特許第6918114号(P6918114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6918114ニッケル−クロム−モリブデン合金の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6918114
(24)【登録日】2021年7月26日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】ニッケル−クロム−モリブデン合金の使用
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20210729BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
   B23K35/30 340L
   C22C19/05 B
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-531910(P2019-531910)
(86)(22)【出願日】2017年12月12日
(65)【公表番号】特表2020-508872(P2020-508872A)
(43)【公表日】2020年3月26日
(86)【国際出願番号】DE2017101066
(87)【国際公開番号】WO2018108208
(87)【国際公開日】20180621
【審査請求日】2019年6月20日
(31)【優先権主張番号】102016124588.7
(32)【優先日】2016年12月16日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516236078
【氏名又は名称】ファオデーエム メタルズ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】VDM Metals International GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ヴォルフ
(72)【発明者】
【氏名】ライナー ベーレンス
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−103867(JP,A)
【文献】 特開平06−031453(JP,A)
【文献】 特開昭57−171645(JP,A)
【文献】 特開昭49−129016(JP,A)
【文献】 特開2002−286621(JP,A)
【文献】 特表2000−512345(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0052080(US,A1)
【文献】 西独国特許出願公開第03821896(DE,A)
【文献】 中国特許出願公開第105618959(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/30
C22C 19/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組成(質量%)
Cr 20.0〜23.0%
Mo 18.5〜21.05%
Fe >0.1〜≦1.5%
Mn >0.05〜≦0.5%
Si >0.001〜≦0.1%
Al ≧0.19〜≦0.4%
≧0.003〜≦0.01%
N 0.02〜0.15%
任意に
V ≦0.3%
B ≦0.002%
Ni 残部、および溶融に起因する不純物
Co ≦0.3%
W ≦0.3%
Cu ≦0.5%
P ≦0.015%
S ≦0.01%
Nb ≦0.2%
Ti ≦0.02%
の合金の、熱的利用施設および代替材料焼却施設の分野におけるクラッド用材料としての使用。
【請求項2】
以下の組成(質量%)
Cr >20.0〜<23.0%
Mo >18.5〜<21.0%
Fe >0.1〜<1.0%
Mn >0.05〜<0.4%
Si >0.001〜<0.10%
Al ≧0.19〜≦0.3%
≧0.003〜≦0.05%
N 0.04〜<0.1%
任意に
V ≦0.25%
B ≦0.002%
Ni 残部、および溶融に起因する不純物
Co ≦0.2%
W ≦0.25%
Cu ≦0.4%
P ≦0.015%
S ≦0.005%
Nb ≦0.2%
Ti ≦0.02%
の合金の、熱的利用施設および代替材料焼却施設の分野におけるクラッド用材料としての使用。
【請求項3】
前記クラッド用材料は、ゴミ焼却施設の熱交換管の分野において使用される、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
前記クラッド用材料は、施与後に、運転負荷のかかった状態で、少なくとも600MPaの耐力Rp0.2を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
肉盛溶接材料としての前記クラッド用材料は、600MPaを上回る耐力Rp0.2を有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
肉盛溶接材料としての前記クラッド用材料は、640MPaを上回る耐力Rp0.2を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
肉盛溶接材料としての前記クラッド用材料は、800MPaを上回る引張強さRmを有する、請求項1から6までのいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
肉盛溶接材料としての前記クラッド用材料は、840MPaを上回る引張強さRmを有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
前記クラッド用材料は、補修に使用される、請求項1から8までのいずれか1項記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱的利用の際に発生し得る攻撃的な媒体に対して高い耐食性を有する窒素合金化ニッケル−クロム−モリブデン合金の、鋼の被覆のための使用に関する。
【0002】
国際公開第98/55661号(WO98/55661)は、攻撃的な液状媒体に対して酸化と還元のいずれの条件下でも高い耐食性を有し、かつ塩化物を含有する酸性媒体における局部腐食に対して優れた耐久性を有する、混練可能なオーステナイトニッケル均質合金を開示する。該合金は、(質量%)クロム20.0〜23.0%、モリブデン18.5〜21.0%、鉄最大1.5%、マンガン最大0.5%、シリコン最大0.1%、コバルト最大0.3%、タングステン最大0.3%、銅最大0.3%、アルミニウム0.1〜0.3%、マグネシウム0.001〜0.15%、カルシウム0.001〜0.01%、炭素最大0.01%、窒素0.05〜0.15%、バナジウム0.1〜0.3%、残部のニッケルおよび溶融に起因するさらなる不純物からなる。該合金は、化学的攻撃に対する耐久性がなければならない部材用の材料としても、他のニッケル系材料用の過剰合金化溶加材としても適している。
【0003】
熱的利用のための用途、例えばゴミ焼却施設、代替材料焼却施設またはバイオマス施設におけるクラッド用材料としては、現在のところ、ニッケル合金、例えばFM625、FM622およびFM686が使用されている。熱交換管;加熱面および煙道ガスと接触する面ならびに他の部材は、しばしばクラッド処理によって腐食から保護されているにもかかわらず、使用される材料および運転条件に応じて、過熱管および熱負荷のかかる他の部材の消耗(Abzehrungen)が生じ、これによって運転者には停止状態および費用のかかるメンテナンス作業が強いられる。
【0004】
本発明の目的は、従来技術によって長年使用されている合金を、クラッド分野における新たな適用範囲に供給することである。
【0005】
この目的は、以下の組成(質量%)
Cr 20.0〜23.0%
Mo 18.5〜21.05%
Fe ≦1.5%
Mn ≦0.5%
Si ≦0.1%
Co ≦0.3%
W ≦0.3%
Cu ≦0.5%
Al ≦0.4%
C ≦0.01%
P ≦0.015%
S ≦0.01%
N 0.03〜0.15%
必要に応じて
V ≦0.3%
Nb ≦0.2%
Ti ≦0.02%
Ni 残部、および溶融に起因する不純物
の合金の、熱的利用施設および代替材料焼却施設の分野におけるクラッド用材料としての使用によって達成される。
【0006】
本発明の対象の有利な発展形態は、従属請求項で見出すことができる。
【0007】
これまでもっぱら湿式腐食分野においてのみ使用されてきた上記材料について研究したところ、意想外にも、熱的利用の温度範囲においても該材料を有利に使用できることが判明した。
【0008】
好ましい化学組成(質量%)を以下に挙げる:
Cr >20.0〜<23.0%
Mo >18.5〜<21.0%
Fe >0.1〜<1.0%
Mn >0.05〜<0.4%
Si >0.05〜<0.10%
Co ≦0.2%
W ≦0.25%
Cu ≦0.4%
Al ≦0.3%
C ≦0.05%
P ≦0.015%
S ≦0.005%
N 0.04〜<0.10%
必要に応じて
V ≦0.25%
Nb ≦0.2%
Ti ≦0.02%
Ni 残部、および溶融に起因する不純物。
【0009】
熱的利用施設の部材および煙道ガスと接触する面における腐食曝露は、多様であり、かつ複雑である。例えば、さまざまな種類の(拡散制御的)高温腐食、例えば浸炭、溶融塩による腐食、またはハロゲン(とりわけ塩素)による腐食が発生する。さらに、停止状態の時間およびメンテナンスの時間において使用される材料には、付加的に湿式腐食機構によって著しく負荷がかかる可能性がある。
【0010】
この自体公知の材料は、熱的利用施設の分野におけるクラッド用材料としての使用に非常に適していることが明らかになった。様々な試験において、この材料が肉盛溶接の方法に関して優れた溶接性(高い割れ抵抗および良好な濡れ性)を有することが証明された。クラッド層の施与は、肉盛溶接以外に、例えば粉末またはワイヤを用いた火炎溶射またはプラズマ溶射によっても行うことができる。
【0011】
試験媒体「グリーンデス(Gruener Tod)」において、第2の肉盛溶接層からの臨界孔食温度は、約135℃である。したがって、停止状態の時間およびメンテナンスの時間における孔食腐食による湿潤腐食攻撃の増大が生じない可能性が高いと考えられる。
【0012】
さらに、純粋な溶接物は、運転負荷のかかった状態において、少なくとも600MPaという驚くほど高い耐力RP0.2を有することが判明した。また表1に示すように、運転負荷によって硬度が増加することを確認することができた。合金の高いクロム含有量およびモリブデン含有量ならびに固溶体硬化の機構に加えて、金属間化合物相の析出によって、運転状態においてさらなる硬度増加が生じる。
【0013】
これらの実験結果をもって、この材料が、単なる拡散制御的/電気化学的腐食だけでなく、とりわけ機械的応力、例えば散乱粒子および煙粒子による機械的応力(エロージョンまたはエロージョン・コロージョン)に対する材料の抵抗との組み合わせも重要である熱的利用施設の過酷な条件下で、新規な特性プロファイルを有することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ゴミ焼却施設において使用することのできる熱交換管を示す図。
図2】FM2120における温度と元素の質量%との関係を示す図。
図3】FM2120における温度と相の質量%との関係を示す図。
【0015】
一例に基づいて、本発明を以下により詳細に説明する:
図1は、例として、ゴミ焼却施設(図示せず)において使用することのできる熱交換管1を示す。この管1は、この例において、C形鋼製の水冷部材である。輪郭のみが示されている溶接バーナ2(例えば、MSGまたはTIG)を用いて、管1を回転3させながら肉盛溶接材料4が施与される。
【0016】
表1に、本発明による肉盛溶接材料の組成、および従来使用されている他の材料の組成を示す。
【0017】
【表1】
表1
【0018】
表2に、表1において挙げられた材料の溶接状態における材料データを示す。
【0019】
【表2】
表2
【0020】
【表3】
表3:出発状態(溶接されたまま)および溶接後熱処理した状態における肉盛溶接物のHV0.1値の比較
【0021】
ゴミ焼却施設における部材に使用可能な材料FM2120は、比較材料に対して、強さの値RP0.2およびRmがより高い点で優れている。この後に行ったCalphadソフトウェアでの計算によって、この効果が特に、金属間化合物相、例えばμ相の形成によって引き起こされることが判明した。このことは、金属組織学的な試験によっても証明することができる。
【0022】
相図の計算により、920℃を下回る温度範囲において、熱力学的平衡状態での金属間μ相の存在(図2)が予測される。これらの相の量は、650℃でおよそ27質量%であり(図3)、これによって、クラッド用材料の機械工学的特性の変化および構造の調整がもたらされる。その際このμ相は、クラッド用材料中にこの相が存在する領域の温度範囲における比較的長期の熱の影響によって形成される。
図1
図2
図3