特許第6918204号(P6918204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大鵬薬品工業株式会社の特許一覧

特許6918204アルキル硫酸ナトリウムを含む医薬組成物
<>
  • 特許6918204-アルキル硫酸ナトリウムを含む医薬組成物 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6918204
(24)【登録日】2021年7月26日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】アルキル硫酸ナトリウムを含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20210729BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20210729BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20210729BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20210729BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20210729BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20210729BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20210729BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20210729BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20210729BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20210729BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210729BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20210729BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
   A61K31/519
   A61K47/20
   A61K47/32
   A61K47/38
   A61K47/26
   A61K9/10
   A61K9/14
   A61K9/16
   A61K9/20
   A61K9/48
   A61P35/00
   A61P35/02
   A61P43/00 111
【請求項の数】14
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2020-507802(P2020-507802)
(86)(22)【出願日】2019年3月18日
(86)【国際出願番号】JP2019011251
(87)【国際公開番号】WO2019181876
(87)【国際公開日】20190926
【審査請求日】2020年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2018-51620(P2018-51620)
(32)【優先日】2018年3月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207827
【氏名又は名称】大鵬薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楠本 憲司
(72)【発明者】
【氏名】宮村 定弘
【審査官】 六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/150725(WO,A1)
【文献】 特開2013−079267(JP,A)
【文献】 特表2011−511759(JP,A)
【文献】 特開2009−143967(JP,A)
【文献】 特開平11−005735(JP,A)
【文献】 特開昭61−068431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33−33/44
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/69
WPI
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造を有する(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン又はその薬学的に許容される塩、及びラウリル硫酸ナトリウムを含有する医薬組成物。
【化1】
【請求項2】
ラウリル硫酸ナトリウムが、(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン1質量部に対し、0.05〜15質量部の範囲で含まれる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ラウリル硫酸ナトリウムが、(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン1質量部に対し、0.2〜5質量部の範囲で含まれる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
さらにクロスポビドン、カルメロースナトリウム及びカルメロースカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
クロスポビドンを含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
さらに、D−マンニトール及び乳糖からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
シロップ剤、散剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤の形態である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物にラウリル硫酸ナトリウムを添加することを特徴とする、(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オンの医薬組成物からの溶出性改善方法。
【請求項9】
(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物にラウリル硫酸ナトリウムを添加することを特徴とする、(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オンの吸収性改善方法。
【請求項10】
(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物にラウリル硫酸ナトリウムを添加することを特徴とする、該医薬品の製造適性改善方法。
【請求項11】
ラウリル硫酸ナトリウムからなる(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン又はその薬学的に許容される塩の溶出性改善
【請求項12】
ラウリル硫酸ナトリウムからなる(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン又はその薬学的に許容される塩の吸収性改善
【請求項13】
(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物の製造適性改善のための、ラウリル硫酸ナトリウムの使用。
【請求項14】
(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物を製造するための、ラウリル硫酸ナトリウムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン又はその薬学的に許容される塩とアルキル硫酸ナトリウムを含有する医薬組成物、特に経口投与用の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオアベイラビリティは、投与された薬物が全身循環血中にどれだけ到達して作用するかを示す指標であり、薬効や毒性と密接に関連する臨床的に重要なパラメーターである。一般にバイオアベイラビリティの低い薬物は、期待される薬効が得られなかったり、個体内又は個体間変動が大きくなったりすることから、薬効や毒性の予測・制御が困難となる。したがって、医薬品の開発においては、適切なバイオアベイラビリティを得ることが重要である。経口投与される薬物では、消化管からの吸収効率、肝臓・消化管での代謝の影響を受けるが、特に難溶性薬剤の場合には、適切なバイオアベイラビリティを得るために、製剤からの薬物の溶出性や、薬物の水への溶解性を改善することが重要となる。
【0003】
薬物の溶出性や吸収性改善のための方法としては、原薬の微細化や可溶化、界面活性剤などの可溶化剤を配合する方法が広く知られている。しかしながら、有効成分の構造及び性質、製剤の種類によって、好適に使用できる界面活性剤は異なるため、難溶性薬剤について最適な製剤処方を見出すことは容易なことではない。
【0004】
陰イオン性界面活性剤の1種であるラウリル硫酸ナトリウムは、安定化剤、界面活性剤、滑沢剤、可溶化剤、基剤、結合剤、光沢化剤、賦形剤、崩壊剤、乳化剤、発泡剤、分散剤等として、製剤に配合できることが知られている。例えば、特定の化合物を含有する顆粒にラウリル硫酸ナトリウムを溶解補助剤として添加して製剤を調製した例が報告されている(特許文献1)。
【0005】
一方、優れたFGFR阻害作用を有し、抗腫瘍活性を示す化合物として(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン(以下、本明細書において「化合物A」とも言う)が報告されている(特許文献2〜6)。
化合物Aについては、溶出性の改善についても、他の目的のためにも、アルキル硫酸ナトリウムと併用することについて報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−104762号公報
【特許文献2】国際公開WO2013/108809パンフレット
【特許文献3】国際公開WO2015/008844パンフレット
【特許文献4】国際公開WO2015/008839パンフレット
【特許文献5】国際公開WO2016/159327パンフレット
【特許文献6】国際公開WO2017/150725パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
化合物Aは、優れたFGFR阻害作用及び抗腫瘍活性を有する一方、製剤化した場合の適切なバイオアベイラビリティの確保において、改善の余地があった。例えば、中性のpH領域での溶出性、及び吸収性の改善が求められていた。従って、本発明の課題の1つは、より優れた溶出性、安定性、及び吸収性を有し、製造が容易な化合物A又はその薬学的に許容される塩の医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、化合物A又はその薬学的に許容される塩を含有する組成物において、様々な化合物を添加し、化合物Aの溶出性、安定性、吸収性の改善効果の有無について種々検討を行った。その結果、化合物A又はその薬学的に許容される塩の場合、アルキル硫酸ナトリウムを添加することにより、優れた溶出性、安定性、及び吸収性を有し、製造適性が優れた医薬組成物が得られることを見出した。本発明者等は更に、化合物A又はその薬学的に許容される塩及びアルキル硫酸ナトリウムを含有する医薬組成物におけるより有効な添加剤についても検討を重ね、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[15]に係るものである。
[1]以下の構造を有する(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン又はその薬学的に許容される塩、及びラウリル硫酸ナトリウムを含有する医薬組成物。
【化1】
[2]ラウリル硫酸ナトリウムが、(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン1質量部に対し、0.05〜15質量部の範囲で含まれる、上記[1]に記載の組成物。
[3]ラウリル硫酸ナトリウムが、(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン1質量部に対し、0.2〜5質量部の範囲で含まれる、上記[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]さらにクロスポビドン、カルメロースナトリウム及びカルメロースカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]クロスポビドンを含む、上記[4]に記載の組成物。
[6]ラウリル硫酸ナトリウムが、(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン1質量部に対し、0.2〜5質量部の範囲で含まれ、さらにクロスポビドンが0.2〜5質量部の範囲で含まれる上記[1]〜[5]に記載の組成物。
[7]さらに、D−マンニトール及び乳糖からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]シロップ剤、散剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤の形態である、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の組成物。
[9](S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物にラウリル硫酸ナトリウムを添加することを特徴とする、(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オンの医薬組成物からの溶出性改善方法。
[10](S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物にラウリル硫酸ナトリウムを添加することを特徴とする、(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オンの吸収性改善方法。
[11](S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物にラウリル硫酸ナトリウムを添加することを特徴とする、該医薬品の製造適性改善方法。
[12](S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン又はその薬学的に許容される塩の溶出性改善のための、ラウリル硫酸ナトリウムの使用。
[13](S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン又はその薬学的に許容される塩の吸収性改善のための、ラウリル硫酸ナトリウムの使用。
[14](S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物の製造適性改善のための、ラウリル硫酸ナトリウムの使用。
[15](S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物を製造するための、ラウリル硫酸ナトリウムの使用。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-051620号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた溶出性、安定性、及び吸収性を有し、滑沢性及び流動性などの製造適性が優れた化合物A又はその薬学的に許容される塩とアルキル硫酸ナトリウムを含む医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】配合性37及び比較例20の錠剤について、打錠機から錠剤を取り出す圧力を評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の医薬組成物は、有効成分として化合物A又はその薬学的に許容される塩を含有するものであるが、本発明の効果を奏する限り他の有効成分を含んでいても良い。化合物A((S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン)の構造を以下に示す。
【0013】
【化2】
【0014】
化合物A又はその薬学的に許容される塩は、溶媒和物(例えば、水和物等)であっても、無溶媒和物であってもよく、本発明においては、いずれも「化合物A又はその薬学的に許容される塩」に包含される。化合物Aの薬学的に許容される塩としては、特に限定するものではないが、例えば塩酸、硫酸等の無機酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸等の有機酸との付加塩、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩、エチルアミン塩、アルギニン塩等の有機塩基との塩等が挙げられる。化合物A又はその薬学的に許容される塩は、例えば特許文献2又は5に記載の方法で製造できる。本明細書において、「化合物A」との記載は、化合物Aの薬学的に許容される「塩」及び上記「溶媒和物」を含めることを意図し得る。
【0015】
本発明に用いられる化合物A又はその薬学的に許容される塩は、溶出性、安定性、吸収性、及び製造適性などの面から、医薬組成物全体の1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは2〜30質量%であり、さらに好ましくは3〜18質量%である。
【0016】
化合物Aの投与後のバイオアベイラビリティを改善するためには、特に生体内での製剤からの化合物Aの溶出性、及び体内への吸収性を向上させることが求められる。
上記の通り、一般に、難溶性の有効成分を持つ医薬組成物には、可溶化剤を使用することがある。可溶化剤としては、界面活性剤、ポリエーテル化合物、ポロキサマーなどを挙げることができる。当該界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、ショ糖脂肪酸エステル(DKエステル、など)、ポリソルベート(Tween20、Tween60、Tween80など)、ポリオキシエチレンヒマシ油(Cremophor、Cremophor ELなど)が挙げられる。当該ポリエーテル化合物には、ポリエチレングリコール(PEG400、PEG4000、PEG6000、マクロゴールなど)などが挙げられる。当該ポロキサマーとしては、ルトロール(Lutrol F68など)が挙げられる。
【0017】
化合物Aの場合、可溶化剤としてアルキル硫酸ナトリウムを用いたところ、他の可溶化剤に比べて顕著に溶解度を高めることができた。加えて、化合物Aの化学的な安定性、医薬組成物の剤形そのものの物理的な安定性を維持できるだけでなく、経口投与した際の吸収性を高めるものであった。
【0018】
アルキル硫酸ナトリウムとしては、炭素数10〜18のアルキル基を有する硫酸ナトリウムが挙げられ、具体的にはデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS又はドデシル硫酸ナトリウム(SLS)とも称される)、テトラデシル硫酸ナトリウム、セチル硫酸ナトリウム(ヘキサデシル硫酸ナトリウム)、ステアリル硫酸ナトリウム(オクタデシル硫酸ナトリウム)などが挙げられる。溶出性、安定性、吸収性、及び製造適性などの点から、本発明において使用するアルキル硫酸ナトリウムは、好ましくはラウリル硫酸ナトリウムである。ラウリル硫酸ナトリウムは、NIKKOL SLS(日光ケミカルズ株式会社製)、エマールOS(花王株式会社)、Kolliphor SLS(BASF Corporation)等の名称のものを入手して好適に使用することができる。
【0019】
また、同様の観点から、化合物A 1質量部に対して0.01〜25質量部の範囲のアルキル硫酸ナトリウムを使用することができ、0.05〜15質量部のアルキル硫酸ナトリウムが好ましく、0.1〜10質量部のアルキル硫酸ナトリウムが好ましく、0.2〜5質量部のアルキル硫酸ナトリウムがより好ましく、0.25〜3質量部がさらに好ましく、0.75〜1.5質量部がさらに好ましく、1質量部が特に好ましい。また、アルキル硫酸ナトリウムは、医薬組成物全体の1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは2〜30質量%であり、より好ましくは3〜18質量%であり、より好ましくは4〜12質量%であり、特に好ましくは4〜5質量%、6〜7質量%、又は9〜10質量%である。
【0020】
本明細書における「溶出性」は、化合物Aを含む組成物(製剤)からの化合物Aの溶出性を意味する。溶出性は、第十六改正日本薬局方の溶出試験法(パドル法)などにより確認することができる。溶出性の改善については、崩壊時間の短縮や平衡に達したときの溶出率で判断できる。製剤からの溶出性の改善によって、有効成分となる化合物Aの薬効がより適切に発揮され得る。
本明細書における「安定性」は、医薬組成物を含む製剤としての安定性、及び化合物Aの化学的な安定性のいずれも含まれる。安定性の改善については、同一条件で保存する前後の製剤の状態を比較すること、及び化合物Aの化学純度を高速液体クロマトグラフィーなどで比較することにより判断できる。安定性の向上は、医薬品の保存及び流通を考慮すれば、医薬組成物にとって常に非常に重要な課題である。
【0021】
本明細書における「吸収性」は、化合物Aを投与された被験体の体内への化合物Aの吸収性を意味する。吸収性は、上記の通り溶出した化合物Aが被験体の体内に吸収され、血中濃度−時間曲線下面積(AUC)や最高血中濃度(Cmax)などで確認することができる。吸収性の改善については、AUCやCmaxの値が大きくなることで判断できる。また、最高血中濃度到達時間(Tmax)により、製剤投与後の化合物Aの吸収速度を評価することができる。これらのパラメーターによって評価される吸収性の改善は、化合物Aの意図される効果がより好適に発揮され、投与スケジュールの最適化につながり得る。
【0022】
さらに、本明細書において、「製造適性」は、有効成分とアルキル硫酸ナトリウムを含む医薬組成物を容易に製造できる性質をいい、医薬組成物の滑沢性や流動性に優れたものを含む。本発明において、溶出性、吸収性、及び製造適性の全てを満足するものが上記のアルキル硫酸ナトリウムであることが判明した。
【0023】
本明細書における「滑沢性」は、錠剤の製造に使用される造粒品や顆粒などの粉体が、打錠機などに付着しない性質を意味する。滑沢性は、打錠機の杵に製剤が付着するスティッキングが見られないこと、又は臼に製剤が付着するバインディングが見られないことにより確認することができる。また、滑沢性は、錠剤を取り出す際の圧力である取出圧力が上昇しないことによっても確認することができる。製剤を製造する際の滑沢性改善によって、製造された錠剤、及び打錠機などの製造機械を損傷することなく、錠剤を製造できる。
【0024】
本明細書における「流動性」は、造粒前の医薬組成物の流れやすさをいい、安息角や圧縮度で評価することができる。流動層造粒工程において、流動性が著しく低い粉体は、流動化が困難となり、造粒することが不可能となる。粉体の流動性を改善することにより、粉体の造粒を進めることができ、均質な造粒品を得ることができる。
【0025】
本発明の医薬組成物における添加剤としては、上記の他に、医薬分野における製剤に一般的に用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、流動化剤、賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、崩壊剤等を使用することができる。
【0026】
流動化剤としては、二酸化ケイ素、ケイ酸ナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
賦形剤としては、乳糖(乳糖水和物を含む)、トウモロコシデンプン(コーンスターチ)、結晶セルロース、D−マンニトール等が挙げられる。
【0027】
結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース及びポリビニルアルコール等が挙げられる。
滑沢剤としては硬化油、ショ糖脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸を挙げることができる。
着色剤としては、食用黄色5号色素、食用青色2号色素、食用レーキ色素、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄及び酸化チタン等が挙げられる。
【0028】
コーティング剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース、TC−5、METOLOSEなど)及びポリエチレングリコール(PEG400、PEG1500、PEG4000、PEG6000、マクロゴール400、マクロゴール1500、マクロゴール4000、マクロゴール6000など)を挙げることができる。
【0029】
崩壊剤としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、トウモロコシデンプン(コーンスターチ)、部分アルファー化デンプン、結晶セルロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、D−マンニトール、クロスポビドン等が挙げられ、好ましくは結晶セルロース、D−マンニトール、又はクロスポビドンである。
【0030】
本発明において、化合物A又はその薬学的に許容される塩とアルキル硫酸ナトリウムを含む医薬組成物には、さらに崩壊剤を含むことができる。
崩壊剤としてのクロスポビドン(cross−linked PVP)は、市販されている医薬品の添加剤であり、本発明において、医薬組成物全体の1〜20質量%であり、2〜15質量%が好ましい。
【0031】
また、クロスポビドンは、化合物A 1質量部に対して、0.1〜20質量部であり、0.2〜5質量部が好ましく、0.2〜3質量部がより好ましく、0.9〜1.1質量部、1.4〜1.6質量部、又は1.9〜2.1質量部が特に好ましい。
また、クロスポビドンは、アルキル硫酸ナトリウム1質量部に対して0.1〜20質量部であり、より好ましくは0.2〜5質量部であり、より好ましくは0.2〜3質量部であり、特に好ましくは0.9〜1.1質量部、1.4〜1.6質量部、又は1.9〜2.1質量部である。
【0032】
本発明において、化合物A又はその薬学的に許容される塩とアルキル硫酸ナトリウムを含む医薬組成物には、さらに崩壊剤としてカルメロースナトリウムを含むことができる。
当該カルメロースナトリウムは、医薬品の添加剤であり、本発明において、医薬組成物全体の1〜10質量%である。
【0033】
また、カルメロースナトリウムは、化合物A 1質量部に対して、0.1〜5質量部であり、0.2〜2質量部が好ましく、0.2〜0.4質量部、又は0.9〜1.2質量部が特に好ましい。
また、カルメロースナトリウムは、アルキル硫酸ナトリウム1質量部に対して0.1〜5質量部であり、より好ましくは0.2〜2質量部であり、特に好ましくは0.2〜0.4質量部、又は0.9〜1.2質量部である。
【0034】
本発明において、化合物A又はその薬学的に許容される塩とアルキル硫酸ナトリウムを含む医薬組成物には、さらに崩壊剤としてカルメロースカルシウムを含むことができ、本発明において、医薬組成物全体の1〜10質量%である。
【0035】
また、カルメロースカルシウムは、化合物A 1質量部に対して、0.1〜5質量部であり、0.2〜2質量部が好ましく、0.2〜0.4質量部、又は0.9〜1.2質量部が特に好ましい。
また、カルメロースカルシウムは、アルキル硫酸ナトリウムの0.1〜5質量部であり、より好ましくは0.2〜2質量部であり、特に好ましくは0.2〜0.4質量部、又は0.9〜1.2質量部である。
【0036】
本発明において、化合物A又はその薬学的に許容される塩とアルキル硫酸ナトリウムを含む医薬組成物には、さらに崩壊剤としてD−マンニトールを含むことができる。
崩壊剤としてのD−マンニトールは、口腔内速崩壊剤における崩壊剤として知られており、本発明において使用できる量は、医薬組成物全体の10〜80質量%であり、15〜70質量%が好ましく、20〜60質量%がより好ましい。
【0037】
また、D−マンニトールについて、本発明において使用できる量は、化合物A 1質量部に対して、1〜20質量部であり、好ましくは2〜15質量部であり、より好ましくは2〜12質量部であり、特に好ましくは2〜4質量部、6〜8質量部、又は9〜11質量部である。
【0038】
本発明において、化合物A又はその薬学的に許容される塩とアルキル硫酸ナトリウムを含む医薬組成物には、さらに賦形剤として乳糖を含むことができる。
当該乳糖について、本発明において使用できる量は、医薬組成物全体の1〜80質量%であり、2〜70質量%が好ましく、3〜60質量%がより好ましい。
【0039】
また、乳糖について、本発明において使用できる量は、化合物A 1質量部に対して、1〜30質量部であり、好ましくは1〜10質量部であり、より好ましくは1〜5質量部であり、特に好ましくは1〜2質量部、又は4〜5質量部である。
【0040】
本発明の医薬組成物としては、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、アルキル硫酸ナトリウムを含有する医薬組成物が挙げられるが、好ましくは化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有する医薬組成物である。
【0041】
本発明の医薬組成物としてより好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対し、0.05〜15質量部のラウリル硫酸ナトリウムを含有する医薬組成物である。
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対し、0.1〜10質量部のラウリル硫酸ナトリウムを含有する医薬組成物である。
【0042】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対し、0.2〜5質量部のラウリル硫酸ナトリウムを含有する医薬組成物である。
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対し、0.25〜3質量部のラウリル硫酸ナトリウムを含有する医薬組成物である。
【0043】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対して0.75〜1.5質量部のラウリル硫酸ナトリウムを含有する医薬組成物である。
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対して1質量部のラウリル硫酸ナトリウムを含有する医薬組成物である。
【0044】
特に好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対して1質量部のラウリル硫酸ナトリウムを含有し、さらにクロスポビドン、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムからなる群より選択される1つの添加剤を含有する医薬組成物である。
【0045】
別の実施形態において、本発明の医薬組成物として好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、クロスポビドン、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムからなる群より選択される1以上の添加剤を含有する医薬組成物である。
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、さらに化合物A 1質量部に対して0.1〜20質量部のクロスポビドン、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムからなる群より選択される1つの添加剤を含有する医薬組成物である。
【0046】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、さらに化合物A 1質量部に対して0.2〜5質量部のクロスポビドンを含有する医薬組成物である。
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、化合物A 1質量部に対して0.2〜3質量部のクロスポビドンを含有する医薬組成物である。
【0047】
特に好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、化合物A 1質量部に対して0.9〜1.1質量部、1.4〜1.6質量部、又は1.9〜2.1質量部のクロスポビドンを含有する医薬組成物である。
【0048】
別の実施形態において、本発明の医薬組成物として好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、さらにクロスポビドンを含有する医薬組成物である。
【0049】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対して0.1〜10質量部のラウリル硫酸ナトリウムを含有し、さらに化合物A 1質量部に対して0.1〜20質量部のクロスポビドンを含有する医薬組成物である。
【0050】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対して0.25〜3質量部のラウリル硫酸ナトリウムを含有し、さらに化合物A 1質量部に対して0.2〜5質量部のクロスポビドンを含有する医薬組成物である。
【0051】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対して0.75〜1.5質量部のラウリル硫酸ナトリウムを含有し、さらに化合物A 1質量部に対して0.2〜3質量部のクロスポビドンを含有する医薬組成物である。
【0052】
特に好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対して1質量部のラウリル硫酸ナトリウムを含有し、さらに化合物A 1質量部に対して0.9〜1.1質量部、1.4〜1.6質量部、又は1.9〜2.1質量部のクロスポビドンを含有する医薬組成物である。
【0053】
別の実施形態において、本発明の医薬組成物として好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、クロスポビドン、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムからなる群より選択される1以上の添加剤を含有する医薬組成物である。
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、クロスポビドン、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムからなる群より選択される1以上の添加剤を含有し、さらにD−マンニトールを含有する医薬組成物である。
【0054】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、クロスポビドン、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムからなる群より選択される1以上の添加剤を含有し、さらに化合物A 1質量部に対して1〜20質量部のD−マンニトールを含有する医薬組成物である。
さらに好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、クロスポビドン、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムからなる群より選択される1以上の添加剤を含有し、さらに化合物A 1質量部に対して2〜12質量部のD−マンニトールを含有する医薬組成物である。
【0055】
特に好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、クロスポビドン、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムからなる群より選択される1以上の添加剤を含有し、さらに化合物A 1質量部に対して2〜4質量部、6〜8質量部、又は9〜11質量部のD−マンニトールを含有する医薬組成物である。
【0056】
別の実施形態において、本発明の医薬組成物として好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、クロスポビドン、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムからなる群より選択される1以上の添加剤を含有し、さらにD−マンニトール及び乳糖からなる群より選択される1以上の添加剤を含有する医薬組成物である。
【0057】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、クロスポビドン、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムからなる群より選択される1以上の添加剤を含有し、D−マンニトールを含有し、さらに化合物A 1質量部に対して1〜30質量部の乳糖を含有する医薬組成物である。
【0058】
さらに好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、クロスポビドン、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムからなる群より選択される1以上の添加剤を含有し、D−マンニトールを含有し、さらに化合物A 1質量部に対して1〜10質量部の乳糖を含有する医薬組成物である。
【0059】
特に好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、クロスポビドン、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムからなる群より選択される1以上の添加剤を含有し、化合物A 1質量部に対して2〜12質量部のD−マンニトールを含有し、さらに化合物A 1質量部に対して1〜5質量部の乳糖を含有する医薬組成物である。
【0060】
別の実施形態において、本発明の医薬組成物として好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、さらに、D−マンニトールを含有する医薬組成物である。
【0061】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、さらに化合物A 1質量部に対して1〜20質量部のD−マンニトールを含有する医薬組成物である。
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、さらに化合物A 1質量部に対して2〜15質量部のD−マンニトールを含有するする医薬組成物である。
【0062】
特に好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、化合物A 1質量部に対して2〜12質量部のD−マンニトールを含有し、さらに、クロスポビドン、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムからなる群より選択される1以上の添加剤を含有する医薬組成物である。
【0063】
別の実施形態において、本発明の医薬組成物として好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、さらに、乳糖を含有する医薬組成物である。
【0064】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、さらに化合物A 1質量部に対して1〜30質量部の乳糖を含有する医薬組成物である。
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、さらに化合物A 1質量部に対して1〜10質量部の乳糖を含有する医薬組成物である。
【0065】
特に好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウムを含有し、化合物A 1質量部に対して1〜5質量部の乳糖を含有し、さらに、クロスポビドン、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムからなる群より選択される1以上の添加剤を含有する医薬組成物である。
【0066】
別の実施形態において、本発明の医薬組成物として好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、ラウリル硫酸ナトリウム、クロスポビドン、乳糖、及びD−マンニトールを含有する医薬組成物である。
【0067】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対して0.01〜25質量部のラウリル硫酸ナトリウム、0.1〜20質量部のクロスポビドン、0.1〜20質量部のD−マンニトール、及び0.1〜30質量部の乳糖を含有する医薬組成物である。
【0068】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対して0.1〜10質量部のラウリル硫酸ナトリウム、0.1〜20質量部のクロスポビドン、0.1〜20質量部のD−マンニトール、及び0.1〜30質量部の乳糖を含有する医薬組成物である。
【0069】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対して0.2〜5質量部のラウリル硫酸ナトリウム、0.1〜20質量部のクロスポビドン、0.1〜20質量部のD−マンニトール、及び0.1〜30質量部の乳糖を含有する医薬組成物である。
【0070】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対して0.25〜3質量部のラウリル硫酸ナトリウム、0.1〜20質量部のクロスポビドン、0.1〜20質量部のD−マンニトール、及び0.1〜30質量部の乳糖を含有する医薬組成物である。
【0071】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対して0.75〜1.5質量部のラウリル硫酸ナトリウム、0.1〜20質量部のクロスポビドン、0.1〜20質量部のD−マンニトール、及び0.1〜30質量部の乳糖を含有する医薬組成物である。
【0072】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対して0.75〜1.5質量部のラウリル硫酸ナトリウム、0.2〜5質量部のクロスポビドン、0.1〜20質量部のD−マンニトール、及び0.1〜30質量部の乳糖を含有する医薬組成物である。
【0073】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対して0.75〜1.5質量部のラウリル硫酸ナトリウム、0.2〜3質量部のクロスポビドン、0.1〜20質量部のD−マンニトール、及び0.1〜30質量部の乳糖を含有する医薬組成物である。
【0074】
より好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対して0.75〜1.5質量部のラウリル硫酸ナトリウム、0.2〜3質量部のクロスポビドン、2〜15質量部のD−マンニトール、及び1〜10質量部の乳糖を含有する医薬組成物である。
【0075】
さらに好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対して0.75〜1.5質量部のラウリル硫酸ナトリウム、0.2〜3質量部のクロスポビドン、2〜12質量部のD−マンニトール、及び1〜5質量部の乳糖を含有する医薬組成物である。
【0076】
特に好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、化合物A 1質量部に対して1質量部のラウリル硫酸ナトリウム、0.9〜1.1質量部、1.4〜1.6質量部、又は1.9〜2.1質量部のクロスポビドン、2〜4質量部、6〜8質量部、又は9〜11質量部のD−マンニトール、及び1〜2質量部、又は4〜5質量部の乳糖を含有する医薬組成物である。
【0077】
本発明の医薬組成物は、経口投与、経皮投与、腹腔内投与、静脈投与など、通常投与する際に用いられる経路を採用することができるが、経口投与が好ましい。従って、好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、化合物A及びアルキル硫酸ナトリウムを含有する、経口投与のための医薬組成物である。
【0078】
経口投与のための医薬組成物としては、限定するものではないが、例えばシロップ剤、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等が挙げられる。
本発明の医薬組成物は、公知の製剤の製造方法により製造することができ、例えば、造粒方法としては、流動層造粒法、撹拌造粒法、転動流動造粒法、押し出し造粒法、噴霧造粒法及び破砕造粒法等を用いて造粒物を製造することができる。
【0079】
本発明の医薬組成物を錠剤として製剤化する場合、錠剤の表面にコーティングを施して、安定で服用しやすい経口投与医薬組成物とすることができる。ここでコーティングには、フィルムコーティング、及び糖衣が含まれる。コーティング基剤としては、ヒプロメロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、白糖等が挙げられる。
また、本発明の医薬組成物は、服用しやすい経口投与医薬組成物とするために、オレンジ及びレモン各種香料等を着香剤として用いることができ、l−メントール、カンフル及びハッカ等を矯味剤として用いることができる。
【0080】
本発明の医薬組成物は、化合物Aが優れたFGFR阻害活性を有するため、抗腫瘍剤として有用である。対象となる癌は特に制限されないが、例えば、頭頚部癌、消化器癌[例えば、食道癌、胃癌、消化管間質腫瘍、十二指腸癌、肝臓癌、胆道癌(例えば、胆嚢・胆管癌など)、膵臓癌、小腸癌、大腸癌(例えば、結腸直腸癌、結腸癌、直腸癌など)など]、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌(例えば、子宮頚癌、子宮体癌など)、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、尿路上皮癌、骨・軟部肉腫、血液癌(例えば、B細胞リンパ腫、慢性リンパ性白血病、末梢性T細胞性リンパ腫、骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病など)、多発性骨髄腫、皮膚癌、中皮腫等が挙げられる。
【0081】
従って、本発明は、頭頚部癌、消化器癌[例えば、食道癌、胃癌、消化管間質腫瘍、十二指腸癌、肝臓癌、胆道癌(例えば、胆嚢・胆管癌など)、膵臓癌、小腸癌、大腸癌(例えば、結腸直腸癌、結腸癌、直腸癌など)など]、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌(例えば、子宮頚癌、子宮体癌など)、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、尿路上皮癌、骨・軟部肉腫、血液癌(例えば、B細胞リンパ腫、慢性リンパ性白血病、末梢性T細胞性リンパ腫、骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病など)、多発性骨髄腫、皮膚癌、及び中皮腫から選択される腫瘍の治療又は予防のための使用のための医薬組成物を提供する。
【0082】
また、本発明は、別の態様において、化合物A又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物にラウリル硫酸ナトリウムを添加することを特徴とする、化合物Aの医薬組成物からの溶出性改善方法を提供する。
【0083】
また、本発明は、別の態様において、化合物A又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物にラウリル硫酸ナトリウムを添加することを特徴とする、化合物Aの吸収性改善方法を提供する。
【0084】
また、本発明は、別の態様において、化合物A又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物にラウリル硫酸ナトリウムを添加することを特徴とする、製造適性改善方法を提供する。
【0085】
また、本発明は、別の態様において、化合物A又はその薬学的に許容される塩の溶出性改善のための、ラウリル硫酸ナトリウムの使用を提供する。
【0086】
また、本発明は、別の態様において、化合物A又はその薬学的に許容される塩の吸収性改善のための、ラウリル硫酸ナトリウムの使用を提供する。
【0087】
また、本発明は、別の態様において、化合物A又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物の製造適性改善のための、ラウリル硫酸ナトリウムの使用を提供する。
【0088】
また、本発明は、別の態様において、化合物A又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物を製造するための、ラウリル硫酸ナトリウムの使用を提供する。
【実施例】
【0089】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。本発明は実施例により十分に説明されているが、当業者により種々の変更や修飾が可能であろうことは理解される。したがって、そのような変更や修飾が本発明の範囲を逸脱するものでない限り、それらは本発明に包含される。
実施例で用いた各種試薬は、特に記載の無い限り市販品を使用した。
【0090】
[試験例1]溶解度試験
配合例1及び2、並びに比較例1〜15に示すように、(S)−1−(3−(4−アミノ−3−((3,5−ジメトキシフェニル)エチニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル−1−ピロリジニル)−2−プロペン−1−オン(化合物A)と種々の界面活性剤とを組合せた試験液を以下のように調製し、下記のように溶解度試験を行った。
【0091】
<配合例1>
0.05gのラウリル硫酸ナトリウム(SERVA社製、Research grade)を、pH6.8の50mMリン酸緩衝液(50 mL)に溶解後、25mgの化合物Aを懸濁させ、60分間37℃で加温することによって試験液を得た。
【0092】
<配合例2>
0.5gのラウリル硫酸ナトリウムを、pH6.8の50mMリン酸緩衝液(50mL)に溶解後、25mgの化合物Aを懸濁させ、60分間37℃で加温することによって試験液を得た。
【0093】
<比較例1>
pH6.8の日局溶出試験第2液(50mL)に、25mgの化合物Aを懸濁させ、60分間37℃で加温することによって試験液を得た。
【0094】
<比較例2>
0.05gのショ糖脂肪酸モノエステル(DKエステルSS、第一工業製薬株式会社製)を、pH6.8の日局溶出試験第2液(50mL)に溶解後、25mgの化合物Aを懸濁させ、60分間37℃で加温することによって試験液を得た。
【0095】
<比較例3>
0.5gのショ糖脂肪酸モノエステル(DKエステルSS)を、pH6.8の日局溶出試験第2液(50mL)に溶解後、25mgの化合物Aを懸濁させ、60分間37℃で加温することによって試験液を得た。
【0096】
<比較例4>
0.05gのPEG6000(マクロゴール6000、日本油脂株式会社製)を、pH6.8の日局溶出試験第2液(50mL)に溶解後、25mgの化合物Aを懸濁させ、60分間37℃で加温することによって試験液を得た。
【0097】
<比較例5>
0.5gのPEG6000を、pH6.8の日局溶出試験第2液(50mL)に溶解後、25mgの化合物Aを懸濁させ、60分間37℃で加温することによって試験液を得た。
【0098】
<比較例6>
0.05gのポロキサマー(LutrolF68、BASF Corporation製)を、pH6.8の日局溶出試験第2液(50mL)に溶解後、25mgの化合物Aを懸濁させ、60分間37℃で加温することによって試験液を得た。
【0099】
<比較例7>
0.5gのポロキサマー(LutrolF68)を、pH6.8の日局溶出試験第2液(50mL)に溶解後、25mgの化合物Aを懸濁させ、60分間37℃で加温することによって試験液を得た。
【0100】
<比較例8>
0.05gのポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(Tween20、東京化成工業株式会社製)を、pH6.8の日局溶出試験第2液(50mL)に溶解後、25mgの化合物Aを懸濁させ、60分間37℃で加温することによって試験液を得た。
【0101】
<比較例9>
0.5gのポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(Tween20)を、pH6.8の日局溶出試験第2液(50mL)に溶解後、25mgの化合物Aを懸濁させ、60分間37℃で加温することによって試験液を得た。
【0102】
<比較例10>
0.05gのポリオキシエチレンソルビタンモノステアラート(Tween60、東京化成工業株式会社製)を、pH6.8の日局溶出試験第2液(50mL)に溶解後、25mgの化合物Aを懸濁させ、60分間37℃で加温することによって試験液を得た。
【0103】
<比較例11>
0.5gのポリオキシエチレンソルビタンモノステアラート(Tween60)を、pH6.8の日局溶出試験第2液(50mL)に溶解後、25mgの化合物Aを懸濁させ、60分間37℃で加温することによって試験液を得た。
【0104】
<比較例12>
0.05gのポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(Tween80、東京化成工業株式会社製)を、pH6.8の日局溶出試験第2液(50mL)に溶解後、25mgの化合物Aを懸濁させ、60分間37℃で加温することによって試験液を得た。
【0105】
<比較例13>
0.5gのポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(Tween80)を、pH6.8の日局溶出試験第2液(50mL)に溶解後、25mgの化合物Aを懸濁させ、60分間37℃で加温することによって試験液を得た。
【0106】
<比較例14>
0.05gのポリオキシエチレンヒマシ油(CremophorEL、Sigma−Aldrich社製)を、pH6.8の日局溶出試験第2液(50mL)に溶解後、25mgの化合物Aを懸濁させ、60分間37℃で加温することによって試験液を得た。
【0107】
<比較例15>
0.5gのポリオキシエチレンヒマシ油(CremophorEL)を、pH6.8の日局溶出試験第2液(50mL)に溶解後、25mgの化合物Aを懸濁させ、60分間37℃で加温することによって試験液を得た。
【0108】
上記の配合例1、2、及び比較例1〜15について、溶解度を高速液体クロマトグラフィーによって測定した。
装置:LC-2010C(株式会社島津製作所)
測定波長:300nm
データ処理を含む装置の取り扱いは、各装置で指示された方法及び手順に従った。配合例1、2、比較例1〜15の組成と本試験の結果を表1、表2に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
表1、表2に示すように、界面活性剤を使用しない比較例1と比較すると、界面活性剤の添加によって、化合物Aの溶解度があまり変化しない場合もある一方、ラウリル硫酸ナトリウムを含む一部の界面活性剤の添加によって溶解度の改善効果が見られた。その中でもラウリル硫酸ナトリウム及びショ糖脂肪酸モノエステルは高い溶解度改善効果をもたらした。特に、ラウリル硫酸ナトリウムは0.1%溶液(配合例1)でも高い溶解度を示し、1.0%溶液(配合例2)では溶解度が無添加時(比較例1)の約500倍も増加することが分かった。
【0112】
[試験例2]吸収性試験
試験例1で化合物Aに対して良好な溶解度改善効果をもたらしたラウリル硫酸ナトリウム及びショ糖脂肪酸モノエステルを使用して、下記のように吸収性試験を行った。
【0113】
<配合例3>
2.4gのラウリル硫酸ナトリウム(和光株式会社、生化学用)を、水(40mL)に溶解後、0.8gの化合物Aを懸濁させ、化合物Aの懸濁液を得た。
【0114】
<比較例16>
医薬品の吸収性試験において汎用されている0.5%ヒプロメロース水溶液(40mL)に0.8gの化合物Aを懸濁させ、化合物Aの懸濁液を得た。
【0115】
<比較例17>
2.4gのショ糖脂肪酸モノエステル(DKエステルSS)を、水(40mL)に溶解後、0.8gの化合物Aを懸濁させ、化合物Aの懸濁液を得た。
【0116】
上記の配合例3、比較例16及び17について、以下の通り吸収性試験を実施した。
<吸収試験条件>
使用動物:ビーグル犬(北山ラベス、雄3頭)
食事条件:前日より20時間絶食
投与量:100mg/body
投与サンプル:配合例3及び比較例16、17をそれぞれ0.82g
投与方法:水50mLと共にゾンデを使用した経口投与
【0117】
前処置:投与サンプルの投薬30分前に硫酸アトロピン静注液10μg/0.1mL/kg及びペンタガストリン筋注液10μg/0.1mL/kgを筋肉内投与し、その後45分間隔でペンタガストリン筋注液10μg/0.1mL/kgを2回筋肉内投与した。
配合例及び比較例の経口投与後、30分後、1時間後、1.5時間後、2時間後、4時間後及び8時間後に各動物から採血し、化合物Aの血中濃度を(液体クロマトグラフィー質量分析法により)測定して、AUC及びCmax値を算出した。結果を表3に示す。
【0118】
【表3】
【0119】
表3に示す通り、化合物Aと共にショ糖脂肪酸モノエステルを含む比較例17は、化合物Aのみの懸濁液である比較例16と同程度の吸収性を示した。一方で、化合物Aと共にラウリル硫酸ナトリウムを含む配合例3は、同量のショ糖脂肪酸モノエステルを含む比較例17より顕著に高い化合物Aの吸収性を示したことから、ラウリル硫酸ナトリウムは化合物Aの吸収改善に有用であることが明らかとなった。
【0120】
[試験例3]吸収性試験
化合物Aとラウリル硫酸ナトリウムとを含有する顆粒を以下のように調製し、試験例2と同様の吸収性試験を行った。
【0121】
<配合例4>
化合物A 2g、ラウリル硫酸ナトリウム 0.5g、乳糖 9.5g、コーンスターチ 4gをガラス瓶中で1分間混合した。目開き500μmの篩で全量篩過した後、再度ガラス瓶中で1分間混合した。乳棒及び乳鉢を用いて混合しながら、10% 低粘度ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−SL)3400μLを添加し、目開き850μmの篩で全量篩過した後、水分測定器(AND、MX−50)を用いて70℃で乾燥させた。さらに、目開き1000μmの篩で全量篩過し、化合物Aの顆粒を得た。
【0122】
<配合例5>
化合物A 2g、ラウリル硫酸ナトリウム 2g、乳糖 8.4g、コーンスターチ 3.6gをガラス瓶中で1分間混合した。目開き500μmの篩で全量篩過した後、再度ガラス瓶中で1分間混合した。乳棒及び乳鉢を用いて混合しながら、10% 低粘度ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−SL)3200μLを添加し、目開き850μmの篩で全量篩過した後、水分測定器(AND、MX−50)を用いて70℃で乾燥させた。さらに、目開き1000μmの篩で全量篩過し、化合物Aの顆粒を得た。
【0123】
<配合例6>
化合物A 1.4g、ラウリル硫酸ナトリウム 4.2g、乳糖 3.9g、コーンスターチ 1.9gをガラス瓶中で1分間混合した。目開き500μmの篩で全量篩過した後、再度ガラス瓶中で1分間混合した。得られた混合品6.4gを乳棒及び乳鉢を用いて混合しながら、10% 低粘度ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−SL)1330μLを添加し、目開き850μmの篩で全量篩過した後、水分測定器(AND、MX−50)を用いて70℃で乾燥させた。さらに、目開き1000μmの篩で全量篩過し、化合物Aの顆粒を得た。
【0124】
上記の配合例4〜6、及び試験例2で用いた比較例16について、以下の通り吸収性試験を実施した。
<吸収実験条件>
使用動物:ビーグル犬(北山ラベス、雄3頭)
食事条件:前日より20時間絶食
投与量:100mg/body
投与サンプル:配合例4〜6及び比較例16をそれぞれ0.82g
投与方法:水50mLと共に経口投与
【0125】
前処置:投与サンプルの投薬30分前に硫酸アトロピン静注液10μg/0.1mL/kg及びペンタガストリン筋注液10μg/0.1mL/kgを筋肉内投与し、その後45分間隔でペンタガストリン筋注液10μg/0.1mL/kgを2回筋肉内投与した。
試験例2と同様に、配合例及び比較例の経口投与後、30分後、1時間後、1.5時間後、2時間後、4時間後及び8時間後に各動物から採血し、化合物Aの血中濃度を(液体クロマトグラフィー質量分析法により)測定して、AUC及びCmax値を算出した。結果を表4に示す。
【0126】
【表4】
【0127】
表4に示す通り、ラウリル硫酸ナトリウムを化合物Aの0.25倍、等量、3倍添加した顆粒(配合例4、5、6)のいずれも、化合物Aのみを懸濁させた比較例16より高い吸収性を示すことが明らかとなった。配合例6は最も高いCmaxを示したものの、AUCは配合例5と同程度であったことから、ラウリル硫酸ナトリウムの添加量は化合物Aと等量以上であれば、より高い吸収性が得られると考えられた。
【0128】
[試験例4]錠剤の成形性及び崩壊性試験
化合物Aを含有する錠剤の崩壊性を改善することを目的として、崩壊剤選定の検討を行った。5種類の候補添加剤、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(LH−21、信越化学工業製)、クロスポビドン(コリドンCL−SF、BASF Corporation)、カルメロースナトリウム(キッコレート、旭化成株式会社)、カルメロースカルシウム(E.C.G-505、五徳薬品株式会社)、又はカルボキシメチルスターチナトリウム(グリコリス、ROQUETTE社製)を、それぞれ化合物Aを含有する錠剤の総質量に対して3%あるいは10%添加し、万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて以下の表5に示す組成の錠剤を製した。この時、目標硬度(65N)が得られる打錠圧と錠剤の崩壊性を評価することにより、崩壊剤のスクリーニングを実施した。崩壊性は試験液として水を用いて第十六改正日本薬局方の崩壊試験により評価した。
【0129】
<配合例7>
化合物A 120g、ラウリル硫酸ナトリウム 120g、乳糖 516g、コーンスターチ 276gをポリ袋にて1分間混合し、目開き500μmの篩で全量篩過した後、再度ビニル袋にて5分間混合した。得られた混合粉末のうち、340gを流動層造粒機(フロイント産業株式会社)にいれ、7.5%低粘度ヒドロキシプロピルセルロース 161gを噴霧しながら造粒し、造粒物を得た。
得られた造粒物に結晶セルロース、クロスポビドン及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合した。目開き850μmの篩で全量篩過した後、再度ガラス瓶で混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて目標硬度(65N)が得られる打錠圧にて化合物Aの錠剤を製した。
【0130】
<配合例8>
配合例7と同様にして得た造粒物に結晶セルロース、クロスポビドン及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合した。目開き850μmの篩で全量篩過した後、再度ガラス瓶で混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて目標硬度(65N)が得られる打錠圧にて化合物Aの錠剤を製した。
【0131】
<配合例9>
配合例7と同様にして得た造粒物に結晶セルロース、カルメロースナトリウム及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合した。目開き850μmの篩で全量篩過した後、再度ガラス瓶で混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて目標硬度(65N)が得られる打錠圧にて化合物Aの錠剤を製した。
【0132】
<配合例10>
配合例7と同様にして得た造粒物に結晶セルロース、カルメロースナトリウム及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合した。目開き850μmの篩で全量篩過した後、再度ガラス瓶で混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて目標硬度(65N)が得られる打錠圧にて化合物Aの錠剤を製した。
【0133】
<配合例11>
配合例7と同様にして得た造粒物に結晶セルロース、カルメロースカルシウム及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合した。目開き850μmの篩で全量篩過した後、再度ガラス瓶で混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて目標硬度(65N)が得られる打錠圧にて化合物Aの錠剤を製した。
【0134】
<配合例12>
配合例7と同様にして得た造粒物に結晶セルロース、カルメロースカルシウム及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合した。目開き850μmの篩で全量篩過した後、再度ガラス瓶で混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて目標硬度(65N)が得られる打錠圧にて化合物Aの錠剤を製した。
【0135】
<配合例13>
配合例7と同様にして得た造粒物に結晶セルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合した。目開き850μmの篩で全量篩過した後、再度ガラス瓶で混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて目標硬度(65N)が得られる打錠圧にて化合物Aの錠剤を製した。
【0136】
<配合例14>
配合例7と同様にして得た造粒物に結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合した。目開き850μmの篩で全量篩過した後、再度ガラス瓶で混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて目標硬度(65N)が得られる打錠圧にて化合物Aの錠剤を製した。
【0137】
<配合例15>
配合例7と同様にして得た造粒物に結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合した。目開き850μmの篩で全量篩過した後、再度ガラス瓶で混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて目標硬度(65N)が得られる打錠圧にて化合物Aの錠剤を製した。
崩壊性試験について、配合例7〜15の結果を表5に示す。
【0138】
【表5】
【0139】
表5に示す結果より、いずれの崩壊剤を用いても、杵の耐圧性能範囲である打錠圧13kN以下にて一定の硬度の錠剤を成形でき、崩壊時間は10分以内であった。特に、クロスポビドン、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムを用いたときは、打錠圧10kN以下にて一定の硬度の錠剤を成形でき、崩壊時間は9分以内であった。また、クロスポビドンは、候補添加剤を含有しない配合例15と比較した場合の崩壊時間の短縮に加え、成形圧が低かったことから成形性改善効果も見られた。一方で、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びカルボキシメチルスターチナトリウムは崩壊時間の短縮は見られず、かつ高い打錠圧が必要であり、成形性は低下する傾向が見られた。この結果より、いずれの崩壊剤を用いても錠剤として許容される有用性が示されるが、特にクロスポビドン、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムの有用性が非常に高いことが示唆された。
【0140】
[試験例5]錠剤の成形性及び崩壊性試験
試験例4において、化合物A及びラウリル硫酸ナトリウムを含有する錠剤において高い成形性及び崩壊性改善効果が認められたクロスポビドン及びカルメロースナトリウムを用い、これら崩壊剤以外の成分は同じ質量とした組成にて、ロータリー打錠機を用いて目標硬度(60N)が得られる打錠圧で錠剤を以下のように調製して比較した。結果を表6に示す。
【0141】
<配合例16>
化合物A 200g、ラウリル硫酸ナトリウム(NIKKOL SLS,日光ケミカルズ株式会社製)200g、乳糖 860g、コーンスターチ 460gをポリ袋にて1分間混合し、目開き500μmの篩で全量篩過した後、再度ビニル袋にて1分間混合した。得られた混合粉末を流動層造粒機(フロイント産業株式会社)にいれ、7.5%低粘度ヒドロキシプロピルセルロース 800gを噴霧しながら造粒し、造粒物を得た。得られた造粒物を目開き850μmの篩で全量篩過した。
造粒物篩過品222.5gに結晶セルロース25g、クロスポビドン7.5g及びステアリン酸マグネシウム2.5gを加えてポリ袋にて混合し後、打錠機(株式会社菊水製作所)で打錠し、錠剤を得た。
【0142】
<配合例17>
配合例16と同様にして得た造粒物篩過品222.5gに結晶セルロース25g、クロスポビドン25g及びステアリン酸マグネシウム2.5gを加えてポリ袋にて混合し後、打錠機(株式会社菊水製作所)で打錠し、錠剤を得た。
【0143】
<配合例18>
配合例16と同様にして得た造粒物篩過品222.5gに結晶セルロース25g、カルメロースナトリウム7.5g及びステアリン酸マグネシウム2.5gを加えてポリ袋にて混合し後、打錠機(株式会社菊水製作所)で打錠し、錠剤を得た。
【0144】
<配合例19>
配合例16と同様にして得た造粒物篩過品445gに結晶セルロース50g及びステアリン酸マグネシウム5gを加えてポリ袋にて混合し後、打錠機(株式会社菊水製作所)で打錠し、錠剤を得た。
【0145】
【表6】
【0146】
表6に示す結果より、試験例4と同様の傾向が得られ、崩壊時間は、クロスポビドン及びカルメロースナトリウムのいずれも含有しない配合例19が最も長く、次いで配合例18(カルメロースナトリウム6質量部)>配合例16(クロスポビドン6質量部)>配合例17(クロスポビドン20質量部)の順となり、打錠圧は、配合例18>配合例19>配合例16>配合例17の順となった。本検討により、クロスポビドンは同量のカルメロースナトリウムを添加した場合と比較して、崩壊性及び成形性改善のためにより有用であることが示された。
【0147】
[試験例6]吸収性試験
化合物A及びラウリル硫酸ナトリウムを含有し、化合物Aの含有量が異なる以下の配合例20(化合物Aを20mg含む)及び配合例21(化合物Aを4mg含む)のフィルムコーティング錠を製し、試験例2と同様の吸収性試験を行った。
【0148】
<配合例20>
配合例19で得た錠剤180gに、コーティング剤6.8g及び精製水81.2gからなるフィルムコーティング液をコーティング機(フロイント産業株式会社)にてスプレーし、配合例20のフィルムコーティング錠を得た。コーティング剤は、低粘度ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、酸化チタン及び着色剤からなる一般的な組成のものを使用した。
【0149】
<配合例21>
化合物A 12g、ラウリル硫酸ナトリウム(NIKKOL SLS,日光ケミカルズ株式会社製)12g、乳糖 354g、コーンスターチ 138gをポリ袋にて1分間混合し、目開き500μmの篩で全量篩過した後、再度ビニル袋にて1分間混合した。得られた混合粉末を流動層造粒機(株式会社パウレック)にいれ、7.5%低粘度ヒドロキシプロピルセルロース 239gを噴霧しながら造粒し、造粒物を得た。得られた造粒物を目開き850μmの篩で全量篩過した。
造粒物篩過品178gに結晶セルロース20g及びステアリン酸マグネシウム2gを加えてポリ袋にて混合し後、打錠機(株式会社菊水製作所)で打錠し、錠剤を得た。得られた錠剤180gに、コーティング剤6.8g及び精製水81.2gからなるフィルムコーティング液をコーティング機(フロイント産業株式会社)にてスプレーし、配合例21のフィルムコーティング錠を得た。
【0150】
これらの配合例について以下の通り吸収性試験を実施した。
<吸収実験条件>
使用動物:ビーグル犬(北山ラベス、雄6頭)
食事条件:前日より20時間絶食
投与量:20mg/body
投与サンプル:配合例20、21
投与方法:水50mLと共に経口投与
【0151】
前処置:投与サンプルの投薬30分前に硫酸アトロピン静注液10μg/0.1mL/kg及びペンタガストリン筋注液10μg/0.1mL/kgを筋肉内投与し、その後45分間隔でペンタガストリン筋注液10μg/0.1mL/kgを2回筋肉内投与した。
配合例20及び21の経口投与後、30分後、1時間後、1.5時間後、2時間後、4時間後及び8時間後に各動物から採血し、化合物Aの血中濃度を(液体クロマトグラフィー質量分析法により)測定して、AUC、Cmax及びTmax値を算出した。結果を表7に示す。
【0152】
【表7】
【0153】
表7の結果より、20mg錠(配合例20)も4mg錠(配合例21)もイヌにおいて問題なく吸収性を示すことがわかった。両者の性質を比較すると、20 mg錠はTmaxの遅い製剤であり、一方4 mg錠はTmaxがばらつくものの、比較的吸収の速い製剤であることが明らかとなった。
【0154】
[試験例7]崩壊性試験
Tmaxのバラツキが少なく、吸収の立ち上がりが速い製剤処方を見出すために、表8に組成を示す配合例22〜32の処方を以下のように調製し、化合物A及びラウリル硫酸ナトリウムを含有する造粒品への後末添加剤の種類及びその量を検討した。崩壊性は試験液として水を用いて崩壊試験により評価した。結果を表8に示す。
【0155】
<配合例22>
化合物A 60g、ラウリル硫酸ナトリウム(NIKKOL SLS,日光ケミカルズ株式会社製)60g、乳糖 258g、コーンスターチ 138gをポリ袋にて1分間混合し、目開き500μmの篩で全量篩過した後、再度ビニル袋にて1分間混合した。得られた混合粉末を流動層造粒機(株式会社パウレック)にいれ、7.5%低粘度ヒドロキシプロピルセルロース 241gを噴霧しながら造粒し、造粒物を得た。得られた造粒物を目開き850μmの篩で全量篩過した。
得られた造粒物に乳糖水和物(Super Tab 11SD、DFE Pharma)、結晶セルロース(CEOLUS pH-102、旭化成株式会社)、クロスポビドン(Kollidon CL、BASF Corporation)及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて500mgの錠剤を製した。
【0156】
<配合例23>
配合例22と同様にして得た造粒物にD−マンニトール(Pearlitol 100SD、Roquette社製)、結晶セルロース(CEOLUS pH−102)、クロスポビドン(Kollidon CL)及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて500mgの錠剤を製した。
【0157】
<配合例24>
配合例22と同様にして得た造粒物に結晶セルロース(CEOLUS pH−102)、クロスポビドン(Kollidon CL)及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて300mgの錠剤を製した。
【0158】
<配合例25>
配合例22と同様にして得た造粒物にD−マンニトール(Pearlitol 100SD)、結晶セルロース(CEOLUS KG−802、旭化成株式会社製)、クロスポビドン(Kollidon CL)及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて500mgの錠剤を製した。
【0159】
<配合例26>
配合例22と同様にして得た造粒物にD−マンニトール(Pearlitol 100SD)、結晶セルロース(CEOLUS KG−802)、クロスポビドン(Kollidon CL−SF)及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて300mgの錠剤を製した。
【0160】
<配合例27>
配合例22と同様にして得た造粒物にD−マンニトール(Pearlitol 100SD)、結晶セルロース(CEOLUS KG−802)、クロスポビドン(Kollidon CL−SF)及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて300mgの錠剤を製した。
【0161】
<配合例28>
配合例22と同様にして得た造粒物にD−マンニトール(Pearlitol 100SD)、結晶セルロース(CEOLUS KG−802)、クロスポビドン(Kollidon CL−SF)及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて400mgの錠剤を製した。
【0162】
<配合例29>
配合例22と同様にして得た造粒物にD−マンニトール(Pearlitol 100SD)、結晶セルロース(CEOLUS KG−802)、クロスポビドン(Kollidon CL−SF)及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて400mgの錠剤を製した。
【0163】
<配合例30>
配合例22と同様にして得た造粒物にD−マンニトール(Pearlitol 100SD)、結晶セルロース(CEOLUS KG−802)、クロスポビドン(Kollidon CL−SF)及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて500mgの錠剤を製した。
【0164】
<配合例31>
配合例22と同様にして得た造粒物にD−マンニトール(Pearlitol 100SD)、結晶セルロース(CEOLUS KG−802)及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて500mgの錠剤を製した。
【0165】
<配合例32>
配合例22と同様にして得た造粒物にマンニトール(Pearlitol 100SD)、結晶セルロース(CEOLUS pH−102)及びステアリン酸マグネシウムを加えてガラス瓶にて混合し、打錠末を得た。万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所)を用いて500mgの錠剤を製した。
【0166】
【表8】
【0167】
まず、乳糖水和物及びD−マンニトール添加の影響を評価した結果、配合例22と23の結果等に示すように、D−マンニトールの添加により水における崩壊性が大きく改善した。
次に、結晶セルロースのグレード及びクロスポビドン添加の影響を評価した結果、結晶セルロースのグレードは、配合例23と25、及び配合例31と32の結果等に示すように、錠剤の崩壊性にほとんど影響しなかったが、クロスポビドンの添加は、配合例25,30と31の結果等から、崩壊性改善に大きく寄与することが示された。
【0168】
最後に、D−マンニトール、結晶セルロース及びクロスポビドンの添加量の影響を総合的に評価した結果、配合例26〜30のいずれも崩壊時間は配合例25より遅かった。配合例27(後末添加量:122mg,クロスポビドン:10%),配合例29(後末添加量:222mg、クロスポビドン:10%)及び配合例30(後末添加量:322mg、クロスポビドン:5%)の崩壊性は配合例25(後末添加量:322mg、クロスポビドン:10%)よりも劣ることから、速やかな崩壊性を有する錠剤を調製するためには、後末添加剤としての総量は造粒品の1.5倍程度必要であり、さらに崩壊剤(クロスポビドン)は錠剤質量の10%程度添加する必要性が示唆された。
【0169】
[試験例8]
後末添加剤量が異なり、化合物Aを20mg含む配合例33及び34、化合物Aを4mg含む配合例35の錠剤を以下のようにして調製し、試験例2と同様にしてin vivo吸収性を評価した。結果を表9に示す。
【0170】
<配合例33>
化合物A 80g、ラウリル硫酸ナトリウム(NIKKOL SLS,日光ケミカルズ株式会社製)80g、乳糖108g、コーンスターチ120gをポリ袋にて1分間混合し、目開き500μmの篩で全量篩過した後、再度ビニル袋にて1分間混合した。得られた混合粉末を流動層造粒機(株式会社パウレック)にいれ、7.5%低粘度ヒドロキシプロピルセルロース 241gを噴霧しながら造粒し、造粒物を得た。得られた造粒物を目開き850μmの篩で全量篩過した。
造粒物篩過品100gにD−マンニトール(Pealitol 100SD)137g、結晶セルロース(CEOLUS KG−802)30g、クロスポビドン(Kollidon CL)30g及びステアリン酸マグネシウム3gを加えてポリ袋にて混合し後、打錠機(株式会社菊水製作所)で打錠し、錠剤を得た。得られた錠剤180gに、コーティング剤7.7g及び精製水92.3gからなるフィルムコーティング液をコーティング機(フロイント産業株式会社)にてスプレーし、配合例33のフィルムコーティング錠を得た。コーティング剤は、低粘度ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、酸化チタン及び着色剤からなる一般的な組成のものを使用した。
【0171】
<配合例34>
配合例33と同様にして得た造粒物篩過品125gにD−マンニトール(Pealitol 100SD)72.5g、結晶セルロース(CEOLUS KG−802)25g、クロスポビドン(Kollidon CL)25g及びステアリン酸マグネシウム2.5gを加えてポリ袋にて混合し後、打錠機(株式会社菊水製作所)で打錠し、錠剤を得た。得られた錠剤180gに、コーティング剤7.2g及び精製水86.4gからなるフィルムコーティング液をコーティング機(フロイント産業株式会社)にてスプレーし、配合例34のフィルムコーティング錠を得た。
【0172】
<配合例35>
配合例33と同様にして得た造粒物篩過品60gにD−マンニトール(Pealitol 100SD)129.6g、結晶セルロース(CEOLUS KG-802)24g、クロスポビドン(Kollidon CL)24g及びステアリン酸マグネシウム2.4gを加えてポリ袋にて混合し後、打錠機(株式会社菊水製作所)で打錠し、錠剤を得た。得られた錠剤180gに、コーティング剤7.5g及び精製水90.4gからなるフィルムコーティング液をコーティング機(フロイント産業株式会社)にてスプレーし、配合例35のフィルムコーティング錠を得た。
【0173】
これらの配合例について以下の通り吸収性試験を実施した。
<吸収実験条件>
使用動物:ビーグル犬(北山ラベス、雄6頭)
食事条件:前日より20時間絶食
投与量:20mg/body
投与サンプル:配合例33、34、35
投与方法:水50mLと共に経口投与
【0174】
前処置:投与サンプルの投薬30分前に硫酸アトロピン静注液10μg/0.1mL/kg及びペンタガストリン筋注液10μg/0.1mL/kgを筋肉内投与し、その後45分間隔でペンタガストリン筋注液10μg/0.1mL/kgを2回筋肉内投与した。
配合例33、34及び35の経口投与後、30分後、1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、6時間後及び8時間後に各動物から採血し、化合物Aの血中濃度を(液体クロマトグラフィー質量分析法により)測定して、AUC、Cmax及びTmax値を算出した。結果を表9に示す。
【0175】
【表9】
【0176】
表9の結果より、いずれの製剤もTmaxが短くなる傾向が見られ、製剤間にPKプロファイルの違いは認められなかった。よって、いずれの配合例もTmaxのバラツキが少なく、吸収の立ち上がりが速い製剤処方であることが示された。
【0177】
[試験例9]
アルキル硫酸ナトリウムが含まれていない造粒物を以下のようにして調製し、造粒物の製造過程におけるアルキル硫酸ナトリウムの影響を評価した。結果を表10に示す。
【0178】
<配合例36>
目開き1700μmのスクリーン篩過した化合物A 60g、ラウリル硫酸ナトリウム 60g、乳糖 81g、コーンスターチ 90gを流動層造粒機(フロイント産業株式会社)にいれ、5%低粘度ヒドロキシプロピルセルロース 180gを噴霧しながら造粒し、造粒物を得た。
【0179】
<比較例18>
目開き1700μmのスクリーンで篩過した化合物A 60g、乳糖 141g、コーンスターチ 90gを流動層造粒機(フロイント産業株式会社)にいれ、5%低粘度ヒドロキシプロピルセルロースを噴霧し、造粒工程を実施しようとしたが、粉体が流動しなかったため,造粒できなかった。
【0180】
<比較例19>
目開き1700μmのスクリーン篩過した化合物A 30g、乳糖 70.5g、コーンスターチ 45gを流動層造粒機(フロイント産業株式会社)にいれた。結合液噴霧前に水を噴霧することにより流動化させた後、5%低粘度ヒドロキシプロピルセルロース 90gを噴霧しながら造粒し、造粒物を得た。
【0181】
<粉体物性評価>
配合性36、及び比較例19の造粒前混合末について,パウダテスタ(ホソカワミクロン(株))を用いて粉体物性(安息角、崩潰角、かさ密度、タップ密度及び圧縮度)を評価した。その結果を表10に示す。
【0182】
【表10】
【0183】
なお、粉体物性は、第十七改正日本薬局方「26.粉体の流動性」において国際調和に準じた試験が記載されており、その中で、圧縮度は、かさ密度(ρbulk)、タップ密度(ρtapped)は、以下のように定義されている。
圧縮度 = (ρtapped − ρbulk)/ρtapped × 100
【0184】
また、同局方中、「表1 流動特性と対応する安息角」を参照すると、「安息角が 50°を超えると、製造に適さないことが多い」との記載がある。これをもとに、配合例36と比較例19を比較すると、ラウリル硫酸ナトリウムの存在により、安息角が50°を下回り、流動性が改善されている。そのため、本発明においてラウリル硫酸ナトリウムをはじめとするアルキル硫酸ナトリウムの添加により、流動化剤としての効果があることがわかった。
【0185】
[試験例10]
アルキル硫酸ナトリウムが含まれていない造粒物を打錠して錠剤を以下のようにして調製し、錠剤の製造過程におけるアルキル硫酸ナトリウムの影響を評価した。
【0186】
<配合例37>
配合例36で得られた造粒物を目開き600μmの篩で全量篩過した。造粒物篩過品120gにD−マンニトール(Pearlitol 100SD)261.61g、結晶セルロース(CEOLUS KG−802)48g、クロスポビドン(Kollidon CL)48g及びステアリン酸マグネシウム2.4gを加えてポリ袋にて混合した後、打錠機(株式会社菊水製作所)で打錠し、錠剤を得た。
【0187】
<比較例20>
比較例19で得られた造粒物を用いて、配合例37と同様の方法により、錠剤を得た。
【0188】
<打錠の際の取出圧力評価>
配合性37、及び比較例20の錠剤について、打錠機から錠剤を取り出す圧力を評価した。その結果を図1に示す。
【0189】
60分間の打錠において、配合例37の取出圧力は一定であったものの、比較例20の取出圧力は打錠開始5分後から取出圧力の上昇が見られ、30分まで経時的に増加し、それ以後も高い状態が継続した。
【0190】
また、打錠開始後30分における臼杵の状態を比較した。どちらの錠剤も杵への粉体の付着は見られず、スティッキングは確認されなかったものの、比較例20では臼への粉体の固着が見られた。そのため、得られた錠剤は側面に多数の縦筋が確認され、ラウリル硫酸ナトリウムを含まない比較例20は打錠障害の1つであるバインディングが発生した。一方で、配合例37ではバインディングは認められなかった。
【0191】
これらの結果により、本発明においてラウリル硫酸ナトリウムをはじめとするアルキル硫酸ナトリウムの添加により、打錠障害の1つであるバインディングの改善効果があることがわかった。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1