(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
沸点が100℃未満の水溶性溶剤を50〜95質量%を含む重合体粒子水分散体であって、前記重合体粒子水分散体中の水溶性溶剤の濃度を10質量%になるまで水希釈した際の重合体粒子水分散体に含まれる固形分粒子の体積平均粒子径が、水希釈前の体積平均粒子径に対し、50〜200%であり、
前記重合体粒子水分散体が、加水分解性官能基を4個以上含む加水分解性珪素化合物を含む少なくとも1種の加水分解性珪素化合物と2級アミド基及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体とを重合して得られたものである、重合体粒子水分散体。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」と略記する。)について、詳細に説明する。
以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートの両方を意味する。また、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びそれに対応するメタクリル酸の両方を意味する。
【0012】
<重合体粒子水分散体>
本発明の重合体粒子水分散体は、沸点(大気圧下)が100℃未満の水溶性溶剤を50〜95質量%を含む重合体粒子水分散体であって、前記重合体粒子水分散体中の水溶性溶剤の濃度を10質量%以下になるまで水希釈した際の重合体粒子水分散体に含まれる固形分粒子の体積平均粒子径が、水希釈前の体積平均粒子径に対し、50〜200%である。
好ましくは、重合体粒子水分散体中の水溶性溶剤の濃度を10質量%以下になるまで水希釈した際の重合体粒子水分散体に含まれる固形分粒子の体積平均粒子径は、水希釈前の体積平均粒子径に対し60〜180%であってよく、より好ましくは60〜150%であってよい。
重合体粒子水分散体の水希釈による体積平均粒子径の変化率が上記範囲内であることによって、優れた光学特性を有するコーティング膜を形成することができる。ここでの「優れた光学特性」の指標の1つは、典型的にはヘーズであり、例えばJIS K7361−1に規定される方法によって測定されるヘーズが5%以下、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下であることを指す。
【0013】
沸点が100℃未満の水溶性溶剤として、以下に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル等が挙げられる。
【0014】
重合体粒子水分散体中の水溶性溶剤は50〜95質量%であり、好ましくは60〜95質量%であり、さらに好ましくは70〜95質量%である。上記範囲の水溶性溶剤を含む重合体粒子水分散体を基材に塗布することで、膜厚ムラを低減したコーティング膜を得ることができる。
【0015】
重合体粒子水分散体は、水溶性溶剤の濃度を50〜95質量%から10重量%になるまで水希釈した際の重合体粒子水分散体に含まれる固形分粒子の体積平均粒子径が、水希釈前の体積平均粒子径に対し、50〜200%であり、好ましくは60〜150%、より好ましくは80〜130%である。上記範囲の体積平均粒子径変化を示す重合体粒子水分散体を基材に塗布することで、塗膜ヘイズの低い、光学特性が良好なコーティング膜を得ることができる。水希釈による体積平均粒子径変化が上記範囲の重合体粒子水分散体は、重合体のモノマー種類や比率、架橋度により、水溶性溶剤による重合体のブリード成分を抑制することで得ることができる。
なお、本明細書において、重合体粒子水分散体の水希釈は、通常、スターラ―で撹拌した重合体粒子水分散体に蒸留水を加え、濃度を調整することによって行うことができる。また、本明細書において、体積平均粒子径の測定は、通常、動的光散乱法を用いて行うことができる。
【0016】
重合体粒子水分散体を構成する重合体として、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリ(メタ)アクリレート系、ポリ(メタ)アクリレート−シリコーン系共重合体、ポリビニルアセテート系、ポリブタジエン系、ポリ塩化ビニル系、塩素化ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリスチレン系、ポリスチレン−(メタ)アクリレート系共重合体が挙げられる。
重合体粒子水分散体を構成する重合体の体積平均粒子径は、特に限定されるわけではないが、通常10nm〜500nmであり、より典型的には20nm〜100nmであってよい。
【0017】
一実施形態において、重合体粒子水分散体は、コーティング膜の光学特性の観点から、加水分解性珪素化合物とビニル化合物とを重合して得られるものであることが好ましい。
【0018】
加水分解性珪素化合物としては、特に限定されないが、例えば下記式で表される化合物やその縮合生成物、シランカップリング剤等が挙げられる。
式:SiW
xR
y
ここで、式中、Wは炭素数1〜20のアルコキシ基、水酸基、炭素数1〜20のアセトキシ基、ハロゲン原子、水素原子、炭素数1〜20のオキシム基、エノキシ基、アミノキシ基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表す。Rは、直鎖状又は分岐状の炭素数が1〜30個のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、及び置換されていないか又は炭素数1〜20のアルキル基若しくは炭素数1〜20のアルコキシ基若しくはハロゲン原子で置換されている炭素数6〜20のアリール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の炭化水素基を表す。xは1以上4以下の整数であり、yは0以上3以下の整数である。また、x+y=4である。
【0019】
シランカップリング剤とは、ビニル重合性基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基、イソシアネート基等の有機物と反応性を有する官能基が分子内に存在するシラン誘導体を意味する。
【0020】
重合体粒子水分散体を構成する加水分解性珪素化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のジアルコキシシラン類;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のモノアルコキシシラン類が挙げられる。
【0021】
上述した加水分解性珪素化合物は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0022】
加水分解性珪素化合物は、チオール基を有するシランカップリング剤や、ビニル重合性基を有する加水分解性珪素化合物を含んでもよい。
【0023】
チオール基を有するシランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0024】
ビニル重合性基を有する加水分解性珪素化合物としては、特に限定されないが、例えば3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、2−トリメトキシシリルエチルビニルエーテル等のビニル重合性基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
【0025】
これらシランカップリング剤は、後述するビニル単量体との共重合又は連鎖移動反応により化学結合を生成し得る。このため、ビニル重合性基やチオール基を有するシランカップリング剤を上述した加水分解性珪素化合物と混合若しくは複合化させて用いた場合、加水分解性珪素化合物の重合生成物と後述するビニル化合物の重合生成物とを化学結合により複合化し得る。
【0026】
ビニル重合性基を有する加水分解性珪素化合物における「ビニル重合性基」としては、例えばビニル基、アリル基等が挙げられる。非限定的な具体例としては、3−(メタ)アクリルオキシプロピル基が挙げられる。
【0027】
加水分解性珪素化合物は、環状シロキサンオリゴマーを含んでいてもよい。環状シロキサンオリゴマーとしては、下記式で表される化合物を例示することができる。
式:(R’
2SiO)
m
ここで、式中、R’は、水素原子、直鎖状又は分岐状の炭素数が1〜30個のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、及び置換されていないか又は炭素数1〜20のアルキル基若しくは炭素数1〜20のアルコキシ基若しくはハロゲン原子で置換されている炭素数6〜20のアリール基からなる群より選ばれる少なくとも1種を示す。mは整数であり、2≦m≦20である。
中でも、反応性等の点からオクタメチルシクロテトラシロキサン等の環状ジメチルシロキサンオリゴマーが好ましい。
【0028】
重合体粒子水分散体の中に含まれる、加水分解性官能基を4個以上含む加水分解性珪素化合物(例えばテトラアルコキシシラン類の加水分解縮合物)の加水分解縮合物の質量比が、重合体粒子水分散体全体の固形分に対し20%以上50%以下であることが好ましく、25%以上40%以下がより好ましい。
さらに、前記テトラアルコキシシラン類の加水分解縮合物等の加水分解性官能基を4個以上含む加水分解性珪素化合物は、前記重合体粒子の最外層に存在することがより好ましい。最外層に加水分解縮合物が存在することで、重合体粒子の水溶性溶剤に対する安定性が向上する傾向がある。
【0029】
加水分解性珪素化合物と重合させるためのビニル化合物(上述のビニル重合性基を有する加水分解性珪素化合物を除く)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物;カルボキシル基含有ビニル化合物、水酸基含有ビニル化合物、エポキシ基含有ビニル化合物、カルボニル基含有ビニル化合物のような官能基を含有する化合物が挙げられる。中でも2級アミド基及び/又は3級アミド基を有するビニル化合物は、コーティング組成物中に使用されるシリカ等の金属酸化物との間の水素結合性が強まる傾向にあるため、好ましい。
【0030】
カルボキシル基含有ビニル化合物の例としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸、2−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸若しくはフマル酸のような各種の不飽和カルボン酸類;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノ−n−ブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノ−n−ブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノ−n−ブチルのような不飽和ジカルボン酸類と飽和1価アルコール類とのモノエステル類(ハーフエステル類);アジピン酸モノビニル若しくはコハク酸モノビニルのような各種の飽和ジカルボン酸のモノビニルエステル類;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水フタル酸若しくは無水トリメリット酸のような各種の飽和ポリカルボン酸の無水物類と上述の各種の水酸基含有ビニル系単量体類との付加反応生成物;上述の各種のカルボキシル基含有単量体類とラクトン類とを付加反応して得られる単量体類等が挙げられる。
【0031】
水酸基含有ビニル化合物の例としては、特に限定されないが、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート若しくは4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートのような各種のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル若しくは4−ヒドロキシブチルビニルエーテルのような各種の水酸基含有ビニルエーテル類;2−ヒドロキシエチルアリルエーテルのような各種の水酸基含有アリルエーテル類;ポリエチレングリコールに代表される種々のポリエーテルポリオールと、(メタ)アクリル酸に代表される種々の不飽和カルボン酸とから得られるポリオキシアルキレングリコールのモノエステル類;上述の各種の水酸基含有単量体類とε−カプロラクトンに代表される種々のラクトン類との付加物;グリシジル(メタ)アクリレートに代表される種々のエポキシ基含有不飽和単量体と酢酸に代表される種々の酸類との付加物;(メタ)アクリル酸に代表される種々の不飽和カルボン酸類と「カーデュラE」(オランダ国シェル社製の商品名)に代表されるα−オレフィンのエポキサイド以外の種々のモノエポキシ化合物との付加物等が挙げられる。
【0032】
上述したビニル化合物は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0033】
上記式:式:SiW
xR
yで表される加水分解性珪素化合物の加水分解縮合物(b2)が用いられる場合の重合体粒子水分散体におけるビニル化合物(b1)と加水分解性珪素化合物の加水分解縮合物(b2)の質量比(b1)/(b2)は、1/100〜1/1が好ましく、1/50〜1/2がより好ましく、1/20〜1/4がさらに好ましい。上記範囲のときに重合体粒子の水溶性溶剤に対する安定性が向上する傾向がある。
【0034】
重合体粒子の合成の際には、水と共に乳化剤を使用してもよい。
乳化剤として、以下に限定されるものではないが、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸等の酸性乳化剤;酸性乳化剤のアルカリ金属(Li、Na、K等)塩、酸性乳化剤のアンモニウム塩、脂肪酸石鹸等のアニオン性界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウムブロミド、アルキルピリジニウムブロミド、イミダゾリニウムラウレート等の四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩型のカチオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル等のノニオン型界面活性剤、ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤が挙げられる。
【0035】
上述した乳化剤は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0036】
ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤としては、特に限定されないが、スルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体、硫酸エステル基を有するビニル単量体、及びそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、ポリオキシエチレン等のノニオン基を有するビニル単量体、並びに、4級アンモニウム塩を有するビニル単量体等が挙げられる。
【0037】
スルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体としては、特に限定されないが、例えばラジカル重合性の二重結合を有し、かつスルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩のような置換基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基、フェニル基、ナフチル基、及びコハク酸基からなる群より選ばれる置換基を有する化合物;スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩のような置換基が結合しているビニル基を有するビニルスルホネート化合物等が挙げられる。
【0038】
硫酸エステル基を有するビニル単量体としては、特に限定されないが、例えばラジカル重合性の二重結合を有し、かつ硫酸エステル基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩のような置換基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基、フェニル基、及びナフチル基からなる群より選ばれる置換基を有する化合物等が挙げられる。
【0039】
スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩のような置換基により一部が置換されたコハク酸基を有する化合物としては、特に限定されないが、アリルスルホコハク酸塩等が挙げられる。より詳しくは、例えばエレミノールJS−2(三洋化成社製、商品名)、ラテムルS−120、S−180A又はS−180(花王社製、商品名)等が挙げられる。
【0040】
スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩のような置換基により一部が置換された、炭素数2〜4のアルキルエーテル基又は炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えばアクアロンHS−10又はKH−1025(第一工業製薬社製、商品名)、アデカリアソープSE−1025N又はSR−1025(旭電化工業社製、商品名)等が挙げられる。
【0041】
ノニオン基を有するビニル単量体としては、特に限定されないが、例えばα−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン(商品名:アデカリアソープNE−20、NE−30、NE−40等、旭電化工業社製)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(商品名:アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50等、第一製薬工業社製)が挙げられ。
【0042】
重合体粒子合成の際の乳化剤の使用量は、重合安定性の観点から、加水分解性珪素化合物とビニル化合物の合計100質量部に対して、好ましくは10質量部以下、より好ましくは0.001〜5質量部である。
【0043】
重合体粒子水分散体の合成において、重合触媒の存在下で加水分解性珪素化合物及びビニル化合物の重合を行うことが好ましい。
【0044】
加水分解性珪素化合物の重合触媒としては、重合に用いる成分等に応じて適宜選択できる。このような重合触媒としては、以下に限定されるものではないが、例えば、塩酸、フッ酸等のハロゲン化水素類、酢酸、トリクロル酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸等のカルボン酸類;硫酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸類;アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸等の酸性乳化剤類;酸性又は弱酸性の無機塩、フタル酸、リン酸、硝酸のような酸性化合物類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、酢酸ナトリウム、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エタノールアミン類、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシランのような塩基性化合物類;ジブチル錫オクチレート、ジブチル錫ジラウレートのような錫化合物が挙げられる。
これらの中で、重合触媒のみならず乳化剤としての作用を有する観点から、酸性乳化剤類が好ましく、炭素数が5〜30のアルキルベンゼンスルホン酸がより好ましい。
【0045】
ビニル化合物の重合触媒としては、熱又は還元性物質等によってラジカル分解してビニル化合物の付加重合を起こさせるラジカル重合触媒が好ましい。
このような重合触媒としては、以下に限定されるものではないが、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルヒドロパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ヒドロクロリド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が挙げられる。
【0046】
ビニル化合物の重合触媒の使用量としては、全ビニル化合物100質量部に対して、好ましくは0.001〜5質量部である。なお、重合速度の促進、及び70℃以下での低温の重合を望む場合、例えば重亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸塩、ロンガリット等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いると有利である。
【0047】
加水分解性珪素化合物の重合と、ビニル化合物の重合とは、別々に実施することも可能であるが、同時に実施すると水素結合等によるミクロな有機・無機複合化が達成できるので好ましい。
【0048】
重合体粒子水分散体を得る方法として、乳化剤がミセルを形成するのに十分な量の水の存在下に加水分解性珪素化合物とビニル化合物とを重合する、いわゆる乳化重合が適している。乳化重合の方法としては、例えば加水分解性珪素化合物及びビニル化合物、更には必要に応じて乳化剤をそのまま、又は乳化した状態で、一括若しくは分割して、又は連続的に反応容器中に滴下し、重合触媒の存在下、好ましくは大気圧から必要により10MPaまでの圧力下で、約30〜150℃の反応温度で重合させる方法等が挙げられる。ただし、必要に応じて、これ以上の圧力で、又はこれ以下の温度条件で重合してもよい。
【0049】
重合原液の配合について、重合安定性の観点から、全固形分質量が0.1〜70質量%、好ましくは1〜55質量%の範囲になるように、加水分解性珪素化合物、ビニル化合物及び水、ならびに好ましくは乳化剤の各成分を配合するのが好ましい。全固形分質量(質量%)は、重合体粒子水分散体を100℃に加温したオーブンに2時間入れて乾燥させた乾燥質量を求め、下記式に基づいて求めることができる。
全固形分質量(質量%)=乾燥質量/重合体粒子水分散体の質量×100
【0050】
乳化重合を行うに際して、得られる重合体粒子の粒子径を適度に成長又は制御する観点から、シード重合法を用いることが好ましい。シード重合法とは、予め水相中にエマルジョン粒子(シード粒子)を存在させて重合させる方法である。シード重合法を行う際の重合系中のpHとしては、好ましくは1.0〜10.0、より好ましくは1.0〜6.0である。そのpHは、リン酸二ナトリウム、ボラックス、炭酸水素ナトリウム、アンモニア等のpH緩衝剤を用いて調節することが可能である。
【0051】
重合体粒子水分散体を得る方法として、加水分解性珪素化合物を重合させるのに必要な乳化剤及び水の存在下、加水分解性珪素化合物及びビニル化合物を、必要により溶剤存在下で重合した後、重合生成物がエマルジョンとなるまで水を添加する手法も適用できる。
【0052】
重合体粒子水分散体は、得られる塗膜の基材密着性を向上させる観点から、コア層と、当該コア層を被覆する1層又は2層以上のシェル層とを備えたコア/シェル構造を有することが好ましい。当該コア/シェル構造を形成する方法としては、乳化重合を多段で行う、多段乳化重合が非常に有用である。コア/シェル構造は、例えば透過型電子顕微鏡等による形態観察や粘弾性測定による解析等により観察することができる。
【0053】
多段乳化重合は、具体的には、例えば第1段階として、任意選択で乳化剤及び水の存在下、加水分解性珪素化合物及びビニル化合物(または加水分解性珪素化合物のみ)を重合してシード粒子を形成し、第2段階として、当該シード粒子の存在下、加水分解性珪素化合物及びビニル化合物を含む重合原液を添加して重合する(2段重合法)。3段以上の多段乳化重合を実施する場合、例えば第3段階として、さらに加水分解性珪素化合物及びビニル化合物を含む重合原液を添加して重合することができる。このような方法は、重合安定性の観点からも好適である。
【0054】
2段重合法を採用する場合、上記第1段階において用いられる重合原液中の固形分質量(M1)と上記第2段階において添加される重合原液中の固形分質量(M2)との質量比((M1)/(M2))は、重合安定性の観点から、好ましくは9/1〜1/9、より好ましくは8/2〜2/8である。
【0055】
重合体粒子水分散体を得るための重合原液には、必要に応じて、公知のいずれかの連鎖移動剤及び/又は分散安定剤を用いてもよい。
連鎖移動剤としては、特に限定されないが、例えば、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンのようなアルキルメルカプタン類;ベンジルメルカプタン、ドデシルベンジルメルカプタンのような芳香族メルカプタン類;チオリンゴ酸のようなチオカルボン酸又はそれらの塩若しくはそれらのアルキルエステル類、又はポリチオール類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジ(メチレントリメチロールプロパン)キサントゲンジスルフィド及びチオグリコール、α−メチルスチレンのダイマー等のアリル化合物等が挙げられる。
分散安定剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリカルボン酸及びスルホン酸塩からなる群より選ばれる各種の水溶性オリゴマー類、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、澱粉、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、水溶性又は水分散性アクリル樹脂等の合成又は天然の水溶性又は水分散性の各種高分子物質等が挙げられる。
【0056】
重合体粒子水分散体には、使用方法等に応じて、さらに他の成分を添加してもよい。このような他の成分の例としては、特に限定されないが、硬化剤、金属酸化物粒子、増粘剤、レベリング剤、チクソ化剤、消泡剤、凍結安定剤、艶消し剤、架橋反応触媒、顔料、硬化触媒、架橋剤、充填剤、皮張り防止剤、分散剤、湿潤剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤、消泡剤、成膜助剤、防錆剤、染料、可塑剤、潤滑剤、還元剤、防腐剤、防黴剤、消臭剤、黄変防止剤、静電防止剤又は帯電調整剤を配合することができる。
これらの任意成分は、通常、重合体粒子水分散体中、10質量部以下、5質量部以下、または3質量部以下の配合量で用いることができる。
【0057】
本発明に係る重合体粒子水分散体は沸点が100℃未満の水溶性溶剤を50〜95質量%を含む限り、その固形分量は特に限定されないが、一実施形態において、典型的には1〜45質量%であってよく、典型的には3〜40質量%であってよい。
なお、ここまで説明した本発明の重合体粒子水分散体は、第1の実施態様に係る重合体粒子水分散体と称する。
第1の実施態様に係る重合体粒子水分散体は、そのままコーティング膜の形成のために用いることができ、あるいはコーティング組成物の一原料として他成分と混合され得る。
【0058】
〔コーティング膜〕
本発明に係る重合体粒子水分散体のコーティング膜は、第1の実施態様に係る重合体粒子水分散体を基材に塗布し、乾燥させることで作成することができる。
【0059】
コーティング膜形成のため上記重合体粒子水分散体を基材に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、スプレー吹き付け法、フローコーティング法、ロールコート法、刷毛塗り法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スクリーン印刷法、キャスティング法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等が挙げられる。
【0060】
さらに、一実施形態において、コーティング膜は500℃以上の温度で焼結することが好ましい。
焼結する温度は、500℃以上800℃以下がより好ましく、600℃以上750℃以下がさらに好ましい。さらに、高圧水銀灯等の紫外線照射等の処理を同時又は直列に行うことで焼結してもよい。
上記温度で焼結することにより、重合体粒子の有機物が分解することで、コーティング膜の水接触角が低下する傾向にあり、防汚性が向上する傾向にある。
また、上記温度で焼結することにより、重合体粒子の有機物が分解し、結果として膜内部に空孔が生成しやすくなり、低屈折率化によって反射防止性能がより向上する傾向にある。
【0061】
一実施形態において、コーティング膜は、特に限定されないが、安定的な塗膜形成の観点から、第1の実施態様に係る重合体粒子水分散体は、さらに金属酸化物粒子(A)と加水分解性珪素化合物(C)とを含むコーティング組成物として基材に塗布し、乾燥(焼結)させることで作成することが好ましい。この場合の塗布及び焼結方法としても、上述の方法を採用することができる。
第1の実施態様に係る重合体粒子水分散体に加えて、金属酸化物粒子(A)と加水分解性珪素化合物(C)とを含むコーティング組成物として用いる場合、これを第2の態様に係る重合体粒子水分散体と称する。
【0062】
金属酸化物粒子(A)としては、特に限定されないが、例えば、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、亜鉛、スズ、インジウム、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、モリブデンなどの酸化物が挙げられる。光学特性、耐久性の点から、特にケイ素酸化物が好ましい。
一実施形態において、金属酸化物粒子(A)の数平均粒子径(一次粒子、二次粒子またはそれらの混合物であってよい)は、例えば1nm〜10000nmであってよい。また、金属酸化物粒子(A)の形態は、特に限定されず、粉体、分散液、ゾル等が挙げられる。
通常、コーティング組成物中で、金属酸化物粒子(A)と、これに混合される第1の態様に係る重合体粒子水分散体に含まれる固形分総量との質量比は、1/100〜100/100であってよく、好ましくは2/100〜80/100であってよい。
ケイ素酸化物粒子の具体例としては、以下に限定されないが、例えば、日産化学工業株式会社製の「スノーテックス−OXS(登録商標)」、同社製「スノーテックス−O(登録商標)」、同社製「スノーテックス−OL(登録商標)」及び同社製「スノーテックス−OYL(登録商標)」等が挙げられる。
【0063】
一実施形態において、コーティング組成物としての第2の態様に係る重合体粒子水分散体は、重合体粒子の重合に用いられる加水分解性珪素化合物とは区別して、加水分解性珪素化合物(C)をさらに含んでもよい。これにより、本実施形態のコーティング膜は、機械的強度がより増加する傾向にある。
【0064】
加水分解性珪素化合物(C)として用いられる加水分解性珪素含有化合物としては、下記式(1)で表される加水分解性珪素含有化合物(c1)、下記式(2)で表される加水分解性珪素含有化合物(c2)、下記式(3)で表される加水分解性珪素化合物(c3)からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
R
1nSiX
4−n (1)
ここで、式(1)中、R
1は水素原子、あるいは、ハロゲン基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基又はエポキシ基を有していてもよい、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基若しくはアリール基を表す。Xは、加水分解性基を表し、nは0〜3の整数である。加水分解性基は加水分解により水酸基が生じる基であれば特に限定されず、例えばハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、フェノキシ基、オキシム基等が挙げられる。
X
3Si−R
2n−SiX
3 (2)
ここで、式(2)中、Xは加水分解性基を表し、R
2は炭素数1〜6のアルキレン基又はフェニレン基を表す。nは0又は1である。
R
3−(O−Si(OR
3)
2)
n−OR
3 (3)
ここで、式(3)中、R
3は炭素数1〜6のアルキル基を表す。nは2〜8の整数である。
【0065】
加水分解性珪素化合物(c1)及び(c2)として、特に限定されないが、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトラ(i−プロポキシ)シラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン、テトラ(i−ブトキシ)シラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリフェノキシシリル)メタン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、ビス(トリフェノキシシリル)エタン、1,3−ビス(トリメトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(トリエトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(トリフェノキシシリル)プロパン、1,4−ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、テトラアセトキシシラン、テトラキス(トリクロロアセトキシ)シラン、テトラキス(トリフルオロアセトキシ)シラン、トリアセトキシシラン、トリス(トリクロロアセトキシ)シラン、トリス(トリフルオロアセトキシ)シラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリス(トリクロロアセトキシ)シラン、テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、テトラフルオロシラン、トリクロロシラン、トリブロモシラン、トリフルオロシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリブロモシラン、メチルトリフルオロシラン、テトラキス(メチルエチルケトキシム)シラン、トリス(メチルエチルケトキシム)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン、フェニルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン、ビス(メチルエチルケトキシム)シラン、メチルビス(メチルエチルケトキシム)シラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルシラン、ビス(ジエチルアミノ)メチルシラン等が挙げられる。
【0066】
加水分解性珪素化合物(c3)としては、特に限定されないが、例えば、テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物(例えば多摩化学工業社製の商品名「Mシリケート51」、コルコート社製の商品名「MSI51」、三菱化学社製の商品名「MS51」、同「MS56」)、テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物(多摩化学工業社製の商品名「シリケート35」、同「シリケート45」、コルコート社製の商品名「ESI40」、同「ESI48」)、テトラメトキシシランとテトラエトキシシランとの共部分加水分解縮合物(多摩化学工業社製の商品名「FR−3」、コルコート社製の商品名「EMSi48」)等が挙げられる。
【0067】
通常、コーティング組成物としての第2の態様に係る重合体粒子水分散体中で、第1の態様に係る重合体粒子水分散体に含まれる固形分総量と、これに混合される加水分解性珪素化合物(C)との質量比は、100/50〜100/1000であってよく、好ましくは100/100〜100/600であってよい。
【0068】
本発明に係る重合体粒子水分散体のコーティング膜は、第1の態様または第2の態様に係る重合体粒子水分散体を用いて、公知の任意の基材上に形成することができる。基材は、特に限定されるものではないが、ガラス等の無機材料、天然樹脂や合成樹脂である樹脂材料が挙げられる。本発明に係る重合体粒子水分散体のコーティング膜は、特に太陽電池の分野において、太陽電池の保護カバーであるテクスチャーガラス基材等の表面に凹凸を有するガラス基材上に好適に適用される。
【0069】
本発明に係る重合体粒子水分散体のコーティング膜の厚みは、用途に依存して適切に調節され得る。その平均厚み(例えばランダムに選択した5箇所の値の平均)は、特に限定されないが、例えば、乾燥/焼結/冷却後で1nm〜1000nmであってよく、典型的には5nm〜500nmであってよい。
【0070】
本発明に係る重合体粒子水分散体のコーティング膜は、用途に依存して表面を撥水処理してよい。撥水処理の方法としては、特に限定されないが、例えばコーティング膜表面にシリコーン系及び/又はフッ素系撥水剤を塗布、乾燥して行うことができる。
【0071】
本発明に係る重合体粒子水分散体のコーティング膜の表面の十点平均粗さ(RzJIS)は、用途に依存して適切に調整され得る。十点平均粗さ(RzJIS)は、特に限定されないが、例えば0.01〜50μmであってよく、典型的には0.02〜10μmであってよい。コーティング膜の表面の十点平均粗さ(RzJIS)を調整することで、塗膜の透明性、防汚性(表面親水性、又は撥水処理後の表面撥水性)を向上できる。十点平均粗さ(RzJIS)を上記範囲にするためには、金属酸化物粒子(A)の平均粒子径や量、重合体粒子の体積平均粒子径や量を調整すればよい。
【0072】
一実施形態において、本発明に係る重合体粒子水分散体のコーティング膜は、透明性、反射防止特性、防汚性にも優れた機能を付与することができる。そのため、このコーティング膜は、太陽電池用カバーガラスのコーティング膜として特に好適である。すなわち、一実施形態において、コーティング膜は、太陽電池用カバーグラス表面に形成されたものであることが好ましい。
【実施例】
【0073】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。
後述する合成例、実施例及び比較例における、各種の物性及び評価は下記の方法で測定及び評価した。
【0074】
(1)体積平均粒子径の測定
動的光散乱式粒度分布測定装置UPA−UZ152(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用い、重合体粒子水分散体に含まれる固形分粒子の体積平均粒子径を評価した。
【0075】
(2)ヘイズの測定
実施例及び比較例で得られた試験板について、日本国日本電色工業株式会社製濁度計NDH2000を用いて、JIS K7361−1に規定される方法にてヘイズを測定した。
【0076】
〔合成例〕
以下、後述する実施例及び比較例において用いた重合体粒子水分散体の合成例を記載する。
【0077】
(合成例1)重合体粒子水分散体(B−1)の合成
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水1000g、及びドデシルベンゼンスルホン酸7gを投入した後、撹拌しながら80℃に加温して混合液(1)を得た。
得られた混合液(1)に、コア層の原料としてジメチルジメトキシシラン250g及びフェニルトリメトキシシラン200gを混合して得られた混合液(2)を、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて滴下して混合液(3)を得た。
その後、反応容器中の温度が80℃の状態で混合液(3)を約1時間撹拌した。
次に、得られた混合液(3)に、シェル層の原料としてアクリル酸ブチル15g、テトラエトキシシラン50g、フェニルトリメトキシシラン25g、及び3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン3gを混合して得られた混合液(4)と、ジエチルアクリルアミド30g、アクリル酸1g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25質量%水溶液)4g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液4g、及びイオン交換水1000gを混合して得られた混合液(5)とを、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下して混合物(6)を得た。
さらに熱養生として、反応容器中の温度が80℃の状態で混合物(6)を約2時間撹拌した。その後、混合物(6)にテトラエトキシシラン400gを、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約30分かけて滴下して混合液(7)を得た。
さらに熱養生として、反応容器中の温度が80℃の状態で混合物(7)を約2時間撹拌した。その後、混合物(7)を室温まで冷却し、100メッシュの金網で濾過し、精製水及びエタノールで濃度を調整して重合体粒子水分散体(B−1)(エタノール濃度80質量%、体積平均粒子径80nm)を得た。
【0078】
(合成例2)重合体粒子水分散体(B−2)の合成
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水1600g、及びドデシルベンゼンスルホン酸8gを投入した後、撹拌しながら80℃に加温して混合液(1)を得た。
得られた混合液(1)に、コア層の原料としてジメチルジメトキシシラン185g及びフェニルトリメトキシシラン72gを混合して得られた混合液(2)を、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて滴下して混合液(3)を得た。
その後、反応容器中の温度が80℃の状態で混合液(3)を約1時間撹拌した。次に、得られた混合液(3)に、シェル層の原料としてアクリル酸ブチル150g、テトラエトキシシラン30g、フェニルトリメトキシシラン92g、及び3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.3gを混合して得られた混合液(4)と、ジエチルアクリルアミド165g、アクリル酸3g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25質量%水溶液)13g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液40g、及びイオン交換水1900gを混合して得られた混合液(5)とを、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下して混合物(6)を得た。
さらに熱養生として、反応容器中の温度が80℃の状態で混合物(6)を約2時間撹拌した。その後、混合物(6)を室温まで冷却し、100メッシュの金網で濾過し、精製水及びエタノールで濃度を調整して重合体粒子水分散体(B−2)(エタノール濃度80質量%、体積平均粒子径90nm)を得た。
【0079】
(合成例3)重合体粒子水分散体(B−3)の合成
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水1600g、及びドデシルベンゼンスルホン酸8gを投入した後、撹拌しながら80℃に加温して混合液(1)を得た。
得られた混合液(1)に、コア層の原料としてジメチルジメトキシシラン185g及びフェニルトリメトキシシラン72gを混合して得られた混合液(2)を、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて滴下して混合液(3)を得た。
その後、反応容器中の温度が80℃の状態で混合液(3)を約1時間撹拌した。次に、得られた混合液(3)に、シェル層の原料としてアクリル酸ブチル150g、テトラエトキシシラン30g、フェニルトリメトキシシラン92g、及び3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.3gを混合して得られた混合液(4)と、ジエチルアクリルアミド165g、アクリル酸3g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25質量%水溶液)13g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液40g、及びイオン交換水1900gを混合して得られた混合液(5)とを、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下して混合物(6)を得た。その後、混合物(6)にテトラエトキシシラン400gを、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約30分かけて滴下して混合液(7)を得た。
さらに熱養生として、反応容器中の温度が80℃の状態で混合物(7)を約2時間撹拌した。その後、混合物(7)を室温まで冷却し、100メッシュの金網で濾過し、精製水及びエタノールで濃度を調整して重合体粒子水分散体(B−3)(エタノール濃度80質量%、体積平均粒子径110nm)を得た。
【0080】
(合成例4)重合体粒子水分散体(B−4)の合成
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水1000g、及びドデシルベンゼンスルホン酸7gを投入した後、撹拌しながら80℃に加温して混合液(1)を得た。
得られた混合液(1)に、コア層の原料としてジメチルジメトキシシラン250g及びフェニルトリメトキシシラン200gを混合して得られた混合液(2)を、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて滴下して混合液(3)を得た。
その後、反応容器中の温度が80℃の状態で混合液(3)を約1時間撹拌した。
次に、得られた混合液(3)に、シェル層の原料としてアクリル酸ブチル15g、テトラエトキシシラン50g、フェニルトリメトキシシラン25g、及び3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン3gを混合して得られた混合液(4)と、ジエチルアクリルアミド30g、アクリル酸1g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25質量%水溶液)4g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液4g、及びイオン交換水1000gを混合して得られた混合液(5)とを、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下して混合物(6)を得た。
さらに熱養生として、反応容器中の温度が80℃の状態で混合物(6)を約2時間撹拌した。その後、混合物(6)にテトラエトキシシラン200gを、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約30分かけて滴下して混合液(7)を得た。
さらに熱養生として、反応容器中の温度が80℃の状態で混合物(7)を約2時間撹拌した。その後、混合物(7)を室温まで冷却し、100メッシュの金網で濾過し、精製水及びエタノールで濃度を調整して重合体粒子水分散体(B−4)(エタノール濃度80質量%、体積平均粒子径70nm)を得た。
【0081】
〔実施例1〕
前記(合成例1)で合成した重合体粒子水分散体(B−1)(エタノール濃度80質量%、体積平均粒子径80nm)をエタノール濃度10%になるまで水希釈をし、粒子径を測定したところ、体積平均粒子径100nmであり、水希釈前後の体積平均粒子径の変化率は125%であった。ここでの水希釈は、スターラ―で撹拌した重合体粒子水分散体に蒸留水を加え、濃度を調整することによって行った。
また、前記重合体粒子水分散体(B−1)を固形分濃度3%、エタノール濃度80%に調整し、基材(10cm×10cmの白板)の片面に、スピンコーターを用いて回転数1000rpmで10sec塗布した後、100℃で1分間乾燥し、コーティング膜(F−1)を有する試験板を得た。さらにコーティング膜(F−1)を有する試験板を電気炉中で700℃、3分間焼結した後に、急冷して平均膜厚(ランダムに選択した5箇所の値の平均を意味する(以下同様)。)100nmのコーティング膜を有する試験板(G−1)を得た。試験板(G−1)のヘイズは0.9%で非常に良好な光学特性を示した。
【0082】
〔実施例2〕
前記重合体粒子水分散体(B−1)に金属酸化物粒子(A)として数平均粒子径5nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックスOXS」、日産化学工業(株)製、固形分10質量%)、加水分解性珪素化合物(C)としてテトラエトキシシランを加え、エタノール濃度80%に調整し、重合体粒子水分散体(B−3)(体積平均粒子径90nm)を得た。このとき重合体粒子水分散体(B−3)中の組成比(固形分換算で計算した各成分の質量比率)は、(A)/(B−1)/(C)=20/100/180であった。前記重合体粒子水分散体(B−3)をエタノール濃度10%になるまで水希釈をし、粒子径を測定したところ、体積平均粒子径110nmであり、水希釈前後の体積平均粒子径の変化率は122%であった。
また重合体粒子水分散体(B−3)を固形分濃度3%、エタノール濃度80%に調整し、基材(10cm×10cmの白板)の片面に、スピンコーターを用いて回転数1000rpmで10sec塗布した後、100℃で1分間乾燥し、コーティング膜(F−2)を有する試験板を得た。このときコーティング膜(F−2)中の組成比は、重合体粒子水分散体の固形分換算で計算した各成分の質量比率と同様に、(A)/(B)/(C)=20/100/180になると考えられる。なお、ここで(A)は、上記乾燥後に得られるシリカ微粒子(A)の質量比率であり、(B)は、上記乾燥後に得られる重合体粒子(B)の質量比率であり、(C)は、上記乾燥後に得られる加水分解性珪素化合物(C)の加水分解縮合物の質量比率である。さらにコーティング膜(F−2)を有する試験板を電気炉中で700℃、3分間焼結した後に、急冷して平均膜厚100nmのコーティング膜を有する試験板(G−2)を得た。試験板(G−2)のヘイズは0.3%で非常に良好な光学特性を示した。
【0083】
〔実施例3〕
前記(合成例4)で合成した重合体粒子水分散体(B−4)(エタノール濃度80質量%、体積平均粒子径70nm)をエタノール濃度10%になるまで水希釈をし、粒子径を測定したところ、体積平均粒子径133nmであり、水希釈前後の体積平均粒子径の変化率は190%であった。
また、前記重合体粒子水分散体(B−4)を固形分濃度3%、エタノール濃度80%に調整し、基材(10cm×10cmの白板)の片面に、スピンコーターを用いて回転数1000rpmで10sec塗布した後、100℃で1分間乾燥し、コーティング膜(F−3)を有する試験板を得た。さらにコーティング膜(F−3)を有する試験板を電気炉中で700℃、3分間焼結した後に、急冷して平均膜厚100nmのコーティング膜を有する試験板(G−3)を得た。試験板(G−3)のヘイズは3.0%で良好な光学特性を示した。
【0084】
〔比較例1〕
前記(合成例2)で合成した重合体粒子水分散体(B−2)(エタノール濃度80質量%、体積平均粒子径90nm)をエタノール濃度10%になるまで水希釈をし、粒子径を測定した結果、体積平均粒子径250nmとなったことから、水希釈前後の体積平均粒子径の変化率は278%となった。
また、前記重合体粒子水分散体(B−2)を固形分濃度3%、エタノール濃度80%に調整し、基材(10cm×10cmの白板)の片面に、スピンコーターを用いて回転数1000rpmで10sec塗布した後、100℃で1分間乾燥し、コーティング膜(F−4)を有する試験板を得た。さらにコーティング膜(F−4)を有する試験板を電気炉中で700℃、3分間焼結した後に、急冷して平均膜厚100nmのコーティング膜を有する試験板(G−4)を得た。試験板(G−4)のヘイズは20.5%で塗膜の白濁がみられた。
【0085】
〔比較例2〕
前記(合成例3)で合成した重合体粒子水分散体(B−3)(エタノール濃度80質量%、体積平均粒子径110nm)をエタノール濃度10%になるまで水希釈をし、粒子径を測定したところ、体積平均粒子径230nmであり、水希釈前後の体積平均粒子径の変化率は209%であった。
また、前記重合体粒子水分散体(B−3)を固形分濃度3%、エタノール濃度80%に調整し、基材(10cm×10cmの白板)の片面に、スピンコーターを用いて回転数1000rpmで10sec塗布した後、100℃で1分間乾燥し、コーティング膜(F−5)を有する試験板を得た。さらにコーティング膜(F−5)を有する試験板を電気炉中で700℃、3分間焼結した後に、急冷して平均膜厚100nmのコーティング膜を有する試験板(G−5)を得た。試験板(G−5)のヘイズは11.3%で塗膜の白濁がみられた。