特許第6918103号(P6918103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6918103油井管用ねじ継手及び油井管用ねじ継手の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6918103
(24)【登録日】2021年7月26日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】油井管用ねじ継手及び油井管用ねじ継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/77 20060101AFI20210729BHJP
   C23C 22/30 20060101ALI20210729BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20210729BHJP
   F16L 15/04 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
   C23C22/77
   C23C22/30
   C23C28/00 C
   F16L15/04 A
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-519554(P2019-519554)
(86)(22)【出願日】2018年5月10日
(86)【国際出願番号】JP2018018035
(87)【国際公開番号】WO2018216475
(87)【国際公開日】20181129
【審査請求日】2019年10月24日
(31)【優先権主張番号】特願2017-100502(P2017-100502)
(32)【優先日】2017年5月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】木本 雅也
(72)【発明者】
【氏名】大島 真宏
【審査官】 瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/047722(WO,A1)
【文献】 特開2007−277640(JP,A)
【文献】 特開昭58−081978(JP,A)
【文献】 実開昭57−092762(JP,U)
【文献】 特開平10−212587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00 − 22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油井管用ねじ継手の製造方法であって、
前記油井管用ねじ継手は、ピン側ねじ部を含むピン側接触表面を有するピンと、ボックス側ねじ部を含むボックス側接触表面を有するボックスとを備え、
前記油井管用ねじ継手の製造方法は、
前記ピン側接触表面及び前記ボックス側接触表面の少なくとも一方を、亜鉛イオン及びニッケルイオンを含有するめっき液に浸漬して、電気めっきにより前記ピン側接触表面及び前記ボックス側接触表面の少なくとも一方の上にZn−Ni合金及び不純物からなるZn−Ni合金めっき層を形成するZn−Ni合金めっき層形成工程と、
前記Zn−Ni合金めっき層形成工程後、前記Zn−Ni合金めっき層の上に表面の明度L値が45以上65未満のクロメート被膜を形成するクロメート被膜形成工程とを備え、
前記クロメート被膜形成工程は、
前記Zn−Ni合金めっき層を形成した前記ピン側接触表面及び/又は前記ボックス側接触表面を、クロムイオンを含有するクロメート処理液に浸漬してクロメート処理を実施するクロメート処理工程と、
前記クロメート処理工程後、前記ピン側接触表面及び/又は前記ボックス側接触表面に対して乾燥処理を実施する乾燥工程とを備え、
前記クロメート被膜形成工程は、次の条件1〜条件3から選択される1つ又は2つ以上の条件を満たす、油井管用ねじ継手の製造方法。
条件1:前記クロメート処理工程での前記クロメート処理液の撹拌速度:線速で0.5m/s以上、
条件2:前記クロメート処理工程でのクロメート処理時間:50秒未満、
条件3:前記乾燥工程での乾燥温度:60℃以下。
【請求項2】
請求項1に記載の油井管用ねじ継手の製造方法であって、
前記クロメート被膜形成工程は少なくとも前記条件1を満たし、
前記クロメート被膜形成工程はさらに、前記クロメート処理工程の後であって前記乾燥工程の前に、前記クロメート処理液の前記撹拌を停止した状態で前記ピン側接触表面及び/又は前記ボックス側接触表面を前記クロメート処理液に一定時間浸漬する、無撹拌浸漬工程を備える、油井管用ねじ継手の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の油井管用ねじ継手の製造方法であって、
前記ピン側接触表面はさらに、ピン側金属シール部及びピン側ショルダー部を含み、
前記ボックス側接触表面はさらに、ボックス側金属シール部及びボックス側ショルダー部を含む、油井管用ねじ継手の製造方法。
【請求項4】
油井管用ねじ継手であって、
ピン側ねじ部を含むピン側接触表面を有するピンと、
ボックス側ねじ部を含むボックス側接触表面を有するボックスと、
前記ピン側接触表面及び前記ボックス側接触表面の少なくとも一方の上にZn−Ni合金及び不純物からなるZn−Ni合金めっき層と、
前記Zn−Ni合金めっき層上に、クロメート被膜とを備え、
前記クロメート被膜表面の明度L値が45以上65未満である、油井管用ねじ継手。
【請求項5】
請求項4に記載の油井管用ねじ継手であって、
前記クロメート被膜の付着量がクロム換算で10〜300mg/mである、油井管用ねじ継手。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の油井管用ねじ継手であって、
前記ピン側接触表面はさらに、ピン側金属シール部及びピン側ショルダー部を含み、
前記ボックス側接触表面はさらに、ボックス側金属シール部及びボックス側ショルダー部を含む、油井管用ねじ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油井管用ねじ継手及び油井管用ねじ継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油田や天然ガス田の採掘のために、油井管が使用される。油井管は、井戸の深さに応じて、複数の鋼管を連結して形成される。鋼管の連結は、鋼管の端部に形成された油井管用ねじ継手同士をねじ締めすることによって行われる。油井管は、検査等のために引き上げられ、ねじ戻しされ、検査された後、再びねじ締めされて、再度使用される。
【0003】
油井管用ねじ継手は、ピン及びボックスを備える。ピンは、鋼管の先端部の外周面に形成された雄ねじ部を含む。ボックスは、鋼管の先端部の内周面に形成された雌ねじ部を含む。ピン及びボックスはねじ無し金属接触部を含む場合がある。ねじ無し金属接触部はそれぞれ、金属シール部及びショルダー部を含む。鋼管同士がねじ締めされる際、雄ねじ部及び雌ねじ部、金属シール部同士並びにショルダー部同士が接触する。
【0004】
ピン及びボックスのねじ部及びねじ無し金属接触部は、鋼管のねじ締め及びねじ戻し時に強い摩擦を繰り返し受ける。これらの部位に、摩擦に対する十分な耐久性がなければ、ねじ締め及びねじ戻しを繰り返した時にゴーリング(修復不可能な焼付き)が発生する。したがって、油井管用ねじ継手には、摩擦に対する十分な耐久性、すなわち、優れた耐焼付き性が要求される。
【0005】
従来、耐焼付き性を向上するために、重金属入りのコンパウンドグリースが使用されてきた。油井管用ねじ継手の表面にコンパウンドグリースを塗布することで、油井管用ねじ継手の耐焼付き性を改善できる。しかしながら、コンパウンドグリースに含まれるPb等の重金属は環境に影響を与える可能性がある。このため、コンパウンドグリースを使用しない油井管用ねじ継手の開発が望まれている。
【0006】
コンパウンドグリースの代わりに、重金属を含有しないグリース(グリーンドープと称される)を使用する油井管用ねじ継手が提案されている。たとえば、特開2008−215473号公報(特許文献1)及び特開2003−074763号公報(特許文献2)には、重金属を含有しないグリースを使用しても耐焼付き性に優れる油井管用ねじ継手について記載がある。
【0007】
特許文献1に記載されている油井管用ねじ継手は、ねじ部とねじ無し金属接触部とを有する接触表面をそれぞれ備えたピンとボックスとから構成される油井管用ねじ継手である。この油井管用ねじ継手は、ピンとボックスの少なくとも一方の接触表面が、Cu−Zn合金からなる第1のめっき層を有することを特徴とする。これにより、グリーンドープを塗布する場合、さらには無ドープの場合でも、十分な耐漏れ性と耐焼付き性を示し、さらに耐食性にも優れていて、めっき層の上にグリーンドープや潤滑被膜が存在していても隙間腐食の発生が防止される、と特許文献1には記載されている。
【0008】
特許文献1に開示された技術では、接触表面に特定の合金めっき層を形成することで、グリーンドープを使用した場合でも、耐焼付き性が向上する。
【0009】
特許文献2に記載されている油井管用継手は、Crを9質量%以上含有する鋼管の一端に雄ネジ及びメタル−メタルシール部を有するピン部と、同じ材質で、雌ネジ及びメタル−メタルシール部を有するボックス部を両端に設けたカップリングとで形成する油井鋼管用継手である。この油井管用継手は、カップリングの雌ネジ及びメタル−メタルシール部の表面に、Cu−Sn合金層を一層配置してなることを特徴とする。これにより、グリーンドープを使用しても従来よりもシール性が良好で、且つ継手に起きるゴーリングを格段に抑制することができる、と特許文献2には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−215473号公報
【特許文献2】特開2003−074763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、油井管は、製造された後、船舶等により輸送され、使用されるまで一定期間保管される。油井管の輸送及び保管は、長期間に渡る場合がある。さらに、油井管の保管は屋外で行われる場合がある。屋外で長期に保管された場合、油井管用のねじ継手(以下、油井管用ねじ継手という)に白錆が発生し、油井管用ねじ継手の気密性や耐焼付き性が低下する場合がある。
【0012】
特許文献1及び特許文献2に開示された油井管用ねじ継手及び潤滑被膜を形成するための組成物では、屋外で長期に保管された場合、油井管用ねじ継手に白錆が発生して耐食性が低下する場合がある。この場合さらに、油井管用ねじ継手の気密性や耐焼付き性が低下する場合がある。
【0013】
本発明の目的は、優れた耐食性を有する油井管用ねじ継手及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本実施形態の製造方法は、油井管用ねじ継手の製造方法である。油井管用ねじ継手は、ピンとボックスとを備える。ピンは、ピン側ねじ部を含むピン側接触表面を有する。ボックスは、ボックス側ねじ部を含むボックス側接触表面を有する。油井管用ねじ継手の製造方法は、Zn−Ni合金めっき層形成工程と、Zn−Ni合金めっき層形成工程後にクロメート被膜形成工程とを備える。Zn−Ni合金めっき層形成工程では、ピン側接触表面及びボックス側接触表面の少なくとも一方を、亜鉛イオン及びニッケルイオンを含有するめっき液に浸漬して、電気めっきによりピン側接触表面及びボックス側接触表面の少なくとも一方の上にZn−Ni合金めっき層を形成する。Zn−Ni合金めっき層は、Zn−Ni合金及び不純物からなる。クロメート被膜形成工程では、Zn−Ni合金めっき層の上にクロメート被膜を形成する。クロメート被膜形成工程は、クロメート処理工程と、クロメート処理工程後に乾燥工程とを備える。クロメート処理工程では、Zn−Ni合金めっき層を形成したピン側接触表面及び/又はボックス側接触表面を、クロムイオンを含有するクロメート処理液に浸漬してクロメート処理を実施する。乾燥工程では、クロメート処理工程後にピン側接触表面及び/又はボックス側接触表面に対して乾燥処理を実施する。クロメート被膜形成工程は、次の条件1〜条件3から選択される1つ又は2つ以上の条件を満たす。
条件1:クロメート処理工程でのクロメート処理液の撹拌速度:線速で0.5m/s以上、
条件2:クロメート処理工程でのクロメート処理時間:50秒未満、
条件3:乾燥工程での乾燥温度:60℃以下。
【0015】
本実施形態の油井管用ねじ継手は、ピンと、ボックスと、Zn−Ni合金めっき層と、クロメート被膜とを備える。ピンは、ピン側ねじ部を含むピン側接触表面を有する。ボックスは、ボックス側ねじ部を含むボックス側接触表面を有する。Zn−Ni合金めっき層は、ピン側接触表面及びボックス側接触表面の少なくとも一方の上に配置される。Zn−Ni合金めっき層は、Zn−Ni合金及び不純物からなる。クロメート被膜は、Zn−Ni合金めっき層上に配置される。クロメート被膜表面の明度L値は65未満である。
【発明の効果】
【0016】
本実施形態の油井管用ねじ継手は、優れた耐食性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、クロメート被膜表面の明度L値と、塩水噴霧試験(SST)300時間後の白錆発生面積率(%)との関係を示す図である。
図2図2は、クロメート処理工程でのクロメート処理液の攪拌速度(m/s)とクロメート被膜表面の明度L値との関係を示す図である。
図3図3は、クロメート処理工程でのクロメート処理時間(s)とクロメート被膜表面の明度L値との関係を示す図である。
図4図4は、乾燥工程での乾燥温度(℃)とクロメート被膜表面の明度L値との関係を示す図である。
図5図5は、本実施形態によるカップリング型の油井管用ねじ継手の構成を示す図である。
図6図6は、本実施形態によるインテグラル型の油井管用ねじ継手の構成を示す図である。
図7図7は、油井管用ねじ継手の断面図である。
図8図8は、本実施形態による金属シール部及びショルダー部を有さない油井管用ねじ継手の構成を示す図である。
図9図9は、本実施形態による油井管用ねじ継手の接触表面の一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本実施形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0019】
本発明者らは、油井管用ねじ継手の接触表面上の表面処理と耐食性とについて種々検討を行った。その結果、以下の知見を得た。
【0020】
亜鉛(Zn)は、従来めっき層に用いられてきた銅(Cu)と比較して硬度及び融点が低い。しかしながら、Zn合金であるZn−Ni合金は、十分な高硬度及び高融点を有する。したがって、Zn−Ni合金でめっき層を構成すれば、油井管用ねじ継手の耐焼付き性を高めることができる。本明細書において、Zn−Ni合金及び不純物からなるめっき層を、Zn−Ni合金めっき層という。
【0021】
白錆発生を抑制する技術として、クロメート処理がある。従来、クロメート処理液は6価クロムを含有していた。6価クロムは環境に影響を与える可能性がある。このため、6価クロムを含有しない、いわゆる3価クロメート処理の開発が望まれている。3価クロメート処理はたとえば、市販品として、大和化成株式会社製ダインクロメートTR−02(商品名)を用いて実施する。以下本明細書において、クロメート処理とは、特に断らなければ、3価クロメート処理を意味する。
【0022】
しかしながら、油井管用ねじ継手において、Zn−Ni合金めっきにクロメート処理を実施しても、予想よりも短い時間で白錆が発生する場合があることが判明した。
【0023】
本発明者らの検討の結果、耐食性の指標として、クロメート被膜表面の明度L値を用いることができることを見出した。
【0024】
油井管用ねじ継手の耐食性は、油井管用ねじ継手表面に発生する白錆の面積率(以下、白錆発生面積率という)から判断できる。本実施形態においては、塩水噴霧試験(SST)300時間後の白錆発生面積率が50%未満であれば、耐食性に優れると判断した。塩水噴霧試験及び白錆発生面積率については後述の実施例において詳述する。以下、本明細書において、特に断りがない限り、「白錆発生面積率」は、「塩水噴霧試験(SST)300時間後の白錆発生面積率」を意味する。
【0025】
本発明者らは、白錆発生面積率と、クロメート被膜表面の明度L値とが相関することを見出した。図1は、クロメート被膜表面の明度L値と、塩水噴霧試験(SST)300時間後の白錆発生面積率(%)との関係を示す図である。図1は後述の実施例により得られた。
【0026】
図1の縦軸は、白錆発生面積率(%)を示す。図1の横軸は、クロメート被膜表面の明度L値を示す。図1を参照して、クロメート被膜表面の明度L値と白錆発生面積率とはおおよそ相関関係にあり、クロメート被膜表面の明度L値が低い程白錆発生面積率が低下する傾向にある。クロメート被膜表面の明度L値が65未満であれば、白錆発生面積率が50%未満である。
【0027】
つまり、クロメート被膜表面の明度L値が65未満であれば、油井管用ねじ継手は優れた耐食性を有する。さらに、クロメート被膜表面の明度L値が低い程、耐食性が高まる傾向にある。
【0028】
次に、本発明者らは、油井管用ねじ継手において、優れた耐食性を得るためのクロメート処理の条件を次のとおり見出した。
【0029】
クロメート被膜を形成するクロメート被膜形成工程は、通常、クロメート処理工程と、乾燥工程とを含む。従来、クロメート処理工程では、被処理材をクロメート処理液に浸漬する。乾燥工程では、クロメート処理工程後に、被処理材を乾燥させる。
【0030】
[クロメート処理工程でのクロメート処理液の攪拌速度]
クロメート処理は一般的に、被処理材を処理液に浸漬して実施される。3価クロメート処理用市販品のメーカーが推奨する方法も、浸漬処理である。
【0031】
一方、油井管用ねじ継手のピン及びボックスは、ねじ山/谷が形成する数mm高さの凹凸が数mmピッチで複数連続する複雑な形状である。さらに、油井管用のねじ継手のピンは、数メートル以上の管の端部に位置する。インテグラル形式の油井管用ねじ継手においては、ボックスも同様に管の端部に位置する。そのため、油井管用ねじ継手の場合、被処理部付近だけを処理液に接触させて、クロメート処理を実施する。油井管用ねじ継手の場合さらに、一般的な浸漬によりクロメート処理を実施した場合、反応ガスが被処理材表面に滞留してクロメート処理ムラが発生するおそれがある。クロメート処理液を循環させながらクロメート処理を実施すれば、クロメート処理ムラを抑制できる。この場合、クロメートが付いていない部分又は薄い部分の発生が抑制できる。そのため、長期間保管した後であっても、油井管用ねじ継手の耐食性が高まる。
【0032】
図2は、クロメート処理工程でのクロメート処理液の攪拌速度(m/s)とクロメート被膜表面の明度L値との関係を示す図である。図2は後述の実施例により得られた。図2では、クロメート処理液の攪拌速度以外の条件が同一の試験番号を比較した。図2には、試験番号4〜6、8〜9及び13が記載されている。
【0033】
図2を参照して、クロメート処理液の攪拌速度が、線速で0.5m/s以上であれば、クロメート被膜表面の明度L値が65未満になる。つまり、油井管用ねじ継手は優れた耐食性を有する。
【0034】
[クロメート処理工程でのクロメート処理時間]
従来、クロメート被膜の付着量が多い程、被処理材の耐食性が高まると考えられてきた。そのため、クロメート処理時間が長い程、油井管用ねじ継手の耐食性が高まると予想される。しかしながら、本発明者らの検討の結果、クロメート処理時間については、ある程度短くすることが、油井管用ねじ継手の耐食性を高めるのに有効だと分かった。
【0035】
図3は、クロメート処理工程でのクロメート処理時間(s)とクロメート被膜表面の明度L値との関係を示す図である。図3は後述の実施例により得られた。図3では、クロメート処理時間以外の条件が同一の試験番号を比較した。図3には、試験番号1及び4〜7が記載されている。
【0036】
図3を参照して、クロメート処理工程でのクロメート処理時間が、50秒未満であれば、クロメート被膜表面の明度L値が65未満になる。つまり、油井管用ねじ継手は優れた耐食性を有する。
【0037】
[乾燥工程での乾燥温度]
従来、生産効率を高めるためにクロメート処理後の乾燥工程では乾燥温度を高める試みがされてきた。乾燥温度が高ければ、乾燥完了までに要する時間が短縮され、生産効率が高まる。しかしながら、本発明者らの検討の結果、乾燥工程での乾燥温度がある程度低い方が、油井管用ねじ継手の耐食性を高めるのに有効だと分かった。
【0038】
図4は、乾燥工程での乾燥温度(℃)とクロメート被膜表面の明度L値との関係を示す図である。図4は後述の実施例により得られた。図4では、乾燥温度以外の条件が同一の試験番号を比較した。図4には、試験番号2〜6が記載されている。
【0039】
図4を参照して、乾燥工程での乾燥温度が、60℃以下であれば、クロメート被膜表面の明度L値が65未満になる。つまり、油井管用ねじ継手は優れた耐食性を有する。
【0040】
上述のとおり、本実施形態のクロメート被膜形成工程において、クロメート処理液の攪拌速度、クロメート処理時間及びクロメート処理液乾燥温度から選択される1つ又は2つ以上の条件を満たせば、油井管用ねじ継手は、優れた耐食性を有する。
【0041】
以上の知見に基づいて完成した、本実施形態の製造方法は、油井管用ねじ継手の製造方法である。油井管用ねじ継手は、ピンとボックスとを備える。ピンは、ピン側ねじ部を含むピン側接触表面を有する。ボックスは、ボックス側ねじ部を含むボックス側接触表面を有する。油井管用ねじ継手の製造方法は、Zn−Ni合金めっき層形成工程と、Zn−Ni合金めっき層形成工程後にクロメート被膜形成工程とを備える。Zn−Ni合金めっき層形成工程では、ピン側接触表面及びボックス側接触表面の少なくとも一方を、亜鉛イオン及びニッケルイオンを含有するめっき液に浸漬して、電気めっきによりピン側接触表面及びボックス側接触表面の少なくとも一方の上にZn−Ni合金めっき層を形成する。Zn−Ni合金めっき層は、Zn−Ni合金及び不純物からなる。クロメート被膜形成工程では、Zn−Ni合金めっき層の上にクロメート被膜を形成する。クロメート被膜形成工程は、クロメート処理工程と、クロメート処理工程後に乾燥工程とを備える。クロメート処理工程では、Zn−Ni合金めっき層を形成したピン側接触表面及び/又はボックス側接触表面を、クロムイオンを含有するクロメート処理液に浸漬してクロメート処理を実施する。乾燥工程では、クロメート処理工程後にピン側接触表面及び/又はボックス側接触表面に対して乾燥処理を実施する。クロメート被膜形成工程は、次の条件1〜条件3から選択される1つ又は2つ以上の条件を満たす。
条件1:クロメート処理工程でのクロメート処理液の撹拌速度:線速で0.5m/s以上、
条件2:クロメート処理工程でのクロメート処理時間:50秒未満、
条件3:乾燥工程での乾燥温度:60℃以下。
【0042】
本実施形態の油井管用ねじ継手の製造方法は、クロメート被膜形成工程の条件が適切に調整されている。そのため、表面の明度L値が低いクロメート被膜を備える油井管用ねじ継手が製造できる。油井管用ねじ継手は優れた耐食性を示す。
【0043】
上記製造方法は、クロメート被膜形成工程が少なくとも条件1を満たし、クロメート被膜形成工程がさらに、無撹拌浸漬工程を備えてもよい。無撹拌浸漬工程は、クロメート処理工程の後であって乾燥工程の前に実施される。無撹拌浸漬工程では、クロメート処理液の撹拌を停止した状態でピン側接触表面及び/又はボックス側接触表面をクロメート処理液に一定時間浸漬する。
【0044】
上記製造方法において、ピン側接触表面はさらに、ピン側金属シール部及びピン側ショルダー部を含んでもよい。上記ボックス側接触表面はさらに、ボックス側金属シール部及びボックス側ショルダー部を含んでもよい。
【0045】
本実施形態の油井管用ねじ継手は、ピンと、ボックスと、Zn−Ni合金めっき層と、クロメート被膜とを備える。ピンはピン側ねじ部を含むピン側接触表面を有する。ボックスはボックス側ねじ部を含むボックス側接触表面を有する。Zn−Ni合金めっき層は、ピン側接触表面及びボックス側接触表面の少なくとも一方の上に配置される。Zn−Ni合金めっき層は、Zn−Ni合金及び不純物からなる。クロメート被膜はZn−Ni合金めっき層上に配置される。クロメート被膜表面の明度L値は65未満である。
【0046】
本実施形態の油井管用ねじ継手は、クロメート被膜表面の明度L値が65未満である。そのため、油井管用ねじ継手は優れた耐食性を示す。
【0047】
上記油井管用ねじ継手のクロメート被膜の付着量は、クロム換算で10〜300mg/mであってもよい。
【0048】
クロメート被膜の付着量が上記範囲の場合、油井管用ねじ継手の耐食性が安定して高まる。
【0049】
上記油井管用ねじ継手において、ピン側接触表面はさらに、ピン側金属シール部及びピン側ショルダー部を含んでもよい。上記ボックス側接触表面はさらに、ボックス側金属シール部及びボックス側ショルダー部を含んでもよい。
【0050】
以下、本実施形態による油井管用ねじ継手及びその製造方法ついて詳述する。
【0051】
[油井管用ねじ継手]
油井管用ねじ継手は、ピン及びボックスを備える。図5は、本実施形態によるカップリング型の油井管用ねじ継手の構成を示す図である。図5を参照して、油井管用ねじ継手は、鋼管1とカップリング2とを備える。鋼管1の両端には、外面に雄ねじ部を有するピン3が形成される。カップリング2の両端には、内面に雌ねじ部を有するボックス4が形成される。ピン3とボックス4とをねじ締めすることによって、鋼管1の端に、カップリング2が取り付けられる。図示していないが、相手部材が装着されていない鋼管1のピン3及びカップリング2のボックス4には、それぞれのねじ部を保護するため、プロテクターが装着される場合がある。
【0052】
一方で、カップリング2を使用せず、鋼管1の一方の端をピン3とし、他方の端をボックス4とした、インテグラル形式の油井管用ねじ継手を用いてもよい。図6は、本実施形態によるインテグラル型の油井管用ねじ継手の構成を示す図である。図6を参照して、油井管用ねじ継手は、鋼管1を備える。鋼管1の一方の端には、外面に雄ねじ部を有するピン3が形成される。鋼管1の他方の端には、内面に雌ねじ部を有するボックス4が形成される。ピン3とボックス4とをねじ締めすることによって、鋼管1同士を連結できる。本実施形態の油井管用ねじ継手は、カップリング方式及びインテグラル形式の両方の油井管用ねじ継手に使用できる。
【0053】
図7は、油井管用ねじ継手の断面図である。図7では、ピン3は、ピン側ねじ部31、ピン側金属シール部32及びピン側ショルダー部33を備える。図7では、ボックス4は、ボックス側ねじ部41、ボックス側金属シール部42及びボックス側ショルダー部43を備える。ピン3とボックス4とをねじ締めした時に接触する部分を、接触表面34,44という。具体的には、ピン3とボックス4とをねじ締めすると、ねじ部同士(ピン側ねじ部31及びボックス側ねじ部41)、金属シール部同士(ピン側金属シール部32及びボックス側金属シール部42)、及び、ショルダー部同士(ピン側ショルダー部33及びボックス側ショルダー部43)が互いに接触する。図7では、ピン側接触表面34は、ピン側ねじ部31、ピン側金属シール部32及びピン側ショルダー部33を含む。図7では、ボックス側接触表面44は、ボックス側ねじ部41、ボックス側金属シール部42及びボックス側ショルダー部43を含む。
【0054】
図7では、ピン3においては、鋼管1の端から、ピン側ショルダー部33、ピン側金属シール部32及びピン側ねじ部31の順で配置される。また、ボックス4においては、鋼管1又はカップリング2の端から、ボックス側ねじ部41、ボックス側金属シール部42及びボックス側ショルダー部43の順で配置される。しかしながら、ピン側ねじ部31及びボックス側ねじ部41、ピン側金属シール部32及びボックス側金属シール部42、及び、ピン側ショルダー部33及びボックス側ショルダー部43の配置は図7の配置に限定されず、適宜変更できる。たとえば、図6において示す様に、ピン3においては、鋼管1の端から、ピン側金属シール部32、ピン側ねじ部31、ピン側金属シール部32、ピン側ショルダー部33、ピン側金属シール部32及びピン側ねじ部31の順で配置されてもよい。ボックス4においては、鋼管1又はカップリング2の端から、ボックス側金属シール部42、ボックス側ねじ部41、ボックス側金属シール部42、ボックス側ショルダー部43、ボックス側金属シール部42及びボックス側ねじ部41の順に配置されてもよい。
【0055】
図5図7では、金属シール部(ピン側金属シール部32及びボックス側金属シール部42)及びショルダー部(ピン側ショルダー部33及びボックス側ショルダー部43)を備える、いわゆるプレミアムジョイントを図示した。しかしながら、金属シール部(ピン側金属シール部32及びボックス側金属シール部42)及びショルダー部(ピン側ショルダー部33及びボックス側ショルダー部43)は無くてもよい。金属シール部32,42及びショルダー部33,43を有さない油井管用ねじ継手を図8に例示する。本実施形態の油井管用ねじ継手は、金属シール部32,42及びショルダー部33,43が無い油井管用ねじ継手にも好適に適用可能である。金属シール部32,42及びショルダー部33,43無しの場合、ピン側接触表面34は、ピン側ねじ部31を含む。金属シール部32,42及びショルダー部33,43無しの場合、ボックス側接触表面44は、ボックス側ねじ部41を含む。
【0056】
図9は、本実施形態による油井管用ねじ継手の接触表面34,44の一例の断面図である。油井管用ねじ継手は、ピン側接触表面34及びボックス側接触表面44の少なくとも一方の上にZn−Ni合金めっき層100を備える。油井管用ねじ継手はさらに、Zn−Ni合金めっき層100上にクロメート被膜200を備える。油井管用ねじ継手は、ピン側接触表面34及びボックス側接触表面44の両方の上にZn−Ni合金めっき層100及びクロメート被膜200を備えてもよい。
【0057】
油井管用ねじ継手は、ピン側接触表面34上にZn−Ni合金めっき層100及びクロメート被膜200を備え、ボックス側接触表面44上にはZn−Ni合金めっき層100のみを備えてもよい。油井管用ねじ継手は、ピン側接触表面34上にZn−Ni合金めっき層100及びクロメート被膜200を備え、ボックス側接触表面44上にはクロメート被膜200のみを備えてもよい。
【0058】
油井管用ねじ継手は、ボックス側接触表面44上にZn−Ni合金めっき層100及びクロメート被膜200を備え、ピン側接触表面34上にはZn−Ni合金めっき層100のみを備えてもよい。油井管用ねじ継手は、ボックス側接触表面44上にZn−Ni合金めっき層100及びクロメート被膜200を備え、ピン側接触表面34上にはクロメート被膜200のみを備えてもよい。
【0059】
[Zn−Ni合金めっき層]
Zn−Ni合金めっき層100は、ピン側接触表面34及びボックス側接触表面44の少なくとも一方の上に配置される。Zn−Ni合金めっき層100は、ピン側接触表面34及びボックス側接触表面44の少なくとも一方の上に直接されてもよい。Zn−Ni合金めっき層100とピン側接触表面34との間には他のめっき層が配置されてもよい。Zn−Ni合金めっき層100とボックス側接触表面44との間には他のめっき層が配置されてもよい。
【0060】
Zn−Ni合金めっき層100は、Zn−Ni合金及び不純物からなる。Zn−Ni合金は、亜鉛(Zn)及びニッケル(Ni)を含む。Zn−Ni合金は不純物を含有する場合がある。ここで、Zn−Ni合金めっき層100の不純物、及び、Zn−Ni合金の不純物とは、Zn及びNi以外の物質で、油井管用ねじ継手の製造中等にZn−Ni合金めっき層100に含有され、本発明の効果に影響を与えない範囲の含有量で含まれる物質を含む。Zn−Ni合金めっき層100は、ZnとNiの合計を100質量%とした場合に、Niの割合が10〜20質量%の組成を備える。Zn−Ni合金めっき層100のNi含有量の下限は、好ましくは11質量%であり、より好ましくは12質量%である。Zn−Ni合金めっき層100のNi含有量の上限は、好ましくは18質量%、より好ましくは16質量%である。
【0061】
[Zn−Ni合金めっき層の化学組成の測定方法]
Zn−Ni合金めっき層100の化学組成は次の方法で測定する。測定には、卓上型蛍光X線分析装置(株式会社フィッシャー・インストルメンツ製 FISCHERSCOPE X−RAY XDAL)を用いる。市販のZn−Ni合金めっき鋼板標準板を用いて、検量線を作製する。測定は、Zn−Ni合金めっき層100の表面の4箇所(油井管用ねじ継手の管周方向0°、90°、180°、270°の4箇所)でNi含有量(質量%)を測定し、その4箇所の測定結果の算術平均をZn−Ni合金めっき層100のNi含有量(質量%)とする。
【0062】
[Zn−Ni合金めっき層の厚さ]
Zn−Ni合金めっき層100の厚さは特に限定されない。Zn−Ni合金めっき層100の厚さはたとえば、1〜20μmである。Zn−Ni合金めっき層100の厚さが1μm以上であれば、十分な耐焼付き性を得ることができる。Zn−Ni合金めっき層100の厚さが20μmを超えても、上記効果は飽和する。Zn−Ni合金めっき層100の厚さの下限は好ましくは3μmであり、より好ましくは5μmである。Zn−Ni合金めっき層100の厚さの上限は好ましくは18μmであり、より好ましくは15μmである。
【0063】
Zn−Ni合金めっき層100の厚さは、次の方法で測定する。Zn−Ni合金めっき層100上に、ISO(International Organization for Standardization)21968(2005)に準拠する渦電流位相式の膜厚測定器のプローブを接触させる。プローブの入力側の高周波磁界と、それにより励起されたZn−Ni合金めっき層100上の渦電流との位相差を測定する。この位相差をZn−Ni合金めっき層100の厚さに変換する。
【0064】
Zn−Ni合金めっき層100は、接触表面34,44上の一部に配置されてもよいし、全体に配置されてもよい。金属シール部32,42は、ねじ締め最終段階で特に面圧が高くなる。したがって、Zn−Ni合金めっき層100を、接触表面34,44上に部分的に配置する場合、少なくとも金属シール部32,42に配置することが好ましい。一方で、Zn−Ni合金めっき層100を接触表面34,44上の全体に配置すれば、油井管用ねじ継手の生産効率が高まる。
【0065】
Zn−Ni合金めっき層100の硬度及び融点は、従来、油井管用ねじ継手のめっき層として使用されてきたCuめっき層の硬度より高く、融点もCuめっきと同等に高い。そのため、ねじ締め及びねじ戻しを繰り返しても、Zn−Ni合金めっき層100の損傷は抑制される。その結果、ねじ締め及びねじ戻しを繰り返しても、耐焼付き性が維持される。
【0066】
さらに、Zn−Ni合金めっき層100に含まれる亜鉛(Zn)は、鋼管の主成分である鉄(Fe)と比較して卑な金属である。そのため、犠牲防食の効果があり、油井管用ねじ継手の耐食性が高まる。
【0067】
[クロメート被膜]
本実施形態の油井管用ねじ継手はZn−Ni合金めっき層100上に、クロメート被膜200を備える。上述したように、油井管用ねじ継手は実際に使用するまでの間に、屋外で長期間保管される場合がある。この場合、クロメート被膜200が形成されていれば、ピン3及びボックス4の耐食性が高まる。
【0068】
クロメート被膜200は、3価クロムのクロム酸塩を含む被膜である。クロメート被膜200は、後述のクロメート被膜形成工程により形成される。
【0069】
[クロメート被膜のL値]
クロメート被膜200の表面の明度L値は65未満である。クロメート被膜200の表面の明度L値が65以上の場合、白錆発生面積率(%)が50%を超える。この場合、油井管用ねじ継手の耐食性が低下する。外観上の美麗さの観点から、クロメート被膜表面の明度L値は、45以上であるのが好ましい。クロメート被膜200の表面の明度L値の上限は好ましくは63、より好ましくは60である。クロメート被膜200の表面の明度L値の下限は好ましくは48、より好ましくは50である。
【0070】
クロメート被膜200の表面の明度L値は、次のとおり測定する。JIS Z8730(2009)に準じて、色差測定を行う。具体的には、コニカミノルタ株式会社製のCR−300を用いて、n数2回の平均値を算出する。測定箇所は、金属シール部32,42又はショルダー部33,43が好ましい。測定面積はφ10mmとする。数値はL*a*b*表色系を用い、明度を表すL値(明度L値)を指標として用いる。
【0071】
[クロメート被膜の付着量]
クロメート被膜200の厚さ、つまり付着量は特に限定されない。クロメート被膜200の付着量は、クロム換算で10〜300mg/mであってもよい。クロメート被膜200の付着量が、クロム換算で10mg/m以上であれば、油井管用ねじ継手の耐食性が安定して高まる。クロメート被膜200の付着量が、クロム換算で300mg/m以下であれば、クロメート被膜200の構造に空隙等の欠陥が発生することを抑制できる。そのため、油井管用ねじ継手の耐食性が安定して高まる。クロメート被膜200の付着量の下限(クロム換算)は、より好ましくは20mg/m、さらに好ましくは50mg/mである。クロメート被膜200の付着量の上限(クロム換算)は、より好ましくは250mg/m、さらに好ましくは200mg/mである。
【0072】
クロメート被膜200の付着量は次の方法で測定する。クロメート被膜200を備えるピン3又はボックス4から、5mm×20mmの試験片を切り出す。試験片を、シアン化ナトリウム50gと水酸化ナトリウム5gとを1Lの純水に溶解した水溶液に浸漬する。15A/dmで1分間通電して陰極電解を行って試験片のクロメート被膜200を溶解する。クロメート被膜200の溶解液を、株式会社島津製作所製誘導結合プラズマ質量分析計(ICPMS−2030)を用いて分析する。
【0073】
[潤滑被膜]
図9を参照して、油井管用ねじ継手はさらに、クロメート被膜200上に潤滑被膜300を備えてもよい。油井管用ねじ継手が潤滑被膜300を備える場合、油井管用ねじ継手の潤滑性が高まる。
【0074】
潤滑被膜300は、固体であってもよいし、半固体状及び液体状であってもよい。潤滑被膜300は、市販の潤滑剤を使用できる。潤滑被膜300はたとえば、潤滑性粒子及び結合剤を含有する。潤滑被膜300は、必要に応じて、溶媒及び他の成分を含有してもよい。
【0075】
潤滑性粒子は、潤滑性を有する粒子であれば特に限定されない。潤滑性粒子はたとえば、黒鉛、MoS(二硫化モリブデン)、WS(二硫化タングステン)、BN(窒化ホウ素)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、CFx(フッ化黒鉛)及びCaCO(炭酸カルシウム)からなる群から選択される1種又は2種以上である。
【0076】
結合剤はたとえば、有機結合剤及び無機結合剤からなる群から選択される1種又は2種である。有機結合剤はたとえば、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂からなる群から選択される1種又は2種である。熱硬化性樹脂はたとえば、ポリエチレン樹脂、ポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂からなる群から選択される1種又は2種以上である。無機系結合剤はたとえば、アルコキシシラン及びシロキサン結合を含有する化合物からなる群から選択される1種又は2種である。
【0077】
市販の潤滑剤はたとえば、JET−LUBE株式会社製、SEAL−GUARD ECF(商品名)である。他の潤滑被膜300はたとえば、ロジン、金属石鹸、ワックス及び潤滑性粉末を含有する潤滑被膜300である。ピン3側に形成される潤滑被膜300の化学組成と、ボックス4側に形成される潤滑被膜300の化学組成とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0078】
潤滑被膜300の厚さは特に限定されない。潤滑被膜300の厚さはたとえば、10〜100μmである。潤滑被膜300の厚さが10μm以上であれば、油井管用ねじ継手の潤滑性が安定して高まる。潤滑被膜300の厚さが100μmを超えても、ねじ締め時に過剰分の潤滑被膜300が排除されるため、上記効果は飽和する。
【0079】
潤滑被膜300の厚さは、次の方法で測定する。潤滑被膜300を備えたピン3又はボックス4を準備する。ピン3又はボックス4を管の軸方向に垂直に切断する。潤滑被膜300を含む断面に対して顕微鏡観察を行う。顕微鏡観察の倍率は500倍とする。これにより、潤滑被膜300の膜厚を求める。
【0080】
[油井管用ねじ継手の母材]
油井管用ねじ継手の母材の化学組成は、特に限定されない。母材はたとえば、炭素鋼、ステンレス鋼及び合金鋼等である。合金鋼の中でも、Cr、Ni及びMo等の合金元素を含んだ二相ステンレス鋼及びNi合金等の高合金鋼は耐食性が高い。そのため、これらの高合金鋼を母材に使用すれば、油井管用ねじ継手の耐食性が高まる。
【0081】
[製造方法]
本実施形態の油井管用ねじ継手の製造方法は、Zn−Ni合金めっき層形成工程と、クロメート被膜形成工程とを備える。Zn−Ni合金めっき層形成工程後にクロメート被膜形成工程が実施される。
【0082】
油井管ねじ継手は、上述のとおりピン3及びボックス4を備える。ピン3はピン側ねじ部31を含むピン側接触表面34を有する。ボックス4はボックス側ねじ部41を含むボックス側接触表面44を有する。ピン側接触表面34はさらに、ピン側金属シール部32及びピン側ショルダー部33を含んでもよい。ボックス側接触表面44はさらに、ボックス側金属シール部42及びボックス側ショルダー部43を含んでもよい。
【0083】
[Zn−Ni合金めっき層形成工程]
Zn−Ni合金めっき層形成工程では、ピン側接触表面34及びボックス側接触表面44の少なくとも一方の上にZn−Ni合金及び不純物からなるZn−Ni合金めっき層100を形成する。Zn−Ni合金めっき層100は、電気めっきにより形成される。電気めっきは、亜鉛イオン及びニッケルイオンを含有するめっき液に、ピン側接触表面34及び前記ボックス側接触表面44の少なくとも一方を浸漬し、通電することによって行う。めっき液には、好ましくは、亜鉛イオン:1〜100g/L、ニッケルイオン:1〜50g/Lが含有される。電気めっきの条件は適宜設定できる。電気めっきの条件はたとえば、めっき液pH:1〜10、めっき液温度:10〜60℃、電流密度:1〜100A/dm、及び、処理時間:0.1〜30分である。
【0084】
[クロメート被膜形成工程]
クロメート被膜形成工程では、Zn−Ni合金めっき層100の上にクロメート被膜200を形成する。本実施形態において、クロメート処理とは、3価クロムのクロム酸塩を含む被膜(クロメート被膜200)を形成する処理である。クロメート処理により形成されるクロメート被膜200は、Zn−Ni合金めっき層100の表面の白錆を抑制する。これにより、油井管用ねじ継手の耐食性が高まる。
【0085】
クロメート被膜形成工程は、クロメート処理工程と、乾燥工程とを備える。クロメート処理工程後に乾燥工程が実施される。
【0086】
[クロメート処理工程]
クロメート処理工程では、クロメート処理を実施する。クロメート処理は、Zn−Ni合金めっき層100を形成したピン側接触表面34及び/又はボックス側接触表面44を、クロメート処理液に浸漬する。クロメート処理液は3価のクロムイオンを含有する。3価のクロムイオンはたとえば、塩化クロム(III)及び硫酸クロム(III)を溶解することによって含有させることができる。クロメート処理液には、市販のクロメート処理液を用いてもよい。市販のクロメート処理液はたとえば、大和化成株式会社製ダインクロメートTR−02(商品名)である。クロメート処理液の温度はたとえば常温である。
【0087】
[乾燥工程]
乾燥工程では、ピン側接触表面34及び/又はボックス側接触表面44に対して乾燥処理を実施する。乾燥処理では、クロメート処理後のピン側接触表面34及び/又はボックス側接触表面44を、直ちに水洗し、乾燥する。乾燥は、熱風炉等により実施できる。乾燥時間はたとえば1〜100分である。
【0088】
クロメート被膜形成工程での処理条件は、次の条件1〜条件3から選択される1つ又は2つ以上の条件を満たす。本実施形態においては、いずれか1つの条件を満たせば、油井管用ねじ継手は優れた耐食性を有する。クロメート被膜形成工程は、以下の条件の2つを満たしてもよいし、全ての条件を満たしてもよい。
条件1:クロメート処理工程でのクロメート処理液の攪拌速度:線速で、0.5m/s以上、
条件2:クロメート処理工程でのクロメート処理時間:50秒未満、
条件3:乾燥工程での乾燥温度:60℃以下。
【0089】
[条件1:クロメート処理工程でのクロメート処理液の攪拌速度:線速で、0.5m/s以上]
図2を参照して、クロメート処理工程でのクロメート処理液の攪拌速度が、線速で0.5m/s以上であれば、油井管用ねじ継手は優れた耐食性を有する。クロメート処理液の撹拌は、できるだけ油井管用ねじ継手のねじの切削方向に液流動が生じるように実施するのが好ましい。ねじの切削方向とは、鋼管の周方向である。この場合、クロメート処理時の反応ガスの滞留をさらに抑制できる。
【0090】
撹拌速度の下限は好ましくは0.6m/s、より好ましくは0.7m/s、さらに好ましくは0.8m/sである。撹拌速度の上限は特に限定されないが、好ましくは2.0m/s、より好ましくは1.5m/s、さらに好ましくは1.2m/sである。
【0091】
[条件2:クロメート処理工程でのクロメート処理時間:50秒未満]
図3を参照して、クロメート処理工程でのクロメート処理時間が、50秒未満であれば、優れた耐食性を有する。従来、クロメート被膜200の付着量が多い程、被処理材の耐食性が高まると考えられてきた。そのため、クロメート処理時間が長い程、油井管用ねじ継手の耐食性が高まると予想される。しかしながら、クロメート処理時間は50秒未満と短い方が、油井管用ねじ継手の耐食性を高めるのには有効である。
【0092】
クロメート処理時間の上限は好ましくは48秒、より好ましくは45秒、さらに好ましくは40秒である。クロメート処理時間の下限は特に限定されないが、好ましくは5秒、より好ましくは8秒、さらに好ましくは10秒である。
【0093】
[条件3:乾燥工程での乾燥温度:60℃以下]
図4を参照して、乾燥工程において、乾燥温度が、60℃以下であれば、油井管用ねじ継手は優れた耐食性を有する。したがって、乾燥工程での乾燥温度は60℃以下である。従来、生産効率を高めるためにクロメート処理工程後の乾燥工程では乾燥温度を高める試みがされてきた。乾燥温度が高ければ、乾燥完了までに要する時間が短縮され、生産効率が高まる。しかしながら、乾燥工程での乾燥温度は60℃以下と低い方が、油井管用ねじ継手の耐食性を高めるのには有効である。
【0094】
乾燥温度の上限は好ましくは58℃、より好ましくは55℃、さらに好ましくは50℃である。乾燥温度の下限は特に限定されないが、好ましくは20℃、より好ましくは25℃、さらに好ましくは30℃である。
【0095】
以上の工程により、本実施形態の油井管用ねじ継手を製造できる。
【0096】
[無撹拌浸漬工程]
上述の製造方法は、クロメート被膜形成工程が少なくとも上記条件1を満たし、さらに、無撹拌浸漬工程を備えてもよい。無撹拌浸漬工程は、クロメート処理工程の後であって乾燥工程の前に実施される。
【0097】
従来、クロメート被膜200の形成は、クロメート処理液に被処理材を浸漬することで行われてきた。しかしながら、クロメート処理液を撹拌し、さらに、撹拌を停止した状態で浸漬する工程を設けてもよい。これにより、撹拌している初期段階で、細かい粒のクロメート被膜200が形成され、クロメート被膜200の被覆率が高まる。つづいて、無撹拌で浸漬することによって、高い被覆率を維持したまま十分な付着量のクロメート被膜200が効率的に得られる。
【0098】
クロメート被膜形成工程は上述の条件1を満たすため、クロメート処理工程でのクロメート処理液の撹拌速度は0.5m/s以上である。無撹拌浸漬工程は、クロメート処理工程後に行われる。無撹拌浸漬工程では、クロメート処理液の撹拌を停止した状態でピン側接触表面34及び/又はボックス側接触表面44をクロメート処理液に一定時間浸漬する。無撹拌浸漬工程は、ピン側接触表面34及び/又はボックス側接触表面44を、クロメート処理工程に引き続き、そのまま同じクロメート処理液に浸漬しておけばよい。クロメート処理工程後に撹拌を止めることで、無撹拌浸漬工程を実施できる。
【0099】
無撹拌浸漬工程では、ピン側接触表面34及び/又はボックス側接触表面44を一定時間浸漬する。ここで、一定時間とは、任意の時間を意味する。無撹拌浸漬工程の浸漬時間はたとえば10〜100秒である。無撹拌浸漬工程の浸漬時間の下限は好ましくは15秒、より好ましくは20秒、さらに好ましくは30秒である。無撹拌浸漬工程の浸漬時間の上限は好ましくは80秒、より好ましくは70秒、さらに好ましくは60秒である。
【0100】
[下地処理工程]
本実施形態の製造方法は、必要に応じて、Zn−Ni合金めっき層100形成工程の前に下地処理工程を備えてもよい。下地処理工程はたとえば、酸洗及びアルカリ脱脂である。下地処理工程では、接触表面上に付着した油分等を洗浄する。下地処理工程はさらに、サンドブラスト及び機械研削仕上げ等の研削加工を備えてもよい。これらの下地処理は、1種のみ実施してもよく、複数の下地処理を組み合わせて実施してもよい。
【0101】
[成膜工程]
上述のクロメート被膜200を形成した後に、成膜工程を実施してもよい。成膜工程では、クロメート被膜200上に潤滑被膜300を形成する。
【0102】
上述のクロメート被膜200上に、上述の潤滑被膜300の成分を含有する組成物又は潤滑剤を塗布することで、潤滑被膜300が形成できる。塗布方法は特に限定されない。塗布方法はたとえば、スプレー塗布、刷毛塗り及び浸漬である。スプレー塗布を採用する場合、組成物又は潤滑剤を加熱して、流動性を高めた状態で噴霧してもよい。潤滑被膜300は、接触表面34,44の一部に形成してもよいが、接触表面34,44全体に均一に形成することが好ましい。成膜工程は、ピン3及びボックス4の両方に実施してもよいし、片方のみに実施してもよい。
【実施例】
【0103】
以下、実施例を説明する。また、実施例中の%は、質量%を意味する。
【0104】
本実施例においては、ねじ継手の母材を想定して、市販の冷延鋼板を使用した。冷延鋼板は縦150mm×横100mm(めっき面は縦100mm×横100mm)であった。鋼種は、極低炭素鋼であった。鋼板の化学組成は、C:0.19%、Si:0.25%、Mn:0.8%、P:0.02%、S:0.01%、Cu:0.04%、Ni:0.1%、Cr:13%、Mo:0.04%、残部:Fe及び不純物であった。
【0105】
[Zn−Ni合金めっき層形成工程]
各試験番号の冷延鋼板にめっき層を形成した。Zn−Ni合金めっき層の形成は、電気めっきにより実施した。めっき液は、大和化成株式会社製ダインジンアロイ N−PL(商品名)を使用した。めっき液はポンプで循環させて、攪拌した。めっき液の攪拌速度は、めっき液の線速で0.5m/sとした。めっき電流密度は6A/dmとした。めっき時間は345秒とした。得られたZn−Ni合金めっき層の膜厚は、約8μmであった。得られたZn−Ni合金めっき層のNi含有率は約13%であった。
【0106】
[クロメート被膜形成工程]
[クロメート処理工程]
Zn−Ni合金めっき層の上に、クロメート被膜を形成した。クロメート被膜の形成は、クロメート処理により実施した。クロメート処理液は、大和化成株式会社製、ダインクロメートTR−02(商品名)を使用した。クロメート処理液を撹拌する場合はポンプで循環させて攪拌した。クロメート処理液の攪拌速度及び処理時間は、表1に示すとおりであった。表1中、「クロメート処理液の攪拌速度(m/s)」は、クロメート処理液の攪拌速度であり、クロメート処理液をポンプで循環させた場合の循環量を、クロメート処理液の線速で示した値である。
【0107】
[乾燥工程]
クロメート処理後の被処理材を直ちに純水で水洗し、熱風炉により乾燥した。乾燥工程では、熱風炉の設定温度を50〜90℃、時間を5〜15分とした。各試験番号の乾燥工程の条件を表1に示す。
【0108】
[無撹拌浸漬工程]
上述のとおり、試験番号15及び試験番号16では、無撹拌浸漬工程を実施した。表1に無撹拌浸漬工程での浸漬時間を示す。
【0109】
【表1】
【0110】
[明度L値測定試験]
上述の方法により、クロメート被膜表面の明度L値を測定した。結果を表1に示す。
【0111】
[クロメート被膜の付着量測定試験]
試験番号10〜試験番号16について、上述の方法により、クロメート被膜の付着量(クロム換算)を測定した。結果を表1のCr付着量の欄に示す。なお、表1中、試験番号1〜試験番号9の「−」については、Cr付着量を測定しなかったことを示すものであり、Crが検出されなかったことを示すものではない。
【0112】
[耐食性試験]
耐食性は、塩水噴霧試験(SST)300時間後の白錆発生面積率(%)により評価した。試験番号1〜試験番号16に対して、塩水噴霧試験を実施した。試験片の大きさは70mm×150mmであり、厚さは1mmであった。塩水噴霧試験はJIS Z2371(2015)に記載された方法に基づいて実施した。35℃の雰囲気下で5%の塩水とした。塩水噴霧時間は300時間とした。目視観察により各試験番号の試験片表面に白錆が発生した部分を特定し、面積を計測した。試験片表面全体に対する白錆が発生した部分の面積を、白錆発生面積率(%)とした。結果を表1に示す。試験番号10〜試験番号16ではさらに、528時間及び1008時間まで塩水噴霧試験を実施した。結果を表1に示す。なお、試験番号1〜試験番号9においては、300時間で塩水噴霧試験を終了した。したがって、表1中、試験番1〜試験番号9について「−」とは、白錆発生面積率(%)を測定しなかったことを意味する。
【0113】
[評価結果]
表1を参照して、試験番号1、試験番号2、及び、試験番号8〜試験番号16は、クロメート処理工程において、条件1〜条件3から選択される1つ又は2つ以上の条件を満たした。そのため、L値が65未満であった。その結果、白錆発生面積率が50%未満となり、優れた耐食性を有した。
【0114】
一方、試験番号3〜試験番号7では、条件1〜条件3のいずれも満たさなかった。そのため、L値が65以上であった。その結果、白錆発生面積率が50%以上となり、耐食性が劣った。
【0115】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0116】
1 鋼管
2 カップリング
3 ピン
31 ピン側ねじ部
32 ピン側金属シール部
33 ピン側ショルダー部
34 ピン側接触表面
4 ボックス
41 ボックス側ねじ部
42 ボックス側金属シール部
43 ボックス側ショルダー部
44 ボックス側接触表面
100 Zn−Ni合金めっき層
200 クロメート被膜
300 潤滑被膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9