致する。
【0047】
そこで、評価部120は、基板の分析対象となる位置に1次X線を照射した場合に取得されるスペクトルに含まれるピークの強度(測定強度)と、基板の中心に対して1次X線を照射することで予め取得されたスペクトルに含まれる対応するピークの強度(基準強度)と、の一致率に基づいて、評価値を算出する。具体的には、例えば、評価部120は、測定強度Imが基準強度Isと同じ場合に評価値が100となり、測定強度Imと基準強度Isとの差が大きくなるほど評価値が小さくなるように、数4に従って第4評価値V4を算出する。また、基準強度は、測定対象である試料ではなく標準試料を対象として取得された強度であってもよい。
【数4】
【0048】
また、例えば、評価部120は、スペクトルに含まれる各ピークの合計強度と、該ピーク以外のバックグラウンド強度と、の比率に基づいて、評価値を算出する。具体的には、2次X線は、元素分析に用いる元素固有の蛍光X線だけではなく、1次X線の散乱線や回折線等の元素分析に寄与しないバックグラウンドを含む。当該バックグラウンドの蛍光X線に対する比率が大きいほどS/N比が低下し、分析の信頼性が低下する。そこで、評価部120は、バックグラウンド強度Ibに対する各蛍光X線のピークの合計強度Itの比率が小さいほど値が小さく、当該比率が大きいほど値が大きくなるように、評価値を算出する。具体的には、例えば、評価部120は、バックグラウンド強度Ibと各蛍光X線のピークの合計強度Itとの比率が1である場合に評価値が0となり、バックグラウンド強度Ibに対するピークの合計強度Itの比率大きくなるほど評価値が大きくなるように、数5に従って第5評価値V5を算出する。数5によれば、蛍光X線だけでなく、散乱線や回折線等の影響を考慮した評価値を取得できる。なお、バックグラウンド強度は、スペクトル全体からフィッティングしたものでも、各蛍光X線のピークに対応するバックグラウンド強度を合計したものでもよい。
【数5】
【0049】
図4は、測定されたスペクトルに対してフィッティングを行った結果、分離されたピークとバックグラウンドを示す図である。評価部120は、適宜設定されたエネルギー範囲において、バックグラウンド強度Ib及び各ピークの合計強度Itを算出する。例えば、評価部120は、図4に示す全エネルギー範囲の各ピークの合計強度、バックグラウンド強度、及び、数5に基づいて第5評価値を算出してもよい。また、評価部120は、図4の所定のエネルギー範囲における各ピークの合計強度、バックグラウンド強度、及び、数5に基づいて第5評価値を算出してもよい。
【0050】
また、例えば、評価部120は、スペクトルに含まれるピークのエネルギーの測定値と、該ピークのエネルギーの理論値と、の相違に基づいて、評価値を算出する。具体的には、特定の元素から発せられる蛍光X線のエネルギーは、当該元素に固有の値(理論値)である。測定されたスペクトルに含まれるエネルギー(ピーク位置の測定値)と、当該ピークと対応する元素に固有のエネルギー(ピーク位置の理論値)と、が一致するように、検出器112やマルチチャンネルアナライザ114は設定される。検出器112やマルチチャンネルアナライザ114に問題が生じると、ピーク位置の測定値と理論値に相違が生じる。
【0051】
例えば、図5(a)及び図5(b)に示すスペクトルは、同一の試料に対する測定結果である。図5(a)は、正常な検出器112及びマルチチャンネルアナライザ114を用いて測定したスペクトルである。図5(b)は、問題が生じた検出器112及びマルチチャンネルアナライザ114を用いて測定したスペクトルである。図5(b)の各ピークは、図5(a)の対応する各ピークよりも、エネルギーが高いほど高エネルギー側にシフトしている。
【0052】
すなわち、問題が生じた検出器112及びマルチチャンネルアナライザ114を用いて測定したスペクトルに含まれるピークの位置は、理論値から相違している。そこで、評価部120は、少なくとも一つのピークに関して、当該相違の大きさを用いて評価値を算出する。具体的には、評価部120は、スペクトルに含まれるピークのエネルギーの測定値Emと、該ピークのエネルギーの理論値Esと、の相違が小さいほど値が大きく、当該相違が大きいほど値が小さくなるように、評価値を算出する。例えば、評価部120は、数6に従って第6評価値V6を算出する。
【数6】
【0053】
また、例えば、評価部120は、スペクトルに含まれるピークの幅を表す測定値と、該ピークと対応して予め設定された幅を表す基準値と、の相違に基づいて、評価値を算出する。具体的には、ピークの幅を表す測定値は、例えば半値幅である。ピークの半値幅は、検出器112やマルチチャンネルアナライザ114の故障、1次X線の分光(モノクロメータ)の異常、スペクトルが表示される範囲外も含む計数やノイズの増大などに起因して大きくなる。例えば図6に示すように、測定したスペクトルに含まれるピークの半値幅は、予め設定された基準スペクトルに含まれるピークの半値幅よりも大きくなる場合がある。基準スペクトルに含まれるピークの半値幅(基準値とする)は、試料に含まれる元素、試料の形態等に応じて、適宜設定されてよい。具体的には、評価部120は、スペクトルに含まれるピークの半値幅FWHMmが、該ピークの半値幅の基準値FWHMsよりも大きいほど値が小さくなるように、評価値を算出する。例えば、評価部120は、数7に従って第7評価値V7を算出する。なお、第7評価値V7が100より大きい場合は100、0より小さい場合は0とする。
【数7】
【0054】
また、例えば、評価部120は、スペクトルに含まれるピークと、該ピークに対して行うフィッティングによって取得されたプロファイルと、の一致率に基づいて評価値を算出する。具体的には、演算部118は、測定されたスペクトルに含まれるピークごとにフィッティングを行い、理論プロファイルを取得する。理論プロファイルは、各元素の含有率をパラメータとする関数に基づくものであるため、スペクトルに含まれるピークと、該ピークに対して行うフィッティングによって取得されたプロファイルと、の一致率が高いほど分析の信頼性は高い。そこで、評価部120は、一致率が高いほど値が大きく、一致率が低いほど値が小さくなるように、評価値を算出する。具体的には、例えば、評価部120は、マルチチャンネルアナライザ114の各チャンネルchでの測定強度Imchと、対応する各チャンネルchでの理論プロファイルの計算強度Ifchとを、それぞれチャンネルchがiからnの範囲で合計する。そして、評価部120は、測定強度Imchの合計値と計算強度Ifchの合計値とに差がないときに評価値が100となり、差が大きくなるほど評価値が小さくなるように、数8に従って第8評価値V8を算出する。
【数8】
【0055】
例えば図7は、スペクトル取得部102が取得したスペクトルと、該スペクトルにフィッティングを行った結果得られた理論プロファイルを重ね合わせて表した図である。図7に示す例において、数8に基づいて算出された評価値は、95である。なお、数8における総和を計算するチャンネルの範囲(i〜n)は、マルチチャンネルアナライザの全てのチャンネルであってもよいし、指定する範囲のチャンネルであってもよい。また、総和を計算するチャンネルの範囲(i〜n)は、全て、もしくは指定する各ピークにおける半値幅のエネルギー範囲と対応する不連続なチャンネル範囲であってもよい。
【0056】
また、例えば、評価部120は、スペクトルに対するフィッティングによって、分析対象とする元素の定量に用いるピークに対し、異なる元素に起因するピークが重複すると判定される組み合わせの数に基づいて、評価値を算出する。具体的には、上述のように、演算部118は、測定されたスペクトルに含まれるピークごとにフィッティングを行うことで理論プロファイルを取得する。ここで、スペクトルに含まれる分析対象とする元素の定量に用いるピークに対し、異なる元素に起因するピークが、重複(例えば、両ピークの半値幅の範囲が所定の割合以上重複する場合)するエネルギー位置に現れる場合がある。
【0057】
例えば、図8は、スペクトル取得部102が取得した測定スペクトルと、該スペクトルにフィッティングを行った結果得られた理論プロファイルを重ね合わせて表した図である。図8に示すように、Ti−Kα線と、Ba−Lα1線は、ピークの半値幅が50%以上重複する。
【0058】
ピークが重複すると、ピーク強度がいずれの元素に起因するか正確に分離することが困難であるため、フィッティングの精度が低下し、分析の信頼性が低下する。また、当該重複するピークの数が多いほど分析の信頼性が低下する。そこで、評価部120は、重複ピーク数Dpが多いほど評価値の値が小さく、重複ピーク数Dpが少ないほど評価値の値が大きくなるように、評価値を算出する。具体的には、例えば、評価部120は、重複ピーク数Dpが0である場合に評価値が100となり、重複ピーク数Dpが大きくなるほど評価値が小さくなるように、数9に従って第9評価値V9を算出する。ここで、Dmaxは、想定される最大の重複ピーク数である。なお、3つ以上のピークが重複する場合、重複ピーク数を加算してカウントしてもよい。
【数9】
【0059】
さらに、評価部120は、計算方法の異なる第1評価値V1乃至第9評価値V9に基づいて、複数の評価値を合成した総合評価値Vallを算出する。例えば、評価部120は、数10に従って、総合評価値Vallを算出する。なお、i、j、k、l、m、n及びoは、各評価値を相対的に調整する重み係数であって、適宜設定される。i、j、k、l、m、n及びoは、一部が0であってもよい。数10は、第1評価値V1、第2評価値V2、第4評価値V4、第5評価値V5、第6評価値V6、第7評価値V7及び第8評価値V8に対して重み付き平均を行い、得られた値に対して第3評価値V3及び第9評価値V9の割合を乗算していることを表す。すなわち、まず、各評価値の性質上、他の評価値に対する影響の小さい(例えば、第1評価値V1が変化するように測定条件を変更したとしても第2評価値V2の変化は相対的に小さい)評価値を用いて基礎的な評価値が算出される。そして、アッテネータ110の有無やピークの重なりの組み合わせの数などの他の評価値に対する影響の大きい(例えば、第3評価値V3が変化するように測定条件を変更したとすると第2評価値V2の変化は相対的に大きい)評価値の割合を、基礎的な評価値に乗算する。これにより、一連のプロセスに対する信頼性との相関の大きい総合評価値Vallを算出できる。
【数10】
【0060】
以上のように、S208において、評価部120は、評価値及び総合評価値Vallを算出する。上記第1評価値V1乃至第9評価値V9及びVallは、一例であって、スペクトル取得部102がスペクトルを取得するプロセスと、演算部118が行う定量分析を行うプロセスと、の一連のプロセスの信頼性と相関を有する他の評価値が算出されてもよい。
【0061】
次に、表示部122は、S208で算出された評価値を表示する(S210)。具体的には、例えば、表示部122は、第1評価値V1乃至第9評価値V9の各値に基づいて、それぞれ第1評価値V1乃至第9評価値V9をA,B,C及びDランクに分類し、該ランクを図9のようなレーダーチャートで示す。なお、ランクAは、優良であることを示し、ランクBは、良であることを表し、ランクCは可であることを表し、ランクDは不可であることを表す。そして、表示部122は、ランクDに該当する評価値が存在する場合、想定される原因をテキストで表示し、ユーザに対して再測定を推奨する。
【0062】
図9に示す評価結果では、第5評価値V5が低いため、当該評価値が低くなる原因として想定される原因を表示する。例えば、第5評価値V5が低い原因として、「BG強度が大きい場合、ウェーハの反り、うねり、ラフネスが大きいことが考えられます。」と表示される。当該テキストは、各評価値の値や各評価値の特性に応じて、予め設定されたテキストである。
【0063】
また、表示部122は、第1評価値V1乃至第9評価値V9の各値を数値として表示する。例えば、図9には、第1評価値V1を表す「測定時間」、第2評価値V2を表す「デッドレートの割合」、第3評価値V3を表す「アッテネータ110の有無」、第4評価値V4を表す「基準強度との一致率」、第5評価値V5を表す「BG強度の割合」、第8評価値V8を表す「ピークフィットの一致率」、及び、第9評価値V9を表す「ピークの重なり」がそれぞれ表示される。各評価値の表示は、ユーザが直感しやすいように、点数化した数値と具体的な設定値や検出値を混在させてもよい。また、各評価値に前述の重み係数を乗じた値を表示させてもよい。なお、図9には、第6評価値V6及び第7評価値V7を記載していないが、表示部122は、第6評価値V6及び第7評価値V7を含むレーダーチャートを記載してもよい。
【0064】
また、表示部122は、総合評価値Vallを総合点数として表示する。例えば、図9に示す評価結果では、67点の総合点数が表示される。なお、表示部122は、評価部120が算出した総合評価値Vallを、スペクトルや測定結果に重ねあわせて表示してもよい。具体的には、例えば、図10に示すように、スペクトル取得部102が取得した各スペクトルに重ねて、総合評価値Vallを表示してもよい。蛍光X線分析法に習熟していないユーザは、図10の各スペクトルを見ただけでは分析に係る一連のプロセスに対する信頼性がどの程度であるか判断できない。しかし、図10のように総合評価値Vallが表示されることで、ユーザは分析に係る一連のプロセスに対する大まかな信頼性を把握できる。
【0065】
以上のように、表示部122が各評価値、グラフ及び総合得点を表示することによって、ユーザはスペクトルを確認することなく、分析に係る一連のプロセスに対する信頼性を把握することができる。また、特定の評価値が低い場合、原因を容易に特定することができる。さらに総合得点が表示されることにより、ユーザは各評価値を確認しない場合であっても、分析に係る一連のプロセスに対する大まかな信頼性を把握できる。
【0066】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上記蛍光X線分析装置100の構成は一例であって、これに限定されるものではない。上記の実施例で示した構成と実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成する構成で置き換えてもよい。例えば、上記においては、ピーク強度を算出する際にフィッティングを行う場合について説明したが、ROI法を用いてピーク強度を算出してもよい。
【0067】
また、蛍光X線分析装置100は全反射蛍光X線分析装置であってもよい。具体的には、図11は、全反射蛍光X線分析装置を概略的に示す図である。図11に示す例では、蛍光X線分析装置100は、図1に示す構成に加えて、X線源106が発する1次X線が照射される位置に配置されたモノクロメータ1102を含む。また、アッテネータ110は、モノクロメータ1102と試料116の間に配置される。1次X線は、モノクロメータ1102の表面に対して入射角度θで照射される。モノクロメータ1102から、ブラッグの反射条件を満たす1次X線が出射する。すなわち、モノクロメータ1102は、X線源106から発せられる種々のエネルギーを有する1次X線からの特定のエネルギーを有する1次X線を取り出す。取り出された特定のエネルギーを有する1次X線は、アッテネータ110を経て、試料116の表面に対して、α度以下の入射角で照射される。α度は、全反射臨界角度以下の角度である。1次X線が照射された試料116から、蛍光X線が出射される。検出器112は、1次X線が照射される位置の直上に配置される。全反射蛍光X線分析装置によれば、バックグラウンドの小さいスペクトルを取得することができる。
【符号の説明】
【0068】
100 蛍光X線分析装置、102 スペクトル取得部、104 制御部、106 X線源、108 試料台、110 アッテネータ、112 検出器、114 マルチチャンネルアナライザ、116 試料、118 演算部、120 評価部、122 表示部、302 測定対象のピーク、304 中心のピーク、1102 モノクロメータ。
【要約】
定量分析の結果に対する信頼性を容易に判断でき、測定条件や蛍光X線分析装置、試料、試料の前処理等に異常がある場合に速やかに異常があったことを認識できるエネルギー分散型蛍光X線分析装置を提供する。
エネルギー分散型蛍光X線分析装置であって、1次X線を照射された試料から出射される2次X線に基づいて、2次X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを取得するスペクトル取得部と、前記スペクトルに含まれるピークに基づき、前記試料に含まれる元素を定量分析する演算部と、前記スペクトル取得部が前記スペクトルを取得するプロセスと、前記演算部が行う定量分析を行うプロセスと、の一連のプロセスの信頼性を評価する評価部と、を有する。
図1
図2
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図5
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図7
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図11