(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
[詳細な説明]
<定義>
「プレカラム」とは、6インチ(15.24cm)の長さの多孔質ポリマーで充填されたカラム又は短い厚膜毛細管カラムを意味する。許容可能な多孔質ポリマーの例は、HayeSep(登録商標)Nという商標で販売されている多孔質ポリマーである。
【0024】
「酸素保持カラム」とは、カラム内での酸素の保持時間がイオン化可能化学ガス種についての保持時間よりも長い、充分な長さを有する、充填カラム、PLOTカラム、又は毛細管カラムを意味する。
【0025】
「イオン化可能化学ガス種」とは、化学種のイオン化可能ガス水素化物基材又は化学種の化学元素のイオン化可能ガスを意味する。
当業者の従来の知見は、PID検出器が炭化水素の検出のために使用されるということである。他の技法が、通常、遷移金属、ポスト遷移金属、及び半金属のために使用される。通常使用される最も一般的な技法は、水素化物生成原子吸光分析法(HGAAS)又は水素化物生成原子蛍光分析法(HGAFS)、感度を改善するための、黒鉛炉原子吸光分析法(GFAAS)、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP−OES)、超音波霧化を用いる誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)、陽極ストリッピングボルタンメトリー(ASV)、及び分光測光法を含む。
【0026】
原子吸光分析法と原子蛍光分析法は共に、公知かつ制御可能な干渉を有する、高感度の、単一元素用の技法である。しかしながら、AAS及びAFSは、ほぼ常に、水素化物生成方法と結び付けられ、ヒ素(As(III)、As(V))が還元されてAs(III)酸化状態になり、揮発性ガスであるアルシン(AsH
3)を生成し、アルシン(AsH
3)は、その後、液体窒素を使用して予備濃縮されるか又は検出器内に直接押し流される。誘導結合プラズマ技法は、これも公知かつ制御可能な干渉を有する(例えば、Asはモノアイソトピック元素であるため、同重体干渉がよく見られる)、多元素用の技法であるため、多くの混入物を調べる可能性を提供する。陽極ストリッピングボルタンメトリーは、遊離した溶解ヒ素のみを含む試料について有用な技法である。単一元素用の技法でもある分光測光法は、機器の点で比較的安価であるという利点を有する。
【0027】
1980年代初頭、低い十億分の1レベルのAsH
3(5ppb)及びPH
3(2ppb)を検出する、PIDを有する自動GC(ガスクロマトグラフ)が導入された。この技法は、今でもAsH
3を検出するための最も感度が高い方法の1つである。水中のヒ素についての光イオン化(PID)技法について十分に述べられてきた。より最近、PID検出器が、水素化物生成器を使用して水中のヒ素を十億分の1まで検出するために使用されてきた。GC/PID法が使用される場合、GC内に注入される試料の量が直接PID法よりずっと少ないため、試料が濃縮される必要がある。
【0028】
典型的なGC/PID法は、液体窒素トラップ(シラン処理されたガラスウールで充填されたガラスU字管)内にAsH
3を捕集することを含み、その後、捕集されたAsH
3は、アルシンを再揮発させるために熱を印加することによって液体窒素トラップから除去され、アルシンは、その後、充填カラムを有するGC内に押し流される。窒素ガスの流れは、GC/PID法全体を通して連続的である。
図17は、液体窒素トラップを用いるGC/PID法の概略図を示す。該方法は、スパージャ1に試料を添加することを含み、スパージャ1は、70〜100ccの典型的な容量を有する容器1aであり、入口2と、出口3と、容器1a内に液体試料を注入するための注入ポート4(隔膜)とを有する。通常、40ccの量の液体試料5が容器内に配置され、1ccの4%水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤が、液体試料に添加される。金属塩(MO
3−3)(すなわち、イオン性種)が還元されて、金属水素化物(MH
X)ガス(すなわち、該種のイオン化可能基材)になる。液体試料5は、入口2を介して窒素ガス(N
2)で連続的にパージされ、液体試料5を撹拌し、MH
3ガスを液体試料5及びヘッドスペース6から除去し、MH
3ガスが冷却されトラップされるU字管8aを含む液体窒素トラップ8に溶出する前に、約―50℃の温度を有する水蒸気トラップ7にMH
3を溶出させる。この工程の後、トラップされた金属水素化物は、急速に加熱され、原子吸光分析器又はGC9内に脱着される。6方向弁8
bは、通常、AA又はGC9内に注入する前に試料の取り扱いを容易にするために使用される。
【0029】
酸素がPID応答を抑制することが知られており、それが、以下の式で最もよく表される。
R+hμ=R
++e
−(光イオン化では、イオンが捕集され測定される)
O
2+e
−=O
2−
R
++O
2−=R+O
2(この反応は、e
−に対するO
2のサイズのために1000倍起こりやすい)
水による抑制は、O
2について上述したのと同じメカニズムによる。更に、水は、120nmで光子を強く吸収し、それにより、光イオン化のために利用可能な光子の数を減少させる。
【0030】
そのため、水も、従来技術で使用される窒素流から除去されなければならず、これは通常、金属水素化物を含む窒素流が液体窒素トラップに入る前に、
図17に示すような別個のコールドトラップ7又は乾燥剤(図示せず)によってなされる。
【0031】
従来技術のように、本発明は、水性試料に酸性溶液(例えば、0.6M HCL)を添加し、次に、還元剤(例えば、NaBH
4)を添加することによる、水素化物生成を含む。本発明は、PID又はGC/PID内に注入するためにイオン性種及び/又はイオン性種の基材を生成し調製する方法において従来技術の技法と異なる。一実施形態では、容器内への窒素の非連続的パージが使用される。別の実施形態では、容器内への窒素の連続的パージが使用され得る。特に、本発明は、液体窒素トラップが存在しないこと(すなわち、使用しないこと)によって従来技術の技法と異なる。幾つかの実施形態では、本発明は、加熱脱着工程が存在しないことによって従来技術の技法と異なる。換言すれば、PID又はGC/PID内に注入する前に金属水素化物を再揮発させるために、その後、急速に加熱されなければならない容器から溶出する窒素ガスの連続流内を流れる金属水素化物を濃縮するために従来技術において必要とされる液体窒素トラップは、本発明の方法において使用されない。また、本発明は、特定の種のある低レベルppt測定を除いて、別個の濃縮器を必要としない。
【0032】
水素化物生成について本発明で使用される反応容器は、後述するスパージャ又はVOAバイアルであり得る。スパージャは、入口と、出口と、還元剤及び任意選択的に酸化剤の添加用の隔膜とを有する、約80ccの容量を有する容器である。例えば、磁気攪拌機等の撹拌機構は、任意選択的にまた好ましくは、溶液を撹拌し、容器のヘッドスペース内にMH
3ガスをより迅速に押しやるために使用される。酸素がPID応答を抑制することになるため、特に、低い10億分の1レベルが測定される必要がある場合に、窒素ガスが使用されて、試料及びヘッドスペースの酸素をパージし、MH
3ガスの発生のために試料を調製する。窒素パージは、通常、数分間実施され、その後停止される。予め規定された時間、対象の種を有する水性試料を含む容器の窒素パージを実施した後、還元剤、及び任意選択的に酸化剤が、水性試料内の種に応じて酸性の水性試料に添加される。水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)等の還元剤の場合、水性試料に添加されるNaBH
4の量は、約4%の範囲である。より高い端点が、水性試料内で測定される種の低いppbレベルについて必要とされる。酸化剤は、例えば鉄又は鉛等の一部の場合に含まれて、試料を酸化して、Fe
+2からFe
+3に又はPb
+2からPb
+4にする。酸化剤の例は過酸化水素(H
2O
2)である。MH
Xガス種は、時間の経過とともに水性試料から自然に遊離することになるが、磁気撹拌が好ましくは使用されて、還元剤及び/又は酸化剤を含む試料を撹拌し、水性試料からMH
Xガスを迅速に遊離させる。窒素パージはその後、スパージャからガス試料を溶出する前に予め規定された時間の間停止される。ガス試料は、手動で又は自動注入システムによって溶出され得る。
【0033】
窒素パージが停止される撹拌機構を組み込む実施形態では、撹拌は、窒素パージが停止された後に継続する。スパージャのヘッドスペース内へのMH
Xガスの蓄積を可能にするために、窒素パージが停止された後の(検出されるレベルに応じた)予め規定された時間が、予め規定された量の(好ましくは約1ccの)MH
Xガスがスパージャのヘッドスペースから溶出される前か、又は、PID検出器もしくは光イオン化検出器を有するGC内に注入される前に、経過する。50ppbより高いレベルの場合、予め規定された時間は約2〜6分である。2分試料から5分試料への感度の増加は、3〜5倍である可能性がある。50ppbより低いレベルの場合、予め規定された時間は約10〜12分である。高いレベルの水蒸気において、信号は著しく減少するが、GCが使用される場合、GCは、水蒸気信号から金属関連信号を分離する。特に、低いppb又は低いレベルが検出されるべき場合に、本明細書で述べる他の機構がMH
3の金属を濃縮するために使用されるという条件で、窒素パージが連続的であってもよいことが留意される。
【0034】
光イオン化検出器から出力されるデータの品質を改善するために、MH
3ガスは、任意選択的に、反応容器内のヘッドスペースの初期内容物に応じて、(1)PID又はGC/PIDに注入される前に酸素保持カラムを、又は、(2)PID又はGC/PIDに注入される前にプレカラムを、又は(3)PID又はGC/PIDに注入される前に酸素保持カラムとプレカラムの両方を、通過させられ得る。カラムは、充填カラム、多孔質層開放管(PLOT)カラム、又は毛細管カラムのうちの1つである。充填カラムは、好ましくは、Tenax(登録商標)GS又はChromsorb(登録商標)又はHayesep(登録商標)又はPoropack(登録商標)という商標で販売されている多孔質ポリマーで充填される、6フィート(182.9cm)の長さの1/8インチ(0.32cm)カラムである。充填カラムの場合、数分間の窒素パージが、低い10億分の1(ppb)濃度のO
2を除去するために必要であり得る。PLOTカラムは、多孔質ポリマーで充填される。任意選択的に使用される最も好ましいカラムは、毛細管カラムである。好ましい毛細管カラムは、厚膜毛細管カラムである。その理由は、厚膜毛細管カラムが、水性試料のために使用され得るのみでなく、かなりのレベルの有機化合物を含む食物及びジュースの分析についてより良好であるからである。毛細管カラムの例は、30メートル×0.53mmのものであり、種々の液相を有する。「厚膜」は、通常、0.32mm厚で3〜8ミクロン膜を有する。圧膜毛細管カラムの使用は、優れた分解能を提供するのみでなく、改善された感度を提供する低い流量もまた有する。実際には、改善された感度は、非常に急峻なピーク及び改善された分解能により約10倍良好である。
【0035】
明確にするため、充填カラムが同様に使用され得るが、ピークは幅広であり、検出限界が、約5〜10ccオーダーのかなり多い試料を必要とし得る。
PLOTカラム及び毛細管カラムは、当業者に知られている種々の科学機器供給業者から入手可能である。毛細管又はPLOTカラムの場合、O
2は、MH
3ガスから分離されるため、水性試料を含むスパージャはパージされる必要がない。更に、本発明の方法は、任意選択的にプレカラム(後述する)が使用される場合、水トラップ又はチラーを必要としない。
【0036】
低い1兆分の1レベルが必要とされる測定の場合、試料は、試料を捕集するために任意選択的に設けられる陽イオン交換カラムを通過させられる。試料は、その後、塩溶液で脱着され、試料は、今や10倍に濃縮される。一例では、約250ccの1ppb試料が捕集され、その後、10ccの0.1M 塩化ナトリウム溶液で脱着される。別の例では、試料は、約25ccの0.1M 硝酸ナトリウム溶液で脱着される。
【0037】
本発明の方法を使用すると、イオン性種の基材(例えば、金属水素化物)を1cc直接注入すれば、低い又は下位の10億分の1レベルを検出するのに十分である。
多くの金属、非金属、半金属が水素化物を形成し、対応する金属水素化物が約8〜12eVの範囲のイオン化電位を有するため、本発明の方法は、限定はしないが、少数を挙げると、ヒ素、アンチモン、カドミウム、鉛、鉄、クロム、ゲルマニウム、インジウム、トリウム、セレン、テルル、ビスマス、スズ、及び水銀を含む種々の種を測定することが可能である。ヒ素と違って、他の種の多くは、ずっと低い感度を有する。その範囲は、10〜100倍低い。これらの種の場合、陽イオン交換カラムの使用等の濃縮ステップを用いて、低い10億分の1レベルを検出してもよい。
【0038】
図1は、PID検出器又はPID検出器を有するGCである検出器システム10を使用する場合の、本発明の方法を使用するシステムを概略的に示す。この例証は、この例ではスパージャである容器12と、ガス入口14と、ガス出口16と、液体試料5及び/又は還元剤及び/又は酸化剤を受け取るためのポート18とを備える。ガス出口16は、試料の取扱いを容易にするために、10ポート弁19に接続される。弁19にはまた、プレカラム22、酸素保持カラム20、活性炭カラムか金膜のいずれかである、任意選択的に設けられる濃縮カラム24、パージガス入口26、排出口/廃棄物28、及び検出器システム10にも接続される。上述され、また、容器12に試料を添加する前に、ある特性を有する幾つかの試料を処理するために使用される、任意選択的に設けられる陽イオン交換カラムは図示されていない。ガス入口14は、使用時には窒素パージ用のポートである。ガス出口16は、ヘッドスペース6からプレカラム22まで、また、任意選択的に、窒素ガスが任意の空気の容器12をパージするために使用されない場合には酸素保持カラム20を通して、イオン化可能水素化物種を溶出させるためのものである、溶出するイオン化可能水素化物種は、その後、検出器システム10に注入される。任意選択的に設けられる濃縮カラム24は、イオン化可能化学ガス種を含むガス試料が濃縮カラム24を通過させられるときに、イオン化可能化学ガス種の濃縮器として使用される。適切な量のイオン化可能化学ガス種が濃縮カラム24内に保持されると、濃縮カラム24は、熱源30による急速加熱を受けて、イオン化可能化学ガス種を遊離させる。イオン化可能化学ガス種は、その後、検出器システム10に注入される。濃縮カラム24は、MH
3濃縮用の活性炭カラム及び水銀検出の感度向上用の金濃縮器に関して更に説明される。
<様々な種の検出>
上述され、
図1で示された本発明の方法は、ヒ素、鉛、鉄、カドミウム、及びスズを含む、列挙した種の幾つかを含む、公知の水性試料を試験するために使用された。
【0039】
特定の例において開示されない限り、各水性試料は、散布容器内に配置され、水素化ホウ素ナトリウム還元剤が溶液に添加される前に、数分間、窒素パージングを受けた。その溶液は、磁気攪拌機によって撹拌された。窒素パージングは、金属水素化物の信号を低下させる可能性がある酸素のほとんどを除去した。当該方法において上述したように、50ppbより高いレベルについて還元剤を添加した後約5分間、金属水素化物の濃度がスパージャのヘッドスペース内で増加している間、窒素パージは停止されたが、撹拌は継続した。50ppbより低いレベルの場合、濃縮時間は、約10分から約12分であった。予め規定された時間の終わりに、散布容器内で生成された金属水素化物ガスは、GC/PIDシステムに溶出された。
【0040】
図2は、リンゴジュース中のヒ素用のPID検出器によって測定された計数のグラフを示す。
図2を見てわかるように、本発明の方法は、ヒ素(III)及びヒ素(V)について明瞭なピークを提供する。ヒ素(III)は、ヒ素(V)についての濃度より低い濃度を有する。
【0041】
図3A及び3Bは、鉛用のPID検出器によって測定された計数のトレースを示す。(Pb
+2をPb
+4に変換するために、H
2O
2が添加されて)水性鉛標準液が調製され、各試験について約100ppb鉛を有する溶液を提供した。
図3Aのグラフに示すよう
に、散布容器から溶出したガス試料の注入物は、約12分のマークにおいて注入され、100ppbの鉛のピークは約1分後に生じた。
【0042】
図3Aの試験用の方法とは異なり、
図3Bに示す試験は、カラム無しで、乾燥剤無しで、攪拌機無しで実行され、窒素パージングは、約2.5分から約3分の間実行され、水素化ホウ素ナトリウム還元剤が添加されてから1分で停止された。
図3Bに示すように、鉛ピークは、
図3Aに示した鉛ピークと実質的に同様である。鉛感度がヒ素の感度の1/10であることを除いて、この実験は、撹拌機構を包含することが、得られる結果に関して任意選択的であり、また、唯一の差が、PID検出器にガス試料を溶出させる前に必要とされる窒素パージング後の待ち時間であることを示す。
【0043】
図4は、鉄用のPID検出器によって測定された計数のトレースを示す。鉄標準液が、調製されて、約100ppbを有する溶液を提供した。この場合、酸化剤(例えば、過酸化水素水)が試料に添加されて、Fe
+2をFe
+3に変換した。グラフは、100ppb鉄の明確なピークが、注入した後約1分で明確に現れたことを示す。
【0044】
ここで
図5を参照すると、カドミウム用のPID検出器によって測定された計数のトレースが示される。カドミウム標準液が調製されて、約100ppbを有する溶液を提供された。トレースは、100ppbカドミウムの明確なピークが、注入後1分をわずかに過ぎて明確に現れたことを示す。
【0045】
図6は、スズ用のPID検出器によって測定された計数のトレースを示す。スズ標準液が調製されて、約100ppbを有する溶液を提供された。トレースは、微量ヒ素の小さなピークの後の100ppbスズの明確なピークが、注入後に現れたことを示す。
<窒素パージングの効果>
図7A及び7Bは、ヒ素の低いppbレベルについて、システムの窒素パージングが有る状態と無い状態での、ヒ素用のPID検出器によって測定された計数のトレースを示す。試料は、低いppbレベルのヒ素測定について、窒素を用いてシステムから酸素をパージする必要性を試験するために、水を除去すべく充填カラムを介して溶出された。
図7Aは、窒素パージングの無いものを示す。
図7Bは、2〜3分間の窒素パージングを示す。ヒ素(AsH
3)が、(PID応答を抑制する)酸素と共に充填カラムにより保持されない化合物であるため、
図7A及び
図7Bは、低いppbレベルのヒ素に関する影響を示す。トレースを見てわかるように、窒素パージングが実施されない場合、ヒ素は完全にマスクされる。窒素パージングによって、ヒ素ピークが現れる。
<PIDの感度>
図8A、8B、及び8Cは、低レベルのヒ素を測定するPIDの感度を示す、ヒ素用のPID検出器によって測定された計数のトレースを示す。
図8Aは、1ppbのヒ素を含む水性試料についてのトレースを示す。
図8Bは、10ppbのヒ素を含む水性試料についてのトレースを示す。
図8Cは、100ppbのヒ素を含む水性試料についてのトレースを示す。
【0046】
図9は、1ppb及び10ppbのヒ素用のPID検出器によって測定された計数のプロット/グラフを示す。グラフは、該グラフが測定された計数の線形相関であり、したがって、低いppbレベルのヒ素を判定するための信頼性のある方法であることを示す。
【0047】
図10A及び10Bは、水中に10ppbヒ素を含む水性試料のPIDによって測定された計数のトレース及びグラフをそれぞれ示す。試料は、窒素によって2〜3分間パージされ、その後、還元剤(水素化ホウ素ナトリウム)が添加され、窒素パージが停止される一方で、撹拌が継続された。1ccガス試料が1分ごとに注入された。
図10Aを見てわかるように、最大値は4〜6分の間に生じるため、複数回の注入が行われてもよい。
図1
0Bは、ピーク高さ値のプロット/グラフである。EPAによって公表された、測定するために必要であるヒ素のレベルは、(FDAによれば)飲料水では10ppmであり、リンゴジュースでは10ppbである。そのため、1ppbの測定が、ヒ素を検出する任意の分析方法について必要である。
<低いPPBレベルでカラムを組込む効果>
図11は、カラムのタイプがPID応答に及ぼす影響を示す、対象となる種としてヒ素を使用する結果を比較するグラフを示す。x軸は、測定試料中のヒ素の実際のppbであり、y軸は、PIDによって測定されたヒ素のppbである。毛細管カラムが、低いppbレベルにおいて最良の結果を提供することが試験データから明らかである。カラムが試験に組み込まれず、かつ、窒素パージが無い場合、信号は、10パーセント(10%)より大きな値だけ低下した。1ppbレベルにおいて、窒素パージングが酸素を除去するために使用された場合、得られる値は、予想された1ppbではなく、0.35ppbであったことは注目すべきである。これは、水蒸気によって引き起こされたものであり、80%を超える感度の減少を表す。充填カラム(Tenax(登録商標)GSで充填された6フィート×1/8インチ(188.9cm×0.32cm)カラム)が使用される場合、ヒ素(AsH
3)が保持されない化合物であり、空気ピークの非常に近くで溶出し、酸素を除去するための数分間の窒素パージングが、信号の低下を防ぐために必要とされることを示すことも見い出された。
【0048】
図12は、毛細管カラムを使用する、10ppb As水性試料についてのPID応答を示すトレースを示す。トレースが示すように、信号のピークは急峻でかつ顕著である。<酸化剤の効果>
図13〜15は、低レベルヒ素の水性試料に酸化剤を組み込む効果を示すトレースを示す。これらの実験では、0.6M HCl中に9.2ppb水性ヒ素試料が調製された。1ccの水素化ホウ素ナトリウム還元剤が試料に添加されて、還元を開始した。これは、当業者に公知の典型的な水素化物生成手順である。これらの実験の場合、濃縮器/トラップが使用された。具体的には、使用される濃縮器/トラップは、活性炭を含む第3のカラム24であった。捕集後、6インチ(15.24cm)トラップ(すなわち、第3のカラム24)は約1分から約2分の間、150℃まで加熱され、AsH
3を除去するために試料が10ポート弁を介して注入され、AsH
3を検出システムに導いた。
【0049】
図13は、トラップから脱着された後のヒ素試料のトレースを示す。トレースに見られるように、注入後1分で、As(III)の小さなピーク及びAs(V)の大きなピークが得られた。As(V)のピークは、ピーク後に幅広の面積を有し、その幅広の面積は、未反応生成物であると思われる。これは、低い濃度ではかなり速度が落ちる反応速度論により、より高いレベルでは見られないことに留意されたい。
【0050】
図14は、酸化剤が水性試料に添加されたヒ素試料のトレースを示す。この場合、酸化剤は、過酸化水素水(H
2O
2)であった。1mlの3%H
2O
2が水性試料に添加されて、As(III)をAs(V)に変換し、
図13に見られる未反応生成物As(V)の反応を促進した。
図13と比較すると、
図14のAs(V)ピークが、
図13で観測される長いテールを持たず、ピーク高さ(PH)及びピーク面積(PA)が30パーセント(%)より大きい値だけ増加したことを示す。As(V)をAs(III)に還元するためにヨウ化カリウム(KI)を使用する従来の処理方法は逆である。これは、
図15に示される。
【0051】
ここで
図15を参照すると、As(V)をAs(III)に還元するためにヨウ化カリウム(KI)を使用する従来の処理方法のトレースが示される。この従来の方法では、1ccの2%KIが水性試料に添加される。
図15に示すように、As(III)についてのピークは増強されるが、溶出されるAs(V)が依然として存在する。これは14分後
でさえも起きていた。
【0052】
図14と
図15の比較から、As(III)をAs(V)に酸化する酸化剤の添加が、As(V)をAs(III)に還元するKIの添加に比べて、より明瞭な信号を与え、より良好な手順であるように見える。しかしながら、毛細管カラムを有するPIDは、As
+3とAs
+5の両方を検出し分離することになる。
<複数種の検出>
図16は、水性試料中の複数種の検出について本発明の有効性を示す。この特定の実験では、15ppbのAs(ヒ素)及び60ppbのCd(カドミウム)を含む試料が調製された。この手順は、先に述べた方法によって厚膜毛細管カラムを使用することを含んでいた。具体的には、試料は、10ccのCdと、5ccのAsと、5ccの脱イオン水とを混合することによって調製された。窒素パージが、還元剤NaBH
4を添加する前に本発明の方法について使用された。PID流量は20cc/分であった。
図16に見られるように、ヒ素ピーク及びカドミウムピークは比較的急峻であり、信号は明瞭に分離され、本発明の方法を使用して複数の金属が検出可能であることを示す。
【0053】
本発明の利点は、(1)連続的な窒素パージングを必要としないが、やはり使用し得ること、(2)プレカラムが使用される場合には、水を除去するコールドトラップが必要とされないこと、(3)金属水素化物を捕集するための液体窒素トラップ/濃縮器が必要とされないこと、(4)酸素を除去して信号低下を防ぐために窒素パージングが短時間使用されること、(5)使用可能な結果を得るために、ヘッドスペースのわずか1ccのガス試料が必要とされること、及び、(6)複数種を測定するためにPIDを使用することが、他のいずれの従来の方法よりも費用効果が高いこと、を含む。
<MH
X用のプレカラム>
本発明の別の実施形態では、水及び他の有機物が、従来技術の
図17に示す水トラップを使用することなく金属水素化物試料からよりよく分離され得ることが見い出された。8ポートスイッチが10ポートスイッチと置換され、本発明者等が「プレカラム」と呼ぶ6インチカラムが、GC/PIDに注入する前の試料経路に付加される。プレカラムは、HayeSep Nのような多孔質ポリマーで充填される。MH
Xが、プレカラムを通過するときに空気と同様の保持力を有するため、MH
3はプレカラムを非常に迅速に通過することになる。その一方で、水は、ほとんどの有機物と共にプレカラム内により長い時間保持される。約10秒から約14秒の短い注入時間が使用される場合、MH
3及び空気が水及び有機物から分離されることが見つけ出された。水及び有機物は、その後、プレカラムからパージされ、これらの干渉をなくし得る。
【0054】
以下の表は、HayeSep N、Q、R、S、及びTについて化合物の様々な保持時間を示す。
【0055】
【表1】
表1に示すように、空気及びMH
Xは、比較的短い保持時間(0.23分)を有する気体であり、一方、水は、10分又は空気及びMH
3に比べて40倍長い相対的保持時間を有する。エチレンでさえも空気に比べて4倍長い保持時間を有するため、短い注入時間の場合、エチレンでさえも分析カラムまで到達しないことになる。
<MH
X濃縮用の活性炭カラム>
GC/PIDによる検出に十分なMH
3の生成を可能にするために、(1)窒素トラップを使用するか、又は(2)試料のN
2パージングを停止する代わりに、水素化物生成器からのppbレベルのMH
3が、第3のカラム24としての、
図1に示す6インチ(15.24cm)活性炭カラム内に保持されることが更に発見された。本プロセスは、MH
3の全てを捕集するために約5分から約10分間、MH
Xを含む窒素を活性炭カラム内に通気する前に、先に論じたのと同じ理由で、プレカラム22、任意選択で設けられる酸素保
持カラム20、を通してガス試料を通過させることを含む。全てのMH
3が容器12から除去されると、活性炭カラム24が約1分から約2分間150℃まで加熱されて、金属を、活性炭カラムから出て、10ポート弁の入口ポートに入り、その後、検出器システム10に達するように押しやる。AsH
3の場合、溶液からAsH
3を激減させるのに10分以上かかり得ることが見い出された。これは、GC/PIDについて試料の何倍もの増加を意味する。
<散布容器に代わる静的ヘッドスペース>
試料の流れにおける酸素ピークが、試料反応容器を改変することによって実質的になくされ得ることが更に発見された。この実施形態では、散布容器はVOAバイアルに置換される。VOAバイアルは、40mlのVOAバイアルであり、カバー及び隔膜は、通常、テフロン(登録商標)という商標で販売されている材料等のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で形成される。空気を含むヘッドスペースを有する散布容器とは異なり、VOAバイアルは、ヘッドスペース内に空気が存在することを回避するために使用される。これは、バイアルに、1mlの濃塩酸(HCl)を添加し、PTFE撹拌バーを付加することによって達成される。バイアルは、その後、試料でバイアルいっぱいまで満たされる。隔膜及びカバーがその後、バイアルに取り付けられる。シリンジを使って、隔膜を貫通させ、バイアル内の約10mlの液体が除去される。残留液体は、数分間撹拌されて、1mlの4%水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)溶液等の還元剤を添加する前に、試料とHClを混合する。還元剤を有する試料溶液は別の5〜10分間撹拌される。1mlの試料が除去され、GC/PIDに注入される。この実施形態の1つの利点は、この実施形態がより簡単で、多くの機器を必要としないことである。別の利点は、水中のO
2の濃度が約20ppmにすぎないことから、パージされなければならないヘッドスペースが全く存在しないため、O
2ピークがほぼなくなることである。
<水銀検出/判定についての感度向上>
本発明の開発中に、水銀用のPID法が、予備濃縮プロセスを使用してより高感度でかつ特異的になることが発見された。水銀が水試料中で判定されるとき、水銀塩を含む水銀試料が、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)と共に容器12に加えられる。水素化物を形成する他の種とは異なり、水銀は、気体形態の遊離水銀として遊離される。水銀を含むガス試料はその後、金膜のそばを通過する。ガス試料中の水銀は、室温で金と反応して、Au/Hgアマルガムを形成する。これより前には除去されなかった水及び他の有機物は、数分間N
2ガスでパージすることによって今や除去される。パージング後、Au/Hgアマルガムを含む金膜が500℃まで急速に(すなわち、約25〜30秒)加熱されて、アマルガムを分解し、Hgを自由にし、HgがPIDによって検出される。
<空気中の水銀の検出>
第3のカラム24を使用する技法はまた、空気中のHgを検出するためにも使用することができる。Hgが既に気体状態であるため、空気は、金膜のそばを直接通過させる。十分な試料を用いることにより、この方法は、10ppt(1兆分の1)のHgを特異的に検出することができる。本プロセスは、水及び他の物質を除去するために、数分間、約40〜50リットルの空気をN
2ガスと共に、金膜を通して通過させることを含む。金膜は、その後、500℃までの非常に短い時間の(すなわち、約25〜30秒の)加熱を受けて、アマルガムを分解し、Hgを自由にし、HgがPIDによって検出される。
<水銀用の濃縮器装置>
水銀検出について、新規な濃縮器が考案された。ここで
図17及び18を参照すると、水銀用の濃縮器の一実施形態が示される。濃縮器100は、石英アセンブリ110、水銀濃縮器要素120、及び加熱器130を含む。石英アセンブリ110は、内部容積部111aを画定する管状石英本体111を含む。ガス入口112は第1の本体端111bに接続され、ガス出口は横切るように石英本体111に接続される。ガス入口112に対向する第2の本体端111cにて石英本体111に接続される加熱器端116も存在する。水銀濃縮器要素120の実質的な第1の要素部120aは、石英本体111内に配設される。ガス試料又はパージングガスは、ガス出口114から出る前に、ガス入口112を通り
、内部容積部111aに入り、第1の要素部120aの周りを流れる。
【0056】
ここで
図19及び20を参照すると、石英アセンブリ110及び水銀濃縮器要素120を含む水銀濃縮器アセンブリ100が示される。石英アセンブリ110は、管状石英本体111、ガス入口112、ガス出口114、及び加熱器端116を有する。水銀濃縮器要素120は、ロッド形状の要素コア122、要素コア122上の金層/コーティング124を含む。濃縮器要素はまた、第1の要素部120a及び第2の要素部120bを有する。要素コア122は、通常、ステンレス鋼で形成される。第1の要素部120aは、内部容積部111a内に配置される濃縮器要素120の部分である。第2の要素部120bは、加熱器端116内に配置される部分であり、石英本体111から出て加熱器端116を通って延在する端要素部121を有する。加熱器端116は、濃縮器要素120の周りで密閉される。金膜124は、少なくとも第1の要素部120a上に被覆/堆積される。アマルガムを形成するために水銀ガスと反応するのは金膜124である。金膜124が要素コア122の全表面にわたって堆積されてもよいことが理解される。
【0057】
例示する実施形態では、石英本体111は、約4.5インチ(約11.4cm)の長さである。ガス入口112及びガス出口114は、1/4インチ(0.635cm)の直径であり、加熱器端116は約0.5インチ(1.27cm)の直径である。第1の要素部120aは約3.5インチ(8.9cm)の長さである。要素コア122は、304ステンレス鋼で形成され、研磨され、その後、金でメッキされる。加熱器130は、ステンレス鋼異径アダプタを使用して加熱器端116に取り付けられ、取付具内で使用されるフェルールは、グラファイトで形成される。加熱器130は、熱電対を組み込む300ワット加熱器である。加熱器は、115VACを使用して動作し、約30秒で500℃まで加熱することが可能である。所望の結果を達成するために寸法を変更することができ、また、上述した寸法は本発明を限定するものとして解釈されるべきでないことが理解される。
【0058】
本発明の好ましい実施形態について本明細書で説明してきたが、上記説明は単に例証的である。本明細書で開示される本発明の更なる改変が、当業者によって思い付かれるであろうし、全てのこのような改変は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内にあるとみなされる。