(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6917690
(24)【登録日】2021年7月26日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】熱所作業用冷却服
(51)【国際特許分類】
A41D 13/005 20060101AFI20210729BHJP
【FI】
A41D13/005 108
A41D13/005 105
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-190541(P2016-190541)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-53387(P2018-53387A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年9月6日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2016国際ウエルディングショー、平成28年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】591024959
【氏名又は名称】エア・ウォーター炭酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109472
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 直之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】原田 大介
【審査官】
▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−002029(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3187780(JP,U)
【文献】
特開2001−064806(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3185237(JP,U)
【文献】
特開昭52−015747(JP,A)
【文献】
特開平08−013345(JP,A)
【文献】
特開平07−184949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/005
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却服は、衣服本体と、上記衣服本体の内側に設けられてドライアイスを収容するポケット部とを備え、
上記冷却服を構成する繊維素材が難燃性繊維からなり、
上記ポケット部は、内側に位置する部分を、難燃性繊維からなる繊維素材からなる布を複数枚重ねた積層構造とし、
上記ポケット部には、難燃性繊維からなる繊維素材の布を複数枚重ねた積層構造をしたフラップが設けられている
ことを特徴とする熱所作業用冷却服。
【請求項2】
上記衣服本体は、開閉ファスナーつきの前身頃と後ろ見頃がバックルつきのベルトで連結され、
上記繊維素材以外の、上記開閉ファスナーのエレメントおよびバックルが、金属からなる
請求項1記載の熱所作業用冷却服。
【請求項3】
上記難燃性繊維は、綿を主体とする基材にホスホニウム化合物が含浸されているものである
請求項1または2記載の熱所作業用冷却服。
【請求項4】
上記前身頃と後ろ見頃の周辺が、難燃性繊維からなる繊維素材から構成されたパイピングテープによってパイピング処理されている
請求項2記載の熱所作業用冷却服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境で着用して作業者の身体を冷却し、熱中症などの暑熱から起こる障害を防止できる熱所作業用冷却服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高温環境における作業者の身体を、高温に起因する障害から守るため、冷却服が着用される。このような冷却服に関する先行技術文献として、出願人は下記の特許文献1〜4を把握している。
【0003】
特許文献1および2は、着衣に流体を循環させる流路を設け、上記流体の循環により作業者を冷却する技術に係るものである。
特許文献3および4は、冷却用のドライアイスを収納するポケットを着衣に設け、上記ドライアイスで作業者を冷却する技術に係るものである。
【0004】
〔特許文献1〕
特許文献1(特開2014−77207号公報)は、流体容器(ポリウレタン製など)中で蓄冷剤により液体流体(水など)を冷やす。上記液体流体を電動ポンプで冷却服内の流路(シリコンゴムやポリウレタンなどからなるチューブ)内に循環させる。これにより、作業者に冷感を与える冷却服を開示する。この冷却服は、ポンプユニットや熱交換器が身体の背面側などに取り付けられる。
【0005】
上記特許文献1にはつぎの記載がある。
[要約][解決手段]冷却服は、流体が循環する流路9a、9cと、流体を循環させる電動ポンプと、流路と連通し、流体を保持する流体容器12と、断熱性材料からなる断熱容器5とを備えている。流体容器12は、蓄冷剤13と接触した状態で断熱容器5の内部に格納され、流体が熱交換によって冷却される。電動ポンプは、冷却された流体を冷却服に取付けられた流路9aに送出して循環させる。
【0006】
〔特許文献2〕
特許文献2(特開2003−113507号公報)は、特許文献1と類似の構造のベストである。冷熱を得るための貯留部をベストとは別個に配し、冷熱の熱源としてドライアイスを用いる。ドライアイスによって冷やされた不凍液をパイプを用いてベストに供給する。ベスト内のチューブに不凍液を循環させ、作業者が冷熱を得る方法を開示する。
【0007】
上記特許文献2にはつぎの記載がある。
[要約][解決手段]ドライアイス、保冷材等の冷熱源又はカイロ、豆炭等の温熱源4と前記熱源4より熱伝導される液体を注入されてなる伝熱パイプ5を容器体6に収納するとともに、前記伝熱パイプ5内の冷水又は温水をポンプ8により循環させ、循環途中においてジャケット1等の衣服に形成した流路を通過させることにより、衣服着用者に冷熱又は温熱を提供する。
【0008】
特許文献3および4の冷却服は、ドライアイスの冷熱が利用される。特許文献1および2のように循環液用の付加装置やチューブは存在しない。
【0009】
〔特許文献3〕
特許文献3(特開2011−1669号公報)は、冷却流体を循環することなく冷熱を得る冷却服を開示する。この冷却服は、メッシュ素材で形成され、保冷材を入れるポケット部を冷却服の外側に配している。ブロック状のドライアイスを適当な大きさとしたものを紙材で包装してポケット部に投入して冷感を得る。
【0010】
上記特許文献3にはつぎの記載がある。
[要約][解決手段]メッシュ材2を身体冷却用衣服1の全面に使うことで、通常の生地より通気性が良くなる。同様のメッシュ材2で形成された胸部ポケット部30、背部ポケット部、腹側部ポケット部34、首部ポケット部には、紙材包装ドライアイス片が収納され、その冷気により身体を冷却することができる。
[0021]・・・身体冷却用衣服1の生地には、多数の小孔が全面に配置されたメッシュ材2が全体に使用されている。前身頃3において、胸部20にあたる位置には左右対称に胸部ポケット部30が設けられ、両腹側部24にあたる部分には、腹側部ポケット部34が対称的に設けられている。・・・
[0022]・・・身体冷却用衣服1の生地には、
図1の正面図と同様にメッシュ材2が全体に使用されている。首部26にあたる部分には首部ポケット部36が設けられている。また、後身頃4において背部22にあたる部分には、背部ポケット部32が上下に1つずつ設けられられている。両腹側部24にあたる部分には、腹側部ポケット部34が対称的に設けられている。
[0025]・・・ポケット部7も身体冷却用衣服1の本体と同様、メッシュ材2により構成されている。また、ポケット部形成用メッシュ材11の上側に形成したポケット部7の挿入口19を閉ざすことができる部位には、フラップ状のメッシュ材12が縫い合わされている。
[0029]・・・メッシュ材2を身体冷却用衣服1の全面に使うことで、通常の生地より通気性が良くなる。また、
図4に示すように、ポケット部7についても全面にメッシュ材2を使用しているため、
図5において、身体側及び外部側に紙材包装ドライアイス54からの冷気56を十分伝えることができるようになる。また、全面がメッシュ材2で形成されているので、汚れを落とすために洗濯した後は、乾燥が速い。・・・
[0030]メッシュ材2の多数の小孔は、縦が3mm、横が2mmほどのひし形状の構成とするのが良く、生地の厚みは1mm程度とするのが良いが、使用状態により適宜変更可能である。・・・
【0011】
〔特許文献4〕
特許文献4(特開昭52−15747号公報)は、ジャケット状の冷却用衣服を開示する。ジャケットの内側に形成されたポケット(ルーズニットナイロンなど)にブロック状のドライアイスを装填する。上記ドライアイスは、適当な大きさとしたものを3つ、メッシュ状の担体と呼ばれる袋の中に入れる。この担体をさらにプラスチックフィルムからなるラミネート層の絶縁スリーブの中に入れる。この絶縁スリーブをさらに上記ポケットに装填する。
【0012】
上記特許文献4にはつぎの記載がある。
[公報第2頁左下欄第10行目〜右下欄第6行目]第1〜第4図中、参照番号10は作業者W又は他の冷却を要する人間が着用する人体用冷却ジヤケツトの全体を示す。ジヤケツト10は幾分従来通りの外見を有しており、胴部11と右スリーブ12及び左スリーブ13を含む。胴部11はほぼチヨツキ型であり、キルテイングを施したナイロンの外シエル14(第4図)とこの外シエルに縫い付けその他の方法で付着されているナイロンの内シエル又は**15とを含む。キルテイングを施した外シエルは1対のナイロンシート16、17を含み、これらは絶縁体19で満たされた閉鎖ポケット又はスペースを形成すべく*18(第1図参照)に沿つて縫合されている。チヨツキ型の胴部には、スリーブを付けるべく腕部開口が設けられている。――なお、「*」は出願人が判読できなかった文字である。
[公報第3頁右上欄第1行目〜第4行目]次に第2図中、ジヤケツトの後部には1対の、ほぼ縦に細長く伸張しているポケツト27,28が設けられており、且つジヤケツトの前部左半分にもポケツト29が取り付けられている。
[公報第3頁右上欄第9行目〜第12行目]各ポケツトは1個又はそれ以上のドライアイスの塊を保持すべく形成されており、ドライアイスが挿入されるとポケツトの上端部は適当な閉鎖手段により閉じられる。
[公報第3頁左下欄第1行目〜第16行目]ドライアイスは各ポケットの縦長方向に2層のメツシユ又はネツト材で形成されている担体37(第6図)によりほぼ均等に保持される。2層のメツシユは長方形のポケツトとほぼ同型であり、長側面の1方38と上端部39及び底端部40とに沿つて縫い付けられている。メツシユは更に水平方向の縫い目間に3個のアイスポケツト43と形成すべく水平線41,42に沿つて縫い合わされている。ドライアイスの3個の塊44は担体37のポケツトの開口している側部から内部へと挿入され、更に担体は上方向に開口している絶縁スリーブ又はポケツト45に挿入される。図示の絶縁スリーブ45は市販されている2層のプラスチツクフイルムのラミネート層から成り、層の一つは空気泡46を含む絶縁材のシートで形成されている。
[公報第4頁左上欄第6行目〜第9行目]炭酸ガスを容易に拡散又はポケツトにより浸透させるべく、ポケツトは織綿,ルーズニツトナイロン等の多孔性材で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2014−77207号公報
【特許文献2】特開2003−113507号公報
【特許文献3】特開2011−1669号公報
【特許文献4】特開昭52−15747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
〔作業性〕
上記特許文献1や特許文献2のような冷却服は、保冷機能と循環機能によって必要な冷熱を得るため、循環液を貯蔵する容器、循環液を冷却するポンプ、温度センサーなど、複雑な付加装置が必要である。
これらの付加装置を冷却服側に装着すると重くかさばるため、作業効率の低下につながる。また、これらの付加装置を冷却服から分離させても、冷却服と付加装置をチューブなどで連結させた状態で作業することになり、作業性は悪い。冷却服自体の中に循環液を循環させるチューブが引き回されるため、装着感がゴワゴワで作業性が悪い。
【0015】
〔難燃性〕
日本国内における、溶鉱炉、鍛造所、電炉、溶接・溶断、造船、ガラス製造などの作業環境下で使用する作業服は、全ての材質が難燃性でなければならないという基準を採用する事業所が大多数である。
しかしながら、上記特許文献1〜4の冷却服は、いずれも高温環境下の作業者用と謳っているものの、素材の難燃性について言及されていない。上述した基準についてまったく考慮されていないのが実情である。
【0016】
上記特許文献1の冷却服は、流体容器としてポリウレタン製のものを使用し、流体を流すチューブとしてシリコンゴムやポリウレタンなどからなるものを用いている。このため、上述した難燃性の基準に適合しないのは、明らかである。
【0017】
上記特許文献3は、ドライアイスを燃えやすい紙材で包むため、上述した難燃性の基準に合致しないのは明白である。またこの文献では、冷却服のほとんどの部分をメッシュ素材で形成している。当該文献には材質に関する言及がないものの、メッシュ素材は一般に、ポリエステルなどの易燃性の素材で形成しなければならない。既知の難燃材をメッシュ状に形成することが極めて困難だからである。つまり、特許文献3は、上述した難燃性の基準に適合しないのは明らかである。
【0018】
そのうえ、上記特許文献3の冷却服では、服の外側に設けたポケットにドライアイスを装填する。したがって構造的には、人体側に冷熱を取り込みにくい。このため、冷気を通しやすいメッシュ生地が採用されている。さらにメッシュ生地は、ドライアイスの冷熱を保持できない。外側のポケットに入れたドライアイスの冷熱はメッシュを通り、内側に入ったとしてもすぐに外に抜けてしまう。このように、この冷却服は、効果的に人体を冷却する構造になっていない。
【0019】
上記特許文献4では、胴部11がキルテイングを施したナイロンから構成されている。また、絶縁スリーブがプラスチックフイルムから形成されている。ポケツトがルーズニツトナイロンなどで形成されている。このため、上述した難燃性の基準に適合しないのは明らかである。
【0020】
また、上記特許文献4の冷却服では、ドライアイスが人体に接触することによる人体の過剰冷却を避けるため、ドライアイスを袋状のものに二重、三重に包み、ようやく服の内側のポケットに装填する。
この形式では、ドライアイスが昇華してしまい、十分な冷感が確保できなくなっても、容易に新たなドライアイスを装填する事ができず、一旦、作業を中断し、別のところで冷却服を脱ぎ、内側から絶縁スリーブと担体を取り出して、再度、ドライアイスを装填しなければならないため、極めて作業効率が悪い。
【0021】
〔発汗〕
また、溶鉱炉、電炉、溶接・溶断、造船、ガラス製造・加工などの高温環境下では、作業者の発汗も著しい。汗が吸い取られないままドライアイスで冷やされると、部分的に氷結して皮膚を傷める原因になりかねない。このため、冷却服に使用される素材も、単に難燃性があるだけでなく、十分な吸湿性を発揮するものであることが望ましい。
【0022】
溶鉱炉、電炉、溶接・溶断、造船、ガラス製造・加工などの作業に代表される高温環境下では、作業者の身体を高温状態から保護するため、冷却服が用いられる。
特許文献1および2のように、循環液を利用するものは構造が複雑で作業性を低下させる。
特許文献3および4のように、ドライアイスを利用するものは、難燃性の点に問題があった。
このように、作業員の作業性を確保し、人体に十分な冷感を供給し、ドライアイスの装填が容易で、難燃性の基準を満たし、吸湿性も十分な冷却服は、現在まで提供されていなかったのが実情である。
【0023】
〔目的〕
本発明は、上記の課題を解決するためつぎの目的をもってなされたものである。
人体に十分な冷感を与え、ドライアイスの装填が容易で、作業員の作業性もよく、難燃性の基準を満たし、吸湿性も十分な熱所作業用冷却服を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
請求項1記載の熱所作業用冷却服は、上記目的を達成するため、つぎの構成を採用した。
冷却服は、衣服本体と、上記衣服本体の内側に設けられてドライアイスを収容するポケット部とを備え、
上記冷却服を構成する繊維素材が難燃性繊維からな
り、
上記ポケット部は、内側に位置する部分を、難燃性繊維からなる繊維素材からなる布を複数枚重ねた積層構造とし、
上記ポケット部には、難燃性繊維からなる繊維素材の布を複数枚重ねた積層構造をしたフラップが設けられている。
【0025】
請求項2記載の熱所作業用冷却服は、請求項1記載の構成に加え、つぎの構成を採用した。
上記衣服本体は、開閉ファスナーつきの前身頃と後ろ見頃がバックルつきのベルトで連結され、
上記繊維素材以外の、上記
開閉ファスナーのエレメントおよびバックルが、金属からなる。
【0026】
請求項3記載の熱所作業用冷却服は、請求項1または2記載の構成に加え、つぎの構成を採用した。
上記難燃性繊維は、綿を主体とする基材にホスホニウム化合物が含浸されているものである。
【0027】
請求項4記載の熱所作業用冷却服は、請求項
2記載の構成に加え、つぎの構成を採用した。
上記前身頃と後ろ見頃の周辺が、難燃性繊維からなる繊維素材から構成されたパイピングテープによってパイピング処理されている。
【発明の効果】
【0028】
請求項1記載の発明は、上記冷却服を構成する繊維素材が難燃性繊維からなるため、溶鉱炉、電炉、溶接・溶断、造船、ガラス製造・加工などの作業に代表される高温環境下で着用する服としての難燃基準に適合し、冷却服に火の粉が飛んできたとしても、繊維素材の燃えあがりが防止され、作業者の安全を確保できる。
また、ポケット部に収容したドライアイスの冷熱を利用するため、循環液用の付加装置やチューブがなく作業性が低下しない。さらに。上記ポケット部が上記衣服本体の内側に設けられているため、ポケット部に収容したドライアイスの冷熱が外部に逃げずに身体に作用しやすく、作業者に冷感を与える効率がよい。
上記ポケット部は、内側に位置する部分を難燃繊維からなる複数枚の布を重ねた積層構造とした。このため、ポケット部に収容したドライアイスと、冷却服を着用した人体の間には、少なくとも複数枚を重ねた布が存在する。したがって、人体に作用するドライアイスの冷熱の威力を適度に緩和し、凍傷の発生を防止して安全性を確保できる。ドライアイスをそのまま裸でポケット部に収容すればよいため、ドライアイスの装填が容易である。
上記ポケット部には、難燃性繊維からなる繊維素材の布を複数枚重ねた積層構造をしたフラップが設けられている。このため、上述した各種の高温環境下で着用する服としての難燃基準に適合し、作業者の安全を確保できる。着衣の内側とはいってもフラップは、衣服から飛び出して設けられていて構造的に燃えやすい部分なので、難燃素材で構成する効果が高い。
【0029】
請求項2記載の発明は、上記衣服本体は、開閉ファスナーつきの前身頃と後ろ見頃がバックルつきのベルトで連結され、上記繊維素材以外の、上記
開閉ファスナーのエレメントおよびバックルが、金属からなる。つまり、上記各繊維素材以外のパーツを、燃えにくい金属製とした。
【0030】
請求項3記載の発明は、上記難燃性繊維は、綿を主体とする基材にホスホニウム化合物が含浸されているものである。このため、難燃性繊維が火にふれると、含浸されているホスホニウム化合物による難燃性が発揮され、作業者の安全を確保できる。また、基材は綿を主体とするものであるため、吸湿性が発揮され、高温環境下で作業者から出た汗を吸い取る。汗が吸い取られないままドライアイスで氷結して皮膚を傷めるようなトラブルが防止される。
【0031】
請求項4記載の発明は、
上記前身頃と後ろ見頃の周辺が、難燃性繊維からなる繊維素材から構成されたパイピングテープによってパイピング処理されている。このように、難燃性繊維からなるパイピングテープによるパイピングでほつれを防止した。これにより、薄い布や糸が飛び出した燃えやすい部分をなくし、安全性を高めた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の第1実施形態の熱所作業用冷却服を説明する図である。(A)は前面表側、(B)は背面表側である。
【
図2】上記第1実施形態の熱所作業用冷却服を説明する図である。(A)は前面裏側、(B)は背面裏側である。
【
図3】上記第1実施形態の熱所作業用冷却服を説明する側面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態の熱所作業用冷却服を説明する図である。(A)は前面表側、(B)は背面表側である。
【
図6】上記第2実施形態の熱所作業用冷却服を説明する図である。(A)は前面裏側、(B)は背面裏側である。
【
図7】上記第2実施形態の熱所作業用冷却服を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
つぎに、本発明を実施するための形態を説明する。
【0034】
〔第1実施形態〕
図1〜
図4は、本発明が適用された熱所作業用冷却服を示す第1実施形態である。
【0035】
〔全体構造〕
図1〜
図3は、本実施形態の熱所作業用冷却服(以下「冷却服」という)の全体構造を示す図である。
【0036】
上記冷却服は、衣服本体10が全体としてベスト状に形成されている。上記衣服本体10は、前身頃1と後ろ身頃2が肩部3で連結され、前身頃1の上部から後ろ身頃2の上部にかけて立襟4が設けられて構成されている。上記前身頃1の中央には、開閉用のファスナー5が取り付けられている。上記衣服本体10では、袖にあたる部分から脇にかけては、前身頃1と後ろ身頃2が縫合されず、開放部になっている。
【0037】
上記前身頃1の左右両側には、それぞれ2本の前ベルト6が取り付けられている。上記前ベルト6は、長さ調整用のバックル6aを有し、先端にD環6bが取り付けられている。
上記後ろ身頃2の左右両側には、それぞれ2本の後ベルト7が取り付けられている。上記後ベルト7は、長さ調節用のバックル7aを有している。
上記後ベルト7の先端部分を前ベルト6のD環6bに通し、前ベルト6と後ベルト7を接続することにより、前身頃1と後ろ身頃2のあいだの脇の部分を連結する。
【0038】
上記後ろ身頃2の中央上部には、ハーネスを挿通させるためのスリット14が設けられている。
【0039】
上記前身頃1、後ろ身頃2、立襟4の各周辺には、パイピングテープ8によるパイピングが施され、ほつれを防止している。
【0040】
上記後ろ身頃2内側の上記スリット14より上側に、繊維製品の品質や洗濯方法などを表示する印刷部9が設けられている。繊維製品の品質や洗濯方法などを上記印刷部9で表示することにより、表示用のタグの使用を廃している。
【0041】
〔ポケット部〕
上記冷却服は、衣服本体10と、上記衣服本体10の内側に設けられてドライアイスを収容するポケット部11とを備えている。
本明細書では、ポケット部を総称して指すときは符号11を付し、前身頃1のポケット部を指すときは符号11aを付し、後ろ身頃2のポケット部を指すときは符号11bを付し、立襟4のポケット部を指すときは符号11cを付して説明する。
【0042】
この例では、上記前身頃1の内側に4つのポケット部11aが配置され、上記後ろ身頃2の内側に5つのポケット部11b,11cが配置されている。
【0043】
上記前身頃1の内側には、左右にそれぞれ上下2つずつのポケット部11aが配置されている。
上記後ろ身頃2の内側には、左右にそれぞれ上下2つずつのポケット部11bが配置され、立襟4の内側中央に、1つのポケット部11cが配置されている。
【0044】
図4は、上記各ポケット部11の構造を説明する図である。
上記ポケット部11には、下辺の左右にタック12が設けられ、ドライアイスを収容するためのマチをつくっている。
上記ポケット部11は、内側に位置する部分を複数枚の布を重ねた積層構造としている。この例では厚み0.49mmの布を5枚積層している。
【0045】
上記ポケット部11には、上部開口を蓋するフラップ13が設けられている。上記フラップ13は、複数枚の布を重ねた積層構造としている。この例では2枚の布を積層している。上記フラップ13は、スナップボタン13aでポケット部11に留めるようになっている。
【0046】
〔素材〕
上記冷却服を構成する繊維素材は、難燃性繊維からなる。
つまり、前身頃1、後ろ身頃2および立襟4からなる衣服本体10は難燃性繊維から構成されている。上記ポケット部11も難燃性繊維から構成されている。上記フラップ13を構成する繊維素材も難燃性繊維からなる。
【0047】
上記パイピングテープ8も難燃性繊維である。各繊維パーツの縫合に用いる糸は難燃性繊維とするのが好ましい。
【0048】
上記難燃性繊維は、綿を主体とする基材にホスホニウム化合物が含浸されているものを用いることができる。綿織物に、難燃化処理(たとえば、特開平8−13345号に開示された方法である)が施されたものを用いることができる(たとえば、商品名「プロバン」:大和紡績株式会社)。
【0049】
このような難燃化処理を施した難燃性繊維の難燃メカニズムはつぎのようなものである。上記難燃性繊維が火に触れると、コットン繊維を覆っているプロパン・ポリマーが分解し、繊維の燃焼を遅らせる。プロパン・ポリマーは分解して五酸化リンをつくり、コットン繊維を脱水し、徐々に炭化していく。五酸化リンはポリリン酸となり、酸素を遮断してしまうため、それ以上燃え広がりにくくなる。コットンの繊維組織は炭化しながらもしっかりとその形状を維持する。
上記難燃性繊維は、自己消火性があり、燃焼時に炭化するので生地が溶けない。着火したとき生地を炭化させ、燃え広がるのを防ぐ。燃焼時、収縮による穴があきにくく溶融しない。LOI値は28〜32であり、高い難燃性を実現している。
(ダイワボウ PROBANカタログより引用)
【0050】
上記ファスナー5のエレメント(務歯)が取り付けられるテープも難燃性繊維である。たとえば、メタ型アラミド繊維(難燃剤を含む)を使用したものを用いることができる。具体的には、たとえば、YKK株式会社の難燃仕様の金属ファスナー5RGを用いることができる。
【0051】
上記各繊維素材以外のパーツは、金属製である。具体的には、バックル6a,7a、D環6b、スナップボタン13a、ファスナー5を構成するエレメント(務歯)およびスライダーは、それぞれ金属製である。
【0052】
〔使用方法〕
本実施形態の冷却服は、適当な大きさに切り分けたドライアイスをポケット部11に収容した状態で着用する。ポケット部11に収容するドライアイスは、たとえば、60mm×24mm×120mm程度で約250g程度の大きさにしたものを用いることができる。
【0053】
上記フラップ13をめくって露出する上部開口からドライアイスをポケット部11に収容する。そのあとスナップボタン13aでフラップ13をポケット部11に留める。これにより、ドライアイスが作業中に着衣のなかで飛び出すのを防ぎ、安全性を確保する。
【0054】
また、ポケット部11は、内側に位置する部分を複数枚の布を重ねた積層構造(この例では5枚の布を積層)としているため、ポケット部11に収容したドライアイスの冷熱が直接人体に作用せず、威力が適度に緩和される。また、ポケット部11の上半分がフラップ13で覆われるため、ポケット部11に収容したドライアイスの冷熱が直接人体に作用する威力をさらに緩和する。また、フラップ13でポケット部11を覆う保冷作用により、ドライアイスの気化スピードを遅らせ、ドライアイスを長持ちさせることができる。
【0055】
ポケット部11内でドライアイスが気化した冷気は、ポケット部11の複数枚重ねた布を通り抜けるのではなく、ポケット部11の上部開口から流れ出る。このとき、ポケット部11の上部開口がフラップ13で覆われているため、ポケット部11の上部開口から流れ出た冷気がフラップ13に沿って下向きに方向を変える。その冷気は、冷却服を着用した作業者の胴部表面に沿って流れ、作業者の胴部にまんべんなく冷感を与えることができる。
【0056】
〔まとめ〕
本実施形態の冷却服は、繊維素材を難燃性繊維とした。また、上記各繊維素材以外のパーツを金属製とした。これにより、冷却服に火の粉が飛んできたとしても、繊維素材の燃えあがりが防止され、作業者の安全を確保できる。
【0057】
本実施形態の冷却服は、繊維製品の品質や洗濯方法などを上記印刷部9で表示し、表示用のタグの使用を廃した。また、パイピングテープ8によるパイピングでほつれを防止した。これにより、薄い布や糸が飛び出した燃えやすい部分をなくし、安全性を高めた。
【0058】
〔第2実施形態〕
図4〜
図6は、本発明が適用された熱所作業用冷却服を示す第2実施形態である。
【0059】
この第2実施形態は、衣服本体10の下半分を除去して上半分だけで構成したものである。この例では、上記前身頃1の内側に2つのポケット部11aが配置され、上記後ろ身頃2の内側に3つのポケット部11b,11cが配置されている。
上記前身頃1の内側には、左右にそれぞれ1つずつのポケット部11aが配置されている。上記後ろ身頃2の内側には、左右にそれぞれ1つずつのポケット部11bが配置され、立襟4の内側中央に1つのポケット部11cが配置されている。
【0060】
それ以外は
図1〜4に示す第1実施形態と同様であり、同様の部分に同じ符号を付して説明を省略した。
【0061】
〔各実施形態の効果〕
上記各実施形態は、つぎの効果を奏する。
【0062】
上記各実施形態は、上記冷却服を構成する繊維素材が難燃性繊維からなるため、溶鉱炉、電炉、溶接・溶断、造船、ガラス製造・加工などの作業に代表される高温環境下で着用する服としての難燃基準に適合し、冷却服に火の粉が飛んできたとしても、繊維素材の燃えあがりが防止され、作業者の安全を確保できる。
また、ポケット部11に収容したドライアイスの冷熱を利用するため、循環液用の付加装置やチューブがなく作業性が低下しない。さらに。上記ポケット部11が上記衣服本体10の内側に設けられているため、ポケット部11に収容したドライアイスの冷熱が外部に逃げずに身体に作用しやすく、作業者に冷感を与える効率がよい。
【0063】
上記各実施形態は、上記ポケット部11にはフラップ13が設けられており、上記フラップ13は難燃性繊維からなる繊維素材で構成されている。このため、上述した各種の高温環境下で着用する服としての難燃基準に適合し、作業者の安全を確保できる。着衣の内側とはいってもフラップは、衣服から飛び出して設けられていて構造的に燃えやすい部分なので、難燃素材で構成する効果が高い。
【0064】
上記各実施形態は、上記難燃性繊維は、綿を主体とする基材にホスホニウム化合物が含浸されているものである。このため、難燃性繊維が火にふれると、含浸されているホスホニウム化合物による難燃性が発揮され、作業者の安全を確保できる。また、基材は綿を主体とするものであるため、吸湿性が発揮され、高温環境下で作業者から出た汗を吸い取る。汗が吸い取られないままドライアイスで氷結して皮膚を傷めるようなトラブルが防止される。
【0065】
上記各実施形態は、上記ポケット部11は、内側に位置する部分を複数枚の布を重ねた積層構造とした。このため、ポケット部11に収容したドライアイスと、冷却服を着用した人体の間には、少なくとも複数枚を重ねた布が存在する。したがって、人体に作用するドライアイスの冷熱の威力を適度に緩和し、凍傷の発生を防止して安全性を確保できる。ドライアイスをそのまま裸でポケット部に収容すればよいため、ドライアイスの装填が容易である。
【0066】
〔変形例〕
以上は本発明の特に好ましい実施形態について説明したが、本発明は図示した実施形態に限定する趣旨ではなく、各種の態様に変形して実施することができ、本発明は各種の変形例を包含する趣旨である。
【0067】
たとえば、難燃性繊維として、綿を主体とする基材にホスホニウム化合物が含浸されているもの(商品名「プロバン」:大和紡績株式会社)を用いたが、これに限定するものではなく、各種の難燃性繊維を用いることができる。たとえば、メタ系アラミド繊維によるもの(商品名「コーネックス」:帝人株式会社:LOI値27〜29)、モダアクリル繊維によるもの(商品名「カネカロン」:株式会社カネカ:LOI値27〜38)、非ハロゲン添加ポリエステル繊維によるもの(商品名「アンフラ」:東レ株式会社:LOI値28)などを用いることができる。
【0068】
また、夜間や暗所での安全を確保するための反射材を取り付けることもできる。
【符号の説明】
【0069】
1:前身頃
2:後ろ身頃
3:肩部
4:立襟
5:ファスナー
6:前ベルト
6a:バックル
6b:D環
7:後ベルト
7a:バックル
8:パイピングテープ
9:印刷部
10:衣服本体
11:ポケット部
11a:ポケット部(前身頃)
11b:ポケット部(後ろ身頃)
11c:ポケット部(立襟)
12:タック
13:フラップ
13a:スナップボタン
14:スリット