(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、DSC法で得られる結晶化度が20%〜80%である高分子圧電フィルムであって、
長尺形状を有し、
長手方向長さが10m以上であり、
幅方向一端部における前記ヘリカルキラル高分子(A)の分子配向方向Laと、幅方向他端部における前記ヘリカルキラル高分子(A)の分子配向方向Lbと、の平面視角度θ1が、70°〜110°であり、
長手方向と前記分子配向方向Laとの平面視角度θ2が、35°〜55°であり、
長手方向と前記分子配向方向Lbとの平面視角度θ3が、35°〜55°であり、
前記ヘリカルキラル高分子(A)が、ポリ乳酸である高分子圧電フィルム。
マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcが、3.5〜15.0である請求項1又は請求項2に記載の高分子圧電フィルム。
重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、DSC法で得られる結晶化度が20%〜80%である圧電フィルム片であって、
一端部における前記ヘリカルキラル高分子(A)の分子配向方向と、他端部における前記ヘリカルキラル高分子(A)の分子配向方向と、の平面視角度が、70°〜110°であり、
前記ヘリカルキラル高分子(A)が、ポリ乳酸である圧電フィルム片。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「フィルム」は、一般的に「フィルム」と呼ばれているものだけでなく、一般的に「シート」と呼ばれているものをも包含する概念である。
また、本明細書において、「主面」とは、フィルムの全表面のうち端面以外の面、即ち、面積が最も大きい面を指す。以下では、単に「面」というときは、主面を指すものとする。
【0018】
〔高分子圧電フィルム〕
本開示の高分子圧電フィルムは、重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、DSC法で得られる結晶化度が20%〜80%である高分子圧電フィルムであって、長尺形状を有し、長手方向長さが10m以上であり、幅方向一端部における上記ヘリカルキラル高分子(A)の分子配向方向Laと、幅方向他端部における上記ヘリカルキラル高分子(A)の分子配向方向Lbと、の平面視角度θ1が、70°〜110°であり、長手方向と分子配向方向Laとの平面視角度θ2が、35°〜55°であり、長手方向と分子配向方向Lbとの平面視角度θ3が、35°〜55°である高分子圧電フィルムである。
【0019】
本開示の高分子圧電フィルムにおける分子配向方向(即ち、分子配向方向La及び分子配向方向Lb)は、上記ヘリカルキラル高分子(A)が正の複屈折率を有する材料である場合には進相軸を意味し、上記ヘリカルキラル高分子(A)が負の複屈折率を有する材料である場合には遅相軸を意味する。
本開示における分子配向方向は、株式会社フォトニックライティス社製「複屈折評価システム」WPA−100を用いて測定できる。
【0020】
本開示の高分子圧電フィルムにおいて、「平面視角度」とは、高分子圧電フィルムの法線方向から見た場合の角度を意味する。
本開示の高分子圧電フィルムにおいて、「幅方向一端部」とは、高分子圧電フィルムの幅方向の一端を含む、全幅長の25%の領域を意味する。
本開示の高分子圧電フィルムにおいて、「幅方向他端部」とは、高分子圧電フィルムの幅方向の他端を含む、全幅長の25%の領域を意味する。
【0021】
従来の圧電フィルムでは、分子配向方向と圧電フィルムの長手方向とが平行となっていた。このため、従来は、圧電フィルムを原反とし、原反から、圧電素子作製用の圧電フィルム片を採取するためには、原反の長手方向に対して傾斜する方向(例えば、原反の長手方向に対して45°の方向)を長手方向とする圧電フィルム片を採取する必要があった。この理由は、原反の長手方向に対して平行な方向を長手方向とするフィルム片を採取した場合には、採取されたフィルム片が圧電性(例えば、後述の圧電定数d
14)を示さないためである。
上述した事情により、従来の圧電フィルム(原反)から圧電素子作製用の圧電フィルム片を採取する場合、必然的に、原反の幅方向両端部に、圧電フィルム片として採取することができない領域(即ち、廃棄すべき無駄な領域)が生じていた。
以上の理由により、従来の圧電フィルムでは、この圧電フィルムを原反とし、原反から圧電フィルム片を採取する際の歩留まりが低いという問題があった。
【0022】
従来の圧電フィルムに対し、本開示の高分子圧電フィルムでは、分子配向方向La及び分子配向方向Lbが、いずれも圧電フィルムの長手方向に対して平行ではなく、いずれも圧電フィルムの長手方向に対して35°〜55°の角度にて傾斜している。
このため、本開示の高分子圧電フィルムでは、圧電フィルム片を採取するための原反として用いたときに、原反の幅方向両端部において、廃棄すべき無駄な領域を少なくすることができる。
従って、本開示の高分子圧電フィルムでは、圧電フィルム片を採取する際の歩留まり(以下、「材料歩留まり」ともいう)が向上する。
【0023】
また、従来、圧電フィルム片を用いた圧電素子(アクチュエーター、センサー等)を製造する際には、まず、原反としての圧電フィルムから複数の圧電フィルム片を採取し、採取された複数の圧電フィルム片のそれぞれの両面に電極層を設けることにより、複数の積層体(両面に電極層が設けられた圧電フィルム片)を製造していた。次いで、複数の積層体を接着層(例えば、粘着層、硬化層等)を介して重ね合わせることにより、圧電フィルムを製造していた。
しかし、上記従来の圧電素子を製造する方法は、圧電素子を製造するために取り扱う部品(即ち、積層体)の数が多く、また、原反から採取する圧電フィルム片の数も多く、煩雑であった。また、複数の積層体を重ね合わせる際の角度合わせの操作(詳細には、複数の積層体間で、分子配向方向が略平行となるように重ね合わせる操作)も煩雑であった。
【0024】
本開示の高分子圧電フィルムを用いて圧電素子を製造する場合には、本開示の高分子圧電フィルムから、高分子圧電フィルムの幅方向一端部の少なくとも一部及び高分子圧電フィルムの幅方向他端部の少なくとも一部を含む圧電フィルム片を採取し、採取された圧電フィルム片を(必要に応じ、圧電フィルム片に対して電極層及び接着層を形成した後に)曲げ変形させることにより、圧電素子を製造することができる。詳細には、上記圧電フィルム片において、一端部の分子配向方向と、他端部の分子配向方向と、の平面視角度が、70°〜110°となっている。この圧電フィルム片を、その一端部及び他端部の中間点付近を中心として曲げ変形させ、一端部の分子配向方向と他端部の分子配向方向とが略平行となるように重ね合わせることにより、圧電素子を製造することができる。これにより、圧電フィルム片の両面に電極層が設けられた複数の積層体を重ね合わせる従来の方法と比較して、部品(積層体及び圧電フィルム片)の数を減らすことができる。
また、上記圧電フィルム片を用いて圧電素子を製造する場合には、圧電フィルム片の両面に電極層が設けられた複数の積層体を重ね合わせる従来の方法と比較して、原反である圧電フィルムから採取する圧電フィルム片の数も減らすことができる。
更に、上記圧電フィルム片を用いて圧電素子を製造する場合には、圧電フィルム片を、その一端部及び他端部の中間点付近を中心として曲げ変形させることにより、一端部の分子配向方向と他端部の分子配向方向との角度合わせ(即ち、一端部の分子配向方向と他端部の分子配向方向とが略平行となるように重ね合わせること)が容易となる。
以上の理由により、本開示の高分子圧電フィルムを用いることにより、圧電素子を簡易に製造することができる。
【0025】
また、上述のとおり、本開示の高分子圧電フィルムは、圧電フィルム片を採取するための原反として用いたときに、圧電フィルム片を採取する際の歩留まりが向上する。
従って、本開示の高分子圧電フィルムを用いることにより、圧電素子を高歩留まりで製造することができる。
【0026】
本開示の高分子圧電フィルムを用いた圧電素子として、好ましくは、圧電フィルム片の両面に電極層が形成された構造を有する積層体を備え、この積層体が、圧電フィルム片の一端部と圧電フィルム片の他端部とが平面視で重なる方向に曲げ変形されている構造の圧電素子(以下、「圧電素子A」ともいう)である。
この圧電素子Aは、ベンディングアクチュエーター(例えば、
図4、
図6、及び
図7に示すベンディングアクチュエーター120。詳細は後述する。)として好適である。
【0027】
本開示の高分子圧電フィルムは、長尺形状のフィルムである。
本開示の高分子圧電フィルムの長手方向長さは、10m以上である。
上記長手方向長さが10m以上であることにより、高分子圧電フィルムから圧電フィルム片を採取(例えば打ち抜く)作業を、ロールツーロール方式によって連続的に行うことがより容易となる。
【0028】
本開示の高分子圧電フィルムの長手方向長さとしては、15m以上が好ましい。
また、本開示の高分子圧電フィルムの長手方向長さとしては、3000m以下が好ましく、2000m以下がより好ましい。
【0029】
本開示の高分子圧電フィルムの幅方向長さには特に制限はないが、上記幅方向長さは、例えば、60mm〜2000mmとすることができ、150mm〜1000mmが好ましく、200mm〜600mmがより好ましい。
【0030】
本開示の高分子圧電フィルムの膜厚には特に制限はないが、10μm〜400μmが好ましく、10μm〜200μmがより好ましく、10μm〜100μmが更に好ましく、10μm〜80μmが特に好ましい。
【0031】
本開示の高分子圧電フィルムは、二軸延伸フィルムであることが好ましい。
本開示の高分子圧電フィルムは、二軸延伸時のボーイング現象の程度を適切な範囲に制御することによって製造できる。
本開示の高分子圧電フィルムの好ましい製造方法については後述する。
【0032】
本開示の高分子圧電フィルムにおいて、分子配向方向Laと分子配向方向Lbとの平面視角度(θ1)は、前述のとおり70°〜110°であるが、好ましくは80°〜100°であり、より好ましくは85°〜95°である。
本開示の高分子圧電フィルムにおいて、高分子圧電フィルムの長手方向と分子配向方向Laとの平面視角度(θ2)は、前述のとおり35°〜55°であるが、好ましくは40°〜50°であり、より好ましくは42.5°〜47.5°である。
本開示の高分子圧電フィルムにおいて、高分子圧電フィルムの長手方向と分子配向方向Lbとの平面視角度(θ3)は、前述のとおり35°〜55°であるが、好ましくは40°〜50°であり、より好ましくは42.5°〜47.5°である。
θ2とθ3との差(絶対値)は、0°〜10°であることが好ましく、0°〜5°であることがより好ましい
【0033】
本明細書中において、高分子圧電フィルムの長手方向と分子配向方向Laとの平面視角度θ2は、高分子圧電フィルムの長手方向と分子配向方向Laとの平面視角度のうち、小さい方の角度を意味する。例えば、高分子圧電フィルムの長手方向と分子配向方向Laとの平面視角度が45°及び135°である場合には、θ2は45°とする。
高分子圧電フィルムの長手方向と分子配向方向Lbとの平面視角度θ3についても同様である。
【0034】
<一実施形態>
次に、図面を参照しながら、本開示の一実施形態について説明する。しかし、本開示は、以下の一実施形態に限定されることはない。
各図面に共通の要素については、同一の符号を付すことがあり、重複した説明を省略することがある。
【0035】
図1は、本開示の一実施形態に係る高分子圧電フィルム10を概念的に示す概略平面図である。
図2は、高分子圧電フィルム10から採取された圧電フィルム片100を概念的に示す概略斜視図である。
図1及び
図2中の矢印は、それぞれ、高分子圧電フィルム10及び圧電フィルム片100中におけるヘリカルキラル高分子(A)の分子配向方向を示している。
【0036】
図1に示されるように、高分子圧電フィルム10は、MD方向を長手方向とし、TD方向を幅方向とする長尺形状のフィルムである。
高分子圧電フィルム10の長手方向長さ(MD方向の長さ)は、10m以上であり、好ましい範囲は前述のとおりである。
高分子圧電フィルム10の幅方向長さ(TD方向の長さ)の好ましい範囲、及び高分子圧電フィルム10の厚さの好ましい範囲は前述のとおりである。
高分子圧電フィルム10は、重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、DSC法で得られる結晶化度が20%〜80%である高分子圧電フィルムである。
【0037】
ここで、「MD方向」とはフィルムの流れる方向(Machine Direction)を指し、「TD方向」とは、MD方向と直交し、かつ、フィルムの主面と平行な方向(Transverse Direction)を指す(以下、同様である)。
【0038】
高分子圧電フィルム10の幅方向一端部12において、ヘリカルキラル高分子(A)は分子配向方向Laに分子配向している。
また、高分子圧電フィルム10の幅方向他端部14において、ヘリカルキラル高分子(A)は分子配向方向Lbに分子配向している。
高分子圧電フィルム10において、分子配向方向Laと分子配向方向Lbとの平面視角度θ1は、90°である。但し、本開示の高分子圧電フィルムにおけるθ1は、前述のとおり、70°〜110°であればよい。
高分子圧電フィルム10において、分子配向方向Laと長手方向(MD方向)との平面視角度θ2は、45°である。但し、本開示の高分子圧電フィルムにおけるθ2は、前述のとおり、35°〜55°であればよい。
高分子圧電フィルム10において、分子配向方向Lbと長手方向(MD方向)とのなす角度θ3は、45°である。但し、本開示の高分子圧電フィルムにおけるθ3は、前述のとおり、35°〜55°であればよい。
【0039】
図1及び
図2に示されるように、高分子圧電フィルム10を原反とし、高分子圧電フィルム10の幅方向一端部12の一部及び他端部14の一部を含む圧電フィルム片100を採取することができる。
圧電フィルム片100は、矩形状(短冊状)のフィルム片である。
圧電フィルム片100において、圧電フィルム片100の長手方向一端部12Aは、高分子圧電フィルム10の幅方向一端部12の一部である。
また、圧電フィルム片100において、圧電フィルム片100の長手方向他端部14Aは、高分子圧電フィルム10の幅方向他端部14の一部である。
言い換えれば、高分子圧電フィルム10の長手方向と圧電フィルム片100の幅方向とが一致している。
従って、高分子圧電フィルム10から、多数の矩形状(短冊状)の圧電フィルム片100を、無駄なく(即ち、高歩留まりで)採取することができる。つまり、高分子圧電フィルム10から多数の圧電フィルム片100を採取するにあたり、特に高分子圧電フィルム10の幅方向両端部において、廃棄すべき無駄な領域を少なくすることができる。
【0040】
次に、
図3〜
図5を参照し、圧電フィルム片100を用いたベンディングアクチュエーター120について説明する。ベンディングアクチュエーター120は、前述の圧電素子Aの一例である。
図3は、本開示の一実施形態に係るベンディングアクチュエーター120の製造に用いられる積層体110(曲げ変形される前の積層体)を概念的に示す概略斜視図である。
図4は、本開示の一実施形態に係るベンディングアクチュエーター120を概念的に示す概略斜視図である。
図5は、本開示の一実施形態に係るベンディングアクチュエーター120のうち、圧電フィルム片100のみを示す概略斜視図である。
【0041】
ベンディングアクチュエーター120を作製するためには、まず、
図3に示されるように、圧電フィルム片100と、圧電フィルム片100の一方の面の全面に形成された全面電極層102と、圧電フィルム片100の他方の面の全面に形成された全面電極層104と、全面電極層102から見て圧電フィルム片100が配置されている側とは反対側に(即ち、圧電フィルム片100から見て全面電極層102の外側に)配置された接着層106と、を備える積層体110を準備する。
全面電極層102と接着層106との間には、アンカーコーティング層等のその他の層(不図示)が介在していてもよい。接着層106としては、粘着層又は硬化層を用いることができる。
【0042】
次に、
図3に示される積層体110を、接着層106が内側となり、かつ、圧電フィルム片100の一端部12Aと圧電フィルム片100の他端部14Aとが平面視で重なる方向に、曲げ変形させることにより、
図4に示されるベンディングアクチュエーター120を製造する。
図5に示されるように、ベンディングアクチュエーター120中の圧電フィルム片100は、圧電フィルム片100の長手方向の中心線で曲げられ、圧電フィルム片100の長手方向一端部12Aと他端部14Aとが対向している。その結果、一端部12の分子配向方向Laと他端部14の分子配向方向Lbとが略平行となっている。
図2に示すように、曲げ変形させる前の圧電フィルム片100において、分子配向方向Laと分子配向方向Lbとは、長手方向の中心線に対して線対称となっている。このため、長手方向の中心線で圧電フィルム片100を曲げ変形させることにより、分子配向方向Laと分子配向方向Lbとを略平行とすることは容易である(
図5参照)。即ち、圧電フィルム片100を曲げ変形させる上記方法でベンディングアクチュエーター120を製造することにより、上層(他端部14A)及び下層(一端部12A)における分子配向方向の角度合わせが容易となる。
【0043】
次に、
図6及び
図7を参照し、ベンディングアクチュエーター120の動作について説明する。
図6及び
図7は、いずれも、ベンディングアクチュエーター120に交流電圧が印加される様子を示す概略断面図である。
図6は、ベンディングアクチュエーター120において、圧電フィルム片100の一端部12Aと他端部14Aとが離れる方向の力F1が働く時の様子を示しており、
図7は、ベンディングアクチュエーター120において、圧電フィルム片100の一端部12Aと他端部14Aとが近づく方向の力F2が働く時の様子を示している。
【0044】
図6及び
図7に示されるように、ベンディングアクチュエーター120には、外側に位置する全面電極層104と、内側に位置する全面電極層102と、の間に交流電圧が印加される。この交流電圧の印加により、圧電フィルム片100の厚さ方向の電界が生じる。 このとき、圧電フィルム片100の一端部12A及び他端部14Aには、反対方向の(言い換えれば逆位相の)電界が生じる。一方、ベンディングアクチュエーター120において、圧電フィルム片100の一端部12A及び他端部14Aの分子配向方向(分子配向方向La及び分子配向方向Lb)は略平行となっている。
従って、ベンディングアクチュエーター120では、交流電圧が印加されることにより、圧電フィルム片100の一端部12Aと他端部14Aとの間には、反対向きの力(
図6中の力F1及び
図7中の力F2)が交互に発生する。
以上の結果、ベンディングアクチュエーター120では、交流電圧が印加されることにより、圧電フィルム片100の一端部12と他端部14とがベンディング振動する(即ち、ベンディングアクチュエーター120が動作する)。
【0045】
次に、
図8を参照し、既述の本実施形態に係る高分子圧電フィルム10との対比のために、従来の高分子圧電フィルムの一例である比較用高分子圧電フィルム210について説明する。
図8は、比較用高分子圧電フィルム210を概念的に示す概略平面図である。
図8に示されるように、比較用高分子圧電フィルム210では、ヘリカルキラル高分子(A)の分子配向方向が、面内において全て同じ方向(長手方向、即ちMD方向)となっている。即ち、比較用高分子圧電フィルム210では、幅方向一端部212におけるヘリカルキラル高分子(A)の分子配向方向R1と、幅方向他端部214におけるヘリカルキラル高分子(A)の分子配向方向R2と、が平行となっている。
比較用高分子圧電フィルム210から圧電フィルム片を採取する際には、例えば、比較用圧電フィルム片300A及び300Bのように、比較用高分子圧電フィルム210の長手方向に対し交差する方向(例えば、比較用高分子圧電フィルム210の長手方向に対し45°の方向)を長手方向とする圧電フィルム片を採取する必要がある。このように採取しなければ、充分な圧電性(例えば、圧電定数d
14)が得られないためである。このため、比較用高分子圧電フィルム210から圧電フィルム片を採取する際には、廃棄部分220A及び220B等の廃棄すべき部分が生じることになる。
従って、比較用高分子圧電フィルム210から圧電フィルム片を採取する際の歩留まりは、高分子圧電フィルム10から圧電フィルム片100を採取する際の歩留まりと比較して低くなる。
【0046】
また、比較用高分子圧電フィルム210を材料とし、前述のベンディングアクチュエーター120と同様の機能を有するベンディングアクチュエーターを製造する場合には、比較用圧電フィルム片300A及び300Bのように、2枚の圧電フィルム片を採取する必要がある。そして比較用圧電フィルム片300A及び300Bのそれぞれの両面に全面電極層を形成し、両者を互いの分子配向方向が略平行となるように重ね合わせる必要がある。即ち、この場合には、ベンディングアクチュエーターを製造するために、圧電フィルム片の両面に電極層が形成された構造の積層体を2つ準備し、2つの積層体を接着層を介して貼り合わせる必要がある。その理由は、仮に比較用高分子圧電フィルム210から1枚の圧電フィルム片を採取し、本開示の実施形態と同様の手法により、即ち、圧電フィルム片を曲げ変形させることによりベンディングアクチュエーターを製造しようとしても、圧電フィルム片の一端部と他端部との分子配向方向を略平行とすることが困難であるためである。
これに対し、前述のとおり、本開示の実施形態では、高分子圧電フィルム10から採取する圧電フィルム片の数が1枚で済む。
以上のように、比較用高分子圧電フィルム210を材料とし、前述のベンディングアクチュエーター120と同様の機能を有するベンディングアクチュエーターを製造する場合、本開示の実施形態と比較して、部品の数が2倍に増えるため、製造工程が煩雑となる。
更に、2つの積層体の角度合わせの操作も、本開示の実施形態と比較して煩雑である。
【0047】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記一実施形態に限定されるものではない。
より詳細には、高分子圧電フィルム10から採取される圧電フィルム片は、圧電フィルム片100には制限されない。
例えば、高分子圧電フィルム10から、幅方向一端部が高分子圧電フィルム10の幅方向一端部の一部に相当し、幅方向他端部が高分子圧電フィルム10の幅方向他端部に相当する矩形状の圧電フィルム片を採取してもよい。
また、高分子圧電フィルム10から、高分子圧電フィルム10の幅方向一端部及び他端部のいずれか一方を含む矩形状のフィルム片を採取してもよい。
更には、採取する圧電フィルムの形状も矩形状には限定されず、矩形以外の多角形状、楕円形状(円形状を含む)、不定形状であってもよい。
【0048】
また、本開示の高分子圧電フィルムは、ベンディングアクチュエーターの材料としてだけでなく、センサー等のその他の圧電素子の材料としても利用可能である。
【0049】
次に、本開示の高分子圧電フィルム(例えば上述の高分子圧電フィルム10)について更に詳細に説明する。
【0050】
<ヘリカルキラル高分子(A)>
本開示の高分子圧電フィルムは、重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含む。
ここで、「光学活性を有するヘリカルキラル高分子」とは、分子構造が螺旋構造であり分子光学活性を有する高分子を指す。
【0051】
上記ヘリカルキラル高分子(A)としては、例えば、ポリペプチド、セルロース誘導体、ポリ乳酸系高分子、ポリプロピレンオキシド、ポリ(β―ヒドロキシ酪酸)等を挙げることができる。
上記ポリペプチドとしては、例えば、ポリ(グルタル酸γ−ベンジル)、ポリ(グルタル酸γ−メチル)等が挙げられる。
上記セルロース誘導体としては、例えば、酢酸セルロース、シアノエチルセルロース等が挙げられる。
【0052】
上記ヘリカルキラル高分子(A)としては、例えば、ポリペプチド、セルロース誘導体、ポリ乳酸系高分子、ポリプロピレンオキシド、ポリ(β―ヒドロキシ酪酸)等を挙げることができる。
上記ポリペプチドとしては、例えば、ポリ(グルタル酸γ−ベンジル)、ポリ(グルタル酸γ−メチル)等が挙げられる。
上記セルロース誘導体としては、例えば、酢酸セルロース、シアノエチルセルロース等が挙げられる。
【0053】
ヘリカルキラル高分子(A)は、高分子圧電フィルムの圧電性を向上する観点から、光学純度が95.00%ee以上であることが好ましく、96.00%ee以上であることがより好ましく、99.00%ee以上であることがさらに好ましく、99.99%ee以上であることがさらにより好ましい。望ましくは100.00%eeである。ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度を上記範囲とすることで、圧電性を発現する高分子結晶のパッキング性が高くなり、その結果、圧電性が高くなるものと考えられる。
【0054】
ここで、ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度は、下記式にて算出した値である。
光学純度(%ee)=100×|L体量−D体量|/(L体量+D体量)
すなわち、ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度は、
『「ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕との量差(絶対値)」を「ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕との合計量」で割った(除した)数値』に、『100』をかけた(乗じた)値である。
【0055】
なお、ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法により得られる値を用いる。具体的な測定の詳細については後述する。
【0056】
上記ヘリカルキラル高分子(A)としては、光学純度を上げ、圧電性を向上させる観点から、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有する高分子が好ましい。
【0058】
上記式(1)で表される繰り返し単位を主鎖とする高分子としては、ポリ乳酸系高分子が挙げられる。
ここで、ポリ乳酸系高分子とは、「ポリ乳酸(L−乳酸及びD−乳酸から選ばれるモノマー由来の繰り返し単位のみからなる高分子)」、「L−乳酸又はD−乳酸と、該L−乳酸又はD−乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」、又は、両者の混合物をいう。
ポリ乳酸系高分子の中でも、ポリ乳酸が好ましく、L−乳酸のホモポリマー(PLLA)又はD−乳酸のホモポリマー(PDLA)が最も好ましい。
【0059】
ポリ乳酸は、乳酸がエステル結合によって重合し、長く繋がった高分子である。
ポリ乳酸は、ラクチドを経由するラクチド法;溶媒中で乳酸を減圧下加熱し、水を取り除きながら重合させる直接重合法;などによって製造できることが知られている。
ポリ乳酸としては、L−乳酸のホモポリマー、D−乳酸のホモポリマー、L−乳酸及びD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むブロックコポリマー、及び、L−乳酸及びD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むグラフトコポリマーが挙げられる。
【0060】
上記「L−乳酸又はD−乳酸と共重合可能な化合物」としては、グリコール酸、ジメチルグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、3−ヒドロキシカプロン酸、4−ヒドロキシカプロン酸、5−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシメチルカプロン酸、マンデル酸等のヒドロキシカルボン酸;グリコリド、β−メチル−δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等の環状エステル;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テレフタル酸等の多価カルボン酸及びこれらの無水物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、1,4−ヘキサンジメタノール等の多価アルコール;セルロース等の多糖類;α−アミノ酸等のアミノカルボン酸;等を挙げることができる。
【0061】
上記「L−乳酸又はD−乳酸と、該L−乳酸又はD−乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」としては、らせん結晶を生成可能なポリ乳酸シーケンスを有する、ブロックコポリマー又はグラフトコポリマーが挙げられる。
【0062】
また、ヘリカルキラル高分子(A)中におけるコポリマー成分に由来する構造の濃度は20mol%以下であることが好ましい。
例えば、ヘリカルキラル高分子(A)が、ポリ乳酸系高分子である場合、ポリ乳酸系高分子中における、乳酸に由来する構造と、乳酸と共重合可能な化合物(コポリマー成分)に由来する構造と、のモル数の合計に対して、コポリマー成分に由来する構造の濃度が20mol%以下であることが好ましい。
【0063】
ポリ乳酸系高分子は、例えば、特開昭59−096123号公報、及び特開平7−033861号公報に記載されている乳酸を直接脱水縮合して得る方法;米国特許2,668,182号及び4,057,357号等に記載されている乳酸の環状二量体であるラクチドを用いて開環重合させる方法;などにより製造することができる。
【0064】
さらに、上記各製造方法により得られたポリ乳酸系高分子は、光学純度を95.00%ee以上とするために、例えば、ポリ乳酸をラクチド法で製造する場合、晶析操作により光学純度を95.00%ee以上の光学純度に向上させたラクチドを、重合することが好ましい。
【0065】
−重量平均分子量−
ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)は、前述のとおり5万〜100万である。
ヘリカルキラル高分子(A)のMwが5万以上であることにより、高分子圧電フィルムの機械的強度が向上する。上記Mwは、10万以上であることが好ましく、20万以上であることがさらに好ましい。
一方、ヘリカルキラル高分子(A)のMwが100万以下であることにより、成形(例えば押出成形)によって高分子圧電フィルムを得る際の成形性が向上する。上記Mwは、80万以下であることが好ましく、30万以下であることがさらに好ましい。
【0066】
また、ヘリカルキラル高分子(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、高分子圧電フィルムの強度の観点から、1.1〜5であることが好ましく、1.2〜4であることがより好ましい。さらに1.4〜3であることが好ましい。
【0067】
なお、ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、下記GPC測定方法により、測定された値を指す。ここで、Mnは、ヘリカルキラル高分子(A)の数平均分子量である。
【0068】
−GPC測定装置−
Waters社製GPC−100
−カラム−
昭和電工社製、Shodex LF−804
−サンプルの調製−
ヘリカルキラル高分子(A)を40℃で溶媒(例えば、クロロホルム)へ溶解させ、濃度1mg/mLのサンプル溶液を準備する。
−測定条件−
サンプル溶液0.1mlを溶媒〔クロロホルム〕、温度40℃、1ml/分の流速でカラムに導入する。
【0069】
カラムで分離されたサンプル溶液中のサンプル濃度を示差屈折計で測定する。ポリスチレン標準試料にてユニバーサル検量線を作成し、ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を算出する。
【0070】
ヘリカルキラル高分子(A)の例であるポリ乳酸系高分子としては、市販のポリ乳酸を用いることができる。
市販品としては、例えば、PURAC社製のPURASORB(PD、PL)、三井化学社製のLACEA(H−100、H−400)、NatureWorks LLC社製のIngeo
TM biopolymer、等が挙げられる。
ヘリカルキラル高分子(A)としてポリ乳酸系高分子を用いるときに、ポリ乳酸系高分子の重量平均分子量(Mw)を5万以上とするためには、ラクチド法、又は直接重合法によりポリ乳酸系高分子を製造することが好ましい。
【0071】
本開示の高分子圧電フィルムは、上述したヘリカルキラル高分子(A)を、1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
高分子圧電フィルム中におけるヘリカルキラル高分子(A)の含有量(2種以上である場合には総含有量)は、本開示の効果をより効果的に奏する観点からは、高分子圧電フィルムの全量に対し、80質量%以上が好ましい。
【0072】
<安定化剤>
本開示の高分子圧電フィルムは、更に、一分子中に、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200〜60000の安定化剤(B)を含有することが好ましい。これにより、耐湿熱性をより向上させることができる。
【0073】
安定化剤(B)としては、国際公開第2013/054918号パンフレットの段落0039〜0055に記載された「安定化剤(B)」を用いることができる。
【0074】
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にカルボジイミド基を含む化合物(カルボジイミド化合物)としては、モノカルボジイミド化合物、ポリカルボジイミド化合物、環状カルボジイミド化合物が挙げられる。
モノカルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、等が好適である。
また、ポリカルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができる。従来のポリカルボジイミドの製造方法(例えば、米国特許第2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.0rg.Chem.28,2069−2075(1963)、Chemical Review 1981,Vol.81 No.4、p619−621)により、製造されたものを用いることができる。具体的には特許4084953号公報に記載のカルボジイミド化合物を用いることもできる。
ポリカルボジイミド化合物としては、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド、等が挙げられる。
環状カルボジイミド化合物は、特開2011−256337号公報に記載の方法などに基づいて合成することができる。
カルボジイミド化合物としては、市販品を用いてもよく、例えば、東京化成製、B2756(商品名)、日清紡ケミカル社製、カルボジライトLA−1、ラインケミー社製、Stabaxol P、Stabaxol P400、Stabaxol I(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0075】
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)としては、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピル、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、等が挙げられる。
【0076】
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にエポキシ基を含む化合物(エポキシ化合物)としては、フェニルグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン等が挙げられる。
【0077】
安定化剤(B)の重量平均分子量は、上述のとおり200〜60000であるが、200〜30000がより好ましく、300〜18000がさらに好ましい。
分子量が上記範囲内ならば、安定化剤(B)がより移動しやすくなり、耐湿熱性改良効果がより効果的に奏される。
安定化剤(B)の重量平均分子量は、200〜900であることが特に好ましい。なお、重量平均分子量200〜900は、数平均分子量200〜900とほぼ一致する。また、重量平均分子量200〜900の場合、分子量分布が1.0である場合があり、この場合には、「重量平均分子量200〜900」を、単に「分子量200〜900」と言い換えることもできる。
【0078】
高分子圧電フィルムが安定化剤(B)を含有する場合、上記高分子圧電フィルムは、安定化剤を1種のみ含有してもよいし、2種以上含有してもよい。
高分子圧電フィルムが安定化剤(B)を含む場合、安定化剤(B)の含有量は、ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対し、0.01質量部〜10質量部であることが好ましく、0.01質量部〜5質量部であることがより好ましく、0.1質量部〜3質量部であることがさらに好ましく、0.5質量部〜2質量部であることが特に好ましい。
上記含有量が0.01質量部以上であると、耐湿熱性がより向上する。
また、上記含有量が10質量部以下であると、透明性の低下がより抑制される。
【0079】
安定化剤(B)の好ましい態様としては、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を有し、且つ、数平均分子量が200〜900の安定化剤(B1)と、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を1分子内に2以上有し、且つ、重量平均分子量が1000〜60000の安定化剤(B2)とを併用するという態様が挙げられる。なお、数平均分子量が200〜900の安定化剤(B1)の重量平均分子量は、大凡200〜900であり、安定化剤(B1)の数平均分子量と重量平均分子量とはほぼ同じ値となる。
安定化剤として安定化剤(B1)と安定化剤(B2)とを併用する場合、安定化剤(B1)を多く含むことが透明性向上の観点から好ましい。
具体的には、安定化剤(B1)100質量部に対して、安定化剤(B2)が10質量部〜150質量部の範囲であることが、透明性と耐湿熱性の両立という観点から好ましく、50質量部〜100質量部の範囲であることがより好ましい。
【0080】
以下、安定化剤(B)の具体例(安定化剤B−1〜B−3)を示す。
【0082】
以下、上記安定化剤B−1〜B−3について、化合物名、市販品等を示す。
・安定化剤B−1 … 化合物名は、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドである。重量平均分子量(この例では、単なる「分子量」に等しい)は、363である。市販品としては、ラインケミー社製「Stabaxol I」、東京化成社製「B2756」が挙げられる。
・安定化剤B−2 … 化合物名は、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)である。市販品としては、重量平均分子量約2000のものとして、日清紡ケミカル社製「カルボジライトLA−1」が挙げられる。
・安定化剤B−3 … 化合物名は、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド)である。市販品としては、重量平均分子量約3000のものとして、ラインケミー社製「Stabaxol P」が挙げられる。また、重量平均分子量20000のものとして、ラインケミー社製「Stabaxol P400」が挙げられる。
【0083】
<その他の成分>
本開示の高分子圧電フィルムは、必要に応じ、その他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の公知の樹脂;シリカ、ヒドロキシアパタイト、モンモリロナイト等の公知の無機フィラー;フタロシアニン等の公知の結晶核剤;安定化剤(B)以外の安定化剤;等が挙げられる。
無機フィラー及び結晶核剤としては、国際公開第2013/054918号の段落0057〜0058に記載された成分を挙げることもできる。
【0084】
<圧電定数d
14(変位法)>
本開示の高分子圧電フィルムは、圧電定数が大きいこと(好ましくは、25℃において変位法で測定した圧電定数d
14が1.0pm/V以上であること)が好ましい。
ここで、「変位法で測定した圧電定数d
14」とは、32mm×5mmの高分子圧電フィルムの両面に導電層が形成されてなる圧電定数測定用サンプルの一対の導電層間に10Hz、300Vppの正弦波の交流電圧を印加し、このときの変位の最大値と最小値との差分距離を変位量(mp−p)として測定し、測定された変位量(mp−p)を基準長30mmで割った値を歪量とし、この歪量をフィルムに印加した電界強度((印加電圧(V))/(フィルム厚))で割った値に2を乗じた値を指す。
この「変位法で測定した圧電定数d
14」は、例えば、特許4934235号公報の段落0058〜0059に記載の方法によって測定できる。
【0085】
以下、圧電定数d
14(変位法)の測定方法の一例を示す。
まず、高分子圧電フィルムから採取された40mm×40mmの正方形形状の試験片の両面に、蒸着装置(例えば、株式会社昭和真空SIP−600)を用いてアルミニウム(Al)を蒸着することにより、Alの導電層を形成する。
次に、両面にAlの導電層が形成された40mm×40mmの試験片を、高分子圧電フィルムの延伸方向(MD方向)に対して45°なす方向に32mm、45°なす方向に直交する方向に5mmにカットして、32mm×5mmの矩形のフィルムを採取する。これを、圧電定数測定用サンプルとする。得られた圧電定数測定用サンプルに、10Hz、300Vppの正弦波の交流電圧を印加したときの、フィルムの変位の最大値と最小値の差分距離を、キーエンス社製レーザ分光干渉型変位計SI−1000により計測する。計測した変位量(mp−p)を、フィルムの基準長30mmで割った値を歪量とし、この歪量をフィルムに印加した電界強度((印加電圧(V))/(フィルム厚))で割った値に2を乗じた値を圧電定数d
14(pm/V)とする。なお、この計測は25℃の条件下で行う。
【0086】
圧電定数d
14は高ければ高いほど、高分子圧電フィルムに印加される電圧に対する高分子圧電フィルムの変位が大きくなり、また、高分子圧電フィルムに印加される力に対して発生する電圧が大きくなり、高分子圧電フィルムとして有用である。
具体的には、本開示の高分子圧電フィルムの圧電定数d
14(即ち、25℃における変位法で測定した圧電定数d
14)は、1.0pm/V以上であることが好ましく、2.0pm/V以上であることがより好ましく、2.5pm/V以上であることが更に好ましく、3.0pm/V以上であることが更に好ましい。
また、圧電定数d
14の上限は特に限定されないが、透明性などとのバランスの観点からは、15pm/V以下であることが好ましい。
【0087】
<透明性(内部ヘイズ)>
本開示の高分子圧電フィルムは、可視光線に対する内部ヘイズ(以下、単に「内部ヘイズ」ともいう)が10%以下であることが好ましい。
ここで、可視光線に対する内部ヘイズは、高分子圧電フィルムの透明性に関する指標である。
高分子圧電フィルムの内部ヘイズは、透明性及び縦裂強度をより向上させる観点からは、5.0%以下が好ましく、2.0%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。高分子圧電フィルムの前記内部ヘイズの下限値は特に限定はないが、下限値としては、例えば0.01%が挙げられる。
ここで高分子圧電フィルムの内部ヘイズは、高分子圧電フィルムの外表面の形状によるヘイズを除外したヘイズを指す。
高分子圧電フィルムの内部ヘイズは、厚さ0.03mm〜0.05mmの高分子圧電フィルムに対して、JIS−K7105に準拠して、ヘイズ測定機〔(有)東京電色社製、TC−HIII DPK〕を用いて25℃で測定したときの値であり、測定方法の詳細は実施例において詳述する。
【0088】
<規格化分子配向MORc>
本開示の高分子圧電フィルムは、規格化分子配向MORcが3.5〜15.0であることが好ましい。
ここで、規格化分子配向MORcは、ヘリカルキラル高分子(A)の配向の度合いを示す指標である「分子配向度MOR」に基づいて定められる値である。
分子配向度MOR(Molecular Orientation Ratio)は、以下のようなマイクロ波測定法により測定される。
すなわち、高分子圧電フィルム(例えば、フィルム状の高分子圧電フィルム)を、周知のマイクロ波分子配向度測定装置(マイクロ波透過型分子配向計ともいう)のマイクロ波共振導波管中に、マイクロ波の進行方向に高分子圧電フィルムの面(フィルム面)が垂直になるように配置する。そして、振動方向が一方向に偏ったマイクロ波を試料に連続的に照射した状態で、高分子圧電フィルムをマイクロ波の進行方向と垂直な面内で0〜360°回転させて、試料を透過したマイクロ波強度を測定することにより分子配向度MORを求める。
【0089】
規格化分子配向MORcは、基準厚さtcを50μmとしたときの分子配向度MORであって、下記式により求めることができる。
MORc=(tc/t)×(MOR−1)+1
(tc:補正したい基準厚さ、t:高分子圧電フィルムの厚さ)
規格化分子配向MORcは、公知の分子配向計、例えば王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA−2012AやMOA−6000等により、4GHzもしくは12GHz近傍の共振周波数で測定することができる。
【0090】
規格化分子配向MORcは、例えば、高分子圧電フィルムが延伸フィルムである場合には、延伸前の加熱処理条件(加熱温度及び加熱時間)や、延伸条件(延伸温度及び延伸速度)等によって制御されうる。
【0091】
なお、規格化分子配向MORcは、位相差量(レターデーション)をフィルムの厚さで除した複屈折率Δnに変換することもできる。具体的には、レターデーションは大塚電子株式会社製RETS100を用いて測定することができる。またMORcとΔnとは大凡、直線的な比例関係にあり、かつΔnが0の場合、MORcは1になる。
例えば、ヘリカルキラル高分子(A)がポリ乳酸系高分子であり、かつ、高分子圧電フィルムの複屈折率Δnを測定波長550nmで測定した場合、規格化分子配向MORcの好ましい範囲の下限である2.0は、複屈折率Δn 0.005に変換できる。また、後述する、高分子圧電フィルムの規格化分子配向MORcと結晶化度の積の好ましい範囲の下限である40は、高分子圧電フィルムの複屈折率Δnと結晶化度の積が0.1に変換することができる。
【0092】
<結晶化度>
本開示の高分子圧電フィルムの結晶化度は、前述のとおり、20%〜80%である。
ここで、高分子圧電フィルムの結晶化度は、DSC法によって求められるものである。
結晶化度が20%以上であることにより、高分子圧電フィルムの圧電性が高く維持される。結晶化度が80%以下であることにより、高分子圧電フィルムの透明性が高く維持され、また、結晶化度が80%以下であることにより、延伸時に白化や破断がおきにくいので、高分子圧電フィルムを製造しやすい。
従って、高分子圧電フィルムの結晶化度は20%〜80%であるが、上記結晶化度は、好ましくは25%〜70%であり、より好ましくは30%〜50%である。
【0093】
<規格化分子配向MORcと結晶化度との積>
本開示の高分子圧電フィルムにおいて、規格化分子配向MORcと結晶化度との積は、好ましくは40〜700、より好ましくは75〜680、更に好ましくは90〜660、更に好ましくは125〜650、特に好ましくは150〜350である。
上記の積が40〜700の範囲にあれば、高分子圧電フィルムの圧電性と透明性とのバランスが良好であり、かつ寸法安定性も高く、圧電素子として好適に用いることができる。
本開示の高分子圧電フィルムでは、例えば、高分子圧電フィルムを製造する際の結晶化及び延伸の条件を調整することにより、上記の積を上記範囲に調整することができる。
【0094】
以上で説明した本開示の高分子圧電フィルムは、上述したとおり、圧電フィルム片を採取するための原反(材料)として用いられることが好ましい。
切り出された圧電フィルム片は、その少なくとも一方の面の側に電極層が配置され、電極層と圧電フィルム片とを備える積層体の状態で用いられることが好ましい。
上記圧電フィルム片及び上記積層体は、圧電素子の構成部品として用いられることが好ましい。
【0095】
圧電フィルム片、積層体、及び圧電素子については特に制限はなく、例えば、国際公開第2013/054918号の記載を適宜参照することができる。
【0096】
<高分子圧電フィルムの好ましい製造方法>
次に、本開示の高分子圧電フィルムの好ましい製造方法である、製法Aについて説明する。
製法Aは、
ヘリカルキラル高分子(A)を含む長尺形状の未延伸フィルムを準備する工程(以下、「準備工程」ともいう)と、
上記長尺形状の未延伸フィルムに対し、フィルムの幅方向両端部の温度であるTe1からフィルムの幅方向中央部の温度であるTc1を差し引いた差が3℃〜15℃であり、Te1からヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移温度であるTgを差し引いた差が10℃〜40℃であり、縦延伸倍率が2.0倍〜5.0倍であり、横延伸倍率が2.0倍〜5.0倍である条件の同時二軸延伸を施すことにより、二軸延伸フィルムを得る工程(以下、「延伸工程」ともいう)と、
二軸延伸フィルムに対し、80℃〜160℃の温度の熱処理を施すことにより、前記高分子圧電フィルムを得る工程(以下、「熱処理工程」ともいう)と、
を含む。
製法Aは、必要に応じ、その他の工程を含んでいてもよい。
【0097】
製法Aでは、上記条件を満足する同時二軸延伸により、ボーイング現象の程度(即ち、ボーイング量)を適切な範囲に制御することができる。ボーイング量を適切な範囲に制御することにより、θ1が70°〜110°であり、θ2が35°〜55°であり、θ3が35°〜55°である、本開示の高分子圧電フィルムを製造することができる。
【0098】
(準備工程)
製法Aは、ヘリカルキラル高分子(A)を含む長尺形状の未延伸フィルムを準備する準備工程を含む。
【0099】
未延伸フィルムは、非晶状態のフィルムであってもよいし、予備結晶化されたフィルム(以下、「予備結晶化フィルム」ともいう)であってもよい。
ここで、非晶状態のフィルムとは、結晶化度が3%未満であるフィルムをいう。
また、予備結晶化フィルムとは、結晶化度が3%以上(好ましくは3%〜70%)であるフィルムを指す。
また、結晶化度は、既述の本開示の高分子圧電フィルムの結晶化度と同様の方法によって測定される値を指す。
【0100】
未延伸フィルムの厚さは、最終的に得られる高分子圧電フィルムの厚みと延伸倍率によって主に決められるが、好ましくは50μm〜1000μmであり、より好ましくは200μm〜800μm程度である。
準備工程は、予め製造された未延伸フィルムを単に準備する工程であってもよいし、未延伸フィルムを製造する工程であってもよい。
【0101】
未延伸フィルムの製造は、例えば、ヘリカルキラル高分子(A)単体又はヘリカルキラル高分子(A)を含む組成物を、ヘリカルキラル高分子(A)の融点Tm(℃)以上の温度に加熱し、次いでフィルム形状に成形することにより行うことができる。
成形は、押し出し成形などの公知の手法にて行うことができる。
未延伸フィルムを製造する方法としては、例えば、国際公開第2013/054918号の段落0065〜0080に記載の予備結晶化フィルムの製造方法を参照してもよい。
【0102】
未延伸フィルムとしての予備結晶化フィルムは、押し出し直後の非晶状態のフィルムを、以下の範囲の温度Tにて保持することによって得ることができる。
温度Tでの保持時間は、5秒〜60分が好ましく、10秒〜30分がより好ましい。
Tg−40℃≦T≦Tg+40℃
(Tgは、ヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移温度を表す)
【0103】
(延伸工程)
製法Aは、長尺形状の未延伸フィルムに対し、フィルムの幅方向両端部の温度であるTe1からフィルムの幅方向中央部の温度であるTc1を差し引いた差(以下、「差〔Te1−Tc1〕」ともいう)が3℃〜15℃であり、Te1からヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移温度であるTgを差し引いた差(以下、「差〔Te1−Tg〕」ともいう)が10℃〜40℃であり、縦延伸倍率が2.0倍〜5.0倍であり、横延伸倍率が2.0倍〜5.0倍である条件を満足する同時二軸延伸を施すことにより、二軸延伸フィルムを得る延伸工程を含む。
【0104】
同時二軸延伸において、差〔Te1−Tc1〕は、3℃〜15℃である。
差〔Te1−Tc1〕が3℃以上であると、幅方向両端部の延伸変形量が幅方向中央部の延伸変形量と比較して大きくなり、その結果、適度なボーイング量が得られ易い。このため、差〔Te1−Tc1〕が3℃以上であると、θ2が35°〜55°であり、θ3が35°〜55°である本開示の高分子圧電フィルムを製造し易い。上記効果をより効果的に得る観点から、差〔Te1−Tc1〕は、5℃以上であることが好ましい。
差〔Te1−Tc1〕が15℃以下であると、幅方向両端部の延伸変形量が過剰となることを抑制でき、その結果、フィルム全体でのボーイング量が過剰となることを抑制できる。このため、差〔Te1−Tc1〕が15℃以下であると、θ2及びθ3の各々が35°未満となることを抑制できる。上記効果をより効果的に得る観点から、差〔Te1−Tc1〕は、10℃以下であることが好ましい。
【0105】
同時二軸延伸において、差〔Te1−Tg〕は、10℃〜40℃である条件である。
差〔Te1−Tg〕が10℃以上であると、幅方向両端部の延伸変形量をある程度大きくすることができるので、適度なボーイング量が得られ易い。このため、差〔Te1−Tg〕が10℃以上であると、θ2が35°〜55°であり、θ3が35°〜55°である本開示の高分子圧電フィルムを製造し易い。
差〔Te1−Tg〕が40℃以下であると、幅方向両端部の延伸変形量が過剰となることを抑制できるので、θ2及びθ3の各々が35°未満となることを抑制できる。上記効果をより効果的に得る観点から、差〔Te1−Tg〕は、35℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましい。
【0106】
また、Te1としては、60℃〜100℃も好ましく、70℃〜95℃も好ましく、75℃〜90℃も好ましい。
【0107】
また、同時二軸延伸において、フィルムの幅方向中央部の温度であるTc1からヘリカルキラル高分子(A)のガラス転位温度であるTgを差し引いた差(以下、「差〔Tc1−Tg〕」ともいう)には特に制限はないが、差〔Tc1−Tg〕は、5℃〜35℃であることが好ましく、10℃〜30℃であることがより好ましい。
【0108】
Te1(フィルムの幅方向両端部の温度)は、フィルムの幅方向一端を含む幅方向長さ50mmの領域(以下、「領域A」とする)及びフィルムの幅方向他端を含む幅方向長さ50mmの領域(以下、「領域B」とする)における、10点の温度の平均値を意味する。
Tc1(フィルムの幅方向中央部の温度)は、領域A及び領域Bを除いた領域における、10点の温度の平均値を意味する。
フィルムの温度は、非接触赤外温度計(例えば、キーエンス社製の非接触赤外温度計)を用いて測定することができる。
【0109】
同時二軸延伸において、縦延伸倍率は2.0倍〜5.0倍である。この範囲で、ボーイング量が適切な範囲に調整され得る。縦延伸倍率は2.5倍〜4.5倍が好ましく、3.0倍〜4.0倍がより好ましい。
ここで、縦延伸倍率とは、フィルムの長手方向の延伸倍率(即ち、MD方向の延伸倍率)を意味する。
【0110】
同時二軸延伸において横延伸倍率は2.0倍〜5.0倍である。この範囲で、ボーイング量が適切な範囲に調整され得る。
横延伸倍率は2.5倍〜4.5倍が好ましく、3.0倍〜4.0倍がより好ましい。
ここで、横延伸倍率とは、フィルムの幅方向の延伸倍率(即ち、TD方向の延伸倍率)を意味する。
【0111】
(熱処理工程)
製法Aは、二軸延伸フィルムに対し、80℃〜160℃の温度の熱処理を施すことにより、本開示の高分子圧電フィルムを得る熱処理工程を含む。
上記熱処理により、二軸延伸フィルムの結晶化を進行させることができる。これにより、結晶化度が20%〜80%である本開示の高分子圧電フィルムが得られる。
熱処理の温度は、100℃〜155℃が好ましい。
【0112】
熱処理の時間は、1秒〜5分であることが好ましく、5秒〜3分であることがより好ましく、10秒〜2分であることがさらに好ましい。熱処理の時間が5分以下であると生産性に優れる。一方、熱処理の時間が1秒以上であると、フィルムの結晶化度をより向上させることができる。
【0113】
熱処理は、同時二軸延伸によって得られた二軸延伸フィルムに対し、同時二軸延伸時における縦延伸倍率及び横延伸倍率の少なくとも一方を例えば5%〜30%(好ましくは5%〜20%)縮小させた状態で行うことが好ましい。
一般に、熱処理では、二軸延伸フィルムの結晶化が進行することにより、二軸延伸フィルムの体積変化が起こり、その結果、分子配向方向La及び分子配向方向Lbが変化する。
そこで、同時二軸延伸によって得られた二軸延伸フィルムに対し、同時二軸延伸時における縦延伸倍率及び横延伸倍率の少なくとも一方を5%〜30%(好ましくは5%〜20%)縮小させた状態で熱処理を行うことにより、θ1、θ2、及びθ3の各々を上述した範囲により調整しやすくなる。
【0114】
同時二軸延伸工程及び熱処理工程は、好ましくは、同時二軸延伸テンタを用いて行う。
同時二軸延伸テンタの構造としては、
同時二軸延伸テンタ内の複数の領域を、それぞれ独立に温度調節できる構造、
同時二軸延伸テンタ内が複数の区域にわけられ、各区域を、それぞれ独立に温度調節できる構造、
等が挙げられる。
【0115】
上記差〔Te1−Tc1〕が3℃〜15℃であることを満足させる具体的な方法には特に制限はないが、
フィルム両端に相当する部分のみ加熱されるロール又はドラムを用いてフィルム両端部を加熱し、かつ、フィルム中央部をヒーターで加熱する方法;
フィルムの両端部にはめ込む構造のヒーターを用いてフィルム両端部を加熱し、かつ、フィルム中央部をヒーターで加熱する方法;
等が挙げられる。
【0116】
同時二軸延伸テンタにおけるクリップの駆動方式としては、パンタグラフ駆動方式、スクリュー駆動方式、リニアモーター駆動方式、などが挙げられる。
特に、クリップの駆動方式がリニアモーター駆動方式である同時二軸延伸テンタは、生産性が高く、延伸条件の自由度も高いため、製法Aの実施にあたり、極めて有効である。
【0117】
〔圧電フィルム片〕
本開示の圧電フィルム片は、重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、DSC法で得られる結晶化度が20%〜80%である圧電フィルム片であって、一端部におけるヘリカルキラル高分子(A)の分子配向方向と、他端部におけるヘリカルキラル高分子(A)の分子配向方向と、の平面視角度が、70°〜110°である。
【0118】
本開示の圧電フィルム片の一例としては、前述した圧電フィルム片100が挙げられる。
本開示の圧電フィルム片の材質及び物性(結晶化度等)は、本開示の高分子圧電フィルムと同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0119】
本開示の圧電フィルム片の平面視における形状としては、本開示の高分子圧電フィルムから採取される際の歩留まり(即ち、材料歩留まり)の点から、矩形状が好ましく、長方形状がより好ましい。
本開示の圧電フィルム片は、圧電フィルム片の長手方向一端部におけるヘリカルキラル高分子(A)の分子配向方向と、圧電フィルム片の長手方向他端部におけるヘリカルキラル高分子(A)の分子配向方向と、の平面視角度が、70°〜110°であることが好ましい。
【0120】
<圧電フィルム片の好ましい製造方法>
次に、本開示の圧電フィルム片の好ましい製造方法である、製法Xについて説明する。
製法Xは、
本開示の高分子圧電フィルムを準備する工程と、
高分子圧電フィルムから、高分子圧電フィルムの幅方向一端部の少なくとも一部と幅方向他端部の少なくとも一部とを含む圧電フィルム片を採取する工程と、
を含む。
【0121】
本開示の高分子圧電フィルムを準備する工程は、予め用意された高分子圧電フィルムを単に準備するだけの工程であってもよいし、高分子圧電フィルムを製造する工程であってもよい。
高分子圧電フィルムを製造する工程としては、前述の製法A(本開示の高分子圧電フィルムの好ましい製造方法)によって高分子圧電フィルムを製造する工程が好ましい。
【0122】
採取される圧電フィルム片は、長方形状の圧電フィルム片であることが好ましい。
この場合、採取される長方形状の圧電フィルム片の長手方向一端部が、高分子圧電フィルムの幅方向一端部の少なくとも一部に対応し、かつ、採取される長方形状の圧電フィルム片の長手方向他端部が、高分子圧電フィルムの幅方向他端部の少なくとも一部に対応する配置で、長方形状の圧電フィルム片を採取することが好ましい。
【0123】
高分子圧電フィルムからの圧電フィルム片の採取は、打ち抜き、切り出し、等の公知の方法によって行うことができる。
【0124】
〔積層体〕
本開示の積層体は、上述した本開示の圧電フィルム片と、この圧電フィルム片の少なくとも一方(好ましくは両方)の面の側に配置された電極層と、を備える。
本開示の積層体は、積層体は、必要に応じ、その他の部材を備えていてもよい。
本開示の積層体は、圧電素子として機能し得る。
本開示の積層体の一例としては、前述した積層体110が挙げられる(
図3)。
【0125】
<電極層>
本開示の積層体は、一方の面の側のみに電極層を備えていてもよいし、両方の面の側に電極層を備えていてもよい。
また、本開示の積層体は、一方の面の側につき、電極層を2層以上備えていてもよい。
【0126】
また、電極層は、圧電フィルム片に接して設けられていてもよいし、圧電フィルム片との間に、公知のアンカーコーティング層等の他の層を介して設けられていてもよい。
また、電極層が、圧電フィルム片に接して設けられる場合、圧電フィルム片の電極層との接触面には、コロナ放電処理、フレーム処理、オゾン処理等の表面活性化処理が施されていてもよい。
【0127】
上記電極層は、圧電フィルム片の全面(即ち、面全体)に形成された全面電極層であることが好ましい。更に、全面電極層は、圧電フィルム片の両面の全体にそれぞれ形成されることが好ましい。
即ち、本開示の積層体の好ましい態様は、上述した第1態様又は第2態様に係る圧電フィルム片と、この圧電フィルム片の両面の全面にそれぞれ形成された一対の全面電極層と、を備える態様である。
上記好ましい態様の積層体は、更に、上記圧電フィルム片から見て前記一対の全面電極層の少なくとも一方の外側に配置された接着層を備えることがより好ましい。
接着層を備える態様の積層体としては、上述した積層体110(
図3)が挙げられる。
【0128】
上記電極層(例えば上記全面電極層。以下同じ。)の材質には特に制限はないが、例えば、Al、Ag、Au、Cu、Ag−Pd合金、ITO、ZnO、IZO(登録商標)、導電性ポリマー等が挙げられる。
電極層には、上記材質が1種のみ含まれていても、2種以上含まれていてもよい。
電極層には、電極層としての導電性を維持できる範囲でれば、上記材質以外にも、導電性を有しない成分(バインダー成分等)が含まれていてもよい。
【0129】
電極層は、透明性を有することが好ましい。
具体的には、電極層は、可視光線に対する内部ヘイズが、50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることが更に好ましく、20%以下であることが特に好ましい。
透明性の観点からは、電極層の材質は、ITO、ZnO、IZO(登録商標)、導電性ポリマー等が好ましい。
【0130】
電極層の厚さには特に制限はないが、10nm〜1000nmが好ましく、30nm〜600nmがより好ましく、50nm〜300nmが特に好ましい。
厚さが10nm以上であると、導電性をより高くすることができる。
また、厚さが1000nm以下であると、積層体全体としての圧電性がより高く維持される。
【0131】
電極層は、蒸着、スパッタリング、塗布形成(必要に応じ更に乾燥や焼成を含む)等、公知の方法によって形成することができる。
【0132】
<接着層>
本開示の積層体は、電極層から見て、圧電フィルム片が配置されている側とは反対側に配置された接着層を備えることが好ましい。
本開示の積層体において、電極層が、圧電フィルム片の両方の面の側に配置されている場合には、接着層は、少なくとも一方の電極層の側に設けられていればよい。
接着層は、電極層に接して設けられていてもよいし、電極層との間に、公知のアンカーコーティング層等の他の層を介して設けられていてもよい。
また、接着層が、電極層に接して設けられる場合、電極層の接着層との接触面には、コロナ放電処理、フレーム処理、オゾン処理等の表面活性化処理が施されていてもよい。
【0133】
上記接着層において、「接着」とは広義の接着を意味し、「接着」の概念には、粘着も含まれるものとする。
上記接着層としては、粘着層、硬化層等が挙げられる。
【0134】
接着層の膜厚は特に限定されるものではないが、上記膜厚は、例えば0.01μm〜10μmとすることができる。
【0135】
(粘着層)
粘着層としては、例えば、両面をセパレータでラミネートしてある両面テープ(OCA;Optical Clear Adhensive)の粘着層を用いることができる。
また、上記粘着層は、溶剤系、無溶剤系、水系などの粘着コート液、UV硬化型OCR(Optical Clear Resin)、ホットメルト接着剤、などを用いて形成することもできる。
【0136】
OCAとしては、光学用透明粘着シートLUCIACSシリーズ(日東電工株式会社製)や高透明両面テープ5400Aシリーズ(積水化学工業株式会社製)、光学粘着シートOpteriaシリーズ(リンテック株式会社製)、高透明性接着剤転写テープシリーズ(住友スリーエム株式会社製)、SANCUARYシリーズ(株式会社サンエー化研製)などが挙げられる。
【0137】
粘着コート液としては、SKダインシリーズ(綜研化学株式会社製)、ファインタックシリーズ(DIC株式会社製)、ボンコートシリーズ、LKGシリーズ(藤倉化成株式会社製)、コーポニールシリーズ(日本合成化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0138】
粘着層としては、高分子圧電フィルムの加熱を防ぐ観点から、OCAの粘着層、OCRを用いて形成された粘着層、高分子圧電フィルム以外の部材に粘着コート液を塗布して形成した粘着層、高分子圧電フィルム以外の部材にホットメルト接着剤を使用して形成した粘着層が好ましい。
【0139】
(硬化層)
硬化層の材料としては、特に限定されるものではないが、例えばアクリル系化合物、メタクリル系化合物、ビニル系化合物、アリル系化合物、ウレタン系化合物、エポキシ系化合物、エポキシド系化合物、グリシジル系化合物、オキセタン系化合物、メラミン系化合物、セルロース系化合物、エステル系化合物、シラン系化合物、シリコーン系化合物、シロキサン系化合物、シリカ−アクリルハイブリット化合物、及びシリカ−エポキシハイブリット化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の材料(硬化性樹脂)を含むことが好ましい。
これらの中でも、アクリル系化合物、エポキシ系化合物、シラン系化合物がより好ましい。
【0140】
硬化層に含まれる材料としては、上記硬化性樹脂の中でも、活性エネルギー線(紫外線、電子線、放射線等)照射により硬化された活性エネルギー線硬化性樹脂が好ましい。
また硬化層にはその目的に応じて屈折率調整剤や紫外線吸収剤、レベリング剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤などの各種有機物、無機物を添加することもできる。
【0141】
硬化層を形成する方法としては、従来一般的に用いられていた公知の方法が適宜使用できるが、例えばウェットコート法が挙げられる。例えば、硬化層を形成するための材料(硬化性樹脂、添加剤等)が分散または溶解されたコート液を塗布することで、硬化層が形成される。
さらに必要に応じて、上記の通り塗布された前記材料(硬化性樹脂等)に対して熱や活性エネルギー線(紫外線、電子線、放射線等)照射により硬化性樹脂を硬化させる。
【0142】
尚、硬化層に含まれる材料としては、上記硬化性樹脂の中でも、活性エネルギー線(紫外線、電子線、放射線等)照射により硬化された活性エネルギー線硬化性樹脂が好ましい。活性エネルギー線硬化性樹脂を含むことで、製造効率が向上し、また硬化樹脂層の形成によって生じる高分子圧電フィルムの性能低下をより抑制することができる。
【0143】
また、上記硬化性樹脂層は、架橋密度を高める観点から、三次元架橋構造を有する三次元架橋樹脂を含むことが好ましい。
三次元架橋構造を有する硬化物を作製する手段としては、硬化性樹脂として重合性官能基を3つ以上有するモノマー(3官能以上のモノマー)を用いる方法、重合性官能基を3つ以上有する架橋剤(3官能以上の架橋剤)を用いる方法等が挙げられ、また架橋剤として有機過酸化物などの架橋剤を用いる方法も挙げられる。尚、これらの手段を複数組み合わせて用いてもよい。
【0144】
3官能以上のモノマーとしては、例えば、1分子中に3つ以上の(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル化合物や、1分子中に3つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物等が挙げられる。
【0145】
本明細書中において、「(メタ)アクリル基」とは、アクリル基及びメタクリル基の少なくとも一方を表す。
また、「1分子中に3つ以上の(メタ)アクリル基を有する」とは、1分子中にアクリル基及びメタクリル基の少なくとも一方を有し、かつ、1分子中におけるアクリル基及びメタクリル基の総数が3つ以上であることを指す。
【0146】
ここで、硬化層に含まれる材料が三次元架橋構造を有する硬化物であるか否かを確認する方法としては、ゲル分率を測定する方法が挙げられる。
具体的には、硬化層を溶剤に24時間浸漬した後の不溶分からゲル分率を導くことができる。特に溶剤が水などの親水性の溶媒でも、トルエンのような新油性の溶媒でも、ゲル分率が一定以上のものが三次元架橋構造を有すると推定することができる。
【0147】
〔圧電素子〕
本開示の圧電素子は、上述した本開示の圧電フィルム片、又は、上述した積層体を含む。
本開示の圧電素子の特に好ましい態様は、上述した本開示の積層体であって接着層を備える態様の積層体を備え、かつ、この積層体は、接着層が内側となり、かつ、圧電フィルム片の上記一端部と圧電フィルム片の上記他端部とが平面視で重なるように曲げ変形されている態様である。
かかる好ましい態様の一例として、上述したベンディングアクチュエーター120が挙げられる。
本開示の圧電素子の詳細(変形例、バリエーション等)については、「高分子圧電フィルム」の項で説明したとおりである。
【実施例】
【0148】
以下、本開示を実施例により更に具体的に説明するが、本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0149】
〔実施例1〕
<高分子圧電フィルムの作製>
原料として、ヘリカルキラル高分子(A)の一例である、NatureWorks LLC社製のポリ乳酸(品名:Ingeo
TM biopolymer、銘柄:4032D、重量平均分子量Mw:20万、融点(Tm):166℃、ガラス転移温度(Tg):57℃〜60℃)を準備した。
準備した原料を押出成形機ホッパーに入れて、220℃〜230℃に加熱しながらTダイから押し出し、55℃のキャストロールに0.5分間接触させることにより、未延伸フィルムとして、長尺形状の厚さ150μmの予備結晶化フィルムを製膜した。予備結晶化フィルムの結晶化度を測定したところ5.63%であった。
【0150】
上記予備結晶化フィルムに対し、リニアモーター駆動の同時二軸延伸テンタを用い、同時二軸延伸及び熱処理を施した。以下、詳細を説明する。
【0151】
本実施例の同時二軸延伸テンタは、MD方向に対して平行な2列のガイドレールを備え、これら2列のガイドレールに沿って設けられた2列のクリップ群を備える。2列のクリップ群により、フィルムの幅方向両端部が把持される。
2列のクリップ群における各クリップは、リニアモーター駆動によってガイドレールに沿って移動できる。これにより、MD方向のクリップ間隔を、リニアモーター駆動によって変更(即ち、拡大又は縮小)できる。
一方、2列のガイドレールの間隔も、リニアモーター駆動によって変更できる。2列のガイドレールの間隔をリニアモーター駆動によって変更することにより、TD方向のクリップ間隔を変更できる。
また、本実施例の同時二軸延伸テンタは、MD方向の上流側から順に、同時二軸延伸を行うための延伸ゾーン、及び、熱処理を行うための熱処理ゾーンを備えている。
延伸ゾーンでは、フィルムの幅方向両端部及びフィルムの幅方向中央部に対し、それぞれ独立した、加温及び温度調節を行えるようになっている。延伸ゾーンでは、MD方向のクリップ間隔及びTD方向のクリップ間隔を拡大することにより、所望とする縦延伸倍率及び横延伸倍率による同時二軸延伸を行うことができる。
熱処理ゾーンでは、延伸ゾーンとは独立した加温及び温度調節を行えるようになっている。熱処理ゾーンでは、MD方向のクリップ間隔及びTD方向のクリップ間隔を縮小することにより、同時二軸延伸時の縦延伸倍率及び横延伸倍率の各々を縮小できる。
【0152】
上記予備結晶化フィルムを上記同時二軸延伸テンタに供給し、予備結晶化フィルムの幅方向両端部を、2列のクリップ群によって把持した。
次に、予備結晶化フィルムに対し、フィルムの幅方向両端部の温度であるTe1が85℃であり、フィルムの幅方向中央部の温度であるTc1が80℃であり、長手方向(MD方向)の延伸倍率(即ち、縦延伸倍率)が3.5倍であり、幅方向(TD方向)の収縮率(即ち、横延伸倍率)が3.5倍である条件の同時二軸延伸を施した。上記縦延伸倍率及び上記横延伸倍率の同時二軸延伸は、MD方向のクリップ間隔及びTD方向のクリップ間隔を拡大することにより行った。
次に、上記同時二軸延伸後の二軸延伸フィルムに対し、縦延伸倍率を10%縮小させ、かつ、横延伸倍率を15%縮小させた状態で、110℃、5秒間の条件の熱処理を施すことにより、厚さ16μm、長手方向長さ50m、全幅長(幅方向長さ)200mmの長尺形状の高分子圧電フィルムを得た。縦延伸倍率及び横延伸倍率の縮小は、MD方向のクリップ間隔及びTD方向のクリップ間隔を縮小することにより行った。
【0153】
<測定及び評価>
上記で得られた高分子圧電フィルムについて、以下の測定及び評価を行った。
【0154】
(ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量及び分子量分布)
ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、下記GPC測定方法により、上記高分子圧電フィルムに含まれるヘリカルキラル高分子(A)(ポリ乳酸)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
結果を表1に示す。
【0155】
−GPC測定方法−
・測定装置
Waters社製GPC−100
・カラム
昭和電工社製、Shodex LF−804
・サンプル溶液の調製
上記高分子圧電フィルムを採取したサンプルを溶媒〔クロロホルム〕に溶解させ、濃度1mg/mLのサンプル溶液を準備した。
・測定条件
サンプル溶液0.1mLを溶媒(クロロホルム)、温度40℃、1mL/分の流速でカラムに導入し、カラムで分離されたサンプル溶液中のサンプル濃度を示差屈折計で測定した。ポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン標準試料に基づいて作成したユニバーサル検量線に基づき、算出した。
【0156】
(ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度)
上記高分子圧電フィルムに含まれるヘリカルキラル高分子(A)(ポリ乳酸)の光学純度を、以下のようにして測定した。
【0157】
まず、50mLの三角フラスコに、上記高分子圧電フィルムから採取した1.0gのサンプルを入れ、ここに、IPA(イソプロピルアルコール)2.5mL及び5.0mol/L水酸化ナトリウム溶液5mLを加え、サンプル溶液とした。
次に、このサンプル溶液が入った三角フラスコを温度40℃の水浴に入れ、ポリ乳酸が完全に加水分解するまで、約5時間攪拌した。
上記約5時間の撹拌後のサンプル溶液を室温まで冷却した後、1.0mol/L塩酸溶液を20mL加えて中和し、三角フラスコを密栓してよくかき混ぜた。
次に、上記でかき混ぜたサンプル溶液の1.0mLを25mLのメスフラスコに取り分け、ここに下記組成の移動相を加え、25mLのHPLC試料溶液1を得た。
得られたHPLC試料溶液1をHPLC装置に5μL注入し、下記HPLC測定条件にてHPLC測定を行った。得られた測定結果から、ポリ乳酸のD体に由来するピークの面積とポリ乳酸のL体に由来するピークの面積とを求め、L体の量とD体の量とを算出した。
得られた結果に基づき、光学純度(%ee)を求めた。
結果を表1に示す。
【0158】
−HPLC測定条件−
・カラム
光学分割カラム、(株)住化分析センター製 SUMICHIRAL OA5000
・HPLC装置
日本分光社製 液体クロマトグラフィ
・カラム温度
25℃
・移動相の組成
1.0mM−硫酸銅(II)緩衝液/IPA=98/2(V/V)
(この移動相において、硫酸銅(II)、IPA、及び水の比率は、硫酸銅(II)/IPA/水=156.4mg/20mL/980mLである。)
・移動相流量
1.0mL/分
・検出器
紫外線検出器(UV254nm)
【0159】
(結晶化度)
上記高分子圧電フィルムから10mgのサンプルを採取し、採取されたサンプルについて、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC−1)を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、融解吸熱曲線を得た。得られた融解吸熱曲線から、上記高分子圧電フィルムの結晶化度を求めた。
結果を表1に示す。
【0160】
(内部ヘイズ)
以下の方法により、高分子圧電フィルムの内部ヘイズ(H1)を測定した。
結果を表1に示す。
まず、ガラス板2枚の間に、シリコンオイル(信越化学工業株式会社製信越シリコーン(商標)、型番:KF96−100CS)のみを挟んだ積層体1を準備し、この積層体1の厚さ方向のヘイズ(以下、ヘイズ(H2)とする)を測定した。
次に、上記高分子圧電フィルムから採取したサンプルの表面をシリコンオイルで均一に濡らし、次いでこのサンプルを上記のガラス板2枚の間に挟むことにより、積層体2を準備し、この積層体2の厚さ方向のヘイズ(以下、ヘイズ(H3)とする)を測定した。
次に、下記式のようにこれらの差をとることにより、高分子圧電フィルムの内部ヘイズ(H1)を得た。
内部ヘイズ(H1)=ヘイズ(H3)−ヘイズ(H2)
【0161】
ここで、ヘイズ(H2)及びヘイズ(H3)の測定は、それぞれ、下記測定条件下で下記装置を用いて行った。
測定装置:東京電色社製、HAZE METER TC−HIIIDPK
試料サイズ:幅30mm×長さ30mm
測定条件:JIS−K7105に準拠
測定温度:室温(25℃)
【0162】
(規格化分子配向MORc)
上記高分子圧電フィルムの幅方向一端部(幅方向一端を含む幅方向長さ50mmの領域。)から50mm(高分子圧電フィルムの長手方向)×30mm(高分子圧電フィルムの幅方向)のサイズのサンプルを採取し、採取したサンプルについて、王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA6000を用いて規格化分子配向MORcを測定した。基準厚さtcは、50μmに設定した。
結果を表1に示す。
【0163】
(MORcと結晶化度との積)
上記高分子圧電フィルムにおける、規格化分子配向MORcと結晶化度との積を算出した。
結果を表1に示す。
【0164】
(圧電定数d
14)
上記高分子圧電フィルムの幅方向一端部(幅方向一端を含む幅方向長さ50mmの領域。以下同じ。)から40mm×40mmのサイズのサンプルを採取し、採取したサンプルを用い、前述した変位法(25℃)による圧電定数d
14の測定方法の一例に従い、圧電定数d
14を測定した。
結果を表1に示す。
【0165】
(分子配向方向Laと高分子圧電フィルムの長手方向との平面視角度θ2)
株式会社フォトニックライティス社製「複屈折評価システム」WPA−100を用い、上記高分子圧電フィルムの幅方向一端部(詳細には、幅方向一端を含む幅方向長さ50mmの領域)における進相軸方向をベクトル表示させ、この方向を、分子配向方向Laとした。この結果に基づき、分子配向方向Laと高分子圧電フィルムの長手方向との平面視角度θ2を求めた。
結果を表1に示す。
【0166】
(分子配向方向Lbと高分子圧電フィルムの長手方向との平面視角度θ3)
株式会社フォトニックライティス社製「複屈折評価システム」WPA−100を用い、上記高分子圧電フィルムの幅方向他端部(詳細には、幅方向他端を含む幅方向長さ50mmの領域)における進相軸方向をベクトル表示させ、この方向を、分子配向方向Lbとした。この結果に基づき、分子配向方向Lbと高分子圧電フィルムの長手方向との平面視角度θ3を求めた。
結果を表1に示す。
【0167】
(分子配向方向Laと分子配向方向Lbとの平面視角度θ1)
上記の方法でそれぞれ求めた分子配向方向La及び分子配向方向Lbに基づき、分子配向方向Laと分子配向方向Lbとの平面視角度θ1を求めた。
結果を表1に示す。
【0168】
〔実施例2〕
実施例1において、同時二軸延伸及び熱処理の条件を、以下のように変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
【0169】
−実施例2の同時二軸延伸の条件(実施例1との相違点)−
縦延伸倍率を3.7倍に変更し、Tc1を85°に変更し、Te1を90°に変更した。
−実施例2の熱処理の条件(実施例1との相違点)−
同時二軸延伸後の二軸延伸フィルムに対し、縦延伸倍率も横延伸倍率も縮小させずに熱処理を施した。
【0170】
【表1】
【0171】
表1に示すように、実施例1及び2では、重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、結晶化度が20%〜80%であり、θ1が70°〜110°であり、θ2が35°〜55°であり、θ3が35°〜55°である高分子圧電フィルムが得られた。
従って、実施例1及び2の高分子圧電フィルムから、高分子圧電フィルムの幅方向(TD方向)を長手方向とする長方形状の圧電フィルム片(例えば、
図1及び
図2に示す圧電フィルム片100参照)を、無駄なく(即ち、高歩留まりで)採取することができる。具体的には、高分子圧電フィルムから多数の上記圧電フィルム片を採取するにあたり、特に高分子圧電フィルムの幅方向両端部において、廃棄すべき無駄な領域を少なくすることができる。
例えば、1つの圧電フィルム片の各辺についてそれぞれ5%の余白部を設ける場合、理論上、高分子圧電フィルムから材料歩留まり81%にて、圧電フィルム片を採取することができる。
算出式:
材料歩留まり=(1−0.05×2)×(1−0.05×2)×100=81(%)