(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に図面を参照して、シャフト部材及びシャフト部材の製造方法について説明する。
まず、実施形態の原理について説明する。
シャフト部材に繰り返し曲げ応力が加えられた場合に、曲げ応力を実効的に無限回数繰り返しても破壊しない応力振幅の上限である疲労強度を向上させるためには、シャフト部材の内硬度を高くすることが望まれる。
このため、本実施形態においては、シャフト部材の母材(材質)として内硬度の高い高炭素鋼を用いることとした。
【0013】
一方、シャフト部材として高炭素鋼を用いた場合には、靱性が低下するため、切欠きに敏感となり、シャフト部材の表面に耐摩耗性の向上のためにメッキ層を施した場合、メッキ層の亀裂を起点として、疲労破壊を起こす虞が生じる。特にメッキ層としてニッケルリンメッキを用いる場合、メッキ層中にNi
3Pが存在すると、メッキ層が脆化して亀裂を生じる虞があった。
【0014】
そこで、本実施形態では、ベーキングを施さないことにより、Ni
3Pの発生を抑制することとした。
【0015】
ところで、ベーキングを施さないとメッキ層の硬度が不足するので、メッキ析出状態でもメッキ被膜の硬度が高い、リン含有率が4wt%程度以下の、いわゆる低リンタイプのメッキ(層)を用いることとした。
【0016】
さらにベーキングを施さない場合には、鉄鋼素材中に水素が残る可能性があり、遅れ破壊の懸念が生じる。そこで、脱脂工程において、水素の混入する虞のある陰極電解脱脂を避けて、浸漬脱脂または陽極電解脱脂を行うこととした。
【0017】
さらにまた、低リンタイプのメッキ(層)は、素材(母材)との密着性に劣るため、下地メッキ(層)として、電解ニッケルメッキ処理あるいは中リン〜高リンの無電解ニッケルメッキ処理を行うこととした。
この場合において、下地メッキ層としてアモルファス構造を採る高リン無電解ニッケルメッキ層を形成する場合には、高リン無電解ニッケルメッキ層の厚さを低リン無電界ニッケルメッキ層の厚さよりも薄くしている。この結果、メッキ層の脆化を抑制し、メッキの硬度を維持しつつ、母材への密着性を損なうことがないシャフト部材を得ることができる。
【0018】
これらの結果、シャフト部材の耐摩耗性を及び耐焼付性を損なうことなく、ニッケルリンメッキ層の亀裂の発生を抑制して、疲労強度を向上させることができる。
【0019】
以下、より具体的な実施形態について説明する。
まず、シャフト部材を高疲労強度及び耐摩耗性が要求されるデファレンシャル用ピニオンシャフトに適用した場合について説明する。
図1は、デファレンシャルの断面図である。
【0020】
デファレンシャル10は、
図1に示されるように、一対(2個)のピニオンギヤ11と、それぞれのドライブシャフト12(12L,12R)に固定されるとともに一対のピニオンギヤ11に直角に噛合する一対(2個)のサイドギヤ13(13L,12R)を有する。
【0021】
また、デファレンシャル10は、一対のピニオンギヤ11を支持するシャフト部材としてのピニオンシャフト14と、一対のピニオンギヤ11および一対のサイドギヤ13(13L,13R)を収容すると共にデフリングギヤ15が連結(固定)されるデフケース16(第1デフケース17、第2デフケース18)と、を備えている。
【0022】
以下の説明においては、ドライブシャフト12Lとドライブシャフト12Rを特に区別する必要が無い場合には、単に「ドライブシャフト12」と称する。同様に、ドライブシャフト12Lに接続される左側のサイドギヤ13Lとドライブシャフト12Rに接続れる右側のサイドギヤ13Rを特に区別しない場合は、単に「サイドギヤ13」と称する。
上記構成において、ピニオンギヤ11およびサイドギヤ13は、すぐばかさ歯車として構成されている。
【0023】
デファレンシャル10は、左右のドライブシャフト12L,12Rに連結されている左右の駆動輪に回転差が無い場合、デフリングギヤ15には左右のドライブシャフト30につながる左右のサイドギヤ13とその両者をつなぐピニオンギヤ11を収めたデフケース16が直結されており、デフケース16ごとに回転する。
【0024】
この結果、左右の駆動輪は同方向に回転する。また、コーナリング等で左右の駆動輪に回転差が生じると、デフリングギヤ15が固定された状態でサイドギヤ13の一方を回転させ、ピニオンギヤ11を介してもう一方のサイドギヤ13を逆方向に回転させる。その結果、旋回中の左右の駆動輪に発生する回転差を相殺して、旋回をスムーズに行えるようになっている。
【0025】
以下、デファレンシャル10の構造をさらに詳細に説明する。
【0026】
デファレンシャル10において、図示しないギヤ機構のドライブピニオンギヤに噛合されたデフリングギヤ15は、ボルト19によってデフケース16(第1デフケース17、第2デフケース18)と一体化される。
【0027】
ここで、第1デフケース17は、円筒状の支持部17aとフランジ状の固定部17bとで形成されている。第1デフケース17は、支持部17aの外周面と図示しないトランスミッションケースとの間に装着された図示しないベアリングによって回動自在に支持されている。
【0028】
また、第2デフケース18は、円筒状の小径支持部18aと円筒状の大径支持部18bとで形成されている。第2デフケース18は、小径支持部18aの外周面と図示しないトランスミッションケースとの間に装着されたベアリングによって回動自在に支持されている。第2デフケース18の大径支持部18bには、これを内側に向かって貫通するピニオンシャフト14が固定されており、ピニオンギヤ11が回動自在に支持されている。
【0029】
そして、デフリングギヤ15とデフケース16(第1デフケース17、第2デフケース18)とがドライブシャフト12の軸を中心として一体となって回転するように構成されている。
【0030】
ピニオンギヤ11には、ドライブシャフト12と一体に回転可能なサイドギヤ13が噛合されている。サイドギヤ13は、円筒部21とギヤ部22とを有する。サイドギヤ13Lの円筒部21は、図示しないトランスミッションケースに形成された開口部の内部に、当該円筒部21の軸方向一方側(サイドギヤ13の場合、非ギヤ側)の端部23が位置されるとともに、この軸方向一方側から挿入されたドライブシャフト12Lと一体的に回転できるように構成されている。
【0031】
また、円筒部21の軸方向他方側(サイドギヤ13Lの場合、ギヤ側)には、ギヤ部24(サイドギヤ部)が設けられている。
【0032】
そして、円筒部21の第二の内周面25のうち例えばギヤ部26の形成側には、スプラインStが形成されている。一方、ドライブシャフト12Lの表面のうち円筒部21に挿入される部分にスプラインSsが形成されている。そして、スプラインStとスプラインSsとが噛合することにより、サイドギヤ13Lとドライブシャフト12Lとが一体的に回転する。
【0033】
同様に、サイドギヤ12Rの円筒部27は、図示しないトランスミッションケースに形成された開口部の内部に、当該円筒部27の軸方向他方側(サイドギヤ12Rの場合、非ギヤ側)の端部28が位置されるとともに、この軸方向他方側から挿入されたドライブシャフト12Rと一体的に回転できるように構成されている。
【0034】
また、円筒部27の軸方向一方側には、ギヤ部29(サイドギヤ部)が設けられている。そして、円筒部27の内周面30のうち例えばギヤ部29の形成側には、スプラインStが形成されている。一方、ドライブシャフト12Rの表面のうち円筒部27に挿入される部分にスプラインSsが形成されている。そして、スプラインStとスプラインSsとが噛合することにより、サイドギヤ13Rとドライブシャフト12Rとが一体的に回転する。
【0035】
次にシャフト部材としてのピニオンシャフト14の構成について詳細に説明する。
[1]シャフト部材の母材
シャフト部材であるピニオンシャフト14の母材(材料)としては、表面だけでなく内部まで硬度が高い炭素含有量(質量パーセント:mass%)が0.6mass%以上の高炭素鋼、より好ましくは、炭素含有量が0.85〜1.10mass%の高炭素鋼が考えられる。
【0036】
さらには、耐摩耗性も考慮して高炭素合金鋼を用いる。
高炭素合金鋼としては、例えば、軸受鋼と知られる高炭素クロム軸受鋼が挙げられる。
JISで規定されている代表的な高炭素クロム軸受鋼としては、JIS G 4805規格で定義される記号SUJ2(=炭素含有率0.95〜1.10mass%)の高炭素クロム軸受鋼が挙げられる。しかしながら記号SUJ3、SUJ4、SUJ5(=炭素含有率0.95〜1.10mass%)等の他の高炭素クロム軸受鋼を用いるようにすることも可能である。
【0037】
上述した高炭素鋼あるいは高炭素合金鋼を用いることにより、内部応力に対して十分な内硬度を持たせることができ、ピニオンシャフト14の疲労強度を十分な値とすることができる。
【0038】
[2]メッキについて
次にメッキ及びメッキ処理について説明する。
図2は、実施形態のシャフト部材に適用するニッケル−リンメッキの結晶状態を表す状態図である。
【0039】
図2に示すように、リンの混合比率が重量%(wt%)で1〜4.5wt%の範囲で温度が400℃〜450℃以下であれば、β層を形成している。
このβ相は、ニッケル中にリンの結晶質固溶体が含まれる均一相を形成した微結晶構造となっている。
【0040】
また、α層は、ニッケル中にリンの固溶体が0.17%以下含まれた状態となっている。
さらにγ層は、非晶質の均一層である。
本実施形態では、上述したようにベーキングを行わないので、メッキ析出状態でもメッキ被膜の硬度が高い、リン含有率が4mass%程度以下の、いわゆる低リンタイプのメッキ(層)を用いることとした。
この場合において、リン含有率が1〜4mass%におけるメッキ層の硬度は変わらないが、メッキの生産性の観点からは、析出速度が速いリン含有率1〜1.5mass%とするのが好ましい。
またベーキングを行わないと述べているが、メッキ層の全域にわたってβ層を単独で維持できるのであれば、ベーキング(加熱)を行っても問題はない。
すなわち、
図2の例の場合には、リン含有率が4mass%程度以下、かつ、ベーキング温度400℃以下であれば、適用が可能である。
なお、諸条件により、結晶状態は、必ずしも
図2の通りとはならないので、製品としての信頼性を確保するためには、
図2中、斜線部APで示すように、リン含有率が1〜1.5mass%、かつ、ベーキング温度100℃以下とするのが好ましい。
ベーキング温度を100℃以下にするのは、Ni
3Pの生成を抑制できるため好ましいからである。
なお、100℃以下のベーキングを行う場合には、
図3に示した製造フローチャートにおいて、ステップS15の洗浄・乾燥処理の後で行えばよい。
【0041】
また、メッキの前処理としては、素材の水素脆化を抑制するために、浸漬脱脂または陽極電解脱脂が好ましい。
【0042】
さらに低リンタイプのメッキ(層)は、母材(高炭素鋼)に対して密着性が悪いため、バインダ層として高リンメッキ(層)あるいは電解ニッケルメッキ(層)を施すのがよい。この場合においてバインダ層としても下地メッキ層の厚さは、メッキ層の厚さが10μmの場合、1μm程度とする。すなわち、高リンメッキ(層)あるいは電解ニッケルメッキ(層)の厚さは、低リンメッキ層よりも薄く設定される。
【0043】
これにより、表面の低リンメッキ層によりメッキ層の硬度を保ちつつ、下地メッキ層により母材への密着性を確保することができ、シャフト部材の信頼性を向上することができる。
【0044】
次に実施形態のシャフト部材の製造方法について説明する。
図3は、実施形態のシャフト部材の製造フローチャートである。
以下の説明においては、説明を省略するが、各工程後に必要であれば、水洗処理などがなされるものとする。
まず、シャフト部材の母材としての高炭素鋼(より好ましくは、高炭素合金鋼である軸受鋼(例えば、SUJ2))の成形処理(加工処理)を行って、シャフト部材の形状を所望の形状とする(ステップS11)。
【0045】
次にメッキ前処理を行う(ステップS12)。
メッキ前処理としては、脱脂処理を行うが、陰極電解脱脂を行うと鉄鋼素材中に水素が侵入する虞がある。このため、所定時間の浸漬脱脂(例えば20分)あるいは陽極電解脱脂(例えば、1〜3分)を行う。
【0046】
メッキ析出状態でも硬度を満足する低リンメッキを行うことで、メッキ後のベーキング工程を簡略化することができる。
【0047】
続いて、メッキ層の密着性を向上させるため、下地メッキ処理を行う(ステップS13)。
下地メッキ処理としては、中リン〜高リンメッキ処理あるいは電解ニッケルメッキ処理を施すのが好ましい。
【0048】
続いてメッキ層を形成するためのメッキ処理を行う(ステップS14)。
施すメッキ処理としては、低リンメッキ処理を行う。具体的には、リン含有率が1〜1.5mass%のニッケルリンメッキを行い、ベーキングは行わないか、あるいは、実効的に行わないようにする。
この結果、ベーキングに伴うメッキ層の脆化を無くし、あるいは、大きく低減でき、疲労破壊の原因となるメッキ層の亀裂の発生を抑制できる。
【0049】
次にメッキ後のシャフト部材を洗浄し、乾燥して製品検査を行い処理を終了する(ステップS15)。
【0050】
以上のシャフトの製造方法によれば、シャフト部材の母材としての高炭素鋼(より好ましくは、高炭素合金鋼である軸受鋼(例えば、SUJ2))を用いているので、内硬度を向上でき、疲労強度を材質的に充分に確保することができる。
さらに、メッキ層にメッキ層を脆くする原因となるNi
3Pの形成を促すベーキング実効的に行わないので、メッキ層の脆化を抑制することができる。
また、ベーキング実効的に行わないことによるメッキ層の硬度低下については、低リンメッキ(層)を用い、低リンメッキを用いることによる密着性の低下を避けるために、下地メッキ層(バインダ層)として中リン〜高リンメッキ層あるいは電解ニッケルメッキ層を形成するので、硬度及び密着性の双方を確保することができる。
【0051】
これらの結果、疲労強度、耐摩耗性及び信頼性の高いシャフト部材を形成することが可能となる。
以上の説明においては、シャフト部材をデファレンシャルのピニオンシャフトとして用いる場合について説明したが、これに限らず、疲労強度及び耐摩耗性が要求されるシャフト部材であれば同様に適用が可能である。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を具体化した実施例について、詳細に説明する。
図4は、実施例及び比較例の説明図である。
【0053】
[1]第1実施例
第1実施例では、
図4に示すように、母材として炉焼き入れ(熱処理)を行った軸受鋼SUJ2を用い、メッキ処理として、リン量1〜1.5mass%のニッケルリンメッキ(低リンメッキ)を用いる。そして、実効的なベーキング無しで、前処理として無電解脱脂を20分行い、下地メッキとして電解ニッケルリンメッキを1μm形成し、膜厚10μとなるように処理を行った。
このように、電解ニッケルメッキ(層)の厚さは、低リンメッキ層よりも薄く設定される。
これにより、表面の低リンメッキ層によりメッキ層の硬度を保ちつつ、下地メッキ層により母材への密着性を確保することができ、シャフト部材の信頼性を向上している。
この結果、第1実施例によれば、メッキ層(メッキ膜)の硬さ=Hv663、3万回時の疲労強度としての目標である1456MPaを超える疲労強度を達成していた。
【0054】
[2]第2実施例
第2実施例では、
図4に示すように、母材として炉焼き入れ(熱処理)を行った軸受鋼SUJ2を用い、メッキ処理として、リン量1〜1.5mass%のニッケルリンメッキ(低リンメッキ)を用いる。そして、実効的なベーキング無しで、前処理として陽極電解脱脂を20分行い、下地メッキとして高リンメッキ(層)を1μm形成し、膜厚10μとなるように処理を行った。
となるように処理を行った。
このように、高リンメッキ(層)の厚さは、低リンメッキ層よりも薄く設定される。
これにより、表面の低リンメッキ層によりメッキ層の硬度を保ちつつ、下地メッキ層により母材への密着性を確保することができ、シャフト部材の信頼性を向上している。
【0055】
この結果、第2実施例は、メッキ層(メッキ膜)の硬さ=Hv663であり、3万回時の疲労強度としての目標である1456MPaを超える疲労強度を達成していた。
【0056】
[3]比較例
比較例では、
図4に示すように、母材として浸炭浸窒(熱処理)を行ったクロムモリブデン鋼SCM420Hを用い、メッキ処理として、リン量8〜10mass%のニッケルリンメッキを用い、ベーキングを330℃で1時間行い、前処理として無電解脱脂を20分行い、下地メッキなしで膜厚10μとなるように処理を行った。
【0057】
この結果、第1実施例によれば、メッキ層(メッキ膜)の硬さ=Hv722、3万回時の疲労強度としての目標である1456MPaに到らない905MPaであった。
【0058】
[4]結論
以上のように第1実施例及び第2実施例によれば、メッキ層の硬さが十分であり、かつ、3万回時の疲労強度としての目標を超える性能を有するシャフト部材を得ることができた。
一方、比較例によれば、メッキ層の硬さは十分であるが、3万回時の疲労強度としての目標を超えることはできず、所望の性能を得ることはできなかった。
【0059】
本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0060】
また、本実施形態のシャフト部材は、少なくとも以下の構成を備える。
本実施形態のシャフト部材(14)は、鋼を材料とする軸状の母材と、前記母材に積層された低リンメッキ層と、前記母材と前記低リンメッキ層との間に積層された電解ニッケルリンメッキ層あるいは高リンメッキ層として形成された下地メッキ層と、を備えている。
この構成によれば、シャフト部材の高強度化を図り、ひいては、シャフト部材の小型化を図ることができる。
【0061】
また、母材は、高炭素鋼あるいは高炭素合金鋼であるようにしてもよい。
この構成によれば、シャフト部材の内硬度を高くでき、曲げ応力に対して強くでき、疲労強度の向上が図れる。
【0062】
また、高炭素鋼あるいは高炭素合金鋼における炭素含有量0.85〜1.10質量%とされているようにしてもよい。
この構成によれば、シャフト部材の内硬度を充分に高くでき、疲労強度の向上が図れる。
【0063】
また、下地メッキ層の厚さは、低リンメッキ層の厚さより薄く設定されているようにしてもよい。
この構成によれば、表面の低リンメッキ層によりメッキ層の硬度を保ちつつ、下地メッキ層により母材への密着性を確保することができ、シャフト部材の信頼性を向上することができる。
【0064】
また、低リンメッキ層におけるリン含有量は、4.5mass%以下とされているようにしてもよい。
この構成によれば、低リンメッキ層の結晶状態を、ニッケル中に微小結晶構造を有する結晶質固溶体の均一層とすることができ、安定したメッキ層を形成することができる。
【0065】
また、低リンメッキ層におけるリン含有量は、1.0〜1.5mass%とされているようにしてもよい。
この構成によれば、確実に低リンメッキ層の結晶状態を、結晶質固溶体の均一層とすることができ、Ni
3Pの含有量を抑制して、強度の高いより安定したメッキ層を形成することができる。
【0066】
また、シャフト部材は、表面が前記低リンメッキ層とされているようにしてもよい。
この構成によれば、母材との密着性を確保しつつ、表面の硬度を安定して維持することができる。
【0067】
また、本実施形態のシャフト部材の製造方法は、少なくとも以下の構成を備える。
本実施形態のシャフト部材の製造方法は、シャフト部材を構成する鋼を材料とする母材に対し、無電解脱脂あるいは陽極電解脱脂を所定時間施す脱脂工程(ステップS12)と、リン含有量が4.5mass%以下の低リンタイプのメッキを施すメッキ工程と(ステップS14)を備えている。
この構成によれば、内硬度が充分に高く、疲労強度の向上を図ったシャフト部材を容易に製造できる。
【0068】
また、低リンメッキ工程において、低リンタイプのメッキとして、リン含有量が1.0〜1.5mass%のメッキを施すようにしてもよい。
この構成によれば、確実に低リンメッキ層の結晶状態を、結晶質固溶体の均一層とすることができ、Ni
3Pの含有量を抑制して、強度の高いより安定したメッキ層を形成することができる。
【0069】
また、脱脂工程(ステップS12)とメッキ工程(ステップS14)との間に、電解ニッケルリンメッキ処理あるいは高リンメッキ処理を行う下地メッキ工程(ステップS13)を備えるようにしてもよい。
この構成によれば、母材と低リンメッキ層の間の密着性を改善して、より疲労強度の向上を図ったシャフト部材を製造できる。