特許第6917785号(P6917785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ブリヂストンスポーツ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6917785-ゴルフクラブヘッド 図000002
  • 特許6917785-ゴルフクラブヘッド 図000003
  • 特許6917785-ゴルフクラブヘッド 図000004
  • 特許6917785-ゴルフクラブヘッド 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6917785
(24)【登録日】2021年7月26日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/04 20150101AFI20210729BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20210729BHJP
【FI】
   A63B53/04 E
   A63B102:32
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-111140(P2017-111140)
(22)【出願日】2017年6月5日
(65)【公開番号】特開2018-201873(P2018-201873A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年5月12日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 知憲
【審査官】 石原 豊
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−516047(JP,A)
【文献】 米国特許第07156752(US,B1)
【文献】 特開2007−181616(JP,A)
【文献】 特開2006−122544(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1706516(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC A63B53/04−53/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド上部と、ヘッド底部と、前記ヘッド上部と前記ヘッド底部との間のフェース部と、を含むゴルフクラブヘッドであって、
前記フェース部よりもバック側において前記ヘッド上部に開口し、トウーヒール方向に延び、かつ、前記ヘッド底部へ向けて形成されたスリットと、
前記スリットに設けられ、前記スリットを画定する前記フェース部側の第一の壁面に当接する中間部材と、
前記第一の壁面から離間し、かつ、前記スリットを画定する前記バック側の第二の壁面の側から、前記中間部材を固定する固定部材と、
前記フェース部及び前記第一の壁面を含む第一の部分と、
前記第一の部分に対して前記スリットを挟んで前記バック側に位置し、前記第二の壁面を含む第二の部分と、を含み、
前記第二の部分は、前記第二の部分をフェース−バック方向に貫通して前記第二の壁面に開口した穴を含み、
前記中間部材の一部が前記穴に挿入され、
前記固定部材は前記穴に取り付けられる、
ことを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載のゴルフクラブヘッドであって、
前記中間部材は、樹脂、繊維強化樹脂、ゴム、又は、金属である、
ことを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
請求項1又は請求項に記載のゴルフクラブヘッドであって、
前記フェース部をトウ−ヒール方向にトウ側部、中央部、ヒール側部に三等分した場合、前記中間部材及び前記固定部材は前記トウ側部又は前記中央部に位置している、
ことを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッドであって、
前記中間部材及び前記固定部材は着脱自在であり、
前記中間部材は複数種類の中間部材の中から選択可能である、
ことを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッドであって、
前記第一の壁面と前記第二の壁面とが平行である、
ことを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
請求項に記載のゴルフクラブヘッドであって、
前記第一の壁面と前記第二の壁面との間隔が1mm以上4mm以下である、
ことを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
打撃時のフェース部の傾斜やボールとの摩擦態様或いは打感を制御するために、フェース部の背後に空隙を設けたり、その空隙にゴムや樹脂を挿入することが提案されている(例えば特許文献1〜8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−231485号号公報
【特許文献2】特開2014−111170号公報
【特許文献3】実開平01−126269号公報
【特許文献4】米国特許第9480888号明細書
【特許文献5】特開2006−198327号公報
【特許文献6】特開昭53−65128号公報
【特許文献7】特開昭55−35682号公報
【特許文献8】実用新案登録第3046011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヘッド上部に開口したスリットを形成すると、打撃時にフェース部の傾斜が大きくなって、打球の打ち出し角を増大させることができる。しかし、スリットを画定する前後の壁面が打撃時に衝突して異音を発生させる場合がある。その改善策として、スリットにゴムや樹脂などを挿入することは有効であるが、スリット内に適切に保持されていなければ目的とする機能を得られない場合がある。
【0005】
本発明の目的は、スリットの形成により打球の打ち出し角を増大でき、かつ、スリットの挿入物をスリット内に保持することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
ヘッド上部と、ヘッド底部と、前記ヘッド上部と前記ヘッド底部との間のフェース部と、を含むゴルフクラブヘッドであって、
前記フェース部よりもバック側において前記ヘッド上部に開口し、トウーヒール方向に延び、かつ、前記ヘッド底部へ向けて形成されたスリットと、
前記スリットに設けられ、前記スリットを画定する前記フェース部側の第一の壁面に当接する中間部材と、
前記第一の壁面から離間し、かつ、前記スリットを画定する前記バック側の第二の壁面の側から、前記中間部材を固定する固定部材と、
前記フェース部及び前記第一の壁面を含む第一の部分と、
前記第一の部分に対して前記スリットを挟んで前記バック側に位置し、前記第二の壁面を含む第二の部分と、を含み、
前記第二の部分は、前記第二の部分をフェース−バック方向に貫通して前記第二の壁面に開口した穴を含み、
前記中間部材の一部が前記穴に挿入され、
前記固定部材は前記穴に取り付けられる、
ことを特徴とするゴルフクラブヘッドが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スリットの形成により打球の打ち出し角を増大でき、かつ、スリットの挿入物をスリット内に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(A)は実施形態のゴルフクラブヘッドの正面図、(B)は背面図。
図2】(A)は図1(A)のゴルフクラブヘッドの平面図、(B)は底面図、(C)は図1(B)のI−I線断面図。
図3】(A)は図2(C)のA部拡大図、(B)は分解図。
図4】フェースセンタの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1(A)〜図3(B)を参照して本発明の一実施形態に係るゴルフクラブヘッド1を説明する。図1(A)はゴルフクラブヘッド1の正面図、図1(B)は背面図、図2(A)は平面図、図2(B)は底面図、図2(C)は図1(B)のI−I線断面図である。図3(A)及び図3(B)は図2(C)のA部拡大図であり、図3(B)は分解図である。図中、矢印D1はトウ−ヒール方向を、矢印D2は上下方向を、矢印D3はフェース−バック方向をそれぞれ示す。
【0010】
ゴルフクラブヘッド1は、アイアン型のゴルフクラブヘッドである。本発明はロングアイアン、ミドルアイアン、ショートアイアン、ウェッジのいずれにも適用可能であるが、打ち出し角の増大の点でロングアイアン、ミドルアイアンに好適である。また、本発明はアイアン型のゴルフクラブヘッドに限らず、ユーティリティ型(ハイブリッド型)、ウッド型のゴルフクラブヘッドにも適用可能である。
【0011】
ゴルフクラブヘッド1は、ヘッド上部2、ヘッド底部3、フェース部4、ホゼル部5及びバック部6を含む。ヘッド上部2はゴルフクラブヘッド1の上面を形成し、ヘッド底部3はソール部であり、ゴルフクラブヘッド1の底面を形成する。ヘッド上部2とヘッド底部3との間のヘッド正面部は、トウ側部分1a、ヒール側部分1b、及び、トウ側部分1aとヒール側部分1bとの間のフェース部4を含む。フェース部4はゴルフボールの打撃面を形成する。フェース部4は本実施形態の場合、平面の打撃面を形成しており、D1方向に延びるスコアライン41が、D2方向に複数形成されている。フェース部4と、トウ側部分1a及びヒール側部分1bとは、例えば、本実施形態のようにスコアライン41が形成されている領域か、あるいは、表面処理が異なる領域か否かで区別することができる。表面処理としては、例えば、フェース部4にはブラスト処理等が施され、トウ側部分1a及びヒール側部分1bにはめっき処理、研磨仕上げ等が施される。バック部6はゴルフクラブヘッド1の背面を形成する。フェース部4及びバック部6はヘッド上部2とヘッド底部3との間に位置している。
【0012】
ヘッド上部2、ヘッド底部3、フェース部4、ホゼル部5及びバック部6が、金属材料の単一部品に形成されている。しかし、フェース部4を含むフェース部材と、ヘッド上部2、ヘッド底部3、ホゼル部5及びバック部6を含む本体部材との二部品でこれらを形成することも可能である。
【0013】
ゴルフクラブヘッド1はスリット7を含む。スリット7は、フェース部4よりもバック部6の側においてヘッド上部2に開口した開口部7aを含み、開口部7aからフェース部4に沿ってヘッド底部3へ向けて形成されている。本実施形態の場合、スリット7はD1方向及びD3方向の双方向においてフェース部4と平行に形成されているが、フェース部4に対して傾きを有しつつ、フェース部4に沿って形成されていてもよい。
【0014】
スリット7は、D3方向の隙間を形成する薄形の板形状の空間であり、フェース部4側の壁面(第一の壁面)7bと、バック部6側の壁面(第二の壁面)7cとによりD3方向の端部が画定されている。ゴルフクラブヘッド1を、スリット7を境界としてD3方向に区分けすると、壁面7bは、フェース部4を含む中実の部分10により形成されており、壁面7cは、バック部6を含む中実の部分11により形成されている。部分10と部分11はトウ側、ヒール側及びヘッド底部3側で接続されている。
【0015】
壁面7bと壁面7cとは互いに対向して平行に形成されており、その間隔G(スリット7の隙間)は、例えば、1mm以上4mm以下である。
【0016】
スリット7は、ヘッド底部3側の端部が底壁面7dにより画定された有底の空間である。開口部7aから底壁面7dまでの深さDPは、例えば、25mm以上50mm以下である。また、底壁面7dのD2方向の位置は、フェースセンタよりもヘッド底部3側の位置であることが好ましく、例えば、フェース部4の複数のスコアライン41のうち、最もヘッド底部3側のスコアライン41と同じか、低い位置に位置していてもよい。本実施形態の場合、最もヘッド底部3側のスコアライン41よりも低い位置に底壁面7dが位置している。また、底壁面7dからヘッド底部3までの最短距離tは、例えば、1mm以上5mm以下である。
【0017】
ここで本実施形態におけるフェースセンタについて図4を参照して説明する。ゴルフクラブヘッド1を規定のライ角及びロフト角で接地させた状態を基準とする。最も長いスコラインのトウ−ヒール方向の長さをL1とし、その中央位置を通る仮想面をCL1とする。仮想面CL1上で接地面からヘッド上部2までの高さをL2とし、その中央位置を通る仮想面をCL2とする。仮想面CL1と仮想面CL2との交線とフェース部4との交点FCがフェースセンタである。
【0018】
スリット7は、D1方向に延設されており、そのトウ側の端部が壁面7eで、ヒール側の端部が壁面7fで、それぞれ画定されている。本実施形態の場合、壁面7e、壁面7fは平行にD2方向に延びている。壁面7eと壁面7fとの離間距離Wは例えば、45mm以上60mm以下である。また、壁面7e、壁面7fのD1方向の位置は、例えば、フェース部4のD1方向の端部の位置と同じか、外側であってもよい。本実施形態の場合、壁面7e、壁面7fのD1方向の位置は、フェース部4のD1方向の端部の位置と同じ位置である。
【0019】
このようなスリット7を設けたことで、ゴルフボールの打撃時にフェース部4(部分10)がバック部6側に後傾し易くなる。換言するとフェース部4のロフト角が大きくなる。このため打球の打ち出し角を増大できる。
【0020】
打撃時にフェース部4が後傾する際、スリット7の隙間が狭くなり、壁面7bと壁面7cとが干渉する場合がある。その防止のため、本実施形態ではスリット7に中間部材8A及び8B(以下、区別しない場合は単に中間部材8という。)を設けている。中間部材8は、例えば、樹脂、繊維強化樹脂、ゴム、金属等で構成される。中間部材8は壁面7bに当接しており、壁面7bと壁面7cとが干渉することを規制する。
【0021】
スリット7には単一又は複数の中間部材が、スリット7の全体を埋めるように配置されていてもよいが、本実施形態の中間部材8は一部の部位のみ(2か所)に配置されている。これにより、打撃時にフェース部4が後傾し易くすることができる。
【0022】
また、フェース部4(部分10)は、D1方向で見るとトウ側で変形し易い傾向にある。ヒール側はD2方向の幅が狭く、また、ホゼル部5も存在するため、相対的に変形し難い。壁面7bと壁面7cとの干渉防止の観点では、フェース部4を図1(A)に示すようにD1方向でトウ側部T、中央部C、ヒール側部Hに三等分すると、中間部材8はトウ側部T又は中央部Cに設けることが好ましい。本実施形態の場合、中間部材8Aは中央部Cに、中間部材8Bはトウ側部Tに配置されている。
【0023】
また、フェース部4(部分10)は、D2方向で見るとヘッド上部2側で変形し易い傾向にある。スリット7は有底でヘッド上部2に開口しているからである。壁面7bと壁面7cとの干渉防止の観点では、中間部材8はD2方向でフェースセンタよりもヘッド上部2側に位置していることが好ましく、本実施形態の中間部材8A及び8Bはいずれもフェースセンタよりもヘッド上部2側に位置している。更に、フェース部4の上側の輪郭形状に対応して、中間部材8Bが中間部材8Aよりもヘッド上部2側に位置しており、少ない数又は小さな面積の中間部材8によって、壁面7bと壁面7cとの干渉防止性能を効果的に向上している。
【0024】
打撃時にスリット7の隙間が変化することから、中間部材8がスリット7から脱落したり、中間部材8の位置が変わることを防止する必要がある。本実施形態では、固定部材9A及び9B(以下、区別しない場合は単に固定部材9という。)により中間部材8A、8Bをそれぞれ固定している。本実施形態の場合、固定部材9A及び9Bは同様の構成であり、また、中間部材8A及び8Bは同様の構成である。図3(A)及び図3(B)を参照して、中間部材8A及び固定部材9の組の構造について説明するが、中間部材8B及び固定部材9Bの組の構造も同様である。
【0025】
本実施形態の場合、固定部材9Aは部分11に形成した穴11aに係合する部材である。係合態様は、圧入、接着、溶接等、いずれでもよいが、本実施形態では着脱自在にする点でねじ構造としている。固定部材9Aは頭部91とねじ部92とを含むねじ部材であり、穴11aはねじ穴である。
【0026】
穴11aは部分11をD3方向に貫通して壁面7cに開口した貫通穴である。中間部材8Aは円柱形状の部材であり、穴11aを挿通可能な直径を有している。図3(A)に示すように中間部材8Aは、そのフェース部4側の端部が壁面7bに当接し、バック部6側の端部は穴11aにその一部が挿入されている。このような本実施形態の構成は、組み付け性、交換容易性、脱落防止の点で有利である。
【0027】
中間部材8Aを穴11aに挿入後、穴11aに固定部材9Aを螺着する。ねじ部92の先端が中間部材8Aを押し込み、中間部材8Aが壁面7bに当接する。中間部材8Aは壁面7bと固定部材9Aとの間で圧縮されてもよい。
【0028】
以上の通り、本実施形態のゴルフクラブヘッド1によれば、スリット7の形成により打球の打ち出し角を増大でき、かつ、固定部材9によってスリット7の挿入物である中間部材8をスリット7内に保持することができる。
【0029】
なお、本実施形態では、中間部材8と固定部材9の組を二つとしたが、一つでもよいし、三つ以上でもよい。
【0030】
また、中間部材8は固定部材9に接着等により一体化されていてもよい。例えば、ねじ部92の先端面に中間部材8のバック部6側の端面が接着されていてもよい。あるいは、ねじ部92の先端に該先端から突出する楔形の係合部を設け、中間部材8のバック部6側の端部に刺して一体化してもよい。これにより、ヘッドに対する中間部材8及び固定部材9の組み付け性、交換容易性を更に向上できる。
【0031】
中間部材8の弾性変形特性によって、打撃時のフェース部4の後傾度合を制御することができる。例えば、ハードヒッターに対しては変形量の小さい硬い材料が中間部材8に適している。逆に、比較的に非力なゴルファに対しては変形量の大きい軟らかい材料が中間部材8に適している。そこで、中間部材8は複数種類の中間部材の中から選択可能であってもよい。本実施形態では、中間部材8及び固定部材9がヘッドから着脱自在な構成であるため、ゴルファが自分の好みにあった種類の中間部材8を選択することも可能である。また、本実施形態のように、中間部材8及び固定部材9の組が複数組ある場合、中間部材8の種類が異なる組があってもよく、この場合も、中間部材8の種類をゴルファが選択可能であってもよい。
【0032】
また、スリット7にごみが侵入することを防止するため、開口部7aにカバーを設けてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 ゴルフクラブヘッド、2 ヘッド上部、3、ヘッド底部、4 フェース部、7 スリット、8A 中間部材、9A 固定部材
図1
図2
図3
図4