特許第6918166号(P6918166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6918166疼痛治療におけるCYP2J2アンタゴニスト
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6918166
(24)【登録日】2021年7月26日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】疼痛治療におけるCYP2J2アンタゴニスト
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4184 20060101AFI20210729BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20210729BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20210729BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20210729BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20210729BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
   A61K31/4184
   A61K31/445
   A61K45/06
   A61P25/02 101
   A61P29/00
   A61P43/00 111
【請求項の数】7
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2020-50465(P2020-50465)
(22)【出願日】2020年3月23日
(62)【分割の表示】特願2017-503107(P2017-503107)の分割
【原出願日】2015年8月14日
(65)【公開番号】特開2020-111595(P2020-111595A)
(43)【公開日】2020年7月27日
【審査請求日】2020年3月23日
(31)【優先権主張番号】14181086.1
(32)【優先日】2014年8月14日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】14186624.4
(32)【優先日】2014年9月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507210281
【氏名又は名称】フラウンホファー‐ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・アンゲヴァンテン・フォルシュング・エー・ファウ
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(72)【発明者】
【氏名】シシグナノ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】ブレンナイス,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ショーリッヒ,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】ガイスリンガー,ゲルト
(72)【発明者】
【氏名】ジン,セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】パーハム,ミカエル ヨハン
【審査官】 新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/062900(WO,A2)
【文献】 ASIEH NADERI,ESTRADIOL ATTENUATES SPINAL CORD INJURY-RELATED CENTRAL PAIN BY DECREASING GLUTAMATE LEVELS 以下備考,METABOLIC BRAIN DISEASE,米国,2014年 5月31日,VOL:29, NR:3,PAGE(S):763 - 770,IN THALAMIC VPL NUCLEUS IN MALE RATS,URL,http://dx.doi.org/10.1007/s11011-014-9570-z
【文献】 Anesthesiology Research and Practice,2013年,Vol.2013, Article ID 978615,pp.1-7
【文献】 European Journal of Pharmacology,2011年,Vol.667,pp.215-221
【文献】 European Journal of Pharmacology,2007年,Vol.561,pp.194-201
【文献】 CHEN C,SELECTIVE INHIBITORS OF CYP2J2 RELATED TO TERFENADINE EXHIBIT STRONG ACTIVITY AGAINST HUMAN 以下備考,JOURNAL OF PHARMACOLOGY AND EXPERIMENTAL THERAPEUTICS,米国,2009年 3月16日,VOL:329, NR:3,PAGE(S):908 - 918,CANCERS IN VITRO AND IN VIVO,URL,http://dx.doi.org/10.1124/jpet.109.152017
【文献】 Expert Opinion on Drug Metabolism & Toxicology,2006年,2(4),pp.629-637
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 45/00
A61P 25/00
A61P 29/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛(CIPNP)の予防又は治療に使用するための選択的シトクロムP450エポキシゲナーゼ2J2(CYP2J2)アンタゴニストを含む医薬組成物であって、該選択的CYP2J2アンタゴニストがテルミサルタン及びテルフェナジンからなる群から選択される、医薬組成物。
【請求項2】
対象が化学療法を受療した、受療する、又は受療する予定である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
化学療法がパクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル又はそれらの誘導体の投与を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
CIPNPの予防又は治療に同時に又は連続して使用するための、(i)選択的CYP2J2アンタゴニスト及び(ii)化学療法剤を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
(i)及び(ii)を前記予防又は治療中に対象に連続して又は同時に投与することにより組合せる、又は前記アンタゴニストを前記予防又は治療中に同時に投与する、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
化学療法剤がパクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル又はそれらの誘導体から選択される、請求項4又は5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
疼痛に対して効果的な少なくとも1種の追加の治療剤が前記対象に投与される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経障害性疼痛、特に化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛(CIPNP)の新規の治療に関する。本発明は、CIPNP等の神経障害性疼痛の治療に使用される治療剤としてのシトクロムP450エポキシゲナーゼ(CYP)のアンタゴニスト(antagonistsof)、特にCYP2J2のアンタゴニストを提供する。CYP2J2アンタゴニストは、in-vivoにおいてCIPNPを軽減することが確認されているため、癌又は他の増殖性障害等の疾患の治療のための化学療法剤と更に組み合わせて提供されている。CYP2J2アンタゴニストは、化学療法剤誘発性疼痛を低減するため、癌治療中の化学療法剤のより高濃度のより効果の高い投薬を可能とする。さらに、本発明は、TRPV1を感作するためのCYP2J2アゴニスト又はCYP2J2の代謝産物の使用に関する。これに関連して、本発明はCYP2J2アゴニスト又は代謝産物と一過性受容体電位バニロイド1(TRPV1)アゴニストとを併用し、神経障害性疼痛等のTRPV1アゴニストに応答する障害を治療することを提案する。
【背景技術】
【0002】
神経障害性疼痛は、神経系、末梢神経、後根神経節、後根又は中枢神経系への損傷を生じるおそれのある持続性又は慢性の疼痛症候群である。神経障害性疼痛症候群には、アロディニア、種々の神経痛、例えば帯状疱疹後神経痛及び三叉神経痛、幻肢痛並びに複合性局所疼痛症候群、例えば反射性交感神経性萎縮症及び灼熱痛がある。灼熱痛は多くの場合、痛覚過敏とアロディニアとが組み合わされた自発性熱傷疼痛を特徴とする。残念なことに、神経障害性疼痛のための現在の治療法は、自覚した疼痛を低減し又は排除するというより、単に精神療法又は作業療法を介して患者が対処することを助けようとすることから、十分に、予測通りに、及び具体的に確立された神経障害性疼痛を治療する既存の方法はない。神経障害性又は慢性の疼痛治療は、具体的にその病態を標的とする医薬がないことから、また現在使用されている医薬はほんの少しの緩和にしかならず、急性の疼痛病態における有効性又は不安症及び鬱病のような二次的な影響の緩和に対する有効性に基づいていることから、医師及び患者にとって困難なものとなる。一般社会における慢性疼痛の発生は増加する傾向にあり、その社会的負担は医療及び生産性の損失の両方において大きいものである。現在、慢性疼痛を緩和するための科学的に立証されている治療法はない。結果として、医療機関は、生活の質をいくらか改善させることを望むと同時に集学的治療法を使用する「疼痛管理」を目的としている。したがって、慢性疼痛を緩和することができる薬剤が早急に必要とされる。
【0003】
化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛(CIPNP)とは、細胞増殖抑制剤、例えばタキサン、白金誘導体、ビンカアルカロイド等の重度の用量を制限する副作用である。症状は通常、刺痛から始まり、熱傷、穿刺痛及びうずくような疼痛並びに寒気及び機械的アロディニアを生じるおそれがある。CIPNPのため、一部の患者は、細胞増殖抑制剤を用いた抗癌治療をかなり早い時期に中止し、腫瘍が進行する危険を増大させる。残念なことに、様々な種類の神経障害性疼痛の治療に既に承認されている多くの有望な物質、例えばガバペンチン又はアミトリプチリン(oramitriptyline)は、CIPNPの単剤療法において鎮痛剤の作用はほとんど又は全くないと思われる。細胞及び分子機構を理解することは、CIPNPを治療及び更には予防するために必要であり、細胞増殖抑制剤治療の全体の成功率を改善する可能性もある。
【0004】
最近の研究において、イオンチャネルの一過性受容体電位ファミリーのメンバー(TRPV1、TRPA1及びTRPV4)がオキサリプラチン及びパクリタキセル誘発性神経障害を発症中の機械的及び寒冷アロディニアの両方に対する寄与因子として同定された。TRPV1及びTRPA1の活性化又は感作は、神経性炎症及びT細胞の動員を生じ得るCGRP及びP物質の両方の放出を高めるおそれがある。
【0005】
しかし、どの細胞増殖抑制剤も直接TRPチャネルを活性化することができないとして、どの内因性伝達物質が細胞増殖抑制剤依存性のTRPチャネルの活性化又は感作に関与するかは不明のままである。興味深いことに、パクリタキセル及びオキサリプラチンはともにCYPエポキシゲナーゼ(epoxygenase)(パクリタキセル:CYP2C8、CYP2C9、オキサリプラチン:CYP2E1、CYP1B1)の誘導物質である。シトクロムP450(CYP)エポキシゲナーゼは、EET(エポキシエイコサトリエン酸(poxyeicosatrienoic acid))等の脂質エポキシド又は20-HETE等のω水酸化物のいずれかを生成する、ω-6脂肪酸、例えばアラキドン酸(AA)及びリノール酸(LA)を代謝することができる。
【0006】
シトクロムP450モノオキシゲナーゼによるアラキドン酸の代謝は、種々の生物学的に活性なエイコサノイドの形成を生じる。3種類の酸化反応が生じることが知られている。第1に、オレフィンエポキシ化(エポキシゲナーゼが触媒)がエポキシエイコサトリエン酸(EET)を生じる。4つの重要なEET位置異性体には、[5,6]-EET、[8,9]-EET、[11,12]-EET及び[14,15]-EETがある。EETをエポキシドヒドロラーゼにより加水分解し、対応するジヒドロキシエイコサトリエン酸(DHET)を形成する。第2に、オメガ末端酸化はオメガ末端ヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)の形成を生じる。第3に、アリル酸化が中鎖HETEの形成を生じる。
【0007】
CYP1A、CYP2B、CYP2C、CYP2E及びCYP2Jのサブファミリーのメンバーを含むいくつかのシトクロムP450エポキシゲナーゼが同定されている。最近では、CYP2Jサブファミリーのタンパク質が注目されている。特定のアイソフォームの1つであるCYP2J2は、ヒト心筋細胞において高発現し、この場合アラキドン酸を代謝し、EETを生成する。CYP2J2タンパク質は、気道及び消化管の上皮細胞にも見られる。他のP450酵素と対照的に、上皮細胞及び非上皮細胞におけるCYP2J2タンパク質は、消化管の長さに沿って均一に分布している。高レベルのCYP2J2タンパク質は、自律神経節の細胞、上皮細胞及び腸管平滑筋細胞において見られる。いくつかのCYP2Jホモログは、ラットCYP2J3、ラットCYP2J4、マウスCYP2J5及びマウスCYP2J6を含む動物において同定されている。
【0008】
カプサイシンは、一過性受容体電位バニロイド1受容体(TRPV1;これまでにバニロイド受容体1(VR1)として知られている)の高選択的アゴニストであり、小径の感覚ニューロン、特に疼痛の又は有害な感覚の検出に特化するC線維において優先的に発現するリガンド開口型の非選択的カチオンチャネルである。TRPV1は、カプサイシン、熱及び細胞外酸性化を含む有害な刺激に応答し、同時にこのような刺激への曝露を統合する。TRPV1発現型(カプサイシン感受性)侵害受容器の活性化の初期の影響は、熱傷感覚、痛覚過敏、アロディニア及び紅斑である。しかし、低濃度のカプサイシンへの長期間の曝露後又は高濃度のカプサイシン若しくは他のTRPV1アゴニストの単回の曝露後に、小径の感覚軸索は、カプサイシン又は熱刺激を含む種々の刺激に対する感受性が小さくなる。この長期の曝露はまた、疼痛応答の減少を特徴とする。これらのカプサイシンの後期の影響は「脱感作」と呼ばれることも多く、種々の疼痛症候群及び他の病態の治療に対する局所カプサイシン配合物の開発の根拠となる。
【0009】
それゆえ、カプサイシン、カプサイシノイド及びTRPV1アゴニストは、複数の疾患の改善に有用であり得る。例えばそれらを使用して、神経因性疼痛(糖尿病性神経障害、帯状疱疹後神経痛、HIV/AIDS、外傷性損傷、複合性局所疼痛症候群、三叉神経痛、肢端紅痛症及び幻肢痛に関連する疼痛を含む)、侵害受容性及び/又は神経因性の混合病因(mixed nociceptive and/or neuropathic mixed etiologies)(例えば癌)、骨関節炎、線維筋痛症、腰痛、炎症性痛覚過敏、外陰部前庭炎又は外陰部痛、副鼻腔ポリープ、間質性膀胱炎、神経因性膀胱又は過活動膀胱、前立腺過形成、鼻炎、手術、外傷、直腸過敏、口腔灼熱症候群、口腔粘膜炎、ヘルペス(又は他のウイルス感染症)、前立腺肥大、皮膚炎、掻痒症、疥癬、耳鳴症、乾癬、疣贅、癌(特に皮膚癌)、頭痛及び皺(wrinkles)により生じる疼痛を治療することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、今日まで、癌治療中の化学療法剤の最大投薬量を制限し、化学療法を行っている患者の生活の質を激しく損なう神経障害性疼痛、特に化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛(CIPNP)に利用可能な具体的な治療法はない。それゆえ本発明の目的は、神経障害性疼痛、特にCIPNPに対処する新規の治療選択肢を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題は、第1の態様において、対象の疼痛の予防又は治療に使用するシトクロムP450エポキシゲナーゼ(CYP)アンタゴニストにより解決される。本発明のいくつかの実施の形態において、CYPアンタゴニストは、CYP1A、CYP2B、CYP2C、CYP2E及び好ましくはCYP2Jのアンタゴニストからなる群から選択される。最も好ましくは、CYPアンタゴニストは、CYP2J2(CYP2J2アンタゴニスト)、好ましくはヒトCYP2J2、例えばテルミサルタン、アリピプラゾール又は最も好ましくはテルフェナジンの哺乳動物ホモログのアンタゴニストである。
【0012】
本発明は、任意のCYP2J2アンタゴニスト、好ましくは選択的CYP2J2アンタゴニストの使用を包含する。「選択的CYP2J2アンタゴニスト」という用語は、CYP2J2の活性、機能又は発現を選択的に阻害するが、他の関連酵素、例えばCYP3A分子等は阻害しないCYP2J2のアンタゴニストに関する。候補アンタゴニストがCYP2J2アンタゴニストであるかを同定するため、ルミノゲニックシトクロムP450グロー型アッセイを使用することができる。CYPタンパク質は、アラキドン酸の代謝産物の形成を触媒する。ルミノゲニックCYPアッセイは、ルシフェラーゼの光生成反応のプロ基質(prosubstrates)を使用する。CYPは、ルシフェリン又はルシフェリンエステルに対するプロ基質を変換し、これがルシフェリン検出試薬(LDR)と呼ばれるルシフェラーゼ反応ミックスとの第2の反応において光を生成する。第2の反応において生成された光の量はCYP活性と比例する。
【0013】
候補CY2J2アンタゴニストの選択性を試験するため、他のCYP酵素、例えばCYP3A4に特異的なルミノゲニックCYPアッセイを使用することができる。それゆえCYP2J2に対する候補アンタゴニストの阻害活性と、別のCYPタンパク質、例えばCYP3A4に対する同じアンタゴニストの阻害活性とを比較することにより、候補アンタゴニストの選択性についての情報が得られる。
【0014】
本発明に好ましい選択的CYP2J2アンタゴニストは、エストラジオール、フェノキシベンザミン-HCl、ロラタジン、プロピオン酸クロベタゾール、メシル酸ドキサゾシン、フェノフィブラート、レボノルゲストレル、アリピプラゾール、ハルシノニド、テルミサルタン、クロファジミン、レボチロキシン-Na、アロセトロン-HCl、フルオシノニド、リオチロニン-Na、メクリジンジヒドロクロリド及びテルフェナジン、並びにそれらの誘導体からなる本明細書において新たに開示されたCYP2J2アンタゴニストの群から選択される。
【0015】
本明細書に記載の本発明について、治療される上記疼痛は、神経因性疼痛(糖尿病性神経障害、帯状疱疹後神経痛、HIV/AIDS誘導性神経因性疼痛、外傷性損傷、複合性局所疼痛症候群、三叉神経痛、肢端紅痛症及び幻肢痛に関連する疼痛を含む)、侵害受容性及び/又は神経因性の混合病因(例えば癌)、骨関節炎、線維筋痛症、腰痛、炎症性痛覚過敏、外陰部前庭炎又は外陰部痛、副鼻腔ポリープ、間質性膀胱炎、神経因性膀胱又は過活動膀胱、前立腺過形成、鼻炎、手術、外傷、直腸過敏、口腔灼熱症候群、口腔粘膜炎、ヘルペス(又は他のウイルス感染症)、前立腺肥大、皮膚炎、掻痒症、疥癬、耳鳴症、乾癬、疣贅、癌、頭痛及び皺により生じる疼痛、発作若しくは腫瘤性病変、脊髄損傷又は多発性硬化症による中枢性疼痛であることが好ましい。しかし、最も好ましい実施の形態は、化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛(CIPNP)に関する。
【0016】
ここで、本発明は特に、本発明によれば、イオンチャネル介在性疼痛知覚の増感剤である、代謝化合物の9,10-EpOMEを産生するCYP2J2の活性を阻害することを含む疼痛療法を提供する。驚くべきことに、本発明によるCYP2J2の阻害は、マウスモデルにおいて、パクリタキセルによって誘発された神経障害性疼痛を軽減するのにin-vivoにて効果的であることが証明されており、CYP2J2アンタゴニストを神経障害性疼痛、特にCIPNPに対する鎮痛剤として使用することが示されている。
【0017】
本発明の更なる一実施の形態は、疼痛の上記に挙げた予防又は治療であって、上記疼痛に苦しむ対象への本発明の上記CYPアンタゴニストの投与を含み、上記対象が化学療法を受療した、受療する、又は受療する予定であることを含む、治療又は予防に関する。それゆえ、好ましい実施の形態において、対象は、癌疾患に罹患し、又は癌疾患と診断された対象である。
【0018】
本発明に関する化学療法は、ピリミジノンベースの抗腫瘍剤、例えばシタラビン、5-フルオロウラシル又は白金抗癌剤、例えばシスプラチン又はタキサン、例えばパクリタキセル、ドセタキセル若しくはカバジタキセル又はそれらの誘導体から選択される治療を必要とする対象への化学療法剤の投与を含むことが好ましい。このような化学療法剤は、神経障害性疼痛を誘発することが知られ、特にこれはタキサンに対して知られており、それゆえタキサンは本発明に関して好ましい。パクリタキセルが最も好ましい。
【0019】
さらに、本発明による疼痛の上記予防又は治療は、上記CYPアンタゴニスト及び上記化学療法剤の同時又は連続の投与を含む。この実施の形態において、本発明の組合せに対して以下の説明もまた参照されたい。
【0020】
本発明の課題は、別の態様において、対象の疼痛の予防又は治療に使用する9,10-エポキシ-12Z-オクタデセン酸(9,10-EpOME)アンタゴニストにより解決される。9,10-EpOMEは、CYP活性を生じることがわかっている。それゆえ、CYPに拮抗する代わりに、本発明の結果は、代替的に9,10-EpOMEに直接拮抗し、疼痛介在ニューロンの感作を回避することにより得ることができる。このような本発明の9,10-EpOMEアンタゴニストは、好ましくは低分子であるだけでなく、9,10-EpOMEに結合し、TRPV1の感作を阻害するタンパク質又はペプチド(例えば、それらの抗体又はフラグメント)である。
【0021】
この態様において、CYPアンタゴニストを使用する上記の特定の実施の形態はまた、本発明の9,10-EpOMEアンタゴニスト用、特に上記予防又は治療及び化学療法に関連する実施の形態に適用する。
【0022】
上記課題は、(i)CYPアンタゴニスト又は9,10-EpOMEアンタゴニスト及び(ii)増殖性障害、例えば癌又は疼痛、例えばCIPNPから選択される疾患の予防又は治療に同時に又は連続して使用される化学療法剤を含む組合せにより更に解決される。
【0023】
本明細書において使用される「増殖性障害」という用語は、広い意味において細胞周期の制御を必要とする任意の障害、例えば心血管障害、例えば再狭窄及び心筋症、自己免疫障害、例えば糸球体腎炎及び関節リウマチ、皮膚障害、例えば乾癬、抗炎症障害、抗真菌症障害、抗寄生虫性障害、例えばマラリア、肺気腫並びに脱毛症を含む。これらの障害において、本発明の化合物は、必要な場合アポトーシスを誘発し、又は所望の細胞内において閉塞を維持することができる。好ましくは、増殖性障害は、癌又は白血病、最も好ましくは乳房、肺、前立腺、膀胱、頭頚部、結腸の癌、卵巣癌、子宮癌、肉腫又はリンパ腫である。
【0024】
本実施の形態はまた、化学療法剤を用いた治療中である、疼痛に苦しむ対象群の治療に関する。それゆえ、本発明のCYPアンタゴニストを、癌治療と同じ期間中に投与することができ、又は代替的には癌治療前又は癌治療後に投与される。このことは、有害作用が蓄積されることを回避するために好ましいとされ得る。本発明の結果は、本発明のCYPアンタゴニストの生理学的作用及び化学療法剤の疼痛誘発性をこのような治療を必要とする対象において組み合わせるときに得られる。治療中の医薬の最後の用量を投与した後に、医薬により誘発された生理学的作用は、直ちに消失しないが、遅れて消失する可能性が最も高い。それゆえ、連続する治療サイクルにおいて本発明のアンタゴニストを使用して、例えば本発明のアンタゴニストを同時ではなく化学療法に先だって投与し、それでもなお患者における両化合物の臨床効果が組み合わされるため、本発明の併用治療の意味に含まれる。
【0025】
これに関連して、「組合せ」という用語は、1つの配合物中の2つ以上の活性物質の組合せ及び更に治療的処置における互いに特定の間隔にて投与される活性物質の個々の配合物の意味の組合せを意味する。したがって、「組合せ」という用語は、本発明に関連して記載された通りに、2つ以上の治療的に有効な化合物の共投与の臨床的現実性を含むものとする。
【0026】
共投与:本出願に関連して、2つ以上の化合物の共投与は、それぞれが本化合物の1つを含有する2つ以上の医薬の別個の投与及び2つ以上の化合物が1つの配合物として組み合わされるか否か又は2つ以上の別個の配合物中に組み合わされるかに関わらない同時の投与を含む、この2つ以上の化合物の該患者への1年以内の投与として定義される。
【0027】
一実施の形態における本発明の組合せは、上記予防又は治療中に対象に連続して又は同時に投与することにより(i)及び(ii)を組み合わせ、好ましくはアンタゴニスト及び化学療法剤を該予防又は治療中に同時に投与することを含む。
【0028】
化学療法剤は、ピリミジノンベースの抗腫瘍剤、例えばシタラビン、5-フルオロウラシル又は白金抗癌剤、例えばシスプラチン又はタキサン、例えばパクリタキセル若しくはドセタキセル又はそれらの誘導体から選択されることが好ましい。化学療法剤がパクリタキセル又はドセタキセルであることが最も好ましい。
【0029】
本明細書に記載の本発明のアンタゴニストは、阻害性RNA、阻害性抗体若しくはそれらのフラグメント、及び/又は低分子からなる化合物の群から選択されることが好ましい。好ましいCYPアンタゴニストの詳細な説明を本明細書の以下に記載する。
【0030】
本発明に関連して、疼痛に対して有効な少なくとも1つの追加の治療剤、例えばモルヒネ、オピオイド若しくは非オピオイド鎮痛剤又は他の鎮痛剤を上記対象に投与することも好ましい。
【0031】
本発明の別の態様において、対象の疼痛の予防又は治療のための方法であって、本発明による治療有効量のCYPアンタゴニスト又は9,10-EpOMEアンタゴニストを該対象に投与する工程を含む、方法を提供する。CYPアンタゴニストはCYP1A、CYP2B、CYP2C、CYP2E及びCYP2Jのアンタゴニストからなる群から選択されることが好ましい。CYP2Jアンタゴニストは、CYP2J2の哺乳類動物ホモログ、好ましくはヒトCYP2J2のアンタゴニスト(CYP2J2アンタゴニスト)、例えばテルフェナジン又はテルミサルタン及びバイオシミラー若しくはそれらの誘導体である。
【0032】
他の好ましいCYPアンタゴニストは、エストラジオール、フェノキシベンザミン-HCl、ロラタジン、プロピオン酸クロベタゾール、メシル酸ドキサゾシン、フェノフィブラート、レボノルゲストレル、アリピプラゾール、ハルシノニド、テルミサルタン、クロファジミン、レボチロキシン-Na、アロセトロン-HCl、フルオシノニド、リオチロニン-Na、メクリジンジヒドロクロリド及びテルフェナジンからなる群から選択される。
【0033】
上記方法に関連して治療可能な疾患は本明細書において上に記載している。
【0034】
治療又は予防中に、疼痛に対して有効な少なくとも1つの追加の治療剤、例えば他の鎮痛剤、例えばオピオイド又は非オピオイド鎮痛剤を上記患者に投与することが好ましい。
【0035】
次いで、本発明の更なる態様は、対象の一過性受容体電位バニロイド1(TRPV1)の感受性を増大させる方法であって、上記対象に治療有効量の9,10-EpOME又はCYP2J2アゴニストを投与することを含む、方法に関する。
【0036】
本発明に関連して、驚くべきことに、9,10-EpOMEは疼痛知覚の主要な伝達物質であるTRPV1チャネルタンパク質を感作することが認められた。それゆえ、好ましい実施の形態における本発明は、特に医療において有用である、TRPV1アゴニストとして9,10-EpOMEを提供する。9,10-EpOMEとTRPV1アゴニストのカプサイシンとの組合せは、顕著にカプサイシン活性を増強させる。例えば、一実施の形態は疼痛の感覚が病的に抑制されること又は疼痛の無感覚を特徴とする疾患の治療に関する。
【0037】
別の実施の形態において、9,10-EpOMEをカプサイシン等のTRPV1アゴニストの活性を増強させる方法において使用することができる。カプサイシンを、疼痛を緩和するための局所軟膏、経鼻噴霧剤及び経皮パッチにおいて鎮痛剤として使用する。関節炎、背痛、張り及び捻挫に伴う関節及び筋肉の軽度の痛み及び疼痛の一時的な緩和のためにクリーム形態において、多くの場合他の発赤剤を含む化合物においてカプサイシンを塗布することができる。またこれを使用し、帯状疱疹によって生じる帯状疱疹後神経痛等の末梢神経障害の症状を低減させる。
【0038】
カプサイシンの鎮痛作用及び/又は抗炎症作用を生じる機構は、熱傷感覚を模倣することにより、すなわちカルシウム流入により神経を抑制することにより、侵害受容器の脱感作及び/又はアポトーシスを生じ、それにより神経が疼痛を長時間伝達することができないようにすることにより意図的にするものである。カプサイシンに慢性的に曝露すると、ニューロンの侵害受容器がアポトーシスとなり、疼痛の感覚の低減及び神経性炎症の遮断を生じる。カプサイシンを除去する場合、侵害受容ニューロンは経時的に回復する。それゆえ、本発明の9,10-EpOMEの使用は、カプサイシン及び関連の化合物の医学的作用をかなり増大させることができ、又は代替的にカプサイシン投薬を減少させるのに役立つことができる。
【0039】
それゆえ、本発明の好ましい実施の形態において、対象の疾患を治療する方法であって、治療有効量の(i)9,10-EpOME又はCYP2J2アゴニスト及び(ii)TRPV1アゴニストの投与を含む、方法を提供する。治療剤の連続の又は同時の使用に関して、本発明のこの態様に対して同じく適用する上記の説明を参照する。
【0040】
疾患は、神経因性疼痛(糖尿病性神経障害、帯状疱疹後神経痛、HIV/AIDS、外傷性損傷、複合性局所疼痛症候群、三叉神経痛、肢端紅痛症及び幻肢痛に関連する疼痛を含む)、侵害受容性及び/又は神経因性の混合病因(例えば癌)、骨関節炎、線維筋痛症、腰痛、炎症性痛覚過敏、外陰部前庭炎又は外陰部痛、副鼻腔ポリープ、間質性膀胱炎、神経因性膀胱又は過活動膀胱、前立腺過形成、鼻炎、手術、外傷、直腸過敏、口腔灼熱症候群、口腔粘膜炎、ヘルペス(又は他のウイルス感染症)、前立腺肥大、皮膚炎、掻痒症、疥癬、耳鳴症、乾癬、疣贅、癌、頭痛及び皺により生じる疼痛から選択されることが好ましい。概してTRPV1アゴニストにより治療可能なあらゆる疾患が含まれる。
【0041】
本発明の例となる好ましいTRPV1アゴニストは、カプサイシン、ピペリン、6-ジンゲロール、6-ショウガオール、α-サンショオール、β-サンショオール、γ-サンショオール、δ-サンショオール、ヒドロキシルα-サンショオール及びヒドロキシルβ-サンショオールからなる群から選択される。
【0042】
次いで別の態様は本明細書の上記の方法における使用のための9,10-EpOME又はCYP2J2アゴニストに関する。
【0043】
更に別の態様は、医療における、好ましくは神経因性疼痛(糖尿病性神経障害、帯状疱疹後神経痛、HIV/AIDS、外傷性損傷、複合性局所疼痛症候群、三叉神経痛、肢端紅痛症及び幻肢痛に関連する疼痛を含む)、侵害受容性及び/又は神経因性の混合病因(例えば癌)、骨関節炎、線維筋痛症、腰痛、炎症性痛覚過敏、外陰部前庭炎又は外陰部痛、副鼻腔ポリープ、間質性膀胱炎、神経因性膀胱又は過活動膀胱、前立腺過形成、鼻炎、手術、外傷、直腸過敏、口腔灼熱症候群、口腔粘膜炎、ヘルペス(又は他のウイルス感染症)、前立腺肥大、皮膚炎、掻痒症、疥癬、耳鳴症、乾癬、疣贅、癌(特に皮膚癌)、頭痛及び皺により生じる疼痛から選択される疾患の治療における使用のための(i)9,10-EpOME又はCYP2J2アゴニストと(ii)TRPV1アゴニストとの組合せに関する。
【0044】
TRPV1アゴニストは、カプサイシン、ピペリン、6-ジンゲロール、6-ショウガオール、α-サンショオール、β-サンショオール、γ-サンショオール、δ-サンショオール、ヒドロキシルα-サンショオール及びヒドロキシルβ-サンショオールからなる群から選択されることが好ましい。
【0045】
本明細書に記載の発明による対象は、好ましくは哺乳動物、好ましくはヒト、最も好ましくは癌患者等の化学療法剤治療を受けているヒトである。
【0046】
CYPアンタゴニスト
本発明に関連する「CYPアンタゴニスト」はCYP1A、CYP2B、CYP2C、CYP2E及びより好ましくはCYP2Jのアンタゴニストからなる群から選択されることが好ましい。最も好ましくは、CYPアンタゴニストはCYP2J2の哺乳類動物ホモログ、好ましくはヒトCYP2J2のアンタゴニスト(CYP2J2アンタゴニスト)である。それゆえ、本明細書に記載の発明の最も好ましい実施の形態及び態様において、「CYPアンタゴニスト」という用語は、CYP2J2アンタゴニスト又はヒトCYP2J2の哺乳類動物ホモログのアンタゴニストである。
【0047】
本明細書において使用される「CYPアンタゴニスト」という用語は、CYP発現又は活性の量又は割合の低下に影響を及ぼす物質を意味する。このような物質は、例えば、CYPに結合し、CYP発現又は活性の量又は割合を低下させることにより直接作用することができる。CYPアンタゴニストはまた、CYP発現又は活性の量又は割合を、例えばCYPとCYP受容体との相互作用を減少させ、又は防止するようにCYPに結合することにより、部分の除去又は付加等による、CYPに結合し、それを修飾することにより、CYPに結合し、その安定性を減少させることにより、低下させることもできる。CYPアンタゴニストはまた、例えば、調節タンパク質又は遺伝子領域機能を調節するように及びCYP発現又は活性の量又は割合の低下に影響を与えるように調節分子又は遺伝子領域に結合することにより間接的に作用することができる。したがってCYPアンタゴニストはCYP発現又は活性の量又は割合の低下を生じる任意の機構により作用することができる。
【0048】
CYPアンタゴニストは、例えば天然又は非天然の高分子、例えばポリペプチド、ペプチド、ペプチド模倣物、核酸、炭水化物又は脂質であってよい。CYPアンタゴニストは、更に抗体又はその抗原結合フラグメント、例えばモノクローナル抗体、ヒト化又はヒト抗体、キメラ抗体、ミニボディ、二官能性抗体、一本鎖抗体(scFv)、可変領域フラグメント(Fv又はFd)、Fab又はF(ab)2であってよい。CYPアンタゴニストはまたCYPに特異的なポリクローナル抗体であってよい。CYPアンタゴニストは、更に部分的な又は完全な合成誘導体、天然の高分子のアナログ若しくは模倣物又は有機若しくは無機の低分子であってよい。
【0049】
抗体であるCYPアンタゴニストは、例えば、CYPに結合し、またCYP発現又は活性の量又は割合を低下させるように、CYP受容体への結合を阻害し、又はCYP発現若しくは活性を調節する分子の活性を変更する抗体であってよい。本発明の方法において有用な抗体は、モノクローナル若しくはポリクローナル抗体若しくはそれらのフラグメントを含む天然の抗体、又は一本鎖抗体、キメラ抗体、二官能性抗体、相補性決定領域グラフト(CDRグラフト)抗体及びヒト化抗体若しくはその抗原結合フラグメントを含むが、それらに限定されない非天然の抗体であってよい。
【0050】
核酸であるCYPアンタゴニストは、例えばアンチセンスヌクレオチド配列、RNA分子又はアプタマー配列であってよい。アンチセンスヌクレオチド配列は細胞内のヌクレオチド配列に結合し、CYP発現のレベルを調節し、又はCYPの発現若しくは活性を制御する別の遺伝子の発現を調節することができる。同様に、触媒リボザイム(catalytic ribozyme)等のRNA分子は、CYP遺伝子又はCYPの発現若しくは活性を制御する他の遺伝子に結合し、これらの活性を変更することができる。アプタマーは、分子標的物質に結合することが可能な3次元構造を有する核酸配列である。
【0051】
核酸であるCYPアンタゴニストはまた、RNA干渉法において使用する二本鎖RNA分子であってよい。RNA干渉(RNAi)は転写後のRNA分解による配列特異的遺伝子サイレンシングのプロセスであり、サイレンシングされる遺伝子に対して配列が相同である二本鎖RNA(dsRNA)により開始される。RNAiに好適な二本鎖RNA(dsRNA)は、19個のRNA塩基対を形成する標的となる遺伝子に対応する約21個の連続するヌクレオチドであり、それぞれの3'末端にて2個のヌクレオチドがオーバーハングするセンス鎖及びアンチセンス鎖を含有する(Elbashir et al., Nature 411:494-498 (2001); Bass, Nature 411:428-429(2001); Zamore, Nat. Struct. Biol. 8:746-750 (2001))。約25個〜30個のヌクレオチドのdsRNAもRNAiへの使用に成功している(Karabinos et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:7863-7868 (2001))。dsRNAをin vitroで合成し、当該技術分野において既知の方法により細胞に導入することができる。
【0052】
好ましいCYP2J2アンタゴニストは、エストラジオール、フェノキシベンザミン-HCl、ロラタジン、プロピオン酸クロベタゾール、メシル酸ドキサゾシン、フェノフィブラート、レボノルゲストレル、アリピプラゾール、ハルシノニド、テルミサルタン、クロファジミン、レボチロキシン-Na、アロセトロン-HCl、フルオシノニド、リオチロニン-Na、メクリジンジヒドロクロリド及びテルフェナジンからなる群から選択される。
【0053】
疼痛又は他の神経学的障害を治療又は予防するための組成物及びキット
本出願の別の態様は、本発明の化合物又は組合せを使用することにより疼痛又は増殖性障害を治療又は予防するための組成物及びキットに関する。一実施の形態において、組成物は、本明細書の上記の化合物を含み、該化合物は、抗体、抗体フラグメント、低分子干渉RNA(siRNA)、アプタマー、シンボディ(synbody)、結合物質、ペプチド、アプタマーsiRNAキメラ、一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド、三重鎖形成オリゴヌクレオチド、リボザイム、外部ガイド配列、作用物質をコードする発現ベクター、低分子及び薬学的に許容される担体から選択されることが好ましい。
【0054】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容される担体」という語は、医薬投与に適合した任意及び全ての溶媒、可溶化剤、充填剤、安定化剤、結合剤、吸収剤、基剤、緩衝剤、滑沢剤、制御放出ビヒクル、希釈剤、乳化剤、保湿剤、滑沢剤、分散媒体、コーティング剤、抗菌剤又は抗真菌剤、等張性吸収遅延剤等を含むことを意図する。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体及び作用物質の使用は、当該技術分野においてよく知られている。任意の従来の媒体又は作用物質が本活性化合物と不適合である場合を除き、本組成物への使用が検討される。補助物質も本組成物に組み込むことができる。或る特定の実施の形態において、薬学的に許容される担体は血清アルブミンを含む。
【0055】
本発明の医薬組成物は、その意図する投与経路に適合するよう配合される。投与経路の例として、非経口、例えば髄腔内、動脈内、静脈内、皮内、皮下、経口、経皮(局所)、及び経粘膜投与が挙げられる。
【0056】
非経口、皮内又は皮下適用のために使用される溶液又は懸濁液は、以下の成分:滅菌希釈液、例えば注射用水、生理食塩溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン;プロピレングリコール又は他の合成溶媒;抗菌剤、例えばベンジルアルコール又はメチルパラベン;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸又は硫酸水素ナトリウム;キレート化剤、例えばエチレンジアミン四酢酸;緩衝液、例えば酢酸、クエン酸又はリン酸、及び等張性を調節するための物質、例えば塩化ナトリウム又はデキストロースを含み得る。pHを酸又は塩基、例えば塩酸又は水酸化ナトリウムを用いて調節することができる。非経口製剤をガラス又はプラスチック製のアンプル、携帯用シリンジ又は反復用量用バイアルに封入することができる。
【0057】
注射使用に好適な医薬組成物には、滅菌水溶液(水溶性の場合)又は分散液及び滅菌注射溶液又は分散液を即時調製するための滅菌粉末がある。静脈内投与において、好適な担体には、生理食塩水、静菌性水、クレモフォールEL(商標)(BASF、ニュージャージ州、パーシッパニー)又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)がある。全ての場合において、注射用組成物は滅菌されるものとし、シリンジ通過性(syringability)が容易である範囲の流体であるものとする。組成物は製造及び保存の条件下において安定する必要があり、細菌及び真菌等の微生物の汚染作用に対して保護する必要がある。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及びポリエチレングリコール液等)、及びそれらの好適な混合物を含有する溶媒又は分散媒体であってよい。適度な流動性は、例えばレシチン等のコーティング剤の使用により、分散液の場合は必要となる(required)粒子径の維持により、及び界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の予防は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等により実現することができる。多くの場合、組成物中に等張剤、例えば糖、多価アルコール、例えばマンニトール(mannitol)、ソルビトール、及び塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の長期間の吸収は、組成物中に吸収を遅らせる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを含むことによりもたらされ得る。
【0058】
滅菌注射溶液を、適切な溶媒中に必要となる量の活性化合物(例えばニューレグリン)と、必要な場合、上記に列挙した成分の1つ又は組合せとを組み込み、その後濾過滅菌することにより調製することができる。一般に、分散液は、活性化合物を、基本的な分散媒体及び必要とする上記に列挙した他の成分を含有する滅菌ビヒクルに組み込むことにより調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は真空乾燥及び凍結乾燥であり、これにより先程の滅菌濾過したその溶液から活性成分及び任意の追加の所望の成分の粉末が得られる。
【0059】
経口組成物は一般に不活性希釈剤又は食用担体を含む。それらをゼラチンカプセルに封入し、又は錠剤に圧縮することができる。経口治療剤投与のため、本活性化合物を賦形剤とともに組み込むことができ、錠剤、トローチ又はカプセルの形態において使用することができる。経口組成物はまた、マウスウォッシュとして使用する液体担体を用いて調製することができ、この場合液体担体中の化合物は経口に適用され、すすぎ、吐き出し又は飲み込まれる。薬学的に相溶性のある結合剤及び/又は補助材料は本組成物の一部として含まれ得る。錠剤、丸薬、カプセル、トローチ等は、以下の成分のいずれか又は類似の性質の化合物を含有することができる:微晶質セルロース、トラガカントガム若しくはゼラチン等の結合剤;デンプン若しくはラクトース等の賦形剤、アルギン酸、プリモゲル(Primogel)若しくはコーンスターチ等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム若しくはステーテス(Stertes)等の滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素等の滑剤;スクロース若しくはサッカリン等の甘味剤;又はペパーミント、サリチル酸メチル、若しくはオレンジ風味剤等の着香剤。
【0060】
吸入による投与において、化合物を好適な推進剤、例えば二酸化炭素等のガスを含有する加圧容器若しくはディスペンサー又はネブライザーからエアロゾル噴霧剤の形態において送達する。
【0061】
全身投与はまた、経粘膜又は経皮手段によるものであってよい。経粘膜又は経皮投与において、浸透する障壁に適した浸透剤を配合物に使用する。このような浸透剤は概ね当該技術分野において知られており、例えば経粘膜投与において、浄化剤、胆汁塩、及びフシジン酸誘導体がある。経粘膜投与は鼻内噴霧剤又は座薬の使用により実現することができる。経皮投与において、医薬組成物を当該技術分野において一般に知られている軟膏剤、軟膏、ゲル又はクリームに配合する。
【0062】
或る特定の実施の形態において、医薬組成物を活性成分が持続放出又は制御放出されるように配合する。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸等の生分解性の、生適合性ポリマーを使用することができる。このような配合物を調製する方法は、当業者には明らかである。材料はまた例えばAlza Corporation及びNova Pharmaceuticals, Inc.から市販のものを得ることができる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を含有した、感染細胞を標的とするリポソームを含む)も薬学的に許容される担体として使用することができる。これらは当業者に知られた方法により調製することができる。
【0063】
投与の容易さ及び投与量の一様性において経口又は非経口組成物を単位剤形に配合することが特に有利である。本明細書において使用される単位剤形は、被治療対象における単一の投与量として適した物理的に個別の単位を含み、それぞれの単位は必要となる医薬担体と関連して所望の治療効果を生じるよう算出された活性化合物の所定の量を含有する。本発明の単位剤形の特性は、活性化合物の独自の特徴及び実現される具体的な治療効果、並びに個々の対象(individuals)の治療におけるこのような活性化合物を化合する技術分野に固有の制限により示され、それらに直接左右される。
【0064】
このような化合物の毒性及び治療有効性を細胞培養物又は実験動物における標準的な医薬手法、例えばLD50(集団の50 %の致死用量)及びED50(集団の50%に治療的に有効な用量)により決定することができる。毒性及び治療効果の用量比は治療指数であり、LD50/ED50の比として表すことができる。治療指数が大きい化合物が好ましい。毒性の副作用を示す化合物を使用することができるが、感染していない細胞への考えられ得る損傷を最小限にし、それにより副作用を少なくするために、このような化合物を対象とし、罹患組織部位に送達する系を設計するには注意を払うべきである。
【0065】
細胞培養アッセイ及び動物試験から得られたデータを、ヒトに使用する投与量の範囲を定める際に使用することができる。このような化合物の投与量は毒性がほとんど又は全くないED50の血中濃度の範囲内にあることが好ましい。投与量は、使用する剤形及び利用する投与経路に応じてこの範囲内で変化し得る。本発明の方法において使用される任意の化合物において、治療有効用量を、最初に細胞培養アッセイから推定することができる。用量を、細胞培養において決定されたように、IC50(すなわち、症状の50 %阻害を得る試験化合物の濃度)の血中血漿濃度を得るよう動物モデルにおいて定めることができる。このような情報を使用し、より正確にヒトに有用な用量を決定することができる。医薬組成物を、投与の説明書とともに容器、パック又はディスペンサーに含むことができる。
【0066】
ここで、本発明を添付の図面及び配列を参照し、以下の実施例において更に説明するがそれらに限定されるものではない。本発明の目的として、本明細書において引用された全ての参照文献はその全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1-1】パクリタキセルCIPNP又は炎症中の酸化リノール酸代謝産物の濃度を示すグラフである。C57Bl6/Nマウスにおけるビヒクル(黒)又はパクリタキセル(灰色、6 mg/kg)の腹腔内注射の24時間後の坐骨神経、DRG及び脊髄後角の9,10-EpOME(a)及び12,13-EpOME(b)の濃度を示す。n.d.:非検出(not determined)。C57Bl6/Nマウスにおけるビヒクル(黒)又はパクリタキセル(灰色)の腹腔内注射の24時間後の坐骨神経、L4-L6-DRG及び脊髄後角の対応部分の9-HODE(c)及び13-HODE(d)の濃度を示す。(e)ザイモサン(12.5 mg/ml、20μl)の足底内(intraplantar)注射の24時間後のL4-L6-DRG及び後角の対応する部分における9,10-EpOME濃度の関係を示す。データは1群当たり8匹〜10匹の動物の平均値±SEMを表す。***p<0.001、スチューデントのt検定。
図1-2】同上
図2-1】DRGニューロンに対する9,10-EpOMEの直接的な作用を示すグラフである。(a)9,10-EpOME[10 μM、30秒]の使用により高値のカリウム(50 mM KCl、30秒)に応答するDRGニューロンに対してカルシウムトランジェントが生じる。トレースの一例を示す。(b)9,10-EpOME依存性カルシウムの用量応答関係は、応答するニューロン数に関連するDRGニューロンにおいて増大する。データは1濃度当たり5回の測定値の平均値±SEMを表す。(c)及び(d)9,10-EpOME[10 μM、30秒]によって生じたカルシウムトランジェントは、EGTA(2 mM)を含有するカルシウム非含有媒体を用いて9,10-EpOME刺激の前及び後に2分間の洗浄を行い、停止させることができる。データは24個(カルシウム非含有)又は16個(対照)のニューロンの平均値±SEMを表す。(e)及び(f)9,10-EpOME[10 μM、30秒]のカルシウムトランジェントを選択的TRPV1アンタゴニスト(AMG 9810、1 μM)によって遮断することができるが、2分間の洗浄を行った後に第2の9,10-EpOME刺激を行うと、選択的TRPA1アンタゴニスト(HC-030031、20 μM)によっては遮断することができない。データは16個(対照)、31個(AMG 9810)又は18個(HC-030031)のニューロンの平均値±SEMを表す。**p<0.01、スチューデントのt検定。
図2-2】同上
図3-1】9,10-EpOMEが用量依存的にDRGニューロンのTRPV1を感作し、ラミナIIニューロンの脊髄薄片における自発性EPSC頻度におけるカプサイシン誘発による増加を促進することを示すグラフである。(a)DRGニューロンを、カプサイシン(200nM、各15秒)を用いて2回刺激し、ビヒクル又は9,10-EpOME[1 μM]のどちらかで第2のカプサイシン刺激の前に2分間インキュベーションした。(b)(a)に記載した同じプロトコルを用いた第1のカプサイシン応答と第2のカプサイシン応答との比の用量依存による差。データは以下の数のニューロンの平均値±SEMを表す:27個(対照)、26個(250 nM、9,10-EpOME)、21個(500 nM、9,10-EpOME)、19個(750 nM、9,10-EpOME)、41個(1 μM、9,10-EpOME)、18個(2 μM、9,10-EpOME)又は28個(カプサイシンの代わりに50 μMのAITCを20秒間用いる)、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、スチューデントのt検定。(c)ラミナIIニューロンの自発性EPSC(sEPSC)のトレース。下部パネル、トレース1、2、3及び4を拡大し、ベースラインの記録を示す。それぞれ第1のカプサイシン(1 mM)、9,10-EpOME(1 mM)及び第2のカプサイシン(1mM)及び9,10-EpOME。(d)sEPSCの頻度。sEPSCのベースラインと比較し、カプサイシンはsEPSC頻度(6.9±0.4 Hz〜13.7±0.4 Hz)において顕著な増加を誘発した。9,10-EpOMEのみの処置は、sEPSCの頻度を僅かに増加させ(8.2±0.8 Hz)、カプサイシンによるsEPSC頻度を大きく増強させた(18.7±1.1 Hz)。非処置ベースラインと比較、*P<0.05、第1のカプサイシン処置(1 mM)と比較、#P<0.05。n=5ニューロン/群。(E)sEPSCの大きさ(amplitude:振幅)。カプサイシン及び9,10-EpOMEは、sEPSCの大きさにおいて有意な影響はなかった。n=5ニューロン/群。
図3-2】同上
図4-1】DRGニューロンにおける9,10-EpOMEによるTRPV1感作はG共役受容体及びcAMP-PKA経路が介在することを示すグラフである。(a)9,10-EpOMEはラットDRGの膜画分における[γ-35S]-GTP結合を触媒していた。実験はラットDRGの膜画分を用いて30 μMのGDP及びビヒクル(酢酸メチル、0.7 %(v/v))、アデノシン[10 μM]又は9,10-EpOME[1 μM]の存在下において30分間行われた。データは合計15匹の動物由来の膜画分の3回の測定値から得られた。5匹の動物由来のDRGを各測定用にプールした。*p<0.05、**p<0.01、Dunnの多重比較事後検定を用いたクラスカル−ワリス検定。(b)9,10-EpOME、シカプロスト又はホルスコリン(各1 μM)を用いて15分間刺激後のニューロン富化DRG培養物におけるcAMPの濃度。データは5匹のマウス由来の(from)DRG培養物の平均値±SEMを表す。(c)及び(d)9,10-EpOME[1 μM]によるTRPV1感作をPKA阻害剤(H89-ジヒドロクロリド、10 μM、1時間)とのプレインキュベーションにより低減させることができる。データは15個(ビヒクル)、19個(EpOME)又は33個のニューロン(EpOMEとH89をプレインキュベーション)の平均値±SEMを表す。(e)及び(f)9,10-EpOME[1 μM]によるTRPV1感作において、PKC阻害剤(GF109203X、10 μM、1時間)とプレインキュベーションすることによる影響はなかった。データは18個(ビヒクル)、23個(EpOME)又は39個のニューロン(EpOMEとGFXをプレインキュベーション)の平均値±SEMを表す。*p<0.05、**p<0.01、スチューデントのt検定、n.s.は有意差なし。
図4-2】同上
図5】9,10-EpOMEの足底内又は髄腔内注射は、野生型マウスにおける疼痛閾値を減少させ、カプサイシン誘発性機械的閾値の感受性を高めたことを示すグラフである。(a)及び(b)9,10-EpOME(10 μM)又はビヒクル(生理食塩水中DMSO 0.3 %(v/v))の足底内注射を行ったC57Bl/6Nマウス。(a)熱閾値又は(b)機械的閾値を注射後5時間にわたりモニタリングした。データは8匹のマウスの平均値±SEMを表す。(c)及び(d)野生型BL/6Nマウスに9,10-EpOME(10 μM)又はビヒクル(生理食塩水の中のDMSO 0.3 %(v/v))を髄腔内注射した。(c)熱閾値又は(d)機械的閾値を注射後の最初の1時間は15分間隔及び2時間目は30分間隔の2時間(熱)又は3時間(機械的)においてモニタリングした。データは8匹のマウスの平均値±SEMを表す。図は与えられていない(Die Abbildungen sind nicht mitgeliefert)
図6】9,10-EpOME刺激後の単離した坐骨神経又はニューロン富化DRG培養物からのiCGRP放出を示すグラフである。(a)各5分間にて以下の溶液を用いて刺激した野生型BL/6Nマウスの単離した坐骨神経からのiCGRPの放出:合成の腸液(SIF)、SIF+EpOME(1 μM)又はビヒクル(DMSO 0.03 %(v/v))、SIF+EpOME(又はビヒクル)+カプサイシン(500 nM)、SIF。データは6個の個々の坐骨神経の平均値±SEMを表す。(b)PBS、9,10-EpOME、カプサイシン又は9,10-EpOME+カプサイシンを用いて15分間刺激後のニューロン富化DRG培養物からのiCGRP放出。a:9,10-EpOME 1 μM、b:カプサイシン 400 nM、c:9,10-EpOME 2.5 μM。データは6匹のマウスのDRG培養物の平均値±SEMを表す。#、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、スチューデントのt検定。破線はアッセイの感度を示す。
図7-1】CYP2J6がパクリタキセル誘発性神経障害性疼痛時に上方調節されることを示すグラフである。(a)パクリタキセル(6 mg/kg 腹腔内)注射後の野生型C57Bl/6Nマウスの機械的閾値の経時的変化。bl:ベースライン、データは1群当たり10匹のマウスの平均値±SEMを表す。8日後、坐骨神経、DRG及び脊髄後角を切除した。(b)パクリタキセル注射(6 mg/kg 腹腔内)後8日目のマウスCYPエポキシゲナーゼ転写産物の発現。データは1群当たり4匹のマウスのDRGの平均値±SEMを表す。*p<0.05、**p<0.01、スチューデントのt検定。(c)C57Bl6/Nマウスにおけるビヒクル(黒)又はパクリタキセル(灰色、6 mg/kg)の腹腔内注射後8日目の坐骨神経、DRG及び脊髄後角の9,10-EpOMEの濃度、**p<0.01、スチューデントのt検定。(d)LC-MS/MS分析により明らかとなったパクリタキセル処置後8日目〜9日目のマウスDRGにおけるエイコサノイド及びリノール酸代謝産物の合成スキーム。構造はlipidmaps.orgから得られた。
図7-2】同上
図8-1】テルフェナジンによるCYP2J6の阻害は、in vivoにおいて脂質濃度を減少させ、パクリタキセル誘発性CIPNPを改善することを示すグラフである。(a)パクリタキセル(6 mg/kg 腹腔内及び1 mg/kgのテルフェナジン(灰色)又はビヒクル(2 % DMSO v/v、黒色))を用いて処置後8日目の坐骨神経、DRG及び脊髄の後角におけるLC-MS/MSにより求められた対照に対する%にて示した9,10-EpOMEのレベル。データは1群当たり5匹のマウスのDRGの平均値±SEMを表す。*p<0.05、**p<0.01、スチューデントのt検定。(b)テルフェナジン(1 mg/kg)の投与後の坐骨神経、DRG、脊髄の後角及び血漿における測定されたエポキシ脂質及びジヒドロ代謝産物(9,10-EpOME、12,13-EpOME、9,10-DiHOME、12,13-DiHOME及び14,15-EET)全ての残存濃度。(c)テルフェナジン(1 mg/kg又は2mg/kg)又はビヒクル(DMSO 2.5 %(v/v)又は5 %(v/v))の静脈内注射を行い、パクリタキセル(6 mg/kg 腹腔内)を8日間処置したマウスの機械的閾値。機械的閾値をテルフェナジン又はビヒクルの注射後5時間までモニタリングした。データは、1群当たり8匹〜9匹のマウスの平均値±SEMを表す。#、*p<0.05、二元配置ANOVA及びボンフェローニ事後検定(*1 mg/kg、#2 mg/kgのテルフェナジン)。(d)ロラタジン(1 mg/kg)又はビヒクル(DMSO(2.5 %(v/v))の静脈内注射を行った、パクリタキセル注射(6 mg/kg 腹腔内)後8日目のマウスの機械的閾値。データは1群当たり6匹〜9匹のマウスの平均値±SEMを表す。
図8-2】同上
図9】CYP2J2及びCYP3A4の算出された阻害値の補正を示す図である。左上部四分位に位置するアンタゴニストはCYP2J2に選択的である。ルミノゲニックCYP2J2アッセイを製造業者のプロトコル(https://www.promega.de/resources/pubhub/enotes/cytochrome-p450-2j2-enzyme-assay-using-a-novel-bioluminescent-probe-substrate/)に従い行った。候補CY2J2アンタゴニストの選択性を試験するため、CYP3A4に特異的な追加のルミノゲニックCYPアッセイを使用し、候補CYP2J2アンタゴニストの阻害活性をCYP3A4に対する同じアンタゴニストの阻害活性と比較した。
【発明を実施するための形態】
【0068】
配列番号1〜14:プライマー配列
【実施例】
【0069】
材料及び方法
動物
全ての動物実験を国立衛生研究所の実験動物の管理及び使用に関するガイド(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals of the NationalInstitutes of Health)における推奨に従い行い、地域動物試験倫理委員会(localEthics Committees for Animal Research)(ダルムシュタット)により承認番号F95/42にて承認された。全ての挙動実験において、本発明者らは市販の育種会社(Charles River、スルズフェルド、ドイツ、Janvier、ル ジェネスト サン ティスル、フランス)から購入した6週齢〜12週齢の雄のC57BL/6Nマウスのみを使用した。機械的閾値を比較するため、本発明者らは対照として週齢及び性別を一致させた同腹子を使用した。
【0070】
プロスタノイド受容体欠損マウス(DP1-/-、IP-/-、EP2-/-及びEP4-/-)を以前に記載したように、フランクフルトの臨床薬理学研究所(Instituteof Clinical Pharmocology)において飼育した。
【0071】
化学療法誘発性神経障害性疼痛のパクリタキセルモデル
パクリタキセルをクレモフォールEL/エタノール1:1に溶解し、生理食塩水で希釈した。腹腔内注射の用量は、以前に記載したように6 mg/kgに設定した。
【0072】
挙動試験
機械的アロディニア又は熱過敏性を求めるため、少なくとも2時間グリッドを上昇させた試験ケージにマウスを収容した。ベースライン測定は機械的刺激後に後足の引込め潜時を検出する動的足底知覚計(Dynamic Plantar Aesthesiometer)又はHargreaves装置(Ugo Basile、バレーゼ県コメーリオ、イタリア)を用いて行った。機械的閾値の評価のため、上向きの力を直線状に(10秒間にわたり0 g〜5 g、0.5 g/s増加)、素早い引込み反応が生じるまで後足の足底中央部に対して鋼鉄ロッドを押圧した。ゆっくりした足の動作は計数しなかった。脚引込め潜時(PWL)を秒(複数の場合もある)±0.1、カットオフ時間20秒において求めた。注射しなかった足及び注射した足を5分〜10分の間隔で交互に測定した。熱閾値を求めるため、初日に少なくとも2時間加温したガラスプレート(32℃)の試験ケージにマウスを収容した。次いで、足の足底領域の中央部を、引込みが生じるまで高強度プロジェクターランプからなる放射熱デバイスを用いて刺激した。注射していない足及び注射した足を5分〜10分の間隔で交互に測定した。挙動試験全てにおいて、研究者にはマウスの処置又は遺伝子型は伏せられた。
【0073】
処置:末梢注射として、20 μlの9,10-EpOME[5 μM](Cayman、ミシガン州アナーバー、米国)を後足の足底中央部領域に皮下注射(s.c.)した。対照動物に、対応する容量のDMSO(Sigma、ダイゼンホーフェン、ドイツ、生理食塩水中1.6 %(v/v))を投与した。髄腔内注射として、9,10-EpOME[10 μM]の3.2 %DMSO/生理食塩水(v/v)5 μlを以前に記載したように覚醒した意識のあるマウスに直接腰椎穿刺により注射した。テルフェナジン又はロラタジン(ともにTocris、ブリストル、英国)を尾静脈に静脈内注射した。
【0074】
初代後根神経節(DRG)培養
マウスのDRGを脊髄分節から切除し、CaCl2及びMgCl2(Invitrogen、カリフォルニア州カールスバッド、米国)を含む氷冷HBSSに直接移した。次に、単離したDRGをコラゲナーゼ/ディスパーゼ(500 U/mlのコラゲナーゼ、2.5 U/mlのディスパーゼ)とL-グルタミン[2 mM]ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100 μg/ml)、B-27及びゲンタマイシン(50 μg/ml)(全てInvitrogen、カリフォルニア州カールスバッド、米国)を含有するneurobasal培地で37℃にて75分間インキュベーションした。コラゲナーゼ/ディスパーゼ溶液を除去した後、細胞を10 %FCSを含有するneurobasal培地で2回洗浄し、0.05 %トリプシン(Invitrogen、カリフォルニア州カールスバッド、米国)と10分間インキュベーションした。洗浄工程を繰り返し、細胞を1 mlのGilsonピペットを用いて機械的に分離した。最後に、ニューロンをポリ-l-リジン(Sigma、ダイゼンホーフェン、ドイツ)でコーティングしたガラスカバースリップにプレーティングし、L-グルタミン[2 mM]ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100 μg/ml)、B-27及びゲンタマイシン(50 μg/ml)を含有するneurobasal培地と、カルシウム画像処理による評価を行うまで一晩中インキュベーションした。
【0075】
カルシウム画像処理実験
カルシウム画像処理実験を、2つの異なる設定を用いて行った。第1に、本発明者らは、10xのAchroplan水浸対物レンズ(Zeiss)を備えたAxioscope 2正立顕微鏡(Zeiss、イエナ、ドイツ)を使用した。顕微鏡にImago CCDカメラ及び多色彩IVモノクロメータ(全てTILL Photonics、グレーフェルフィング、ドイツ)を取り付けた。画像を2つの波長(340 nm及び380 nm)にて2秒毎に取得し、Tillvisionソフトウェア23を用いて加工した。その後、DFC360 FX(CCD-)カメラ、Fura-2フィルタ及びN-Plan 10x/0.25 Ph1対物レンズ(全てLeica Microsystems、ヴェッツラー、ドイツ)を取り付けたLeica DMI 4000 b倒立顕微鏡からなるLeicaカルシウム画像処理設定を用いた。画像を2秒毎に撮り、LAS AFソフトウェアを用いて加工した。各実験において、本発明者らは細胞数の多い領域を選択し、同時に40個〜110個の細胞をモニタリングした。カルシウム画像処理実験は、調製後24時間〜48時間のDRGニューロンを用いて行われた。細胞に5 μMのfura-2-AM-エステル及び0.02 %のプルロニックF-127(ともにBiotium、カリフォルニア州、ヘイワード)を充填し、37℃にて30分間〜60分間インキュベーションした。次いで、細胞を外液(NaCl[145]、CaCl2[1.25]、MgCl2[1]、KCl[5]、D-グルコース[10]、HEPES[10]をmM単位で含有、pH7.3に調整)で洗浄した。ベースライン測定を1 ml/分〜2 ml/分の流量にて外液中にて行った。カルシウム非含有溶液を、CaCl2を除去し、EGTA[2 mM]を添加することにより生成し、NaCl濃度を150 mMに増加させることにより、浸透圧を制御した。HC-030031(Sigma、ダイゼンホーフェン、ドイツ)、AMG 9810、H89-ジヒドロクロリド、8-ブロモ-cAMP、GF109203X(全てTocris、ブリストル、英国)及びNGF(Merck Millipore、ダルムシュタット、ドイツ)のストック溶液を最終的な濃度になるまで外液で希釈した。
【0076】
定量的リアルタイムPCR
腰椎DRGを、提示の時間点においてマウスから切除し、RNAをmirVana(商標)miRNA単離キット(Ambion、life technologies、カリフォルニア州カールスバッド、米国)を用いて抽出した。逆転写及びリアルタイムPCRをTaqMan(商標)システム(life technologies、カリフォルニア州カールスバッド、米国)を用いて行い、以前に記載したようにΔΔC(T)法を用いて評価した(24、25)。以下のオリゴヌクレオチドをcDNAの増幅に使用した。
【0077】
表1:定量的リアルタイムPCRに使用した、マウス組織由来のプライマー配列。a=MGHプライマーバンク、ID:160948617c2。
【表1】
【0078】
液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析計(LC-MS/MS)によるEETの決定
サンプル抽出及び標準物質:サンプル抽出を以前に記載したように行った。すなわち、2500 ng/mlの全ての分析物を含むストック溶液をメタノールにおいて調製した。実用標準物質は0.1 ng/ml〜250 ng/mlの濃度範囲のEET、EpOME及びDiHOME並びにHODEで更に希釈することにより得られた。サンプル抽出を、液液抽出を用いて行った。それゆえ、組織又は細胞の培養培地を600 μlの酢酸エチルで2回抽出した。混合有機相を穏やかな窒素流下において45℃の温度にて除去した。残渣を50 μlのメタノール/水/(50:50、v/v)で再構築し、10000×gにて2分間遠心分離した後、ガラスのバイアル(Macherey-Nagel、デューレン、ドイツ)に移し、次いでLC-MS/MS装置に注入した。
【0079】
エポキシ脂質及びHODEを測定するための計測器:LC-MS/MSシステムはネガティブESIモードで操作するTurbo-Vソース、Agilent 1100バイナリHPLCポンプ及び脱ガス装置(Agilent、ヴァルトブロン、ドイツ)を取り付けたAPI 4000三連四重極型質量分析計(Applied Biosystems、ダルムシュタット、ドイツ)及び25 μLのLEAPシリンジ(AxelSemrau GmbH、シュプロックヘーフェル、ドイツ)を嵌合させたHTC Palオートサンプラー(Chromtech、イトシュタイン、ドイツ)から構成された。質量分析計用の高純度窒素をNGM22-LC-MS窒素発生器により生成した(cmc Instruments、エシュボルン、ドイツ)。クロマトグラフによる分離において、Gemini NX C18カラム及びプレカラムを使用した(150 mm×2 mm内径、5 μmの粒径及び110Å孔径、ドイツ、アシャッフェンブルクのPhenomenex製)。0.5 ml/分の流量の移動相及び17.5分の稼働合計時間にて線形勾配を使用した。移動相Aは水/アンモニア(100:0.05、v/v)及びBはアセトニトリル/アンモニア(100:0.05、v/v)であった。勾配を85 %のAから開始し、12分以内で10 %にした。これは1分間に10 %のAを保持したものであった。0.5分以内に、移動相が85 %のAに再度シフトし、3.5分間保持し、次のサンプル用にカラムを平衡させた。サンプルの注入容量は20 μlであった。定量化が内部標準物質法(同位体希釈質量分析法)を使用したAnalystソフトウェアV1.4.2(AppliedBiosystems、ダルムシュタット、ドイツ)を用いて行われた。分析物のピーク面積及び内部標準物質面積の割合(y軸)を濃度(x軸)に対してプロットし、較正曲線を1/濃度2の重み付けをした最小二乗回帰により算出した。
【0080】
[35S]GTPγS結合アッセイ
Gタンパク質共役受容体の推定物質の活性化を測定するため、成熟ラットのDRGの膜調製物のGTPγS結合アッセイを1 μMの9,10-EpOME(Cayman、ミシガン州アナーバー、米国)及び新しい[35S]GTPγS(1250 Ci/mmol、Perkin Elmer、マサチューセッツ州ウォルサム、米国)を用いて行った。
【0081】
iCGRPの測定
CGRP測定をCGRP酵素免疫アッセイキット(SpiBio、Bertin pharma、フランス)を用いて以前に記載されたように行った(32)。DRG培養物のCGRP測定において、野生型BL/6NマウスのDRGを切除し、上記のように処理し、48ウェルプレートにおいて一晩培養した。
【0082】
データ分析及び統計
全てのデータを平均値±s.e.mとして表す。統計的有意差を求めるため、全ての挙動実験において、繰り返しの測定に対する分散分析(ANOVA)を使用した後、GraphPad Prismを用いた事後のボンフェローニの補正を行った。2群のみを比較するin vitroの実験において、スチューデントのt検定を行った。P<0.05を統計的有意であるとみなした。
【0083】
シトクロムP450ルシフェラーゼアッセイ
CYP2J2及びCYP3A4 Gloアッセイを製造業者の説明書に従い行った(P450-Glo(商標)、Promega)。
【0084】
CYP2J2アッセイのプロトコル:
MultiDropを用いた、CYP2J2酵素(2 nM)/ルシフェリン-2J2/4F12基質(2 μM)ミックス5 μl/ウェルの調製、
Echoを用いた50 nl/ウェルの化合物(10 μMの最終濃度)/DMSO(0.5 %の最終濃度)の添加、
37℃にて30分間のインキュベーション、
MultiDropを用いた5 μl/ウェルのNADPH再生溶液の添加、
37℃にて30分間のインキュベーション、
MultiDropを用いた10 μl/ウェルのLDRエステラーゼ溶液の添加、
37℃にて30分間のインキュベーション、EnSpireにて発光の読取り。
【0085】
CYP3A4アッセイのプロトコル:
MultiDropを用いた、CYP3A4酵素(2 nM)/ルシフェリン-IPA基質(7μM)ミックス5 μl/ウェルの調製、
Echoを用いた50 μl/ウェルの化合物(10 μMの最終濃度)/DMSO(0.5 %の最終濃度)の添加、
37℃にて30分間のインキュベーション、
MultiDropを用いた5 μl/ウェルのNADPH再生溶液の添加、
37℃にて30分間のインキュベーション、
MultiDropを用いた10 μl/ウェルのLDRエステラーゼ溶液の添加、
37℃にて30分間のインキュベーション、EnSpireにて発光の読取り。
【0086】
実施例1:化学療法誘発型神経障害性疼痛におけるCYP由来型脂質
CYP由来型脂質が化学療法誘発性神経障害性疼痛において何らかの役割を果たし得るか否かを調べるため、本発明者らは野生型BL/6Nマウスにパクリタキセル又はビヒクルを注射し、注射後24時間にて坐骨神経、DRG及び脊髄後角を切除した。脂質濃度をLC-MS/MSを用いて求めた。酸化リノール酸代謝産物である9,10-EpOME(図1A)の濃度はDRGにおいてかなり上昇したが、その姉妹脂質(sister lipid)である12,13-EpOME(図1B)又はジヒドロ代謝産物である9,10-DiHOME及び12,13-DiHOME(補遺図1を参照のこと)の濃度はそれぞれDRGにおいてあまり上昇しなかったことが認められた(図1A)。また、炎症性の疼痛の間に発生し、TRPV1の内因性活性因子である9-HODE及び13-HODEのレベル(図1C図1D)も定量化された(33)。しかし、本発明者らはパクリタキセル処置後のこれらのレベルの何らかの違いを検出することはできなかった。DRGの9,10-EpOME濃度の増加がパクリタキセル処置に特異的であるかを調べるため、ザイモサンを野生型BL/6Nマウスの後足に注射し、炎症性の疼痛を誘発させた。L4-L6-DRG及び後角の対応する部分を炎症のピーク時に注射後24時間にて切除した。LC-MS/MSによる脂質の定量化では、炎症性の疼痛の間の9,10-EpOMEレベルにおける何らかの違いについて明らかにならなかった(図1E)。
【0087】
次に、本発明者らは、カルシウム画像処理実験におけるDRGニューロンに対する作用に関して9,10-EpOMEを特徴付けた。本発明者らは、10 μMの9,10-EpOMEを用いた30秒間の短時間刺激がDRGニューロンにおけるカルシウムトランジェントを生じることを観察した(図2A)。本発明者らは、用量反応分析を行い、カルシウムトランジェントを誘起する際の9,10-EpOMEの効力を調べ、25 μMの9,10-EpOMEに応答するDRGニューロンは最大10.3 %であり、ニューロンが高濃度に応答する割合の顕著な増加はないことが認められた(図2B)。9,10-EpOMEが誘起したカルシウムトランジェントは細胞外カルシウムの流入による細胞内カルシウム貯蔵の放出に起因するかを分析するため、本発明者らは2 mMのEGTAを含有するカルシウム非含有外液を使用し、DRGニューロンを2回にわたり10 μMの9,10-EpOMEで30秒間刺激した。第2の刺激の前の2分間に、カルシウム非含有外液を入れて洗浄し、ニューロンはこれ以上9,10-EpOMEに応答しなかったため、9,10-EpOMEによって、外部のカルシウムの流入が生じていることが示された(図2C図2D)。ニューロンの陽性対照は、50mM KClで30秒間の最終刺激とした。
【0088】
関与するイオンチャネルを同定するため、TRPV1(AMG 9810、1 μM)及びTRPA1(HC-030031、20 μM)の選択的アンタゴニストを用いて、9,10-EpOMEにより生じるカルシウムフラックスを遮断した。DRGニューロンを9,10-EpOME(10 μM、30秒間)で2回刺激し、細胞をTRPチャネルアンタゴニストと2分間プレインキュベーションした後、第2の9,10-EpOME刺激を行った。本発明者らは、選択的TRPV1アンタゴニストのAMG 9810は第2の9,10-EpOME誘起カルシウムトランジェントを遮断することができるが、TRPA1アンタゴニストのHC-030031は第2の9,10-EpOME誘起カルシウムトランジェントを遮断することができず、9,10-EpOMEによって、標的チャネルとしてTRPV1が示されたことを観察した(図2E図2F)。
【0089】
実施例2:TRPV1を感作する9,10-EpOME
次に、本発明者らは9,10-EpOMEが生理学的濃度(1 μM)より低い及び高いTRPV1又はTRPA1を感作することが可能であるかどうかも分析した。それゆえ、本発明者らはDRGニューロンをカプサイシン(200 nM、15秒)で2回刺激し、細胞を9,10-EpOME[1 μM]又はビヒクルと2分間インキュベーションした後、第2のカプサイシン刺激を行い、9,10-EpOMEとインキュベーションしたカプサイシンに対するDRGニューロンの応答が顕著により強いものであることを観察したことから、9,10-EpOMEによって、TRPV1の感作が示された(図3A)。9,10-EpOME依存性TRPV1感作の効力を調べるため、用量反応分析を250 nM〜2 μMの9,10-EpOME濃度を用いて行った。ビヒクルに比べ第2のカプサイシン応答の大きさがにおいて用量依存が増大することを観察した。9,10-EPOME[1 μM]によってマスタード油依存性TRPA1応答を感作することができなかったため、この作用はTRPV1に特異的であるように思われる(図2B)。
【0090】
電気生理学手段を用いて9,10-EpOMEによるTRPV1感作の作用を確認するため、本発明者らは、2回のカプサイシン刺激[1 μM]を用いてラミナIIニューロンの脊髄薄片からのsEPSCを測定し、細胞をインキュベーションした後、9,10-EpOME[1 μM]を用いて第2のカプサイシン刺激を行った(図3C)。9,10-EpOMEのみの処置は、sEPSCの頻度を僅かに増加させた。しかしカプサイシンと組み合わせると、sEPSCの頻度はかなり増強した(図3D)。しかし、sEPSCの大きさの差は9,10-EpOME、TRPV1又はこの2つの物質の組合せのどれにも観察することはできなかった(図3E)。
【0091】
主にTRPV1感作を介在する脂質がGタンパク質共役受容体の活性化に関与することが知られていることから、本発明者らはGTPγSアッセイを行い、9,10-EpOMEがDRGのGPCRを活性化することが可能であるかを分析し、1 μMの9,10-EpOMEとのインキュベーション後にGTPγSのシグナルが有意に増加したことを観察した(図4A)。TRPV1感作を介在する9,10-EpOMEの機構を同定するため、本発明者らは次に、ビヒクル、9,10-EpOME、IP受容体アゴニストのシカプロスト又はホルスコリン[各1 μM]のいずれかで15分間刺激したニューロン富化DRG培養物のcAMPを測定した。興味深いことに、本発明者らは、9,10-EpOMEがビヒクルに比べcAMP濃度における有意な増加を生じることを観察した(図4B)。これらの結果は9,10-EpOMEによるGalphas共役受容体の活性化を示している。
【0092】
TRPV1をPKA及びPKCによりリン酸化することができ、PKA及びPKCはともにチャネルの活性及び感作を増加させることから(35)、本発明者らは、野生型BL/6Nマウス由来のDRGニューロン培養物を用いたカルシウム画像処理実験においてPKA又はPKCの阻害剤が9,10-EpOME誘起型TRPV1感作を減少させることができるかを調べた。本発明者らは2回のカプサイシン刺激を用い、その間に9,10-EpOMEとインキュベーションした上記と同じプロトコルを用いてカプサイシン依存性TRPV1感作を再生することができた。しかし、本発明者らはPKA阻害剤とのプレインキュベーション(H89ジヒドロクロリド、10 μM、1時間)が、9,10-EpOME誘起型TRPV1感作の有意な減少を生じたことを観察した(図4C図4D)。同じ条件(10 μM、プレインキュベーション、1時間)下でのPKC阻害剤のGF 109203X(GFX)の使用では、9,10-EpOME由来型TRPV1感作に対する何らかの作用はなく(図4E図4F)、したがって9,10-EPOMEによって、PKA介在型TRPV1感作に対して示されたがPKC介在型TRPV1感作に対しては示されなかった。
【0093】
次いで本発明者らは、カルシウム画像処理実験において9,10-EpOME依存性TRPV1感作に潜在的に関与するGalphas共役プロスタノイド受容体を試験した。プロスタノイド受容体はリガンドプロスタノイドに対して様々な特異性を有し、その上、他の脂質により活性化することができる。しかし、本発明者らはプロスタグランジンE受容体EP2及びEP4又はプロスタグランジンD受容体若しくはI受容体(DP受容体及びIP受容体)のいずれかの欠損マウスのDRGの9,10-EpOME誘起型TRPV1感作の何らかの減少は観察することができなかった(図示せず)。9,10-EpOMEのin vivoでの作用を特徴付けるため、本発明者らは野生型BL/6Nマウスの後足に脂質を注射し、熱閾値(図5A)及び機械的閾値(図5B)を注射後5時間まで測定した。両方の場合において、9,10-EpOMEは注射後1時間(熱)又は2時間(機械的)継続する疼痛閾値の有意な減少を生じた(図1A図1B)。次いで本発明者らは髄腔内に9,10-EpOMEを注射し、短時間の間隔での熱閾値及び機械的閾値を測定した。髄腔内注射後30分で熱閾値の有意であるがやや小さい減少が観察された(図5C)。しかし、機械的閾値は9,10-EpOMEの髄腔内注射後1.5時間まで低下した(図5D)。
【0094】
TRPV1の活性の増加がカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の放出の増加を生じ、神経性炎症を促進することから(37)、本発明者らは、9,10-EpOMEがTRPV1依存性CGRP放出を増加させることができるかを分析した。本発明者らは野生型BL/6Nマウスから坐骨神経を切除し、9,10-EpOMEのみ[1 μM]又はカプサイシン[500 nM]と合わせてインキュベーションし、カプサイシン及び9,10-EpOMEの共刺激を用いることによりCGRP放出の増加が強まることを観察した。CGRP放出は、カプサイシン又は9,10-EpOMEのみを用いることよりも有意に増大した(図6A)。この作用も体細胞において可視化されるかどうかを調べるため、ニューロン富化DRG培養物と9,10-EpOME、カプサイシン又は両方の物質のいずれかを2つの異なるEpOME濃度[1 μM及び2.5 μM]を用いて刺激した。再度、iCGRPの放出は各物質のいずれかを用いるよりもEpOME及びカプサイシンの両方を用いると有意に増大した。しかし、2.5 μMの9,10-EPOMEを用いたCGRP放出において有意な増大は見られなかった(図6B)。
【0095】
実施例3:CYP2J2による9,10-EpOMEの調節
次に、どのように9,10-EpOME合成がパクリタキセルCIPNPの間に調節されるかを調べた。9,10-EpOMEはサブファミリー2C及び2JのCYPエポキシゲナーゼにより合成されると推定されることから(16、38)、本発明者らはこれらのサブファミリーのマウスCYPエポキシゲナーゼ(epoxygenases)の発現を試験した。パクリタキセル処置後8日目に本発明者らはパクリタキセル処置マウスの機械的閾値の安定したプラトーを観察した(図7A)。
【0096】
次いで、本発明者らはビヒクル及びパクリタキセル処置マウスのDRGを切除し、マウスCYP2C29、CYP2C37、CYP2C38、CYP2C39、CYP2C44、CYP2J6及びCYP3A11の発現を調べた。しかし、CYPアイソフォーム2C29及び2C44はマウスDRGにおいて検出することができなかった。本発明者らはビヒクル処置に比べパクリタキセル処置マウスのDRGにおいてCYP2J6の最も強い発現が示されたことを観察した(図7B)。このCYP2J6の発現の増加は、坐骨神経、腰椎DRG及び脊髄のLC-MS/MS測定によって分析したときのパクリタキセル処置後8日目の9,10-EpOMEレベルの増加と相関している。
【0097】
実施例4:CYP2J2アンタゴニストによる9,10-EpOME合成の阻害及びCIPNPの低減
ヒトCYP2J2の強力な阻害剤であるテルフェナジンは、マウスCYP2J6の類似体タンパク質であるが、これをアンタゴニストとして使用した。テルフェナドンとヒトCYP2J2との相互作用部位が既に報告されていることから、本発明者らはマウスCYP2J6及びヒトCYP2J2のアミノ酸をアライメントし、グルタミンに置き換えられるArg117を除いた両方のタンパク質の同じ位置でのテルフェナドンとの推定上の相互作用部位全て(Leu83、Met116、Ile127、Phe30、Thr315、Ile376、Leu378、Val380、Leu402及びThr488)を発見した。CYP2J2とCYP2J6との間の驚くべきアミノ酸配列の類似性に基づき、テルフェナジンはCYP2J6とも相互作用し、そのタンパク質を阻害する。脂質レベルにおけるテルフェナジンの作用を調べるため、本発明者らはパクリタキセルを8日前に投与したマウスに1 mg/kgのテルフェナジンを静脈内投与した。2時間後、本発明者らは坐骨神経、DRG及び脊髄背側を切除し、これらの組織のエポキシ脂質を定量化した。本発明者らは調べた組織全ての9,10-EpOME濃度の有意な減少を観察することができた(図8A)。本発明者らはまた、測定した全てのエポキシ脂質及びその(9,10-EpOME、12,13-EpOME、9,10-DiHOME、12,13-DiHOME及び14,15-EET)の残留濃度はテルフェナジン処置した動物のDRG、脊髄後角及び血漿において有意に減少したが、坐骨神経においては減少しなかったことをそれぞれ観察した(図8B)。
【0098】
次に、本発明者らはマウスにおけるテルフェナジンの処置がパクリタキセル誘発性CIPNPを減少させ得るかを調べた。それゆえ、本発明者らは、テルフェナジン(1 mg/kg若しくは2 mg/kg又はビヒクル(DMSO))を8日前に既にパクリタキセルを投与したマウスに静脈内注射した。本発明者らはテルフェナジン注射後1時間、2時間、4時間及び5時間目のマウスの機械的閾値を測定し、テルフェナジン処置したマウスの機械的閾値の有意な増加が2時間継続したことを観察することができた。しかし、この2つの用量の間に有意な差を観察することができなかった(図8C)。テルフェナジンはヒスタミン1受容体アンタゴニストであることから、本発明者らはCYP2J2を阻害しない別のH1受容体アンタゴニストであるロラタジンを使用し、抗侵害受容作用が実際にCYP2J2又はヒスタミン1受容体の阻害により生じるかどうかを調べた。しかし、ロラタジンの処置は、ビヒクルに比べパクリタキセル誘発性CIPNPを減少させなかった(図8D)。
【0099】
実施例5:新たな選択的CYP2J2アンタゴニストのスクリーニング
FDA承認の薬ライブラリv2であるScreens-Well(商標)により本明細書に記載の発明に関連して使用するCYP2J2の新たな選択的アンタゴニストをスクリーニングした。CYP-Gloルシフェラーゼをベースとした反応を使用し、CYP2J2及び非選択的対照としてCYP3A4の活性をアッセイした。テルフェナジンを本実験の陽性対照として使用した。両方のスクリーニングによる結果を図9に示す。CYP2J2に対して60 %以上の阻害及びCYP3A4に対して約0 %の阻害を示したアンタゴニストは、選択的CYP2J2アンタゴニストとみなされ、本方法に有用であり、本明細書に記載のように使用し、以下の表2にそれらを挙げる。
【0100】
【表2】
【0101】
考察
9,10-EpOMEは、マイクロモル以下の濃度にてcAMP-PKA依存性機構を介してDRGニューロンのTRPV1を感作することが可能であり、続くDRGからのiCGRPの放出を可能にする。他の酸化リノール酸代謝産物(OLAM)、例えば9-HODE及び13-HODEは、皮膚の過剰な加熱時に産生され、直接のTRPV1アゴニストであり、炎症性の痛覚過敏に寄与することが既に示されている。本発明者らはまた、マウス組織、最も多いのは末梢組織において9-HODE及び13-HODEを検出することができた。
【0102】
本発明者らはCYP2J2阻害剤であるテルフェナジンを使用し、9,10-EpOMEの合成を減少させ、エポキシ脂質のレベルを約50 %に減少させることができた。テルフェナジンの処置により、パクリタキセルCIPNP時のマウスの機械的過敏性の減少を生じた。それゆえCYP2J2のアンタゴニスト及びそのホモログは、CIPNPの治療又は予防に有用であるが、これは選択的H1受容体アンタゴニストであるロラタジンにより処置した動物ではCYP2J2に影響を及ぼさず、パクリタキセルCIPNPの改善を示さなかったことから、テルフェナジンにおいて観察された作用はCYP2J2の阻害によるものであり、ヒスタミン1受容体の阻害によるものではないことが示されたことから確認された。
【0103】
化学療法誘発性神経障害性疼痛及び続く感覚機能障害は、細胞増殖抑制剤の最も重症な副作用としてなお存在している。特にパクリタキセル処置中において、早期急性疼痛症候群が観察され得るが、これは侵害受容ニューロンの感作が介在していると思われる。しかし、この病態生理学的状態に寄与し得る内因性伝達物質に関する利用可能な情報はない。したがって、本発明者らのデータによれば、9,10-EpOME依存性TRPV1感作及び、侵害受容ニューロン活性の増加は、パクリタキセル急性疼痛症候群(P-APS)に寄与する可能性がある。
【0104】
現在、CIPNP治療薬における対処されていない医療上のニーズがかなり存在する。患者に抗酸化剤又は神経保護(neuroprotective)物質、例えばアミフォスチン又はグルタチオンを用いた処理は、大規模無作為化プラセボ対照臨床試験におけるCIPNPを改善せず、最近のコクランレビューでは、現在これらの物質を用いた機能的CIPNP療法に関する証拠はないと結論した。さらに、抗酸化剤は細胞増殖抑制剤の抗悪性腫瘍剤の作用を干渉する可能性がある。最近では、N-アセチルシステイン(NAC)及びビタミンEによる治療は、DNA損傷を減少させることでマウスの肺の腫瘍細胞の増殖及び腫瘍成長を増大させることが報告された。これに関し、CYP2J2阻害剤は、抗酸化剤を用いる以上に優れたものであり得るが、それはカスパーゼ-3、Bax及びBcl-2を活性化させることにより、また腫瘍細胞の遊走及び接着を低減させることにより癌成長をin vitro及びin vivoにおいて低減させることも報告されているためである。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]