【文献】
Florian Bender,Identification and Quantification of Aqueous Aromatic Hydrocarbons Using SH-Surface Acoustic Wave Sensors,Analytical Chemistry 2014,米国,American Chemical Society,2014年 1月 7日,86,1794-1799
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記マイクロコントローラは最初に、前記水溶液中のベンゼン、トルエン、およびエチルベンゼン/キシレンの各々の濃度の初期推定値を生成する再帰的最小二乗技術で前記受信した差動振幅および周波数シフトを処理し、その後に前記水溶液中のベンゼン、トルエン、およびエチルベンゼン/キシレンの各々の精緻化した推定値濃度を生成する初期条件として前記初期推定値を使用して前記カルマンフィルタのバンクで処理する、請求項4に記載のシステム。
前記マイクロコントローラは、前記第1、第2、第3、および第4のポリマー被覆内の前記炭化水素の濃度が定常状態に達する前に、前記水溶液中のベンゼン、トルエン、およびエチルベンゼン/キシレンの各々の濃度の精緻化した推定値を生成する、請求項4に記載のシステム。
前記前処理ステージは、前記基準試料を前記フローセルに選択的に提供し、前記マイクロコントローラが前記フローセル内の前記基準試料の定常状態を検出した後、前記前処理ステージは、前記検査試料を前記フローセルに選択的に提供する、請求項1に記載のシステム。
前記マイクロコントローラが前記水溶液中の少なくとも1つの検体の濃度を推定した後、前記前処理ステージは、前記基準試料を前記フローセルに選択的に提供する、請求項7に記載のシステム。
【発明を実施するための形態】
【0025】
直接的な地下水監視に好適であり、かつ低濃度(100ppb(十億分率)以下)であっても芳香族炭化水素の水相測定可能なセンサシステムを本明細書に開示する。本明細書に開示するシステムの例示的実施形態は、潜在的な干渉物質の存在下でベンゼン、トルエン、およびエチルベンゼン/キシレン(BTEX)を分化および定量化するように設計される。本システムの例示的実施形態は、ポリマー被覆の横波型表面弾性波デバイス、および推定理論、具体的にはカルマンフィルタ(KF)または拡張カルマンフィルタ(EKF)のバンクに基づいた信号処理方法を利用する。この手法により、センサ応答が平衡に達するかなり前にノイズの多いデータからでもBTEX濃度の推定が可能である。本明細書にさらに詳細に記載するように、推定理論を利用するために、浄水から測定中の水試料(複数の検体の混合物)までの段階的変化に対するセンサ応答の解析モデルが定式化され、このモデルは平衡周波数シフトおよび応答時間(個々の検体に対する)の両方を利用し、後者は被覆デバイスおよび検体の組み合わせごとに特異である。このモデルは次に、状態空間形式に変換され、EKFのバンクは、平衡の到達前に過渡応答からの干渉物質の存在下でBTEX濃度を推定するために使用される。
【0026】
検査では、試料には、10〜2000ppbの範囲の個々のBTEX化合物の濃度で複数の化学的に類似の検体が含まれていた。推定BTEX濃度を独立したガスクロマトグラフィ測定値と比較し、試料により大きい芳香族化合物または脂肪族炭化水素などの複数の干渉物質が含まれていたときであっても、非常に良好に一致すること(約5〜10%の正確度の範囲内)が判明した。
【0027】
図1は、水溶液からの炭化水素検出および定量化のためのセンサシステム10の例示的実施形態を示す系統図である。システム10は、前処理ステージ12を含み、これは本明細書にさらに詳細に記載する。前処理ステージは、被検水性液、例示的には試料流入地下水14を受容する。例示的使用では、センサシステム10は、これらに限定されないが、精製または未精製炭化水素、例えばガソリンの貯蔵に使用される1つ以上の地下貯蔵タンク(UST)の近くに位置する地下水監視井戸を含む、水上試験井戸に配置される。
【0028】
被検地下水の前処理後、前処理ステージ12からの出力試料をフローセル16に提供する。フローセル16を本明細書にさらに詳細に、特に
図3および
図4に関して記載する。フローセル16は、複数のセンサを含み、これらは弾性波ベースのセンサ、より具体的には横波型表面弾性波(「SH−SAW」)センサを含むことができる。
【0029】
マイクロポンプ18は、検査済みの地下水試料をセンサシステム10から出して、地下水源20に戻らせる。
【0030】
センサ測定システム26は、本明細書にさらに詳細に記載するように、フローセル16に接続され、フローセル内のセンサから受信したセンサ信号の変化を測定する。例示的実施形態では、センサ測定システム26は、センサおよびフローセル16が本明細書に記載するように地下水試料に露出されるとき、過渡周波数および振幅応答を測定する。例示的実施形態では、センサ測定システム26における電気的接続のいくつかまたはすべてが無線接続であってもよい。さらに他の実施形態では、センサ測定システム26における電気的接続のいくつかまたはすべてが有線接続であってもよい。
【0031】
センサ測定システム26は、本明細書にさらに詳細に記載するように、入力信号源28を含む。入力信号源28は、入力信号を提供し、この信号は例示的に102MHzの入力信号である。入力信号は、例示的にRF信号発生器によって提供されてもよく、または結晶基準信号源であってもよい。一実施形態では、RF発生器は、センサシステム10から遠隔に位置してもよく、この場合、入力信号源28は、RF信号を無線受信するアンテナであってもよく、またはRF発生器への有線接続であってもよい。RF発生器は例示的に、コンピュータ可読コードを実行してRF信号発生器として動作するプロセッサであってもよい。別の実施形態では、入力信号源28は、結晶基準源であり、これは入力電力線24および/または電力調整分配回路22に電気的に接続することができる。入力信号源28は、入力信号を電力分割器30に提供し、これは本明細書にさらに詳細に記載するように、フローセル16への入力信号として用いるためにフローセル16に入力信号を方向付け、かつ振幅および周波数シフト検出のための入力信号を提供するように動作する。一実施形態が周波数を直接測定することができるが、例示的実施形態では、これは、位相検出器および/または振幅位相検出器32を使用して少なくとも一部実施される。位相シフトは、周波数シフトと数学的に相関があり、本明細書に説明するように、周波数シフトは、センサ応答の数学モデル化に使用することができる。しかし、水相測定のいくつかの実施形態では、位相シフト検出は、周波数シフトの直接測定よりも望ましい周波数シフト測定結果をもたらすことができることが観察された。
【0032】
振幅位相検出器32は、結果として得られる振幅および/または位相シフトでフローセル16の出力を受信する。それぞれの振幅および/または位相シフトは、フローセル16の出力信号を電力分割器30によって提供される基準信号と比較することによって、振幅位相検出器32によって検出される。振幅位相検出器32は、差動振幅および位相シフトをマイクロコントローラ34に提供する。マイクロコントローラは、位相シフトを対応する周波数シフトに変換することができる。別の実施形態では、位相シフトは、それがマイクロコントローラ34に提供される前に、対応する周波数シフトに変換される。マイクロコントローラ34は例示的に、本明細書にさらに詳細に記載するように、ローカルデータ記憶ユニット36で測定されたセンサ信号を記憶し、本明細書にさらに詳細に記載するように、ソフトウェアを実行して信号処理を実施する。信号処理は、受信された位相シフトに対応する周波数シフトを導き出すことを含むことができる。信号処理はさらに、センサ信号において周波数シフトを処理するカルマンフィルタの少なくとも1つのバンクの使用を含む。例示的な一実施形態では、カルマンフィルタの2つのバンクが使用され、カルマンフィルタの第1のバンクが炭化水素検体の濃度の初期推定値を提供し、カルマンフィルタの第2のバンクが第1の推定値を精緻化するために使用される。例示的な別の実施形態では、再帰的最小二乗技術は、炭化水素検体の濃度の予想される範囲を絞り込むためにプリプロセッサとして使用され、カルマンフィルタのバンクは、検査済み試料において炭化水素検体濃度の精緻化した推定値を提供するために使用される。
【0033】
マイクロコントローラ34はさらに、前処理システム12およびマイクロポンプ18に通信可能に接続される。より具体的には、マイクロコントローラは、センサシステム10内の様々な弁、マイクロポンプ、およびリレーに通信可能に接続されて、基準試料および検査試料をフローセル16に選択的に提供することによってセンサの動作を協働し、さらに検査サイクル後にフローセル16をパージする。
【0034】
マイクロコントローラ34は、センサシステム10のデータインターフェース38にさらに接続され、データインターフェース38は例示的に、処理済み信号および/または推定濃度をマイクロコントローラ34からユーザに伝送可能な有線または無線データインターフェースであってもよい。ユーザは例示的に、地下水を分析して地下水中の炭化水素の存在を検出するセンサシステム10を使用する技術者であってもよい。データインターフェース38は例示的に、処理済み信号および/または推定濃度をユーザに示すグラフィック表示を含むことができる。
【0035】
図2は、
図1に関して上述したセンサシステムの前処理ステージ12の例示的実施形態を示す。前処理ステージ12は、地下水流入口14から地下水を受容する。地下水試料は、粒子フィルタ40に提供される。粒子フィルタ40は、例示的に0.2マイクロメートル粒子フィルタである。単一の粒子フィルタ40を
図2に示すが、実施形態では、複数の粒子フィルタは、例えば、より小さい細孔フィルタの効率を改善するために縮小孔径で使用することができる。フローセル内の気泡の存在または形成がセンサ測定の正確度に悪影響を及ぼす可能性があるため、前処理ステージ12はまた、水試料中の気泡の形成を除去および阻止する気泡トラップ42を含むことができる。BTEX化合物などの炭化水素を検出することがセンサシステムの目的であるため、ガスとともにBTEXを除去することによってBTEXの濃度に影響を及ぼさない気泡トラップが選択されなければならない。例示的に、2.5mLのアクティブなデバブラ(IDEX Health & Science,Oak Harbor,WAから入手可能)が気泡トラップ42として使用されてもよい。
【0036】
気泡トラップ42は、通気口44に接続されており、これは例示的に弁46を含み、この弁は例示的に、気泡トラップ42と空気入口48とマイクロポンプ50との間に接続された三方弁である。マイクロポンプ50はさらに、弁52に接続され、この弁は例示的に、本明細書にさらに詳細に記載するように、三方弁である。弁52は、逆止弁54を通って空気出口56に接続することができ、その結果、通気口44内のマイクロポンプ50は気泡トラップ42をセンサシステム10の外部に放出するように動作可能である。逆止弁54は、液体(例えば、地下水)または空気が空気出口56を通ってシステムの中に入るのを防ぐ安全機構として加えられてもよい。
【0037】
気泡トラップ42からの試料は、イオン交換フィルタ58に提供される。イオン交換フィルタには、フローセル16またはシステムの他の重要な部分内で析出物の形成を防ぐ目的がある。例として、イオン交換フィルタ58は、試料からフミン酸および他の水素結合形成種を除去するように選択することができる。例示的実施形態では、イオン交換フィルタ58は、Dionex OnGuard IIPイオン交換フィルタ(Thermal Fischer Scientific,Waltham,MAから入手可能)であってもよい。
【0038】
次に、基準給水60は、基準液「A」62を提供する。本明細書に説明するように、基準液「A」を分析することによるセンサ出力は、試料液「B」64を分析するためのセンサ出力に構成される。試料液「B」64は、イオン交換フィルタ58から提供されてもよい。一実施形態では、基準給水60は、脱イオン(DI)水源であってもよい。このような脱イオン水源は、センサシステム10で提供されるDI水の貯水槽を必要とするであろう。
図2に示した実施形態では、センサシステム10は、イオン交換フィルタ58からの試料水をさらに処理することによって、独自の基準液「A」を生成する。このような実施形態では、基準給水60はさらに、石油炭化水素(上述の選択した気泡トラップおよびイオン交換フィルタから意図的に残っている)を除去可能な脱ガスシステムを含むことができる。加えてまたはあるいは、基準給水は、石油炭化水素を除去して基準試料「A」を生成することができるフィルタを使用することができ、例示的実施形態では、このフィルタは活性炭フィルタであってもよい。水試料からの基準給水で基準試料「A」を生成することの考えられる利点の1つは、処理後の基準試料「A」内の残りの不純物が検査試料「B」に同様に存在し、それにより同定することが求められる炭化水素を除去する点だけが異なる、より代表的な基準を提供することである。基準試料「A」および検査試料「B」は、弁66に接続され、この弁は例示的に、三方弁であり、追加の弁68にさらに接続される。弁68はさらに、通気システム44に接続された三方弁であってもよい。弁66は、基準試料「A」と検査試料「B」とを切り替えて、本明細書にさらに詳細に記載するようにフローセル16に提供するように動作する。弁68は、試料をフローセル16に提供するか、または通気システム44をフローセルに接続するように動作する。通気システム44が弁68を通ってフローセルに接続されるとき、マイクロポンプ50は、空気入口48からの空気を弁52および弁68を通らせて、測定後に空気でフローセル16をパージするように動作することができる。これは、本明細書にさらに詳細に記載するように、フローセル16、特にフローセル16内のセンサのポリマー被覆の寿命の改善につながり得ることを発見した。
【0039】
前処理ステージ12の更なる例示的実施形態では、基準給水60にはさらに、再循環ループが設けられており、これは試料出口20を基準給水60に戻って接続して、その給水がフローセル16を流れた後の再利用のために基準試料を基準給水60に戻して選択的に方向を変える。例示的実施形態では、この再循環システムは、例えば、基準試料の最初の部分が同じ出口を出るのを可能にすること、検査試料による基準試料の汚染になるあらゆる可能性の前に再利用を終了することなど、使用される基準試料の一部分だけを再利用することができる。例えば、基準試料が別個の貯水槽(図示せず)から提供されるDI水である、更なる実施形態では、基準給水60は、前処理ステージ12から独立し、フローセル16に直接接続されてもよい。
【0040】
更なる例示的実施形態では、前処理ステージ12はさらに、フローセルによる検出のために検査試料内の炭化水素を濃縮するように設計された前濃縮ユニットを含むことができる。例示的実施形態では、前濃縮器は、Detection of Hydrocarbons in Aqueous Environmentsと題する米国特許第9,244,051号明細書に開示されるものであってもよい。このような前濃縮器は、前処理ステージ12内の様々な位置に配置することができる。このような2つの位置は、粒子フィルタ40の前、イオン交換フィルタ58の後、例えば検査試料「B」を前濃縮する基準給水60に平行である。後者の場合、基準試料「A」は、上述のように提供することができるか、またはイオン交換フィルタ58からの試料は、更なる処理をせずに基準試料「A」として使用することができるかのいずれかである。これらの位置は例示であり、本明細書に提供する開示の実装形態に関して限定するものではないことが認識されるであろう。本明細書に記載するような実施形態は、前濃縮器なしで例示的に100ppb(十億分率)未満、50ppb未満、および/または10ppb超の濃度でベンゼンの検出を可能にする。上述するように前濃縮器を使用した実施形態は、BTEX検体濃度の10倍の増加を達成することができ、10ppb未満および/または1ppb超のベンゼンの濃度を検出するこのようなセンサの実施形態の感度を高めることができる。
【0041】
図3は、
図1に示したセンサシステム10に関連して使用することができるようなフローセル16の例示的実施形態の概略図である。
図4は、フローセルおよび遅延線を通した例示的な断面図である。フローセル16は、
図2に関連して記載したように、前処理ステージ12から基準試料および検査試料を選択的に受容する。受容した試料(検査または基準)は、フローセル16を超えて流れており、このフローセルはSH−SAWセンサで具体化される複数の遅延線を含む。基準試料および検査試料は、
図1に示したように、フローセル16からマイクロポンプ18および試料出口20に方向付けられる。
【0042】
例示的実施形態では、入力リレー70は、例示的に電力分割器30(
図1)から入力信号を受信し、遅延線間のクロストークを防ぐために1つずつ入力信号を複数の遅延線の各々に選択的に印加する。本明細書にさらに詳細に記載するように、他の配置および構成は、入力信号を遅延線に提供するために使用することができる。
【0043】
フローセル16は、複数の遅延線を含み、各遅延線が異なる吸着ポリマー被覆で処理される。様々なポリマー被覆は、対象の検体(例えば、BTEX)と相互作用するように選択される。
図3に示したフローセル16の例示的実施形態は、4つの遅延線を含む。遅延線72は、例示的にポリ(エチルアクリレート)(PEA)で被覆される。遅延線74は、例示的にポリ(エピクロロヒドリン)(PECH)で被覆される。遅延線76は、例示的にポリ(イソブチレン)(PIB)で被覆される。これらのポリマー被覆の各々は例示的に、例えば、Sigma−Aldrich,St.Louis,MOから入手可能である。遅延線78は、基準遅延線であり、例示的にポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)(例えば、Scientific Polymer Products,Ontario,NYから入手可能)で被覆される。遅延線78のPMMAポリマー被覆は、例示的に180℃で120分間焼かれ、結果としてガラス状の非吸着被覆になり、その結果、基準線は対象の濃度および時間尺度で大量の検体を吸収しない(すなわち、これは化学的に鈍感である)。
図10は、上述の吸着ポリマー被覆(PEA、PECH、PIB)の各々によるBTEX検体に対する正規化感度のグラフを示す。
【0044】
上記の市販のポリマーに加えて、ポリマーと可塑剤のブレンドに基づくセンサ被覆もまた使用することができる。例としては、塗布および好ましい被覆特性(所与の検体に対する感度および部分的選択性、ならびに長期的な安定性)に応じてPS中に約17〜23重量%の混合比で使用することができるPS−DIOA(ポリスチレン−アゼライン酸ジイソオクチル)、およびPS中に約21〜25重量%の混合比で使用することができるPS−DINCH(ポリスチレン−ジイソノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)が挙げられる。
【0045】
遅延線82(
図4)は、基板84で構築される。基板84は例示的に、36°回転YX−LiTaOで構築される。これらに限定されないが、ランガサイトまたは石英を含む構造の他の材料は潜在的に使用され得ることが認識されるであろう。実施形態で使用することができる遅延線の例示的実施形態は、BenderらによるAnal.Chem.、第86巻、2014:第11464〜11471頁にさらに詳細に記載され、これはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。変換器は、基板上に位置決めされ、例示的に、2つの同一インターデジタル変換器(IDT)は、各遅延線82に使用することができる。遅延線82は、金属化表面領域90で分離されるトランスミッタIDT86およびレシーバIDT88を含む。金属化表面領域90は、トランスミッタIDT86とレシーバIDT88との間の領域内で音響電気相互作用を排除する。金属化表面領域90は、SH−SAWとフローセル内の流体との間の不要な電気的結合を制限するのに役立つ。実施形態では、トランスミッタIDT86およびレシーバIDT88は、同一の多電極IDTである。例示的実施形態では、IDTは、各々が5マイクロメートルの幅、および5マイクロメートルの隣接する電極指の間の間隙を有する、複数の電極指を含む。多電極IDTの例示的実施形態では、IDTは例示的に、電気的周期ごとに4つの電極指、または電気的周期ごとに12個の電極指を含むことができるが、他のIDT設計が本開示の範囲内で使用され得ることを当業者は認識するであろう。センサは、周期ごとに各極性の同数の指を含むことができるか、または各極性で指の数が不均衡であり得ることがさらに認識されるであろう。IDT(PIDT)の周期性は、IDTにおける電極のパターンに基づいている。遅延線の各々に提供される上述の入力信号で具体化されるIDTの動作周波数は、IDTセンサの周期性に基づいて選択することができる。例示的実施形態では、遅延線82は、102メガヘルツの周波数でトランスミッタIDT86によって生成される横波型表面弾性波92による最適な利用を保持するように構成される。これは例示的に、上述の電気的周期ごとの12個の電極指を有するIDTの第3高調波、または電気的周期ごとの4つの電極指を有するIDTに対する基本SH−SAW周波数である。他の入力信号周波数がIDTの設計に基づいて他の実施形態において適切であり得ることが認識されるであろう。実施形態では、入力信号は、IDTの基本周波数または高調波周波数に等しい周波数を有するように選択することができる。
【0046】
上述のように、IDTは、吸着ポリマー被覆94で覆われる。PEA、PECH、およびPIBの吸着ポリマーをすべて選択して、異なる収着特性を示し、それ故に本明細書により詳細に記載するように様々なBTEX検体に対する被覆によるセンサの感度の様々なパターンを示した。ポリマー被覆はまた、SH−SAW92に対する音響導波路としての機能を果たす。使用中、液体試料96は、ポリマー被覆94を横断し、BTEX検体は、ポリマー被覆の収着特性によるそれぞれのポリマー被覆によって選択的に吸収される。これは、SH−SAW92との相互作用のために試料の液体から検体を収着し、トランスミッタIDT86に印加された入力信号と比較して、レシーバIDT88で得られた信号の周波数および/または振幅シフトを引き起こす。
【0047】
実施形態では、センサシステム、およびより具体的にはフローセル16は、3つの動作条件で動作することができる。これらの動作条件は、このシステムの弁、マイクロポンプおよびリレーを選択的に操作するマイクロコントローラ34によって制御することができる。第一に、前処理システム12は、フローセルが定常状態または基準試料に対する平衡応答に達するまで、基準試料「A」をフローセルに提供するように動作する。その後、前処理システムは、被検検体を含む検査試料「B」をフローセルに提供するように動作する。例えば、これは、マイクロコントローラ34により弁66を操作することによって達成される。検査試料に対するセンサ応答が測定される。測定値が得られた後(かつ検体濃度が判定された後)、前処理システム(例えば、弁66)は、基準試料をフローセルに導入して、残りの検体のフローセルを洗い流すように再度動作する。これはさらに、例えば、フローセルを通って空気入口48を接続するためにマイクロコントローラによる弁68およびマイクロポンプ50の操作によってパージ条件と組み合わせることができる。この動作の更なる説明は、BenderらによるJoint Conference of the IEEE International Frequency Control & the European Frequency & Time Form,2011、BenderらによるAnal.Chem.第86巻、2014:第1794〜1799頁、またはBenderらによるJoint UFFC,EFTF and PFM Symposium,2013に例示的に見出され、これらすべてはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0048】
図3に戻って参照すると、一実施形態では、リレー80は、遅延線の各々から電気的出力を同様に受信し、かつ例えば振幅および位相検出器ならびに/またはマイクロコントローラによる信号処理のための出力を提供するように遅延線72〜78の各々に接続される。
【0049】
図5は、
図1のセンサシステムとともに使用するためのセンサ測定システム26の例示的実施形態の概略ブロック図である。センサ測定システム26は、入力信号源28および電力分割器30を含み、これらはともに
図1に関して上記に前述した。例示的実施形態では、入力信号源28は、102メガヘルツの信号を電力分割器30に提供する。例示的実施形態では、電力分割器30は、三方0°の電力分割器であってもよく、フローセル16ならびに別個の振幅および位相検出システムに入力信号を提供する。代替的実施形態では、信号振幅位相検出器32が使用されてもよく、これは単一入力信号のみを必要とし得る。一実施形態では、位相検出器は、本明細書に記載するように検体濃度を判定するようにマイクロコントローラによって使用される周波数シフトと相関がある位相シフトを検出するが、別の実施形態では、周波数シフトは周波数検出器で直接測定することができ、しかし、いくつかの実施形態では、位相検出は水相測定が行われるときにより正確な周波数シフトを生成することができることが観察された。
【0050】
上述のように、電力分割器30は、入力信号をフローセル16のリレー70(
図3)に提供する。リレーは、入力信号を遅延線の各々に連続的に提供して遅延線間のクロストークを防ぐように動作する。代替的実施形態では、リレー70は取り外されてもよく、その代わりに、追加の電力分割器(図示せず)がセンサ測定システム26に加えられてもよく、入力信号はフローセル16内の遅延線のすべてに連続的に提供されてもよい。
【0051】
フローセルが入力信号を遅延線の各々に連続的に提供するか、または遅延線の各々が入力信号で連続的に給電されるかにかかわらず、フローセル16の出力信号は例示的に二方0°の電力分割器である電力分割器98に提供される。遅延線のすべてが出力信号を同時に生成する実施形態では、複数の電力分割器98ならびに振幅および位相検出器32は使用されてもよく、かつ/または使用するために複数のチャネルを含んでもよいことが認識されるであろう。電力分割器98は例示的に、出力信号を振幅および位相検出器32に提供する。振幅および位相検出器32は例示的に、差動増幅器100およびエンベロープ検出器102を含んでおり、これらは出力信号を処理して振幅出力を生成するために使用される。振幅および位相検出器32はさらに、位相検出器104を含んでおり、これは電力分割器98からの出力を受信して位相出力を生成する。振幅出力および位相出力は、更なる信号処理のために本明細書にさらに詳細に記載するようにマイクロコントローラに提供される。
【0052】
図5に示すようなセンサ測定システム26の例示的実施形態では、電力分割器30はさらに、信号処理後、位相検出器104ならびに差動増幅器100の両方に入力信号を提供する。このような信号処理は、処理済み入力信号がフローセル16にわたる振幅シフトの検出のために差動増幅器100への基準信号として使用され得るように、位相器106および可変ステップ減衰器108を含むことができる。同様に、電力分割器30によって位相検出器104に提供される入力信号は、位相シフトの検出およびフローセル16の出力のための基準としての機能を果たす。代替的実施形態では、遅延線の各々からの出力信号の応答の各々を記録するのではなく、基準遅延線の出力は、基準出力と遅延線出力の各々との間の差動振幅シフトおよび位相シフトの計算のための基準信号として使用することができる。このような実施形態では、入力信号は、振幅および位相検出器32に対する基準として提供される必要はなく、むしろ基準遅延線の出力は振幅および位相検出器32に提供されるであろう。
【0053】
図6は、
図1のセンサシステム10のマイクロコントローラ34によって例示的に行われるデータ処理の概略ブロック図である。マイクロコントローラ34は例示的に、ローカルデータ記憶ユニット36で測定されたセンサ信号を記憶する。マイクロコントローラ34はさらに例示的に、コンピュータ可読メモリに記憶されるソフトウェアを具現化するコンピュータ可読コードをその中に含む。マイクロコントローラによるコンピュータ可読コードの実行時点で、マイクロコントローラは、本明細書にさらに詳細に記載するようにデータ処理を行う。マイクロコントローラ34は例示的に、
図5に関して上述するように、センサ測定システムからの振幅出力および位相出力を処理する。実施形態では、マイクロコントローラは、周波数シフト検出器から周波数シフトを受信することができるか、位相シフト出力を受信し、位相シフト出力から対応する周波数シフトを判定することができるか、または位相検出器によって検出された位相シフトから既に判定されたときに周波数シフトを受信することができるかのいずれかである。
【0054】
マイクロコントローラ34は、データ前処理110を実施する。データ前処理110は例示的に、ログデータに残る信号ドリフトおよび異常値を除去または最小限にし、例示的に局所温度変動、圧力の過渡変化、または環境条件の他の変化によって引き起こされる基準線応答を補正する。基準遅延線の出力は、これらの補正の基準を提供する。112では、基線補正は例示的に、センサライン出力と基準線出力との差に残るあらゆる線形基線ドリフトを減算することである。114では、データに影響を与え得る過渡的外乱(例えば、圧力スパイク)を説明する一定の閾値を超えるデータにおけるあらゆる異常値を補正するように異常値フィルタリングを行う。
図6に示していないが、データ前処理110はさらに、例えば、各センサの出力振幅を閾値と比較し、その遅延線にわたる減衰が高くなり過ぎたことを示す、出力振幅が低くなり過ぎたかどうかを示すことによって、各センサの寿命の終わりに達したことに対する警報を提供する監視システムを含むことができる。
【0055】
116では、BTEX化合物を同定および定量化するデータ処理は、本明細書により詳細に記載するように、カルマンフィルタのバンクで行われる。データ処理およびカルマンフィルタのバンクの設計は、BTEX検体と遅延線センサのポリマー被覆のそれぞれの組み合わせに対する応答時間および定常状態の感度に基づいた、推定理論および信頼性に基づいている。これは、本明細書に更により詳細に説明する。実施形態では、カルマンフィルタ(KF)または拡張カルマンフィルタ(EKF)は、基礎的センサ応答モデルの直線性に基づいて使用され得ることが認識されるであろう。拡張カルマンフィルタは、非線形モデルとともに使用するのに適したカルマンフィルタの特例である。したがって、カルマンフィルタは、本明細書に記載するような実施形態で使用されてもよいが、センサ応答モデルが非線形である実施形態では、カルマンフィルタは拡張カルマンフィルタであってもよい。
【0056】
例示的実施形態では、カルマンフィルタの複数のバンクがデータ処理を実施するために使用される。カルマンフィルタの第1のバンク118は、測定された試料内のBTEX化合物の濃度の大まかな推定値を得るために使用される。カルマンフィルタの第2のバンク120は、カルマンフィルタの第1のバンクによって提供されたBTEX化合物の濃度の推定を精緻化して、BTEX化合物の濃度の最終推定値を生成するために使用される。マイクロプロセッサ34の出力は、コンピュータシステムで使用または監視される伝送のためにデータインターフェース38に提供される。上述のように、センサ応答モデルが線形である場合、第1のバンクおよび第2のバンクは、カルマンフィルタを含むことができるが、センサ応答モデルが非線形である場合、第1のバンクおよび第2のバンクは、拡張カルマンフィルタを含むことができる。
【0057】
代替的実施形態では、カルマンフィルタの第1のバンクは、再帰的最小二乗技術に置き換えられてもよい。このような実施形態では、再帰的最小二乗技術は、検体の各々に対する濃度の予想される範囲を絞り込んで、BTEX化合物の濃度の大まかな推定値(狭い濃度範囲内)を生成するために使用される。本明細書により詳細に説明したように、再帰的最小二乗技術は、線形センサ応答モデルで使用されてもよく、それ故に再帰的最小二乗技術は、カルマンフィルタのバンクと組み合わせて使用されてもよい。このような実施形態では、カルマンフィルタのバンク120は、BTEX化合物の濃度の受信した推定値を精緻化して、BTEX化合物の濃度の最終推定値を生成する同じ目的のために使用される。
【0058】
上述のように、本開示の解決策は、推定理論に基づく方法を実施することによって干渉物質の存在下で水溶液中のBTEX化合物を検出および定量化する。推定理論を実装するために、センサ応答を解析的にモデル化する必要がある。それ故に、複数のBTEX化合物の水性混合物に対するSH−SAWセンサ応答をモデル化するために、個々の検体に対するセンサ応答は特徴付けられなければならない。
【0059】
0〜10ppm範囲の検体濃度のステップ変化に対する応答は、式1に表すように、単一指数関数適合を使用して十分にモデル化される。
【数1】
【0060】
式中、
は平衡周波数シフトであり、τは応答時定数であり、
は時間関数としての周波数シフトである。
【0061】
センサ応答を式1に適合することにより、ポリマー被覆とBTEX検体との各々の組み合わせに対するτの特性値を生み出す。実験結果は、τが対象の範囲の検体濃度と無関係であることを示し、それ故に、所与のセンサ被覆では、これは検体を同定するために使用することができる。単一検体実験もまた、センサ被覆とBTEX化合物とのそれぞれの組み合わせに対する感度(検体濃度の質量ppmあたりの周波数シフトのHz)をもたらし、これは応答時間のように、濃度と無関係である(それ故に、平衡周波数シフトは検体濃度を判定するために都合よく使用することができる)。化学異性体として、エチルベンゼンおよび3つのキシレンは、応答時間および感度に対してほぼ同一の値を有することが判明し、したがってそれらを区別する試みを行わなかった。様々な被覆/検体の組み合わせに対する応答時定数および感度の平均値を表1および表2に記載する。
【0062】
表1.標準誤差(n=5)を併せた様々なBTEX検体への3つ異なるポリマー被覆に対する測定平均応答時間τ(秒)
【表1】
【0063】
表2.標準誤差(n=5)を併せた様々なBTEX検体への3つの異なるポリマー被覆に対する測定平均感度σ(Hz/ppm)
【表2】
【0064】
BTEX化合物の単一検体試料に対するセンサ応答を解析的にモデル化するために、応答がヘンリーの法則に従う仮定をした。通常、センサが検体の環境濃度のステップ変化にさらされるとき、センサは、最初に迅速に応答し、信号の変化速度は被覆および検体が平衡に近づくにつれてよりゆっくりと変化する。単一検体試料の場合の検体吸収のプロセスは、式2aおよび式2bによって示す一次モデルによって適合することができる。
【数2】
【数3】
【0065】
式中、C(t)は、時間tでの被覆内の検体の濃度であり、
は時間tでの環境検体濃度であり(これらの実験では、測定を通して新たな検体溶液の一定流量により、t>0に対して一定のままである)、τは所与の検体/被覆の組み合わせに対する応答時定数であり、
は所与の検体/被覆の対に対するポリマー/水の分配計数であり、
は時間tで観察された周波数シフトであり、aは定常状態または平衡感度であり、これはセンサプラットフォーム、センサ被覆、および検体の関数である。
【0066】
式2bは、時間tでの単一検体システムに対する測定されたSH−SAWデバイスの周波数シフトを表す。微分方程式2aを解くことにより、応答時定数τで指数関数時間依存性を生成し、これは式2bに代入されるとき、
で式1の形式での単一指数関数表現を生成する。
【0067】
次に、単一検体センサ応答は、多重検体応答に拡張されなければならない。二元検体混合物に対するセンサ応答は、二重指数関数適合によって十分にモデル化され、二元混合物に対する応答での全平衡周波数シフトは、個々の検体に対する周波数シフトの総和(すなわち
)である。二元混合物に対するセンサ応答は、二重指数関数適合を使用してモデル化することができ、これは式3によって与えられるようにn個の指数関数項を使用してモデル化され得るn個の検体を含む混合物に対するセンサ応答に拡張することができる。
【数4】
【0068】
式中、
および
はそれぞれ、i番目の検体と関連付けられる平衡周波数シフトおよび応答時定数である。混合物中の各検体の感度が既知である場合、混合物中の各検体の濃度を抽出することができる。
【0069】
n個の検体の混合物に対するセンサ応答の一般的な解析モデルは、2つの主要な仮定を行うことによって得ることができ、第一に、上述のように、混合物はヘンリーの法則に従うと仮定される。この仮定により、複数の可溶性種の希釈混合物では、ポリマーへの任意の所与の種の収着は、他の種の収着に何ら影響を与えないことが推測され得る。ポリマーと水相との間の検体の自由な分配が推測され、これは収着プロセスが環境温度で完全に可逆的である(すなわち、物理吸着のみが生じる)という意味合いを含む。実験的観察に基づくと、ヘンリーの法則は、検体に応じて0〜少なくとも10ppmの範囲の検体濃度に有効である。さらに、ヘンリーの法則は、任意の時間tでの被覆内の混合物の濃度が単に任意の時間tの個々の検体の濃度の総和
にすぎないことを暗示しており、式中、
は単一検体応答で測定されるような混合物中の各検体の濃度を表す。検体吸収のプロセスは次に、一次(単一検体センサ応答のモデルと類似)であると仮定することができる。第2の仮定は、平衡周波数シフトもまた相互に独立していることであり、任意の時間tでの混合物による周波数シフトはその時間での混合物中の各検体による周波数シフトの総和である。これらの2つの仮定に基づいて、n個の検体の混合物に対するセンサ応答は、式5aおよび式5bによって表すことができる。
【数5】
および
【数6】
【0070】
式中、すべての変数は予め定義した通りであり、添字i=1,2,・・・,nが混合物中の各検体を指す。
【0071】
式5aおよび式5bの一般的なモデルを使用して、干渉物質の存在下で標的検体を検出および定量化するために、以下の仮定が行われる。第一には、標的検体とともに存在する未知数の干渉物質がある可能性があること、第二には、これらの干渉物質によるセンサ応答が標的検体による応答を支配しないことである。地下水中のBTEXに対する実験的観察から(さらに後述するように)、干渉物質が4つの標的検体より遅い応答時定数またはより低い感度のいずれかを有することを我々は見出している。他の用途では、この条件は、適切な吸着被覆、例えば、干渉物質より検体に対する著しく大きい分配係数を有する被覆を使用して満たすことができることが多い。選択された被覆および干渉物質の組はすべての干渉物質に対する時間依存吸収が比較的類似しているようなものであるとき、単純な手法は、単一指数関数項によってそれらの組み合わせた応答を表すことである。このような場合、式5aおよび式5bは、n−1個の標的検体のセンサ応答(i=1,2, ・・・,n−1)および干渉物質の収集(i=n)を表すために使用することができる。
【0072】
上記のポリマー被覆ならびに石油および燃料に見られる干渉物質のうちのいくつかによる実験から(本明細書にさらに詳細に報告するように)、センサ応答へのそれらの寄与は、BTEX化合物のものを実際には支配しておらず、かつ/またはこれらの干渉物質は、BTEX化合物のものより著しく長い応答時定数を有することが判明している。エチルベンゼンおよび3つのキシレンが化学異性体であるという事実は、式5aおよび式5bを適用することにおいて、それらの組み合わせた応答が単一指数関数項によって表され得ることを意味する。それ故に、添字i=1,2,3は、標的検体のベンゼン、トルエン、および4つのC8異性体の組み合わせをそれぞれ表し、添字i=4は、混合物中の干渉物質およびBTEX化合物による組み合わせ応答を表す。それ故に、実施形態では、BTEXに対する強い(すなわち、敏感な)応答を引き起こすポリマー被覆が選択される。実施形態では、ポリマー被覆はさらに、他の干渉物質が弱い応答および/または遅い応答を示すように選択される。
【0073】
上記に説明したモデルを使用して、干渉物質の存在下でBTEX化合物の検出および定量化のための推定に基づく理論手法を開発した。その目的のために、式5aおよび式5bの多重検体混合物のセンサ応答モデルを正規化し、離散化し、状態空間形式に変換した。式5aおよび式5bを
(式中、
は平衡環境濃度を表す)で割ることによって正規化した。新しい変数の定義は次の通りである。
【数7】
【数8】
および
【数9】
【0074】
以下の正規化した式が得られる。
【数10】
および
【数11】
【0075】
式中、検体iでは、
は時間tで吸収された正規化濃度を表し、
は平衡周波数シフトであり、
は浄水から試料への遷移に対する濃度の段階を表す(t<0では、
、t>0では、
)。
【0076】
センサデータが離散時点で収集される(すなわち、
、式中、
はサンプリング周期であり、kは非負整数である)ため、式7aおよび式7bのセンサ応答の連続的時間正規化モデルを離散時間モデルに変換することが必要である。オイラーの一次前進法を使用して、式7aおよび式7bは次のようになる。
【数12】
および
【数13】
【0077】
式中、
は吸収速度定数(すなわち、
)である。項
および
は、システム内に存在する可能性が高いプロセス雑音および測定雑音をそれぞれ表すように追加される。プロセス雑音および測定雑音の両方は白色雑音(時間に無相関)であり、同様にそれらは互いに無相関であると仮定される。
【0078】
干渉物質の存在下でBTEX化合物の定量化を成功させるために式8aおよび式8bによって定義されるモデルで推定される必要がある未知のパラメータは、平衡周波数シフト(すなわち、
)、第4の検体の吸収速度定数(すなわち、
)、および第4の検体の正規化濃度(すなわち、
)を含む。正規化濃度は吸収速度定数と関連していることに留意されたい。推定プロセスを容易にするために、式8aおよび式8bは、未知のパラメータに状態変数を割り当てることによって状態空間形式に変換される。
【数14】
【0079】
結果として得られた離散時間状態空間形式は次の通りである。
【数15】
【数16】
【0080】
式10bは具体的には、出力方程式と称される。式10aおよび式10bから、状態空間表現は非線形モデルであることが分かる。したがって、非線形推定器は、未知のパラメータを推定するために使用されなければならず、状態推定値は
と示される。再帰的最小二乗技術がEKFのバンクとともに使用される実施形態では、センサシステムがEKFの2つのバンクを使用して実装される場合に非線形モデルが使用され得るが、線形モデルは再帰的最小二乗技術の間、未知のパラメータを推定するために使用されることが認識されるであろう。
【0081】
離散時間拡張カルマンフィルタリング(EKF)を使用して、未知のパラメータを推定し、現在状態推定値
に関するテイラー級数展開を使用して非線形系を線形化することが必要であった。項の線形化および一般化表現の結果は、以下のEKFアルゴリズムを定義するために使用される。
【数17】
および
【数18】
【数19】
【数20】
【数21】
および
【数22】
【0082】
式11では、項
は誤差共分散行列を表し、
は行列転置を示す。このEKFアルゴリズムは、未知のパラメータの推定を行うために適用することができ、同様に対象の検出検体の定量化を可能にする。
【0083】
上記のEKFアルゴリズムは、状態ベクトル
(すなわち、状態変数)および誤差共分散行列
の初期推定値から始める。状態ベクトル
の初期化は、式9における未知のパラメータを初期化することを必要とする。状態ベクトル
の初期推定値に基づいて、初期誤差共分散
が設定される。状態ベクトル
の初期値が完全に未知である場合、経験に基づいた推測が行われ、初期状態推定値に設定される値,
、および初期誤差共分散、
が大きい値に設定される。新しいデータ点の各測定後、状態推定値および誤差共分散は、この取得情報に基づいて更新される。更新プロセスは、未知のパラメータが特定の値に収束するまで再帰的に繰り返される。このアルゴリズムを使用すると、各検出されたBTEX化合物に対する平衡周波数シフトは推定することができ、検出されたBTEX化合物の濃度が各BTEX化合物の推定平衡周波数シフトをその対応する平均感度で割ることによって抽出することを可能にする。上記のEKFアルゴリズムは、マイクロコントローラまたは容易に利用可能なソフトウェアパッケージによって実装することができる。EKF方程式の実際の導出に関する支援情報が利用可能である。
【0084】
上述のように、マイクロコントローラは、カルマンフィルタ(KFまたはEKF)の少なくとも1つのバンクを用いるが、例示的実施形態では、水試料中のBTEX検体を同定および定量化するために、カルマンフィルタの少なくとも2つのバンクを用いる。あるいは、マイクロコントローラは、初期推定値を提供する再帰的最小二乗技術、および検体濃縮器の初期推定値を最終推定値に精緻化するカルマンフィルタのバンクを使用する。一連の離散時点で(すなわち、各サンプリング周期で)収集された水試料に対する各被覆センサからの応答関数として測定周波数シフトで式10および式11に見出された離散時間状態空間モデルを用いて、EKFを使用して未知のパラメータ(BTEX濃度対時間)の推定を行った。状態空間モデルは極めて非線形である(これは双線項を含む)ため、様々な初期推定値を有するいくつかのEKFのバンクを使用して、より正確な結果を得るためにシステムの6つの状態を推定した。EKFのバンクの動作原理は、センサ応答が並列でいくつかのEKF推定器によって同時に、各々が様々な初期条件を使用して処理されることを除いて、単一EKFのものと非常に類似であり、フィルタからの推定値は、各々の時点で状態の最終推定値を生成するために組み合わせられる。
【0085】
図6に関して上述した例示的実施形態では、カルマンフィルタの第1のバンクにおけるKFまたはEKFの初期条件は、例えば10〜2000ppb範囲で水試料に存在すると予測され得る個々のBTEX化合物の予想される濃度範囲に基づいてもよい。濃度範囲にそれぞれのBTEX化合物に対する平均感度を掛けることによって、各BTEX化合物に対する平衡周波数シフトの対応する範囲を決定した。次に、平衡周波数シフトの範囲を使用して、バンクにおけるすべてのフィルタを初期化した。すべてのKFまたはEKFから得られた推定値は、重みを使用して組み合わせられ、この値は測定における誤差共分散の各KFまたはEKFの推定値ならびに測定のその推定値を使用して再帰的に更新される。最小誤差共分散を生成するフィルタは、最大の重みを与えられる。すべてのフィルタからの推定値を組み合わせるために、各フィルタの重みは、その対応する推定値が掛けられ、結果として得られた生成物は、未知のパラメータの平均推定値を生成するように追加される。
【0086】
本明細書に開示されるように、実施形態は、センサからの応答の時定数を推定する。検体濃縮は、時間を確実に決定することができた時点で正確に推定することができる。それ故に、センサが定常状態に達するか、または他の干渉物質に対する応答が検出可能であるかなり前に、センサ応答の時定数は決定することができ、検体濃度は正確に推定することができる。実施形態では、これは、4〜7分で達することができる。
【0087】
次に、未知のパラメータのこれらの推定値は、カルマンフィルタの第2のバンクでKFまたはEKFの初期条件として使用されており、このフィルタは、未知のパラメータの精緻化した推定値、すなわち水試料における個々のBTEX化合物の濃度に達するデータを同様に処理する。
【0088】
図7は、水溶液中の炭化水素を検出する方法200の例示的実施形態を示す流れ図である。方法200は、被検水試料が検査試料を生成するように前処理されるとき、工程202から始まる。水の前処理は、本出願において前述のように行うことができ、粒子濾過、気泡の除去、およびイオン交換フィルタによる処理を含むことができる。随意により204では、被検水はさらに、基準試料を生成するように前処理することができる。204でのこの更なる前処理は、被検水の試料から炭化水素を除去するように特に設計された前処理を含むことができる。これは例示的に、脱ガスによってまたは木炭フィルタで形成することができるが、他の技術が使用および認識されてもよい。基準試料が被検水の更なる前処理から生じない実施形態では、独立した基準試料が本方法で提供されてもよい。
【0089】
206では、基準試料は、少なくとも1つセンサを含むフローセルに提供される。例示的実施形態では、少なくとも1つのセンサは、SH−SAWセンサであり、これは選択的吸収性のポリマー被覆およびフローセルが基準試料の流れをフローセルを通って少なくとも1つのセンサにわたって方向付ける。例示的実施形態では、フローセルは、複数のセンサを含み、これらのセンサの各々が異なるポリマー被覆を有する。208では、少なくとも1つのセンサからの信号を測定して基線結果を確定する。例示的実施形態では、少なくとも1つのセンサには、入力信号が提供され、少なくとも1つのセンサからの出力は、センサによって検知される条件に基づいて振幅変化および周波数シフトのうちの少なくとも1つを示す。基準試料の存在下で得られた基線結果は、これらに限定されないが、環境温度およびセンサの損耗を含む、センサの他の条件、特にセンサのポリマー被覆で同定および定量化することが求められる炭化水素検体とは別に被検水に残る除去されない干渉物質を説明することができる。
【0090】
210では、検査試料は、フローセルに提供される。検査試料は例示的に、基準試料と比較して入力の段階的な変化または不連続として提供される。例えば、これは、三方弁によって制御され、この弁は基準試料をフローセルに、または検査試料をフローセルに選択的に提供する。
【0091】
212では、センサの信号出力は、基線結果に対する位相シフトおよび振幅変化の差動測定値を生成するように基線測定に対して測定される。これは、前述のように位相および振幅検出器を使用して行うことができる。
【0092】
差動位相シフトおよび振幅変化は例示的に、マイクロコントローラに提供され、これは214では、検査試料における検体濃度の初期推定値を生成する。これを行うために、216では、同定することが求められる検体へのフローセル内のセンサの応答は、予めモデル化され、マイクロコントローラに提供される。センサ応答は、これらのセンサ応答を前述したモデル化のための基礎的臨床検査測定技術から数学的にモデル化することができる。マイクロコントローラは、モデル化したセンサ応答を使用して、214で検体濃度の初期推定値を生成し、例えばこれは、再帰的最小二乗技術、カルマンフィルタのバンク、または拡張カルマンフィルタのバンクを使用して(センサ応答モデルの線形性または非線形性に応じて)、受信した出力信号への各検体の寄与を求める。
【0093】
218では、214からの検体濃度の初期推定値は、カルマンフィルタのバンクを使用して検体濃度の精緻化した推定値を生成するために使用される。それ故に、一実施形態では、カルマンフィルタの2つのバンクを使用することができるが、別の実施形態では、カルマンフィルタのバンクは、検体濃度の精緻化した推定値を生成するためのみに使用される。
【0094】
最後に、220では、検体濃度の推定値は、リアルタイムでの検体濃度の推定に対する適合度および/または収束条件の検査を受ける。それ故に、実施形態では、検体濃度の精緻化した推定値が218で生成されると、検査試料に対する平衡または定常状態応答に達していないフローセル内のセンサにもかかわらず、測定は完了することができる。しかし、センサが測定値を取得し続ける場合、検体濃度の推定値はさらに精緻化することができる。
【0095】
本明細書に詳細に記載したように実施形態の範囲において限定しないが、本明細書に開示するようにセンサシステムの例示的実施形態は、多数の用途および設定で使用することができる。本開示に使用した顕著だが限定しない実施例は、例示的にUST現場での地下水監視の実施例である。これは、初期現場評価(例えば、プルーム描写)および/または修復性能を評価するか、もしくは観測された自然減衰を示す長期監視を含むことができる。他の用途としては、廃水および雨水監視、浄化シナリオ、海上での石油プルームの監視、炭化水素貯蔵、取扱および輸送基盤/漏れ検出のための設備(例えば、パイプラインおよびタンク)の監視を挙げることができる。BTEX監視が最初の実施例として使用されているが、他の実施形態は、BTEX以外の有機化合物を監視するために使用される(しかし、このような実施形態はセンサでの選択したポリマー被覆への変化を必要とし得ることに留意されるであろう)。
【実施例】
【0096】
化学干渉物質を説明する定式化された信号処理モデルの有効性を検査するために、被覆センサを選択した4つの異なる化合物に露出して、放出現場で地下水で一般的に遭遇される干渉物質のクラスを表した。最高100ppmの濃度までエタノールに対する有意な応答が見られなかった。MTBEでは、非常に低い感度が見られた(約1Hz/ppm)。この化合物が低濃度で通常存在するため、センサ応答へのその影響もまた無視することができる。1,2,4−トリメチルベンゼンおよびn−ヘプタンでは、高感度(>1kHz/ppm)および長い応答時間が見られた。高感度は、通常、これらの化合物が一般的に遭遇される低濃度でさえも無視され得ないことを示す。しかし、それらの応答時間がBTEX化合物のものより長いため、それらは式8bにおいて最後の(i=4)項によって都合よくモデル化することができる。同じことは他のより大きい芳香族または脂肪族化合物にも当てはまることが予想される。
【0097】
開示したSH−SAWセンサの実施形態によってBTEX含有試料に対する応答の多くの測定を行うことによって、本出願に記載したセンサおよび信号処理手法の有効性を確認した。記載したように開示したEKFのバンクを使用して濃度結果を測定した。全体的なプロセスを例示するために2つの代表的な推定結果を本明細書に示す。
【0098】
図8および表3は、軽非水溶性流体(LNAPL)試料(地下水中)に対して0.6μmのPECHで被覆したセンサシステムの例示的実施形態のこのような結果を示しており、この試料は、(ガスクロマトグラフ光イオン化検出器(GC−PID)およびガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)で示されるように)典型的な干渉物質の存在下で197ppbのベンゼン、241ppbのトルエン、ならびに16ppbのエチルベンゼンおよびキシレンを含む。
図1は、推定平衡周波数シフトおよび対応する時定数を式4に(n=4を用いて)代入することで計算した推定と、測定したデータ点との優れた一致を示す。この推定法により、センサ応答が平衡に達するかなり前に未知のパラメータを計算することが可能になることに留意されたい。実際には、定量化の時間はすべてのBTEX化合物の応答時間(表1参照)より長くなければならないことが判明される。BTEX化合物の感度(表2)を使用すると、それらの濃度は、各化合物に対する推定平衡周波数シフトをその対応する平均感度で割ることによって抽出される。表3に要約するように、BTEX化合物の推定濃度は、平均15%未満の差という実際の濃度と非常に良好に一致している。BTEX化合物の実際の濃度は、携帯型GC−PIDを使用した測定値を指す。表3はまた、エチルベンゼンおよびキシレン(EX)の実際の濃度と推定濃度との割合差がベンゼンおよびトルエンのものと比較して比較的高いが、絶対差が単に3ppbであり、この検体/被覆の組み合わせに対する推定検出限界(約10ppb)より低いことを示している。この低濃度範囲では、信号雑音は濃度推定の正確度を制限することが予想される。
【0099】
図8は、197ppbのベンゼン、241ppbのトルエン、16ppbのエチルベンゼンおよびキシレン、ならびに未知数および濃度の干渉物質を含む、地下水中のLNAPL試料に対して0.6μmのPECHで被覆したSH−SAWセンサの測定応答を示す。
図8はまた、推定センサパラメータを使用してプロットした推定センサ応答曲線を示す。上述のような解析により、単一センサ応答(または、例えば
図8に示すような複数のセンサの単一応答)は集計した寄与が(あらゆる干渉物質の寄与とともに)センサ応答をもたらした成分検体の濃度推定値にデコンボルブすることが可能となる。
【0100】
表3は、0.6μmのPECHで被覆したSH−SAWセンサを使用して例示的に収集され、かつ試料中の実際のBTEX化合物濃度と比較するとき、地下水中のLNAPL試料の測定データを使用して得られたBTEX化合物の推定濃度を示す。
【表3】
【0101】
図9および表4は、LNAPL試料(DI水中)に対して、この場合、0.8μmのPIBで被覆した検知システムの例示的実施形態の応答を使用して得られた別の推定結果を示しており、この試料は610ppbのベンゼン、874ppbのトルエン、154ppbのエチルベンゼンおよびキシレン、ならびにLNAPLに存在する様々な干渉物質を含む。
図9では、推定センサ応答曲線は、測定データ点との優れた一致を示し、それ故に推定平衡周波数シフトは実際の値に近くなければならない。平衡周波数シフトは次に、BTEX化合物の濃度を抽出するために使用され、表4に記載した結果は、実際の濃度値(平均5%未満の差)と非常に良好に一致している。絶対濃度を測定するために使用されたGC−PID計器の誤差(5〜10%)により、より良い一致は予想されない。この例では、この推定方法により、BTEX検体は、センサ応答が平衡に達するのに必要である時間の半分未満で定量化されることが可能となった。
【0102】
図9は、610ppbのベンゼン、874ppbのトルエン、154ppbのエチルベンゼンおよびキシレン、ならびに様々な干渉物質を含む、DI水中のLNAPL試料に対して0.8μmのPIBで被覆したSH−SAWセンサの測定応答を示す。
図9はまた、推定センサパラメータを使用してプロットした推定センサ応答曲線を示す。
【0103】
表4は、0.8μmのPIBで被覆したSH−SAWセンサを使用して例示的に収集され、DI水中のLNAPL試料の測定データを使用して得られたBTEX化合物の推定濃度を、試料中の実際のBTEX化合物濃度と比較して示す。
【表4】
【0104】
上記の例に示すように、各ポリマー被覆は異なる検体応答を示す。被覆の各々に対する検体応答間の差は、様々なBTEX化合物の異なる応答時定数とともに、このシステムが、化学的に類似したBTEX化合物を区別することを可能にする。
図10は、BTEX検体の各々に対する3つ例示的な被覆(PIB、PEA、PECH)の各々の感度を示す。感度は、ベンゼンに対する被覆の感度に正規化される。
【0105】
図10は、BTEX検体に対する3つの異なるポリマー被覆(PIB、PEA、PECH)の正規化された感度を示す。例示的な被覆は、次の厚さ:0.5μmのPIB、0.6μmのPECH、1.0μmのPEAを有していた。すべての検体試料濃度は20ppmであった。
【0106】
上述したように、地下水またはDI水で希釈した複数のLNAPL試料から、多くの測定を行い、BTEX濃度は低ppbから低ppmレベルに及び、推定に基づく信号処理技術を適用した。これらの検査からの結果を
図11に要約し、この図は0.6μmのPECHおよび0.8μmのPIBで被覆したSH−SAWセンサを使用して得られた推定値を含む。
図11における推定濃度値の大部分は理想線(1本の傾斜)の極めて近くにあり、これらの推定値が様々な試料における実際の濃度と非常に良好に一致していることを意味する。推定濃度と実際の濃度との相対的割合の誤差(所与の試料のすべての検査済みの同一希釈物に対する実際の濃度と比較して)を計算し、
図11の凡例の囲みに示す。全体としては、BTEX化合物の推定濃度と実際の濃度との相対的割合の誤差は、15%未満であり、ベンゼンでは、これは10%未満である。
【0107】
図11で要約した結果は、干渉物質の存在下でppb濃度でBTEX化合物の混合物を迅速に検出および定量化する推定に基づくセンサ信号処理の可能性を示している。これは、複数の検知パラメータ、すなわち特性時間遷移ならびに平衡周波数シフトを使用して実現される。この技術により、少ないデバイス(2〜3個)でのセンサアレイ(アレイにおけるすべてのセンサからのデータが検体認識および定量化を達成するようにともに処理されなければならない従来のセンサアレイではない)の使用が可能となり、適切な被覆を選択することは、冗長性の同定、ならびに検出限界および正確度の改善、最後にアレイにおけるすべてのセンサからの結果を平均して推定値を生成することによるものをもたらす。検体の混合物を含む水試料に対する単一センサ応答から、この技術は基本的に、「デコンボリューション」プロセスに相当する。
【0108】
図11.0.6μmのPECHおよび0.8μmのPIBで被覆したSH−SAWセンサの推定応答を使用して得られたDI水中の複数のLNAPL溶液中のBTEX化合物の推定濃度と実際の濃度との関係を示す。点線は、点が線に近ければ近いほど、ますます推定値が正確になるという1本の傾斜を有する。
【0109】
SH−SAWセンサアレイは干渉物質がない水性環境においてBTEX化合物を検出するためにこれまで使用され、例えば、BenderらによるThe 14th International Meeting on Chemical Sens.,2012で使用され、この全体が参照により本明細書に組み込まれるが、ここで開示するような実施形態は、より高い信頼性、改善された化学選択性、干渉物質の存在下であっても、より高い定量的正確度、応答データを収集するためのより短い時間(結果を報告する前に平衡を得る必要がない方法を使用して)、およびより短いデータ処理時間でBTEX化合物を検出および定量化するために、アレイの各要素に対する時間遷移および信号振幅データの応答を推定理論と組み合わせることにおいて著しい進展を達成している。実際、我々は本出願では、推定理論、特にカルマンフィルタ(KF)のバンク、または拡張カルマンフィルタ(EKF)のバンク手法を使用することにより、ほぼリアルタイムで検出および定量化を可能にすることを示している。重要なことは、推定理論のこの使用は、センサ応答が関連する濃度範囲で、解析的にモデル化され得ることにより可能である。
【0110】
干渉物質の存在下で水中のBTEX化合物の検出および定量化のために推定理論を使用してポリマー被覆SH−SAWセンサ応答を信号処理と組み合わせる、センサシステムの解析能力が研究されている。実験結果に基づいて、単一検体試料および複数の検体の混合物に対するセンサ応答のモデルを開発し、平衡周波数シフトおよび応答時定数の両方を利用した。干渉物質の存在下でのBTEX化合物の定量化の状態空間モデルを定式化した。このモデルの実施形態が非線形であるため、非線形推定器、具体的にはEKFのバンクを使用して、これらのモデルの実施形態に対する応答パラメータを推定した。水中のLNAPL試料に対するポリマー被覆SH−SAWセンサの測定応答を使用して、このモデルの実施形態を検査した。本明細書に開示するような実施形態がこれらの試料におけるBTEX化合物を正確に定量化することが判明し、大部分の結果はGC−PIDを使用して独立に測定した濃度の±10%の範囲内であった。具体的には、ベンゼン、トルエン、ならびにエチルベンゼンプラスキシレンの推定濃度はそれぞれ、GC−PID測定からの濃度の±7%、±10%、および±14%の範囲内である。これらの結果は、BTEX化合物の定量化においてLNAPL試料中の干渉物質の存在に耐える定式化したセンサ信号処理方法の能力を示している。混合物に存在するいくつかの干渉物質、すなわち、n−ヘプタン、1,2,4−トリメチルベンゼン、MTBE、およびエタノールが推定結果に影響を与えないことが判明した。これらの干渉物質は、選択した被覆で別々に検査し、かつ被覆で低感度および/またはより長い応答時間を有することが判明し、これらの干渉物質を群としてモデルにおいて説明した。100ppbまで下がる水中のベンゼンの濃度を、本システムにより容易に検出および定量化した。
【0111】
データを収集したときにリアルタイムで、LNAPL溶液中のBTEX化合物の定量化を行ったことを指摘することが重要である。センサ応答が平衡に達するのに必要な時間の半分未満で非常に良好な正確度でこれを達成した。本明細書に示す信号処理方法の大きな利点は、その方法がマイクロコントローラを使用して実装することができることであり、これにより地下水監視井戸のような閉鎖空間などで、現場使用のために小型、携帯型、費用対効果の高いセンサシステムの開発を可能にする。信号処理方法を本明細書でポリマー被覆のSH−SAWセンサに適用したが、多くの他の化学センサプラットフォームは様々な測定用途に使用することができ、いくつかのシナリオでは、干渉物質の存在下で解析的にモデル化され得るセンサ応答を提供することができる。考えられる代替的センサプラットフォームとしては、MEMSベースのセンサ(例えば、マイクロカンチレバー)、光化学センサ、ケミレジスタ、他の種類の弾性波ベースのセンサ、および様々なソリッドステートデバイスが挙げられる。最後に、提案した方法により、より少ないデバイス(この場合、2〜3個)を有するセンサアレイの使用も可能となり、適切な被覆が冗長性、平均化することによるより良い正確度、および検出限界の改善に依然として必要であることに留意されたい。
【0112】
本明細書ではいくつかの参考文献を引用している。引用文献は、その全体が本明細書に参照により組み込まれる。引用文献内の用語の定義と比較して本明細書内の用語の定義との不一致がある場合には、その用語は本明細書における定義に基づいて解釈されるべきである。
【0113】
上記の説明では、簡潔さ、明瞭さ、かつ理解のために特定の用語を使用した。その説明から従来技術の要件を超える不必要な限定が推測されるべきではなく、その理由はこのような用語が説明目的に使用され、広く解釈されることを意図するからである。上述の本明細書における様々な製品および方法は、単独または他の製品および方法と組み合わせて使用することができる。