(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6918052
(24)【登録日】2021年7月26日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】ピストンリング及びピストンリングを有する内燃機関用ピストン
(51)【国際特許分類】
F16J 9/26 20060101AFI20210729BHJP
F02F 5/00 20060101ALI20210729BHJP
F02F 3/10 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
F16J9/26 C
F02F5/00 F
F02F3/10 B
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-115110(P2019-115110)
(22)【出願日】2019年6月21日
(65)【公開番号】特開2021-1644(P2021-1644A)
(43)【公開日】2021年1月7日
【審査請求日】2020年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩下 誉二
(72)【発明者】
【氏名】大浦 信輔
【審査官】
熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−246823(JP,A)
【文献】
特開2008−248986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 9/26
F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンリングの上下面に樹脂系被膜を有する内燃機関用ピストンリングであって、
前記樹脂系被膜は、耐熱樹脂と固体潤滑剤とを含み、
前記ピストンリング上面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量とピストンリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量とが異なり、
前記ピストンリング上面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量が、前記ピストンリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量よりも多く、
前記ピストンリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量は、樹脂系被膜中5wt%以上である、内燃機関用ピストンリング。
【請求項2】
前記ピストンリング上面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量とピストンリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量とが、樹脂系被膜中5wt%以上異なる、請求項1に記載の内燃機関用ピストンリング。
【請求項3】
内燃機関の燃焼室側に配置される前記ピストンリング上面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量は、樹脂系被膜中20wt%以上60wt%以下である、請求項1または2に記載の内燃機関用ピストンリング。
【請求項4】
前記ピストンリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量は、樹脂系被膜中5wt%以上15wt%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関用ピストンリング。
【請求項5】
ピストンリングの外観が上下面で異なる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関用ピストンリング。
【請求項6】
ピストンリングが装着されるリング溝を有する内燃機関用ピストン、並びに
該ピストンのリング溝に装着されたコンプレッションリング及びオイルリング、
からなる、内燃機関用ピストンであって、
前記コンプレッションリングは、上下面に樹脂系被膜を有し、
前記樹脂系被膜は、耐熱樹脂と固体潤滑剤とを含み、
前記コンプレッションリング上面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量と、コンプレ
ッションリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量とが異なり、
内燃機関の燃焼室側に配置される前記コンプレッションリング上面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量が、前記コンプレッションリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量よりも多く、
前記コンプレッションリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量は、樹脂系被膜中5wt%以上である、内燃機関用ピストン。
【請求項7】
内燃機関の燃焼室側に配置される前記コンプレッションリング上面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量は、樹脂系被膜中20wt%以上60wt%以下である、請求項6に記載の内燃機関用ピストン。
【請求項8】
前記コンプレッションリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量は、樹脂系被膜中5wt%以上15wt%以下である、請求項6または7に記載の内燃機関用ピストン。
【請求項9】
前記内燃機関用ピストンはアルミ合金を含み、且つ表面がアルマイト処理されていない、請求項6〜8のいずれか1項に記載の内燃機関用ピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のピストンに装着されて用いられるピストンリング及びピストンリングが装着された内燃機関用ピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に用いられるピストンにはコンプレッションリングとオイルリングが装着される。このうちコンプレッションリングは、高圧の燃焼ガスが燃焼室側からクランク室側へ流出することを防止する機能を有する。
【0003】
コンプレッションリングは、内燃機関での使用により「アルミニウム凝着」が生じることが知られており、この問題を解決するため、様々な技術が提案されている。
例えば特許文献1では、高温・高負荷となるような厳しい摺動条件での自身の耐久性を確保するため、ポリイミド系耐熱樹脂に平均粒径3〜15μmの二硫化モリブデンを特定量添加した摺動部材用被覆材が提案されている。
【0004】
特許文献2及び3には、耐熱樹脂中に銅系粉末、ニッケル系粉末、鉛系粉末、亜鉛系粉末、スズ系粉末などを含有させてなる被膜をピストンリングの上下面に形成したピストンリングが提案されている。
特許文献4には、樹脂中に特定形状の繊維状充填材を含有させた樹脂系被膜で被覆されたピストンリングが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−246823号公報
【特許文献2】国際公開第2007/099968号
【特許文献3】特開2008−248986号公報
【特許文献4】国際公開第2013/065652号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、アルミニウム凝着の問題を解決するため、様々な提案がなされている。しかしながら本発明者らが検討したところ、ピストンリング、特にトップリングについて、燃焼室側の面であるリング上面とクランク室側の面であるリング下面のうち、アルミニウム凝着の問題が生じるのは主としてリング下面であり、これはリング下面が燃焼圧により、ピストン溝に押し付けられる事によるものであった。一方、燃焼室側であるリング上面側では、トップリングにかかる燃焼室方向への力(慣性力、及びセカンドランド圧力)により、リング上面と接するピストン溝に溝摩耗が発生していることを見出した。
【0007】
一方で、上下面の両面に、上記特許文献1乃至4で開示されたようなアルミニウム凝着を抑制し得る被膜を有するピストンリングを装着した場合、ピストンのリング溝に関しては、クランク室側の溝形状と比較して、燃焼室側の溝形状が大きく摩耗することを見出した。その結果、ピストンのリング溝の摩耗によってブローバイのリスクが高まるという新たな課題を見出した。
本発明は、上記ピストンのリング溝の摩耗によるブローバイ量増加のリスクを抑制し得る、ピストンリングを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ね、ピストンリングの上下面に樹脂系の被膜を有するピストンリングにおいて、前記樹脂系の被膜に含まれる固体潤滑剤の量を上下面で異ならせることで、上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
本発明の一形態は、ピストンリングの上下面に樹脂系被膜を有するピストンリングであって、前記樹脂系被膜は、耐熱樹脂と固体潤滑剤とを含み、前記ピストンリング上面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量とピストンリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量とが異なる、ピストンリング、である。
【0010】
前記ピストンリング上面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量とピストンリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量とが、樹脂系被膜中5wt%以上異なることが好ましく、内燃機関の燃焼室側に配置される前記ピストンリング上面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量は、樹脂系被膜中20wt%以上60wt%以下であることが好ましい。また、前記ピストンリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量は、樹脂系被膜中5wt%以上15wt%以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の別の形態は、ピストンリングが装着されるリング溝を有する内燃機関用ピストン、並びに該ピストンのリング溝に装着されたコンプレッションリング及びオイルリング、からなる内燃機関用ピストンであって、前記コンプレッションリングは、上下面に樹脂系被膜を有し、前記樹脂系被膜は、耐熱樹脂と固体潤滑剤とを含み、前記コンプレッションリング上面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量とコンプレッションリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量とが異なる、内燃機関用ピストン、である。
【0012】
内燃機関の燃焼室側に配置される前記コンプレッションリング上面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量が、前記コンプレッションリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量よりも多いことが好ましく、前記コンプレッションリング上面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量は、樹脂系被膜中20wt%以上60wt%以下であることが好ましい。また、前記コンプレッションリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量は、樹脂系被膜中5wt%以上15wt%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ピストンのリング溝の浸食によるブローバイリスクを抑制し得る、ピストンリングを提供することができる。また、当該ピストンリングを装着したピストンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ピストンのリング溝部分を拡大した断面模式図である。
【
図2】ピストンリングを装着したピストンの一実施形態を示す断面模式図である。
【
図3-1】ピストンリング上面想定溝摩耗試験に用いた試験機の模式図である。
【
図3-2】ピストンリング上面想定溝摩耗試験に用いた試験機の、一部拡大模式図である。
【
図4】ピストンリング上面想定溝摩耗試験結果を示すグラフである。
【
図5】ピストンリング下面想定叩き摩擦試験に用いた試験機の模式図である。
【
図6】ピストンリング下面想定叩き摩擦試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態は、ピストンリングの上下面に樹脂系被膜を有するピストンリングであって、前記樹脂系被膜は、耐熱樹脂と固体潤滑剤とを含み、前記ピストンリング上面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量とピストンリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量とが異なる。
【0016】
ピストンリングの材質は、コンプレッションリングを形成できれば特に限定されず、各種鋼材、鋳鉄材などを用いることができる。
本実施形態においてピストンリングの上下面を被覆する樹脂系被膜は、耐熱樹脂及び固体潤滑剤を含む。耐熱樹脂は、典型的にはポリイミド系樹脂や、ポリアミドイミド系樹脂があげられるが、内燃機関用ピストンに適用可能な耐熱性樹脂であれば、これらに限定されない。
【0017】
固体潤滑剤は、樹脂系被膜中に添加することで、樹脂系被膜の表面潤滑性を向上させ得る。固体潤滑剤は、典型的には二硫化モリブデン、グラファイト、及びポリテトラフロロエチレン(PTFE)があげられるが、これらに限られず、窒化ほう素、フッ化黒鉛等を用いてもよい。
【0018】
本実施形態において、ピストンリング上下面を被覆する樹脂系被膜中の固体潤滑剤含有量は、上下面で異なる。これまで、アルミニウム凝着の問題を解決するために、様々な提案がなされているところではあるが、アルミニウム凝着が生じ得る詳細なメカニズムについては十分解明されていなかった。
本発明者らは、アルミニウム凝着を抑制すべく、固体潤滑剤を添加した樹脂被膜を上下面に有するピストンリングを用いて摺動試験を行ったところ、ピストンのリング溝に、
図1に概略を示すような摩耗が抑制できないことを見出した。すなわち、ピストンのリング溝において、燃焼室側の角が大きく摩耗され、クランク室側の角はそれほど大きく摩耗されないことが解った。
この現象に関して、本発明者らの推定を以下に説明する。
【0019】
図1は、ピストンリングを有するピストンを装着した内燃機関において、内燃機関を一定時間回した後の、ピストンのトップリング用リング溝の断面図を模式的に示した図である。図中13はトップリングであり、ピストン2のピストン溝3に装着されたトップリング13は、その外周面がシリンダボア1を押圧しながら摺動を繰り返す。図中ピストン2において一点鎖線で示す燃焼室側のリング溝側面は、摩耗が大きい。一方で、図中ピストン2において二点鎖線で示すクランク室側のリング溝側面は、摩耗が小さい。
【0020】
ピストンリングは、ピストンの上下動に伴い、特にシリンダボア側部分が上下に可動し得る。この際、ピストン2とシリンダボア1との隙間を伝って燃焼圧が、ピストンリング13に対し、燃焼室側から図中下向きに伝わる。そして、ピストンリング13の下面は、ピストン溝の下面に対し、上下動と燃焼圧による物理的な力で叩く。そして、その物理的な叩く力によって被覆樹脂が破れ、更にその後も叩かれ続けることで、アルミニウム合金表面の微小な破壊が生じ、ピストンリングへのアルミニウム凝着が生じる。ここで被膜を、アルミニウム凝着を抑制し得る樹脂被膜とすることで、アルミニウム凝着は抑制できるが、一方でピストンのリング溝の角部分はピストンリングにより叩かれ続けることで、角が摩耗してしまうと推定される。
【0021】
他方、リング溝の上面は、ピストンリングからの物理的な力により叩かれることはないが、ピストンの上下動に伴って、ピストンリング円周方向にピストンリングが回転するモーメントが発生する。特に捩じれ形状のピストンリングの場合には、上下動時の変形も加わり、ピストンリングが回転し易い。そのため、ピストンリング上面の樹脂被膜とピストンのリング溝上面とが擦れ、リング溝上面はピストンリング上面との摩擦によってなだらかに、且つブロードに摩耗されると推定される。
【0022】
上記の通り、リング溝の上下面における摩耗のメカニズムが異なることから、それぞれの摩耗メカニズムを考慮して、ピストンリングの上下面の特性を考慮する必要があること
に、本発明者らは想到した。
そして本実施形態では、ピストンリング上面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量とピストンリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量とを異ならせることで、上記ピストンのリング溝の摩耗によるブローバイ量増加リスクを抑制する。
【0023】
前記ピストンリング上面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量とピストンリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量とが、樹脂系被膜中5wt%以上異なることが好ましく、10wt%以上異なることがより好ましい。
前記ピストンリング上面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量は、樹脂系被膜の潤滑性を向上させるため、樹脂系被膜中通常20wt%以上であり、25wt%以上であってよく、30wt%以上であってよく、通常60wt%以下であり、50wt%以下であってよい。なお、60wt%を超えると、樹脂系被膜の摩耗量が増加する傾向にある。
前記ピストンリング下面の樹脂系被膜に含まれる固体潤滑剤の量は、樹脂系被膜の物理的耐久性を向上させるため、樹脂系被膜中通常5wt%以上であり、10wt%以上であってよく、また、15wt%以下であってよい。
なお、固体潤滑剤を2種以上含有する場合には、その合計量が上記範囲であればよい。
【0024】
次に、本実施形態のピストンリングが装着されたピストンについて、図を用いて説明する。
図2は、ピストンリングが装着されたピストンの断面図である。
ピストン2には、燃焼室側から第1の溝3、第2の溝4、及び第3の溝5が形成されている。第1の溝3には、コンプレッションリングであるトップリング13が装着され、第2の溝4には、コンプレッションリングであるセカンドリング14が装着され、第3の溝5には、組合せオイルリング15が装着される。
ピストン2は、通常アルミ系の合金により形成される。ピストン2がアルミ合金ではない場合や、アルマイト処理されている場合、そもそもアルミニウム凝着が生じにくいため、本実施形態はピストン2がアルミ合金を含み、且つ表面がアルマイト処理されていない場合に、好適に適用される。アルミ合金としては、通常ピストン材として用いられるものを適宜用いることができる。
【0025】
トップリング13、セカンドリング14、組合せオイルリング15の図中右端部は、シリンダボア1と接触して摺動する摺動面であり、被膜により被覆されていてもよい。一実施形態では、トップリング13の、シリンダ1の内壁との摺動面、即ちトップリング13の外周面は、DLC被膜を有し、オイルリング15の、シリンダ1の内壁との摺動面、即ちオイルリング15の外周面は、PVD被膜を有する。
【0026】
本実施形態のピストンリングは、その上下面で固体潤滑剤の含有量が異なるため、適切な向きでピストンに装着することが重要である。そのため、上下面の被膜のうちいずれかにマーキングすること、上下面の被膜色が異なること、上下面の被膜のうち一方を着色すること、など、上下面の被膜の外観が異なるピストンリングとすることで、ピストンリング装着の向きを間違えるリスクを低減できる。また、ピストンリングの上下面の外観を異ならせること、すなわち上下面の被膜の外観を上記のように異ならせることに加え、ピストンリング上下面の外観を異ならせることで、ピストンリング装着の向きを間違えるリスクを低減してもよい。例えば、面取り等によりピストンリングの上下面の形状を変えること、ピストンリングそのものの上下面のいずれかに刻印を施すこと、などが、ピストンリング上下面の外観を異ならせる例としてあげられる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明について、実験例により詳細に説明するが、本発明は以下の実験例の結果によって、限定されるものではない。
【0028】
<1.樹脂系被膜の調製>
溶剤中に、被膜を形成する樹脂としてポリイミド樹脂と、以下の表1に示す量の固体潤滑剤とを添加した樹脂系被膜用塗布液1〜8を調製した。固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、PTFE、グラファイト、を総量として表1に示す量となるように用いた。調製した樹脂系被膜用塗布液1〜8を、外径φ73mm、高さ1.2mm、幅2.3mm、断面レクタンギュラの、外周クロムめっきが施されたピストンリングに塗布し、樹脂コートピストンリング1〜8を得た。
【0029】
【表1】
【0030】
<2.ピストンリング上面想定溝摩擦試験>
ピストンリングの上面(燃焼室側)と対向するピストン材の摩擦試験を行った。ピストンにおけるリング溝の上面は、ピストンリングからの物理的な力により叩かれることはないが、ピストンの上下動に伴って、ピストンリング円周方向にピストンリングが回転するモーメントが発生して摩擦が生じるとの推定のもと、
図3−1に概要を示す溝摩擦試験機20を用いて樹脂コートピストンリング1〜8に対し溝摩擦試験を行った。試験条件は、以下のとおりとした。結果を表2及び
図4に示す。なお、
図3−2は、
図3−1中の一点鎖線部分を拡大した図であり、表2は樹脂コートピストンリング5の摩耗量を1とした場合の摩耗比を示す。
・上面側荷重 30N
・下面側荷重 30N
・回転数 1200rpm
・溝幅(上下)1.26mm
・温度 室温
・潤滑油 0W−16を試験時間30分毎に50μl
・試験時価 5時間
【0031】
【表2】
【0032】
<3.ピストンリング下面想定叩き摩擦試験>
ピストンリングの上面(燃焼室側)と対向するピストン材の叩き摩擦試験を行った。ピストンリングの下面は、上下動と燃焼圧による物理的な力でピストン溝の下面を叩き、ピストンにおけるリング溝の下面の角部分が摩耗してしまうとの推定のもと、
図5に概要を示す叩き摩擦試験機30を用いて樹脂コートピストンリング1〜8に対し試験を行った。試験条件は、以下のとおりとした。結果を表3及び
図6に示す。なお、表3は樹脂コートピストンリング4の摩耗量を1とした場合の摩耗比を示す。
・叩き荷重 588N
・叩き速度 700回/分
・温度 250℃/170℃(ピストン/ピストンリング)
・潤滑油 10W 初期塗布のみ
・試験時間 2時間
【0033】
【表3】
【符号の説明】
【0034】
1 シリンダボア
2 ピストン
3 第1のリング溝
4 第2のリング溝
5 第3のリング溝
13 トップリング
14 セカンドリング
15 オイルリング
20 溝摩擦試験機
21 ピストンリング
22 ピストン材
23 ピストンリングホルダー
24 オイル
25 ピストンピン
F
U ピストン材上側面荷重
F
L ピストン材下側面荷重
30 叩き摩擦試験機
31 ピストンリング
32 ピストン材
34 オイル
35 ヒーター
36 スプリング
151 上セグメント
152 下セグメント
153 エキスパンダ・スペーサ