特許第6918187号(P6918187)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6918187
(24)【登録日】2021年7月26日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】劣化推定システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20210729BHJP
   G06Q 10/04 20120101ALI20210729BHJP
【FI】
   G01N17/00
   G06Q10/04
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-113862(P2020-113862)
(22)【出願日】2020年7月1日
【審査請求日】2021年4月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 りえ
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 玲
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】草柳 貴志
(72)【発明者】
【氏名】王 欣
【審査官】 外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−018354(JP,A)
【文献】 特開2012−220394(JP,A)
【文献】 特開2019−158755(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2020/0072744(US,A1)
【文献】 宮崎俊三,缶詰の内面腐食,鉄と鋼,日本,社団法人日本鉄鋼協会,1987年03月01日,第73年第3号,427−436
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属容器に内容物を封入した製品の劣化推定システムにおいて、
前記製品を貯蔵試験することにより得られたデータを教師データとして機械学習された予測モデルと、
劣化の推定のためのデータを入力する入力部と、
前記入力部に入力された前記データから前記予測モデルによって求められた前記製品の劣化の程度を出力する出力部とを有し、
前記教師データは、実際の前記金属容器についての容器データと前記実際の金属容器に封入された前記内容物についての内容物データと前記実際の製品が貯蔵されていた環境についての環境データと前記実際の製品に生じていた前記劣化の程度を示す劣化データとを含み、
前記入力部に入力する前記データは、劣化を推定する対象製品の前記容器についての容器データと、前記対象製品の前記内容物についての内容物データと、前記対象製品の貯蔵が予定される環境についての環境データとを含む
ことを特徴とする劣化推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の劣化推定システムにおいて、
前記容器は、内面被膜を備えた金属板によって形成され、
前記出力部から出力される前記劣化の程度および前記教師データに含まれる前記劣化の程度を示す劣化データは、前記金属板の内面の腐食の深さと、前記腐食が生じている箇所の輪郭形状と、前記腐食の分散状態と、前記金属の前記内容物への溶出量との少なくともいずれか一つを含む
ことを特徴とする劣化推定システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の劣化推定システムにおいて、
前記出力部から出力される前記劣化の程度を評価して複数に階層分けする評価部を更に備えていることを特徴とする劣化推定システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の劣化推定システムにおいて、
前記容器データは、前記容器の各部の寸法を表すデータと、前記容器の素材を示すデータと、前記容器の内面に設けられているコーティングについてのデータのいずれかを含み、
前記内容物データは、前記内容物の種類と、前記内容物の量と、pHとのいずれか一つを含み、
前記環境データは、前記製品が貯蔵される環境の温度を含む
ことを特徴とする劣化推定システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の劣化推定システムにおいて、
前記出力部は、前記劣化の程度を複数に区分してラベル付けしたデータとして出力するように構成されていることを特徴とする劣化推定システム。
【請求項6】
請求項3を引用する請求項5に記載の劣化推定システムにおいて、
前記評価部は、前記複数に区分されてラベル付けされた前記データに基づいて前記劣化の程度を評価することを特徴とする劣化推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属容器に所定の内容物を封入した製品の経時的な劣化を推定するシステムに関し、特に機械学習したモデルを使用して、腐食(錆)などの劣化を推定するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲料缶詰や食品缶詰などの容器(あるいは缶)には、強度や耐久性あるいはコストなどの点での優位性から、スチールやアルミニウム合金などの金属製の容器が使用されている。これに対して、金属はイオン化して水などの液体中に溶出することがあるばかりか、果汁や乳酸飲料あるいは調理済みの食品などは酸性あるいはアルカリ性のものが多いから、内容物と金属との直接的な接触を防ぐために、金属容器の少なくとも内面には、合成樹脂を塗装し、あるいはフィルムを貼着するなどのことにより被覆が施されている。こうすることにより、容器内面に腐食(錆)が生じたり、それに伴って内容物の味や香りなどが変化してしまうことを抑制している。
【0003】
しかしながら、内面被膜によって内容物と容器素材との接触を完全かつ永久に防止することはできず、被膜の素材や内容物の組成あるいは被膜の厚さなどによっては比較的早期に腐食(錆)が発生することがある。そのため、従来では、多くの場合、貯蔵試験を行って金属面の腐食(錆)などの劣化を確認している。その貯蔵試験は、販売予定の製品を実際に製造し、その試験品を、数ヶ月あるいは十数ヶ月の間、所定の貯蔵条件の下に貯蔵し、その後に開封して腐食(錆)などの劣化を調査し、測定する試験である。
【0004】
このようないわゆる安全性もしくは信頼性の確認や保証は、新規の製品にも求められるが、市場ニーズに応じて次々と新規製品が開発される状況下にあっては、新規製品の開発サイクルと貯蔵試験に要する期間との齟齬が大きく、必須とされる貯蔵試験が新製品開発の阻害要因になる可能性がある。
【0005】
なお、金属容器の内面被膜の欠陥を検査する方法としてエナメルレーター法が知られている。この方法は、内面被膜を挟んで、内容物と金属缶との間に電圧を掛け、流れる電流値を求め、その電流値に基づいて内面被膜の欠陥を検出する方法である。この検査方法を改良した方法あるいは装置が特許文献1や特許文献2に記載されている。
【0006】
特許文献1に記載されている装置は、缶に衝撃を付加した後に、内面被膜の電気抵抗を測定することにより、缶に衝撃が加えられた場合の被膜欠陥の発生の有無や被膜の破壊の程度、金属板の腐食の進行の状況の予測などを行うことができるように構成した装置である。また、特許文献2に記載された方法は、缶成形体の内面被覆を貫通して電流を流すことにより耐食性を評価する方法であって、内容物に浸漬した電極と缶胴との間に50mV〜200mVの電圧を、6〜48時間、印加し、その間の積算電流量の序列に基づいて耐食性を評価する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2934164号公報
【特許文献2】特許第5830910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
金属容器の内面の腐食や内容物と金属面との接触によるフレーバーや味覚の変化などの製品劣化は、内容物の物性や容器の製造ラインの特性に基づく内面被膜の厚さのばらつき、および外力で容器が変形することによる塗膜のダメージ、あるいは製品の貯蔵箇所の環境条件などの様々な要因が関係して経時的に生じるものと考えられている。そのため、従来では、実製品を作成して検査品とするとともに、実際の貯蔵箇所の環境に模した環境の中にその検査品を貯蔵する貯蔵試験を行っている。その試験期間が上述したように長い上に、試験結果が満足のいくものではない場合には改良品を作製して再度、貯蔵試験を行うことになるので、所定の期間、貯蔵しても特には劣化が生じない製品とするまでには、更に長い期間を要することになる。結局、市場ニーズに合致する製品をタイムリーに作製することが困難である。
【0009】
これに対して、特許文献1に記載されている装置によれば、金属容器の内面被膜に欠陥があれば、大きい電流が流れるので、その電流値に基づいて内面被膜の欠陥を迅速に検出することができる。しかしながら、その内面欠陥は、衝撃を加えることにより生じた欠陥に限られ、製品の経時的な劣化の一例である内面の腐食は、貯蔵試験と同様に長期間の貯蔵を待たなければ検出することができない。しかも、検査品として実際の製品を用いる必要があるから、その製造などに面倒な作業や工数を要する不都合がある。
【0010】
また、特許文献2に記載された方法においても、特許文献1に記載されている発明と同様に、電圧を掛けて欠陥を検出するが、積算電流量の序列を求める方法であるから6時間以上48時間以下の時間を要し、迅速性に欠ける課題がある。しかも、その試験に供される製品は、実際の製品である必要があるから、その製造などに面倒な作業や工数を要する不都合がある。さらに、特許文献2に記載された方法によっても、貯蔵環境や内容物による経時的な影響による劣化を知ることはできない。
【0011】
本発明は上記の技術的背景の下になされたものであって、金属容器に内容物を封入した製品の経時的な劣化を迅速に、しかも実製品を作製することなく推定して、当該製品の開発あるいは製造を迅速化することのできるシステムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の目的を達成するために、金属容器に内容物を封入した製品の劣化推定システムにおいて、前記製品を貯蔵試験することにより得られたデータを教師データとして機械学習された予測モデルと、劣化の推定のためのデータを入力する入力部と、前記入力部に入力された前記データから前記予測モデルによって求められた前記製品の劣化の程度を出力する出力部とを有し、前記教師データは、実際の前記金属容器についての容器データと前記実際の金属容器に封入された前記内容物についての内容物データと前記実際の製品が貯蔵されていた環境についての環境データと前記実際の製品に生じていた前記劣化の程度を示す劣化データとを含み、前記入力部に入力する前記データは、劣化を推定する対象製品の前記容器についての容器データと、前記対象製品の前記内容物についての内容物データと、前記対象製品の貯蔵が予定される環境についての環境データとを含むことを特徴としている。
【0013】
また、本発明においては、前記容器は、内面被膜を備えた金属板によって形成され、前記出力部から出力される前記劣化の程度および前記教師データに含まれる前記劣化の程度を示す劣化データは、前記金属板の内面の腐食の深さと、前記腐食が生じている箇所の輪郭形状と、前記腐食の分散状態と、前記金属の前記内容物への溶出量との少なくともいずれか一つを含んでいてよい。
【0014】
さらに、本発明では、前記出力部から出力される前記劣化の程度を評価して複数に階層分けする評価部を更に備えていてよい。
【0015】
本発明では、前記容器データは、前記容器の各部の寸法を表すデータと、前記容器の素材を示すデータと、前記容器の内面に設けられているコーティングについてのデータのいずれかを含み、前記内容物データは、前記内容物の種類と、前記内容物の量と、pHとのいずれか一つを含み、前記環境データは、前記製品が貯蔵される環境の温度を含んでいてよい。
【0016】
本発明では、前記出力部は、前記劣化の程度を複数に区分したデータとして出力するように構成されていてよい。
【0017】
そして、本発明では、前記評価部は、前記複数に区分されてラベル付けされた前記データに基づいて前記劣化の程度を評価することとしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、実際の製品を貯蔵することにより得られたデータを教師データとして機械学習された予測モデルに、経時的な劣化を推定する対象製品についてのデータを入力することにより、当該対象製品の劣化の程度が推定できる。教師データは、実際の製品における金属容器に関するデータおよび内容物に関するデータならびに実際の製品が貯蔵された環境に関するデータさらには実際の製品の劣化の程度であり、これらのデータの相関関係が高い確度で設定されている。劣化を推定する対象製品に関しては、金属容器および内容物ならびに貯蔵される環境についてのデータが製品項目として事前に明確になっており、そのデータをデータベースなどの形で用意して入力部に入力することにより、予測モデルに即して演算が行われて、劣化の程度が出力部から出力される。したがって、本発明によれば、新規に製品を開発もしくは設計する場合に、当該製品についての上述した項目のデータが決まった段階で、そのデータに基づいて劣化の程度が判るので、実際に新規製品を製造したり、必要とする貯蔵期間に亘って貯蔵したりする必要がなく、そのため当該製品の開発あるいは製造を迅速化することができる。
【0019】
より具体的には、推定結果が許容範囲内の劣化の程度であれば、設計上定めたデータ(仕様)の製品を直ちに生産ラインに乗せることが可能になる。また、許容できない劣化が生じることが推定された場合には、金属容器や内容物のデータ(仕様)の一部を変更して上記の予測モデルによって劣化の程度を、再度、推定する。予測モデルによるこのような再度の推定を繰り返すことにより、劣化が生じず、もしくは劣化の程度が許容範囲内になる製品仕様を設定することが可能になる。その場合においても、仕様を変更した実際の製品を製造する必要はなく、また長時間もしくは長期間の貯蔵試験を行う必要がないから、製品の開発あるいは製造を迅速化することができる。したがって、金属容器や内容物などの仕様を変更した場合の劣化の程度を容易に推定できることにより、金属容器や内容物の選択あるいは変更を容易に行うことが可能になり、その結果、新規製品の開発あるいは創作を容易かつ迅速に行うことが可能になる。
【0020】
本発明においては、劣化の程度は予測モデルによる演算の結果としての数値あるいは複数に区分したデータとして出力部から出力することができる。これに加えて、当該数値あるいは複数に区分したデータで表される推定結果を、評価部によって、複数に階層分けすることができる。その階層分けは、劣化の程度が許容できるものであること、実際に製品を作製して貯蔵試験を行うことが推奨されること、製品仕様を見直す必要があることなどの複数のラベル付け(ランク付け)であってよく、こうすることにより、予測モデルで得られる劣化の程度を、製品開発あるいは設計に、より容易に反映させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態を説明するための模式的なブロック図である。
図2】実際に行った貯蔵試験のデータベースの一例を簡略化して示す図表である。
図3】本発明の実施形態における分類ラベルデータの一例を簡略化して示す図表である。
図4】本発明の実施形態における要否判定テーブルの一例を簡略化して示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る劣化推定システムは、金属容器の内容物を封入した製品の経時的な劣化を推定するシステムであり、特にラベル付きデータを教師データとして機械学習した予測モデル(学習モデル)を用いて、製品の劣化の程度を推定するように構成されたシステムである。その製品を構成している金属容器は、金属製の胴の開口端を金属蓋で閉じたいわゆる2ピース缶や3ピース缶などの金属缶や、胴の部分をボトル形状に成形して、その口頸部にキャップを取り付けて封止したいわゆるボトル型缶などである。また、金属容器の素材は、従来知られている金属材料であり、各種のスチールやアルミニウム合金などである。さらに、金属容器の少なくとも内面には、内容物が金属に直接接触しないように、少なくとも内面にコーティングを施して内面被膜が形成されている。その内面被膜は、合成樹脂塗料を金属板に塗布して形成されていてもよく、あるいは合成樹脂フィルムを金属板に貼着して形成されていてもよい。このような内面被膜は、従来知られている合成樹脂被膜と同様であってよい。
【0023】
また一方、製品を構成している内容物は、飲料や調理済みの固形食材、粉ミルクなどの粉粒体などのいずれであってもよい。
【0024】
製品の劣化は、金属容器を使用している製品では、金属の腐食(錆)が劣化の主な要因となるが、それ以外に腐食(錆)に伴う溶出金属の増大、フレーバー性の悪化、味や色の変化などがある。例えば、粉ミルクやプロテインなどの水分が殆どない内容物の場合、金属腐食(錆)による劣化は考えにくいが、内容物自体の酸化などによる変質、内面被膜を構成している合成樹脂や金属によるフレーバー性の変化などが製品の経時的な劣化となる場合がある。
【0025】
ここで言及している製品の劣化は、製品の経時的な変化であり、従来の貯蔵試験で得られている項目毎の変化である。その貯蔵試験に供される検査品は、実際の製品と同じものであり、貯蔵試験は、その検査品を、予め決めた所定の環境の下に貯蔵し、所定の期間が経過した時点でその検査品を開封して金属容器の腐食(錆)や内容物のフレーバー性あるいは色調、味などの各項目毎の変化を調べることにより行われる。
【0026】
検査品(製品)を特定するための項目(データ)の例を挙げると、金属容器については、缶型呼称やキャップ呼称を挙げることができる。なお、缶型呼称は、金属容器の形状や素材および大きさ毎に付けた名称であり、例えばアルファベットと数字との組み合わせで表される。同様に、キャップ呼称は、キャップの形状や素材および大きさ毎に付けた名称であり、例えばアルファベットと数字との組み合わせで表される。したがって、缶型呼称やキャップ呼称によって、金属容器の素材、大きさ(各部分の寸法)、内面被膜についてのコーティングデータや、ビスフェノールAの使用・不使用などのデータが特定される。ここで、コーティングデータは、より具体的には、塗膜の場合には、その塗料や溶剤の種類、固形分、塗布量、膜厚などであり、フィルムによって内面被膜を形成している場合には、そのフィルムの種類や厚さ、層の構成、結晶化度、プライマリーの種類や厚さなどである。
【0027】
内容物については、レトルト処理されたものであるか否か、スポーツ飲料、アルコール飲料、炭酸飲料、果汁、乳製品、熱量の高いエナージー飲料、特保/機能性/医薬部外品、固形物、粘度、野菜、肉類、海産物などの種別が、内容物を特定する項目とされる。さらに、内容物の化学特性値(データ)としては、Brix(糖分)、アルコール分、ガスボリューム、容器内エアー量、明るさである色調L、赤みや緑みの強さを表す色調a、黄色みや青みの強さを表す色調b、色空間の中での2つの色の間の直線距離がどのくらい離れているかを示す色差ΔE、金属溶出量、内容物の総量である入味、内圧、pHなどである。
【0028】
変化の程度を表す項目すなわち試験項目(データ)は、金属容器内面の腐食(錆)の深さ、平面状あるいは斑点状もしくはひび割れ状や水ぶくれ状などの腐食(錆)の形態、腐食(錆)の分散状態、フレーバー性などである。なお、フレーバー性は、試験員による官能評価である。
【0029】
製品の劣化は、当該製品の貯蔵時間だけでなく、貯蔵している環境(条件)に大きく左右されることは充分考えられる。したがって、その貯蔵環境(条件)を特定する項目(データ)として、貯蔵時間、貯蔵温度、圧力、照明の明るさ、紫外線量、搬送(輸送)に伴う振動の継続時間などが採用される。
【0030】
本発明に係る劣化推定システムは、実際の製品について行った過去の貯蔵試験で得られているデータを教師データとして機械学習を行い、予測モデル(学習モデル)を作製し、その予測モデルによって劣化の程度を推定するように構成されている。なお、貯蔵試験は、製品を正立させ、また倒立させ、さらには胴部に窪みを入れるなど、製品の貯蔵形態を複数種類、設定して行ってよい。
【0031】
図1は劣化推定システムの一例をブロック図によって模式的に示し、ここに示す例では、教師データ1は実際に行った貯蔵試験に供された製品についてのデータであって、金属容器についてのデータ(容器データ)、その内容物についてのデータ(内容物データ)、貯蔵した環境についてのデータ(環境データ)、所定期間後に開封して調べた劣化の程度のデータ(劣化データ)であり、これらのデータはデータベース化されていてよい。
【0032】
容器データは、前述したとおり、形状や寸法、素材、内面被膜の素材などのデータを含み、少なくとも素材と各部の寸法とのいずれかを含む。内容物データも前述したとおりであり、レトルト処理されたもの、あるいは炭酸飲料など、材料の種別と、そのpHやアルコール分もしくは色調などの化学特性値を含み、特に種類と量とpHとの少なくともいずれか一つを含む。さらに、環境データは、前述した貯蔵環境についての全てのデータであってもよいが、少なくとも温度を含む。そして答えに相当する劣化の程度に関するデータは、少なくとも、腐食(錆)の深さおよびその形態ならびにフレーバー性のいずれか一つを含む。これらのデータの量が多いほど、学習の精度が向上するが、その半面、演算量が不必要に多くなることがあるので、所定の判断基準を使用してデータ加工を行うことが好ましい。一例として、ニューラルネットワークを用いる場合には、畳み込み層やプーリング層によりデータ量を低減してもよい。
【0033】
機械学習は、上記の教師データを入力データとしてニューラルネットワークによって演算を行い、演算結果として出力される劣化の程度が、貯蔵試験で実測された劣化の程度(すなわち答え)に可及的に近くなるように各パラメータのチューニングを行う、従来知られている演算処理である。各パラメータのチューニングが終了することにより予測モデル(学習モデル)3が生成される。なお、各パラメータのチューニングは、逐次、行うことも可能である。
【0034】
予測モデル3は、一例としてニューロコンピュータであり、入力層、単数もしくは複数の中間層、出力層を有し、予め設定した項目の出力値と教師データにおける劣化の程度を示すデータとの差が可及的に小さくなるようにパラメータが調整されている。予測モデル3による演算結果は出力部4から出力される。その出力の形態は、各項目毎に連続した数値などの指標であってもよいが、それらの指標をその並んでいる順序に基づいて複数に区分(もしくはグループ分けあるいは階層分け)したデータあるいは区分(もしくはグループあるいは階層)毎に所定のラベルを付したものであってもよい。
【0035】
図2に実際の貯蔵試験で得られたデータ(貯蔵試験データベース)の一例を示してある。なお、図2には「1データ」の内容のみを記載してあるが、既に蓄積されている実測データは多量にあるから「2データ」以降にも「1データ」に準じた試験データが記載され、教師データとされる。
【0036】
また、図3には、演算結果を複数に区分してラベルを付して出力部4から出力されるデータ(分類ラベルデータ)の一例を示してある。ここに示す例では、製品の劣化の程度を示す指標として、金属溶出量と、腐食深さと、視覚的に判断した腐食(錆)の多寡あるいは輪郭形状もしくは分散の程度(腐食形態)とを設定した例である。また、貯蔵期間として3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月の三期間を設定し、環境データとして温度を設定してある。分類ラベルデータは、各貯蔵期間毎に、劣化の程度が低い方から「G1」、「G2」、「G3」・・・の順に設定してあり、それぞれの分類ラベルデータの内容は図3に記載してあるとおりである。
【0037】
貯蔵試験を行わずに、新製品(設計製品)についての経時的な劣化の程度を推定するには、当該設計製品(劣化の推定を行う対象製品)についてのデータ(設計データ)を入力部5から予測モデル3に入力し、その演算の結果を前述した出力部4から出力させる。その設計データは、前述した予測モデル3を生成する際に用いた教師データ1に含まれる各項目のデータであってよく、一例として前述した図2に示す項目のデータであってよい。設計データは、その具体的な数値あるいは表示内容が教師データとは異なっているとしても、予測モデル3に対する入力データとしては教師データとは異ならないから、予測モデル3で演算されて出力される出力値は教師データ1における劣化の程度を示すデータと同様もしくは類似したものとなる。したがって、例えば図3に示す「G1」、「G2」などの分類ラベルデータ(グレードラベル)が劣化の程度を示す項目(金属溶出量、腐食深さ、腐食形態など)毎に出力される。
【0038】
出力部4から出力される演算結果は、単なる数値もしくはラベルであるが、その数値もしくはラベルは、推定される劣化の程度を示しているから、その出力値に基づいて、設計製品が予め想定した期間内では特には劣化しないこと、あるいは劣化するとしても程度が低いこと、反対に不良品となる可能性があることなどを判定することができる。さらには、そのような判定ができずに、推定結果に曖昧さが残ることにより、従来の貯蔵試験を更に必要とすることの判定を行うことができる。
【0039】
このような判定は、人為的に行うこととしてもよいが、劣化の程度を示す項目の数が多くなると、劣化の推定結果に基づく設計製品(新規製品)の評価あるいは取り扱いにばらつきが生じたり、評価を行うことに困難が生じたりする可能性がある。例えば、上記のように劣化の程度を示す項目が三つで、それぞれに四つのグレードラベルを付するとすれば、設計製品の良否の判定となるグレードラベルの組み合わせの総数は64になってしまい、設計製品についての最終的な良否の判定や設計変更の判定、貯蔵試験の要否の判定などを行うことが困難になり、あるいはばらつきが生じる可能性がある。このような不都合を解消するために評価部6を設けて安定した判定を行うこととしてもよい。
【0040】
その評価部6の一例は、上記のグレードラベルの組み合わせについて貯蔵試験の要否を判定する例であり、その判定のためのテーブルを図4に示してある。図4に示す例は、劣化の程度を示す三つの項目に、上記の四つのグレードのうち出力部4から出力されたグレードを当て嵌めるように構成した例であり、図4で「○」で囲んだグレードが、各項目についての劣化の程度を示している。図4に示す例では、評価対象の設計製品における三つの項目の全てが、劣化の最も少ないグレード(G1)になっているので、当該設計製品は想定されている環境の下に、想定されている期間、貯蔵しても、欠陥品になるような劣化が生じないと判定され、したがって貯蔵試験を行う必要はないと判定される。その判定結果を例えば「○」印で出力し、表示することとしてもよい。したがって、当該設計製品は、長期間を要する貯蔵試験を行うことなく、生産を開始することが可能になる。なお、評価部6は、出力部4からデータを受け取って評価を行うように構成してもよく、あるいは出力部4に内蔵してその一部として構成してもよい。
【0041】
これに対して、三つの項目のうちいずれか一つのグレードが最上級の「G1」以外である場合には、実製品を作製して所定の期間、所定の環境の下に貯蔵する貯蔵試験を行う必要があると判定される。その判定結果を例えば「△」印で出力し、表示することとしてもよい。なお、図4には示していないが、劣化が進行することを示す「G3」が二つ以上の場合、あるいは「G4」が少なくとも一つある場合には、金属容器の仕様や内容物の仕様を変更するように「設計し直し」を判定することとしてもよい。その判定の結果は、例えば「×」印で出力し、表示することとしてもよい。
【0042】
このような評価を行うように構成すれば、推定された劣化の程度を製品開発あるいは設計に有効に、また安定して利用することができる。特に、長時間(長期間)を要する実際の貯蔵試験に供する必要のある設計製品の数を少なくすることができるので、製品開発のリードタイムを短くして、需要が短期間に変化する市場ニーズにタイムリーに対応することができる。言い換えれば、実際に貯蔵試験を行っても、結果が「不可」になる製品を実際の貯蔵試験に供するなどの無駄な工数を削減でき、またそのような製品の設計し直しを直ちに行うことができるので、この点においても製品開発のリードタイムを短くして、需要が短期間に変化する市場ニーズにタイムリーに対応することができる。
【0043】
さらに、予測モデル3による演算の結果は、劣化の程度を推定したものであり、製品に劣化が生じないことを100%保証するものではない。本発明者等が上述した予測モデルを作成し、交差検証(Cross Validation)の手法により、その予測モデルの精度を検証したところ、正解率は70%〜95%に達した。言い換えれば、最少でも5%の誤差が生じる可能性があり、製品が飲料や食品などの場合には、推定結果の確実性を更に担保する必要がある。このような場合、上述した評価部6での評価基準を高くすることにより、劣化の推定の確実性を更に高くすることができ、本発明に係るシステムを食品などにも適用することが可能になる。なお、評価基準を高くするとは、劣化の程度を示す項目数を多くしたり、各項目のグレードラベルを更に細かく区分したり、さらには実測データを追加して予測モデル3のパラメータを更新したりすることであってよい。
【0044】
なお、上述した実施形態で説明したように内容物を飲食材とした製品は、市場ニーズの変化に応じて新製品の開発サイクルが短いうえに、その化学特性値が多様に異なるので、劣化の推定を高い確度で行うことのできる本発明のシステムは、その種の製品の劣化を推定するシステムとして有効性が高い。しかしながら、本発明は飲食材を内容物とした製品を対象とするシステムに限定されないのであり、工業製品などを金属容器に封入した製品の劣化の推定にも適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…教師データ
2…機械学習
3…予測モデル
4…出力部
5…入力部
6…評価部
【要約】
【課題】金属容器に内容物を封入した製品の劣化を高い確実性をもって推定する。
【解決手段】製品を貯蔵試験することにより得られたデータを教師データ1として機械学習2された予測モデル3と、劣化の推定のためのデータを入力する入力部5と、入力部5に入力されたデータから予測モデル3によって求められた製品の劣化の程度を出力する出力部4とを有し、教師データ1は、実際の金属容器についての容器データと実際の金属容器に封入された内容物についての内容物データと実際の製品が貯蔵されていた環境についての環境データと実際の製品に生じていた劣化の程度を示す劣化データとを含み、入力部5に入力するデータは、劣化を推定する対象製品の容器についての容器データと、対象製品の内容物についての内容物データと、対象製品の貯蔵が予定される環境についての環境データとを含む。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4