(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
このような刃型形状が複雑でかつ形状精度が必要とされるような場合には、直線的な切れ刃を有する工具にならざるをえないことが多い。しかし、直線的な切れ刃では、使用時に切削抵抗が大きくなり、ビビリ振動(Chatter Vibration)が生じることが多い。
【0009】
また切れ味を改善するために切れ刃がねじれ刃形状とされた場合にも、被削材の変形、ビビリ振動、コバ欠けなどの不具合を生じることが多い。
【0010】
本開示の一態様は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、被削材における変形、ビビリ振動、コバ欠けの発生を抑制可能な切削工具および切削加工方法を提供することである。
[本開示の効果]
本開示の一態様によれば、被削材における変形、ビビリ振動、コバ欠けの発生を抑制可能な切削工具および切削加工方法を提供することができる。
【0011】
[本発明の実施の形態の概要]
まず、本発明の実施の形態の概要について説明する。
【0012】
(1)本発明の一実施の形態に係る切削工具10は、総形エンドミルよりなる切削工具であって、シャンク部10Cと、裏面取刃部10Aと、外周切れ刃部10Bとを備えている。裏面取刃部10Aは、裏面取刃1aを有する。外周切れ刃部10Bは、シャンク部10Cと裏面取刃部10Aとの間に位置し、かつ外周面に切れ刃2aを有する。外周切れ刃部10Bの切れ刃2aは、右刃左ねじれ刃である。
【0013】
上記(1)に係る切削工具10によれば、切削加工時において裏面取刃部10Aにはシャンク部10C側に向かうような切削抵抗が発生する。一方、外周切れ刃部10Bにおいては右刃左ねじれ刃による切削力が先端部側に向かうように働く。これにより、裏面取刃部10Aに働く切削抵抗と外周切れ刃部10Bに働く切削力とが互いに反対向きとなることにより内力として打ち消し合う。このため、被削材20に掛かる切削力が小さくなるような効果を得ることができ、被削材20の変形、ビビリ振動、コバ欠けなどの不具合を抑制することができる。
【0014】
(2)上記(1)に係る切削工具10において、外周切れ刃部10Bの切れ刃2aは、直線状に延び、かつマイナス角度に傾斜していてもよい。これにより、外周切れ刃部10Bにおいて切削力を先端部側に向かうように働かせることができる。
【0015】
(3)上記(1)または(2)に係る切削工具10において、外周切れ刃部10Bの切れ刃2aにおけるねじれ角度は3°以上30°以下であってもよい。これにより、適切に外周切れ刃部10Bにおいて切削力を先端部側に向かわせることができる。ねじれ角度が3°未満では、先端部側への切削力が不足する。またねじれ角度が30°を超えると、切れ刃の接触長が大きくなり、抵抗が大きくなりすぎる。
【0016】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに係る切削工具10において、裏面取刃部10Aは外周切れ刃部10Bよりも外周側に突き出し、裏面取刃1aはシャンク部10Cから離れるしたがって外周切れ刃部10Bの回転中心Cから離れていてもよい。これにより、被削材20の裏面取りが可能となる。
【0017】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに係る切削工具10は、シャンク部10Cと反対側の先端部に位置する底刃10Dをさらに備えてもよい。これにより、穴あけ加工が可能となる。
【0018】
(6)本発明の一実施の形態に係る切削加工方法は、上記(1)〜(5)のいずれかに係る切削工具10を用いた切削加工方法である。この切削加工方法においては、切削工具10をシャンク部10C側から裏面取刃部10Aを見る視点において、その切削工具10が時計回りに回転することで被削材20が加工される。
【0019】
上記(6)に係る切削加工方法によれば、切削工具10が時計回りに回転することで被削材20が加工される。このため、切削加工時において裏面取刃部10Aにはシャンク部10C側に向かうような切削抵抗が発生するが、外周切れ刃部10Bにおいては右刃左ねじれ刃による切削力が先端部側に向かうように働く。これにより、裏面取刃部10Aに働く切削抵抗と外周切れ刃部10Bに働く切削力とが互いに反対向きとなることにより内力として打ち消し合う。このため、被削材20に掛かる切削力が小さくなるような効果を得ることができ、被削材20の変形、ビビリ振動、コバ欠けなどの不具合を抑制することができる。
【0020】
[本発明の実施の形態の詳細]
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態の詳細について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0021】
まず、一実施の形態に係る切削工具10の構成について説明する。
図1に示されるように、本実施の形態に係る切削工具10は、例えば総形エンドミルよりなる切削工具であって、シャンク部10Cと、裏面取刃部10Aと、外周切れ刃部10Bとを有している。
【0022】
シャンク部10Cは、フライス盤の主軸に取り付けるための部分である。このシャンク部10Cは、たとえばストレートシャンクであるが、テーパシャンクであってもよい。
【0023】
裏面取刃部10Aは、切削工具10の先端部側に配置されている。裏面取刃部10Aは外周切れ刃部10Bよりも外周側に突き出している。これにより
図2に示されるように、切削工具10の先端部の最大径D1は、シャンク部10Cの最大径D2よりも大きくなっている。本実施の形態においては、複数個(たとえば4つ)の裏面取刃部10Aが配置されている。
【0024】
複数個の裏面取刃部10Aの各々は、裏面取刃1aを有している。この裏面取刃1aは、裏面取刃部10Aにおける逃げ面1bとすくい面1cとが交差する稜線により構成されている。複数の裏面取刃1aの各々は、シャンク部10Cから離れるしたがって外周切れ刃部10Bの回転中心Cから離れている。
【0025】
複数の裏面取刃1aの各々は、たとえば左ねじれ刃である。ただし、複数の裏面取刃1aの各々は、左ねじれ刃に限定されるものではなく、直刃であってもよく、また右ねじれ刃であってもよい。複数の裏面取刃1aの各々が直刃または右ねじれ刃であっても切削は可能であるが、裏面取刃1aによる先端方向への抵抗がなくなり、ビビリが大きくなり、被削材(ワーク)の上側にバリが生じやすくなる。したがって、複数の裏面取刃1aの各々は、左ねじれ刃であることが好ましい。
【0026】
外周切れ刃部10Bは、シャンク部10Cと裏面取刃部10Aとの間に位置している。外周切れ刃部10Bは、複数個(たとえば4つ)の切れ刃2aを外周面に有している。この複数個の切れ刃2aの各々は、外周切れ刃部10Bにおける逃げ面2bとすくい面2cとが交差する稜線により構成されている。複数個の切れ刃2aの各々は、右刃左ねじれ刃である。
【0027】
ここで「右刃」とは、シャンク部10Cから裏面取刃部10Aを見る視点において切削工具10が時計回りに回転することを意味する。また「左ねじれ刃」とは、シャンク部10Cから裏面取刃部10Aを見る視点において切れ刃2aが反時計回りの方向にねじれていることを意味する。別の言い方をすれば、「左ねじれ刃」とは、
図2に示す正面視において、切削工具10の回転中心(軸心)Cが延びる方向にそって、切れ刃2aが左上がりであることを意味する。
【0028】
なお「右ねじれ刃」とは「左ねじれ刃」の逆である。また裏面取刃1aが「直刃」であるとは、
図2に示す正面視において、裏面取刃1aが切削工具10の回転中心Cに平行であることを意味する。
【0029】
複数個の切れ刃2aの各々は、たとえば直線状に延び、かつマイナス角度に傾斜している。複数個の切れ刃2aの各々におけるねじれ角度θ(
図2)は、3°以上30°以下である。
【0030】
ここでねじれ角度θは、切削工具10の回転中心Cを基準に測定され、回転中心Cからの傾斜角度のことである。具体的には、
図2に示す正面視において回転中心Cを0°として、時計回りの角度θが「プラス角度」とされ、反時計回りの角度θが「マイナス角度」とされる。
【0031】
切削工具10は、複数個(たとえば4つ)の切屑排出溝3を外周面に有している。複数個の切屑排出溝3の各々は、外周切れ刃部10Bから裏面取刃部10Aを通じて切削工具10の先端に到るまで延在している。複数個の切屑排出溝3の各々は、左ねじれである。裏面取刃部10Aにおける切屑排出溝3の壁面の一部は、裏面取刃部10Aのすくい面1cを構成している。また外周切れ刃部10Bにおける切屑排出溝3の壁面の一部は、外周切れ刃部10Bのすくい面2cを構成している。
【0032】
裏面取刃部10Aの裏面取刃1aと外周切れ刃部10Bの切れ刃2aとは連なっている。裏面取刃部10Aの逃げ面1bと外周切れ刃部10Bの逃げ面2bとは連なっている。裏面取刃部10Aのすくい面1cと外周切れ刃部10Bのすくい面2cとは連なっている。
【0033】
切削工具10は、底刃10Dをさらに有している。底刃10Dは、シャンク部10Cと反対側の先端部に位置している。
【0034】
次に、本実施の形態における切削工具10を用いた切削加工方法について
図2を用いて説明する。
【0035】
図2に示されるように、切削工具10がシャンク部10C側から裏面取刃部10Aを見る視点において、切削工具10が時計回りの方向(
図2の矢印R方向)に回転する。この回転状態の切削工具10により被削材20が切削加工される。
【0036】
具体的には、被削材20の穴20aの壁面が切削工具10の外周切れ刃部10Bの切れ刃2aにより切削される。これと同時に、被削材20の裏面20b側における穴20aの開口端20cが裏面取刃部10Aの裏面取刃1aにより切削される。この裏面取刃1aによる切削によって、穴20aの開口端20cにおける抜けバリが除去されるとともに、開口端20cが面取り加工される。
【0037】
次に、本実施の形態の作用効果について、
図3に示す第1の比較例および
図4に示す第2の比較例の各々と対比して説明する。
【0038】
図3に示されるように、第1の比較例における切削工具110は、裏面取刃部10Aの裏面取刃1aと、外周切れ刃部10Bの切れ刃2aとの各々が直刃である点において本実施の形態の切削工具10と異なる。また
図4に示されるように、第2の比較例における切削工具120は、裏面取刃部10Aの裏面取刃1aと、外周切れ刃部10Bの切れ刃2aとの各々が右ねじれ刃である点において本実施の形態の切削工具10と異なる。
【0039】
上記の第1の比較例および第2の比較例の各々の上記以外の構成は、本実施の形態の切削工具10の構成とほぼ同じであるため、同一の要素については同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0040】
図3に示す第1の比較例の構成では、切れ刃2aが直刃であるため、切削加工時に切削抵抗が大きくなり、ビビリ振動が生じやすい。
【0041】
また
図4に示す第2の比較例の構成では、裏面取刃1aにおける切削抵抗力は、矢印A1で示すように、切削工具120の回転中心Cに沿ってシャンク部10C方向に向かうように生じる。また切れ刃2aが右ねじれ刃であるため、切れ刃2aによる切削力が、矢印A3で示すように切削工具120の回転中心Cに沿ってシャンク部10C方向に向かうように生じる。
【0042】
このように裏面取刃部10Aに働く切削抵抗と外周切れ刃部10Bに働く切削力とが互いに同じ向きに働く。このため、切削工具120の回転中心Cに沿ってシャンク部10C方向に被削材20を引き上げる力が大きく働く。これにより、被削材20の変形、ビビリ振動、コバ欠けなどの不具合を生じることが多くなる。
【0043】
これに対して本実施の形態の切削工具10によれば、
図2に示されるように、切れ刃2aが左ねじれ刃である。このため、切れ刃2aによる切削力は、矢印A2で示すように切削工具120の回転中心Cに沿って先端部方向に向かうように生じる。一方、切削加工時に裏面取刃部10Aには矢印A1で示すようにシャンク部10C側に向かうような切削抵抗が発生する。このように、切削抵抗と外周切れ刃部10Bに働く切削力とが互いに反対向きとなる。これにより上記切削抵抗と切削力とが互いに内力として打ち消し合う。このため、被削材20に掛かる切削力が小さくなるような効果を得ることができ、被削材20の変形、ビビリ振動、コバ欠けなどの不具合を抑制することができる。
【0044】
特に本実施の形態の切削工具10を用いて板状の被削材20を切削する場合、直刃に比べてねじれ刃効果により切削抵抗が小さくなる。また、
図2の矢印A1、A2で示すように両側から挟み込むような力によって切削加工が行われる。このため被削材20としての板状の薄肉部品を変形させるような力も小さくなる。また切れ刃2aが左ねじれ刃であるため、穴20aの入口側においてもバリの発生を抑えることもできる。
【0045】
本実施の形態の切削工具により得られる上記効果は、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)などの積層状の複合材料を切削する場合においては積層構造の剥離を抑えることにも働く。
【0046】
また
図2に示されるように、外周切れ刃部10Bの切れ刃2aは、直線状に延び、かつマイナス角度に傾斜している。これにより、外周切れ刃部10Bにおいて切削力を先端部側に向かうように働かせることができる。
【0047】
また外周切れ刃部10Bの切れ刃2aにおけるねじれ角度は3°以上30°以下である。これにより、適切に外周切れ刃部10Bにおいて切削力を先端部側に向かわせることができる。ねじれ角度が3°未満では、先端部側への切削力が不足する。またねじれ角度が30°を超えると、切れ刃の接触長が大きくなり、抵抗が大きくなりすぎる。
【0048】
また裏面取刃部10Aは外周切れ刃部10Bよりも外周側に突き出し、裏面取刃1aはシャンク部10Cから離れるしたがって外周切れ刃部10Bの回転中心Cから離れている。これにより、被削材20の裏面取りが可能となる。
【0049】
また切削工具10がシャンク部10Cと反対側の先端部に位置する底刃10Dをさらに備えていることにより、穴あけ加工が可能となる。
【0050】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。